(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022183959
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20221206BHJP
A01M 7/00 20060101ALI20221206BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G05D1/02 H
G05D1/02 N
A01M7/00 E
A01B69/00 303M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091525
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100181869
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 雄一
(72)【発明者】
【氏名】上野 草
【テーマコード(参考)】
2B043
2B121
5H301
【Fターム(参考)】
2B043BB07
2B043DA17
2B043EA37
2B043EB05
2B043EB07
2B043EB16
2B043EB17
2B043ED27
2B043EE01
2B043EE02
2B043EE05
2B043EE06
2B121CB35
2B121CB61
2B121CB70
2B121EA26
2B121FA04
5H301AA03
5H301AA10
5H301BB01
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD06
5H301DD15
5H301GG06
5H301GG07
5H301GG08
5H301GG10
5H301HH10
5H301LL06
(57)【要約】
【課題】自動走行する作業車両による作業の作業効率を向上させることが可能な自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラムを提供すること。
【解決手段】自動走行方法は、圃場Fにおいて目標経路Rに従って作業車両10を自動走行させることと、作物Vに対して薬液を散布する散布作業を実行させることと、貯留タンク14A内の薬液を攪拌させる攪拌作業を実行させることと、作業車両10が自動走行を開始する前に所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させることと、を実行する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業地において目標経路に従って作業車両を自動走行させることと、
散布対象物に対して散布物を散布する散布作業を実行させることと、
貯留タンク内の前記散布物を攪拌させる攪拌作業を実行させることと、
前記作業車両が自動走行を開始する前に所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させることと、
を実行する自動走行方法。
【請求項2】
前記作業車両が予め設定された自動走行開始位置に到達する前に前記所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させる、
請求項1に記載の自動走行方法。
【請求項3】
前記作業車両のエンジンを始動するキースイッチがON状態になった場合に、前記攪拌作業を開始させる、
請求項1又は2に記載の自動走行方法。
【請求項4】
前記貯留タンクに前記散布物が供給された場合に、前記攪拌作業を開始させる、
請求項1又は2に記載の自動走行方法。
【請求項5】
前記作業車両を予め設定された自動走行開始位置まで手動走行させる手動走行用操作部の電源スイッチがON状態になった場合に、前記攪拌作業を開始させる、
請求項1又は2に記載の自動走行方法。
【請求項6】
前記作業車両が外部電源に接続された場合に、前記攪拌作業を開始させる、
請求項1~5のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項7】
前記攪拌作業が開始された後に前記作業車両が障害物を検出して停止した場合に前記攪拌作業を継続させる、
請求項1~6のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項8】
前記作業車両に搭載される表示部及び前記作業車両と通信可能な操作端末の少なくともいずれかに、前記攪拌作業の作業状況を表示させる、
請求項1~7のいずれかに記載の自動走行方法。
【請求項9】
作業地において目標経路に従って作業車両を自動走行させる走行処理部と、
散布対象物に対して散布物を散布する散布作業を実行させる散布処理部と、
貯留タンク内の前記散布物を攪拌させる攪拌作業を実行させる攪拌処理部と、
を備え、
前記攪拌処理部は、前記作業車両が自動走行を開始する前に所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させる、自動走行システム。
【請求項10】
作業地において目標経路に従って作業車両を自動走行させることと、
散布対象物に対して散布物を散布する散布作業を実行させることと、
貯留タンク内の前記散布物を攪拌させる攪拌作業を実行させることと、
前記作業車両が自動走行を開始する前に所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させることと、
を一又は複数のプロセッサーに実行させるための自動走行プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業地において目標経路に従って作業車両を自動走行させる自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
圃場、農園などの作業地に植えられた作物に対して薬液を散布しながら目標経路を自動走行する作業車両が知られている(例えば特許文献1参照)。前記作業車両は、作物が植えられた複数の作業経路を順に自動走行しながら、貯留タンクに収容された薬液を作物に散布する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、前記薬液は薬剤と液体(水など)との混合剤で構成されているため、貯留タンクに投入された薬液を攪拌する必要がある。薬液の攪拌が不十分な場合、薬液の濃度が均一にならなかったり、薬液を放出する散布ノズルの目詰まりが生じたりするなど散布作業の作業精度が低下する問題が生じる。特に、散布作業を開始する作業開始時点で前記問題が顕著になる。
【0005】
本発明の目的は、自動走行する作業車両による散布作業の作業精度を向上させることが可能な自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る自動走行方法は、作業地において目標経路に従って作業車両を自動走行させることと、散布対象物に対して散布物を散布する散布作業を実行させることと、貯留タンク内の前記散布物を攪拌させる攪拌作業を実行させることと、前記作業車両が自動走行を開始する前に所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させることと、を実行する方法である。
【0007】
本発明に係る自動走行システムは、走行処理部と散布処理部と攪拌処理部とを備える。前記走行処理部は、作業地において目標経路に従って作業車両を自動走行させる。前記散布処理部は、散布対象物に対して散布物を散布する散布作業を実行させる。前記攪拌処理部は、貯留タンク内の前記散布物を攪拌させる攪拌作業を実行させる。また前記攪拌処理部は、前記作業車両が自動走行を開始する前に所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させる。
【0008】
本発明に係る自動走行プログラムは、作業地において目標経路に従って作業車両を自動走行させることと、散布対象物に対して散布物を散布する散布作業を実行させることと、貯留タンク内の前記散布物を攪拌させる攪拌作業を実行させることと、前記作業車両が自動走行を開始する前に所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させることと、を一又は複数のプロセッサーに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動走行する作業車両による散布作業の作業精度を向上させることが可能な自動走行方法、自動走行システム、及び自動走行プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る自動走行システムの全体構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る自動走行システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る作業車両を左前方側から見た外観図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の実施形態に係る作業車両を左側から見た左側面の外観図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の実施形態に係る作業車両を右側から見た右側面の外観図である。
【
図4C】
図4Cは、本発明の実施形態に係る作業車両を背面側から見た背面の外観図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る作物列の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る目標経路の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る貯留タンクの外観図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る貯留タンクの断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係る作業車両に薬液を供給する様子を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係る手動走行用操作部の外観図である。
【
図11A】
図11Aは、本発明の実施形態に係る目標経路の生成方法を説明するための図である。
【
図11B】
図11Bは、本発明の実施形態に係る目標経路の生成方法を説明するための図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に係る自動走行システムによって実行される自動走行処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0012】
[自動走行システム1]
図1及び
図2に示すように、本発明の実施形態に係る自動走行システム1は、作業車両10と、操作端末20と、基地局40と、衛星50とを含んでいる。作業車両10及び操作端末20は、通信網N1を介して通信可能である。例えば、作業車両10及び操作端末20は、携帯電話回線網、パケット回線網、又は無線LANを介して通信可能である。
【0013】
本実施形態では、作業車両10が、圃場Fに植えられた作物V(
図5参照)に薬液、水などを散布する散布作業を行う車両である場合を例に挙げて説明する。圃場Fは本発明の作業地の一例であり、圃場Fは例えば葡萄園、林檎園などの果樹園である。作物Vは例えば葡萄の果樹である。前記散布作業は、例えば作物Vに薬液などの散布物を散布する作業である。
【0014】
作物Vは、圃場Fにおいて所定の間隔で複数列に配置されている。具体的には、
図5に示すように、複数の作物Vは、所定の方向(D1方向)に直線状に植えられており、直線状に並ぶ複数の作物Vを含む作物列Vrを構成する。
図5には、3つの作物列Vrを例示している。各作物列Vrは列方向(D2方向)に所定の間隔W1で配置されている。隣り合う作物列Vrの間隔W2の領域(空間)は、作業車両10がD1方向に走行しながら作物Vに対して散布作業を行う作業通路となる。
【0015】
また、作業車両10は、予め設定された目標経路Rに沿って自動走行(自律走行)することが可能である。例えば
図6に示すように、作業車両10は、作業開始位置Sから作業終了位置Gまで、作業経路R1(作業経路R1a~R1f)及び移動経路R2を含む目標経路Rに沿って自動走行する。作業開始位置Sは、本発明の自動走行開始位置の一例である。作業経路R1は、作業車両10が作物Vに対して散布作業を行う直線状の経路であり、移動経路R2は、作業車両10が散布作業を行わないで作物列Vr間を移動する経路である。移動経路R2には、例えば旋回経路及び直進経路が含まれる。
図6に示す例では、圃場Fにおいて、作物列Vr1~Vr11から成る作物Vが配置されている。
図6では、作物Vが植えられている位置(作物位置)を「Vp」で表している。また、
図6の圃場Fを走行する作業車両10は、車体100が門型の形状を有しており(
図4C参照)、1つの作物列Vrを跨いで走行しながら、当該作物列Vrの作物V及び当該作物列Vrに隣接する作物列Vrに対して薬液を散布する。例えば
図6に示すように、作業車両10が作物列Vr5を跨いで走行する場合、作業車両10の左側車体(左側部100L)が作物列Vr4,Vr5の間の作業通路を走行し、作業車両10の右側車体(右側部100R)が作物列Vr5,Vr6の間の作業通路を走行し、かつ作物列Vr4,Vr5,Vr6の作物Vに対して薬液を散布する。
【0016】
また、作業車両10は、所定の列順序で自動走行を行う。例えば、作業車両10は、作物列Vr1を跨いで走行し、次に作物列Vr3を跨いで走行し、次に作物列Vr5を跨いで走行する。このように、作業車両10は、予め設定された作物列Vrの順番に応じて自動走行を行う。なお、作業車両10は、作物列Vrの配列順に1列ごとに走行してもよいし、複数列おきに走行してもよい。
【0017】
衛星50は、GNSS(Global Navigation Satellite System)等の衛星測位システムを構成する測位衛星であり、GNSS信号(衛星信号)を送信する。基地局40は、衛星測位システムを構成する基準点(基準局)である。基地局40は、作業車両10の現在位置を算出するための補正情報を作業車両10に送信する。
【0018】
作業車両10に搭載される測位装置16は、衛星50から送信されるGNSS信号を利用して作業車両10の現在位置(緯度及び経度)及び現在方位などを算出する測位処理を実行する。具体的には、測位装置16は、2台の受信機(アンテナ164及び基地局40)が受信する測位情報(GNSS信号など)と基地局40で生成される補正情報とに基づいて作業車両10を測位するRTK(Real Time Kinematic)方式などを利用して作業車両10を測位する。前記測位方式は周知の技術であるため詳細な説明は省略する。
【0019】
以下、自動走行システム1を構成する各構成要素の詳細について説明する。
【0020】
[作業車両10]
図3は、作業車両10を左前方側から見た外観図である。
図4Aは、作業車両10を左側から見た左側面の外観図であり、
図4Bは、作業車両10を右側から見た右側面の外観図であり、
図4Cは、作業車両10を背面側から見た背面の外観図である。
【0021】
図1~
図4に示すように、作業車両10は、車両制御装置11、記憶部12、走行装置13、散布装置14、通信部15、測位装置16、障害物検出装置17などを備える。車両制御装置11は、記憶部12、走行装置13、散布装置14、測位装置16、障害物検出装置17などに電気的に接続されている。なお、車両制御装置11及び測位装置16は、無線通信可能であってもよい。
【0022】
通信部15は、作業車両10を有線又は無線で通信網N1に接続し、通信網N1を介して操作端末20などの外部機器との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0023】
記憶部12は、各種の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記憶部である。記憶部12には、車両制御装置11に後述の自動走行処理(
図12参照)を実行させるための自動走行プログラムなどの制御プログラムが記憶されている。例えば、前記自動走行プログラムは、CD又はDVDなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に非一時的に記録されており、所定の読取装置(不図示)で読み取られて記憶部12に記憶される。なお、前記自動走行プログラムは、サーバー(不図示)から通信網N1を介して作業車両10にダウンロードされて記憶部12に記憶されてもよい。また、記憶部12には、操作端末20において生成される目標経路Rの情報を含む経路データが記憶される。例えば、前記経路データは、操作端末20から作業車両10に転送されて記憶部12に記憶される。
【0024】
車両制御装置11は、CPU、ROM、及びRAMなどの制御機器を有する。前記CPUは、各種の演算処理を実行するプロセッサーである。前記ROMは、前記CPUに各種の演算処理を実行させるためのBIOS及びOSなどの制御プログラムが予め記憶される不揮発性の記憶部である。前記RAMは、各種の情報を記憶する揮発性又は不揮発性の記憶部であり、前記CPUが実行する各種の処理の一時記憶メモリー(作業領域)として使用される。そして、車両制御装置11は、前記ROM又は記憶部12に予め記憶された各種の制御プログラムを前記CPUで実行することにより作業車両10を制御する。
【0025】
車両制御装置11は、作業車両10の走行を制御する。具体的には、
図2に示すように、車両制御装置11は、走行処理部111、散布処理部112、攪拌処理部113、通知処理部114などの各種の処理部を含む。なお、車両制御装置11は、前記CPUで前記制御プログラムに従った各種の処理を実行することによって前記各種の処理部として機能する。また、一部又は全部の前記処理部が電子回路で構成されていてもよい。なお、前記制御プログラムは、複数のプロセッサーを前記処理部として機能させるためのプログラムであってもよい。
【0026】
走行処理部111は、測位装置16により測位される作業車両10の位置及び方位を含む測位情報に基づいて、目標経路Rに沿って作業車両10を自動走行させる。例えば、前記測位状態がRTK測位可能な状態になって、操作端末20の操作画面においてオペレータがスタートボタンを押下(自動走行開始指示)すると、操作端末20は自動走行開始指示(作業開始指示)を作業車両10に出力する。走行処理部111は、操作端末20から前記自動走行開始指示を取得すると、測位装置16により測位される作業車両10の測位情報に基づいて作業車両10の自動走行を開始させる。これにより、作業車両10は、目標経路Rに沿って自動走行を開始し、前記作業通路において散布装置14による散布作業を開始する。
【0027】
なお、他の実施形態として、走行処理部111は、作業車両10に搭載された操作リモコン(不図示)においてオペレータがスタートボタン(自動走行開始指示)を押下した場合に作業車両10の自動走行を開始させてもよい。
【0028】
また、走行処理部111は、操作端末20から走行停止指示を取得すると作業車両10の自動走行を停止させる。例えば、操作端末20の操作画面においてオペレータがストップボタンを押下すると、操作端末20は前記走行停止指示を作業車両10に出力する。走行処理部111は、操作端末20から前記走行停止指示を取得すると、作業車両10の自動走行を停止させる。これにより、作業車両10は、自動走行を停止し、散布装置14による散布作業を停止する。なお、走行処理部111は、前記操作リモコンから走行停止指示を取得した場合に作業車両10の自動走行を停止させてもよい。走行処理部111は、本発明の走行処理部の一例である。
【0029】
ここで、作業車両10は、圃場Fにおいて複数列に並べて植えられた作物V(果樹)を跨いで走行する門型の車体100を備える。
図4Cに示すように、車体100は、左側部100Lと、右側部100Rと、左側部100L及び右側部100Rを接続する接続部100Cとにより門型に形成されており、左側部100L、右側部100R、及び接続部100Cの内側に作物Vの通過を許容する空間100Sが確保される。
【0030】
車体100の左側部100L及び右側部100Rそれぞれの下端部には、クローラ101が設けられている。左側部100Lには、エンジン103(
図4A参照)、バッテリー(不図示)などが設けられている。右側部100Rには、散布装置14の貯留タンク14A(
図4B参照)などが設けられている。このように、車体100の左側部100L及び右側部100Rに構成部品を振り分けて配置することにより、作業車両10は、左右のバランスの均衡化及び低重心化が図られている。その結果、作業車両10は、圃場Fの斜面などを安定して走行することができる。
【0031】
走行装置13は、作業車両10を走行させる駆動部である。走行装置13は、エンジン103、クローラ101などを備える。
【0032】
左右のクローラ101は、静油圧式無段変速装置による独立変速が可能な状態でエンジン103からの動力により駆動される。これにより、車体100は、左右のクローラ101が前進方向に等速駆動されることにより前進方向に直進する前進状態になり、左右のクローラ101が後進方向に等速駆動されることにより後進方向に直進する後進状態になる。また、車体100は、左右のクローラ101が前進方向に不等速駆動されることにより前進しながら旋回する前進旋回状態になり、左右のクローラ101が後進方向に不等速駆動されることで後進しながら旋回する後進旋回状態になる。また、車体100は、左右いずれか一方のクローラ101が駆動停止された状態で他方のクローラ101が駆動されることによりピボット旋回(信地旋回)状態になり、左右のクローラ101が前進方向と後進方向とに等速駆動されることでスピン旋回(超信地旋回)状態になる。また、車体100は、左右のクローラ101が駆動停止されることで走行停止状態になる。尚、左右のクローラ101は、電動モータにより駆動される電動式に構成されていてもよい。
【0033】
図4Cに示すように、散布装置14は、薬液などを貯留する貯留タンク14A、車体100の背部において縦向き姿勢で左右に2本ずつ並列に備えられた散布管14B、各散布管14Bに3個ずつ備えられた合計12個の散布ノズル14Cを備えている。
【0034】
各散布ノズル14Cは、対応する散布管14Bに、上下方向に位置変更可能に取り付けられている。これにより、各散布ノズル14Cは、隣り合う散布ノズル14Cとの間隔及び散布管14Bに対する高さ位置を散布対象物(作物V)に応じて変更することができる。また、各散布ノズル14Cは、車体100に対する高さ位置及び左右位置を散布対象物に応じて変更可能に取り付けられている。
【0035】
なお、散布装置14において、各散布管14Bに設けられる散布ノズル14Cの数量は、作物Vの種類、各散布管14Bの長さなどに応じて種々の変更が可能である。
【0036】
図4Cに示すように、複数の散布ノズル14Cのうち、最左端の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、車体100の左外方に位置する作物Vaに向けて薬液を左向きに散布する。複数の散布ノズル14Cのうち、最左端の散布管14Bに隣接する左内側の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、車体100における左右中央の空間100Sに位置する作物Vbに向けて薬液を右向きに散布する。複数の散布ノズル14Cのうち、最右端の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、車体100の右外方に位置する作物Vcに向けて薬液を右向きに散布する。複数の散布ノズル14Cのうち、最右端の散布管14Bに隣接する右内側の散布管14Bに設けられた3個の散布ノズル14Cは、空間100Sに位置する作物Vbに向けて薬液を左向きに散布する。
【0037】
上記の構成により、散布装置14においては、車体100の左側部100Lに設けられた2本の散布管14Bと6個の散布ノズル14Cとが左側の散布部14Lとして機能する。また、車体100の右側部100Rに設けられた2本の散布管14Bと6個の散布ノズル14Cとが右側の散布部14Rとして機能する。そして、左右の散布部14L,14Rは、車体100の背部において、左右方向への散布が可能な状態で、左右の散布部14L,14Rの間に作物Vbの通過(空間100S)を許容する左右間隔を置いて配置されている。
【0038】
散布装置14において、散布部14L,14Rによる散布パターンには、散布部14L,14Rのそれぞれが左右の両方向に薬液を散布する4方向散布パターンと、散布部14L,14Rによる散布方向が限定された方向限定散布パターンとが含まれる。前記方向限定散布パターンには、散布部14Lが左右の両方向に薬液を散布し、かつ、散布部14Rが左方向のみに薬液を散布する左側3方向散布パターンと、散布部14Lが右方向のみに薬液を散布し、かつ、散布部14Rが左右の両方向に薬液を散布する右側3方向散布パターンと、散布部14Lが右方向のみに薬液を散布し、かつ、散布部14Rが左方向のみに薬液を散布する2方向散布パターンと、散布部14Lが左方向のみに散布し、かつ、散布部14Rが薬液を散布しない左側1方向散布パターンと、散布部14Rが右方向のみに散布し、かつ、散布部14Lが薬液を散布しない右側1方向散布パターンとが含まれる。
【0039】
散布装置14は、操作端末20から転送される経路データに含まれる制御情報に基づいて、薬液の散布方向(散布パターン)を切り替える切替処理を実行する。すなわち、散布装置14は、散布パターンの切替処理部としての機能を有する。
【0040】
図7には、散布装置14を構成する貯留タンク14Aの全体構成を示し、
図8には、貯留タンク14Aの内部構成を示す断面図を示している。
【0041】
貯留タンク14Aの上部には蓋14aが設けられており、蓋14aを外して薬液が貯留タンク14A内に供給(投入)される。貯留タンク14Aには、薬液を圧送する散布用ポンプ14b、散布用ポンプ14bを駆動する電動式の散布モータ14c、薬液の散布量及び散布パターンを変更する電子制御式のバルブユニット14d、及び、これらを接続する複数の散布用配管(図示せず)などを備えている。また、貯留タンク14Aには、散布モータ14cの回転数を調整して散布用ポンプ14bから圧送する薬液の流量を調整する流量調整部14e、散布用ポンプ14bから圧送する薬液の流量を検出する流量センサー14fなどが設けられている。また
図8に示すように、貯留タンク14A内には、貯留タンク14A内の薬液を攪拌する攪拌部14g、貯留タンク14A内の薬液の残量を検出する残量センサー14hなどが設けられている。詳細は後述するが、攪拌部14gは、作業車両10が自動走行を開始する前に所定の条件を満たした場合に車両制御装置11の命令に従って攪拌作業(回転駆動)を行う。
【0042】
車体100には、測位装置16から取得する測位情報などに基づいて車体100を圃場Fの目標経路Rに従って自動走行させる自動走行制御部、エンジン103に関する制御を行うエンジン制御部、静油圧式無段変速装置に関する制御を行うHST(Hydro-Static Transmission)制御部、及び、散布装置14などの作業装置に関する制御を行う作業装置制御部などが搭載されている。各制御部は、マイクロコントローラなどが搭載された電子制御ユニット、マイクロコントローラの不揮発性メモリ(例えばフラッシュメモリなどのEEPROM)に記憶された各種の情報及び制御プログラムなどによって構築されている。不揮発性メモリに記憶された各種の情報には、事前に生成された目標経路Rなどが含まれてもよい。本実施形態では、各制御部を総称して「車両制御装置11」という(
図2参照)。
【0043】
測位装置16は、測位制御部161、記憶部162、通信部163、及びアンテナ164などを備える通信機器である。アンテナ164は、車体100の天井部(接続部100C)の前方及び後方に設けられている(
図3参照)。また車体100の天井部には、作業車両10の走行状態を表示する表示灯102などが設けられている(
図3参照)。なお、測位装置16には前記バッテリーが接続されており、測位装置16は、エンジン103の停止中も稼働可能である。
【0044】
通信部163は、測位装置16を有線又は無線で通信網N1に接続し、通信網N1を介して基地局40などの外部機器との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0045】
アンテナ164は、衛星から発信される電波(GNSS信号)を受信するアンテナである。アンテナ164が作業車両10の前方及び後方に設けられているため、作業車両10の現在位置及び現在方位を高精度に測位することができる。
【0046】
測位制御部161は、一又は複数のプロセッサーと、不揮発性メモリ及びRAMなどの記憶メモリとを備えるコンピュータシステムである。記憶部162は、測位制御部161に測位処理を実行させるための制御プログラム、及び、測位情報、移動情報などのデータを記憶する不揮発性メモリなどである。測位制御部161は、アンテナ164が衛星50から受信するGNSS信号に基づいて所定の測位方式(RTK方式など)により作業車両10の現在位置及び現在方位を測位する。
【0047】
障害物検出装置17は、車体100の前方左側に設けられたライダーセンサー171Lと、車体100の前方右側に設けられたライダーセンサー171Rとを備える(
図3参照)。各ライダーセンサーは、例えばライダーセンサーが照射したレーザー光が測距点に到達して戻るまでの往復時間に基づいて測距点までの距離を測定するTOF(Time Of Flight)方式により、ライダーセンサーから測定範囲の各測距点(測定対象物)までの距離を測定する。
【0048】
ライダーセンサー171Lは、車体100の前方左側の所定範囲が測定範囲に設定されており、ライダーセンサー171Rは、車体100の前方右側の所定範囲が測定範囲に設定されている。各ライダーセンサーは、測定した各測距点までの距離、各測距点に対する走査角(座標)などの測定情報を車両制御装置11に送信する。
【0049】
また、障害物検出装置17は、車体100の前方側に設けられた左右の超音波センサー172F(
図3参照)と、車体100の後方側に設けられた左右の超音波センサー172R(
図4A~
図4C参照)とを備える。各超音波センサーは、超音波センサーが発信した超音波が測距点に到達して戻るまでの往復時間に基づいて測距点までの距離を測定するTOF方式により、超音波センサーから測定対象物までの距離を測定する。
【0050】
前方左側の超音波センサー172Fは、車体100の前方左側の所定範囲が測定範囲に設定されており、前方右側の超音波センサー172Fは、車体100の前方右側の所定範囲が測定範囲に設定されており、後方左側の超音波センサー172Rは、車体100の後方左側の所定範囲が測定範囲に設定されており、後方右側の超音波センサー172Rは、車体100の後方右側の所定範囲が測定範囲に設定されている。各超音波センサーは、測定した測定対象物までの距離と測定対象物の方向とを含む測定情報を車両制御装置11に送信する。
【0051】
また、障害物検出装置17は、車体100の前方側に設けられた左右の接触センサー173F(
図3参照)と、車体100の後方側に設けられた左右の接触センサー173R(
図4A及び
図4B参照)とを備える。車体100の前方側の接触センサー173Fは、接触センサー173Fに障害物が接触した場合に障害物を検出する。車体100の後方側の接触センサー173Rの前方(作業車両10の後方側)には散布装置14が設けられており、接触センサー173Rは、散布装置14に対して障害物が接触した場合に散布装置14が後方(作業車両10の前方側)に移動することにより障害物を検出する。各接触センサーは、障害物を検出した場合に検出信号を車両制御装置11に送信する。
【0052】
車両制御装置11は、障害物検出装置17から取得する障害物に関する測定情報に基づいて、作業車両10が障害物に衝突する可能性がある場合に障害物を回避する回避処理を実行する。
【0053】
車両制御装置11の散布処理部112は、散布装置14に散布作業を実行させる。具体的には、散布処理部112は、作業車両10が作業開始位置S(
図6参照)において自動走行を開始すると、前記経路データに含まれる制御情報に基づいて前記散布パターンを切り替える切替信号を散布装置14に出力する。散布装置14は、前記切替信号を受信すると所定の散布パターンで散布作業を実行する。散布処理部112は、本発明の散布処理部の一例である。
【0054】
車両制御装置11の攪拌処理部113は、貯留タンク14A内の薬液を攪拌させる攪拌作業を攪拌部14g(
図8参照)に実行させる。具体的には、攪拌処理部113は、攪拌部14gを駆動させる駆動モーター(不図示)に駆動信号を出力して攪拌部14gを回転駆動させる。攪拌部14gが回転駆動することにより、貯留タンク14A内の薬液が攪拌される。攪拌部14gは、予め設定された回転速度で回転駆動する。
【0055】
ところで、作業車両10が作業を開始する時点で貯留タンク14A内の薬液の薬剤と液体とが十分に混ざり合っていない場合、薬液の濃度が均一にならなかったり、散布ノズル14Cの目詰まりが生じたりするなど散布作業の作業精度が低下する問題が生じる。これに対して、本実施形態に係る作業車両10によれば、作業車両10が自動走行を開始する前に前記攪拌作業を開始することにより前記散布作業の作業精度を向上させることが可能である。
【0056】
具体的には、攪拌処理部113は、作業車両10が自動走行を開始する前に所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させる。例えば、攪拌処理部113は、作業車両10が予め設定された作業開始位置Sに到達する前に前記所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させる。攪拌処理部113は、本発明の攪拌処理部の一例である。
【0057】
ここで、作業車両10は、圃場F外の薬液供給エリアARにおいて薬液供給車から薬液を供給される。例えば
図9に示すように、オペレータは、作業車両10を薬液供給エリアARの薬液供給車の横に移動させて、薬液供給車から薬液を貯留タンク14A内に投入(供給)する。薬液が供給された作業車両10は、オペレータによる操作により作業開始位置Sまで手動走行する。例えば、オペレータは、作業車両10に設けられた手動走行用操作部18(
図4B参照)を操作して作業車両10を走行させる。
図10には、手動走行用操作部18の外観を示している。手動走行用操作部18は、手動走行モードを有効化する電源スイッチ181と、作業車両10を前進及び後進させる操作スイッチ182と、作業車両10を右旋回及び左旋回させる操作スイッチ183と、手動走行モードが有効な場合に点灯するLED184とを備えている。なお、手動走行用操作部18は、通信ケーブル(不図示)を介して作業車両10の車両制御装置11に接続されている。車両制御装置11は、手動走行用操作部18の操作に応じて作業車両10を走行させる。例えばオペレータは、作業車両10への薬液の供給が終了すると、手動走行用操作部18の電源スイッチ181をON状態にして、操作スイッチ182,183を操作しながら作業車両10を作業開始位置S(
図9参照)まで走行させる。作業車両10は、作業開始位置Sに到達して自動走行開始の条件を満たすと、前記経路データに応じた目標経路に従って自動走行を開始する。
【0058】
前記所定の条件は、前記攪拌作業を開始するための条件であり、作業車両10では、以下に示す複数の条件のうちいずれかの条件が設定される。以下、前記所定の条件として、第1条件~第4条件を例示する。
【0059】
(第1条件)
前記第1条件は、「作業車両10のエンジン103(
図4A参照)を始動するキースイッチがON状態になったこと」である。具体的には、攪拌処理部113は、作業車両10のエンジン103を始動するキースイッチ(例えばエンジンキースイッチ)がON状態になった場合に、前記攪拌作業を開始させる。例えば、オペレータは、作業車両10を保管庫(納屋など)から運搬車を利用して所定位置まで運搬して、エンジンキーによりエンジン始動スイッチをON状態にする。これにより、車両制御装置11はエンジン103を始動させ、攪拌処理部113は攪拌部14gの回転駆動を開始させる。これにより、貯留タンク14A内の薬液が攪拌される。その後、オペレータは、手動走行用操作部18を操作して運搬車から作業車両10を降ろす。オペレータは、作業車両10を運搬車から降ろすと、操作端末20により作業情報の登録など所定の操作を行った後に、手動走行用操作部18を操作して作業車両10を作業開始位置Sまで移動させる。作業車両10は、手動走行している間、貯留タンク14A内の薬液を攪拌する。
【0060】
また、運搬車から作業車両10を降ろした時点で貯留タンク14Aに所定量の薬液が残っていない場合には、オペレータは、作業車両10を薬液供給エリアARに移動させて、薬液供給車から薬液を貯留タンク14Aに供給する(
図9参照)。その後、オペレータは、手動走行用操作部18を操作して作業車両10を作業開始位置Sまで移動させる。なお、貯留タンク14A内の薬液の残量に関する情報は、操作端末20に表示されてもよい。
【0061】
前記第1条件によれば、作業車両10のエンジンが始動した時点で攪拌作業を開始することができる。
【0062】
(第2条件)
前記第2条件は、「貯留タンク14Aに薬液が供給されたこと」である。具体的には、攪拌処理部113は、貯留タンク14Aに薬液が供給された場合に、前記攪拌作業を開始させる。例えば、攪拌処理部113は、貯留タンク14Aに薬液が入っていない場合には攪拌部14gを駆動させず、貯留タンク14Aに薬液が供給(投入)された時点で攪拌部14gを駆動させる。例えば、攪拌処理部113は、残量センサー14h(
図8参照)の検出結果に基づいて、薬液が貯留タンク14Aに供給されたことを認識して、攪拌部14gの回転駆動を開始させる。
【0063】
前記第2条件によれば、貯留タンク14Aに薬液が供給された時点で攪拌作業を開始することができ。また、攪拌部14gの不要な回転動作を防ぐことができる。
【0064】
(第3条件)
前記第3条件は、「作業車両10を作業開始位置Sまで手動走行させる手動走行用操作部18の電源スイッチ181(
図10参照)がON状態になったこと」である。具体的には、攪拌処理部113は、手動走行用操作部18の電源スイッチ181がON状態になった場合に、前記攪拌作業を開始させる。例えば、オペレータが運搬車から作業車両10を降ろす際に手動走行用操作部18の電源スイッチ181をON状態にすると、攪拌処理部113は、攪拌部14gの回転駆動を開始させる。
【0065】
前記第3条件によれば、オペレータが作業車両10の手動走行を開始する時点で攪拌作業を開始することができる。
【0066】
(第4条件)
前記第4条件は、「作業車両10が外部電源に接続されたこと」である。具体的には、攪拌処理部113は、作業車両10が外部電源に接続された場合に、前記攪拌作業を開始させる。例えば作業車両10を運搬する運搬車に搭載される電源(バッテリーなど)に作業車両10が接続された場合に、攪拌処理部113は、当該電源を利用して前記攪拌作業を開始させる。
【0067】
前記第4条件によれば、作業車両10を運搬中であっても貯留タンク14A内の薬液を攪拌することができる。
【0068】
以上のように、攪拌処理部113は、前記第1条件、前記第2条件、前記第3条件、及び前記第4条件の中から予め設定された条件を作業車両10が自動走行を開始する前に満たした場合に、前記攪拌作業を開始させる。例えばオペレータは、操作端末20において、前記第1条件、前記第2条件、前記第3条件、及び前記第4条件の中からいずれかの条件を選択して設定することができる。また、オペレータは、設定した条件を他の条件に変更可能であってもよい。
【0069】
ここで、作業車両10が自動走行を開始した後の自動走行中に、障害物検出装置17が障害物を検出した場合に、車両制御装置11は、作業車両10の走行を一時停止させる。この場合に、攪拌部14gも停止してしまうと貯留タンク14A内の薬液の濃度が不均一なる恐れがある。そこで、作業車両10が自動走行中に障害物を検出して停止した場合には、攪拌処理部113は、前記攪拌作業を停止させずに継続させる。これにより、作業車両10の自動走行が再開した後にも均一な濃度の薬液を散布することができる。このように、攪拌処理部113は、作業車両10が作業開始位置Sから作業終了位置Gまで走行する間、前記攪拌作業を継続して実行する。
【0070】
車両制御装置11の通知処理部114は、作業車両10に搭載される操作表示部19及び操作端末20の少なくともいずれかに、前記攪拌作業の作業状況を表示させる。
図4Bに示すように、作業車両10の右側車体(右側部100R)の前方側には表示部(表示パネル)と操作部(操作スイッチ)とを含む操作表示部19が設けられている。なお、操作表示部19は、表示部及び操作部が一体に形成されたタッチパネルであってもよい。通知処理部114は、例えば前記表示部に攪拌作業の状況、すなわち攪拌作業を行っているか否かを示す情報を表示させる。
【0071】
他の実施形態として、通知処理部114は、操作端末20に前記攪拌作業の状況を通知して、操作端末20の操作表示部23に攪拌作業を行っているか否かを示す情報を表示させてもよい。これにより、オペレータは、貯留タンク14A内の薬液が攪拌されているか否かを容易に把握することができる。
【0072】
また、他の実施形態として、操作表示部19は、オペレータから前記攪拌作業の開始操作を受け付け可能であってもよい。操作表示部19が前記攪拌作業の開始操作を受け付けた場合に、攪拌処理部113は前記攪拌作業を開始させてもよい。この構成によれば、オペレータは、所望のタイミングで前記攪拌作業を開始することができる。例えば、オペレータは、設定された前記条件を満たす前の所望のタイミングで前記攪拌作業を開始することができる。
【0073】
上述した作業車両10の構成は、本発明の作業車両の一構成例であって、本発明は上述の構成に限定されない。他の実施形態として、作業車両10は、車体100が門型の形状ではなく、車体100全体が作物列Vrの間(作業通路)を走行する通常の形状であってもよい。この場合、作業車両10は、作物列Vrを跨がずに各作業通路を順に自動走行する。また、散布装置14は、一つの散布部を備え、左右の両方向に薬液を散布する散布パターンと、左方向のみに薬液を散布する散布パターンと、右方向のみに薬液を散布する散布パターンとを切り替えて散布作業を行う。
【0074】
[操作端末20]
図2に示すように、操作端末20は、制御部21、記憶部22、操作表示部23、及び通信部24などを備える情報処理装置である。操作端末20は、タブレット端末、スマートフォンなどの携帯端末で構成されてもよい。
【0075】
通信部24は、操作端末20を有線又は無線で通信網N1に接続し、通信網N1を介して一又は複数の作業車両10などの外部機器との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0076】
操作表示部23は、各種の情報を表示する液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイのような表示部と、操作を受け付けるタッチパネル、マウス、又はキーボードのような操作部とを備えるユーザーインターフェースである。オペレータは、前記表示部に表示される操作画面において、前記操作部を操作して各種情報(後述の作業車両情報、圃場情報、作業情報など)を登録する操作を行うことが可能である。また、オペレータは、前記操作部を操作して作業車両10に対する作業開始指示、走行停止指示などを行うことが可能である。さらに、オペレータは、作業車両10から離れた場所において、操作端末20に表示される走行軌跡、車体100の周囲画像により、圃場F内を目標経路Rに従って自動走行する作業車両10の走行状態、作業状況、及び周囲の状況を把握することが可能である。
【0077】
記憶部22は、各種の情報を記憶するHDD又はSSDなどの不揮発性の記憶部である。記憶部22には、制御部21に後述の自動走行処理(
図12参照)を実行させるための自動走行プログラムなどの制御プログラムが記憶されている。例えば、前記自動走行プログラムは、CD又はDVDなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に非一時的に記録されており、所定の読取装置(不図示)で読み取られて記憶部22に記憶される。なお、前記自動走行プログラムは、サーバー(不図示)から通信網N1を介して操作端末20にダウンロードされて記憶部22に記憶されてもよい。
【0078】
制御部21は、CPU、ROM、及びRAMなどの制御機器を有する。前記CPUは、各種の演算処理を実行するプロセッサーである。前記ROMは、前記CPUに各種の演算処理を実行させるためのBIOS及びOSなどの制御プログラムが予め記憶される不揮発性の記憶部である。前記RAMは、各種の情報を記憶する揮発性又は不揮発性の記憶部であり、前記CPUが実行する各種の処理の一時記憶メモリー(作業領域)として使用される。そして、制御部21は、前記ROM又は記憶部22に予め記憶された各種の制御プログラムを前記CPUで実行することにより操作端末20を制御する。
【0079】
図2に示すように、制御部21は、設定処理部211、経路生成処理部212、出力処理部213などの各種の処理部を含む。なお、制御部21は、前記CPUで前記制御プログラムに従った各種の処理を実行することによって前記各種の処理部として機能する。また、一部又は全部の前記処理部が電子回路で構成されていてもよい。なお、前記制御プログラムは、複数のプロセッサーを前記処理部として機能させるためのプログラムであってもよい。
【0080】
設定処理部211は、作業車両10に関する情報(以下、作業車両情報という。)と、圃場Fに関する情報(以下、圃場情報という。)と、作業(ここでは散布作業)に関する情報(以下、作業情報という。)とを設定して登録する。
【0081】
前記作業車両情報の設定処理において、設定処理部211は、作業車両10の機種、作業車両10においてアンテナ164が取り付けられている位置、作業機(ここでは散布装置14)の種類、作業機のサイズ及び形状、作業機の作業車両10に対する位置、作業車両10の作業中の車速及びエンジン回転数、作業車両10の旋回中の車速及びエンジン回転数等の情報について、オペレータが操作端末20において登録する操作を行うことにより当該情報を設定する。本実施形態では、作業機の情報として、散布装置14に関する情報が設定される。
【0082】
前記圃場情報の設定処理において、設定処理部211は、圃場Fの位置及び形状、作業を開始する作業開始位置S及び作業を終了する作業終了位置G(
図6参照)、作業方向等の情報について、オペレータが操作端末20において登録する操作を行うことにより当該情報を設定する。なお、作業方向とは、圃場Fから枕地等の非作業領域を除いた領域である作業領域において、散布装置14で散布作業を行いながら作業車両10を走行させる方向を意味する。
【0083】
圃場Fの位置及び形状の情報は、例えばオペレータが作業車両10を手動により圃場Fの外周に沿って一回り周回走行させ、そのときのアンテナ164の位置情報の推移を記録することで、自動的に取得することができる。また、圃場Fの位置及び形状は、操作端末20に地図を表示させた状態でオペレータが操作端末20を操作して当該地図上の複数の点を指定することで得られた多角形に基づいて取得することもできる。取得された圃場Fの位置及び形状により特定される領域は、作業車両10を走行させることが可能な領域(走行領域)である。
【0084】
前記作業情報の設定処理において、設定処理部211は、作業情報として、作業車両10が枕地において旋回する場合にスキップする作業経路の数であるスキップ数、枕地の幅等を設定可能に構成されている。
【0085】
経路生成処理部212は、前記各設定情報に基づいて、作業車両10を自動走行させる経路である目標経路Rを生成する。目標経路Rは、例えば作業開始位置Sから作業終了位置Gまでの経路である(
図6参照)。
図6に示す目標経路Rは、作物Vが植えられた領域において作物Vに対して薬液を散布する直線状の作業経路R1と、散布作業を行わないで作物列Vr間を移動する移動経路R2とを含む。
【0086】
目標経路Rの生成方法の一例について
図11A及び
図11Bを用いて説明する。
図11Aには、作物列Vrを模式的に示している。先ず、オペレータは作業車両10を手動により作物列Vrの外周に沿って走行させる(
図11A参照)。作業車両10は、走行中に各作物列Vrの一方側(
図11Aの下側)の端点E1と他方側(
図11Aの上側)の端点E2とを検出し、各端点E1,E2の位置情報(座標)を取得する。なお、端点E1,E2は、既に植えられた作物Vの位置であってもよいし、これから植える予定の作物Vの位置を示す目標物の位置であってもよい。経路生成処理部212は、作業車両10から各端点E1,E2の位置情報(座標)を取得すると、対応する端点E1,E2同士を結ぶ線L1(
図11B参照)を作物列Vrの作業経路に設定し、複数の作業経路と移動経路(旋回経路)とを含む目標経路Rを生成する。目標経路Rの生成方法は、上述の方法に限定されない。経路生成処理部212は、生成した目標経路Rを記憶部22に記憶してもよい。
【0087】
出力処理部213は、経路生成処理部212が生成した目標経路Rの情報を含む経路データを作業車両10に出力する。
【0088】
なお、出力処理部213は、前記経路データをサーバー(不図示)に出力してもよい。前記サーバーは、複数の操作端末20のそれぞれから取得する複数の前記経路データを操作端末20及び作業車両10に関連付けて記憶し管理する。
【0089】
制御部21は、上述の処理に加えて、各種情報を操作表示部23に表示させる処理を実行する。例えば、制御部21は、作業車両情報、圃場情報、作業情報などを登録する登録画面、目標経路Rを生成する操作画面、作業車両10に自動走行を開始させる操作画面、作業車両10の走行状態などを表示する表示画面などを操作表示部23に表示させる。また例えば、制御部21は、作業車両10から前記攪拌作業の作業状況を取得すると、操作表示部23に当該作業状況、すなわち貯留タンク14A内の薬液の攪拌作業を行っているか否かを示す情報を表示させる。
【0090】
また制御部21は、オペレータから各種操作を受け付ける。具体的には、制御部21は、オペレータから作業車両10に作業を開始させる作業開始指示、自動走行中の作業車両10の走行を停止させる走行停止指示などを受け付ける。制御部21は、前記各指示を受け付けると、前記各指示を作業車両10に出力する。
【0091】
作業車両10の車両制御装置11は、操作端末20から作業開始指示を取得すると、作業車両10の自動走行及び散布作業を開始させる。また、車両制御装置11は、操作端末20から走行停止指示を取得すると、作業車両10の自動走行及び散布作業を停止させる。
【0092】
なお、操作端末20は、サーバーが提供する農業支援サービスのウェブサイト(農業支援サイト)に通信網N1を介してアクセス可能であってもよい。この場合、操作端末20は、制御部21によってブラウザプログラムが実行されることにより、サーバーの操作用端末として機能することが可能である。
【0093】
[自動走行処理]
以下、
図12を参照しつつ、作業車両10の車両制御装置11によって実行される前記自動走行処理の一例について説明する。
【0094】
なお、本発明は、前記自動走行処理に含まれる一又は複数のステップを実行する自動走行方法の発明として捉えることができる。また、ここで説明する前記自動走行処理に含まれる一又は複数のステップは適宜省略されてもよい。なお、前記自動走行処理における各ステップは同様の作用効果を生じる範囲で実行順序が異なってもよい。さらに、ここでは車両制御装置11が前記自動走行処理における各ステップを実行する場合を例に挙げて説明するが、一又は複数のプロセッサーが当該自動走行処理における各ステップを分散して実行する自動走行方法も他の実施形態として考えられる。
【0095】
また、ここでは、前記攪拌作業の開始条件である前記第1条件~前記第4条件のうち前記第1条件を例に挙げて説明する。
【0096】
ステップS1において、車両制御装置11は、作業車両10のエンジン103を始動するキースイッチ(エンジンキースイッチ)がON状態になったか否かを判定する。例えば、オペレータは、作業車両10を保管庫から運搬車を利用して所定位置まで運搬して、エンジンキーによりエンジン始動スイッチをON状態にする。車両制御装置11がキースイッチのON状態を検出すると(S1:Yes)、処理はステップS2に移行する。車両制御装置11はキースイッチがON状態になるまで待機する(S1:No)。
【0097】
ステップS2において、車両制御装置11は、エンジン103を始動する。続くステップS3において、車両制御装置11は、前記攪拌作業を開始する。具体的には、車両制御装置11は、攪拌部14g(
図8参照)の回転駆動を開始させて貯留タンク14A内の薬液を攪拌する。
【0098】
次にステップS4において、車両制御装置11は、作業車両10を作業開始位置Sまで手動走行させる。例えば、車両制御装置11は、オペレータによる手動走行用操作部18(
図10参照)の走行指示操作に基づいて、作業車両10を作業開始位置Sまで手動走行させる。
【0099】
ここで、オペレータは、前記攪拌作業を開始した作業車両10に薬液を供給する場合、手動走行用操作部18を操作して、作業車両10を薬液供給エリアARに移動させて、薬液供給車から薬液を貯留タンク14Aに供給する。その後、オペレータは、手動走行用操作部18を操作して作業車両10を作業開始位置Sまで移動させる(
図9参照)。なお、貯留タンク14A内の薬液が残っていない場合には、車両制御装置11は、貯留タンク14A内の薬液が供給されたことを検出した場合に、前記攪拌作業を開始してもよい(前記第2条件に対応)。
【0100】
次にステップS5において、車両制御装置11は、作業車両10が作業開始位置S(自動走行可能位置)に到達したか否かを判定する。作業車両10が作業開始位置Sに到達すると(S5:Yes)、処理はステップS6に移行する。作業車両10が作業開始位置Sに到達するまで、前記手動走行処理(S4)を継続する(S5:No)。
【0101】
ステップS6において、車両制御装置11は、操作端末20から自動走行開始指示を取得したか否かを判定する。例えば、オペレータが操作端末20においてスタートボタンを押下すると、操作端末20は自動走行開始指示(作業開始指示)を作業車両10に出力する。車両制御装置11が操作端末20から自動走行開始指示を取得すると(S6:Yes)、処理はステップS7に移行する。車両制御装置11は、操作端末20から自動走行開始指示を取得するまで待機する(S6:No)。
【0102】
ステップS7において、車両制御装置11は、自動走行を開始する。例えば、車両制御装置11は、操作端末20から自動走行開始指示及び経路データを取得すると、当該経路データに応じた目標経路Rに沿って自動走行及び散布作業を開始する。なお、車両制御装置11は、操作端末20から取得した前記経路データを記憶部12に記憶する。
【0103】
次にステップS8において、車両制御装置11は、作業車両10が作業(散布作業)を終了したか否かを判定する。車両制御装置11は、作業車両10の位置が作業終了位置Gに一致する場合に作業を終了したと判定する。作業車両10が作業を終了した場合(S8:Yes)、前記自動走行処理は終了する。車両制御装置11は、作業車両10が作業を終了するまで自動走行及び散布作業を継続する(S8:No)。
【0104】
ここで、作業車両10は、散布作業を終了すると、薬液を補給する必要がある場合に、オペレータによる手動走行用操作部18の操作により薬液供給エリアARまで手動走行する(
図9参照)。そして、オペレータは、薬液供給エリアARで作業車両10に薬液を補給する。
【0105】
以上説明したように、本実施形態に係る自動走行システム1は、作業地(例えば圃場F)において目標経路Rに従って作業車両10を自動走行させ、散布対象物(例えば作物V)に対して散布物(例えば薬液)を散布する散布作業を実行させる。また、自動走行システム1は、貯留タンク14A内の前記散布物を攪拌させる攪拌作業を実行させる。また、自動走行システム1は、作業車両10が自動走行を開始する前に所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させる。
【0106】
また、本実施形態に係る自動走行方法は、一又は複数のプロセッサーが、(例えば圃場F)において目標経路Rに従って作業車両10を自動走行させることと、散布対象物(例えば作物V)に対して散布物(例えば薬液)を散布する散布作業を実行させることと、貯留タンク14A内の前記散布物を攪拌させる攪拌作業を実行させることと、作業車両10が自動走行を開始する前に所定の条件を満たした場合に、前記攪拌作業を開始させることと、を実行する。
【0107】
上記の構成によれば、作業車両10が自動走行を開始する前に貯留タンク14A内の薬液を攪拌することができるため、薬液の濃度が均一にならなかったり、薬液を噴出する散布ノズルの目詰まりが生じたりする問題を回避することができる。これにより、自動走行開始直後から、均一な濃度の薬液を作物Vに適切に散布することができる。よって、散布作業の作業精度を向上させることが可能になる。また、オペレータが攪拌作業の開始指示を忘れた場合であっても、前記攪拌作業を所定のタイミングで自動的に開始することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 :自動走行システム
10 :作業車両
11 :車両制御装置
111 :走行処理部
112 :散布処理部
113 :攪拌処理部
114 :通知処理部
14 :散布装置
14A :貯留タンク
18 :手動走行用操作部
19 :操作表示部(表示部)
20 :操作端末
211 :設定処理部
212 :経路生成処理部
213 :出力処理部
40 :基地局
50 :衛星
F :圃場(作業地)
R :目標経路
V :作物
Vr :作物列