(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184002
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】筋再生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20221206BHJP
A61K 31/417 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/4164 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20221206BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/417
A61K31/4439
A61K31/4164
A61K31/454
A61P21/00
A61P43/00 113
A61K31/506
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091586
(22)【出願日】2021-05-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】592142670
【氏名又は名称】佐藤製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】大久保 寿政
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 良樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 収彦
(72)【発明者】
【氏名】堀内 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅也
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA94
4C084ZC13
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086BC42
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA94
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】筋損傷からの筋再生を促進する手段を提供する。
【解決手段】有効成分としてヒスタミンH3受容体アゴニスト活性を有する化合物(但し、ヒスタミンを除く)又はその塩を使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒスタミンH3受容体アゴニスト活性を有する化合物(但し、ヒスタミンを除く)又は薬学的に許容可能なその塩を含む、筋再生促進剤。
【請求項2】
ヒスタミンH
3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、式(I):
[式中、
Aは、
式(II):
又は
式(III):
(式中、R
3は、水素原子又は低級アルキル基である)で表される基であり;
Bは、
式(IV):
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基である)、
式(V):
又は
式(VI):
(式中、Ar
1はフェニル基(該フェニル基は、水酸基及びハロゲン原子からなる群より選択される1又は2つの置換基で置換されていてもよい)であり;Ar
2は、フェニル基、又はヘテロアリール基である)で表される基であり;
L
1は、
式:-C(R
L1)(R
L1’)-で表される基、又は
式:-N(R
L1)-で表される基
(各式中、R
L1及びR
L1’は、それぞれ独立して水素原子又は低級アルキル基である)であり;
L
2は、
単結合、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-C(R
L4)(R
L4’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-C(R
L4)(R
L4’)-C(R
L5)(R
L5’)-で表される基、
式:-O-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-(C=N(R
N))-で表される基、又は
式:-C(R
L2)(R
L2’)-S-(C=N(R
N))-で表される基
(各式中、
R
L2及びR
L2’は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基又はハロ低級アルキル基であり;
R
L3、R
L3’、R
L4、R
L4’、R
L5及びR
L5’は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基であり;
R
Nは、水素原子又は低級アルキル基である)であり、
ここで、
R
1とR
L1とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至8員の環を形成してもよく、
R
1とR
L2とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至7員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L2とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至5員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L3とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、4員乃至6員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L2’は、一緒になって二重結合を形成してもよい]で表される、請求項1に記載の筋再生促進剤。
【請求項3】
Aは、式(II):
で表される基であり、
Bは、式(IV):
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子である)
又は、
式(V):
で表される基であり;
L
1は、式:-C(R
L1)(R
L1’)-で表される基(式中、R
L1及びR
L1’は水素原子である)であり;
L
2は、
単結合、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-で表される基、又は
式:-C(R
L2)(R
L2’)-S-(C=N(R
N))-で表される基
(各式中、R
L2及びR
L2’は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基であり;R
Nは、水素原子である)である、請求項2に記載の筋再生促進剤。
【請求項4】
ヒスタミンH3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、下記[1]~[22]の化合物:
[1](2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-アミン
[2](2S)-1-クロロ-3-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-アミン
[3](2R,3R)-3-(1H-イミダゾール-4-イル)ブタン-2-アミン
[4]2-(1H-イミダゾール-4-イル)-N-メチルエタン-1-アミン
[5]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピリジン
[6]5-(1H-イミダゾール-4-イル)ペンタン-1-アミン
[7]5-(1H-イミダゾール-4-イル)-N,N-ジメチルペンタン-1-アミン
[8]カルバミミドチオ酸2-(1H-イミダゾール-4-イル)エチル
[9]N’-メチルカルバミミドチオ酸2-(1H-イミダゾール-4-イル)エチル
[10]4-(1H-イミダゾール-4-イル)ブタンイミドアミド
[11]4-[(2R,3S)-2-メチルピロリジン-3-イル]-1H-イミダゾール
[12]4-[(3R,4R)-4-メチルピロリジン-3-イル]-1H-イミダゾール
[13]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピペリジン
[14]4-[(ピロリジン-3-イル)メチル]-1H-イミダゾール
[15]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]-1-メチルピペリジン
[16]1-[(2R,5R)-5-(1H-イミダゾール-4-イル)オキソラン-2-イル]メタンアミン
[17](1S,2S)-2-(1H-イミダゾール-4-イル)シクロプロパン-1-アミン
[18]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチリデン]ピペリジン
[19]N4-(2-アミノエチル)ピリミジン-2,4-ジアミン
[20]4-[3-(プロピルアミノ)アゼチジン-1-イル]ピリミジン-2-アミン
[21]2-[(E)-{[(2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-イル]イミノ}(フェニル)メチル]フェノール
[22]2-[(E)-{[(2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-イル]イミノ}(1H-ピロロ-2-イル)メチル]-4-フルオロフェノール
からなる群から選択される、請求項1に記載の筋再生促進剤。
【請求項5】
ヒスタミンH3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、ヒスタミンH3受容体選択的アゴニストである、請求項1~3のいずれか一項に記載の筋再生促進剤。
【請求項6】
ヒスタミンH3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、下記の化合物:
[1](2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-アミン
[5]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピリジン
[8]カルバミミドチオ酸2-(1H-イミダゾール-4-イル)エチル
[13]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピペリジン
[15]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]-1-メチルピペリジン
[20]4-[3-(プロピルアミノ)アゼチジン-1-イル]ピリミジン-2-アミン
からなる群から選択される、請求項4に記載の筋再生促進剤。
【請求項7】
ヒスタミンH3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、下記の化合物:
[1](2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-アミン
[5]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピリジン
[8]カルバミミドチオ酸2-(1H-イミダゾール-4-イル)エチル
からなる群から選択される、請求項4記載の筋再生促進剤。
【請求項8】
筋損傷後又は筋原性疾患における筋再生を促進する、請求項1~7のいずれか1項に記載の筋再生促進剤。
【請求項9】
筋損傷後の筋再生を促進する、請求項8に記載の筋再生促進剤。
【請求項10】
筋損傷が筋挫傷である、請求項9に記載の筋再生促進剤。
【請求項11】
ヒスタミンH3受容体アゴニスト活性を有する化合物(但し、ヒスタミンを除く)又は薬学的に許容可能なその塩を含む、筋損傷治療剤。
【請求項12】
ヒスタミンH
3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、式(I):
[式中、
Aは、
式(II):
又は
式(III):
(式中、R
3は、水素原子又は低級アルキル基である)で表される基であり;
Bは、
式(IV):
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基である)、
式(V):
又は
式(VI):
(式中、Ar
1はフェニル基(該フェニル基は、水酸基及びハロゲン原子からなる群より選択される1又は2つの置換基で置換されていてもよい)であり;Ar
2は、フェニル基、又はヘテロアリール基である)で表される基であり;
L
1は、
式:-C(R
L1)(R
L1’)-で表される基、又は
式:-N(R
L1)-で表される基
(各式中、R
L1及びR
L1’は、それぞれ独立して水素原子又は低級アルキル基である)であり;
L
2は、
単結合、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-C(R
L4)(R
L4’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-C(R
L4)(R
L4’)-C(R
L5)(R
L5’)-で表される基、
式:-O-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-(C=N(R
N))-で表される基、又は
式:-C(R
L2)(R
L2’)-S-(C=N(R
N))-で表される基
(各式中、
R
L2及びR
L2’は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基又はハロ低級アルキル基であり;
R
L3、R
L3’、R
L4、R
L4’、R
L5及びR
L5’は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基であり;
R
Nは、水素原子又は低級アルキル基である)であり、
ここで、
R
1とR
L1とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至8員の環を形成してもよく、
R
1とR
L2とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至7員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L2とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至5員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L3とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、4員乃至6員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L2’は、一緒になって二重結合を形成してもよい]で表される、請求項11に記載の筋損傷治療剤。
【請求項13】
筋損傷が筋挫傷である、請求項11又は12に記載の筋損傷治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒスタミンH3受容体アゴニスト活性を有する化合物(但し、ヒスタミンを除く)又は薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含む筋再生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
筋損傷は臨床的に、筋挫傷(肉離れ)、高エネルギー外傷、手術操作等によって生じるもの等に分類される。筋損傷は、様々な合併症(機能障害、筋萎縮や、局所の疼痛等など)を引き起こすことが知られている(非特許文献1)。
筋損傷のなかでも、鈍的な外力(打撲)により起こる筋挫傷は、最も頻度の高いスポーツ外傷である(非特許文献2)。正確な統計はないものの、日本国内の患者数は年間数万人程度であると考えられている。
筋損傷への応急処置として、これまで、RICE処置(安静(Rest)、冷却(Icing)、圧迫(Compression)、挙上(Elevation))が推奨されている。応急処置後は、疼痛に対する対症的治療やリハビリテーション等が行われている。
【0003】
筋組織は損傷を再生する機構を有している。筋再生には筋衛星細胞が必須であることが知られている。筋線維基底膜近傍にある筋衛星細胞は、平常時は静止期にあるが、筋損傷が起こると活性化されて筋芽細胞へと分化し、細胞融合を経て筋繊維を形成する。筋再生が終了すると、残存する筋衛星細胞は再び静止期に入る(非特許文献3及び4)。
筋再生を促進する因子として、肝細胞増殖因子(HGF)(非特許文献5)や、インスリン様成長因子1(IGF-1)(非特許文献6)が知られている。また、筋再生の阻害因子を抑制することで筋肥大を誘導し得ることが報告されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、前記の機構による筋再生には長時間を要する。そのため、特段の筋再生促進手段を講じていない従来の処置法では筋力低下が起こり、筋損傷患者の日常生活やスポーツ活動への復帰が遅れる。
また、筋再生に時間を要すると、筋組織中に長期間残留したコラーゲンに由来する瘢痕組織により筋組織の一部が置換されることがある。瘢痕組織は可塑性筋の強度を低下させるため、筋損傷が再発する危険性が高い(非特許文献1)。
【0005】
ヒスタミンH3受容体と筋肉との関係について、筋線維芽細胞の分化や成熟に伴いヒスタミンH3受容体のmRNA発現が増加することや、成熟筋線維芽細胞における電気刺激によるカルシウムの細胞内流入を抑制するヒスタミンH3受容体アゴニストが、筋の収縮及び弛緩の調節や維持機構に関与する可能性が報告されているが(非特許文献7)、ヒスタミンH3受容体アゴニストによる筋再生促進効果を明らかにした知見は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Appl. Physiol., vol.95, no.2, pp.771-780, 2003.
【非特許文献2】Am. J. Sports Med., vol.27, no.1, pp.2-9, 1999.
【非特許文献3】Am. J. Sports Med., vol.33, no.5, pp.745-64, May 2005.
【非特許文献4】J. Bone Joint Surg. Am., vol.84-A, no.5, pp.822-32, May 2002.
【非特許文献5】Dev. Biol., vol.194, no.1, pp.114-128, 1998.
【非特許文献6】J. Cell. Physiol., vol.138, no.2, pp.311-5, Feb. 1989.
【非特許文献7】Eur. J. Pharmacol., vol. 754, pp. 173-8, May 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の処置法は、筋再生に時間を要し筋力低下が起こりやすく、患者の運動機能低下や健康寿命短縮あるいはアスリートの長期間活動停止等を招きやすいため、より有効な新規処置法が望まれている。また、筋再生の分子メカニズムは従来から広く研究されているものの筋再生に有効な薬剤は未だ開発されていない。そのため、筋再生を促進する薬剤の開発が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ヒスタミンH
3受容体アゴニスト活性を有する化合物(但し、ヒスタミンを除く)又はその塩を用いると筋再生が促進されることを見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は下記の〔1〕~〔13〕に関するものである。
〔1〕ヒスタミンH
3受容体アゴニスト活性を有する化合物(但し、ヒスタミンを除く)又は薬学的に許容可能なその塩を含む、筋再生促進剤。
〔2〕ヒスタミンH
3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、式(I):
[式中、
Aは、
式(II):
又は
式(III):
(式中、R
3は、水素原子又は低級アルキル基である)で表される基であり;
Bは、
式(IV):
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基である)、
式(V):
又は
式(VI):
(式中、Ar
1はフェニル基(該フェニル基は、水酸基及びハロゲン原子からなる群より選択される1又は2つの置換基で置換されていてもよい)であり;Ar
2は、フェニル基、又はヘテロアリール基である)で表される基であり;
L
1は、
式:-C(R
L1)(R
L1’)-で表される基、又は
式:-N(R
L1)-で表される基
(各式中、R
L1及びR
L1’は、それぞれ独立して水素原子又は低級アルキル基である)であり;
L
2は、
単結合、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-C(R
L4)(R
L4’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-C(R
L4)(R
L4’)-C(R
L5)(R
L5’)-で表される基、
式:-O-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-(C=N(R
N))-で表される基、又は
式:-C(R
L2)(R
L2’)-S-(C=N(R
N))-で表される基
(各式中、
R
L2及びR
L2’は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基又はハロ低級アルキル基であり;
R
L3、R
L3’、R
L4、R
L4’、R
L5及びR
L5’は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基であり;
R
Nは、水素原子又は低級アルキル基である)であり、
ここで、
R
1とR
L1とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至8員の環を形成してもよく、
R
1とR
L2とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至7員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L2とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至5員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L3とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、4員乃至6員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L2’は、一緒になって二重結合を形成してもよい]で表される、前記〔1〕に記載の筋再生促進剤。
〔3〕Aは、式(II):
で表される基であり、
Bは、式(IV):
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子である)
又は、
式(V):
で表される基であり;
L
1は、式:-C(R
L1)(R
L1’)-で表される基(式中、R
L1及びR
L1’は水素原子である)であり;
L
2は、
単結合、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-で表される基、又は
式:-C(R
L2)(R
L2’)-S-(C=N(R
N))-で表される基
(各式中、R
L2及びR
L2’は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基であり;R
Nは、水素原子である)である、前記〔2〕に記載の筋再生促進剤。
〔4〕ヒスタミンH
3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、下記[1]~[22]の化合物:
[1](2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-アミン
[2](2S)-1-クロロ-3-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-アミン
[3](2R,3R)-3-(1H-イミダゾール-4-イル)ブタン-2-アミン
[4]2-(1H-イミダゾール-4-イル)-N-メチルエタン-1-アミン
[5]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピリジン
[6]5-(1H-イミダゾール-4-イル)ペンタン-1-アミン
[7]5-(1H-イミダゾール-4-イル)-N,N-ジメチルペンタン-1-アミン
[8]カルバミミドチオ酸2-(1H-イミダゾール-4-イル)エチル
[9]N’-メチルカルバミミドチオ酸2-(1H-イミダゾール-4-イル)エチル
[10]4-(1H-イミダゾール-4-イル)ブタンイミドアミド
[11]4-[(2R,3S)-2-メチルピロリジン-3-イル]-1H-イミダゾール
[12]4-[(3R,4R)-4-メチルピロリジン-3-イル]-1H-イミダゾール
[13]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピペリジン
[14]4-[(ピロリジン-3-イル)メチル]-1H-イミダゾール
[15]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]-1-メチルピペリジン
[16]1-[(2R,5R)-5-(1H-イミダゾール-4-イル)オキソラン-2-イル]メタンアミン
[17](1S,2S)-2-(1H-イミダゾール-4-イル)シクロプロパン-1-アミン
[18]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチリデン]ピペリジン
[19]N
4-(2-アミノエチル)ピリミジン-2,4-ジアミン
[20]4-[3-(プロピルアミノ)アゼチジン-1-イル]ピリミジン-2-アミン
[21]2-[(E)-{[(2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-イル]イミノ}(フェニル)メチル]フェノール
[22]2-[(E)-{[(2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-イル]イミノ}(1H-ピロロ-2-イル)メチル]-4-フルオロフェノール
からなる群から選択される、前記〔1〕に記載の筋再生促進剤。
〔5〕ヒスタミンH
3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、ヒスタミンH
3受容体選択的アゴニストである、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の筋再生促進剤。
〔6〕ヒスタミンH
3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、下記の化合物:
[1](2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-アミン
[5]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピリジン
[8]カルバミミドチオ酸2-(1H-イミダゾール-4-イル)エチル
[13]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピペリジン
[15]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]-1-メチルピペリジン
[20]4-[3-(プロピルアミノ)アゼチジン-1-イル]ピリミジン-2-アミン
からなる群から選択される、前記〔4〕に記載の筋再生促進剤。
〔7〕ヒスタミンH
3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、下記の化合物:
[1](2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-アミン
[5]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピリジン
[8]カルバミミドチオ酸2-(1H-イミダゾール-4-イル)エチル
からなる群から選択される、前記〔4〕記載の筋再生促進剤。
〔8〕筋損傷後又は筋原性疾患における筋再生を促進する、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の筋再生促進剤。
〔9〕筋損傷後の筋再生を促進する、前記〔8〕に記載の筋再生促進剤。
〔10〕筋損傷が筋挫傷である、前記〔9〕に記載の筋再生促進剤。
〔11〕ヒスタミンH
3受容体アゴニスト活性を有する化合物(但し、ヒスタミンを除く)又は薬学的に許容可能なその塩を含む、筋損傷治療剤。
〔12〕ヒスタミンH
3受容体アゴニスト活性を有する化合物が、式(I):
[式中、
Aは、
式(II):
又は
式(III):
(式中、R
3は、水素原子又は低級アルキル基である)で表される基であり;
Bは、
式(IV):
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基である)、
式(V):
又は
式(VI):
(式中、Ar
1はフェニル基(該フェニル基は、水酸基及びハロゲン原子からなる群より選択される1又は2つの置換基で置換されていてもよい)であり;Ar
2は、フェニル基、又はヘテロアリール基である)で表される基であり;
L
1は、
式:-C(R
L1)(R
L1’)-で表される基、又は
式:-N(R
L1)-で表される基
(各式中、R
L1及びR
L1’は、それぞれ独立して水素原子又は低級アルキル基である)であり;
L
2は、
単結合、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-C(R
L4)(R
L4’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-C(R
L4)(R
L4’)-C(R
L5)(R
L5’)-で表される基、
式:-O-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-(C=N(R
N))-で表される基、又は
式:-C(R
L2)(R
L2’)-S-(C=N(R
N))-で表される基
(各式中、
R
L2及びR
L2’は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基又はハロ低級アルキル基であり;
R
L3、R
L3’、R
L4、R
L4’、R
L5及びR
L5’は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基であり;
R
Nは、水素原子又は低級アルキル基である)であり、
ここで、
R
1とR
L1とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至8員の環を形成してもよく、
R
1とR
L2とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至7員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L2とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至5員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L3とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、4員乃至6員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L2’は、一緒になって二重結合を形成してもよい]で表される、前記〔11〕に記載の筋損傷治療剤。
〔13〕筋損傷が筋挫傷である、前記〔11〕又は〔12〕に記載の筋損傷治療剤。
【発明の効果】
【0010】
後述する実施例で示されるように、本発明の筋再生促進剤は筋再生を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、α-Met His二塩酸塩投与後の再生単一筋繊維面積のヒストグラムである。
【
図2】
図2は、α-Met His二塩酸塩投与後の再生筋の平均筋繊維面積を示す。
【
図3】
図3は、Imetit二臭化水素酸塩投与後の再生単一筋繊維面積のヒストグラムである。
【
図4】
図4は、Imetit二臭化水素酸塩投与後の再生筋の平均筋繊維面積を示す。
【
図5】
図5は、Immethridine二臭化水素酸塩投与後の再生単一筋繊維面積のヒストグラムである。
【
図6】
図6は、Immethridine二臭化水素酸塩投与後の再生筋の平均筋繊維面積を示す。
【
図7】
図7は、N
α-メチルヒスタミン二塩酸塩投与後の再生単一筋繊維面積のヒストグラムである。
【
図8】
図8は、N
α-メチルヒスタミン二塩酸塩投与後の再生筋の平均筋繊維面積を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔有効成分〕
本発明の筋再生促進剤は、ヒスタミンH3受容体アゴニスト活性を有する化合物(但し、ヒスタミンを除く)又は薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含有する。
【0013】
「ヒスタミンH3受容体」は、ヒスタミン(別名:2-(1H-イミダゾール-4-イル)エタン-1-アミン)に対する受容体のサブタイプの一つである。ヒスタミンH3受容体は、主に神経で発現しているが、筋肉でも発現している。
「ヒスタミンH3受容体アゴニスト活性を有する化合物」とは、ヒスタミンH3受容体へ結合して前記受容体を作動させる化合物をいう。
但し、ヒスタミンは、本発明の筋再生促進剤の有効成分から除かれる。
「ヒスタミンH3受容体アゴニスト活性を有する化合物」は、「ヒスタミンH3受容体アゴニスト」、「H3受容体アゴニスト」、「ヒスタミンH3アゴニスト」や「H3アゴニスト」とも称される。
【0014】
ヒスタミンH3受容体アゴニストは、ヒスタミンH3受容体以外のヒスタミン受容体(以下、「他のヒスタミン受容体」ともいう)に対してアゴニスト活性を有していてもよい。他のヒスタミン受容体としては、例えば、ヒスタミンH1受容体、ヒスタミンH2受容体や、ヒスタミンH4受容体が挙げられる。
ヒスタミンH3受容体アゴニストは、ヒスタミンH3受容体に選択的なアゴニスト活性を有する「ヒスタミンH3受容体選択的アゴニスト」であることが好ましい。この選択的アゴニストは、「H3受容体選択的アゴニスト」「ヒスタミンH3選択的アゴニスト」や「H3選択的アゴニスト」)とも称される。
「ヒスタミンH3受容体に選択的なアゴニスト活性」とは、他のヒスタミン受容体に対するアゴニスト活性よりも、ヒスタミンH3受容体に対するアゴニスト活性が高い(好ましくは3倍以上、より好ましくは10倍以上、とりわけ好ましくは30倍以上)ことをいう。
ヒスタミンH3受容体や他のヒスタミン受容体に対するアゴニスト活性の測定方法は公知であり、例えば、文献(J. Med. Chem. 2003, 46, 5812-5824;Br. J. Phrmacol. 1994, 112, 847-854;及びJ. Med. Chem. 2003, 46, 5445-5457)に記載の試験方法に従い測定し、決定できる。
【0015】
ヒスタミンH
3受容体アゴニストは、好ましくは式(I)で表される化合物である。
[式中、
Aは、
式(II):
又は
式(III):
(式中、R
3は、水素原子又は低級アルキル基である)で表される基であり;
Bは、
式(IV):
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基である)、
式(V):
又は
式(VI):
(式中、Ar
1はフェニル基(該フェニル基は、水酸基及びハロゲン原子からなる群より選択される1又は2つの置換基で置換されていてもよい)であり;Ar
2は、フェニル基、又はヘテロアリール基である)で表される基であり;
L
1は、
式:-C(R
L1)(R
L1’)-で表される基、又は
式:-N(R
L1)-で表される基
(各式中、R
L1及びR
L1’は、それぞれ独立して水素原子又は低級アルキル基である)であり;
L
2は、
単結合、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-C(R
L4)(R
L4’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-C(R
L4)(R
L4’)-C(R
L5)(R
L5’)-で表される基、
式:-O-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-で表される基、
式:-C(R
L2)(R
L2’)-C(R
L3)(R
L3’)-(C=N(R
N))-で表される基、又は
式:-C(R
L2)(R
L2’)-S-(C=N(R
N))-で表される基
(各式中、
R
L2及びR
L2’は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基又はハロ低級アルキル基であり;
R
L3、R
L3’、R
L4、R
L4’、R
L5及びR
L5’は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基であり;
R
Nは、水素原子又は低級アルキル基である)であり、
ここで、
R
1とR
L1とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至8員の環を形成してもよく、
R
1とR
L2とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至7員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L2とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至5員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L3とは、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、4員乃至6員の環を形成してもよく、
R
L1とR
L2’は、一緒になって二重結合を形成してもよい]
【0016】
はじめに、式(I)中で使用される用語を説明する。
【0017】
「低級アルキル基」とは、炭素数1乃至6の直鎖状又は分岐を有するアルキル基を意味し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、イソアミル基、ネオペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1,2,2-トリメチルプロピル基及び1-エチル-3-メチルプロピル基等が挙げられる。
【0018】
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられる。
【0019】
「ハロ低級アルキル基」とは、置換可能な任意の位置が1又は2以上、好ましくは1乃至5の同一又は異なる前記ハロゲン原子で置換された前記「低級アルキル基」を意味し、例えばフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2-フルオロエチル基、1,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、クロロメチル基、2-クロロエチル基、1,2-ジクロロエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、ブロモメチル基及びヨードメチル基等が挙げられる。
「置換可能な任意の位置」とは、炭素原子上の置換可能な水素原子であって、当該水素原子の置換が化学的に許容され、その結果、安定な化合物をもたらすものの部位を意味する。
【0020】
「ヘテロアリール基」とは、炭素原子以外に、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群より、同一若しくは異なって選ばれる1若しくは2以上、好ましくは1乃至4のヘテロ原子を含有する5員若しくは6員の単環を意味するか、又は該単環とベンゼン環若しくはピリジン環とが縮合した双環を意味し、例えばピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、オキサゾリル基、イソキサゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、1,2,3-オキサジアゾリル基、1,2,4-オキサジアゾリル基、1,3,4-オキサジアゾリル基、1,2,5-オキサジアゾリル基、1,2,3-チアジアゾリル基、1,2,4-チアジアゾリル基、1,3,4-チアジアゾリル基、1,2,5-チアジアゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、1,2,4-トリアジニル基、1,3,5-トリアジニル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイソキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基、インダゾリル基、イミダゾピリジル基、プリニル基、キノリル基、キノリジニル基、イソキノリル基、フタラジニル基、ナフチリジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、プテリジニル基及びピリド[3,2-b]ピリジル基等が挙げられる。
【0021】
次に、式(I)を特定する各種記号を、その好適な具体例を挙げて詳細に説明する。
【0022】
式(I)のAは、式(II):
又は、
式(III):
で表される基である。
【0023】
式(III)のR3は、水素原子又は低級アルキル基である。
R3の低級アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基やtert-ブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基やイソプロピル基である。
好ましいR3としては、水素原子、メチル基、エチル基やイソプロピル基が挙げられる。
【0024】
式(I)のBは、式(IV):
式(V):
又は、
式(VI):
で表される基である。
【0025】
式(IV)のR1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基である。
R1及びR2の低級アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基やtert-ブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。
好ましいR1及びR2としては、水素原子やメチル基が挙げられる。
【0026】
式(VI)のAr1はフェニル基である。このフェニル基は、水酸基及びハロゲン原子からなる群より選択される1又は2つの置換基で置換されていてもよい。
「水酸基及びハロゲン原子からなる群より選択される1又は2つの置換基で置換されていてもよいフェニル基」とは、無置換のフェニル基、1又は2つの水酸基で置換されたフェニル基、1又は2つのハロゲン原子で置換されたフェニル基、若しくは一つの水酸基と一つのハロゲン原子で置換されたフェニル基を意味し、例えばフェニル基、2-ヒドロキシフェニル基、3-ヒドロキシフェニル基、4-ヒドロキシフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基、2-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、2-フルオロ-3-ヒドロキシフェニル基、2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル基、2-フルオロ-5-ヒドロキシフェニル基、2-フルオロ-6-ヒドロキシフェニル基、3-フルオロ-2-ヒドロキシフェニル基、3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル基、3-フルオロ-5-ヒドロキシフェニル基、5-フルオロ-2-ヒドロキシフェニル基、4-フルオロ-2-ヒドロキシフェニル基や4-フルオロ-3-ヒドロキシフェニル基等が挙げられ、好ましくは2-ヒドロキシフェニル基や5-フルオロ-2-ヒドロキシフェニル基である。
好ましいAr1としては、フェニル基、2-ヒドロキシフェニル基や5-フルオロ-2-ヒドロキシフェニル基が挙げられる。
【0027】
式(VI)のAr2は、フェニル基又はヘテロアリール基である。
ヘテロアリール基としては、例えばピロリル基、フリル基、チエニル基、ピリジル基やピリミジニル基等が挙げられ、好ましくはピロリル基である。
好ましいAr2としては、フェニル基やピロリル基が挙げられる。
【0028】
式(I)のL1は、式:-C(RL1)(RL1’)-で表される基、又は、式:-N(RL1)-で表される基である。
各式のRL1及びRL1’は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基である。
低級アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基やtert-ブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。
好ましいRL1及びRL1’としては、水素原子やメチル基が挙げられる。
【0029】
式(I)のL2は、以下の(i)~(viii)から選択される基である:
(i)単結合、
(ii)式:-C(RL2)(RL2’)-で表される基、
(iii)式:-C(RL2)(RL2’)-C(RL3)(RL3’)-で表される基、
(iv)式:-C(RL2)(RL2’)-C(RL3)(RL3’)-C(RL4)(RL4’)-で表される基、
(v)式:-C(RL2)(RL2’)-C(RL3)(RL3’)-C(RL4)(RL4’)-C(RL5)(RL5’)-で表される基、
(vi)式:-O-C(RL2)(RL2’)-C(RL3)(RL3’)-で表される基、
(vii)式:-C(RL2)(RL2’)-C(RL3)(RL3’)-(C=N(RN))-で表される基、
(viii)式:-C(RL2)(RL2’)-S-(C=N(RN))-で表される基
【0030】
各式のRL2及びRL2’は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基又はハロ低級アルキル基である。
低級アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基やtert-ブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。
ハロ低級アルキル基としては、例えばフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基等が挙げられ、好ましくはクロロメチル基である。
好ましいRL2及びRL2’としては、水素原子、メチル基やクロロメチル基が挙げられる。
【0031】
各式のRL3、RL3’、RL4、RL4’、RL5及びRL5’は、それぞれ独立して、水素原子又は低級アルキル基である。
低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基やtert-ブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。
好ましいRL3、RL3’、RL4、RL4’、RL5及びRL5’としては、水素原子やメチル基が挙げられ、より好ましくは水素原子である。
【0032】
各式のRNは、水素原子又は低級アルキル基である。
低級アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基やtert-ブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。
好ましいRNとしては、水素原子やメチル基が挙げられる。
【0033】
R1とRL1とは、式:-(CH2)n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより3員乃至8員の環を形成してもよい。この場合の式(I)の化合物としては、例えば、式(I-10)や式(I-11)で表されるものが挙げられる。
【0034】
【0035】
【0036】
R1とRL2とは、式:-(CH2)n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至7員の環を形成してもよい。この場合の式(I)の化合物としては、例えば、式(I-12)や式(I-13)で表されるものが挙げられる。
【0037】
【0038】
【0039】
RL1とRL2とは、式:-(CH2)n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、3員乃至5員の環を形成してもよい。この場合の式(I)の化合物としては、例えば、式(I-14)や式(I-15)で表されるものが挙げられる。
【0040】
【0041】
【0042】
RL1とRL3とは、式:-(CH2)n-で表される基(式中、nは、1又は2である)を介して結合することにより、4員乃至6員の環を形成してもよい。この場合の式(I)の化合物としては、例えば、式(1-16)で表されるものが挙げられる。
【0043】
【0044】
RL1とRL2’とは、一緒になって二重結合を形成してもよい。これは、RL1とRL2’とが置換した隣接する二つの炭素原子同士が二重結合で結合していることを表し、例えば下記式(I-17)で表される。
【0045】
なお、式(I-17)では、R
1とR
L2とが、式:-(CH
2)
n-で表される基(式中、nは2)を介して結合することにより、6員の環を形成している。
【0046】
次に、式(I)の-L1-L2-の組み合わせを例示する。
【0047】
(1)L1が式:-C(RL1)(RL1’)-で表される基であり、L2が単結合であるとき、式(I)は、式(I-1)として表される。
【0048】
【0049】
(2)L1が式:-C(RL1)(RL1’)-で表される基であり、L2が式:-C(RL2)(RL2’)-で表される基であるとき、式(I)は、式(I-2)として表される。
【0050】
【0051】
(3)L1が式:-C(RL1)(RL1’)-で表される基であり、L2が式:-C(RL2)(RL2’)-C(RL3)(RL3’)-で表される基のとき、式(I)は、式(I-3)として表される。
【0052】
【0053】
(4)L1が式:-C(RL1)(RL1’)-で表される基であり、L2が式:-C(RL2)(RL2’)-C(RL3)(RL3’)-C(RL4)(RL4’)-で表される基のとき、式(I)は、式(I-4)として表される。
【0054】
【0055】
(5)L1が式:-C(RL1)(RL1’)-で表される基であり、L2が式:-C(RL2)(RL2’)-C(RL3)(RL3’)-C(RL4)(RL4’)-C(RL5)(RL5’)-で表される基のとき、式(I)は、式(I-5)として表される。
【0056】
【0057】
(6)L1が式:-C(RL1)(RL1’)-で表される基であり、L2が式:-O-C(RL2)(RL2’)-C(RL3)(RL3’)-で表される基のとき、式(I)は、式(I-6)として表される。
【0058】
【0059】
(7)L1が式:-C(RL1)(RL1’)-で表される基であり、L2が式:-C(RL2)(RL2’)-C(RL3)(RL3’)-(C=N(RN))-で表される基のとき、式(I)は、式(I-7)として表される。
【0060】
【0061】
(8)L1が式:-C(RL1)(RL1’)-で表される基であり、L2が式:-C(RL2)(RL2’)-S-(C=N(RN))-で表される基のとき、式(I)は、式(I-8)として表される。
【0062】
【0063】
(9)L1が式:-N(RL1)-で表される基であり、L2が式:-C(RL2)(RL2’)-C(RL3)(RL3’)-で表される基のとき、式(I)は、式(I-9)として表される。
【0064】
【0065】
式(I)で表される化合物の好ましい例としては、表1の[1]~[22]の化合物が挙げられる。
【0066】
【0067】
表1の化合物[1]~[22]と式(I)との関係を表2に示す。
【0068】
表2
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0069】
表1記載の化合物のうち、以下の化合物はヒスタミンH3受容体選択的アゴニストである。
[1](2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-アミン
[5]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピリジン
[8]カルバミミドチオ酸2-(1H-イミダゾール-4-イル)エチル
[13]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピペリジン
[15]4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]-1-メチルピペリジン
[20]4-[3-(プロピルアミノ)アゼチジン-1-イル]ピリミジン-2-アミン
【0070】
文献(The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 1992, 263, 304-310)には、(2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-アミン(R-α-メチルヒスタミン)がヒスタミンH3受容体選択的アゴニストであることが開示されている。
【0071】
文献(J. Med. Chem. 2004, 47, 2414-2417)には、4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピリジン(immethridine)がヒスタミンH3受容体選択的アゴニストであることが開示されている。
【0072】
文献(The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 1992, 263, 304-310)には、カルバミミドチオ酸2-(1H-イミダゾール-4-イル)エチル(imetit)がヒスタミンH3受容体選択的アゴニストであることが開示されている。
【0073】
文献(J. Med. Chem. 1994, 37, 332-333)には、4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピペリジン(immepip)がヒスタミンH3受容体選択的アゴニストであることが開示されている。
【0074】
文献(J. Med. Chem. 2005, 48, 2100-2107)には、4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]-1-メチルピペリジン(Methimepip)がヒスタミンH3受容体選択的アゴニストであることが開示されている。
【0075】
文献(J. Med. Chem. 2019, 62, 10848-10866)には、4-[3-(プロピルアミノ)アゼチジン-1-イル]ピリミジン-2-アミン(VUF16839)がヒスタミンH3受容体選択的アゴニストであることが開示されている。
【0076】
式(I)で表される化合物は、不斉中心、キラル軸、又はキラル面を有してもよい。
【0077】
表1には、化学結合を太線又は破線で表現した化学構造式が含まれている。この太線と破線は絶対立体化学を表現している。太線は、置換基がその結合炭素原子の平面よりも上側にあることを示し、破線は、置換基がその結合炭素原子の平面よりも下側にあることを示す。
【0078】
式(I)で表される化合物は、ラセミ体として、ラセミ混合物として、又は個々のジアステレオマーとして生じ得る。
式(I)で表される化合物の光学異性体及びその混合物はいずれも、本発明で使用するヒスタミンH
3受容体アゴニストに含まれる。
式(I)で表される化合物は互変異性体として存在してもよい。一方の互変異性体構造のみが本明細書に記載されている場合でも、他方の互変異性体構造を含む双方の互変異性体型が、本発明で使用するヒスタミンH
3受容体アゴニストに含まれる。
例えば、本発明で使用するヒスタミンH
3受容体アゴニストの部分構造であるイミダゾールは、下記式に示される互変異性体として存在する。これらの双方の互変異性体が、本発明で使用されるヒスタミンH
3受容体アゴニストに含まれる。
【0079】
ヒスタミンH3受容体アゴニストの薬学的に許容可能な塩(以下、「その塩」ともいう)としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩等が挙げられる。
ヒスタミンH3受容体アゴニストの薬学的に許容可能な塩には、水又はエタノール等の薬学的に許容できる溶媒との溶媒和物も含まれる。
ヒスタミンH3受容体アゴニスト及びその塩は公知物質であり、市場で容易に入手可能であるか、又は、既知の合成反応を組み合わせて容易に合成可能である。
【0080】
〔筋再生促進剤〕
「筋再生促進」とは、筋損傷や筋原性疾患等により生じた損傷筋組織の再生を促進することをいう。
筋損傷としては、例えば、筋挫傷(外的な力(例えば、打撲等)により起こる)や、肉離れ(筋肉の急激な収縮等の内的な力により起こる)や、頚椎捻挫(いわゆるむち打ち)等が挙げられる。
筋原性疾患としては、例えば、筋ジストロフィーや遠位型ミオパチー等が挙げられる。 なお、筋損傷と筋原性疾患とは、筋繊維の壊死(筋損傷)に代償的な筋再生が起こる点で共通している。
【0081】
筋再生促進剤中のヒスタミンH3受容体アゴニスト又はその塩の濃度は、筋損傷の程度等に応じて適宜設定できる。
【0082】
筋再生促進剤は、筋肉を有する動物に対して制限なく適用できる。適用対象は、好ましくは哺乳動物(ヒト及び非ヒト哺乳動物(例えば馬や牛))であり、より好ましくはヒトである。また、適用対象の性別や年齢は問わない。
【0083】
〔製剤〕
筋再生促進剤は製剤として提供できる。製剤には経口製剤及び非経口製剤が含まれる。経口製剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤や顆粒剤等が挙げられ、非経口製剤としては、例えば、溶液若しくは懸濁液等の殺菌した液状の製剤、具体的には注射剤や点滴剤等が挙げられる。製剤は好ましくは経口製剤であるが、非経口製剤の場合、筋肉内注射剤が好ましい。
【0084】
製剤は、有効成分と共に、薬学的に許容可能な担体又は希釈剤を含んでいてもよい。製剤化は一般的な製剤技術を使用できる。
【0085】
「薬学的に許容可能な担体又は希釈剤」としては、賦形剤(例えば、脂肪、蜜蝋、半固体又は液体のポリオールや、天然又は硬化オイル);水(例えば、蒸留水、特に、注射用蒸留水);生理学的食塩水;アルコール(例えば、エタノール);グリセロール;ポリオール;ブドウ糖水溶液;マンニトール;植物オイル;添加剤(例えば、増量剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、湿潤剤、安定剤、乳化剤、分散剤、保存剤、甘味料、着色剤、調味料若しくは芳香剤、濃化剤、希釈剤、緩衝物質、溶媒、可溶化剤、貯蔵効果を達成するための薬剤、浸透圧を変えるための塩、コーティング剤や、抗酸化剤)等が挙げられる。
【0086】
筋再生促進剤は、様々な剤型の製剤へ適用できる。例えば、経口製剤(錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤や液剤)、非経口製剤(殺菌した溶液や懸濁液)、坐剤や軟膏剤等が挙げられる。
製剤は、固体製剤であってもよく、液状製剤であってもよい。
固体製剤は、そのまま錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は粉末の形態として製造できるが、適当な担体(添加物)を使用して製造することもできる。そのような担体(添加物)としては、糖類(例えば、乳糖やブドウ糖);澱粉類(例えば、トウモロコシ、小麦や米)
;脂肪酸(例えば、ステアリン酸);無機塩(例えば、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムや無水リン酸カルシウム);合成高分子(例えばポリビニルピロリドンやポリアルキレングリコール);脂肪酸塩(例えば、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸マグネシウム);アルコール類(例えば、ステアリルアルコールやベンジルアルコール);合成セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロース)や;その他の通常用いられる添加物(ゼラチン、タルク、植物油や、アラビアゴム)等が挙げられる。
固形製剤は、製剤全体の質量を基準として、例えば0.1~100質量%、好ましくは5~98質量%の有効成分を含むことができる。
【0087】
液状製剤は、液状製剤に通常用いられる適当な添加物(例えば、水、アルコール類や植物由来の油(大豆油、ピーナツ油、ゴマ油等))を使用して、懸濁液、シロップ剤、注射剤や、点滴剤(静脈内輸液)等の形態として製造できる。
【0088】
筋肉内注射、静脈内注射又は皮下注射の形で非経口投与する場合の適当な溶剤又は希釈剤としては、例えば注射用蒸留水、塩酸リドカイン水溶液(筋肉内注射用)、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、静脈内注射用液体(例えばクエン酸やクエン酸ナトリウム等の水溶液)や、電解質溶液(点滴静注及び静脈内注射用)等や、これらの混合溶液が挙げられる。
これらの注射剤は、有効成分を予め溶解したものの他、有効成分を粉末のまま或いは適当な担体(添加物)を加えたものを用時溶解する形態もとり得る。注射剤は、製剤全体の質量を基準として、例えば、0.005~25質量%の有効成分を含むことができる。
【0089】
〔筋損傷治療剤〕
ヒスタミンH3受容体アゴニスト及びその塩は、損傷した筋組織の再生を促進することで筋損傷を治療できる。したがって、本発明の筋再生促進剤は筋損傷治療剤としても把握できる。
筋損傷治療剤の有効成分や製剤化は、筋再生促進剤について述べた説明が適用される。
【実施例0090】
次に、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0091】
〔実験方法〕
1.評価化合物
下記の4種類の化合物を評価した。
【0092】
2.被験動物
7週齢のC57BL/6オスマウス(日本クレア株式会社)を購入し、8週齢時に実験に供した。
【0093】
3.筋損傷モデル動物
蛇毒カルジオトキシン(CTX)投与により筋損傷を発生させたモデル動物を用いた。この筋損傷モデル動物は、筋損傷からの再生に関する研究で広く用いられている。
イソフルラン麻酔下、マウス右足後肢の前脛骨筋にCTX 10μMを50μL投与した。CTX投与7日後に解剖により前脛骨筋を採取し、筋組織切片の作製に供した。
【0094】
4.筋組織切片の作製
前脛骨筋の採取後直ちに、液体窒素で冷却したイソペンタンに浸して急速凍結した。クライオスタット(ライカバイオシステムズ)を用いて凍結筋組織を厚さ10μmに薄切し、剥離防止コートスライドグラス(松浪硝子工業株式会社)に貼り付けた。
【0095】
5.筋組織切片の免疫蛍光染色
筋組織切片を、室温下で30分間、十分に風乾させた。その後、筋組織切片を-30℃に冷却したアセトンに浸し、-30℃下で20分間処理して固定した。固定化切片を一度風乾し、PBSで洗浄後、ブロッキング試薬(ブロッキング ワン。ナカライテスク株式会社)を滴下し、ブロッキング処理を1時間行った。次に、ブロッキング試薬で500倍希釈した1次抗体(モノクローナル抗ラミニン-2(α-2鎖)抗体 ラット宿主抗体(シグマアルドリッチ))を滴下し、4℃下で終夜反応させた。1次抗体が結合するラミニンは全ての筋細胞で発現するタンパク質であるので、本実験では、切片中の個々の筋細胞の面積を測定するために1次抗体を使用した。1次抗体と反応させた後の筋組織切片をPBSで洗浄後、ブロッキング試薬で500倍に希釈した2次抗体(CF 488A Goat Anti-Rat IgG(H+L)(Biotium))を1時間反応させた。蛍光色素がコンジュゲートした抗ラット抗体である2次抗体は1次抗体へ結合して、ラミニンを染色する。2次抗体との反応後、筋組織切片をPBSで洗浄し、「VECTASHIELD Hard・Set with DAPI」(Vector)を用いて封入し、倒立顕微鏡FSX100(オリンパス)で蛍光観察した。「VECTASHIELD Hard・Set with DAPI」は筋細胞の中心核を染色するために用いた。
【0096】
6.筋再生の評価
蛍光観察により取得した画像データに基づき筋再生を評価した。本実験では、中心核を持つ筋細胞(中心核を持つ単一筋繊維)を再生筋の指標とした。画像データを画像解析ソフトImageJ(NIH)に取り込んだ後、中心核を持つ筋細胞を抽出した。抽出された個々の細胞の断面積を、ラミニン染色された細胞膜に基づき測定した。面積測定には、ImageJ組み込み解析プログラムである「Analyze Particles」を使用した。測定結果を、再生単一筋繊維面積と個数の分布図(ヒストグラム)、及び、全ての再生単一筋繊維の断面積の平均値(平均筋繊維面積)として表した。
【0097】
〔実施例1:R-α-メチルヒスタミン二塩酸塩の筋再生促進効果〕
R-α-メチルヒスタミン((2R)-1-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン-2-アミン)はヒスタミンH
3受容体選択的アゴニストである。
PBS 5% tween20溶液に6.3mMの濃度で溶解したR-α-メチルヒスタミン二塩酸塩(シグマアルドリッチ)を、CTX投与前日から解剖前日(CTX投与6日後)まで1日1回、マウス両足の前脛骨筋に10μLの容量で筋肉内投与した。対照群(Vehicle)にはPBS 5% tween20溶液をマウス両足の前脛骨筋に筋肉内投与した。採取した前脛骨筋における再生した単一筋繊維の個数及び面積を前記方法により測定した。結果を
図1及び
図2に示す。
単一筋繊維面積のヒストグラムに基づき筋再生を評価したとき、R-α-メチルヒスタミン二塩酸塩(α-Met His)投与群のヒストグラムはVehicle投与群のヒストグラムよりも右側(面積が大きくなる方向)にシフトした(
図1)。
平均筋繊維面積に基づき筋再生を評価したとき、R-α-メチルヒスタミン二塩酸塩投与群ではVehicle投与群と比較して有意な平均筋繊維面積の上昇(12.3%)が認められた(
図2。*** P<0.0001)。
これらの結果は、CTX投与により損傷した筋肉の面積の増大(すなわち、筋再生)を、R-α-メチルヒスタミン二塩酸塩が促進したことを示している。
【0098】
〔実施例2:Imetit二臭化水素酸塩の筋再生促進効果〕
Imetit(カルバミミドチオ酸2-(1H-イミダゾール-4-イル)エチル)はヒスタミンH
3受容体選択的アゴニストである。
PBSに1μMの濃度で溶解したimetit二臭化水素酸塩(Tocris)を、CTX投与前日から解剖前日(CTX投与6日後)まで1日1回、マウス両足の前脛骨筋に10μLの容量で筋肉内投与した。対照群(Vehicle)にはPBSをマウス両足の前脛骨筋に筋肉内投与した。採取した前脛骨筋における再生した単一筋繊維の個数及び面積を前記方法により測定した。結果を
図3及び
図4に示す。
単一筋繊維面積のヒストグラムに基づき筋再生を評価したとき、Imetit二臭化水素酸塩(Imetit)投与群のヒストグラムはVehicle投与群のヒストグラムよりも右側(面積が大きくなる方向)にシフトした(
図3)。
平均筋繊維面積に基づき筋再生を評価したとき、Imetit二臭化水素酸塩投与群ではVehicle投与群と比較して有意な平均筋繊維面積の上昇(13.1%)が認められた(
図4。*** P<0.0001)。
これらの結果は、CTX投与により損傷した筋肉の面積の増大(すなわち、筋再生)を、imetit二臭化水素酸塩が促進したことを示している。
【0099】
〔実施例3:Immethridine二臭化水素酸塩の筋再生促進効果〕
Immethridine(4-[(1H-イミダゾール-4-イル)メチル]ピリジン)はヒスタミンH
3受容体選択的アゴニストである。
PBSに1μMの濃度で溶解したImmethridine二臭化水素酸塩(サンタクルーズバイオテクノロジー)を、CTX投与前日から解剖前日(CTX投与6日後)まで1日1回、マウス両足の前脛骨筋に10μLの容量で筋肉内投与した。対照群(Vehicle)にはPBSをマウス両足の前脛骨筋に筋肉内投与した。採取した前脛骨筋における再生した単一筋繊維の個数及び面積を前記方法により測定した。結果を
図5及び
図6に示す。
単一筋繊維面積のヒストグラムに基づき筋再生を評価したとき、Immethridine二臭化水素酸塩(Immethridine)投与群のヒストグラムはVehicle投与群のヒストグラムよりも右側(面積が大きくなる方向)にシフトした(
図5)。
平均筋繊維面積に基づき筋再生を評価したとき、Immethridine二臭化水素酸塩投与群ではVehicle投与群と比較して有意な平均筋繊維面積の上昇(14.0%)が認められた(
図6。*** P<0.0001)。
これらの結果は、CTX投与により損傷した筋肉の面積の増大(すなわち、筋再生)を、Immethridine二臭化水素酸塩が促進したことを示している。
【0100】
〔実施例4:N
α-メチルヒスタミン二塩酸塩の筋再生促進効果〕
N
α-メチルヒスタミン(2-(1H-イミダゾール-4-イル)-N-メチルエタン-1-アミン)は、ヒスタミンH
3受容体に対する選択性は高いものの、ヒスタミンH
1およびH
2受容体に対してもアゴニスト活性を有する、ヒスタミンH
3受容体非選択的アゴニストである(Pharmacol. Rev., vol. 42, no. 1, pp. 45-83, 1990.)。
PBSに1μMの濃度で溶解したN
α-メチルヒスタミン二塩酸塩(シグマアルドリッチ)を、CTX投与前日から解剖前日(CTX投与6日後)まで1日1回、マウス両足の前脛骨筋に10μLの容量で筋肉内投与した。対照群(Vehicle)にはPBSをマウス両足の前脛骨筋に筋肉内投与した。採取した前脛骨筋における再生した単一筋繊維の個数及び面積を前記方法により測定した。結果を
図7及び
図8に示す。
単一筋繊維面積のヒストグラムに基づき筋再生を評価したとき、N
α-メチルヒスタミン二塩酸塩(NAMH)投与群のヒストグラムはVehicle投与群のヒストグラムよりも右側(面積が大きくなる方向)にシフトした(
図7)。
平均筋繊維面積に基づき筋再生を評価したとき、N
α-メチルヒスタミン二塩酸塩投与群ではVehicle投与群と比較して有意な平均筋繊維面積の上昇(7.1%)が認められた(
図8。*** P<0.0001)。
これらの結果は、CTX投与により損傷した筋肉の面積の増大(すなわち、筋再生)を、N
α-メチルヒスタミン二塩酸塩が促進したことを示している。