(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184007
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ミトコンドリア超複合体の形成促進剤、筋力維持又は増進用組成物、及び筋機能低下若しくはミトコンドリア機能低下疾患の治療又は予防用医薬組成物、並びにミトコンドリアの超複合体の形成に関与する物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20221206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20221206BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20221206BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20221206BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221206BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20221206BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221206BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221206BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221206BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221206BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221206BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20221206BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20221206BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20221206BHJP
G01N 33/542 20060101ALI20221206BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20221206BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P43/00 111
A61K31/713
A61K48/00
A61K31/36
A61K31/519
A61P21/00
A61K31/506
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
G01N33/542 A
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091600
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
(72)【発明者】
【氏名】東 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 天美
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045CB01
2G045FB02
2G045FB12
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR66
4B063QR77
4B063QS03
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA46
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZC411
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA13
4C086BC42
4C086CB05
4C086EA16
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA94
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、ミトコンドリア機能の向上又は低下に関連する物質によりミトコンドリアの機能に関連する疾患等の治療又は予防する方法を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のSyk阻害剤を有効成分として含むミトコンドリア超複合体の形成促進剤、又は前記ミトコンドリア超複合体の形成促進剤を含む、筋力維持又は増進用組成物、若しくは筋機能低下又はミトコンドリア機能低下疾患の治療又は予防用医薬組成物によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Syk阻害剤を有効成分として含むミトコンドリア超複合体の形成促進剤。
【請求項2】
前記Syk阻害剤が、Syk遺伝子にRNAi効果を有する二本鎖核酸である、請求項1に記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤。
【請求項3】
前記二本鎖核酸が、配列番号1及び2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、又は配列番号3及び4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNAである、請求項2に記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤。
【請求項4】
前記Syk阻害剤が、下記式(1):
【化1】
(式中、R
1及びR
2は独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基である)
で表される化合物又はその塩、又は下記式(2)若しくは(3):
【化2】
(式中、R
3は、1~4のいずれかであり、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、置換基を有することのある-NH-シクロアルキル基、置換基を有することのある-NH-ヘテロシクロアルキル基、置換基を有することのある-NH-アリール基、又は置換基を有することのある-NH-アルキレンアリール基であり、2つのR
3及びそれらが結合している2つの元素が一緒になって5員又は6員の複素環を形成してもよく、
R
4は、1~5のいずれかであり、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、芳香族複素環基、置換基を有することのあるアリール基であり、2つのR
4及びそれらが結合している2つの元素が一緒になって5員又は6員の複素環を形成してもよい)
で表される化合物又はその塩である、請求項1に記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤。
【請求項5】
前記Syk阻害剤が、下記式(4):
【化3】
で表される3,4-メチレンジオキシ-β-ニトロスチレン、下記式(5):
【化4】
で表される2-[[7-(3,4-ジメトキシフェニル)イミダゾ[1,2-c]ピリミジン-5-イル]アミノ]ピリジン-3-カルボキサミド、又は下記式(6):
【化5】
で表される2-[[(3R,4R)-3-アミノテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル]アミノ]-4-[(4-メチルフェニル)アミノ]-5-ピリミジンカルボキサミドである、請求項4に記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤を含む、筋力維持又は増進用組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤を含む、筋機能低下又はミトコンドリア機能低下疾患の治療、又は予防用医薬組成物。
【請求項8】
ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IIIを構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IV構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、又はCOX7RP遺伝子にFRETドナーをコードする遺伝子が結合しているドナー融合遺伝子と、前記FRETドナーをコードする遺伝子が結合する遺伝子以外の前記遺伝子にFRETアクセプターをコードする遺伝子が結合しているアクセプター融合遺伝子との組み合わせ(但し、FRETドナー及びFRETアクセプターが結合する遺伝子は、単一のミトコンドリア呼吸鎖複合体を構成するタンパク質をコードする遺伝子ではない)。
【請求項9】
請求項8に記載のドナー融合遺伝子を含むベクターと、請求項8に記載のアクセプター融合遺伝子を含むベクターとの組み合わせ。
【請求項10】
請求項8に記載の融合遺伝子の組み合わせ、又は請求項9に記載のベクターの組み合わせを含む細胞。
【請求項11】
請求項10に記載の細胞と試験物質を接触させる工程、及び
フェルスター共鳴エネルギー移動を測定する工程、
を含むミトコンドリアの超複合体の形成に関与する物質のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア超複合体の形成促進剤、筋力維持又は増進用組成物、及び筋機能低下若しくはミトコンドリア機能低下疾患の治療又は予防用医薬組成物及、並びにミトコンドリアの超複合体の形成に関与する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、ほぼ全ての真核生物の細胞に存在する細胞内小器官で、好気呼吸を行う場所であり、酸化的リン酸化により生命活動に必要なエネルギーATP)産生を主に行っている。ミトコンドリア機能の低下は、サルコペニア、ミトコンドリア病などの筋機能低下の原因となる。
一方、高齢化率が28.4%である日本の医療現場において、寿命と「健康寿命」を近づけること、すなわち高齢者が介護・医療の必要なく自立した生活ができる期間を延長することが、重要な課題となっている。高齢者介護の原因において、転倒・骨折・関節疾患・衰弱など運動器の障害は36.5%と大きな割合を占め、健康寿命を伸ばすために、ロコモティブ症候群、フレイルなどの概念が提唱されている。その中で、サルコペニア(加齢に伴う骨格筋量・筋力の低下)の予防と治療はその中核となるものである。サルコペニアの原因の1つとして、ミトコンドリア機能の低下に伴う筋肉の質の低下が考えられている。サルコペニアの予防および治療は、食事や運動への介入により行われるが、進行した際の薬物治療による有効な介入法は未だ確立されていない。このような方法が発明されれば、健康な人々や動物の健康を維持・増進するうえでも役立つものと考えられる。
また、ミトコンドリア中のタンパク質をコードする核遺伝子およびミトコンドリア遺伝子の異常に起因するミトコンドリア病では、小児期より神経組織をはじめとして全身の組織に様々な症状が生じるが、骨格筋における易疲労性や筋力低下はその主要な症状である。現時点で、ミトコンドリア病に対しては一部の病型にタウリンが用いられるのみで、その治療法は極めて限られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「エンボ・ジャーナル(EMBO Journal)」2000年(ドイツ)第19巻、p1777-1783
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、ミトコンドリアの機能に関連する疾患等の治療又は予防する薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、ミトコンドリアの機能に関連する疾患等の治療又は予防する薬剤について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、Syk阻害剤がミトコンドリアの機能を向上できる物質を見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]Syk阻害剤を有効成分として含むミトコンドリア超複合体の形成促進剤、
[2]前記Syk阻害剤が、Syk遺伝子にRNAi効果を有する二本鎖核酸である、[1]に記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤、
[3]前記二本鎖核酸が、配列番号1及び2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、又は配列番号3及び4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNAである、[2]に記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤、
[4]前記Syk阻害剤が、下記式(1):
【化1】
(式中、R
1及びR
2は独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基である)で表される化合物又はその塩、又は下記式(2)若しくは(3):
【化2】
(式中、R
3は、1~4のいずれかであり、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、置換基を有することのある-NH-シクロアルキル基、置換基を有することのある-NH-ヘテロシクロアルキル基、置換基を有することのある-NH-アリール基、又は置換基を有することのある-NH-アルキレンアリール基であり、2つのR
3及びそれらが結合している2つの元素が一緒になって5員又は6員の複素環を形成してもよく、R
4は、1~5のいずれかであり、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、芳香族複素環基、置換基を有することのあるアリール基であり、2つのR
4及びそれらが結合している2つの元素が一緒になって5員又は6員の複素環を形成してもよい)で表される化合物又はその塩である、[1]に記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤、
[5]前記Syk阻害剤が、下記式(4):
【化3】
で表される3,4-メチレンジオキシ-β-ニトロスチレン、下記式(5):
【化4】
で表される2-[[7-(3,4-ジメトキシフェニル)イミダゾ[1,2-c]ピリミジン-5-イル]アミノ]ピリジン-3-カルボキサミド、又は下記式(6):
【化5】
で表される2-[[(3R,4R)-3-アミノテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル]アミノ]-4-[(4-メチルフェニル)アミノ]-5-ピリミジンカルボキサミドである、[4]に記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤、
[6][1]~[5]のいずれかに記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤を含む、筋力維持又は増進用組成物、
[7][1]~[5]のいずれかに記載のミトコンドリア超複合体の形成促進剤を含む、ミトコンドリア機能低下疾患の治療、又は予防用医薬組成物、
[8]ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IIIを構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IV構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、又はCOX7RP遺伝子にFRETドナーをコードする遺伝子が結合しているドナー融合遺伝子と、前記FRETドナーをコードする遺伝子が結合する遺伝子以外の前記遺伝子にFRETアクセプターをコードする遺伝子が結合しているアクセプター融合遺伝子との組み合わせ(但し、FRETドナー及びFRETアクセプターが結合する遺伝子は、単一のミトコンドリア呼吸鎖複合体を構成するタンパク質をコードする遺伝子ではない)、
[9][8]に記載のドナー融合遺伝子を含むベクターと、[8]に記載のアクセプター融合遺伝子を含むベクターとの組み合わせ、
[10][8]に記載の融合遺伝子の組み合わせ、又は[9]に記載のベクターの組み合わせを含む細胞、及び
[11][10]に記載の細胞と試験物質を接触させる工程、及びフェルスター共鳴エネルギー移動を測定する工程、を含むミトコンドリアの超複合体の形成に関与する物質のスクリーニング方法、
、に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のミトコンドリア超複合体の形成促進剤によれば、筋力維持若しくは増進、又は筋機能低下若しくはミトコンドリア機能低下疾患の治療に用いることができる。また、本発明のスクリーニング方法によれば、ミトコンドリア機能の向上又は低下に関連する物質を見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】ミトコンドリアの呼吸鎖複合体I、II、III、及びIV、及び超複合体I+III2+IVn(n:1-4)を模式的に示した図(A)、超複合体I+III2+IVn(n:1-4)の構成を示した(B)、及び複合体Iのサブユニット(NDUFB8)及びAcGFPの融合タンパク質と、複合体IVのサブユニット(COX8A)及びDsRed Monomerの融合タンパク質とによるFRETの発生を模式的に示した図(C)である。
【
図2】NDUFB8(複合体I)-AcGFP、UQCR11(複合体III)-AcGFP、COX8A(複合体IV)-DsRed monomer、及びATP5F1c-DsRed monomerのプラスミドベクターをC2C12細胞に導入した蛍光顕微鏡写真(A)、NDUFB8-AcGFP及びCOX8A-DsRed monomerを共発現したC2C12細胞でのFRETの発生(B)及びAcceptor Photobleachingを示したグラフ(C)である。
【
図3】NDUFB8-AcGFPおよびCOX8A-DsRed monomerを安定発現するC2C12細胞におけるFRETの発生を固定細胞(A)、又は生細胞(B)で示した写真である。
【
図4】呼吸鎖超複合体形成促進因子として知られるCOX7RPの発現をsiRNAで抑制したC2C12細胞のFRET効率の減少を示した写真(A)、Corrected FRET(cFRET)/Donorを示したグラフ(B)、及び呼吸鎖超複合体I+III2+IVn(n:1-2)、I+III2、及びIII2+IVの形成の減少を示した電気泳動の写真(C)である。
【
図5】C2C12安定発現細胞を用いて、呼吸鎖超複合体の形成に影響する物質のスクリーニング工程を示した図(A)、スクリーニングされた1280の物質の補正値cFRET/Donorを示したグラフ(B)、得られたMNSの用量反応曲線(C)、MNS添加による呼吸鎖複合体IとIVのサブユニット蛍光融合タンパク質間のFRET効率の上昇を示した写真(D)、MNS添加による補正値cFRET/Donorの向上を示したグラフ(E)、MNS添加による呼吸鎖超複合体I+III2+IV、I+III2、III2+IVの形成の上昇を示した写真(F)、及びMNS添加による酸素消費量を示したグラフ(G)である。
【
図6】Syk阻害剤であるBAY61-3606及びGSK143の用量反応曲線(A、B)及びBAY61-3606及びGSK143添加による酸素消費量を示したグラフ(C、D)である。
【
図7】Sykに対するsiRNAを用いてC2C12細胞を処理した場合のFRET効率を示したグラフ(A)、呼吸鎖超複合体I+III2+IVn(n:1-2)、I+III2、III2+IVの形成を示した写真(B)、酸素消費量を示したグラフ(C、D)である。
【
図8】MNSをマウスに投与した場合の、体重の変化(毒性)(a)、ワイヤーハング試験(b)、トレッドミル試験(c-e)、長趾伸筋とヒラメ筋における呼吸鎖超複合体I+III2+IVn(n=1-2)、I+III2、III2+IVの形成(f)、及びCOX7RPの発現(g)を示した図である。
【
図9】BAY61-3606、又はGSK143をマウスに投与した場合の、体重の変化(毒性)(a)、ワイヤーハング試験(b)、トレッドミル試験(c-e)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]スクリーニング方法
本発明のミトコンドリアの超複合体の形成に関与する物質のスクリーニング方法は、FRETにより超複合体の形成を判定できる細胞と試験物質を接触させる工程、及びフェルスター共鳴エネルギー移動を測定する工程、を含む。
【0009】
《FRETによるミトコンドリア超複合体の形成を判定する細胞》
FRETによるミトコンドリア超複合体の形成を判定する細胞は、
(a)ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IIIを構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IV構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、又はCOX7RP遺伝子にFRETドナーをコードする遺伝子が結合しているドナー融合遺伝子と、前記FRETドナーをコードする遺伝子が結合する遺伝子以外の前記遺伝子にFRETアクセプターをコードする遺伝子が結合しているアクセプター融合遺伝子との組み合わせ(但し、FRETドナー及びFRETアクセプターが結合する遺伝子は、単一のミトコンドリア呼吸鎖複合体を構成するタンパク質をコードする遺伝子ではない)又は
(b)前記ドナー融合遺伝子を含むベクターと、前記アクセプター融合遺伝子を含むベクターとの組み合わせ、
を含む。
【0010】
《ミトコンドリア超複合体》
ミトコンドリアの呼吸鎖複合体は、複合体I、II、III、及びIVという4つの異なる複合体により構成されている。更に、これらの複合体が、複合体I、及び二量体の複合体IIIで構成されるI+III2、複合体I、二量体の複合体III、及び単量体から四量体の複合体IVで構成されるI+III2+IVn(n:1-4)、二量体の複合体III及び単量体または二量体の複合体IVで構成されるIII2+IVn(n:1-2)の3種類の超複合体を形成している。特に、複合体I、III、IVを全て含む超複合体I+III2+IVn(n:1-4)は、レスピラソームと呼ばれている(
図1A)。
前記ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iは、NDUFS7、NDUFS8、NDUFV2、NDUFS3、NDUFS2、NDUFV1、NDUFS1、ND1、ND2、ND3、ND4、ND4L、ND5、ND6、NDUFS6、NDFUA12、NDUFS4、NDUFA9、NDUFAB1、NDUFA2、NDUFA1、NDUFB3、NDUFA5、NDUFA6、NDUFA11、NDUFB11、NDUFS5、NDUFB4、NDUFA13、NDUFB8、NDUFA8、NDUFB9、NDUFA8、NDUFB9、NDUFB10、NDUFB8、NDUFC2、NDUFB2、NDUFA7、NDUFA3、NDUFA4、NDUFB5、NDUFB1、NDUFC1、NDUFA10、NDUFA4L2、NDUFV3、及びNDUFB6からなるサブユニット(タンパク質)から構成される。ミトコンドリア呼吸鎖複合体IIIは、MT-CYB、CYC1,Rieske、UQCR1、UQCR2、UQCR6、UQCR7、UQCR8、UQCR9、UQCR10、及びからなるサブユニット(タンパク質)から構成される。ミトコンドリア呼吸鎖複合体IVは、COX1、COX2、COX3、COX4I1、COX4A2、COX5A、COX5B、COX6A1、COX6A2、COX6B1、COX6B2、COX6C、COX7A1、COX7A2、COX7B、COX7C、COX8A、及びCOX8Cからなるサブユニット(タンパク質)から構成される。また、呼吸鎖複合体促進因子であるCOX7RPは、複合体I、II、III、及びIVを形成するサブユニットではないが、複合体I、III、IVに結合して、超複合体の形成を促進する。
【0011】
(ドナー融合遺伝子及びアクセプター融合遺伝子)
前記ドナー融合遺伝子は、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IIIを構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IV構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、又はCOX7RP遺伝子にFRETドナーをコードする遺伝子と、FRETドナーをコードする遺伝子とが結合している。
また、前記アクセプター融合遺伝子は、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IIIを構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IV構成する少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子、又はCOX7RP遺伝子にFRETドナーをコードする遺伝子と、FRETアクセプターをコードする遺伝子とが結合している。
ここで、FRETドナーをコードする遺伝子が結合する遺伝子と、FRETアクセプターをコードする遺伝子が結合する遺伝子とは、異なる遺伝子である。また、FRETドナーをコードする遺伝子が結合する遺伝子と、FRETアクセプターをコードする遺伝子が結合する遺伝子は、異なるミトコンドリア呼吸鎖複合体を構成するタンパク質(サブユニット)をコードする遺伝子である。
具体的には、FRETドナーをコードする遺伝子が結合する遺伝子が複合体Iを構成するタンパク質をコードする遺伝子である場合、FRETアクセプターをコードする遺伝子が結合する遺伝子は、複合体III又は複合体IVを構成するタンパク質をコードする遺伝子又はCOX7RPをコードする遺伝子である。FRETドナーをコードする遺伝子が結合する遺伝子が複合体IIIを構成するタンパク質をコードする遺伝子である場合、FRETアクセプターをコードする遺伝子が結合する遺伝子は、複合体I又は複合体IVを構成するタンパク質をコードする遺伝子又はCOX7RPをコードする遺伝子である。FRETドナーをコードする遺伝子が結合する遺伝子が複合体IVを構成するタンパク質をコードする遺伝子である場合、FRETアクセプターをコードする遺伝子が結合する遺伝子は、複合体I又は複合体IIIを構成するタンパク質をコードする遺伝子又はCOX7RPをコードする遺伝子である。FRETドナーをコードする遺伝子が結合する遺伝子がCOX7RPをコードする遺伝子である場合、FRETアクセプターをコードする遺伝子が結合する遺伝子は、複合体I、複合体III、又は複合体IVを構成するタンパク質をコードする遺伝子である。
すなわち、異なる複合体を構成するタンパク質とのFRETドナー融合タンパク質、FRETアクセプター融合タンパク質とが細胞内で発現することにより、フェルスター共鳴エネルギー移動によって、ミトコンドリア超複合体の形成を測定することができる。
【0012】
前記のFRETドナー融合遺伝子及びFRETアクセプター融合遺伝子の組み合わせによって、I+III2の超複合体、I+III2+IVn(n:1-4)の超複合体、又はIII2+IVn(n:1-2)の超複合体の形成を測定することができる。I+III2の超複合体を測定する場合は、FRETドナーをコードする遺伝子が、複合体I、又は複合体IIIを構成するタンパク質をコードする遺伝子と融合し、FRETアクセプターをコードする遺伝子が、もう一方の複合体を構成するタンパク質をコードする遺伝子と融合することが好ましい。III2+IVn(n:1-2)の超複合体を測定する場合は、FRETドナーをコードする遺伝子が、複合体III、又は複合体IVを構成するタンパク質をコードする遺伝子と融合し、FRETアクセプターをコードする遺伝子が、もう一方の複合体を構成するタンパク質をコードする遺伝子と融合することが好ましい。I+III2+IVn(n:1-4)の超複合体を測定する場合は、FRETドナーをコードする遺伝子が、複合体I、III、又は複合体IVを構成するタンパク質をコードする遺伝子と融合し、FRETアクセプターをコードする遺伝子が、他の複合体を構成するタンパク質をコードする遺伝子と融合することが好ましい。また、FRETドナーをコードする遺伝子又はFRETアクセプターをコードする遺伝子の一方がCOX7XRタンパク質をコードする遺伝子と融合し、他方がいずれかの複合体を構成するタンパク質をコードする遺伝子と融合しても、超複合体を検出することができる。
【0013】
(フェルスター共鳴エネルギー移動)
前記フェルスター共鳴エネルギー移動(Forster Resonance Energy Transfer:FRET)は、電子励起状態の異なる2種以上の分子間の相互作用であり、一方の分子(ドナー分子)が外部の光源による励起の後、他方の分子(アクセプター分子)にそのエネルギーが転移される現象である。フェルスター共鳴エネルギー移動には、ドナー分子及びアクセプター分子として蛍光分子を用いる蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer)、及びドナー分子及びアクセプター分子としてそれぞれ生物発光分子及び蛍光分子を用いる生物発光共鳴エネルギー移動(Bioluminescence Resonance Energy Transfer:以下BRETと称することがある)が含まれる。
【0014】
前記ドナー遺伝子及びアクセプター遺伝子から翻訳させるタンパク質は、ドナー分子及びアクセプター分子である。前記ドナー分子とアクセプター分子は互いに異なる分子が用いられる。この場合、FRETは、例えばアクセプターの増感蛍光の出現によって、又はドナー分子からの蛍光消光によって検出される。また、FRETを達成するためには、ドナー分子は、光を吸収するとともにアクセプター分子に対して励起された電子の共鳴を通じて転移させることのできる分子であることが必要である。更に、FRETを生じさせるために、ドナー分子の蛍光発光波長は、アクセプター分子の励起波長であることが必要である。ドナー分子としては蛍光化合物、蛍光タンパク質又は生物発光タンパク質を用いることができ、アクセプター分子としては蛍光化合物、又は蛍光タンパク質を用いることができる。すなわち、ドナー分子及びアクセプター分子の組み合わせとしては、蛍光化合物及び蛍光化合物、蛍光化合物及び蛍光タンパク質、蛍光タンパク質及び蛍光化合物、蛍光タンパク質及び蛍光タンパク質、生物発光タンパク質及び蛍光化合物、又は生物発光タンパク質及び蛍光タンパク質の組み合わせを用いることができる。
【0015】
(蛍光化合物)
蛍光化合物としては、例えばカルボキシフルオレセイン、6-(フルオレセイン)-5,6-カルボキサミドヘキサン酸又はフルオレセインイソチオシアネート等のフルオレセイン、Alexa Fluor 488又はAlexa Fluor 594等のAlexa Fluor色素、Cy2、Cy3、Cy5又はCy7などのシアニン色素、クマリン、R-フィコエリトリン、アロフィコエリトリン、XL665などの修飾アロフィコシアニン、テキサスレッド、プリンストンレッド、フィコビリプロテイン、ユーロピウムクリプテート、XL665、アビジン、ストレプトアビジン、ローダミン、エオシン、エリスロシン、ナフタレン、ピレン、ピリジルオキサゾール、ベンゾオキサジアゾール及びスルホインドシアニン、それらの誘導体又はそれらの複合体等を挙げることができる。本発明においては、これらに代表されるドナー分子とアクセプター分子の中からFRETを可能とする上記の要件を満たす組合せを選択して使用することができる。
【0016】
本発明で使用される前記蛍光化合物の適当な組合せの例としては、ローダミンBスルホニルクロリド及びフルオレセインマレイミド、N-ヨードアセチル-N’-(5-スルホ-1-ナフチル)エチル-エンジアミン(1,5-IAEDANS)又はヨードアセトアミドとスシンイミジル6-(N-(7-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ)ヘキサノエート(NBD-X,SE)、(ジエチルアミノ)クマリン(DEAC)又はN-メチル-アントラニロイルデオキシグアニンヌクレオチド(例えばMantdGDP又はMantdGTP)とsNBD(スクシンイミジル6-[(7-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]ヘキサノエート)などを挙げることができる。
【0017】
(ベクター)
本発明のドナー融合遺伝子を含むベクターと、アクセプター融合遺伝子を含むベクターとの組み合わせにおいて用いられるベクターは、宿主細胞において複製可能である限り、プラスミド、ファージ、又はウイルス等のいかなるベクターも用いることができる。例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pKC30、pCFM536等の大腸菌プラスミド、pUB110等の枯草菌プラスミド、pG-1、YEp13、YCp50等の酵母プラスミド、λgt110、λZAPII等のファージのDNA等が挙げられ、哺乳類細胞用のベクターとしては、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス等のウイルスDNA、SV40とその誘導体等が挙げられる。ベクターは、複製開始点、選択マーカー、プロモーターを含み、必要に応じてエンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。
【0018】
(細胞)
本発明の細胞は、細胞内に含まれる前記ドナー融合遺伝子及びアクセプター融合遺伝子を発現できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、ドナーと結合しているタンパク質、及びアクセプターと結合しているタンパク質以外のミトコンドリア複合体を形成するタンパク質を発現している細胞である。真菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳動物細胞等を用いることができるが、超複合体の形成に関与する物質のスクリーニングを実施する観点からは、哺乳動物細胞が好ましい。
哺乳動物細胞としては、例えば、ヒト由来細胞株(RD細胞など)、又はマウス由来細胞株(C2C12細胞など)が挙げられる。これらの細胞に前記ベクター、又は融合遺伝子を導入することによって、本発明の細胞を得ることができる。
【0019】
《接触工程(1)》
本発明のスクリーング方法における接触工程(1)は、本発明の細胞と試験物質を接触させる工程である。
試験物質は、特に限定されるものではないが、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(Terrett,N.K.ら,Tetrahedron,51,8135-8137,1995)によって得られた化合物群、あるいは、ファージ・ディスプレイ法(Felici,F.ら,J.Mol.Biol.,222,301-310,1991)などを応用して作成されたランダム・ペプチド群、又は低分子化合物を用いることができる。また、微生物の培養上清、細胞の培養上清、生体内の体液、植物若しくは海洋生物由来の天然成分、又は動物組織抽出物などもスクリーニングの試験物質として用いることができる。
【0020】
接触工程における細胞と試験物質との接触のタイミング、すなわち、試験物質の添加の時期は、特に限定されるものではない。また、試験物質の濃度も、適宜決定することができるが、試験物質の最適濃度があると考えられるため、何段階かに希釈して試験することが好ましい。接触工程における培地は、用いる細胞によって適宜選択することができる。
【0021】
《FRET測定工程(2)》
(2)フェルスター共鳴エネルギー移動を測定する工程
前記FRETを測定する工程においては、フェルスター共鳴エネルギー移動の発生を、前記アクセプターの蛍光発光の増強、又はドナー分子からの蛍光消光によって検出することができる。FRETの発生を検出及び/又は測定することによって、ミトコンドリアの超複合体の形成を検出及び/又は測定することができる。
【0022】
[2]ミトコンドリア超複合体の形成促進剤
本発明のミトコンドリア超複合体の形成促進剤は、Syk(spleen associated tyrosine kinase)阻害剤を有効成分として含む。
Syk阻害剤は、Sykの活性を抑制及び/又は阻害する限りにおいて特に限定されるものではないが、例えばRNAi効果を有する二本鎖核酸、抗Syk抗体、又はSyk阻害化合物などが挙げられる。Sykの活性の抑制又は阻害とは、具体的には、例えばSykのmRNAの発現の抑制、Sykのタンパク質の発現の抑制、Sykのタンパク質の機能の抑制又は阻害などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
《RNAi効果を有する二本鎖核酸》
前記二本鎖核酸は、Syk遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖核酸であって、例えば配列番号17のヒトSyK標的配列又は配列番号18のマウスSyK標的配列に対応する塩基配列を含むセンス鎖と、前記センス鎖に相補的な塩基配列を含むアンチセンス鎖とを含むことを特徴とする。なお、本明細書において「二本鎖核酸」とは、所望のセンス鎖とアンチセンス鎖とがハイブリダイズしてなる二本鎖核酸領域を含む核酸分子を意味し、siRNA(small interfering RNA)であることが好ましい。
【0024】
本発明の二本鎖核酸は、配列番号17又は18の標的配列に対応する塩基配列を含むセンス鎖と、前記センス鎖に相補的な塩基配列を含むアンチセンス鎖とを含む。ここで、「標的配列に対応する塩基配列」とは、標的配列と同一の塩基配列であるか、あるいは、前記標的配列において1若しくは数個(例えば、2~3個)の塩基が置換された塩基配列を意味する。二本鎖核酸がsiRNAである場合、1~数塩基のミスマッチを含んでいても、RNAi効果が得られることが知られている。本発明では、標的配列と同一の塩基配列だけでなく、RNAi効果が得られる限り、ミスマッチを含む塩基配列であってもよい。
【0025】
また、アンチセンス鎖における「センス鎖に相補的な塩基配列」とは、センス鎖とハイブリダイズすることができる程度に相補的な塩基配列であればよく、センス鎖に完全に相補的な塩基配列であるか、あるいは、前記センス鎖に完全に相補的な塩基配列において1若しくは数個(例えば、2~3個)の塩基が置換された塩基配列であることができる。
【0026】
(核酸の種類と修飾)
二本鎖核酸を構成する核酸の種類は、特に限定されるものではなく、適宜選択することができ、例えば、二本鎖RNA、DNA-RNAキメラ型二本鎖核酸を挙げることができる。キメラ型はRNAi効果を有する二本鎖RNAの一部をDNAに換えたものであり、血清中での安定性が高く、免疫応答誘導性が低いことが知られている。
また、二本鎖核酸は、例えば、2’-OH基の修飾、バックボーンのホスホロチオエートによる置換やボラノホスフェート基による修飾、リボースの2位と4位が架橋されたLNA(locked nucleic acid)の導入などによって、ヌクレアーゼに対する耐性や安定化を高めることもできる。あるいは、細胞への導入効率を高める等の目的から、二本鎖核酸のセンス鎖の5’端、或いは3’端に、例えば、ナノ粒子、コレステロール、細胞膜通過ペプチド等の修飾を施すこともできる。
【0027】
(siRNA)
本発明の二本鎖RNAは、siRNA(キメラ型を含む)であることが好ましい。ここで、「siRNA」とは、18塩基長~29塩基長(好ましくは21~23塩基長)の小分子二本鎖RNAであり、前記siRNAのアンチセンス鎖(ガイド鎖)と相補的な配列をもつ標的遺伝子のmRNAを切断し、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する。すなわちsiRNAは、RNA干渉(RNAi)により、メッセンジャーRNA(mRNA)を破壊し、配列特異的に遺伝子の発現を抑制することができる。siRNAの塩基配列は、SykのmRNAの塩基配列(配列番号17又は18のRNAに対応する塩基配列)から、適宜設計することができる。前記siRNAは、先述したようなセンス鎖及びアンチセンス鎖を含み、かつ所望のRNAi効果を示すものであれば、その末端構造に特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、前記siRNAは、平滑末端を有するものであってもよいし、突出末端(オーバーハング)を有するものであってもよい。中でも、前記siRNAは、各鎖の3’末端が2塩基~6塩基突出した構造を有することが好ましく、各鎖の3’末端が2塩基突出した構造を有することがより好ましい。また、SykのmRNAの塩基配列から作製されたsiRNAであれば、効果の多寡があっても、ミトコンドリア超複合体の形成促進剤、又は筋機能低下又はミトコンドリア機能低下疾患の治療、又は予防用医薬組成物の有効成分として用いることができる。
【0028】
本発明のsiRNAとしては、表1に示すように、例えば、配列番号5(23塩基)を標的配列とする配列番号1(21塩基)のセンス鎖と配列番号2(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(後述する実施例におけるsiSyk#1)、配列番号6(23塩基)を標的配列とする配列番号3(21塩基)のセンス鎖と配列番号4(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(同siSyk#2)を挙げることができる。
【0029】
【表1】
(標的配列)
#1:UCAAUGAAUUCAACAUACAGGGA(4090-4112)(配列番号5)
#2:AAUUAAUCUUGACAGUAAGACAC(4519-4541)(配列番号6)
【0030】
(製造方法)
本発明の二本鎖RNA(特にはsiRNA)は、従来公知の手法に基づき作製することができる。
例えば、所望のセンス鎖とアンチセンス鎖とに相当する18塩基長~29塩基長の一本鎖RNAを、それぞれ既存のDNA/RNA自動合成装置等を利用して化学的に合成し、それらをアニーリングすることにより作製することができる。また、後述する本発明のベクターのような、所望のsiRNA発現ベクターを構築し、前記発現ベクターを細胞内に導入することにより、細胞内の反応を利用してsiRNAを作製することもできる。
【0031】
前記ベクターに含まれるDNAは、前記二本鎖核酸をコードする塩基配列の上流(5’側)に、前記二本鎖核酸の転写を制御するためのプロモーター配列が連結されていることが好ましい。前記プロモーター配列としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、CMVプロモーター等のpol II系プロモーター、H1プロモーター、U6プロモーター等のpol III系プロモーターなどが挙げられる。更に、前記二本鎖核酸をコードする塩基配列の下流(3’側)に、前記二本鎖核酸の転写を終結させるためのターミネーター配列が連結されていることがより好ましい。前記ターミネーター配列としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
前記ベクターとしては、前記DNAを含むものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどが挙げられる。前記ベクターは、前記二本鎖核酸(特にsiRNA)を発現可能な発現ベクターであることが好ましい。
前記二本鎖核酸の発現様式としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば二本鎖核酸としてsiRNAを発現させる方法として、短い一本鎖RNAを二本発現させる方法(タンデム型)、shRNA(short hairpin RNA)として一本鎖RNAを発現させる方法(ヘアピン型)等が挙げられる。ここで、shRNAとは、18塩基~29塩基程度のdsRNA領域と3塩基~9塩基程度のloop領域を含む一本鎖RNAであるが、shRNAは、生体内で発現されることにより、塩基対を形成してヘアピン状の二本鎖RNAとなる。その後、shRNAはDicer(RNase III酵素)により切断されてsiRNAとなり、標的遺伝子の発現抑制に機能することができる。
【0033】
前記タンデム型siRNA発現ベクターは、前記siRNAを構成するセンス鎖をコードするDNA配列と、アンチセンス鎖をコードするDNA配列とを含み、かつ、各鎖をコードするDNA配列の上流(5’側)にプロモーター配列がそれぞれ連結され、また、各鎖をコードするDNA配列の下流(3’側)にターミネーター配列がそれぞれ連結されたDNAを含む。
【0034】
また、前記ヘアピン型siRNA発現ベクターは、前記siRNAを構成するセンス鎖をコードするDNA配列と、アンチセンス鎖をコードするDNA配列とが逆向きに配置され、前記センス鎖DNA配列とアンチセンス鎖DNA配列とがループ配列を介して接続されており、かつ、それらの上流(5’側)にプロモーター配列が、また、下流(3’側)にターミネーター配列が連結されたDNAを含む。
【0035】
《Syk阻害化合物》
前記Syk阻害剤は、Sykの発現又は機能の抑制ができる限りにおいて、特に限定されるものではないが、下記式(1):
【化6】
(式中、R
1及びR
2は独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基である)で表される化合物(以下、化合物Aと称することがある)又はその塩、又は下記式(2)若しくは(3):
【化7】
(式中、R
3は、1~4のいずれかであり、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、置換基を有することのある-NH-シクロアルキル基、置換基を有することのある-NH-ヘテロシクロアルキル基、置換基を有することのある-NH-アリール基、又は置換基を有することのある-NH-アルキレンアリール基であり、2つのR
3及びそれらが結合している2つの元素が一緒になって5員又は6員の複素環を形成してもよく、
R
4は、1~5のいずれかであり、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、芳香族複素環基、置換基を有することのあるアリール基であり、2つのR
4及びそれらが結合している2つの元素が一緒になって5員又は6員の複素環を形成してもよい)で表される化合物(以下、化合物Bと称することがある)が挙げられる。
【0036】
炭素数1~6アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、第三級ペンチル基、ノルマルへキシル基、及びイソへキシル基が挙げられる。炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0037】
炭素数1~6のアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロポキシ基、イソプロポキシ基、ノルマルブトキシ基、イソブトキシ基、第二級ブトキシ基、第三級ブトキシ基、ノルマルペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、ノルマルヘキシルオキシ基、又はイソヘキシルオキシ基が挙げられる。炭素数1~3のアルコキシ基が好ましい。
【0038】
置換基を有することのある-NH-シクロアルキル基は、二級アミンの1つの置換基がシクロアルキル基である基を意味する。シクロアルキル基としては、好ましくは炭素数3~8のシクロアルキル基であり、より好ましくは炭素数5~7のシクロアルキル基である。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、又はシクロオクチル基が挙げられる。置換基としては、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、アミノ基、水酸基、カルボキシ基、C3-8シクロアルキル基、C2-6アルキニル基、酸素原子及びカルボニル基を有する飽和又は不飽和のC1-6炭化水素基が挙げられる。
【0039】
置換基を有することのある-NH-ヘテロシクロアルキル基は、二級アミンの1つの置換基がヘテロシクロアルキル基である基を意味する。ヘテロシクロアルキル基としては、好ましくは炭素数3~8のヘテロシクロアルキル基であり、より好ましくは炭素数5~7のヘテロシクロアルキル基である。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子、が挙げられるが、酸素原子が好ましい。具体的なヘテロシクロアルキル基としては、ピロリジン、ピペリジン、ピラゾリジン、イミダゾリジン、ピペラジン(1,2-、1,3-および1,4-異性体)、オキサゾリジン、イソオキサゾリジン、チアゾリジン、イソチアゾリジン、モルホリンまたはチオモルホリンが挙げられる。酸素原子を含むヘテロシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、又はシクロオクチル基の1~2の炭素原子が酸素原子に置換された基が挙げられる。置換基としては、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、アミノ基、水酸基、カルボキシ基、C3-8シクロアルキル基、C2-6アルキニル基、酸素原子及びカルボニル基を有する飽和又は不飽和のC1-6炭化水素基が挙げられる。
【0040】
置換基を有することのある-NH-アリール基は、二級アミンの1つの置換基がシクロアルキル基である基を意味する。アリール基としては、好ましくは炭素原子数6~10のアリール基が挙げられる。具体的には、フェニル基又はナフチル基が挙げられ、フェニル基が好ましい。置換基としては、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、アミノ基、水酸基、カルボキシ基、C3-8シクロアルキル基、C2-6アルキニル基、酸素原子及びカルボニル基を有する飽和又は不飽和のC1-6炭化水素基が挙げられる。
【0041】
置換基を有することのある-NH-アルキレンアリール基は、二級アミンの1つの置換基がアルキレンアリール基である基を意味する。アルキレンアリール基は、アリール基の1つの炭素原子に、炭素数1~6のアルキレン基が結合したものが好ましく、炭素数1~3のアルキレン基が結合したものがより好ましい。アリール基は、前記-NH-アリール基におけるアリール基が挙げられる。置換基としては、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、アミノ基、水酸基、カルボキシ基、C3-8シクロアルキル基、C2-6アルキニル基、酸素原子及びカルボニル基を有する飽和又は不飽和のC1-6炭化水素基が挙げられる。
【0042】
芳香族複素環基としては、好ましくは5~8員環の芳香族複素環基又はその縮合環基であり、ヘテロ原子を環内に含む芳香族複素環又はその縮合環から水素原子1個を除いた基を意味する。ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子、又はヒ素原子が挙げられる。具体的な芳香族複素環基又はその縮合環としては、トリアゾール基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基、インドレニル基、イミダゾリル基、カルバゾリル基、チエニル基、又はフリル基が挙げられる。
【0043】
置換基を有することのあるアリール基としては、好ましくは炭素原子数6~10のアリール基が挙げられる。具体的には、フェニル基又はナフチル基が挙げられ、フェニル基が好ましい。置換基としては、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、アミノ基、水酸基、カルボキシ基、C3-8シクロアルキル基、C2-6アルキニル基、酸素原子及びカルボニル基を有する飽和又は不飽和のC1-6炭化水素基が挙げられる。
【0044】
2つのR3及びそれらが結合している2つの元素が一緒になって5員又は6員の複素環としては、トリアゾール、ピリジル、ピラジル、ピリミジル、キノリル、イソキノリル、ピロリル、インドレニル、イミダゾリル、カルバゾリル、チエニ基、又はフリルが挙げられる。
【0045】
化合物Aは、ニトロスチレンの誘導体である。ニトロスチレンの誘導体は、様々な方法で合成可能である。また、化合物Bはピリジン又はピリミジンの誘導体である。ピリジン又はピリミジン及びその誘導体も様々な方法で合成可能である。また、これらの化合物は、市販されているものを購入することもできる。
【0046】
化合物Aは限定されるものではないが、下記式(4):
【化8】
で表される化合物(3,4-メチレンジオキシ-β-ニトロスチレン;MNS)が挙げられる。また、化合物Bは限定されるものではないが、下記式(5):
【化9】
で表される化合物(2-[[7-(3,4-ジメトキシフェニル)イミダゾ[1,2-c]ピリミジン-5-イル]アミノ]ピリジン-3-カルボキサミド)(BAY61-3606)、下記式(6):
【化10】
で表される化合物(2-[[(3R,4R)-3-アミノテトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル]アミノ]-4-[(4-メチルフェニル)アミノ]-5-ピリミジンカルボキサミド)(GSK143)、及び下記式(7)~(11):
【化11】
で表される化合物が挙げられる。
【0047】
前記化合物A及び化合物Bの塩は、製薬学的に許容される塩であり、置換基の種類によって、酸付加塩又は塩基との塩を形成する場合がある。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リシン、オルニチン等の有機塩基との塩、アセチルロイシン等の各種アミノ酸及びアミノ酸誘導体との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
【0048】
更に、本発明に用いられる有効成分は、化合物A又は化合物B、並びにその塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質も包含する。また、本発明は、種々の放射性又は非放射性同位体でラベルされた化合物も包含する。
【0049】
《筋力維持又は増進用組成物》
本発明の筋力維持又は増進用組成物は、前記ミトコンドリア超複合体の形成促進剤を有効成分として含む。ミトコンドリア超複合体の形成を促進することにより、筋力を維持又は筋力を増進することができる。
【0050】
《医薬組成物》
本発明のミトコンドリア機能低下疾患の治療、又は予防用医薬組成物は、前記ミトコンドリア超複合体の形成促進剤を有効成分として含む。ミトコンドリア超複合体の形成を促進することにより、筋機能低下疾患又はミトコンドリア機能低下疾患を治療又は予防することができる。筋機能低下疾患としては、サルコペニア・フレイル・ミトコンドリア病・加齢性疾患などが挙げられる。
【0051】
前記化合物A若しくは化合物B、又はその塩の1種又は2種以上を有効成分として含有する組成物又は医薬組成物は、当分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用されている方法によって調製することができる。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
【0052】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分を、少なくとも1種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、及び/又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等のような崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はエタノールを含む。当該液体組成物は不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0053】
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、更に等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。
【0054】
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ローション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はローション基剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、白色ワセリン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール、セスキオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0055】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0056】
投与量は病気の種類、症状、年齢、性別など個々の患者によって異なるが、通常、経口投与の場合、成人1日あたり0.001mg/kg~500mg/kg程度であり、これを1回、あるいは2回から4回に分けて投与する。注射で投与する場合は、成人1日あたり0.0001mg/kg~10mg/kg程度を1回乃至2回、急速静注するかあるいは点滴静注する。吸入の場合は成人1日あたり0.0001mg/kg~10mg/kg程度を1回、又は複数回投与する。経皮剤の場合は成人1日あたり0.01mg/kg~10mg/kg程度を1日1回乃至2回貼付する。
【0057】
化合物A若しくは化合物B、又はその塩は、前記化合物A若しくは化合物B、又はその塩が有効性を示すと考えられる疾患の種々の治療剤又は予防剤と併用することができる。当該併用は、同時投与、或いは別個に連続して、若しくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。同時投与製剤は、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
【0058】
《ミトコンドリア機能低下疾患の治療方法》
前記化合物A又は化合物Bをミトコンドリア機能低下疾患の治療方法に用いることができる。すなわち、本明細書は、前記式(1)で表される化合物若しくはその塩、又は前記式(2)若しくは(3)で表される化合物若しくはその塩、の治療有効量をミトコンドリア機能低下疾患に投与する工程を含む、ミトコンドリア機能低下疾患の治療方法を開示する。
【0059】
《ミトコンドリア機能低下疾患の治療方法における使用のための化合物A又は化合物B》
前記化合物A又は化合物Bは、ミトコンドリア機能低下疾患の治療方法に使用することができる。すなわち、ミトコンドリア機能低下疾患の治療方法に使用するための、前記式(1)で表される化合物若しくはその塩、又は前記式(2)若しくは(3)で表される化合物若しくはその塩を開示する。
【0060】
《化合物A又は化合物Bの医薬組成物の製造への使用》
前記化合物A又は化合物Bは、ミトコンドリア機能低下疾患の治療又は予防用医薬組成物の製造へ使用することができる。すなわち、本明細書は、前記式(1)で表される化合物若しくはその塩、又は前記式(2)若しくは(3)で表される化合物若しくはその塩の、ミトコンドリア機能低下疾患の治療又は予防用医薬組成物の製造への使用を開示する。
【0061】
《作用》
化合物A又は化合物Bがミトコンドリア機能低下疾患の治療に有効であるメカニズムは、詳細に解析されているわけではないが、以下のように推定することができる。化合物A及びBはSyk阻害剤であるが、Sykを阻害することが、直接又は間接にミトコンドリアの呼吸鎖の超複合体の形成を促進していると推定される。そしてミトコンドリアの呼吸鎖の超複合体の形成が、筋肉の機能を向上させることによって、ミトコンドリア機能低下疾患の治療又は予防に効果が得られると推定される。
【実施例0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0063】
《実施例1》
本実施例では、複合体I、III、及びIVを構成するサブユニットを蛍光標識した。
呼吸鎖複合体IはNADH-ubiquinone oxidoreductase subunit B8(NDUFB8)、呼吸鎖複合体IIIはUbiquinol-cytochrome c reductase, 6.4 kDa subunit(UQCR11)、呼吸鎖複合体IVはCytochrome c oxidase subunit 8A(COX8A)標識した。また、コントロールとして呼吸鎖超複合体に関与しないATP合成酵素のサブユニットATP synthase F1 subunit gamma(ATP5F1c)を標識した。UQCR11、COX8A、ATP5F1cの発現ベクターは東京都健康長寿医療センター研究所・大澤研究室より分与を受けた。NDUFB8については以下のプライマーを用いて、ヒト乳がん細胞株MCF-7のcDNAよりクローニングした。
NDUFB8 Forward: 5’-CCCGAGCTCGCCATGGGCGCGGTGGCCAGGGCC-3’(配列番号7)
NDUFB8 Reverse: 5’-GGGGTACCCCGATCTCATAGTGAACCACCCGC-3’(配列番号8)
NDUFB8(複合体I)、及びUQCR11(複合体III)はAcGFPによって蛍光標識したプラスミドベクターを作製した。COX8A(複合体IV)及びATP5F1cはDsRed monomerによって蛍光標識したプラスミドベクターを作製した。AcGFP及びDsRed monomerによるFRET発生の機構を
図1Cに示す。
【0064】
作製したプラスミドベクターを、それぞれC2C12細胞株に、FuGENE HD(Promega, Madison, WI, USA)を用いて、トランスフェクションした。一過性に発現した細胞を、蛍光顕微鏡にて発現および局在を確認した。プラスミドが導入された細胞においてAcGFPおよびDsRed monomerの蛍光が観察され、その細胞内局在はMito Trackerと共局在していたことから(
図2A)、目的の融合タンパク質が正しく発現していると考えられた。
また、呼吸鎖複合体IのサブユニットNDUFB8をAcGFPで標識したタンパク質と呼吸鎖複合体IVのサブユニットCOX8AをDsRed monomerで標識したタンパク質を共発現させ、AcGFPの励起波長により、DsRed monomerの蛍光が検出され、FRET efficiencyの算出が可能であった(
図2B)。従って、前記融合タンパク質の近接をFRETシグナルとして検出できていると考えられた。
更に、上記で検出したシグナルがFRET現象を反映しているか検証するためにAcceptor Photobleachingを行った。画像内に、9か所のROI(Region of interest)を設定し、蛍光強度を記録した。これらのROIに対して、DsRed monomerの励起波長(558nm)において最大出力で3分間照射した。照射終了後すぐに、再びAcGFPの励起波長(488nm)で励起したAcGFPの蛍光画像(Em:493-553nm)とDsRed monomerの励起波長(558nm)で励起したDsRed monomerの蛍光画像(Em:566-610nm)を取得し、Photobleaching後の画像として保存しROIの蛍光強度を測定し記録した。Photobleaching前と比較してPhotobleaching後ではROIにおけるDsRed monomerの蛍光強度は著明に低下し、同時にAcGFPの蛍光強度は上昇した(
図2C)。従って、上記の蛍光融合タンパク質間でFRET現象が起きていたことが確認された。
【0065】
安定発現細胞における呼吸鎖複合体サブユニット間のFRETシグナルを、NDUFB8-AcGFPおよびCOX8A-DsRed monomerを共に安定発現するC2C12細胞とUQCR11-AcGFPおよびATP5F1c-DsRed monomerを共に安定発現するC2C12細胞を用いて行った。4%パラフォルムアルデヒドで固定した細胞(
図3A)、及び生細胞(
図3B)のいずれの場合も、呼吸鎖複合体IのサブユニットNDUFB8と呼吸鎖複合体IVのサブユニットCOX8Aの組み合わせでドナーの励起時にアクセプターのemission波長のシグナルが検出された。一方で、呼吸鎖複合体IIIのサブユニットUQCR11とATP合成酵素のサブユニットATP5F1cの組み合わせでは、ドナーの励起時にアクセプターのemission波長のシグナルは検出されなかった。このことにより、AcGFP励起時のDsRed monomerの蛍光の検出が、ミトコンドリア呼吸鎖超複合体形成を反映していることが示された。
【0066】
《実施例2》
本実施例では、呼吸鎖超複合体形成促進因子として知られるCOX7RPの発現を抑制し、実施例1で得られたFRETシグナルが変化するかを測定した。
C2C12細胞を6well plateまたは96well plateに培養する際に、2種のsiRNA(#1及び#2)、および2種の陰性コントロール(siControl#1及び#2)を10nMの濃度にて、Lipofectamine RNAiMAX transfection reagent(Invitrogen)を用いてreverseトランスフェクション法により導入した。siRNAの配列は以下のとおりである。
siCox7rp #1
Sense: 5’-CUGUGGCUUUACGUUAUGAUU-3’(配列番号9)
Anti-sense: 5’-UCAUAACGUAAAGCCACAGCA-3’(配列番号10)
siCox7rp #2
Sense: 5’-GGCUUUACGUUAUGAUUGACC-3’(配列番号11)
Anti-sense: 5’-UCAAUCAUAACGUAAAGCCAC-3’(配列番号12)
siControl #1
Sense: 5’-GUGGAUUUCGAGUCGUCUUAA-3’(配列番号13)
Anti-sense: 5’-AAGACGACUCGAAAUCCACAU-3’(配列番号14)
siControl #2
Sense: 5’-GUACCGCACGUCAUUCGUAUC-3’(配列番号15)
Anti-sense: 5’-UACGAAUGACGUGCGGUACGU-3’(配列番号16)
Cox7rpの発現を抑制するsiRNAを用いて、NDUFB8-AcGFPとCOX8A-DsRed monomerが共発現している安定発現細胞内のCOX7RP発現抑制時におけるFRETシグナルを評価した。siControlと比較してsiCox7rp処理時ではFRET効率が減少した(
図4A)。また、siControlと比較してsiCox7rp処理時では1分子あたりのFRET効率を表すCorrected FRET(cFRET)/Donorは有意に減少した(
図4B)。同様のsiRNAを用いてCox7rpの発現を抑制したC2C12細胞より抽出したミトコンドリア分画を用いてBN-PAGEによる呼吸鎖超複合体形成の比較を行った。siControlと比較してsiCox7rp処理時では呼吸鎖超複合体I+III2+IVn(n:1-2)、I+III2、III2+IVの形成が低下した(
図4C)。これらの結果より、FRETシグナルは呼吸鎖超複合体の形成を反映していることが示された。
【0067】
《実施例3》
本実施例では、呼吸鎖超複合体形成を促進させる化合物を特定するためにLibrary of Pharmacologically Active Compounds(LOPAC 1280)の1280化合物から生細胞のFRETとBN-PAGEを組み合わせて3段階でスクリーニングを行った(
図5A)。
Primaryスクリーニングでは、本研究で樹立したNDUFB8-AcGFPとCOX8A-DsRed monomerが共発現しているC2C12安定発現細胞を用いて、各1280化合物を40μM添加した生細胞の補正値cFRET/Donorを計測した(
図5B)。Secondaryクリーニングでは、各化合物を40、20、10、2.5、0.6μMで添加し、cFRET/Donorを計測した。低濃度においても溶媒添加条件下と比較してcFRET/Donorが上昇した4化合物を添加したC2C12細胞それぞれより抽出したミトコンドリア分画を用いてBN-PAGEによる呼吸鎖超複合体形成の比較を行った。このスクリーニングによりSyk/Src阻害剤であるMNS(3,4-メチレンジオキシ-β-ニトロスチレン)及び天然化合物のBeta-lapachoneがスクリーニングされた。Beta-lapachoneは、既にミトコンドリア機能を向上させることが報告されている。
MNSをC2C12の安定発現細胞に低濃度から高濃度まで段階的に添加し、補正値cFRET/Donorを計測した。この値を元に、用量反応曲線を作成し、50%効果濃度(EC50)は0.574μMであると推定された(
図5C)。この濃度は、Syk阻害剤の効果が得られる濃度である。以下の実験は1μM添加条件下のC2C12細胞で呼吸鎖超複合体の評価を行った。
MNSに関して、実施例1で得られたNDUFB8-AcGFPとCOX8A-DsRed monomerが共発現しているC2C12安定発現細胞を利用したFRETシグナルの定性評価を行った。溶媒であるDMSO添加条件下と比較してMNS添加条件下では呼吸鎖複合体IとIVのサブユニット蛍光融合タンパク質間のFRET効率が上昇した(
図5D)。補正値cFRET/Donorについても、DMSO添加条件下と比較してMNS添加条件下では優位に上昇した(
図5E)。また、C2C12細胞より抽出したミトコンドリア分画を用いてBN-PAGEによる呼吸鎖超複合体形成の比較を行った。DMSO添加条件下と比較してMNS添加条件下では呼吸鎖超複合体I+III2+IV、I+III2、III2+IVの形成が上昇した(
図5F)。XFp Extracellular Flux Analyzerを用いてC2C12細胞にMNSを添加した際の酸素消費量を計測した。溶媒のみの添加条件下のコントロールと比較してMNS 1μM添加下の細胞のミトコンドリアでは、基礎呼吸および最大呼吸(予備呼吸能)において有意な上昇を認めた(
図5G)。
なお、酸素消費量(OCR)の測定は以下の通り実施した。細胞は6-wellプレート(Agilent Tech, CA, USA)にC2C12の安定細胞を播種(5×10
3cells/well)し、OCRとECAR計測前にovernightでインキュベートされた。計測1時間前に培地は1mM sodium pyruvate, 2mM glutamate, 25mM glucoseを含むXF base medium(Agilent Tech)に交換された。XFp Extracellular Flux Analyzer(Agilent Tech)及びXFp用ミトストレスキット(Agilent Tech)を用いてC2C12細胞の基礎呼吸、ATP産生、最大呼吸(予備呼吸能)を計測した。添加した薬剤は1.0 μM oligomycin、0.5 μM carbonyl cyanide-p-trifluoromethoxyphenylhydrazone、0.5 μM rotenoneの順番に細胞に添加され、薬剤の添加前後で3回ずつbaseline(basal)OCRの測定が行われた。
【0068】
《実施例4》
本実施例では、Syk阻害剤である、BAY61-3606及びGSK143について超複合体の形成への影響及び酸素消費量を検討した。
C2C12の安定発現細胞に低濃度から高濃度まで段階的にBAY61-3606及びGSK143を添加し、補正値cFRET/Donorを計測した。この値を元に、用量反応曲線を作成し、50%効果濃度(EC50)は、それぞれ1.00μMと1.14μMであると推定された(
図6A、B)。C2C12細胞より抽出したミトコンドリア分画を用いてBN-PAGEによる呼吸鎖超複合体形成の比較を行った。DMSO添加条件下と比較してMNS同様、BAY61-3606とGSK143添加条件下では呼吸鎖超複合体I+III2+IV、I+III2、III2+IVの形成が上昇した(
図6C)。また、XFp Extracellular Flux Analyzerを用いてC2C12細胞にBAY61-3606とGSK143を添加した際の酸素消費量を計測した。溶媒のみの添加条件下のコントロールと比較してBAY61-3606 1μM添加下の細胞のミトコンドリアでは、基礎呼吸、ATP産生および最大呼吸(予備呼吸能)において有意な上昇を認めた(
図D)。GSK143 1μM添加条件下の細胞のミトコンドリアでは、最大呼吸(予備呼吸能)のみ優位な上昇を認めた(
図6E)。
【0069】
《実施例5》
本実施例では、Syk阻害剤として、SyKのsiRNAを用いて、超複合体の形成への影響及び酸素消費量を検討した。用いたsiRNAの塩基配列は以下のとおりである。
#1:5’-AAUGAAUUCAACAUACAGGGA-3’(配列番号1)
5’-CCUGUAUGUUGAAUUCAUUGA-3’(配列番号2)
#2:5’-UUAAUCUUGACAGUAAGACAC-3’(配列番号3)
5’-GUCUUACUGUCAAGAUUAAUU-3’(配列番号4)
前記#1及び#2のsiRNAによって、C2C12細胞のSykのmRNA発現及びタンパク質発現量は共に抑制された。前記siSykを、NDUFB8-AcGFPとCOX8A-DsRed monomerが共発現している安定発現細胞内に導入し、FRETシグナルを評価した。siControlと比較してsiSyk処理時ではFRET効率が上昇した(
図7A)。同様のsiRNAを用いてSykの発現を抑制したC2C12細胞より抽出したミトコンドリア分画を用いてBN-PAGEによる呼吸鎖超複合体形成の比較を行った。siControlと比較してsiSyk処理時では呼吸鎖超複合体I+III2+IVn(n:1-2)、I+III2、III2+IVの形成が上昇した(
図7B)。XFp Extracellular Flux Analyzerを用いてsiControlとsiSyk処理時のC2C12細胞の酸素消費量を計測した。siControl処理時と比較して2種類のsiSyk処理時の細胞のミトコンドリアでは、どちらのsiSyk処理時も基礎呼吸、最大呼吸(予備呼吸能)およびATP産生において有意な上昇を認めた(
図7C、D)。
【0070】
《実施例6》
本実施例では、MNSをマウスに投与して、運動耐用能を調べた。
7週齢のDBA/2CrSclマウスにMNS及びコントロールとしてDMSOとをそれぞれ腹腔注射した。MNS投与による目立った毒性はなく、体重の変化も認めなかった(
図8a)。ワイヤーハング試験では、MNS投与群ではDMSO投与群と比較してワイヤーに捕まっている時間が有意に延長した(
図8b)。また、トレッドミル試験も施行し、MNS投与群ではDMSO投与群と比較して走行距離ならびに走行時間が優位に延長した(
図8c-e)。また、各群のマウスの長趾伸筋とヒラメ筋より抽出したミトコンドリア分画を用いて、BN-PAGEによる呼吸鎖超複合体形成の比較を行った。DMSO投与群と比較してMNS添加条件下では長趾伸筋とヒラメ筋いずれのミトコンドリアにおいても呼吸鎖超複合体I+III2+IVn(n=1-2)、I+III2、III2+IVの形成が上昇した(
図8f)。この際に、代表的な呼吸鎖複合体サブユニットの発現量と呼吸鎖超複合体形成促進因子であるCOX7RPのタンパク質発現量に有意な差は得られなかった(
図8g)。
【0071】
《実施例7》
本実施例では、BAY61-3606、又はGSK143をマウスに投与して、運動耐用能を調べた。
7週齢のDBA/2CrSclマウスにBAY61-3606、又はGSK143及びコントロールとしてDMSOとをそれぞれ腹腔注射した。BAY61-3606、GSK143投与による目立った毒性はなく、体重の変化も認めなかった(
図9a)。ワイヤーハング試験では、BAY61-3606、GSK143投与群ではDMSO投与群と比較してワイヤーに捕まっている時間が優位に延長した(
図9b)。また、トレッドミル試験も施行し、BAY61-3606、GSK143投与群ではDMSO投与群と比較して走行距離ならびに走行時間が有意に延長した(
図9c-e)。
本発明のスクリーニング方法によれば、ミトコンドリア関連疾患の治療に用いることのできる物質を探索することができる。また、本発明のミトコンドリア超複合体の形成促進剤によれば、筋力維持若しくは増進、又はミトコンドリア機能低下疾患の治療に用いることができる。