(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184025
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】皮膚モデルおよびその製造方法、ならびに皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20221206BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091633
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】小池 咲綾
(72)【発明者】
【氏名】岸本 治郎
(72)【発明者】
【氏名】中沢 陽介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 章子
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA07
4B063QQ08
4B063QR90
4B063QS40
4B063QX02
4B065AA93X
4B065BC41
4B065BC48
4B065CA44
4B065CA50
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、安定的に長期間培養可能な新たな皮膚モデルおよびそれを製造する方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、細胞培養基材の上に播種された線維芽細胞を含む第1細胞群と;
一方の面にメラノサイトを含む第2細胞群が播種され、かつ、他方の面にケラチノサイトを含む第3細胞群が播種された可溶性成分透過性の多孔膜であって、前記第1細胞群の上方に配置された多孔膜と;を含む、皮膚モデルであって、前記線維芽細胞は、光照射により損傷が与えられた線維芽細胞であり、前記第1細胞群、前記第2細胞群及び前記第3細胞群が混合されることなく、同一の培地で共培養される、皮膚モデルを提供する。また、本発明は、皮膚モデルを製造する方法、および、皮膚モデルを用いた、皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養基材の上に播種された線維芽細胞を含む第1細胞群と;
一方の面にメラノサイトを含む第2細胞群が播種され、かつ、他方の面にケラチノサイトを含む第3細胞群が播種された可溶性成分透過性の多孔膜であって、前記第1細胞群の上方に配置された多孔膜と;
を含む、皮膚モデルであって、
前記線維芽細胞は、光照射により損傷が与えられた線維芽細胞であり、
前記第1細胞群、前記第2細胞群及び前記第3細胞群が混合されることなく、同一の培地で共培養される、皮膚モデル。
【請求項2】
前記光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が、光増感剤の存在下で、紫外光の照射により損傷が与えられた線維芽細胞である、請求項1に記載の皮膚モデル。
【請求項3】
前記光増感剤が、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チオール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRy)からなる群から選択される、請求項2に記載の皮膚モデル。
【請求項4】
前記光照射が、UVAの光照射である、請求項1~3のいずれか1項に記載の皮膚モデル。
【請求項5】
前記多孔膜が、生体適合性成分からなる多孔膜である、請求項1~4のいずれか1項に記載の皮膚モデル。
【請求項6】
前記多孔膜が、コラーゲン膜である、請求項1~5のいずれか1項に記載の皮膚モデル。
【請求項7】
前記第1細胞群は、さらに、評価対象の線維芽細胞を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の皮膚モデル。
【請求項8】
皮膚モデルの製造方法であって、
光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群が播種された細胞培養基材の上方に、一方の面にメラノサイトを含む第2細胞群が播種され、かつ、他方の面にケラチノサイトを含む第3細胞群が播種された可溶性成分透過性の多孔膜を配置し、前記第1細胞群、前記第2細胞群及び前記第3細胞群が混合されることなく、同一の培地で共培養する、工程
を含む、方法。
【請求項9】
前記光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が、光増感剤の存在下で、紫外光の照射により損傷が与えられた線維芽細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記光増感剤が、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チオール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRy)からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記光照射が、UVAの光照射である、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記多孔膜が、生体適合性成分からなる多孔膜である、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記多孔膜が、コラーゲン膜である、請求項8~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1細胞群は、さらに、評価対象の線維芽細胞を含む、請求項8~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法であって、
(1)光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群が播種された細胞培養基材の上方に、一方の面にメラノサイトを含む第2細胞群が播種され、かつ、他方の面にケラチノサイトを含む第3細胞群が播種された可溶性成分透過性の多孔膜を配置し、前記第1細胞群、前記第2細胞群及び前記第3細胞群を混合することなく、同一の培地で共培養する、皮膚モデルを作製する工程
(2)前記皮膚モデルに、候補因子を適用して培養する工程;
(3)前記工程(2)で得られる第1細胞群の色素沈着の指標を解析し、前記候補因子の治療または予防効果を評価する工程、
を含む、方法。
【請求項16】
前記候補因子が、線維芽細胞であり、前記第1細胞群に適用される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が、光増感剤の存在下で、紫外光の照射により損傷が与えられた線維芽細胞である、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記光増感剤が、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チオール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRy)からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記多孔膜が、生体適合性成分からなる多孔膜である、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記多孔膜が、コラーゲン膜である、請求項15~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記光照射が、UVAの光照射である、請求項15~20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚モデルおよびそれを製造する方法に関する。また、本発明は、皮膚モデルを用いた皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は生体内と生体外の環境を分ける体表を覆う器官である。皮膚は、物理的なバリアとして働き、乾燥や有害物質が生体内へ侵入することから守り、生命の維持に不可欠な役割を果たしている。
【0003】
高等脊椎動物の皮膚は、最外層から大別すると表皮、真皮、皮下組織の層から形成されている。表皮は、主にケラチノサイト(角化細胞)と呼ばれる細胞から構成されており、表皮の最深部(基底層)でケラチノサイトが分裂しながら、上層に向かって有棘層、顆粒層、そして角層へと分化しながら表面へと移動し、やがて垢となって脱落する。
【0004】
表皮の基底層にはメラノサイト(色素細胞)が存在し、メラノサイト内のメラノソームにおいてメラニンが生成される。生成されたメラニンは、周囲のケラチノサイトに取り込まれる。取り込まれたメラニンはケラチノサイトのターンオーバーとともに角層まで移行し約40日かけて生体外へと排出される。
【0005】
皮膚のしみ・そばかすなどの色素沈着は、ホルモンの異常や紫外線曝露、局所の炎症等により、メラノサイトでメラニンが過剰に形成されることや、メラニン顆粒が表皮基底層のケラチノサイト内に沈着することなどが原因であると考えられている。色素沈着、例えば、加齢による老人性色素斑などを治療または予防する方法や、治療剤(美白剤)が開発されているが、期待された効果が得られなかったり、一時的な効果が得られるが、効果が持続せず再発するなどの課題があり、新たな治療法または予防法や、治療剤を開発するニーズが存在し続けている。
【0006】
そのような状況の下、新たな治療法を開発するために、従来の動物モデルに代わって、近年では皮膚の構造およびその機能を模倣した皮膚モデルが開発されており、利用されている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6113393号公報
【特許文献2】国際公開第2020/111265号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、安定的かつ品質にばらつきが少なく、短期~中長期(例えば、3日~21日程度)の実験系においても評価可能な新たな皮膚モデルおよびそれを製造する方法を提供することである。また、本発明の目的は、新たな皮膚モデルを用いた皮膚の色素沈着を治療または予防するための候補因子を評価する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、細胞培養基材の上に播種された線維芽細胞を含む第1細胞群と;
一方の面にメラノサイトを含む第2細胞群が播種され、かつ、他方の面にケラチノサイトを含む第3細胞群が播種された可溶性成分透過性の多孔膜であって、前記第1細胞群の上方に配置された多孔膜と;を含む、皮膚モデルが、安定的かつ品質にばらつきが少なく、短期~中長期(例えば、3日~21日程度)の実験系においても評価可能な皮膚モデルとなり得ることを見出した。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0010】
[1] 細胞培養基材の上に播種された線維芽細胞を含む第1細胞群と;
一方の面にメラノサイトを含む第2細胞群が播種され、かつ、他方の面にケラチノサイトを含む第3細胞群が播種された可溶性成分透過性の多孔膜であって、前記第1細胞群の上方に配置された多孔膜と;
を含む、皮膚モデルであって、
前記線維芽細胞は、光照射により損傷が与えられた線維芽細胞であり、
前記第1細胞群、前記第2細胞群及び前記第3細胞群が混合されることなく、同一の培地で共培養される、皮膚モデル。
[2] 前記光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が、光増感剤の存在下で、紫外光の照射により損傷が与えられた線維芽細胞である、項目1に記載の皮膚モデル。
[3] 前記光増感剤が、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チオール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRy)からなる群から選択される、項目2に記載の皮膚モデル。
[4] 前記光照射が、UVAの光照射である、項目1~3のいずれか1項に記載の皮膚モデル。
[5] 前記多孔膜が、生体適合性成分からなる多孔膜である、項目1~4のいずれか1項に記載の皮膚モデル。
[6] 前記多孔膜が、コラーゲン膜である、項目1~5のいずれか1項に記載の皮膚モデル。
[7] 前記第1細胞群は、さらに、評価対象の線維芽細胞を含む、項目1~6のいずれか1項に記載の皮膚モデル。
【0011】
[8] 皮膚モデルの製造方法であって、
光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群が播種された細胞培養基材の上方に、一方の面にメラノサイトを含む第2細胞群が播種され、かつ、他方の面にケラチノサイトを含む第3細胞群が播種された可溶性成分透過性の多孔膜を配置し、前記第1細胞群、前記第2細胞群及び前記第3細胞群が混合されることなく、同一の培地で共培養する、工程
を含む、方法。
[9] 前記光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が、光増感剤の存在下で、紫外光の照射により損傷が与えられた線維芽細胞である、項目8に記載の方法。
[10] 前記光増感剤が、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チオール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRy)からなる群から選択される、項目9に記載の方法。
[11] 前記光照射が、UVAの光照射である、項目8~10のいずれか1項に記載の方法。
[12] 前記多孔膜が、生体適合性成分からなる多孔膜である、項目8~11のいずれか1項に記載の方法。
[13] 前記多孔膜が、コラーゲン膜である、項目8~12のいずれか1項に記載の方法。
[14] 前記第1細胞群は、さらに、評価対象の線維芽細胞を含む、項目8~13のいずれか1項に記載の方法。
【0012】
[15] 皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法であって、
(1)光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群が播種された細胞培養基材の上方に、一方の面にメラノサイトを含む第2細胞群が播種され、かつ、他方の面にケラチノサイトを含む第3細胞群が播種された可溶性成分透過性の多孔膜を配置し、前記第1細胞群、前記第2細胞群及び前記第3細胞群を混合することなく、同一の培地で共培養する、皮膚モデルを作製する工程
(2)前記皮膚モデルに、候補因子を適用して培養する工程;
(3)前記工程(2)で得られる第1細胞群の色素沈着の指標を解析し、前記候補因子の治療または予防効果を評価する工程、
を含む、方法。
[16] 前記候補因子が、線維芽細胞であり、前記第1細胞群に適用される、項目15に記載の方法。
[17] 前記光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が、光増感剤の存在下で、紫外光の照射により損傷が与えられた線維芽細胞である、項目15又は16に記載の方法。
[18] 前記光増感剤が、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チオール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRy)からなる群から選択される、項目17に記載の方法。
[19] 前記多孔膜が、生体適合性成分からなる多孔膜である、項目15~18のいずれか1項に記載の方法。
[20] 前記多孔膜が、コラーゲン膜である、項目15~19のいずれか1項に記載の方法。
[21] 前記光照射が、UVAの光照射である、項目15~20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、安定的かつ品質にばらつきが少なく、短期~中長期(例えば、3日~21日程度)の実験系においても、疑似シミ部位の形成を確認することが可能な皮膚モデルが提供される。また本発明により提供される皮膚モデルを用いることによって、皮膚の色素沈着を治療または予防するための候補因子の探索や、評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施態様の皮膚モデルの製造方法を示す概略図である。各構成要素は、主に断面を表している。
【
図2】
図2は、
図1の皮膚モデルを用いて、細胞内のメラニン含量を測定した結果を示す。上段:等量のメラノサイトの溶解液の外観写真、下段:等量のメラノサイトの溶解液をOD405nmで測定した結果。
【
図3】
図3は、
図1の皮膚モデルを用いて、評価対象の線維芽細胞(PVUA未処理の線維芽細胞)を添加した場合の、メラノサイトにおけるメラニン生成関連遺伝子の相対発現量(PUVA-Fbのみの場合を1とする。)を示す。*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.01。
【
図4】
図4は、
図1の皮膚モデルを用いて、評価対象の線維芽細胞(PVUA未処理の線維芽細胞)を添加した場合の、ケラチノサイトにおけるメラニン生成関連遺伝子の相対発現量(PUVA-Fbのみの場合を1とする。)を示す。*:p<0.05、**:p<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照しつつ詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されない。
【0016】
本明細書において、「第1」「第2」「第3」等の用語は、1つの要素をもう1つの要素と区別するために用いており、例えば、第1の要素を第2の要素と表現し、同様に第2の要素を第1の要素と表現してもよく、これによって本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0017】
特段の定義がない限り、本明細書で使用する用語(技術的用語および科学的用語)は、当業者が一般に理解している用語と同一の意味を有する。
【0018】
<皮膚モデルおよびその製造方法>
図1は、一実施形態における、皮膚モデル1およびそれを製造する方法を説明する概略図である。一実施態様において、皮膚モデル1は、細胞培養基材の上に播種された線維芽細胞を含む第1細胞群と;
一方の面にメラノサイトを含む第2細胞群が播種され、かつ、他方の面にケラチノサイトを含む第3細胞群が播種された可溶性成分透過性の多孔膜であって、前記第1細胞群の上方に配置された多孔膜と;
を含む、皮膚モデルであって、
前記線維芽細胞は、光照射により損傷が与えられた線維芽細胞であり、
前記第1細胞群、前記第2細胞群及び前記第3細胞群が混合されることなく、同一の培地で共培養される、皮膚モデルである(例えば、
図1(E)及び(F)参照)。
【0019】
また、一実施態様における皮膚モデル1は、
光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群が播種された細胞培養基材の上方に、一方の面にメラノサイトを含む第2細胞群が播種され、かつ、他方の面にケラチノサイトを含む第3細胞群が播種された可溶性成分透過性の多孔膜を配置し、前記第1細胞群、前記第2細胞群及び前記第3細胞群が混合されることなく、同一の培地で共培養する、工程
を含む方法によって提供することができる。
【0020】
ケラチノサイト(角化細胞)とは、表皮を構成する細胞の一つであり、生体の表皮組織においては、最深部(基底層)で分裂しながら上層に向かって有棘層、顆粒層、そして角層へと分化しながら表面へ移動し、やがて垢となって脱落する細胞である。
【0021】
メラノサイト(色素細胞)とは、表皮組織を構成する細胞の一つであり、生体においては表皮の基底層に存在し、メラニンを形成する細胞である。
【0022】
線維芽細胞とは、結合組織を構成する細胞の一つであり、多くの臓器および組織に存在している細胞である。線維芽細胞は、皮膚においては、主に真皮組織に含まれている。本発明の皮膚モデル1に用いられる線維芽細胞は、好ましくは真皮由来の線維芽細胞である。
【0023】
本発明に用いられる線維芽細胞、ケラチノサイトおよびメラノサイトは、それぞれ、生体組織から採取された初代培養細胞であってもよく、予め単離および/または増殖され市販または頒布されている細胞であってもよく、株化された細胞であってもよく、ES細胞、iPS細胞、又はMuse細胞等の多能性幹細胞から分化誘導された細胞であってもよい。
【0024】
本発明において用いられる細胞は、いずれの動物由来であってもよいが、脊椎動物由来が好ましく、哺乳動物由来がより好ましく、ヒト由来であることが最も好ましい。
【0025】
第1細胞群10に含まれる線維芽細胞は、光照射によって損傷が与えられた線維芽細胞が用いられる。光照射によって損傷が与えられた線維芽細胞は、好ましくは光増感剤の存在下で光照射され、損傷が与えられたものである。用いられる光増感剤としては、例えば、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チオール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRyなどが挙げられる。光増感剤を用いることにより、照射された光が増感され、効率よく線維芽細胞に損傷を与えることができる。
【0026】
線維芽細胞に損傷を与える時に用いられる光は、細胞内の核酸、例えばDNAやRNAに損傷を与えるが、全ての細胞が死滅しない程度の波長であればよく、紫外光(約200nm~約400nm)であることが好ましく、より好ましくはUVA(約320nm~約400nm)である。照射する光の強さは、細胞内の核酸、例えばDNAやRNAに損傷を与えるが、アポトーシス等が誘導されて全ての細胞が死滅しない程度であればよく、波長や照射する時間、細胞密度などによって適宜調整すればよい。例えば、UVAを照射する場合、0.01J/cm2~100J/cm2、好ましくは0.1J/cm2~20J/cm2、より好ましくは0.5J/cm2~10J/cm2を照射すればよい。
【0027】
光照射した線維芽細胞を一定期間培養することによって、アポトーシス等が誘導されず、生存した線維芽細胞のみを増殖させることができる(
図1の(A)に相当)。光照射によって損傷を受けた線維芽細胞は、例えば、細胞の形態が伸長し、増殖能力が低下し、メラニン生成因子(例えば幹細胞増殖因子(SCF))の産生量が増加するなど、細胞の老化レベルが増加した特徴を示す。細胞の老化レベルは、一般に知られる細胞老化マーカー、例えば、老化関連酸性β-ガラクトシダーゼ(SA-βgal)の発現量、p21/p53経路やp16経路など細胞周期チェック機構の恒常的な活性化、IL-6などの細胞老化関連分泌現象(Senescence-associated secretory phenotype(SASP))因子の発現量などを測定することによって調べることができる。光照射量を調節することよって、所望の老化レベルの線維芽細胞を得ることができる。
【0028】
皮膚モデル1を構成する第1細胞群10に含まれる線維芽細胞は、光照射によって損傷を有するが、死滅することなく生存した線維芽細胞である。そのため、本発明の皮膚モデル1には、概ね均質な線維芽細胞が含まれることとなり、活性のばらつきが少ない安定した系を提供することができる。
【0029】
一実施態様において、皮膚モデル1を構成するメラノサイトを含む第2細胞群20は、可溶性成分透過性の多孔膜22を有する第2細胞培養基材21を用いて、多孔膜22の一方の面に播種される(例えば、
図1(C))。第2細胞群20が多孔膜22の一方の面に接着したら、多孔膜22の他方の面に、ケラチノサイトを含む第3細胞群30が播種される(例えば、
図1(D))。第2細胞群20と第3細胞群30が播種される順番は限定されず、ケラチノサイトを含む第3細胞群30が多孔膜22の一方の面に先に播種されてもよく、メラノサイトを含む第2細胞群20が多孔膜22の一方の面に先に播種されてもよい。
【0030】
皮膚モデル1において、多孔膜22は可溶性成分透過性の多孔膜であり、例えば、セルカルチャーインサートであってもよいが、細胞接着性の足場に用いられる生体適合性成分によって作製されている、又はコーティングされているものが好ましい。例えば、生体適合性成分としては、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロナート、ヒアルロナン、フィブリン、アルギナート、アガロース、キトサン、キチン、セルロース、ペクチン、デンプン、ラミニン、フィブリノーゲン/トロンビン、フィブリリン、エラスチン、ガム、セルロース、寒天、グルテン、カゼイン、アルブミン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン/ニドジェン、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、ポリ(アクリル酸)およびその誘導体、ポリ(エチレンオキシド)およびその共重合体、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、マトリゲルならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される材料からなる又はコーティングされているものであってもよい。また、多孔膜22は、コラーゲン膜であることがより好ましい。多孔膜22が、コラーゲン膜である第2細胞培養基材21は、公知のものを使用することができ、例えば、関東化学株式会社(日本)のad-MED ビトリゲルや、株式会社高研(日本)の透過性コラーゲン膜を使用することができる。
【0031】
多孔膜22の平均孔径は、例えば、約0.01μm~約100μmの平均孔径(例えば、0.01μm~100μm、0.01μm~50μm、0.01μm~10μm、0.1μm~50μm、または0.1μm~10μm)であってもよい。また、多孔膜22の細孔の密度も適宜選択することができるが、例えば、1×104/cm2以上、1×105/cm2以上、5×105/cm2以上、10×105/cm2以上、50×105/cm2以上、または100×105/cm2以上の細孔の密度であってもよく、1×104/cm2~100×108/cm2、1×105/cm2~100×108/cm2であってもよい。
【0032】
一実施態様において、本発明の皮膚モデル1に用いられる第1、第2又は第3細胞群は、上記以外の細胞が含まれていてもよく、例えば表皮組成に含まれるランゲルハンス細胞や、メルケル細胞が含まれていてもよい。皮膚モデル1において播種される細胞数は特に限定されないが、例えば、1×102~106個/cm2、1.0~10×104個/cm2、又は約4~8×104個/cm2を含むものであってもよい。
【0033】
本発明の皮膚モデル1は、メラノサイトを含む第2細胞群20と、ケラチノサイトを含む第3細胞群30とが、それぞれ多孔膜22の両面に播種された第2細胞培養基材21が、第1細胞群10の上方に配置されている。第1細胞群10、第2細胞群20及び第3細胞群30は、それぞれが混合されることなく、同一の培地で共培養されている。これにより、第1細胞群10、第2細胞群20及び第3細胞群30のそれぞれから産生される可溶性成分が交換される。
【0034】
一実施態様において、本発明に用いられる細胞としては、例えば、市販もされている、TESTSKIN(商標)LSE-melano(TOYOBO)、MelanoDerm(商標)(MatTek)などに含まれる細胞を用いても良い。
【0035】
皮膚モデル1は、例えば培養液として通常のケラチノサイト培養に用いられる培養液、例えばKG培地、EpilifeKG2(クラボウ)、Humedia-KG2(クラボウ)、アッセイ培地(TOYOBO)などを用い、約37℃で0~14日間かけて行うことができる。培地としては、その他にDMEM培地(GIBCO)又はアスコルビン酸含有KGMとDMEMを1:1混合した培地などが使用できる。
【0036】
一実施態様において、皮膚モデル1の培地には、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体またはその塩の存在下が含まれてもよい。アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体またはその塩が存在すると、線維芽細胞の増殖やコラーゲン産生が促進されることにより真皮の構造のように重層化が促進される。本明細書において、「アスコルビン酸誘導体」とは、例えば、アスコルビン酸2リン酸、アスコルビン酸1リン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸2-グルコシド等をいい、さらに、その塩(ナトリウム塩、マグネシウム塩等)も含まれる。
【0037】
本発明によって提供される皮膚モデル1は、光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が直接または間接的に作用し、皮膚の色素沈着を形成する要因、例えば、ケラチノサイトの過増殖、過剰分化、又は色素顆粒の取り込みや、メラノサイトによるメラニンの産生など、様々な要因を評価することができる。また、皮膚モデル1において、「色素沈着の指標」を測定し、解析することによって、色素沈着に影響を及ぼす因子についても評価することができる。
【0038】
本発明の皮膚モデル1を用いることによって、例えば、皮膚の色素沈着を治療または予防するための評価対象としての候補因子を評価することが可能となる。
【0039】
<皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法>
本発明は、皮膚モデルを用いた、皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法を提供することができる。一実施態様において、本発明の方法は、
(1)光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群が播種された細胞培養基材の上方に、一方の面にメラノサイトを含む第2細胞群が播種され、かつ、他方の面にケラチノサイトを含む第3細胞群が播種された可溶性成分透過性の多孔膜を配置し、前記第1細胞群、前記第2細胞群及び前記第3細胞群を混合することなく、同一の培地で共培養する、皮膚モデルを作製する工程
(2)前記皮膚モデルに、候補因子を適用して培養する工程;
(3)前記工程(2)で得られる第1細胞群の色素沈着の指標を解析し、前記候補因子の治療または予防効果を評価する工程、
を含む。
【0040】
一実施態様において、候補因子は、例えば、低分子化合物、ペプチド、核酸、タンパク質、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の細胞、組織抽出物又は細胞培養上清、植物由来の化合物又は抽出物(例えば、生薬エキス、生薬由来の化合物)、及び微生物由来の化合物若しくは抽出物又は培養産物などであってもよい。
【0041】
一実施態様において、候補因子CAは、
図1(F)で示されるように、任意の細胞、例えば、間葉系幹細胞を含む線維芽細胞の前駆細胞、線維芽細胞(例えば、光照射による損傷を受けていない線維芽細胞、または光照射による損傷が低い線維芽細胞)等であってもよい。本明細書において、「光照射による損傷を受けていない線維芽細胞」または「光照射による損傷が低い線維芽細胞」とは、上記の光照射工程が実施されていない線維芽細胞であり、上記の「光照射による損傷が与えられた線維芽細胞」よりも、老化レベルが低い線維芽細胞をいう。
【0042】
候補物質を皮膚モデル1に添加し、所望の期間培養後、皮膚モデル1における色素沈着の指標を解析することによって、候補物質による色素沈着の治療または予防効果を評価することができる。例えば、候補物質を非添加、または色素沈着の治療または予防効果を有しない任意の物質を添加した皮膚モデル1の色素産生および/または色素沈着の度合いと比較し、候補物質を添加した皮膚モデル1における色素沈着の指標が改善した場合、その候補物質は、色素沈着の治療または予防効果を有するものと評価することができる。
【0043】
「色素沈着の指標」としては、例えば、含有色素量の違い、ターンオーバーレベル(例えば、分化マーカーの発現の変化)、色素顆粒の凝集若しくは拡散、細胞形質の不均一性、メラニン合成因子(例えば、メラノサイトにおけるチロシナーゼ(TYR);チロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP1);ドーパクロムトートメラーゼ(DCT);又は小眼球症関連転写因子(MITF))、あるいはケラチノサイトにおけるエンドセリン1(ET1);又は幹細胞因子(SCF1))の発現、分化又は増殖能の増進(例えば、Ki67など)、色素顆粒の分布差発現、あるいはケラチノサイトの食作用増進などを指標とすることができるが、これに限定されない。
【0044】
本明細書において「色素産生」とは、皮膚モデル1がメラノサイトを含む場合、メラノサイトが産生する色素、例えば、メラニン色素の産生をいう。色素産生量は、例えば皮膚モデル、特に第2細胞群20からメラニン色素を抽出して、405nmの吸光度を測定することによってメラニン量を求めることができる。また、色素産生量は、例えば皮膚モデル、特に第2細胞群20に含まれるメラニンまたはそれをコードする核酸量(例えばmRNA量)を、ELISA法、フローサイトメーター法、ウエスタンブロット法、免疫組織化学法、qPCR法等の方法を用いることによって測定することができるが、これに限定されない。
【0045】
本明細書において、「色素沈着の度合い」とは、可視光下における皮膚モデル、特に第1細胞群の色の明度をいう。本発明の皮膚モデル1は、メラノサイトが産生するメラニン量に依存して明度が変化する。そのため、メラニン量が多くなると明度が低下し、皮膚モデル1の第2細胞群20は濃い色を呈する。逆にメラニン量が低下すると明度が上昇し、皮膚モデル1の第2細胞群20は淡い色を呈する。すなわち、皮膚モデル1の色の明度を比較することによって、添加される候補物質による色素沈着の治療または予防効果を評価することができる。明度は、皮膚モデル1の第2細胞群20を画像として記録し、公知の画像測定手段を用いることによって定量することができる。
【実施例0046】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0047】
1.使用した材料及び実験方法
【0048】
1-1.表皮細胞の培養
【0049】
正常ヒト表皮メラノサイト(Kurabo)は、ヒトメラノサイト増殖サプリメント(HMGS2,)を添加した培地Medium254(Thermo Fisher Scientific)で培養した。正常ヒト表皮ケラチノサイト(Kurabo)は、ケラチノサイト成長サプリメント(EDGS)を添加した60μMカルシウムを含むEpilife(登録商標)培地(Thermo Fisher Scientific)で培養した。
【0050】
1-2.線維芽細胞の培養およびPUVA 処理
正常ヒト線維芽細胞(Cell Research Corp)を増殖用培地(10%牛胎児血清含有Dulbecco’s Modified Eagle Medium (以下、10%DMEM))で培養し、6穴プレートにそれぞれ1x105 cells播種した。細胞密度が100%コンフルエントになる前に光増感剤・ソラレン(終濃度25ng/mL)を加えた10%DMEMに置換し、培養した。24時間後に1mL のPBSで膨潤させた後取り除き、ソラレン(終濃度25ng/mL)を加えた1mL PBSに置換した状態で6J/cm2 UVA照射を行った(以下、PUVA処理)。その後、1mLのPBSで膨潤させた後、PBSを取り除き、10%DMEMに置換した後、3日間培養し、培養上清と細胞をそれぞれ回収した。PUVA未処理の同一ドナー由来線維芽細胞を上記PUVA 処理線維芽細胞に対するコントロールとした。
【0051】
1-3.角化細胞、色素細胞、線維芽細胞非接触三層培養モデルの作製
【0052】
三層培養モデルの作成は、ad-MED ビトリゲル(関東化学株式会社)もしくは透過性コラーゲン膜(株式会社高研)のような、両面培養の可能なコラーゲン膜を用いた。メラノサイトをコラーゲン膜の片面に1×10
4~1×10
5 cells播種し、24時間培養することで膜状に接着させた後、もう片方の面にケラチノサイトを1×10
4 cells~1×10
5 cells播種した。前もってPUVA処理を施した線維芽細胞を1x10
4 cells/wellずつ播種した24wellプレートに、ケラチノサイト及びメラノサイトの接着したコラーゲン膜を設置し、表皮細胞にシミ部位様の変化を誘導するため、3~5日間共培養した。疑似シミ部位表皮細胞が誘導された後、24wellプレートに、最初に播種したPUVA処理線維芽細胞の数に対し1/10、1/5、1/2、及び等量の治療用線維芽細胞(
図1(F)の「non-PUVA-FB」に相当)を加え、更に3~5日間培養し、疑似シミ部位表皮細胞における線維芽細胞の治療効果の検討を行った。培養には、線維芽細胞培養培地である10%DMEM、メラノサイトの培養培地であるM254、ケラチノサイトの培養培地であるEpiLifeを1:1:1で混合したものを用いた。
【0053】
1-4.細胞内外メラニン含量測定
【0054】
メラノサイトをコラーゲンゲルの片側に1×10
5 /wellずつ播種し、上記のモデルを用いて培養した。培地を回収し、遠心分離(4℃、200×g、10分間)によって細胞残渣を取り除いた後、得られた上清をOD405nmで測定したものを細胞外放出メラニン量とした。また、メラノサイトはトリプシン処理により回収し、遠心分離(4℃、2,300×g、5分間)をかけた。得られた細胞塊に120μlの0.2N NaOHを加え、80℃で30分間湯煎して細胞内メラニンを抽出した。得られた上清はOD405nmで測定し、これを細胞内含有メラニン量とした。結果は3回の独立した実験により得た(
図2)。
【0055】
1-5.RT-PCR
全てのRNAをRNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて抽出した。total RNA 200ngを、PrimeScript RT Reagent Kit (Takara)を用いて逆転写した。PCRは、PrimeScript RT-PCR Kit (Takara)を用いて実施した。線維芽細胞処理後のメラノサイトにおけるチロシナーゼ(TYR)、チロシナーゼ関連タンパク質1(TYRP1)、ドーパクロムトートメラーゼ(DCT)、小眼球症関連転写因子(MITF)、ケラチノサイトにおけるエンドセリン1(ET1)、幹細胞因子(SCF)、及びGAPDHの遺伝子発現を、RT-PCRアッセイにより解析した。PCRの結果は3回の独立した実験により得た(
図3及び
図4)。なお、本実験では以下の配列のプライマーを用いて解析を行った。
【表1】
【0056】
1-6.統計処理
【0057】
統計処理はGraph Pad Prism 5(Graph Pad Software, La Jolla, CA)を用い、一次元配置分散分析によって行った。p < 0.05の時に統計学的優位差があると判断し、その程度はそれぞれ以下のアスタリスク表記により示した。(*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001)すべての実験は3回以上繰り返し、再現性の確認を行った。
【0058】
2.結果
【0059】
皮膚モデルからメラノサイトとケラチノサイトをそれぞれ回収し、細胞内メラニン量及びメラニン合成に関与する遺伝子発現を測定したところ、PUVA Fbのみ存在下のモデルと比較し、非照射Fbを添加したモデルではメラニン量の増加が抑制されることが明らかになった。この黒化抑制は、メラノサイト内に発現するメラニン合成酵素Tyrosinaseやチロシナーゼ関連遺伝子として知られるTYRP1、DCT、及びそれらの転写因子であるMITFの遺伝子発現減少によるものであることがRT-PCR解析より示された。更に、ケラチノサイトでも、メラニン合成を誘導するSCFやET1の遺伝子発現が非照射Fb濃度依存的に減少した。以上のことから、非照射Fbがメラノサイトとケラチノサイトの両方に働きかけ、PUVA Fbによって誘導されたメラニン合成を抑制することが示された。