(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184055
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】放射線検出器及び放射線検出装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
G01T1/20 D ZNM
G01T1/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091678
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】大田 良亮
(72)【発明者】
【氏名】上野山 聡
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA02
2G188BB02
2G188BB07
2G188CC15
2G188CC17
2G188CC21
2G188CC23
2G188CC25
2G188DD02
2G188DD42
2G188DD43
2G188DD44
(57)【要約】
【課題】シンチレーション光の波長領域及び発光ピークの形状にかかわらず、注目波長の光を好適に検出可能な放射線検出器及び放射線検出装置を提供する。
【解決手段】一実施形態の放射線検出器1Aは、放射線の入射に応じて、ピーク波長λ1を有するシンチレーション光L1とピーク波長λ2を有するシンチレーション光L2とを生成するシンチレータ2と、シンチレータ2により生成されたシンチレーション光を検出する光検出部3Aと、シンチレータ2と光検出部3Aとの間に配置され、シンチレーション光L1を選択的に遮断するフィルタ層4と、を備える。フィルタ層4は、メタサーフェス構造を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射に応じて、第1ピーク波長を有する第1シンチレーション光と第2ピーク波長を有する第2シンチレーション光とを生成するシンチレータと、
前記シンチレータにより生成されたシンチレーション光を検出する光検出部と、
前記シンチレータと前記光検出部との間に配置され、前記第1シンチレーション光を選択的に遮断するフィルタ層と、
を備え、
前記フィルタ層は、メタサーフェス構造を有する、放射線検出器。
【請求項2】
前記フィルタ層は、表面プラズモンを利用したプラズモニックフィルタである、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記フィルタ層は、周期的に配列された複数の柱状の金属構造体を有する、請求項1又は2に記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記金属構造体は、円柱状のアルミニウムによって構成されている、請求項3に記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記第1シンチレーション光の減衰時間は、前記第2シンチレーション光の減衰時間よりも長い、請求項1~4のいずれか一項に記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記フィルタ層は、前記シンチレータにより生成された前記第1シンチレーション光を前記シンチレータ側に選択的に反射させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の放射線検出器。
【請求項7】
前記シンチレータは、前記光検出部に対向する第1面と前記光検出部に対向しない第2面とを有し、
前記第2面の少なくとも一部には、前記フィルタ層によって反射された前記第1シンチレーション光を吸収する光吸収層が設けられている、請求項6に記載の放射線検出器。
【請求項8】
前記シンチレータに対して前記フィルタ層が設けられた側とは反対側に配置される第2光検出部を更に備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の放射線検出器。
【請求項9】
前記シンチレータと前記第2光検出部との間に配置され、前記第2シンチレーション光を選択的に遮断する第2フィルタ層を更に備える、請求項8に記載の放射線検出器。
【請求項10】
前記第2フィルタ層は、メタサーフェス構造を有する、請求項9に記載の放射線検出器。
【請求項11】
前記フィルタ層は、周期的に配列された複数の柱状体によって構成されており、
前記第2フィルタ層は、前記フィルタ層の前記複数の柱状体に対応する複数のホールによって構成されている、請求項10に記載の放射線検出器。
【請求項12】
前記光検出部は、固体撮像素子又は電子管である、請求項1~11のいずれか一項に記載の放射線検出器。
【請求項13】
前記放射線検出器は、電子管であり、
前記シンチレータは、前記電子管の光入射窓であり、
前記光検出部は、前記電子管の光電面である、請求項1~11のいずれか一項に記載の放射線検出器。
【請求項14】
前記フィルタ層と前記光検出部との間に設けられた保護膜を更に備える、請求項13に記載の放射線検出器。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の放射線検出器を複数配列したガントリを備える、放射線検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線検出器及び放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線等の放射線を光に変換するシンチレータと、シンチレータにより変換された光を検出する光検出器と、を有する放射線検出器が知られている。特許文献1には、このような放射線検出器において、CsI系のシンチレータと光検出器であるTFT基板との間に光選択層を配置する構成が開示されている。この構成では、シンチレータによって生成されたシンチレーション光(蛍光)の残光成分が光選択層で吸収又は反射されることにより、TFT基板で検出される残光成分が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許出願公開111081728号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された構成では、光選択層として、樹脂膜(PVC膜、PET膜、及びPE膜の1つ、又はこれらの2以上の組み合わせ)が採用されている。しかし、樹脂膜を光選択層として用いる場合には、紫外領域(特に300nm以下の波長領域)の光を選択的に透過(或いは、吸収又は反射)させるように調整することが比較的困難である。また、発光ピークが2つあり、一方のピーク波長が他方のピーク波長よりも長い場合、上記樹脂膜では、当該一方のピーク波長を選択的に透過させることが困難である。
【0005】
本開示の一側面は、シンチレーション光の波長領域及び発光ピークの形状にかかわらず、注目波長の光を好適に検出可能な放射線検出器及び放射線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る放射線検出器は、放射線の入射に応じて、第1ピーク波長を有する第1シンチレーション光と第2ピーク波長を有する第2シンチレーション光とを生成するシンチレータと、シンチレータにより生成されたシンチレーション光を検出する光検出部と、シンチレータと光検出部との間に配置され、第1シンチレーション光を選択的に遮断するフィルタ層と、を備え、フィルタ層は、メタサーフェス構造を有する。
【0007】
上記放射線検出器では、シンチレータによってピーク波長が互いに異なる第1シンチレーション光及び第2シンチレーション光が生成される。シンチレータと光検出部との間に配置されたフィルタ層によって、第1ピーク波長を有する第1シンチレーション光が選択的に遮断される。すなわち、第2ピーク波長を有する第2シンチレーション光が、光検出部へと選択的に透過させられる。ここで、フィルタ層は樹脂膜ではなくメタサーフェス構造によって構成されている。メタサーフェス構造によってフィルタ層を構成することにより、樹脂膜でフィルタ層を構成する場合と比較して、以下の利点が得られる。すなわち、メタサーフェス構造の形状制御により、シンチレーション光の波長領域及び発光ピークの形状(共鳴ピーク幅等)にかかわらず、樹脂膜でフィルタ層を構成する場合よりも良好なフィルタ性能を得ることができる。すなわち、注目波長の光(ここでは第2ピーク波長を有する第2シンチレーション光)を好適に透過させ、注目波長以外の波長の光(ここでは第1ピーク波長を有する第1シンチレーション光)を好適に遮断することができる。従って、上記放射線検出器によれば、シンチレーション光の波長領域及び発光ピークの形状にかかわらず、注目波長の光を好適に検出することが可能となる。
【0008】
フィルタ層は、表面プラズモンを利用したプラズモニックフィルタであってもよい。上記構成によれば、表面プラズモンを利用することにより、第1シンチレーション光を選択的に遮断するフィルタ構造を容易に得ることができる。
【0009】
フィルタ層は、周期的に配列された複数の柱状の金属構造体を有してもよい。上記構成によれば、第1シンチレーション光を選択的に遮断するフィルタ構造を、複数の金属構造体の配置(周期)、並びに金属構造体の幅及び高さを調整することにより、容易に製造することができる。
【0010】
金属構造体は、円柱状のアルミニウムによって構成されていてもよい。上記構成によれば、円柱状のアルミニウムの径及び高さを調整することにより、第1シンチレーション光を選択的に遮断するためのフィルタ設計を容易に行うことが可能となる。
【0011】
第1シンチレーション光の減衰時間は、第2シンチレーション光の減衰時間よりも長くてもよい。上記構成によれば、2つのシンチレーション光のうち減衰時間が長い方の第1シンチレーション光を選択的に遮断することにより、光検出部において減衰時間が短い方の第2シンチレーション光のみを検出することが可能となる。これにより、放射線検出器の時間分解能を向上させることができる。
【0012】
フィルタ層は、シンチレータにより生成された第1シンチレーション光をシンチレータ側に選択的に反射させてもよい。上記構成によれば、光検出部側へと抜ける第1シンチレーション光の量を効果的に低減できるため、光検出部において第2シンチレーション光のみをより一層好適に検出することが可能となる。
【0013】
シンチレータは、光検出部に対向する第1面と光検出部に対向しない第2面とを有してもよく、第2面の少なくとも一部には、フィルタ層によって反射された第1シンチレーション光を吸収する光吸収層が設けられていてもよい。上記構成によれば、フィルタ層によって反射された第1シンチレーション光を光吸収層で吸収することにより、当該第1シンチレーション光が再度フィルタ層に向かって入射することを抑制することができる。これにより、光検出部において第2シンチレーション光のみをより一層好適に検出することが可能となる。
【0014】
上記放射線検出器は、シンチレータに対してフィルタ層が設けられた側とは反対側に配置される第2光検出部を更に備えてもよい。上記構成によれば、フィルタ層によって反射された第1シンチレーション光を第2光検出部によって検出することが可能となる。これにより、例えば、第2シンチレーション光を光検出部で検出することによって時間分解能の向上を図ると共に、フィルタ層で反射された第1シンチレーション光を第2光検出部で検出することで、全体として十分な検出光量を確保することが可能となる。これにより、放射線検出器の検出精度を向上させることが可能となる。
【0015】
上記放射線検出器は、シンチレータと第2光検出部との間に配置され、第2シンチレーション光を選択的に遮断する第2フィルタ層を更に備えてもよい。上記構成によれば、第2光検出部において、第1シンチレーション光のみを好適に検出することが可能となる。
【0016】
第2フィルタ層は、メタサーフェス構造を有してもよい。上記構成によれば、フィルタ層と同様のメタサーフェス構造を採用することにより、第2フィルタ層を好適に設計及び製造することができる。
【0017】
フィルタ層は、周期的に配列された複数の柱状体によって構成されていてもよく、第2フィルタ層は、フィルタ層の複数の柱状体に対応する複数のホールによって構成されていてもよい。上記構成によれば、バビネ原理に基づいて、フィルタ層とは反対の性質を有する第2フィルタ層を容易に設計及び製造することができる。すなわち、第2フィルタ層が有するメタサーフェス構造を、フィルタ層が有するサーフェス構造に対応する形状(すなわち、ネガティブ(凹部分)とポジティブ(凸部分)とについて、フィルタ層のメタサーフェス構造と反転関係にある形状)とすることにより、第2シンチレーション光を選択的に遮断する性質を有する第2フィルタ層を容易且つ確実に形成することができる。
【0018】
光検出部は、固体撮像素子又は電子管であってもよい。上記構成によれば、シンチレータ及びフィルタ層を固体撮像素子又は電子管に対する外付け部材として配置する構成において、上述した放射線検出器の効果を発揮することができる。すなわち、既存の固体撮像素子又は電子管等に対してシンチレータ及びフィルタ層を設けることにより、上述した効果を発揮する放射線検出器を得ることができる。
【0019】
放射線検出器は、電子管であってもよく、シンチレータは、電子管の光入射窓であってもよく、光検出部は、電子管の光電面であってもよい。上記構成によれば、シンチレータ及びフィルタ層を電子管内に内蔵することにより、シンチレータ及びフィルタ層を電子管の外付け部材として構成する場合と比較して、放射線検出器全体のサイズを小型化することができる。また、検出光(第2シンチレーション光)を効率良く光電面へと導くことができる。
【0020】
上記放射線検出器は、フィルタ層と光検出部との間に設けられた保護膜を更に備えてもよい。上記構成によれば、保護膜によって、シンチレータと光電面(光検出部)との化学反応を適切に防止することができる。
【0021】
本開示の他の側面に係る放射線検出装置は、上記放射線検出器を複数配列したガントリを備える。上述した構造を有する放射線検出器を用いて放射線検出装置を構成することにより、上述した放射線検出器の効果を発揮することが可能な放射線検出装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示の一側面によれば、シンチレーション光の波長領域及び発光ピークの形状にかかわらず、注目波長の光を好適に検出可能な放射線検出器及び放射線検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、第1実施形態の放射線検出器の断面図である。
【
図2】
図2は、シンチレータ(BaF2)の発光スペクトルを示す図である。
【
図3】
図3は、フィルタ層の基本構成(単位格子)を示す図である。
【
図4】
図4は、フィルタ層の波長毎の透過率を示す図である。
【
図5】
図5は、フィルタ層の波長毎の反射率を示す図である。
【
図6】
図6は、フィルタ層の作製工程の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態の放射線検出器の断面図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態の放射線検出器の断面図である。
【
図9】
図9は、第4実施形態の放射線検出器の断面図である。
【
図10】
図10は、第5実施形態の放射線検出器の断面図である。
【
図11】
図11は、第6実施形態の放射線検出器の断面図である。
【
図12】
図12は、第2フィルタ層の基本構成(単位格子)を示す図である。
【
図13】
図13は、一実施形態の放射線検出装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。各図面の寸法比率は、必ずしも実際の寸法比率とは一致していない。
【0025】
[第1実施形態]
図1に示されるように、第1実施形態の放射線検出器1Aは、X線等の放射線を検出する検出器である。放射線検出器1Aは、例えば、消滅放射線の飛行時間情報を画像再構成に用いる陽電子放射断層撮像装置(いわゆる、TOP-PET(Time Of Flight Position Emission Tomography))等に用いられる(
図14参照)。放射線検出器1Aは、シンチレータ2と、光検出部3Aと、フィルタ層4と、を有する。放射線検出器1Aの外観形状は、例えば、柱状(本実施形態では一例として、円柱状)である。フィルタ層4は、シンチレータ2と光検出部3Aとの間に配置されている。本明細書では、説明の便宜上、シンチレータ2と光検出部3Aとがフィルタ層4を挟んで対向する方向をZ軸方向と表し、Z軸方向に直交する平面に沿うと共に互いに直交する2つの方向をX軸方向及びY軸方向と表す。
【0026】
シンチレータ2は、X線等の放射線の入射に応じて、ピーク波長及び減衰時間が互いに異なる複数(2以上)のシンチレーション光を生成する。このような性質を有するシンチレータ2の例としては、BaF2、CdF3:Pr3+等が挙げられる。本実施形態では、シンチレータ2は、BaF2によって形成されている。
【0027】
図2に示されるように、BaF2によって形成されたシンチレータ2は、放射線の入射に応じて、ピーク波長λ1(第1ピーク波長)を有するシンチレーション光L1(第1シンチレーション光)とピーク波長λ2(第2ピーク波長)を有するシンチレーション光L2(第2シンチレーション光)とを生成する。ピーク波長λ1は300nmであり、ピーク波長λ2は220nmである。また、シンチレーション光L1の減衰時間t1は、シンチレーション光L2の減衰時間t2よりも短い(t1<t2)。より具体的には、減衰時間t1は550nsであり、減衰時間t2は0.6nsである。
図2に示されるように、BaF2では、シンチレーション光L1の発光量の方が、シンチレーション光L2の発光量よりも大きい。
【0028】
一例として、シンチレータ2は、円柱状に形成されている。すなわち、Z軸方向から見た場合に、シンチレータ2は、円形状に形成されている。シンチレータ2は、フィルタ層4を介して光検出部3Aに対向する内面2aと、Z軸方向において内面2aとは反対側に位置する外面2bと、内面2aの縁部と外面2bとの縁部とを接続するようにZ軸方向に延在する円筒状の側面2cと、を有する。一例として、シンチレータ2の外面2bが、検出対象の放射線を入射させる入射面として機能し、内面2aが、シンチレータ2の内部で生成されたシンチレーション光を出射する出射面として機能する。
【0029】
光検出部3Aは、シンチレータ2により生成されたシンチレーション光を検出する。本実施形態では、光検出部3Aは、例えば、SPAD(Single-Photon Avalanche Diode)等のSiPM(Silicon Photomultiplier)等の固体撮像素子である。なお、光検出部3Aは、例えば、APD(Avalanche Photo Diode)等の他の固体撮像素子によって構成されてもよい。光検出部3Aは、検出対象の光を入射させるための光検出面3aを有する。光検出面3aは、フィルタ層4を介して、シンチレータ2の内面2aと対向している。
【0030】
フィルタ層4は、メタサーフェス構造を有している。フィルタ層4は、シンチレータ2により生成されたシンチレーション光L1,L2のうちシンチレーション光L1を選択的に遮断する。すなわち、フィルタ層4は、シンチレーション光L2の大部分をシンチレータ2側から光検出部3A側へと透過させるのに対して、シンチレーション光L1の大部分をシンチレータ2側から光検出部3A側へと透過させない。例えば、フィルタ層4は、シンチレーション光L1を選択的に反射又は吸収する。本実施形態では、フィルタ層4は、シンチレーション光L1をシンチレータ2側に選択的に反射させるように構成されている。
【0031】
フィルタ層4は、表面プラズモンを利用したプラズモニックフィルタ(例えば、プラズモニックカラーフィルタ)として構成され得る。すなわち、フィルタ層4は、表面プラズモンを生じさせるように構成されたメタサーフェス構造を有する。
図1に示されるように、フィルタ層4は、XY平面に沿って周期的に配列された複数の柱状の金属構造体41を有する。一例として、金属構造体41は、円柱状に形成され得る。複数の金属構造体41は、XY平面に沿って2次元的(格子状)に配列されている。フィルタ層4(すなわち、複数の金属構造体41)は、シンチレータ2の内面2a上に蒸着等によって形成されてもよいし、光検出部3Aの光検出面3a上に蒸着等によって形成されてもよい。本実施形態では、フィルタ層4は、シンチレータ2の内面2a上に形成されている。
【0032】
フィルタ層4を構成する金属構造体41は、例えば、アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、窒化ガリウム(GaN)、aSi(アモルファスシリコン)等によって形成され得る。本実施形態では、金属構造体41は、アルミニウム(Al)によって構成されている。
【0033】
図3は、フィルタ層4を構成する単位格子C1を示している。フィルタ層4は、
図3に示される単位格子C1がX軸方向及びY軸方向に沿って格子状に周期的に配列されることによって構成されたナノ構造体(微細凹凸構造)である。一例として、単位格子C1は、Z軸方向から見て正方形状の領域である。単位格子C1毎に1つの円柱状(円板状)の金属構造体41が形成されている。金属構造体41は、単位格子C1の中央部において、シンチレータ2の内面2aに立設されている。
【0034】
金属構造体41の周期a(すなわち、互いに隣接する2つの金属構造体41の中心間距離(ピッチ)であり、単位格子C1の一辺の長さ)は、フィルタリング対象のシンチレーション光L1,L2の波長よりも短くなるように設定されている。本実施形態では、シンチレーション光L1,L2の波長はそれぞれ300nm,220nmであるため、金属構造体41の周期aは、これらの波長よりも短い値に設定される。周期aは、例えば、150nm~200nmの範囲から選択され得る。金属構造体41の幅d(直径)は、例えば、80nm~140nmの範囲から選択され得る。金属構造体41の高さhは、例えば、30nm~70nmの範囲から選択され得る。金属構造体41の高さは、シンチレータ2の内面2aから金属構造体41の頂面41aまでの長さである。
【0035】
図4は、フィルタ層4の波長毎の透過率(波長と透過率との関係)を示す図である。
図4は、単位格子C1の周期aを150nmとし、金属構造体41の高さhを30nmとし、金属構造体41の幅dを70nm、80nm、90nm、100nmとした場合のシミュレーション結果を示している。
図4において、横軸はフィルタ層4に入射する光の波長(nm)を表し、縦軸はフィルタ層4に入射した光の透過率を示す。
図4に示される透過率は、透過率100%を基準値(=1)とした値を表している。
図4に示されるように、周期a、高さh、及び幅dを上記のように設定することにより、ピーク波長λ1(=300nm)を有するシンチレーション光L1に対する透過率をほぼ0に近い値にできる。一方で、ピーク波長λ2(=220nm)を有するシンチレーション光L2については、一定以上(0.6付近)の透過率を確保することができる。すなわち、周期a、高さh、及び幅dを上記のように設定することにより、シンチレーション光L1を選択的に遮断する(すなわち、シンチレーション光L2を選択的に透過させる)ようにフィルタ層4を構成することができる。
【0036】
図5は、フィルタ層4の波長毎の反射率(波長と反射率との関係)を示す図である。
図5は、単位格子C1の周期aを150nmとし、金属構造体41の高さhを30nmとし、金属構造体41の幅dを70nm、80nm、90nm、100nmとした場合のシミュレーション結果を示している。
図5において、横軸はフィルタ層4に入射する光の波長(nm)を表し、縦軸はフィルタ層4に入射した光の反射率を示す。
図5に示される反射率は、反射率100%を基準値(=1)とした値を表している。
図5に示されるように、周期a、高さh、及び幅dを上記のように設定することにより、ピーク波長λ1(=300nm)を有するシンチレーション光L1に対する反射率を一定以上(0.5以上)にすることができる。一方で、ピーク波長λ2(=220nm)を有するシンチレーション光L2については、反射率を0.2程度の低い値にすることができる。すなわち、周期a、高さh、及び幅dを上記のように設定することにより、シンチレーション光L1を選択的に反射するようにフィルタ層4を構成することができる。
【0037】
図6を参照して、フィルタ層4の作製工程の一例について説明する。まず、シンチレータ2の内面2a上に電子線(EB)レジストRが塗布(成膜)される(ステップS1)。EBレジストRの膜圧は、例えば300nm程度である。続いて、EBリソグラフィにより、EBレジストRに対して、予め設計されたパターンがEB描画される(ステップS2)。具体的には、EBレジストRの一部を除去することにより、金属構造体41が形成される予定の部分に対応する開口Raが形成される。続いて、蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着)により、EBレジストR上にアルミニウム膜40を成膜する(ステップS3)。アルミニウム膜40の膜厚は、例えば30nm程度である。アルミニウム膜40の一部がEBレジストRに形成された開口Ra内に入り込むことにより、開口Ra内におけるシンチレータ2の内面2a上にもアルミニウム膜40が成膜される。続いて、リフトオフ処理により、シンチレータ2上からEBレジストRを除去する(ステップS4)。このとき、EBレジストR上に成膜されたアルミニウム膜40も併せて除去される。その結果、シンチレータ2の内面2a上には、EBレジストRの開口Raに対応する位置に成膜された円柱状のアルミニウム膜40だけが残される。この円柱状のアルミニウム膜40が、上述した金属構造体41に相当する。
【0038】
フィルタ層4(金属構造体41の頂面41a)は、光検出部3Aの光検出面3aと当接していてもよいし、光検出面3aから離間するように配置されてもよい。フィルタ層4を透過したシンチレーション光を効果的に光検出部3Aに取り込む観点からは、フィルタ層4は、光検出面3aと当接(密着)していることが好ましい。ただし、この場合において、フィルタ層4と光検出部3Aの光検出面3aとの間(界面)には、接着剤(接着層)を設けないことが好ましい。接着剤によって検出対象のシンチレーション光(波長220nm帯のシンチレーション光L2)が吸収されることを防止するためである。
【0039】
また、フィルタ層4は、シンチレータ2の内面2a上ではなく、光検出部3Aの光検出面3a上に形成されてもよい。この場合にも、上述した手順と同様の手順によって、フィルタ層4を形成することができる。すなわち、
図6に示した手順における「シンチレータ2の内面2a」を「光検出部3Aの光検出面3a」と読み替えた手順を実行することにより、光検出部3Aの光検出面3a上にフィルタ層4を形成することができる。なお、この場合には、フィルタ層4(金属構造体41の頂面41a)は、シンチレータ2の内面2aと当接していてもよいし、内面2aから離間するように配置されてもよい。フィルタ層4を透過したシンチレーション光を効果的に光検出部3Aに取り込む観点からは、フィルタ層4は、内面2aと当接(密着)していることが好ましい。ただし、この場合においても、上述した理由と同様の理由により、フィルタ層4とシンチレータ2の内面2aとの間(界面)には、接着剤(接着層)を設けないことが好ましい。
【0040】
(作用効果)
以上説明した放射線検出器1Aでは、シンチレータ2によってピーク波長が互いに異なる2つのシンチレーション光L1,L2が生成される。シンチレータ2と光検出部3Aとの間に配置されたフィルタ層4によって、ピーク波長λ1(本実施形態では、300nm)を有するシンチレーション光L1が選択的に遮断される。すなわち、ピーク波長λ2(本実施形態では、220nm)を有するシンチレーション光L2が、光検出部3Aへと選択的に透過させられる。ここで、フィルタ層4は樹脂膜ではなくメタサーフェス構造によって構成されている。メタサーフェス構造によってフィルタ層4を構成することにより、樹脂膜でフィルタ層4を構成する場合と比較して、以下の利点が得られる。すなわち、メタサーフェス構造の形状制御により、シンチレーション光の波長領域及び発光ピークの形状(共鳴ピーク幅等)にかかわらず、樹脂膜でフィルタ層を構成する場合よりも良好なフィルタ性能を得ることができる。すなわち、注目波長の光(ここではピーク波長λ2を有するシンチレーション光L2)を好適に透過させ、注目波長以外の波長の光(ここではピーク波長λ1を有するシンチレーション光L1)を好適に遮断することができる。従って、放射線検出器1Aによれば、シンチレーション光の波長領域及び発光ピークの形状にかかわらず、注目波長の光を好適に検出することが可能となる。
【0041】
フィルタ層4は、表面プラズモンを利用したプラズモニックフィルタである。上記構成によれば、表面プラズモンを利用することにより、シンチレーション光L1,L2の一方(本実施形態では、シンチレーション光L1)を選択的に遮断するフィルタ構造を容易に得ることができる。すなわち、フィルタ層4のメタサーフェス構造(本実施形態では、複数の金属構造体41からなる微小凹凸構造)を、表面プラズモン効果を発揮するように設計することにより、特定の波長帯のシンチレーション光のみを選択的に遮断するフィルタ層4を得ることができる。
【0042】
フィルタ層4は、周期的に配列された複数の柱状の金属構造体41を有する。上記構成によれば、シンチレーション光L1,L2の一方(本実施形態では、シンチレーション光L1)を選択的に遮断するフィルタ構造を、複数の金属構造体41の配置(周期a)、並びに金属構造体41の幅d及び高さhを調整することにより、容易に得ることができる。
【0043】
金属構造体41は、円柱状のアルミニウムによって構成されている。上記構成によれば、円柱状のアルミニウムの径(幅d)及び高さhを調整することにより、シンチレーション光L1を選択的に遮断するためのフィルタ設計を容易に行うことが可能となる。
【0044】
シンチレーション光L1の減衰時間t1は、シンチレーション光L2の減衰時間t2よりも長い。すなわち、放射線検出器1では、フィルタ層4は、互いに異なる減衰時間t1,t2を有する2つのシンチレーション光L1,L2のうち、減衰時間が長い方のシンチレーション光L1を選択的に遮断するように構成されている。上記構成によれば、光検出部3Aにおいて減衰時間が短い方のシンチレーション光L2のみを検出することが可能となる。これにより、放射線検出器1Aの時間分解能を向上させることができる。特に、本実施形態では、シンチレータ2としてBaF2が使用されており、2つのシンチレーション光L1,L2の減衰時間t1,t2間に約1000倍程度の非常に大きい差(すなわち、t1/t2≒1000)が存在する。ここで、シンチレーション光L2と共に一定以上の光量のシンチレーション光L1が光検出部3Aにおいて検出されると、減衰するまでの時間が長いシンチレーション光L1の影響によって、時間分解能が悪化してしまう。一方、本実施形態のように、フィルタ層4によってシンチレーション光L1を遮断し、減衰時間が短い方のシンチレーション光L2を選択的に光検出部3Aへと導くことにより、上述した時間分解能の悪化を抑制することができる。
【0045】
フィルタ層4は、シンチレータ2により生成されたシンチレーション光L1をシンチレータ2側に選択的に反射させる。上記構成によれば、光検出部3A側へと抜けるシンチレーション光L1の量を効果的に低減できるため、光検出部3Aにおいてシンチレーション光L2のみをより一層好適に検出することが可能となる。
【0046】
光検出部3Aは、固体撮像素子である。上記構成によれば、シンチレータ2及びフィルタ層4を固体撮像素子である光検出部3Aに対する外付け部材として配置する構成において、上述した放射線検出器1Aの効果を発揮することができる。すなわち、既存の固体撮像素子に対してシンチレータ2及びフィルタ層4を設けることにより、上述した効果を発揮する放射線検出器1Aを得ることができる。
【0047】
[第2実施形態]
図7に示されるように、第2実施形態の放射線検出器1Bは、光検出部3Aの代わりに光検出部3Bを備える点において、放射線検出器1Aと相違している。放射線検出器1Bの他の構成は、放射線検出器1Aと同様である。光検出部3Bは、マイクロチャンネルプレートを内蔵した光電子増倍管10(いわゆる、MCP-PMT(Microchannel plate photomultiplier tube)によって構成されている。光電子増倍管10は、真空の内部空間Sを有する電子管である。光電子増倍管10は、光入射窓11、光電面12、筒部材13、及びMCP(マイクロチャンネルプレート)14を有する。
【0048】
光入射窓11は、シンチレータ2により生成されたシンチレーション光が入射する部材である。光入射窓11は、例えば、円柱状に形成されている。光入射窓11は、筒部材13の一方の開口端(シンチレータ2側の開口端)を気密に封止するように設けられている。光入射窓11は、例えば、MgF2(フッ化マグネシウム、合成石英等によって形成されている。フィルタ層4は、シンチレータ2の内面2aと光入射窓11の外面である光入射面11aとの間に配置されている。フィルタ層4(複数の金属構造体41)は、シンチレータ2の内面2a上に形成されてもよいし、光入射窓11の光入射面11a上に形成されてもよい。
【0049】
光電面12は、光入射窓11の内面11b(内部空間S側の面)に設けられている。フィルタ層4を光入射面11a上に形成する場合には、光入射面11a上にフィルタ層4を形成した後に内面11b上に光電面12を成膜すればよい。光電面12は、いわゆる透過型光電面である。すなわち、光電面12は、光入射窓11側から光が入射された場合に、内部空間S側から光電子を放出する。光電面12は、例えば、アルカリ金属を含んで形成されている。光電面12の材料としては、例えば、アルカリ-アンチモン等が挙げられる。光電面12は、陰極を構成する。
【0050】
筒部材13は、光電子増倍管10の側管の少なくとも一部を構成する。筒部材13には、MCP14及び陽極(不図示)が収容されている。MCP14は、光電面12から放出された光電子を入力し、当該光電子を増倍させる。陽極は、MCP14で増倍された光電子を収集し、外部へ電気信号として取り出す。
【0051】
第2実施形態によれば、シンチレータ2及びフィルタ層4を電子管(ここでは一例として光電子増倍管)である光検出部3Bに対する外付け部材として配置する構成において、上述した放射線検出器1Aと同様の効果を発揮することができる。すなわち、既存の電子管に対してシンチレータ2及びフィルタ層4を設けることにより、上述した効果を発揮する放射線検出器1Bを得ることができる。
【0052】
[第3実施形態]
図8に示されるように、第3実施形態の放射線検出器1Cは、光電子増倍管10C(電子管)として構成されている。放射線検出器1Cでは、シンチレータ2は光電子増倍管10Cの光入射窓であり、光検出部3Cは光電面12である。すなわち、上述した放射線検出器1Bでは、シンチレータ2及びフィルタ層4は光電子増倍管である光検出器(光検出部3B)に対する外付け部材として構成されていたが、放射線検出器1Cでは、シンチレータ2及びフィルタ層4は光電子増倍管である光検出器(光電子増倍管10C)に内蔵されている。
【0053】
放射線検出器1Cでは、放射線検出器1A,1Bと同様に、フィルタ層4(複数の金属構造体41)が、シンチレータ2の内面2a上に形成されている。さらに、放射線検出器1Cでは、保護膜15が、フィルタ層4と光電面12(光検出部3C)との間に設けられている。保護膜15は、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)によって形成される。保護膜15は、シンチレータ2の材料と光電面12との反応を遮るバリア層として機能する。
【0054】
保護膜15は、例えば、
図6に示したステップS4(リフトオフ処理)の後に、複数の金属構造体41が形成されたシンチレータ2の内面2aに対して、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)等でAl
2O
3膜を成膜することによって形成される。保護膜15は、シンチレータ2の内面2a上(金属構造体41が設けられていない部分)を覆うと共に、金属構造体41の頂面41aを覆うように形成される。すなわち、保護膜15の厚さ(内面2aからの高さ)は、金属構造体41の高さh(
図3参照)よりも大きい。保護膜15の厚さは、例えば、「金属構造体41の高さh+1nm」~「金属構造体41の高さh+5nm」程度である。例えば、金属構造体41の高さhが30nmである場合、保護膜15の厚さは、31nm~35nm程度である。
【0055】
光電面12は、保護膜15の表面15a(シンチレータ2の内面2a側とは反対側の表面)の縁部を除いた中央部に設けられている。また、筒部材13の一方の開口端(シンチレータ2側の開口端)は、保護膜15の表面15aの縁部に対して気密に接合されている。
【0056】
第3実施形態によれば、シンチレータ2及びフィルタ層4を電子管(本実施形態では一例として、光電子増倍管)内に内蔵することにより、シンチレータ2及びフィルタ層4を電子管の外付け部材として構成する場合と比較して、放射線検出器1C全体のサイズを小型化することができる。また、検出光(シンチレーション光L2)を効率良く光電面12へと導くことができる。また、上記構成において、フィルタ層4と光電面12(光検出部3C)との間に設けられた保護膜によって、シンチレータ2と光電面12との化学反応を適切に防止することができる。
【0057】
[第4実施形態]
図9に示されるように、第4実施形態の放射線検出器1Dは、光吸収層5を更に備える点において、第1実施形態の放射線検出器1Aと相違している。放射線検出器1Dの他の構成は、放射線検出器1Aと同様である。第1実施形態で説明したように、シンチレータ2は、光検出部3Aに対向する内面2a(第1面)を有すると共に、光検出部3Aに対向しない外面2b(第2面)及び側面2c(第2面)を有する。光吸収層5は、この第2面の少なくとも一部(本実施形態では一例として、外面2b及び側面2cの全体)に設けられている。光吸収層5は、フィルタ層4によって反射されたシンチレーション光L1を吸収する。光吸収層5は、例えば、外面2b及び側面2cに貼着されたブラックテープである。
【0058】
第4実施形態によれば、フィルタ層4によって反射されたシンチレーション光L1を光吸収層5で吸収することにより、当該シンチレーション光L1が再度フィルタ層4に向かって入射することを抑制することができる。これにより、光検出部3Aにおいてシンチレーション光L2のみをより一層好適に検出することが可能となる。例えば、フィルタ層4は、特定の入射角度(特定の入射角度の範囲)で入射するシンチレーション光L1を好適に遮断(反射又は吸収)するように設計され得る。仮に、上記特定の入射角度でフィルタ層4に入射してフィルタ層4によって反射されたシンチレーション光L1が、上記特定の入射角度とは異なる入射角度でフィルタ層4へと戻ってきた場合、当該シンチレーション光L1(戻り光)がフィルタ層4を透過してしまうおそれがある。上記のような光吸収層5を設けることにより、上記のような戻り光の発生を抑制することができる。
【0059】
[第5実施形態]
図10に示されるように、第5実施形態の放射線検出器1Eは、シンチレータ2の外面2bにおいて、光吸収層5の代わりに光検出部6(第2光検出部)を備える点において、第4実施形態の放射線検出器1Dと相違している。放射線検出器1Eの他の構成は、放射線検出器1Dと同様である。光検出部6は、光検出部6の光検出面6aがシンチレータ2の外面2bに対向するようにして配置される。光検出部6の種類は特に限定されないが、一例として、光検出部6はSiPMによって構成され得る。
【0060】
第5実施形態によれば、フィルタ層4によって反射されたシンチレーション光L1を光検出部6によって検出することが可能となる。これにより、例えば、シンチレーション光L1よりも減衰時間が短いシンチレーション光L2を光検出部3Aで検出することによって時間分解能の向上を図ると共に、シンチレーション光L1よりも減衰時間が長い代わりに発光量がシンチレーション光L2よりも大きいシンチレーション光L1を光検出部6で検出することで、全体として十分な検出光量を確保することが可能となる。これにより、放射線検出器1Eの検出精度を向上させることが可能となる。すなわち、シンチレーション光L1,L2を光検出部3A,6で別々に検出することにより、時間分解能の向上と検出光量の確保とを両立させることが可能となる。より具体的には、光検出部3Aによって時間情報を取得し、光検出部6によって時間情報以外の情報(例えば、放射線のエネルギー、種類等)に関する情報を取得することが可能となる。このように各光検出部3A,6の役割を明確に分けることができるため、後段の信号処理を簡単化することができる。
【0061】
[第6実施形態]
図11に示されるように、第6実施形態の放射線検出器1Fは、シンチレータ2と光検出部6との間に配置されたフィルタ層7(第2フィルタ層)を更に備える点において、第5実施形態の放射線検出器1Eと相違している。放射線検出器1Fの他の構成は、放射線検出器1Eと同様である。フィルタ層7は、シンチレーション光L1を選択的に透過させるように構成されている。すなわち、フィルタ層7は、シンチレーション光L2を選択的に遮断するように構成されている。本実施形態では、フィルタ層7は、フィルタ層4の複数の柱状体(金属構造体41)に対応する複数のホール71aによって構成されている。すなわち、フィルタ層7は、フィルタ層4の金属構造体41(凸部)と金属構造体41間の空間(金属構造体41が設けられていない空間)(凹部)とを反転させた構造を有している。より具体的には、フィルタ層7は、フィルタ層4における複数の金属構造体41のように格子状に配置された複数の円柱状のホール71a(凹部)を有する金属構造体71によって形成されている。
【0062】
図12は、フィルタ層7を構成する単位格子C2を示している。フィルタ層7は、
図12に示される単位格子C2がX軸方向及びY軸方向に沿って格子状に周期的に配列されることによって構成されたナノ構造体(微細凹凸構造体)である。一例として、単位格子C2は、Z軸方向から見て正方形状の領域である。単位格子C2毎に1つの円柱状(円板状)のホール71aが形成されている。ホール71aは、単位格子C2における金属構造体71の中央部に設けられている。
【0063】
ホール71aの周期a2(すなわち、互いに隣接する2つのホール71aの中心間距離(ピッチ)であり、単位格子C2の一辺の長さ)は、上述したフィルタ層4の周期aと同様に、フィルタリング対象のシンチレーション光L1,L2の波長よりも短くなるように設定されている。すなわち、シンチレーション光L1,L2の波長はそれぞれ300nm,220nmであるため、ホール71aの周期a2は、これらの波長よりも短い値に設定される。周期a2は、例えば、150nm~200nmの範囲から選択され得る。ホール71aの幅d2(直径)は、上述した金属構造体41の幅dと同様に、例えば、80nm~140nmの範囲から選択され得る。ホール71aの高さh2(深さ)は、上述した金属構造体41の高さhと同様に、例えば、30nm~70nmの範囲から選択され得る。ホール71aの高さh2は、シンチレータ2の外面2bから金属構造体71の頂面71bまでの長さである。
【0064】
第6実施形態によれば、シンチレータ2の外面2b側へと向かうシンチレーション光L2の成分がフィルタ層7で遮断されるため、光検出部6において、シンチレーション光L1のみを好適に検出することが可能となる。また、フィルタ層7は、メタサーフェス構造を有する。この場合、フィルタ層4と同様のメタサーフェス構造を採用することにより、フィルタ層7を好適に設計及び製造することができる。また、フィルタ層7は、フィルタ層4の複数の金属構造体41に対応する複数のホール71aによって構成されている。上記構成によれば、バビネ原理に基づいて、フィルタ層4とは反対の性質を有するフィルタ層7を容易に設計及び製造することができる。すなわち、フィルタ層7が有するメタサーフェス構造を、フィルタ層4が有するメタサーフェス構造に対応する形状(すなわち、ネガティブ(凹部分)とポジティブ(凸部分)とについて、フィルタ層4のメタサーフェス構造と反転関係にある形状)とすることにより、シンチレーション光L2を選択的に遮断する性質を有するフィルタ層7を容易且つ確実に形成することができる。
【0065】
[放射線検出装置]
図13に示されるように、一実施形態の放射線検出装置50は、第1実施形態の放射線検出器1Aを複数配列したガントリ51を備える。放射線検出装置50は、例えば、陽電子放射断層撮像装置(TOP-PET)である。ガントリ51は、円環状(ドーナツ形状)を呈している。この例では、複数の放射線検出器1Aが、ガントリ51の全周に亘って円状に配置されている。各放射線検出器1Aは、シンチレータ2がガントリ51の中心側に位置すると共に光検出部3Aがガントリ51の外側に位置するように、配置されている。
【0066】
ガントリ51には、図示しない寝台等の上に横たわった被検者100(患者)の身体の一部又は全体を侵入させるための開口部が設けられている。被検者100には予め陽電子放出核種を含む放射性薬剤が投与されている。放射線検出器1Aは、被検者100から放出される対消滅ガンマ線を検出する。
【0067】
上述した構造を有する放射線検出器1Aを用いて放射線検出装置50を構成することにより、上述した放射線検出器1Aの効果を発揮することが可能な放射線検出装置50を得ることができる。
【0068】
[変形例]
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限られない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。
【0069】
例えば、第2実施形態において、MCP-PMTによって光検出部3Bを構成する形態を示したが、光検出部は、上記以外の電子管によって構成されてもよい。すなわち、光検出部は、MCP-PMT以外の種類の光電子増倍管によって構成されてもよいし、電子増倍機能を有さない光電管(光電変換管)によって構成されてもよい。
【0070】
また、上記実施形態(例えば、第一実施形態)では、フィルタ層4は、2つのシンチレーション光L1,L2のうち、ピーク波長が大きい方のシンチレーション光L1を選択的に遮断するように構成されたが、ピーク波長が小さい方のシンチレーション光L2を選択的に遮断するように構成されてもよい。この場合、光検出部3Aにおいて、ピーク波長が大きい方のシンチレーション光L1のみを好適に検出することが可能となる。また、上記実施形態では、フィルタ層4は、2つのシンチレーション光L1,L2のうち、減衰時間が長い方のシンチレーション光L1を選択的に遮断するように構成されたが、減衰時間が短い方のシンチレーション光L2を選択的に遮断するように構成されてもよい。この場合、光検出部3Aにおいて、減衰時間が長い方のシンチレーション光L1のみを好適に検出することが可能となる。
【0071】
また、上述した一の実施形態又は変形例における一部の構成は、他の実施形態又は変形例における構成に任意に適用することができる。例えば、第4実施形態の放射線検出器1Dにおいて、光検出部3Aの代わりに他の実施形態の光検出部(例えば、第2実施形態の放射線検出器1Bの光検出部3B)が適用されてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F…放射線検出器、2…シンチレータ、2a…内面(第1面)、2b…外面(第2面)、2c…側面(第2面)、3A,3B,3C…光検出部、4…フィルタ層、5…光吸収層、6…光検出部(第2光検出部)、7…フィルタ層(第2フィルタ層)、10,10C…光電子増倍管(電子管)、11…光入射窓、12…光電面、15…保護膜、41…金属構造体、50…放射線検出装置、51…ガントリ、71…金属構造体、71a…ホール、L1…シンチレーション光(第1シンチレーション光)、L2…シンチレーション光(第2シンチレーション光)、λ1…ピーク波長(第1ピーク波長)、λ2…ピーク波長(第2ピーク波長)。