IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人秋田大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

特開2022-184058銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法
<>
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図1
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図2
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図3
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図4
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図5
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図6
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図7
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図8
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図9
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図10
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図11
  • 特開-銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184058
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20221206BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20221206BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C22C9/00
C22F1/08 B
C22F1/00 602
C22F1/00 630A
C22F1/00 630F
C22F1/00 630K
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 691Z
C22F1/00 630C
C22F1/00 623
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091681
(22)【出願日】2021-05-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウェブサイトにおいて発表 掲載アドレス:https://www.jstage.jst.go.jp/article/matertrans/61/10/61_MT-M2020149/_pdf/-char/en 上記掲載アドレスにてダウンロードされるMaterials Transactions,Vol.61,No.10(2020)、第1912-1921頁 掲載年月日:令和2年9月25日
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 牧生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】千星 聡
(72)【発明者】
【氏名】早坂 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹中 佳生
(57)【要約】
【課題】機械的強度と電気伝導性を向上させた銅―チタン―マグネシウム合金とその製造方法を提供する。
【解決手段】Cu、Ti、およびMgを含む銅―チタン―マグネシウム合金であって、Tiの原子パーセントは1.7at%~4.1at%であり、Mgの原子パーセントは0.7at%~2.0at%であり、残部がCu及び不可避的不純物からなり、原子パーセントの合計が100at%である銅―チタン―マグネシウム合金とその製造方法である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu、Ti、およびMgを含む銅―チタン―マグネシウム合金であって、Tiの原子パーセントは1.7at%~4.1at%であり、Mgの原子パーセントは0.7at%~2.0at%であり、残部がCu及び不可避的不純物からなり、原子パーセントの合計が100at%である銅―チタン―マグネシウム合金
【請求項2】
引張強度が550MPa以上であり、破断伸びが15%以上、である、請求項1に記載の銅―チタン―マグネシウム合金
【請求項3】
Tiの原子パーセントは1.7at%~4.1at%であり、Mgの原子パーセントは0.7at%~2.0at%であり、残部がCu及び不可避的不純物からなり、原子パーセントの合計が100at%である銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法であって、鋳造工程と、均質化処理工程と、冷間圧延処理工程と、溶体化処理工程と、時効処理工程と、を有する銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法
【請求項4】
前記時効処理工程の時効処理温度が350℃~550℃で、前記時効処理温度の保持時間が1h~100hである、請求項3に記載の銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、銅―チタン―マグネシウム合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の自動車技術やコンピュータ技術は、電子部品や電気機械部品の小型化が進んでおり、それに伴って高性能な導電材料の開発が求められている。さらに、従来、商業的に広く利用されてきた銅ベリリウム合金にかわる毒性がなく環境にやさしい材料であることも所望されている。その中で、用途に応じて機械的強度と電気伝導性のバランスが取れ、優れた曲げ加工性および対応力緩和性が同時に具備された銅系合金が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、500℃未満の温度の水素雰囲気中で時効処理することで、チタン銅合金に水素を含有させ、銅より高い強度と従来のチタン銅合金より高い導電性とを発揮する銅―チタン―水素合金が開示されている。また、非特許文献1では、チタン銅合金を水素中で時効熱処理することによって、不連続析出物の生成が大幅に抑制されるに加え、水素化チタンの析出の活性に伴って母相でのチタン固溶量が減少し、これが導電率の大幅な向上に資すると報告されている。
【0004】
特許文献2では、機械的強度と電気伝導性の向上ために、銅(Cu)、チタン(Ti)、およびマグネシウム(Mg)の質量パーセントを、それぞれ93%~97%、2%~4%、1%~3%とした銅―チタン―マグネシウム合金とその製造方法が開示されている。また、非特許文献2では、銅―チタン―マグネシウム合金の微細構造と特性にもたらす冷間圧延と時効処理の影響について報告されている。
【0005】
さらに、本発明者らは、日本銅学会第59回講演大会において銅―チタン―マグネシウム系合金の時効挙動と時効析出組織とについて発表している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-222623号公報
【特許文献2】中国特許第108642317号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】千星聡,他4名,“水素中時効によるCu-Ti合金中不連続析出物生成の抑制”,日本銅学会誌 銅と銅合金,社団法人日本伸銅協会,2018年,第57巻,第1号P.249-253
【非特許文献2】Cong Li, et.al., “Effect of cold rolling and aging treatment on the microstructure and properties of Cu-3Ti-2Mg alloy”, Journal of Alloys and Compounds, 2020, Vol. 818, Article 152915
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図1は、チタン銅合金における不連続析出物について模式的に示した図である。一般的な時効硬化型のチタン銅合金は、3at%~5at%程度のTiを含有し、溶体化後に時効処理を施すことにより製造されている。時効処理初期では、Cu 母相(過飽和固溶体相)内で微細な準安定相β’-CuTi(正方晶)が高密度に連続析出するが、時効時間の経過に伴い、微細β’-CuTiの連続析出と競合して、粗大な板状の安定相β-CuTi(斜方晶)とα-Cu固溶体相とが積層したラメラ組織が結晶粒界を起点に不連続析出する。さらに、過時効では、板状β-CuTiを含むラメラ組織が発達し、Cu母相中の平均固溶Ti量の低減による導電率の向上と微細β’-CuTiの低減による強度低下とが発現することが知られている。
【0009】
そこで、本発明は上記実情を鑑み、高水準の機械的強度と電気伝導性とのバランスに加え、高強度(引張強度)と高延性(破断伸び)とを具備する銅―チタン―マグネシウム合金とその製造方法とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明は、Cu、Ti、およびMgを含む銅―チタン―マグネシウム合金であって、Tiの原子パーセントは1.7at%~4.1at%であり、Mgの原子パーセントは0.7at%~2.0at%であり、残部がCu及び不可避的不純物からなり、原子パーセントの合計が100at%である銅―チタン―マグネシウム合金である。
【0011】
第1の本発明の銅―チタン―マグネシウム合金は、引張強度が550MPa以上であり、破断伸びが15%以上であることが好ましい。
【0012】
第2の本発明は、Tiの原子パーセントは1.7at%~4.1at%であり、Mgの原子パーセントは0.7at%~2.0at%であり、残部がCu及び不可避的不純物からなり、原子パーセントの合計が100at%である銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法であって、鋳造工程と、均質化処理工程と、冷間圧延処理工程と、溶体化処理工程と、時効処理工程と、を有する銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法である。
【0013】
第2の本発明の銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法は、時効処理工程の時効処理温度が350℃~550℃で、前記時効処理温度の保持時間が1h~100hであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本開示の銅―チタン―マグネシウム合金とその製造方法によれば、高水準の機械的強度と電気伝導性とのバランスに加え、高強度(引張強度)と高延性(破断伸び)とを具備することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】チタン銅合金における不連続析出物について模式的に示した図である。
図2】本発明の実施形態にかかる銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法S1の工程を示す図である。
図3】本発明の実施形態にかかる銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法において、該合金の加工熱処理を示す図である。
図4】各種合金の等温時効に伴う硬化曲線と導電率変化の結果を示す図である。
図5】各種合金の時効ピーク材の応力―ひずみ曲線の一例を示す図である。
図6】各種合金の過時効材のSEM像と過時効軟化の要因である不連続析出物の拡大図である。
図7】Cu-4Tiの過時効材の不連続析出物に対して、異相界面を含む局所領域を捉えたHAADF-STEM像である。
図8】FIB加工法による不連続析出物の抽出の一例を示す図である。
図9】Cu-4Ti-2Mgの過時効材における不連続析出物のSTEM/EDS分析結果を示す図である。
図10図9の一部領域を対象に高倍率の検鏡下で取得したSTEM/EDS分析結果を示す図である。
図11】Cu-4Ti-2Mgの過時効材における不連続析出物内外の局部領域から得られた電子回折像である。
図12】Cu-4Ti-2Mgの過時効材における不連続析出物の異相界面を含む局部領域を捉えた高分解能ABF-STEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[銅―チタン―マグネシウム合金]
本開示の銅―チタン―マグネシウム合金は、Tiの原子パーセントは1.7at%~4.1at%であり、Mgの原子パーセントは0.7at%~2.0at%であり、残部がCu及び不可避的不純物からなり、原子パーセントの合計が100at%である銅―チタン―マグネシウム合金である。
【0017】
また上記組成の銅―チタン―マグネシウム合金によれば、耐力は、400Pa以上、より好ましくは450Pa以上、さらに好ましくは610Pa以上となり、また、引張強度は550MPa以上、より好ましくは600MPa以上、さらに好ましくは780MPa以上となり、破断伸びは15%以上、より好ましくは19%以上、さらに好ましくは20%以上となる。
【0018】
強度、耐応力緩和特性、曲げ加工性等の向上の観点から、銅―チタン―マグネシウム合金におけるTiの原子パーセントは1.7at%~4.1at%が好ましく、その下限は1.9at%以上がより好ましく、3.8at%以上がさらに好ましく、4.0at%に近い値がよりさらに好ましい。
【0019】
時効処理における不連続析出物の生成抑制等の観点から、銅―チタン―マグネシウム合金におけるMgの原子パーセントは0.7at%~2.0at%が好ましく、0.9at%~2.0at%がより好ましく、1.6at%~2.0at%がさらに好ましく、2.0at%に近い値がよりさらに好ましい。不連続析出物の抑制から、異相界面が減少し、応力集中の発生箇所が低減するため、延性向上につながる。
【0020】
時効処理後の導電率の向上等の観点から、Tiの原子パーセントとMgの原子パーセントとの合計は少なくしてもよい。銅―チタン―マグネシウム合金におけるTiの原子パーセントとMgの原子パーセントとの合計は、2.4at%~5.7at%であってもよい。
【0021】
[銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法]
図2は、1つの形態にかかる銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法S1の工程を示す図である。図2に示されるように、銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法S1は、溶解工程S10、均質化処理工程S20、冷間圧延処理工程S30、溶体化処理工程S40、および時効処理工程S50を含む。また、図3は、銅―チタン―マグネシウム合金の製造方法において、該合金の加工熱処理を示す図である。
【0022】
工程S10は、Cu、Ti、およびMgの混合物を溶解する溶解工程である。Cu、Ti、およびMgは、上述した原子パーセントを満たしていれば、公知の原料金属から制限なく溶解することができ、例えば原料金属は、Cu、Ti、マグネシウム銅等が挙げられる。
【0023】
工程S10は、公知の溶解工程を制限なく用いることができ、例えば、融解方法はアーク溶解、高周波誘導加熱溶解等が、融解雰囲気は高真空下、不活性ガス中(Ar、He)等が、るつぼはアルミナ製セラミック等が用いられる。さらに、融解後に銅製鋳型等に出湯し、合金インゴットが作製される。
【0024】
工程S10で用いられるCu、Ti、およびMgの純度は、それぞれ99.9%(3N)以上であり、99.99%(4N)以上が好ましい。
【0025】
工程S20は、工程S10で溶解された合金インゴットの均質化処理工程である。工程S20は、公知の均質化処理工程を制限なく用いることができる。工程S20では、溶解・鋳造後に現れる内部組織の不均一性解消の観点から、均質化処理温度の最適値は合金組成によって異なるが、例えば、730℃~950℃の範囲内でかつ液相線温度を超えない一定温度に設定するのが好ましく、800℃~950℃であってもよく、均質化処理温度の保持時間は0.1h~2hであってもよく、0.3h~1hであってもよく、0.5h前後であってもよい。
【0026】
工程S30は、工程S20で均質化処理された合金インゴットの冷間圧延処理工程である。工程S30は、公知の冷間圧延処理工程を制限なく用いることができるが、例えば、室温で圧下量を制御し、複数パスで圧延を行う冷間圧延処理工程が挙げられる。工程S30の圧下率は、再結晶による結晶粒微細化の観点から、80%~90%でもよく、90%以上が好ましい。冷間圧延1パスあたりの圧下量は、例えば、0.1mm~0.4mmであってもよく、0.2mm~0.3mmであってもよい。
【0027】
工程S40は、工程S30で冷間圧延処理された合金インゴットの溶体化処理工程である。工程S40は、公知の溶体化処理工程を制限なく用いることができる。工程S40では、Cuに対するMgとTiの過飽和固溶体化の観点から、溶体化処理温度は800℃~900℃が好ましく、830℃~870℃がより好ましく、850℃前後がさらに好ましく、溶体化処理温度の保持時間は0.1h~2hであってもよく、0.3h~1hであってもよく、0.5h前後であってもよい。なお、溶体化処理された合金インゴットを以下SS材という。SS材の水焼入れを行う、水焼入れ水温度は、例えば、20℃~30℃程度である。
【0028】
工程S50は、工程S40でSS材の時効処理工程である。工程S50は、公知の時効処理工程を制限なく用いることができる。工程S50の時効処理温度は、Cu-Ti固溶体の析出硬化の活性化とCu-Mg固溶体の安定化を両立する温度を設定する観点から、350℃~550℃が好ましく、400℃~500℃がより好ましく、430℃~470℃がさらに好ましく、450 ℃程度が極好ましく、時効処理温度の保持時間は1h~100hが好ましく、2h~20hがより好ましく、5h~15h程度がさらに好ましく、10h程度が極好ましい。時効処理工程は、例えば大気中で施される。なお、時効硬化のピークに達した時効ピーク材を以下PA材という。
【実施例0029】
以下実施例に基づいて、本開示についてさらに説明する。ただし、本開示は実施例に限定されるものではない。
【0030】
[Cu-Ti-Mg合金の製造]
実施例1~実施例4となる銅―チタン―マグネシウム合金4種類および比較例1となるMg無添加のチタン銅合金を作製した。表1に実施例1~実施例4および比較例1の合金インゴットの公称組成と分析組成を示す。
【0031】
【表1】
【0032】
<実施例1>
Cu(純度4N)、Ti(純度3N)、Mg(純度3N)をアルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱して溶解し、Cu、Ti、Mgの公称組成をそれぞれ97at%、2 at%、1 at%とした合金インゴットを作製した。なお、溶解された合金インゴットは、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)によって、実際の組成を分析した結果、Cu、Ti、Mgの分析組成はそれぞれ97.6at%、1.7at%、0.7at%であった。以下、実施例1の組成の銅―チタン―マグネシウム合金をCu-2Ti-1Mgという。
均質化処理工程において、均質化処理温度を730℃、その保持時間を2hとした。その後、1mmの厚さに圧下率90%で冷間圧延し(冷間圧延1パスあたりの圧下量は0.25mm)、溶体化処理工程においては溶体化処理温度850℃、その保持時間0.5hとし、水焼入れを行った。時効処理工程において、均質化処理温度を450℃、その保持時間を10hとした。
【0033】
<実施例2>
Cu、Ti、Mgの公称組成をそれぞれ95at%、2 at%、3at%とした以外は実施例1と同様の方法で作製した。なお、Cu、Ti、Mgの分析組成はそれぞれ96.1at%、1.9at%、2.0at%であった。以下、実施例2の組成の銅―チタン―マグネシウム合金をCu-2Ti-2Mgという。
【0034】
<実施例3>
Cu、Ti、Mgの公称組成をそれぞれ95at%、4at%、1at%とした以外は実施例1と同様の方法で作製した。なお、Cu、Ti、Mgの分析組成はそれぞれ95.3at%、3.8at%、0.9at%であった。以下、実施例3の組成の銅―チタン―マグネシウム合金をCu-4Ti-1Mgという。
【0035】
<実施例4>
Cu、Ti、Mgの公称組成をそれぞれ93at%、4at%、3at%とし、均質化のための処理を均質化処理温度950℃、0.5hとした以外は実施例1と同様の方法で作製した。なお、Cu、Ti、Mgの分析組成はそれぞれ94.3at%、4.1at%、1.6at%であった。以下、実施例4の組成の銅―チタン―マグネシウム合金をCu-4Ti-2Mgという。
【0036】
<比較例1>
Mgを無添加とし、Cu、Tiの公称組成をそれぞれ96at%、4at%とした以外は実施例1と同様の方法で作製した。なお、Cu、Tiの分析組成はそれぞれ95.8at%、4.2at%であった。以下、比較例1の組成のチタン銅合金をCu-4Tiという。
【0037】
ICP-MSの結果、実施例1~実施例4の合金インゴット中のMgの分析組成は対応する公称組成よりも低かった。この分析組成と公称組成との誤差は、誘導加熱中にMgが過剰に気化したこと等に起因すると考えられる。
【0038】
[ビッカース硬さ試験ならびに電気抵抗測定]
Cu-2Ti-1Mg、Cu-2Ti-2Mg、Cu-4Ti-1Mg、Cu-4Ti-2Mg、およびCu-4TiのSS材を、大気中において450℃で最大100時間の時効処理を施しながら、ビッカース硬さ試験ならびに電気抵抗測定を実施した。ビッカース硬さ試験は、マイクロビッカース硬さ試験機(松沢製作所)を用いて、室温下で、0.1kgfの荷重をかけて行った。そして、10個以上の圧痕から平均のビッカース硬さを算出した。また、導電率は直流定電流四端子法を用いて電気抵抗値を室温にて測定し算出した。
【0039】
図4に、Cu-2Ti-1Mg、Cu-2Ti-2Mg、Cu-4Ti-1Mg、Cu-4Ti-2Mg、およびCu-4Tiの等温時効に伴う硬化曲線と導電率変化の結果を示す。図4において、縦軸はビッカース硬さHv値(右側)と導電率%IACS(左側)、横軸は両物性値に対して共通の時効時間を表している。
【0040】
図4に示すように、Cu-4Ti、Cu-4Ti-1Mg、およびCu-4Ti-2MgのHv値は、Cu-2Ti-1MgおよびCu-2Ti-2Mgよりも大きく、時効による硬化はMgの含有量の変化よりもTiの含有量の変化による影響が大きいことが示唆される。また、Tiの原子パーセントが同じである、Cu-4Ti、Cu-4Ti-1Mg、およびCu-4Ti-2Mgでは、Mgの含有量が増加すると、Hv値が高くなった。なお、各Hv値は、時効時間と共に増加し、その後、時効時間が約10時間で幅広いピークに達し、さらに時効時間が長くなると最終的には低下し、過時効軟化に転じるという時効挙動を示した。
【0041】
また、導電率は、合金中のTiおよびMgの含有量が減少するにしたがい低くなり、その傾向はMgよりTiにおいて顕著であり、各%IACSは、時効時間の経過に伴い、5%IACS~22%IACS程度の範囲で増加し続け、その値はノルトハイムの法則において、TiとMgとは相互に固溶せずCuの導電率に独立に影響を与えると仮定して推定される値とおおむね一致していた。
【0042】
図4に示すように、本開示の銅―チタン―マグネシウム合金は、Mgを添加していないTiの原子パーセントが同じチタン銅合金に比べて%IACSはわずかに低いものの、Hv値は高い水準で得られた。
【0043】
[引張試験]
引張試験は、断面が5mm×1mm、ゲージ長が10mmのCu-2Ti-1Mg、Cu-2Ti-2Mg、Cu-4Ti、およびCu-4Ti-2MgのSS材およびPA材を用い、室温で破断するまで行った。なお、ビデオカメラを備えた荷重試験機(島津製作所製 AG-IS)を用い、荷重試験機の荷重軸は試験片の圧延方向と平行に設定し、ひずみ速度は1×10-3[s-1]とした。
【0044】
表2に、引張試験の結果から得られた各SS材および各PA材の機械的性質の物性値を示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示されるように、時効処理によって、耐力および引張強度が向上し、破断伸びが低下している。Cu-2Ti-1Mg、Cu-2Ti-2Mg、およびCu-4Ti-2MgのPA材によれば、耐力が400Pa以上、引張強度が550MPa以上、破断伸びが15%以上を実現できる。中でも、Cu-4Ti-2MgのPA材では、耐力が645.0MPa、引張強度が811.1MPa、破断伸びが25.0%となり、Mgを添加していないTiの原子パーセントが同じチタン銅合金に比べて、ビッカース硬さ、引張強度、破断伸びが高い水準で得られ、優れた機械的性能を示していることがわかる。
【0047】
図5に、Cu-2Ti-1Mg、Cu-2Ti-2Mg、Cu-4Ti、およびCu-4Ti-2MgのPA材に対して実施した引張試験から作成した応力-ひずみ曲線を示す。図5より、引張強度の向上においては、Mgの添加よりもTiの添加の影響が顕著であり、破断伸びの向上においては、Tiの添加よりもMgの添加の影響が顕著である傾向がみられる。すなわち、チタン銅合金に適量のMg(例えば、図5においては1at%~2at%)が添加されることにより、変形抵抗が高まるとともに延性が向上する。
【0048】
[電子顕微鏡観察]
走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)/走査透過型電子顕微鏡(STEM)、エネルギー分散型X線分光器(EDS)、高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF―STEM)、および環状明視野走査透過型電子顕微鏡(ABF―STEM)により、過時効材の微細構造を観察する。
観察に用いられる試料材は、集束イオンビーム(FIB)加工により抽出した。図8は、FIB加工法による不連続析出物の抽出過程を示す二次電子像である。図8(a)および図8(b)は、不連続析出物の一部(ターゲット)に対して、後続のガリウムイオン照射に先立って、照射ダメージ対策用のカーボン保護膜を蒸着した様子を示す。図8(c)および図8(d)は、ターゲット領域の周囲にガリウムイオンを照射して掘削したときの様子を示す。図8(e)および図8(f)は、母相から板状に切り離したターゲットを、マイクロマニピュレーターを駆使して移動し、最終的にTEM観察用のグリッドに設置する様子を示す。
【0049】
SEM像は、電界放出型走査電子顕微鏡(JEOL製 JSM-7800F)を用い、後方散乱電子像法により撮像した。図6は、450℃で100時間の時効処理後の3種類の過時効材のSEM像であり、図6(a)および図6(b)がCu-4Ti、図6(c)がCu-4Ti-1Mg、図6(d)がCu-4Ti-2Mgである。なお、図6(b)は図6(a)の一部領域Aの拡大図である。図6に示すように、Mgの含有量の増加に伴い、暗部として表れている不連続析出物の生成量は低減する。なお、コンピュータ画像解析による算出によると、全体に占める暗部の面積分率は、Cu-4Ti、Cu-4Ti-1Mg、Cu-4Ti-2Mgでそれぞれ34.4%、13.6%、8.1%であった。
本開示の銅―チタン―マグネシウム合金によれば、Mgの添加量によって変化するものの、Mgを添加していないTiの原子パーセントが同じチタン銅合金に対して、不連続析出物の生成量は50%以下程度に抑制される。
【0050】
Super-X EDSシステムを搭載した200kV電子顕微鏡(JEOL製 JEM-2100F)および300kV電子顕微鏡(FEI製 Titan G2 60-300 Probe Corrector)を用いて、制限視野電子回折像(SAD)およびHAADF-STEM像を撮像した。
【0051】
図7は、Cu-4Tiの450℃100時間の過時効材における不連続析出物のHAADF-STEM像および界面を挟んだ両相の局部領域から得られた電子回折像である。一般的な時効硬化型のチタン銅合金では、過時効に伴い、粗大な板状の安定相β-CuTi(斜方晶)とα-Cu固溶体相とが積層したラメラ組織が結晶粒界を起点に不連続析出することが公知である。図7より、Ti濃化相領域の電子回折像は、β-CuTi正方晶相のAuZr型の結晶構造であり、Ti欠乏相領域の電子回折像は、α-Cu固溶体相の面心立方格子(以下、FCCという)構造による結晶構造であり、公知の現象の再現性が確認された。なお、本結果は電子顕微鏡を用いた直接観察による検証結果として初めての事例である。
【0052】
図9および図10は、Cu-4Ti-2Mgの過時効材における不連続析出物のSTEM/EDS分析結果を示す図であり、図10は、図9の一部領域Bを対象に、高倍率の検鏡下で取得したSTEM/EDS分析結果を示す図である。図9(a)はHAADF-STEM像、図9(b)~図9(d)は、それぞれ構成元素Cu、Ti、MgのEDSマッピング像である。また、図10(a)はABF-STEM像、図10(b)はHAADF-STEM像、図10(c)~図10(f)はそれぞれの構成元素Cu、TiおよびMg、Cu、Ti、MgのEDSマッピング像である。図10(c)における、領域Area#1、Area#2、およびArea#3は、Ti欠乏相、Ti濃化相、およびCu母相であり、領域Area#1、Area#2、およびArea#3におけるCu、Ti、およびMgの組成は、at%で表すと、それぞれCu98.9Ti0.375Mg0.714、Cu83.6Ti15.9Mg0.492、およびCu98.9Ti0.327Mg0.79であった。
【0053】
図11は、Cu-4Ti-2Mgの過時効材における不連続析出物内外の局部領域から得られた電子回折像である。図11(a)はHAADF-STEM像、図11(b)~図11(e)はそれぞれ図11(a)におけるSAD1~SAD5の各局部領域における電子回折像を表している。各局部領域SAD1~SAD5における結晶構造は電子回折像の格子状に並んだ点で表される。図11(b)~図11(e)に示すように、局部領域SAD1~SAD3ではα-Cu固溶体相のFCC構造による結晶構造が観測され、局部領域SAD4およびSAD5ではCu母相による結晶構造が観測された。
【0054】
図12は、Cu-4Ti-2Mgの過時効材における不連続析出物の異相界面を含む局部領域を捉えた高分解能ABF-STEM像である。異相境界の両側に在るTi濃化相とTi欠乏相の一部領域の拡大写真を内挿図として示す。図12に示すように、Ti濃化相領域とTi欠乏相領域は、ともにα-Cu固溶体相のFCC構造から成ると判断でき、図7に示したCu-4Tiの過時効材の不連続析出物の構成相の結晶構造とは異なっている。
【0055】
Cu-4Ti-2Mgの過時効材では、比較例1のCu-4Tiの過時効材と比較して、異相界面が減少している。これは、適量のMgがチタン銅合金に添加されることによって、過時効においても結晶粒界を起点に発達する不連続析出物の生成,さらには不連続析出物内における安定相β-CuTi(斜方晶)の生成が抑制されたことに起因している。以上の組織影響に伴って異相界面が減少し、応力集中の発生箇所が低減し、延性向上につながったと考えられる。
【0056】
本開示の銅―チタン―マグネシウム合金によれば、Mgを添加していないTiの原子パーセントが同じチタン銅合金に比べ、ビッカース硬さ、引張強度、破断伸びが高い水準で得られ、優れた機械的性能を示す。
本開示の銅―チタン―マグネシウム合金に適切な加工熱処理と時効処理を施すと、高強度(引張強度)と高延性(破断伸び)の両立、つまり高延靭化が達成される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示の技術は、高導電性と高強度および高延性とを兼備した銅合金の分野において、重要な技術になり得る。なお、本開示の技術は自動車産業、エレクトロニクス産業、電気電子機器産業、情報機器産業など広範の産業において適用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12