(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184060
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】航空機搭載型気象レーダ、航空機及び外部装置
(51)【国際特許分類】
G01W 1/08 20060101AFI20221206BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20221206BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20221206BHJP
G01S 13/95 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G01W1/08 C
G01W1/00 C
G01S7/02 216
G01S13/95
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091686
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】吉川 栄一
(72)【発明者】
【氏名】神田 淳
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AD10
5J070AE13
5J070AF06
5J070AH19
5J070AK40
5J070BD08
(57)【要約】
【課題】航空機の安全飛行のための気象観測と、気象観測の補強等のための気象観測の両方を実現可能な航空機搭載型気象レーダ等の技術を提供すること。
【解決手段】上記目的を達成するため、本技術に係る航空機搭載型気象レーダは、アンテナと、制御部とを具備する。前記制御部は、航空機の進行方向に指向性をもつ第1の領域の気象を前記アンテナにより観測する第1の気象観測と、前記第1の領域とは異なる第2の領域の気象を前記アンテナにより観測する第2の気象観測とを実行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナと、
航空機の進行方向に指向性をもつ第1の領域の気象を前記アンテナにより観測する第1の気象観測と、前記第1の領域とは異なる第2の領域の気象を前記アンテナにより観測する第2の気象観測とを実行する制御部と
を具備する航空機搭載型気象レーダ。
【請求項2】
請求項1に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記アンテナは、フェーズドアレーアンテナである
航空機搭載型気象レーダ。
【請求項3】
請求項2に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記制御部は、前記第1の気象観測及び前記第2の気象観測を、時分割で実行する
航空機搭載型気象レーダ。
【請求項4】
請求項3に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記制御部は、前記第2の気象観測において、前記フェーズドアレーアンテナを制御してアダプティブスキャンを実行することで、前記第2の領域において非特定域をスキップして特定域をスキャンする
航空機搭載型気象レーダ。
【請求項5】
請求項4に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記制御部は、前記第2の気象観測において、前記アダプティブスキャンの前に、前記第2の領域における前記特定域及び前記非特定域を特定する
航空機搭載型気象レーダ。
【請求項6】
請求項5に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記制御部は、前記フェーズドアンテナにより前記第2の領域全体を走査することで前記特定域及び前記非特定域を特定する
航空機搭載型気象レーダ。
【請求項7】
請求項5に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記第2の領域全体を撮像する撮像装置をさらに具備し、
前記制御部は、前記撮像装置からの画像情報に基づき、前記特定域及び前記非特定域を特定する
航空機搭載型気象レーダ。
【請求項8】
請求項4~7のうちいずれか1項に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記特定域は、降水域であり、前記非特定域は、非降水域である
航空機搭載型気象レーダ。
【請求項9】
請求項2に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記制御部は、前記第1の気象観測及び前記第2の気象観測を同時に並行して実行する
航空機搭載型気象レーダ。
【請求項10】
請求項9に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記制御部は、前記フェーズドアレーアンテナを制御してアングルイメージングを実行することで、前記第1の領域及び前記第2の領域の同時観測を実行する
航空機搭載型気象レーダ。
【請求項11】
請求項1~9のうちいずれか1つに記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記第2の領域は、前記第1の領域よりも広い
航空機搭載型気象レーダ。
【請求項12】
請求項1~11のうちいずれか1項に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記第1の気象情報及び第2の気象観測で得られた情報に基づき、気象状況を推測する気象情報処理部
をさらに具備する航空機搭載型気象レーダ。
【請求項13】
請求項1~12のうちいずれか1項に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記第1の気象観測又は前記第2の気象観測のうち、少なくとも前記第2の気象観測で得られた情報に関連する関連情報を各航空機から受信して収集する外部装置に対して、前記関連情報を送信する通信部
をさらに具備する航空機搭載型気象レーダ。
【請求項14】
請求項13に記載の航空機搭載型気象レーダであって、
前記外部装置は、前記各航空機からの前記関連情報に基づき、地上における全体的な気象状況を推測する
航空機搭載型気象レーダ。
【請求項15】
アンテナと、航空機の進行方向に指向性をもつ第1の領域の気象を前記アンテナにより観測する第1の気象観測と、前記第1の領域とは異なる第2の領域の気象を前記アンテナにより観測する第2の気象観測とを実行する制御部とを有する航空機搭載型気象レーダ
を具備する航空機。
【請求項16】
アンテナと、航空機の進行方向に指向性をもつ第1の領域の気象を前記アンテナにより観測する第1の気象観測と、前記第1の領域とは異なる第2の領域の気象を前記アンテナにより観測する第2の気象観測とを実行する制御部とを有する航空機搭載型気象レーダを搭載した各航空機から、前記第1の気象観測又は前記第2の気象観測のうち、少なくとも前記第2の気象観測で得られた情報に関連する関連情報を受信して収集する外部装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機搭載型気象レーダ等の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機は大気を利用して飛行する乗り物であるので、その運航においては気象の影響が大きいことは必然である。そのため気象観測や気象予測に基づく様々な運航支援の下、今日の安全・安心な航空機運航が行われている。航空機運航は、巡航フェーズと離着陸フェーズに大別することができ、巡航フェーズに対しては数時間先の気象予測が、離着陸フェーズに対しては気象観測(および気象観測の時間外挿による1時間以内の短期予測)が、重用されている。
【0003】
航空機は、このように気象観測と気象予測の恩恵を享受する一方で、気象観測を補強し、気象予測を改善することに貢献している。航空機は、飛行中に上空の気圧や気温のその場の観測を行っており、そういった物理量の鉛直分布(正確には飛行航路上の分布)の観測結果が、気象予測の精度向上に貢献をしている(非特許文献1参照)。また、2019年はCovid-19の蔓延により航空機の運航便数が激減したが、その結果気象予測の精度が低下したことが報告された(非特許文献2参照)
【0004】
気象レーダは、その特性上、近距離の領域において非常に詳細な気象情報を得ることができ、遠距離になるほどその詳細さは失われる。近年行われている気象レーダネットワークの研究にも見られるように、多数の短距離レーダを用いて観測することで、詳細に観測できる領域が拡大し、総合的な観測性能が上昇する。民間航空輸送に用いられる航空機には、基本的に気象レーダが搭載されているので、航空機運航全体としてみれば多くの気象レーダが稼働しており、気象レーダネットワークの研究が示す利点を有している(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】James, E. P., and S. G. Benjamin, 2017: Observation system experiments with the hourly updating Rapid Refresh model using GSI hybrid ensemble-variational data assimilation. Mon. Wea. Rev., 145, 2897-2918, https://doi.org/10.1175/MWR-D-16-0398.1
【非特許文献2】James, Eric P., Stanley G. Benjamin, and Brian D. Jamison. " Commercial-Aircraft-Based Observations for NWP: Global Coverage, Data Impacts, and COVID-19", Journal of Applied Meteorology and Climatology 59, 11 (2020): 1809-1825, accessed Feb 2, 2021, https://doi.org/10.1175/JAMC-D-20-0010.1
【非特許文献3】D. J. McLaughlin, D. Pepyne, B. Philips, J. Kurose, M. Zink, D. Westbrook, et al., "Short-wavelength technology and the potential for distributed networks of small radar systems", Bull. Amer. Meteorol. Soc., vol. 90, no. 12, pp. 1797-1817, Dec. 2009.
【非特許文献4】E. Yoshikawa et al., "MMSE Beam Forming on Fast-Scanning Phased Array Weather Radar," in IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing, vol. 51, no. 5, pp. 3077-3088, May 2013, doi: 10.1109/TGRS.2012.2211607.
【非特許文献5】E. Yoshikawa, T. Ushio and H. Kikuchi, "A Study of Comb Beam Transmission on Phased Array Weather Radars," in IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing, doi: 10.1109/TGRS.2020.3029875.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、現在の航空機搭載型気象レーダは、搭載している航空機の安全性を確保する目的に特化しているため、航空機前方の限られた領域しか気象を観測できない上に、原則、観測した気象情報を機上画面に表示すると同時に破棄している。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、航空機の安全飛行のための気象観測と、気象観測の補強等のための気象観測の両方を実現可能な航空機搭載型気象レーダ等の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本技術に係る航空機搭載型気象レーダは、アンテナと、制御部とを具備する。
前記制御部は、航空機の進行方向に指向性をもつ第1の領域の気象を前記アンテナにより観測する第1の気象観測と、前記第1の領域とは異なる第2の領域の気象を前記アンテナにより観測する第2の気象観測とを実行する。
【0009】
このように、航空機搭載型気象レーダにおいて、第1の気象観測と、第2の気象観測とを実行することで、航空機の安全飛行のための気象観測と、気象観測の補強等のための気象観測とを両立させることができる。
【0010】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記アンテナは、フェーズドアレーアンテナであってもよい。
【0011】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記制御部は、前記第1の気象観測及び前記第2の気象観測を、時分割で実行してもよい。
【0012】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記制御部は、前記第2の気象観測において、前記フェーズドアレーアンテナを制御してアダプティブスキャンを実行することで、前記第2の領域において非特定域をスキップして特定域をスキャンしてもよい。
【0013】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記制御部は、前記第2の気象観測において、前記アダプティブスキャンの前に、前記第2の領域における前記特定域及び前記非特定域を特定してもよい。
【0014】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記制御部は、前記フェーズドアンテナにより前記第2の領域全体を走査することで前記特定域及び前記非特定域を特定してもよい。
【0015】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記第2の領域全体を撮像する撮像装置をさらに具備していてもよい。
この場合、前記制御部は、前記撮像装置からの画像情報に基づき、前記特定域及び前記非特定域を特定してもよい。
【0016】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記特定域は、降水域であり、前記非特定域は、非降水域であってもよい。
【0017】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記制御部は、前記第1の気象観測及び前記第2の気象観測を同時に並行して実行してもよい。
【0018】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記制御部は、前記フェーズドアレーアンテナを制御してアングルイメージングを実行することで、前記第1の領域及び前記第2の領域の同時観測を実行してもよい。
【0019】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記第2の領域は、前記第1の領域よりも広くてもよい。
【0020】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記第1の気象観測及び前記第2の気象観測で得られた情報に基づき、気象状況を推測する気象情報処理部をさらに具備していてもよい。
【0021】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記第1の気象観測又は前記第2の気象観測のうち、少なくとも前記第2の気象観測で得られた情報に関連する関連情報を各航空機から受信して収集する外部装置に対して、前記関連情報を送信する通信部をさらに具備していてもよい。
【0022】
上記航空機搭載型気象レーダにおいて、前記外部装置は、前記各航空機からの前記関連情報に基づき、地上における全体的な気象状況を推測してもよい。
【0023】
本技術に係る航空機は、航空機搭載型気象レーダを具備する。
航空機搭載型気象レーダは、アンテナと、制御部とを有する。前記制御部は、航空機の進行方向に指向性をもつ第1の領域の気象を前記アンテナにより観測する第1の気象観測と、前記第1の領域とは異なる第2の領域の気象を前記アンテナにより観測する第2の気象観測とを実行する。
【0024】
本技術に係る外部装置は、アンテナと、航空機の進行方向に指向性をもつ第1の領域の気象を前記アンテナにより観測する第1の気象観測と、前記第1の領域とは異なる第2の領域の気象を前記アンテナにより観測する第2の気象観測とを実行する制御部とを有する航空機搭載型気象レーダを搭載した各航空機から、前記第1の気象観測又は前記第2の気象観測のうち、少なくとも前記第2の気象観測で得られた情報に関連する関連情報を受信して収集する外部装置。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本技術によれば、航空機の安全飛行のための気象観測と、気象観測の補強等のための気象観測の両方を実現可能な航空機搭載型気象レーダ等の技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本技術の第1実施形態に係る気象観測システムを示す図である。
【
図2】第1の気象観測で観測される第1の領域及び第2の気象観測で観測される第2の領域を示す上面図である。
【
図3】第1の気象観測で観測される第1の領域及び第2の気象観測で観測される第2の領域を示す側面図である。
【
図4】第1の気象観測及び第2の気象観測の時系列図である。
【
図5】アダプティブスキャンにより、非降水域(降水域以外の領域)がスキップされて、降水域のみがスキャンされるときの様子を示す図である。
【
図6】第2の気象観測における制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】第2の気象観測における制御部12の処理の他の一例を示すフローチャートである。
【
図8】アングルイメージングが実行されているときの様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0028】
≪第1の実施形態≫
<気象観測システムの全体構成>
図1は、本技術の第1実施形態に係る気象観測システム100を示す図である。
図1に示すように、気象観測システム100は、航空機搭載型気象レーダ10と、外部装置20と、気象観測装置30とを備えている。
【0029】
航空機搭載型気象レーダ10は、各航空機1にそれぞれ搭載されて使用される。外部装置20は、例えば、航空機1の運航会社、気象情報サービスを行う企業、政府機関(気象庁)等に設置されて使用される。外部装置20は、各航空機1で観測された気象の観測情報を、各航空機1からそれぞれ受信して収集し、地上における全体的な気象状況を推測する。気象観測装置30は、例えば、地上設置型気象レーダや、ウィンドプロファイラ、ラジオゾンデ等である。なお、気象観測装置30は、省略することができる。
【0030】
[航空機搭載型気象レーダ10]
航空機搭載型気象レーダ10は、レーダ部13と、気象情報処理部14と、現在気象表示部15と、予測気象表示部16と、通信部17とを有する。
【0031】
(レーダ部13)
レーダ部13は、フェーズドアレーアンテナ11と、フェーズドアレーアンテナ11を制御する制御部12とを含む。
【0032】
制御部12は、ハードウェア、又は、ハードウェア及びソフトウェアの組合せにより実現される。ハードウェアは、制御部12の一部又は全部として構成され、このハードウェアとしては、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、あるいは、これらのうち2以上の組合せ等が挙げられる。なお、これについては、航空機搭載型気象レーダ10における気象情報処理部14、外部装置20における気象情報処理部24においても同様である。
【0033】
本実施形態において、制御部12は、フェーズドアレーアンテナ11を制御することで、第1の気象観測と、第2の気象観測とを実行する。第1の気象観測は、航空機1の安全飛行のための気象観測である。第2の気象観測は、気象観測の補強、気象予測の改善等のための気象観測である。なお、第2の気象観測は、典型的には、気象現象が存在する約12km以下の全体的な気象観測である。
【0034】
なお、第1の気象観測及び第2の気象観測によって得られる観測量は、典型的にはレーダ反射因子である。また、この観測量は、ドップラー速度、ドップラー速度幅、反射因子差、偏波間相関係数、偏波間位相差、比偏波間位相差を含んでいてもよい。
【0035】
図2及び
図3は、それぞれ、第1の気象観測で観測される第1の領域R1及び第2の気象観測で観測される第2の領域R2を示す上面図及び側面図である。
【0036】
図2及び
図3に示すように、第1の気象観測で観測される第1の領域R1は、航空機1の進行方向に指向性を持つ一定の領域とされている。また、
図2及び
図3に示すように、第2の気象観測で観測される第2の領域R2は、第1の領域R1とは異なる領域(第1の領域R1とは異なる方向に指向性をもつ領域)であり、かつ、第2の領域R2よりも広い領域とされている。つまり、第2の気象観測では、気象観測の補強、気象予測の改善等のために、航空機1前方のみの狭い範囲ではなく、航空機1の下側全体等のできるだけ広範囲の気象観測が行われる。
【0037】
第1の領域R1及び第2の領域は、航空機1の先端部付近(フェーズドアレーアンテナ11の取り付け位置)から放射状に広がっている。第1の領域R1における垂直軸回りの角度θ1(
図2参照)は、例えば、航空機1の正面方向に対して±50°~±60°程度とされる。また第1の領域R1における水平軸(左右方向の軸)回りの角度φ1(
図3参照)は、例えば、航空機1の正面方向に対して±5°~±10°度程度とされる。
【0038】
また、第2の領域R2における垂直軸回りの角度θ2(
図2参照)は、例えば、航空機1の正面方向に対して±75°~±90°程度とされる。また、第2の領域R2における水平軸(左右方向の軸)回りの角度φ2(
図3参照)は、例えば、俯角40°~60°の方向に対して、±20°~±30°程度とされる。
【0039】
なお、
図2及び
図3に示す例では、第2の領域R2が航空機1の下側とされているが、第2の領域R2は、航空機1の上側、右側、左側、後ろ側であっても構わない。典型的には、第2の領域R2は、第1の領域R1とは異なる領域であれば(かつ、第2の領域R2よりも広い領域であれば)どのような領域であっても構わない。
【0040】
ここで、単に第1の気象観測及び第2の気象観測を行うだけであれば、第1の気象観測用のレーダ部13と、第2の気象観測用のレーダ部13を別体で設ければよい。しかしながら、このように、レーダ部13を別体で2つ設ける構成の場合、コストや重量、大きさ等が増加してしまい、航空機1への搭載が困難になる。このため、本実施形態では、単一のレーダ部13により、第1の気象観測及び第2の気象観測を実現している。
【0041】
また、本実施形態では、制御部12は、第1の気象観測及び第2の気象観測を時分割で交互に繰り返して実行する。
図4は、第1の気象観測及び第2の気象観測の時系列図である。
【0042】
第1の気象観測における期間t1は、典型的には、数秒~数十秒程度である。また、第2の気象観測における期間t2は、典型的には、数秒程度である(航空機1の飛行の安全性を損なわない程度の期間)。また、前回の第2の気象観測から今回の第2の気象観測までの周期Tは、典型的には、数秒~数十秒程度である。
【0043】
ここで、本実施形態のように、第1の気象観測及び第2の気象観測を時分割で交互に繰り返して実行する場合においては、以下のような問題がある。つまり、第2の気象観測において第2の領域R2の気象観測を行っている間、第1の領域R1の気象観測が行えず、航空機1における飛行の安全性を低下させてしまう。
【0044】
そこで、本実施形態では、第2の気象観測を短期間で高速に完了させるために、制御部12は、フェーズドアレーアンテナ11を制御して、アダプティブスキャンを実行する。
【0045】
アダプティブスキャンについて説明する。アダプティブスキャンとは、或る特定域のみをスキャンし、その特定域以外の領域(非特定域)をスキップする技術である。このアダプティブスキャンは、フェーズドアレーアンテナ11を用いた電子走査により、アンテナ指向性を瞬時に変更することができるという利点を利用した技術である。
【0046】
このフェーズドアレーアンテナ11によるアダプティブスキャンは、機械式の可動アンテナによる機械走査に比べてスキャンを高速に行うことができる。なお、機械式の可動アンテナの機械走査の場合、慣性があるため非特定域をスキップするようなことは不可能である。
【0047】
本実施形態においては、制御部12は、第2の気象観測において、アダプティブスキャンにより、非降水域(降水域以外の領域)をスキップして、降水域(雨、雪、霙、霰、雹等が降っている領域)のみをスキャンするといった処理を実行する。
【0048】
図5は、アダプティブスキャンにより、非降水域がスキップされて、降水域のみがスキャンされるときの様子を示す図である。
【0049】
ここで、非降水域をスキップし、降水域のみをスキャンするためには、どの方向に降水域が存在するか(降水の有無の角度分布)が既知である必要がある。つまり、アダプティブスキャンの前に、降水域及び非降水域が特定されている必要がある。
【0050】
この方法については2つの方法が挙げられる。1つ目の方法は、制御部12が、第2の気象観測において、フェーズドアレーアンテナ11を制御して、第2の領域R2の全体に対してスキャンを行い、降水域及び非降水域を特定する方法である。降水の有無の判別は、降水の強さ等を観測する場合に比べてとても短い期間で行うことができるので、第2の気象観測をできるだけ短期間で完了させるといった趣旨に反しない。
【0051】
どの方向に降水域が存在するか(降水の有無の角度分布)が既知である上で、アダプティブスキャンにより降水域のみをスキャンすることで、降水域における降水の強さ等の詳細な気象観測(第2の気象観測)を行えばよい。この場合、第2の気象観測において、変化の著しい領域の周辺を重点的に観測したり、降水域の短期予測に基づいて、その後に観測すべき降水域を決定したりすることもできる。
【0052】
2つ目の方法は、制御部12が、第2の気象観測において、第2の領域R2全体を撮像する撮像装置(光学カメラ)から画像情報に基づき、降水域及び非降水域を特定する方法である。この場合、航空機搭載型気象レーダ10において、撮像装置がさらに付加される。
【0053】
画像情報に基づく降水域及び非降水域の判別は、そこまで容易ではないが、機械学習を用いた判別アルゴリズムによりその判別の精度を向上させることができると考えられる。なお、撮像装置は、可視光だけでなく、赤外線や紫外線を撮像可能なカメラ等であってもよい。また、撮像装置は、複数波長の光を撮像可能なマルチスペクトルカメラやハイパースペクトルカメラであってもよい。
【0054】
図6は、第2の気象観測における制御部12の処理の一例を示すフローチャートである。
図7は、第2の気象観測における制御部12の処理の他の一例を示すフローチャートである。
図6に示すフローチャートは、上述の1つ目の方法に対応しており、
図7に示すフローチャートは、上述の2つ目の方法に対応している。
【0055】
図6を参照して、制御部12は、第2の気象観測において、フェーズドアレーアンテナ11を制御することで、第2の領域R2全体を高速にスキャンすることで、降水域及び非降水域を特定する(ステップ101)。次に、制御部12は、フェーズドアレーアンテナ11を制御することで、アダプティブスキャンを実行し、非降水域をスキップして降水域をスキャンする。なお、1回の第2の気象観測(期間t2)において、ステップ101~ステップ102が複数回繰り返して実行されてもよい。この場合、2周目以降においては、制御部12は、ステップ101の代わりに、雲の短期的な動きを予測して降水域及び非降水域を特定してもよい。
【0056】
図7を参照して、制御部12は、第2の気象観測において、撮像装置から第2の領域R2全体の画像を取得する(ステップ201)。次に、制御部12は、その画像に基づき、降水域及び非降水域を特定する(ステップ202)。次に、制御部12は、フェーズドアレーアンテナ11を制御することで、アダプティブスキャンを実行し、非降水域をスキップして降水域をスキャンする(ステップ203)。なお、1回の第2の気象観測(期間t2)において、ステップ201~ステップ203が複数回繰り返して実行されてもよい。
【0057】
(気象情報処理部14)
再び
図1を参照する。気象情報処理部14は、第1の気象観測によって得られた観測情報及び第2の気象観測によって得られた観測情報をレーダ部13から取得し、これらの観測情報をデータ処理して、現在又は未来の気象状況を推測する。
【0058】
ここで、データ処理とは、(1)航空機搭載型気象レーダ10自身又はそれ以外の機器を用いて観測情報を補正すること、(2)観測情報に基づいて、物理量を算出すること、(3)未来の気象状況を推測すること等である。
【0059】
具体的には、(1)については、地表面からの反射によって対地速度を常時把握することによって、ドップラー速度やドップラー速度幅から航空機1の運動による影響を取り除くことである。
【0060】
(2)については、レーダ反射因子や比偏波間位相差から経験式によって降水量を算出することや、ドップラー速度の空間分布から逆問題解法等によって風向風速を算出すること、反射因子差、偏波間相関係数、比偏波間位相差等から機械学習等によって降水粒子を判別すること等である。(3)については、自己回帰モデルによる観測情報の時間外挿や、気象モデルに対する同化等によって実現できる。これらの処理は、通信部17を介して、外部装置20から得られる、地上における全体的な気象状況を考慮して行ってもよい。
【0061】
(現在気象表示部15)
現在気象表示部15は、気象情報処理部14によって推測された現在の気象状況を表示する。
【0062】
(予測気象表示部16)
現在気象表示部15は、気象情報処理部14によって推測された未来の気象状況を表示する。
【0063】
(通信部17)
通信部17は、気象情報処理部14によって推測された、第1の気象観測及び第2の気象観測に基づく現在又は未来の気象状況(関連情報)を外部装置20に対して送信する。なお、通信部17は、第1の気象観測によって得られた観測情報及び第2の気象観測によって得られた観測情報(関連情報)をそのまま外部装置20へ対して送信してもよい。この場合上記(1)~(3)におけるデータ処理は、外部装置20側で実行してもよい。
【0064】
なお、ここでの例では、第1の気象観測に基づく情報と、第2の気象観測に基づく情報との両者が航空機1から外部装置20に対して送信される場合について説明した。一方、これらのうち、第2の気象情報に基づく情報のみを外部装置20へ送信することもできる。
【0065】
[外部装置20]
外部装置20は、気象情報処理部24と、現在気象表示部25と、予測気象表示部26と、通信部27とを有する。
【0066】
(気象情報処理部24)
気象情報処理部24は、各気象観測装置30(地上設置型気象レーダ等)から受信した観測情報と、各航空機1から受信した気象状況の情報との両者に基づき、現在又は未来の地上における全体的な気象状況を推測する。
【0067】
1.現在の気象状況の推測
例えば、気象観測装置30の観測域と、航空機1による観測域が重複する場合がある。この場合、気象情報処理部24は、最尤推定等によって両者を合わせることで、気象状況の推測精度を向上させることができる。
【0068】
また、例えば、気象観測装置30の未観測域(例えば、海上)を航空機1が飛行する場合がある。この場合、航空機1からの気象状況の情報に基づき、未観測域の気象状況を埋めることができる。なお、気象観測装置30の未観測域の情報を外部装置20側から航空機1側に対して予め送信し、航空機1がその未観測域に入ったときにのみ、第2の気象観測を行うようにすることもできる。
【0069】
なお、気象観測装置30は省略することもでき、この場合、各航空機1から受信した観測情報によって初めて気象への対処が可能となる。
【0070】
2.未来の気象状況の推測
気象観測装置30からの観測情報と、各航空機1からの気象状況の情報との両者により高精度かつ未観測域の少ない気象状況が得られる。従って、気象情報処理部24は、この高精度かつ未観測域の少ない気象状況に対して、例えば、自己回帰モデルによる時間外挿を行うことで、高精度の未来の気象状況の推測が可能となる。
【0071】
また、気象モデルに対して、航空機1からの気象状況の情報を同化することで、気象予測を行うことができ(気象観測装置30がない場合)、もしくは気象予測の精度を向上させることができる(気象観測装置30がある場合)。
【0072】
(現在気象表示部25)
現在気象表示部25は、気象情報処理部24によって推測された現在の気象状況を表示する。
【0073】
(予測気象表示部26)
予測気象表示部26は、気象情報処理部24によって推測された未来の気象状況を表示する。
(通信部27)
【0074】
通信部27は、気象情報処理部24によって推測された、現在又は未来の地上における全体的な気象状況を各航空機1に対してそれぞれ送信する。また、通信部27は、気象観測装置30からの観測情報を受信する。なお、通信部27は、気象観測装置30からの観測情報を、そのまま各航空機1に対して送信してもよい。
【0075】
<作用等>
以上説明したように、本実施形態では、航空機搭載型気象レーダ10が、第1の気象観測及び第2の気象観測を実行する。これにより、航空機1の安全飛行のための気象観測と、気象観測の補強、気象予測の改善等のための気象観測とを両立させることができる。
【0076】
また、本実施形態では、第1の気象観測及び第2の気象観測を単一の気象レーダ(レーダ部13)で実現しているため、コストや、重量、サイズを低減させることができる。また、第2の気象観測においてアダプティブスキャンが実行されるので、第2の気象観測の期間t2を短くすることができる。従って、航空機1の飛行の安全性を保ちつつ、第2の気象観測を行うことができる。
【0077】
ここで、気象予測は極めて広い分野で活用されており、その改善による経済効果は非常に高いと言ってよい。アダプティブスキャン及び後述のアングルイメージングに代表されるような高速スキャン技術は航空機搭載型気象レーダ10においてこれまでに実現していないが、地上設置型気象レーダにおいては最近20年ほどで十分に研究され、実用化してきている。
【0078】
また、特に航空機1というプラットフォーム特有の困難さもないと考えられる。機上と地上を結ぶ通信技術については、航空業界においては標準化が不十分で、使用されている技術のレベルが一般に比べて極めて低い。この問題は、本技術を産業化する上でのボトルネックになると考えられるが、通信技術自体は十分に発達しており、標準化を促進することの必要性は航空業界において共有されているため、早期に解消する可能性は十分にある。
【0079】
≪第2実施形態≫
次に、本技術の第2実施形態について説明する。上述の第1実施形態では、第1の気象観測及び第2の気象観測を時分割で交互に繰り返して実行する場合について説明した。一方、第2実施形態では、第1の気象観測及び第2の気象観測が同時に並行して実行される。
【0080】
典型的には、第2実施形態では、制御部12は、フェーズドアレーアンテナ11を制御してアングルイメージングを実行することで、第1の領域R1及び第2の領域R2の同時観測を実行する。
【0081】
アングルイメージングについて説明する。フェーズドアレーアンテナ11は、様々なアンテナ指向性を形成することが可能である。その特徴を利用して、複数の方向を同時に観測するのが、アングルイメージングである。このアングルイメージングにより、第1の気象観測と第2の気象観測を同時に行うことができる。
【0082】
図8は、アングルイメージングによって第1の気象観測及び第2の気象観測が同時に行われているときの様子を示す側面図である。アングルイメージングでは、複数の方向に同時に電磁波が照射され、降水域からの散乱信号が受信される。受信される散乱信号は、電磁波が照射された全ての方向からの散乱信号が混合した信号であり、デジタルビームフォーミングが用いられて、それぞれの散乱信号が分離して取得される。なお、アングルイメージング技術については、上記非特許文献4及び非特許文献5に開示されている。
【0083】
第2実施形態では、第1の気象観測及び第2の気象観測が同時に並行して行われるので、航空機1による飛行の安全性を損なうことがない。
【0084】
≪その他≫
アダプティブスキャンとアングルイメージングは併用することが可能であり、これにより両者の利点(短時間観測及び複数方向の同時観測)を同時に享受することができる。つまり、両者を併用することで、降水域が存在する方向を特定した後、降水域が存在する複数の方向を同時に観測することができる。さらに、第1の気象観測及び第2の気象観測が同時に並行して行われるので、航空機1による飛行の安全性を損なうことがない。
【符号の説明】
【0085】
1…航空機
10…航空機搭載型気象レーダ
11…フェーズドアンテナ
12…制御部
13…レーダ部
20…外部装置
30…気象観測装置
100…気象観測システム