(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184073
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】液晶ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20221206BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20221206BHJP
C08L 77/02 20060101ALI20221206BHJP
C08G 63/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L77/00
C08L77/02
C08G63/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091705
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 香枝
(72)【発明者】
【氏名】木原 正博
(72)【発明者】
【氏名】北林 賢一
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF001
4J002CL012
4J002CL032
4J002GC00
4J002GF00
4J002GG01
4J002GG02
4J002GL00
4J002GM00
4J002GM04
4J002GM05
4J002GQ00
4J029AA04
4J029AA06
4J029AB07
4J029AD06
4J029AD09
4J029AE01
4J029AE03
4J029BB05A
4J029BB12A
4J029CB06A
4J029EB05A
4J029EC06A
4J029HA01
4J029HB01
4J029JB163
4J029KC02
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE08
(57)【要約】
【課題】本発明は、製膜性が改善された液晶ポリマー組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、結晶融解温度が210~250℃である全芳香族液晶ポリマー100質量部およびポリアミド樹脂1~100質量部を含有する、液晶ポリマー組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶融解温度が210~250℃である全芳香族液晶ポリマー100質量部およびポリアミド樹脂1~100質量部を含有する、液晶ポリマー組成物。
【請求項2】
全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度は215~245℃である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
全芳香族液晶ポリマーは、式(I)~(IV)
【化1】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルである、請求項1または2に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
式(III)および/または式(IV)は、Ar
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)
【化2】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む、請求項3に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
ポリアミド樹脂はポリアミド6である、請求項1~4のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
【請求項7】
成形品がフィルム、シートまたはブロー成形品である、請求項6に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の液晶ポリマーとポリアミド樹脂を含有する、製膜性が改善された液晶ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモトロピック液晶ポリマー(以下、液晶ポリマーまたはLCPとも称する)は、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度、誘電特性等に優れているため、成形品用途のみならず、繊維やフィルムといった各種用途にその使用が拡大しつつある。さらに優れたガスバリア性を有することから、包装材料としての用途が期待されている。
【0003】
しかし、液晶ポリマーをフィルムに加工した場合、液晶ポリマーは、剛直な分子構造を有することから、成形方向に配向して異方性を示したり、成形方向で裂ける傾向があるため、フィルム成形が難しいという問題があった。
【0004】
そこで、液晶ポリマーのフィルム成形性を改善するために、様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1には、液晶ポリマーとグリシジル基を有するエチレン共重合体等とのブレンド樹脂からなるフィルムが、特許文献2および3には、液晶ポリマーとポリアリレート等の熱可塑性樹脂とのブレンド樹脂から形成されたフィルムが提案されている。
【0005】
また、特許文献4には、ポリアミドに特定の液晶ポリエステルを配合することによって耐熱性、高温における曲げ弾性率に優れ、かつ吸水・吸湿による寸法変化の少ない樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08-337710号公報
【特許文献2】特開2000-290512号公報
【特許文献3】特開2004-175995号公報
【特許文献4】特開平09-031310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたブレンド樹脂からなるフィルムは、流動開始温度が260℃以上の液晶ポリマーを用いており、フィルム成形時にエチレン共重合体が熱劣化する可能性があった。
【0008】
また、特許文献2および3に記載のブレンド樹脂からなるフィルムは、融点が250℃以上の液晶ポリマーを用いているため、加工温度の面から汎用樹脂との積層が難しく、用途が限定的であり、製膜性も十分ではなかった。
【0009】
さらに、特許文献4には、ポリアミドの吸水・吸湿性を低減するためにポリアミドに対して液晶ポリエステルを配合した樹脂組成物は記載されているものの、全芳香族液晶ポリマーの製膜性改善については検討されていない。
【0010】
本発明の目的は、製膜性が改善された液晶ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の液晶ポリマーに所定量のポリアミド樹脂を配合することにより、製膜性が改善された液晶ポリマー組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕結晶融解温度が210~250℃以下である全芳香族液晶ポリマー100質量部およびポリアミド樹脂1~100質量部を含有する、液晶ポリマー組成物。
〔2〕全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度は215~245℃である、〔1〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔3〕全芳香族液晶ポリマーは、式(I)~(IV)
【化1】
[式中、
Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルである、〔1〕または〔2〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔4〕式(III)および/または式(IV)は、Ar
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)
【化2】
からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む、〔3〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔5〕ポリアミド樹脂はポリアミド6である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
〔7〕成形品がフィルム、シートまたはブロー成形品である、〔6〕に記載の成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶ポリマー組成物は、通常の成形材料として使用されるほか、その柔軟性に基づき製膜性が改善されるため、フィルム、シート、ブロー成形品として好適に使用される。
本明細書において製膜性とは、フィルム、シート、ブロー成形品等を形成する工程において成形温度または含有成分の熱劣化に起因する諸問題を生ないこと、しかも、その柔軟性に基づきフィルム、シート、ブロー成形品等が比較的低い成形温度で得られることを含む特性を指称する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用する全芳香族液晶ポリマーとは、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれる、異方性溶融相を形成する全芳香族液晶ポリエステルまたは全芳香族液晶ポリエステルアミドである。
【0015】
全芳香族液晶ポリマーの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0016】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位およびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0017】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸である、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸など、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が、得られる全芳香族液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0018】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸が、得られる全芳香族液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0019】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルが、重合時の反応性、得られる全芳香族液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0020】
芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体としては、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよび芳香族アミノカルボン酸などが挙げられる。
【0021】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位やチオエステル結合を含むものであってもよい。チオエステル結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位および芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体などの合計量を含む全体に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0022】
これらの繰り返し単位を組み合わせた共重合体には、単量体の構成や組成比、共重合体中での各繰り返し単位のシークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーは異方性溶融相を形成する共重合体に限られる。
【0023】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーは、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものであってもよい。
【0024】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーの示差走査熱量計により測定される結晶融解温度は210~250℃であり、好ましくは212~248℃であり、より好ましくは215~245℃である。
【0025】
全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度が210~250℃であることによって、成形加工時にポリアミド樹脂が熱劣化を起こすことなく組成物中で分散しやすくなり、フィルム、シート、ブロー成形品等への成形性が改善されるとともに、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどの汎用樹脂とのブレンドや積層も可能となる。
【0026】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピーク温度から求めたものである。より具体的には、全芳香族液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度とする。測定用機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製Exstar6000等を使用することができる。
【0027】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーとしては全芳香族液晶ポリエステルが好適に使用され、式(I)~(IV)で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルがより好適に使用される。
【化3】
【0028】
[式中、
Ar1およびAr2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、全芳香族液晶ポリエステル中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たすものである:
0.5≦p/q≦2.5
2≦r≦15、および
2≦s≦15。]
【0029】
上記式(I)に係る組成比p(モル%)と式(II)に係る組成比q(モル%)のモル比(p/q)は、0.6~1.8がより好ましく、0.8~1.6がさらに好ましい。
【0030】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、pとqの合計の組成比は、70~96モル%が好ましく、76~90モル%がより好ましい。
【0031】
上記の好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(I)に係る組成比pと式(II)に係る組成比qは、それぞれ、32~54モル%が好ましく、36~52モル%がより好ましい。
【0032】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルにおいて、式(I)および式(II)で表される繰り返し単位を、少なくとも上記のモル比(p/q)、および場合により上記のpとqの合計の組成比および/またはpとqのそれぞれの組成比(モル%)で含むことにより、250℃以下である結晶融解温度を示す全芳香族液晶ポリエステルを好適に得ることができる。
【0033】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルについて、式(III)に係る組成比rと式(IV)に係る組成比sは、それぞれ、2~15モル%が好ましく、5~12モル%がより好ましい。rとsは、等モル量であるのが好ましい。
【0034】
上記の繰返し単位において、例えばAr1(またはAr2)が2種以上の2価の芳香族基を表すとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0035】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0036】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸およびこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0037】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0038】
式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0039】
また、本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルのなかでも、式(III)および式(IV)で表される繰返し単位に係るAr
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)~(4)で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルが、さらに好適に使用される。
【化4】
【0040】
これらの中でも、式(III)で表される繰返し単位としては、式(1)および式(4)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、テレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸ならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0041】
また、式(IV)で表される繰返し単位としては、式(1)および式(3)で表される芳香族基が、すなわち、これら繰返し単位を与える単量体として、ハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニルならびにこれらのエステル形成性誘導体を用いることが、重合時の反応性および得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことから特に好ましい。
【0042】
上記の繰返し単位において、例えばAr1(またはAr2)が2種以上の芳香族基を含むとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が全芳香族液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。すなわち、式(III)および/または式(IV)は、Ar1およびAr2が、互いに独立して、式(1)~(4)からなる群から選択される芳香族基である繰返し単位の1種または2種以上を含む全芳香族液晶ポリエステルが好ましい。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0043】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルにおいて繰返し単位の組成比の合計[p+q+r+s]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0044】
本発明に好適に使用される全芳香族液晶ポリエステルを構成する他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0045】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0046】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0047】
以下、本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0048】
本発明に使用する全芳香族液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組合せからなるエステル結合やアミド結合などを形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを使用することができる。
【0049】
溶融アシドリシス法とは、本発明で使用する全芳香族液晶ポリマーの製造方法に使用するのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0050】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0051】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、全芳香族液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に使用する方法が挙げられる。
【0052】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、全芳香族液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0053】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0054】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、二酸化チタン、三酸化アンチモン、有機チタン化合物(アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BF3など)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0055】
触媒の使用割合は、単量体全量に対して通常1~1000ppm、好ましくは2~100ppmである。
【0056】
このようにして重縮合反応されて得られた全芳香族液晶ポリマーは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0057】
本発明の液晶ポリマー組成物は、上述した全芳香族液晶ポリマーに加えてポリアミド樹脂を含有することにより、全芳香族液晶ポリマーのフィルム等への製膜性が改善される。
本発明に使用するポリアミド樹脂は、分子中にアミド結合を有するポリマーであり、α-ピロリドン、α-ピペリドン、ε-カプロラクタム、6-アミノカプロン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、ω-ラウロラクタム等を重合して得られる重合体;ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどのジアミンと、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸とを縮重合して得られる重合体等が挙げられる。
【0058】
本発明において使用されるポリアミド樹脂の具体例としては、ε-カプロラクタムを重合して得られるポリアミド6、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とを縮重合して得られるポリアミド66、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸とを縮重合して得られるポリアミド610、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸とを縮重合して得られるポリアミド6T、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸とを縮重合して得られるポリアミド6I、ジアミノブタンとアジピン酸とを縮重合して得られるポリアミド46、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを縮重合して得られるポリアミドMXD6、ノナンジアミンとテレフタル酸とを縮重合して得られるポリアミド9T、11-アミノウンデカン酸を重合して得られるポリアミド11、12-アミノドデカン酸あるいはω-ラウロラクタムを重合して得られるポリアミド12等が挙げられる。これらのうち、本発明において使用されるポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド6Iおよびポリアミド9Tが好ましく、特に、吸湿による物性変化や寸法変化が少ないことから、ポリアミド6が好ましい。これらポリアミド樹脂は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0059】
本発明において使用されるポリアミド6としては、比重が1.10以下のポリアミド6が好ましく、市販品として、例えばユニチカ株式会社製のEX-1222、EX-1030、EX-6240等が例示される。
【0060】
本発明の液晶ポリマー組成物において、ポリアミド樹脂の割合は、全芳香族液晶ポリマー100質量部に対して、1~100質量部であり、液晶ポリマーの特性を損なわない観点から2~65質量部が好ましく、3~60質量部がより好ましく、4~50質量部がさらに好ましく、5~15質量部が特に好ましい。
【0061】
ポリアミド樹脂の含有量が1質量部未満であると、液晶ポリマー組成物の製膜性を改善する効果が十分に得られず、100質量部を超えると液晶ポリマーのガスバリア性等の特性を低下させる傾向がある。
【0062】
本発明の液晶ポリマー組成物は、使用する液晶ポリマーの結晶融解温度が210~250℃であるという特徴により、マトリクス樹脂である液晶ポリマー中にポリアミド樹脂が均一に分散し、かつ低温での溶融混練によるブレンドが可能となる。そのため、ポリアミド樹脂の熱分解が抑制され、組成物の柔軟性に基づき製膜性が改善された樹脂組成物となり得る。
【0063】
したがって、ブレンドに際して相溶化剤は特に必要ないが、液晶ポリマーおよびポリアミド樹脂の相溶性をより向上させる目的で、相溶化剤を添加してもよい。相溶化剤を添加する場合、その添加量は、液晶ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~5質量部である。
【0064】
本発明の液晶ポリマー組成物は、任意の成分として、無機および/または有機充填材を含有してもよい。
【0065】
本発明の液晶ポリマー組成物が含有してもよい、無機および/または有機充填材の具体例としては、例えば、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられる。これらは単独で用いてよく、または2種以上を併用してもよい。
【0066】
これらの中では、タルクが、物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0067】
また、無機および/または有機充填材は、表面処理をされたものであってもよい。表面処理の方法としては、例えば、充填材表面に表面処理剤を吸着させる方法、混練する際に表面処理剤を添加する方法などが挙げられる。
【0068】
表面処理剤としては、反応性カップリング剤であるシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤など、潤滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などが挙げられる。
【0069】
無機および/または有機充填材を配合する場合、その含有量は、全芳香族液晶ポリマーおよびポリアミド樹脂の合計量100質量部に対して、1~150質量部であることが好ましく、10~100質量部であることがより好ましい。
【0070】
無機および/または有機充填材の含有量が1質量部未満であると、液晶ポリマー組成物について無機および/または有機充填材による機械強度および耐熱性の向上効果が得られにくく、150質量部を超えると流動性が低下する傾向がある。本発明において、液晶ポリマー組成物は、無機および/または有機充填材を含まないことが好ましい。
【0071】
本発明の液晶ポリマー組成物には、全芳香族液晶ポリマーおよびポリアミド樹脂の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の添加剤や樹脂成分が添加されてもよい。
【0072】
他の添加剤の具体例としては、例えば、滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、炭素原子数10~25のものをいう)など、離型剤であるポリシロキサン、フッ素樹脂など、着色剤である染料、顔料、カーボンブラックなど、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、造核剤であるタルク、有機リン酸塩、ソルビトール類など、アンチブロッキング剤、酸化防止剤であるリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤など、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0073】
液晶ポリマー組成物における他の添加剤の合計量は、全芳香族液晶ポリマーおよびポリアミド樹脂の合計量100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部である。
【0074】
他の添加剤の合計量が0.01質量部未満であると、添加剤の機能を実現しにくく、5質量部を超えると、液晶ポリマー組成物の成形加工の熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0075】
また、上記他の添加剤のうち、滑剤、離型剤、アンチブロッキング剤などの添加剤を使用する場合は、液晶ポリマー組成物を作製する際に添加してもよいし、成形する際に液晶ポリマー組成物のペレット表面に付着させてもよい。
【0076】
他の樹脂成分の具体例としては、例えば、熱可塑性樹脂であるポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどや、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの樹脂成分は単独でまたは2種以上を併用してもよい。
【0077】
他の樹脂成分を含有する場合、その含有量は、全芳香族液晶ポリマーおよびポリアミド樹脂の合計量100質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましい。
【0078】
本発明の液晶ポリマー組成物は、上記の全芳香族液晶ポリマー、ポリアミド樹脂と、所望により上記の無機充填材および/または有機充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などを所定の組成で配合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、本発明の液晶ポリマー組成物とすることができる。また、全芳香族液晶ポリマー、ポリアミド樹脂をドライブレンドし、成形機内で溶融混錬することによっても、本発明の液晶ポリマー組成物とすることができる。
【0079】
本発明の液晶ポリマー組成物は、製膜性等の点から、これから構成される成形品についてISO 527-1に準拠した引張破断伸度が、通常1.2%以上、好ましくは1.3~15%、より好ましくは1.4~10%である。引張破断伸度の値が大きいと、液晶ポリマー組成物の伸びが改善され、製膜性が向上することを意味する。
【0080】
本発明の液晶ポリマー組成物は、製膜性等の点から、これから構成される成形品についてISO 178に準拠した曲げ強度が、通常160MPa以下、好ましくは60~155MPa、より好ましくは65~150MPaである。曲げ強度の値が小さいと、液晶ポリマー組成物の柔軟性が改善され、製膜性が向上することを意味する。
【0081】
本発明の液晶ポリマー組成物は、製膜性等の点から、これから構成される成形品についてISO 178に準拠した曲げ弾性率が、通常10.0GPa以下、好ましくは1.5~9.7GPa、より好ましくは2.0~9.5GPaである。曲げ弾性率の値が小さいと、液晶ポリマー組成物の柔軟性が改善され、製膜性が向上することを意味する。
【0082】
本発明の液晶ポリマー組成物は、これから構成される成形品についてISO 1133に準拠した230℃におけるメルトボリュームフローレート(MVR)が、荷重2160g(低荷重)において通常3~60cm3/10分、好ましくは5~50cm3/10分、より好ましくは7~40cm3/10分、さらに好ましくは9~30cm3/10分であり、荷重20000g(高荷重)において通常170~500cm3/10分、好ましくは180~450cm3/10分、より好ましくは190~400cm3/10分、さらに好ましくは200~350cm3/10分である。
【0083】
本発明の液晶ポリマー組成物は、液晶ポリマーの結晶融解温度が低いため(210~250℃)、成形加工時に溶融流動しやすく、比較的低温においても上記のようなメルトボリュームフローレートが得られる。
【0084】
本発明の液晶ポリマー組成物は、これから構成される成形品について高荷重時のMVRを低荷重時のMVRで除した値であるフローレート比が、製膜性の点で、通常11.5~40.0、好ましくは12.0~35.0、より好ましくは12.5~30.0、さらに好ましくは13.0~25.0である。
【0085】
本発明の液晶ポリマー組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形などの公知の成形方法によって、フィルム、シート、ブロー成形品、ボトル、容器、包装材料、機械部品、電気・電子部品、建築・土木部材、家庭・事務用品、家具用部品および日用品などの成形品に加工される。成形する際の温度条件は、使用する全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度(210~250℃)から結晶融解温度+40℃の範囲で成形するのが好ましい。
【0086】
機械部品としては、例えば、歯車、ねじ、バネ、軸受、レバー、カム、ラチェット、ローラーなどが挙げられる。
【0087】
電気・電子部品としては、例えば、コピー機、パソコン、プリンター、電子楽器、家庭用ゲーム機、携帯型ゲーム機などのハウジングや、内部部品(コネクタ、スイッチ、ICやLEDのハウジング、ソケット、リレー、抵抗器、コンデンサー、キャパシター、コイルボビンなど)が挙げられる。
【0088】
建築・土木部材としては、例えば、カーテン部品、ブラインド部品、ルーフパネル、断熱壁、アジャスター、プラ束、天井釣り具などが挙げられる。
【0089】
日用品としては、例えば、各種カトラリー、各種トイレタリー部品、プリペイドカード、家庭用ラップの鋸刃、食品トレイケース、食品用カップなどが挙げられる。
【0090】
容器としては、米製品、加工食品、惣菜、漬物類、和菓子、洋菓子、ジュース、酒類、調味料などの飲食品、整髪料、ファンデーション、香水などの化粧品、手洗い用洗剤、洗顔用洗剤、台所用洗剤、洗濯用洗剤、シャンプー、リンスなどの各種洗剤など、様々な内容物を保存する容器などが挙げられる。これらの中でも、特に飲食品を保存する容器として有用である。
【0091】
本発明の液晶ポリマー組成物は、良好な製膜性を示すため、フィルム、シート、ブロー成形品などに好適に加工され、成形の容易さ、量産性、コストなどの観点から、押出成形またはブロー成形によって好適に成形される。
【0092】
押出成形またはブロー成形を採用する場合、フィルム、シート、容器、パイプ、繊維等に加工することができ、単独または単層の成形体としてもよい。また、機能向上やコストダウンの観点から他の樹脂組成物からなる部分を有する複合の成形体または他の樹脂組成物からなる層を有する多層の成形体としてもよい。フィルム、シート、繊維等を一軸または二軸延伸することも可能である。また、得られた成形体は、必要に応じて、曲げ加工、真空成形、ブロー成形、プレス成形等の二次加工成形を行って、目的とする成形体にしてもよい。
【0093】
多層の成形体とする場合、成形体のガスバリア性の観点から、本発明の液晶ポリマー組成物の層をガスバリア層として中間層に用いることが好ましい。また、本発明の液晶ポリマー組成物の層と他の樹脂組成物の層とを積層する場合、接着性向上の観点から、液晶ポリマー組成物の層と他の樹脂組成物の層との間に接着層などを形成してもよい。
【0094】
さらに、本発明の液晶ポリマー組成物から構成される成形品は、ボトルなどの中空製品の成形に好適なブロー成形によって所望の成形品に加工される。具体的なブロー成形法とは、ダイレクトブロー成形、インジェクションブロー成形、フリーブロー成形等が挙げられる。また、本発明の液晶ポリマー組成物から構成される成形品は、フィルムやシートなどの膜製品の成形に好適な押出成形によっても所望の成形品に加工される。具体的な押出成形とは、インフレーション成形、Tダイ成形等が挙げられる。
【0095】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0096】
実施例中の結晶融解温度、引張破断伸度、曲げ強度、曲げ弾性率およびフローレート比は以下に記載の方法で測定した。
【0097】
〈結晶融解温度〉
セイコーインスツルメンツ(株)製の示差走査熱量計(DSC)Exstar6000を用いて測定を行った。液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件下で測定し、吸熱ピーク温度(Tm1)を観測した後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持する。次いで20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を全芳香族液晶ポリマーの結晶融解温度とする。
【0098】
〈引張破断伸度〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、シリンダー設定温度を250℃、金型温度80℃で射出成形し、厚さ4.0mmのタイプA1のダンベル試験片を作製した。オートグラフAG-Xplus(株式会社島津製作所製万能試験機)を用いて、試験速度50mm/分、チャック間距離115mmの条件で、ISO 527-1に準拠して測定した。引張破断伸度の値が大きいと、液晶ポリマー組成物の伸びが改善され、製膜性が向上することを意味する。
【0099】
〈曲げ強度、曲げ弾性率〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、シリンダー設定温度を250℃、金型温度80℃で、長さ80.0mm、幅10.0mm、厚さ4.0mmの短冊状試験片を作製した。INSTRON5567(インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、スパン間距離64mm、圧縮速度2mm/分の条件で、ISO 178に準拠して測定した。曲げ強度および曲げ弾性率の値が小さいと、液晶ポリマー組成物の柔軟性が改善され、製膜性が向上することを意味する。
【0100】
〈フローレート比〉
(株)東洋精機製作所製メルトインデックサG-02を用いて、230℃において、荷重2160g(低荷重)ならびに荷重20000g(高荷重)の条件で、ISO 1133に準拠して、液晶ポリマー組成物の低荷重時のMVRと高荷重時のMVRをそれぞれ測定し、フローレート比を算出した。フローレート比の値が大きいと、製膜性に優れることを意味する。
【0101】
〈製膜性評価〉
製膜性評価として、以下に記載の割れの発生率および延伸性を評価した。
(割れの発生率)
押出機((株)東洋精機製作所製ラボプラストミル3S150)を用いて、シリンダー温度240℃で、Tダイ法にて幅20cm、長さ30cm、100μm厚みのフィルムを作製した。得られたフィルムの20箇所をMD方向と平行に180°に折り曲げた。20箇所の折り目について割れや裂けの有無を目視にて観察し、割れの発生率を下記基準で評価を行ない製膜性の指標とした。割れの発生率が小さい(下記評価基準の数値が高い)ほど、製膜性が良好であることを意味する。
[評価基準]
5:割れの発生率が10%未満
4:割れの発生率が10%以上20%未満
3:割れの発生率が20%以上30%未満
2:割れの発生率が30%以上40%未満
1:割れの発生率が40%以上
【0102】
(延伸性)
押出機((株)東洋精機製作所製ラボプラストミル3S150)を用いて、シリンダー温度240℃で、Tダイ法にてフィルムを作製する際に、ダイ幅20cmのダイから出た溶融状態の樹脂組成物をTD方向に引張り、幅(TD方向長さ)約40cm、長さ30cm、厚さ50μmのフィルムを20枚作製した。作製した20枚のフィルムについて破断発生の有無を目視にて観察し、破断の発生率を下記基準で評価した。破断の発生率が小さい(下記評価基準の数値が高い)ほど、製膜時に延伸し易く、製膜性が良好であることを意味する。
[評価基準]
5:破断の発生率が10%未満
4:破断の発生率が10%以上20%未満
3:破断の発生率が20%以上30%未満
2:破断の発生率が30%以上40%未満
1:破断の発生率が40%以上
【0103】
実施例および比較例において下記の略号は以下の化合物を表す。
LCP:全芳香族液晶ポリマー
PA:ポリアミド樹脂
POB:4-ヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
BP:4,4’-ジヒドロキシビフェニル
HQ:ハイドロキノン
TPA:テレフタル酸
【0104】
(液晶ポリマーの合成)
[合成例1(LCP-1)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:349.3g(40モル%)、BON6:476.0g(40モル%)、HQ:69.7g(10モル%)およびTPA:105.0g(10モル%)を仕込み、さらに全単量体の水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0105】
窒素ガス雰囲気下に室温~145℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ330℃まで7時間かけ昇温した後、80分間かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により全芳香族液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたLCPペレットのDSCにより測定された結晶融解温度(Tm)は218℃であった。
【0106】
[合成例2(LCP-2)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:323.2g(36モル%)、BON6:48.9g(4モル%)、TPA:323.9g(30モル%)、BP:169.4g(14モル%)およびHQ:114.5g(16モル%)を仕込み、さらに全単量体の水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0107】
窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間かけて昇温し、145℃で30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機によりLCPのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットのDSCにより測定されたTmは335℃であった。
【0108】
(ポリアミド樹脂)
ポリアミド樹脂として以下のものを使用した。
ポリアミド樹脂:ユニチカ株式会社製、「ポリアミド6(EX-6240)」(比重:1.01)
【0109】
[実施例1~2および比較例1~2]
LCP-1~2およびポリアミド樹脂を、表1に記載の含有量となるように配合し、二軸押出機(日本製鋼(株)製TEX-30)を用いて、シリンダー温度をLCPの結晶融解温度+10~+40℃として溶融混練し、液晶ポリマー組成物のペレットを得た。得られたペレットを用いて、上記の方法により、引張破断伸度、曲げ強度、曲げ弾性率およびフローレート比を測定した。また、Tダイ法にて100μm厚みのフィルムを作製し、上記の評価基準に基づいて製膜性を評価した。結果を表1に示す。
【0110】
表1に示すように、実施例1~2の液晶ポリマー組成物はいずれも、引張破断伸度が2.1~3.2%、曲げ強度が134~144MPa、曲げ弾性率が7.5~8.1GPa、フローレート比が14.3~14.7であり、比較例1のポリアミド樹脂を含有しないものと比較して柔軟性があり、製膜性が改善されるものであった。また、実施例1~3の液晶ポリマー組成物はいずれも、比較例1に対して、上記の評価基準に基づく製膜性が優れていた。
【0111】
一方、比較例2の液晶ポリマー組成物は、LCP-2の結晶融解温度が高く、溶融混練時にポリアミド樹脂が熱劣化して分解ガスを発生させ、押出ストランドの吐出が安定しなかったため、液晶ポリマー組成物を得ることができなかった。
【0112】