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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184099
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】記録装置および記録ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20221206BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B41J2/175 121
B41J2/175 503
B41J2/175 153
B41J2/175 169
B41J2/01 107
B41J2/175 113
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091749
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】濱野 徹
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056KB13
2C056KB19
2C056KB37
2C056KC01
2C056KC21
(57)【要約】
【課題】 温度変化や気圧変化によって記録ヘッド内の空気が膨張した場合であっても、供給流路内に空気が侵入することを抑制する記録装置を提供することができる。
【解決手段】 液体を吐出して画像を記録する記録ヘッドと、記録ヘッドへ供給される液体を貯留する液体貯留部と、液体貯留部に貯留された液体を記録ヘッド内部に供給する液体供給口と、液体貯留部と液体供給口とを接続する液体供給流路と、液体供給口から供給された液体を記録ヘッド内で貯留する第2貯留部と、第2貯留部から供給された液体を記録ヘッド内で保持する保持部と、を有し、第2貯留部には、記録ヘッドが記録可能な状態において液体供給口より重力方向上方に、保持部に液体を供給するための開口部が設けられている。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出して画像を記録する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドへ供給される液体を貯留する液体貯留部と、
前記液体貯留部に貯留された液体を前記記録ヘッド内部に供給する液体供給口と、
前記液体貯留部と前記液体供給口とを接続する液体供給流路と、
前記液体供給口から供給された液体を前記記録ヘッド内で貯留する第2貯留部と、
前記第2貯留部から供給された液体を前記記録ヘッド内で保持する保持部と、を有し、
前記第2貯留部には、前記記録ヘッドが記録可能な状態において前記液体供給口より重力方向上方に、前記保持部に液体を供給するための開口部が設けられていることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記液体供給口の周囲に設けられた液溜め部を有することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記液体供給口は、前記記録ヘッドが記録可能な状態において、前記第2貯留部に貯留された液体の液面より重力方向下方に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記第2貯留部の天面から前記開口部までの距離は、前記第2貯留部の底面から前記開口部までの距離より長いことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドは画像を記録する動作時において、第1の方向に往復移動を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記開口部は、前記第2貯留部を構成する側面に開口されることを特徴とする請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
前記開口部は、前記側面の第1の方向における中央近傍に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記開口部は、前記第1の方向と交差する方向に向けて開口することを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
液体を貯留する液体貯留部から液体供給流路を介して液体が供給される液体供給口と、
前記液体供給口から供給された液体を貯留する第2貯留部と、
前記第2貯留部から供給された液体を保持する保持部と、を有し、
前記第2貯留部には、記録可能な状態において前記液体供給口より重力方向上方に、前記保持部に液体を供給するための開口部が設けられていることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項10】
前記液体供給口の周囲に設けられた液溜め部を有することを特徴とする請求項9に記載の記録ヘッド。
【請求項11】
前記液体供給口は、記録可能な状態において、前記第2貯留部に貯留された液体の液面より重力方向下方に設けられていることを特徴とする請求項9または10に記載の記録ヘッド。
【請求項12】
前記第2貯留部の天面から前記開口部までの距離は、前記第2貯留部の底面から前記開口部までの距離より長いことを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項13】
液体を吐出する吐出口を有し、前記吐出口から液体を吐出する際に第1の方向に往復移動を行うことを特徴とする請求項9から12のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項14】
前記開口部は、前記第2貯留部を構成する側面に開口されることを特徴とする請求項13に記載の記録ヘッド。
【請求項15】
前記開口部は、前記側面の第1の方向における中央近傍に設けられていることを特徴とする請求項14に記載の記録ヘッド。
【請求項16】
前記開口部は、前記第1の方向と交差する方向に向けて開口することを特徴とする請求項13から15のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像を記録する記録装置および記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出する記録ヘッドへ供給されるインクを収容可能なインクタンクを備えたインクジェット式のプリンタ(インクジェット記録装置)が知られている。インクタンクから記録ヘッドへのインクの供給は、インク供給流路を介して行われる。特許文献1には、記録ヘッド内部において、液体を流通させることが可能な流路である液体供給部と液体を保持するための保持部材との間に空気層を有する形式のものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-81075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構成では温度変化や気圧変化により記録ヘッド内の空気層の空気が膨張した場合、供給口の出口部の液面が退行して液体流路内に空気が侵入することがある。そのため、液体流路内に侵入した空気を排出するためのクリーニングやインク吸引を必要とする場合があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、温度変化や気圧変化によって記録ヘッド内の空気が膨張した場合であっても、供給流路内に空気が侵入することを抑制する記録装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、液体を吐出して画像を記録する記録ヘッドと、前記記録ヘッドへ供給される液体を貯留する液体貯留部と、前記液体貯留部に貯留された液体を前記記録ヘッド内部に供給する液体供給口と、前記液体貯留部と前記液体供給口とを接続する液体供給流路と、前記液体供給口から供給された液体を前記記録ヘッド内で貯留する第2貯留部と、前記第2貯留部から供給された液体を前記記録ヘッド内で保持する保持部と、を有し、前記第2貯留部には、前記記録ヘッドが記録可能な状態において前記液体供給口より重力方向上方に、前記保持部に液体を供給するための開口部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、温度変化や気圧変化によって記録ヘッド内の空気が膨張した場合であっても、供給流路内に空気が侵入することを抑制する記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態のインクジェット記録装置の概要を示す概略図である。
図2】インクジェット記録装置におけるインク供給流路の模式図である。
図3】インクジェット記録装置における回復ユニットの立体斜視図である。
図4】(a) 第1実施形態における記録ヘッドとその周辺構成の外観斜視図である。(b) 第1実施形態における記録ヘッドをZ方向上側から見た外観図である。
図5】第1実施形態における記録ヘッドの分解斜視図である。
図6】第1実施形態における記録ヘッド(ユーザによる初期充填前の初期状態)をI-I線において切断し、-X方向から見た断面図である。
図7】(a) 第1実施形態における記録装置の初期充填時に、インクがインク供給口まで達したときの記録ヘッド内部の模式図である。(b) 第1実施形態における記録ヘッドの初期充填完了時の記録ヘッド内の模式図である。(c) 第1実施形態における記録装置の初期充填完了後の記録ヘッド内のインクバッファからインク保持部へのインク供給を表した模式図である。(d) 図7(c)の破線部内の拡大図である。(e) 第1実施形態における記録装置の初期充填完了後に、記録装置の周囲の環境が変化した際の記録ヘッドの模式図である。
図8】(a) 第1実施形態における記録装置が天地逆となった場合に、記録ヘッドをI-I線で切断し、-X方向から見た模式図である。(b) 図8(a)の破線部内の拡大図である。
図9】第1実施形態においてインク供給口の周囲に液溜め部を設けた変形例の記録ヘッドの模式図である。
図10】第1実施形態において、キャリッジが反転動作を行う際の記録ヘッドを、II-II線およびIII-III線において切断し、+Y方向から見た断面図である。
図11】第2実施形態における記録ヘッドの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
はじめに、本発明に係るインクジェット記録装置の概略について述べる。図1は、本発明の実施形態のインクジェット記録装置の概要を示す概略図である。インクジェット記録装置1(以下、記録装置1)は、記録装置1の前面に設けられた給紙カセットA、または背面に設けられた給紙トレイBに積載された記録媒体を、不図示の給紙ローラにより給送する。その後、記録媒体は、搬送ローラ102とこれに従動する不図示のピンチローラとの間に挟まれ、搬送ローラ102の回転により、プラテン101上に案内、支持されながら図中の+Y方向に搬送される。搬送ローラ102は表面に微細な凹凸を形成して大きな摩擦力を発生できるように加工された金属製のローラである。ピンチローラは不図示のバネ等の押圧手段により搬送ローラ102に対して弾性的に付勢されている。
【0010】
プラテン101は、記録ヘッド13と対向する位置に配置されている。プラテン101は、記録ヘッド13のインク吐出部81(図6参照)と、これに対向する記録媒体の表面との距離を一定ないし所定の距離に維持するように記録媒体の裏面を支持する。プラテン101に搬送された記録媒体は記録ヘッド13による記録が完了した後、排出ローラ103とこれに従動する回転体である拍車との間に挟まれ、記録装置1の機外に排出される。排出ローラ103は大きな摩擦係数を有するゴムローラである。拍車は不図示のバネ等の押圧手段により排出ローラ103に対して弾性的に付勢されている。
【0011】
記録ヘッド13は、搬送される記録媒体と対向するようにキャリッジ30の底部に搭載され、インクを吐出するインク吐出部81をインクの色毎に有する。キャリッジ30は、モータ等の駆動手段により上下に配置されたガイドレール104に沿ってX方向(主走査方向)に往復移動する。なおX方向は、記録媒体の搬送方向(Y方向)と水平面で直交する方向を指す。
【0012】
記録ヘッド13は、キャリッジ30とともに主走査方向に移動しながらインク滴を吐出し、プラテン101上の記録媒体に対して1バンド分の画像を記録する。1バンド分の画像が記録されると、記録媒体は、搬送ローラによって所定量だけ搬送方向に搬送される(間欠搬送動作)。この1バンド分の記録動作と間欠搬送動作を繰り返すことによって、画像データに基づいて記録媒体に画像が記録される。
【0013】
さらに、記録ヘッド13から吐出されるインクの色に対応した液体貯留部として、複数の独立したインクタンク15が装置本体に固定されている。インクタンク15と記録ヘッド13とは、それぞれインクの色に対応する液体供給流路であるインク供給流路14によって、不図示のジョイントを介して接続される。これによって各インクタンク15内に収容された色のインクを、各インク色に対応する記録ヘッド13のインク吐出部81に個別に供給することが可能となる。また、記録ヘッド13の往復移動範囲内で、かつ、搬送される記録媒体が通過する通過範囲外の領域に、記録ヘッド13のインク吐出部81と対面するように、後述のメンテナンスユニット40(図3参照)が配置されている。
【0014】
図2はインク供給流路の模式図である。インクタンク15は、対応するインク色毎に設けられている。本実施形態のインクタンク15は、ブラック用タンク151、シアン用タンク152、マゼンタ用タンク153、イエロー用タンク154を備えている。各インクタンク15の上部には、インク注入口21がそれぞれ開口されている。インク注入口21はインク注入時を除いて、タンクキャップ22により封止されている。
【0015】
ユーザはインク注入時にはタンクキャップ22を外し、インク注入口21を介して、不図示のインク注入容器からインクタンク15内にインクを注入することができる。また、インクタンク15には不図示の大気連通部が設けられており、インクタンク15内のインクは大気連通部を介して大気と連通する。
【0016】
なお、本実施形態におけるインクタンク15は、装置本体に固定されているものに限らず、装置本体に着脱可能なカートリッジ形式のものであってもよい。
【0017】
図3は、メンテナンスユニット40の立体斜視図である。メンテナンスユニット40は、記録ヘッド13のインク吐出部81をキャッピングするためのキャップ部301を有している。さらに、キャップ部301がインク吐出部81をキャッピングした状態で、記録ヘッド13からインクを吸引するためのポンプ303と、インク吐出部81の汚れを払拭するためのクリーニングブレード302等を備えている。
【0018】
キャップ部301は可撓性材料で形成され、記録ヘッド13のインク吐出部81を覆うキャッピング位置と、インク吐出部81を覆わない離間位置と、に移動可能に構成される。キャップ部301はポンプ303と接続されており、キャップ部301がキャッピング位置に位置する状態で不図示のポンプモータによりポンプ303が駆動されると、キャップ部301の内部が負圧になって記録ヘッド13からインクが吸引される。キャップ部301とポンプ303はキャップチューブで接続されており、インク吸引動作により記録ヘッド13から吸引されたインクは不図示の廃インクタンクへ回収される。
【0019】
図4(a)は記録ヘッド13とその周辺構成の外観斜視図であり、図4(b)は記録ヘッド13をZ方向(重力方向)上側から見た外観上面図である。記録ヘッド13は、ケース82と蓋部材70によって周囲を囲まれて形成される。
【0020】
図5は、記録ヘッド13の分解斜視図である。記録ヘッド13の蓋部材70は、インク供給流路接続部601においてインク供給流路14と接続する。インク供給流路接続部601は、液体供給口としてケース82の内部に向けて開口するインク供給口71(図6参照)を有している。蓋部材70には、ケース82と向かい合う方向に突出する押さえリブ72が設けられている。
【0021】
ケース82には画像を記録する記録部として、複数の吐出口を有するインク吐出部81(図6参照)が設けられている。またケース82内には、インク吐出部81へのゴミの混入を抑制するフィルター83と、インク(液体)を保持するための保持部であるインク保持部材84とが設けられる。インク保持部材84としては、例えば繊維吸収体が挙げられる。加えてケース82内には、インク供給口71から供給されるインクが貯留される第2貯留部としてインクバッファ90が設けられる。本実施形態においては、ケース82、フィルター83、インク保持部材84をまとめて液体収容部80と呼称する。
【0022】
インク保持部材84とフィルター83とは、ケース82内部において互いに圧接された状態を維持することが望ましい。そのため、蓋部材70の裏面にはインク保持部材84をフィルター83に向かう方向に押さえるための押さえリブ72が配置されている。蓋部材70は、ケース82内にフィルター83とインク保持部材84が収納された状態で、ケース82に溶着して取り付けられる。このとき、押さえリブ72がインク保持部材84を押圧する。これにより、インク保持部材84とフィルター83とが圧接された状態となる。
【0023】
図6は、初期充填前の初期状態の記録ヘッド13を、図4(b)におけるI-I線において切断し、-X方向から見た断面図である。ここで、初期充填とは、インクタンク15からインク供給流路14及び記録ヘッド13へインクを初期充填することを指す。なお、本実施形態の記録ヘッド13の内部には、初期充填前の状態においてもインク保持部材84にインクが満たされ、保持されている。
【0024】
記録ヘッド13のインク吐出部81は、インクタンク15内に貯留されたインクと大気とが面する気液交換部よりも、Z方向において高い位置に配置されている。従って、インク吐出部81には、インクタンク15内における気液交換部との高さの差分の水頭差による負圧が発生する。この負圧により、インク吐出部81の内部にインクが保持され、インク吐出部81からインクが漏れ出ることが抑制される。尚、本発明は、水頭差を利用する方式の記録ヘッド13及びインクタンク15の構成に限られるものではなく、インクタンク15内に負圧発生機構を持たせる方式などにも適用可能である。
【0025】
インクバッファ90はインク供給口71と、押さえリブ72によって位置が規制されたインク保持部材84の上面部と、の間に形成される空間部に設置されている。本実施形態では、インクバッファ90はインク供給口71の直下に配置され、インク供給口71から供給されたインクを一旦貯めることができる容器形態を成している。インクバッファ90の側面部には開口部91を有しており、インク供給口71から供給され、一旦貯められたインクは開口部91を通じてインク保持部材84へ供給される。開口部91は、インク供給口71の下端よりもZ方向に高い位置に構成される。
【0026】
図7も、図6と同様、記録ヘッド13を図4(b)におけるI-I線において切断し、-X方向から見た断面図である。図7(a)は、記録装置1の初期充填中の記録ヘッド13内の模式図である。このとき、インク供給流路14を介してインクタンク15から供給されたインクがインク供給口71まで達した状態となっている。
【0027】
記録ヘッド13へのインクの初期充填時には、メンテナンスユニット40に設置されているキャップ部301によりインク吐出部81が封止される。その後、キャップ部301に接続されたポンプ303で吸引することにより、キャップ部301の内部に負圧が発生する。ポンプ303による吸引を続けることで、初期充填前に空気で満たされていたインク供給流路14内部は、インク供給口71までインクで満たされるようになる。
【0028】
なお、初期充填前の状態であっても、インク供給流路14の流路体積より、記録ヘッド13内にインク供給流路14の流路体積より多い量のインクが保持されている場合がある。その場合は、ポンプ303による前述のインク吸引を行わずに、インク吐出部81から吐出を行う動作を行うのみでインク供給口71までインクを供給することが可能である。
【0029】
インクがインク供給口71に達した後、さらにポンプ303によるインク吸引動作やインク吐出動作を続けていくと、インク吐出部81から排出されたインク量に応じて液体収容部80内部が負圧になる。この負圧により、インク供給口71に張られていたメニスカスが破れてインクバッファ90にインクが滴下されるようになる。
【0030】
図7(b)は記録装置1の初期充填完了時の記録ヘッド13内の模式図である。このとき、インクバッファ90内に溜まったインクのインク液面701が開口部91まで達した状態であり、この状態までインクが溜まれば初期充填完了となる。
【0031】
図7(c)は、記録装置1の初期充填完了後の記録ヘッド13内のインクバッファ90からインク保持部材84へのインク供給を表した模式図である。図7(d)は、図7(c)におけるインクバッファ90内のインク液面701や開口部91(破線部内)の拡大図である。インク吐出部81からインクが吐出されると、吐出された量と同量のインクがインク保持部材84からフィルター83を介してインク吐出部81へ移動することによってインク保持部材84に負圧が発生する。この負圧によってインクバッファ90内のインク液面701が引き上げられる。
【0032】
引き上げられたインク液面701が開口部91の高さを超えると、インクバッファ90から開口部91を介してインクが溢れ出し、インク保持部材84に吸収される。インクバッファ90内のインク液面701が引き上げられる際には、引き上げられた体積分と同量のインクが、インク供給流路14を介してインクタンク15からインクバッファ90内に供給される。この動作を繰り返すことにより、インクタンク15内のインクはインク供給流路14を介して記録ヘッド13に供給され続ける。
【0033】
前述のインクバッファ90からインク保持部材84へのインク供給動作は、記録装置1が記録動作中にも行われる。このとき、インク供給口71はインク液面701よりZ方向下方(重力方向下方)にある状態となる。
【0034】
図7(e)は、図7(c)に示す記録装置1の初期充填完了状態(平衡状態)から、記録装置1の周囲の環境が変化した際の記録ヘッド13の模式図である。記録装置1の周囲で、温度上昇や気圧降下が生じた場合、その変化量に応じて記録ヘッド13内の空気の体積は膨張する。
【0035】
インク供給流路14の上流側はインクタンク15を介して大気と連通し、下流側はインク吐出部81を介して大気に接している。温度上昇や気圧降下によって、記録ヘッド13内の空気が膨張すると、記録ヘッド13内部の圧力が上昇する。インク吐出部81の吐出口は極小径であるため、吐出口に張られるメニスカス耐圧は非常に強い。記録ヘッド13内部の圧力が、インク吐出部81のメニスカス耐圧より高くなるとメニスカスが破壊される。一方で、記録ヘッド13内部の圧力がインク吐出部81のメニスカス耐圧以下である場合には、記録ヘッド13内で膨張した空気によって、インクバッファ90内のインク液面701が押し下げられる。
【0036】
本実施形態では、インク供給口71の下端に対してインクバッファ90の開口部91をZ方向において高い位置に構成している。このため、液体収容部80内の空気が膨張した場合においても、インク液面701がインク供給口71の下端を下回るまではインク供給流路14に空気が侵入しない。そのため、インク供給口71は開口部91よりもできるだけZ方向下方に設けることが好ましい。
【0037】
図8(a)は記録装置1が天地逆に設置された場合に、記録ヘッド13を図4(b)におけるI-I線において切断し、-X方向から見た模式図である。図8(b)は、図8(a)に示す破線部の拡大図である。記録装置1を移動させる際や未使用時には、記録装置1が天地逆の状態で放置される場合がある。この場合、インクバッファ90内に貯まったインク液面701は、重力によってZ方向下側に移動する。
【0038】
ここで、図8(b)に示すように、インクバッファ90内の面801(天面)から開口部91までの距離をH9とし、インク供給口71の下端からインクバッファ90内の面802(底面)までの距離をH7とする。この時、H9はH7より大きくなるように構成される。これにより、記録装置1が天地逆に設置された状態となっても、インクバッファ90内に貯められていたインクは開口部91から空気層側に溢れ出すことなく一定量がインクバッファ90内に保持される。
【0039】
よって、記録装置1を図1に示したような、記録動作が行える状態(記録可能な状態)に再び設置し直した際に、図7(b)に示すように、インクバッファ90のインク保持部材84側の面802(底面)に溜まった状態に戻すことができる。このとき、戻されたインク液面701はインク供給口71よりも上になるため、インク供給口71を介して空気がインク供給流路14内に侵入することを防止できる。
【0040】
図9は、インク供給口71の周囲に液溜め部を設けた変形例の記録ヘッド13の断面模式図であって、記録装置1が天地逆に設置された状態を示す。記録装置1が天地逆の状態で放置された際に、気圧降下や温度上昇により記録ヘッド13内部の空気が膨張した場合には、インク供給口71からインク供給流路14内に空気が侵入する可能性がある。
【0041】
インク供給口71の周囲にインク溜め部901(液貯め部)を設けることにより、記録装置1が天地逆に設置された状態となった場合においても、インク溜め部901にインクを貯留することが可能となる。これにより、記録ヘッド13内の空気が膨張した場合においても、インク供給流路14内への空気の侵入をより確実に防止できる。
【0042】
本変形例では、記録装置1が天地逆に設置された状態において、インク溜め部901に貯留されるインクの液面が、インク供給口71よりZ軸方向上方になるよう構成される。インク溜め部901の先端はインク供給口71より記録装置1が天地逆に設置された状態であるとき、Z方向上方(重力方向上方)に位置する。
【0043】
図10は、キャリッジ30が反転動作を行う際の記録ヘッド13を、図4(b)におけるII-II線およびIII-III線において切断し、+Y方向から見た断面図である。図10の破線部内が図4(b)におけるII-II線の断面図、破線部外が図4(b)におけるIII-III線の断面図である。記録装置1の記録動作中には、キャリッジ30は図1のX方向に走査するが、走査方向を逆転させるために反転動作を行うことがある。図10の記録ヘッド13内の状態は、キャリッジ30がメンテナンスユニット40側へ-X方向に移動した後に、+X方向へ走査方向を反転する反転動作の直前の状態を表している。
【0044】
記録装置1の記録動作時においては、キャリッジ30の移動により、インクバッファ90内のインクにX方向の慣性力が作用しインクが移動する。例えば、キャリッジ30がメンテナンスユニット40側へ移動した後に反転動作を行う直前には、インクバッファ90内のインクには-X方向に慣性力が作用する。そのため、インク液面701はインクバッファ90内で-X方向に偏るように移動する。このとき、開口部91が中心より-X側の位置で開口していると、インクバッファ90内で偏ったインクが開口部91から溢れ出し、インク保持部材84に供給される可能性がある。また、同様にインクバッファ90内で移動したインクが、開口部91を介して記録ヘッド13内部の様々な箇所に飛散することにより、インク保持部材84へのインク供給が安定しない可能性がある。
【0045】
そのため、インクバッファ90の開口部91はキャリッジ30の走査方向であるX方向と交差する方向に向けて開口することが望ましい。本実施形態においては、インクバッファ90を構成する側面のうち、XZ平面で構成される側面に開口部91を開口することが望ましい。さらに本実施形態においては、XZ平面で構成される側面のX方向における中央近傍に開口部91を開口することが望ましい。
【0046】
このような構成とすることで、キャリッジ30の移動によりX方向の慣性力によってインクが偏った際にも、インク液面701の高さの変動によるインク供給への変動を低減することができる。これによってキャリッジ30の走査によるインクバッファ90からのインク溢れを抑制することが可能となり、インク保持部材84への安定したインク供給が可能となる。
【0047】
(第2実施形態)
以下に第2実施形態についての説明を行うが、前述した第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0048】
図11は第2実施形態における記録ヘッド13の断面模式図である。本実施形態においては、インクバッファ90の底面111よりZ方向上方にもインク保持部材84を配置している。この時、インクバッファ90の側面にある開口部91を塞がないよう、開口部91の近傍に配置されるインク保持部材84を押さえリブ72によって規制する。開口部91の近傍に設置する押さえリブ72は、開口部91の近傍ではない位置に設ける押さえリブ72よりZ方向の長さが短いものとしてもよい。なお、開口部91からインクバッファ90内のインクが供給できる構成であれば、開口部91近傍にインク保持部材84を配置してもよく、インク保持部材84によって開口部91が覆われる状態となるよう配置してもよい。
【0049】
記録ヘッド13内の空気は、記録装置1周囲の温度上昇や、気圧降下が生じた場合、その変化量に応じて膨張する。このため、液体収容部80に占める空気層の割合が多くなるほど、空気層部の体積の膨張によるインクバッファ90のインク液面降下の影響が大きくなる。よって記録ヘッド13内において空気層の占める体積の割合は、インク保持部材84の体積の割合と比較して十分に小さいことが好ましい。そのため、本実施形態のようにインク保持部材84の体積を増やすことで、空気層部の体積の膨張によるインクバッファ90のインク液面701の降下への影響を小さくすることができる。
【0050】
なお、第1実施形態、第2実施形態のいずれの形態についても、インクバッファ90の天面よりZ軸方向上方にインク保持部材84が配置される構成をとっても本発明の効果を得ることができる。
【0051】
また、本発明における記録ヘッド13は、記録媒体の幅に相当する領域に吐出口が配置された、長尺のラインヘッドであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 記録装置
13 記録ヘッド
14 インク供給流路
15 インクタンク(液体貯留部)
71 インク供給口
84 インク保持部材
90 第2貯留部
91 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11