(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184106
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車体速度推定装置
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20221206BHJP
G01P 3/50 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B60L3/00 N
G01P3/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091763
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒川 淳
(72)【発明者】
【氏名】一野瀬 昌則
(72)【発明者】
【氏名】北口 篤
(72)【発明者】
【氏名】石原 和典
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA12
5H125AB01
5H125AC08
5H125DD18
5H125DD19
5H125EE53
5H125EE57
5H125EE62
(57)【要約】
【課題】車体速度の推定精度を高めることができる車体速度推定装置を提供する。
【解決手段】車体速度推定装置7は、車両の前後方向の少なくとも2箇所に圧力センサ5a,5bが配置されたダンプトラック1に対し、車体速度を推定する。この車体速度推定装置7は、ダンプトラック1に配置された加速度計により検出された前後方向加速度と、車両の上下運動を模擬する第1運動モデルとを用いて圧力センサ5a,5bの配置位置での荷重を推定し、推定した荷重と圧力センサ5a,5bにより検出された荷重との差分に基づいて、路面傾斜によって発生する路面外乱力を推定し、推定した路面外乱力に基づいて路面傾斜角を推定し、推定した路面傾斜角に基づいて車体速度を推定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向の少なくとも2箇所に荷重検出装置が配置された車両に対し、車体速度を推定する車体速度推定装置であって、
前記車体速度推定装置は、
前記車両に配置された加速度計により検出された前後方向加速度と、車両の上下運動を模擬する第1運動モデルとを用いて前記荷重検出装置の配置位置での荷重を推定し、推定した荷重と前記荷重検出装置により検出された荷重との差分に基づいて、路面傾斜によって発生する路面外乱力を推定し、
推定した路面外乱力に基づいて路面傾斜角を推定し、
推定した路面傾斜角に基づいて車体速度を推定することを特徴とする車体速度推定装置。
【請求項2】
前記車体速度推定装置は、推定した路面傾斜角と、前記荷重検出装置により検出された荷重と、前記加速度計により検出された前後方向加速度と、車両の上下運動を模擬する第2運動モデルとを用いて、車両ピッチ角加速度を推定する請求項1に記載の車体速度推定装置。
【請求項3】
前記車体速度推定装置は、推定した路面傾斜角及び車両ピッチ角加速度に基づいて、車体前後速度を推定する請求項2に記載の車体速度推定装置。
【請求項4】
前記第1運動モデルは、路面傾斜によって発生する路面外乱力を考慮しない運動モデルであり、前記第2運動モデルは、路面傾斜によって発生する路面外乱力を考慮する運動モデルである請求項2又は3に記載の車体速度推定装置。
【請求項5】
前記車体速度推定装置は、推定した路面傾斜角と、前記加速度計により検出された前後方向加速度と、前記第2運動モデルとを用いて前記荷重検出装置の配置位置での荷重を推定し、推定した荷重と前記荷重検出装置により検出された荷重との差分に基づいて、前記車両ピッチ角加速度を推定する請求項2~4のいずれか一項に記載の車体速度推定装置。
【請求項6】
前記荷重検出装置は、前記車両の車輪に取り付けられたショックアブソーバの油圧を検出する圧力センサである請求項1~5のいずれか一項に記載の車体速度推定装置。
【請求項7】
前記荷重検出装置は、加速度計である請求項1~5のいずれか一項に記載の車体速度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体速度推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車体速度推定装置として、例えば特許文献1に記載のように、車両運動モデルに基づいてオブザーバを構成して車両の前後方向の速度を推定する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された技術では、路面に勾配があると重力によって前後方向の力が車両に作用するので、車両前後方向の速度の推定に誤差が生じ、推定精度が低下してしまう問題があった。
【0005】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、車体速度の推定精度を高めることができる車体速度推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車体速度推定装置は、車両の前後方向の少なくとも2箇所に荷重検出装置が配置された車両に対し、車体速度を推定する車体速度推定装置であって、前記車体速度推定装置は、前記車両に配置された加速度計により検出された前後方向加速度と、車両の上下運動を模擬する第1運動モデルとを用いて前記荷重検出装置の配置位置での荷重を推定し、推定した荷重と前記荷重検出装置により検出された荷重との差分に基づいて、路面傾斜によって発生する路面外乱力を推定し、推定した路面外乱力に基づいて路面傾斜角を推定し、推定した路面傾斜角に基づいて車体速度を推定することを特徴としている。
【0007】
本発明に係る車体速度推定装置では、まず、加速度計により検出された前後方向加速度と車両の上下運動を模擬する第1運動モデルとを用いて荷重検出装置の配置位置での荷重を推定し、推定した荷重と荷重検出装置により検出された荷重との差分に基づいて路面傾斜によって発生する路面外乱力を推定し、更に推定した路面外乱力に基づいて路面傾斜角を推定し、推定した路面傾斜角に基づいて車体速度を推定するので、車体速度の推定精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車体速度の推定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施形態に係る車体速度推定装置を示す概略構成図である。
【
図3】タイヤ路面間作用力推定部を示す概略構成図である。
【
図5】車両ピッチ角加速度推定部を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明に係る車体速度推定装置の実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、その重複説明を省略する。また、以下の説明では、上下、左右、前後の方向及び位置は、車体速度推定装置が搭載された車両(ここでは、ダンプトラック)を基準とする。なお、車体速度推定装置が搭載された車両は、ダンプトラックに限定されない。
【0011】
図1はダンプトラックを示す側面図である。
図1に示すように、ダンプトラック1は、車体2と、車体2の前側に取り付けられた左右一対の前輪3aと、車体2の後側に取り付けられた左右一対の後輪3bと、車体2に起伏可能に支持された荷台6とを備えている。後輪3bは、例えば駆動輪であり、該後輪3bに取り付けられた電動モータによって駆動されている。電動モータは、インバータ制御されており、例えば車体2に内蔵されたディーゼルエンジンで発電した電気エネルギを受けて回転する。なお、駆動輪は後輪3bに限らず、前輪3aであっても良い。
【0012】
車体2は、車体2の前側に取り付けられた左右一対のサスペンションシリンダ4aと、車体2の後側に取り付けられた左右一対のサスペンションシリンダ4bとにより支持されている。各サスペンションシリンダ4a,4bには、それぞれ圧力センサ(荷重検出装置)5a,5bが取り付けられている。圧力センサ5a,5bは、例えば車輪に配置されたサスペンションストラットのショックアブソーバの油圧を検出するものである。また、車体2には、電動モータの出力を検出するトルクセンサ、車両の前後方向の加速度(以下、「車体前後加速度」という)を検出する加速度センサ(加速度計)、車輪回転速度を検出するエンコーダを含む各種センサが取り付けられている。
【0013】
ダンプトラック1には、路面勾配推定部10を備えた車体速度推定装置7が搭載されている。車体速度推定装置7は、例えば車体2の内部に配置され、車両の前後方向の速度(以下、「車体前後速度」という)を含む車体速度を推定するために用いられる。本実施形態では、車体速度推定装置7による車体前後速度の推定を挙げて説明する。この車体速度推定装置7は、例えば演算を実行するCPU(Central Processing Unit)と、演算のためのプログラムを記録した二次記憶装置としてのROM(Read Only Memory)と、演算経過の保存や一時的な制御変数を保存する一時記憶装置としてのRAM(Random Access Memory)とを組み合わせてなるマイクロコンピュータにより構成されている。なお、該車体速度推定装置7は、ダンプトラック1に搭載された車両制御装置に機能として組み込まれても良い。
【0014】
以下、
図2~
図5を基に車体速度推定装置7を詳細に説明する。
【0015】
図2は実施形態に係る車体速度推定装置を示す概略構成図である。
図2に示すように、ダンプトラック1が路面を走行する際に、該ダンプトラック1には、上述電動モータから出力されたモータトルクに加え、重力、路面傾斜によって発生する路面外乱力、タイヤが路面から受ける作用力(以下、「タイヤ路面間作用力」という)等の力が働く。このため、車体前後速度を推定する際に、これらの力の影響を考慮しなければならず、モータトルク、荷重、車体前後加速度、車輪回転速度をそれぞれ取得する必要がある。
【0016】
モータトルクは、例えば後輪3bに取り付けられたトルクセンサにより検出される。荷重は、上述した圧力センサ5a、5bにより検出される。車体前後加速度は、例えば車体2に取り付けられた加速度センサにより検出される。車輪回転速度は、例えば後輪3bに取り付けられたエンコーダにより検出される。なお、ここでは、トルクセンサに代えて電動モータの電流値を測定し、測定した電流値に基づいてモータトルクを計算しても良い。
【0017】
図2に示すように、本実施形態の車体速度推定装置7は、主に、タイヤ路面間作用力推定部30と、路面勾配推定部10と、車体速度推定部20とを備えている。以下、それぞれを順に説明する。
【0018】
[タイヤ路面間作用力推定部について]
図3はタイヤ路面間作用力推定部を示す概略構成図である。タイヤ路面間作用力推定部30は、モータトルクと車輪回転速度とに基づいてタイヤ路面間作用力を推定し、推定した結果(すなわち、推定タイヤ路面間作用力)を出力する。
図3に示すように、タイヤ路面間作用力推定部30は、2つのフィルタ31a,31bと、車輪運動モデル32と、微分器33とを有する。フィルタ31aとフィルタ31bは、例えば同じ周波数特性を有するフィルタである。そして、高周波ノイズを除去したい場合は、これらのフィルタ31a、31bにローパスフィルタを用いれば良い。
【0019】
車輪の運動方程式は、下記式(1)のように表すことができる。
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
図4は実施形態に係る路面勾配推定部を示す概略構成図である。
図4に示すように、路面勾配推定部10は、路面外乱推定部11と、路面傾斜角推定部12と、車両ピッチ角加速度推定部13とを備えている。
【0028】
ダンプトラック1の上下方向の運動方程式は、例えば下記式(3)で表すことができる。
【0029】
【0030】
【0031】
路面外乱推定部11は、例えばダンプトラック1の上下運動を模擬する計算モデル(第1運動モデル)である。この計算モデルの運動方程式は、下記式(4)で表すことができる。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
なお、車両ピッチ角加速度の推定精度を向上するために、本実施形態の車両ピッチ角加速度推定部13は、更に圧力センサ5a、5bにより検出された荷重を利用して車両ピッチ角加速度を推定する。
【0041】
【0042】
なお、ゲイン15は、例えばカルマンフィルタの設計アルゴリズムを用いて求めることができる。そして、車両ピッチ角加速度推定部13は、その推定した結果(すなわち、推定車両ピッチ角加速度)を車体速度推定部20に出力する。
【0043】
上述したように、ダンプトラック1の車体2は、車体2の前側に取り付けられた左右一対のサスペンションシリンダ4aと車体2の後側に取り付けられた左右一対のサスペンションシリンダ4bにより支持されており、サスペンションシリンダ4a、4bにはそれぞれ圧力センサ5a、5bが取り付けられている。これらの圧力センサ5a、5bの検出結果に基づいて、車体2、荷台6及び荷台6に積まれた積荷の質量を取得することができる。
【0044】
【0045】
【0046】
ここで、車体前後速度を推定するにあたり、路面傾斜角及び車両ピッチ角加速度を必要とする理由を説明する。まず、路面傾斜角を必要とする理由を説明する。
【0047】
ダンプトラック1の前後方向の運動方程式は、例えば下記式(6)で表すことができる。
【0048】
【0049】
【0050】
次に、車両ピッチ角加速度を必要とする理由を説明する。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
また、本実施形態の車体速度推定部20は、加速度センサにより検出された車体前後加速度を利用し、車体前後速度の推定精度を向上する。
【0056】
【0057】
【0058】
また、このような路面勾配推定部10を備えた車体速度推定装置7によれば、高い推定精度を有する路面傾斜角及び車両ピッチ角加速度を用いて車体前後速度を推定する場合、車体前後速度を高精度に推定することが可能になる。
【0059】
なお、本実施形態において、荷重検出装置として車輪に配置されたサスペンションストラットのショックアブソーバの油圧を検出する圧力センサ5a,5bの例を挙げて説明するが、荷重検出装置は加速度計であっても良い。加速度計を用いた場合、該加速度計により検出された結果に基づき、上述内容と同じように路面傾斜角及び車両ピッチ角加速度を推定することができる。
【0060】
なお、本実施形態において、荷重検出装置を車両の前後方向の少なくとも2箇所に配置する必要がある。これは、ダンプトラック1が傾斜した路面(例えば下り坂又は上り坂)を走行する場合、前輪にかかる荷重と後輪にかかる荷重とが異なるので、車両の前側及び後側にそれぞれ荷重検出装置を配置することで荷重をより正確に取得できるからである。
【0061】
また、上記の実施形態では、車体速度推定装置7がダンプトラック1に搭載された例を挙げて説明したが、車体速度推定装置7はダンプトラック1から独立して設けても良い。例えば、車体速度推定装置7は、ダンプトラック1と通信可能に接続されたサーバに配置され、無線通信などを介してダンプトラック1の各センサの検出結果を取得して上述の各推定を行い、推定結果をダンプトラック1に送信する。
【0062】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0063】
1 ダンプトラック
2 車体
3a 前輪
3b 後輪
4a,4b サスペンションシリンダ
5a,5b 圧力センサ(荷重検出装置)
6 荷台
7 車体速度推定装置
10 路面勾配推定部
11 路面外乱推定部
12 路面傾斜角推定部
13 車両ピッチ角加速度推定部
14 車体上下運動モデル
15 ゲイン
20 車体速度推定部
30 タイヤ路面間作用力推定部
31a,31b フィルタ
32 車輪運動モデル
33 微分器