(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184108
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
B25F5/00 A
B25F5/00 C
B25F5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091765
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006301
【氏名又は名称】マックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森村 隆志
(72)【発明者】
【氏名】小林 久詞
【テーマコード(参考)】
3C064
【Fターム(参考)】
3C064AA09
3C064AB01
3C064AC02
3C064BA06
3C064BB01
3C064BB02
3C064CA03
3C064CA08
3C064CA25
3C064CA53
3C064CA61
3C064CA77
3C064CA78
3C064CA79
3C064CA80
3C064CB05
3C064CB08
3C064CB17
3C064CB63
3C064CB72
3C064CB86
3C064DA02
3C064DA31
3C064DA59
3C064DA65
3C064DA89
3C064DA91
(57)【要約】
【課題】発熱の抑制を可能とする電動工具を提供すること。
【解決手段】モータ20を備える打込工具10であって、モータ20に電流を供給するためのスイッチング素子を含むインバータ回路50Aと、スイッチング素子に制御信号を供給するためのドライブ回路50Bとを備える。更にこの打込工具10は、駆動情報に基づいてドライブ回路50Bに供給する電源電圧を低減するように構成される。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータに電流を供給するためのスイッチング素子と、
前記スイッチング素子に制御信号を供給するためのドライブ回路と、
を備える電動工具であって、
前記電動工具の駆動情報に基づいて前記ドライブ回路に供給する電圧を低減、または遮断するように構成されたことを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記電動工具の駆動情報は、前記電動工具の温度を示す情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記電動工具の駆動情報は、前記電動工具が備える駆動部の作動時間を示す情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項4】
前記電動工具の駆動情報は、前記電動工具が備える駆動部の単位時間の作動回数を示す情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項5】
前記電動工具の駆動情報は、前記モータの温度を示す情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項6】
前記電動工具が待機状態であるときに、前記電動工具の駆動情報に基づいて前記ドライブ回路に供給する電源電圧を低減、または遮断するように構成されたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の電動工具。
【請求項7】
前記電源電圧を低減、または遮断する前記電動工具の駆動情報の閾値を設定可能に構成されたことを特徴とする請求項6に記載の電動工具。
【請求項8】
前記ドライブ回路に供給する前記電圧を低減、または遮断したことを報知する報知手段を更に備える請求項1乃至7の何れか一項に記載の電動工具。
【請求項9】
前記電動工具の温度が所定値に到達したときに駆動を停止するように構成されたことを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載の電動工具。
【請求項10】
モータと、
前記モータを制御するための制御回路と、
を備える電動工具であって、
前記制御回路は、
前記電動工具の駆動情報が予め設定された条件を満たし、
かつ、前記電動工具が待機状態のとき、
前記制御回路は、自身の制御処理の実行を一部制限する、
ことを特徴とする電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動工具に関する
【背景技術】
【0002】
電動工具は、駆動部の作動に伴って発熱するため、温度が上昇する。高温による部品の損傷等を防止するために、従来より高温になると電動工具が高温であることを操作者に報知して使用停止を促すことや、電動工具の使用を強制的に禁止する措置を講じることが行われていた。このような措置を講じることにより部品の損傷等を予防することが可能となる。
【0003】
特許文献1には、このような電動工具の一例として、電動工具の温度が第1閾値を越えると操作者に電動工具が高温であることを報知し、第2閾値を越えると駆動部の作動を強制的に停止するように構成された電動工具が記載されている。この電動工具によれば、事前に操作者に電動工具が高温であることの報知がなされるので、突然作業を中断せざるを得ないという事態を回避することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に係る電動工具において、第1の閾値を越えたことを報知された操作者は、作業のペースを落としたり、作業の停止を強いられることになってしまう。
【0006】
特許文献1とは異なる解決策として、電動工具のモータにファンを接続することにより電動工具を積極的に冷却することも考えられる。しかしながらモータにファンを接続する場合、モータが間欠的に作動する電動工具では十分な冷却効果が得られない。駆動部とは独立にファンを回転することも可能であるが、ファンを搭載するための領域やファンを独立に回転させるための構成が必要となってしまう。
【0007】
そこで本出願の発明者らは、電動工具を積極的に冷却するための手段とは異なるアプローチとして、電動工具の発熱自体を抑制することに着眼した。即ち本発明は、発熱の抑制を可能とする電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願は、モータを備える電動工具を開示する。この電動工具は、前記モータに電流を供給するためのスイッチング素子と、前記スイッチング素子に制御信号を供給するためのドライブ回路と、を備える。更にこの電動工具は、前記電動工具の駆動情報に基づいて前記ドライブ回路に供給する電圧を低減、または遮断するように構成される。
【0009】
ここで「駆動情報」は、電動工具を駆動することにより取得される、電動工具の駆動状態を示す情報をいう。
【0010】
また「ドライブ回路に供給する電圧を低減する」ことは、ドライブ回路に電圧を供給しないこと及びドライブ回路にグランド電圧を供給することを含む。電圧は、ドライブ回路の電源として使用される電源電圧の場合を含む。
【0011】
「電動工具」は、釘、針、ピンその他のファスナを打込可能な打込工具であってよい。
【0012】
「モータ」は、例えば、三相巻線を有するステータと、永久磁石を有するロータから構成される三相ブラシレスモータであってよい。
【0013】
「スイッチング素子」は、例えば、FET(Field Emission Transistor)その他のトランジスタであってよい。
【0014】
電動工具は、例えば、正極母線及び負極母線間に3相ブリッジ接続された6個のトランジスタから構成されるスイッチング回路と、このスイッチング回路の3つの出力に接続される3相巻線を有するステータと永久磁石を有するロータから構成される三相ブラシレスモータを備えてよい。
【0015】
ドライブ回路は、例えば、スイッチング素子であるトランジスタのゲート又はベースにゲート信号又はベース信号を制御信号として供給する。制御信号は、スイッチング素子に閾値電圧を超える電圧を発生させるための電圧を有するアナログ信号であってよい。ドライブ回路は、例えば、ゲート信号又はベース信号を生成するための増幅回路を備えてよい。
【0016】
電動工具は、更に、ドライブ回路に供給する電圧を生成するためのドライブ電源回路を備えてよい。ドライブ電源回路は、ドライブ回路への電圧の供給及び供給の停止を切り替えるためのスイッチング素子を備えてよい。スイッチング素子は、例えば、FET(Field Emission Transistor)その他のトランジスタであってよい。
【0017】
電動工具は、更に、ドライブ回路に制御命令を供給するための制御回路を備えてよい。制御命令はデジタル信号であってよい。制御回路は、例えば、プロセッサを備えるCPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integrated Circuit)、又は、SoC(System On Chip)であってよい。
【0018】
電動工具の制御回路は、例えば、電動工具の駆動情報に基づいてドライブ電源回路のスイッチング素子に制御信号を供給してスイッチング素子のON/OFFを切り替えることにより、ドライブ回路に電圧を供給し、又は、供給しないように制御可能に構成されてよい。
【0019】
電動工具は、ドライブ回路と制御回路を分離し、ドライブ回路にドライブ回路の電圧を供給しない間、制御回路に制御回路の電圧を供給するように構成されてもよい。このような構成の一例として、電動工具は、ドライブ回路を含む第1半導体チップと、制御回路を含む第2半導体チップとを備えてよい。電動工具は、第1半導体チップ及び第2半導体チップを封止するパッケージ(外周器)を備えてもよい。
【0020】
電動工具は、ドライブ回路の電圧が制御回路の電圧よりも大きくなるように構成されてもよい。
【0021】
前記電動工具の駆動情報は、前記電動工具の温度を示す情報を含んでよい。
【0022】
電動工具は、例えば、電動工具の温度を示す情報として、第2半導体チップの温度を示す情報を取得するための温度センサを備えてよい。この温度センサは、第1半導体チップ及び第2半導体チップを封止するパッケージ(外周器)によって更に封止されてもよい。このとき電動工具は、ドライブ回路を含む第1半導体チップ、制御回路を含む第2半導体チップ及び前記制御回路の温度を示す情報を取得し前記制御回路に提供する温度センサと、前記第1半導体チップ、前記第2半導体チップ及び前記温度センサを封止するパッケージ(外周器)を備える。
【0023】
或いは電動工具は、例えば、電動工具の温度を示す情報として、モータ又はスイッチング回路の温度を示す情報を取得するための温度センサを備えてよい。この温度センサは、スイッチング回路に接続されるサーミスタであってもよい。温度センサは、制御回路等が搭載される基板上に設置されてもよいし、電動工具本体の内部に設置されてもよい。
【0024】
前記電動工具の駆動情報は、前記電動工具が備える駆動部の作動時間を示す情報を含んでもよい。駆動部の作動時間は、電動工具の温度と相関を有するので、駆動部の作動時間を示す情報に基づいて前記ドライブ回路に供給する電圧を低減するように構成することによっても、発熱の抑制が可能となる。
【0025】
ここで「駆動部」とは、電動工具のうち駆動する部分のことをいう。電動工具が打込工具の場合、駆動部は、回転駆動するモータを含む。なお、モータによって駆動する部品は、駆動部に含まれる場合がある。
【0026】
電動工具が打込工具の場合、駆動部の作動時間はモータの作動時間又はモータによって駆動されるプランジャの動作時間であってよく、より具体的には、待機地点に存在するプランジャがファスナを打ち込み再び待機地点に戻るまでの時間の総計を、駆動部の作動時間としてもよい。例えば、1個のファスナを打ち込むための駆動部の作動時間の平均値が100m秒であり、打ち込みを開始してから1000個のファスナを打ち込んだ場合、駆動部の作動時間は、1000×100m秒であるから、100秒である。
【0027】
前記電動工具の駆動情報は、前記電動工具が備える駆動部の単位時間あたりの作動回数を示す情報を含んでもよい。駆動部の単位時間あたりの作動回数は、電動工具の温度と相関を有するので、駆動部の単位時間あたりの作動回数を示す情報に基づいて前記ドライブ回路に供給する電圧を低減するように構成することによっても、発熱の抑制が可能となる。
【0028】
電動工具が打込工具の場合、駆動部の単位時間の作動回数は、単位時間のファスナの打込回数としてもよい。例えば、1分間あたりのファスナの打込回数が50回の場合、駆動部の単位時間の作動回数は、50回/分である。
【0029】
前記電動工具の駆動情報は、前記モータの温度を示す情報を含んでもよい。
前記電動工具の駆動情報は、前記モータの電流情報を含んでもよい。
【0030】
前記電動工具が待機状態であるときに、前記電動工具の駆動情報に基づいて前記ドライブ回路に供給する電圧を低減するように構成されてもよい。
【0031】
ここで電動工具の待機状態とは、電動工具の駆動部が作動していない状態をいう。電動工具の駆動部がモータを備える場合、電動工具の待機状態とは、モータが回転していない状態に相当する場合がある。
【0032】
例えば電動工具が操作部としてトリガを備え、操作者が操作部を操作すること、即ち、トリガをひくことによりモータが回転を開始する電動工具の場合、操作者がトリガをひいてモータが回転を開始しその後モータが停止してから、操作者が次にトリガをひくまでの状態が電動工具の待機状態となるように電動工具が構成される場合がある。
【0033】
電動工具が打込工具の場合、電動工具の待機状態とは、操作者が操作部を操作すること(トリガをひくこと)によりモータが回転を開始し待機位置に待機していたプランジャが移動してファスナを打ち込んだ後、プランジャが再び待機位置に戻ってモータが停止した時に、電動工具は作動状態から待機状態に遷移するように構成される場合がある。待機状態は、操作者が次にトリガをひくまで継続する。
【0034】
例えば、1分間あたりのファスナの打込回数が50回で、1個のファスナを打ち込むための駆動部の作動時間の平均値が100m秒の場合、1分間あたりの作動時間は5秒であり、待機状態である時間(以下、「待機時間」という場合がある。)は55秒である。
【0035】
本出願の発明者らは、ファスナが連続的に打ち込まれる間隙(典型的には1秒未満)に発生する待機状態に着目し、このタイミングを捉えてドライブ回路に供給する電圧を低減することを着想した。
【0036】
なお電動工具は、電動工具の待機状態を検出するための手段を備えてよい。電動工具の主たる駆動部がモータから構成される場合、電動工具の待機状態を検出するための手段は、モータの回転速度を検出するためのホール素子等のセンサであってもよい。その他、電動工具の待機状態を検出するための手段は、モータを制御するための制御回路であってもよい。制御回路は、モータの回転を停止するためのブレーキ制御(停止制御)を開始した時からモータの回転の停止に要する時間が経過したことに基づいて、電動工具が作動状態から待機状態に移行したことを検出するように構成されてもよい。
【0037】
本出願は、モータを備える打込工具を開示する。この打込工具は、前記モータに電流を供給するためのスイッチング素子と、前記スイッチング素子に制御信号を供給するためのドライブ回路とを備える。この打込工具は、ファスナを打ち込むために駆動部が作動する作動状態と、前記駆動部が待機する待機状態とを繰り返し実行可能に構成されており、前記作動状態のときにドライブ回路に電圧が供給され、待機状態のときにドライブ回路に低減された電圧が供給される(電圧が供給されないことを含む。)時間を含むように構成される。
【0038】
この打込工具は、1分間あたり少なくとも30回のファスナを打ち込み可能に構成されてよい。このときこの打込工具は、1分間あたり少なくとも29回の待機状態において、それぞれ、ドライブ回路に低減された電圧が供給される(電圧が供給されないことを含む。)時間を含むように構成される。各待機時間は、1秒未満でよい。打込工具は、単位時間あたりドライブ回路に低減された電圧が供給される時間が、ドライブ回路に低減されない電圧が供給される時間よりも大きくなるように構成されてもよい。
【0039】
前記電圧を低減するための閾値を設定可能に構成されてもよい。
【0040】
閾値は、前記電動工具の温度を示す情報に対して付与された値であってもよい。
【0041】
打込工具は、前記駆動部が待機する待機状態で、かつ、前記電動工具の温度が閾値より小さいときに前記ドライブ回路に低減されない電圧が供給され、前記駆動部が待機する待機状態で、かつ、前記電動工具の温度が閾値より大きいときに前記ドライブ回路に低減された電圧が供給される(電圧が供給されないことを含む。)時間を含むように構成されてよい。
【0042】
前記ドライブ回路に供給する電圧を低減、または遮断したことを報知する報知手段を更に備えてもよい。報知手段は、操作者が知覚可能な手段であればよく、例えば、LEDライト等の視覚的な報知手段や、或いは、ブザー等の聴覚的な報知手段であってもよい。
【0043】
前記電動工具の温度が所定値に到達したときに駆動を停止するように構成されてもよい。閾値が前記電動工具の温度を示す情報に対して付与された値のとき、所定値は前記閾値より大きな値であってよい。
【0044】
本出願は、モータを備える電動工具を開示する。この電動工具は、前記モータに電流を供給するためのスイッチング素子と、前記スイッチング素子に制御信号を供給するためのドライブ回路と、前記ドライブ回路に制御命令を供給するための制御回路と、操作者が操作可能に構成される操作部(トリガ)とを備える。この電動工具は、前記制御回路に第1電圧が供給され、かつ、前記ドライブ回路に第2電圧が供給された状態で前記操作部が操作されると前記スイッチング素子により前記モータが回転を開始、前記モータが回転を停止した後に前記ドライブ回路への前記第2電圧の供給を停止しない第1動作モードと、前記制御回路に第1電圧が供給され、かつ、前記ドライブ回路に第2電圧が供給されていない状態で前記操作部が操作されると前記ドライブ回路に前記第2電圧が供給され、前記スイッチング素子により前記モータが回転を開始し、前記モータが回転を停止した後に前記ドライブ回路への前記第2電圧の供給を停止する第2動作モードとを実行可能に構成される。
【0045】
前記第1動作モードは電動工具が第1温度より低いときに実行可能に構成され、前記第2動作モードは前記電動工具が前記第1温度よりも高い第2温度のときに実行可能に構成されてよい。
【0046】
前記電動工具はファスナを打ち込むための打込工具であり、前記第1動作モードにおいて前記操作部の操作から前記ファスナの打ち込みまでに要する第1時間は、前記第2動作モードにおいて前記操作部の操作から前記ファスナの打ち込みまでに要する第2時間より短くなるように電動工具は構成されてよい。
本出願は、モータを備える電動工具を開示する。この電動工具は、前記モータを制御するための制御回路であって、前記電動工具の駆動情報が予め設定された条件を満たし、かつ、前記電動工具が待機状態のとき、自身の制御処理の実行を一部制限するように構成される制御回路を備える。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る打込工具の正面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る打込工具の断面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係るプランジャアセンブリの斜視図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係るプランジャアセンブリの断面図(正面視)である。
【
図5】
図5は、一実施形態に係るプランジャアセンブリの断面図(側面視)である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係るプランジャアセンブリの断面図(平面視)である。
【
図7】
図7は、一実施形態に係るプランジャ及びワイヤを含む斜視図である。
【
図8】
図8は、一実施形態に係る打込工具の制御ブロック図である。
【
図9】
図9は、一実施形態に係る打込工具の電源供給状態を示すタイミングチャートである。
【
図10】
図10は、一実施形態に係る打込工具を使用した打込方法のフローチャートである。
【
図11】
図11は、一実施形態に係る打込工具の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施形態のみに限定する趣旨ではない。
【0049】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る電動式の打込工具10の正面図(但しマガジン部については一部断面図を示している。)を示し、
図2は、同じ方向から見た打込工具10の断面図を示している(但しマガジン14内の全てのファスナFを打ち出した後の状態を示している)。
【0050】
この打込工具10は、モータ(
図2)を用いてプランジャ32(
図2)を駆動することにより、釘(「ファスナF」の一例)を打込可能に構成される電動釘打機である。なお、本明細書の「上下」、「前後」、「左右」は、
図1及び
図2の打込工具10の姿勢に基づいている。
図1及び
図2における紙面左方向は、ファスナFが打ち出される方向に相当するため、打ち出し方向DR1又は射出方向DR1等と呼ばれる場合があり、反対の紙面右方向は、ファスナFが打ち出される射出口12Aから離れる方向であるため、離反方向DR2と呼ばれる場合がある。方向は、図面に示される方向X1、方向X2、方向Y及び方向Zを用いて表現される場合がある。
【0051】
この打込工具10は、ハウジング12と、打込工具10によって打ち出されるファスナFを収容するマガジン14と、ファスナFを打ち出すためのドライバ34と、ドライバ34が取り付けられるプランジャ32と、プランジャ32を下死点から上死点に移動させるためのモータ20及びギア22と、プランジャ32を上死点から下死点に移動させるための駆動力を付与するコイルばね36(「付勢部材」乃至「駆動手段」の一例)と、コイルばね36の伸長する端部に配置される移動部材38と、プランジャ32及び移動部材38に係合し両者を連動させるワイヤ40(「紐状部材」の一例)と、ワイヤ40が掛けられるプーリ42(「方向変換部材」の一例)とを備える。更に打込工具10には、バッテリBが着脱自在に設けられる。
【0052】
打込工具10は、プランジャ32を含む打込工具10の主要部品を収納するハウジング12(以下、ハウジング12及びハウジング12に固定される部分を「工具本体」という場合がある。)を備える。ハウジング12には、操作者が把持するためのグリップ部12B及びバッテリBが取り付けられたバッテリ取付部とモータ20とを繋ぐ架橋部12Cと、ファスナFを打ち出すためのノーズ部12Dが設けられる。グリップ部12B及び架橋部12Cは、操作者が把持しやすいように、例えば、上下方向に延在する柱状にそれぞれ形成される。ハウジング12の前端(及び打込工具10の前端)には、ファスナFを紙面左方向に打ち出すための射出口12Aが形成されたノーズ部12Dが設けられる。ノーズ部12Dの先端には、コンタクトアーム12D1が取り付けられてもよい。コンタクトアーム12D1は、射出口12Aの周囲に射出口12Aから出没可能に設けられており、コンタクトアーム12D1が打込対象物に押しつけられており、かつ、トリガ12Eが押下されている状態にのみ、ファスナFの打ち出しを許可する安全装置として機能する。
【0053】
ハウジング12には、トリガ12E(「操作部」の一例)が設けられる。トリガ12Eは、使用者が押下することによりバッテリBとモータ20とを導通させる。トリガ12Eは、グリップ部12Bの前方(ファスナFの打ち出し方向DR1)を向いた表面に露出して設けられ、例えば、ばね等のトリガ付勢部材12Fによって前方(打ち出し方向DR1)に付勢されている。
【0054】
バッテリBは、グリップ部12B及び架橋部12Cの下端部に着脱自在に取り付け可能に構成されている。バッテリBは、モータ等を駆動するための電力を供給する直流電源として機能し、所定(例えば14V~20Vであり、本実施形態では18Vである。)の直流電圧を出力可能な、例えば、リチウムイオン電池から構成される。打込工具10は、バッテリBを取り付けることにより携帯して使用することが可能となる。ただし、バッテリBをハウジング12内に収納するように構成してもよいし、バッテリ以外の手段により電力を供給するように構成してもよい。
【0055】
打込工具10は、ノーズ部12Dの下方に取り付けられるマガジン14を備える。マガジン14は、連結された複数のファスナF(
図1)が装填可能に構成される。マガジン14は、ファスナFをノーズ部12Dに向かって付勢するプッシャ14Aを備える。プッシャ14Aは、先頭のファスナFがドライバ34によって打ち出されると隣接するファスナFがノーズ部12Dの射出路に供給されるように不図示の付勢部材により付勢されている。
【0056】
打込工具10は更に、プランジャアセンブリ30を備える。
図3は、プランジャアセンブリ30の斜視図であり、
図4及び
図5はそれぞれコイルばね36が最も圧縮した状態(「第1状態」の一例)及び最も伸長した状態(「第2状態」の一例)におけるプランジャアセンブリ30の断面図である(但し
図4が正面図における断面図とすると
図5は左側面図における断面図に相当する)。
図6は平面視におけるプランジャアセンブリ30の断面図を示している。
図7はプランジャ32と、移動部材38の一部であるピン38Aと、これらプランジャ32及び移動部材38に係合するワイヤ40を示す斜視図である。プランジャアセンブリ30は、ドライバ34、プランジャ32、コイルばね36、移動部材38、ワイヤ40及びプーリ42と共に、更に、コイルばね36を収容するシリンダ44と、プランジャ32の移動方向を規制する一対のガイドレール46とを備える。
【0057】
ドライバ34は、ファスナFに接触してこれを打撃することによりファスナFを打ち出す部材である。これら図面に示されるように、本実施形態に係るドライバ34は、ファスナFの打ち出し方向DR1に延在する細長い棒状に形成された金属製の剛体から構成されている。ドライバ34の延長線上には、ファスナFが配置されているため、ドライバ34が打ち出し方向DR1に移動すると、ドライバ34の前端がファスナFを打撃する。ドライバ34の後端はプランジャ32に連結され、プランジャ32と一体的に移動するように構成されている。
【0058】
プランジャ32は、上死点から下死点に移動することによりドライバ34と一体的に移動してファスナFを打ち出すための部材である。
図7に示されるようにプランジャ32は、4つの側壁部を備えており、ワイヤ40が係合する第1側壁部32Aと、第1側壁部32Aに略直角に接続し、ガイドレール46に係合する第2側壁部32Bと、第2側壁部32Bに略直角に接続し第1側壁部32Aと略平行に設けられ、ドライバ34が係合する第3側壁部32Cと、第3側壁部32C及び第1側壁部32Aにそれぞれ略直角に接続し第2側壁部32Bと略平行に設けられ、ガイドレール46に係合する第4側壁部32Dとを備える。4つの側壁部で囲まれた中空の領域には、後述するシリンダ44が配置される。第1側壁部32Aの外壁面には、異なる高さに設けられた2つの凸部であるギア係合部32A1が設けられており、このギア係合部32A1と後述するギア22とが係合することにより、プランジャ32は、コイルばね36の弾性力(付勢力)に抗して下死点から上死点に向かって移動するように構成されている。ここでプランジャ32の上死点は工具本体の後端側の領域に設定され、下死点は上死点とノーズ部12Dとの間の領域に設定される。このため、プランジャ32が上死点から下死点に移動するとき、プランジャ32は、射出口12Aに接近する打ち出し方向DR1に移動し、プランジャ32が下死点から上死点に移動するとき、プランジャ32は、射出から離反する離反方向DR2に移動する。
【0059】
プランジャ32の第1側壁部32Aには更にワイヤ係合部32A2が設けられる。ワイヤ係合部32A2は、第1側壁部32Aの内壁面から内側に向かう方向(即ち、第3側壁部32Cに接近する方向)に突出して形成される第1部分32A21と第1部分32A21の端部から上死点に接近する方向に延在する第2部分32A22を備える。第1部分32A21の上死点を向いた面は、ワイヤ40からプランジャ32に打ち出し方向DR1の力を作用させるための受圧面となる。また、第2部分32A22は、ワイヤ40が第3壁部に接近する方向にずれることを規制する。更に、第1部分32A21を第3側壁部32Cに接近する方向に突出して形成したことにより、第1部分32A21の受圧面に係合するワイヤ40を第1側壁部32Aの内壁面に沿って延在させることが可能となる。このため、ワイヤ40が第3側壁部32Cから離間する方向にずれることを抑制することも可能となる。加えてワイヤ係合部32A2は、第2側壁部32B及び第4側壁部32Dを近似する平面に平行で、両平面との距離が等しい仮想平面IP1(
図6)に対して対称的に形成されている。このような構成により、ワイヤ40からプランジャ32に作用する力のバランスが崩れてプランジャ32が傾くことを抑制することが可能になる。
【0060】
第2側壁部32Bと第4側壁部32Dとは、仮想平面IP1に対して対称的に形成されている。第2側壁部32B及び第4側壁部32Dには、それぞれ、ガイドレール46に係合するためのガイドローラ32B1、32D1が設けられている。ガイドローラ32B1、32D1は上死点側及び下死点側にそれぞれ2個設けられるため、各2個のガイドローラ32B1、32D1をそれぞれガイドレール46に係合させることにより、移動時にプランジャ32が傾くことを抑制することが可能になる。
【0061】
第3側壁部32Cには、仮想平面IP1に対して対称的に形成され、ドライバ34の後端が連結されるドライバ係合部32C1が設けられている。このため、ドライバ34がファスナFを打撃したときにプランジャ32が受ける反力によりプランジャ32が傾くことを抑制することが可能になる。
【0062】
なお、これら図面に示されるように、プランジャ32の移動方向(上死点と下死点を結ぶ方向)を基準としたときに、ドライバ係合部32C1と射出口12Aとの距離は、ワイヤ係合部32A2と射出口12Aとの距離よりも小さくなるようにプランジャ32は構成されている。
【0063】
シリンダ44は、コイルばね36を収容し、移動部材38の一部をなすピン38Aの移動方向をガイドする部材である。本実施形態に係るシリンダ44は、円筒状に形成される円筒部44Aと円筒部44Aの蓋に相当するキャップ部44Cとを備えている。シリンダ44は、プランジャ32の4つの側壁部で囲まれた中空の領域を貫通し、プランジャ32の移動方向とシリンダ44の中心軸とが略平行となるようにハウジング12に固定され、キャップ部44Cはガイドレール46を固定する。
【0064】
シリンダ44の内部には、シリンダ44の中心軸方向、即ち、プランジャ32の移動方向に伸縮可能な圧縮ばねからなるコイルばね36が収容される。コイルばね36の一端36Aは、射出口側(プランジャ32の下死点側)のシリンダ底面に固定される。コイルばね36の他端36Bには、移動部材38が配置され、移動部材38には、ワイヤ40によりコイルばね36の一端36A側に張力がかけられている。このためコイルばねの他端36B及び移動部材38は共に移動可能に構成され、コイルばね36が伸長状態から圧縮するときコイルばねの他端36B及び移動部材38は打ち出し方向DR1に移動し、コイルばね36が圧縮状態から伸長して復元するときコイルばねの他端36B及び移動部材38は射出口12Aから離反する離反方向DR2に移動する。シリンダ44の壁部には、中心軸に平行に、即ち、コイルばね36の伸長方向に平行に延在する一対の孔44Bが形成される。
【0065】
移動部材38は、ワイヤ40の一部分及と直接的又は間接的に係合することにより、コイルばねの他端36Bの伸長と共にワイヤ40を移動させる。本実施形態に係る移動部材38は、コイルばねの他端36Bに配置される円環部38Bと、円環部38Bに固定され、ワイヤ40の両端部が係合されるピン38Aとを備える。本実施形態において、シリンダ44の壁部に形成される一対の孔44Bは、プランジャ32の第1側壁部32A及び第3側壁部32Cを近似する2つの平面に平行で、シリンダ44やコイルばね36の中心軸を通る仮想平面IP2(
図6)と交わるように形成されている。また、ピン38Aは、その延在方向がこの仮想平面と略平行となるように、ピン38Aの両端部が一対の孔44Bに係合する。このため、ピン38Aを含む移動部材38がコイルばね36の伸長又は圧縮に伴ってシリンダ44の中心軸方向に移動しても、ピン38Aがシリンダ44の円周方向に捩れることを抑制することが可能になる。
【0066】
ワイヤ40は、移動部材38及びプランジャ32に取り付けられることにより移動部材38とプランジャ32を連動させる部材である。本実施形態においてワイヤ40は、一端において、ワイヤ40の一方の端部と、ワイヤ40の端部から離間した部分とを接続することにより輪状に形成され、この輪状に形成された部分を貫通させることによりピン38Aがワイヤ40に係合する。ピン38Aに係合するワイヤ40は、移動部材38の円環部38Bの孔を通過してコイルばね36の中心軸に沿って打ち出し方向DR1に延在し、シリンダ44の底面に形成された孔を通過した後プーリ42に掛け回されることによって方向転換し、離反方向DR2に延在し、プランジャ32のワイヤ係合部32A2の受圧面に係合する。続いてワイヤ40は、打ち出し方向DR1に延在し、プーリ42に掛け回されることによって方向転換し、コイルばね36の中心軸に沿って離反方向DR2に延在する。ワイヤ40は、他端において、ワイヤ40の他方の端部と、ワイヤ40の端部から離間した部分とを接続することにより輪状に形成され、この輪状に形成された部分を貫通させることによりピン38Aがワイヤ40に係合する。従って、ワイヤ40の両端は共にピン38Aに係合し、ワイヤ40の中間部分はプランジャ32に係合する。
【0067】
即ちワイヤ40は、移動部材38に係合する一端部を含む第1部分40Aと、第1部分40Aに接続し打ち出し方向DR1に延在する部分を含む第2部分40Bと、第2部分40Bに接続し略離反方向に延在する部分を含む第3部分40Cと、第3部分40Cに接続しプランジャ32に係合する第4部分40Dと、第4部分40Dに接続し略打ち出し方向DR1に延在する部分を含む第5部分40Eと、第5部分40Eに接続し離反方向DR2に延在する部分を含む第6部分40Fと、第6部分40Fに接続し移動部材38に係合する他端部を含む第7部分40Gとを備える。
【0068】
プランジャ32を下死点から上死点に移動させるための駆動機構は、モータ20及びギア22から構成される。
図2に示される本実施形態に係るモータ20は、三相DCブラシレスモータから構成されており、例えば、架橋部12C内に、モータ20の出力軸が打ち出し方向DR1及び離反方向DR2と略垂直となるように配置されている。モータ20の出力軸を回転軸とするギアとギア22を構成する第1ギア22Aは噛合し、第1ギア22Aはギア22を構成する第2ギア22Bと噛合する。モータ20の出力軸のギアに対して第1ギア22Aは離反方向DR2に配置され、第1ギア22Aに対して第2ギア22Bは離反方向DR2に配置される。第1ギア22A及び第2ギア22Bには、それぞれ、回転軸に平行で、プランジャ32の第1側壁部32Aの外壁面に接近する方向に突出するトルクローラ(不図示)が設けられる。トルクローラは第1ギア22A(第2ギア22B)の回転に伴って第1ギア22A(第2ギア22B)の中心軸を中心に回転する。第1ギア22A(第2ギア22B)の中心軸は、モータ20の出力軸と平行であるから、第1ギア22A(第2ギア22B)の回転に伴ってトルクローラは、打ち出し方向DR1及び離反方向DR2に往復運動する。プランジャ32が下死点付近に存在するとき、ギア係合部32A1として下死点側に設けられた一方の凸部には、第1ギア22Aのトルクローラが係合する。そして第1ギア22Aの回転に伴いトルクローラは離反方向DR2に移動するため、プランジャ32のギア係合部32A1を離反方向DR2に押し上げるから、プランジャ32を離反方向DR2に移動させることが可能となる。第1ギア22Aのトルクローラが最も離反方向DR2に移動するとき、ギア係合部32A1として上死点側に設けられた他方の凸部には、第2ギア22Bのトルクローラが係合する。そして第2ギア22Bの回転に伴いトルクローラは離反方向DR2に移動するため、プランジャ32のギア係合部32A1を更に離反方向DR2に押し上げるから、プランジャ32を更に離反方向DR2に移動させることが可能となる。第2ギア22Bのトルクローラが最も離反方向DR2に移動するとき、プランジャ32は上死点に到達し、ギア係合部32A1と第2ギア22Bとの係合が解除されるように構成される。
【0069】
打込工具10は更にモータ20を駆動するための制御部50を備える。制御部50は、架橋部12C内のモータ20とバッテリBとの間隙に配置されるPCB基板24(
図2)に搭載されている。
【0070】
図8は、打込工具10の機能ブロック図を示している。制御部50による制御対象であるモータ20は、ロータ(回転子)と三相巻線(「ステータ巻線」の一例)を有するステータ(固定子)を備える。モータ20は、バッテリBから供給される直流の電源電圧に基づいて三相巻線に三相交流電流を流して回転磁場を発生させることにより、永久磁石を有するロータを回転可能に構成される三相ブラシレスモータである。なお、モータ20には、ホールIC等、モータ20のロータの位置を検出するための位置検出センサが設けられていない。但し、モータ20には、ロータの位置を検出するための位置検出センサを設けてもよい。
【0071】
制御部50は、モータ20の三相巻線に三相交流電流を供給するためのスイッチング素子を備えるインバータ回路50Aと、インバータ回路50Aのスイッチング素子に制御信号を供給するためのドライブ回路50Bと、ドライブ回路50Bを動作させるための電源電圧を生成しドライブ回路50Bに供給するためのドライブ電源回路50Cと、ドライブ回路50Bに制御命令を供給するための制御回路50Dと、制御回路50Dを動作させるための電源電圧を生成し制御回路50Dに供給するためのシステム電源回路50Eと、打込工具10の駆動情報を取得するためのセンサ50Sを備える。
【0072】
インバータ回路50Aは、例えば、バッテリBの出力端子に接続される正極母線(電源線)及び負極母線(グランド線)との間に三相ブリッジ接続された、例えば、FET(Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワートランジスタからそれぞれ構成される6つのスイッチング素子と、これらスイッチング素子にそれぞれ並列接続されたフリーホイールダイオードとから構成されている。このインバータ回路の3つの出力端子は、モータ20のステータの三相巻線にそれぞれ接続されている。従って、6つのスイッチング素子をON/OFFすることにより、インバータ回路50Aは、三相巻線間に電圧を発生させ電流を供給可能に構成されている。
【0073】
ドライブ回路50Bは、スイッチング素子である6つのパワートランジスタのゲート又はベースにゲート信号又はベース信号を制御信号としてそれぞれ供給する。本実施形態に係るドライブ回路50Bは、制御回路50Dから受信する制御命令に基づいて、ドライブ電源回路50Cから供給される12Vの直流電圧(「第2電源電圧」の一例)を用いて、スイッチング素子内に閾値電圧を超える電圧を発生させてスイッチング素子を導通させる電圧を有するアナログ信号を制御信号として生成し、スイッチング素子に供給する。ドライブ回路50Bは、ゲート信号又はベース信号を生成するための増幅回路を備える。本実施形態においてドライブ回路50Bは、1チップの半導体基板(半導体ダイ)から構成されている。ドライブ回路50Bが形成されている1チップを第1半導体チップと呼んでもよい。但しドライブ回路50Bを複数チップの半導体基板から構成することを妨げるものではない。
【0074】
ドライブ電源回路50Cは、バッテリBから供給される電源電圧に基づいてドライブ回路50Bを動作させるための電源電圧として例えば12Vの直流電圧を生成し、ドライブ回路50Bに供給する。ドライブ電源回路50Cは、制御回路50Dからの制御命令(ON/OFF指令)に基づいて、ドライブ回路50Bへの電源電圧の供給及び供給の停止を切り替えるためのON/OFF回路50C1を備える。ON/OFF回路50C1は、トランジスタから構成されるスイッチング素子を備える。従って、ON/OFF回路50C1がONとなりスイッチング素子が導通しているときは、ドライブ電源回路50Cはドライブ回路50Bに12Vの電源電圧を供給し、ON/OFF回路50C1がOFFとなりスイッチング素子が導通していないときは、ドライブ電源回路50Cはドライブ回路50Bに12Vの電源電圧を供給しない。
【0075】
制御回路50Dは、スイッチング素子である6つのパワートランジスタを制御するための制御信号をドライブ回路50Bに生成させるための制御命令をドライブ回路50Bに供給する。本実施形態に係る制御回路50Dは、システム電源回路50Eから供給される、例えば5V乃至それ以下の直流電圧(「第1電源電圧」の一例)に基づいて、デジタル信号であるPWM(Pulse Width Modulation)信号を制御命令(駆動指令)として生成し、ドライブ回路50Bに供給する。なお、第1電源電圧が第2電源電圧より小さくなるようにドライブ回路50B及び制御回路50Dを構成することにより、発熱の抑制効果を大きくすることが可能となる。
【0076】
更に制御回路50Dは、システム電源回路50Eから供給される、例えば5Vの直流電圧に基づいて、ON/OFF回路50C1のスイッチング素子を制御するための制御信号(ON/OFF指令)を生成し、ON/OFF回路50C1に供給する。
【0077】
ハードウェア構成として制御回路50Dは、本実施形態に記載される演算処理等及びモータ20の制御プログラム等を含む打込工具10を制御するためのコンピュータプログラムの一部及び演算処理結果等のデータを、一時的に格納するための揮発性の半導体メモリ(SRAM)と、上述したコンピュータプログラムを実行して駆動指令及びON/OFF指令等を含む制御命令を生成するためのプロセッサとを備える1チップの半導体基板(半導体ダイ)から構成されるCPUとして実現されている。制御回路50DのCPUが形成されている1チップを第2半導体チップと呼んでもよい。
【0078】
このようにドライブ回路50Bと制御回路50Dとを異なるチップとして設けたため、システム電源回路50Eから制御回路50Dに電源電圧を供給する一方で、この制御回路50Dを用いてドライブ電源回路50Cからドライブ回路50Bへの電源電圧の供給を停止する構成を容易に実現することが可能となる。但しCPUを複数チップの半導体基板から構成されることを妨げるものではない。
【0079】
打込工具10は更に、ドライブ回路50B、制御回路50DのCPU及び後述するセンサ50Sを構成する複数のチップを封止する樹脂を有するマルチチップパッケージ(外周器)を備える。即ちドライブ回路50B及び制御回路50DのCPUを同じパッケージ内に封止することにより、制御部50をコンパクトに設けることが可能となる。また、同じパッケージ内に封止する構成を採用しながら、制御回路50DのCPUに電源電圧を供給し、一方でドライブ回路50Bに低減された電圧を供給する(電源電圧を供給しないことを含む)構成を採用することにより、ドライブ回路50Bの発熱及びこの熱が制御回路50DのCPUに伝達することを抑制することが可能となる。上記に加え、ドライブ電源回路50C、ON/OFF回路50C1及びシステム電源回路50Eが含まれるパッケージであってもよい。
【0080】
なお制御回路50Dは更に上述したコンピュータプログラムを非一時的に(Non-transitory)格納し制御回路50DのCPUに供給するためのフラッシュメモリ等の半導体メモリと、メインメモリとして機能するDRAM等の半導体メモリとを備える。
【0081】
以上の構成を備える制御回路50Dは、後述するセンサ50Sから取得する打込工具10の駆動情報に基づいてドライブ電源回路50CのON/OFF回路50C1が備えるスイッチング素子に制御信号を供給して(又は制御信号の供給を停止して)スイッチング素子のON/OFFを切り替えることにより、ドライブ回路50Bに電源電圧を供給し、又は、供給を停止するように(供給しないように)制御可能に構成されている。但し制御回路50Dは、打込工具10の駆動情報に基づいて、ドライブ回路50Bを動作させるための(例えば12Vの)電源電圧より低い(例えば5Vの)電圧を供給するように制御可能に構成されてもよい。低減された電圧を供給する構成であっても、ドライブ回路50Bに起因する発熱を抑制することが可能となる。
【0082】
システム電源回路50Eは、バッテリBから供給される電源電圧に基づいて制御回路50Dを動作させるための電源電圧として例えば5V乃至それ以下の直流電圧を生成し、制御回路50Dに供給する。なお、ドライブ電源回路50Cとシステム電源回路50Eとは、共に電圧生成回路であるから、一部回路を共通させてもよいし、両者を1チップから構成してもよい。
【0083】
センサ50Sは、打込工具10を駆動することにより取得される、打込工具10の駆動状態を示す情報を取得し、制御回路50Dに供給する。本実施形態に係るセンサ50Sは、打込工具10の温度を示す情報を取得する温度センサである。打込工具10の温度は、打込工具10を連続動作させることにより上昇し、連続動作を停止することにより下降するから、打込工具10の駆動状態を示す情報である。
【0084】
本実施形態においてセンサ50Sは、制御回路50Dに近接して配置されるサーミスタ等の温度センサ又は制御回路50DのCPUを構成する半導体基板に組み込まれたDTS(Digital Thermal Sensor)から構成される。従って、センサ50Sは、制御回路50DのCPUの温度を精度良く取得することが可能となる。このため、制御回路の温度上昇が問題となる電動工具(例えば、電動工具を連続動作させたときに、制御回路のCPU温度がそのCPUの定格温度(例えば、最大ジャンクション温度)に到達するタイミングが、他の部品がその部品の定格温度に到達するタイミングよりも早くなる可能性がある電動工具)において、電動工具の発熱を精度良く抑制することが可能となる。本出願の発明者らは、電動工具を連続動作させたときに問題となる部品がモータではなく制御回路のCPUとなる場合がある点に着目し、本実施形態においては、制御回路50Dに近接してセンサ50Sを配設する構成(例えば、同一パッケージ内にセンサ50Sを設けた構成)を採用した。但し本発明はこれに限られるものではなく、センサ50Sは、モータ20又はインバータ回路50Aのスイッチング素子の近傍に設置されるサーミスタその他の温度センサでもよい。この場合センサ50Sは、モータ20等の温度を精度良く取得することが可能となる。このような構成により、モータ20のステータ巻線のレアショートや、モータ20の焼損に至る可能性を抑制することが可能となる。
【0085】
以上のような構成において制御部50は、制御回路50Dを用いて少なくとも2つの動作モードで打込工具10を駆動可能に構成されている。
図9(A)及び(B)は、打込工具10の第1動作モード及び第2動作モードにおける、制御回路50Dに供給される電源電圧(システム電源)、ドライブ回路50Bに供給される電源電圧(ドライバ電源)、トリガ12Eの操作状態及びモータ20の駆動状態を示すタイミングチャートである。
【0086】
図9(A)に示されるように第1動作モードは、システム電源回路50Eから制御回路50Dに制御回路動作用の電源電圧を継続的に供給し、かつ、ドライブ電源回路50Cからドライブ回路50Bにドライブ回路動作用の電源電圧を継続的に供給しながら、複数のファスナFを打ち込む連続動作を実行可能な動作モードである。第1動作モードにおいて操作者がファスナFを打ち込むためにトリガ12Eを操作したことが制御回路50Dに検出されると、制御回路50Dがモータ20を制御するための制御命令をドライブ回路50Bに供給するのでモータ20が回転を開始し(
図9(A)のA)、打込工具10は作動状態になる。ファスナFが打ち込まれた後モータ20が回転を停止し打込工具10が作動状態から待機状態に遷移した後も、システム電源回路50Eから制御回路50Dへの電源電圧の供給及びドライブ電源回路50Cからドライブ回路50Bへの電源電圧の供給は継続する。
【0087】
図9(B)に示されるように第2動作モードは、システム電源回路50Eから制御回路50Dに制御回路動作用の電源電圧を継続的に供給し、一方で、ドライブ電源回路50Cからドライブ回路50Bにドライブ回路動作用の電源電圧を断続的(間欠的)に供給しながら、複数のファスナFを打ち込む連続動作を実行可能な動作モードである。第2動作モードにおいて操作者がファスナFを打ち込むためにトリガ12Eを操作したことが制御回路50Dに検出されると、制御回路50DからON/OFF回路50C1のスイッチング素子をONに制御するための制御信号がON/OFF回路50C1に供給される。この結果、ドライブ電源回路50Cからドライブ回路50Bにドライブ回路動作用の電源電圧の供給が開始する(
図9(B)のB)。その後制御回路50Dがモータ20を制御するための制御命令をドライブ回路50Bに供給するのでモータ20が回転を開始し(
図9(B)のC)、打込工具10は作動状態になる。打ち込み完了後にモータ20が回転を停止し打込工具10が作動状態から待機状態に遷移すると、制御回路50Dは、ON/OFF回路50C1のスイッチング素子をOFFに制御するために、スイッチング素子をONに制御するための制御信号の供給を停止する。この結果、システム電源回路50Eから制御回路50Dへの電源電圧の供給が継続する一方で、ドライブ電源回路50Cからドライブ回路50Bへの電源電圧の供給が停止する(
図9(B)のD)。その後操作者がファスナFを打ち込むためにトリガ12Eを再度操作すると上述と同様にドライブ電源回路50Cからドライブ回路50Bにドライブ回路動作用の電源電圧の供給が開始する。以後同様のステップが実行される。
【0088】
ここで打ち込み後にモータ20が回転を停止し打込工具10が待機状態に遷移したことを制御回路50Dが検出するための手段として、制御部50は、モータ20の回転を停止するためのブレーキ制御(停止制御)を開始した時からカウントを開始するカウンタを備えてもよい。ブレーキ制御の開始からモータ20の回転の停止までに要すると想定される時間は既知であるため、制御部50は、カウンタのカウント値に基づいて、モータ20の回転の停止に要する時間が経過したか否かを判断することによって、打込工具10が作動状態から待機状態に遷移したことを精度良く検出することが可能となる。
【0089】
これに替えて制御部50は、打ち込みの開始から打ち込み完了に要するまでの時間をカウントする等、他のタイミングに基づいて打込工具10が作動状態から待機状態に遷移したことを検出するように構成されてもよい。更に別の手段として、モータの回転速度を検出するためのホール素子等のセンサから取得される信号に基づいて、モータの回転の停止及び打込工具10が作動状態から待機状態に遷移したことを検出するように構成されてもよい。或いは、ステータ巻線に発生する逆起電圧等に基づいてモータの回転の停止及び打込工具10が作動状態から待機状態に遷移したことを検出するように構成されてもよい。
【0090】
本実施形態に係る打込工具10の制御回路50Dは、センサ50Sから取得する打込工具10の駆動情報に基づいて、上述した第1動作モードと第2動作モードを切り替えるように構成されている。具体的には、制御回路50DのCPU近傍に設置されたセンサ50Sは、打込工具10の温度を示す情報を制御回路50Dに供給し、制御回路50Dは、センサ50Sから取得された情報に基づいて推測される打込工具10の温度が所定の第1閾値未満である場合、制御回路50Dは打込工具10を第1動作モードで動作させ、センサ50Sから取得された情報に基づいて推測される打込工具10の温度が所定の第1閾値以上第2閾値未満である場合、制御回路50Dは打込工具10を第2動作モードで動作させ、センサ50Sから取得された情報に基づいて推測される打込工具10の温度が第2閾値に到達した場合、制御回路50Dは打込工具10の動作を停止するように構成される。なお第1閾値等と比較される打込工具10の温度等は、打込工具10の実際の温度を示す値に限られるものではなく、打込工具10の温度に応じて変動する値であればよい。例えば、センサ50Sから取得される値を打込工具10の温度に換算することなく第1閾値等と比較するように打込工具10を構成してもよい。
【0091】
以下、本実施形態に係る打込工具10を用いた打込方法について説明する。
図10は、打込方法を示したフローチャートである。また、
図11は、連続動作時の打込工具10の温度変化を示すグラフである。
【0092】
まず、操作者が打込工具10の主電源スイッチをオンすると、以後、システム電源回路50Eから制御回路50Dに制御回路動作用の電源電圧(システム電源)が継続的に供給される。制御回路50Dは、センサ50Sから打込工具10の温度情報を取得し(ステップS101)、取得された温度情報に基づいて推測される打込工具10の温度が所定の第1閾値未満か否か判断する(ステップS102)。打込工具10の温度が第1閾値未満である場合(YES)、制御回路50Dは打込工具10を第1動作モードで動作させる(ステップS103)。操作者がトリガ12Eをひくと(ステップS104)制御回路50Dはトリガ12Eがひかれたことを検出し、モータ20を制御するための制御命令(PWM信号)をドライブ回路50Bに供給し、ドライブ回路50Bはインバータ回路50Aのスイッチング素子に制御信号を供給するため、バッテリBの出力電圧がモータ20のステータを構成する三相巻線に印加され各相の巻線に電流が流れる。モータ20のロータは、電流によって発生する回転磁場に従って回転を開始し、打込工具10は待機状態から作動状態に遷移する。モータ20が回転を開始すると、第2ギア22Bに設けられるトルクローラは、上死点及び下死点の中間の待機位置に待機していたプランジャ32のギア係合部32A1に接触してプランジャ32を離反方向DR2に押し上げる。プランジャ32はワイヤ40によって移動部材38に接続されているため、プランジャ32が離反方向DR2に移動することに連動して移動部材38はコイルばね36を圧縮させながら打ち出し方向DR1に移動する。プランジャ32が上死点に到達する時、プランジャ32とギア22の係合は解除される。このため圧縮状態にあったコイルばね36は、一気に伸長する。移動部材38はコイルばね36の他端と共に、コイルばね36の伸長方向に相当する離反方向DR2に移動する。移動部材38はワイヤ40によってプランジャ32に接続されているため、移動部材38が離反方向DR2に移動することに連動してプランジャ32及びドライバ34は打ち出し方向DR1に移動する。
【0093】
プランジャ32が下死点付近に到達するとき(又は到達する直前)に、プランジャ32と共に打ち出し方向DR1に移動するドライバ34は、ノーズ部12Dに供給されるファスナFを打ち出し方向DR1に打ち出す(ステップS105)。ファスナFは、射出口12Aから打ち出され、対象物に打ち込まれる。
【0094】
プランジャ32が下死点に到達すると、モータ20のロータと同期して回転する第1ギア22Aは、プランジャ32のギア係合部32A1と係合するように構成されている。このため、プランジャ32は、下死点から上死点に向かって移動を開始する。プランジャ32の上死点方向への移動に伴って、コイルばね36は、圧縮される。
【0095】
所定のタイミングで、制御回路50Dは、モータ20の回転を減速させるための減速制御、例えば、減速制御の一例として、ブレーキ制御を開始する。具体的には、制御回路50Dは、通常回転時よりもデューティ比が小さいPWM信号を生成し、ドライブ回路50Bに出力する。制御回路50Dによる減速制御によりモータ20のロータの回転速度は大きく減少する。回転速度が減少しても、モータ20は回転しているため、プランジャ32は、緩やかに上死点に向かって移動を継続する。または、ブレーキ制御として、インバータ回路の上アームをOFFし、下アームをONするショートブレーキや、或いは、上アームをOFFし、下アームをPWM制御等によりON/OFFするチョッパブレーキを採用してもよい。
【0096】
制御回路50Dがブレーキ制御を完了すると、モータ20のロータは回転を停止し、このときプランジャ32は停止位置(待機位置)で停止するので、打込工具10は作動状態から待機状態に遷移する(ステップS106)。以後、打込工具10の温度が所定の第1閾値未満である限り、ステップS101~ステップS105を繰り返すことによりファスナFを連続的に対象物に打ち込むことが可能となる。
【0097】
図11の実線L1で示されるように第1動作モードで連続動作を実行することにより、打込工具10の温度は時間と共に上昇する。
【0098】
なお、ドライブ電源回路50Cからドライブ回路50Bにドライブ回路動作用の電源電圧を供給するタイミングは、打込工具10の主電源スイッチをオンした後でもよいし、或いは、ステップS103の後にドライブ回路50Bにドライブ回路動作用の電源電圧が供給されていないか否か判断し、供給されていないと判断された場合(例えば打込工具10の主電源スイッチをオンした後に初めてステップS103が実行されるとき、ドライブ回路50Bにドライブ回路動作用の電源電圧が供給されていない可能性がある。)に電源電圧が供給されるステップを実行するように構成してもよい。
【0099】
ステップS102において打込工具10の温度が第1閾値以上である場合(NO)、制御回路50Dは、打込工具10の温度が第1閾値より大きい所定の第2閾値未満か否か判断する(ステップS107)。打込工具10の温度が第2閾値未満である場合(YES)、制御回路50Dは打込工具10を第2動作モードで動作させる(ステップS108)。打込工具10は、打込工具10の温度が高温になったこと及び待機状態におけるドライブ回路50Bへの電源電圧の供給が停止又は低減されることを操作者に報知するための報知手段を備えている。制御回路50Dは、打込工具10の温度が第1閾値以上である場合、報知手段による報知を実行させる。報知手段は、操作者が知覚可能な手段であればよく、例えば、LEDライト等の視覚的な報知手段や、或いは、ブザー等の聴覚的な報知手段であってもよい。操作者は、報知手段により打込工具10が高温になったことを認識することができるから、このまま作業を継続すればいずれ動作停止になることを踏まえて、以後の作業スケジュールを調整することが可能になる。
【0100】
操作者がトリガ12Eをひくと(ステップS109)制御回路50Dはトリガ12Eがひかれたことを検出し、ON/OFF回路50C1のスイッチング素子がOFFである場合は、ON/OFF回路50C1のスイッチング素子をONに制御するための制御信号をON/OFF回路50C1に供給する。この結果、ドライブ電源回路50Cからドライブ回路50Bにドライブ回路動作用の電源電圧の供給が開始する(ステップS110)。その後制御回路50Dは、モータ20を制御するための制御命令(PWM信号)をドライブ回路50Bに供給する。以後、ファスナFを打ち出し方向DR1に打ち出して打ち込みを行う(ステップS111)までの打込工具10の動作及びブレーキ制御によりモータ20の回転を停止させるための動作については上述したのと同様であるから詳細な説明を割愛する。
【0101】
制御回路50Dは、モータ20の回転を停止するためのブレーキ制御を開始した時からモータ20の回転の停止に要する時間が経過したことに基づいて、打込工具10が作動状態から待機状態に移行したことを検出する(ステップS112)。次いで制御回路50Dは、ON/OFF回路50C1のスイッチング素子をOFFに制御するために、スイッチング素子をONに制御するための制御信号の供給を停止する。この結果、システム電源回路50Eから制御回路50Dへの電源電圧の供給が継続する一方で、ドライブ電源回路50Cからドライブ回路50Bへの電源電圧の供給が停止する(ステップS113)。以後、打込工具10の温度が第1閾値以上第2閾値未満である限り、ステップS101、ステップS102、ステップS107~ステップS113が繰り返される。
【0102】
例えば、1分間あたりのファスナの打込回数が50回で、第1動作モードにおける1個のファスナを打ち込むための駆動部の作動時間の平均値が100m秒と仮定した場合、1分間あたりの作動状態の時間(以下、「作動時間」という場合がある。)は5秒であり、待機状態の時間(以下、「待機時間」という場合がある。)は55秒である。即ち、打込工具10を用いてファスナFを連続的に打ち込む場合であっても、操作者が異なる箇所に連続的にファスナFを打ち込むことができるタイミングには限界があるから、作動時間よりも待機時間の方が長くなる。
【0103】
第2動作モードにおいて、待機状態の少なくとも一部の時間帯(例えば、待機状態の50%以上の時間)においてドライブ回路50Bへの電源電圧の供給が停止されるから、第1動作モードの場合と比較して、ドライブ回路50Bへの電源電圧の供給に伴う発熱を抑制することが可能になる。
【0104】
一方で、第1動作モードと比較して第2動作モードでは、ドライブ回路50Bへの電源電圧の供給等のステップ及び電流安定化に要する時間が必要となることから、第1動作モードにおいて操作者がトリガ12Eを操作してから打ち込みまでに要する時間(レスポンスタイムと呼ばれることがある。例えば、90m秒~100m秒)よりも第2動作モードにおいて操作者がトリガ12Eを操作してから打ち込みまでに要する時間(例えば、95m秒~105m秒)は、例えば、5m秒~15m秒長くなる。特にバッテリBから供給される直流電圧が低下すると、操作者がトリガ12Eを操作してから打ち込みまでに要する時間は長くなる。そこで打込工具10は、打込工具10が相対的に低温のときに第1動作モードが実行され、打込工具10が相対的に高温のときに第2動作モードが実行されるように構成されている。第1動作モードと第2動作モードとの打ち込みまで要する時間差を10m秒以下とすることにより操作者による作業に大きな支障をきたすことがない。しかしながら、高温時であっても操作者が選択的に第1動作モードを実行可能に打込工具10を構成してもよいし、低温時であっても操作者が選択的に第2動作モードを実行可能に打込工具10を構成してもよい。
【0105】
図11における破線L2は、打込工具10の温度が第1閾値を越えた後も第1動作モードを継続した場合の打込工具10の温度変化を示しており、実線L3は第2動作モードに切り替えた場合の打込工具10の温度変化を示している。同図に示されるように打込工具10の待機状態においてモータ20等が停止している間、ドライブ回路50Bへの電源供給を停止することによりドライブ回路50Bの発熱を抑制することが可能となる。その結果、打込工具10の温度上昇を相対的に抑制することが可能となることが明らかとなった。同図に示されるように、第1閾値において第2動作モードに切り替えたときに第1閾値から第2閾値に至るまでの時間は、第1動作モードを継続した場合における第1閾値から第2閾値に至るまでの時間の少なくとも1.5倍以上となった。換言すると第2動作モードに切り替えた場合の第1閾値から第2閾値に至るまでの時間が、第1動作モードを継続した場合の第1閾値から第2閾値に至るまでの時間の少なくとも1.5倍以上となるように第1閾値を設定するように打込工具10は構成されている。その結果、打込工具10の部品故障を防止するために動作を停止しなければならない温度に至るまでのファスナFの連続打ち込み可能回数を増加させ、作業の中断頻度を抑えることが可能となる。
【0106】
なお第2閾値は、打込工具10の部品故障を防止するために動作を停止しなければならない温度に基づいて設定されることが好ましい。例えば、打込工具10を連続動作させたとき、打込工具10の部品のうち制御回路50DのCPUが最も早くそのCPUの定格温度(例えば最大ジャンクション温度)に到達する場合、センサ50SをCPUの近傍に設置し、センサ50Sから取得された情報に基づいて推測されるCPUの温度を、CPUの定格温度として設定される第2閾値と比較するように打込工具10を構成してもよい。
【0107】
ステップS107において、打込工具10の温度が第2閾値以上の場合(NO)、制御回路50Dは、打込工具10の動作を停止させる(ステップS114)。
【0108】
以上のとおりであるから、発熱の抑制を可能とする打込工具を提供することが可能となる。なお、本発明は打込工具のみに適用可能なものではない。モータ及びモータを動作させるためのインバータ回路を備え、定期的に作業を繰り返す電動工具において、モータが回転する作動状態と、モータが回転しない待機状態が繰り返される電動工具において、待機状態にインバータ回路に制御信号を供給するためのドライブ回路への電源電圧を低減(停止を含む)するように構成された電動工具に適用することが可能である。
【0109】
例えば打込工具を含む電動工具が1分間あたり少なくとも30回、クリア消し作業(ファスナの打ち込み作業)を実行するとき、本発明に係る電動工具(打込工具)は、1分間あたり少なくとも29回の待機状態において、それぞれ、ドライブ回路に低減された電源電圧が供給される(電源電圧が供給されないことを含む。)時間を含むように構成されてよい。また、各待機時間は、1秒未満であってもよい。電動工具(打込工具)は、単位時間あたり(例えば1分あたり)ドライブ回路に低減された電源電圧が供給される時間が、ドライブ回路に低減されない電源電圧が供給される時間よりも大きくなるように構成されることが好ましい。
【0110】
また、打込工具10は、例えば操作者が情報入力可能な操作パネルを備えていてもよい。そして打込工具10は、操作パネルを用いて操作者が例えば第1閾値を設定可能に構成されてもよい。
【0111】
[変形例]
上記実施形態において、センサ50Sは、打込工具10の駆動状態を示す情報として打込工具10の温度を示す情報を取得した。しかしながら、打込工具10の駆動状態を示す情報は打込工具10の温度情報に限られるものではない。
【0112】
本変形例として、センサ50Sは、電動工具が備える駆動部の作動時間を示す情報を取得する。駆動部の作動時間は、電動工具の温度と相関を有する情報である。電動工具が打込工具の場合、駆動部は、モータ又はプランジャである。モータが停止するとプランジャが停止するから、両者の作動時間は略一致する。また、ファスナFを打ち込む回数が増えるほど、モータ又はプランジャの作動時間は増加し、温度も上昇するから、駆動部の作動時間を、打込工具10の駆動状態を示す情報として利用することが可能である。
【0113】
駆動部の作動時間を取得するための手段として、例えば、制御回路50Dがモータ20を回転させるために制御命令を供給する時間を取得してもよい。また、駆動部の作動時間は、例えば、操作者が主電源スイッチを入れてからカウントを開始、主電源スイッチを切るとカウントがゼロとなるように構成してもよい。
【0114】
例えば1個のファスナを打ち込むための駆動部の作動時間の平均値が100m秒であり、例えばおよそ1000個のファスナを連続的に打ち込んだときに第1動作モードから第2動作モードに切り替える場合、打ち込みを開始してから1000個のファスナを打ち込むまでの駆動部の作動時間は、1000×100m秒であるから、約100秒である。そこで100秒を第1閾値と設定することが可能である。
【0115】
なお、駆動部の作動時間を示す情報として、駆動部の作動時間に応じて変動する情報をセンサ50Sは取得可能に構成してもよい。例えば、主電源スイッチを入れてからの時間を駆動部の作動時間を示す情報としてもよいし、又は、駆動部の待機時間をセンサ50Sが取得可能に構成してもよい
【0116】
更に、電動工具の駆動情報として、電動工具が備える駆動部の単位時間あたりの作動回数を示す情報を含んでもよい。上述したように、電動工具において、モータが回転する作動状態と、モータが回転しない待機状態が繰り返されるため、ファスナFを50本打ち込む場合、作動回数は50回である。ファスナFを打ち込む回数が増えるほど、モータ又はプランジャの作動時間は増加し、温度も上昇するから、駆動部の作動時間を、打込工具10の駆動状態を示す情報として利用することが可能である。
【0117】
ここで単位時間あたり(例えば1分あたり)の作動回数を駆動情報として取得することにより、温度との相関を高めることが可能となる。作動回数(打込工具の場合ファスナの打ち込み回数)は操作者に把握しやすい情報であるから、操作パネル等の入力手段を用いて第1閾値を操作者に設定可能に電動工具(打込工具)を構成することにより、操作者の作業内容に即して第1動作モード及び第2動作モードを切り替えることが可能となる。駆動情報としてモータ駆動時の電流情報を用いても良い。例えば、作動時間の代わりに電流の積算値を用いても良い。
【0118】
また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。たとえば、第1動作モード及び第2動作モードとは異なる第3動作モードを実行可能に構成してもよい。このとき、第1動作モードの実行後に第3動作モードを実行し、その後に第2動作モードを実行可能に構成してもよい。或いは第2動作モードの実行後に第3動作モードを実行可能に構成してもよい。また待機時にシステム電源回路50Eの電源電圧がドライブ回路50Bに供給されるように構成してもよい。また、2個又は3個以上の温度センサをモータ、インバータ回路が搭載されるプリント配線基板及びCPUのパッケージ内に配設し、いずれかの温度センサから取得される温度がそれに対想して設定される第1閾値に到達した場合に、第2動作モードに切り替えるように構成してもよい。その他本発明は当業者の通常の創作能力の範囲内で変形することが可能である。例えば、本発明を下記のように変形することが可能である。
【0119】
[変形例]
第1実施形態に係る電動工具は、トリガがひかれていないトリガOFF時の待機状態のときに、ドライブ回路50Bへの電圧供給を遮断することで、ドライブ回路50Bの発熱を抑制するものであった。
【0120】
本変形例は、待機状態のときに、モータ20を制御するための制御回路50Dの一部分への電圧供給を低減又は遮断する電動工具に係る発明を開示する。
電動工具は、打込工具10等であってもよいが、これに限られるものではない。
【0121】
このような電動工具が待機状態のときに、モータ20を制御するための制御回路50Dの一部への電圧供給を低減又は遮断するとともに、第1実施形態に記載されたようにドライブ回路50Bへの電圧供給を低減又は遮断してもよい。このような構成を採用することにより簡素化された構成でこの変形例に係る実施態様を実現することが可能となる。
【0122】
しかしながら、このような電動工具が待機状態のときに、モータ20を制御するための制御回路50Dの一部への電圧供給を低減又は遮断する一方で、ドライブ回路50Bへの電圧供給を低減又は遮断しないように電動工具を構成してもよい。
なお、待機状態のときに、モータ20を制御するための制御回路50Dの一部分への電圧供給を低減又は遮断する際、制御回路50Dの他部分への電圧供給を継続する。このため他部分への電圧供給が、低減又は遮断されることはない。このような構成とすることにより、制御回路50Dの他部分を用いて電動工具が待機状態から作動状態に復帰したことを検出することが可能となる。
【0123】
以上のような構成を採用することにより、制御回路50Dの発熱量を低減することが可能となるから、電動工具の発熱量を低減することが可能となる。
本変形例は、例えば、レスポンスの低下が大きな問題とならない電動工具等や、トリガ操作以外の方法でスリープモードから起動させるような電動工具等の電動工具に好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0124】
10.打込工具
12.ハウジング
12E.トリガ
20.モータ
22.ギア
24.PCB基板
32.プランジャ
34.ドライバ
40.ワイヤ
42.プーリ
44.シリンダ
50.制御部
50A.インバータ回路
50B.ドライブ回路
50C.ドライブ電源回路
50C1.ON/OFF回路
50D.制御回路
50E.システム電源回路
50S.センサ