(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184113
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20221206BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20221206BHJP
【FI】
A63B53/04 A
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091771
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】松永 聖史
(72)【発明者】
【氏名】喜井 健二
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA02
2C002CH01
2C002CH06
2C002MM04
2C002PP05
(57)【要約】
【課題】 反発性能に優れたゴルフクラブヘッド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ゴルフクラブヘッド1であって、ボールを打撃するためのフェース2を備える。フェース2は、フェース中央領域Aを備える。ゴルフクラブヘッド1は、フェース中央領域Aの周辺を構成するフェース周辺領域Bを含む。フェース中央領域Aとフェース周辺領域Bとは、同一の金属材料で構成されている。フェース周辺領域Bの少なくとも一部が、フェース中央領域Aの弾性率よりも小さい弾性率を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブヘッドであって、
ボールを打撃するためのフェースを備え、
前記フェースは、フェース中央領域を備え、
前記ゴルフクラブヘッドは、前記フェース中央領域の周辺を構成するフェース周辺領域を含み、
前記フェース中央領域と前記フェース周辺領域とは、同一の金属材料で構成されており、
前記フェース周辺領域の少なくとも一部が、前記フェース中央領域の弾性率よりも小さい弾性率を備えている、
ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記小さい弾性率の部分が、前記フェース中央領域とは異なる金属組織を有する第1組織変化部である、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記第1組織変化部は、熱処理により形成された部分である、請求項2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記第1組織変化部が、前記フェースの周縁から前記フェースのスイートスポット側へ20mm以内の領域の少なくとも一部に形成されている、請求項2又は3に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記第1組織変化部が、前記フェースの周縁からヘッド後方側へ20mm以内の領域の少なくとも一部に形成されている、請求項2ないし4のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記第1組織変化部が、前記フェース中央領域を囲むように環状に形成されている、請求項2ないし5のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記第1組織変化部が、非連続に形成されている、請求項2ないし5のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記フェース中央領域は、前記フェース周辺領域よりも大きい弾性率を備えており、
前記大きい弾性率の部分は、前記フェース周辺領域とは異なる金属組織を有する第2組織変化部であり、
前記第2組織変化部は、熱処理により形成された部分である、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
前記金属材料が、ステンレス鋼、軟鉄又はチタン合金である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項10】
ウッド型である、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項11】
アイアン型である、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項12】
ゴルフクラブヘッドの製造方法であって、
ボールを打撃するためのフェースを備えたゴルフクラブヘッドを準備する準備工程と、
前記ゴルフクラブヘッドを熱処理する熱処理工程とを含み、
前記準備工程は、フェース中央領域と、前記フェース中央領域の周辺を構成するフェース周辺領域とが同一の金属材料で形成されたゴルフクラブヘッドを準備し、
前記熱処理工程は、前記フェース周辺領域の少なくとも一部が、前記フェース中央領域の弾性率よりも小さい弾性率を持つように、前記ゴルフクラブヘッドを局所的に熱処理する部分熱処理工程を含む、
ゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記部分熱処理工程が、前記フェース周辺領域の少なくとも一部に対する焼きなましである、請求項12に記載のゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記部分熱処理工程は、前記フェース中央領域の少なくとも一部に対する溶体化時効処理又は焼入れである、請求項12又は13に記載のゴルフクラブヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、打球の飛距離を増大させるために、反発性能を高めた様々なゴルフクラブヘッドが提案されている。例えば、下記特許文献1には、フェース部の裏面に、環状の薄肉部が形成されたゴルフクラブヘッドが記載されている。このようなフェース肉厚分布設計がなされたゴルフクラブヘッドは、薄肉部の剛性が相対的に小さく、ひいては、打球時にこの部分が大きく撓むことで、反発性能の向上を期待している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、様々な理由から、これまでとは異なる方法によって、ゴルフクラブヘッドの反発性能を向上させることが望まれている。
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、反発性能を向上しうるゴルフクラブヘッドを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゴルフクラブヘッドであって、ボールを打撃するためのフェースを備え、前記フェースは、フェース中央領域を備え、前記ゴルフクラブヘッドは、前記フェース中央領域の周辺を構成するフェース周辺領域を含み、前記フェース中央領域と前記フェース周辺領域とは、同一の金属材料で構成されており、前記フェース周辺領域の少なくとも一部が、前記フェース中央領域の弾性率よりも小さい弾性率を備えている、ゴルフクラブヘッドである。
【0007】
本発明の他の態様では、前記小さい弾性率の部分が、前記フェース中央領域とは異なる金属組織を有する第1組織変化部であっても良い。
【0008】
本発明の他の態様では、前記第1組織変化部は、熱処理により形成された部分であっても良い。
【0009】
本発明の他の態様では、前記第1組織変化部が、前記フェースの周縁から前記フェースのスイートスポット側へ20mm以内の領域の少なくとも一部に形成されていても良い。
【0010】
本発明の他の態様では、前記第1組織変化部が、前記フェースの周縁からヘッド後方側へ20mm以内の領域の少なくとも一部に形成されていても良い。
【0011】
本発明の他の態様では、前記第1組織変化部が、前記フェース中央領域を囲むように環状に形成されていても良い。
【0012】
本発明の他の態様では、前記第1組織変化部が、非連続に形成されていても良い。
【0013】
本発明の他の態様では、前記フェース中央領域は、前記フェース周辺領域よりも大きい弾性率を備えており、前記大きい弾性率の部分は、前記フェース周辺領域とは異なる金属組織を有する第2組織変化部であり、前記第2組織変化部は、熱処理により形成された部分であっても良い。
【0014】
本発明の他の態様では、前記金属材料が、ステンレス鋼、軟鉄又はチタン合金であっても良い。
【0015】
本発明の他の態様では、ゴルフクラブヘッドがウッド型又はアイアン型であっても良い。
【0016】
本発明の他の態様は、ゴルフクラブヘッドの製造方法であって、ボールを打撃するためのフェースを備えたゴルフクラブヘッドを準備する準備工程と、前記ゴルフクラブヘッドを熱処理する熱処理工程とを含み、前記準備工程は、フェース中央領域と、前記フェース中央領域の周辺を構成するフェース周辺領域とが同一の金属材料で形成されたゴルフクラブヘッドを準備し、前記熱処理工程は、前記フェース周辺領域の少なくとも一部が、前記フェース中央領域の弾性率よりも小さい弾性率を持つように、前記ゴルフクラブヘッドを局所的に熱処理する部分熱処理工程を含む、ゴルフクラブヘッドの製造方法である。
【0017】
本発明の他の態様では、前記部分熱処理工程が、前記フェース周辺領域の少なくとも一部に対する焼きなましであっても良い。
【0018】
本発明の他の態様では、前記部分熱処理工程は、前記フェース中央領域の少なくとも一部に対する溶体化時効処理又は焼入れであっても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明のゴルフクラブヘッドは、上記の構成を採用したことにより、反発性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態のゴルフクラブヘッドの正面図である。
【
図2】本実施形態のゴルフクラブヘッドの平面図である。
【
図4】(A)はゴルフクラブヘッドの正面図、(B)はそのs1断面図である。
【
図5】(A)ないし(C)は、第1組織変化部の変形例を示すゴルフクラブヘッドの正面図である。
【
図6】第1組織変化部の変形例を示す
図1のIII-III線に対応する断面図である。
【
図7】他の実施形態のゴルフクラブヘッドの正面図である。
【
図8】他の実施形態のゴルフクラブヘッドの正面図である。
【
図9】ゴルフクラブヘッドの製造方法を説明するヘッドの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれていることが理解されなければならない。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0022】
図1~3は、それぞれ、本実施形態のゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)1の正面図、平面図及び
図1のIII-III線断面図を示す。
【0023】
[基準状態等の定義]
図1~3において、ヘッド1は基準状態に置かれている。本明細書において、ヘッド1の「基準状態」とは、ヘッド1が、当該ヘッド1に設定されたライ角α(
図1)及びロフト角β(
図3)で水平面HPに置かれた状態である。
図2に示されるように、基準状態では、ヘッド1のシャフト軸中心線CLが、水平面HPと直角な基準垂直面VP内に配された状態で、ヘッド1がライ角α及びロフト角βに保持される。また、「シャフト軸中心線CL」は、ヘッド1のホーゼル部5に形成されたシャフト差込孔5aの軸中心線によって画定される。本明細書において、特に言及されていない場合、ヘッド1は、基準状態にあるものとして説明されている。
【0024】
本明細書では、ヘッド1の基準状態において、基準垂直面VPに直交する方向がヘッド前後方向とされる。ヘッド前後方向に関して、フェース2の側が前側とされ、その反対側が後側とされる。また、基準垂直面VP及び水平面HPにともに平行な方向は、トウ・ヒール方向とされる。さらに、水平面HPに直交する方向が、ヘッド上下方向として定義される。
【0025】
[ヘッドの基本構造]
本実施形態のヘッド1は、ウッド型として構成されている。ウッド型のヘッド1は、例えば、ドライバー、フェアウェイウッド等と称されるヘッドを含む。
【0026】
図1~3に示されるように、ヘッド1は、例えば、フェース2、クラウン3、ソール4及びホーゼル部5などを含む。本実施形態のヘッド1は、内部に中空部iが形成されている。
【0027】
フェース2は、ボールを打撃するための部分であって、その外表面が打撃面2aを形成している。打撃面2aには、フェースラインと呼ばれるトウ・ヒール方向に延びる複数本の溝が設けられても良い(図示省略)。
【0028】
フェース2は、スイートスポットSSを有する。スイートスポットSSとは、
図3に示されるように、ヘッド重心Gからフェース2の打撃面2aに立てた法線Nと打撃面2aとの交点である。スイートスポットSSは、高い反発が期待できる打撃点である。
【0029】
打撃面2aは、フェース2の周縁Eによって区画される。本明細書において、フェース2の周縁Eは、クラウン3やソール4との間にフェース2を画定する稜線が形成されている場合には、当該稜線として定義される。一方、そのような稜線が明確に形成されていない場合、フェース2の周縁Eは、次のようにして求める。まず、
図4(A)に示されるように、ヘッド重心GとスイートスポットSSとを結ぶ法線Nを含む各断面s1、s2、s3…を得る。そして、
図4(B)に示されるように、各断面において、フェース外面輪郭線Lfの曲率半径rがスイートスポットSS側からフェース外側に向かって初めて200mmとなる位置Peがフェース2の周縁Eとされる。
【0030】
クラウン3は、ヘッド上面を形成するように、フェース2の周縁Eからヘッド後方に延びている。クラウン3のヒール側には、ホーゼル部5が設けられている。ホーゼル部5には、クラブシャフト(図示省略)を固定するためのシャフト差込孔5aが形成されている。
【0031】
ソール4は、ヘッド底面を形成するように、フェース2の周縁Eからヘッド後方に延びている。ソール4は、例えば、ヘッド底面図で見える部分である。
【0032】
ヘッド1は、金属材料で構成されている。金属材料としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、軟鉄、チタン合金等が好適である。ヘッド1の一部(例えば、クラウン3)が、繊維強化樹脂等の非金属材料で作られても良い。本実施形態のヘッド1は、例えば、チタン合金で形成されている。
【0033】
[フェース中央領域・フェース周辺領域]
図1に示されるように、ヘッド1は、フェース中央領域Aと、フェース中央領域Aの周辺を構成するフェース周辺領域Bとを備える。
【0034】
フェース中央領域Aは、フェース2のスイートスポットSSを含む領域であり、かつ、フェース2の周縁Eよりも内部の領域とされる。フェース中央領域Aは、ゴルファーの主たる打撃位置を包含する領域として定められるのが望ましい。本実施形態のフェース中央領域Aは、
図1に示されるように、フェース2のスイートスポットSSを中心とした半径10mmの円Ecで囲まれた領域として定められている。
【0035】
フェース周辺領域Bは、ヘッド1において、フェース中央領域Aよりも外側の領域である。また、フェース周辺領域Bは、フェース2のみならず、クラウン3やソール4の前側部分を含んでも良い。
【0036】
ヘッド1において、フェース中央領域Aとフェース周辺領域Bとは、同一の金属材料で構成されている。本明細書において、同一の金属材料とは、対比される2つの金属材料が、同一の化学成分を有することを意味する。
【0037】
本実施形態のヘッド1は、
図2に示されるように、いわゆるカップ状に成型されたフェース部材1Aと、ヘッド本体1Bとが溶接固着されて形成されている。
【0038】
フェース部材1Aは、例えば、フェース2と、その周縁Eからヘッド後方に小長さで延びる返し部7とを一体に備えている。返し部7は、クラウン3及びソール4の前側部分を構成している。このようなフェース部材1Aは、1つの金属材料を用い、プレス、鋳造、鍛造、切削等の製造工程を経て、フェース2と返し部7とが一体的に形成される。本実施形態のヘッド1は、このようなフェース部材1Aを用いることで、フェース中央領域Aとフェース周辺領域Bとが同一の金属材料で構成される。
【0039】
本実施形態のヘッド1は、フェース周辺領域Bの少なくとも一部が、フェース中央領域Aの弾性率よりも小さい弾性率を備える。このようなヘッド1は、ボール打撃時に、弾性率の小さいフェース周辺領域Bを撓みやすく構成できる。したがって、本実施形態のヘッド1は、その反発性能を向上することが可能になる。
【0040】
本実施形態では、フェース周辺領域Bの弾性率が、フェース中央領域Aの弾性率よりも小さく構成されていることから、フェース2の肉厚分布設計に依拠する必要はない。したがって、フェース2におけるフェース周辺領域Bの厚さt2は、フェース中央領域Aの厚さt1と同一とされても良い。
【0041】
一方、本発明は、フェース肉厚分布設計の採用を妨げるものではない。したがって、本発明は、フェース肉厚分布設計を併用することで、反発性能の向上効果をさらに高めても良い。好ましい態様では、フェース周辺領域Bの厚さt2は、フェース中央領域Aの厚さt1よりも小さく形成される。これにより、フェース周辺領域Bは、曲げ剛性がさらに効果的に低減し、ボール打撃時にフェース周辺領域Bがより効果的に撓むことで、反発性能を向上させることができる。
【0042】
本実施形態のヘッド1は、同一の金属材料からなるフェース中央領域Aとフェース周辺領域Bとにおいて、フェース周辺領域Bの少なくとも一部が、フェース中央領域Aの弾性率よりも小さい弾性率を備える。このようなヘッド1は、フェース周辺領域Bの弾性率を相対的に低下させること(第1実施形態)、及び、フェース中央領域Aの弾性率を相対的に高めること(第2実施形態)の2通りの形態で実現することができる。以下、これらの具体的態様がそれぞれ説明される。
【0043】
[第1実施形態]
第1実施形態では、フェース周辺領域Bの弾性率を相対的に低下させることで、フェース中央領域Aとフェース周辺領域Bとの間に弾性率の差を設けている。この実施形態では、フェース周辺領域Bにおける小さい弾性率の部分は、フェース中央領域Aとは異なる金属組織を有するように処理された第1組織変化部10で形成される。
【0044】
第1組織変化部10は、例えば、フェース周辺領域Bを局所的に熱処理することによって形成される。金属材料の弾性率を低下させるための熱処理としては、例えば、各種の焼きなまし(完全焼きなまし、応力除去焼なまし等)が挙げられる。焼きなましは、慣例にしたがい、対象領域を高温に保持した後、徐冷することで行われる。焼きなましされた部分は、金属組織中の格子欠陥の減少、再結晶化等により組織が均質化し、残留応力が減少することで弾性率が低下する。したがって、フェース周辺領域Bを局所的に焼きなましを施すことで、同一の金属材料中に、局所的に弾性率の小さい第1組織変化部10が形成される。
【0045】
第1組織変化部10は、
図1に示されるように、フェース中央領域Aを囲むように環状に形成されるのが望ましい。これにより、ボール打撃時、フェース周辺領域Bをより大きく撓ませることができ、ヘッド1の反発性能がさらに向上する。他の態様では、
図5(A)に示されるように、第1組織変化部10は、フェース周辺領域Bにおいて、非連続に形成されても良い。また、第1組織変化部10は、
図5(B)及び(C)に示されるように、1本の線条に形成されても良い。
【0046】
図3に示されるように、第1組織変化部10は、好ましくは、フェース2の周縁Eからフェース2のスイートスポットSS側へ20mm以内、より好ましくは15mm以内、さらに好ましくは10mm以内の領域L1に形成される。このように、第1組織変化部10をフェース2の周縁Eに接近させて形成することで、ボール打撃時のフェース2の撓みをより大きくでき、ヘッド1の反発性能がより一層向上する。
【0047】
他の態様では、
図6に示されるように、第1組織変化部10は、フェース周辺領域Bとしてフェース2よりも後方のクラウン3及び/又はソール4に形成されても良い。この場合、第1組織変化部10は、フェース2の周縁Eからヘッド後方側へ20mm以内、より好ましくは15mm以内、さらに好ましくは10mm以内の領域L2に形成される。このように、第1組織変化部10をフェース2の後方に形成しても、ボール打撃時のフェース2の撓みをより大きくでき、ヘッド1の反発性能がより一層効果的に向上することができる。なお、
図6に示した第1組織変化部10と、
図3に示した第1組織変化部10が、併用されても良い。
【0048】
図3及び
図6のいずれの態様においても、第1組織変化部10が、フェース2の周縁Eに接近しすぎると、ボール打撃時のフェース2の撓みが十分に得られないおそれがある。このような観点より、第1組織変化部10は、望ましくは、フェース2の周縁Eから3mm以上、より好ましくは4mm以上、さらに好ましくは5mm以上を隔てて形成される。
【0049】
図3に示されるように、フェース2の周縁Eと直交する方向に測定される第1組織変化部10の幅Wは、特に限定されるものではないが、反発性能を向上させるために、例えば1mm以上、好ましくは3mm以上、さらに好ましくは5mm以上とされるのが望ましい。他方、第1組織変化部10の幅Wは、例えば20mm以下、好ましくは15mm以下、さらに好ましくは10mm以下とされるのが望ましい。
【0050】
また、反発性能を十分に高めるために、フェース中央領域Aの弾性率Em1と、フェース周辺領域Bの小さい弾性率Em2との比(Em1/Em2)は、例えば、1.1以上、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.3以上とされる。他方、前記比(Em1/Em2)が大きすぎると、第1組織変化部10の境界位置において応力集中などが生じやすくなる。このような観点より、前記比、(Em1/Em2)は、例えば、2.0以下、好ましくは11.8以下、より好ましくは1.6以下とされる。
【0051】
[第2実施形態]
図7には、第2実施形態としてのヘッド1の正面図が示されている。第2実施形態では、フェース中央領域Aの弾性率を相対的に高めることで、フェース中央領域Aとフェース周辺領域Bとの間に弾性率の差が設けられる。第2実施形態では、フェース中央領域Aの大きい弾性率の部分は、フェース周辺領域Bとは異なる金属組織を有するように処理された第2組織変化部20で形成される。
【0052】
第2組織変化部20は、例えば、フェース中央領域Aを局所的に熱処理することによって形成される。金属材料の弾性率を高めるための熱処理としては、例えば、溶体化時効処理や焼き入れ等が挙げられる。
【0053】
溶体化時効処理は、溶体化処理後、時効処理を行うことで、金属組織中に微細な金属間化合物を析出させて材料の弾性率を高める。したがって、フェース2に局所的に溶体化時効処理を施すうことで、同一の金属材料中に、局所的に弾性率の大きい第2組織変化部20が形成される。溶体化時効処理は、例えば、チタン合金やマルエージング鋼に好適である。一方、焼入れは、対象領域を局部的に高温に保持した後、急冷することでマルテンサイト組織を得、材料を高弾性化する。したがって、焼入れは、主として、鉄鋼材に好適に用いられる。以上のように、第2組織変化部20を形成する際には、対象となる金属材料に応じて最適な熱処理が適宜選択されれば良い。
【0054】
この実施形態では、例えば、弾性率が小さい金属材料でフェース部材1Aを形成した後、そのフェース中央領域Aの弾性率を局所的に高くすることで、反発性能に優れたヘッド1を提供することができる。
【0055】
また、既にフェース肉厚分布設計等によりフェース2の広い領域に渡って高反発化されたヘッドでは、CT値又はCORといった反発性能に関する指標がゴルフ規則で定められた上限を超える場合がある。このような場合、フェース2の特定箇所(例えば、前記反発性能の測定箇所)に第2組織変化部20を形成することで、その部分での反発性能をゴルフ規則内まで局所的に低下させることができる。したがって、このようなヘッド1は、ゴルフ規則を満たしながら、これまでより、フェース2の広い範囲に高反発エリアを提供することが可能になる。
【0056】
[他の実施形態]
ヘッド1は、ウッド型のみならず、アイアン型やハイブリッド型等に構成されても良い。
図8には、アイアン型のヘッド1の正面図が示される。この実施形態では、フェース2は、フェース中央領域Aと、その外側の領域であるフェース周辺領域Bとを含み、フェース周辺領域Bに、第1組織変化部10が形成されたものが示されている。
【0057】
[ヘッドの製造方法]
本実施形態のヘッド1は、フェース2を備えたヘッド1を準備する準備工程と、ヘッド1を熱処理する熱処理工程とを含んで製造することができる。
【0058】
準備工程で準備されるヘッド1は、上で説明されたように、フェース中央領域Aと、フェース中央領域Aの周辺を構成するフェース周辺領域Bとが同一の金属材料で形成される。望ましい態様では、ヘッド1は、
図2に示したように、カップ状のフェース部材1Aと、その後方部分を構成するヘッド本体1Bとが溶接により固着されて形成(準備)される。なお、フェース部材は、返し部7を有しないプレート状であっても良いのはいうまでもない。
【0059】
熱処理工程は、フェース周辺領域Bの少なくとも一部が、フェース中央領域Aの弾性率よりも小さい弾性率を持つように、ヘッド1を部分的に熱処理する部分熱処理工程を含む。
【0060】
部分熱処理工程は、例えば、
図9に示されるように、フェース周辺領域Bの部分的焼きなまし工程を含むことができる。このような部分的焼きなましは、例えば、熱源として、レーザー発振装置30から出力されるレーザービーム32を用いることができる。より具体的には、レーザー発振装置30をフェース2に対して相対的に移動させることにより、レーザービーム32を、フェース周辺領域Bの所定の位置に局所的に照射することができる。レーザービーム32は、被照射部以外への熱影響を小さくできる点で望ましい。
【0061】
部分的焼きなましでは、フェース2のフェース周辺領域Bに局所的にレーザービーム32を繰り返し照射し(フェース中央領域Aには照射せずい)、その部分を高温に保持した後、徐冷される。これにより、フェース周辺領域Bの焼きなましされた部分は、弾性率が相対的に小さくなり、上述の第1組織変化部10となる。
【0062】
第1組織変化部10を得るための焼きなましの温度に関しては、対象となる金属材料に応じて、適宜定めることができる。例えば、チタンについては、概ね、以下の温度範囲にて行うことができる。
【0063】
【0064】
部分熱処理工程は、上記の部分的焼きなまし工程に代えて、又は、上記の部分的焼きなまし工程に加えて、例えば、フェース中央領域Aの部分的溶体化時効工程、又は、部分的焼入れ工程であっても良い。
【0065】
例えば、部分的焼き入れ工程では、
図9に示したように、フェース2のうちフェース中央領域Aに部分的にレーザービーム32を繰り返し照射し(フェース周辺領域Bには照射せず)、当該照射部分を高温に保持した後、急冷することにより行うことができる。これにより、フェース中央領域Aの焼き入れされた部分は、弾性率が相対的に高くなり、上述の第2組織変化部20となる。
【0066】
第2組織変化部20を得るための部分的溶体化時効処理や部分的焼入れの温度に関しては、対象となる金属材料に応じて、適宜定めることができる。例えば、チタン合金の溶体化、時効処理については、概ね、以下の温度範囲にて行うことができる。
【0067】
【0068】
上述のような部分的熱処理工程は、ヘッド1を製造した後に、反発性能を高く又は低く調整することができる利点がある。例えば、フェース2の肉厚分布設計による反発性能の調整では、フェース2の裏面の加工が必要になるため、反発性能の調整ができない。これに対して、本実施形態のような製造方法では、フェース部材1Aをヘッド本体1Bに溶接固着された後でも、部分的焼きなまし工程により反発性能を高めること、及び、部分的溶体化時効工程や部分的焼入れ工程により反発性能を低下させることが可能である。
【0069】
部分的熱処理工程において、レーザービーム32の条件は、特に制限されるものではないが、例えば、Yb(イッテルビウム)ディスク(レンズ)を使用したレーザー発振装置では、出力は500~2000W程度、走査速度は50~400mm/min程度の範囲で実施されるのが望ましい。
【0070】
レーザービーム32が照射された部分は、表面に焼き色や凹凸等が形成される場合がある。フェース2の外観を向上させるために、局所的に焼きなましされた箇所は、例えば、表面研磨等されるのが望ましい。その後、フェース2は、必要に応じて、塗装されても良い。
【0071】
上述の部分的熱処理工程は、レーザービーム以外にも、様々な方法で行うことができ、例えば、熱源として、火炎、電子ビーム、高周波電流等を用いることができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではない。
【実施例0073】
以下、本発明のより具体的かつ非限定的な実施例が説明される。
図1~3の基本構造を備えたウッド型のゴルフクラブヘッドが、表3の仕様に基づいて製造され、それらについて、反発性能が評価された。また、比較例として、部分的熱処理工程をしなかったものを用意し、同様に反発性能が評価された。いずれのヘッドも、フェースの厚さは3.1mmで一定である。
【0074】
部分的熱処理工程では、Ybディスクを使用したレーザー発振装置が使用され、出力は530~570W、かつ、走査速度は1000mm/minとされた。また、ヘッドの焼きなまし対象箇所は、レーザービームが繰り返し照射され、約780~800℃の温度範囲で約10分間保持された後、空冷された。
【0075】
反発性能については、スイートスポットでのCORが測定された。CORは、反発係数(Coefficient Of Restitution)を意味し、USGA(United States Golf Association:全米ゴルフ協会)で規定されている「Interim Procedure for Measuring the Coefficient of Restitution of an Iron Clubhead Relative to a Baseline Plate Revision 1.3 January 1, 2006」に基づいて計測された。表3では、比較例のCORを100とする指数表示であり、数値が大きいほど、反発性能が高い傾向を示す。
【0076】
【0077】
テストの結果、実施例のゴルフクラブヘッドは、比較例のヘッドに比べて、反発性能に優れていることが確認できた。