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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184127
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】インキュベータ
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C12M3/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091794
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】中 俊明
(72)【発明者】
【氏名】谷本 和仁
(72)【発明者】
【氏名】松尾 勲行
(72)【発明者】
【氏名】石井 優
(72)【発明者】
【氏名】中野 正貴
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB11
4B029BB12
4B029DB16
4B029DB19
4B029GB08
4B029HA09
(57)【要約】
【課題】 外部に排気することなく複数の収容室を均一な培養環境に維持することが可能なインキュベータを提供する。
【解決手段】 培養容器4を収容可能な複数の収容室3を備え、前面に各収容室ごとに開閉する開閉部材2を設けたインキュベータに関する。
上記収容室3内の前方部に設けた排気口11を介して各収容室3から排気される気体が流入する気体合流室6と、上記収容室3内の後方部に設けた給気口13aを介して各収容室3と通気可能な気体加圧室5と、上記気体合流室6から上記気体加圧室5へ送気する送気手段17とを備えている。
上記送気手段17によって上記気体合流室6から上記気体加圧室5に送気し、気体加圧室5から各収容室3に気体を流通させて気体合流室6に循環させる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器を収容可能な複数の収容室を備え、前面に各収容室ごとに開閉する開閉部材を設けたインキュベータにおいて、
上記収容室内の前方部に設けた排気口を介して各収容室から排気される気体が流入する気体合流室と、
上記収容室内の後方部に設けた給気口を介して各収容室と通気可能な気体加圧室と、
上記気体合流室から上記気体加圧室へ送気する送気手段とを備え、
上記送気手段によって上記気体合流室から上記気体加圧室に送気し、気体加圧室から各収容室に気体を流通させて気体合流室に循環させることを特徴とするインキュベータ。
【請求項2】
上記気体合流室を流通する気体を加湿する加湿手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項3】
上記気体合流室または気体加圧室を流通する気体の成分を調整する調整手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のインキュベータ。
【請求項4】
上記給気口は上記送気手段に近いほど圧力損失が大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインキュベータ。
【請求項5】
上記収容室を上下に複数設けるとともに、最下段の収容室の下方に上記気体合流室を配置し、
上記排気口を介して上下の収容室を通気可能とするとともに、最下段の収容室と気体合流室とを通気可能として、上記排気口を介して各収容室から排気される気体が気体合流室に流入するようにしたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のインキュベータ。
【請求項6】
上記排気口に気体を清浄化させるフィルタを設けたことを特徴とする請求項5に記載のインキュベータ。
【請求項7】
少なくとも最下段の収容室に、上方の収容室の排気口から排気される気体を下方へ案内する案内部材を設けたことを特徴とする請求項5または請求項6のいずれかに記載のインキュベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインキュベータに関し、詳しくは培養容器を収容する複数の収容室を備えたインキュベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞を収容した培養容器を、内部が培養に適した環境に維持されたインキュベータに収容して細胞の培養を行うことが行われており、近年では大量の細胞を培養するため、前方に開閉部材が設けられて内部に培養容器を収容可能な収容室を複数備えたインキュベータが知られている(特許文献1)。
このような特許文献1のインキュベータでは、上記複数の収容室に対して個々に加湿装置および炭酸ガス供給装置から所定湿度(100%)に加湿された空気と所定濃度(5%)の炭酸ガスを供給することで、複数の収容室が均一な培養環境に維持されるようになっている。
このようなインキュベータによれば、細胞を培養容器に播種する作業を連続的に行って、順次上記収容部に収容するとともに、培養期間に達したものから順に取り出すことが可能となり、その際各収容室に個々に開閉部材が設けられているため、他の培養中の培養容器に影響を及ぼすことなく培養容器を収容し、取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4274859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のインキュベータの場合、各収容室に加湿された所定湿度の空気と所定濃度の炭酸ガスを供給しながら、余剰する気体を各収容室の背面に形成した排気口より外部に排気していることから、外部の湿度や炭酸ガス濃度が上昇するとともに炭酸ガスを大量に消費してしまうため、不経済であるという問題があった。
このような問題に鑑み、外部に排気することなく複数の収容室を均一な培養環境に維持することが可能なインキュベータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかるインキュベータは、培養容器を収容可能な複数の収容室を備え、前面に各収容室ごとに開閉する開閉部材を設けたインキュベータにおいて、
上記収容室内の前方部に設けた排気口を介して各収容室から排気される気体が流入する気体合流室と、
上記収容室内の後方部に設けた給気口を介して各収容室と通気可能な気体加圧室と、
上記気体合流室から上記気体加圧室へ送気する送気手段とを備え、
上記送気手段によって上記気体合流室から上記気体加圧室に送気し、気体加圧室から各収容室に気体を流通させて気体合流室に循環させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、各収容室の排気を循環させることが可能となり、また気体加圧室は各収容室と通気可能で、気体合流室から気体が送気されて加圧状態となっていることから、各収容室に均等に気体を流通させて複数の収容室を均一な培養環境に維持することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施例にかかるインキュベータの斜視図
図2】上記インキュベータの縦断面図
図3】気体合流室を説明する平面図
図4】第2実施例にかかるインキュベータの縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、図1は細胞の培養を行うインキュベータ1の斜視図となっており、当該インキュベータ1は内部が清浄化された培養室に設けられている。
上記インキュベータ1は開閉部材2によって開閉可能な収容室3を複数備えており、本実施例では横方向に6列、上下方向に4段の計24の収容室3を備えるとともに、各収容室3は図2に示すようにそれぞれ6個の培養容器4を収容することが可能となっている。上記開閉部材2は各収容室3ごとに、インキュベータ1の前面に設けられている。
また上記培養室には、上記インキュベータ1の他に、図示しない複数台のAIV(自律型自動搬送ロボット)が設けられており、当該AIVに設けられたロボットハンドで各収容室3への培養容器4の出し入れを自動的に行うことが可能となっている。
【0009】
図2に示すように、培養容器4は扁平形状を有した密閉型の容器となっており、複数の培養容器4をトレー4Aに積み重ねた状態で収容室3に収容することが可能となっている。
上記培養容器4の先端にはキャップ4aが装着され、当該キャップ4aには図示しないが気体のみを通過させるフィルタが設けられている。
これにより、培養容器4の内部は汚染されることなく、収容室3を流通する細胞の培養に適した気体を培養容器4内に流入させることができる。
また上記フィルタを有するキャップ4aを装着することにより、異なる培養容器4と培養容器4との間の交差汚染を防止することができる。
【0010】
図2に示すように、本実施例のインキュベータ1は上下に4段の収容室3を備え、これら複数の収容室3の後方には気体加圧室5を設けるとともに、最下段の収容室3の下方には気体合流室6を設けている。
後に詳述する通り、上下の収容室3は排気口11によって連通し、上記気体加圧室5と各収容室3とは給気口13aを介して連通し、気体合流室6および上記気体加圧室5も連通するように設けられている。
また上記インキュベータ1は、上記気体合流室6から気体加圧室5に送気する送気手段17を備えるとともに、上記気体合流室6を流通する気体を加湿する加湿手段15を備えている。
上記構成を有するインキュベータ1によれば、内部に細胞の培養に適した気体を循環させながら細胞の培養を行うことが可能となっており、具体的には上記気体加圧室5から給気口13aを介して各収容室3に気体を流入させると、当該気体は各収容室3から上記排気口11を介して下方の収容室3へと流通し、さらに最下段の収容室3から上記気体合流室6へと流入した後、上記送気手段17によって気体合流室6から気体加圧室5へと送気されて循環するようになっている。
【0011】
上記各収容室3は上下左右が区画壁によって取り囲まれており、各収容室3の前方面には上記開閉部材2が開閉可能に設けられ、当該開閉部材2は図示しないヒンジによって開閉可能に設けられており、モータ駆動によって自動開閉可能となっている。
また各収容室3の上記開閉部材2と対向する後方面には通気壁13が設けられて上記気体加圧室5と区画され、当該通気壁13には上記給気口13aが上下左右に等間隔で多数開口されている。
また各収容室3の内部には上記培養容器4を載置させたトレー4Aを下方から支持するテーブル12が設けられており、また上記トレー4Aには把持部が形成され、上記AIVのロボットハンドによって当該把持部を把持して移送できるようになっている。
このような構成により、インキュベータ1に培養容器4を出し入れする際には、上記AIVがインキュベータ1の前方に移動すると、開閉部材2が自動的に開放され、ロボットハンドがAIVに支持させている複数の培養容器4を積層したトレー4Aを把持して、収容室3内のテーブル12に載置させる、または、ロボットハンドがテーブル12に載置されているトレー4Aを把持して、積層された複数の培養容器4を収容部3から取り出すようになっている。
【0012】
次に、各収容室3の床面(下方の区画壁)の前方部には、当該床面を上下に貫通する排気口11が形成されている。本実施例では上下に位置する収容室3を上記排気口11によって連通させるようになっており、最下段の収容部3については上記気体合流室6と連通するようになっている。
上記排気口11は各収容室3の前方部、すなわち上記開閉部材2に近づけた位置に設けられており、当該排気口11の上方には、開閉部材2と積層された複数の培養容器4との間に、上方から排気口11に向けて気体を流通させるための間隙が確保されるようになっている。
このように構成することで、各収容室3の前方部に設けられた上記排気口11から下方の収容室3に向けて排出され、当該下方の収容室3に流入した気体は、培養容器4やテーブル12に妨げられることなく真下に設けられた排気口11に向けて流通するようになっている。
この場合、開閉部材2と積層された培養容器4との間隙が排気通路となって、各収容室3から排気口11に排気される気体が最下段の収容室3の排気口11に向けて流れ、上記気体合流室6に排気される。
【0013】
次に、上記収容室3と気体加圧室5とを区画する通気壁13について説明すると、当該通気壁13は上記24個の収容室3の後方部の開放部分を塞ぐように構成され、当該通気壁13には上記収容室3と気体加圧室5とを連通させる複数の給気口13aが形成されている。具体的には、通気壁13をパンチングメタルにより構成することができる。
上記通気壁13に形成された複数の給気口13aは、収容室3に面する通気壁13の上下方向および左右方向に均等に配置されており、気体加圧室5で加圧された気体が各給気口13aからほぼ等しい流量で収容室3内に流入させることが可能となっている。
このとき、収容室3の後方から流入した気体は、当該収容室3の後方から前方に向けて流れて、収容室3の前方部に設けた上記排気口11から排出されるようになっており、このようにして収容室3の内部空間には細胞の培養に適した空気が常時流通するようになっている。
【0014】
このような給気口13aに対し、上記気体加圧室5に送気する送気手段17は、一定の流量で気体加圧室5に気体を送るようになっており、これにより気体加圧室5の加圧状態を維持するようになっている。
上記給気口13aは気体加圧室5から収容室3に気体が流通する際に圧力損失が生じる程度に小さく形成されており、これにより送気手段17により一定の流量で気体を送気すると、気体加圧室5の内部は一定の加圧状態で均衡するようになっている。
そして、本実施例では、各収容室3ごとの給気口13aの数は等しくする一方、送気手段17に近い給気口13aほど開口面積を小さくすることで、当該送気手段17に近い給気口13aを送気手段17から離れた給気口13aよりも圧力損失が大きくなるよう設定したものとなっている。
このようにすることで、上記送気手段17に近い給気口13aほど通気性が悪くなり、送気手段17から離れた位置の給気口13aに気体が行きわたるようになる。
その結果、各収容室3への給気量が同じになるように調整されて、気体加圧室5が通気可能な全ての収容室3に対してほぼ同じ流量で気体を供給することが可能となっている。
すなわち、気体加圧室5の内圧が一定で各収容室3よりも高ければ、圧力損失が大きい給気口13aほど通気する気体の流速は高くなるため、全体としてはほぼ一定の流量となる。
ここで上記通気壁13としては、上記の給気口13aを形成するパンチングメタルに代えて、大きめの給気口13aを網状部材(メッシュ)や不織布からなる通気性部材で覆うことによって構成することができる。
また送気手段17との位置関係において通気量を異ならせる手段としては、給気口13aの開口面積を異ならせるほか、給気口13aの開口面積は等しくして開口数を異ならせるようにしてもよく、網状部材の場合は網目の大きさを異ならせるようにし、通気性部材の透過性や通気性能を異ならせることで実現できる。
【0015】
上記気体合流室6は、インキュベータ1の前方側に形成されて最下段の収容室3と排気口11を介して連通する回収部14と、回収部14に流入した気体を加湿する調整手段としての加湿手段15が設けられた合流部16と、加湿された空気を上記気体加圧室5に送風する送気手段17を備えた送気部18とから構成されている。
図3は上記循環室6の平面視を示し、上記回収部14は横方向に6個設けられている収容室3の幅にわたって設けられ、最下段の各収容室3の排気口11が開口しており、収容室3から排出された気体はこの回収部14に流入するようになっている。
上記合流部16は回収部14の中央に接続されており、後方に向けて通路幅が徐々に狭められた後、上記気体加圧室5の下方にインキュベータ1の全幅にわたって設けられた送気部18の幅まで拡大されている。そして上記回収部14に流入した気体はこの合流部16に向けて集められ、合流部16で加湿された気体は上記送気部18へと拡散するようになっている。
上記加湿部16に設けられた上記加湿手段15は、加湿水を滴下させる給水ノズル15aと、滴下された加湿水を蒸発させる蒸発皿15bと、上記蒸発皿15bを加熱する加熱手段としてのヒータ線15cとを備えている。なお、加湿水としては無菌水やRO水を用いるのが望ましい。
上記給水ノズル15aより滴下される加湿水の量は、目標とする湿度に必要な量だけ滴下するよう制御されており、滴下された加湿水は蒸発して水蒸気となり、上記合流部16を流通する気体に付加されて、当該気体を細胞の培養に適した湿度へと調整するようになっている。
【0016】
上記送気部18は上記気体加圧室5の下方に隣接して設けられており、当該送気部18と気体加圧室5とは仕切壁19によって気密を保った状態で区画されており、当該仕切壁19に上記送気手段17が配置されている。
上記送気手段17はファンユニット17aとダクト17bとから構成され、上記ファンユニット17aは仕切壁19に等間隔で3箇所に嵌め込まれるとともに、上記送気部18側に突出するように設けられている。
そして上記ダクト17bは各ファンユニット17aに設けられるとともに上記気体加圧室5側に一列に整列するように配置されており、各ダクト17bの上部には清浄化フィルタ20が設けられている。
上記清浄化フィルタ20にはHEPAやULPAのような高性能清浄化フィルタを使用し、インキュベータ1の内部で循環する気体を浄化しながら使用することが可能となっている。
さらにインキュベータ1には、気体を調整する調整手段として、各収容室3の内部雰囲気を培養に適した温度(37℃前後)に維持するための加熱手段としてのヒータ線21が設けられている。
上記ヒータ線21は、上記送気部18を構成するインキュベータ1の筐体に埋め込まれており、このヒータ線21により筐体全体を加熱することで、インキュベータ1の内部を流通する気体が加熱され、内部雰囲気が培養に適した温度に維持されるようになっている。
このような構成により、上記送気手段17のファンユニット17aが送気部18の気体を上記気体加圧室5に向けて送気することにより、気体加圧室5を加圧状態とすることができ、また清浄化フィルタ20によって清浄化された気体が気体加圧室5の内部で攪拌されて均質化されるようになっている。
【0017】
上記気体加圧室5はインキュベータ1の背面側に設けられており、上述したように本実施例では上記通気壁13によって一つの気体加圧室5が上記24個の収容室3に対して通気可能としている。
このような構成とすることで、気体加圧室5の加圧状態とされた気体を収容室3に対して供給することが可能となり、その際細胞の培養に適した空気を均質化した状態で供給することができる。
なお、気体加圧室5を上下方向1列の収容室3ごとに分割して設けてもよく(この場合気体加圧室5が6列に分割される)、また3列の収容室3に対して設けるようにしてもよい(この場合気体加圧室5が2列に分割される)。
【0018】
上記気体加圧室5の内部で細胞の培養に適した気体を調整する調整手段として、気体加圧室5の内部に図示しない供給源から供給される炭酸ガス(二酸化炭素)を供給する気体切換手段22が設けられている。
上記気体切換手段22は、図示しない供給源から圧縮状態で供給されるクリーンエアと炭酸ガスを、遮断もしくは何れかを流通させるよう切り換えるよう構成されており、通路を分岐させて気体加圧室5の複数個所に何れかの気体を供給するようになっている。
ここで上記気体切換手段22は、気体加圧室5に炭酸ガスを供給して収容室3に供給する気体中の炭酸ガス濃度を一定に維持することによって、細胞の代謝による培地の酸化を防ぎ、培養容器4に収容された培地のPhを最適な状態に調整するものとなっている。
なお、上記調整手段としては、図示しない炭酸ガスの供給源と気体加圧室5とを、開閉弁を備えた管路で直接接続するようにしてもよく、また、調製用ガスの供給先は気体加圧室5に限らず気体合流室6であってもよい。さらには、調製用ガスとしては、炭酸ガスに限らず窒素ガスやその他のガス等、培養に使用する培地に対応した気体を使用することができる。
【0019】
さらに気体加圧室5には、調整された気体が細胞の培養に適した状態であるかを測定するため、温度センサ26、湿度センサ27、ガス濃度センサ28を備えており、これらのセンサは気体加圧室5における上記送気手段17から離れた位置に設けられている。
このように、気体加圧室5における送気手段17から離れた位置で気体の状態を測定することで、気体加圧室5の内部で気体が十分に攪拌されて均質化しているか否かを適正に確認することができる。
そして上記気体切換手段22、ならびに上記気体合流室6に設けた加湿手段15およびヒータ21は制御手段29によって制御され、上記温度センサ26による測定結果に基づいて上記ヒータ21の加熱温度を制御し、湿度センサ27による測定結果に基づいて上記加湿手段15の蒸気発生量を制御し、またガス濃度センサ28による測定結果に基づいて上記気体切換手段22による炭酸ガスの供給が制御されるようになっており、これにより気体を調整する調整手段が構成されている。
【0020】
また、気体加圧室5内の圧力を測定する圧力計30と、気体加圧室5内から排気して圧力を低下させる減圧弁31とを備えており、上記制御手段29は圧力計30の測定結果に基づいて上記気体切換手段22もしくは減圧弁31の作動を制御する。
すなわち、何れかの収容室3の開閉部材2が開放されると気体加圧室5内の圧力が低下するため、開閉部材2が閉鎖された後に気体切換手段22を作動させることで、圧縮されたクリーンエアを気体加圧室5に供給する。
これに伴って気体加圧室5の圧力が増加すると、制御手段29は気体切換手段22によるクリーンエアの供給を停止するとともに、減圧弁31を開放させて過剰な圧力を放出させ、設定圧力まで減圧させる。
このような制御を行うことにより、気体加圧室5の圧力を所定圧力に維持することができ、各収容室3に均一な流量で気体を供給して各収容室3の培養環境を均一に維持するようにしている。
【0021】
以下、上記構成を有するインキュベータ1の使用方法について説明する。上述したように、インキュベータ1は清浄な環境に維持された無人の培養室内に設けられており、この培養室には自動制御により作動するAIVが設けられている。
上記AIVは、培養すべき細胞を収容した培養容器4を受け取ると、インキュベータ1の前方まで搬送する。
続いて、目的の収容室3の開閉部材2が開放されると、AIVはトレー4Aを把持して、培養容器4を積み重ねた状態で収容室3内のテーブル12に載置し、その後開閉部材2が閉鎖される。
【0022】
インキュベータ1の内部には、上述したように細胞の培養に適した気体が循環するようになっており、上記気体加圧室5に充満した気体は、上記加湿手段15によって所定の湿度にされ、上記ヒータ21によって所定の温度に加温され、また気体切換手段22が供給した炭酸ガスによって所定の濃度にされて細胞の培養に適した気体として調整されている。
上記気体加圧室5に充満している気体の状態は当該気体加圧室5に設けられた温度センサ26、湿度センサ27、ガス濃度センサ28によって測定され、制御手段29はこの測定結果に基づいて上記加湿手段15、ヒータ21、気体切換手段22を制御するようになっている。
そして、気体加圧室5は送気手段17が送気した気体によって加圧されており、差圧によって気体加圧室5の気体は通気壁13に形成された給気口13aを介して全ての収容室3にほぼ同じ流量で流入する。
このとき、上記通気壁13の通気量を、送気手段17の近くでは少なく、遠くでは多くなるようにしたことで、全ての収容室3に流入する気体の流量を略均等にすることができる。
以上のように、本実施例では複数の収容室3に対して一つの気体加圧室5を設けていることで、全ての収容室3に対して均質化した気体を供給することができ、また給気流量を略均等化することができ、全ての収容室3の内部環境を同じ状態に維持することができる。
【0023】
そして、上記気体加圧室5から各収容室3に流入した気体は、収容室3に収容された培養容器4の周囲を通過しながら、収容室3の後方から前方に向けて流通し、これにより収容室3の内部空間の雰囲気は上記通気壁13より流入する気体によって常に新鮮な状態が維持される。
その際、上記気体は培養容器4のキャップ4aに設けたフィルタを介して培養容器4の内部に流入し、これにより培養容器4の内部についても上記気体によって培養に適した状態に維持されることとなる。
収容室3を流通した気体は、当該収容室3の前方まで流通すると、前方部の床面(下方の区画壁)に設けられた排気口11から下方に向けて排出され、当該収容室3の下方に位置する収容室3に流入する。
上記排気口11は収容室3の前方部に設けられ、また収容室3の前方部には開閉部材2と積層された培養容器4との間に間隙が形成されていることから、上方の排気口11より流入した気体は真下に流れるようになっており、培養容器4の周囲には流入しないようにしている。
【0024】
そして最下段の収容室3を流通した気体は、それぞれ上方に位置する収容部3で合流した排気とともに、当該最下段の収容室3に設けられた排気口11より気体合流室6へと流入する。
このように上記送気手段17のファンユニット17aにより上記気体合流室6から気体加圧室5に気体を送ると、気体合流室6に開口する上記最下段の収容室3の排気口11には、気体合流室6に向けて気体を吸引する吸引力が生じる。
これにより、各収容室3においては、開閉部材2と積層された培養容器4の間隙に上から下に向かって気流が生じ、当該間隙が排気通路となって各収容室3の排気口11から気体が排出される。
図3に示すように、気体合流室6の回収部14には左右6列の収容室3に形成された排気口11を介して気体が流入し、上記合流部16を通過する際に、上記加湿手段15が発生させた水蒸気によって加湿される。
合流部16を通過した空気は送気部18に引き込まれ、当該送気部18に設けられたファンユニット17aによって上記気体加圧室5へと送気される。その際、気体は上記清浄化フィルタ20を通過することで清浄化される。
【0025】
このように気体加圧室5には、上記加湿手段15によって加湿されるとともに、上記加熱手段としてのヒータ21によって所定の温度まで加熱され、さらに清浄化フィルタ20によって清浄化された気体が流入し、さらに上記気体切換手段22から供給される炭酸ガスによって気体のガス濃度が調整されるようになっている。
このようにして気体加圧室5に供給された気体は、上記送気手段17によって送気されることで気体加圧室5の内部で攪拌され、気体の状態が均質化される。
また、気体加圧室5において細胞の培養に適した状態に調整された気体は、上述したように流入量が過剰となって気体加圧室5内を加圧した状態となるため、各収容室3の給気口13aにほぼ均等に流通することとなる。
【0026】
図4は第2実施例にかかるインキュベータ1の断面図を示し、本実施例において第1実施例と共通する部分についての説明は省略するものとする。
本実施例の収容室3には、上記開閉部材2よりもさらに内側に内部開閉部材41が設けられており、当該内部開閉部材41は上記収容室3の前方部に形成した上記排気口11よりも培養容器4寄りに設けられている。
上記内部開閉部材41は図示しない丁番によって開閉可能に設けられている。また上記内部開閉部材41の下方には排気口41aが形成されている。
【0027】
このような構成とすることにより、上記内部開閉部材41が積層された培養容器4に代わって開閉部材2との間に間隙を形成する。これにより、上記気体加圧室5から各収容室3へと流入した気体は、内部開閉部材41の排気口41aから内部開閉部材41と開閉部材2との間に形成された間隙に排出される。
この内部開閉部材41の排気口41aより排出された気体は、開閉部材2と内部開閉部材41との間に形成された間隙を下方に流通し、さらに下方の収容室3に形成された排気口11から排出されるようになっている。
すなわち、上記内部開閉部材41は開閉部材2との間で排気通路を形成するための案内部材として機能する。なお、このような案内部材は最上段の収容室3では不要であるため省略してもよく、また、上方から流入する排気が収容室3の内部に流入することを防止できればよいので、比較的気体の流通量が少ない上段の収容室3には必要でない場合もあり、少なくとも流通量が最も多い最下段に設けるのが効果的である。
これにより、上記排気口41aより排出された気体を、下段の収容室3における内部開閉部材41よりも後方に流通させないようにすることができ、異なる収容室3に収容された培養容器4と培養容器4との間の交差汚染を可及的に防止することができる。
【0028】
なお上記実施例では、培養容器4として気体のみを透過するキャップ4aによって密閉可能なものを使用しているが、上記キャップ4aを備えない培養容器4を上記インキュベータ1に収容してもよい。
この場合、上記収容室3に開口する排気口11や上記通気壁13の給気口13aに別途清浄化フィルタを設けることで、異なる収容室3に収容された培養容器4と培養容器4との間の交差汚染を防止するようにしてもよい。
さらに、上記気体合流室6と上記気体加圧室5との間に、ラビリンス構造を有した流路を形成して、気体合流室6から気体加圧室5内に送気される気体が気体加圧室5の内部で十分に混合されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 インキュベータ 2 開閉部材
3 収容室 4 培養容器
5 気体加圧室 6 気体合流室
11 排気口 13 通気壁
13a 給気口 15 加湿手段
17 送気手段 21 加熱手段
22 気体切替手段
図1
図2
図3
図4