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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184142
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】防霜用塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20221206BHJP
   C09D 125/04 20060101ALI20221206BHJP
   C09D 133/12 20060101ALI20221206BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20221206BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20221206BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20221206BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D125/04
C09D133/12
C09D133/04
C09D7/63
C07K7/06 ZNA
C07K7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091814
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】水澤 竜也
(72)【発明者】
【氏名】大栗 延章
(72)【発明者】
【氏名】滝口 浩司
(72)【発明者】
【氏名】平野 義明
【テーマコード(参考)】
4H045
4J038
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA11
4H045BA12
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045EA61
4H045EA65
4H045FA10
4J038CC021
4J038CG141
4J038EA011
4J038JB01
4J038KA02
4J038MA09
4J038NA05
4J038NA06
4J038NA07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】結露した水が多い対象物に塗布した場合にも、耐久性を向上させることが可能な防霜用塗料を提供する。
【解決手段】この発明の防霜用塗料100では、水に対する溶解性または反応性を持たない高分子の接着物質1と、接着物質1に結合される過冷却促進活物質2aおよび補助物質2bの複合体2とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に対する溶解性および反応性を持たない高分子の接着物質と、
前記接着物質に結合される以下の一般式(1)で表される過冷却促進活物質および補助物質の複合体とを含む、防霜用塗料。
【化1】

(式中、Tyrは、チロシン残基であり、XおよびYはアミノ酸残基であり、nは1以上6以下であり、pは1以上7以下であり、qは0以上4以下である)
【請求項2】
前記接着物質は、樹脂である、請求項1に記載の防霜用塗料。
【請求項3】
前記接着物質は、スチロール樹脂、またはアクリル系樹脂のいずれかである、請求項2に記載の防霜用塗料。
【請求項4】
前記接着物質は、ポリメタクリル酸メチルである、請求項3に記載の防霜用塗料。
【請求項5】
前記複合体は、nが3以上6以下であるとともに、pが3以上7以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の防霜用塗料。
【請求項6】
前記複合体は、pが5以上7以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の防霜用塗料。
【請求項7】
Xはグリシン残基である、請求項1~6のいずれか1項に記載の防霜用塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防霜用塗料に関し、特に、アミノ酸残基を含む防霜用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アミノ酸残基を含む防霜用塗料が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、アミノ酸残基とチロシン残基とが結合したチロシンペプチドと、高分子からなる接着物質とから構成される複合体を含む防霜用塗料が開示されている。特許文献1では、高分子としてポリビニルピリジンを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2016/178426号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ポリビニルピリジンは、水溶性の高分子であることが知られている。そのため、熱交換器のような多量の水が結露する対象物に特許文献1のような防霜用塗料を塗布した場合に、活物質を構成する接着物質が結露した水に溶解し、防霜用塗料が対象物から剥離することが考えられる。そのため、防霜用塗料の耐久性を向上させることが望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、結露した水が多い対象物に塗布した場合にも、耐久性を向上させることが可能な防霜用塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による防霜用塗料は、水に対する溶解性および反応性を持たない高分子の接着物質と、接着物質に結合される以下の一般式(1)で表される過冷却促進活物質および補助物質の複合体とを含む。
【0008】
【化1】

(式中、Tyrは、チロシン残基であり、XおよびYはアミノ酸残基であり、nは1以上6以下であり、pは1以上7以下であり、qは0以上4以下である)
【0009】
この発明の第1の局面による防霜用塗料では、上記のように、接着物質は水に対する溶解性および反応性を持たない。これにより、熱交換器のような結露した水が多い対象物に使用した場合に、結露した水に接着物質が溶解して、防霜用塗料が塗布対象物から剥離することを抑制することができる。この結果、結露した水が多い対象物に塗布した場合にも、防霜用塗料の耐久性を向上させることができる。また、複合体は、チロシン残基を有することにより、水分中に含まれる不純物がチロシン残基に付着し、水分中から浮遊している不純物を取り除くこと、ができる。これにより、不純物が氷の核になって水が凍結することを抑制することができるため、対象物に着霜することを抑制することができる。
【0010】
上記第1の局面による防霜用塗料において、好ましくは、接着物質は、樹脂である。このように構成すれば、接着物質としての樹脂を含む防霜用塗料を複数回対象物に塗布することにより、塗膜の厚さを大きくすることができる。その結果、防霜用塗料の耐久性をより向上させることができる。
【0011】
この場合、好ましくは、接着物質は、スチロール樹脂、またはアクリル系樹脂のいずれかである。このように構成すれば、スチロール樹脂およびアクリル系樹脂は、耐候性を有しているため、接着物質が温度変化により変質するのを抑制して、防霜用塗料が対象物から剥離することを抑制することができる。
【0012】
上記第1の局面による防霜用塗料において、好ましくは、接着物質は、ポリメタクリル酸メチルである。このように構成すれば、ポリメタクリル酸メチルは、他の樹脂よりも耐候性が優れているため、接着物質が温度変化により変質するのを抑制して、防霜用塗料が対象物から剥離することを効果的に抑制することができる。
【0013】
上記第1の局面による防霜用塗料において、好ましくは、複合体は、nが3以上6以下であるとともに、pが3以上7以下である。このように構成すれば、nが3以上であることにより、過冷却促進効果を得られることを発明者は後述する試験により知得した。また、nが6以下であることにより、チロシン残基を重合させる操作の回数を減らすことができるため、複合体の生成にかかる工程が煩雑になることを抑制することができる。また、pが3以上7以下であることにより、複合体の分子鎖の長さを大きくすることができるため、結露した水に浮遊している不純物とチロシン残基とを反応させることができる。
【0014】
上記第1の局面による防霜用塗料において、好ましくは、複合体は、pが5以上7以下である。このように構成すれば、複合体の分子鎖の長さを十分に大きくすることができるため、結露した水に浮遊している不純物とチロシン残基とを効果的に反応させることができる。
【0015】
上記第1の局面による防霜用塗料において、好ましくは、Xはグリシン残基である。このように構成すれば、構造が単純なアミノ酸残基であるグリシン残基を複合体のアミノ酸残基Xとして用いて、防霜用塗料を生成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、結露した水が多い対象物に塗布した場合にも、耐久性を向上させることが可能な防霜用塗料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態による防霜用塗料の構成を説明するための図である。
図2】本発明の一実施形態による防霜用塗料が作用を説明するための図である。
図3】防霜用塗料が塗布された熱交換器を説明するための図である。
図4】本発明の防霜用塗料を塗布した回数と凍結する温度との関係を示すグラフである。
図5】本発明の防霜用塗料を塗布したアルミニウム板の模式図である。
図6】本発明の防霜用塗料を塗布したアルミニウム板の塗膜の成分分析の結果を示すグラフである。
図7】本発明の防霜用塗料を塗布したアルミニウム板に熱衝撃試験を行った結果を示す図である。
図8】本発明の防霜用塗料の塗膜成分の成分分析のサンプリング場所を説明するための図である。
図9】本発明の防霜用塗料を塗布したアルミニウム板の熱衝撃試験後の塗膜の成分分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1図3を参照して、本発明の一実施形態による防霜用塗料100の構成を説明する。
【0020】
(塗料の構成)
図1に示すように、防霜用塗料100は、接着物質1と、過冷却促進活物質2aおよび補助物質2bの複合体2とから構成される。防霜用塗料100は、接着物質1と複合体2とを溶媒に溶解して生成される。
【0021】
(接着物質の構成)
接着物質1は、水に対する溶解性および反応性を持たない高分子の化合物である。水に対する溶解性および反応性を全く持たない場合と、水にほとんど溶解性および反応性を持たないが、わずかに溶解および反応する場合とを含む。接着物質1は、ペプチドに重合可能な高分子の化合物である。ペプチドは、複数のアミノ酸がペプチド結合により鎖状に繋がった化合物である。
【0022】
接着物質1は、樹脂である。接着物質1は、好ましくは、スチロール樹脂またはアクリル系樹脂である。接着物質1は、さらに好ましくは、耐候性の高いアクリル系樹脂である。
【0023】
スチロール樹脂は、たとえば、ポリスチレン(PS)である。アクリル系樹脂は、たとえば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、またはポリメタクリレート(PMA)である。
【0024】
(複合体の構成)
複合体2は、以下の一般式(1)で表される。
【0025】
【化1】
【0026】
上記一般式(1)のうち、Tyrは、チロシン残基を表し、XおよびYは、アミノ酸残基である。XおよびYとTyrとは、ペプチド結合により結合している。複合体2は、ペプチドである。チロシン残基(Tyr)が、過冷却促進活物質2aであり、XおよびYが補助物質2bである。なお、図1では、アミノ酸残基Xを黒い丸で表し、アミノ酸残基Yを黒い四角形で表している。
【0027】
アミノ酸残基は、ペプチドを構成するアミノ酸由来の構成単位である。アミノ酸残基は、一般式RCH(NH)COOH(Rは炭化水素基)で表されるアミノ酸のアミノ基(NH)からHを除くとともに、カルボキシ基(COOH)からOHを除いた部分である。なお、ペプチド(複合体2)の両端のうちN末端のアミノ酸残基は、アミノ基はNHのままである。また、C末端のアミノ酸残基は、カルボキシ基はCOOHのままである。また、上記一般式で表されるペプチド(複合体2)は、一般的な記載方法と同様に、N末端のアミノ酸残基がペプチドの左端に位置し、C末端のアミノ酸残基はペプチドの右端に位置する。
【0028】
チロシン残基の数nは、1以上6以下である。好ましくは、チロシン残基の数nは、3以上6以下である。
【0029】
アミノ酸残基Xは、たとえば、グリシン残基である。アミノ酸残基Xの数pは、1以上7以下である。好ましくは、アミノ酸残基Xの数pは、3以上7以下、さらに好ましくは、5以上7以下である。アミノ酸残基Xは、接着物質1に結合する。
【0030】
アミノ酸残基Yは、アミノ酸残基Xと同じでもよく異なっていてもよい。アミノ酸残基Yは、たとえば、グリシンである。アミノ酸残基Yの数qは、0以上4以下である。好ましくは、アミノ酸残基Yの数qは、0である。
【0031】
(溶媒の構成)
溶媒は、接着物質1の種類に対応した溶媒である。溶媒は、ペプチド(複合体2)が結合された接着物質1を溶解可能な溶媒である。溶媒は、たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム(トリクロロメタン)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはアセトンなどである。
【0032】
防霜用塗料100は、濡れ性を改質するための改質剤が添加されていてもよい。改質剤は、たとえば、フッ素樹脂などの撥水剤、酸化チタンなどの親水剤である。また、防霜用塗料100は、防除剤または抗菌剤が添加されていてもよい。
【0033】
図2に基づいて、本発明の防霜用塗料100の作用について、金属3に塗布する場合を例に説明する。防霜用塗料100は、金属3に接着物質1を介して接着される。接着物質1には、複合体2が結合されている。
【0034】
過冷却促進活物質2aは、水4に含まれる不純物5と結合し、不純物5が氷の核となることを抑制する。ここで、水4が不純物5を含む場合、不純物5が氷の核となることにより0℃以下の比較的高い温度において液相から固相に変化する。しかしながら、過冷却促進活物質2aが不純物5と結合することにより、氷の核が形成されないため、0℃の水が液相から固相に変化せず、0℃以下の比較的低い温度でも液相状態を維持する過冷却状態になる。そのため、防霜用塗料100は、着霜することを抑制することができる。
【0035】
過冷却促進活物質2aは、接着物質1に直接結合すると、分子鎖の長さが短いことにより、水中を浮遊している不純物5と結合しにくい。一方で、補助物質2bが、接着物質1と過冷却促進活物質2aとの間に結合されている場合、分子鎖の長さが大きくなり、過冷却促進活物質2aが浮遊している不純物5と結合することが可能となる。
【0036】
(冷却システムの構成)
図3に示すように、たとえば、本発明の防霜用塗料100(図1参照)が、冷却システム200の熱交換器6に塗布されてもよい。冷却システム200は、熱交換器6と、圧縮機7と、凝縮器8と、膨張弁9とを備える。冷却システム200は、矢印で示すように冷媒を循環させて冷却対象を冷却するシステムである。
【0037】
熱交換器6は、熱交換器本体6aと防霜用塗料100とを含む。熱交換器本体6aは、板状のフィン部材6bと、冷媒配管6cとを含む。熱交換器6は、膨張弁9において膨張された冷媒が供給される。熱交換器6は、フィン部材6bを介して、熱交換器本体6a内を通過する冷媒と外部の冷却対象物との間で熱交換を行う。これにより冷媒が蒸発されるとともに、冷却対象物が冷却されるように構成されている。フィン部材6bと、冷媒配管6cとに防霜用塗料100が塗布される。塗布の方法は、たとえば、熱交換器6を防霜用塗料100に浸けることにより行われる。
【0038】
熱交換器6で蒸発された冷媒は、圧縮機7において圧縮される。圧縮機7で圧縮された冷媒は、凝縮器8に供給される。凝縮器8に供給された冷媒は、冷却されることにより凝縮されて液状の冷媒となる。そして、凝縮器8により凝縮された冷媒は、膨張弁9において膨張されたのち、熱交換器6に供給される。
【0039】
(塗料の製造方法)
本発明の防霜用塗料100の製造方法の一例を説明する。以下の説明では、接着物質1が、ポリメチルメタクリレート(PMMA)である場合を例に説明する。また、Xがグリシンであり、n=3、q=0である複合体2を例に説明する。
【0040】
まず、Fmoc固相合成法を用いて、複合体2を生成する。Fmoc固相合成法では、Fmoc(9ーフルオレニルメトキシカルボニル)によって保護されているアミノ酸を樹脂に固定したあと、Fmoc基を外し、Fmocで保護された別のアミノ酸を結合させて、ペプチドを形成する方法である。
【0041】
まず、0.2mmolのN-(9ーフルオレニルメトキシカルボニル)-O-t-ブチルーL-チロシン pーメトキシベンジルアルコール ポリエチレングリコール レジン(FmocーTyr(tBu)-AlkoーPEG Resin)をプラスチック製のカラムに入れ、ジメチルホルムアミド(DMF)を用いた洗浄と、メタノールを用いた洗浄とを行う。その後、25%ジメチルスルホキシド/ジメチルホルムアミド(DMSO/DMF)で膨潤させる。
【0042】
膨潤後にジメチルホルムアミド(DMF)を用いて洗浄する。その後、20%ピペリジン/ジメチルホルムアミド(PPD/DMF)を反応させ、Fmoc基の脱保護を行う。
【0043】
Fmoc基の脱保護を行った後、ジメチルホルムアミド(DMF)を用いて洗浄する工程を行う。洗浄後、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム二水和物(TNBS)を用いてTNBSテストを行い、樹脂上の遊離アミノ基を検出することにより、Fmoc基の脱保護の確認を行う。
【0044】
Fmoc基の脱保護を行った後、25%ジメチルスルホキシド/ジメチルホルムアミド(DMSO/DMF)で膨潤させる。そして、ジメチルホルムアミド(DMF)を用いて洗浄した後、樹脂に対してFmoc保護チロシンと4-メチルモルホリン(NMM)と、4-(4,6-ジメトキシ[1,3,5]トリアジン-2-イル)-4-メチルフォリニウムクロライド(DMT-MM)とを加え、縮合反応を行う。縮合後にTNBSテストを行い、縮合の完了を確認する。
【0045】
縮合反応を行った後、ジメチルホルムアミド(DMF)洗浄を行う。以上の操作を繰り返し、Fmoc-Tyr(tBu)-Tyr(tBu)-Tyr(tBu)-Alko-PEG Resinを合成する。そして、Fmoc保護チロシンのかわりにFmocグリシンを用いて上記の操作を行うことにより、Fmoc-GlyーTyr(tBu)-Tyr(tBu)-Tyr(tBu)-Alko-PEG Resinを合成する。
【0046】
合成したペプチドのFmoc-(Gly)n-Tyr(tBu)-Tyr(tBu)-Tyr(tBu)-Alko-PEG ResinのFmoc基を20%ピペリジン/ジメチルホルムアミド(PPD/DMF)を用いて脱保護を行う。脱保護後、TNBSテストを行い、Fmoc基の脱保護の確認を行った後に、遊離アミノ基に対して重合開始剤である4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(ACVA)を加え、4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(ACVA)と4-メチルモルホリン(NMM)と4-(4,6-ジメトキシ[1,3,5]トリアジン-2-イル)-4-メチルフォリニウムクロライド(DMT-MM)とを加えて、縮合反応を行う。縮合後、TNBSテストを行い、縮合の完了を確認する。ジクロロメタン(DCM)で洗浄後、減圧乾燥し、ACVA-Gly-Tyr(tBu)-Alko-PEG Resinを得る。
【0047】
ジメチルホルムアミド(DMF)20mL、4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(ACVA)に対してメタクリル酸メチル(MMA)、ACVA-Gly-Tyr(tBu)-Alko-PEG Resinを三口フラスコに加え、重合させる。そして、攪拌を行った後、PMMA-Gly-Tyr(tBu)-Alko-PEG Resinをジメチルホルムアミド(DMF)で洗浄することで未反応物を除去する。その後、ジクロロメタン(DCM)で洗浄し、減圧乾燥する。
【0048】
PMMA-Gly-Tyr(tBu)-Alko-PEG Resinの高分子鎖を膨潤するためにテトラヒドロフラン(THF)を用いて攪拌させる。PMMA-Gly-Tyr(tBu)-Alko-PEG Resinをクリーンベッジミクスチャーに加えて、攪拌する。クリーンベッジミクスチャーは氷冷下で攪拌しておく。攪拌後、ジエチルエーテルを加えてさらに攪拌する。その後、析出物と樹脂とを吸引濾過で回収する。トリフルオロ酢酸(TFA)を濾紙上の析出物に加え、PMMA-Gly-Tyrを溶解し、樹脂を取り除いた。濾液をエバポレーターで減圧濃縮した。ジエチルエーテルでデカンテーション後、吸引濾過でPMMA-Gly-Tyrを回収し、減圧乾燥させる。減圧乾燥させたPMMA-Gly-Tyrを溶媒に溶かし、塗料を完成させる。
【0049】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0050】
本実施形態では、接着物質1は水に対する溶解性および反応性を持たない。これにより、熱交換器6のような結露した水が多い塗布対象物に使用した場合に、結露した水に接着物質1が溶解して、防霜用塗料100が塗布対象物から剥離することを抑制することができる。この結果、結露した水が多い対象物に塗布した場合にも、防霜用塗料100の耐久性を向上させることができる。また、複合体2は、チロシン残基を有することにより、水分中に含まれる不純物5がチロシン残基に付着し、水分中から浮遊している不純物5を取り除くことができる。これにより、不純物5が氷の核になって水4が凍結することを抑制することができるため、対象物に着霜することを抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態では、接着物質1は、樹脂である。これにより、接着物質1を重合させることにより、接着物質1としての樹脂を含む防霜用塗料100を複数回対象物に塗布することにより、塗膜の厚さを大きくすることができる。その結果、防霜用塗料100の耐久性をより向上させることができる。
【0052】
また、本実施形態では、接着物質1は、スチロール樹脂、またはアクリル系樹脂のいずれかである。これにより、スチロール樹脂およびアクリル系樹脂は、耐候性を有しているため、接着物質1が温度変化により変質するのを抑制して、防霜用塗料100が塗布対象物から剥離することを抑制することができる。この結果、防霜用塗料100の耐久性をより向上させることができる。
【0053】
また、本実施形態では、接着物質1は、ポリメタクリル酸メチルである。これにより、ポリメタクリル酸メチルは、他の樹脂よりも耐候性が優れているため、接着物質1が温度変化により変質するのを抑制して、防霜用塗料100が塗布対象物から剥離することを効果的に抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態では、複合体2は、nが3以上6以下であるとともに、pが3以上7以下である。これにより、nが3以上であることにより、過冷却促進効果を得られることを発明者は後述する試験により知得した。また、nが6以下であることにより、チロシン残基を重合させる操作の回数を減らすことができるため、複合体2の生成にかかる工程が煩雑になることを抑制することができる。また、pが3以上7以下であることにより、複合体2の分子鎖の長さを大きくすることができるため、結露した水に浮遊している不純物5とチロシン残基とを反応させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、複合体2は、pが5以上7以下である。これにより、複合体2の分子鎖の長さを十分に大きくすることができるため、結露した水に浮遊している不純物5とチロシン残基とを効果的に反応させることができる。
【0056】
また、本実施形態は、Xはグリシン残基である。これにより、構造が単純なアミノ酸残基であるグリシン残基を複合体2のアミノ酸残基Xとして用いて、防霜用塗料100を生成することができる。
【0057】
[実施例]
本発明の効果を確認するために行った実験(実施例)について説明する。本実施例では、上記の製造方法を用いて作成されたPMMA-G[Tyr]を含む防霜用塗料100を用いた。
【0058】
(凍結温度測定)
実施例1としてPMMA-G[Tyr]を含む防霜用塗料100に1回浸漬したアルミニウム板を用意した。実施例2として、PMMA-G[Tyr]を含む防霜用塗料100に3回浸漬したアルミニウム板を用意した。実施例3として、PMMA-G[Tyr]を含む防霜用塗料100に5回浸漬したアルミニウム板を用意した。実施例4として、PMMA-G[Tyr]を含む防霜用塗料100に7回浸漬したアルミニウム板を用意した。比較例として、防霜用塗料100を塗布していないアルミニウム板を用意した。そして、比較例と、実施例1~4との凍結温度を測定した。
【0059】
図4では、縦軸に比較例のアルミニウム板に着霜した凍結温度を基準(0)とし、比較例のアルミニウム板の凍結温度と実施例の凍結温度との差をプロットした。横軸は、比較例および実施例1~4をそれぞれ表す。
【0060】
実施例1は、比較例よりも0.3℃低い温度で凍結した。実施例2は、比較例よりも0.8℃低い温度で凍結した。実施例3は、比較例よりも1.5℃低い温度で凍結した。実施例4は、比較例よりも2.5℃低い温度で凍結した。これらの結果から、防霜用塗料100の塗布の回数が多い程、過冷却促進効果を発揮することを本願発明者は知得した。
【0061】
(塗膜の厚みの測定)
防霜用塗料100を7回塗布したアルミニウム板を複数用意し、膜厚の厚さを測定した結果、膜厚の厚さが1~10μmであった。
【0062】
(塗膜の成分について)
図5に示すように、実施例4の防霜用塗料100を7回塗布したアルミニウム板に対して、GCIBーTOFーSIMS(Gas Cluster Ion Beam Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)分析を行った。GCIBーTOFーSIMS分析は、ガスイオンビームを分析対象物の表面に激しく照射し、分析対象物の表面から放出された物質(イオン)を分析する方法である。GCIBーTOFーSIMS分析は、塗膜と空気との界面Aからアルミニウム板の塗膜が形成されている面と反対の面Bまでの深さ(長さ)毎の成分を測定した。
【0063】
図6に、GCIBーTOFーSIMS分析の結果を示す。図6のグラフでは、縦軸には検出された成分の粒子数をプロットし、横軸には、塗膜と空気との界面Aを0とし、塗膜と空気との界面Aから測定箇所までの深さをプロットした。塗膜と空気との界面Aから、塗膜とアルミニウム板との境界面C(図5参照)までの深さは6μmになった。つまり、本発明の防霜用塗料100を7回塗布することにより6μmの塗膜を形成させることが可能であることを本願発明者は知得した。
【0064】
図6に示すように、接着物質1由来の化合物であるCOおよびC11と、複合体2由来の化合物であるCHNとC10NOとは、同じ曲線を描いた。このことから、接着物質1と複合体2とが均一な割合で防霜用塗料100に存在することを本願発明者は知得した。また、接着物質1由来の化合物であるCOおよびC11と、複合体2由来の化合物であるCHNとC10NOとの曲線は、顕著なピークが現れなかった。このことから、均一な厚みの塗膜が塗布の回数に関わらず形成されることを本願発明者は知得した。
【0065】
(熱衝撃試験)
図7は、防霜用塗料100を塗布したアルミニウム板を-30℃に冷却した後、80℃に加熱するサイクルを50回繰り返す熱衝撃試験を実施した結果を示す。熱衝撃試験を行った結果、アルミニウム板の表面に防霜用塗料100の剥離および変質が見られなかった。この結果より、本発明の防霜用塗料100は、高温および低温に対する耐性に優れているとともに、温度変化の激しい対象物に用いることが可能であることを本願発明者は見出した。
【0066】
図8に示すように、熱衝撃試験後の防霜用塗料100を塗布したアルミニウム板のX1~X3の3カ所において、GCIBーTOFーSIMS分析を行った。
【0067】
図9に、GCIBーTOFーSIMS分析の結果を示す。図9のグラフでは、縦軸に検出された成分の粒子数をプロットし、横軸に、塗膜とアルミニウム板との境界面C(図5参照)を0とし、塗膜とアルミニウム板との境界面Cから測定箇所までの深さをプロットした。なお、横軸では、塗膜と空気との界面Aに向かうにつれてマイナスの値が大きくなるようにプロットするとともに、アルミニウム板の塗膜が形成されている面と反対の面Bに向かうにつれてプラスの値が大きくなるようにプロットしている。図9では、X1の位置における分析結果を直線で表し、X2の位置における分析結果を〇と直線とを組み合わせて表し、さらにX3の位置における分析結果を×と直線とを組み合わせて表している。塗膜と空気との界面Aから、塗膜とアルミニウム板との境界面Cまでの長さ(深さ)は2μmであった。
【0068】
接着物質1由来の化合物であるCOおよびC11と、複合体2由来の化合物であるCHNとC10NOおよびCHNとが、同じ曲線を描いた。このことから、熱衝撃試験後も防霜用塗料100は変質せずに、接着物質1と複合体2とが均一な割合で防霜用塗料100に存在することが分かった。また、接着物質1由来の成分であるCOおよびC11と、複合体2由来の成分であるCHNとC10NOおよびCHNとの曲線は、顕著なピークが現れなかった。さらに、X1~X3の3カ所における分析結果の線がほぼ重なっていた。これらのことから、本発明の防霜用塗料100は、熱衝撃試験後も塗膜の厚さが均一な厚さに維持されており、熱衝撃試験によって塗膜が破れるなどの影響を受けなかったことが分かった。このことから、防霜用塗料100は高温および低温に対する耐性を有しているとともに、急激な温度変化にも耐えることができることを本願発明者は知得した。
【0069】
(接着物質の分子量と重合時間)
接着物質1と複合体2とを重合させる重合時間が0.5時間の実施例5と、重合時間が1.0時間の実施例6と、重合時間が3時間の実施例7とを用意し、それぞれゲル浸透クロマトグラフィを用いてPMMAー(Gly)nーTyrの分子量を測定した。カラムには、溶媒として濃度が10mmol/Lになるように臭化リチウム(LiBr)をテトラヒドロフラン(THF)に調整した溶液を用いた。そして、2.0mg/mLの濃度のサンプルを0.30mLずつ注入し、流量1.0mL/minで流した。また、予め分子量が分かっている標準試料のPMMAを流し、検量線を作成した。測定結果を下記の表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、重合時間が0.5時間の実施例5では、分子量が72.4kDaとなったのに対し、重合時間を1.0時間の実施例6では、分子量が116kDaになった。さらに、重合時間が3.0時間の実施例7では、分子量が279kDaになった。この結果より、接着物質1は、重合時間を長くすることにより、分子量を大きくすることが可能であることを本願発明者は知得した。
【0072】
[変形例]
今回開示された実施形態および実施例は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
【0073】
たとえば、上記実施形態では、防霜用塗料を熱交換器に塗布する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、防霜用塗料を移動体または建物の外壁に塗布されてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、アミノ酸残基がグリシン残基である例を示したが、本発明はこれに限らない。本発明では、アミノ酸残基は、メチオニン残基、リジン残基などのグリシン残基以外のアミノ酸残基であってもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、接着物質は、スチロール樹脂またはアクリル系樹脂である例を示したが、本発明はこれに限らない。本発明では、エポキシ樹脂であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 接着物質
2 複合体
2a 過冷却促進活物質
2b 補助物質
100 防霜用塗料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9