(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184164
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ナトリウムフェライト粒子粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20221206BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20221206BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20221206BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20221206BHJP
【FI】
C01G49/00 A
B01J20/06 C
B01J20/30
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091854
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】坂本 宗由
(72)【発明者】
【氏名】志茂 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】栗田 栄一
【テーマコード(参考)】
4G002
4G066
4G146
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AB01
4G002AD03
4G002AE05
4G066AA13A
4G066AA13B
4G066AA18A
4G066AA18B
4G066AA21A
4G066AA21B
4G066AA27A
4G066AA27B
4G066BA09
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4G066BA36
4G066BA38
4G066CA35
4G066DA02
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4G066FA34
4G066FA36
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4G066FA40
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC08
4G146JC18
4G146JC20
4G146JC22
4G146JC39
(57)【要約】
【課題】本発明は、二酸化炭素を室温から100℃までの温度範囲で吸着し、150℃以下の加熱で二酸化炭素を回収でき、且つ成形性や加工性に富んだナトリウムフェライト粒子粉末、並びに該粒子粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】Na2[Zn(OH)4]及びNa2SnO2からなる2価金属酸ナトリウムより選ばれた少なくとも1種類以上の2価金属酸ナトリウムを1重量%~20重量%含み、Na/Feのモル比が1.0~1.5であることを特徴とするナトリウムフェライト粒子粉末である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na2[Zn(OH)4]及びNa2SnO2からなる2価金属酸ナトリウムより選ばれた少なくとも1種類以上の2価金属酸ナトリウムを1重量%~20重量%含み、Na/Feのモル比が1.0~1.5であることを特徴とするナトリウムフェライト粒子粉末。
【請求項2】
一次粒子の平均短軸径に対する平均長軸径の軸比が1~2である請求項1に記載のナトリウムフェライト粒子粉末。
【請求項3】
粉体pH値が8~14である請求項1または2に記載のナトリウムフェライト粒子粉末。
【請求項4】
亜鉛及び錫からなる2価金属群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属化合物粒子粉末、酸化鉄粒子粉末及びナトリウム原料粒子粉末を混合して、150℃~400℃の温度で水蒸気固相反応するステップを含む請求項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムフェライト粒子粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を固定化するナトリウムフェライト粒子粉末及びその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
気候変動枠組条約(パリ条約)は、世界全体の平均気温の上昇を2℃より十分下方に抑えるべく、その原因とされる温室効果ガス排出の実質ゼロを目標にして、2015年に策定された。その中で、政府方針としては、2030年までに2013年度対比46%の温室効果ガスの削減を中期目標として掲げている。温室効果ガスの主体は化石燃料の燃焼によって発生する二酸化炭素である。1950年代の大気中の二酸化炭素濃度は約300ppmであるのに対し、近年400ppmを超えたことが報告されている。大気中への二酸化炭素の放出量の削減の切り札として、二酸化炭素の回収、貯蔵、及びその回収利用の研究が進められている。
【0003】
二酸化炭素の大規模発生源としては、各所から化石燃料の燃焼により発生する排ガス放出口である。石炭、重油、天然ガスなどを燃料とする火力発電所、製造所のボイラー、及びセメント工場のキルンなどが挙げられる。また、コークスで酸化鉄を還元する製鉄所の高炉、または、ガソリン、重油、軽油を燃料とする自動車、船舶、及び航空機などの輸送機から排出される二酸化炭素がある。
【0004】
現在、火力発電所などの大規模施設では、排ガスをアルカノールアミンなどのアミン水溶液と接触させて、排ガス中に含まれる二酸化炭素を吸収させている。また、その後、120℃程度に加熱して、吸収した二酸化炭素を回収する。これらの試みは大々的に開始され、大きな効果を上げている(特許文献1~2)。この方法は、液体による吸収材を用いるため、吸収材をポンプで移送できるという利点を有する。そのため、大型化がしやすい。アミン系二酸化炭素回収材は火力発電所、製鉄所などで実用化されつつある。
【0005】
しかしながら、この方法は、危険物の液体を用いるため、日本の1800箇所以上存在するゴミ焼却場などの中小施設では、危険物液体の運用がしづらい。その結果、二酸化炭素の固定化及び回収はほとんどされていないのが現状である。現在、日本全体の二酸化炭素の総排出量は微減傾向である。そこで、前記中小施設でも二酸化炭素を固定化及び回収することができるように扱いが容易で、アミンなどの危険物を伴わない安価な固体による二酸化炭素の固定化及び回収が期待されるところである。
【0006】
これまでに、固体による二酸化炭素の固定回収材としては前述のアルカノールアミンを担持した固体(特許文献3)、または、オルソチタン酸バリウム(特許文献4)、リチウムフェライト(特許文献5)が知られている。
【0007】
ナトリウムフェライト(特許文献6、非特許文献1、2)もまた二酸化炭素の固定回収材として知られている。中でも層状岩塩構造(三方晶系)のα-ナトリウムフェライトは二酸化炭素とナトリウムがトポケミカル的に反応する。即ち、二酸化炭素との反応中α-ナトリウムフェライトは、Na1-xFeO2と炭酸ナトリウムの混合相となる。そのため、該反応速度は高く、且つ該反応による二酸化炭素の吸放出繰り返し性能は優れているとの報告がある。一方、斜方晶系のβ-ナトリウムフェライトはナトリウムと二酸化炭素が反応するため、β-ナトリウムフェライトの結晶相はα-ナトリウムフェライトの結晶相に比べ、二酸化炭素の吸収量が多いことが報告されている。
【0008】
一般に、ナトリウムフェライトが二酸化炭素と反応する式としては、気体に水蒸気を含まない場合は、NaFeO2+1/2CO2→1/2Na2CO3+1/2Fe2O3、水蒸気を含む場合は、NaFeO2+CO2+1/2H2O→NaHCO3+1/2Fe2O3と記載することができる。そのため、ナトリウムフェライトに対して、理論上、最大18~30重量%の二酸化炭素を吸着、脱離できる能力を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5-301023号公報
【特許文献2】特開2009-6275号公報
【特許文献3】特開2012-139622号公報
【特許文献4】特開2006-298707号公報
【特許文献5】特開2005-270842号公報
【特許文献6】特開2016-3156号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】I.Yanase,S.Onozawa,K.Ogasawara,H.Kobayashi,J.CO2 Utilization,Vol.24,2018年,200-209頁
【非特許文献2】柳瀬郁夫,Journal of the Society of Inorganic Materials,Japan、Vol.25、2018年、437-442頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これまで述べてきたように、固体、特に非危険物の無機材料による二酸化炭素の固定回収材が期待されているところである。ただ、現行のアミン水溶液による二酸化炭素の固定回収が120℃程度で行われるのに対し、オルソチタン酸バリウム(特許文献4)やリチウムフェライト(特許文献5)等の無機材料による二酸化炭素の固定回収材は、200℃以上の温度領域で二酸化炭素の吸脱着が行われており、エネルギーコストとしてアミン水溶液を用いるものに劣るものであった。
【0012】
即ち、前記特許文献1、2に記載のものは、アミン水溶液を二酸化炭素の固定回収材として用いており、火力発電所などの大型施設では有利ではあるが、中小の二酸化炭素を排出する施設には適していないものであった。
【0013】
前記特許文献3に記載のものもまた、アルカノールアミンを含有する二酸化炭素の固定回収材であり、危険物のアルカノールアミンを用いる。そのため、アミン成分の溶出などが懸念されるため、中小の施設には適していないものであった。
【0014】
前記特許文献4に記載のものは、二酸化炭素の固定回収材として、Ba2TiO4系複合酸化物を用いている。しかしながら、二酸化炭素の放出工程における加熱温度が800~1000℃であるため、熱コストとして不利なものであった。
【0015】
前記特許文献5に記載のものは、二酸化炭素の固定回収材として、リチウム及び鉄を含有する複合酸化物を用いている。しかしながら、二酸化炭素の固定回収温度が500℃で、放出温度が700℃のため、熱コストとして不利なものであった。
【0016】
前記特許文献6、及び非特許文献1、2に記載のものは、室温における二酸化炭素の固定回収が報告されており、また、多孔質体に関する報告もされている。しかしながら、材料そのものの成形性や加工性に関する記述は存在しなかった。
【0017】
そこで、本発明は、二酸化炭素を室温から100℃までの温度範囲で固定化し、150℃以下の加熱で二酸化炭素を回収でき、且つ成形性や加工性に富んだナトリウムフェライト粒子粉末を提供すること、及び該粒子粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、所定の物性及び組成比を有するナトリウムフェライト粒子粉末を用いることにより、二酸化炭素を室温から100℃までの温度範囲で固定化し、150℃以下で固定化した二酸化炭素を回収できることを見出して本発明を完成した。
【0019】
具体的に、本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、Na2[Zn(OH)4]及びNa2SnO2からなる2価金属酸ナトリウムより選ばれた少なくとも1種類以上の2価金属酸ナトリウムを1重量%~20重量%含有し、Na/Feのモル比が1.0~1.5であることを特徴とする。
【0020】
前記2価金属酸ナトリウムが存在することで、純粋なナトリウムフェライトよりも、低い温度で固定化した二酸化炭素を回収することが可能となっている。詳細は明らかではないが、これは、それらの2価金属酸ナトリウム成分の存在により、二酸化炭素を取り込んだNa1-xFeO2と炭酸ナトリウムの混合相から、より低いエネルギー付与で二酸化炭素を揮発させる、または、より低いエネルギー付与でナトリウムフェライトに戻る触媒作用を起こしているものと考えられる。また、本発明に係る粒子粉末では、Na/Feのモル比が1.0~1.5であるため、ナトリウムフェライト結晶相を多く含むことができて、二酸化炭素の固定回収性能が良好となり、Naの割合が過剰に多くないため、粒子粉末を塗料化した際の塗料のゲル化の原因となる副生成物のNaOHやNa2CO3等のアルカリ成分も残存しにくくなるため、高分散性の塗料となり得る。これらの特性が相まって、本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末によると、二酸化炭素を室温から100℃までの温度範囲で固定化し、150℃以下で固定化した二酸化炭素を回収できる。
【0021】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、一次粒子の平均短軸径に対する平均長軸径の軸比が1~2であることが好ましい。
【0022】
前記粒子粉末は、一次粒子の平均短軸径に対する平均長軸径の軸比が1~2と小さく球形に近い形状であるため、分散性が高く、一次粒子が凝集しにくくなり、成形性や加工性に優れた粒子粉末とすることができる。
【0023】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、粉体pH値が8~14であることが好ましい。
【0024】
粉体pH値が8~14であれば、本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末は塩基性であるため、弱酸性である二酸化炭素を捉えやすくなる。さらに、上述の通り、塗料のゲル化の原因となる副生成物のNaOHやNa2CO3等のアルカリ成分が残存しにくくなるため、高い分散性を有する塗料として利用することもできる。
【0025】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末の製造方法は、亜鉛及び錫より選ばれた少なくとも1種類以上の金属化合物粒子粉末、酸化鉄粒子粉末及びナトリウム原料の粒子粉末を混合して、150℃~400℃の温度で水蒸気固相反応するステップを含むことを特徴とする。
【0026】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末の製造方法では、固体と固体を混合し、溶媒を介さず元素を移動させて反応させており、反応母液としての溶媒を用いないため、液相反応に用いた場合の溶媒などの廃棄物を抑えることができる。特に、低温での固相反応の場合、極めて高濃度反応となり得るため、エネルギーコストを低く抑えることができる。さらに水蒸気による加熱により、酸化鉄とナトリウム源との接触界面に微量の水分が介在することにより、接触界面の酸塩基反応が促進される。また、水蒸気により、酸素分圧が低くなるため、副反応である酸化鉄の酸化反応が抑制され、純度が上がりやすい。さらに、水蒸気加熱により発火の危険性が著しく低下する。従って、本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末の製造方法によると、二酸化炭素を室温から100℃までの温度範囲で固定化し、150℃以下の加熱で二酸化炭素を回収でき、且つ成形性や加工性に富んだナトリウムフェライト粒子粉末を高純度且つ高効率で製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、非危険物の無機材料にて、二酸化炭素を室温から100℃までの温度範囲で固定化し、150℃以下で固定化した二酸化炭素を回収できる。また、前記粒子粉末は塗料化後、分散性に優れるため、成形性及び加工性に優れた材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例1で得られたナトリウムフェライト粒子粉末で二酸化炭素を固定した後、熱重量分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0030】
先ず、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素の固定回収材について述べる。
【0031】
本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、Na2[Zn(OH)4]及びNa2SnO2からなる2価金属酸ナトリウムより選ばれた少なくとも1種類以上の2価金属酸ナトリウムを1重量%~20重量%含有する。前記重量%の範囲の場合、二酸化炭素の固定回収性能を高めることができる。より好ましくは、前記重量%の範囲は1重量%~15重量%である。
【0032】
本発明の一実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、Na/Feのモル比が1.0~1.5である。Na/Feのモル比が1.0未満であれば、生成するナトリウムフェライト粒子の含有量が少ない粉末となり、二酸化炭素の固定回収性能に劣るものとなる。また、Na/Feのモル比が1.5を超えると、副生成物のNaOHやNa2CO3等のアルカリ成分が多く残存する。該アルカリ成分は塗料のゲル化の原因でも有り、高分散性の塗料ができるとは言い難く、成形性及び加工性に優れた粒子粉末とは言い難くなる。好ましくは、Na/Feのモル比が1.1~1.5であり、より好ましくは1.1~1.4である。
【0033】
本発明の一実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、α-ナトリウムフェライトの結晶相が80重量%以上含まれることが好ましい。α-ナトリウムフェライト結晶を有する化合物は、鉄、酸素、ナトリウムが層状に配置される層状化合物であり、該層に平行な酸素六方格子が・・・ABCABC・・・のパターンで並んでいる。前記酸素六方格子間のナトリウムイオンがα-ナトリウムフェライト粒子表面に移動して二酸化炭素と反応する。そのため、この反応は、α-ナトリウムフェライト粒子形状を維持したままのトポケミカル的な反応と言われている。α-ナトリウムフェライトの結晶相をより多く含んでいると、二酸化炭素の固定回収の繰り返し性能に優れるため、好ましい。より好ましくは、α-ナトリウムフェライトの結晶相の含有量が83重量%以上である。
【0034】
本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、β-ナトリウムフェライトの結晶相が2重量%以下であることが好ましい。β-ナトリウムフェライトの結晶相は酸素六方格子が・・・ABABAB・・・のパターンで並んでいる。また、β-ナトリウムフェライトの1モル当りの体積はα-ナトリウムフェライトに比べ1.3倍と高く、原子間の結合強度も弱いことが予想され、結晶構造が崩壊しやすいことも予期される。そのため、β-ナトリウムフェライトの結晶相が2重量%を超えると二酸化炭素繰り返し性能の点で好ましくない。
【0035】
本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、未反応生成相であるマグネタイト相、または、マグへマイト相が2重量%以下であることが好ましい。未反応生成相が増えると二酸化炭素回収性能が落ちるため好ましくない。
【0036】
本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、粉体pHが8~14であることが好ましい。粉体pHが8以上の塩基性であることにより、弱酸性である二酸化炭素を捉えやすい。一方、粉体pHが14を越えると塗料のゲル化が生じ、高分散性とは成り難い。より好ましくは粉体pHが11.8~13.5である。
【0037】
本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、BET比表面積が1m2/g~8m2/gであることが好ましい。BET比表面積が1m2/g未満であると、気体中に含まれる二酸化炭素と接触しにくくなり、二酸化炭素の吸収性能が低くなる。また、BET比表面積が8m2/gを超えると工業的な生産が困難となる。より好ましくは、BET比表面積が1.5m2/g~7.8m2/gである。さらにより好ましくは、2.0m2/g~7.5m2/gである。
【0038】
本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、平均一次粒子径が50nm~1000nmであることが好ましい。50nm未満であれば工業的な生産が困難となる。また、1000nmを超えると二酸化炭素の吸収性能が低くなる。より好ましくは、100nm~700nmである。
【0039】
本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、一次粒子の軸比(平均長軸径/平均短軸径)が1.0~2.0であることが好ましい。該軸比が2を超える場合には、一次粒子同士が凝集しやすく、塗料化後、分散性が高い状態を維持することが困難となる。結果、成形性や加工性に優れた粒子粉末とは言い難いものとなる。また、軸比が1より小さいことはありえない。より好ましい軸比は1.05~1.9の範囲であり、さらに好ましくは1.1~1.8の範囲である。
【0040】
本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、二酸化炭素の固定回収材として適応した場合、二酸化炭素を含む気体中から二酸化炭素を選択的に吸着でき、固定できる。前記吸着温度は、室温~排ガス出口温度の10℃~100℃程度である。さらに好ましくは、10℃~50℃程度である。外部からの追加加熱が必要ないことにより、吸着にかかるエネルギーコストが低く抑えられる(以上、二酸化炭素固定工程)。
【0041】
本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、前述の二酸化炭素の固定工程で取り込んだ二酸化炭素を、二酸化炭素を含まないガス雰囲気下で、50℃超過150℃以下の温度で脱離し、二酸化炭素を回収することが好ましい。脱離温度が150℃以下と低いことにより、脱離にかかるエネルギーコストが低く抑えられる(以上、二酸化炭素回収工程)。
【0042】
本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、二酸化炭素の固定回収材として二酸化炭素と接触させる場合、吸着塔の空塔速度を制御することができる。即ち、ナトリウムフェライト粒子粉末を造粒、または、担体担持させ、直径が100μm~10mm程度の球状成形体にしてもよい。より好ましくは、直径が200μm~7mmの球状成形体である。これは、前記成形体の直径が大きくなっても、二酸化炭素との接触を阻害しないように、ナトリウムフェライト粒子粉末を含む成形体は1m2/g~1000m2/gの比表面積を有することが好ましい。また、成形体の形状は、特に限定はないが、球状以外にも、紡錘状、直方体状、サイコロ状などが好ましい。また、ナトリウムフェライト粒子粉末を塗料化し、メッシュ、不織布、ハニカムなどに塗布し、二酸化炭素を固定回収できるようにしたもの、または、ナトリウムフェライト粒子粉末をカラムに充填し、二酸化炭素を固定回収できるようにフィルター化することもできる。
【0043】
次に、本発明の一実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末の製造方法について述べる。
【0044】
本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、亜鉛及び錫からなる2価金属群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属化合物粒子粉末、酸化鉄粒子粉末及びナトリウム原料粒子粉末を混合して、150℃~400℃の温度で水蒸気加熱による固相反応をすることで得ることができる。なお、このような方法で各原料を混合して固相反応させることにより、上記2価金属は、Na2[Zn(OH)4]、Na2SnO2などの2価金属酸ナトリウムとなる。
【0045】
前述の金属化合物粒子粉末、酸化鉄粒子粉末及びナトリウム原料粒子粉末を固相反応させた場合、金属化合物粒子粉末に含まれる2価金属成分がナトリウムフェライトの一次粒子の成長を抑える傾向にあった。そのため、BET比表面積の大きい粒子粉末となり、二酸化炭素の固定回収材として好ましい。また、固相反応の特徴として、ナトリウムフェライトの結晶成長が等方向になりやすいため、一次粒子の軸比が抑えられる傾向であった。
【0046】
Na2[Zn(OH)4]、Na2SnO2などの2価金属酸ナトリウムは、1重量%~20重量%であることが好ましい。前述したように、二酸化炭素の固定回収性能を高める場合もあるからである。上記2価金属酸ナトリウムの含有量は、より好ましくは、2重量%~15重量%である。
【0047】
酸化鉄粒子粉末としては、ヘマタイト、マグネタイト、マグヘマイト、ゲーサイトなどを用いることができる。α-ナトリウムフェライトの結晶相を多く含ませるために、酸素六方格子がα-ナトリウムフェライトの結晶相と同じ・・・ABCABC・・・のパターンであるスピネル構造のマグネタイト及びマグヘマイトが好ましい。(参考文献 岡本祥一、「ナトリウムオルソフェライトの結晶生成と相転移」、長岡技術科学大学 研究報告第8号(1986)37-42頁)
【0048】
酸化鉄粒子粉末の形状としては、針状、紡錘状、粒状、球状、4面体、6面体、8面体などから選ぶことができる。
【0049】
酸化鉄粒子粉末の粒子径としては、10nm~1μmまでの任意のサイズのものを選ぶことができる。
【0050】
ナトリウム原料の粒子粉末としては、亜硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、酸化ナトリウムなどを用いることができる。ただし、工業的な利用を考えた場合、製造時に有毒な亜硝酸ガス、亜硫酸ガスなどを発生させる恐れのある亜硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどは避けるべきである。
【0051】
亜鉛及び錫からなる2価金属群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属化合物粒子粉末としては、各種金属の酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩などを原料として用いればよい。また、前記金属の複合体を用いても良い。
【0052】
一般に固相反応は、固体と固体を混合し、溶媒を介さず元素を移動させて反応させる合成方法である。反応母液としての溶媒を用いないため、液相反応に用いた場合の溶媒などの廃棄物が抑えられる。また、本発明の特徴でもある低温での固相反応の場合、極めて高濃度反応となり得るため、エネルギーコストも低く抑えられる。また、前記高反応濃度や洗浄の必要性がないため、生成物の高収率が期待できる。
【0053】
また、水蒸気を熱源とした固相反応では、酸化鉄とナトリウム源との接触界面に微量の水分が介在することにより、接触界面の酸塩基反応が促進され、未反応生成物であるマグネタイト相、または、マグへマイト相などが著しく少ない、純度の高いナトリウムフェライトとなり、好ましい。
【0054】
また、水蒸気を熱源とした400℃以下の固相反応では、酸化鉄とナトリウム源との接触界面の熱が均一に伝わるため、生成するナトリウムフェライトの結晶相が純度の高いα-ナトリウムフェライト相となり、好ましい。
【0055】
<作用>
本実施形態において、Na2[Zn(OH)4]及びNa2SnO2からなる2価金属酸ナトリウムより選ばれた少なくとも1種類以上の2価金属酸ナトリウムを1重量%~20重量%含有するナトリウムフェライト粒子粉末には、更に気体中の二酸化炭素を吸着し、固体内に閉じ込め、加熱により、二酸化炭素を放出する優れた性質を持っている。これらは、純粋なナトリウムフェライトよりも、低い温度で固定化した二酸化炭素を回収することが可能となっている。詳細は明らかではないが、これは、それらの2価金属酸ナトリウム成分の存在により、二酸化炭素を取り込んだNa1-xFeO2と炭酸ナトリウムの混合相から、より低いエネルギー付与で二酸化炭素を揮発させる、または、より低いエネルギー付与でナトリウムフェライトに戻る触媒作用を起こしているものと考えられる。また、本実施形態に係る粒子粉末では、Na/Feのモル比が1.0~1.5であるため、ナトリウムフェライト結晶相を多く含むことができて、二酸化炭素の固定回収性能が良好となり、Naの割合が過剰に多くないため、粒子粉末を塗料化した際の塗料のゲル化の原因となる副生成物のNaOHやNa2CO3等のアルカリ成分も残存しにくくなるため、高分散性の塗料となり得る。これらの特性が相まって、本実施形態に係るナトリウムフェライト粒子粉末によると、二酸化炭素を室温から100℃までの温度範囲で固定化し、150℃以下で固定化した二酸化炭素を回収できる。
【実施例0056】
本発明の代表的な実施の形態は、次の通りである。
【0057】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末、及びそれらの原料中の元素分析(但し、酸素は除く)は、リガク製走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusIIで行った。
【0058】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末の結晶相の重量%は、BRUKER製全自動多目的X線回折装置D8 ADVANCEによって同定し、定量した。
【0059】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末のBET比表面積は、QUANTA CHROME製マルチソーブ-16を用い、窒素を用いたBET法により測定した。
【0060】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末の一次粒子の平均長軸径及び平均短軸径は、日立ハイテク製走査型電子顕微鏡S-4800による顕微鏡写真に示される一次粒子350個の粒子径の長軸径と短軸径をそれぞれ測定し、その平均値で示した。
【0061】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末の軸比は前記平均長軸径の平均短軸径に対する比(平均長軸径/平均短軸径)として示した。
【0062】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末の平均一次粒子径は、平均長軸径と平均短軸径の平均値として示した。
【0063】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末の粉体pH値は、試料5gを300mlの三角フラスコに秤取り、煮沸した純水100mlを加え、加熱して煮沸状態を約5分間保持した後、栓をして常温まで放冷し、減量に相当する水を加えて再び栓をして1分間振り混ぜ、5分間静置した後、得られた上澄み液のpHをJIS Z8802-7に従って測定し、得られた値を粉体pH値とした。
【0064】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末の二酸化炭素の固定回収能力は、試料100mgを燃焼ボートに乗せて、入口出口配管を付けたアクリルパイプに入れ、入口から、湿度20~100%の範囲内、二酸化炭素濃度1~100vol%の範囲内に調整した(二酸化炭素+窒素)混合気体を500mL/minで導入して、2時間後の二酸化炭素の吸着量を日立ハイテク製示差熱熱重量同時測定装置STA7000にて、室温から200℃まで昇温し、その熱減量から、二酸化炭素の固定回収量を求めた。
【0065】
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末の分散性評価として、ナトリウムフェライト粉末を10重量部秤量し、アルキルアミン1重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート89重量部、1.5mmガラスビーズ100重量部を加えた。その後、前記混合物をペイントコンディショナーで2時間振とうし、スラリーからガラスビーズをろ別して取り除いた。得られたスラリーを大塚電子製濃厚系粒径アナライザーFPAR1000により、分散粒子径を測定した。散乱強度分布の累積50%値(D50)が平均一次粒子径の2倍以下の場合、分散性良好の試料と判断し「〇」とし、2倍を超える場合、「×」とした。
【0066】
<ナトリウムフェライト粒子粉末の製造方法>
実施例1
酸化鉄微粒子1(戸田工業製100ED、ヘマタイト、比表面積11m2/g)を10重量部とし、それに対しナトリウム原料の水酸化ナトリウム粒子粉末をNa/Fe=1.2(モル比)となるように秤量し、酸化亜鉛を1.0重量部(酸化鉄に対して10重量%)秤量し、添加した。各原料混合後、サンプルミルにて混合粉砕した。この混合粉砕物をるつぼに入れ、250℃にて16時間水蒸気固相反応させた。その後、室温まで冷却し、サンプルミルにて粉砕することにより、ナトリウムフェライト粒子粉末を得た。得られた粒子粉末のBET比表面積は4.0m2/gであった。走査型電子顕微鏡による一次粒子の定量化により、平均長軸径は0.5μm、平均短軸径は0.3μm、平均一次粒子径は0.4μmであり、軸比は1.7であった。粉体pHは13.4と比較的高かった。
【0067】
得られたナトリウムフェライト粒子粉末に含まれる元素分析を蛍光X線で行ったところ、Na/Feのモル比は1.2であり、また、得られた粉末は、粉末X線回折パターンの定量化により、90重量%のα-ナトリウムフェライト、2重量%のβ-ナトリウムフェライト、1重量%のマグへマイト、7重量%のNa2[Zn(OH)4]、であることが分かった。また、添加した亜鉛の一部は、粉末X線回折に現れておらず、アモルファスか、特定の結晶状態を持たないかたちで、ナトリウムフェライト相に取り込まれているものと考えられる。
【0068】
得られたナトリウムフェライト粒子粉末の二酸化炭素の固定回収性能を調べるために、試料1.00重量部をNo.2燃焼ボート(12×60×9mm)に乗せ、モデル燃焼排ガス500mL/minに3時間通気した。一般に、大気中で燃料を燃やしたときの排ガスは最大、窒素80vol%、二酸化炭素20vol%、湿度80~100%で構成される。そのため、室温25℃にて、窒素400mL/minと二酸化炭素100mL/minを混合し、これを水中にバブリングして、二酸化炭素20vol%、相対湿度RH80%のモデル燃焼排ガスとした。
【0069】
通気後の試料を10mg秤量し、熱重量測定装置により、乾燥空気300mL/minで通気しながら、200℃まで10℃/minで昇温して、試料に吸着された二酸化炭素の脱離温度と脱離量を測定した。横軸を試料温度とした測定チャートを
図1に示す。TG曲線は初期を100重量%としたときの各温度における残存試料の重量%であり、試料の減少量を二酸化炭素の放出によるものとみなした。DTG曲線はTG曲線の微分曲線であり、DTG曲線の極大値を取る温度を二酸化炭素の脱離温度とみなした。DTA曲線は下に凸となる曲線を示し、吸熱反応が99℃付近で行われていることが分かった。これをNaHCO
3の熱分解反応とみなして定量化したところ、二酸化炭素の脱離温度は93℃で、二酸化炭素の脱離量は試料固形分に対し8重量%であり、優れた二酸化炭素の固定回収性能があることが明らかとなった。
【0070】
さらに、通気後の試料を再調製し、重量を測定したところ、1.20重量部であり、20重量%の質量の増量が確認された。この試料のX線回折を測定したところ、ナトリウム欠損型のNa1-xFeO2、Na2[Zn(OH)4]と、NaHCO3が確認され、該ナトリウムフェライト粒子粉末に二酸化炭素が固定化されていることが分かった。さらに、この試料を電気炉にて、100℃で1時間加熱し、重量を測定したところ、1.12重量部であり、このサイクルで0.08重量部(固形分に対して8重量%)の二酸化炭素を吸脱着できることが分かった。さらに、この試料に前述と同様に、二酸化炭素を接触させると、1.20重量部に増量し、加熱すると1.12重量部に減量して0.08重量部の二酸化炭素を吸脱着できた。この操作を10回繰り返し、質量の増量と減量に変化がないことを確認した。このことより、該ナトリウムフェライト粒子粉末は、優れた二酸化炭素の固定回収性能、特に、繰り返し性に優れていることが明らかとなった。
【0071】
得られたナトリウムフェライト粒子粉末の分散性を評価したところ、分散粒子径が平均一次粒子径の2倍以内であり、良好であった。
【0072】
実施例2~6
酸化鉄微粒子、ナトリウム源及び金属化合物の種類と量を種々変化させた以外は前記実施例1と同様にして、本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末を得た。
【0073】
これらの実施例における製造条件を表1に、得られたナトリウムフェライト粒子粉末の諸特性を表2に、その二酸化炭素の固定回収性能及び分散性を表3に示す。二酸化炭素の回収性能の評価は、二酸化炭素濃度4000ppmのデシケータ(13L)中に二酸化炭素吸収材を10g入れ、30分後の二酸化炭素濃度が2500ppm以下であるものを○、2500ppmを超えるものを×とした。分散性良好の試料は○、そうでない場合は×を表3に記した。
【0074】
比較例1
酸化鉄1を10重量部とし、それに対して水酸化ナトリウム粒子粉末をFe:Na=1:1(モル比)となるように秤量し、純水100重量部を加えて水酸化ナトリウム粒子粉末を溶解させ、自動乳鉢により、2時間混練した。これを、80℃で2時間乾燥し、サンプルミルにて混合粉砕した。この混合粉砕物をるつぼに入れ、400℃にて16時間熱処理した。生成物は、粉末X線回折により、25重量%がα-ナトリウムフェライト結晶相で、残り75重量%がγ-Fe2O3結晶相であることが分かった。BET比表面積は1.0m2/gであった。軸比は3.8であった。また、実施例と同様にして二酸化炭素の固定回収性能を調べたところ、200℃まで昇温したが二酸化炭素の脱離は確認できなかった。
【0075】
この比較例の製造条件を表1に、得られたナトリウムフェライト粒子粉末の諸特性を表2に、その二酸化炭素の固定回収性能及び分散性を表3に示す。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
以上のように、本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、二酸化炭素の吸着、脱離に優れた二酸化炭素の固体回収材であることが明らかである。また、前記粒子粉末は分散性に優れるため、成形性や加工性に富んだ粒子粉末であることも明らかである。
本発明に係るナトリウムフェライト粒子粉末は、地球温暖化対策の一環として、温室効果ガス、特に、二酸化炭素の固定回収を行う材料であり、アミン水溶液などの危険物を用いることなく、非危険物の無機材料で二酸化炭素の吸脱着による固定回収を行える材料として好適である。