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特開2022-184179自己流動性を有するモルタル状組成物、及びその硬化体、並びにそれを用いた施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184179
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】自己流動性を有するモルタル状組成物、及びその硬化体、並びにそれを用いた施工方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/42 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C09K17/42 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091871
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中山 佑太
(72)【発明者】
【氏名】高安 政春
【テーマコード(参考)】
4H026
【Fターム(参考)】
4H026CA02
4H026CA06
4H026CB08
(57)【要約】
【課題】流動性を維持し高充填可能な樹脂モルタル状組成物の提供。
【解決手段】充填材(A)と、反応硬化性バインダ樹脂(B)とを、(A):(B)=2:1~10:1の質量比で混合してなる、自己流動性を有するモルタル状組成物であって、硬化後の組成物の表面の動的摩擦係数が0.3以上であることを特徴とするモルタル状組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填材(A)と、反応硬化性バインダ樹脂(B)とを、(A):(B)=2:1~10:1の質量比で混合してなる、自己流動性を有するモルタル状組成物であって、硬化後の組成物の表面の動的摩擦係数が0.3以上であることを特徴とするモルタル状組成物。
【請求項2】
前記反応硬化性バインダ樹脂(B)の粘度が、B型粘度計において15℃、20rpmで測定した際に1,000mPa・s以下、200mPa・s以上であることを特徴とする、請求項1に記載のモルタル状組成物。
【請求項3】
前記反応硬化性バインダ樹脂(B)が(メタ)アクリル系樹脂を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のモルタル状組成物。
【請求項4】
前記充填材(A)が、平均粒径が0.1mm以上の骨材(A-1)と、平均粒径が0.01mm以下の骨材(A-2)とを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のモルタル状組成物。
【請求項5】
前記骨材(A-1)及び/又は前記骨材(A-2)が、珪砂、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、フライアッシュ、酸化鉄、及び酸化チタンからなる群から選択される一種以上を含むことを特徴とする、請求項4に記載のモルタル状組成物。
【請求項6】
前記骨材(A-1)と前記骨材(A-2)の合計を100質量部としたときの質量比が、90~95:5~10である請求項4又は5に記載のモルタル状組成物。
【請求項7】
硬化性である請求項1~6のいずれか一項に記載のモルタル状組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のモルタル状組成物の硬化体。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のモルタル状組成物を、大気下の構造体に対して塗布する工程を含む、施工方法。
【請求項10】
請求項9に記載の施工方法により施工された構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己流動性を有するモルタル状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂モルタル(反応硬化性樹脂を含むモルタル)には、低コスト化や硬化収縮の抑制の目的で充填材を添加することが行われている。しかし、充填剤の添加量を増加させると、樹脂モルタルの流動性が低下し、流し込みや仕上げ工程における作業性が低下する欠点があった。この欠点を解決するものとして、バインダ樹脂に用いるモノマー類の組成改良、充填材の粒径調整、界面活性剤の添加などの手法が用いられている(特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-083845号公報
【特許文献2】特開平4-164949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~2に記載のような従来の改良方法では、使用できる充填材の種類が限られることや、充填材の添加量の限界がバインダ樹脂の量に対して小さいなどの問題があり、より効果の高い流動性の改善手段の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、検討を重ねた結果、硬化前に自己流動性を有するように、かつ硬化後には硬化体表面の動的摩擦係数が0.3以上となるようにして所定の質量比を以って充填材と反応硬化性バインダ樹脂を混合することで、新規なモルタル状組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明の実施形態では下記を提供できる。
【0007】
[1]
充填材(A)と、反応硬化性バインダ樹脂(B)とを、(A):(B)=2:1~10:1の質量比で混合してなる、自己流動性を有するモルタル状組成物であって、硬化後の組成物の表面の動的摩擦係数が0.3以上であることを特徴とするモルタル状組成物。
【0008】
[2]
前記反応硬化性バインダ樹脂(B)の粘度が、B型粘度計において15℃、20rpmで測定した際に1,000mPa・s以下、200mPa・s以上であることを特徴とする、[1]に記載のモルタル状組成物。
【0009】
[3]
前記反応硬化性バインダ樹脂(B)が(メタ)アクリル系樹脂を含むことを特徴とする、[1]又は[2]に記載のモルタル状組成物。
【0010】
[4]
前記充填材(A)が、平均粒径が0.1mm以上の骨材(A-1)と、平均粒径が0.01mm以下の骨材(A-2)とを含む、[1]~[3]のいずれかに記載のモルタル状組成物。
【0011】
[5]
前記骨材(A-1)及び/又は前記骨材(A-2)が、珪砂、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、フライアッシュ、酸化鉄、及び酸化チタンからなる群から選択される一種以上を含むことを特徴とする、[4]に記載のモルタル状組成物。
【0012】
[6]
前記骨材(A-1)と前記骨材(A-2)の合計を100質量部としたときの質量比が、90~95:5~10である[4]又は[5]に記載のモルタル状組成物。
【0013】
[7]
硬化性である[1]~[6]のいずれかに記載のモルタル状組成物。
【0014】
[8]
[7]に記載のモルタル状組成物の硬化体。
【0015】
[9]
[1]~[7]のいずれかに記載のモルタル状組成物を、大気下の構造体に対して塗布する工程を含む、施工方法。
【0016】
[10]
[9]に記載の施工方法により施工された構造体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態によれば、反応硬化性バインダ樹脂に対する充填材の質量比で10倍まで充填した際にも、硬化前のモルタル状樹脂組成物が自己流動性を維持でき、しかも硬化後の表面の動的摩擦係数も向上できるという、従来は相反する筈と思われていた物性を両立できるという驚くべき効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書に記載される数値範囲は、別段の断わりが無い限りは、上限値と下限値を含むものとする。
【0019】
本明細書において「自己流動性」self-fluidityとは、未硬化の材料を面上に適用した際に、自ら平坦に拡がる(セルフレベリングする)性質のことを指す。この性質は粘度だけで定まるものではなく、充填材(A)と反応硬化性バインダ樹脂(B)を所定の質量比で混合することによって得られるものである。
【0020】
充填材(A)と反応硬化性バインダ樹脂(B)の混合比は、質量比で2:1~10:1の範囲であり、より好ましくは4:1~8:1の範囲であってよい。充填材(A)の量が少なすぎる(質量比が2:1未満)と粘性が低く充填材が沈降する恐れがある。また充填材(A)が多すぎる(質量比が10:1より大きい)と流動性が低下し、施工性が悪くなる恐れがある。
【0021】
自己流動によるレベリング性を向上する観点からは、充填材(A)が、平均粒径が0.1mm以上の骨材(A-1)と、平均粒径が0.01mm以下の骨材(A-2)とを含むのが好ましい。当該骨材の例としては、珪砂、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、フライアッシュ、酸化鉄、酸化チタン等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いる事ができる。これらの中では、粒度分布の制御のし易さから、珪砂や炭酸カルシウムのうちの一種以上が好ましい。ただし、粒径が細かすぎる粉末(特許文献1に記載の珪砂粉末など)は必ずしも適切ではなく、例えば平均粒径の下限は0.001mm以上であるのが好ましい。また粗すぎる粒子も適切でない場合がありえるため、例えば平均粒径の上限は1.0mmであるのが好ましい。なお本明細書における平均粒径は、既知の手法により測定できるものであり、例えばJIS Z8825:2013に基づいたレーザー回折散乱法により測定できる。
【0022】
平均粒径が0.1mm以上の骨材(A-1)は、平均粒径が10mm以下であることが好ましく、平均粒径が5mm以下であることがより好ましく、平均粒径が1mm以下であることが最も好ましい。平均粒径が0.01mm以下の骨材(A-2)は、平均粒径が0.0001mm以上であることが好ましく、平均粒径が0.0005mm以上であることがより好ましく、平均粒径が0.001mm以上であることが最も好ましい。
【0023】
平均粒径が0.1mm以上の骨材(A-1)は、平均粒径が0.1mm以上0.4mm未満の骨材(A-1-1)と、平均粒径が0.4mm以上の骨材(A-1-2)を含有することが好ましい。平均粒径が0.1mm以上0.4mm未満の骨材(A-1-1)は、平均粒径が0.3mm以下であることが好ましい。
【0024】
骨材(A-1-1)と骨材(A-1-2)の質量比は、(A-1-1)と(A-1-2)の合計を100質量部としたとき、5~50:50~95の範囲であることが好ましく、10~30:70~90の範囲であることがより好ましい。
【0025】
充填材(A)中の骨材(A-1)と骨材(A-2)の質量比は、(A-1)と(A-2)の合計を100質量部としたとき、90~95:5~10の範囲であることが好ましい。また充填材(A)はさらに、反応硬化性バインダ樹脂(B)を硬化させる目的を以って、硬化触媒を含んでいてもよい。
【0026】
反応硬化性バインダ樹脂(B)としては、樹脂モルタルとして使用できる任意の樹脂を使用でき、硬化性の観点からは特に好ましくは(メタ)アクリル系樹脂(すなわち、(メタ)アクリロイル基を有するポリマー)を含んでよい。また反応硬化性バインダ樹脂(B)は、硬化反応を開始させるための硬化剤も含んでよい。
【0027】
反応硬化性バインダ樹脂(B)は、B型粘度計(回転粘度計)において15℃、20rpmで測定した際の粘度が1,000mPa・s以下、200mPa・s以上であることが好ましい。当該粘度が1,000mPa・s以下であるとモルタルの施工性が良くなり、200mPa・s以上であると液垂れが抑えられる効果が得られる。
【0028】
反応硬化性バインダ樹脂(B)としての(メタ)アクリル系樹脂としては好ましくは、(B-1)ビスフェノール骨格を有するジ(メタ)アクリレート、(B-2)ジシクロペンテニルオキシアルキレン(メタ)アクリレート、及び(B-3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのうちの一種以上の成分を含有することが好ましく、(B-1)ビスフェノール骨格を有するジ(メタ)アクリレート、(B-2)ジシクロペンテニルオキシアルキレン(メタ)アクリレート、及び(B-3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含有することがより好ましい。(B-1)ビスフェノール骨格を有するジ(メタ)アクリレート、(B-2)ジシクロペンテニルオキシアルキレン(メタ)アクリレート、及び(B-3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの合計の量は、反応硬化性バインダ樹脂(B)100質量部中、50質量部以上が好ましく、85質量部以上がより好ましく、95質量部以上が最も好ましい。
【0029】
(B-1)ビスフェノール骨格を有するジ(メタ)アクリレートとしては、下記一般式(ア)で示されるジ(メタ)アクリレートが好ましい。(B-2)ジシクロペンテニルオキシアルキレン(メタ)アクリレートとしては、下記一般式(イ)で示されるジシクロペンテニルオキシアルキレン(メタ)アクリレートが好ましい。(B-3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、下記一般式(ウ)で示される(メタ)アクリレートが好ましい。
【0030】
式(ア)
【化1】
(式中、R1及びR1’はそれぞれ独立に水素又はメチル基を表し、R2及びR2’はそれぞれ独立に1~12個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1~20の範囲の整数を表す)
【0031】
式(イ)
【化2】
(式中、R3は水素又はメチル基を表し、R4は1~12個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、pは1~20の範囲の整数を表す)
【0032】
式(ウ)
CH2=CR5-O-(R6O)q-H
(式中、R5は水素又はメチル基を表し、R6は1~12個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、qは1~20の範囲の整数を表す)
【0033】
成分(B-1)の一般式(ア)においては、貯蔵安定性の点で、一般式(ア)中のR2及びR2’が水酸基を有しないアルキレン基であることが好ましい。水酸基を有しないアルキレン基としてはエチレン基が好ましい。
【0034】
2及びR2’が水酸基を有しないアルキレン基である成分(B-1)の例としては、ポリエチレングリコール変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いる事ができる。さらに、これらの中では、樹脂強度が大きい点でR1及びR1’がプロトン(水素原子)であることが好ましい。m+nの和は硬化物の樹脂特性及び耐燃焼性の点から30以下が好ましく、20以下がより好ましい。m及びnは硬化物の樹脂特性及び耐燃焼性の点から1以上が好ましく、2以上がより好ましい。また、安定して所望の硬化物の物性が発現されることから、m=nであることが好ましい。
【0035】
成分(B-2)の一般式(イ)においては、貯蔵安定性の点で、一般式(イ)中のR4は水酸基を有しないアルキレン基であるのが好ましい。水酸基を有しないアルキレン基としては、エチレン基が好ましい。
【0036】
4が水酸基を有しないアルキレン基である成分(B-2)の例としては、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート及びジシクロペンテニルオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、表面硬化性が良く、容易に入手できる点で、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。一般式(イ)中のR3は、人体に対する安全性の点でメチル基が好ましい。pは、樹脂強度が大きい点で、1~3が好ましく、1がより好ましい。
【0037】
(B-3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、及びグリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。成分(B-3)はヒドロキシル基を有している点から、湿潤面への接着性や水酸化カルシウムといったアルカリ性化合物による硬化阻害を受けにくいという効果を発揮する。
【0038】
成分(B-3)の一般式(ウ)においては、貯蔵安定性の点で、一般式(ウ)中のR6は水酸基を有しないアルキレン基であることが好ましい。水酸基を有しないアルキレン基としては、エチレン基が好ましい。一般式(ウ)中のR5は、人体に対する安全性の点でメチル基が好ましい。qは、樹脂強度が大きい点で、1~3が好ましく、1がより好ましい。
【0039】
成分(B-3)の中では、臭気が少ないことから2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、安全性の面から2-ヒドロキシエチルメタクリレートがより好ましい。
【0040】
(B-1)ビスフェノール骨格を有するジ(メタ)アクリレート、(B-2)ジシクロペンテニルオキシアルキレン(メタ)アクリレート、及び(B-3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの質量比は、(B-1)と(B-2)と(B-3)の合計を100質量部としたとき、10~80:10~80:3~50の範囲であることが好ましく、30~60:30~60:5~40の範囲であることがより好ましく、30~50:30~50:10~30の範囲であることが最も好ましい。
【0041】
(B)成分に添加できる硬化剤は、硬化触媒と反応し、ラジカルを発生させ、モノマーの重合を開始させるものである。硬化剤としては、過酸化物が好ましい。当該過酸化物としては、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物に分類されるものが挙げられる。具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3,3-イソプロピルヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルヒドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、イソブチルパーオキサイド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスカルボンアミド、ベンゾイル-m-メチルベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。これらの中でも、ベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイル-m-メチルベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエートからなる群から選択される少なくとも1種の有機過酸化物が好ましい。また、既知の無機過酸化物を使用してもよい。
【0042】
硬化剤の使用量は、反応硬化性バインダ樹脂(B)100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、1~5質量部が最も好ましい。
【0043】
硬化触媒は硬化剤、好ましくは過酸化物と反応し、ラジカルを発生させ、モノマーの重合を促進させるものであり、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、アセチルチオ尿素、メルカプトベンゾイミダゾール、ベンゾイルチオ尿素、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジイソプロパノール-p-トルイジン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルアニリン、エチレンジアミン及びトリエタノールアミン、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸コバルト、オクチル酸鉄、ネオデカン酸銅、銅アセチルアセトネート、チタンアセチルアセトネート、マンガンアセチルアセトネート、クロムアセチルアセトネート、鉄アセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート、コバルトアセチルアセトネート等が挙げられる。これらの中では、表面硬化性が良好である点から金属石鹸が好ましい。金属石鹸としては、オクチル酸コバルト、オクチル酸鉄、ネオデカン酸銅等が挙げられる。金属石鹸の中では、オクチル酸コバルトが好ましい。オクチル酸コバルトの中では、2-エチルヘキサン酸コバルトが好ましい。
【0044】
硬化触媒の使用量は、充填材(A)100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.3~10質量部がより好ましく、0.5~3質量部が最も好ましい。
【0045】
本発明の実施形態に係る反応硬化性バインダ樹脂(B)には、長期の保存安定性を改良する目的で、重合禁止剤を添加しても良い。
【0046】
本発明の実施形態に係る反応硬化性バインダ樹脂(B)には、接着性改良のために、シランカップリング剤等を配合することができる。
【0047】
本発明の実施形態に係る反応硬化性バインダ樹脂(B)には、さらにパラフィンを配合することにより、表面硬化性を向上させることができる。パラフィンとしては、パラフィンワックスが好ましい。この効果は、(メタ)アクリレートのラジカル重合硬化の際の酸素による重合阻害、所謂、嫌気性を緩和する作用に起因すると考えられる。
【0048】
本発明の実施形態に係る施工方法においては、モルタル状組成物の調製にあたり、上記成分を撹拌混合してよい。また、室温で固体の成分、例えばパラフィンワックス等を用いる際には、これらの液を所定の温度に加温し溶解させる事も可能である。このようにして調製した硬化性であるモルタル状組成物は、大気下で構造体(セメントコンクリート躯体やアスファルト舗装など)の表面に塗布、散布等して適用でき、構造体の表面に存在するヒビや割れ等の欠陥を補修するように施工できる。塗布、散布する量は、0.05~5.0kg/m2が好ましく、0.1~3.0kg/m2がより好ましい。なお本明細書においてセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、コンクリートのいずれも含む概念である。
【実施例0049】
以下の実施例1~8及び比較例1~8に基づき、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、各物質の使用量の単位は特記しない限り質量部で示す。特記しない限り、常温で実施した。
【0050】
(硬化性のモルタル状組成物の製造)
表1、表2に示す種類の原材料を表1、表2に示す組成で撹拌混合してモルタル状組成物を調製し、得られた組成物について自己流動性等の特性を後述する手法で測定した。これらの結果も表1、表2に記載した。なお、成分(A-1)としては石英(東北硅砂社製/東北硅砂4号、東北硅砂7号)、成分(A-2)としては炭酸カルシウム(日東粉化工業社製/NS#400N)、成分(B-1)としてはビスフェノールA型エチレンオキシド変性ジメタクリレート(一般式(ア)において、R1及びR1’はメチル基、R2及びR2’はエチレン基、m及びnは2である。)(Miwon社製/Miramer M2101)、成分(B-2)としてはジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(日立化成工業社製/DH500)、成分(B-3)としては2-ヒドロキシエチルメタクリレート(三菱ケミカル社製/アクリエステルHO)を用いた。また有機過酸化物としてはクメンハイドロパーオキサイド(化薬ヌーリオン社製/トリゴノックスK-80)、有機過酸化物と反応する硬化触媒としては2-エチルヘキサン酸コバルト(東京ファインケミカル社製/CO-12E)を用いた。
【0051】
さらに、比較例5、6として、上述の特許文献1に記載された実施例6、10をそれぞれ再現した。すなわち表3に示す組成で以下の材料を特許文献1の記載と同様に撹拌混合してモルタル状組成物を調製し、同様に特性を測定した。充填材(骨材)として、珪砂粉末(東北硅砂社製/東北硅砂4号)、炭酸カルシウム(日東粉化工業社製/SS30)を使用した。またバインダ樹脂として、特許文献1の合成例2、3の「ウレタンアクリレートを含む樹脂(2)」及び「ウレタンアクリレートを含む樹脂(3)」にそれぞれ倣って下記表3のウレタンアクリレート混合物(2)及び(3)を調製した。その原料としては、トリレンジイソシアネート(東京化成工業社製/T0263)、ジブチル錫ジラウリレート(東京化成工業社製/D0303)、2,6-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシトルエン(東京化成工業社製/D0228)、メチルメタクリレート(三菱ケミカル社製/アクリエステルM)、ポリテトラメチレングリコール(三菱ケミカル社製/PTMG1000)、2-ヒドロキシアクリレート(日本触媒社製/BHEA)を使用した。さらに、その他の樹脂原料としてメチルメタクリレート(出所は同上)、ブチルアクリレート(東京化成工業社製/A0142)、2-エチルヘキシルメタクリレート(三菱ガス化学社製/EHMA)、2-エチルヘキシルアクリレート(東亜合成社製/2EHA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(東京化成工業社製/T0948)も表3の組成を以ってそれぞれ使用した。また硬化触媒としてジヒドロキシエチル-p-トルイジン(モーリン化学工業社製/PT-2HE)を、有機過酸化物として50%ベンゾイルパーオキサイド(日油社製/ナイパーFF)を使用した。
【0052】
なお、下記表1~3における「充填材/バインダ比[質量比]」は、得られる組成物全体中での質量比を示したものである。骨材とバインダそれぞれの個別組成は、添加剤、硬化触媒、有機過酸化物を除いて合計100質量部となるように計算した値であること、かつこれは特許文献1の表の記載手法とは一見異なるが、意味しているところは同様であることに留意されたい。
【0053】
またさらに比較例7、8として、上述の特許文献2に記載された実施例19、21をそれぞれ再現した。すなわち表3に示す組成で以下の材料を特許文献2の記載と同様に撹拌混合してモルタル状組成物を調製し、同様に特性を測定した。充填材として石英(東北硅砂社製/東北硅砂6号)、シランカップリング剤で処理されたガラスビーズ(平均粒径0.045mm)(ポッターズ・バロティーニ社製/GB301S)を使用した。またバインダ樹脂として、メチルメタクリレート(出所は同上)、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート(東京化成工業社製/T3488)、ジシクロヘキシルフタレート(東京化成工業社製/P0293)、ポリメチルメタクリレート(旭化成社製/デルパウダ560F)を使用した。また添加剤としてパラフィンワックス(日本精蝋社製/Paraffin Wax-115)を、硬化触媒としてN,N-ジメチル-p-トルイジン(東京化成工業社製/D0807)を、有機過酸化物として50%ベンゾイルパーオキサイド(出所は同上)を使用した。
【0054】
(自己流動性の測定方法)
15℃環境下で3時間以上養生した充填材と反応硬化性バインダ樹脂を所定の比率(標準を6:1とする)で混合し、直ちに測定を開始した。測定開始より2分が経過した時点の粘度を測定した。測定は15℃環境下でJIS K 6833-1:2008に準じ、B型粘度計を使用して行った。ローターはNo5ローターを用いた。ローターの回転数は20rpmとした。評価基準として下記を適用した。
20,000mPa・s未満 :自己流動性良好(適当)
20,000mPa・s以上50,000mPa・s未満 :自己流動性有り(適当)
50,000mPa・s以上 :自己流動性無し
【0055】
(動的摩擦係数の測定方法)
充填材と反応硬化性バインダ樹脂を所定の質量比率(標準を6:1とする)で混合し、薄膜状に塗布した塗装面に対し日邦産業社製D.F.テスターを用いて測定した。測定は硬化性組成物を厚み10mmとなる様にコンクリート板上に流し張りを行い試験体とした。試験体を静置し、硬化後に表面に水を打ち湿潤面として測定した。試験速度は80km/hとした。評価基準として、0.4以上であれば良好、0.3以上0.4未満であれば可、0.3未満であれば不可と判定した。下記は参考のために提示する一般的な路面での動的摩擦係数の範囲である。
コンクリート舗装 :0.4~0.9(適当)
アスファルト舗装 :0.3~0.9(適当)
積雪路面 :0.2~0.5
氷路面 :0.1~0.2
【0056】
(充填材沈降時間の測定方法)
15℃環境下で3時間以上養生した充填材と反応硬化性バインダ樹脂を所定の質量比率(標準を6:1とする)で混合し、厚さ10mmとなるように塗布した。硬化性樹脂の硬化完了(120分)までの間、表層の充填材が沈降し視認不可となるまでの時間を10分間隔で測定した。評価基準として、硬化完了までの間に充填材が沈降しなければ良好、そうでなければ不可と判断した。
【0057】
表1~3に示した結果から、実施例1~8のいずれも、動的摩擦係数、自己流動性、充填材沈降時間のすべてにおいて良好な結果を呈したことがわかる。なお比較をしやすくするため、表2に実施例2を再掲していることに留意されたい。
【0058】
一方、比較例1では骨材の粒度のバランスが悪く、動的摩擦係数と充填材沈降時間に劣った。また骨材(A-2)を使用しなかった比較例2では、自己流動性が得られなかった。
【0059】
充填材とバインダの配合比が本発明の範囲外であった比較例3では動的摩擦係数と充填材沈降時間に劣り、同様に範囲外であった比較例4では自己流動性が得られなかった。
【0060】
特許文献1の実施例の再現である比較例5~6ではいずれも自己流動性が得られなかった。これは、微細な珪砂粉末を使うと望ましい粘度にならないためと推察される。
【0061】
特許文献2の実施例の再現である比較例7~8ではいずれも自己流動性が得られなかった他、動的摩擦係数にも充填材沈降時間にも劣った。これは、ガラスビーズが特性に悪影響をもたらすためと推察される。
【0062】
【表1】
【表2】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0063】
高い流動性を有し、なおかつ充填材の高充填が可能である樹脂モルタルを用いることにより、特に大気下での構造体の補修において以下の優れた効果が認められ、本発明の産業的利用性は大きい。
(1)温度変化による体積変動が少ない無機充填材を高充填することで、補修面のひび
割れ、浮きなどの異常発生を防ぎ、長期の耐久性を向上させる事が可能である。
(2)反応性バインダよりも一般的に安価である充填材の比率を高くすることで、補修工事におけるコストダウンが可能である。