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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184187
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/348 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
B60K17/348 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091889
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】右手 潤二
(72)【発明者】
【氏名】河野 隆修
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智師
【テーマコード(参考)】
3D043
【Fターム(参考)】
3D043AA02
3D043AB01
3D043AB17
3D043EA02
3D043EA18
3D043EE02
3D043EE06
3D043EE07
3D043EE08
3D043EE12
3D043EF19
(57)【要約】
【課題】電動クラッチの消費エネルギーを低減しつつ車両を制御可能な車両制御装置を提供する。
【解決手段】基本クラッチ締結力算出部81は、車両1の運転条件に基づき電動クラッチ60に要求される基本の締結力である基本クラッチ締結力を算出する。目標クラッチ締結力算出部84は、基本クラッチ締結力算出部81により算出された基本クラッチ締結力が所定の範囲である締結力範囲の内にあるときは基本クラッチ締結力をゼロではない一定値に補正し電動クラッチ60が発生すべき目標の締結力である目標クラッチ締結力として算出し、基本クラッチ締結力算出部81により算出された基本クラッチ締結力が締結力範囲の外にあるときは基本クラッチ締結力をそのまま目標クラッチ締結力として算出する。クラッチ制御部85は、目標クラッチ締結力算出部84により算出された目標クラッチ締結力に基づき、電動クラッチ60を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(10)または後輪(20)に対し動力を発生させる動力発生装置(30)、および、発生する締結力に応じて前記前輪と前記後輪との間のトルクの伝達を許容または遮断可能な電動クラッチ(60)を備える車両(1)に設けられ、前記電動クラッチを制御し前記車両を制御可能な車両制御装置であって、
前記車両の運転条件に基づき前記電動クラッチに要求される基本の締結力である基本クラッチ締結力を算出する基本クラッチ締結力算出部(81)と、
前記基本クラッチ締結力算出部により算出された前記基本クラッチ締結力が所定の範囲である締結力範囲の内にあるときは前記基本クラッチ締結力をゼロではない一定値に補正し前記電動クラッチが発生すべき目標の締結力である目標クラッチ締結力として算出し、前記基本クラッチ締結力算出部により算出された前記基本クラッチ締結力が前記締結力範囲の外にあるときは前記基本クラッチ締結力をそのまま前記目標クラッチ締結力として算出する目標クラッチ締結力算出部(84)と、
前記目標クラッチ締結力算出部により算出された前記目標クラッチ締結力に基づき、前記電動クラッチを制御するクラッチ制御部(85)と、
を備える車両制御装置。
【請求項2】
前記締結力範囲は、複数設定されており、
前記目標クラッチ締結力算出部は、前記基本クラッチ締結力算出部により算出された前記基本クラッチ締結力が複数の前記締結力範囲のいずれかの内にあるとき、前記基本クラッチ締結力をそれぞれゼロではない一定値に補正し、前記目標クラッチ締結力として算出する請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記目標クラッチ締結力算出部は、前記基本クラッチ締結力算出部により算出された前記基本クラッチ締結力が前記締結力範囲の内から外へ変化したとき、算出する前記目標クラッチ締結力の変化率を所定の変化率に制限する請求項1または2に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前輪と後輪との間に設けられたクラッチの締結力を制御することで、前輪または後輪に伝達される駆動力を制御し、車両を制御する車両制御装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1の車両制御装置では、油圧式のクラッチの締結力を制御し、前輪または後輪へ分配する駆動力を制御している。この車両制御装置では、前後輪の回転速度が所定値未満である極低速度状態のとき、前後輪の回転速度差を演算する回転速度差演算手段の演算結果にエラーが生じるおそれがある。このエラーが発生すると、不要なクラッチ締結力の要求により油圧が上昇し、エネルギー損失およびクラッチの耐久性の低下を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1-195126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、特許文献1の車両制御装置では、前後輪の回転速度が所定値未満である極低速度状態のとき、前後輪の回転速度差を演算する回転速度差演算手段に供給する回転速度を強制的にゼロに補正し、目標クラッチ締結力をゼロにしている。これにより、極低速度状態における前後輪の回転速度差の演算エラーを抑制し、不要なクラッチ締結力の要求による油圧上昇の抑制を図っている。
【0006】
ところで、特許文献1の油圧式クラッチを電動クラッチに単に置き換えた場合、極低速度状態のときに回転速度を強制的にゼロに補正し目標クラッチ締結力をゼロにすると、不要なクラッチ締結力の要求は抑えられるものの、目標クラッチ締結力がゼロとゼロより大きな値とに頻繁に変化したとき、クラッチの作動に関しエネルギーロスが生じるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、電動クラッチの消費エネルギーを低減しつつ車両を制御可能な車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前輪(10)または後輪(20)に対し動力を発生させる動力発生装置(30)、および、発生する締結力に応じて前輪と後輪との間のトルクの伝達を許容または遮断可能な電動クラッチ(60)を備える車両(1)に設けられ、電動クラッチを制御し車両を制御可能な車両制御装置であって、基本クラッチ締結力算出部(81)と目標クラッチ締結力算出部(84)とクラッチ制御部(85)とを備える。基本クラッチ締結力算出部は、車両の運転条件に基づき電動クラッチに要求される基本の締結力である基本クラッチ締結力を算出する。
【0009】
目標クラッチ締結力算出部は、基本クラッチ締結力算出部により算出された基本クラッチ締結力が所定の範囲である締結力範囲の内にあるときは基本クラッチ締結力をゼロではない一定値に補正し電動クラッチが発生すべき目標の締結力である目標クラッチ締結力として算出し、基本クラッチ締結力算出部により算出された基本クラッチ締結力が締結力範囲の外にあるときは基本クラッチ締結力をそのまま目標クラッチ締結力として算出する。
【0010】
クラッチ制御部は、目標クラッチ締結力算出部により算出された目標クラッチ締結力に基づき、電動クラッチを制御する。これにより、電動クラッチの不要な作動を抑制し消費電力の増大を抑制できる。
【0011】
また、電力を消費することなく、あるいは低消費電力で締結力を略一定に保つことのできる電動クラッチを採用した場合、目標クラッチ締結力がゼロではない一定値に保たれているときの消費電力を抑制できる。
【0012】
以上より、本発明では、電動クラッチの消費エネルギーを低減しつつ車両を制御可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の車両制御装置およびそれを適用した車両を示す模式図。
図2】第1実施形態の車両制御装置による電動クラッチの制御に関する処理を示すフローチャート。
図3】第1実施形態の車両制御装置の作動例を示す図。
図4】第2実施形態の車両制御装置の作動例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、複数の実施形態による車両制御装置を図面に基づき説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態の車両制御装置を適用した車両を図1に示す。車両1は、前輪10、後輪20、動力発生装置30、電動クラッチ60、車両制御装置80等を備えている。車両1は、例えば車輪の動力源として内燃機関およびモータを備えるハイブリッド車である。
【0016】
前輪10は、車両1の右前方に設けられる右前輪11、車両1の左前方に設けられる左前輪12を有している。右前輪11には、右前ドライブシャフト41が接続されている。左前輪12には、左前ドライブシャフト42が接続されている。
【0017】
後輪20は、車両1の右後方に設けられる右後輪21、車両1の左後方に設けられる左後輪22を有している。右後輪21には、右後ドライブシャフト51が接続されている。左後輪22には、左後ドライブシャフト52が接続されている。
【0018】
動力発生装置30は、エンジン31、モータジェネレータ32、レゾルバ33等を有している。エンジン31は、例えばガソリンを燃料とする内燃機関であり、動力としての回転トルクを発生可能である。モータジェネレータ32は、電力の供給により作動し、動力としての回転トルクを発生可能である。また、モータジェネレータ32は、外部から回転トルクが入力されることにより、発電可能である。レゾルバ33は、モータジェネレータ32のロータ(図示せず)の回転数に応じた信号を出力可能である。
【0019】
車両1は、トランスミッション35、パワートランスファ38、リヤデフ70を備えている。トランスミッション35は、ギヤ36を有している。トランスミッション35は、動力発生装置30から出力された動力すなわち回転トルクをギヤ36で変速し、左前ドライブシャフト42に出力する。パワートランスファ38は、左前ドライブシャフト42と右前ドライブシャフト41との間に設けられている。パワートランスファ38には、プロペラシャフト40が接続されている。パワートランスファ38は、トランスミッション35から左前ドライブシャフト42に入力された動力を右前ドライブシャフト41およびプロペラシャフト40に伝達する。
【0020】
動力発生装置30が発生する動力は、トランスミッション35、パワートランスファ38を経由して前輪10に伝達される。このように、動力発生装置30は、前輪10に対し動力すなわちトルクを発生させる。
【0021】
リヤデフ70は、右後ドライブシャフト51と左後ドライブシャフト52との間に設けられている。リヤデフ70は、右後輪21と左後輪22との回転数差を吸収する。
【0022】
電動クラッチ60は、クラッチアクチュエータ61、クラッチ65等を有している。クラッチアクチュエータ61は、例えば電動モータ、減速機、ボールカム(図示せず)を有している。電力の供給により電動モータが回転すると、減速機により減速されたトルクがボールカムの回転部に入力される。ボールカムの回転部にトルクが入力されると、回転部が回転し、並進部が軸方向に移動する。
【0023】
クラッチ65は、前クラッチ板66、後クラッチ板67を有している。前クラッチ板66は、プロペラシャフト40のパワートランスファ38とは反対側の端部に固定されている。後クラッチ板67は、リヤデフ70の入力部に固定されている。
【0024】
電動クラッチ60のクラッチアクチュエータ61に電力が供給され、並進部が軸方向に移動すると、前クラッチ板66が後クラッチ板67に押し付けられる。これにより、前クラッチ板66と後クラッチ板67とが摩擦係合し、プロペラシャフト40からリヤデフ70に動力が伝達され、後輪20が駆動する。
【0025】
電動クラッチ60が発生する前クラッチ板66と後クラッチ板67との間の摩擦係合力を適宜「締結力」または「クラッチ締結力」とよぶ。電動クラッチ60は、発生する締結力に応じて前輪10と後輪20との間のトルクの伝達を許容または遮断可能である。前クラッチ板66と後クラッチ板67とが離間しているとき、前輪10と後輪20との間のトルクの伝達は遮断されている。一方、前クラッチ板66と後クラッチ板67とが接触しているとき、電動クラッチ60の締結力の大きさに対応した動力がプロペラシャフト40から後輪20に伝達される。
【0026】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ61の減速機は、逆効率が0に近い。そのため、クラッチアクチュエータ61は、消費電力すなわち消費エネルギーが0または少量でクラッチ締結力を一定値に保持できる。
【0027】
また、クラッチアクチュエータ61は、動力源に電動モータを採用しているため、応答性が比較的高い。
【0028】
車両制御装置80は、電子制御ユニットすなわちECUであって、演算部としてのCPU、記憶部としてのROM、RAM等、入出力部としてのI/O等を有する小型のコンピュータである。車両制御装置80は、車両1の各部に設けられた各種センサからの信号等の情報に基づき、ROM等に格納されたプログラムに従い演算を実行し、車両1の各種装置および機器の作動を制御する。このように、車両制御装置80は、非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行する。このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。
【0029】
車両制御装置80は、動力発生装置30のレゾルバ33から出力された信号に基づき、モータジェネレータ32の回転数を算出および検出可能である。
【0030】
車両1の右前輪11、左前輪12、右後輪21、左後輪22それぞれの近傍には、車輪速センサ111、121、211、221が設けられている。車輪速センサ111、121、211、221は、右前輪11、左前輪12、右後輪21、左後輪22それぞれの回転数に応じた信号を出力する。車両制御装置80は、車輪速センサ111、121、211、221から出力された信号に基づき、右前輪11、左前輪12、右後輪21、左後輪22それぞれの回転数すなわち車輪速、車速等を算出および検出可能である。
【0031】
車両制御装置80は、各種センサからの信号等の情報に基づき、動力発生装置30のエンジン31およびモータジェネレータ32、トランスミッション35の作動を制御可能である。
【0032】
また、車両制御装置80は、各種センサからの信号等の情報に基づき、電動クラッチ60のクラッチアクチュエータ61に供給する電力を制御し、クラッチ締結力を制御可能である。これにより、動力発生装置30からプロペラシャフト40を経由して後輪20に伝達される動力を制御可能である。
【0033】
<1>本実施形態の車両制御装置80は、前輪10に対し動力を発生させる動力発生装置30、および、発生する締結力に応じて前輪10と後輪20との間のトルクの伝達を許容または遮断可能な電動クラッチ60を備える車両1に設けられ、電動クラッチ60を制御し車両1を制御可能な車両制御装置である。車両制御装置80は、概念的な機能部として、基本クラッチ締結力算出部81、目標クラッチ締結力算出部84、クラッチ制御部85を備えている。
【0034】
基本クラッチ締結力算出部81は、車両1の運転条件に基づき電動クラッチ60に要求される基本の締結力である基本クラッチ締結力を算出する。
【0035】
目標クラッチ締結力算出部84は、基本クラッチ締結力算出部81により算出された基本クラッチ締結力が所定の範囲である締結力範囲の内にあるときは基本クラッチ締結力をゼロではない一定値に補正し電動クラッチ60が発生すべき目標の締結力である目標クラッチ締結力として算出し、基本クラッチ締結力算出部81により算出された基本クラッチ締結力が締結力範囲の外にあるときは基本クラッチ締結力をそのまま目標クラッチ締結力として算出する。
【0036】
クラッチ制御部85は、目標クラッチ締結力算出部84により算出された目標クラッチ締結力に基づき、電動クラッチ60を制御する。
【0037】
<3>本実施形態では、目標クラッチ締結力算出部84は、基本クラッチ締結力算出部81により算出された基本クラッチ締結力が締結力範囲の内から外へ変化したとき、算出する目標クラッチ締結力の変化率を所定の変化率に制限する。
【0038】
次に、車両制御装置80による電動クラッチ60の制御に関する一連の処理を図2に示す。
【0039】
図2に示す一連の処理S100は、例えば車両1のイグニッションキーをオンにすると開始される。
【0040】
S101では、車両制御装置80は、車両1に設けられた各種センサからの信号等に基づき、車両1の操舵角、アクセル開度、車速、ヨーレートを検出する。
【0041】
S102では、車両制御装置80は、S101で検出した操舵角、アクセル開度、車速、ヨーレートに基づき、後輪20に伝達すべき目標の駆動力である目標駆動力を算出する。
【0042】
S103では、車両制御装置80の基本クラッチ締結力算出部81は、S102で算出した目標駆動力に基づき、電動クラッチ60に要求される基本の締結力である基本クラッチ締結力を算出する。
【0043】
S104では、車両制御装置80の目標クラッチ締結力算出部84は、S103で算出した基本クラッチ締結力が、所定の範囲である締結力範囲の内にあるか否かを判断する。ここで、締結力範囲の上限値および下限値は、それぞれ、ゼロではない所定値であって、車両制御装置80の記憶部に予め設定されている。基本クラッチ締結力が締結力範囲の内にあると判断した場合(S104:YES)、処理はS121に移行する。一方、基本クラッチ締結力は締結力範囲の内にない、すなわち、締結力範囲の外にあると判断した場合(S104:NO)、処理はS111に移行する。
【0044】
S111では、目標クラッチ締結力算出部84は、S103で算出した基本クラッチ締結力を維持する。
【0045】
S121では、目標クラッチ締結力算出部84は、基本クラッチ締結力の過去の推移に基づき、S103で算出した基本クラッチ締結力が、締結力範囲に上限値側から到達したか否かを判断する。基本クラッチ締結力が締結力範囲に上限値側から到達したと判断した場合(S121:YES)、処理はS141に移行する。一方、基本クラッチ締結力は締結力範囲に上限値側から到達していない、すなわち、締結力範囲に下限値側から到達したと判断した場合(S121:NO)、処理はS131に移行する。
【0046】
S131では、目標クラッチ締結力算出部84は、S103で算出した基本クラッチ締結力を、締結力範囲の下限値に変更する。
【0047】
S141では、目標クラッチ締結力算出部84は、S103で算出した基本クラッチ締結力を、締結力範囲の上限値に変更する。
【0048】
S151では、目標クラッチ締結力算出部84は、S111で維持した基本クラッチ締結力、または、S131、S141で変更した基本クラッチ締結力を、電動クラッチ60が発生すべき目標の締結力である目標クラッチ締結力として算出する。
【0049】
車両制御装置80のクラッチ制御部85は、S151で算出された目標クラッチ締結力に基づき、電動クラッチ60を制御する。これにより、電動クラッチ60から目標クラッチ締結力に対応したクラッチ締結力が発生し、発生したクラッチ締結力に応じた動力すなわち駆動力がプロペラシャフト40から後輪20に伝達される。
【0050】
S151の後、一連の処理S100を抜けると、再び一連の処理S100が開始される。このように、一連の処理S100は、イグニッションキーがオンの間、繰り返し実行される。
【0051】
次に、本実施形態の車両制御装置80の作動例を図3に基づき説明する。
【0052】
時刻t0以降、基本クラッチ締結力が上昇し、時刻t1で締結力範囲の下限値に到達すると、時刻t1以降、目標クラッチ締結力は、締結力範囲の下限値に固定され、一定値となる。
【0053】
時刻t2で基本クラッチ締結力が締結力範囲の上限値を越えて締結力範囲の内から外へ変化すると、目標クラッチ締結力は、所定の変化率で変化するよう締結力範囲の下限値から上昇し、時刻t3で基本クラッチ締結力と同じになる。
【0054】
時刻t3以降、基本クラッチ締結力が上昇し、下降に転じた後、時刻t4で締結力範囲の上限値に到達すると、時刻t4以降、目標クラッチ締結力は、締結力範囲の上限値に固定され、一定値となる。
【0055】
時刻t4以降、基本クラッチ締結力が下降し、上昇に転じた後、時刻t5で締結力範囲の上限値を越えると、目標クラッチ締結力は、基本クラッチ締結力と同じになる。
【0056】
時刻t5以降、基本クラッチ締結力が上昇し、下降に転じた後、時刻t6で締結力範囲の上限値に到達すると、時刻t6以降、目標クラッチ締結力は、締結力範囲の上限値に固定され、一定値となる。
【0057】
時刻t6以降、基本クラッチ締結力が下降し、上昇に転じた後、時刻t7で締結力範囲の上限値を越えると、目標クラッチ締結力は、基本クラッチ締結力と同じになる。
【0058】
時刻t7以降、基本クラッチ締結力が上昇し、下降に転じた後、時刻t8で締結力範囲の上限値に到達すると、時刻t8以降、目標クラッチ締結力は、締結力範囲の上限値に固定され、一定値となる。
【0059】
時刻t8以降、基本クラッチ締結力が下降し、上昇に転じた後、時刻t9で締結力範囲の上限値を越えると、目標クラッチ締結力は、基本クラッチ締結力と同じになる。
【0060】
上述のように、本実施形態の車両制御装置80の制御により、時刻t1~t2、時刻t4~t5、時刻t6~t7、時刻t8~t9の期間(T1)、目標クラッチ締結力は一定値となる。本実施形態では、電動クラッチ60のクラッチアクチュエータ61への電力の供給を停止しても、クラッチ締結力を一定に保持できる。そのため、期間T1の間、電動クラッチ60への電力の供給を停止できる。したがって、期間T1の電動クラッチ60の消費電力を抑えることができる。よって、基本クラッチ締結力をそのまま目標クラッチ締結力とする制御をした場合(図3の「消費エネルギー」の一点鎖線参照)と比べ、電動クラッチ60の消費エネルギーを低減しつつ車両1を制御可能である(図3の「消費エネルギー」の実線参照)。
【0061】
また、本実施形態の車両制御装置80の制御により、目標クラッチ締結力は、時刻t2の時点で締結力範囲の下限値から急激に基本クラッチ締結力まで変化することなく、時刻t2~t3にかけて所定の変化率で変化する。そのため、後輪20への動力伝達、すなわち、駆動力分配の急激な変化による車両1の挙動への影響を抑制できる。
【0062】
以上説明したように、<1>本実施形態では、目標クラッチ締結力算出部84は、基本クラッチ締結力算出部81により算出された基本クラッチ締結力が所定の範囲である締結力範囲の内にあるときは基本クラッチ締結力をゼロではない一定値に補正し電動クラッチ60が発生すべき目標の締結力である目標クラッチ締結力として算出し、基本クラッチ締結力算出部81により算出された基本クラッチ締結力が締結力範囲の外にあるときは基本クラッチ締結力をそのまま目標クラッチ締結力として算出する。
【0063】
クラッチ制御部85は、目標クラッチ締結力算出部84により算出された目標クラッチ締結力に基づき、電動クラッチ60を制御する。これにより、電動クラッチ60の不要な作動を抑制し消費電力の増大を抑制できる。
【0064】
また、本実施形態では、電力を消費することなく、あるいは低消費電力で締結力を略一定に保つことのできる電動クラッチ60を採用しているため、目標クラッチ締結力がゼロではない一定値に保たれているときの消費電力を抑制できる。
【0065】
以上より、本実施形態では、電動クラッチ60の消費エネルギーを低減しつつ車両1を制御可能である。
【0066】
なお、特開平1-195126号公報に開示されるような油圧式のクラッチでは、締結力をゼロではない一定値に保つのに油圧すなわちエネルギーを必要とする。そのため、本実施形態では、油圧式ではなく電動式のクラッチを制御対象として採用している。
【0067】
また、<3>本実施形態では、目標クラッチ締結力算出部84は、基本クラッチ締結力算出部81により算出された基本クラッチ締結力が締結力範囲の内から外へ変化したとき、算出する目標クラッチ締結力の変化率を所定の変化率に制限する。
【0068】
そのため、クラッチ制御部85による電動クラッチ60の制御中、目標クラッチ締結力が急激に変化するのを抑制できる。これにより、後輪20への動力伝達、すなわち、駆動力分配の急激な変化による車両1の挙動への影響を抑制できる。
【0069】
(第2実施形態)
第2実施形態による車両制御装置について、図4に基づき説明する。第2実施形態は、車両制御装置80による電動クラッチ60の制御の仕方が第1実施形態と異なる。
【0070】
<2>本実施形態では、締結力範囲は、例えば「締結力範囲1」、「締結力範囲2」というように、複数設定されている。
【0071】
目標クラッチ締結力算出部84は、基本クラッチ締結力算出部81により算出された基本クラッチ締結力が複数の締結力範囲(締結力範囲1、締結力範囲2)のいずれかの内にあるとき、基本クラッチ締結力をそれぞれゼロではない一定値に補正し、目標クラッチ締結力として算出する。
【0072】
次に、本実施形態の車両制御装置80の作動例を図4に基づき説明する。
【0073】
第1実施形態の説明における「締結力範囲」を「締結力範囲1」に置き換えると、時刻t4までは、第1実施形態と同様の作動のため、説明を省略する。
【0074】
時刻t4で基本クラッチ締結力が締結力範囲2の下限値に到達すると、時刻t4以降、目標クラッチ締結力は、締結力範囲2の下限値に固定され、一定値となる。
【0075】
時刻t5で基本クラッチ締結力が締結力範囲2の上限値を越えて締結力範囲2の内から外へ変化すると、目標クラッチ締結力は、所定の変化率で変化するよう締結力範囲2の下限値から上昇し、時刻t6で基本クラッチ締結力と同じになる。
【0076】
時刻t6以降、基本クラッチ締結力が上昇し、下降に転じた後、時刻t7で締結力範囲2の上限値に到達すると、時刻t7以降、目標クラッチ締結力は、締結力範囲2の上限値に固定され、一定値となる。
【0077】
時刻t8で基本クラッチ締結力が締結力範囲2の下限値を越えて締結力範囲2の内から外へ変化すると、目標クラッチ締結力は、所定の変化率で変化するよう締結力範囲2の下限値から下降し、時刻t9で基本クラッチ締結力と同じになる。
【0078】
時刻t9以降、基本クラッチ締結力が下降し、時刻t10で締結力範囲1の上限値に到達すると、時刻t10以降、目標クラッチ締結力は、締結力範囲1の上限値に固定され、一定値となる。
【0079】
時刻t10以降、基本クラッチ締結力が下降し、上昇に転じた後、時刻t11で締結力範囲1の上限値を越えると、目標クラッチ締結力は、基本クラッチ締結力と同じになる。
【0080】
時刻t11以降、基本クラッチ締結力が上昇し、下降に転じた後、時刻t12で締結力範囲1の上限値に到達すると、時刻t12以降、目標クラッチ締結力は、締結力範囲1の上限値に固定され、一定値となる。
【0081】
時刻t12以降、基本クラッチ締結力が下降し、上昇に転じた後、時刻t13で締結力範囲1の上限値を越えると、目標クラッチ締結力は、基本クラッチ締結力と同じになる。
【0082】
時刻t13以降、基本クラッチ締結力が上昇し、下降に転じた後、時刻t14で締結力範囲1の上限値に到達すると、時刻t14以降、目標クラッチ締結力は、締結力範囲1の上限値に固定され、一定値となる。
【0083】
時刻t14以降、基本クラッチ締結力が下降し、上昇に転じた後、時刻t15で締結力範囲1の上限値を越えると、目標クラッチ締結力は、基本クラッチ締結力と同じになる。
【0084】
上述のように、本実施形態の車両制御装置80の制御により、時刻t1~t2、時刻t10~t11、時刻t12~t13、時刻t14~t15の期間(T1)、および、時刻t4~t5、時刻t7~t8の期間(T2)、目標クラッチ締結力は一定値となる。そのため、期間T1の間に加え期間T2の間も、電動クラッチ60への電力の供給を停止できる。したがって、期間T1および期間T2の電動クラッチ60の消費電力を抑えることができる。よって、基本クラッチ締結力をそのまま目標クラッチ締結力とする制御をした場合(図4の「消費エネルギー」の一点鎖線参照)、および、第1実施形態の制御の場合(図4の「消費エネルギー」の二点鎖線参照)と比べ、電動クラッチ60の消費エネルギーをさらに低減しつつ車両1を制御可能である(図4の「消費エネルギー」の実線参照)。
【0085】
また、本実施形態の車両制御装置80の制御により、目標クラッチ締結力は、時刻t5の時点で締結力範囲2の下限値から急激に基本クラッチ締結力まで変化することなく、時刻t5~t6にかけて所定の変化率で変化する。さらに、目標クラッチ締結力は、時刻t8の時点で締結力範囲2の上限値から急激に基本クラッチ締結力まで変化することなく、時刻t8~t9にかけて所定の変化率で変化する。そのため、後輪20への動力伝達、すなわち、駆動力分配の急激な変化による車両1の挙動への影響を抑制できる。
【0086】
なお、時刻t5~t6にかけての目標クラッチ締結力の変化率、および、時刻t8~t9にかけての目標クラッチ締結力の変化率は、時刻t2~t3にかけての目標クラッチ締結力の変化率(傾き)と略同じである。
【0087】
以上説明したように、<2>本実施形態では、締結力範囲は、複数(締結力範囲1、締結力範囲2)設定されている。
【0088】
目標クラッチ締結力算出部84は、基本クラッチ締結力算出部81により算出された基本クラッチ締結力が複数の締結力範囲(締結力範囲1、締結力範囲2)のいずれかの内にあるとき、基本クラッチ締結力をそれぞれゼロではない一定値に補正し、目標クラッチ締結力として算出する。
【0089】
そのため、電動クラッチ60の消費エネルギーをさらに低減しつつ車両1を制御可能である。
【0090】
(他の実施形態)
上述の第2実施形態では、締結力範囲を2つ設定する例を示した。これに対し、他の実施形態では、締結力範囲は、3つ以上設定してもよい。
【0091】
また、上述の実施形態では、動力発生装置が前輪に対し動力を発生させる例を示した。これに対し、他の実施形態では、動力発生装置は後輪に対し動力を発生させることとしてもよい。
【0092】
また、他の実施形態では、動力発生装置は、エンジンのみ、または、モータジェネレータのみを有することとしてもよい。つまり、本発明は、ガソリン車、ディーゼル車または電気自動車等にも適用できる。
【0093】
このように、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【0094】
本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 車両、10 前輪、20 後輪、30 動力発生装置、60 電動クラッチ、80 車両制御装置、81 基本クラッチ締結力算出部、84 目標クラッチ締結力算出部、85 クラッチ制御部
図1
図2
図3
図4