(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184191
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20221206BHJP
B60W 10/00 20060101ALI20221206BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20221206BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20221206BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20221206BHJP
B60K 17/348 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B60W30/02 300
B60W10/00 148
B60W10/04
B60W10/02
B60W10/18
B60K17/348 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091895
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】右手 潤二
(72)【発明者】
【氏名】河野 隆修
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智師
【テーマコード(参考)】
3D043
3D241
【Fターム(参考)】
3D043AA04
3D043AB01
3D043AB17
3D043EA02
3D043EA18
3D043EE07
3D043EF19
3D043EF21
3D241AA01
3D241AA48
3D241AC01
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3D241AC26
3D241AD01
3D241AD17
3D241AD41
3D241AD47
3D241BA18
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC11
3D241CC13
3D241CD11
3D241DB27Z
3D241DB32Z
3D241DB47Z
3D241DC47Z
(57)【要約】
【課題】滑りやすい路面における車両の走行を安定にできる車両制御装置を提供する。
【解決手段】スリップ状態検出部81は、前輪10および後輪20のスリップの状態を検出可能である。スリップ駆動力推定部82は、スリップ状態検出部81により前輪10のスリップを検出したとき、前輪10の駆動力に基づき、後輪20がスリップする駆動力であるスリップ駆動力を推定する。目標駆動力算出部83は、スリップ駆動力推定部82により推定したスリップ駆動力未満の駆動力を、後輪20に伝達すべき目標の駆動力である目標駆動力として算出する。クラッチ制御部85は、目標クラッチ締結力算出部84により算出された目標クラッチ締結力に基づき、電動クラッチ60を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(10)または後輪(20)に対し動力を発生させる動力発生装置(30)、および、発生する締結力に応じて前記前輪と前記後輪との間のトルクの伝達を許容または遮断可能な電動クラッチ(60)を備える車両(1)に設けられ、前記電動クラッチを制御し前記車両を制御可能な車両制御装置であって、
前記前輪および前記後輪のスリップの状態を検出可能なスリップ状態検出部(81)と、
前記スリップ状態検出部により前記前輪または前記後輪の一方のスリップを検出したとき、前記前輪または前記後輪の一方の駆動力に基づき、前記前輪または前記後輪の他方がスリップを開始する駆動力であるスリップ駆動力を推定するスリップ駆動力推定部(82)と、
前記スリップ駆動力推定部により推定した前記スリップ駆動力未満の駆動力を、前記前輪または前記後輪の他方に伝達すべき目標の駆動力である目標駆動力として算出する目標駆動力算出部(83)と、
前記目標駆動力算出部により算出された前記目標駆動力に基づき、前記電動クラッチが発生すべき目標の締結力である目標クラッチ締結力を算出する目標クラッチ締結力算出部(84)と、
前記目標クラッチ締結力算出部により算出された前記目標クラッチ締結力に基づき、前記電動クラッチを制御するクラッチ制御部(85)と、
を備える車両制御装置。
【請求項2】
前記スリップ状態検出部により前記前輪または前記後輪の一方のスリップを検出した後、前記スリップ駆動力推定部により推定した前記スリップ駆動力、前記目標駆動力算出部により算出された前記目標駆動力、および、前記目標クラッチ締結力算出部により算出された前記目標クラッチ締結力に基づき、前記クラッチ制御部により前記電動クラッチを制御してもなお、前記前輪または前記後輪の他方のスリップは収束していないと判断した場合、前記動力発生装置から発生する動力を低減する動力低減部(91)をさらに備える請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記スリップ状態検出部により前記前輪または前記後輪の一方のスリップを検出した後、前記スリップ駆動力推定部により推定した前記スリップ駆動力、前記目標駆動力算出部により算出された前記目標駆動力、および、前記目標クラッチ締結力算出部により算出された前記目標クラッチ締結力に基づき、前記クラッチ制御部により前記電動クラッチを制御してもなお、前記前輪または前記後輪の他方のスリップは収束していないと判断した場合、前記前輪または前記後輪の他方のブレーキを作動させるブレーキ作動部(92)をさらに備える請求項1または2に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前輪と後輪との間に設けられたクラッチの締結力を制御することで、前輪または後輪に伝達される駆動力を制御し、車両を制御する車両制御装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、機械的に前輪と後輪とが接続される全輪駆動車両では、氷結あるいは雨などで滑りやすい路面等、低μ路において車輪がスリップしたとき、前輪と後輪との間で交互にトルク変動が生じて車両が振動し、走行が不安定になったり、NVが悪化したりするおそれがある。
【0005】
そこで、特許文献1の車両制御装置では、四輪駆動走行可能なモードにおいて、前輪または後輪の一方のスリップ状態を判定し、その一方にスリップが発生したとき、クラッチの締結力を低下させた防振モードに切り替え、前輪と後輪との間で交互に発生するトルク変動の抑制を図っている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の車両制御装置では、車輪がスリップしたとき、車輪のスリップの程度に関係なく、クラッチの締結力を所定量低下させるため、スリップの程度によっては、トルク変動および車両の振動を十分に抑制できないおそれがある。そのため、車両の走行が不安定になったりするおそれがある。
【0007】
本発明は、滑りやすい路面における車両の走行を安定にできる車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前輪(10)または後輪(20)に対し動力を発生させる動力発生装置(30)、および、発生する締結力に応じて前輪と後輪との間のトルクの伝達を許容または遮断可能な電動クラッチ(60)を備える車両(1)に設けられ、電動クラッチを制御し車両を制御可能な車両制御装置であって、スリップ状態検出部(81)とスリップ駆動力推定部(82)と目標駆動力算出部(83)と目標クラッチ締結力算出部(84)とクラッチ制御部(85)とを備える。
【0009】
スリップ状態検出部は、前輪および後輪のスリップの状態を検出可能である。スリップ駆動力推定部は、スリップ状態検出部により前輪または後輪の一方のスリップを検出したとき、前輪または後輪の一方の駆動力に基づき、前輪または後輪の他方がスリップを開始する駆動力であるスリップ駆動力を推定する。目標駆動力算出部は、スリップ駆動力推定部により推定したスリップ駆動力未満の駆動力を、前輪または後輪の他方に伝達すべき目標の駆動力である目標駆動力として算出する。
【0010】
目標クラッチ締結力算出部は、目標駆動力算出部により算出された目標駆動力に基づき、電動クラッチが発生すべき目標の締結力である目標クラッチ締結力を算出する。クラッチ制御部は、目標クラッチ締結力算出部により算出された目標クラッチ締結力に基づき、電動クラッチを制御する。
【0011】
これにより、例えば低μ路等において前輪または後輪の一方がスリップしても、他方のスリップを抑制できる。そのため、前輪と後輪との間で交互に発生し得るトルク変動を抑制できる。したがって、車輪がスリップしたときの車両の振動を効果的に抑制できる。よって、低μ路等、滑りやすい路面における車両の走行を安定にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の車両制御装置およびそれを適用した車両を示す模式図。
【
図2】第1実施形態の車両制御装置による電動クラッチの制御に関する処理を示すフローチャート。
【
図3】第1実施形態の車両制御装置の作動例を示す図。
【
図5】第2実施形態の車両制御装置およびそれを適用した車両を示す模式図。
【
図6】第2実施形態の車両制御装置による電動クラッチの制御に関する処理の前半部分を示すフローチャート。
【
図7】第2実施形態の車両制御装置による電動クラッチの制御に関する処理の後半部分を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、複数の実施形態による車両制御装置を図面に基づき説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態の車両制御装置を適用した車両を
図1に示す。車両1は、前輪10、後輪20、動力発生装置30、電動クラッチ60、車両制御装置80等を備えている。車両1は、例えば車輪の動力源として内燃機関およびモータを備えるハイブリッド車である。
【0015】
前輪10は、車両1の右前方に設けられる右前輪11、車両1の左前方に設けられる左前輪12を有している。右前輪11には、右前ドライブシャフト41が接続されている。左前輪12には、左前ドライブシャフト42が接続されている。
【0016】
後輪20は、車両1の右後方に設けられる右後輪21、車両1の左後方に設けられる左後輪22を有している。右後輪21には、右後ドライブシャフト51が接続されている。左後輪22には、左後ドライブシャフト52が接続されている。
【0017】
動力発生装置30は、エンジン31、モータジェネレータ32、レゾルバ33等を有している。エンジン31は、例えばガソリンを燃料とする内燃機関であり、動力としての回転トルクを発生可能である。モータジェネレータ32は、電力の供給により作動し、動力としての回転トルクを発生可能である。また、モータジェネレータ32は、外部から回転トルクが入力されることにより、発電可能である。レゾルバ33は、モータジェネレータ32のロータ(図示せず)の回転数に応じた信号を出力可能である。
【0018】
車両1は、トランスミッション35、パワートランスファ38、リヤデフ70を備えている。トランスミッション35は、ギヤ36を有している。トランスミッション35は、動力発生装置30から出力された動力すなわち回転トルクをギヤ36で変速し、左前ドライブシャフト42に出力する。パワートランスファ38は、左前ドライブシャフト42と右前ドライブシャフト41との間に設けられている。パワートランスファ38には、プロペラシャフト40が接続されている。パワートランスファ38は、トランスミッション35から左前ドライブシャフト42に入力された動力を右前ドライブシャフト41およびプロペラシャフト40に伝達する。
【0019】
動力発生装置30が発生する動力は、トランスミッション35、パワートランスファ38を経由して前輪10に伝達される。このように、動力発生装置30は、前輪10に対し動力すなわちトルクを発生させる。
【0020】
リヤデフ70は、右後ドライブシャフト51と左後ドライブシャフト52との間に設けられている。リヤデフ70は、右後輪21と左後輪22との回転数差を吸収する。
【0021】
電動クラッチ60は、クラッチアクチュエータ61、クラッチ65等を有している。クラッチアクチュエータ61は、例えば電動モータ、減速機、ボールカム(図示せず)を有している。電力の供給により電動モータが回転すると、減速機により減速されたトルクがボールカムの回転部に入力される。ボールカムの回転部にトルクが入力されると、回転部が回転し、並進部が軸方向に移動する。
【0022】
クラッチ65は、前クラッチ板66、後クラッチ板67を有している。前クラッチ板66は、プロペラシャフト40のパワートランスファ38とは反対側の端部に固定されている。後クラッチ板67は、リヤデフ70の入力部に固定されている。
【0023】
電動クラッチ60のクラッチアクチュエータ61に電力が供給され、並進部が軸方向に移動すると、前クラッチ板66が後クラッチ板67に押し付けられる。これにより、前クラッチ板66と後クラッチ板67とが摩擦係合し、プロペラシャフト40からリヤデフ70に動力が伝達され、後輪20が駆動する。
【0024】
電動クラッチ60が発生する前クラッチ板66と後クラッチ板67との間の摩擦係合力を適宜「締結力」または「クラッチ締結力」とよぶ。電動クラッチ60は、発生する締結力に応じて前輪10と後輪20との間のトルクの伝達を許容または遮断可能である。前クラッチ板66と後クラッチ板67とが離間しているとき、前輪10と後輪20との間のトルクの伝達は遮断されている。一方、前クラッチ板66と後クラッチ板67とが接触しているとき、電動クラッチ60の締結力の大きさに対応した動力がプロペラシャフト40から後輪20に伝達される。
【0025】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ61の減速機は、逆効率が0に近い。そのため、クラッチアクチュエータ61は、消費電力すなわち消費エネルギーが0または少量でクラッチ締結力を一定値に保持できる。
【0026】
また、クラッチアクチュエータ61は、動力源に電動モータを採用しているため、応答性が比較的高い。本実施形態では、クラッチアクチュエータ61は、例えば前輪10または後輪20の一方がスリップを開始してから、他方がスリップを開始するまでの期間内にクラッチ締結力を制御可能な程度の応答性を有している。
【0027】
車両制御装置80は、電子制御ユニットすなわちECUであって、演算部としてのCPU、記憶部としてのROM、RAM等、入出力部としてのI/O等を有する小型のコンピュータである。車両制御装置80は、車両1の各部に設けられた各種センサからの信号等の情報に基づき、ROM等に格納されたプログラムに従い演算を実行し、車両1の各種装置および機器の作動を制御する。このように、車両制御装置80は、非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行する。このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。
【0028】
車両制御装置80は、動力発生装置30のレゾルバ33から出力された信号に基づき、モータジェネレータ32の回転数を算出および検出可能である。
【0029】
車両1の右前輪11、左前輪12、右後輪21、左後輪22それぞれの近傍には、車輪速センサ111、121、211、221が設けられている。車輪速センサ111、121、211、221は、右前輪11、左前輪12、右後輪21、左後輪22それぞれの回転数に応じた信号を出力する。車両制御装置80は、車輪速センサ111、121、211、221から出力された信号に基づき、右前輪11、左前輪12、右後輪21、左後輪22それぞれの回転数すなわち車輪速、車速等を算出および検出可能である。
【0030】
車両制御装置80は、各種センサからの信号等の情報に基づき、動力発生装置30のエンジン31およびモータジェネレータ32、トランスミッション35の作動を制御可能である。
【0031】
また、車両制御装置80は、各種センサからの信号等の情報に基づき、電動クラッチ60のクラッチアクチュエータ61に供給する電力を制御し、クラッチ締結力を制御可能である。これにより、動力発生装置30からプロペラシャフト40を経由して後輪20に伝達される動力を制御可能である。
【0032】
<1>本実施形態の車両制御装置80は、前輪10に対し動力を発生させる動力発生装置30、および、発生する締結力に応じて前輪10と後輪20との間のトルクの伝達を許容または遮断可能な電動クラッチ60を備える車両1に設けられ、電動クラッチ60を制御し車両1を制御可能な車両制御装置である。車両制御装置80は、スリップ状態検出部81とスリップ駆動力推定部82と目標駆動力算出部83と目標クラッチ締結力算出部84とクラッチ制御部85とを備える。
【0033】
スリップ状態検出部81は、前輪10および後輪20のスリップの状態を検出可能である。スリップ駆動力推定部82は、スリップ状態検出部81により前輪10または後輪20の一方である前輪10のスリップを検出したとき、前輪10または後輪20の一方である前輪10の駆動力に基づき、前輪10または後輪20の他方である後輪20がスリップする駆動力であるスリップ駆動力を推定する。目標駆動力算出部83は、スリップ駆動力推定部82により推定したスリップ駆動力未満の駆動力を、前輪10または後輪20の他方である後輪20に伝達すべき目標の駆動力である目標駆動力として算出する。
【0034】
目標クラッチ締結力算出部84は、目標駆動力算出部83により算出された目標駆動力が前輪10または後輪20の他方である後輪20に伝達されるときの電動クラッチ60が発生すべき目標の締結力である目標クラッチ締結力を算出する。クラッチ制御部85は、目標クラッチ締結力算出部84により算出された目標クラッチ締結力に基づき、電動クラッチ60を制御する。
【0035】
次に、車両制御装置80による電動クラッチ60の制御に関する一連の処理を
図2に示す。
【0036】
図2に示す一連の処理S100は、例えば車両1のイグニッションキーをオンにすると開始される。
【0037】
S101では、車両制御装置80は、車両1に設けられた各種センサからの信号等に基づき、車両1の車輪速、車速を検出する。より具体的には、車両制御装置80は、車輪速センサ111からの信号に基づき右前輪11の車輪速を検出し、車輪速センサ121からの信号に基づき左前輪12の車輪速を検出し、車輪速センサ211からの信号に基づき右後輪21の車輪速を検出し、車輪速センサ221からの信号に基づき左後輪22の車輪速を検出するとともに、車速を検出する。
【0038】
S102では、車両制御装置80のスリップ状態検出部81は、S101で検出した車輪速、車速に基づき、前輪10のスリップ量を算出する。
【0039】
S103では、車両制御装置80は、前輪10の駆動力を検出する。
【0040】
S104では、車両制御装置80は、前輪10がスリップしたときの前輪10の駆動力を記録する。より具体的には、車両制御装置80は、スリップ状態検出部81により前輪10のスリップを検出したときの前輪10の駆動力を記録する。
【0041】
S105では、車両制御装置80は、車両1の加速度を算出する。より具体的には、車両制御装置80は、車輪速センサ111、121、211、221からの信号に基づき、車両1の加速度を算出する。
【0042】
S106では、車両制御装置80は、前輪10、後輪20の接地荷重分布を演算する。より具体的には、車両制御装置80は、S105で算出した車両1の加速度に基づき、前輪10、後輪20の接地荷重分布を演算すなわち推定する。
【0043】
S107では、車両制御装置80のスリップ駆動力推定部82は、後輪20がスリップを開始する駆動力であるスリップ駆動力を推定する。より具体的には、スリップ駆動力推定部82は、スリップが開始する駆動力(路面μ)を予め把握しておき、S106で演算した接地荷重分布に基づき後輪20の接地荷重を求め、路面μと接地荷重の関係を用いてスリップ駆動力を推定する。
【0044】
S108では、車両制御装置80は、後輪20に伝達可能な駆動力を算出する。より具体的には、車両制御装置80は、電動クラッチ60のクラッチ締結力に基づき、プロペラシャフト40から後輪20に伝達可能な駆動力を算出する。
【0045】
S109では、車両制御装置80は、S108で算出した後輪20に伝達可能な駆動力が、S107で推定したスリップ駆動力以上か否かを判断する。後輪20に伝達可能な駆動力がスリップ駆動力以上であると判断した場合(S109:YES)、処理はS121に移行する。一方、後輪20に伝達可能な駆動力はスリップ駆動力以上でない、すなわち、スリップ駆動力未満であると判断した場合(S109:NO)、処理はS111に移行する。
【0046】
S111では、車両制御装置80の目標駆動力算出部83は、その時点のクラッチ締結力を維持し、そのときの駆動力を、後輪20に伝達すべき目標の駆動力である目標駆動力として算出する。
【0047】
S121では、目標駆動力算出部83は、S107で推定したスリップ駆動力未満の駆動力を、目標駆動力として算出する。
【0048】
S131では、車両制御装置80の目標クラッチ締結力算出部84は、S111またはS121で算出された目標駆動力に基づき、電動クラッチ60が発生すべき目標の締結力である目標クラッチ締結力を算出する。
【0049】
車両制御装置80のクラッチ制御部85は、S131で算出された目標クラッチ締結力に基づき、電動クラッチ60を制御する。これにより、電動クラッチ60から目標クラッチ締結力に対応したクラッチ締結力が発生し、発生したクラッチ締結力に応じた動力すなわち駆動力がプロペラシャフト40から後輪20に伝達される。
【0050】
S131の後、一連の処理S100を抜けると、再び一連の処理S100が開始される。このように、一連の処理S100は、イグニッションキーがオンの間、繰り返し実行される。
【0051】
次に、本実施形態の車両制御装置80の作動例を
図3に基づき説明する。
【0052】
車両1が例えば氷結あるいは雨などで滑りやすい路面等、低μ路を走行中、時刻t1以降、前輪10および後輪20の駆動力が上昇する。時刻t2では、前輪10の駆動力が、前輪10の最大の駆動力Tq1すなわち前輪10がスリップを開始する駆動力を越え、前輪10がスリップを開始する。
【0053】
時刻t3では、車両制御装置80は、このときの駆動力Tq1を用いてクラッチ締結力を低減させ、後輪20に伝達可能な駆動力Tq2を低減させる。これにより、時刻t4以降、後輪20の駆動力が駆動力Tq1を越えることはなく、後輪20のスリップが抑制される。そのため、低μ路等で前輪10と後輪20との間で交互に発生し得るトルク変動を抑制できる。
【0054】
次に、比較形態の車両制御装置の作動例を
図4に基づき説明する。
【0055】
比較形態の車両制御装置は、上述の一連の処理S100を実行しない点以外は、本実施形態と同様である。
【0056】
時刻t2で前輪10がスリップを開始し、時刻t3で後輪20がスリップを開始している。時刻t3以降は、前輪10と後輪20との間で交互にトルク変動が発生している。そのため、前輪10と後輪20との合計の駆動力が振動し、車両1が振動する。
【0057】
一方、本実施形態の車両制御装置80の作動例では、時刻t4以降、前輪10と後輪20との間で交互のトルク変動は発生しておらず、車両1の振動を抑制できている(
図3参照)。
【0058】
以上説明したように、<1>本実施形態では、スリップ状態検出部81は、前輪10および後輪20のスリップの状態を検出可能である。スリップ駆動力推定部82は、スリップ状態検出部81により前輪10または後輪20の一方である前輪10のスリップを検出したとき、前輪10または後輪20の一方である前輪10の駆動力に基づき、前輪10または後輪20の他方である後輪20がスリップする駆動力であるスリップ駆動力を推定する。目標駆動力算出部83は、スリップ駆動力推定部82により推定したスリップ駆動力未満の駆動力を、前輪10または後輪20の他方である後輪20に伝達すべき目標の駆動力である目標駆動力として算出する。クラッチ制御部85は、目標クラッチ締結力算出部84により算出された目標クラッチ締結力に基づき、電動クラッチ60を制御する。
【0059】
これにより、例えば低μ路等において前輪10または後輪20の一方である前輪10がスリップしても、他方である後輪20のスリップを抑制できる。そのため、前輪10と後輪20との間で交互に発生し得るトルク変動を抑制できる。したがって、車輪がスリップしたときの車両1の振動を効果的に抑制できる。よって、低μ路等、滑りやすい路面における車両1の走行を安定にすることができる。
【0060】
(第2実施形態)
第2実施形態による車両制御装置を適用した車両を
図5に示す。第2実施形態は、車両制御装置80の構成および電動クラッチ60の制御の仕方が第1実施形態と異なる。
【0061】
本実施形態の車両制御装置80は、概念的な機能部として、動力低減部91、ブレーキ作動部92をさらに備えている。
【0062】
<2>動力低減部91は、スリップ状態検出部81により前輪10または後輪20の一方である前輪10のスリップを検出した後、スリップ駆動力推定部82により推定したスリップ駆動力、目標駆動力算出部83により算出された目標駆動力、および、目標クラッチ締結力算出部84により算出された目標クラッチ締結力に基づき、クラッチ制御部85により電動クラッチ60を制御してもなお、前輪10または後輪20の他方である後輪20のスリップは収束していないと判断した場合、動力発生装置30から発生する動力を低減する。
【0063】
<3>ブレーキ作動部92は、スリップ状態検出部81により前輪10または後輪20の一方である前輪10のスリップを検出した後、スリップ駆動力推定部82により推定したスリップ駆動力、目標駆動力算出部83により算出された目標駆動力、および、目標クラッチ締結力算出部84により算出された目標クラッチ締結力に基づき、クラッチ制御部85により電動クラッチ60を制御してもなお、前輪10または後輪20の他方である後輪20のスリップは収束していないと判断した場合、前輪10または後輪20の他方である後輪20のブレーキ(図示せず)を作動させる。
【0064】
次に、車両制御装置80による電動クラッチ60の制御に関する一連の処理を
図6、7に示す。
【0065】
図6、7に示す一連の処理S200は、例えば車両1のイグニッションキーをオンにすると開始される。
【0066】
S101~S109、S111、S121、S131の処理は、第1実施形態で示した処理と同様のため、説明を省略する。
【0067】
図7に示すS201では、車両制御装置80のスリップ状態検出部81は、後輪20のスリップが収束したか否かを判断する。後輪20のスリップは収束したと判断した場合(S201:YES)、処理はS221に移行する。一方、後輪20のスリップは収束していないと判断した場合(S201:NO)、処理はS211に移行する。
【0068】
S211では、車両制御装置80の動力低減部91は、動力発生装置30から発生する動力を低減する。これにより、後輪20に伝達される駆動力が低減される。
【0069】
S221では、車両制御装置80のスリップ状態検出部81は、後輪20のスリップが収束したか否かを判断する。後輪20のスリップは収束したと判断した場合(S221:YES)、処理は一連の処理S200を抜ける。一方、後輪20のスリップは収束していないと判断した場合(S221:NO)、処理はS231に移行する。
【0070】
S231では、車両制御装置80のブレーキ作動部92は、後輪20のブレーキを作動させる。これにより、後輪20の回転数が低減する。
【0071】
本実施形態では、S211、S231の処理により、後輪20のスリップを収束させる効果を高めることができる。
【0072】
以上説明したように、<2>本実施形態は、動力低減部91をさらに備える。動力低減部91は、スリップ状態検出部81により前輪10または後輪20の一方である前輪10のスリップを検出した後、スリップ駆動力推定部82により推定したスリップ駆動力、目標駆動力算出部83により算出された目標駆動力、および、目標クラッチ締結力算出部84により算出された目標クラッチ締結力に基づき、クラッチ制御部85により電動クラッチ60を制御してもなお、前輪10または後輪20の他方である後輪20のスリップは収束していないと判断した場合、動力発生装置30から発生する動力を低減する。
【0073】
そのため、前輪10または後輪20の他方である後輪20のスリップを収束させる効果を高めることができる。これにより、車輪がスリップしたときの車両1の振動をさらに効果的に抑制できる。よって、低μ路等、滑りやすい路面における車両1の走行をさらに安定にすることができる。
【0074】
また、<3>本実施形態は、ブレーキ作動部92をさらに備える。ブレーキ作動部92は、スリップ状態検出部81により前輪10または後輪20の一方である前輪10のスリップを検出した後、スリップ駆動力推定部82により推定したスリップ駆動力、目標駆動力算出部83により算出された目標駆動力、および、目標クラッチ締結力算出部84により算出された目標クラッチ締結力に基づき、クラッチ制御部85により電動クラッチ60を制御してもなお、前輪10または後輪20の他方である後輪20のスリップは収束していないと判断した場合、前輪10または後輪20の他方である後輪20のブレーキを作動させる。
【0075】
そのため、前輪10または後輪20の他方である後輪20のスリップを収束させる効果をさらに高めることができる。これにより、車輪がスリップしたときの車両1の振動をより一層効果的に抑制できる。よって、低μ路等、滑りやすい路面における車両1の走行をより一層安定にすることができる。
【0076】
(他の実施形態)
上述の第2実施形態では、車両制御装置が動力低減部およびブレーキ作動部を備える例を示した。これに対し、他の実施形態では、動力低減部またはブレーキ作動部のいずれか一方のみを備えることとしてもよい。
【0077】
また、上述の実施形態では、動力発生装置が前輪に対し動力を発生させる例を示した。これに対し、他の実施形態では、動力発生装置は後輪に対し動力を発生させることとしてもよい。この場合、スリップ駆動力推定部は、スリップ状態検出部により後輪のスリップを検出したとき、後輪の駆動力に基づき、前輪がスリップを開始する駆動力であるスリップ駆動力を推定すればよい。また、目標駆動力算出部は、スリップ駆動力推定部により推定したスリップ駆動力未満の駆動力を、前輪に伝達すべき目標の駆動力である目標駆動力として算出すればよい。また、動力低減部は、前輪のスリップは収束していないと判断した場合、動力発生装置から発生する動力を低減すればよい。また、ブレーキ作動部は、前輪のスリップは収束していないと判断した場合、前輪のブレーキを作動させればよい。
【0078】
また、他の実施形態では、動力発生装置は、エンジンのみ、または、モータジェネレータのみを有することとしてもよい。つまり、本発明は、ガソリン車、ディーゼル車または電気自動車等にも適用できる。
【0079】
このように、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【0080】
本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 車両、10 前輪、20 後輪、30 動力発生装置、60 電動クラッチ、80 車両制御装置、81 スリップ状態検出部、82 スリップ駆動力推定部、83 目標駆動力算出部、84 目標クラッチ締結力算出部、85 クラッチ制御部