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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184192
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/35 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
B60K17/35 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091896
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】右手 潤二
(72)【発明者】
【氏名】河野 隆修
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智師
【テーマコード(参考)】
3D043
【Fターム(参考)】
3D043AA04
3D043AB01
3D043AB17
3D043EA02
3D043EA18
3D043EE07
3D043EF19
(57)【要約】
【課題】路面の状態や車両の走行速度にかかわらず循環トルクを開放可能な車両制御装置を提供する。
【解決手段】差動回転数算出部81は、前輪10と後輪20との差動回転数を算出可能である。循環トルク算出部82は、差動回転数算出部81により算出した差動回転数に基づき、駆動系内部に生じる循環トルクを算出する。クラッチ制御部85は、循環トルク算出部82により算出した循環トルクに基づき、循環トルクを開放する条件である循環トルク開放条件を満たしたと判断したとき、電動クラッチ60の締結力が所定期間内に低下した後、元の締結力に戻るよう電動クラッチ60を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(10)または後輪(20)に対し動力を発生させる動力発生装置(30)、および、発生する締結力に応じて前記前輪と前記後輪との間のトルクの伝達を許容または遮断可能な電動クラッチ(60)を備える車両(1)に設けられ、前記電動クラッチを制御し前記車両を制御可能な車両制御装置であって、
前記前輪と前記後輪との差動回転数を算出可能な差動回転数算出部(81)と、
前記差動回転数算出部により算出した前記差動回転数に基づき、駆動系内部に生じる循環トルクを算出する循環トルク算出部(82)と、
前記循環トルク算出部により算出した前記循環トルクに基づき、循環トルクを開放する条件である循環トルク開放条件を満たしたと判断したとき、前記電動クラッチの締結力が所定期間内に低下した後、元の締結力に戻るよう前記電動クラッチを制御するクラッチ制御部(85)と、
を備える車両制御装置。
【請求項2】
前記差動回転数算出部は、前記前輪および前記後輪の回転数を検出する回転センサ(111、121、211、221)からの信号に基づき、前記差動回転数を算出する請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記差動回転数算出部は、前記動力発生装置を含む駆動系内部の回転部材の回転数を検出する回転センサ(33)からの信号に基づき、前記差動回転数を算出する請求項1または2に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前輪と後輪との間に設けられたクラッチの締結力を制御することで、前輪または後輪に伝達される駆動力を制御し、車両を制御する車両制御装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-275839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、機械的に前輪と後輪とが接続される全輪駆動車両では、走行中、駆動系内部に意図しない循環トルクが発生し、ドラビリの悪化や燃費の悪化を招くおそれがある。
【0005】
そこで、特許文献1の車両制御装置では、高速走行かつ低駆動力時においてクラッチの締結力を低下させ、このとき発生する循環トルクの抑制を図っている。
【0006】
本発明者は、計測により、低速走行時でも、滑りやすい路面等、低μ路での車輪のスリップ時やABS作動時に、循環トルクが発生することを見出した。
【0007】
特許文献1の車両制御装置では、低速走行時に発生する循環トルクを抑制することはできない。また、特許文献1の車両制御装置の制御対象は油圧式のクラッチである。そのため、循環トルクを開放することを目的としてクラッチの締結力を低下させるために油圧を抜くと、次の加速等に悪影響が出るおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、路面の状態や車両の走行速度にかかわらず循環トルクを開放可能な車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前輪(10)または後輪(20)に対し動力を発生させる動力発生装置(30)、および、発生する締結力に応じて前輪と後輪との間のトルクの伝達を許容または遮断可能な電動クラッチ(60)を備える車両(1)に設けられ、電動クラッチを制御し車両を制御可能な車両制御装置であって、差動回転数算出部(81)と循環トルク算出部(82)とクラッチ制御部(85)とを備える。
【0010】
差動回転数算出部は、前輪と後輪との差動回転数を算出可能である。循環トルク算出部は、差動回転数算出部により算出した差動回転数に基づき、駆動系内部に生じる循環トルクを算出する。
【0011】
クラッチ制御部は、循環トルク算出部により算出した循環トルクに基づき、循環トルクを開放する条件である循環トルク開放条件を満たしたと判断したとき、電動クラッチの締結力が所定期間内に低下した後、元の締結力に戻るよう電動クラッチを制御する。
【0012】
そのため、路面の状態や車両の走行速度にかかわらず循環トルクを開放可能である。これにより、ドラビリの悪化や損失の増大を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の車両制御装置およびそれを適用した車両を示す模式図。
図2】第1実施形態の車両制御装置による電動クラッチの制御に関する処理を示すフローチャート。
図3】第1実施形態の車両制御装置の作動例を示す図。
図4】比較形態の車両制御装置の作動例を示す図。
図5】第2実施形態の車両制御装置による電動クラッチの制御に関する処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、複数の実施形態による車両制御装置を図面に基づき説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態の車両制御装置を適用した車両を図1に示す。車両1は、前輪10、後輪20、動力発生装置30、電動クラッチ60、車両制御装置80等を備えている。車両1は、例えば車輪の動力源として内燃機関およびモータを備えるハイブリッド車である。
【0016】
前輪10は、車両1の右前方に設けられる右前輪11、車両1の左前方に設けられる左前輪12を有している。右前輪11には、右前ドライブシャフト41が接続されている。左前輪12には、左前ドライブシャフト42が接続されている。
【0017】
後輪20は、車両1の右後方に設けられる右後輪21、車両1の左後方に設けられる左後輪22を有している。右後輪21には、右後ドライブシャフト51が接続されている。左後輪22には、左後ドライブシャフト52が接続されている。
【0018】
動力発生装置30は、エンジン31、モータジェネレータ32、レゾルバ33等を有している。エンジン31は、例えばガソリンを燃料とする内燃機関であり、動力としての回転トルクを発生可能である。モータジェネレータ32は、電力の供給により作動し、動力としての回転トルクを発生可能である。また、モータジェネレータ32は、外部から回転トルクが入力されることにより、発電可能である。レゾルバ33は、モータジェネレータ32のロータ(図示せず)の回転数に応じた信号を出力可能である。
【0019】
車両1は、トランスミッション35、パワートランスファ38、リヤデフ70を備えている。トランスミッション35は、ギヤ36を有している。トランスミッション35は、動力発生装置30から出力された動力すなわち回転トルクをギヤ36で変速し、左前ドライブシャフト42に出力する。パワートランスファ38は、左前ドライブシャフト42と右前ドライブシャフト41との間に設けられている。パワートランスファ38には、プロペラシャフト40が接続されている。パワートランスファ38は、トランスミッション35から左前ドライブシャフト42に入力された動力を右前ドライブシャフト41およびプロペラシャフト40に伝達する。
【0020】
動力発生装置30が発生する動力は、トランスミッション35、パワートランスファ38を経由して前輪10に伝達される。このように、動力発生装置30は、前輪10に対し動力すなわちトルクを発生させる。
【0021】
リヤデフ70は、右後ドライブシャフト51と左後ドライブシャフト52との間に設けられている。リヤデフ70は、右後輪21と左後輪22との回転数差を吸収する。
【0022】
電動クラッチ60は、クラッチアクチュエータ61、クラッチ65等を有している。クラッチアクチュエータ61は、例えば電動モータ、減速機、ボールカム(図示せず)を有している。電力の供給により電動モータが回転すると、減速機により減速されたトルクがボールカムの回転部に入力される。ボールカムの回転部にトルクが入力されると、回転部が回転し、並進部が軸方向に移動する。
【0023】
クラッチ65は、前クラッチ板66、後クラッチ板67を有している。前クラッチ板66は、プロペラシャフト40のパワートランスファ38とは反対側の端部に固定されている。後クラッチ板67は、リヤデフ70の入力部に固定されている。
【0024】
電動クラッチ60のクラッチアクチュエータ61に電力が供給され、並進部が軸方向に移動すると、前クラッチ板66が後クラッチ板67に押し付けられる。これにより、前クラッチ板66と後クラッチ板67とが摩擦係合し、プロペラシャフト40からリヤデフ70に動力が伝達され、後輪20が駆動する。
【0025】
電動クラッチ60が発生する前クラッチ板66と後クラッチ板67との間の摩擦係合力を適宜「締結力」または「クラッチ締結力」とよぶ。電動クラッチ60は、発生する締結力に応じて前輪10と後輪20との間のトルクの伝達を許容または遮断可能である。前クラッチ板66と後クラッチ板67とが離間しているとき、前輪10と後輪20との間のトルクの伝達は遮断されている。一方、前クラッチ板66と後クラッチ板67とが接触しているとき、電動クラッチ60の締結力の大きさに対応した動力がプロペラシャフト40から後輪20に伝達される。
【0026】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ61の減速機は、逆効率が0に近い。そのため、クラッチアクチュエータ61は、消費電力すなわち消費エネルギーが0または少量でクラッチ締結力を一定値に保持できる。
【0027】
また、クラッチアクチュエータ61は、動力源に電動モータを採用しているため、応答性が比較的高い。本実施形態では、クラッチアクチュエータ61は、例えば車両1のドライバーの操作が急に行われた場合においても、操作から車両挙動への応答時間内に、クラッチ締結力を所定値まで下げた後、元のクラッチ締結力に戻すことができる程度の応答性を有している。
【0028】
車両制御装置80は、電子制御ユニットすなわちECUであって、演算部としてのCPU、記憶部としてのROM、RAM等、入出力部としてのI/O等を有する小型のコンピュータである。車両制御装置80は、車両1の各部に設けられた各種センサからの信号等の情報に基づき、ROM等に格納されたプログラムに従い演算を実行し、車両1の各種装置および機器の作動を制御する。このように、車両制御装置80は、非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行する。このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。
【0029】
車両制御装置80は、動力発生装置30のレゾルバ33から出力された信号に基づき、モータジェネレータ32の回転数を算出および検出可能である。
【0030】
車両1の右前輪11、左前輪12、右後輪21、左後輪22それぞれの近傍には、車輪速センサ111、121、211、221が設けられている。車輪速センサ111、121、211、221は、右前輪11、左前輪12、右後輪21、左後輪22それぞれの回転数に応じた信号を出力する。車両制御装置80は、車輪速センサ111、121、211、221から出力された信号に基づき、右前輪11、左前輪12、右後輪21、左後輪22それぞれの回転数すなわち車輪速、車速等を算出および検出可能である。
【0031】
車両制御装置80は、各種センサからの信号等の情報に基づき、動力発生装置30のエンジン31およびモータジェネレータ32、トランスミッション35の作動を制御可能である。
【0032】
また、車両制御装置80は、各種センサからの信号等の情報に基づき、電動クラッチ60のクラッチアクチュエータ61に供給する電力を制御し、クラッチ締結力を制御可能である。これにより、動力発生装置30からプロペラシャフト40を経由して後輪20に伝達される動力を制御可能である。
【0033】
<1>本実施形態の車両制御装置80は、前輪10に対し動力を発生させる動力発生装置30、および、発生する締結力に応じて前輪10と後輪20との間のトルクの伝達を許容または遮断可能な電動クラッチ60を備える車両1に設けられ、電動クラッチ60を制御し車両1を制御可能な車両制御装置である。車両制御装置80は、差動回転数算出部81と循環トルク算出部82とクラッチ制御部85とを備える。
【0034】
差動回転数算出部81は、前輪10と後輪20との差動回転数を算出可能である。循環トルク算出部82は、差動回転数算出部81により算出した差動回転数に基づき、駆動系内部に生じる循環トルクを算出する。
【0035】
ここで、「循環トルク」とは、前輪10と後輪20との差回転により駆動系内部にねじり歪(トルク)が残留し、駆動力分配が変化する現象のことである。
【0036】
循環トルクは、特に高速走行かつ低駆動力時において生じやすいことが知られているが、計測により、低速走行時でも、滑りやすい路面等、低μ路での車輪のスリップ時やABS作動時に、循環トルクが発生することを見出した。
【0037】
クラッチ制御部85は、循環トルク算出部82により算出した循環トルクに基づき、循環トルクを開放する条件である循環トルク開放条件を満たしたと判断したとき、電動クラッチ60の締結力が所定期間内に低下した後、元の締結力に戻るよう電動クラッチ60を制御する。
【0038】
<2>本実施形態では、差動回転数算出部81は、前輪10および後輪20の回転数を検出する回転センサからの信号に基づき、差動回転数を算出する。
【0039】
より具体的には、差動回転数算出部81は、前輪10および後輪20の回転数を検出する「回転センサ」としての車輪速センサ111、121、211、221からの信号に基づき、差動回転数を算出する。
【0040】
次に、車両制御装置80による車両1の制御に関する一連の処理を図2に示す。
【0041】
図2に示す一連の処理S100は、例えば車両1のイグニッションキーをオンにすると開始される。
【0042】
S101では、車両制御装置80は、車両1に設けられた各種センサからの信号等に基づき、車両1の車輪速を検出する。より具体的には、車両制御装置80は、車輪速センサ111からの信号に基づき右前輪11の車輪速を検出し、車輪速センサ121からの信号に基づき左前輪12の車輪速を検出し、車輪速センサ211からの信号に基づき右後輪21の車輪速を検出し、車輪速センサ221からの信号に基づき左後輪22の車輪速を検出する。
【0043】
S102では、車両制御装置80の差動回転数算出部81は、S101で検出した車輪速に基づき、前輪10と後輪20との差動回転数(スリップ差)を算出する。
【0044】
S103では、車両制御装置80の循環トルク算出部82は、S102で算出した前輪10と後輪20との差動回転数に基づき、駆動系内部に生じる循環トルクを算出する。より具体的には、循環トルク算出部82は、駆動系の剛性の値を用いて循環トルクを算出する。
【0045】
S104では、車両制御装置80のクラッチ制御部85は、S103で算出した循環トルクに基づき、循環トルクを開放する条件である循環トルク開放条件を満たすか否かを判断する。
【0046】
ここで、循環トルク開放条件とは、「1:循環トルクが所定値以上であること」、「2:クラッチ締結力を低下させても車両1の挙動に影響が出ない状況であること」、の両方を満たす場合である。「クラッチ締結力を低下させても車両1の挙動に影響が出ない状況」としては、例えば、アクセル、ブレーキが踏まれていない、ステアリング舵角が一定である、車両1の加速度が所定値以内である、路面の傾斜角が所定値以内であるような状況である。
【0047】
循環トルク開放条件を満たすと判断したとき(S104:YES)、処理はS121に移行する。一方、循環トルク開放条件を満たさないと判断したとき(S104:NO)、処理はS111に移行する。
【0048】
S111では、クラッチ制御部85は、その時点のクラッチ締結力を維持するよう電動クラッチ60を制御する。
【0049】
S121では、クラッチ制御部85は、クラッチ締結力が所定期間内に、ゼロではない所定値まで低下した後、元の締結力に戻るよう電動クラッチ60を制御する。これにより、駆動系内部に生じていた循環トルクが開放される。
【0050】
S111またはS121の後、一連の処理S100を抜けると、再び一連の処理S100が開始される。このように、一連の処理S100は、イグニッションキーがオンの間、繰り返し実行される。
【0051】
次に、本実施形態の車両制御装置80の作動例を図3に基づき説明する。
【0052】
例えば氷結あるいは雨などで滑りやすい路面等、低μ路において、時刻t0~t1の車両停止期間後、ドライバーがアクセルを踏み込むと、時刻t1以降、車両1が加速する。車両1の加速に伴い前輪10および後輪20の駆動力が上昇する。
【0053】
時刻t2以降、前輪10および後輪20がスリップし、前輪10と後輪20との間でトルク変動が生じている。
【0054】
時刻t3でドライバーがブレーキを踏むと、車両1は、時刻t3以降、減速し、時刻t4で停止する。なお、車両1の減速時、駆動系内部に循環トルクが生じている。
【0055】
時刻t4で車両1が停止すると、駆動系内部に循環トルクが生じた状態となる。時刻t5では、車両制御装置80は、循環トルク開放条件を満足したと判断し、クラッチ締結力が、ゼロではない所定値まで低下するよう電動クラッチ60を制御する。これにより、循環トルクが開放される。
【0056】
時刻t6では、車両制御装置80は、所定値まで低下させたクラッチ締結力が元(時刻t5の直前)のクラッチ締結力になるよう電動クラッチ60を制御する。
【0057】
時刻t7でドライバーがアクセルを再び踏み込むと、時刻t7以降、車両1が加速する。
【0058】
時刻t8でドライバーがブレーキを踏むと、車両1は、時刻t8以降、減速する。
【0059】
上述のように、1回目の減速時(時刻t3以降)に循環トルクが発生しているが、車両1の停止時、短期間(時刻t5~t6)でクラッチ締結力を所定値まで低下させた後、元のクラッチ締結力に戻すことにより、循環トルクを開放できている。これにより、2回目の加速時(時刻t7以降)に損失の増大やドラビリの悪化を回避できている。なお、循環トルクの開放は、開放中(時刻t5~t6)にドライバー操作や車両状態の変化があった場合においても車両1の挙動に影響が出ないよう、短期間で行われる。ここで、「短期間」とは、例えば、アクセルのオンから実際に軸トルクが発生するまでの応答遅れ時間よりも短い期間である。
【0060】
次に、比較形態の車両制御装置の作動例を図4に基づき説明する。
【0061】
比較形態の車両制御装置は、上述の一連の処理S100、すなわち、循環トルクの開放処理を実行しない点以外は、本実施形態と同様である。
【0062】
時刻t2以降、前輪10と後輪20との間でトルク変動が生じている。時刻t4以降の停止時、循環トルクが生じた状態となっている。時刻t5で2回目の加速を開始しているが、循環トルクの影響で、時刻t5以降、駆動力分配比が変化している。
【0063】
以上説明したように、<1>本実施形態では、差動回転数算出部81は、前輪10と後輪20との差動回転数を算出可能である。循環トルク算出部82は、差動回転数算出部81により算出した差動回転数に基づき、駆動系内部に生じる循環トルクを算出する。
【0064】
クラッチ制御部85は、循環トルク算出部82により算出した循環トルクに基づき、循環トルクを開放する条件である循環トルク開放条件を満たしたと判断したとき、電動クラッチ60の締結力が所定期間内に低下した後、元の締結力に戻るよう電動クラッチ60を制御する。
【0065】
そのため、路面の状態や車両1の走行速度にかかわらず循環トルクを開放可能である。これにより、ドラビリの悪化や損失の増大を抑制できる。
【0066】
また、車両制御装置80の制御対象は応答性の高い電動クラッチ60である。そのため、循環トルクを開放するとき、電動クラッチ60の締結力を低下させた後、短時間で元の締結力に戻すことができ、車両1の挙動に与える影響を抑制することができる。
【0067】
また、<2>本実施形態では、差動回転数算出部81は、前輪10および後輪20の回転数を検出する「回転センサ」としての車輪速センサ111、121、211、221からの信号に基づき、差動回転数を算出する。
【0068】
そのため、車輪のスリップ量を検出する従来の構成からの小変更で本実施形態を実現可能である。
【0069】
(第2実施形態)
第2実施形態による車両制御装置について、図5に基づき説明する。第2実施形態は、車両制御装置80による電動クラッチ60の制御の仕方が第1実施形態と異なる。
【0070】
本実施形態では、<3>差動回転数算出部81は、動力発生装置30を含む駆動系内部の回転部材の回転数を検出する回転センサからの信号に基づき、差動回転数を算出する。
【0071】
より具体的には、差動回転数算出部81は、動力発生装置30の「回転部材」としてのモータジェネレータ32のロータの回転数を検出する「回転センサ」としてのレゾルバ33からの信号に基づき、差動回転数を算出する。
【0072】
次に、車両制御装置80による電動クラッチ60の制御に関する一連の処理を図5に示す。
【0073】
図5に示す一連の処理S200は、例えば車両1のイグニッションキーをオンにすると開始される。
【0074】
S201では、車両制御装置80は、動力発生装置30を含む駆動系内部の回転部材の回転数を検出する。より具体的には、トランスミッション35内部の回転部材であるギヤ36等の回転数を検出する。ギヤ36の回転数は、レゾルバ33からの信号に基づき、算出可能である。
【0075】
S202では、車両制御装置80は、ギヤ比換算を行う。
【0076】
S203では、車両制御装置80の差動回転数算出部81は、S201で検出したギヤ36の回転数、および、S202で行ったギヤ比換算の結果に基づき、前輪10と後輪20との差動回転数(スリップ差)を算出する。
【0077】
S103、S104、S111、S121の処理は、第1実施形態で示した処理と同様のため、説明を省略する。
【0078】
本実施形態のように動力発生装置30内のレゾルバ33からの信号に基づき、前輪10と後輪20との差動回転数を算出することによっても、循環トルクを開放できる。
【0079】
以上説明したように、<3>本実施形態では、差動回転数算出部81は、動力発生装置30を含む駆動系内部の回転部材の回転数を検出する「回転センサ」としてのレゾルバ33からの信号に基づき、差動回転数を算出する。
【0080】
高分解能の動力源の回転センサであるレゾルバ33からの信号により、差動回転数を算出するため、循環トルクの算出制度を向上でき、精度よく循環トルクを開放できる。
【0081】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、クラッチ制御部により循環トルクを開放するとき、電動クラッチの締結力を、ゼロではない所定値まで低下させる例を示した。これに対し、他の実施形態では、クラッチ制御部により循環トルクを開放するとき、電動クラッチの締結力を、ゼロまで低下させてもよい。
【0082】
また、上述の実施形態では、動力発生装置が前輪に対し動力を発生させる例を示した。これに対し、他の実施形態では、動力発生装置は後輪に対し動力を発生させることとしてもよい。
【0083】
また、他の実施形態では、動力発生装置は、エンジンのみ、または、モータジェネレータのみを有することとしてもよい。つまり、本発明は、ガソリン車、ディーゼル車または電気自動車等にも適用できる。
【0084】
このように、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【0085】
本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 車両、10 前輪、20 後輪、30 動力発生装置、60 電動クラッチ、80 車両制御装置、81 差動回転数算出部、82 循環トルク算出部、85 クラッチ制御部
図1
図2
図3
図4
図5