(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184204
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】粘土含有スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
B28C 7/04 20060101AFI20221206BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20221206BHJP
C09K 8/22 20060101ALI20221206BHJP
B28C 1/04 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B28C7/04
C09K3/00 103H
C09K8/22
B28C1/04 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091913
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】島田 恒平
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康平
【テーマコード(参考)】
4G056
【Fターム(参考)】
4G056AA02
4G056BA07
4G056BA08
4G056CB21
(57)【要約】
【課題】増粘剤の効果が向上し、用途に応じた適切な粘度を有する粘土含有スラリーを簡易に製造できる粘土含有スラリーの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)水〔以下、(A)成分という〕と(B)膨潤性粘土鉱物〔以下、(B)成分という〕と(C)粉末状増粘剤〔以下、(C)成分という〕とを含む複数の成分を混合する粘土含有スラリーの製造方法であって、(A)成分と(B)成分とを混合して混合物とした後、該混合物に(C)成分を混合する、粘土含有スラリーの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水〔以下、(A)成分という〕と(B)膨潤性粘土鉱物〔以下、(B)成分という〕と(C)粉末状増粘剤〔以下、(C)成分という〕とを含む複数の成分を混合する粘土含有スラリーの製造方法であって、
(A)成分と(B)成分とを混合して混合物とした後、該混合物に(C)成分を混合する、
粘土含有スラリーの製造方法。
【請求項2】
(A)成分の混合量と(B)成分の混合量との質量比(A)/(B)が5以上100以下である、請求項1記載の粘土含有スラリーの製造方法。
【請求項3】
(C)成分が、下記一般式(1)で表される化合物の2種以上を含有し、前記2種以上の化合物は、一般式(1)中のXが異なっており、前記2種以上の化合物のうち、少なくとも1つは一般式(1)中のXのR
1a又はR
1bがアルケニル基の化合物である、請求項1又は2に記載の粘土含有スラリーの製造方法。
【化1】
〔式中、Xは、R
1a又はR
1b-[CONH-CH
2CH
2CH
2]
n-で表される基である。R
1aは、炭素数14以上22以下のアルキル基又は炭素数14以上22以下のアルケニル基である。R
1bは、炭素数13以上21以下のアルキル基又は炭素数13以上21以下のアルケニル基である。nは1以上3以下の整数である。R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基又は-(C
2H
4O)
pHで表される基である。pは、平均付加モル数であり、R
2及びR
3の合計で0以上5以下の数である。〕
【請求項4】
前記複数の成分が更に(D)pH調整剤を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の粘土含有スラリーの製造方法。
【請求項5】
(B)成分が(A)成分で膨潤した後、(C)成分を前記混合物に混合する、請求項1~4の何れか1項に記載の粘土含有スラリーの製造方法。
【請求項6】
(A)成分と(B)成分とを混合してから1分以上10分以下経過した後、(C)成分を前記混合物に混合する、請求項1~5の何れか1項に記載の粘土含有スラリーの製造方法。
【請求項7】
粘土含有スラリーが掘削用スラリーである、請求項1~6の何れか1項に記載の粘土含有スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土含有スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGs実現のため、ESG観点から環境に配慮したインフラ整備が目指されている。その一例として、構造物の支持杭である、コンクリート既製杭打設時における、杭掘削液の使用が挙げられる。
【0003】
コンクリート既製杭打設時には、コンクリート杭打設対象地盤に予めボーリングを実施した後、コンクリート杭を挿入するが、砂礫地盤では地盤の崩落により閉塞が起こるために施工性が低下する。そのため、孔壁の崩落を防止する薬剤として、粘土鉱物のスラリーからなる杭掘削液が使用されている。
【0004】
粘土鉱物は、ケイ酸塩が層状を成した構造からなり、その層構造中に溶媒乃至分散媒を保持、拘束することにより膨潤する。水と粘土鉱物とを含むスラリーを杭掘削液として用いると、砂礫の崩落を押しとどめる作用(孔壁保護性)を発現する。
【0005】
水溶液又はスラリーの状態で利用される多くの工業製品には、その物性を改善する目的で様々な種類の添加剤が用いられている。例えば、水溶液やスラリーのレオロジーを改質するために、粘度を目的や用途に応じて適正に調整されることが望まれる場合がある。従来、水溶液やスラリーの粘度を調整するために、増粘剤や減粘剤の添加、加熱や冷却操作、電解質濃度の調整などの方策が採られている。また、界面活性剤が、水溶液やスラリーの粘性、弾性、増粘性などに影響を及ぼすことが知られている(特許文献1、2)。特許文献3には、異なる2種の両性界面活性剤を併用することを特徴としたレオロジー改質剤をベントナイトなどの無機粉体を含むスラリー組成物に用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2014-502602号公報
【特許文献2】特開平8-133805号公報
【特許文献3】特開2020-76022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粘土鉱物スラリーの用途として、例えば、杭掘削液がある。杭掘削液は、その優れた孔壁保護性から崩落の起こりやすい砂礫地盤掘削時に用いられるが、特に空隙の大きい砂礫地盤等に用いられると、地盤から漏出し地下水などを汚染(逸水)するケースが少なくない。杭掘削液に用いられるスラリーは、一般に、粘度が高い方が逸水防止効果は高くなるため、かかるスラリーを効果的に増粘させる方法が望まれる場合がある。
【0008】
本発明は、増粘剤の効果が向上し、用途に応じた適切な粘度を有する粘土含有スラリーを簡易に製造できる粘土含有スラリーの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)水〔以下、(A)成分という〕と(B)膨潤性粘土鉱物〔以下、(B)成分という〕と(C)粉末状増粘剤〔以下、(C)成分という〕とを含む複数の成分を混合する粘土含有スラリーの製造方法であって、
(A)成分と(B)成分とを混合して混合物とした後、該混合物に(C)成分を混合する、
粘土含有スラリーの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、増粘剤の効果が向上し、用途に応じた適切な粘度を有する粘土含有スラリーを簡易に製造できる粘土含有スラリーの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
近年、持続的な社会実現のためにSDGsが提唱されている。本発明は、逸水防止性の向上に依るケミカルエコノミーの向上、水質汚染の防止などを実現することができ、例えば、SDGsのNo.6、7、8、9、11、12、13、14などに貢献する技術となり得ると考えられる。
【0012】
前記の通り、粘土含有スラリー、例えば、掘削液として用いる粘土含有スラリーは、地盤からの逸水防止効果を高めるためには増粘させた方が望ましいと考えられる。この目的で増粘剤を使用するにあたり、本発明者は、増粘剤を粉末状態で用いるとともに、予め水と粘土鉱物とを混合してから粉末増粘剤を添加すると、意外にも増粘効果が向上し、逸水防止性が向上することを見いだした。本発明はこの知見に基づいてなされたものである。本発明により増粘効果、更に逸水防止性が向上するメカニズムは必ずしも定かではないが、以下のように推察される。
粘土鉱物は層状かつ多孔質であることから、水に触れると膨潤し、水を構造中に拘束して逸水防止性を発現する。粘土鉱物と増粘剤は水中ではそれぞれ帯電して凝集しやすくなるが、本発明では、予め粘土鉱物を水で膨潤させてから増粘剤を粉末状態で用いることで、粘土鉱物と増粘剤との静電的な凝集が抑制されて均一に分散する。その時点で粘土鉱物は十分な膨潤がなされている。これらのことから、本発明では、粘土鉱物の膨潤による増粘作用と増粘剤による増粘作用とが効果的に発現し、スラリーの粘度が向上し、ひいては逸水防止性の向上がもたらされるものと考察される。
【0013】
まず、本発明の粘土含有スラリーの製造方法に用いる成分について説明する。
本発明では、(A)成分の水と、(B)成分の膨潤性粘土鉱物と、(C)成分の粉末状増粘剤とを含む複数の成分を混合する。
【0014】
(A)成分の水は、水道水、河川水、湖水、地下水などを用いることができる。
【0015】
(B)成分の膨潤性粘土鉱物は、層状ケイ酸塩から選択し得る。(B)成分の膨潤性粘土鉱物としては、カオリナイト、スメクタイト、クレー、タルク、モンモリロナイト、イライト、グローコナイト、クロライト、セリサイト、ゼオライト、ベントナイトなどが挙げられる。なお、本発明にて、「膨潤性」とは、第15改正日本薬局方に定められたベントナイトの試験方法を準用し、粘土鉱物1gあたりの膨潤体積(cm3)で表される膨潤力が、20cm3/g以上であるものをいう。
【0016】
(C)成分の粉末増粘剤としては、下記一般式(1)で表される化合物以下、化合物(1)ともいう〕の2種以上を含有し、前記2種以上の化合物は、一般式(1)中のXが異なっており、前記2種以上の化合物のうち、少なくとも1つは一般式(1)中のXのR1a又はR1bがアルケニル基の化合物である粉末増粘剤が挙げられる。
【0017】
【0018】
〔式中、Xは、R1a又はR1b-[CONH-CH2CH2CH2]n-で表される基である。R1aは、炭素数14以上22以下のアルキル基又は炭素数14以上22以下のアルケニル基である。R1bは、炭素数13以上21以下のアルキル基又は炭素数13以上21以下のアルケニル基である。nは1以上3以下の整数である。R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基又は-(C2H4O)pHで表される基である。pは、平均付加モル数であり、R2及びR3の合計で0以上5以下の数である。〕
【0019】
化合物(1)について、一般式(1)中のXが異なるとは、化合物(1)が2種である場合を例に考えると、例えば、以下のような態様が挙げられる。なお、以下の態様において、2種の化合物(1)のうち、少なくとも一方の化合物(1)のR1a又はR1bはアルケニル基である。
(i)一方のR1a又はR1bがアルキル基であり、他方のR1a又はR1bがアルケニル基である。
(ii)一方のR1a又はR1bの炭素数と、他方のR1a又はR1bの炭素数が異なっている。
(iii)一方のXがR1aであり、他方のXがR1b-[CONH-CH2CH2CH2]n-である。
(iv)Xが共にR1b-[CONH-CH2CH2CH2]n-であり、一方のnと他方のnが異なっている。
(v)前記(i)~(iv)の組み合わせ。
【0020】
一般式(1)中、Xは、R1a又はR1b-[CONH-CH2CH2CH2]n-で表される基である。
R1aは、炭素数14以上22以下のアルキル基又は炭素数14以上22以下のアルケニル基である。
R1aがアルケニル基の場合、炭素数は、好ましくは18以上、そして、好ましくは22以下である。
R1aがアルキル基の場合、炭素数は、好ましくは16以上、そして、好ましくは22以下である。
R1bは、炭素数13以上21以下のアルキル基又は炭素数13以上21以下のアルケニル基である。
R1bがアルケニル基の場合、炭素数は、好ましくは17以上、そして、好ましくは21以下である。
R1bがアルキル基の場合、炭素数は、好ましくは15以上、そして、好ましくは21以下である。
nは、好ましくは0又は1である。
R2及びR3は、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1以上2以下のアルキル基または-(C2H4O)pHで表される基である。
pは、好ましくは0以上3以下の数である。
【0021】
(C)成分は、一般式(1)中のXが異なる化合物(1)を2種以上、好ましくは5種以下、より好ましくは2種含有する。そして、(C)成分が含有する2種以上の化合物(1)は、少なくとも1つが一般式(1)中のXのR1a又はR1bが炭素数14以上22以下のアルケニル基の化合物、つまり、一般式(1)中のXにおけるR1aとして炭素数14以上22以下のアルケニル基又はR1bとして炭素数13以上21以下のアルケニル基を含む化合物である。
【0022】
本発明では、化合物(1)が2種であり、上記(i)~(v)を含め、2種の化合物(1)のうち、少なくとも一方が、一般式(1)中のXがR1aで且つ炭素数14以上22以下のアルケニル基の化合物であることが好ましい。すなわち、(C)成分として、前記一般式(1)で表される化合物を2種含有する粉末増粘剤であって、前記2種の化合物は、一般式(1)中のXが異なっており、前記2種の化合物のうち、少なくとも一方は、一般式(1)中のXがR1aであり且つR1aがアルケニル基の化合物である、粉末増粘剤が挙げられる。
【0023】
本発明の(C)成分としては、一般式(1)中のXがR1a又はR1b-[CONH-CH2CH2CH2]n-で表される基(ただし、R1aは炭素数14以上22以下のアルケニル基であり、R1bは炭素数13以上21以下のアルケニル基である)である化合物(1a)と、化合物(1a)とは一般式(1)中のXが異なる化合物(1b)とを含有する粉末増粘剤が挙げられる。
具体的には、下記一般式(1a)で表される化合物(1a)と、下記一般式(1b)で表される化合物(1b)とを含有する粉末増粘剤が挙げられる。
【0024】
【0025】
〔式中、
n1、n2は、それぞれ、独立に0以上3以下の整数である。
R11aは、n1が0のときは炭素数14以上22以下のアルケニル基であり、n1が1~3のときは炭素数13以上21以下のアルケニル基である。
R11bは、n2が0のときは炭素数14以上22以下のアルキル基又は炭素数14以上22以下のアルケニル基であり、n2が1~3のときは炭素数13以上21以下のアルキル基又は炭素数13以上21以下のアルケニル基である。
ただし、n1とn2が同じ数である場合、R11bのアルケニル基はR11aとは異なるアルケニル基である。
R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基又は-(C2H4O)pHで表される基である。pは、平均付加モル数であり、R2及びR3の合計で0以上5以下の数である。〕
【0026】
一般式(1a)中、R11aの炭素数は、好ましくは17以上、そして、好ましくは22以下である。
一般式(1a)中、n1は、好ましくは0又は1、より好ましくは0である。
【0027】
一般式(1b)中、n2が0でR11bがアルキル基の場合、R11bの炭素数は、好ましくは16以上、そして、好ましくは22以下である。
一般式(1b)中、n2が0でR11bがアルケニル基の場合、R11bの炭素数は、好ましくは18以上、そして、好ましくは22以下である。
一般式(1b)中、n2が1~3でR11bがアルキル基の場合、R11bの炭素数は、好ましくは15以上、そして、好ましくは21以下である。
一般式(1b)中、n2が1~3でR11bがアルケニル基の場合、R11bの炭素数は、好ましくは17以上、そして、好ましくは21以下である。
一般式(1b)中、R11bは、アルキル基が好ましい。
一般式(1b)中、n2は、好ましくは0又は1である。
【0028】
一般式(1a)又は(1b)中、R2及びR3は、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1もしくは2のアルキル基又は-(C2H4O)pHで表される基であり、より好ましくは炭素数1又は2のアルキル基である。
一般式(1a)又は(1b)中、pは、好ましくは0以上3以下の数である。
n1とn2が同じ数である場合、R11bのアルケニル基はR11aとは異なるアルケニル基である。
【0029】
本発明の好ましい(C)成分として、下記一般式(11a)で表される化合物(11a)と、下記一般式(1b)で表される化合物(1b)とを含有する粉末増粘剤が挙げられる。
【0030】
【0031】
〔式中、
n2は、0以上3以下の整数である。
R11aは、炭素数14以上22以下のアルケニル基である。
R11bは、n2が0のときは炭素数14以上22以下のアルキル基又は炭素数14以上22以下のアルケニル基であり、n2が1~3のときは炭素数13以上21以下のアルキル基又は炭素数13以上21以下のアルケニル基である。
ただし、n1とn2が同じ数である場合、R11bのアルケニル基はR11aとは異なるアルケニル基である。
R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基又は-(C2H4O)pHで表される基である。pは、平均付加モル数であり、R2及びR3の合計で0以上5以下の数である。〕
【0032】
一般式(11a)で表される化合物(11a)は、前記一般式(1a)中、n1が0の化合物に相当する。一般式(11a)中のR11a、R2及びR3の好ましい態様は、一般式(1a)と同じである。この組み合わせにおいても、化合物(1b)の好ましい態様は前記と同じである。
【0033】
(C)成分は、化合物(1b)/化合物(1a)の質量比が、好ましくは5/95以上、より好ましくは25/75以上、更に好ましくは40/60以上、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは75/25以下、更に好ましくは60/40以下である。
【0034】
(C)成分は、化合物(1b)/化合物(11a)の質量比が、好ましくは5/95以上、より好ましくは25/75以上、更に好ましくは40/60以上、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは75/25以下、更に好ましくは60/40以下である。
【0035】
(C)成分は、化合物(1)を、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは55質量%以下、より更に好ましくは50質量%以下含有する。
【0036】
化合物(1)を、当該化合物を含む液状物として取得した場合、この液状物を適当な担体に担持させて粉末化してもよい。
【0037】
(C)成分は、非水硬性無機粉体を含有することができる。非水硬性無機粉体は、(C)成分の効果的な固結防止性の観点で好ましい成分である。
非水硬性無機粉体としては、例えば、非晶質シリカ、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、珪石、高炉スラグ、フライアッシュ、及びシリカヒュームから選ばれる1種以上が挙げられ、非晶質シリカ、炭酸カルシウム、及び高炉スラグから選ばれる1種以上が好ましい。
(C)成分は、非水硬性無機粉体を、例えば、10質量%以上50質量%以下含有することができる。
【0038】
(C)成分は、水溶性高分子化合物を含有することができる。水溶性高分子化合物は、化合物(1)を含む(C)成分を用いる場合の(B)成分と(C)成分との併用効果を維持する観点で好ましい成分である。(C)成分の水溶性高分子化合物について、水溶性とは、20℃の水100gに1g以上溶解することをいう。
水溶性高分子としては、例えば、ポリアルキレングリコール、鹸化されていても良いポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアミドポリアミン/エピクロロヒドリン縮合物、ジメチルアミン/アンモニア/エピクロルヒドリン縮合物、ジメチルアミン/トリメチルアミン/エピクロルヒドリン縮合物、ビニルピロリドン/四級化ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体、ポリオキシアルキレン基を付加してもよい四級化ポリエチレンイミン、ビニルピロリドン/アルキルアミノアクリレート共重合体等のカチオン性高分子化合物等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、例えば、500以上500,000以下であってよい。
(C)成分は、水溶性高分子化合物を、例えば、10質量%以上50質量%以下含有することができる。
【0039】
(C)成分は、アニオン性芳香族化合物を含有することができる。アニオン性芳香族化合物は、化合物(1)を含む(C)成分を用いる場合の増粘効果を効率的に発現させる観点で好ましい成分である。アニオン性芳香族化合物としては、例えば、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸、安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、4-スルホフタル酸、5-スルホイソフタル酸、p-フェノールスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、クメンスルホン酸、メチルサリチル酸、スチレンスルホン酸、クロロ安息香酸等が挙げられる。これらは塩を形成していていも良い。アニオン性芳香族化合物は、2種以上を使用してもよい。アニオン性芳香族化合物は、芳香環を有するスルホン酸、芳香環を有するカルボン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。塩は、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩が好ましい。
(C)成分は、アニオン性芳香族化合物を、例えば、0.5質量%以上30質量%以下含有することができる。
【0040】
(C)成分は、平均粒径が、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上、そして、好ましくは500μm以下、より好ましくは250μm以下、更に好ましくは100μm以下である。この平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-300(株式会社堀場製作所製)を用い、エタノール(95)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を分散媒として使用して粒度分布測定を実施し、メジアン径(D50;μm)として測定、算出されたものである。
【0041】
(C)成分は、嵩密度が、好ましくは0.01g/cm3以上、より好ましくは0.03g/cm3以上、更に好ましくは0.05g/cm3以上、そして、好ましくは0.50g/cm3以下、より好ましくは0.30g/cm3以下、更に好ましくは0.10g/cm3以下である。この嵩密度は、JIS K 6220記載のシリンダー法で測定されたものである。
【0042】
本発明の粘土含有スラリーの製造方法では、まず(A)成分と(B)成分とを混合して混合物を得る。
(A)成分の混合量と(B)成分の混合量との質量比(A)/(B)は、逸水防止性の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは40以下である。
【0043】
本発明の粘土含有スラリーの製造方法では、次いで、(A)成分と(B)成分との前記混合物に、(C)成分を混合する。本発明では、前記混合物に(C)成分を粉末状で混合することで、増粘剤の効果が向上し、用途に応じた適切な粘度を有する粘土含有スラリーを簡易に製造することができる。
【0044】
本発明では、例えば、(B)成分が(A)成分で膨潤した後、(C)成分を前記混合物に混合することができる。(B)成分の膨潤は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-300(株式会社堀場製作所製)を用い、(A)成分であるイオン交換水を分散媒として使用して粒度分布測定を実施、算出した算術平均体積(μm3)が、下記計算式に基づく膨潤倍率として、1.1倍以上となったことで判断できる。
膨潤倍率=(B)成分添加2分後の算術平均体積/(B)成分添加直後の算術平均体積
【0045】
本発明では、例えば、(A)成分と(B)成分とを混合してから、1分以上、更に2分以上、そして、10以下、更に5分以下経過した後、(C)成分を前記混合物に混合することができる。この場合、(A)成分が(B)成分と最初に接触した時点を始点として前記の経過時間を決定することができる。
【0046】
本発明では、(C)成分を、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.025質量部以上、より好ましくは0.050質量部以上、更に好ましくは0.100質量部以上、そして、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは5.0質量部以下、更に好ましくは2.5質量部以下混合する。
【0047】
(C)成分が化合物(1)を含有する粉末増粘剤である場合、(C)成分を、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.25質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上、そして、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは5.0質量部以下、更に好ましくは2.5質量部以下混合する。
【0048】
(C)成分が化合物(1)を含有する粉末増粘剤である場合、(C)成分中の化合物(1)が、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.10質量部以上、更に好ましくは0.20質量部以上、そして、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは5.0質量部以下、更に好ましくは2.0質量部以下となるように(C)成分を混合する。
【0049】
本発明では、(A)~(C)成分以外の成分を用いることもできる。
本発明では(D)pH調整剤〔以下、(D)成分という〕を混合することができる。すなわち、本発明の製造方法で混合する複数の成分が更に(D)成分を含んでいてよい。なお、(D)成分は、(A)~(C)成分とは別途混合する成分である。
(D)成分としては、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物、酸化カルシウムなどの金属酸化物、アルカノールアミンなどのアミノ基を有する有機化合物などが挙げられる。
【0050】
また、本発明では、本発明の効果を損なわない限り、水中でpH調整剤として機能する成分、例えば、アルカリ剤や酸剤となる成分を放出する物質を(A)~(C)成分とは別に用いて(D)成分として用いることができる。例えば、水硬性粉体として知られているセメントは、アルカリ剤として使用することができる。セメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)などが挙げられる。セメントを(D)成分として用いる場合、セメントは、(B)成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上、そして、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下混合することが好ましい。
【0051】
本発明では、粘土含有スラリーの製造に用いる複数の成分のうち、(A)成分と(B)成分とを混合して混合物を得た後、当該混合物に、残余の成分、すなわち(C)成分と必要に応じて任意成分とを混合することが好ましい。また、(A)成分と(B)成分は、それぞれ、スラリーの製造に用いる全量を最初に混合することが好ましい。
【0052】
本発明により製造される粘土含有スラリーは、20℃の粘度が、例えば、50mPa・s以上、更に100mPa・s以上、更に150mPa・s以上、そして、2,000mPa・s以下、更に1,500mPa・s以下、更に1,000mPa・s以下であってよい。
【0053】
本発明により製造される粘土含有スラリーは、粘土の種類や性質などを考慮して、種々の用途に供することができる。本発明により製造される粘土含有スラリーは、掘削液として好適である。そのため、本発明は、掘削液の製造方法であってよい。ここでの掘削液は、掘削安定液、杭周固定液などとして用いられるものであってもよい。
【実施例0054】
<実施例1及び比較例1>
(1)使用材料
下記(A)~(C)成分、及び(D)成分を用いた。
【0055】
<(A)成分:水>
上水道水(和歌山県和歌山市上水)
【0056】
<(B)成分:粘土鉱物>
クニゲル GS(クニミネ工業株式会社製)
【0057】
<(C)成分:粉末状増粘剤>
下記の化合物(1)、非水硬性無機粉体、水溶性高分子、及び芳香族スルホン酸塩を、(A)成分100質量部に対する混合量が表1、2記載の質量部となるように用いて、コーヒーミルGCM-56(デバイススタイルホールディングス)で1分間、粉体が均質となるまで混合し、目開き600μmの篩を通過したもの。
[化合物(1)]
・両性界面活性剤1:オレイルジメチルアミンオキシド(一般式(1a)中、R11a:炭素数18のアルケニル基(オレイル基)、n1:0、R2:メチル基、R3:メチル基)
・両性界面活性剤2:オレイン酸アミドプロピルジメチルアミンオキシド(一般式(1a)中、R11a:炭素数17のアルケニル基、n1:1、R2:メチル基、R3:メチル基)
[非水硬性無機粉体]
・非水硬性無機粉体1:ニップシール NS-K(東ソー・シリカ株式会社製)
・非水硬性無機粉体2:エスメント 4000(日鉄高炉セメント株式会社製)
[水溶性高分子]
・水溶性高分子1:ポリエチレングリコール 4,000(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・水溶性高分子2:ポリエチレンオキサイド(Poly(ethylene oxide)、average MV 200,000、powder、Merck KGaA製)
[芳香族スルホン酸塩]
・メタキシレンスルホン酸Na、SXS-Y(伊藤忠ケミカルフロンティア株式会社製)
【0058】
<(D)成分:pH調整剤>
・普通ポルトランドセメント(比重3.16、太平洋セメント株式会社製)
【0059】
(2)粘土含有スラリーの調製
(A)成分および(B)成分を、表1記載の質量部で2000mLのディスポーザブルカップに投入し、ハンドミキサー MK-H4-W(パナソニック株式会社製)を用い、950rpmの回転速度で2分間混合撹拌して混合物を調製した。この混合物に、粉末状の(C)成分及び必要に応じて(D)成分を表1記載の質量部で混合し、更に950rpmの回転速度で1分間混合撹拌し、実施例の粘土含有スラリーを調製した。実施例の混合方式を表中では「順次」と示した。なお、比較例1-15は、化合物(1)と水とを含有する液状物を(C)成分として、実施例と同じ「順次」の方法で混合した。
比較例の粘土含有スラリーは、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び必要に応じて(D)成分を、表2記載の質量部で、一括で2000mLのディスポーザブルカップに投入し、950rpmの回転速度で3分間混合撹拌して調製した。比較例の混合方式を表中では「一括」と示した。
【0060】
(3)粘土含有スラリーの逸水試験方法
50mLの滴下漏斗に、コックを封止した状態で、3号珪砂を45g充填し、その上部から(2)記載の方法で調製した粘土含有スラリーを25mL入れ、逸水試験開始前の液面高さH0(mL)を記録した。その後、滴下漏斗のコックを開放し、逸水試験開始から10分後の液面高さH10(mL)を記録し、下記式に基づいて残存率(%)を算出して逸水防止性の指標とした。結果を表1、2に記載した。
残存率(%)=(H10/H0)×100
H10:逸水性試験開始から10分後の液面高さ(mL)
H0:逸水性試験開始前の液面高さ(mL)
【0061】
【0062】
【0063】
*1 (A)成分100質量部に対する質量部
*2 (A)成分、(B)成分、及び(D)成分の合計100質量部に対する質量部
*3 (C)成分は液状物で添加、混合した。
【0064】
表の結果から、同じ組成で増粘剤を用いる場合、実施例の混合方式で粘土含有スラリーを製造すると、比較例よりも残存率をより高くすることができ、優れた逸水防止性が得られることがわかる。これは、(A)成分と(B)成分を先に混合したことで、(B)成分が十分に膨潤しながら、減少した自由水を(C)成分が効果的に増粘させたためであると考えられる。なお、表中の残存率の値は、高い水準で実施例が比較例よりも高いことを示しており、数%の違いであっても当業者には有意な違いであることを認識できるものである。