(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184226
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】硫化水素製造装置および硫化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 17/16 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C01B17/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091943
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】山本 一富
(57)【要約】 (修正有)
【課題】製造効率に優れた硫化水素製造装置を提供すること。
【解決手段】本発明の硫化水素製造装置は、内部に液体硫黄充填部2を有する反応器3と、液体硫黄を加熱して硫黄蒸気を生成させる第1加熱手段であるマントルヒーター4と、反応器3に接続された水素供給部材である水素供給管5と、を備え、反応器3の内部には、液体硫黄充填部2の上方に設けられた触媒支持部材6と、触媒支持部材6の上方に設けられた断熱部材7と、を備え、触媒支持部材6、断熱部材7および反応器3の内壁とで形成される空間(触媒充填部8)を加熱する第2加熱手段であるジャケットヒーター9をさらに備え、断熱部材7の一部または断熱部材7の周囲において、断熱部材7の上部空間と下部空間とが連通している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄蒸気と水素ガスとを反応させて硫化水素を製造する硫化水素製造装置であって、
内部に液体硫黄充填部を有する反応器と、
液体硫黄を加熱して硫黄蒸気を生成させる第1加熱手段と、
前記反応器に接続された水素供給部材と、
を備え、
前記反応器の内部には、前記液体硫黄充填部の上方に設けられた触媒支持部材と、前記触媒支持部材の上方に設けられた断熱部材と、を備え、
前記触媒支持部材、前記断熱部材および前記反応器の内壁とで形成される空間を加熱する第2加熱手段をさらに備え、
前記断熱部材の一部または前記断熱部材の周囲において、前記断熱部材の上部空間と下部空間とが連通している、硫化水素製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化水素製造装置であって、
前記断熱部材は、連通孔の設けられた、金属基板ないしセラミックス基板である、硫化水素製造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の硫化水素製造装置であって、
前記触媒支持部材の下面に接してまたは近接して配置された伝熱部材をさらに備える、硫化水素製造装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の硫化水素製造装置であって、
当該装置内表面が耐硫処理されている、硫化水素製造装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の硫化水素製造装置を用いて硫黄蒸気と水素ガスとを反応させることを特徴とする硫化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素製造装置および硫化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化水素の製造方法として、水素ガスと硫黄蒸気とを反応させる方法が知られている。このような硫化水素の製造方法に関する技術としては、例えば、特許文献1(特開2016-150860号公報)に記載のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1等の硫化水素の製造技術では、充分に高い製造効率を実現することが困難であった。また、製造効率の安定性についても改善の余地を有していた。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、硫化水素を高い効率で安定的に生産できる硫化水素製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
硫黄蒸気と水素ガスとを反応させて硫化水素を製造する硫化水素製造装置であって、
内部に液体硫黄充填部を有する反応器と、
液体硫黄を加熱して硫黄蒸気を生成させる第1加熱手段と、
上記反応器に接続された水素供給部材と、
を備え、
上記反応器の内部には、上記液体硫黄充填部の上方に設けられた、触媒支持部材と、上記触媒支持部材の上方に設けられた、断熱部材と、を備え、
上記触媒支持部材、上記断熱部材および上記反応器の内壁とで形成される空間を加熱する第2加熱手段をさらに備え、
上記断熱部材の一部または上記断熱部材の周囲において、上記断熱部材の上部空間と下部空間とが連通している、硫化水素製造装置が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、
上記に記載の硫化水素製造装置において硫黄蒸気と水素ガスとを反応させることを特徴とする硫化水素の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造効率に優れた硫化水素製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の硫化水素製造装置の一例の縦断面図である。
【
図2】本実施形態の硫化水素製造装置の断熱部材の一例の上面図である。
【
図3】本実施形態の硫化水素製造装置の触媒支持部材の一例の上面図である。
【
図4】本実施形態の硫化水素製造装置の他の例の縦断面図である。
【
図5】比較例1の硫化水素製造装置の縦断面図である。
【
図6】実施例1および比較例1の硫化水素製造装置の反応器内の温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
[第1実施形態]
本実施形態の硫化水素製造装置の一例を
図1に示す。
【0012】
図1は硫化水素製造装置1の縦断面図である。
図2は、硫化水素製造装置1が備える断熱部材7の上面図である。
図3は、硫化水素製造装置1が備える触媒支持部材6の上面図である。
【0013】
本実施形態における硫化水素製造装置1は、硫黄蒸気と水素ガスとを反応させて硫化水素を製造する装置である。
硫化水素製造装置1は、内部に液体硫黄充填部2を有する反応器3と、液体硫黄を加熱して硫黄蒸気を生成させる第1加熱手段であるマントルヒーター4と、反応器3に接続された水素供給部材である水素供給管5と、を備える。
【0014】
硫化水素製造装置1は、反応器3の内部に、液体硫黄充填部2の上方に設けられた触媒支持部材6と、触媒支持部材6の上方に設けられた断熱部材7と、を備える。
【0015】
硫化水素製造装置1は、触媒支持部材6、断熱部材7および反応器3の内壁とで形成される触媒充填部8を備え、さらに触媒充填部8を加熱する第2加熱手段であるジャケットヒーター9を備える。
【0016】
反応器3の内部においては、断熱部材7の一部または断熱部材7の周囲において、断熱部材7の上部空間と下部空間とが連通している。
【0017】
マントルヒーター4の加熱により液体硫黄充填部2で発生した硫黄蒸気は、触媒支持部材6に設けられた連通孔161を介して触媒充填部8に供給される。
【0018】
触媒支持部材6には水素供給管用貫通孔162が設けられており、水素供給管5が水素供給管用貫通孔162を貫通して液体硫黄充填部2に接続している。また、触媒支持部材6には温度センサ用貫通孔163が設けられており、温度センサ15が温度センサ用貫通孔163を貫通して液体硫黄充填部2に接続している。
【0019】
また、水素供給管5により液体硫黄充填部2に供給された水素ガスも、触媒支持部材6に設けられた連通孔161を介して触媒充填部8に供給される。水素ガスの供給量は、水素供給管5に設けられた水素供給調節弁13により調節可能である。
【0020】
そして、触媒充填部8において硫黄蒸気と水素ガスとが反応し、硫化水素ガスが生成する。
【0021】
生成された硫化水素ガスは、断熱部材7の上部空間と下部空間とが連通している部分を介して、断熱部材7の上部空間に供給され、断熱部材7の上部空間に接続されている、硫化水素回収部材である硫化水素回収管10により回収される。硫化水素ガスの回収量は、硫化水素回収管10に設けられた硫化水素回収調節弁14により調節可能である。
【0022】
硫化水素回収管10には圧力調整弁11が設けられており、圧力調整弁11の開閉により反応器3の内部の圧力を調整可能である。また、硫化水素回収管10には硫化水素検出器12が設けられており、硫化水素の流量を検出することが可能である。
【0023】
本発明者は、従来の硫化水素製造装置において、硫化水素の製造効率や硫化水素の出力の安定性が充分でなかった理由について、種々検討を行った。その結果、硫化水素生成反応の場である触媒充填部8内部の温度分布を高度に制御することで、硫化水素を高い効率で安定的に生産できることを知見した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0024】
本実施形態の硫化水素製造装置1には装置上部に断熱部材7が設けられているため、硫化水素製造装置1上部からの熱の放出が防止され、硫化水素生成反応の場である触媒充填部8内部全体の温度が高く維持されるようになっており、その結果として触媒充填部8内の温度分布を高度に制御することができる。したがって、本実施形態の硫化水素製造装置1によれば硫化水素を高い効率で安定的に生産できる。
【0025】
以下、本実施形態の硫化水素製造装置1が備える各部の構成について説明する。
【0026】
(反応器3)
反応器3では、水素ガスと硫黄蒸気との反応により硫化水素が生成されている。
【0027】
反応器3は、液体硫黄充填部2の上方に設けられた触媒支持部材6と、触媒支持部材6の上方に設けられた断熱部材7と、を備える。
液体硫黄充填部2で発生した硫黄蒸気は、触媒支持部材6、断熱部材7および反応器3の内壁によって囲まれた空間(触媒充填部8)へと供給され、触媒充填部8において硫黄蒸気と水素ガスとが反応し、硫化水素が生成される。
反応器3には水素供給管5が接続されており、水素供給管5から水素ガスが供給される。
【0028】
水素供給管5は、水素ガスの出口である水素供給口500が触媒支持部材6に対して下方に位置するように配置されることが好ましい。水素ガスは空気よりも比重が小さいため、触媒支持部材6に対して下方から供給されることにより、反応器3の上方に向かって通気し、触媒充填部8に充填された触媒と効率よく接触できるためである。また、水素ガスが反応器3の上方に向かって通気し続けることにより、フレッシュな水素ガスが絶えず供給される。
【0029】
断熱部材7には、
図2に示すように、複数の連通孔171が設けられていることが好ましい。このようにすることにより、液体硫黄充填部2で発生した硫黄蒸気や、水素供給管5から供給された水素ガスが、連通孔171を介して触媒充填部8に効率よく供給されるからである。
【0030】
触媒支持部材6には、
図3に示すように、複数の連通孔161が設けられていることが好ましい。このようにすることにより、液体硫黄充填部2で発生した硫黄蒸気や、水素供給管5から供給された水素ガスが、連通孔161を介して触媒充填部8に効率よく供給されるからである。
【0031】
触媒充填部8において、触媒は反応器3の内壁面に接するように層状に充填されていることが好ましい。このようにすると、反応器3の内壁面からの熱伝達により触媒を加熱でき、加熱効率を高くすることができるためである。
【0032】
触媒充填部8の温度は、全ての領域において、好適には300℃以上であり、より好適には330℃以上であり、さらに好適には360℃以上である。触媒充填部の温度が全ての領域において上記下限値以上であることにより、硫化水素を高い効率で安定的に生産できるようになる。
触媒充填部8の温度は、全ての領域において、好適には500℃以下であり、より好適には480℃以下であり、さらに好適には450℃以下である。触媒充填部の温度が全ての領域において上記上限値以下であることにより、過度な加熱による触媒の失活を防止すること、装置の耐硫性を維持することが可能になる。
尚、触媒充填部8の温度は、通常、触媒充填部8の水平方向中心部において測定される。
【0033】
触媒充填部8に充填される触媒は、硫化水素生成反応を促進するための触媒であり、耐硫化性と耐水素化性を併せ持つ材料により構成されていることが好ましく、例えば、活性炭、ゼオライト、および活性アルミナから選択される一種または二種以上の材料により構成されている。触媒は、不純物を低減させる観点から、ゼオライトおよび活性アルミナから選択される一種または二種以上の材料により構成されていることが好ましく、低価格で高温での安定性が高い活性アルミナにより構成されていることが特に好ましい。
また、水素ガスと硫黄蒸気との反応をより効果的に促進する観点から、触媒の細孔には銀、プラチナ、モリブデン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム等の金属が担持されていてもよい。
【0034】
反応器3の材質としては、硫黄による腐食を防止するという観点から、石英、窒化ホウ素、窒化ケイ素、アルミニウム、ステンレス等から選択される一種または二種以上の耐硫材料により構成されていることが好ましい。
【0035】
また、反応器3は、装置内表面が耐硫処理されていることが好ましい。
耐硫処理の手段としては、スズめっき、クロムめっき、金めっき、溶融アルミニウムめっき、またはこれらの金属を含有する合金めっき等、耐硫化性能の高い金属または合金によるめっき処理を挙げることができる。
【0036】
また、耐硫処理の手段として金属拡散滲透処理(カロライジング処理)を用いてもよい。カロライジング処理とは、被処理物にアルミニウムなどの金属を拡散滲透させる処理である。被処理物をカロライジング処理することにより、被処理物表面に金属拡散滲透層が形成されると、耐硫化性能が向上することが知られている。
たとえば、被処理物をFe-Al合金粉及びNH4Cl粉よりなる調合剤と共に鋼製ケース内に埋め込み、ケースを密閉し、それを炉内にて加熱することにより、被処理物表面にアルミニウムが拡散滲透されたアルミニウム拡散滲透層を形成することが可能である。
【0037】
(マントルヒーター4)
本実施形態の硫化水素製造装置1では、液体硫黄充填部2を加熱して硫黄蒸気を発生させる第1加熱手段として、マントルヒーター4を用いている。
【0038】
液体硫黄充填部2の温度は、例えば180℃以上445℃以下であり、好適には250℃以上400℃以下であり、より好適には300℃以上350℃以下である。液体硫黄充填部2の温度が上記の範囲内であることにより、硫黄蒸気を安定的に発生させることが可能になる。
【0039】
マントルヒーター4の温度は、液体硫黄充填部2の温度を上述の温度域に調整できるように構成されている。
必要な加熱温度は液体硫黄充填部2の径や触媒の充填量に伴い変化するため、マントルヒーター4の温度域は特に限定されないが、好適には250℃以上400℃以下であり、より好適には300℃以上350℃以下である。
【0040】
本実施形態においては、第1加熱手段としてマントルヒーター4を用いたが、これに限らず、液体硫黄充填部2を加熱可能であればどのようなものであってもよい。
【0041】
(水素供給管5)
水素供給管5は、反応器3に水素ガスを供給するための部材である。
【0042】
水素供給管5は、水素ガスの出口である水素供給口500が触媒支持部材6に対して下方に位置するように配置されることが好ましい。水素ガスは空気よりも比重が小さいため、触媒支持部材6に対して下方から供給されることにより、反応器3の上方に向かって通気し、触媒充填部8に充填された触媒と効率よく接触できるためである。また、水素ガスが反応器3の上方に向かって通気し続けることにより、フレッシュな水素ガスが絶えず供給される。
【0043】
水素供給管5は、水素ガスの供給量を調節する水素供給調節弁13を有していてもよい。水素供給調節弁13の開閉を調節することにより水素ガスの供給量を制御することが可能であり、このことは、反応器3で行われる硫化水素生成反応を制御するという観点から好適である。
【0044】
水素供給管5の材質としては、反応器3の材質として上述したものを用いることが可能である。
【0045】
本実施形態においては、水素供給部材として水素供給管5を用いたが、これに限らず、反応器3に水素ガスを供給することが可能であればどのような水素供給部材であってもよい。
【0046】
(触媒支持部材6)
触媒支持部材6は、硫化水素生成反応を促進するための触媒を載置するための部材であり、液体硫黄充填部2の上方に設けられている。
【0047】
上述の通り、反応器3の内壁面からの熱伝達による加熱を可能にするため、触媒は、反応器3の内壁面に接するように層状に充填されていることが好ましい。したがって、触媒支持部材6は、触媒をこのように載置することができるようにするため、反応器3の内壁面に接するように配置されることが好ましい。
【0048】
触媒支持部材6には、
図3に示すように、複数の連通孔161が設けられていることが好ましい。触媒支持部材6に複数の連通孔161が設けられていることにより、液体硫黄充填部2で発生した硫黄蒸気や、水素供給管5から供給された水素が、複数の連通孔161を通して、効率よく触媒充填部8に供給されるようになるためである。
【0049】
触媒支持部材6は、触媒を載置することができればどのような材質、形状の部材であってもよい。たとえば、触媒支持部材の材質としては、金属やセラミックス等を挙げることができる。
【0050】
触媒支持部材6の形状としては、パンチングメタルのように連通孔が設けられたものであることが好ましい。たとえば、ステンレスメッシュやアルミニウムメッシュなどの金属メッシュ;ステンレスパンチング、アルミニウムパンチングなどのパンチングメタル;ステンレスエキスパンド、アルミニウムエキスパンドなどのエキスパンドメタル等から選択される一種または二種以上の多孔性板等を用いることができる。
【0051】
必要に応じて、触媒支持部材6として、上述した多孔性板を二枚以上重ねて用いてもよい。
【0052】
触媒支持部材6に設けられた連通孔161の面積比は、硫黄蒸気と触媒との接触効率向上の観点から、通常は10%以上50%以下であり、好適には20%以上40%以下である。
【0053】
触媒支持部材6に設けられた連通孔の径は、載置する触媒の径にもよるが、通常は26μm以上1000μm以下であり、好適には45μm以上800μm以下である。
【0054】
触媒支持部材6には水素供給管用貫通孔162が設けられていてもよく、その場合、水素供給管5が水素供給管用貫通孔162を貫通して液体硫黄充填部2に接続する。
また、触媒支持部材6には温度センサ用貫通孔163が設けられていてもよく、その場合、温度センサ15が温度センサ用貫通孔163を貫通して液体硫黄充填部2に接続する。
【0055】
触媒支持部材6の材質としては、反応器3の材質として上述したものを用いることが可能である。
【0056】
(断熱部材7)
断熱部材7は、反応器3内部を断熱するための部材であり、触媒支持部材6の上方に設けられている。
【0057】
断熱部材7が設けられていることにより、硫化水素製造装置1上部からの熱の放出が防止され、硫化水素生成反応の場である触媒充填部8内部全体の温度が高く維持されるようになっており、その結果として触媒充填部8内の温度分布を高度に制御することができる。したがって、本実施形態の硫化水素製造装置1によれば硫化水素を高い効率で安定的に生産できる。
本実施形態の硫化水素製造装置1においては、硫黄蒸気発生の場である液体硫黄充填部2が存在する装置下部に比較して、装置上部のほうがより温度が低下しやすい傾向にある。したがって、断熱部材7により硫化水素製造装置1上部からの熱の放出を防止することは、触媒充填部8内の温度分布を高度に制御するにあたり有効な手段である。
【0058】
図1に示すように、断熱部材7は、触媒充填部8の上方にあって触媒充填部8の全体を覆うように構成されていることが好ましい。このようにされていることで、反応器3外部への熱の放出が一層防止されようになる。
また、断熱部材7の側面は、
図1に示されるように、反応器3の内壁に接するように設けられていることが好ましい。このようにすることで、断熱部材7も加熱され、断熱部材7自体も一定の熱容量を有するため、断熱部材7による保温効果がより一層高まる。
【0059】
本実施形態の硫化水素製造装置1は、断熱部材7の一部または断熱部材7の周囲において、断熱部材7の上部空間と下部空間とが連通している。このような態様を実現するために、断熱部材は、連通孔の設けられた、金属基板ないしセラミックス基板であることが好ましい。
【0060】
断熱部材7には、
図2に示すように、連通孔171が設けられていることが好ましい。連通孔171が設けられることで、生成した硫化水素が複数の連通孔171を介して断熱部材7上部に移動し、断熱部材7の上部空間に接続されている硫化水素回収管10により回収されることが可能になる。
【0061】
断熱部材7としては、たとえば、ステンレスメッシュ、アルミニウムメッシュなどの金属メッシュ;ステンレスパンチング、アルミニウムパンチングなどのパンチングメタル;ステンレスエキスパンド、アルミニウムエキスパンドなどのエキスパンドメタル等から選択される一種または二種以上の多孔性板等を用いることができる。
【0062】
必要に応じて、上述した多孔性板を二枚以上重ねて断熱部材7として用いることも可能である。
【0063】
断熱部材7に設けられた連通孔の面積比は、断熱効率向上と硫化水素回収向上のバランスの観点から、通常は0.2%以上50%以下であり、好適には0.5%以上40%以下である。
【0064】
断熱部材7に設けられた連通孔の径は、通常は26μm以上10000μm以下であり、好適には45μm以上5000μm以下である。
【0065】
断熱部材7には水素供給管用貫通孔172が設けられていてもよく、その場合、水素供給管5が水素供給管用貫通孔172を貫通して液体硫黄充填部2に接続する。また、断熱部材7には温度センサ用貫通孔173が設けられていてもよく、その場合、温度センサ15が温度センサ用貫通孔173を貫通して液体硫黄充填部2に接続する。
【0066】
(ジャケットヒーター9)
本実施形態の硫化水素製造装置1では、第2加熱手段として、ジャケットヒーター9を用いている。ジャケットヒーター9は、触媒支持部材、断熱部材および反応器の内壁とで形成される空間(触媒充填部8)を加熱する。すなわち、触媒支持部材および触媒支持部材の上部の空間を加熱する。これにより、触媒を加熱して硫化水素生成反応を促進させることができる。
【0067】
ジャケットヒーター9の温度は、触媒充填部8の温度を上述の温度域に調整できるように構成されている。
【0068】
必要な加熱温度は触媒充填部8の径や触媒の充填量に伴い変化するため、ジャケットヒーター9の温度域は特に限定されないが、かかる温度域としては、好適には300℃以上であり、より好適には330℃以上であり、さらに好適には360℃以上である。
ジャケットヒーター9の温度が上記下限値以上に調整されていることにより、硫化水素を高い効率で安定的に生産できるようになる。
【0069】
また、かかる温度域としては、好適には500℃以下であり、より好適には480℃以下であり、さらに好適には450℃以下である。
ジャケットヒーター9の温度が上記上限値以下に調整されていることにより、過度な加熱による触媒の失活を防止すること、装置の耐硫性を維持することが可能になる。
【0070】
本実施形態においては、第2加熱手段としてジャケットヒーター9を用いたが、これに限らず、触媒支持部材、断熱部材および反応器の内壁とで形成される空間を加熱することができればどのような加熱手段であってもよい。
【0071】
(硫化水素回収管10)
本実施形態の硫化水素製造装置1では、反応器3から硫化水素ガスを回収する硫化水素回収部材として、硫化水素回収管10を用いている。
【0072】
硫化水素回収管10は、硫化水素ガスの回収量を調節する硫化水素回収調節弁14を有していてもよい。硫化水素回収調節弁14の開閉を調節することで、硫化水素ガスの回収量を調節することが可能であり、たとえば、このことは、硫化水素製造装置の下流にさらに他の反応装置が接続されている場合に、下流における化学反応を制御可能であるという観点から好適である。
【0073】
硫化水素回収管10には、圧力調整弁11が設けられていてもよい。圧力調整弁11の開閉により反応器3の内部の圧力を調整することが可能である。
【0074】
また、硫化水素回収管10には、硫化水素の流量を検出する硫化水素検出器12が設けられていてもよい。
【0075】
(温度センサ15)
温度センサ15は、反応器3の各領域の温度を測定するための部材である。
【0076】
反応器3の温度は、通常、反応器3の水平方向中心部において測定されるため、温度センサ15は、反応器3の水平方向中心部に配置されていることが好ましい。
【0077】
[第2実施形態]
本実施形態の硫化水素製造装置は、触媒支持部材の下面に接してまたは近接して配置された、伝熱部材をさらに備えてもよい。
図4はこのようにした硫化水素製造装置21の縦断面を示す模式図である。
【0078】
触媒支持部材6の下部に伝熱部材22を設けることで、反応器3の外側を覆っているジャケットヒーター9からの熱が触媒充填部の中心方向へ伝わりやすくなり、触媒充填部の水平方向における均熱性が改善される。
【0079】
伝熱部材22は、触媒充填部8の内壁に接するように配置されていることが好ましい。ジャケットヒーター9からの熱をより効率的に伝搬させるためである。
【0080】
伝熱部材22には、複数の連通孔が設けられていることが好ましい。伝熱部材に複数の連通孔が設けられていることにより、複数の連通孔を通して、液体硫黄充填部2で発生した硫黄蒸気や、水素供給管5から供給された水素ガスが、触媒充填部8に効率よく供給されるようになるためである。
【0081】
伝熱部材22の材質は特に限定されず、反応器3の材質として上述したものを用いることができるが、耐硫化性および熱伝導性に優れた材料を用いることが好適であり、たとえばアルミニウム、アルミニウム合金、窒化アルミニウム等を用いることが好ましい。
【0082】
また、伝熱部材22の形状としては、連通孔が設けられた適度な厚みを有する板であることが好ましい。たとえば、ステンレス板またはアルミニウム板に連通孔を設けた厚みが20mm以上の板等から選択される一種または二種以上の多孔性板等を用いることができる。
【0083】
必要に応じて、上述した多孔性板を二枚以上重ねて伝熱部材として用いることも可能である。
【0084】
伝熱部材22に連通孔が設けられていることにより、液体硫黄充填部2から供給される硫黄蒸気と、触媒との接触効率を向上させることが可能である。
【0085】
伝熱部材22に設けられた連通孔の面積比は、伝熱の向上ならびに硫黄蒸気と触媒との接触効率向上の観点から、通常は0.2%以上50%以下であり、好適には0.5%以上40%以下である。
【0086】
伝熱部材22に設けられた連通孔の径は、通常は26μm以上10000μm以下であり、好適には45μm以上5000μm以下である。
【0087】
伝熱部材22には水素供給管用貫通孔が設けられていてもよく、その場合、水素供給管5が水素供給管用貫通孔を貫通して液体硫黄充填部2に接続する。また、伝熱部材22には温度センサ用貫通孔が設けられていてもよく、その場合、温度センサ15が温度センサ用貫通孔を貫通して液体硫黄充填部2に接続する。
【0088】
[変形例]
本実施形態の硫化水素製造装置は、上記で説明した部材以外の部材を備えていてもよい。
【0089】
また、本実施形態の硫化水素製造装置は、各部が一体に形成されていてもよい。
【0090】
本実施形態の硫化水素製造装置の下流に、さらに他の反応装置が接続されていてもよい。
たとえば、本実施形態の硫化水素製造装置の下流にリチウム等の金属の硫化物を生成させる反応装置を接続し、本実施形態の硫化水素製造装置で製造された硫化水素を供給してもよい。
【0091】
[硫化水素の製造プロセス]
本実施形態の硫化水素製造装置を用いた硫化水素の製造プロセスについて説明する。
【0092】
まず、マントルヒーター4により液体硫黄充填部2に充填された液体硫黄を加熱し、硫黄蒸気を発生させる。
【0093】
液体硫黄充填部2の温度としては、硫黄蒸気が発生する温度であれば特に限定されず、例えば180℃以上445℃以下であり、好適には250℃以上400℃以下であり、より好適には300℃以上350℃以下である。
液体硫黄充填部2の温度が上記下限値以上であることにより、硫黄蒸気圧がより適度となり、得られる硫化水素ガスの濃度が高くなるので、硫化水素の生成をより効率的におこなうことができる。また、液体硫黄の温度が上記上限値以下であることにより、硫黄蒸気圧を1気圧以下にすることができ、水素ガスと反応せずに反応器を通過する硫黄の量を抑制することができる。
【0094】
本実施形態の硫化水素製造装置を用いた硫化水素の製造プロセスにおいては、ジャケットヒーター9によって加熱された触媒に対し、硫黄蒸気と水素ガスを供給することにより、触媒表面上で水素ガスと硫黄蒸気を反応させ、硫化水素ガスを発生させる。
【0095】
この際、水素ガスの供給量を過剰にすることで、硫化水素ガスを水素ガスで希釈された状態で回収することが可能である。これにより、圧力調整時や反応終了時等に発生する排ガス中に含まれる硫化水素ガスの濃度を低減できるため、排ガス処理をより単純なものにすることができる。
【0096】
回収時における硫化水素ガスの濃度は、好ましくは1体積%以上であり、より好ましくは3体積%以上である。また、回収時における硫化水素ガスの濃度は、好ましくは50体積%以下であり、より好ましくは30体積%以下である。
【0097】
本実施形態の硫化水素製造装置を用いた硫化水素の製造プロセスにおいては、硫化水素製造装置1の装置上部に断熱部材7が設けられているため、装置下部に設けられた液体硫黄充填部2(硫化水素ガスの発生源)から遠い領域の温度低下が防止され、触媒充填部8全体の温度が高く維持されるようになっている。その結果として硫化水素生成反応の場である触媒の温度を高度に制御することができ、硫化水素を高い効率で安定的に生産できる。
【0098】
触媒充填部8内の温度は、全ての領域において、好適には300℃以上であり、より好適には330℃以上であり、さらに好適には360℃以上である。
触媒充填部の温度が全ての領域において上記下限値以上であることにより、硫化水素を高い効率で安定的に生産できるようになる。
【0099】
触媒充填部8内の温度は、全ての領域において、好適には500℃以下であり、より好適には480℃以下であり、さらに好適には450℃以下である。
触媒充填部の温度が全ての領域において上記上限値以下であることにより、過度な加熱による触媒の失活を防止すること、装置の耐硫性を維持することが可能になる。
【0100】
本実施形態の硫化水素製造装置を用いた製造プロセスにより得られる硫化水素は、たとえば、リチウム等の金属を硫化させる反応に用いることができる。
本実施形態の硫化水素製造装置を用いた製造プロセスにより得られる硫化水素を用いて硫化されることにより得られた硫化物は、例えば、電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料、化学薬品の中間原料として好適に用いることができる。
【実施例0101】
(実施例1)
第2実施形態で説明した
図4の硫化水素製造装置を作製した。
【0102】
硫化水素製造装置の作成に用いた各部材は下記の通りである。
・反応器3 アルミニウムで内壁がカロライジング処理されたSUS316L製反応管(内径133.8mm高さ672mm)
・水素供給管5 アルミニウムで内壁がカロライジング処理されたSUS316L製パイプ(直径15mm長さ750mm)
・触媒支持部材6 アルミニウム製パンチングメタル(直径133mm、厚み0.5mm、孔径0.5mm、孔径の面積比27.9%)
・断熱部材7 アルミニウム製パンチングメタル(直径133mm、厚み1.5mm、孔径5mm、孔径の面積比32.1%)1枚と、アルミニウム製パンチングメタル(直径133mm、厚み0.5mm、孔径0.5mm、孔径の面積比27.9%)1枚とを8mm間隔で重ねたもの
・伝熱部材22 アルミニウム製板材(直径133mm、厚み20mm、孔径5mm、孔径の面積比8.3%)
【0103】
反応器3に硫黄520gを充填し、硫黄を充填した上部に伝熱部材22を配置した。伝熱部材22の上部に触媒支持部材6を配置し、触媒支持部材6上に活性アルミナ(直径1~2mm、比表面積270m2/g)1.1kgを充填した。活性アルミナを充填した上部に断熱部材7を配置した。
反応器3上方から温度センサ15を貫通させ、温度センサ15の先端は反応器3底面に到達するようにした。温度センサ15は反応器3の水平方向中心部を貫通するようにした。また、反応器3上方から水素供給管5を貫通させ、水素供給管5の水素供給口500は液体硫黄充填部2に到達するようにした。
【0104】
次いで、水素供給管5から液体硫黄充填部2に水素ガスを流量1.0L/minで導入した。次いで、マントルヒーター4の温度を200℃、ジャケットヒーター9の温度を400℃にし、液体硫黄充填部2と触媒充填部8をそれぞれ加熱した。これにより、水素ガスと硫黄蒸気とを反応させ、硫化水素ガスを発生させた。
【0105】
(比較例1)
断熱部材7と伝熱部材22とを除いた以外は実施例1と同様にして硫化水素製造装置31を作製し、硫化水素ガスを発生させた。硫化水素製造装置31の構成を
図5に示す。
【0106】
実施例1および比較例1の硫化水素製造装置において、加熱開始から150分経過後に温度センサ15で測定された反応器3の各領域の温度を
図6に示す。
【0107】
図6によると、断熱部材および伝熱部材を備える実施例1の硫化水素製造装置では、触媒充填部の温度が400℃を超えていた。一方、断熱部材および伝熱部材を備えない比較例1の硫化水素製造装置では、触媒充填部の温度が実施例1と比較して低く、400℃を下回っていた。このことから、本実施形態の硫化水素製造装置は、触媒充填部の内部が高い温度で維持されるため、硫化水素を高い効率で安定的に生産できるものと解される。