(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184229
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】硫化リチウム製造装置および硫化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 17/22 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C01B17/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021091946
(22)【出願日】2021-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】山本 一富
(57)【要約】 (修正有)
【課題】硫化リチウムを高い効率で安定的に生産できる硫化リチウム製造装置を提供する。
【解決手段】本発明の硫化リチウム製造装置1は、内部に水酸化リチウム充填部2を有する反応器3と、水酸化リチウムを加熱する加熱手段であるジャケットヒーター4と、反応器3に接続された硫化水素供給部材である硫化水素供給管5と、を備え、反応器3の内部には、水酸化リチウム充填部2の上方に断熱部材6が設けられ、断熱部材6の一部または断熱部材6の周囲において、断熱部材6の上部空間と下部空間とが連通している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化水素と水酸化リチウムとを反応させて硫化リチウムを製造する硫化リチウム製造装置であって、
内部に水酸化リチウム充填部を有する反応器と、
水酸化リチウムを加熱する加熱手段と、
前記反応器に接続された硫化水素供給部材と、
を備え、
前記反応器の内部には、前記水酸化リチウム充填部の上方に断熱部材が設けられ、
前記断熱部材の一部または前記断熱部材の周囲において、前記断熱部材の上部空間と下部空間とが連通している、硫化リチウム製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化リチウム製造装置であって、
前記水酸化リチウム充填部の底面に接してまたは近接して配置された、伝熱部材をさらに備える、硫化リチウム製造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の硫化リチウム製造装置であって、
当該装置内表面が耐硫処理されている、硫化リチウム製造装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の硫化リチウム製造装置を用いて硫化水素ガスと水酸化リチウムとを反応させることを特徴とする硫化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化リチウム製造装置および硫化リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化リチウムの製造方法として、硫化水素ガスと水酸化リチウムとを反応させる方法が知られている。このような硫化リチウムの製造方法に関する技術としては、例えば、特許文献1(特開2016-150860号公報)に記載のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1等の硫化リチウムの製造技術では、充分に高い製造効率を実現することが困難であった。また、製造効率の安定性についても改善の余地を有していた。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、硫化リチウムを高い効率で安定的に生産できる硫化リチウム製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来の硫化リチウム製造装置の硫化リチウム製造効率が充分でなかった理由について、種々検討を行った。その結果、硫化リチウム生成反応の場である水酸化リチウム充填部の温度分布を高度に制御することで、硫化リチウムを高い効率で安定的に生産できることを知見した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0007】
本発明によれば、
硫化水素と水酸化リチウムとを反応させて硫化リチウムを製造する硫化リチウム製造装置であって、
内部に水酸化リチウム充填部を有する反応器と、
水酸化リチウムを加熱する加熱手段と、
上記反応器に接続された硫化水素供給部材と、
を備え、
上記反応器の内部には、上記水酸化リチウム充填部の上方に断熱部材が設けられ、
上記断熱部材の一部または上記断熱部材の周囲において、上記断熱部材の上部空間と下部空間とが連通している、硫化リチウム製造装置が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記に記載の硫化リチウム製造装置を用いて硫化水素ガスと水酸化リチウムとを反応させることを特徴とする硫化リチウムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造効率に優れた硫化リチウム製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の硫化リチウム製造装置の一例の縦断面図である。
【
図2】本実施形態の硫化リチウム製造装置の断熱部材の上面図である。
【
図3】本実施形態の硫化リチウム製造装置の水酸化リチウム支持部材の上面図である。
【
図4】本実施形態の硫化リチウム製造装置の他の例の縦断面図である。
【
図5】実施例1の硫化リチウム製造装置の縦断面図である。
【
図6】実施例2の硫化リチウム製造装置の縦断面図である。
【
図7】比較例1の硫化リチウム製造装置の縦断面図である。
【
図8】比較例2の硫化リチウム製造装置の縦断面図である。
【
図9】実施例1~2および比較例1~2の硫化リチウム製造装置の反応器の温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
[第1実施形態]
本実施形態の硫化リチウム製造装置の一例を
図1~
図3を参照して説明する。
【0013】
図1は、硫化リチウム製造装置1の縦断面図である。
図2は、硫化リチウム製造装置1が備える断熱部材6の上面図である。
図3は、硫化リチウム製造装置1が備える水酸化リチウム支持部材7の上面図である。
【0014】
硫化リチウム製造装置1は、内部に水酸化リチウム充填部2を有する反応器3と、水酸化リチウムを加熱する加熱手段であるジャケットヒーター4と、反応器3に接続された硫化水素供給部材である硫化水素供給管5と、を備える。
反応器3の内部において、水酸化リチウム充填部2の上方には断熱部材6が設けられ、断熱部材6の一部または断熱部材6の周囲において、断熱部材6の上部空間と下部空間とが連通している。
【0015】
本実施形態の硫化リチウム製造装置1においては、反応器3の上方に断熱部材6が設けられているため、反応器3外部への熱の放出が防止され、水酸化リチウム充填部2全体の温度が高く且つ均一に維持されるようになっている。このため、硫化水素ガスと水酸化リチウムとの反応場が高い温度で高精度に制御され、硫化リチウムを高い生産効率で安定的に生産することができる。
【0016】
以下、本実施形態の硫化リチウム製造装置の各部の構成について説明する。
【0017】
(反応器3)
反応器3の内部では、水酸化リチウム(固体)と硫化水素ガスとの反応により、硫化リチウム(固体)が生成される。
【0018】
反応器3には硫化水素供給管5が接続されており、硫化水素供給管5から硫化水素が供給される。
【0019】
また、反応器3には、水酸化リチウム支持部材7が備えられており、水酸化リチウム支持部材7、断熱部材6および反応器3の内壁によって囲まれた空間を水酸化リチウム充填部2と呼ぶ。
【0020】
水酸化リチウム支持部材7上には水酸化リチウム(図示せず)が載置される。
【0021】
硫化水素供給管5は、水酸化リチウム支持部材7に対して下方に位置することが好ましい。硫化水素ガスを水酸化リチウム支持部材7に対して下方から供給されることにより、反応器3の上方に向かって通気し、水酸化リチウム充填部2に充填された水酸化リチウムと接触することで硫化水素ガスより比重の小さい副生成物である水(水蒸気)が効率よく排出されるためである。また、硫化水素ガスが反応器3の上方に向かって通気し続けることにより、フレッシュな硫化水素ガスが絶えず供給される。
【0022】
水酸化リチウム支持部材7には、
図3に示すように、複数の連通孔171が設けられていることが好ましい。このようにすることにより、硫化水素供給管5から供給された硫化水素ガスが、連通孔171を介して水酸化リチウム充填部2に効率よく供給されるからである。
【0023】
硫化水素供給管5から供給された硫化水素ガスは、水酸化リチウム充填部2に充填された水酸化リチウム(固体)の表面に接触する。
【0024】
水酸化リチウム(固体)の表面では、下記(1)式のような反応が起きていると考えられる。
2LiOH+H2S→Li2S+2H2O(1)
【0025】
反応器3内部の水酸化リチウム充填部2において、水酸化リチウムは層状に充填され、層状に充填された水酸化リチウムが反応器3の内壁面に接するようにされていることが好ましい。このようにすると、水酸化リチウム充填部2の内壁面からの熱伝達により加熱できるため、加熱効率を高くすることができるためである。
【0026】
水酸化リチウム充填部2の温度は、上記の反応を促進する観点、また水酸化リチウムの溶融を防止する観点から、通常100~445℃、好適には130~410℃に調整される。尚、水酸化リチウム充填部2の温度は、通常、水酸化リチウム充填部2の水平方向中心部において測定される。
【0027】
断熱部材6には、
図2に示すように、複数の連通孔161が設けられていることが好ましい。断熱部材に複数の連通孔161が設けられていることにより、未反応の硫化水素ガスや、硫化水素ガスと水酸化リチウムとの反応で生成する水を含む排ガスが連通孔171を介して反応器3の外部に排出されるためである。
【0028】
反応器3の材質としては、金属やセラミックス等を挙げることができるが、耐硫性のある材質でありことが好ましい。耐硫性のある材質としては、例えば、ステンレス、アルミニウム等の金属系の耐硫性素材や、石英、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミックス系の耐硫性素材等を挙げることができる。
【0029】
反応器3は、内表面が耐硫処理されていることが好ましい。
【0030】
耐硫処理の手段としては、スズめっき、クロムめっき、金めっき、溶融アルミニウムめっきまたはこれらの金属を含有する合金めっき等、耐硫化性能の高い金属または合金によるめっき処理を挙げることができる。
【0031】
また、耐硫処理の手段として金属拡散滲透処理を用いてもよい。被処理物を金属拡散滲透処理することにより、被処理物表面に金属拡散滲透層が形成されると、耐硫化性能が向上することが知られている。
たとえば、アルミニウムを拡散滲透処理するカロライジング処理を用いることができる。カロライジング処理では被処理物をFe-Al合金粉及びNH4Cl粉よりなる調合剤と共に鋼製ケース内に埋め込み、ケースを密閉し、それを炉内にて加熱することにより、被処理物表面にアルミニウムが拡散滲透されたアルミニウム拡散滲透層を形成して被処理物の耐硫化性能を向上することが可能である。
【0032】
(ジャケットヒーター4)
本実施形態では、水酸化リチウムを加熱する加熱手段としてジャケットヒーター4を用いている。
【0033】
すなわち、ジャケットヒーター4は、水酸化リチウム支持部材7および水酸化リチウム支持部材7の上部の空間を加熱する。これにより、水酸化リチウム充填部2に充填された水酸化リチウムを加熱して硫化リチウム生成反応を促進させることができる。
【0034】
ジャケットヒーター4の温度は、水酸化リチウム充填部2の温度を上述の温度域に調整可能なように構成されている。必要な加熱温度は水酸化リチウム充填部2の径や触媒の充填量に伴い変化するため、ジャケットヒーター4の温度域は特に限定されないが、好適には100~445℃であり、より好適には130~410℃である。
【0035】
また、本実施形態においては、加熱手段としてジャケットヒーター4を用いたが、これに限らず、水酸化リチウムを加熱することが可能であればどのような加熱手段であってもよい。たとえば、加熱した硫化水素ガスを導入する方法、高周波誘導加熱装置等を用いることもできる。
【0036】
(硫化水素供給管5)
硫化水素供給管5は、反応器3に硫化水素ガスを供給するための部材である。
【0037】
硫化水素供給管5は、水酸化リチウム支持部材7に対して下方に位置することが好ましい。硫化水素ガスを水酸化リチウム支持部材7に対して下方から供給されることにより、反応器3の上方に向かって通気し、水酸化リチウム充填部2に充填された水酸化リチウムと接触することで硫化水素ガスより比重の小さい副生成物である水(水蒸気)が効率よく排出されるためである。また、硫化水素ガスが反応器3の上方に向かって通気し続けることにより、フレッシュな硫化水素ガスが絶えず供給される。
【0038】
硫化水素供給管5は、
図1に示したように、硫化水素ガスの供給量を調節する硫化水素供給調節弁8を有していてもよい。硫化水素供給調節弁8の開閉を調節することにより硫化水素の供給量を制御することが可能であり、このことは、反応器3で行われる硫化リチウム生成反応を制御するという観点から好適である。
【0039】
硫化水素供給管5の材質としては、反応器3の材質として上述したものを用いることが可能である。
【0040】
硫化水素供給管5は、内表面が耐硫処理されていることが好ましい。耐硫処理の手段としては、反応器3内表面の耐硫処理に用いる方法として上述した方法を用いることができる。
【0041】
また、本実施形態においては、硫化水素供給部材として硫化水素供給管5を用いたが、これに限らず、反応器3に硫化水素ガスを供給することが可能であればどのような硫化水素供給部材であってもよい。
【0042】
(断熱部材6)
断熱部材6は、反応器3内部を断熱するための部材であり、水酸化リチウム充填部2の上方に設けられている。
【0043】
図1に示すように、断熱部材6は、水酸化リチウム充填部2の上方にあって水酸化リチウム充填部2の全体を覆うように構成されていることが好ましい。このようにすることで、反応器3外部への熱の放出が一層防止されようになる。
【0044】
また、断熱部材6の側面は、
図1に示されるように、反応器3の内壁に接するように設けられていることが好ましい。このようにすることで、断熱部材6も加熱され、断熱部材6自体も一定の熱容量を有するため、断熱部材6による保温効果がより一層高まる。
【0045】
断熱部材6には、
図2に示すように、複数の連通孔161が設けられていることが好ましい。断熱部材に複数の連通孔161が設けられていることにより、未反応の硫化水素ガスや、硫化水素ガスと水酸化リチウムとの反応で生成する水を含む排ガスが連通孔161を介して反応器3の外部に排出されるためである。
【0046】
また、断熱部材6には、
図2に示すように、温度センサ用貫通孔162が設けられていてもよい。この場合、反応器3上方から挿入された温度センサ9が温度センサ用貫通孔162を貫通して反応器3に接続する。
【0047】
断熱部材6の材質としては、反応器3の材質として上述したものを用いることが可能である。
【0048】
断熱部材6の形状は特に制限されないが、上述の通り複数の連通孔161が設けられたものであることが好ましい。たとえば、ステンレスメッシュ、アルミニウムメッシュなどの金属メッシュ;ステンレスパンチング、アルミニウムパンチングなどのパンチングメタル;ステンレスエキスパンド、アルミニウムエキスパンドなどのエキスパンドメタル等から選択される一種または二種以上の多孔材等を用いることができる。
【0049】
必要に応じて、断熱部材6として、上述した多孔材を二枚以上重ねて用いてもよい。
【0050】
断熱部材6に設けられた連通孔161の面積比は、断熱効率向上と排ガス等の回収向上のバランスの観点から、通常は0.2%以上50%以下であり、好適には0.5%以上40%以下である。
【0051】
断熱部材6に設けられた連通孔161の径は、断熱効率向上と排ガス等の回収向上のバランスの観点から、通常は26μm以上10000μm以下であり、好適には45μm以上5000μm以下である。
【0052】
断熱部材6の厚みは、断熱効率向上の観点から、好適には0.5mm以上であり、より好適には1.5mm以上である。また、断熱部材6の厚みには特に上限はないが、通常20mm以下である。
【0053】
断熱部材の形状としては、
図6に示すような逆漏斗形状の断熱部材46を用いてもよい。
断熱部材として、逆漏斗形状の断熱部材46を用いる場合、温度センサ9を逆漏斗形状の断熱部材46の脚部に挿入し、水酸化リチウム充填部2に接続させることができる。この場合、温度センサ9と逆漏斗形状の断熱部材46の脚部の内壁との間には隙間が形成されるようにすることで、その隙間によって逆漏斗形状の断熱部材46の上部空間と下部空間が連通することが可能である。
【0054】
(水酸化リチウム支持部材7)
水酸化リチウム支持部材7は、水酸化リチウムを載置するための部材である。
【0055】
上述の通り、反応器3の内壁面からの熱伝達による加熱を可能にするため、水酸化リチウムは、水酸化リチウム充填部2の内壁に接するように層状に充填されていることが好ましいため、水酸化リチウム支持部材7は、水酸化リチウムをこのように載置することができるようにするため、水酸化リチウム充填部2の内壁に接するように配置されることが好ましい。
【0056】
水酸化リチウム支持部材7には、
図3に示すように、複数の連通孔171が設けられていることが好ましい。水酸化リチウム支持部材7に複数の連通孔171が設けられていることにより、複数の連通孔171を通して、硫化水素供給管5から供給された硫化水素が効率よく水酸化リチウム充填部2に供給されるようになるためである。
【0057】
水酸化リチウム支持部材7の材質としては、反応器3の材質として上述したものを用いることが可能である。
【0058】
水酸化リチウム支持部材7の形状は、水酸化リチウムを載置することができれば特に制限されないが、上述の通り複数の連通孔171が設けられたものであることが好ましい。たとえば、ステンレスメッシュ、アルミニウムメッシュなどの金属メッシュ;ステンレスパンチング、アルミニウムパンチングなどのパンチングメタル;ステンレスエキスパンドなどのエキスパンドメタル等から選択される一種または二種以上の多孔材等を用いることができる。
【0059】
必要に応じて、水酸化リチウム支持部材7として、上述した多孔材を二枚以上重ねて用いてもよい。
【0060】
水酸化リチウム支持部材7に設けられた連通孔171の径は、載置する水酸化リチウムの径にもよるが、通常は26μm以上300μm以下であり、好適には45μm以上154μm以下である。
【0061】
(ガス排出管10)
ガス排出管10は、未反応の硫化水素や、硫化水素ガスと水酸化リチウムとの反応で生成する水を含む排ガスを反応器3の外部に排出するための部材である。
【0062】
ガス排出管10は、水酸化リチウム支持部材7に対して上方に位置することが好ましい。副生成物の水(水蒸気)および未反応の硫化水素ガスは反応器の上方に向かって通気していくため、ガス排出管10は上方に設けられているほうが、ガス排出の効率がよいためである。ガス排出の効率が良くなることで、フレッシュな硫化水素ガスが絶えず供給されようになる。
【0063】
ガス排出管10は、硫化水素ガスと水酸化リチウムとの反応で生成する水を捕捉する冷却部を設けておくことが好ましい。硫化水素ガスと水酸化リチウムとの反応が終了すれば、硫化リチウムが生成する際に発生する水が上記冷却部へ凝縮しなくなる。すなわち、凝縮する水の量により硫化リチウム生成反応の進行をモニタリングできるのである。
【0064】
(温度センサ9)
温度センサ9は、反応器3内部の温度を計測するための部材である。たとえば、温度センサ9で反応器3内部の温度を計測し、計測結果に基づき加熱を調整することで、硫化リチウムの製造をより高度に制御することが可能になる。
【0065】
[第2実施形態]
本実施形態の硫化リチウム製造装置は、水酸化リチウム充填部2の底面に接してまたは近接して配置された、伝熱部材22をさらに備えてもよい。
図4はこのようにした硫化リチウム製造装置21の縦断面図である。
水酸化リチウム充填部2の下部に伝熱部材22を設けることで、反応器3の外側を覆っているジャケットヒーター4からの熱が水酸化リチウム充填部2の横断面水平方向へ伝わりやすくなり、水酸化リチウム充填部2の水平方向における均熱性が改善されるためである。
【0066】
伝熱部材22は、水酸化リチウム充填部の内壁に接するように配置されていることが好ましい。反応器3の外側を覆っているジャケットヒーター4からの熱をより効率的に伝搬させるためである。
【0067】
伝熱部材22には、複数の連通孔が設けられていることが好ましい。伝熱部材に複数の連通孔が設けられていることにより、複数の連通孔を通して、硫化水素供給管5から供給された硫化水素が水酸化リチウム充填部2に効率よく供給されるようになるためである。
【0068】
伝熱部材22の材質は特に限定されず、反応器3の材質として上述したものを用いることができるが、耐硫化性および熱伝導性に優れた材料を用いることが好適であり、たとえばアルミニウム、アルミニウム合金、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等を用いることが好ましい。
【0069】
また、伝熱部材22の形状は特に制限されないが、パンチングメタルのように複数の連通孔が設けられたものであることが好ましい。たとえば、ステンレスメッシュ、アルミニウムメッシュなどの金属メッシュ;ステンレスパンチング、アルミニウムパンチングなどのパンチングメタル;ステンレスエキスパンドアルミニウムエキスパンドなどのエキスパンドメタル等から選択される一種または二種以上の多孔材等を用いることができる。
【0070】
必要に応じて、伝熱部材22として、上述した多孔材を二枚以上重ねて用いてもよい。
【0071】
伝熱部材22に設けられた連通孔の面積比は、伝熱効率の向上と硫黄蒸気と触媒との接触効率向上とのバランスの観点から、通常は0.2%以上50%以下であり、好適には0.5%以上40%以下である。
【0072】
伝熱部材22に設けられた連通孔の径は、通常は26μm以上10000μm以下であり、好適には45μm以上5000μm以下である。
【0073】
[変形例]
本実施形態の硫化リチウム製造装置は、上記で説明した部材以外の部材を備えていてもよい。
【0074】
また、本実施形態の硫化リチウム製造装置は、各部が一体に形成されていてもよい。
【0075】
[硫化リチウムの製造プロセス]
本実施形態の硫化リチウム製造装置1を用いた硫化リチウムの製造プロセスについて説明する。
【0076】
まず、水酸化リチウム充填部2に水酸化リチウムを充填し、加熱手段であるジャケットヒーター4によって水酸化リチウムが充填された水酸化リチウム充填部2を加熱する。次いで、水酸化リチウム充填部2に硫化水素ガスを供給し、水酸化リチウムに硫化水素ガスを接触させ、水酸化リチウムと硫化水素ガスの反応により硫化リチウムを生成させる。
【0077】
硫化リチウム製造装置1の反応器3の上部には、断熱部材6が設けられているため、反応器3外部への熱の放出が防止され、水酸化リチウム充填部2全体の温度が高く且つ均一に維持されるようになっている。よって、硫化リチウム製造装置1では、硫化リチウムを高い効率で安定的に生産できる。
【0078】
硫化リチウム製造装置1を用いた硫化リチウムの製造プロセスにおいて、水酸化リチウム充填部2内部の温度は、全領域において、通常100℃以上、好適には130℃以上、より好適には150℃以上、より好適には170℃以上、より好適には200℃以上である。
水酸化リチウム充填部2内部の温度が全領域において上記下限値以上であると、硫化水素ガスと水酸化リチウムとの反応速度をより向上させることができる。
【0079】
硫化リチウム製造装置1を用いた硫化リチウムの製造プロセスにおいて、水酸化リチウム充填部2の温度は、全領域において、好適には445℃以下であり、より好適には430℃以下であり、さらに好適には410℃以下である。触媒充填部の温度が全ての領域において上記上限値以下であると、水酸化リチウムが溶融するのを抑制できるため、水酸化リチウムの相互間で融着が起こって塊状になることを抑制できる。これにより、反応ガスと水酸化リチウムとの反応をより効果的に進めることができる。
【0080】
硫化リチウム製造装置1を用いた硫化リチウムの製造プロセスにおいては、水酸化リチウム充填部2の各地点で測定される温度の最高温度Tmaxと最低温度Tminの差(Tmax-Tmin)が好適には50℃以下であり、より好適には30℃以下であり、さらに好適には20℃以下であり、可能な限り小さいことが好ましい。Tmax-Tminが小さい、つまりは水酸化リチウム充填部2の各地点の温度のバラつきが小さいと、硫化水素ガスと水酸化リチウムとの反応をより効率よく安定的に進行させることができる。
【0081】
水酸化リチウムのレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布におけるd50は、好ましくは1.5mm以下であり、より好ましくは1.0mm以下である。d50が上記上限値以下であると、水酸化リチウムと反応ガスとの接触面積が大きくなり反応が促進されるため、得られる硫化リチウム中の未反応原料をより低減させることができる。その結果、より高純度の硫化リチウムを得ることができる。
また、水酸化リチウムのレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布におけるd50は、好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.2mm以上である。d50が上記下限値以上であると、反応系で発生した水が硫化リチウム粒子に付着して粒子が固着するのを防ぐことができる。また反応ガスとともに水酸化リチウムや得られた硫化リチウムが排出されてしまうことを抑制することができるため、排ガス処理をより単純なものにすることができる。また、水酸化リチウムや得られた硫化リチウムが反応ガスによって飛散することを抑制することができるため、硫化リチウムの収率を向上させることができる。
【0082】
水酸化リチウムは、あらかじめ結晶水の脱水および付着水の乾燥を行っておくことが好ましい。これにより、水酸化リチウムが塊状化することを抑制できたり、水硫化物の生成を抑制できたりするため、硫化水素ガスと水酸化リチウムとの反応をより効果的に進めることができる。水酸化リチウムの脱水や乾燥の方法としては、例えば、大気中で加熱する方法、水素、窒素、アルゴンガスなどのガスを流しながら加熱する方法、減圧化で加熱する方法等が挙げられる。
【0083】
硫化水素ガスは、ガスボンベ等に充填された市販品であってもよいし、硫化リチウム製造装置1の上流に接続された硫化水素製造装置で製造されたものであってもよい。
硫化リチウム製造装置1の上流に硫化水素製造装置が接続されている場合、硫化リチウムの製造に必要な分だけ硫化水素ガスを生成させることが可能であり、硫化水素ガスを別途保管する必要がなくなる。また必要に応じて硫化水素ガスを生成させることが可能であるため、経時劣化していない、純度の高い硫化水素ガスを反応に使用することができる。
【0084】
硫化リチウム製造装置1を用いた製造プロセスにより得られる硫化リチウムは、例えば、電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料、化学薬品の中間原料として好適に用いることができる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0086】
(実施例1)
下記の部材を用いて硫化リチウム製造装置31を作製した。
図5は製造装置31の縦断面図である。
・反応器3 SUS316L製反応管であって底面から450mm分の内壁がアルミニウムのカロライジング処理されたもの(内径124mm、高さ615mm)
・断熱部材36 アルミニウム製パンチングメタル(直径116mm、厚み0.5mm、孔径0.5mm、孔径の面積比27.9%)1枚の上に、アルミニウム板(直径116mm、厚み0.5mm、孔径5mm、孔径の面積比1.7%)2枚を重ね、それぞれの間隔を8mmにしたもの
・水酸化リチウム支持部材37 #300のSUS製メッシュの上に#100のアルミニウム製メッシュを重ねたもの
・伝熱部材22 アルミニウム製の板材(直径123mm、厚み20mm、孔径5mm、孔径の面積比9.7%)
【0087】
反応器3に伝熱部材22を配置し、伝熱部材22の上部に水酸化リチウム支持部材37を配置した。水酸化リチウム支持部材37の上に水酸化リチウム(粒径0.05~0.75mm)773gを充填した。充填された水酸化リチウムの高さは100mmであった。次いで、水酸化リチウムを充填した上部に伝熱部材22を配置した。
【0088】
断熱部材36に設けられた温度センサ用貫通孔から挿入された温度センサ9は、水酸化リチウム充填部2の底面、すなわち水酸化リチウム支持部材37に到達させ、温度センサ9により水酸化リチウム充填部2の水平方向中心部における、垂直方向の各地点の温度を計測できるようにした。
【0089】
次いで、反応器3に、硫化水素供給管5を介して、水素と硫化水素の混合ガス(硫化水素濃度13%)を流量2.0L/minで供給した。次いで、ジャケットヒーター4の温度を410℃にし、水酸化リチウム充填部2を加熱した。これにより、硫化水素ガスと水酸化リチウムとを反応させ、硫化リチウムを得た。
【0090】
(実施例2)
断熱部材として、断熱部材36に代えて逆漏斗形状の断熱部材46を用い、温度センサ9を逆漏斗形状の断熱部材46の脚部に挿入し、水酸化リチウム支持部材37に到達させた以外は実施例1と同様にして硫化リチウム製造装置41を作製し、硫化リチウムを製造した。
尚、温度センサ9と逆漏斗形状の断熱部材46の脚部の内壁との間には隙間が形成されるようにし、その隙間によって逆漏斗形状の断熱部材46の上部空間と下部空間が連通するようにした。
図6は製造装置41の縦断面図である。
【0091】
(比較例1)
断熱部材36および伝熱部材22を除いたこと、水酸化リチウム支持部材57として直径123mm厚み0.5mm孔径0.5mmのSUS製パンチングメタルの上に#300のSUS製メッシュを重ね、その上にさらに#100のアルミニウム製メッシュを重ねたものを用いたこと以外は実施例1と同様にして硫化リチウム製造装置51を作製し、硫化リチウムを製造した。
図7は製造装置51の縦断面図である。
【0092】
(比較例2)
断熱部材36を除いた以外は実施例1と同様にして硫化リチウム製造装置61を作製し、硫化リチウムを製造した。
図8は製造装置61の縦断面図である。
【0093】
実施例1~2および比較例1~2の硫化リチウム製造装置において、加熱開始から150分経過後に温度センサ9で測定された水酸化リチウム充填部2の各地点の温度をグラフにしたものを
図9に示す。
【0094】
図9によると、実施例1~2の硫化リチウム製造装置では、水酸化リチウム充填部2の上部においても高い温度が維持され、硫化リチウムを高い効率で安定的に生産することができ、硫化水素ガスと水酸化リチウムとの反応場が高い温度で高精度に制御されたことによるものと考えられる。
【0095】
水酸化リチウム充填部2の各地点で測定された温度の最高温度Tmax、最低温度Tmin、および両者の差(Tmax-Tmin)を表1に示す。
【0096】
【0097】
表1によると、実施例1~2の硫化リチウム製造装置ではTmax-Tminの値が小さかった。すなわち、実施例1~2の硫化リチウム製造装置では水酸化リチウム充填部2の各地点の温度のバラつきが小さいため、硫化リチウムを高い効率で安定的に生産することができ、硫化水素ガスと水酸化リチウムとの反応場が高い温度で高精度に制御されたことによるものと考えられる。