(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184276
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】液-液抽出装置
(51)【国際特許分類】
B01D 11/04 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
B01D11/04 102
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092033
(22)【出願日】2021-06-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】593053335
【氏名又は名称】リファインホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100196276
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】大野 順也
(72)【発明者】
【氏名】石澤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】竹山 友潔
(72)【発明者】
【氏名】小田 昭昌
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】中島 浩司
(72)【発明者】
【氏名】乃美 匡志
(72)【発明者】
【氏名】藤田 知也
(72)【発明者】
【氏名】岩船 光紘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇夫
【テーマコード(参考)】
4D056
【Fターム(参考)】
4D056AB17
4D056AC02
4D056AC15
4D056AC22
4D056AC29
4D056BA06
4D056CA06
4D056CA26
4D056CA33
4D056CA36
4D056CA40
4D056DA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抽出塔の高さが低く抑えられており比較的設置場所の制限が少なく、構造的にも簡単であり、効率良い抽出を行うことのできる液-液抽出装置を提供する。
【解決手段】塔頂部側に重液供給部および塔底部側に重液排出部を、また塔底部側に軽液供給部および塔頂部側に軽液排出部を有するn個の抽出塔の、(a)重液流路が直列的に接続される、および/または、(b)軽液流路が直列的に接続されており、またこれらのn個の各抽出塔のうちの少なくとも2つはそれぞれの配管を通じて、一部壁面がダイヤフラムにより形成され駆動部を稼働させることで容積を変動させる閉空間を有するそれぞれのダイヤフラムチャンバーに接続されており、それぞれの各抽出塔とそれぞれのダイヤフラムチャンバーとの間の配管には、内部圧力を調整可能な圧力調整チャンバーおよび開閉バルブが備えられていることを特徴とする多塔式の液-液抽出装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の抽出塔を有する多塔式の液-液抽出装置であって、n個(nは2以上の整数である。)の抽出塔が並列して配置され、
各抽出塔は。塔頂部側に重液供給部および塔底部側に重液排出部を、また塔底部側に軽液供給部および塔頂部側に軽液排出部を有するが、
(a) n個の抽出塔のうちの第1の抽出塔の重液排出部は配管を介して第2の抽出塔の重液供給部に接続され、第2の抽出塔の重液排出部は配管を介して第3の抽出塔の重液供給部に接続され、…第(n-1)の抽出塔の重液排出部は配管を介して第nの抽出塔の重液供給部に接続されるというようにn個の抽出塔の重液流路が直列的に接続される、および/または、
(b) n個の抽出塔のうちの第nの抽出塔の軽液排出部は配管を介して第(n-1)の抽出塔の軽液供給部に接続され、第(n-1)の抽出塔の軽液排出部は配管を介して第(n-2)の抽出塔の軽液供給部に接続され、…第2の抽出塔の軽液排出部は配管を介して第1の抽出塔の軽液供給部に接続されるというようにn個の抽出塔の軽液流路が直列的に接続されており、また
これらのn個の各抽出塔のうちの少なくとも2つはそれぞれの配管を通じて、一部壁面がダイヤフラムにより形成され駆動部を稼働させることで容積を変動させる閉空間を有するそれぞれのダイヤフラムチャンバーに接続されており、
それぞれの各抽出塔とそれぞれのダイヤフラムチャンバーとの間の配管には、内部圧力を調整可能な圧力調整チャンバーおよび開閉バルブが備えられていることを特徴とする多塔式の液-液抽出装置。
【請求項2】
前記ダイヤフラムチャンバーは、それぞれのチャンバーの壁面を形成するダイヤフラムが交互に稼働する2つのチャンバー部を備えた電気または圧縮空気によって駆動されるダイヤフラムポンプの、各流入口および流出口の逆止弁を取り除き、かつ一方のチャンバー部については流出口、他方のチャンバー部については流入口を隔壁で塞いで各チャンバー部への液体流路はそれぞれ1つのみとすると共に、各チャンバー部にはガス抜き用ノズルを設けた改良されたダイヤフラムポンプを用い、これに2つの抽出塔からの配管をそれぞれ接続するものである請求項1に記載の液-液抽出装置。
【請求項3】
前記n個の抽出塔が2個の抽出塔である請求項1または2に記載の液-液抽出装置。
【請求項4】
前記抽出装置の拍動による液の振幅を各抽出塔内の液平均密度及び液面高さから得られる塔内の任意の位置の圧力と圧力調整チャンバー内との圧力差から調整できることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の液-液抽出装置。
【請求項5】
前記抽出装置の拍動は、圧力調整チャンバー内圧力及び開閉バルブを調整していずれか1塔のみを拍動することができる請求項1~4のいずれか1つに記載の液-液抽出装置。
【請求項6】
前記抽出装置の拍動は、圧力調整チャンバー内圧力を個別で調節することにより、各抽出塔によって振幅を変更することができる請求項1~4のいずれか1つに記載の液-液抽出装置。
【請求項7】
前記各抽出塔は、塔頂に気液界面があり、且つ塔頂部で均圧管を通じてそれぞれ接続されており、塔内の圧力が均一であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1つに記載の液-液抽出装置。
【請求項8】
本発明の液-液抽出装置の一実施形態においては、前記各抽出塔は、前記n個の抽出塔が3個以上の抽出塔であり、隣り合わせた抽出塔は、塔が3塔以上でそれぞれ、もしくは任意の塔2塔以上が前述した改良されたダイヤフラムポンプに配管を通じて接続されてことを特徴とする請求項1、2、4~7のいずれか1つに記載の液-液抽出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液-液抽出装置に関する。詳しく述べると本発明は、抽出塔の高さが低く抑えられており比較的設置場所の制限が少なく、構造的にも簡単であり、効率良い抽出を行うことのできる液-液抽出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液-液抽出処理は、溶媒に溶解している溶質を他の溶媒に移動させる方法によって所望の物質を抽出して分離、精製する処理である。このような液-液抽出処理は、蒸留や吸着、吸収といった分離に比べ、物質移動の観点から効率が悪く、液同士の接触効率や接触時間を上げるため、用いられる抽出塔の高さが高くなり、設置の上から制約が生じるという問題があった。
【0003】
また上記したような物質移動の観点から効率を向上させる上で、ミキサーセトラー型の連続抽出装置MSカラムやトレイ自体を稼働するKarrカラム等の稼働部を有した抽出塔が開発されている。
【0004】
これらの抽出装置は、塔内部に稼働部を有するため、機構が複雑でメンテンナンス性についても課題があり、導入費用についても課題があった。一方で、液-液抽出の充填塔は充填物が充填されているシンプルな構造であり、メンテナンス性も導入費用についても利点があるが、液-液接触効率が悪いという課題を有している。
【0005】
また例えば、特許文献1~3に開示されるように、主として原子原料サイクルに使用する溶媒抽出装置として脈動塔も知られている。脈動塔は、連続運転が可能で、脈動塔内部の溶媒滞留時間が短いので溶媒の放射線損傷が少ないという利点がある。しかし、従来の脈動(拍動)充填塔は性能が良いものの、塔内部全体を脈動させるためフラッディングしやすく操作範囲が狭いという課題があった。
【0006】
なお、例えば、特許文献4には、処理塔に脈動を与える上で、処理塔外部に設置したダイヤフラムポンプを利用し、このダイヤフラムポンプの吐出部または吸入部の一方をブラインド処理し他方を処理塔の内部に連結して、処理塔の内部流体が往復運動をするように構成された構成も開示されている。脈動の形成に外部のダイヤブラムポンプを使用することで、簡単な方法で従来の脈動塔に比べて設備コストを抑えた液-液抽出装置が開示されている。しかし、このようなダイヤフラムポンプを用いた液-液抽出装置であっても、上記したような液同士の接触効率や滞留時間を上げる上での、抽出塔の高さが高くなり設置の上から制約が生じるという課題は未だ解消されない。また、特許文献4に開示される装置においては、ダイヤフラムポンプの容積は要求されるパルス振幅に脈動塔の内部断面積を乗じた値に基づいて選択する旨の記載があるものの、ダイヤフラムの振幅の調整ができないために、調整代が無く、抽出する系によってはフラッディングしやすいという課題も残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-192505号
【特許文献2】特開平5-337304号
【特許文献3】特開平7-31803号
【特許文献2】特開2018-15754号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明は、上記したような従来技術における課題を解決してなる液-液抽出装置を提供することを課題とする。本発明は、また抽出塔の高さが低く抑えられ比較的設置場所の制限が少なく、構造的にも簡単であり、効率良い抽出を行うことのできる液-液抽出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、複数の抽出塔を有する多塔式の液-液抽出装置であって、n個(nは2以上の整数である。)の抽出塔が並列して配置され、
各抽出塔は、塔頂部側に重液供給部および塔底部側に重液排出部を、また塔底部側に軽液供給部および塔頂部側に軽液排出部を有するが、
(a) n個の抽出塔のうちの第1の抽出塔の重液排出部は配管を介して第2の抽出塔の重液供給部に接続され、第2の抽出塔の重液排出部は配管を介して第3の抽出塔の重液供給部に接続され、…第(n-1)の抽出塔の重液排出部は配管を介して第nの抽出塔の重液供給部に接続されるというようにn個の抽出塔の重液流路が直列的に接続される、および/または、
(b) n個の抽出塔のうちの第nの抽出塔の軽液排出部は配管を介して第(n-1)の抽出塔の軽液供給部に接続され、第(n-1)の抽出塔の軽液排出部は配管を介して第(n-2)の抽出塔の軽液供給部に接続され、…第2の抽出塔の軽液排出部は配管を介して第1の抽出塔の軽液供給部に接続されるというようにn個の抽出塔の軽液流路が直列的に接続されており、また
これらのn個の各抽出塔のうちの少なくとも2つはそれぞれの配管を通じて、一部壁面がダイヤフラムにより形成され駆動部を稼働させることで容積を変動させる閉空間を有するそれぞれのダイヤフラムチャンバーに接続されており、
それぞれの各抽出塔とそれぞれのダイヤフラムチャンバーとの間の配管には、内部圧力を調整可能な圧力調整チャンバーおよび開閉バルブが備えられていることを特徴とする多塔式の液-液抽出装置である。
【0010】
本発明の液-液抽出装置の一実施形態においては、前記ダイヤフラムチャンバーは、それぞれのチャンバーの壁面を形成するダイヤフラムが交互に稼働する2つのチャンバー部を備えた電気または圧縮空気によって駆動されるダイヤフラムポンプの、各流入口および流出口の逆止弁を取り除き、かつ一方のチャンバー部については流出口、他方のチャンバー部については流入口を隔壁で塞いで各チャンバー部への液体流路はそれぞれ1つのみとすると共に、各チャンバー部にはガス抜き用ノズルを設けた改良されたダイヤフラムポンプを用い、これに2つの抽出塔からの配管をそれぞれ接続するものである態様が示される。
【0011】
本発明の液-液抽出装置の一実施形態においては、前記n個の抽出塔が2個の抽出塔である態様が示される。
【0012】
本発明の液-液抽出装置の一実施形態においては、前記抽出装置の振幅を各抽出塔内の液平均密度及び液面高さから得られる塔内の任意の位置の圧力と圧力調整チャンバー内との圧力差から調整できることを特徴とする態様が示される。
【0013】
本発明の液-液抽出装置の一実施形態においては、前記抽出装置の拍動は、圧力調整チャンバー内圧力及び開閉バルブを調整していずれか1塔のみを拍動することができる態様が示される。
【0014】
本発明の液-液抽出装置の一実施形態においては、前記抽出装置の拍動は、圧力調整チャンバー内圧力を個別で調節することにより、各抽出塔によって振幅を変更することができる態様が示される。
【0015】
本発明の液-液抽出装置の一実施形態においては、前記各抽出塔は、塔頂に気液界面があり、且つ塔頂部で均圧管を通じてそれぞれ接続されており、塔内の圧力が均一であることを特徴とする態様が示される。
【0016】
本発明の液-液抽出装置の一実施形態においては、前記各抽出塔は、前記n個の抽出塔が3個以上の抽出塔であり、隣り合わせた抽出塔は、塔が3塔以上でそれぞれ、もしくは任意の塔2塔以上が前述した改良されたダイヤフラムポンプに配管を通じて接続されてことを特徴とする態様が示される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液-液抽出装置は、複数の抽出塔を有する多塔式の液-液抽出装置であって複数の抽出塔が並列して配置されるため、液同士の接触効率や滞留時間を上げる必要があっても、1塔の抽出塔よりも高さを低くできるため、既存設備内等への設置が容易である。
また、本発明の液-液抽出装置において拍動器は、複雑な機構の拍動器ではなく、既成のダイヤフラムポンプの改良で利用できるため経済的にも有利である。
【0018】
また、本発明の液-液抽出装置において、複数の抽出塔に対してそれぞれダイヤフラムチャンバーとの間の配管への接続部は、拍動を入れたい任意の場所に取り付けることができ、また拍動の振幅、周波数を任意に調整することができ、1塔のみでも拍動を与えることができるため、例えば、1塔目で濃度勾配が大きく、物質移動が起こりやすい系であれば、1塔目は拍動無しで実施し、2塔目のみに拍動を与えて効率よく抽出すると共に、拍動器の動力を省力化することが可能である。
【0019】
また、本発明の液-液抽出装置においては、例えば、被処理溶液の特性が変化しても1塔目にも拍動を与えることで抽出効率が上がり、変化に対応することが可能である。
また、本発明の液-液抽出装置においては、拍動器となるダイヤフラムチャンバーを抽出塔の外部から導入することで、既存の抽出塔の改造にも適用することが可能である。
【0020】
また、本発明の液-液抽出装置においては、例えば、液と液が混ざりやすいような、軽液と重液の比重差が小さな系では、液滴が落ちない、もしくは上がっていかないというフラッディングと称される現象を抑制するために、振幅を小さく、軽液と重液の比重差が大きな系では、液滴が速く移動し過ぎるのを抑制するために、振幅を大きく、更に周波数も早くするという調整ができるため、適用できる系の範囲が広い。
【0021】
また、本発明の液-液抽出装置においては、例えば、1塔目で物質移動量が大きい系では、1塔目の液流量が2塔目に比べ相対的に大きくなるため、フラッディング防止の観点で1塔目と2塔目の振幅を変更する、もしくは1塔目のみ振幅を停止するといった対応を行うことが可能となる。
【0022】
また、本発明の液-液抽出装置においては、抽出塔を追加し、同様のシステムを入れることで、既存の装置からの追加工事のみで性能を上げることが可能である。
また、本発明の液-液抽出装置においては、例えば、拍動器としてのダイヤフラムチャンバーを抽出塔の外部に取り付けるため、メンテナンスも容易で、KarrカラムやRDCのように、抽出塔内部に稼働部がないため、トラブル時にも対応しやすい。
【0023】
また、抽出塔を様々な系で使用する場合は、予め抽出塔に拍動を入れるための配管とバルブを拍動器から枝分かれにして複数設け、系によって拍動を入れる位置をバルブ操作によって任意に選ぶことができ、それぞれの拍動の振幅も自在にコントロールすることが可能となる。
【0024】
また、2塔に繋がった拍動器は、拍動器の中で液が混ざりあうことはないため、1塔もしくは数塔ずつを成分分離のための正抽出、抽剤から抽出したものを分離する逆抽出に使用することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】は本発明の液-液抽出装置の一実施形態に係る装置の全体構成を模式的に示す図面である。
【
図2】は本発明の液-液抽出装置の一実施形態に係る装置において用いる改良されたダイヤフラムチャンバーの構造を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施形態に基づいてより詳細に説明する。
図1は、本発明の液-液抽出装置の一実施形態に係る装置の全体構成を模式的に示す図面であり、また、
図2は本発明の液-液抽出装置の一実施形態に係る装置において用いる改良されたダイヤフラムチャンバーの構造を模式的に示す図面である。
【0027】
本発明に係る液-液抽出装置は、複数の抽出塔を有する多塔式の液-液抽出装置であって、n個(nは2以上の整数である。)の抽出塔が並列して配置される。
図1に示す実施形態においては、本発明に係る多塔式の液-液抽出装置1において最小の構成である2塔(n=2)の抽出塔10、20が並列して配置される構成例を示しているが、本発明に係る液-液抽出装置1において、抽出塔の数(n)は、もちろん3以上であってもよい。なお、特に限定されるものではないが、一般的にはnの数は、例えば、2~4、より好ましくは2~3程度とされる。このように、複数の抽出塔が並列して配置されるため、液同士の接触効率や滞留時間を上げる必要があっても、1塔の抽出塔よりも高さを低くできるため、既存設備内等への設置が容易である。なお、本明細書において「並列して配置される」とは、ある設置場所を想定した場合にその設置面対して各抽出塔が並んで配置されるといった程度の広義な意味であり、厳密にその位置、間隔、角度等までが揃っているような態様のみを意味するものではない。また、その「設置面」としても、通常は1つの水平面からなるものであるが、例えば、面内に段差のあるような態様や面内に曲率のあるような態様、さらには設置面が多層階に別れているような態様のものであってもよい。
【0028】
このように複数の抽出塔が並列して配置されるため、液同士の接触効率や滞留時間を上げる必要があっても、1塔の抽出塔よりも高さを低くできるため、既存設備内等への設置が容易である。
【0029】
本発明の液-液抽出装置において、各抽出塔は、塔頂部側に重液供給部としておよび塔底部側に重液排出部を、また塔底部側に軽液供給部および塔頂部側に軽液排出部を有する。
図1に示す実施形態においては、各抽出塔10、20には、その塔内に配置された充填物12、22より上側(頭頂部側)には、重液供給部としてシャワーノズル14、24と、軽液排出部としてのオーバーフローノズル16、26が備えてあり、充填物より下側(塔底部側)には、塔底部の空洞部に軽液供給部としてのノズル15、25と、重液排出部としてのドレン17、27が設けられているが、各供給部および各排出部の形状や厳密な配置位置等に関しては、抽出塔として有効に機能するものである限り特に制限されるものではない。
【0030】
本発明の液-液抽出装置においては、多塔式のものとして機能させる上で、
(a) n個の抽出塔のうちの第1の抽出塔の重液排出部は配管を介して第2の抽出塔の重液供給部に接続され、第2の抽出塔の重液排出部は配管を介して第3の抽出塔の重液供給部に接続され、…第(n-1)の抽出塔の重液排出部は配管を介して第nの抽出塔の重液供給部に接続されるというようにn個の抽出塔の重液流路が直列的に接続される、および/または、
(b) n個の抽出塔のうちの第nの抽出塔の軽液排出部は配管を介して第(n-1)の抽出塔の軽液供給部に接続され、第(n-1)の抽出塔の軽液排出部は配管を介して第(n-2)の抽出塔の軽液供給部に接続され、…第2の抽出塔の軽液排出部は配管を介して第1の抽出塔の軽液供給部に接続されるというようにn個の抽出塔の軽液流路が直列的に接続されていることが必要である。
【0031】
図1に示す実施形態において、この点を説明すると、
(a) 2個の抽出塔10,20のうちの第1の抽出塔10の重液排出部(ドレン)17は配管32を介して第2の抽出塔の重液供給部(シャワーノズル)24に接続されるというように2個の抽出塔の重液流路が直列的に接続されており、また、
(b) 2個の抽出塔10,20のうちの第2の抽出塔20の軽液排出部(オーバーフローノズル)26は配管34を介して第1の抽出塔10の軽液供給部(ノズル)15に接続されるというように2個の抽出塔の軽液流路が直列的に接続されている。
【0032】
図1に示す実施形態においては、前記(a)の重液流路および前記(b)の軽液流路の双方の流路において直列的な接続がなされているが、抽出操作により得ようとする目的物の種類によっては、前記(a)の重液流路または前記(b)の軽液流路の一方のみが直列的に接続されているものであっても良い。
【0033】
なお、
図1において、符号82は重液タンク、符号84は軽液タンク、符号86は軽液バッファタンクを示す。
【0034】
また、本発明の液-液抽出装置において、1塔もしくは数塔ずつを成分分離のための正抽出、抽剤から抽出したものを分離する逆抽出に使用するといった態様においては、液-液抽出装置全体における抽出塔の総数(N)に対して、前記(a)および(b)条件に関しての抽出塔の数(n)をこの総数(N)それよりも小さな値として、重液流路および/または軽液流路の直列的な接続構成を満たすものとすることも可能である。
【0035】
そして本発明の液-液抽出装置においては、これらのn個の各抽出塔10、20のうちの少なくとも2つはそれぞれの配管42、52を通じて、一部壁面がダイヤフラムにより形成され駆動部を稼働させることで容積を変動させる閉空間を有するそれぞれのダイヤフラムチャンバー44、54に接続されており、
それぞれの各抽出塔10、20とそれぞれのダイヤフラムチャンバー44、54との間の配管42、52には、その途中に内部圧力を調整可能な圧力調整チャンバー46、56および開閉バルブ48、58が備えられている。
【0036】
このため本発明の液-液抽出装置の一実施形態においては、前記抽出装置の拍動は、圧力調整チャンバー46、56内の圧力及び開閉バルブ48、58を調整していずれか1塔のみを拍動することができ、また、圧力調整チャンバー46、56内の圧力をそれぞれに調整することで、各抽出塔10、20に対して別個の拍動を与えることができる。
【0037】
このため、本発明の液-液抽出装置においては、例えば、液と液が混ざりやすいような、軽液と重液の比重差が小さな系では、液滴が落ちない、もしくは上がっていかないというフラッディングと称される現象を抑制するために、振幅を小さく、軽液と重液の比重差が大きな系では、液滴が速く移動し過ぎるのを抑制するために、振幅を大きく、更に周波数も早くするという調整ができるため、適用できる系の範囲が広い。
【0038】
また、本発明の液-液抽出装置においては、例えば、1塔目10で物質移動量が大きい系では、1塔目の液流量が2塔目20に比べ相対的に大きくなるため、フラッディング防止の観点で1塔目と2塔目の振幅を変更する、もしくは1塔目のみ振幅を停止するといった対応を行うことが可能となる。
【0039】
なお、
図1に示す実施形態においては、液-液抽出装置においては、並列に配置された抽出塔10、20が2つのみであるので、双方の抽出塔10、20が配管42、52を通じてダイヤフラムチャンバー44、54に接続された構成とされているが、本発明に係る液-液抽出装置においては抽出塔の数nが3つ以上であるような実施形態においては、その全ての抽出塔にダイヤフラムチャンバーを必ずしも接続させたものとする必要はなく、3つ以上の抽出塔のうち少なくとも2つの抽出塔にダイヤフラムチャンバーを接続させたような構成であっても良い。すなわち、本発明の液-液抽出装置の別の実施形態においては、前記各抽出塔は、前記n個の抽出塔が3個以上の抽出塔であり、隣り合わせた抽出塔は、塔が3塔以上でそれぞれ、もしくは任意の塔2塔以上が前述した改良されたダイヤフラムポンプに配管を通じて接続され得る。これは、本発明の液-液抽出装置においては、並列に配置された複数の抽出塔のうち、少なくとも2つ以上の抽出塔に対してダイヤフラムチャンバーにて拍動を加えることができる構成であれば、所期の作用を発揮し得るためである。
【0040】
本発明の液-液抽出装置において、各抽出塔10、20へと拍動を与えるダイヤフラムチャンバー44、54としては、上記したように一部壁面がダイヤフラムにより形成され駆動部を稼働させることで容積を変動させる閉空間を有し各抽出塔10、20へと拍動を与えることのできる限りにおいて、特に限定されるものではなく、複数のダイヤフラムチャンバー44、54を各個独立した構成のものとすることも可能である。本発明の液-液抽出装置においては、拍動器としてのダイヤフラムチャンバーを抽出塔10、20の外部に取り付けるため、メンテナンスも容易で、KarrカラムやRDCのように、抽出塔内部に稼働部がないため、トラブル時にも対応しやすい。
【0041】
なお、本発明の液-液抽出装置のより好ましい一実施形態においては、
図1および
図2に示すように、前記ダイヤフラムチャンバー44、54は、それぞれのチャンバーの壁面を形成するダイヤフラム62が交互に稼働する2つのチャンバー部を備えた電気または圧縮空気によって駆動されるダイヤフラムポンプ60の、各流入口61A、61Bおよび流出口62A、62Bの逆止弁(図示せず)を取り除き、かつ一方のチャンバー部44については流出口61A、他方のチャンバー部54については流入口62Bを隔壁64A、64Bで塞いで各チャンバー部への液体流路はそれぞれ1つのみとすると共に、各チャンバー部61A、61Bにはガス抜き用ノズル66A、66Bを設けた改良されたダイヤフラムポンプを用い、これに2つの抽出塔からの配管42、52をそれぞれ接続する構成とすることが望ましい。このような構成を取ることにより、1つのダイヤフラムポンプを作動させることで複数の抽出塔に対する拍動を与えることができるので、設備容積を縮小することが可能となるとともにより経済的な装置構成となる。また、既存のダイヤフラムポンプに簡単な改造を加えることで所期の構成とすることができるため、容易に装置を製造することも可能となる。
【0042】
本発明の液-液抽出装置のより好ましい一実施形態において用いられた2塔に繋がった拍動器としての上記したような改良されたダイヤフラムポンプ60は、その内部で2つのダイヤフラムチャンバー44と54との間で液が混ざりあうことはないため、1塔もしくは数塔ずつを成分分離のための正抽出、抽剤から抽出したものを分離する逆抽出に使用することも可能となる。
【0043】
なお、
図1に示す一実施形態においては、2つの抽出塔10、20に対して、上記したような所定の改造を施したダイヤフラムポンプ60を1つの割合でそれぞれの配管42、52で接続した態様が示されているが、また本発明の液-液抽出装置のうち、装置内に配置された抽出塔の数(n)が3以上である実施形態において、上記したような所定の改造を施したダイヤフラムポンプ60により各抽出塔へと拍動を与えるダイヤフラムチャンバーを構成する場合、
図1に示す実施形態における構成と同様に、2つの抽出塔に対して所定の改造を施したダイヤフラムポンプ60を1つの割合でそれぞれの配管により接続する、すなわち2つの抽出塔ごとに1つのダイヤフラムポンプ60を使用するような構成とすることもできるし、あるいは、1つのダイヤフラムポンプ60に対して接続される2つの配管42、52のうちの一方または双方を途中で分岐させることで、3つ以上の抽出塔に対して1つのダイヤフラムポンプを接続させ各抽出塔に対して拍動を与える構成とすることもできる。なお、このように各配管42、52を分岐させて複数の抽出塔に接続させた場合、当該複数の抽出塔に対して、それぞれ独立した拍動を与えることもできるようにするには、前記各分岐に開閉バルブ等の開閉手段を設けておき、これを開閉することでダイヤフラムポンプ60の何れかのチャンバー部44、54からの拍動を伝える抽出塔を切替れば良い。
【0044】
ダイヤフラムポンプ60に対して接続される2つの配管42、52のうちの一方または双方を途中で分岐させることで、3つ以上の抽出塔に対して1つのダイヤフラムポンプを接続させた実施形態においては、
図1に示すような配管途中に設けられる圧力調整チャンバー46、56についても、その分岐した配管の途中にそれぞれ設けて各抽出塔に対応するものとすることもできるし、あるいは分岐した配管よりダイヤフラムポンプに近い側に1つ設けて、1つの圧力調整チャンバーで複数の抽出塔に対応する仕様とすることも可能である。
【0045】
本発明の液-液抽出装置において、抽出塔を様々な系で使用する場合は、このように予め抽出塔に拍動を入れるための配管とバルブを拍動器であるダイヤフラムポンプ60から枝分かれにして複数設け、系によって拍動を入れる位置をバルブ操作によって任意に選ぶことができ、それぞれの拍動の振幅も自在にコントロールすることが可能となる。
【0046】
図1に示す本発明の液-液抽出装置の一実施態様において、各抽出塔10、20に対してそれぞれダイヤフラムチャンバー44、54との間の配管42、52への接続部は、いずれも塔底部側に設けている例を示しているが、本発明の液-液抽出装置において、複数の抽出塔に対してそれぞれダイヤフラムチャンバー44、54との間の配管42、52への接続部の位置としては特に限定されるものではなく、拍動を入れたい任意の場所に取り付けることができ、各抽出塔に対してそれぞれ同様の位置とすることも異なる位置とすることも可能である。
【0047】
また、
図1に示す本発明の液-液抽出装置の一実施形態においては、前記各抽出塔10、20は、塔頂に気液界面19、29があり、且つ塔頂部で均圧管70を通じてそれぞれ接続されており、各塔内の圧力が均一であるものとされている。なお、
図1において符号72は均圧管70の配管上に設けられたベントを示す。このように、本発明の液-液抽出装置における、複数の抽出塔のうちの全部あるいは一部を均圧管70を通じてそれぞれ接続し、接続された各塔内の圧力が均一なものとすることで、圧力均一とされた当該複数の抽出塔によって、高さのある1塔の抽出塔に代わって、このような高さの低い複数の抽出塔によって同様の抽出操作を行うことが可能となる。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
図1は、実施例において使用した抽出装置の全体構成を示す概略図であり、
図2はこの実施例において使用したダイヤフラムポンプの構成を示す概略図である。
【0049】
図1において、抽出塔10、20として、塔径65mm、高さ6mの塔に比表面積が435 m
2/m
3である耐食性金属の不規則充填物12、22を上下1m空けた状態で、4m充填した抽出塔を2本用意した。
充填物12、22より上側には、重液を供給するためのシャワーノズル14、24と、軽液を抜くためのオーバーフローノズル16、26が備えてあり、充填物より下側では圧力監視用の圧力指示計18、28及び、圧縮空気を駆動源とした空気駆動式の送液用ダイヤフラムポンプの逆止弁を外し、ポンプ内の流路44、54に、
図2のように隔壁64A、64Bを設けるように改良を加えた空気駆動ダイヤフラムポンプ60を配管42、52を通じて両塔に接続した。
【0050】
抽出される成分として、ギ酸が20%、その他の成分として無機塩が15%溶解し、残りは水媒体であるものを重液とし、抽剤としてリン酸トリブチル(TBP)、抽剤の希釈溶媒としてN-デカンを質量比(TBP:デカン=)3:1にした媒体を混合軽液とした。重液の密度は、1190kg/m3、軽液の密度は900kg/m3であった。
【0051】
重液を分散相とするため、ノズル孔径がΦ1.5mm、孔数が10のシャワーノズル14、24を使用して重液を各塔10、20に供給した。
【0052】
抽剤と希釈溶媒の混合液は、軽液(連続相)とするため、塔底の空洞部に液供給用のノズル15、25を設け、そこから供給し、連続相の出口である塔上部のオーバーフローノズル16、26から抜くこととした。
【0053】
2塔使用して、連続向流の液-液抽出をするために、1塔目(図中左の塔)10から分散相である重液を供給し、1塔目の底部から抜き出した重液を2塔目(図中右の塔)20の分散相として液供給、2塔目の底部から出た液を処理後重液、2塔目底部から連続相である軽液を供給し、2塔目のオーバーフローノズル26から出た軽液を一旦バッファタンク86に受け、その液を1塔目の底部に供給し、1塔目のオーバーフローノズル16から出た液を処理後軽液とした。
【0054】
比較例1 拍動無し
最初にダイヤフラムポンプは稼働せずに抽出処理を行った。ホールド分は予め塔内に仕込み、軽液と重液の供給量が、塔内の体積分の5倍の量になった時点で定常状態としてデータ測定した。
軽液の流量は、重液の流量に対して質量比で2倍とした。
結果として、以下の組成となった。
【0055】
【0056】
本条件での重液からのギ酸回収率は、91.8%であった、
【0057】
実施例1 2塔目のみ拍動あり
最初にダイヤフラムポンプ30内を液で満たすようにダイヤフラムのガス抜きラインから、ガスを抜きながらダイヤフラム内に塔内の液を供給した。その後、2塔目20のみ拍動を入れた。ダイヤフラムが押し込む体積は、80mlであり、充填部の空隙率は、98%であった。1拍(振幅)で約5cm液面動いた。周波数は、30Hzに設定し、それ以外は拍動無しの条件と同じとした。
結果として、以下の組成となった。
【0058】
【0059】
実施例2 1塔目にも拍動あり、拍動は実施例1と同じ条件
1塔目にも拍動を入れた。それ以外は、実施例1と同様の条件で試験した。結果として、1塔目が分散相である塔底に重液が落ちにくくなり塔内で滞留するという現象が発生した(フラッディング)した。現象は塔内圧力から検知した。1塔目は、重液相の供給口及び2塔目の軽液相出口からの供給口があるため、ギ酸の量が1塔目に比べ多く、結果として2塔目より処理する液流量が増え、拍動の影響で分散相の重液が落ちにくくなったためフラッディングとなった。
【0060】
実施例3 両塔に拍動あり、拍動の振幅を半分に変更
ダンパーを使用し、ダンパー内の圧力を圧縮空気の導入量で調整しながら、実施例2の条件の振幅を両塔共に半分(2.5cm)になるように設定し、運転した。結果として、以下の組成となった。
【0061】
【0062】
処理後の重液が質量分率で0.001まで濃度が下がった。ギ酸回収率は、99.6%であった。
本発明の液-液抽出装置の一実施形態においては、前記各抽出塔は、前記n個の抽出塔が3個以上の抽出塔であり、隣り合わせた抽出塔は、塔が3塔以上でそれぞれ、もしくは任意の塔2塔以上が前述した改良されたダイヤフラムポンプに配管を通じて接続されていることを特徴とする態様が示される。
前記ダイヤフラムチャンバーは、それぞれのチャンバーの壁面を形成するダイヤフラムが交互に稼働する2つのチャンバー部を備えた電気または圧縮空気によって駆動されるダイヤフラムポンプの、各流入口および流出口の逆止弁を取り除き、かつ一方のチャンバー部については流出口、他方のチャンバー部については流入口を隔壁で塞いで各チャンバー部への液体流路はそれぞれ1つのみとすると共に、各チャンバー部にはガス抜き用ノズルを設けた改良されたダイヤフラムポンプを用い、これに2つの抽出塔からの配管をそれぞれ接続するものである請求項1に記載の液-液抽出装置。
前記抽出装置の拍動による液の振幅を各抽出塔内の液平均密度及び液面高さから得られる塔内の任意の位置の圧力と圧力調整チャンバー内との圧力差から調整できることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載の液-液抽出装置。