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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184310
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20221206BHJP
   F24H 15/375 20220101ALI20221206BHJP
【FI】
F25B1/00 371B
F25B1/00 361D
F25B1/00 371J
F25B1/00 399Y
F24H4/02 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092080
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晋也
(72)【発明者】
【氏名】須賀 徹
【テーマコード(参考)】
3L122
【Fターム(参考)】
3L122AA02
3L122AA23
3L122AC21
3L122BA41
3L122BC13
3L122BC18
3L122BC22
3L122DA22
3L122EA62
3L122GA06
3L122GA09
(57)【要約】
【課題】冷媒の圧力を検出することなく、圧縮機の低差圧運転時に圧縮比を使用範囲内に維持可能な熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置を提供する。
【解決手段】熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置1は、圧縮機11、第一熱交換器13、膨張弁15、および第二熱交換器16を有する冷凍サイクル5と、利用側機器27と、冷凍サイクル5の第一熱交換器13と利用側機器27とを接続して熱媒体を循環させる熱媒体流路58と、冷凍サイクル5のいずれかの箇所の温度を検出する温度センサと、圧縮機11が吸込圧と吐出圧との差異が小さい低差圧運転をする場合には、圧縮機11の圧縮比が使用範囲を外れないように温度センサが検出する温度に基づいて圧縮機11の運転周波数の下限値を変化させる制御部29と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、第一熱交換器、絞り装置、および第二熱交換器を有する冷凍サイクルと、
利用側機器と、
前記冷凍サイクルの前記第一熱交換器と前記利用側機器とを接続して熱媒体を循環させる媒体流路と、
前記冷凍サイクルのいずれかの箇所の温度を検出する温度センサと、
前記圧縮機が吸込圧と吐出圧との差異が小さい低差圧運転をする場合には、前記圧縮機の圧縮比が使用範囲を外れないように前記温度センサが検出する温度に基づいて前記圧縮機の運転周波数の下限値を変化させる制御部と、を備える熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置。
【請求項2】
前記利用側機器で所望する前記熱媒体の設定温度を入力可能な入力部を備え、
前記温度センサは、前記第二熱交換器が設置される場所の雰囲気温度を検出し、
前記制御部は、前記雰囲気温度の高低、および前記設定温度の高低に応じて前記運転周波数の下限値を変化させる請求項1に記載の熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記雰囲気温度が高くなるほど前記運転周波数の下限値を上昇させ、かつ前記設定温度が低くなるほど前記運転周波数の下限値を上昇させる請求項2に記載の熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置。
【請求項4】
前記温度センサは、前記第一熱交換器に流れる熱媒体の温度および前記第二熱交換器が設置される場所の雰囲気温度を検出し、
前記制御部は、前記雰囲気温度の高低、および前記熱媒体の温度の高低に応じて前記運転周波数の下限値を変化させる請求項1に記載の熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置。
【請求項5】
前記熱媒体の温度は、前記第一熱交換器から流れ出る熱媒体の温度である請求項4に記載の熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置。
【請求項6】
前記熱媒体の温度は、前記第一熱交換器に流れ込む熱媒体の温度である請求項4に記載の熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記雰囲気温度が高くなるほど前記運転周波数の下限値を上昇させ、かつ前記熱媒体の温度が低くなるほど前記運転周波数の下限値を上昇させる請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る実施形態は、熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のヒートポンプ式冷凍サイクルを備えた冷凍装置、例えば、中大型の空気調和装置は、圧縮機の吐出側に設けられる高圧センサと、圧縮機の吸込側に設けられる低圧センサと、を備えている。空気調和装置は、これら圧力センサの検出する圧力に基づいて、圧縮機の吐出側の圧力、圧縮機の吸込側の圧力、および圧縮比が適正な範囲に納まるよう、圧縮機の運転周波数を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-185373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の空気調和装置は、圧縮機の吐出側の圧力、圧縮機の吸込側の圧力、および圧縮比が圧縮機の仕様で決められている使用範囲に納まるように圧縮機の運転周波数を制御するために、圧縮機の吐出側に設けられる高圧センサと、圧縮機の吸込側に設けられる低圧センサと、を必要とする。
【0005】
ところで、熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置は、対象となる温水などの熱媒体を設定温度に維持する必要がある。そこで、熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置は、外気温が高く、利用側の設定温度が低い運転条件の下、利用側を循環する熱媒体の温度が設定温度付近に上昇すると、低能力となるように圧縮機の運転周波数を徐々に下げ、最終的に圧縮機の回転周波数を低下させる。このときの圧縮機の運転状態は、吸込圧と吐出圧との差異が小さい低差圧運転となる。ここで極端に低い低差圧運転では、圧縮比が圧縮機の使用範囲を外れる虞がある。
【0006】
圧縮機の低差圧運転時に圧縮比を使用範囲内に維持するために、従来の空気調和装置のように圧縮機の吸込側と吐出側との2つの圧力センサを設けて圧縮機の運転周波数を制御することが考えられる。しかしながら、装置全体の信頼性、圧力センサ故障時の対応、装置の製造性、装置の製造コストなどを鑑みれば、圧力センサを用いることなく、圧縮機の低差圧運転時の圧縮比を使用範囲に保つことが望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、冷媒の圧力を検出することなく、圧縮機の低差圧運転時に圧縮比を使用範囲内に維持可能な熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するため本発明の実施形態に係る熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置は、圧縮機、第一熱交換器、絞り装置、および第二熱交換器を有する冷凍サイクルと、利用側機器と、前記冷凍サイクルの前記第一熱交換器と前記利用側機器とを接続して熱媒体を循環させる媒体流路と、前記冷凍サイクルのいずれかの箇所の温度を検出する温度センサと、前記圧縮機が吸込圧と吐出圧との差異が小さい低差圧運転をする場合には、前記圧縮機の圧縮比が使用範囲を外れないように前記温度センサが検出する温度に基づいて前記圧縮機の運転周波数の下限値を変化させる制御部と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置のブロック図。
図2】圧縮機の吸込圧力と、吐出圧力と、圧縮比の使用範囲との関係を模式的に表現する図。
図3】本発明の実施形態に係る熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置が実行する圧縮機の運転周波数の下限値制御のフローチャート。
図4】本発明の実施形態に係る熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置が圧縮機の運転周波数の下限値の補正処理に用いる補正値を概略的に表す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置の実施形態について図1から図4を参照して説明する。なお、複数の図面中、同一または相当する構成には同一の符号が付されている。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置のブロック図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置1は、循環する冷媒と外気との間で熱交換を行い、かつ循環する冷媒と循環する熱媒体との間で熱交換を行う熱源ユニット2と、熱源ユニット2によって暖められた熱媒体を循環させて利用する負荷ユニット3と、を備えている。
【0013】
なお、以下の説明では、熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置1を単に「ヒートポンプ装置1」と記載する。
【0014】
熱源ユニット2は、冷凍サイクル5を備えている。冷凍サイクル5は、圧縮機11と、四方弁12と、第一熱交換器13と、絞り装置としての膨張弁15と、第二熱交換器16と、これらの部品を順次接続する冷媒配管17と、を備えている。圧縮機11は、これらの冷凍サイクル部品に冷媒を循環させる。冷凍サイクル5を循環する冷媒は、例えばR410A、またはR32である。
【0015】
第一熱交換器13は、一般的に水熱交換器とも呼ばれ、冷媒と不可ユニット3を循環する熱媒体との間で熱交換させる熱交換器であり、熱媒体を加熱する場合には、凝縮器として機能し、第二熱交換器16が蒸発器として機能するよう、冷媒の流れ方向を制御する四方弁11により冷媒配管17を流れる冷媒の流通方向を設定する。
【0016】
圧縮機11は、高圧容器と、高圧容器に収容される圧縮機構と、高圧容器に収容されてインバータ装置25を電源として圧縮機構を駆動するDCブラシレスモータと、を備えている。圧縮機11は、圧縮機構で冷媒を圧縮して昇圧し、高温高圧状態の冷媒を吐出する。圧縮機11は、インバータ装置25によって運転周波数が変更される。圧縮機11の回転数を上げることで、高温部分へ移動する熱量が増加し、回転数を下げることで、高温部分へ移動する熱量が低下する。
【0017】
膨張弁15は、例えば電子膨張弁(Pulse Motor Valve:PMV)である。膨張弁15の開度は、冷凍サイクルの状態に応じて調節される。膨張弁15は、第一熱交換器13と第二熱交換器16との間の冷媒配管17に直列に設けられている。膨張弁15は、冷媒を減圧して低温低圧状態の冷媒を流出させる。
【0018】
第二熱交換器16は、空気熱交換器とも呼ばれる。第二熱交換器16は、冷媒配管17内の冷媒と第二熱交換器16の雰囲気、通常は外気との間で熱交換を行う。
【0019】
また、熱源ユニット2は、第二熱交換器16で熱交換された後の外気を吹き出す送風ファン21と、冷凍サイクル5の各部の温度を検出する複数の温度センサと、商用交流電源Eに接続されて圧縮機11のDCブラシレスモータを可変速駆動するインバータ装置25と、ユーザによる操作を受け付ける入力装置であるコントローラ26(入力部)と、熱源ユニット2および利用側機器27の運転条件としての設定の内容と運転状態とを表示する表示部28と、コントローラ26の操作に基づいて熱源ユニット2の運転および利用側機器27の運転を制御する制御部29と、を備えている。
【0020】
各部に設けられる複数の温度センサは、圧縮機11の吸込側の冷媒配管17に設けられて圧縮機11に吸い込まれる冷媒の温度TSを検出する吸込温度センサ41と、従来と同様に圧縮機11の吐出側の冷媒配管17に取付けられて圧縮機11から吐出される冷媒の温度TDを検出する吐出温度センサ42と、冷媒配管17に設けられて第一熱交換器13から流れ出る熱交換後の冷媒の温度TC(凝縮温度)を検出する冷媒出口側温度センサ43と、第二熱交換器16に設けられて第二熱交換器16を流通する冷媒の温度TE(蒸発温度)を検出する冷媒温度センサ45と、外気温TOを検出する外気温度センサ46と、を含んでいる。
【0021】
外気温度センサ46は、正確な外気温を検出するために、送風ファン21の送風方向において第二熱交換器16の上流側に配置されている。
【0022】
なお、熱源ユニット2は、冷凍サイクル5を循環する冷媒の圧力を検出する圧力センサは備えられていない。
【0023】
負荷ユニット3は、負荷ユニット3と熱源ユニット2とで共有する第一熱交換器13と、利用側機器、例えば温水タンク51と、温水タンク51内の液体(湯)と第一熱交換器13で熱交換された後の熱媒体との間で熱交換を行う利用側熱交換器52と、を備えている。
【0024】
熱媒体回路は閉回路として図示されているが、閉回路である必要はない。熱媒体回路は、熱媒体を循環させる循環ポンプ53、熱媒体の循環流量を一定に保つ定流量弁55、熱媒体の逆流を防ぐ逆止弁56、温水タンク51、流量計57、および第一熱交換器13を接続して熱媒体としての水を循環させる熱媒体流路58を備えている。熱媒体は、一般的に水であるが、凍結防止のために不凍液を用いても良い。
【0025】
ヒートポンプ装置1のユーザは、コントローラ26から負荷ユニット3で所望する設定温度を入力する。ヒートポンプ装置1は、負荷ユニット3において外部に利用する温水タンク51内の温水等の液体を常に高温に維持するために用いられる。このため、コントローラ26において設定される熱媒体の設定温度は、温水利用側の要望によって決められる。この設定温度は、例えば30℃~64℃であり、暖房を目的とした空調機の設定温度よりも高温となる。
【0026】
循環ポンプ53は、運転により第一熱交換器13と利用側機器27との間で熱媒体を循環させる。なお、循環ポンプ53、定流量弁55と、逆止弁56、および流量計57は、負荷ユニット3側の熱媒体流路58に設けられていても良いし、熱源ユニット2側の熱媒体流路58に設けられていても良い。冷媒配管17を循環する冷媒が熱媒体流路58を循環する熱媒体より高温であれば、熱媒体は、第一熱交換器13で加熱され、利用側熱交換器52(放熱器)で温水タンク51内の液体を加熱し、放熱して第一熱交換器13に返送される。
【0027】
熱媒体流路58は、配管継手59、59を備えている。これら配管継手59、59は、熱源ユニット2と負荷ユニット3とを着脱可能に接続している。
【0028】
熱源ユニット2は、熱媒体の温度を制御するために、第一熱交換器13の入口側に設けられて第一熱交換器13に流れ込む熱媒体の温度TWIを検出する熱媒体入口温度センサ71と、第一熱交換器13の出口側に設けられて第一熱交換器13から流れ出る熱媒体の温度TWOを検出する熱媒体出口温度センサ72と、を備えている。温度TWIは、第一熱交換器13で冷凍サイクル5の冷媒と熱交換を行う以前の熱媒体の温度(戻り温度)であり、温度TWOは、第一熱交換器13で冷凍サイクル5の冷媒と熱交換を行った後の熱媒体の温度(往き温度)である。
【0029】
負荷ユニット3は、熱媒体流路58を循環する熱媒体の流量を検出する流量計57を備えていても良い。なお、熱媒体の循環流量は、流量計57で検出する他に、循環ポンプ53の回転数に対応して予め記憶される流量であっても良いし、手動入力で設定される流量であっても良い。
【0030】
制御部29は、プロセッサ、メモリ、およびその周辺回路などのハードウェア資源を備えている。制御部29は、プロセッサが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピューターで構成されている。
【0031】
また、制御部29は、コントローラ26への入力操作に基づいて熱源ユニット2の運転、および負荷ユニット3の運転を制御する。すなわち、制御部29は、コントローラ26を用いたユーザの入力操作に基づいて圧縮機11、インバータ装置25、四方弁12、膨張弁15、および送風ファン21の動作を制御する。
【0032】
さらに、制御部29は、吸込温度センサ41、吐出温度センサ42、冷媒出口側温度センサ43、冷媒温度センサ45、外気温度センサ46、熱媒体入口温度センサ71、および熱媒体出口温度センサ72による各部位の温度の検出値、および検出または算出される熱媒体の循環流量のうちの一つ以上に基づいて、圧縮機11の運転停止やその回転数、四方弁12の方向、膨張弁15の開度、および送風ファン21の運転停止やその回転数を制御する。例えば、熱媒体出口温度センサ72の検出温度とコントローラ26で設定された熱媒体の設定温度との差に応じて圧縮機11の回転数、すなわちインバータ装置25の出力周波数は決定される。また、冷媒出口側温度センサ43の検出温度である凝縮温度は、第一熱交換器等の冷凍サイクル部品が異常高圧になることを防止する等に用いられる。すなわち、冷媒出口側温度センサ43の検出温度である凝縮温度が所定値、例えば65℃、を超えると圧縮機11の回転数を低下させる。
【0033】
なお、冷凍サイクル5は、第一熱交換器13で熱媒体を加熱する運転中に生じた第二熱交換器16に生じた霜を取り除くために、四方弁12によって冷媒配管17を流れる冷媒の流通方向を切替えて除霜運転を実施する。除霜運転を実施する際、ヒートポンプ装置1は、四方弁12を反転させて熱媒体を加熱する冷媒の流れと逆向きの冷媒の流れを冷凍サイクル5に生じさせる。すなわち、冷凍サイクル5は、圧縮機11、四方弁12、第二熱交換器16、膨張弁15、第一熱交換器13、四方弁12、および圧縮機11の順に冷媒を流通させる。この除霜運転中は、第二熱交換器16は凝縮器として機能し、第一熱交換器13は蒸発器として機能する。凝縮器として機能する第二熱交換器16は、表面に付着した霜を溶解する。
【0034】
また、除霜運転が不要な温暖地域向けでは、冷凍サイクル5は、四方弁12を備えていない、水の加熱専用であっても良い。この場合、圧縮機11の吐出側は、冷媒配管17を介して第一熱交換器13に接続され、圧縮機11の吸込側は冷媒配管17を介して第二熱交換器16に接続される。
【0035】
図2の横軸は圧縮機11の吸込圧力であり、図2の縦軸は圧縮機11の吐出圧力であり、横軸の左端は圧縮機11の起動時などの過渡期を除く圧縮機11の安定運転中に使用可能な最低吸込圧力値である。図2の線分Aは、圧縮機11の圧縮比の使用範囲の下限である。
【0036】
図2に示すように、圧縮機11の圧縮比の使用範囲の下限は、圧縮機11の吸込圧力および吐出圧力に比例する右上がりの線分Aで表現できる。この線分Aより下方の状態で圧縮機11を定常運転することは圧縮機の信頼性の観点から許容されない。つまり、定常運転時の圧縮機11の圧縮比は、線分A以上の領域Bに属することが求められる。
【0037】
吸込圧と吐出圧との差異が小さい、低圧縮比の状態は、線分Aの近傍に位置する
【0038】
本実施形態に係るヒートポンプ装置1は、冷凍サイクル5に圧力センサを備えていない。そのため、ヒートポンプ装置1は、圧力センサが検出する圧力に基づいて、圧縮機の吐出圧力、圧縮機の吸込圧力、および圧縮比が使用可能範囲(領域B)に納まるように圧縮機11の運転周波数を制御することはできない。
【0039】
ここで、圧縮機11の圧縮比を使用範囲に納めるために、圧縮機11の線分A以上の領域Bに入らないように予めインバータ装置25の出力周波数、すなわち圧縮機11の運転周波数の下限値を高めに設定することが考えられる。しかしながら、運転周波数の下限値を高くすると、冷凍サイクル5の最小能力が上昇することになり、ヒートポンプ装置1の加熱能力の範囲が狭くなり、効率が低下する。なお、圧縮機11の吐出圧力、圧縮機11の吸込圧力、および圧縮比が使用範囲を逸脱した場合には圧縮機11の故障リスクが上昇するため、好ましくない。
【0040】
そこで、本実施形態に係るヒートポンプ装置1の制御部29は、圧縮機11の運転状態が吸込圧と吐出圧との差異が小さい低差圧運転である場合には、圧縮機11の圧縮比が使用範囲を外れないように、冷凍サイクル5のいずれかの箇所の温度を検出する温度センサが検出する温度に基づいて圧縮機11の運転周波数の下限値を変化させる。
【0041】
図3は、本発明の実施形態に係る熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置が実行する圧縮機の運転周波数の下限値制御のフローチャートである。以下の説明において、フローチャート中の各ステップS*をS*で表記する。
【0042】
図3に示すように、ヒートポンプ装置1の制御部29は、運転を開始すると、熱媒体の第一熱交換器13の出口温度TWOとコントローラ26に設定される熱媒体の設定温度TWOtとの大小関係が判定される(S1)。具体的には、圧縮機11が停止中においては、出口温度TWOが設定温度TWOtの値以下か否かを判断する(ステップS1)。一方、圧縮機11が運転中の場合は、出口温度TWOが(設定温度TWOt+α)の値を超えたか否かが判断される。
【0043】
ここで圧縮機11が運転中にステップS1の判断が肯定された場合、つまり(温度TWO)>(設定温度TWOt)+αの場合、および圧縮機11停止中に(温度TWO)>(設定温度TWOt)の場合には(S1 Yes)、制御部29は、圧縮機11を停止させ、または圧縮機11の停止を維持して(S2)、S1に戻る。ここでデファレンシャル値αは、例えば2℃である。
【0044】
S1の判断が否定される場合、つまり圧縮機11が運転中に(温度TWO)≦(設定温度TWOt)+αの場合および圧縮機11が停止中に(温度TWO)≦(設定温度TWOt)の場合(S1 Yes)には、続くステップで圧縮機11が運転開始もしくは運転継続される。具体的には制御部29は、圧縮機11が停止中か否かを判断する(S3)。制御部29は、圧縮機11が停止している場合には(S3 Yes)、圧縮機11を起動し(S4)、実質的に同時に圧縮機11の起動タイマの計時を開始して(S5)、S1に戻る。
【0045】
また、S3の判断が否定される場合、つまり圧縮機11が運転中の場合には(S3 No)、圧縮機11の運転が継続されS6に移動して、以降圧縮機11の運転周波数を決定する制御に入る。続いて制御部29は、第一熱交換器13から流れ出る熱媒体の温度TWOが設定温度TWOtより低いか否かを判断する(S6)。制御部29は、第一熱交換器13から流れ出る熱媒体の温度TWOが設定温度TWOtより低い場合、つまり(温度TWO)<(設定温度TWOt)の場合には(S6 Yes)、圧縮機11の運転周波数の設定値を所定時間毎に増加させる(S7)。また、第一熱交換器13から流れ出る熱媒体の温度TWOが設定温度TWOt以上の場合、つまり(温度TWO)≧(設定温度TWOt)の場合には、圧縮機11の運転周波数の設定値を所定時間毎に減少させる(S8)。なお、S7における運転周波数の増加は、例えば5Hz/30秒であり、S8における運転周波数の減少は、例えば5Hz/60秒である。運転周波数の増加割合および減少割合は、同じであっても良いし、異なっていても良い。また、極端なオーバーシュートを防止するためにS6の判定条件のデファレンシャルを設けてTWO<TWOt―β、ここで例えばβは2℃である、としても良い。
【0046】
本実施形態においては、上述のように圧縮機11の運転周波数を積分(I)制御で決定したが、(温度TWO)―(設定温度TWOt)の温度差に基づき比例積分(PI)制御で決定しても良いし、さらにはPID制御として微分制御を組み込んで適切な運転周波数を決定しても良い。
【0047】
次いで、制御部29は、圧縮機11が起動してから所定の待機時間が経過したか否かを判断する(S9)。所定の時間は、圧縮機11の起動過渡において運転周波数の下限値の補正処理(以下に説明するS12からS15)が実行されることを避けるために設定されている。所定の時間は、例えば600秒に設定される。
【0048】
S9の判断が否定される場合、つまり圧縮機11が起動してから所定の待機時間が経過していない場合には(S9 No)、制御部29は、インバータ装置25を介して圧縮機11を前述のS7、S8で決定した設定周波数で駆動させて(S10)、S1に戻る。なお、S10における設定周波数は、圧縮機11が起動してから所定の待機時間が経過した後には、S7、S8の他に、これから説明する運転周波数の下限値の補正処理によっても変更される。
【0049】
S9の判断が肯定される場合、つまり圧縮機11が起動してから所定の待機時間(600秒)が経過した後(S9 Yes)には、制御部29は、起動タイマの計時を初期化(零値化:リセット)して(S11)、後述する運転周波数の下限値の補正処理を実行する。
【0050】
図4に基づき圧縮機11の運転周波数の下限値の補正処理を説明する。
【0051】
図4に示すように、ヒートポンプ装置1の制御部29は、設定温度TWOtと第二熱交換器16が設置される場所の雰囲気温度である外気温TOとから補正値ΔLHzを算出する。この補正値ΔLHzは、圧縮機11の運転周波数の下限値を上昇させるための補正値であって、正の値である。
【0052】
補正値ΔLHzは、外気温TOが高くなるほど大きく、かつ設定温度TWOtが低くなるほど大きい。換言すると、補正値ΔLHzは、外気温TOが低くなるほど小さく、かつ設定温度TWOtが高くなるほど小さい。補正値ΔLHzは、図4において上右側の直角な角を有する直角三角形状の領域Cにおいて、負の値となる。この領域Cでは、補正値ΔLHzは、零値に設定される。つまり領域Cでは、(補正値ΔLHz)=0である。
【0053】
また、補正値ΔLHzが正の値の領域では、本実施形態における運転周波数の下限値を上昇させる制御を行わなければ、圧縮機11の圧縮比が使用範囲を逸脱する虞がある(図2における線分Aより下方の領域にプロットされる)。
【0054】
ここで、外気基準値a、外気補正値b、設定基準値cとして補正値ΔLHzは、次のように算出される。なお、外気基準値a、外気補正値b、設定基準値cは、予め実験的に定められた固定値である。
[数1]
(補正値ΔLHz)=(補正量X)+(補正量Y)
(補正量X)=(外気温TO)+((外気温TO)-(外気基準値a))×(外気補正値b)-(設定温度TWOt)
(補正量Y)=(設定基準値c)-(設定温度TWOt)
【0055】
なお、図4に示すとおり、補正値ΔLHzは、零値以上に設定される。言い換えれば、補正値ΔLHzの計算結果が、負の値になれば、零に変更される。
【0056】
そして、圧縮機11の運転周波数の初期下限値LHz、圧縮機11の運転周波数の補正後の下限値LHz′として圧縮機11の運転周波数の下限値LHz′は次のように補正される。
[数2]
(補正後の下限値LHz′)=(初期下限値LHz)+(補正値ΔLHz)
【0057】
なお、圧縮機11の運転周波数の初期下限値LHzは、使用されている圧縮機11を通常運転範囲において不具合なく運転できる最低の運転周波数値に設定される。この初期下限値LHzは、一般的なロータリ圧縮機では、例えば12から30ヘルツ(Hz)である。
【0058】
なお、外気基準値a、外気補正値b、および設定基準値cは、冷凍サイクル5の能力、および負荷ユニット3の負荷によって異なる。外気基準値aおよび設定基準値cは、ヒートポンプ装置1および圧縮機11の仕様に基づき実験的に定められる。外気補正値bは、[数2]の補正によって圧縮機11の圧縮比が図2の線分A以上の領域Bに属するように実験によって設定される。
【0059】
図3に戻って、制御部29は、[数1]で算出される、図4に図示された関係を有する補正値ΔLHzを算出し(S12)、[数2]で算出される補正後の下限値LHz′を算出する(S13)。なお、補正後の下限値LHz′は、(補正値ΔLHz)>0の場合にのみ初期下限値LHzより大きい数値に設定される。
【0060】
次いで、制御部29は、ステップS7、S8において決定した圧縮機11の運転周波数の設定値が補正後の下限値LHz′より小さいか否かを判断する(S14)。圧縮機11の運転周波数の設定値が補正後の下限値LHz′より小さい場合には(S14 Yes)、制御部29は、圧縮機11の運転周波数の設定値を下限値LHz′に変更し(S15)、インバータ装置25を介して圧縮機11を運転周波数の設定値で駆動させ(S10)た後、S1に戻る。
【0061】
他方、圧縮機11の運転周波数の設定値が補正後の下限値LHz′以上の場合には(S14 No)、制御部29は、インバータ装置25を介して圧縮機11をステップS7、S8において決定した運転周波数の設定値で駆動させて(S10)、S1に戻る。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係るヒートポンプ装置1は、圧縮機11が低差圧運転をする場合には、圧縮機11の圧縮比が使用範囲を外れないように温度センサが検出する温度に基づいて圧縮機11の運転周波数の下限値を変化させる。そのため、ヒートポンプ装置1は、冷凍サイクル5に圧力センサを設けることなく、圧縮機11の圧縮比を使用範囲内に維持しながら運転することで圧縮機11の故障リスクを低減できる。 また、本実施形態に係るヒートポンプ装置1は、外気温TOの高低、および負荷ユニット3の設定温度TWOtの高低に応じて圧縮機11の運転周波数の下限値を変化させる。つまり、ヒートポンプ装置1は、一般的なヒートポンプ装置1が備え、かつ急激な温度変化に曝されることのない外気温度センサ46と、一般的にユーザが所望する負荷ユニット3の設定温度TWOtと、に基づいて圧縮機11の運転周波数の下限値を変化させる。そのため、ヒートポンプ装置1は、圧縮機11の圧縮比が使用範囲を逸脱しないよう圧縮機11の運転周波数の制御に供する専用の温度センサや圧力センサを必要とせず、極めて低コストで圧縮機11の故障リスクを低減できる。
【0063】
さらに、本実施形態に係るヒートポンプ装置1は、外気温YOが高くなるほど圧縮機11の運転周波数の下限値を上昇させ、かつ負荷ユニット3の設定温度TWOtが低くなるほど圧縮機11の運転周波数の下限値を上昇させる。そのため、ヒートポンプ装置1は、高低の幅広い外気温TO、および高低の幅広い設定温度TWOtに対応して圧縮機11の圧縮比を使用範囲内に維持しながら低差圧運転させて圧縮機11の故障リスクを低減できる。
【0064】
したがって、本実施形態に係るヒートポンプ装置1は、冷媒の圧力を検出することなく、圧縮機11の低差圧運転時に圧縮比を使用範囲内に維持できる。
【0065】
なお、圧縮機11が低差圧運転となるのは、熱媒体の温度が設定温度TWOtに近づいた状態である。すなわち、このような状態下では、熱媒体入口温度センサ71で検出される第一熱交換器13に流れ込む熱媒体の温度TWIおよび熱媒体出口温度センサ72によって検出される第一熱交換器13から流れ出る熱媒体の温度TWOは、(設定温度TWOt)に近い値を示す。そこで、補正値ΔLHzの算出において用いられている[数2]中の(設定温度TWOt)を、熱媒体入口温度センサ71で検出される第一熱交換器13に流れ込む熱媒体の温度TWIまたは熱媒体出口温度センサ72によって検出される第一熱交換器13から流れ出る熱媒体の温度TWOに置き換えても良い。この場合、熱媒体の温度が設定温度TWOtから低い側に離れた状態において、補正値ΔLHzが大きい値となるが、もともとこのような状況では圧縮機11の運転周波数は高く制御されているため、補正値ΔLHzが大きくなって圧縮機11の運転周波数の下限値LHz′が高く設定されたとしても本来の熱媒体の温度制御に対する悪影響はほとんどない。この場合、[数2]中の各係数である外気基準値a、外気補正値bは、そのまま使用することができ、設定基準値cは、若干変更することが望ましい。
【0066】
また、熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置1を構成する熱源ユニット2は、一体の筐体に収納されていても良いし、第一熱交換器13と他の冷凍サイクル構成部品とを別々の筐体に収納した二筐体の構成であっても良い。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1…熱媒体循環型加熱ヒートポンプ装置、2…熱源ユニット、3…負荷ユニット、5…冷凍サイクル、11…圧縮機、13…第一熱交換器、16…第二熱交換器、25…インバータ装置、26…コントローラ(入力部)、27…利用側機器、28…表示部、29…制御部、41…吸込温度センサ、42…吐出温度センサ、43…冷媒出口側温度センサ、45…冷媒温度センサ、46…外気温度センサ、51…温水タンク、52…利用側熱交換器、71…熱媒体入口温度センサ、72…熱媒体出口温度センサ。
図1
図2
図3
図4