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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184312
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】赤外LED素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/02 20100101AFI20221206BHJP
   H01L 33/38 20100101ALI20221206BHJP
【FI】
H01L33/02
H01L33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092084
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 和幸
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA34
5F241CA38
5F241CA39
5F241CA65
5F241CA92
5F241CA93
5F241CB13
5F241CB15
(57)【要約】
【課題】発光波長が1000nm以上の赤外LED素子であって、内部電極と上部電極の位置合わせを精度良く行うことを可能にする。
【解決手段】赤外LED素子は、導電性の支持基板と、支持基板の上層に形成された絶縁層と、絶縁層の上層に形成された第一半導体層、活性層、及び活性層の上層に形成され第一半導体層とは異なる導電型の第二半導体層とを含む半導体積層体と、半導体積層体の上層に形成された上部電極と、支持基板の主面に平行な方向に分散した複数の位置で絶縁層を貫通して第一半導体層と支持基板とを電気的に接続する内部電極とを備える。活性層の膜厚T[nm]と、赤外LED素子のピーク発光波長λ[nm]とが、下記(1)式の関係を満たす。
T ≦ -3.5×λ + 6375 …(1)
(ただし、λは、1550 ≦ λ ≦1800 である。)
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外LED素子であって、
導電性の支持基板と、
前記支持基板の上層に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の上層に形成された、p型又はn型の第一半導体層と、前記第一半導体層の上層に形成された活性層と、前記活性層の上層に形成され前記第一半導体層とは異なる導電型の第二半導体層とを含む半導体積層体と、
前記半導体積層体の上層に形成された上部電極と、
前記支持基板の主面に平行な方向に分散した複数の位置で前記絶縁層を貫通して前記第一半導体層と前記支持基板とを電気的に接続する内部電極とを備え、
前記活性層の膜厚T[nm]と、前記赤外LED素子のピーク発光波長λ[nm]とが、下記(1)式の関係を満たすことを特徴とする、赤外LED素子。
T ≦ -3.5×λ + 6375 …(1)
(ただし、λは、1550 ≦ λ ≦1800 である。)
【請求項2】
前記上部電極は、前記支持基板の前記主面に直交する方向に関して、前記内部電極と対向しない位置に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の赤外LED素子。
【請求項3】
前記支持基板の前記主面に直交する方向から見て、前記内部電極に最も近い位置の前記上部電極と、前記内部電極との離間距離のばらつきが10μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項4】
前記第二半導体層は、InPであり、
前記活性層は、GaInAsP、AlGaInAs、及びInGaAsからなる群に属する一以上の材料を含んでなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項5】
前記ピーク発光波長λが、1000 ≦ λ <1550 であり、
前記活性層の膜厚Tが、1000nm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の赤外LED素子の製造方法であって、
成長基板を準備する工程(a)と、
前記成長基板の上層に前記第二半導体層を形成する工程(b)と、
前記第二半導体層の上層に、ピーク発光波長がλ[nm]となる材料からなる前記活性層を、前記(1)式を満たす膜厚T[nm]で形成する工程(c)と、
前記活性層の上層に前記第一半導体層及び前記絶縁層を形成する工程(d)と、
前記絶縁層の内部に前記内部電極を形成する工程(e)と、
前記絶縁層の上層に前記支持基板を貼り合わせる工程(f)と、
前記成長基板を剥離して前記第二半導体層を露出させる工程(g)と、
前記第二半導体層の上層にフォトレジストを形成した後、前記上部電極の形状に応じてパターニングされたフォトマスクを、前記内部電極の位置に基づいてイメージセンサを用いて位置合わせをして配置する工程(h)と、
前記フォトマスクを介して露光した後、前記上部電極の材料膜を成膜する工程(i)と、
前記フォトレジストを除去する工程(j)とを有することを特徴とする、赤外LED素子の製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)は、InPからなる膜を成膜する工程であり、
前記工程(c)は、GaInAsP、AlGaInAs、及びInGaAsからなる群に属する一以上の材料を含んでなる膜を成膜する工程であることを特徴とする、請求項6に記載の赤外LED素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外LED素子に関し、特に発光波長が1000nm以上の赤外LED素子に関する。また、本発明は、このような赤外LED素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長1000nm以上の赤外領域を発光波長とする半導体発光素子は、防犯・監視カメラ、ガス検知器、医療用のセンサや産業機器等の用途で幅広く用いられている。
【0003】
発光波長が1000nm以上の半導体発光素子は、これまで以下の手順で製造されるのが一般的であった(下記、特許文献1参照)。すなわち、成長基板としてのInP基板上に、InP基板に格子整合する、第一導電型の半導体層、活性層(「発光層」と称されることもある。)、及び第二導電型の半導体層を順次エピタキシャル成長させる。その後、半導体ウエハ上に電流注入のための電極を形成し、チップ状に切断して製造される。
【0004】
従来、発光波長が1000nm以上の半導体発光素子としては、半導体レーザ素子の開発が先行して進められてきた経緯がある。一方で、LED素子については、その用途があまりなかったこともあり、レーザ素子よりは開発が進んでいなかった。
【0005】
しかしながら、近年、アプリケーションの広がりを受け、赤外LED素子についても光出力の向上が求められるようになってきている。InP基板は、可視光領域で用いられるGaAs基板と同様に、屈折率が3以上と高い値を示す。このため、InP基板を通じて光を取り出そうとすると、空気との界面における屈折率差に起因した全反射が生じ、光取り出し効率が低く制限されてしまう。更に、InP基板は熱抵抗が大きいため、大電流駆動において光出力が飽和状態になりやすい。このような事情から、特許文献1に開示されている構造は、高い光出力を得るLED素子を実現するには不向きであった。
【0006】
特許文献1に開示された構造よりも高い光出力を得る方法として、例えば、特許文献2に開示された構造の採用が考えられる。すなわち、高い放熱性を示す導電性の支持基板に、エピタキシャル層が形成された成長基板を貼り合わせた後、成長基板を除去することで実現した構造が有効であると考えられる。ただし、特許文献2に記載された発光素子は、ターゲットとしている波長が、1000nmよりも低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-282875号公報
【特許文献2】特開2012-129357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
LED素子の発光効率を高めるためには、活性層内を流れる電流を、基板の面方向に拡げることが重要である。なぜなら、活性層内の特定の箇所に電流が集中すると、活性層内において、電流が集中する箇所と他の箇所とで輝度にばらつきが生じ、光取り出し面全体から取り出される光量が低下するためである。また、別の問題として、電流が集中する箇所の温度が高くなり過ぎることで、素子の劣化が進みやすくなる。
【0009】
活性層内を流れる電流を基板の面方向に拡散するためには、製造時において電極の形成位置を精度良く調整することが重要である。本明細書では、活性層よりも上層に一方の電極を、活性層よりも下層に他方の電極をそれぞれ配置して、活性層内において基板の面に直交する方向に電流を流すことで発光させるLED素子のことを、「縦型素子」と呼ぶ。このような縦型素子において、前記一方の電極と前記他方の電極とが基板の面に直交する方向に関して相互に対向する位置関係にある場合、両電極間に電圧が印加されると、活性層内のうち、両電極が対向する領域内に電流が集中して流れやすくなる。このような現象を回避するためには、前記一方の電極と前記他方の電極とは、なるべく基板の面に直交する方向に対向しないように、配置するのが好ましい。
【0010】
このような縦型素子を製造するに際しては、活性層を含む半導体積層体と前記一方の電極とが既に形成された状態のウェハに対して、位置合わせを行った状態で前記他方の電極を形成する工程が行われる。具体的には、以下の手順で行われる。
【0011】
まず、半導体積層体の下層に形成された前記一方の電極(以下、「内部電極」と称する。)の位置を、ウェハの上方から半導体積層体を透過して検出し、この検出された位置に基づいて、前記他方の電極(以下、「上部電極」と称する。)の形成予定位置を画定する。そして、フォトリソグラフィ法を用いて、画定した位置に上部電極を形成する。
【0012】
しかし、上述した方法によって内部電極の形成位置を検出するに際し、対象となる発光素子の発光波長が1000nm以上である場合には、以下の課題が顕在化する。
【0013】
発光素子は、光を発する活性層を備えている。この活性層は、発光波長よりも高エネルギーの波長、つまり発光波長よりも短波長の光の多くを吸収する。したがって、発光波長が1000nm以上の赤外LED素子を製造するに際し、可視光を用いて人間の目によって内部電極の位置を検出する方法を採用することはできない。また、世の中で多く使われている画像認識デバイスであるSi系材料からなるCCDセンサやCMOSセンサを用いた場合でも、波長1000nm以上の光を認識することは難しい。つまり、1000nm以上の波長域に連続的な発光スペクトルを示す光源(例えばハロゲンランプ)を用いて発光素子に対して光を照射しても、CCDセンサやCMOSセンサでは反射光を認識できず、内部電極の形成位置が検出できない。
【0014】
近年では、波長2000nm近辺の長波長の赤外光についても受光が可能なInGaAs系のイメージセンサが開発されている。このため、前記したハロゲンランプからの光を発光素子に対して照射して、反射光をInGaAs系センサで受光し、得られた情報を画像解析することで、原理的には内部電極の形成位置の検出が可能である。しかし、ハロゲンランプからの光はブロードなスペクトルを示すため、発光波長よりも短波長の光が活性層内で吸収される結果、InGaAs系センサで受光される反射光の光量が不十分となり、感度が低くなる。これにより、InGaAs系センサを用いても内部電極の縁部を明確に認識できず、高精度で電極の位置合わせを行うことは難しい。
【0015】
位置合わせの精度が低い場合、内部電極と上部電極とを基板の面方向に直交する方向に対向させないようにするには、内部電極の面方向の間隔を拡げることが必要となる。この結果、同一寸法のLED素子内に設けられる電極の数が減少し、注入可能な電流量が低下してしまう。つまり、小型で高輝度な赤外LED素子を実現することは困難となる。
【0016】
本発明は、上記の課題に鑑み、発光波長が1000nm以上の赤外LED素子であって、内部電極と上部電極の位置合わせを精度良く行うことを可能にすることを目的とする。また、本発明は、このような位置合わせが行われることで、活性層内を流れる電流を面方向に拡げ、発光効率を高めた赤外LED素子を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る赤外LED素子は、
導電性の支持基板と、
前記支持基板の上層に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の上層に形成された、p型又はn型の第一半導体層と、前記第一半導体層の上層に形成された活性層と、前記活性層の上層に形成され前記第一半導体層とは異なる導電型の第二半導体層とを含む半導体積層体と、
前記半導体積層体の上層に形成された上部電極と、
前記支持基板の主面に平行な方向に分散した複数の位置で前記絶縁層を貫通して前記第一半導体層と前記支持基板とを電気的に接続する内部電極とを備え、
前記活性層の膜厚T[nm]と、前記赤外LED素子のピーク発光波長λ[nm]とが、下記(1)式の関係を満たすことを特徴とする。
T ≦ -3.5×λ + 6375 …(1)
ただし、(1)式において、λは、1550 ≦ λ ≦1800 である。
【0018】
本明細書において、基板等の部材の「主面」とは、各部材を構成する複数の面のうち、他の面よりも遥かに面積の大きい面を指す。また「矩形状」とは、長方形、正方形の他、全体的な外観が略四角形状であるものを含む。全体的な外観が略四角形状であるとは、例えば、四角形に対して、頂点に少し丸みを帯びさせた形状や、辺に微小な凹凸が形成されたものや、隣接する辺同士を90°±5°の範囲内の角度で傾斜させたもの等を含む概念である。
【0019】
また、本明細書において、「ピーク発光波長」とは、発光スペクトル上において光強度が最も高い波長を意味する。
【0020】
本発明者の鋭意研究によれば、赤外LED素子が上記(1)式の関係を満たす膜厚Tの活性層を備える場合、波長2000nm近辺までの感度を有するInGaAs系のセンサ等のイメージセンサを用いて撮影すると、5μm以下という高い精度で内部電極と上部電極との位置合わせが可能となることを見出した。詳細は、「発明を実施するための形態」の項で後述される。
【0021】
なお、活性層の膜厚Tがあまりに薄い場合、電子と正孔とが活性層内で再結合せずにオーバーフローする確率が上がってしまう。かかる現象を抑制する観点から、活性層は20nm以上とするのが好ましく、150nm以上とするのがより好ましい。
【0022】
好適には、前記上部電極は、前記支持基板の前記主面に直交する方向に関して、前記内部電極と対向しない位置に配置されている。
【0023】
これにより、上部電極と内部電極との間に電圧が印加されている間、活性層内を流れる電流を、支持基板の主面に平行な方向に関して拡げることができる。この結果、発光効率の高い赤外LED素子が実現される。
【0024】
前記支持基板の前記主面に直交する方向から見て、前記内部電極に最も近い位置の前記上部電極と前記内部電極との離間距離のばらつきが10μm以下であるのが好ましい。
【0025】
この離間距離のばらつきは、以下のように定義される。赤外LED素子が単一の上部電極を備える場合には、発光素子を支持基板の主面に直交する方向から見たときに、各内部電極と上部電極の離間距離を測定し、これらの最大値と最小値の差の絶対値を算定することで、前記ばらつきの値とされる。
【0026】
一方、赤外LED素子が複数の上部電極を備える場合には、以下のように前記ばらつきの値が算定される。まず、一つの上部電極を特定する(以下、「上部電極α1」と称する。)。次に、発光素子を支持基板の主面に直交する方向から見たときに、複数の内部電極の中から、最も近接している上部電極が上部電極α1である内部電極を特定する。この内部電極は通常複数存在し、以下では、「内部電極群β(α1)」と称する。
【0027】
そして、発光素子を支持基板の主面に直交する方向から見たときに、内部電極群β(α1)に属する各内部電極と上部電極α1との離間距離を測定し、これらの最大値と最小値の差の絶対値を算定することで、ばらつきVr(α1)が得られる。
【0028】
同様の処理を、他の上部電極(α2,α3,…,αn)(nは2以上の自然数)に対しても行うことで、ばらつきVr(α2),Vr(α3),…,Vr(αn)が得られる。これらの各ばらつきVr(αi)(1≦i≦n)の平均値をもって前記ばらつきの値とされる。
【0029】
前記第二半導体層は、InPであり、
前記活性層は、GaInAsP、AlGaInAs、及びInGaAsからなる群に属する一以上の材料を含んでなるものとしても構わない。
【0030】
InPは、GaInAsP、AlGaInAs、及びInGaAsと比較してバンドギャップエネルギーが高いため、これらの材料よりも短い波長の光を透過する。つまり、上部電極側からイメージセンサを用いて撮影する場合において、活性層の上層に位置する第二半導体層内における光の吸収は、ほとんど問題にならない。また、活性層を前述した材料で形成することで、発光波長1000nm以上の赤外LED素子が実現される。このとき、ピーク発光波長λに応じて上記(1)式を満たす膜厚Tで前記活性層を形成することで、活性層内における光吸収が抑制されるため、内部電極と上部電極とが精度良く位置合わせされた、発光効率の高い赤外LED素子が実現される。
【0031】
前記赤外LED素子は、前記ピーク発光波長λが、1000 ≦ λ <1550 であり、前記活性層の膜厚Tが、1000nm以下であるものとしても構わない。
【0032】
また、本発明に係る赤外LED素子の製造方法は、
成長基板を準備する工程(a)と、
前記成長基板の上層に前記第二半導体層を形成する工程(b)と、
前記第二半導体層の上層に、ピーク発光波長がλ[nm]となる材料からなる前記活性層を、前記(1)式を満たす膜厚T[nm]で形成する工程(c)と、
前記活性層の上層に前記第一半導体層及び前記絶縁層を形成する工程(d)と、
前記絶縁層の内部に前記内部電極を形成する工程(e)と、
前記絶縁層の上層に前記支持基板を貼り合わせる工程(f)と、
前記成長基板を剥離して前記第二半導体層を露出させる工程(g)と、
前記第二半導体層の上層にフォトレジストを形成した後、前記上部電極の形状に応じてパターニングされたフォトマスクを、前記内部電極の位置に基づいてイメージセンサを用いて位置合わせをして配置する工程(h)と、
前記フォトマスクを介して露光した後、前記上部電極の材料膜を成膜する工程(i)と、
前記フォトレジストを除去する工程(j)とを有することを特徴とする。
【0033】
上記方法によれば、工程(h)の実行時に成膜されている活性層の膜厚T[nm]は、活性層のピーク発光波長λ[nm]との関係が上記(1)式を満たすように設定されている。このため、1000nm以上の波長域に光強度を示すブロードな光を照射しながら、イメージセンサによって撮像する際、活性層内で光の吸収が抑制されているため、イメージセンサで内部電極の形成位置を精度良く検出するのに十分な光量が受光できる。この結果、工程(h)において、フォトマスクの位置合わせを精度良く行えるため、工程(j)の実行後に残存する上部電極は、支持基板の面に直交する方向に関して、内部電極と重なりが少ない位置に形成され得る。したがって、通電時に活性層内を流れる電流を、支持基板の面に平行な方向に拡げることができ、発光効率が高い赤外LED素子が得られる。
【0034】
前記工程(b)は、InPからなる膜を成膜する工程であり、
前記工程(c)は、GaInAsP、AlGaInAs、及びInGaAsからなる群に属する一以上の材料を含んでなる膜を成膜する工程であるものとしても構わない。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、発光波長が1000nm以上であっても内部電極と上部電極の位置合わせを精度良く行うことが可能となり、この結果、活性層内を流れる電流を面方向に拡げて高い発光効率を示す赤外LED素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の赤外LED素子の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
図2図1に示す赤外LED素子を-Y方向に見たときの模式的な平面図である。
図3図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における模式的な断面図である。
図4図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における模式的な断面図である。
図5図4の描画範囲を拡げた図面である。
図6】位置合わせ用マークが形成されたエピタキシャルウェハの模式的な平面図である。
図7図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における模式的な断面図である。
図8図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における模式的な断面図である。
図9図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における模式的な断面図である。
図10図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、別の一工程における模式的な断面図である。
図11A図1に示すLED素子の製造方法のステップS7を説明するための一工程における模式的な断面図である。
図11B図1に示すLED素子の製造方法のステップS7を説明するための別の一工程における模式的な断面図である。
図11C図1に示すLED素子の製造方法のステップS7を説明するための別の一工程における模式的な断面図である。
図11D図1に示すLED素子の製造方法のステップS7を説明するための別の一工程における模式的な断面図である。
図11E図1に示すLED素子の製造方法のステップS7を説明するための別の一工程における模式的な断面図である。
図12】検証1の結果を示すグラフであり、ピーク発光波長と内部電極が高精度に検知できた活性層の最大厚みとの関係を示すグラフである。
図13】上部電極と内部電極との離間距離Wsを説明するための図面である。
図14】サンプル#1とサンプル#2のそれぞれの赤外LED素子の、電流-光出力特性を示すグラフである。
図15】サンプル#1とサンプル#2のそれぞれの赤外LED素子の、電流-順方向電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係る赤外LED素子及びその製造方法の実施形態につき、図面を参照して説明する。以下の各図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0038】
本明細書において、「層Q1の上層に層Q2が形成されている」という表現は、層Q1の面上に直接層Q2が形成されている場合はもちろん、層Q1の面上に薄膜を介して層Q2が形成されている場合も含む意図である。なお、ここでいう「薄膜」とは、膜厚20nm以下の層を指し、好ましくは10nm以下の層を指すものとして構わない。
【0039】
本明細書において、「GaInAsP」という記述は、GaとInとAsとPの混晶であることを意味し、組成比の記述を単に省略して記載したものである。「AlGaInAs」等の他の記載も同様である。
【0040】
図1は、本実施形態の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の上層に形成された半導体積層体20を備える。図1に示す赤外LED素子1は、所定の位置においてXY平面に沿って切断したときの模式的な断面図に対応する。以下の説明では、適宜、図1に付されたXYZ座標系が参照される。
【0041】
以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。以下の例では、支持基板11の主面がXZ平面に平行であり、その法線方向(Y方向)に光が取り出されるものとして説明する。
【0042】
本実施形態の赤外LED素子1は、半導体積層体20内(より詳細には後述される活性層25内)で、赤外光Lが生成される。より詳細には、図1に示すように、赤外光L(L1,L2)は、活性層25を基準としたときに+Y方向に取り出される。赤外光Lは、ピーク波長が1000nm以上である。
【0043】
[素子構造]
以下、赤外LED素子1の構造について詳細に説明する。
【0044】
(支持基板11)
支持基板11は、例えばSiやGe等の半導体や、Cu、CuW等の金属材料で構成されている。支持基板11が半導体からなる場合には、導電性を示すように高濃度にドーパントがドープされているものとして構わない。一例として、支持基板11は、ホウ素(B)が1×1019/cm3以上のドーパント濃度でドープされた、抵抗率が10mΩcm以下のSi基板である。ドーパントとしては、ホウ素(B)以外には、例えば、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)等が利用できる。高い放熱性と低い製造コストとを両立する観点からは、支持基板11はSi基板が好適に用いられる。
【0045】
支持基板11の厚み(Y方向に係る長さ)は、特に限定されないが、例えば50μm~500μmであり、好ましくは100μm~300μmである。
【0046】
(接合層13)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の上層に形成された接合層13を備える。接合層13は低融点のハンダ材料からなり、例えばAu、Au-Zn、Au-Sn、Au-In、Au-Cu-Sn、Cu-Sn、Pd-Sn、Sn等で構成される。図9を参照して後述されるように、この接合層13は、半導体積層体20が上面に形成された成長基板3と、支持基板11とを貼り合わせるために利用される。接合層13の厚みは、特に限定されないが、例えば0.5μm~5.0μmであり、好ましくは1.0μm~3.0μmである。
【0047】
(反射層15)
図1に示す赤外LED素子1は、接合層13の上層に形成された反射層15を備える。反射層15は、活性層25内で生成された赤外光Lのうち、支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2を反射させて、+Y方向に導く機能を奏する。反射層15は、導電性材料であって、且つ、赤外光Lに対して高い反射率を示す材料で構成される。反射層15の赤外光Lに対する反射率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0048】
赤外光Lのピーク波長が1000nm~2000nmである場合、反射層15はAg、Ag合金、Au、Al、Cu等の金属材料を用いることができる。反射層15を構成する材料は、活性層25で生成される光の波長に応じて適宜選択される。
【0049】
反射層15の厚みは、特に限定されないが、例えば0.1μm~2.0μm以下であり、好ましくは0.3μm~1.0μm以下である。
【0050】
図1では図示しないが、反射層15と接合層13との間に、接合層13を構成するハンダ材料の拡散を抑制するためのバリア層が設けられるものとしても構わない。バリア層の材料としては、例えば、Ti、Pt、W、Mo、Ni等を含む材料で実現できる。一例として、Ti/Pt/Auの積層体で構成される。バリア層の厚みは、特に限定されないが、例えば0.05μm~3μm以下であり、好ましくは0.2μm~1μm以下である。このバリア層が介在することで、接合層13を構成する材料が反射層15側に拡散して反射層15の反射率が低下するのを防止できる。バリア層は、接合層13と支持基板11との間にも設けられていても構わない。
【0051】
光取り出し効率を向上させる観点からは、図1に示すように、赤外LED素子1が反射層15を備えるのが好適であるが、本発明において、赤外LED素子1が反射層15を備えるか否かは任意である。
【0052】
(絶縁層17)
図1に示す赤外LED素子1は、反射層15の上層に形成された絶縁層17を備える。絶縁層17は、電気的絶縁性を示し、且つ赤外光Lに対する透過性の高い材料で構成される。絶縁層17の赤外光Lに対する透過率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0053】
赤外光Lのピーク波長が1000nm~2000nmである場合においては、絶縁層17はSiO2、SiN、Al23等の材料を用いることができる。絶縁層17を構成する材料は、活性層25で生成される光の波長に応じて適宜選択される。
【0054】
(半導体積層体20)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17の上層に形成された半導体積層体20を有する。半導体積層体20は、複数の半導体層の積層体であり、例えば、コンタクト層21と、第一クラッド層23と、活性層25と、第二クラッド層27とを含む。半導体積層体20を構成する各半導体層(21,23,25,27)は、後述される成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料で構成される。
【0055】
《コンタクト層21,第一クラッド層23》
本実施形態において、コンタクト層21は例えばp型のGaInAsPで構成される。コンタクト層21の厚みは限定されないが、例えば、10nm~1000nmであり、好ましくは50nm~500nmである。また、コンタクト層21のp型ドーパント濃度は、好ましくは5×1017/cm3~3×1019/cm3であり、より好ましくは、1×1018/cm3~2×1019/cm3である。
【0056】
本実施形態において、第一クラッド層23はコンタクト層21の上層に形成されており、例えばp型のInPで構成される。第一クラッド層23の厚みは限定されないが、例えば、1000nm~10000nmであり、好ましくは2000nm~5000nmである。第一クラッド層23のp型ドーパント濃度は、活性層25から離れた位置において、好ましくは1×1017/cm3~3×1018/cm3以下であり、より好ましくは、5×1017/cm3~3×1018/cm3以下である。
【0057】
コンタクト層21及び第一クラッド層23に含まれるp型ドーパントとしては、Zn、Mg、Be等を利用することができ、Zn又はMgが好ましく、Znが特に好ましい。本実施形態では、コンタクト層21及び第一クラッド層23が「第一半導体層」に対応する。
【0058】
《活性層25》
本実施形態において、活性層25は、第一クラッド層23の上層に形成された半導体層で構成される。活性層25は、狙いとする波長の光を生成可能であり、且つ図3を参照して後述される成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。
【0059】
ピーク波長が1000nm~2000nmの赤外光Lを出射する赤外LED素子1を実現したい場合に、活性層25は、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsの単層構造としても構わないし、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsからなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きいGaInAsP、AlGaInAs、InGaAs、又はInPからなる障壁層とを含むMQW(Multiple Quantum Well:多重量子井戸)構造としても構わない。
【0060】
活性層25の膜厚T[nm]は、ピーク発光波長λ[nm]が1550 ≦ λ ≦1800の場合、ピーク発光波長λとの関係が下記(1)式を満たすように設定される。
T ≦ -3.5×λ + 6375 …(1)
【0061】
また、ピーク発光波長λが1000 ≦ λ <1550 の場合、活性層25の膜厚Tは1000nm以下である。なお、電子や正孔が活性層25内で再結合することなく隣接層に流れ出る現象(オーバーフロー現象)の発生確率を低下させる観点から、ピーク発光波長λによらず、活性層25の膜厚Tは20nm以上とするのが好ましく、150nm以上とするのがより好ましい。
【0062】
図11Cを参照して後述するように、赤外LED素子1の製造の際には、第二クラッド層27の上方からイメージセンサを用いて撮像することで、XZ平面上における内部電極31の形成位置を検出する工程が行われる。ピーク発光波長λに応じて活性層25の膜厚を上記のように設定することで、撮像用の光が活性層25内で吸収される量が抑制され、内部電極31の形成位置を精度良く認識可能となる。
【0063】
活性層25は、n型又はp型にドープされていても構わないし、アンドープでも構わない。n型にドープされる場合には、ドーパントとしては、例えばSiを利用することができる。
【0064】
《第二クラッド層27》
本実施形態において、第二クラッド層27は、活性層25の上層に形成されており、例えばn型のInPで構成される。第二クラッド層27の厚みは限定されないが、例えば100nm~10000nmであり、好ましくは、500nm~5000nmである。第二クラッド層27のn型ドーパント濃度は、好ましくは1×1017/cm3~5×1018/cm3であり、より好ましくは、5×1017/cm3~4×1018/cm3である。第二クラッド層27にドープされるn型不純物材料としては、Sn、Si、S、Ge、Se等を利用することができ、Siが特に好ましい。第二クラッド層27が「第二半導体層」に対応する。
【0065】
図1に示す例では、第二クラッド層27の+Y側の表面に凹凸部27aが形成されている。凹凸部27aが形成されることで、活性層25から+Y方向に進行した赤外光L(L1,L2)が第二クラッド層27の表面で活性層25側に反射される光量が低下され、光取り出し効率が高められる。ただし、本発明において、第二クラッド層27の表面に凹凸部27aを設けるか否かは任意である。
【0066】
第一クラッド層23及び第二クラッド層27は、活性層25で生成された赤外光Lを吸収しない材料であって、且つ、成長基板3(後述する図3参照)と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。成長基板3としてInP基板を採用する場合には、第一クラッド層23及び第二クラッド層27としては、InPの他、GaInAsP、AlGaInAs等の材料を利用することが可能である。
【0067】
ただし、上述したように、赤外LED素子1の製造の際には、第二クラッド層27の上方からイメージセンサを用いて撮像することで、XZ平面上における内部電極31の形成位置を検出する工程が行われる。かかる観点から、第一クラッド層23及び第二クラッド層27内における撮像用光の吸収を抑制するため、これらの層は、活性層25よりもバンドギャップエネルギーが十分高い材料で形成するのが好ましく、InPで形成するのがより好ましい。
【0068】
なお、上記の説明では、第一半導体層(21,23)がp型半導体であり、第二半導体層27がn型半導体であるものとして説明するが、両者の導電型が逆転しても構わない。
【0069】
(内部電極31)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17内の複数の箇所においてY方向に貫通して形成された、内部電極31を有する。内部電極31は、第一半導体層(21,23)と、支持基板11とを電気的に接続する。内部電極31は、XZ平面に平行な方向(すなわち、支持基板11の主面に平行な方向)に分散した複数の位置に設けられている。
【0070】
内部電極31は、コンタクト層21に対してオーミック接続の形成が可能な材料で構成されている。一例として、内部電極31は、AuZn、AuBe、又は少なくともAuとZnを含む積層構造(例えばAu/Zn/Au等)で構成される。これらの材料は、反射層15を構成する材料と比較して、赤外光Lに対する反射率が低い。
【0071】
後述する図2によれば、本実施形態では内部電極31が規則的に整列した構成例が示されるが、Y方向に見た場合の、内部電極31の配置パターンは、任意の形状を採用することができる。ただし、支持基板11の主面に平行な方向に関して活性層25内の広い範囲にわたって均質的に電流を流す観点からは、内部電極31は面方向に規則的な形状を有して分散した状態で配置されるのが好ましい。
【0072】
図2は、赤外LED素子1を第二クラッド層27の上方からY方向に見たときの模式的な平面図の一例である。ただし、内部電極31の形状パターンの理解のため、図2では、内部電極31についても図示されている。図2については、上部電極32の説明の箇所で後述される。図2では、半導体積層体20が上面視で矩形状を呈している場合が図示されている。
【0073】
赤外LED素子1をY方向に見たときの、全ての内部電極31の総面積は、半導体積層体20(例えば第二クラッド層27)の面方向に係る面積に対して、30%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましく、15%以下であるのが特に好ましい。内部電極31の総面積が比較的大きくなると、活性層25から支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2が内部電極31に吸収されてしまい、取り出し効率が低下してしまう。一方で、内部電極31の総面積が小さすぎると、抵抗値が高くなって順方向電圧が上昇してしまう。
【0074】
(上部電極32)
図1に示す赤外LED素子1は、半導体積層体20の上層に形成された上部電極32を有する。上部電極32は、典型的には複数本が所定の方向に延在するように形成されている。図2に示す例では、上部電極32が、半導体積層体20の辺に沿うように、X方向及びZ方向に複数延在して、櫛形の形状を呈している。なお、上部電極32の配置パターン形状は任意であり、例えば格子状であっても構わないし、渦巻状であっても構わない。上部電極32は、下層に位置する第二クラッド層27の面を露出させつつ、XZ平面上の広い範囲にわたって形成される。これにより、活性層25内を流れる電流をXZ平面に平行な方向に広げることができ、活性層25内の広い範囲で発光させることができる。
【0075】
上部電極32は、一例として、AuGe/Ni/Au、AuGe等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。
【0076】
図2に示すように、Y方向に見たときに、上部電極32と内部電極31とは、Y方向に重なりを有しないように配置されている。より好ましくは、Y方向に見たときに、各内部電極31と最も近い上部電極32との離間距離Ws(図13参照)は、ほぼ全ての内部電極31に関して実質的に均一となるように設計されている。典型的には、Y方向に見たときに、80%以上の内部電極31について、それぞれの内部電極31に最も近い位置の上部電極32と内部電極31との離間距離のばらつきが10μm以下である。なお、90%以上の内部電極31に関して、同様に前記離間距離のばらつきが10μm以下であるのがより好ましく、95%以上の内部電極31に関して、同様に前記離間距離のばらつきが10μm以下であるのがより好ましい。
【0077】
赤外LED素子1をY方向に見たときに、上部電極32と内部電極31とが重なりを有していると、当該領域においてY方向に電流が流れやすくなり、局所的に電流が集中してしまう。この結果、XZ平面に平行な方向に関して活性層25内の広い範囲に電流を流しにくくなり、第二クラッド層27の面上における輝度ばらつきが生じたり、発光効率が低下してしまう。また、赤外LED素子1をY方向に見たときに、上部電極32と内部電極31とが重なりを有していない場合であっても、内部電極31と上部電極32との離間距離のばらつきが大きい場合には、XZ平面の方向に関して流れる電流量に大きな差が生じてしまう。この結果、局所的に電流が集中する箇所が生まれてしまい、上記と同様の現象が生じるおそれがある。かかる観点から、赤外LED素子1をY方向に見たときの、内部電極31と上部電極32との離間距離のばらつきはなるべく小さくするのが好ましい。
【0078】
このためには、赤外LED素子1の製造時において、上部電極32と内部電極31の位置合わせを精度良く行うことが重要となる。より詳細には、赤外LED素子1の製造方法の説明の箇所で後述されるが、上部電極32の形成工程は、内部電極31の形成工程よりも後である。つまり、上部電極32を形成する際に、内部電極31が形成されている位置を認識した後、上部電極32の形成予定位置を調整する工程が必要となる。本発明の赤外LED素子1の場合、活性層25の膜厚Tが波長λに応じて設計されているため、内部電極31の形成位置を精度良く検出することが可能となる。
【0079】
(パッド電極34)
図2に示すように、赤外LED素子1は、上部電極32の一部の上面に形成されたパッド電極34を有する。パッド電極34は、例えばTi/Au、Ti/Pt/Au等で構成される。このパッド電極34は、給電のためのボンディングワイヤを接触させる領域を確保する目的で設けられているが、本発明においてパッド電極34を備えるか否かは任意である。
【0080】
なお、パッド電極34は、例えば半導体積層体20の各辺(チップサイズ)が800μm~2500μm程度である場合に、内径90μm~120μm程度の円形状を呈する。なお、上部電極32の線幅は10μm~30μm程度である。チップサイズが800μmを超える高出力型の赤外LED素子1においては、高い電流を注入する観点から、図2に示すように、パッド電極34を複数箇所に設けるのが好適である。
【0081】
(裏面電極33)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の半導体積層体20とは反対側(-Y側)の面上に形成された、裏面電極33を備える。裏面電極33は支持基板11に対してオーミック接触が実現されている。裏面電極33は、一例として、Ti/Au、Ti/Pt/Au等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。
【0082】
[製造方法]
上述した赤外LED素子1の製造方法の一例について、図3図11Eの各図を参照して説明する。図3図5図7図11Eは、いずれも製造プロセス内における一工程における断面図である。図6については後述される。以下の各手順は、赤外LED素子1の製造に影響のない範囲内であれば、その順序は適宜前後しても構わない。
【0083】
(ステップS1)
図3に示すように、例えばInPからなる成長基板3をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内に搬送し、成長基板3上に、第二クラッド層27、活性層25、第一クラッド層23及びコンタクト層21を順次エピタキシャル成長させて、半導体積層体20を形成する。本ステップS1において、成長させる層の材料や膜厚に応じて、原料ガスの種類及び流量、処理時間、環境温度等が適宜調整される。各半導体層(21,23,25,27)の材料例は上述した通りである。
【0084】
成長基板3としては、InPが好適に利用される。ただし、ピーク発光波長が1070nm以下の赤外LED素子1を製造するに際しては、成長基板3としてGaAsを利用しても構わない。
【0085】
なお、このステップS1において、活性層25は、形成材料から算定されるピーク発光波長をλ[nm]としたときに、1550 ≦ λ ≦1800の場合、上記(1)式を満たす膜厚T[nm]で成膜される。念の為、(1)式を再掲する。
T ≦ -3.5×λ + 6375 …(1)
【0086】
また、ピーク発光波長λが1000 ≦ λ <1550 の場合、膜厚Tは1000nm以下となるように活性層25は成膜される。なお、ピーク発光波長λによらず、活性層25は、好ましくは100nm以上の厚みで成膜される。
【0087】
このステップS1が、工程(a)~(c)に対応する。
【0088】
(ステップS2)
エピタキシャルウェハをMOCVD装置から取り出し、コンタクト層21の表面にフォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクを形成する。その後、真空蒸着装置を用いて内部電極31の形成材料(例えばAuZn)を成膜した後、リフトオフ法によってレジストマスクが剥離される。その後、例えば、450℃、10分間の加熱処理によってアロイ処理(アニール処理)が施されることで、コンタクト層21と内部電極31との間のオーミック接触が実現される。
【0089】
次に、プラズマCVD法によって例えばSiO2からなる絶縁層17が成膜される。その後、フォトリソグラフィ法及びエッチング法により、内部電極31の上層に位置する絶縁層17が取り除かれて、内部電極31が露出される(図4参照)。
【0090】
なお、図5に示すように、このステップS2において、エピタキシャルウェハの端部位置には、内部電極31と同一材料からなる、位置合わせ用マーク41が形成される。図6は、位置合わせ用マーク41が形成されたエピタキシャルウェハの模式的な平面図である。なお、図6では、位置合わせ用マーク41の理解の容易化の観点で、ウェハの上面に形成された絶縁層17と、絶縁層17内に貫通して形成された位置合わせ用マーク41のみが図示されているが、実際には、パターニング形成された内部電極31についてもこの時点において形成されている。
【0091】
図6では、位置合わせ用マーク41が十字形の形状を呈しているが、位置合わせ用マーク41の形状は任意である。
【0092】
このステップS2が、工程(d)~(e)に対応する。
【0093】
(ステップS3)
図7に示すように、絶縁層17及び内部電極31を覆うように、反射層15が形成され、その後接合層13aが形成される。例えば、真空蒸着装置によって、例えばAl/Auが所定の膜厚で成膜されることで反射層15が形成され、引き続き、例えばAu-Snが所定の膜厚で成膜されることで接合層13aが形成される。なお、上述したように、反射層15と接合層13aとの間に、例えばTi/Pt/Auが所定の膜厚で成膜されることでバリア層を形成してもよい。
【0094】
(ステップS4)
図8に示すように、成長基板3とは別の支持基板11を準備し、その上面に例えばAu-Snからなる接合層13bが形成される。なお、図示されていないが、支持基板11の面上に、コンタクト用の金属層(例えばTi)を形成し、その上層に接合層13bを形成するものとして構わない。また、接合層13bを形成する前に、上述したバリア層を形成しても構わない。
【0095】
(ステップS5)
図9に示すように、接合層13(13a,13b)を介して、成長基板3と支持基板11とが、例えば280℃の温度、1MPaの圧力下で、貼り合わせられる。この処理により、成長基板3上の接合層13aと支持基板11上の接合層13bとが、溶融されて一体化される(接合層13)。
【0096】
このステップS5が、工程(f)に対応する。
【0097】
(ステップS6)
半導体積層体20側の面にレジストを塗布して保護した後、露出した成長基板3に対して、研削研磨処理又は塩酸系エッチャントによるウェットエッチング処理を行う。これにより、成長基板3が剥離されて、第二クラッド層27が露出する(図10参照)。
【0098】
このステップS6が、工程(g)に対応する。
【0099】
(ステップS7)
第二クラッド層27の上面の所定の位置に、上部電極32を形成する。このステップS7の詳細な手順について、図11A図11Eを参照しながら説明する。
【0100】
まず、図11Aに示すように、第二クラッド層27の上面にフォトレジスト43を塗布する。ここでは、フォトレジスト43がネガ型である場合を例に挙げて説明するが、ポジ型のフォトレジスト43を用いても構わない。
【0101】
次に、図11Bに示すように、上部電極32の形状に応じてパターニングされたフォトマスク45を所定の位置に設置した状態で、フォトマスク45を介して露光用の光L40を照射する。
【0102】
フォトマスク45は、好適には端部位置に、位置合わせ用のマスク領域45aが設けられている。すなわち、図11Cに模式的に示すように、フォトマスク45は、上部電極32の形状に応じてパターニングされたマスク領域45bと、位置合わせ用のマスク領域45aとを有している。
【0103】
図5図6を参照して上述したように、ステップS2において、ウェハには内部電極31と同じ材料からなる位置合わせ用マーク41が形成されている。フォトマスク45の位置調整に際しては、フォトマスク45の上方から例えばハロゲンランプからの光を照射しながらInGaAs系センサ等のイメージセンサによって撮像する。そして、得られた画像を確認しながら、位置合わせ用マーク41と位置合わせ用のマスク領域45aとが重なるように、フォトマスク45の位置を調整する。図11Cは、位置合わせ用マーク41と位置合わせ用のマスク領域45aとが、Y方向に重なるように調整された後の状態が図示されている。
【0104】
ハロゲンランプからの光は、半導体積層体20内を通過して絶縁層17の形成箇所に達すると、内部電極31や位置合わせ用マーク41において反射されて、イメージセンサによって受光される。この撮像画像に基づいて、位置合わせ用マーク41の形成箇所が検知できる。上述したように、活性層25は、ピーク発光波長λに応じて膜厚Tが調整されており、イメージセンサからの光が活性層25内で吸収される量が抑制されている。また、第一クラッド層23や第二クラッド層27は、活性層25よりもバンドギャップエネルギーの高い材料であって、好ましくはInPで形成されている。このため、1000nm以上の光がこれらの層内で吸収される量は少なく、内部電極31の形成位置の検出の際には問題とならない。また、コンタクト層21内では、一部の光が吸収される可能性があるが、そもそも厚みが薄いため、内部電極31の形成位置の検出の際には問題とならない。
【0105】
つまり、活性層25のピーク発光波長が1000nm以上である場合であっても、フォトマスク45に設けられた位置合わせ用のマスク領域45aを、位置合わせ用マーク41に重なるように調整できる。この結果、フォトマスク45に設けられた上部電極32用のマスク領域45bを、内部電極31の形成位置に応じた適切な位置に調整できる。
【0106】
なお、位置合わせ用のマスク領域45aは、位置合わせ用マーク41の形状に応じた形状として構わない。つまり、図6に示したように、位置合わせ用マーク41が十字形状である場合には、位置合わせ用のマスク領域45aも十字形状であるものとして構わない。
【0107】
所定の位置にセットされた状態のフォトマスク45を介して、露光用の光L40がウェハに対して照射されることで、マスク領域(45a,45b)の下方に存在するフォトレジスト43が残存し、フォトマスク45の開口箇所の下方に存在するフォトレジスト43は除去される(図11D参照)。
【0108】
次に、図11Eに示すように、上部電極32の材料膜を例えば真空蒸着装置を用いて成膜する。これにより、残存したフォトレジスト43の上面と、露出した第二クラッド層27の上面とに、材料膜が成膜される(32a,32)。その後、フォトレジスト43が剥離され、必要に応じてアニール処理が施されることで、第二クラッド層27の上面の所定の位置に上部電極32が形成される(図1図2参照)。
【0109】
このステップS7が、工程(h)~(j)に対応する。
【0110】
(後の工程)
ステップS7以後は、例えば以下の工程が実行される。なお、以下の手順は適宜入れ替えることができる。
【0111】
上部電極32の上面の所定位置にパッド電極34が形成される。この場合も、上部電極32と同様に、真空蒸着装置による成膜、及びリフトオフ工程によって実現できる。
【0112】
上部電極32(及びパッド電極34)が形成されていない第二クラッド層27の表面に対してウェットエッチングが施され、凹凸部27aが形成される。その後、素子毎に分離するためのメサエッチングが施される。具体的には、第二クラッド層27の面のうちの非エッチング領域を、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストによってマスクした状態で、臭素とメタノールの混合液によってウェットエッチング処理が行われる。これにより、マスクされていない領域内に位置する半導体積層体20の一部が除去される(図1参照)。
【0113】
支持基板11の裏面側の厚みが調整された後、支持基板11の裏面側に裏面電極33が形成される。裏面電極33の具体的な形成方法としては、上部電極32と同様に、真空蒸着装置によって裏面電極33の形成材料(例えばTi/Pt/Au)を成膜することで形成できる。
【0114】
なお、支持基板11の裏面側の厚みの調整は、必要に応じて行えばよく、必ずしも必須な工程ではない。また、厚みの程度も用途等に応じて適宜設定される。
【0115】
その後、支持基板11ごとダイシングされることで、チップ化される。
【0116】
[検証1]
活性層25の材料及び膜厚を異ならせた点を除き、他は同一の条件でステップS1~S6を実行した。その後、ステップS7と同様に、フォトマスク45の位置合わせを行って、上部電極32を形成した。このときの結果を表1に示す。表1内において、評価「C」は、内部電極31が認識できずにフォトマスク45の位置合わせが不可能であったもの、又は、得られた上部電極32と内部電極31との位置合わせの精度が10μmを超えているものに対応する。また、表1内において、評価「A」は、得られた上部電極32と内部電極31との位置合わせの精度が5μm以下であるものに対応する。
【0117】
【表1】
【0118】
表1によれば、ピーク発光波長λが長波長になるほど、上部電極32と内部電極31との位置合わせの精度を高めるためには活性層25の厚みを薄くする必要があることが分かる。活性層25の厚みが薄くなったことで、活性層25内で吸収される光量が低下し、イメージセンサでの認識精度が向上したことが示唆される。一方、ピーク発光波長が1550nm以下の範囲内においては、活性層25の厚みが1000nm以下であれば、上部電極32と内部電極31との位置合わせを高精度に行えることが分かる。
【0119】
図12は、表1内において、評価「A」が得られたサンプルのうち、活性層25の厚みが最も厚いサンプルの、活性層25の厚みを波長ごとにプロットしたグラフである。このグラフによっても、ピーク発光波長λが長波長であるほど、活性層25の厚みを薄くしないと、内部電極31の形成位置を認識しにくいことが分かる。
【0120】
図12の結果によれば、ピーク発光波長λが1550nm~1800nmの範囲内、より詳細には、1550nm~1750nmの範囲内においては、活性層の膜厚T[nm]とピーク発光波長λ[nm]とが、下記(1)式、
T ≦ -3.5×λ + 6375 …(1)
を満たすことで、イメージセンサによって内部電極31の形成位置を高精度に検知できることが分かる。また、ピーク発光波長λが1000nm~1550nmの範囲内、より詳細には、1050nm~1550nmの範囲内においては、活性層の膜厚T[nm]を1000nm以下とすることで、イメージセンサによって内部電極31の形成位置を高精度に検知できることが分かる。
【0121】
つまり、上記のように活性層の膜厚Tが設定されることで、ステップS7において、内部電極31の位置に応じた適切な位置にフォトマスク45をセットできる。この結果、このフォトマスク45を通じて露光して上部電極32を形成することで、上部電極32は、内部電極31とY方向に重なり合わず、各内部電極31との離間距離をほぼ均等にすることができる。
【0122】
[検証2]
上述したステップS1~S7を経て、サンプル#1を得た。このサンプル#1は、Y方向に見たときの上部電極32と内部電極31との離間距離Wsのバラツキの平均値が2.0μmであり、全てのバラツキが5μm以内に抑制されていた。なお、図13は、上部電極32と内部電極31との離間距離Wsを説明するための図面であり、図2の一部拡大図に対応する。
【0123】
別のサンプルとして、ステップS7においてフォトマスク45の位置を意図的にずらした点を除いては、サンプル#1と同様の方法により、サンプル#2を得た。このサンプル#2は、Y方向に見たときの上部電極32と内部電極31との離間距離Wsのバラツキの平均値が11μmであり、5μmを大きく超えていた。
【0124】
なお、サンプル#1及びサンプル#2の双方共、ピーク発光波長は1300nmであり、活性層25の厚みは200nmであった。
【0125】
図14は、サンプル#1とサンプル#2のそれぞれの赤外LED素子の、電流-光出力特性を示すグラフである。また、図15は、サンプル#1とサンプル#2のそれぞれの赤外LED素子の、電流-順方向電圧特性を示すグラフである。
【0126】
図14及び図15によれば、上部電極32と内部電極31との離間距離Wsが5μm以下に抑制されていたサンプル#1の方が、前記離間距離Wsが5μmを大きく超えるサンプル#2と比べて、同一電流が供給されている状態における光出力が高く、順方向電圧が低いことが分かる。この結果からも、赤外LED素子1の発光効率を向上させるためには、上部電極32と内部電極31との位置調整が重要な要素であることが分かる。
【符号の説明】
【0127】
1 :赤外LED素子
3 :成長基板
11 :支持基板
13(13a,13b) :接合層
15 :反射層
17 :絶縁層
20 :半導体積層体
21 :コンタクト層
23 :第一クラッド層
25 :活性層
27 :第二クラッド層
27a :凹凸部
31 :内部電極
32 :上部電極
33 :裏面電極
34 :パッド電極
41 :位置合わせ用マーク
43 :フォトレジスト
45 :フォトマスク
45a,45b :マスク領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12
図13
図14
図15