(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184325
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】振動搬送装置、制御装置
(51)【国際特許分類】
B65G 27/32 20060101AFI20221206BHJP
H02P 5/46 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B65G27/32
H02P5/46 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092103
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】安達 健太
(72)【発明者】
【氏名】竹本 皓樹
【テーマコード(参考)】
3F037
5H572
【Fターム(参考)】
3F037AA04
3F037BA03
3F037CA02
3F037CA17
3F037CB04
3F037CC03
5H572AA08
5H572DD02
5H572DD10
5H572EE03
5H572EE06
5H572GG06
5H572HB09
5H572HC07
5H572JJ03
5H572JJ13
5H572JJ17
5H572JJ22
5H572JJ23
5H572JJ24
5H572JJ25
5H572JJ26
5H572KK05
5H572LL22
5H572LL50
(57)【要約】
【課題】振動搬送装置の構成が複雑化することを抑制しつつ、トラフを所定の振動角に制御して被搬送物を搬送する。
【解決手段】振動搬送装置100が備える第1,第2インバータ回路20,21は、振動モータ30,31に流れる電流量に基づいて、回転トルクを算出するトルク算出部22,24を有している。制御部12は、トルク算出部22,24により算出された第1振動モータ30の回転トルク及び第2振動モータ31の回転トルクに基づいて、同期位相を算出し、算出された同期位相に応じた値である振動角推定値を、目標角度に近づけるべく、第1振動モータ30の回転速度、及び第2振動モータ31の回転速度の少なくともいずれかを第1,第2インバータ回路20,21に調整させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動することで被搬送物を所定の搬送方向に搬送するトラフと、
回転軸に対して偏心した偏心体を回転させることで、前記トラフが振動するための加振力を前記トラフに加える振動モータと、
前記振動モータを回転駆動させる駆動回路と、
前記駆動回路による前記振動モータの回転を制御する制御部と、
を備え、
前記振動モータは少なくとも第1振動モータと第2振動モータとがあり、前記第1振動モータと前記第2振動モータとは、互いの前記回転軸を、水平方向のうち前記搬送方向と交差する方向に向けて前記トラフに取り付けられており、前記第1振動モータにおける前記回転軸の回転方向は、前記第2振動モータにおける前記回転軸の回転方向と逆方向であり、
前記駆動回路は、前記振動モータに流れる電流量に基づいて、前記振動モータにおける回転トルクを算出するトルク算出部を有し、
前記制御部は、前記トルク算出部により算出された前記第1振動モータの回転トルク及び前記第2振動モータの回転トルクに基づいて、同期位相を算出し、前記同期位相は、前記第1振動モータの前記偏心体と前記第2振動モータの前記偏心体とが同じ機械角で同期する場合の位相であり、
前記制御部は、算出された前記同期位相に応じた値である振動角推定値を、目標角度に近づけるべく、前記第1振動モータの回転速度、及び前記第2振動モータの回転速度の少なくともいずれかを前記駆動回路に調整させる振動搬送装置。
【請求項2】
前記第1振動モータの回転速度と、前記第2振動モータの回転速度とは、絶対値が同じであり、
前記制御部は、
前記第1振動モータの前記回転トルクにおけるゼロクロス点と、前記第2振動モータの前記回転トルクにおけるゼロクロス点とに基づいて、前記第1振動モータと前記第2振動モータとの間の前記回転トルクの位相差を算出し、
算出された前記回転トルクの位相差に基づいて、前記同期位相を算出する請求項1に記載の振動搬送装置。
【請求項3】
前記制御部は、
第1速度指令値に基づいて、前記第1振動モータの回転速度を前記駆動回路に制御させ、かつ第2速度指令値に基づいて、前記第2振動モータの回転速度を前記駆動回路に制御させ、
前記振動角推定値と前記目標角度との差分に基づいて、前記第1速度指令値を補正し、
前記振動角推定値を前記目標角度に近づけるべく、補正後の前記第1速度指令値に基づいて、前記第1振動モータの回転速度を前記駆動回路に調整させる請求項1又は2に記載の振動搬送装置。
【請求項4】
前記制御部は、
今回算出された前記振動角推定値と、前回算出された前記振動角推定値との差に基づいて、今回算出された前記振動角推定値がその値の前後で不連続となる位相であるか否かを判断し、
前記振動角推定値がその値の前後で不連続となる位相であると判断した場合、前記同期位相を180度だけ変更した値を前記振動角推定値として算出する請求項1~3のいずれか一項に記載の振動搬送装置。
【請求項5】
振動することで被搬送物を搬送方向に搬送するトラフと、回転軸に対して偏心した偏心体を回転させることで、前記トラフが振動するための加振力を前記トラフに加える振動モータと、前記振動モータを回転駆動させる駆動回路と、を備える振動搬送装置に適用される制御装置であって、
前記振動モータは少なくとも第1振動モータと第2振動モータとがあり、前記第1振動モータと前記第2振動モータとは、互いの前記回転軸を、水平方向のうち前記搬送方向と交差する方向に向けて前記トラフに取り付けられており、前記第1振動モータにおける前記回転軸の回転方向は、前記第2振動モータにおける前記回転軸の回転方向と逆方向であり、
前記駆動回路は、前記振動モータに流れる電流量に基づいて、前記振動モータにおける回転トルクを算出するトルク算出部を有しており、
前記トルク算出部により算出された前記第1振動モータの回転トルク及び前記第2振動モータの回転トルクに基づいて、同期位相を算出し、前記同期位相は、前記第1振動モータの前記偏心体と前記第2振動モータの前記偏心体とが同じ機械角で同期する場合の位相であり、
算出された前記同期位相に応じた値である振動角推定値を、目標角度に近づけるべく、前記第1振動モータの回転速度、及び前記第2振動モータの回転速度の少なくともいずれかを前記駆動回路に調整させる制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラフを振動させて被搬送物を搬送する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2つの振動モータの回転によりトラフを振動させて、トラフに供給された被搬送物を搬送する振動搬送装置が記載されている。振動モータは、回転軸に対して偏心する偏心体を有しており、偏心体が回転することで、トラフに対して加振力を与えることができる。特許文献1では、2つの振動モータから検出された偏心体の位相差を用いて各振動モータの偏心体における機械角が同期する位相を調整することで、トラフの振動角を制御できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
振動搬送装置において、振動モータにおける偏心体の各位相を直接検出する構成では、偏心体の位相を検出するセンサが必要となるため、振動搬送装置の構成を複雑化させることが懸念される。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みたものであり、振動搬送装置の構成を複雑化させることを抑制しつつ、トラフを所定の振動角に制御して被搬送物を搬送することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、振動することで被搬送物を所定の搬送方向に搬送するトラフと、回転軸に対して偏心した偏心体を回転させることで、トラフが振動するための加振力をトラフに加える振動モータと、振動モータを回転駆動させる駆動回路と、駆動回路による振動モータの回転を制御する制御部と、を備える振動搬送装置に関する。振動搬送装置において、振動モータは少なくとも第1振動モータと第2振動モータとがあり、第1振動モータと第2振動モータとは、互いの回転軸を、水平方向のうち搬送方向と交差する方向に向けてトラフに取り付けられており、第1振動モータにおける回転軸の回転方向は、第2振動モータにおける回転軸の回転方向と逆方向であり、駆動回路は、振動モータに流れる電流量に基づいて、振動モータにおける回転トルクを算出するトルク算出部を有している。制御部は、トルク算出部により算出された第1振動モータの回転トルク及び第2振動モータの回転トルクに基づいて、同期位相を算出し、同期位相は、第1振動モータの偏心体と第2振動モータの偏心体とが同じ機械角で同期する場合の位相であり、制御部は、算出された同期位相に応じた値である振動角推定値を、目標角度に近づけるべく、第1振動モータの回転速度、及び第2振動モータの回転速度の少なくともいずれかを駆動回路に調整させる。
【0007】
トラフの振動角は、振動モータの偏心体における機械角が同期する角度から算出することができる。また、振動モータの偏心体における機械角と、偏心体の回転により生じる回転トルクとの間には相関がある。この点、上記構成では、制御部は、駆動回路のトルク算出部により算出された、第1振動モータの回転トルク及び第2振動モータの回転トルクに基づいて、第1,第2振動モータそれぞれの偏心体が同じ機械角で同期する場合の位相を示す同期位相を算出する。制御部は、算出された同期位相に応じた値である振動角推定値を目標角度に近づけるべく、第1振動モータの回転速度、及び第2振動モータの回転速度の少なくともいずれかを駆動回路に調整させる。これにより、回転トルクを用いて算出された振動角推定値に基づいて、第1振動モータの偏心体と第2振動モータの偏心体とが同じ機械角で同期する位相が調整され、トラフの振動角を目標角度に近づけることができる。また、駆動回路が有するトルク算出部を用いて振動角の算出に用いられる回転トルクを算出するため、振動モータの位相をセンサにより直接検出する場合と比べて、振動搬送装置の構成を複雑化させることを抑制しつつ、トラフを所定の振動角に制御して被搬送物を搬送することができる。
【0008】
本発明は、種々の形態により実現することが可能であり、振動搬送装置の発明以外にも、この振動搬送装置に適用される制御装置の発明としても実現することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、振動搬送装置の構成を複雑化させることを抑制しつつ、トラフを所定の振動角に制御して、被搬送物を搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】振動角を制御する手順を説明するフローチャート。
【
図4】検出された自重トルク成分を示す回転トルクを説明する図。
【
図7】
図3のS16の処理を詳細に示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
本実施形態係に係る振動搬送装置を、図面を参照しつつ説明する。以下では、振動搬送装置が設置される設置面と水平な方向を水平方向D1とし、重力が加わる方向を垂直方向D2とする。垂直方向D2は、水平方向D1に直交する方向でもある。
図1において、水平方向D1は、右側を正とし、左側を負と定義する。振動搬送装置により搬送される被搬送物としては、例えば所定サイズの粉粒体(食品、薬品、工業用製品の材料、石灰など)である。
【0012】
振動搬送装置100は、コントローラ10と、インバータ回路20,21と、振動モータ30,31と、トラフ50と、防振ばね70とを主に備えている。
【0013】
トラフ50は、振動することにより被搬送物を搬送方向D3で搬送する。トラフ50は、搬送方向D3におけるいずれかの方向D31,D32から見た場合に、凹状の断面形状を有する部位である。具体的には、トラフ50は、底壁51と、底壁51の両端から垂直方向D2に延びる一対の側壁52とを有しており、両側壁52と底壁51とにより凹状の断面形状を形成している。
【0014】
本実施形態では、トラフ50の底壁51は、振動搬送装置の停止時において、水平方向D1と平行な向きで保持されているため、搬送方向D3は、水平方向D1と平行な向きである。本実施形態では、搬送方向D3は、左側D31を上流とし、右側D32を下流とする場合の向きを正方向とし、右側D32を上流とし、左側D31を下流とする場合を負方向としている。また、トラフ50において、一方の側壁52から他方の側壁52までを結ぶ方向を幅方向とも記載する。幅方向は、水平方向D1と平行な方向であり、かつ搬送方向D3と直交する方向でもある。
【0015】
トラフ50は、防振ばね70を介して、設置場所に吊り下げられた状態で設置されている。具体的には、トラフ50は、搬送方向D3での両側にフック部を有しており、このフック部により防振ばね70の一方の端と係合されている。防振ばね70における他方の端は、設置場所における不図示の取付け箇所に係合されている。これにより、トラフ50を設置場所において、振動可能に設置させることができる。これ以外にも、振動搬送装置100は、防振ばね70を下側から支持する脚部を有し、トラフ50を防振ばね70の上に配置することで、トラフ50を振動可能に保持する構成であってもよい。
【0016】
トラフ50の底壁51において、被搬送物が供給される面とは反対の下面側には、振動モータ30,31を取り付けるためのモータ取付け部53を備えている。モータ取付け部53は、搬送方向D3において、トラフ50の重心の両側の箇所にそれぞれ位置している。各モータ取付け部53には、振動モータ30,31が、回転軸の延びる方向を搬送方向D3と交差する方向(即ち、幅方向)に向けた状態で取付けられている。具体的には、2つの振動モータ30,31は、回転軸の先端が延びる方向を、幅方向において同一方向に向けた状態でモータ取付け部53に取り付けられている。
【0017】
振動モータにおいて、いずれかの回転軸の先端が向く方向で見た場合(即ち、
図1で示す向き)に、搬送方向D3の左側D31にある振動モータを第1振動モータ30と称し、搬送方向D3の右側D32にある振動モータを第2振動モータ31と称す。
【0018】
第1振動モータ30と第2振動モータ31とは、ACモータであり、回転軸にはこの回転軸の延びる方向と交差する位置に偏心するアンバランスウェイト32,33を有している。具体的には、第1振動モータ30と第2振動モータ31において、アンバランスウェイト32,33は、幅方向に延びる回転軸の両端に取り付けられている。第1,第2振動モータ30,31の回転に伴い、アンバランスウェイト32,33が回転することで、トラフ50には、回転軸から外側に向けた遠心力が加振力として加えられる。本実施形態では、アンバランスウェイト32,33が偏心体の一例である。
【0019】
コントローラ10は、操作部11と、制御部12と、を備えており、トラフ50とは別々の設置場所に設置されている。操作部11は、作業者による操作を受付け、受付けた操作に応じた信号を出力するユーザインタフェースである。操作部11には、振動搬送装置100に不図示のメイン電源を投入する操作を受付ける電源投入ボタン、振動搬送装置100の搬送を開始させる操作を受付ける開始ボタン、搬送を停止させる操作を受付ける停止ボタンを有している。これ以外にも、操作部11は、被搬送物の種別の変更操作を受付ける変更キーを有していてもよい。本実施形態では、コントローラ10が制御装置の一例である。
【0020】
制御部12は、CPU、ROM、RAM等を備えるプログラマバブルコントローラである。制御部12は、操作部11からの信号、及びインバータ回路20,21により検出された後述するトルク信号St1,St2が入力される。制御部12の出力ポートは、インバータ回路20,21の入力ポートに接続されている。
【0021】
制御部12は、ROMに記憶されたプログラムを実行することで、指令値設定部13、振動角算出部14、トルク取得部15,16、偏差算出部17、補正値算出部18、指令値補正部19の各機能を実現する。制御部12は、上記した各部13~19の機能により、第1,第2振動モータ30,31の回転速度を、所定の速度指令値に応じた回転速度に制御する速度制御を行う。具体的には、制御部12は、第1振動モータ30の回転速度を制御するための第1速度指令値Ts1を第1インバータ回路20に出力し、第2振動モータ31の回転速度を制御するための第2速度指令値Ts2を第2インバータ回路21に出力する。制御部12における各部の詳細については後述する。
【0022】
第1,第2振動モータ30,31の回転が左周りに制御される場合、第1,第2振動モータ30,31の位相を、0°を基準として、360°までの範囲で定義する。一方、第1,第2振動モータ30,31の回転が、右回りに制御される場合、第1,第2振動モータ30,31の位相を、-360°を基準として、0°までの範囲で定義する。
【0023】
第1インバータ回路20は、第1振動モータ30に対して、第1速度指令値Ts1に応じた回転速度で回転させるための第1駆動信号Sg1を出力する。第1駆動信号Sg1は、第1速度指令値Ts1に応じたデューティ比を有するパルス信号である。また、第1インバータ回路20は、第1トルク算出部22と、第1速度検出部23と、を有している。第1トルク算出部22は、第1振動モータ30に流れる電流量を用いて、第1振動モータ30の回転トルクを示す第1トルク信号St1を算出する。第1速度算出部23は、第1振動モータ30の回転速度を示す第1速度信号Sv1を算出する。第1トルク信号St1及び第1速度信号Sv1は、制御部12に入力される。
【0024】
第2インバータ回路21は、第2振動モータ31に対して、第2速度指令値Ts2に応じた回転速度で回転させるための第2駆動信号Sg2を出力する。第2駆動信号Sg2は、第2速度指令値Ts2に応じたデューティ比を有するパルス信号である。また、第2インバータ回路21は、第2トルク算出部24と、第2速度検出部25と、を有している。第2トルク算出部24は、第2振動モータ31に流れる電流量を用いて、第2振動モータ31の回転トルクを示す第2トルク信号St2を算出する。第2速度算出部23は、第2振動モータ31の回転速度を示す第2速度信号Sv2を算出する。第2トルク信号St2と、第2速度信号Sv2とは、制御部12に入力される。
【0025】
図1では、第1,第2インバータ回路20,21は、コントローラ10とは異なる装置として記載しているが、コントローラ10が、第1,第2インバータ回路20,21を有していてもよい。
【0026】
第1、第2速度指令値Ts1、Ts2により、第1振動モータ30と第2振動モータ31とは互いに逆回転となるように駆動する。被搬送物を搬送方向D3における左側D31から右側D32に搬送する場合、トラフの振動角Ywが0°から90°の範囲となるようにアンバランスウェイト32、33の位相角が調整される。具体的には、トラフの振動角の目標値とアンバランスウェイトの同期角度をおおむね一致させる。ここで、トラフの振動角はトラフが水平状態と仮定するとD31からD32の方向を基準として反時計回りを正とする。一方、被搬送部を搬送方向D3における右側D32から左側D31に搬送する場合、トラフの振動角Ywが90°から180°の範囲となるようにアンバランスウェイト32、33の位相角を調整する。搬送速度をゼロとする場合、トラフの振動角を90°または0°とする。
【0027】
次に、
図2を用いて、トラフ50の振動方向を示す振動角Ywと、アンバランスウェイト32,33の機械角との関係を説明する。
図2は、第1,第2振動モータ30,31の側方側(即ち、アンバランスウェイト32,33側)から見た場合の図である。第1,第2振動モータ30,31において、アンバランスウェイト32,33は、回転軸の両端に取り付けられている。しかし、
図2では、説明を容易にするため、第1,第2振動モータ30,31には、片方のアンバランスウェイトのみを示している。
図2では、被搬送物を正方向に搬送させる場合の振動角Ywを示している。第1振動モータ30において、アンバランスウェイト32の機械角を「Ym1」として示し、第2振動モータ31において、アンバランスウェイト33の機械角を「Ym2」として示している。
【0028】
アンバランスウェイト32,33の回転により、トラフ50には、加振点Pを基準として、振動角Ywに向く加振力Fが加わる。ここで、加振点Pは、トラフ50において、アンバランスウェイト32,33の回転により、加振力Fが加わる位置として仮想的に定義された位置である。加振力Fは、アンバランスウェイト32,33それぞれの回転により生じた力を合成した合成力である。第1振動モータ30と第2振動モータ31とが、トラフ50における、搬送方向D3でのトラフ50の重心の両側に取り付けられていることで、加振力Fは、トラフ50に対して、搬送方向D3における第1振動モータ30と第2振動モータ31との間に仮想的に存在する加振点Pからの力として示すことができる。
【0029】
各アンバランスウェイト32,33の機械角Ymが同期する場合に、アンバランスウェイト32,33の回転により生じる力の向きが同じになるため、加振力Fは最大となり、このときの機械角Ymを振動角Ywと定義している。言い換えれば、振動角Ywは、第1,第2振動モータ30,31の回転によりトラフ50に加わる加振力Fが最大となる位相とも言える。本実施形態では、第1振動モータ30と第2振動モータ31とは、回転方向が逆方向であるが、右周りと左周りとで位相の範囲の定義が異なるため、同じ角度となる。一方で、
図2で示す円座標上で、各アンバランスウェイト32,33の機械角Ymが180°異なる場合に、アンバランスウェイト32,33の回転により生じる力の向きが逆方向となるため、加振力Fは最小となる。
【0030】
振動搬送装置100は、振動角Ywを任意の角度で制御して、被搬送物を搬送することができる。例えば、振動搬送装置100は、異なる駆動モードで被搬送物を搬送する場合に、駆動モードに応じた振動角Ywで被搬送物を搬送する。例えば、駆動モードの一例である「搬送モード」は、振動搬送装置100において、被搬送物を搬送することを主目的に、トラフ50を振動させるモードである。「滞留モード」は、例えば、振動搬送装置100において、被搬送物を乾燥させることを主目的に、トラフ50を振動させるモードである。具体的には、「滞留モード」では、振動角Ywを「搬送モード」での振動角Ywよりも大きくすることで、被搬送物が流れる速度を「搬送モード」よりも遅くしている。これ以外にも、振動搬送装置100は、被搬送物の種別に応じた振動角Ywを設定することで、被搬送物を搬送することができる。
【0031】
コントローラ11は、アンバランスウェイト32,33が同期する位相を調整することで、トラフ50の振動角Ywを任意の角度に調整する。例えば、
図2では、第1振動モータ30の右周りでの回転速度を、第2振動モータ31の左周りでの回転速度よりも遅らせることにより、アンバランスウェイト32,33が同期する角度を0°以上、かつ90°以下の範囲で大きくし、調整後の振動角Ywを調整前の振動角Ywよりも大きくしている。一方で、第1振動モータ30の回転速度を、第2振動モータ31の回転速度よりも速めることにより、アンバランスウェイト32,33が同期する角度を0°以上、かつ90°以下の範囲で小さくし、振動角を調整前の振動角Ywよりも小さくすることができる。
【0032】
振動角Ywを、任意の角度に調整するために、第1,第2振動モータ30,31におけるアンバランスウェイト32,33の位相をセンサにより検出して、検出された位相の差を用いて振動角Ywを調整することが考えられる。しかし、トラフ50に対する外乱に起因して位相差と振動角Ywとの間の関係が変化することで、調整後の振動角Ywが、所望とする角度指令値Tyに制御できない場合がある。また、アンバランスウェイト32,33の位相を検出する必要ために、第1,第2振動モータ30,31の構成が複雑化することも懸念される。そこで、本実施形態では、制御部12は、加速度センサ60により検出されたトラフ50の物理量を用いて、振動角Ywを角度指令値Tyに制御するようにしている。
【0033】
次に、
図3を用いて、制御部12により振動角Ywを調整する手順を説明する。
図3で示す処理は、操作部11を介して、被搬送物の搬送を開始する操作を受付けたことを契機に、制御部12により実行される処理であり、主体は制御部12である。
【0034】
ステップ10(以下、ステップをSとも記載する)では、停止条件が成立したか否かを判断する。例えば、振動搬送装置100における全ての駆動モードが終了した場合や、作業者が操作部11を操作して、振動搬送装置100を停止させた場合に、停止条件が成立する。S10を否定判定すると、S11に進む。
【0035】
S11では、振動角Ywの制御を行うか否かを判断する。コントローラ11は、各モードに応じたプログラムをバッジ単位で実行しているため、振動角Ywの制御を行う場合、現在実行中の駆動モードを判断することが可能である。これ以外にも、コントローラ11は、カウンターの計時時間に応じて、現在の駆動モードを判断するものであってもよい。S11を肯定判定する場合、S12に進む。
【0036】
S12では、指令値設定部13は、第1,第2振動モータ30,31の回転速度を制御するための指令値を設定する。指令値設定部13は、例えば、上述した駆動モードや、被搬送物の種別に応じて、第1,第2振動モータ30,31の回転速度を制御するための角度指令値Ty、第1速度指令値Ts1、第2速度指令値Ts2を設定することができる。角度指令値Ty1,Ty2は、トラフ50の振動角Ywの目標角度である。本実施形態では、第1速度指令値Ts1の初期値は、第2速度指令値Ts2に対して回転方向が逆であり、絶対値が同じ値である。
【0037】
S13では、トルク取得部15は、第1インバータ回路20から出力された第1トルク信号St1、及び第1速度信号Sv1を用いて、第1振動モータ30の回転トルクに応じた自重トルク信号Tr1を取得する。S14では、トルク取得部16は、第2インバータ回路21から出力された第2トルク信号St2、及び第2速度信号Sv2を用いて、第2振動モータ31の回転トルクに応じた自重トルク信号Tr2を取得する。
【0038】
第1、第2振動モータ30,31は回転によりトルクを発生する。第1,第2振動モータ30,31が発生するトルクには、アンバランスウェイト32,33の機械角Ymに同期する自重トルク成分を含んでいる。自重トルク成分は、アンバランスウェイト32,33を一定回転数に保つために必要な成分であり、アンバランスウェイト32,33が上り方向のときは持ち上げる必要があるため正のトルクとなり、下り方向のときは落ちて加速しようとするのを抑えるため負のトルクとなる。そのため、自重トルク成分は、アンバランスウェイト32,33の機械角Ymに同期し、ゼロを中心としてほぼ正弦波の波形になる。なお、第1,第2振動モータ30,31が発生させるトルクには、自重トルク成分以外にも、第1,第2振動モータ30,31を一方向に回すための定常トルク成分、速度信号に応じて加減速するための非定常トルク成分、特定の角度で同期状態になろうとする引き込みトルク成分を含んでいる。
【0039】
トルク取得部15,16は、第1,第2振動モータ30,31により発生されるトルクのうち、自重トルク成分を自重トルク信号Tr1,Tr2として抽出する。自重トルク成分は第1,第2速度信号Sv1,Sv2により示される回転速度に同期する周波数で脈動しており、自重トルク信号Tr1,Tr2はデジタルフィルタを用いて回転数1次のトルク脈動成分として抽出することができる。本実施形態では、トルク取得部15,16は、例えばDXHSフィルタ等のデジタルフィルタである。これ以外にも、トルク取得部15,16はバンドパスフィルタであってもよい。
【0040】
第1,第2振動モータ30,31の回転を制御した場合、自重トルク信号Tr1,Tr2は、アンバランスウェイト32,33の機械角Ymに応じて、最大値と、最小値との間を繰り返す波形となる。具体的には、自重トルク信号Tr1,Tr2は、第1,第2振動モータ30,31を左回転で制御する場合、アンバランスウェイト32,33が機械角Ymで0°になるタイミングで正の最大値になり,180°になるタイミングで、負の最大値になる。また、機械角Ymで90°及び270°になるタイミングで最小値(=0)となる。なお、振動モータの回転を右周りに制御した場合において、自重トルク信号Tr1,Tr2は、アンバランスウェイト32,33が機械角Ymで0°になるタイミングで負の最大値になり,機械角Ymで-180°(=180°)になるタイミングで、正の最大値となる。機械角で-90°(=270°)及び90°になるタイミングで最小値(=0)となる。そのため、
図4に示すように、トルク取得部15,16により取得された自重トルク信号Tr1,Tr2は時間の推移に応じて、最小値と最大値とを繰り返す波形となる。以下、トルク取得部15により取得された自重トルク信号Tr1を第1自重トルク信号Tr1とも記載し、トルク取得部16により取得された自重トルク信号Tr2を第2自重トルク信号Tr2とも記載する。トルク取得部16により取得された第2自重トルク信号Tr2は、第1自重トルク信号Tr1に対して、所定の位相の遅れを伴う波形である。
【0041】
図3に戻り、S15では、振動角算出部14は、振動角推定値を算出する。振動角推定値は、トラフ50の振動角Ywを推定した値である。上述のように自重トルク信号Tr1,Tr2は、アンバランスウェイト32,33の機械角Ymと相関があるため、アンバランスウェイト32,33が同期する機械角Ymである振動角Ywと自重トルク信号Tr1,Tr2との間にも相関がある。
【0042】
振動角算出部14により、振動角推定値を算出する具体的な構成を、
図5を用いて説明する。
図5では、振動角算出部14の機能を、ゼロクロス検出部130,131、時間積分部132、ホールド部133、位相差算出部134、変換部135、推定値出力部136、推定値拡張部140として示している。
【0043】
トルク取得部15により取得された第1自重トルク信号Tr1は、ゼロクロス検出部130に入力される。ゼロクロス検出部130は、第1自重トルク信号Tr1が0となるときのタイミングであるゼロクロス点を検出する。本実施形態では、ゼロクロス検出部130は、第1自重トルク信号Tr1が、負の値から0を跨いで正の値となるタイミング(即ち、スロープ方向正)での、ゼロクロス点を検出する。ゼロクロス検出部130は、第1自重トルク信号Tr1のゼロクロス点を検出すると、時間積分部132に対してリセット信号を出力する。時間積分部132は、リセット信号により、計時情報のカウントを開始する。カウントされた計時情報は、ホールド部133に順次出力される。
【0044】
トルク取得部16により取得された第2自重トルク信号Tr2はゼロクロス検出部131に入力される。ゼロクロス検出部131は、第2自重トルク信号Tr2のゼロクロス点を検出する。本実施形態では、ゼロクロス検出部131は、第2自重トルク信号Tr2が、負の値から0を跨いで正の値となるタイミング(即ち、スロープ方向正)での、ゼロクロス点を検出する。ゼロクロス検出部131は、第2自重トルク信号Tr2のゼロクロス点を検出すると、サンプルホールド信号を、ホールド部133に出力する。ホールド部133は、サンプルホールド信号を受信すると、リセット信号が入力されてからサンプルホールド信号が入力されるまでの計時情報の積算値である積算時間を保持する。ホールド部133により保持された積算時間は、位相差算出部134に出力される。
【0045】
位相差算出部134は、積算時間と、第1,第2振動モータ30,31の速度信号Sv1,Sv2とを用いて、第1自重トルク信号Tr1と第2自重トルク信号Tr2との間の位相差ΔYを算出する。
図4に示すように、第1自重トルク信号Tr1が第2自重トルク信号Tr2に対して遅れ位相であれば、第1自重トルク信号Tr1のゼロクロス点P1から、次に検出される第2自重トルク信号Tr2のゼロクロス点P2までの時間を示す積算時間は、位相の遅れ(即ち、位相差ΔY)に応じた時間である。そのため、速度信号Sv1,Sv2により示される回転速度と、積算時間とを用いて、位相差ΔYを算出することができる。
【0046】
変換部135は、位相差算出部134により算出された位相差ΔYを、-180°よりも大きく、かつ180°未満の値に変換する。
【0047】
推定値出力部136は、変換部135により変換された位相差ΔYを用いて、振動角推定値X1を算出する。本実施形態では、推定値出力部136は、振動角推定値X1を、0°よりも大きく、かつ180°未満の範囲での値として算出する。即ち、推定値出力部136は、振動角推定値X1を、0°から180°の範囲の値に正規化する。具体的には、推定値出力部136は、下記(式1)を用いて振動角推定値X1を算出する。以下では、各処理後の振動角推定値に対して異なる符号を付与する。振動角推定値X1は、推定値拡張部140による拡張前の値であるため、符号を「X1」として示している。
X1=(180°+ΔY)/2 … (式1)
【0048】
図3に戻り、S16では、推定値拡張部140は、振動角推定値X1の正規化された範囲を拡張する。
図6を用いて、振動角推定値X1の拡張を説明する。
図6(a)は、トラフ50の実際の振動角Ywを示し、
図6(b)は、推定値出力部136により算出された振動角推定値X1を示し、
図6(c)は、拡張後の振動角推定値Y2を示す。
図6(a)に示すように、トラフ50の実際の振動角Ywは、搬送方向D3において、左側D31から右側D32の方向を基準とした場合に、0°以上、360°以下の範囲として規定される。
【0049】
一方で、
図6(b)に示すように、S15で算出される振動角推定値X1は、0°から180°の範囲で正規化された値(即ち、0°よりも大きく、かつ180°未満の値)であり、0°及び180°を不連続点とする値である。ここで、振動角Ywを調整することで、調整前の振動角Ywと、調整後の振動角Ywとが不連続点である0°や180°を跨いで変化する場合がある。このとき、不連続点(0°及び180°)の前後で値の変化が大きくなり、第1振動モータ30の回転速度の制御に不都合が生じることが懸念される。そこで、推定値拡張部140は、振動角Ywが0°又は180°を跨いで変化する場合、
図6(c)に示すように、不連続点が-90°になるように振動角推定値X1の範囲を-90°から270°の範囲で正規化する。なお、不連続点として定めた「―90°」は、角度指令値Tyとして想定されない値として定められた角度である。
【0050】
図7は、S16で、推定値拡張部140により実行される処理の手順を示している。S30では、遅延部142は、前回算出された振動角推定値Y2を、比較値Y3として取得する。比較値Y3は、推定値拡張部140が、今回算出された振動角推定値X1の算出よりも1周期前のタイミングで拡張した振動角推定値Y2であり、上述のように-90°から270°の範囲で正規化されている。例えば、遅延部142は、振動角推定値Y2を算出する毎に、算出された振動角推定値Y2をRAMに記憶している。
【0051】
S31では、不連続信号補正部143は、S30で取得された比較値Y3と、今回算出された振動角推定値X1との差分が、第1判定値TH1よりも大きいか否かを判断する。不連続信号補正部143には、偏差算出部141による、振動角推定値X1から比較値Y3を引いた値が入力される。第1判定値TH1は、今回算出された振動角推定値X1が、不連続点である0°を跨いで変化したか、即ち、調整前の振動角推定値Y2が0°以下であるか否かを判断するための値である。第1判定値TH1は、例えば、90°である。
【0052】
S31を否定判定すると、不連続信号補正部143は、S32に進み、S30で取得した比較値Y3と、今回算出された振動角推定値X1との差分が、第2判定値TH2よりも小さいか否かを判断する。第2判定値TH2は、今回算出された振動角推定値X1が、不連続点である180°を跨いで変化したか、即ち、調整前の振動角推定値Y2が180°以上であるか否かを判断するための値である。第2判定値TH2は、例えば、-90°である。
【0053】
S32を否定判定した場合、S39に進む。S31及びS32を否定判定してS39に進む場合、振動角Ywは、
図6(b)に示すB1の範囲であり、調整されていない又は0°又は180°を跨ぐことなく調整されている。そのため、S39では、拡張値設定部144は、振動角推定値X1をそのまま振動角推定値Y2に設定する。
【0054】
一方、S31を肯定判定すると、S36に進む。S36では、今回の振動角推定値X1を-90°から270°の範囲の値に正規化する。具体的には、S36では、不連続信号補正部143は、今回算出された振動角推定値X1から180°を引いた値を補正後の振動角推定値Y1として算出する。本実施形態では、
図6(b),
図6(c)に示すように、例えば、振動角推定値X1が範囲C1(90°より大きく、かつ180°未満の範囲)の値である場合、振動角推定値Y2は、元の振動角推定値X1から180°ずらすことで反転させた範囲C2(-90°よりも大きく、かつ0°未満の範囲)の値に拡張される。これは、振動角Ywを180°ずらすことで反転させた場合でも、同じ振動現象を示すためである。
【0055】
S37では、拡張値設定部144は、S36で算出された補正後の振動角推定値Y1が、-90°よりも小さいか否かを判断する。即ち、振動角推定値Y1は、-90°から270°までの範囲に正規化されていないか否かを判断する。S37を否定判定した場合、振動角推定値X1は、-90°から270°までの範囲に正規化された値であるため、S39に進み、拡張値設定部144は、補正後の振動角推定値Y1を振動角推定値Y2に設定する。
【0056】
一方、S37を肯定判定すると、S38に進む。この場合、振動角推定値Y1は、-90°から270までの範囲に正規化されていないため、拡張値設定部144は、S38で、補正後の振動角推定値Y1に180°を加算する。即ち、S38では、S36での補正がキャンセルされる。S38の処理を終了すると、S39に進み、S38で算出された値を振動角推定値Y2として設定する。例えば、振動角推定値X1が範囲D1(0°よりも大きく、かつ90°以下の値)であれば、振動角推定値Y2は範囲D2(0°以上、かつ90°≦の範囲)に設定される。
【0057】
S32を肯定判定すると、S33に進み、振動角推定値Y1を、-90°から270°の範囲で正規化する。具体的には、S33では、不連続信号補正部143は、今回算出された振動角推定値X1に180°を足した値を補正後の振動角推定値Y1として算出する。本実施形態では、
図6(b),
図6(c)に示すように、例えば、振動角推定値X1が範囲E1(0°より大きく、かつ90°以下の範囲)の値である場合、振動角推定値Y2は範囲E2(180°よりも大きく、かつ270°未満の範囲)に拡張される。これは、振動角Ywを180°ずらして反転させた場合でも、同じ振動現象を示すためである。
【0058】
S34では、拡張値設定部144は、S33で算出された補正後の振動角推定値Y1は、270°よりも大きいか否かを判断する。即ち、振動角推定値Y1は、-90°から270°の範囲に正規化されていないか否かを判断する。S34を否定判定した場合、振動角推定値X1は、-90°から270°の範囲に正規化されているため、S39に進み、拡張値設定部144は、補正後の振動角推定値Y1を振動角推定値Y2に設定する。
【0059】
S34を肯定判定すると、S35に進む。この場合、振動角推定値Y1は、-90°から270°の範囲に正規化されていないため、拡張値設定部144は、S35で、補正後の振動角推定値Y1から180°を減算する。即ち、S35では、S33での補正がキャンセルされる。S35の処理を終了すると、S39に進み、拡張値設定部144は、S35で算出された補正後の振動角推定値Y1を振動角推定値Y2に設定する。これにより、
図6(b),
図6(c)に示すように、例えば、振動角推定値X1が範囲F1(90°よりも大きく、かつ180°未満の範囲)の値であれば、振動角推定値Y2は、範囲F2(90°よりも大きく、かつ180°以下の範囲)の値に設定される。
【0060】
図3に戻り、S17では、偏差算出部17は、S12で設定された角度指令値Tyと、S16で算出された振動角推定値Y2との差(Ty-Y2)を示す角度偏差を算出する。角度偏差は、算出された振動角推定値Y2が、角度指令値Tyからどれだけ乖離しているかを示す値である。
【0061】
S18では、補正値算出部18は、S17で算出された角度偏差に応じた、速度補正値を算出する。速度補正値は、第1速度指令値Ts1に対する補正値である。補正値算出部18は、周知のPI制御(Proportional-Integral)制御により、補正後の第1速度指令値Ts1、角度偏差をゼロに近づける値となるように、速度補正値を算出する。
【0062】
S18において、補正値算出部18は、PI制御に代えて、周知のP制御(比例制御)や、PID制御により、角度偏差から指令補正値を算出してもよい。
【0063】
S19では、指令値補正部19は、第1振動モータ30に対する第1速度指令値Ts1に、S18で算出された速度補正値を加算することで、第1速度指令値Ts1を補正する。
【0064】
S20では、補正後の第1速度指令値Ts1を第1インバータ回路20に出力する。S21では、指令値設定部13により設定された第2速度指令値Ts2を第2インバータ回路21に出力する。これにより、第1,第2振動モータ30,31は、トラフ50の振動角Ywが角度指令値Tyに近づくように、回転速度が調整される。
【0065】
S21の処理が終了すると、S10に戻る。S10を否定判定すると、S11に進み、振動角Ywの制御を行うか否かを判断する。振動角Ywの制御を継続する場合、S11を肯定判定し、S12~S21の処理を実行する。これにより、トラフ50の振動角Ywは、S12で設定された角度指令値Tyに制御される。
【0066】
S11を否定判定する場合、S20に進む。S20では、所定の第1速度指令値Ts1を第1インバータ回路20に出力する。S21では、所定の第2速度指令値Ts2を第2インバータ回路21に出力する。これにより、トラフ50の振動角Ywを強制的に制御することなく、トラフ50を振動させて被搬送物を搬送する。この場合、各アンバランスウェイト32,33の機械角は、第1,第2振動モータ30,31が発生させる引き込みトルクにより同期し、振動角Ywは所定の角度に収まる。
【0067】
その後、振動搬送装置100の停止条件が成立すると、S10を肯定判定し、
図3に示す処理を終了する。
【0068】
以上説明した本実施形態では、以下の効果を奏することができる。
振動搬送装置100が備える第1,第2インバータ回路20,21は、第1,第2振動モータ30,31に流れる電流量に基づいて、第1,第2振動モータ30,31における回転トルクを算出するトルク算出部22,24を有している。制御部12は、トルク算出部22,24により算出された第1,第2振動モータ30,31の回転トルクに基づいて、アンバランスウェイト32,33が同期するときの位相を算出し、算出された位相に応じた値である振動角推定値Y2を、角度指令値TYに近づけるべく、第1振動モータ30の回転速度を第1インバータ回路20に調整させる。これにより、回転トルクに基づいて算出された振動角推定値Y2を用いて、トラフ50の振動角を角度指令値に近づけることができる。また、第1,第2インバータ回路20,21が有するトルク算出部22,24を用いて回転トルクを算出するため、第1,第2振動モータ30,31の位相を検出することなく、トラフ50を所定の振動角に制御して、被搬送物を搬送することができる。
【0069】
制御部12は、第1速度指令値Ts1に基づいて、第1振動モータ30の回転速度を第1インバータ回路20に制御させ、かつ第2速度指令値Ts2に基づいて、第2振動モータ31の回転速度を第2インバータ回路21に制御させる。制御部12は、振動角推定値と角度指令値との差分に基づいて、第1速度指令値Ts1を補正し、振動角推定値を角度指令値Tyに近づけるべく、補正後の第1速度指令値Ts1に基づいて、第1振動モータ30の回転速度を第1インバータ回路20に調整させる。これにより、振動角推定値を操作量として、第1速度指令値Ts1を調整するため、トラフ50の振動角Ywを目標角度に精度よく近づけることができる。
【0070】
制御部12は、今回算出された振動角推定値X1と、前回算出された振動角推定値Y2との差に基づいて、今回算出された振動角推定値X1がその値の前後で不連続となる位相であるか否かを判断する。制御部12は、今回算出された振動角推定値X1がその値の前後で不連続となる位相であると判断した場合に、位相を180度だけ変更した値を振動角推定値Y2として算出する。これにより、振動角推定値X1がその値の前後で不連続となる位相である場合、位相が180度だけ変更されることで、不連続とならない位相に拡張される。これにより、振動角推定値X1が不連続であることに起因して、制御部12による振動角の制御に悪影響が生じるのを抑制することができる。
【0071】
(その他の実施形態)
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
上述した実施形態では、振動搬送装置100は、2つの振動モータ30,31により、トラフ50を振動させて、被搬送物を搬送させた。これに代えて、振動搬送装置100は、3つ以上の振動モータにより、トラフ50を振動させて、被搬送物を搬送してもよい。
【0072】
制御部12は、第1振動モータ30及び第2振動モータ31と一体となった所謂モータコントローラであってもよい。この場合、制御部12は、コントローラ10に実装されておらず、第1,第2モータ30,31と一体となって、トラフ50のモータ取付け部53に取り付けられている。
【0073】
上述した実施形態では、第1,第2振動モータ30,31はACモータであった。これに代えて、第1,第2振動モータは、DCモータであってもよい。この場合において、インバータ回路に代えて、例えば、サーボアンプが用いられ、サーボアンプはコントローラ10から出力される信号に応じて、第1,第2振動モータ30,31に直流電圧の駆動信号を出力する。
【0074】
上述した実施形態では、第1,第2振動モータ30,31それぞれは、トラフ50の底壁51よりも下方に配置されていた。これに代えて、第1,第2振動モータ30,31それぞれは、トラフ50の底壁51よりも上方に配置されていてもよい。第1,第2振動モータ30,31のうち、一方がトラフ50の底壁51よりも下方に配置され、他方がトラフ50の底壁51よりも上方に配置されていてもよい。
【0075】
制御部12は、ROMに記憶されたプログラムを実行することで、指令値設定部13、振動角算出部14、トルク取得部15,16、偏差算出部17、補正値算出部18、指令値補正部19の各機能を実現した。これに代えて、制御部12は、上記各部13~19の機能を実現するハードウェア回路を備えるものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
10…コントローラ、12…制御部、20…第1インバータ回路、21…第2インバータ回路、22…第1トルク算出部、24…第2トルク算出部、30…第1振動モータ、31…第2振動モータ、50…トラフ、100…振動搬送装置