(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184365
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】金属皮膜の成膜方法および金属皮膜の成膜装置
(51)【国際特許分類】
C25D 17/00 20060101AFI20221206BHJP
C25D 17/14 20060101ALI20221206BHJP
C23C 18/31 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C25D17/00 B
C25D17/14
C23C18/31 E
C23C18/31 Z
C25D17/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092162
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐規
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA42
4K022DA01
(57)【要約】
【課題】成膜中の電解液の液圧を安定的に確保することにより、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる金属皮膜の成膜方法を提供する。
【解決手段】金属皮膜Fを成膜する方法は、載置台13に基材Wを配置する。載置台13に形成された吸引通路42の吸引口41から、基材Wと電解液Sが透過可能な多孔膜12との間の気体を吸引しながら、基材Wの表面に多孔膜12を接触させる。基材Wの表面と多孔膜12との接触させた状態で、吸引通路42を遮断する。吸引通路42を遮断した状態で、電解液Sの液圧により、基材Wの表面を多孔膜12で押圧しながら多孔膜12に電解液Sを透過させ、透過した電解液Sの金属イオンから、金属を基材Wの表面に析出させることで、金属皮膜Fを成膜する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液に含まれる金属イオンから、電解めっきまたは無電解めっきにより、基材の表面に金属を析出させることで、前記基材の表面に金属皮膜を成膜する方法であって、
載置台に前記基材を配置する工程と、
前記載置台に形成された吸引通路の吸引口から、前記基材と多孔膜との間の気体を吸引しながら、前記多孔膜を前記基材に向かって移動させ、前記基材の表面に前記多孔膜を接触させる工程と、
前記基材の表面に前記多孔膜を接触させた状態で、前記吸引通路を遮断する工程と、
前記吸引通路を遮断した状態で、前記電解液の液圧により、前記基材を前記多孔膜で押圧しながら前記多孔膜に前記電解液を透過させ、透過した前記電解液の前記金属イオンから、前記金属を前記基材の表面に析出させることで、前記基材の表面に前記金属皮膜を成膜する工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする金属皮膜の成膜方法。
【請求項2】
前記成膜する工程後、前記遮断した状態の前記吸引通路を大気に連通させ、
前記吸引通路が前記大気に連通した後に、前記多孔膜を前記基材から引き離すことを特徴とする請求項1に記載の金属皮膜の成膜方法。
【請求項3】
前記多孔膜を接触させる工程において、前記気体の吸引の際に、前記吸引通路に、前記気体とともに吸引された前記電解液を、前記気体から分離することを特徴とする請求項1または2に記載の金属皮膜の成膜方法。
【請求項4】
電解液に含まれる金属イオンから、電解めっきまたは無電解めっきにより、基材の表面に金属を析出させることで、前記基材の表面に金属皮膜を成膜する成膜装置であって、
前記成膜装置は、前記電解液を収容するハウジングと、
前記ハウジングに収容された前記電解液を封止し、前記基材に対向するように、前記ハウジングに取付けられた多孔膜と、
前記ハウジングに収容された前記電解液の液圧を調整する液圧調整装置と、
前記基材と前記多孔膜との間の気体を吸引する吸引口を有した吸引通路が形成され、前記基材を載置する載置台と、
前記載置台に対して前記ハウジングを昇降する昇降装置と、
前記吸引通路に開閉弁を介して接続され、前記吸引通路内の流体を吸引する吸引装置と、
前記液圧調整装置の液圧の調整、前記昇降装置の昇降、前記吸引装置による吸引、および、前記開閉弁の開閉を少なくとも制御する制御装置と、を少なくとも備え、
前記制御装置は、
前記開閉弁を開弁した状態で、前記吸引装置による吸引を実行する吸引実行部と、
前記吸引装置の吸引時に、前記多孔膜が前記基材に接触する位置まで、前記昇降装置による前記ハウジングの下降を制御する下降制御部と、
前記多孔膜が前記基材に接触した後、前記開閉弁を閉弁に制御する閉弁制御部と、
前記開閉弁の閉弁後、前記液圧調整装置により、前記電解液の前記液圧を増加させる液圧増加部と、
増加した状態の前記液圧を維持した状態で、前記基材の表面に前記金属皮膜を成膜する成膜実行部と、を少なくとも備えることを特徴とする金属皮膜の成膜装置。
【請求項5】
前記吸引通路には、前記吸引通路を大気に連通する連通通路が接続されており、
前記連通通路には、前記吸引通路の前記大気への連通および前記大気への連通の遮断を行う大気開放弁が設けられており、
前記制御装置は、前記吸引実行部による吸引の開始前から前記下降制御部による前記多孔膜の前記基材への接触までの間に、前記大気開放弁を閉弁に制御することにより、前記吸引通路の前記大気への連通を遮断する連通遮断部と、
前記成膜実行部による前記金属皮膜の成膜後、前記大気開放弁を開弁に制御し、前記吸引通路の前記大気への連通を行う連通制御部と、
前記連通制御部による前記大気の連通後、前記昇降装置による前記ハウジングの上昇を制御する上昇制御部と、をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項6】
前記成膜装置は、前記開閉弁よりも下流において、前記気体と前記電解液とを分離する気液分離装置と、分離された前記電解液を回収する回収槽と、をさらに備えることを特徴とする請求項4または5に記載の金属皮膜の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液に含まれる金属イオンから、電解めっきまたは無電解めっきにより、基材の表面に金属を析出させることで、基材の表面に金属イオンに由来する金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜方法および金属皮膜の成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、基材の表面に金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜方法として、特許文献1には、固体電解質膜を用いて、電解めっきにより金属皮膜を成膜する方法が提案されている。具体的には、特許文献1に記載の成膜方法では、電解液の液圧により、固体電解質膜の一方側から、基材の表面を固体電解質膜で押圧しながら固体電解質膜に電解液を透過させ、透過した電解液の金属イオンを、電解めっきにより、基材の表面に析出させる。さらに、特許文献1に記載の成膜方法では、成膜の際、基材と固体電解質膜とが密着するように基材側から固体電解質膜を吸引する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、固体電解質膜が多孔膜である場合には、特許文献1に記載のように、多孔膜を吸引しながら成膜を行うと、吸引に起因して電解液が多孔膜を透過して、電解液が基材側に漏れてしまうおそれがある。成膜中に、電解液が基材側に漏れ続けると、安定した液圧を確保し難くなる結果、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜し難くなる。
【0005】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、本発明として、成膜中の電解液の液圧を安定的に確保することにより、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる金属皮膜の成膜方法および成膜装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を鑑みて、本発明に係る金属皮膜の成膜方法は、電解液に含まれる金属イオンから、電解めっきまたは無電解めっきにより、基材の表面に金属を析出させることで、前記基材の表面に金属皮膜を成膜する方法であって、載置台に前記基材を配置する工程と、前記載置台に形成された吸引通路の吸引口から、前記基材と多孔膜との間の気体を吸引しながら、前記多孔膜を前記基材に向かって移動させ、前記基材の表面に前記多孔膜を接触させる工程と、前記基材の表面に前記多孔膜を接触させた状態で、前記吸引通路を遮断する工程と、前記吸引通路を遮断した状態で、前記電解液の液圧により、前記基材を前記多孔膜で押圧しながら前記多孔膜に前記電解液を透過させ、透過した前記電解液の前記金属イオンから、前記金属を前記基材の表面に析出させることで、前記基材の表面に前記金属皮膜を成膜する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の金属皮膜の成膜方法によれば、金属皮膜を成膜する前に、載置台に基材を配置し、載置台に形成された吸引通路の吸引口から、基材と多孔膜との間の気体を吸引しながら、基材の表面に多孔膜を接触させる。これにより、基材と多孔膜との間に気体(空気)が噛み込むことを抑えつつ、基材の表面に多孔膜を均一に接触させることができる。ここで、基材の表面に多孔膜を接触させた状態で、吸引通路を遮断するので、吸引口からの気体の吸引が解除される。この結果、金属皮膜の成膜中に、電解液の液圧により基材の表面を多孔膜で押圧しながら、多孔膜に電解液を透過させたとしても、透過した電解液が、吸引口から吸引通路に継続して流れることを抑えることができる。このようにして、電解液の液圧を安定して保持した状態で、多孔膜で基材の表面を均一に押圧しつつ、透過した電解液を均一に基材の表面に供給することができるため、基板の表面に、より均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0008】
より好ましい態様としては、前記成膜する工程後、前記遮断した状態の前記吸引通路を大気に連通させ、前記吸引通路が前記大気に連通した後に、前記多孔膜を前記基材から引き離す。
【0009】
この態様によれば、上述した如く、基材の表面に多孔膜を接触した状態で、吸引通路を遮断してから、成膜が完了するまでの間、気体の吸引に起因して、吸引通路の圧力が負圧に保持されることがある。そこで、成膜する工程後に、遮断した状態の吸引通路を大気に連通することにより、吸引通路内を大気圧に戻すことができる。この結果、成膜する工程後、吸引通路内の負圧により、多孔膜を基材から引き離し難くなることを解消することができる。
【0010】
より好ましい態様としては、前記多孔膜を接触させる工程において、前記気体の吸引の際に、前記吸引通路に、前記気体とともに吸引された前記電解液を、前記気体から分離する。この態様によれば、吸引通路に気体とともに吸引された電解液を気体から分離することで、電解液を回収し、再利用することができる。
【0011】
本明細書では、上述した金属皮膜の成膜方法を好適に行うための成膜装置を開示する。本発明の金属皮膜の成膜装置は、電解液に含まれる金属イオンから、電解めっきまたは無電解めっきにより、基材の表面に金属を析出させることで、前記基材の表面に金属皮膜を成膜する成膜装置であって、前記成膜装置は、前記電解液を収容するハウジングと、前記ハウジングに収容された前記電解液を封止し、前記基材に対向するように、前記ハウジングに取付けられた多孔膜と、前記ハウジングに収容された前記電解液の液圧を調整する液圧調整装置と、前記基材と前記多孔膜との間の気体を吸引する吸引口を有した吸引通路が形成され、前記基材を載置する載置台と、前記載置台に対して前記ハウジングを昇降する昇降装置と、前記吸引通路に開閉弁を介して接続され、前記吸引通路内の流体を吸引する吸引装置と、前記液圧調整装置の液圧の調整、前記昇降装置の昇降、前記吸引装置による吸引、および、前記開閉弁の開閉を少なくとも制御する制御装置と、を少なくとも備え、前記制御装置は、前記開閉弁を開弁した状態で、前記吸引装置による吸引を実行する吸引実行部と、前記吸引装置の吸引時に、前記多孔膜が前記基材に接触する位置まで、前記昇降装置による前記ハウジングの下降を制御する下降制御部と、前記多孔膜が前記基材に接触した後、前記開閉弁を閉弁に制御する閉弁制御部と、前記開閉弁の閉弁後、前記液圧調整装置により、前記電解液の前記液圧を増加させる液圧増加部と、増加した状態の前記液圧を維持した状態で、前記基材の表面に前記金属皮膜を成膜する成膜実行部と、を少なくとも備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の金属皮膜の成膜装置によれば、吸引実行部で、開閉弁を開弁した状態で、吸引装置による吸引を実行しながら、下降制御部で、多孔膜が前記基材に接触する位置まで、昇降装置によるハウジングの下降(下降量)を制御する。これにより、基材と多孔膜との間に気体(空気)が噛み込むことを抑えつつ、基材の表面に多孔膜を均一に接触させることができる。次に、閉弁制御部により、多孔膜が基材に接触した後、開閉弁を閉弁に制御するので、吸引口からの気体の吸引が解除される。
【0013】
次に、液圧増加部で、開閉弁の閉弁後、液圧調整装置を用いて、ハウジング内の電解液の液圧を増加させる。この結果、金属皮膜の成膜中に、ハウジング内の電解液の液圧により基材の表面を多孔膜で押圧しながら、多孔膜に電解液を透過させたとしても、透過した電解液が、吸引口から吸引通路に継続して流れることを抑えることができる。このようにして、電解液の液圧を安定して保持した状態で、多孔膜で基材の表面を均一に押圧しつつ、透過した電解液を均一に基材の表面に供給することができるため、成膜実行部で、基板の表面に、より均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0014】
より好ましい態様としては、前記吸引通路には、前記吸引通路を大気に連通する連通通路が接続されており、前記連通通路には、前記吸引通路の前記大気への連通および前記大気への連通の遮断を行う大気開放弁が設けられており、前記制御装置は、前記吸引実行部による吸引の開始前から前記下降制御部による前記多孔膜の前記基材への接触までの間に、前記大気開放弁を閉弁に制御することにより、前記吸引通路の前記大気への連通を遮断する連通遮断部と、前記成膜実行部による前記金属皮膜の成膜後、前記大気開放弁を開弁に制御し、前記吸引通路の前記大気への連通を行う連通制御部と、前記連通制御部による前記大気の連通後、前記昇降装置による前記ハウジングの上昇を制御する上昇制御部と、をさらに備える。
【0015】
この態様によれば、連通遮断部により、吸引の開始前から多孔膜の前記基材への接触までの間に、大気開放弁を閉弁に制御することで、吸引通路の大気への連通の遮断を行う。これにより、吸引通路が大気に連通しないので、吸引装置による吸引を安定して行うことができる。また、連通制御部は、成膜実行部による金属皮膜の成膜の後、大気開放弁を開弁に制御することにより、吸引通路の大気への連通を行う。これにより、吸引通路を遮断してから、成膜が完了するまでの間、気体の吸引に起因して、吸引通路の圧力が負圧に保持されたとしても、成膜後に、吸引通路の圧力を負圧から大気圧に戻すことができる。この結果、昇降装置によるハウジングの上昇を制御したとしても、吸引通路内の負圧により、多孔膜を基材から引き離し難くなることを解消することができる。
【0016】
より好ましい態様としては、前記成膜装置は、前記開閉弁よりも下流において、前記気体と前記電解液とに分離する気液分離装置と、分離された前記電解液を回収する回収槽と、をさらに備える。
【0017】
この態様によれば、吸引通路に気体とともに吸引された電解液を、気液分離装置を介して、気体と電解液とに分離することができる。分離された電解液は、回収槽に回収されるので、回収槽に収容された電解液を再利用することが可能である。特に、再利用のために、気体を含む電解液を、ハウジング内に供給した場合には、気体が圧縮性流体であるため、電解液の液圧を安定して増圧し難い。しかしながら、この態様では、気体を分離した電解液をハウジング内に供給し、成膜時には、ハウジング内の電解液の圧力を安定して増圧することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属皮膜の成膜方法および成膜装置によれば、成膜中の電解液の液圧を安定的に確保することにより、均一な膜厚の均質な金属皮膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る金属皮膜の成膜装置に基材を搭載した状態を説明する模式的断面図である。
【
図2】
図1に示す成膜装置の制御装置のブロック図である。
【
図3】
図1に示す成膜装置を用いた金属皮膜の成膜方法のフロー図である。
【
図4】
図3に示す金属皮膜の成膜工程を説明する模式的概念図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る金属皮膜の成膜装置に基材を搭載した状態を説明する模式的断面図であり、金属皮膜の成膜工程後、基材の回収前の状態を説明する断面図である。
【
図6】
図1に示す成膜装置と、
図1に示す成膜装置の多孔膜の代わりに、固体電解質膜を用いた場合において、電解液の液圧による基材への加圧力に対する電解液の液漏れ率の結果を示したグラフである。
【
図7】
図1に示す成膜装置における、基材への加圧時間に対する電解液の液漏れ率の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、
図1~
図5を参照しながら本発明に係る第1および第2実施形態について説明する。なお、
図1、
図4、および
図5に示す破線は、制御装置50から出力される制御信号の信号線と、距離計測センサ50Aおよび圧力計測センサ50Bから出力される信号線を示している。
【0021】
<第1実施形態>
本実施形態の金属皮膜Fを成膜する方法および成膜装置1は、電解液Sに含まれる金属イオンから、無電解めっきにより、基材Wの表面に金属を析出させることで、基材Wの表面に金属イオンに由来する金属皮膜Fを成膜する際に適用される。ここで、無電解めっきは、電力によって電解析出させる電解めっきとは異なり、化学的な還元反応によって皮膜を析出(成膜)する方法である。無電解めっきには、基材を構成する金属と電解液に含まれる金属イオンとのイオン化傾向の差を利用してめっきする置換めっき、および、還元剤の還元能力を利用してめっきする自己触媒型還元めっき等がある。
【0022】
以下に、まず、
図1および
図2を参照して、本実施形態の金属皮膜Fの成膜装置1について説明し、次に、
図1~
図4を参照して、本実施形態の金属皮膜Fの成膜方法について説明する。
【0023】
1.成膜装置1について
図1は、本発明の第1実施形態に係る金属皮膜Fの成膜装置1に基材Wを搭載した状態を説明する模式的断面図である。
図2は、
図1に示す成膜装置1の制御装置50のブロック図である。
【0024】
本実施形態の成膜装置1は、多孔膜12を介して、無電解めっきにより、金属皮膜Fを成膜する成膜装置(めっき装置)であり、基材Wの表面に金属皮膜Fを成膜(形成)する際に用いられる。また、成膜装置1は、複数の基材Wの表面に金属皮膜Fを連続して成膜する際に用いられる。
【0025】
基材Wは、無電解めっきが置換めっきである場合には、基材Wとしては、電解液Sに含まれる金属イオンよりも卑な金属(イオン化傾向が大きい金属)からなる金属材料を用いることが好ましい。また、基材Wの基材本体の表面に、電解液Sに含まれる金属イオンよりも卑な金属からなる層が形成されていてもよい。この場合には、基材本体としては、電解液Sに含まれる金属イオンよりも貴な金属材料または樹脂材料等を用いてもよい。このような基材Wの一例としては、電解液Sに含まれる金属イオンがAuイオンである場合には、Cuからなる基材本体の表面にNiめっき層が形成されたものを挙げることができる。
【0026】
無電解めっきが自己触媒型還元めっきである場合には、基材Wとしては、還元剤の酸化反応を促進する触媒作用を有する材料であれば、金属材料または樹脂材料等を用いてもよい。また、基材Wの基材本体の表面に、触媒となる金属からなる層が形成されていてもよい。この場合には、基材Wの基材本体は、触媒作用を有しない金属材料および樹脂材料を用いることができる。このような基材Wの一例としては、電解液Sに含まれる金属イオンがNiイオンである場合には、Cuからなる基材本体の表面に触媒となるPdめっき層が形成されたものを挙げることができる。
【0027】
図1に示すように、成膜装置1は、ハウジング11と、多孔膜12と、載置台13と、昇降装置14と、液圧調整装置20と、吸引部40と、制御装置50と、を少なくとも備えている。
【0028】
ハウジング11は、電解液を収容するものであり、多孔膜12は、ハウジング11に収容された電解液Sを封止し、基材W(具体的には載置台13)に対向するように、ハウジング11に取付けられる。より具体的には、多孔膜12は、多孔膜12の一方側の表面がハウジング11内に収容された電解液Sに接触し、かつ、他方側の表面が基材W側に面するように、ハウジング11に取付けられている。多孔膜12は、膜厚方向に電解液Sを透過することができる膜であり、電解液Sが透過可能な孔を複数有する膜である。
【0029】
多孔膜12の厚みは、たとえば、10μm以上200μm以下であることが好ましく、20μm以上160μm以下であることがより好ましい。多孔膜12の平均孔径は、たとえば0.1μm以上100μm以下であってもよく、たとえば、平均孔径が、20~100nmの微細な孔であってもよく、ハウジング11内の電解液Sの液圧を増圧することにより、多孔膜12の孔を介して、膜厚方向に電解液Sが通過する(透過する)ことができるのであれば、多孔膜12の孔径は、特に限定されるものではない。
【0030】
また、本実施形態では、多孔膜12は、固体電解質のようなイオン交換性官能基(陽イオン交換性官能基または陰イオン交換性官能基)を有していなくてもよい。これにより、多孔膜12は、極性がほとんどなく、電解液Sに含まれる金属イオンが、多孔膜中にトラップされずに、孔内を透過することができる。したがって、このような多孔膜12は、電解液Sに含まれる金属イオンがカチオン、アニオン、またはノニオンのいずれの場合にも適用することができる。このような多孔膜12としては、ポリオレフィン樹脂を用いることができる。ポリオレフィン樹脂としては、たとえば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、または、これらを混合した樹脂を挙げることができる。
【0031】
一方、多孔膜12に、イオン交換性官能基を有した固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、電解液Sに接触させることにより、金属イオンを透過することができ、基材Wの表面において金属イオン由来の金属を析出可能であれば、特に限定されるものではない。固体電解質としては、たとえばデュポン社製のナフィオン(登録商標)等のフッ素系樹脂、炭化水素系樹脂、ポリアミック酸樹脂、旭硝子社製のセレミオン(CMV、CMD、CMFシリーズ)等の陽イオン交換機能を有した樹脂を挙げることができる。
【0032】
電解液Sは、多孔膜12の一方側に供給される液であり、無電解めっきにより金属皮膜Fの金属として析出される金属イオンを少なくとも含有している液である。なお、置換めっきまたは自己触媒型還元めっき用の電解液Sは、めっき溶液として市販されており、市販のめっき溶液を用いてもよい。
【0033】
無電解めっきが置換めっきである場合には、電解液Sに含有される金属イオンの金属は、基材Wの材料よりも貴な(イオン化傾向が小さい)金属である。たとえば、基材WがCuからなる場合には、金属イオンの金属として、Ag、PtまたはAu等を挙げることができる。
【0034】
無電解めっきが自己触媒型還元めっきである場合には、電解液Sは、金属皮膜Fの金属として析出される金属イオンと、還元剤とを含む。金属イオンの金属としては、触媒作用を有する金属であれば、特に限定されるものではなく、たとえば、Ag、PtまたはAu等を挙げることができる。還元剤としては、次亜リン酸、またはジメチルアミンボラン等を挙げることができる。電解液Sには、さらに、安定剤、錯化剤、および還元剤等が含まれていてもよい。
【0035】
上述した如ように、ハウジング11には、電解液Sを収容する空間が形成され、電解液Sが収容されているとともに、多孔膜12が取付けられている。ハウジング11には、電解液Sが供給される供給口11aと、電解液Sが排出される排出口11bとが設けられている。
【0036】
載置台13は、多孔膜12に対向した位置で、基材Wを載置するものである。本実施形態では、載置台は、導通性を有するものでもよく、非導通性を有するものでもよい。載置台13には、吸引口41を有する吸引通路42が形成されている。吸引口41および吸引通路42については、後述する。
【0037】
また、載置台13には、基材Wを収容するための収容凹部13aが形成されており、収容凹部13aの深さは、基材Wの厚さに一致している。これにより、基材Wを収容凹部13aに収容した際に、基材Wの表面と載置台13の表面とが同一平面状に配置されることが好ましい。これにより、成膜時に多孔膜12に過度の応力が作用することを抑えることができる。
【0038】
昇降装置14は、載置台13に対して、ハウジング11を昇降させる装置である(
図1、4参照)。本実施形態では、昇降装置14は、多孔膜12が基材Wと離間した位置から基材Wに接触する位置までの区間、ハウジング11を昇降させる装置であり、ハウジング11の上部に設けられている。昇降装置14は、ハウジング11を昇降させることができるものであればよく、たとえば、油圧式または空圧式のシリンダ、電動式のアクチュエータ、リニアガイドおよびモータ等によって構成可能である。
【0039】
液圧調整装置20は、ハウジング11に収容された電解液Sの液圧を調整するものである。液圧調整装置20は、シリンダ21とピストン22とで構成され、後述する供給系統側の配管35を介して、ハウジング11の供給口11aに接続されている。液圧調整装置20では、後述するように、シリンダ21に対してピストン22が前進または後退することで、ハウジング11に収容された電解液Sの液圧を調整することができる。
【0040】
なお、ここでは、液圧調整装置20がシリンダ21とピストン22とで構成された例で説明したが、液圧調整装置20はこれに限定されるものではない。たとえば、排出弁34が圧力調整弁である場合には、後述の如く、電解液Sの供給および排出をしながら、排出弁34と圧送ポンプ32とによりハウジング11内の電解液Sを所定の圧力で加圧してもよい。しかしながら、高圧化の容易性、圧力制御の精度の向上、および脈動の抑制を考慮すると、液圧調整装置20はシリンダ21とピストン22とで構成されていることが好ましい。
【0041】
さらに、本実施形態の成膜装置1は、配管35を介して、供給口11aおよび排出口11bに接続された回収槽31を備えている。回収槽31と供給口11aとの間には圧送ポンプ32が設けられている。また、圧送ポンプ32と供給口11aとの間には、供給系統側の配管35を遮断する供給弁33が設けられ、排出口11bと回収槽31との間には、排出系統側の配管35を遮断する排出弁34が設けられている。
【0042】
回収槽31は、電解液Sを収容し、収容した電解液Sをハウジング11に供給するタンクである。圧送ポンプ32は、回収槽31からの電解液Sを吸引し、供給口11aを介して、ハウジング11内に電解液Sを圧送するポンプである。供給弁33および排出弁34は、開弁状態で、ハウジング11に収容される電解液Sの供給および排出を行う弁であり、閉弁状態で、ハウジング11の密閉性を確保する弁である。供給弁33および排出弁34としては、たとえば、電磁弁を挙げることができる。
【0043】
回収槽31から圧送ポンプ32によって送り出された電解液Sは、供給弁33を通過して、供給口11aからハウジング11に流入する。流入した電解液Sは、ハウジング11内を供給口11aの側から排出口11bの側まで流れ、排出口11bから排出されて、排出弁34を通過して、回収槽31に戻る。
【0044】
吸引部40は、載置台13側から、基材Wと多孔膜12との間の気体(たとえば、空気)を吸引する機能を有する。これにより、基材Wの表面と多孔膜12との間に気体が巻き込まれることを防止することができる。吸引部40は、吸引口41を有する吸引通路42と、吸引装置43と、開閉弁44とを少なくとも備えている。
【0045】
吸引通路42の一端には、吸引口41が形成されており、吸引通路42の吸引口41を含む部分は、載置台13に形成されている。吸引口41の配置、形状、および個数は、基材Wと多孔膜12との間の気体を吸引することができれば、特に限定されるものではない。たとえば、載置台13の表面に、基材Wを周回するように、吸引口41の複数個が等間隔に形成されていてもよい。吸引通路42の他端側には、後述する気液分離装置47を介して吸引装置43が接続されており、気液分離装置47には、分離された電解液Sを回収する回収槽31が接続されている。
【0046】
吸引装置43は、気液分離装置47を介して吸引通路42に接続され、吸引通路42内の流体(気体および電解液S)を吸引する装置である。吸引装置43は、気液分離装置47の気相側に分離された気体を吸引することにより、吸引通路42内の気体を吸引することができる。吸引装置43としては、流体を吸引することができれば特に限定されるものではないが、一例として、真空ポンプを挙げることができる。
【0047】
吸引通路42には、開閉弁44が設けられている。開閉弁44は、吸引通路42を遮断する弁であり、吸引口41と気液分離装置47との間に設けられている。開閉弁44が開弁状態である場合、吸引装置43の吸引により、吸引通路42内に流体を流すことができる。一方、開閉弁44が閉弁状態である場合、吸引通路42の流体の流れが遮断される。
【0048】
本実施形態では、さらに、吸引部40は、連通通路45と、大気開放弁46と、気液分離装置47と、を備えている。連通通路45は、大気に連通する通路であり、吸引口41および開閉弁44の間で吸引通路42に接続されている。大気開放弁46は、連通通路45を介した吸引通路42の大気への連通およびこの連通を遮断する弁(たとえば、電磁弁)であり、連通通路45に設けられている。大気開放弁46が開弁状態である場合、吸引通路42を、連通通路45を介して、大気に連通することができる。一方、大気開放弁46が閉弁状態である場合、吸引通路42は、連通通路45を介した大気への連通が遮断される。
【0049】
気液分離装置47は、開閉弁44よりも下流において、気体および電解液Sが混合している混合流体を気体と電解液Sとに分離する機能を有する装置である。気液分離装置47には、流体を収容する空間が形成され、空間の上方には気体が溜まり、下方には電解液Sが溜まる。また、気液分離装置47には、気液流入口47aが設けられ、気液流入口47aは、吸引通路42の他端に接続されている。また、気液分離装置47の気相側および液相側には、気体流出口47bおよび液体流出口47cが、それぞれ設けられている。気体流出口47bは、気体流出通路48を介して吸引装置43に接続されている。一方、液体流出口47cは、液体流出通路49を介して、回収槽31に接続されている。
【0050】
このような吸引部40では、開閉弁44が開弁状態である場合には、吸引通路42は、気液分離装置47および吸引装置43に連通している。これとともに、吸引通路42は、気液分離装置47および回収槽31に連通している。
【0051】
これにより、後述するように、吸引時に、気体が吸引通路42内に吸引された場合には、吸引された気体は気液分離装置47を介して、吸引装置43へ吸引される。一方、気体とともに電解液Sが吸引通路42内に吸引された場合には、吸引された気体および電解液Sの混合流体は、気液分離装置47により気体と電解液Sとに分離される。分離された気体は、吸引装置43へ吸引され、分離された電解液Sは、回収槽31に排出される。排出された電解液Sは、再びハウジング11内に供給されるため、漏洩した電解液Sを効率的に回収することができる。
【0052】
本実施形態では、成膜中に、吸引部40による気体の吸引を停止するために、成膜装置1は、距離計測センサ50Aと、圧力計測センサ50Bと、制御装置50と、をさらに備えている。
【0053】
距離計測センサ50Aは、多孔膜12と基材Wとの距離を測定する近接センサ等の変位センサであり、ハウジング11に取付けられている。距離計測センサ50Aとしては、たとえば赤外線、電磁波、または磁気を利用したセンサ等を挙げることができる。圧力計測センサ50Bは、液圧調整装置20により調整される圧力(液圧)を測定するセンサであり、ハウジング11に取付けられている。距離計測センサ50Aおよび圧力計測センサ50Bにより測定された測定値が信号として制御装置50に入力されるように、距離計測センサ50Aおよび圧力計測センサ50Bは、制御装置50に電気的に接続されている。
【0054】
制御装置50は、昇降装置14の昇降、吸引装置43による吸引、液圧調整装置20の液圧の調整、および開閉弁44の開閉を少なくとも制御する装置である。制御装置50は、ハードウエアとしてCPU等の演算装置、RAM、ROM等の記憶装置を基本構成とする。演算装置では、距離計測センサ50Aおよび圧力計測センサ50Bの信号に基づいて、吸引装置43、液圧調整装置20、および開閉弁44への制御信号が演算され、これらの信号が出力される。また、記憶装置では、たとえば、予め設定された多孔膜12と基材Wとの所定の距離の範囲、および、予め設定された成膜時の加圧力(液圧)の範囲等が記憶されている。
【0055】
本実施形態では、制御装置50は、昇降装置14、液圧調整装置20、供給弁33、排出弁34、吸引装置43、開閉弁44、大気開放弁46、および圧送ポンプ32を制御可能なように、これらに電気的に接続されている。
【0056】
図2に示すように、制御装置50は、ソフトウェアとして、吸引実行部51と、下降制御部52と、閉弁制御部54と、液圧増加部55と、成膜実行部56と、を少なくとも備えている。さらに、成膜装置1に、大気開放弁46を有する場合には、制御装置50は、ソフトウェアとして、連通遮断部53と、連通制御部57と、上昇制御部58とを備えている。
【0057】
まず、制御装置50は、入力装置からの入力信号(成膜開始の指令信号)を受けて、以下のソフトウェアの内容を実行する。吸引実行部51は、開閉弁44が開弁した状態で、吸引装置43による吸引を実行する。具体的には、開閉弁44が開弁している信号を受けて、吸引装置43が、たとえば真空ポンプである場合には、吸引実行部51は、真空ポンプを駆動させる。なお、成膜装置が非駆動時には、開閉弁44は開弁状態であるが、吸引実行部51は、開閉弁44が閉弁状態である場合には、開閉弁44を開弁させる。さらに、吸引実行部51は、吸引の開始を示す吸引開始信号を下降制御部52に送信する。
【0058】
下降制御部52は、距離計測センサ50Aの出力信号に基づいて、多孔膜12が基材Wに接触する位置まで、昇降装置14によるハウジング11の下降を制御する。下降制御部52は、昇降装置14により下降を開始させてから、距離計測センサ50Aによる計測した距離が、予め設定された距離となったタイミングで、多孔膜12が基材Wに接触したと判定し、このタイミングで、昇降装置14による下降を停止させ、閉弁制御部54に下降停止信号を送信する。
【0059】
本実施形態では、このような制御により、載置台13に形成された吸引通路42の吸引口41から、基材Wと多孔膜12との間の気体を吸引しながら、多孔膜12を基材Wに向かって移動させ、基材Wの表面に多孔膜12を接触させることができる。この結果、基材Wと多孔膜12の間に気体(空気)が噛み込むことを抑えることができる。
【0060】
連通遮断部53は、吸引実行部51による吸引の開始前から下降制御部52による多孔膜12の基材Wへの接触までの間に、大気開放弁46を閉弁に制御し、大気との連通を遮断する。なお、大気開放弁46が閉弁状態である場合には、大気開放弁46に、この状態を維持させる。連通遮断部53による大気開放弁46の閉弁制御を、たとえば、入力装置からの成膜開始の入力信号を受けて、実行してもよく、たとえば、
図2には示していないが、下降制御部52による下降開始信号を受けて、実行してもよい。吸引実行部51による吸引の開始前から下降制御部52による多孔膜12の基材Wへの接触までの間に、大気開放弁46の閉弁制御を実行できるのであれば、特にそのタイミングは限定されるものではない。なお、連通遮断部53は、必要に応じて、大気開放弁46の閉弁完了を示す信号を閉弁制御部54に送信してもよい。
【0061】
閉弁制御部54は、下降制御部52により多孔膜12が基材Wに接触した後、本実施形態では、開閉弁44を閉弁に制御する。具体的には、閉弁制御部54は、下降制御部52における下降停止の制御信号、必要に応じて、連通遮断部53の閉弁完了の制御信号を受けて、開閉弁44を閉弁に制御する。なお、この他のも、閉弁制御部54は、この制御信号の代わりに、距離計測センサ50Aからの検出信号(多孔膜12が基材Wに接触したことを検出する信号)、必要に応じて、大気開放弁46からの閉弁状態の検出信号を直接受けて、開閉弁44を閉弁に制御してもよい。
【0062】
ここで、閉弁制御部54は、開閉弁44が閉弁してから、吸引装置43の吸引を停止してもよく、吸引装置43の吸引を継続してもよい。これにより、吸引通路42を遮断する(吸引通路42に流れる気体の流れが遮断される)。この結果、後述するように、成膜中に、吸引に起因して、多孔膜12を介して電解液Sが漏洩することを抑えることができるため、ハウジング11内の電解液Sの液圧を安定させることができる。閉弁制御部54は、開閉弁44の閉弁が完了した閉弁完了信号を液圧増加部55に送信する。閉弁制御部54は、開閉弁44から、開閉弁44の閉弁状態を受けて、閉弁完了信号を送信してもよく、開閉弁44に閉弁の制御信号を送信してから、所定時間経過後に、閉弁完了信号を送信してもよい。
【0063】
液圧増加部55は、開閉弁44の閉弁の制御後、液圧調整装置20により、電解液Sの液圧を増加させる。具体的には、液圧増加部55は、閉弁制御部54の信号を受けて、圧送ポンプ32の駆動を停止させるとともに、開弁状態である供給弁33および排出弁34を閉弁させる。これにより、ハウジング11内が密閉状態となる。
【0064】
次に、液圧増加部55は、液圧調整装置20のピストン22をシリンダ21に対して前進させる。これにより、密閉状態のハウジング11内に電解液Sを圧送することになり、ハウジング11に収容された電解液Sは加圧される。このような結果、成膜時に、電解液Sの液圧により多孔膜12で基材Wを均一に押圧することができる。さらに、液圧増加部55は、液圧の増加を示す液圧増加信号を成膜実行部56へ送信する。
【0065】
成膜実行部56は、液圧の増加を維持した状態で、基材Wの表面に金属皮膜Fの成膜を行う。具体的には、成膜実行部56は、液圧増加信号を受信すると、圧力計測センサ50Bの信号を受信して、圧力計測センサ50Bの信号に基づいて、所定の液圧に到達した場合には、液圧調整装置20のピストン22の前進を停止させる。これにより、所定の液圧を維持することができる。所定の液圧の範囲は、予め設定して、制御装置50の記憶装置に記憶しておき、成膜実行部56が、登録した所定の液圧の範囲を登録部から読み出してよい。
【0066】
なお、成膜実行部56は、成膜中に、圧力計測センサ50Bの信号を受信して、液圧が変動した場合には、所定の液圧を一定に維持するように、液圧調整装置20を制御してよい。また、成膜実行部56は、成膜終了の際、液圧調整装置20のピストン22をシリンダ21に対して後退させる。これにより、密閉状態のハウジング11に収容された電解液Sが吸引されるため、収容された電解液Sが減圧される結果、液圧による加圧状態が解除される。さらに、成膜実行部56は、成膜終了を示す成膜終了信号を連通制御部57へ送信する。
【0067】
連通制御部57は、成膜実行部56による金属皮膜Fの成膜の後、大気開放弁46を開弁に制御し、大気との連通を行う。これにより、吸引通路42を遮断してから、成膜が完了するまでの間、気体の吸引に起因して、吸引通路42の圧力が負圧に保持されたとしても、成膜後に、吸引通路42の圧力を負圧から大気圧に戻すことができる。この結果、昇降装置14によるハウジング11の上昇を制御したとしても、吸引通路内42の負圧により、多孔膜12を基材Wから引き離し難くなることを解消することができる。連通制御部57は、成膜実行部56から成膜終了信号を受信し、また、吸引通路42が大気に連通したことを示す連通信号を上昇制御部58へ送信する。
【0068】
上昇制御部58は、連通制御部57による大気の連通後、多孔膜12が基材Wから離間するまで、昇降装置14によるハウジング11の上昇を制御する。なお、上昇制御部58は、連通制御部57からの連通信号を受信する。
【0069】
2.金属皮膜Fの成膜方法について
図3は
図1に示す成膜装置1を用いた金属皮膜Fの成膜方法のフロー図である。
図4は、
図3に示す金属皮膜Fの成膜工程S4を説明する模式的概念図である。以下に
図3に示す工程のフローに沿って第1実施形態に係る金属皮膜Fの成膜方法について説明する。
【0070】
2-1.基材Wの配置工程S1について
本実施形態に係る金属皮膜Fの成膜方法では、まず、基材Wの配置工程S1を行う。この工程では、
図1に示すように、載置台13に基材Wを配置する。具体的には、ハウジング11が載置台13の上方に配置された状態で、載置台13の収容凹部13aに基材Wを配置する。これにより、多孔膜12に対向する位置に、基材Wが配置される。
【0071】
基材Wを配置する際、供給弁33および排出弁34を開弁するとともに、圧送ポンプ32を駆動する。これにより、回収槽31から電解液Sを、供給口11aを介してハウジング11内に供給し、ハウジング11内を通過した電解液Sを、排出口11bを介してハウジング11から排出し、排出した電解液Sを回収槽31へ戻す。
【0072】
なお、図には示していないが、さらに、制御装置50が、上述の如く、電解液Sの供給および排出を行う供給排出実行部を備え、供給排出実行部が、上述の如く、供給弁33および排出弁34を開弁させるとともに、圧送ポンプ32を駆動させてもよい。
【0073】
2-2.多孔膜12の接触工程S2について
次に、多孔膜12の接触工程S2を行う。この工程では、
図1に示すように、吸引実行部51により、載置台13に形成された吸引通路42の吸引口41から、基材Wと多孔膜12との間の気体を吸引しながら、下降制御部52により、多孔膜12を基材Wに向かって移動させ、基材Wの表面に多孔膜12を接触させる。
【0074】
具体的には、入力装置(不図示)による成膜開始の入力信号を受けて、吸引実行部51により、吸引装置43を駆動させる。なお、吸引装置43の駆動前に、吸引実行部51により、開閉弁44が開弁状態の場合には、この状態を維持し、開閉弁44が閉弁状態の場合には、開閉弁44を開弁する。同様に、吸引装置43の駆動前に、連通遮断部53により、大気開放弁46が開弁状態の場合には、大気開放弁46を閉弁させ、大気開放弁46が閉弁状態の場合には、この状態を維持させる。これにより、吸引通路42内では、連通通路45を介した大気への連通が遮断され、吸引口41を介して、吸引通路42内に、気体等を吸引することができる。
【0075】
吸引実行部51による吸引が開始すると、下降制御部52により、距離計測センサ50Aの出力信号に基づいて、多孔膜12が、収容凹部13aに配置された基材Wに対して、均一に接触する位置まで、昇降装置14を駆動し、ハウジング11を下降させる。
【0076】
このような多孔膜12の接触工程S2による一連の制御により、吸引口41から吸引された気体を、多孔膜12を透過した電解液Sとともに、吸引口41から吸引通路42内に吸引することができる。吸引通路42を通過した気体は、気液流入口47aから気液分離装置47に流入し、気相側に形成された気体流出口47bから、気体流出通路48を介して、吸引装置43に吸引される。このようにして、基材Wと多孔膜12とが接触するまでの間、基材Wと多孔膜12との間の気体を吸引することで、基材Wと多孔膜12との間に気体(空気)が噛み込むことを抑えつつ、基材Wの表面に多孔膜12を均一に接触させることができる。
【0077】
一方、気液分離装置47で、気体から分離された電解液Sは、液相側に形成された液体流出口47cから液体流出通路49を介して、回収槽31に導入され、回収槽31に収容された電解液Sを再利用することができる。
【0078】
ここで、気液分離装置47の気相は、吸引装置43により負圧となるため、液相の電解液Sに含まれる気体は脱気され易い。このような結果、再利用のために、回収槽31から、電解液Sをハウジング11内に戻す電解液Sには、圧縮性流体である気体が分離されているため、後述する成膜工程S4において、ハウジング11内の電解液Sの圧力を安定して増圧することができる。
【0079】
2-3.吸引通路42の遮断工程S3について
次に、吸引通路42の遮断工程S3を行う。この工程では、接触工程S2で、基材Wの表面に多孔膜12を接触させた状態で、吸引通路42を遮断する(
図4を参照)。具体的には、閉弁制御部54が、下降制御部52からハウジング11の下降停止信号を受け、閉弁制御部54により開弁状態の開閉弁44を閉弁させる。これにより、吸引通路42内に、これ以上の空気および電解液S等が流れることを防止することができる。
【0080】
閉弁制御部54は、閉弁が完了したタイミングで、閉弁完了信号を液圧増加部55に送信する。ここで、吸引装置43の駆動を継続してもよく、あるいは、開閉弁44の閉弁のタイミングで、吸引装置43の駆動を停止してもよい。これにより、吸引通路42が遮断されるため、吸引口41では、吸引が停止される。
【0081】
2-4.金属皮膜Fの成膜工程S4について
次に、金属皮膜Fの成膜工程S4を行う。この工程では、
図4に示すように、吸引通路42を遮断した状態で、電解液Sの液圧により、多孔膜12の一方側から、基材Wの表面を多孔膜12で押圧しながら、多孔膜12に電解液Sを透過させる。これにより、透過した電解液Sの金属イオンから、無電解めっきにより、金属を基材Wの表面に析出させることで、基材Wの表面に金属皮膜Fを成膜する。
【0082】
具体的には、まず、閉弁完了信号を受けた液圧増加部55により、圧送ポンプ32の駆動を停止させるとともに、開弁状態である供給弁33および排出弁34を閉弁させる。これにより、電解液Sの供給および排出が停止されるとともに、ハウジング11内が密閉状態となる。
【0083】
この密閉状態で、液圧増加部55により、液圧調整装置20のピストン22をシリンダ21に対して前進させる。これにより、密閉状態のハウジング11に収容された電解液Sの液圧を増加させる。液圧増加部55は、液圧増加信号を成膜実行部56へ送信する。
【0084】
液圧増加信号を受信した成膜実行部56は、圧力計測センサ50Bの圧力信号を受信して、受信した圧力信号に基づいて、液圧が所定の液圧に到達した場合には、上述したピストン22の前進を停止させる。これにより、ハウジング11内の電解液Sを所定の液圧に維持することができるため、成膜の際、維持した液圧により、多孔膜12に接触した基材Wを多孔膜12で押圧することができる。
【0085】
この結果、多孔膜12を基材Wの表面に倣わせるとともに、多孔膜12で基材Wの表面を均一に加圧しながら、多孔膜12に電解液Sを透過させて、電解液Sに含まれる金属イオン由来の金属を析出させ、基材Wに金属皮膜Fを成膜することができる。なお、金属皮膜Fの膜厚は、多孔膜12による接触時間(具体的には、金属の析出時間)を、予め設定しておくことにより、調整することができる。
【0086】
本実施形態では、上述の如く、吸引通路42を遮断した状態で、金属皮膜Fを成膜するため、吸引に起因して電解液Sが多孔膜12を透過することを抑えることができる。これにより、電解液Sの漏洩に起因した液圧(加圧力)不足を抑制することができる。結果として、安定した液圧を確保して、良好な金属皮膜Fを成膜することができる。
【0087】
成膜終了の際、成膜実行部56は、液圧調整装置20のピストン22をシリンダ21に対して後退させて、液圧調整装置20に液圧による加圧状態を解除させる。成膜実行部56は、成膜終了信号を連通制御部57へ送信する。
【0088】
2-5.基材Wの回収工程S5について
次に、基材Wの回収工程S5を行う。この工程では、遮断した吸引通路42を大気に連通させ、吸引通路42が大気に連通した後に、多孔膜12を金属皮膜Fが成膜された状態の基材Wから引き離す。
【0089】
具体的には、成膜終了信号を受信した連通制御部57により、大気開放弁46を開弁させる。これにより、吸引口41から開閉弁44までの区間が負圧状態にある吸引通路42を、連通通路45を介して、大気に連通させ、吸引通路42内を大気圧にすることができる。連通制御部57は、連通信号を上昇制御部58へ送信する。
【0090】
連通信号を受信した上昇制御部58は、昇降装置14により、ハウジング11を上昇させる(
図1を参照)。このように、吸引通路42を遮断してから、成膜が完了するまでの間、気体の吸引に起因して、吸引通路42の圧力が負圧に保持されたとしても、成膜後に、吸引通路42の圧力を負圧から大気圧に戻すことができる。この結果、昇降装置14によるハウジング11の上昇を制御したとしても、吸引通路42内の負圧により、多孔膜12を基材Wから引き離し難くなることを解消することができ、多孔膜12の損傷を防止することができる。
【0091】
<第2実施形態>
図5を参照して、第2実施形態に係る金属皮膜Fの成膜装置1および金属皮膜Fの成膜方法について説明する。
図5は、本発明の第2実施形態に係る金属皮膜Fの成膜装置1に基材Wを搭載した状態を説明する模式的断面図である。第2実施形態に係る成膜装置1の制御装置50のブロック図は、第1実施形態のものと略同じであるので、第2実施形態に係る制御装置のブロック図の相違点のみを以下に簡単に説明する。
【0092】
本実施形態は、電解液Sに含まれる金属イオンから、電解めっきにより、基材Wの表面に金属を析出する点が、第1実施形態とは異なる。したがって、以下に相違点について主として説明し、上述した第1実施形態と同じ装置および部分に関しては、同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0093】
図5に示すように、第2実施形態の成膜装置1は、上述した第1実施形態の成膜装置1の構成する構成物に加えて、金属製の陽極18と、陽極18と陰極となる基材Wとの間に電圧を印加する電源部19と、を備えている。本実施形態では、陽極18と陰極となる基材Wとの間に多孔膜12が配置され、多孔膜12を基材Wの表面に接触させた状態で、陽極18と基材Wとの間に電源部19で一定電圧を印加することにより、成膜時に、陽極18と基材Wとの間に電流が流れる。基材Wは、導電性を有した金属材料からなり、たとえば、Cu、Ni、Ag、またはAu等を挙げることができる。
【0094】
陽極18は、ハウジング11内に収容され、陽極18と多孔膜12との間に電解液Sが配置されている。陽極18と多孔膜12とが離間して配置されている場合には、陽極18は、板状であり、金属皮膜Fと同じ材料(たとえばCu)からなる可溶性の陽極、または、電解液Sに対して不溶性を有した材料(たとえばTi)からなる陽極のいずれであってもよい。一方、図には示していないが、陽極18と多孔膜12とが接触している場合には、陽極18として、電解液Sが透過し、かつ多孔膜12に金属イオンを供給する、多孔質体からなる陽極を用いてもよい。
【0095】
なお、陽極18を多孔膜12に押圧すると、多孔膜12に対する陽極18の押圧力のばらつきに起因して、析出ムラが生じる可能性があるため、陽極18と多孔膜12とが離間している構成が好適である。
【0096】
電源部19の負極は、基材Wと導通することができれば、載置台13に電気的に接続されていてもよく、図には示していないが、基材Wに電気的に接続されていてもよい。ただし、非導通性の載置台13を用いる場合には、負極は基材Wに電気的に接続されていることがより好ましい。電源部19の正極は、ハウジング11に内蔵された陽極18に電気的に接続されている(導通している)。なお、電源部19は、成膜することができるのであれば、直流電源または交流電源のいずれであってもよい。制御装置50が制御可能なように、電源部19は、制御装置50に電気的に接続されている。
【0097】
電解液Sは、電解めっきにより金属皮膜Fの金属として析出される金属イオンを含有している液であれば、特に限定されるものではない。たとえば、金属イオンの金属として、Cu、Ni、Ag、またはAu等を挙げることができる。また、電解液Sは、これらの金属を、硝酸、リン酸、コハク酸、硫酸、またはピロリン酸等の酸で溶解(イオン化)したものでよい。
【0098】
本実施形態の制御装置50の構成は、第1実施形態の制御装置50の構成と同様である。ただし、本実施形態の成膜実行部56は、第1実施形態のものに加えて、電源部19の電圧の印加を制御する点が第1実施形態とは異なる。具体的には、成膜実行部56は、上述の如く液圧の増加を維持した状態で、電源部19に陽極18と基材Wとの間に電圧を印加させて、金属皮膜Fの成膜を行う。また、成膜終了の際、成膜実行部56は、上述の如く加圧状態を解除させるとともに、電源部19に陽極18と基材Wとの間の電圧の印加を解除させる。
【0099】
本実施形態の金属皮膜Fの成膜方法は、上述した第1実施形態の成膜方法と同様にして行う。ただし、本実施形態では、金属皮膜Fの成膜工程において、成膜の際、陽極18と基材Wとの間の電圧の印加、およびその印加の解除を行う点が、第1実施形態とは異なる。
【0100】
具体的には、本実施形態の金属皮膜Fの成膜工程において、上述の如く、吸引通路42が遮断された状態で、液圧増加部55によりハウジング11内の電解液Sの液圧の増加させた後、液圧を維持する。この維持状態で、成膜実行部56により、電源部19に陽極18と基材Wとの間に一定電圧を印加させて金属皮膜Fの成膜を行う。これにより、基材Wの表面に、金属イオンに由来した金属皮膜Fを成膜することができる。
【0101】
成膜終了の際、成膜実行部56により、上述の如く、液圧調整装置20に加圧状態を解除させ、電源部19に陽極18と基材Wとの間の電圧の印加を解除させる。その後、成膜実行部56は、成膜終了信号を連通制御部57へ送信する。
【0102】
このような第2実施形態でも、第1実施形態で説明した金属皮膜Fの成膜方法および成膜装置1に係る効果と同様の効果を奏することは勿論のことである。
【実施例0103】
以下に、本発明を実施例により説明する。
【0104】
<実施例>
図1に示す第1実施形態の金属皮膜の成膜装置を用いて、上述した第1実施形態の金属皮膜の成膜方法に沿って、置換めっきにより、金属皮膜の成膜を行った。電解液および多孔膜として、置換めっき用Auめっき液(上村工業製、TDS-25)および多孔膜(住友電工製、ポアフロンWPW-045-80)を用いた。成膜処理は、成膜時間を10分および液圧による加圧力を0.2MPaで行った。基材として、Niめっきを施したCu板を用いた。
【0105】
多孔膜の接触工程での基材と多孔膜との間の気体の吸引では、開閉弁を開弁し、大気開放弁を閉弁し、および吸引装置として真空ポンプを駆動した。また、吸引通路の遮断工程では、真空ポンプの駆動を維持して、開弁状態の開閉弁を閉弁した。この状態で、成膜工程において、金属皮膜の成膜を行い、成膜中の吸引通路内への電解液の漏れおよび加圧(液圧)の保持性を確認し、また、成膜後の金属皮膜(Au皮膜)の成膜性を確認した。
【0106】
<比較例>
実施例と同様にして、金属皮膜を成膜して、吸引通路内への電解液の漏れ、加圧保持性、および金属皮膜の成膜性を確認した。ただし、比較例では、吸引通路の遮断工程を行わなかった点が実施例とは異なる。具体的には、比較例では、真空ポンプの駆動を維持するとともに開閉弁の開弁状態で、金属皮膜の成膜を行った。
【0107】
[結果・考察]
実施例の如く、吸引通路を遮断して、気体の吸引を停止した場合には、ハウジング内の電解液の液漏れが抑えられた結果、ハウジング内の圧力は、一定に保持され、基材にはAu皮膜が良好に成膜された。一方、比較例の如く、吸引通路の吸引状態を維持すると、多孔膜を介してハウジング内の電解液の液漏れが認められ、成膜を開始してから1分経過後に、ハウジング内の電解液の加圧の低下が認められた。このことが理由でAu皮膜の成膜が不良になったと考えられる。
【0108】
ここで、確認試験として、
図1に示す成膜装置を用いた場合の液漏れ率と、
図1に示す成膜装置の多孔膜の代わりに無孔膜である固体電解質膜を用いた場合の液漏れ率を、真空ポンプを駆動しつつ開閉弁を開いた状態で、測定した。液漏れ率の計測の際には、多孔膜または無孔膜(固体電解質膜)を、基材の表面に接触させた状態で、常温の電解液を介した基材への加圧力を、
図6に示す値に示す加圧力ごとに10分間継続した。この結果を
図6に示す。なお、液漏れ率は、吸引通路内の体積に対する吸引通路内の電解液の割合である。さらに、
図1に示す成膜装置を用いて、電解液を70℃で加熱し加圧力0.2MPaに維持し、
図7に示す加圧時間ごとに、液漏れ率を、測定した。なお、加圧時間0分では、電解液の加圧は行っていない。この結果を
図7に示す。
【0109】
図6に示すように、多孔膜を用いた場合には、液漏れが確認され、
図7に示すように、加圧時間を増加させることにより、多孔膜を介して、僅かな液圧でも、多孔膜から電解液が滲み出すことが分かった。これらの結果から、電解液が滲み出し難いように、成膜時には、吸引口からの吸引を行わないことが望ましいと言える。
【0110】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0111】
たとえば、上述した第1および第2実施形態では、成膜中の吸引通路の遮断を連続的に行う例を説明したが、これに限定されず、成膜中の吸引通路の遮断を断続的に行ってもよい。これにより、成膜中に、多孔膜と基材との間に、たとえば水素等のガスが発生した際、発生したガスを除去することができる。
【0112】
また、上述した第1および第2実施形態では、吸引部に気液分離装置が設けられた成膜装置を説明したが、たとえば、吸引した電解液および気体からなる混合流体が、回収槽で分離されるのであれば、気液分離装置を省略し、吸引通路に、吸引装置を介して、回収槽を接続してもよい。
1:成膜装置、11:ハウジング、12:多孔膜、13:載置台、14:昇降装置、20:液圧調整装置、31:回収槽、41:吸引口、42:吸引通路、43:吸引装置、44:開閉弁、45:連通通路、46:大気開放弁、47:気液分離装置、50:制御装置、51:吸引実行部、52:下降制御部、53:連通遮断部、54:閉弁制御部、55:液圧増加部、56:成膜実行部、57:連通制御部、58:上昇制御部、S:電解液、W:基材、F:金属皮膜