(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184369
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】付着物採取具、付着物検査キット及び付着物の採取方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/04 20060101AFI20221206BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20221206BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G01N1/04 V
G01N33/48 S
G01N33/50 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092167
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 優一
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
【Fターム(参考)】
2G045CB09
2G045HA06
2G052AA28
2G052AA36
2G052AB16
2G052AB27
2G052BA19
2G052DA12
2G052DA23
2G052JA02
2G052JA04
2G052JA05
2G052JA11
(57)【要約】
【課題】対象物表面における付着物を採取する部分の面積を一定にできながら、対象物表面に存在する付着物の採取を一人で行うことができる、付着物採取具、付着物検査キット及び付着物の採取方法を提供する。
【解決手段】[1]対象物表面に存在する付着物を採取するための採取具であって、一端に開口部cを有し、他端に閉口部fを有する容器本体と、前記容器本体の側壁部e及び前記閉口部fのうち少なくとも一方に有する突起部a、bと、を備え、前記突起部a、bが、対象物表面に前記開口部c側を密着させながら前記容器本体を周方向に自転させたときに、前記対象物表面を擦ることができるように構成されている、付着物採取具、[2]前記[1]に記載の付着物採取具と、前記付着物採取具の前記容器本体の内部に収容された採取液と、を備える、付着物検査キット、及び、[3]対象物表面に、前記[1]に記載の付着物採取具の前記開口部c側を密着させながら前記容器本体を周方向に自転させる工程を含む、付着物の採取方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物表面に存在する付着物を採取するための採取具であって、
一端に開口部を有し、他端に閉口部を有する容器本体と、
前記容器本体の側壁部及び前記閉口部のうち少なくとも一方に有する突起部と、
を備え、
前記突起部が、対象物表面に前記開口部側を密着させながら前記容器本体を周方向に自転させたときに、前記対象物表面を擦ることができるように構成されている、付着物採取具。
【請求項2】
前記容器本体を周方向に1回自転させたときの前記突起部の前記開口部側の面が描く軌跡の面積をS1とし、前記容器本体の前記開口部側の面の面積をS2としたとき、S1≧S2×0.5の関係を満たす、請求項1に記載の付着物採取具。
【請求項3】
前記突起部は、前記容器本体の内部空間に向かって突出するとともに前記側壁部に支持された第一突起部と、前記側壁部に向かって突出するとともに前記閉口部に支持された第二突起部と、を有する、請求項1又は2に記載の付着物採取具。
【請求項4】
前記側壁部の前記開口部側の面と、前記突起部の前記開口部側の面とが、略同一平面上にある、請求項1又は2に記載の付着物採取具。
【請求項5】
前記容器本体が円筒状である、請求項1又は2に記載の付着物採取具。
【請求項6】
前記容器本体が樹脂製である、請求項1又は2に記載の付着物採取具。
【請求項7】
前記開口部を閉じるための蓋部材を更に備える、請求項1又は2に記載の付着物採取具。
【請求項8】
前記蓋部材が易剥離性フィルムである、請求項7に記載の付着物採取具。
【請求項9】
前記対象物は皮膚である、請求項1又は2に記載の付着物採取具。
【請求項10】
前記付着物が微生物を含む、請求項1又は2に記載の付着物採取具。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の付着物採取具と、
前記付着物採取具の前記容器本体の内部に収容された採取液と、
を備える、付着物検査キット。
【請求項12】
対象物表面に、請求項1又は2に記載の付着物採取具の前記開口部側を密着させながら前記容器本体を周方向に自転させる工程を含む、付着物の採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着物採取具、付着物検査キット及び付着物の採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛生検査や環境測定、工業製品の品質検査等において、対象物表面に存在する付着物の分析を行う際、その分析結果は、付着物を回収するための採取具や採取方法に大きく左右される。そのため、目的に応じた付着物の回収率や測定の再現性を実現するための、様々な採取具や採取方法が提案されている。ヒトの皮膚の付着菌検査のための付着菌採取においても同様である。
付着菌の採取方法の中で、代表的なものがカップスクラブ法である(例えば、非特許文献1参照)。この方法は、米国の標準的な抗菌効果評価方法であるAmerican Society for Testing and Materials(ASTM)において、手術前やカテーテル刺入前後の皮膚消毒評価を行う場合において求められている。
【0003】
カップスクラブ法では、具体的には、以下のような手順で付着菌の採取を行う。
(1)皮膚等の対象物表面にガラス製あるいは金属製のシリンダーを押し付ける。
(2)シリンダーの中に細菌採取液を注入する。
(3)ガラス棒あるいは金属棒等で対象物表面を一定時間スクラブし、細菌を細菌採取液に分散させる。
(4)細菌が分散した採取液の一部をスポイトで吸い取り、吸い取った採取液を検査装置に滴下する。
この採取方法は、以下の理由で、付着菌の回収率や測定の再現性において優れている。
・細菌を、細菌採取液に分散させるので、大量の細菌を採取できる。細菌を分散させた採取液の一部を取り出すだけで、検査装置の検出限界を超え、測定が可能である。
・個々のシリンダーの内径を一定にそろえておけば、常に一定の面積の皮膚をスクラブすることができる。したがって、日を変えて細菌を採取したとき、単位面積当たりの細菌数の変化を検出することができる。すなわち、定量的な測定が可能である。
【0004】
また、カップスクラブ法以外の、皮膚の付着菌を採取する一般的な方法としては、スワブ法が挙げられる。スワブ法は、採取液を含浸した採取棒を皮膚に接触させ、その状態で皮膚をこすって細菌を採取するという方法である(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-229871号公報
【特許文献2】特開2011-69778号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Healthcare-associated Infection, 3(2), 19-23, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
皮膚の付着菌を採取して菌の状態を検査することは、皮膚を健康に保つ上でも重要である。細菌の状態に応じた薬や化粧料を使用することにより、皮膚の状態を最適に保つことができる。したがって、皮膚の付着菌の採取は、個人が日常において頻繁に行うことができることが望ましい。
【0008】
しかしながら、個人が皮膚の付着菌を採取する場合、カップスクラブ法は、日常的に頻繁に行うには、次のような問題がある。
付着菌の採取を行うためには、シリンダーを皮膚に押し付けながら細菌採取液をシリンダーに注入する必要がある。皮膚にシリンダーを押し付けていないと、シリンダーの一方の側から注入した採取液が、他方の側からこぼれてしまうからである。そのため両手での操作が要求される。したがって、皮膚の付着菌検査を行う場合、試験者と被試験者の2名が必要となる。例えば一人暮らしの人が、自室において一人で採取を行うことができない。
さらに、カップスクラブ法では、検査装置による測定には採取液の一部しか使用しない。使用しなかった採取液をシリンダー内から完全に取り除くまで、シリンダーを皮膚から離すことができない。採取液の回収は、スポイトを使うことになるので時間がかかり、またその間、シリンダーを皮膚に押し付け続けていないとならないので、被試験者や試験者の負担が大きい。
すなわち、カップスクラブ法は、対象物表面に存在する付着物の採取を一人で行うことが難しいという問題がある。
【0009】
また、スワブ法は、カップスクラブ法のシリンダーのように、採取する面積を規定するような道具がない。単に棒で皮膚をこするだけであり、その面積を検査ごとに常に一定にすることができない。また、採取した細菌は、採取棒から絞り出して検査装置に移すのであるが、このとき、絞り出す手技により細菌の量が変化することがある。
したがって、細菌の有無は検出できるが、前回の測定に比べて細菌が増えたのか、減ったのかというような、定量的な測定を行うのには向かない。すなわち、スワブ法は、対象物表面における付着物を採取する面積を一定にできないという問題がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、対象物表面における付着物を採取する部分の面積を一定にできながら、対象物表面に存在する付着物の採取を一人で行うことができる、付着物採取具、付着物検査キット及び付着物の採取方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下に示す付着物採取具、付着物検査キット及び付着物の採取方法が提供される。
【0012】
[1]
対象物表面に存在する付着物を採取するための採取具であって、
一端に開口部を有し、他端に閉口部を有する容器本体と、
前記容器本体の側壁部及び前記閉口部のうち少なくとも一方に有する突起部と、
を備え、
前記突起部が、対象物表面に前記開口部側を密着させながら前記容器本体を周方向に自転させたときに、前記対象物表面を擦ることができるように構成されている、付着物採取具。
[2]
前記容器本体を周方向に1回自転させたときの前記突起部の前記開口部側の面が描く軌跡の面積をS1とし、前記容器本体の前記開口部側の面の面積をS2としたとき、S1≧S2×0.5の関係を満たす、上記[1]に記載の付着物採取具。
[3]
前記突起部は、前記容器本体の内部空間に向かって突出するとともに前記側壁部に支持された第一突起部と、前記側壁部に向かって突出するとともに前記閉口部に支持された第二突起部と、を有する、前記[1]又は[2]に記載の付着物採取具。
[4]
前記側壁部の前記開口部側の面と、前記突起部の前記開口部側の面とが、略同一平面上にある、前記[1]~[3]のいずれかに記載の付着物採取具。
[5]
前記容器本体が円筒状である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の付着物採取具。
[6]
前記容器本体が樹脂製である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の付着物採取具。
[7]
前記開口部を閉じるための蓋部材を更に備える、前記[1]~[6]のいずれかに記載の付着物採取具。
[8]
前記蓋部材が易剥離性フィルムである、前記[7]に記載の付着物採取具。
[9]
前記対象物は皮膚である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の付着物採取具。
[10]
前記付着物が微生物を含む、前記[1]~[9]のいずれかに記載の付着物採取具。
[11]
前記[1]~[10]のいずれかに記載の付着物採取具と、
前記付着物採取具の前記容器本体の内部に収容された採取液と、
を備える、付着物検査キット。
[12]
対象物表面に、前記[1]~[10]のいずれかに記載の付着物採取具の前記開口部側を密着させながら前記容器本体を周方向に自転させる工程を含む、付着物の採取方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、対象物表面における付着物を採取する部分の面積を一定にできながら、対象物表面に存在する付着物の採取を一人で行うことができる、付着物採取具、付着物検査キット及び付着物の採取方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る付着物採取具の一例を示す模式図であり、
図1(1)は上面図、
図1(2)は側面斜視図、及び
図1(3)は底面斜視図である。
【
図2】容器本体を周方向に1回自転させたときの突起部の開口部側の面が描く軌跡の面積S
1と前記容器本体の前記開口部側の面の面積S
2とを説明するための模式図である。
【
図3】本発明に係る付着物採取具の例を示す上面図である。
【
図4】本発明に係る付着物採取具の一例の写真を示す図である。
【
図5】本発明に係る付着物検査キットの一例を示す斜視図である。
【
図6】本発明に係る付着物検査キットを用いた付着物の採取方法及び検査方法の手順の一例を示す模式図である。
【
図7】本発明に係る付着物採取具を用いた付着物の検査方法による表皮ブドウ球菌の生菌数と、カップスクラブ法による表皮ブドウ球菌の生菌数とを比較したグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
1.付着物採取具
図1は、本発明に係る付着物採取具の一例を示す模式図であり、
図1(1)は上面図、
図1(2)は側面斜視図、及び
図1(3)は底面斜視図である。
図4は、本発明に係る付着物採取具の一例の写真を示す図である。
本発明の付着物採取具は、対象物表面に存在する付着物を採取するための採取具であって、一端に開口部cを有し、他端に閉口部fを有する容器本体と、容器本体の側壁部e及び閉口部fのうち少なくとも一方に有する突起部a、bと、を備える。そして、本発明の付着物採取具において、突起部a、bが、対象物表面に開口部c側を密着させながら容器本体を周方向に自転させたときに、対象物表面を擦ることができるように構成されている。
本発明の付着物採取具によれば、対象物表面における付着物を採取する面積を一定にできながら、対象物表面に存在する付着物の採取を一人で行うことができる。
【0017】
本発明に係る付着物採取具は、採取液を保持するための容器本体とスクラブ手段である突起部とを兼ねる構造になっているので、付着物の採取を片手で行うことができる。そのため、対象物表面に存在する付着物の採取を一人(実質的に片手)で行うことができる。
また、本発明に係る付着物採取具において、付着物を採取する部分の面積は、容器本体の開口部c側の面(以下、「上面」ともいう)の内径により規定される。これにより、本発明に係る付着物採取具は、対象物表面における付着物を採取する部分の面積を一定にでき、実質的には一定の面積から付着物を採取することができる。
本明細書において、上面とは、容器本体の開放されている側の面であり、閉口部f(以下、「底板」ともいう)と対向する面のことである。
さらに、本発明に係る付着物採取具は、容器本体の突起部を皮膚に擦りつけ表面の付着物を浮かし、採取液内に付着物を分散させるので、付着物の回収率を向上させることができる。
【0018】
前述したように、カップスクラブ法におけるシリンダーは、採取液が皮膚との間からこぼれないように、持つ手に力を入れて皮膚にしっかりと押し付ける必要がある。このとき、シリンダーの開放端側からはスクラブ棒を挿入することになるので、シリンダーの側壁を持つことになる。スクラブ棒は、片端を他方の手で把持し、棒の反対端で皮膚を満遍なくスクラブする必要がある。このため、シリンダーは、使い勝手の点で、ある程度の大きさ(太さ)が必要である。
しかし、前述したように、シリンダーには、側壁を握った手から皮膚に押し付けるための強い力が加わるため、変形に強い必要がある。そのためには、側壁を厚くする必要があり、頻繁に使用するには製造コストが高くなる。また、スクラブ棒は、効率よくスクラブするために、先端にシリコンゴム等のキャップが装着されていることが多い。したがって、スクラブ棒も、頻繁に使用するには製造コストが高い。
一方、本発明に係る付着物採取具は、付着物の採取を行うためには、最低限、親指と人差し指で採取具を挟んで回転させることができればよい。そのため、小型化が可能である。また、突起部により側壁部を補強することもできる。そのため、強度の弱い樹脂でのデザインも可能である。したがって、本発明に係る付着物採取具は、採取具の製造コストを低減でき、頻繁に付着物を採取することに対して、価格的な抵抗を小さくすることもできる。
【0019】
<容器本体>
容器本体は、一端に開口部cと、他端に閉口部fと、開口部c及び閉口部fの間に側壁部eと、閉口部f及び側壁部eにより囲まれるとともに液体を保持可能な内部空間と、を有する。
容器本体は、例えば、一方の端は底板により塞がれて閉口部fが形成され、底板に対向する他方の端は開放されて開口部cが形成されている。
容器本体の形状は特に限定されず、円筒状、角筒状等が挙げられ、容器本体の自転を容易にする観点から、円筒状であることが好ましい。
【0020】
容器本体の材質は特に限定されず、例えば、樹脂材料、金属材料、無機材料、木材等が挙げられる。
これらの中でも、容器本体の材質としては、後述の蓋部材のヒートシール性、成形性、耐酸化性、耐滅菌性、リサイクル性、軽量性、皮膚への安全性等に優れる点から、樹脂材料が好ましい。すなわち、本発明に係る容器本体は樹脂製であることが好ましい。
樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0021】
<突起部>
突起部a、bは、容器本体の側壁部e及び閉口部fのうち少なくとも一方に支持されており、対象物表面に開口部c側を密着させながら容器本体を周方向に自転させたときに、対象物表面を擦ることができるように構成されている。
また、突起部a、bは、容器本体の内部空間で採取液が分断されないように、容器本体の内部空間を区切らないように構成されていることが好ましい。これにより、付着物が容器本体の内部空間内で遍在することを抑制できる。
【0022】
本発明に係る付着物採取具において、容器本体を周方向に1回自転させたときの突起部の開口部側の面が描く軌跡の面積をS
1とし、容器本体の開口部c側の面の面積をS
2としたとき、付着物の採取量や回収率を向上させる観点から、S
1≧S
2×0.5の関係を満たすことが好ましく、S
1≧S
2×0.8の関係を満たすことがより好ましく、S
1≧S
2×0.9の関係を満たすことが更に好ましく、S
1≧S
2×0.95の関係を満たすことが更に好ましく、S
1≧S
2×0.99の関係を満たすことが更に好ましい。
ここで、
図2を用いて、容器本体を周方向に1回自転させたときの突起部a、bの開口部c側の面が描く軌跡の面積S
1と容器本体の開口部c側の面の面積S
2について説明する。
まず、面積S
2は、容器本体の開口部c側の面の面積であり、
図2の場合、円筒型の容器の上面の円の面積をいう。すなわち、面積S
2は、開口部cの面積と、突起部a、bの開口部c側の面の面積と、側壁部eの開口部c側の面dの面積との合計である。
また、面積S
1は、容器本体を周方向に1回自転させたときの突起部a、bの開口部c側の面が描く軌跡の面積であり、
図2の場合、突起部aの開口部c側の面が描く軌跡の面積S
1aと、突起部bの開口部c側の面が描く軌跡の面積S
1bとの合計の面積である。
【0023】
本発明に係る突起部は、対象物表面を擦ることができる形状であれば特に限定されないが、例えば
図1に示すように、容器本体の内部空間に向かって突出するとともに側壁部eに支持された第一突起部bと、側壁部eに向かって突出するとともに閉口部fに支持された第二突起部aと、を有することが好ましい。
図1の例では、第一突起部bは、側壁部eに支持されており、容器本体の内部空間に向かって突き出しており、第二突起部aは、底板の中心部付近に取り付けられており、側壁部eに向かって突き出している。
なお、側壁部eに設けている第一突起部bは、側壁部eの変形を防ぐ梁の役目を果たすので、第一突起部bを設けることで側壁部eの厚さを薄くすることができる。
【0024】
図3は、本発明に係る付着物採取具の例を示す上面図である。
本発明に係る突起部は、対象物表面を擦ることができる形状であればよく、
図1に示しているような十字型でなくてもよく、例えば、
図3の(1)~(4)で表されるいずれかの形状であってもよい。
【0025】
本発明に係る付着物採取具において、例えば
図1に示すように、側壁部eの開口部c側の面dと、突起部a、bの開口部c側の面とが、略同一平面上にあることが好ましい。
すなわち、側壁部eの開放端側の面(上面)と、突起部a、bの開放端側の面(上面)とが、略同一平面上にあることが好ましい。ここで、本明細書において、面と面とが略同一平面上にあるとは、面と面との垂直距離が、例えば、0.5mm以下、好ましくは0.3mm以下、より好ましくは0.1mm以下である面同士をいう。
【0026】
突起部の材質は特に限定されず、例えば、樹脂材料、金属材料、無機材料、木材等が挙げられる。
これらの中でも、突起部の材質としては、成形性、耐酸化性、耐滅菌性、リサイクル性、軽量性、皮膚への安全性等に優れる点から、樹脂材料が好ましい。すなわち、本発明に係る突起部は樹脂製であることが好ましい。
樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
また、突起部は、本発明に係る付着物採取具の成形性を向上させる観点から、容器本体と一体化されていることが好ましく、樹脂材料で容器本体と一体成形されていることがより好ましい。
【0027】
<蓋部材>
本発明に係る付着物採取具は、開口部cを閉じるための蓋部材gを更に備えることができる。蓋部材gは、容器本体の開口部cを塞ぎ、容器本体の内部空間を封止するためのものである。容器本体の内部空間に採取液を入れ、開口部cを蓋部材により封止することで、後述の付着物検査キットを得ることができる。
蓋部材gとしては特に限定されないが、例えば、樹脂フィルムや金属箔等を用いることができ、使用時に容易に開封することができる点から、易剥離性フィルムであることが好ましい。易剥離性フィルムとしては、例えば、界面剥離、凝集剥離、層間剥離等の剥離機構を利用したものが種々知られており、容器本体の材質や所望性能に応じて公知のものの中から適宜選択して用いることができる。一般的には、ポリマーブレンドの融着層を基材フィルム上に有する積層フィルム、ホットメルト系融着層を基材フィルム上に有する積層フィルム、シール層や剥離層を有する界面剥離系積層フィルム等を用いることができる。
【0028】
<対象物>
本発明に係る付着物採取具により付着物を採取するための対象物としては特に限定されないが、例えば、皮膚、粘膜、糞便、食料品、衣料品、日用品、土壌、医療器具、工業製品等が挙げられる。これらの中でも、本発明に係る付着物採取具は、皮膚表面に存在する付着物を採取するために好適に用いることができる。すなわち、本発明に係る付着物採取具により付着物を採取するための対象物としては、皮膚が好ましい。
【0029】
<付着物>
本発明に係る付着物採取具により採取する付着物としては特に限定されないが、例えば、細菌、菌類、ウイルス、微細藻類、原生動物、カビ等の微生物;タンパク質、アミノ酸、脂質、核酸、糖質、ビタミン、ホルモン、ペプチド、ミネラル、皮脂、トリグリセリド、ジグリセリド、脂肪酸、グリセリン等の生体物質;金属、ポリマー、各種微粒子、各種異物等が挙げられる。
これらの中でも、本発明に係る付着物採取具は、微生物(好ましくは細菌)を採取するために好適に用いることができる。すなわち、本発明に係る付着物採取具により採取する付着物としては、微生物が好ましく、細菌がより好ましく、皮膚表面に存在する細菌がより好ましい。
皮膚表面に存在する細菌としては、例えば、皮膚常在菌が挙げられる。皮膚常在菌とは、ヒトの皮膚上に生育している細菌を意味するが、本発明において、その菌種は特に限定されるものではない。皮膚常在菌としては、例えば、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、アクネ菌、コリネバクテリウム等が挙げられる。
【0030】
2.付着物検査キット
図5は、本発明に係る付着物検査キットの一例を示す斜視図である。
本発明に係る付着物検査キットは、前述の本発明に係る付着物採取具と、付着物採取具の容器本体の内部に収容された採取液hと、を備える。
本発明に係る付着物検査キットにおいて、付着物採取具は開口部cを閉じるための蓋部材gを更に備えることが好ましい。
これにより、容器本体の内部空間に採取液hを収容し、開口部cを蓋部材gにより封止することで、採取液を容器本体の内部に封入することができる。そのため、使用前の付着物検査キットの保存性や取り扱い性、可搬性等を向上させることができる。
蓋部材gの好ましい態様は前述の蓋部材と同様である。
採取液hは、対象物や付着物に応じて公知のものの中から適宜選択して用いることができる。付着物が細菌の場合、採取液hとしては、例えば、生理食塩水を用いることができる。
【0031】
3.付着物の採取方法
本発明に係る付着物採取具を用いた付着物の採取方法は、例えば、対象物表面に、本発明に係る付着物採取具の開口部c側を密着させながら容器本体を周方向に自転させる工程を含む。例えば、採取液を容器本体の内部に入れ、容器本体の開口部c側の面を対象物表面に押し付けながら、容器本体を周方向に自転させる、すなわち、容器本体を上面の法線を軸として回転させる。これにより、突起部が対象物表面をスクラブし、対象物表面に存在する付着物が採取液の中に分散し、付着物を採取することができる。
【0032】
以下、
図5及び
図6を用いながら、本発明に係る付着物検査キットを用いた、皮膚表面に存在する細菌の採取方法及び検査方法の手順の一例をより具体的に説明する。
図5に示すように、付着物検査キットの容器本体の内部空間には、採取液hが満たされおり、上面は、容易に開封が可能なように易剥離性フィルム等の蓋部材gで封じられている。
はじめに、蓋部材gを容器本体から剥がして付着物検査キットを開封する(
図6(1))。
次いで、容器本体の内部に収容された採取液がこぼれないように注意しながら、容器本体の開口部c側の面を、細菌を採取したい部位に押し付け密着させる(
図6(2))。
次いで、
図6(3)のように、採取液が皮膚に触れるように、上下を逆転する。この状態で、容器本体の開口部c側の面を皮膚表面に押し付けながら、容器本体を周方向に自転させる。この操作により付着物採取具の突起部が採取液の中を皮膚表面に接触しながら動き、皮膚表面に付着している細菌を採取液内に舞い上げる。さらに採取液内を突起部が動くことで攪拌が起こり、皮膚表面から舞い上げられた細菌が採取液内に分散する。
次いで、再び上下を逆転させ、
図6(2)の状態に戻し、内部の採取液がこぼれないように注意しながら、容器本体を皮膚から離す。
次いで、容器本体内の細菌が分散している採取液を、スポイト等で吸い取る(
図6(4))。
次いで、吸い取った採取液を検査装置(検査具)に移し測定する(
図6(5))。
付着物を含む採取液の検査方法は、対象物や付着物に応じて公知の検査方法の中から適宜選択して用いることができる。
また、上記では、本発明に係る付着物採取具内に採取液を満し蓋部材により封じた付着物検査キットを用いる例を示したが、被試験者が、採取液を、別途保管されている容器から、自身で採取具に注入し、その採取具を用いる方法であってもよい。
【実施例0033】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0034】
実施例1
3Dプリンタを用いて、
図4に記載の採取具(底面積1cm
2)を作製した。得られた採取具に対して滅菌を行った後、滅菌した細菌採取液を採取具の中に1mL入れた。採取液としては、界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(富士フイルム和光純薬株式会社製)を添加した生理食塩水を用いた。
ここで、皮膚表面は皮脂で覆われており、付着物を水分でうまく洗い落とせないため、皮脂を採取液中に溶かしこむ目的で、採取液に界面活性剤を加えている。なお、実験に用いた濃度の界面活性剤で表皮ブドウ球菌が溶菌しないことは事前に確認した。
また、生理食塩水は、菌が塩濃度の高い皮膚表面から塩濃度の低い採取液中に移るときの急激な浸透圧変化に耐えられず死滅することを防ぐために用いている。
【0035】
次いで、採取液をこぼさないように採取具を頬に押し当て、皮膚表面が採取液で均一に濡れるように角度を調整し、接触面の法線を軸として親指と人差し指を用いて数回回転させた。採取液がこぼれないように皮膚表面から採取具を外した後、マイクロピペットを用いて採取液を回収し、平板希釈法を用いて表皮ブドウ球菌コロニー数の測定を行った。
その結果、得られた細菌数は3.63±0.77LogCFU/cm
2(n=3)であった。この数はカップスクラブ法で健常女性80人の頬から得られた表皮ブドウ球菌数(2.77±0.98LogCFU/cm
2)(J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn. 28 (1) 44-56 (1994))よりもやや多かった(
図7参照)。
以上から、本発明の採取具を用いれば、カップスクラブ法と遜色ない高い細菌採取率が得られることがわかった。