(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184409
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】締結装置、流体制御装置
(51)【国際特許分類】
F16K 27/00 20060101AFI20221206BHJP
B64C 1/00 20060101ALI20221206BHJP
B64C 13/36 20060101ALI20221206BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20221206BHJP
F16L 15/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F16K27/00 C
B64C1/00 A
B64C13/36
E02F9/00 B
F16L15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092235
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】永山 弘海
(72)【発明者】
【氏名】柴田 優
(72)【発明者】
【氏名】二俣 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 寿明
【テーマコード(参考)】
2D015
3H013
3H051
【Fターム(参考)】
2D015BA04
3H013GA07
3H051BB10
3H051CC11
3H051CC15
3H051EE01
3H051FF15
(57)【要約】
【課題】ねじ部への応力の集中を緩和できる
締結装置を提供する。
【解決手段】油圧ポートの
締結装置4Bは、雄ねじ61が形成されたユニオン6と雌ねじ51が形成された雌部材5を締結する
締結装置4Bであって、雌部材5において雄ねじ61が挿入される側と反対側の雌ねじ51の終端部に隣接して設けられ、雄ねじ61の外径よりも内径が大きい逃げ部52を備える。逃げ部52は、雌ねじ51の終端部51Eから雄ねじ61の挿入方向に対して90度以下の角をなして直線状に切り上がる切上部521を備える。雌ねじ51に締結された雄ねじ61の先端部61Eは雌ねじ51の終端部51Eよりも突出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ねじが形成された雄部材と雌ねじが形成された雌部材を締結する流体制御装置であって、
前記雌部材において前記雄ねじが挿入される側と反対側の前記雌ねじの終端部に隣接して設けられ、前記雄ねじの外径よりも内径が大きい逃げ部を備える、
流体制御装置。
【請求項2】
前記逃げ部は、前記雌ねじの終端部から前記雄ねじの挿入方向に対して90度以下の角をなして直線状に切り上がる切上部を備える、請求項1に記載の流体制御装置。
【請求項3】
前記逃げ部は、前記雌ねじの終端部から円弧状に切り上がる切上部を備える、請求項1に記載の流体制御装置。
【請求項4】
前記雌部材は、流体が流れる空間を有する前記逃げ部との間で流体が流れることが可能な複数の流体ポートを備える、請求項1から3のいずれかに記載の流体制御装置。
【請求項5】
前記雌ねじに締結された前記雄ねじの先端部は前記雌ねじの終端部よりも突出する、請求項1から4のいずれかに記載の流体制御装置。
【請求項6】
前記逃げ部の内径は前記雄ねじの外径の1.03倍以上である、請求項1から5のいずれかに記載の流体制御装置。
【請求項7】
雄ねじが形成された雄部材と雌ねじが形成された雌部材を締結する締結装置であって、前記雌部材において前記雄ねじが挿入される側と反対側の前記雌ねじの終端部に隣接して設けられ前記雄ねじの外径よりも内径が大きい逃げ部を備える締結装置と、
前記逃げ部の内部の空間を通る流体の流れを制御する流体制御部と、
を備える流体制御装置。
【請求項8】
前記流体制御部が発生させる流体の圧力によって航空機の動翼が駆動される、請求項7に記載の流体制御装置。
【請求項9】
前記流体制御部が発生させる流体の圧力によって建設機械の可動部が駆動される、請求項7に記載の流体制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体制御装置の一例としての油圧制御装置が発生させる油圧で駆動される航空機や建設機械は各部に作動油を流すための複雑な油圧回路を備える。油圧回路は、作動油が流れる多数の配管やバルブ等の油圧制御要素が接続されるマニフォールドと、マニフォールドから流される作動油の圧力を機械的な動力に変換するシリンダ等の油圧アクチュエータを備える。このような油圧回路には、配管同士の接続部分、配管や油圧制御要素とマニフォールドの接続部分、マニフォールドの作動油を供給する給油口や排出する排油口のキャップ等の多数の締結部(以下、油圧ポートと総称する)が存在し、作動油が漏洩しないように確実な締結が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0018020号明細書
【特許文献2】特開2020-34022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、航空機の油圧駆動システムにおける油圧ポートの流体制御装置として、互いに締結する雄ねじと雌ねじを用いたものが開示されている。航空機では典型的に0-5000 psi(pound per square inch)程度の圧力変動が繰り返し発生するが、それに起因する応力がねじ部に集中する結果、クラックが発生して作動油が漏洩するリスクがあった。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ねじ部への応力の集中を緩和できる流体制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の流体制御装置は、雄ねじが形成された雄部材と雌ねじが形成された雌部材を締結する流体制御装置であって、雌部材において雄ねじが挿入される側と反対側の雌ねじの終端部に隣接して設けられ、雄ねじの外径よりも内径が大きい逃げ部を備える。この態様によれば、雄ねじよりも大径の逃げ部によって、ねじ部への応力の集中を緩和できる。
【0007】
本発明の別の態様も、流体制御装置である。この装置は、雄ねじが形成された雄部材と雌ねじが形成された雌部材を締結する締結装置であって、雌部材において雄ねじが挿入される側と反対側の雌ねじの終端部に隣接して設けられ雄ねじの外径よりも内径が大きい逃げ部を備える締結装置と、逃げ部の内部の空間を通る流体の流れを制御する流体制御部と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ねじ部への応力の集中を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】流体制御装置の雌部材に加わる応力を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の流体制御装置は任意の油圧装置における油圧ポートの締結に有用である。従って、適用分野や適用製品が限定されるものではないが、例えば、減速機、建設機械、航空機、鉄道車両、船舶、自動車、自動ドア、包装機、義足、車椅子、三次元造形装置等の製品に設けられる油圧装置に本発明は適用可能である。本実施形態では航空機に本発明を適用した例を説明する。
【0012】
図1は、動翼100を備える航空機(不図示)の油圧システム1を模式的に示す。動翼100は操縦翼面であり、例えば、主翼に設けられるエルロン(補助翼)、水平尾翼に設けられる昇降舵(エレベータ)、垂直尾翼に設けられる方向舵(ラダー)等の舵面を構成する。動翼100は、フライトスポイラーやグランドスポイラー等のスポイラーまたはフラップ等によって構成してもよい。
【0013】
油圧アクチュエータ13は、シリンダ15と、ピストン16aが設けられたロッド16を備える。シリンダ15内はピストン16aによって連通しない二つの油室に区画される。油圧アクチュエータ13の各油室は、流体制御部としての制御弁17を介して機体側油圧源102およびリザーバ回路104と連通可能である。
【0014】
機体側油圧源102は、不図示の機体の内部に設置された圧油を供給する油圧ポンプである。機体側油圧源102から供給される圧油によって、動翼100の油圧アクチュエータ13や、航空機のその他のアクチュエータ(不図示)が駆動される。
【0015】
制御弁17は、機体側油圧源102に連通する供給通路102aおよびリザーバ回路104に連通する排出通路104aと、油圧アクチュエータ13の各油室の接続状態を切り替えるバルブ機構を構成する。制御弁17は例えば電磁切換弁として構成され、油圧アクチュエータ13の動作を制御するアクチュエータコントローラ11からの指令に基づいて駆動される。
【0016】
アクチュエータコントローラ11aは、動翼100の動作を制御する上位のコンピュータとしてのフライトコントローラ3からの指令に基づいて油圧アクチュエータ13aを制御する。アクチュエータコントローラ11は、動翼100の動作を制御する上位のコンピュータとしてのフライトコントローラ3からの指令に基づいて油圧アクチュエータ13を制御する。
【0017】
制御弁17は、アクチュエータコントローラ11からの指令に基づいて、供給通路102aに連通される油圧アクチュエータ13の油室と、排出通路104aに連通される油圧アクチュエータ13の油室を切り替える。供給通路102aに連通された油圧アクチュエータ13の一方の油室には圧油が供給され、排出通路104aに連通された油圧アクチュエータ13の他方の油室からは油が排出される。このような油圧アクチュエータ13の各油室の油の出入りによって、ピストン16aを備えるロッド16がシリンダ15に対して変位して動翼100を駆動する。
【0018】
フライトコントローラ3は、動翼100の動作を制御するコンピュータであり、アクチュエータコントローラ11に対して各種の制御信号を送信するコントローラである。フライトコントローラ3は、不図示のCPU(Central Processing Unit)、メモリ、インターフェース等を備える。
【0019】
以上のような油圧システム1を構成する各種の油圧機器、例えば、油圧アクチュエータ13、制御弁17や、これらの油圧機器を相互に接続する各種の配管102a、104aの一部または全部は、動翼100が設けられる固定翼の内部に配置される一または複数のマニフォールドにおいて相互に連結されて複雑な油圧回路を構成する。このような油圧回路またはマニフォールドには、油圧回路要素同士の接続部分、マニフォールド外の機体側油圧源102からの作動油が供給される給油口、マニフォールド外のリザーバ回路104へ作動油を排出する排油口、作動油の漏洩防止のためにマニフォールド表面の開口を封止するキャップ等の多数の締結部(以下、油圧ポートと総称する)が存在し、作動油が漏洩しないように確実な締結が求められる。このような油圧ポートには以下で説明する締結装置を構成する流体制御装置4が設けられる。
図1に流体制御装置4を設置しうる油圧ポートの場所を模式的に示す。
【0020】
図2は油圧ポートに設けられる流体制御装置4を示す。
図2(A)は従来の典型的な流体制御装置4Aを示し、
図2(B)は本実施形態の流体制御装置4Bを示す。油圧ポートの流体制御装置4A、4Bは、マニフォールドと一体的に形成される雌部材5と、ねじによって雌部材5と締結される雄部材としてのユニオン6によって構成される。雌部材5にはユニオン6の挿入方向(
図2の上下方向)に沿って雌ねじ51が形成され、ユニオン6にはユニオン6の挿入方向すなわち雌ねじ51の形成方向に沿って雄ねじ61が形成される。雄ねじ61が雌ねじ51に挿入されながら締め付けられることで、ユニオン6がマニフォールド(雌部材5)に締結される。
【0021】
ユニオン6は、雌ねじ51に挿入される側とは反対側の雄ねじ61の端部(
図2の上端部)に隣接して、雄ねじ61よりも外径が大きい締結部62を備える。雄ねじ61が雌ねじ51に最大挿入量まで挿入されて雄ねじ61の先端(
図2の下端)が挿入端61Eまで来た時に、締結部62が雌部材5またはマニフォールドの表面と接触することでユニオン6が雌部材5に対して締結される。締結部62と雌部材5の表面との間には、マニフォールド内の作動油の漏洩を防止するためのOリング等のパッキン63が設けられる。
【0022】
雌ねじ51と係合される雄ねじ61から見て締結部62の反対側(
図2の上側)には、別の雄ねじ64が形成される。雄ねじ64には、これと係合する雌ねじ(不図示)を備える配管や油圧機器を取付可能である。例えば、
図1の機体側油圧源102に連通する供給通路102aを構成する配管を雄ねじ64に取り付ければ、機体側油圧源102からの作動油がユニオン6を介してマニフォールド内に供給される。ユニオン6の内部には両端(
図2の上下端)の間を連通する流路65が設けられているため、雄ねじ64が形成された上側と雄ねじ61が形成された下側の間で作動油が流れることが可能になっている。なお、雄ねじ61と雄ねじ64の外径は、図示のように同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0023】
雌部材5は、雄ねじ61が挿入される側とは反対側(
図2の下側)の雌ねじ51の終端部51Eに隣接する逃げ部52を備える。逃げ部52には雄ねじ61と係合する雌ねじが形成されない。逃げ部52の内部には作動油が流れる作動油空間53が形成される。作動油空間53は、雄ねじ61が挿入される側とは反対側(
図2の下側)において、マニフォールド内の他の部分との間で作動油が流れることが可能な流路54と連通される。雄部材が図示のユニオン6で構成される場合、雄ねじ64に取り付けられる外部の配管や油圧機器とマニフォールドの内部の間で流路65および流路54を介して流れる作動油が作動油空間53において流れる。雄部材がマニフォールド表面の開口(雌部材5)を封止するキャップで構成される場合、流路54を介して流れるマニフォールドの内部の作動油が作動油空間53において流通または滞留する。
【0024】
続いて、
図2(A)の従来の典型的な流体制御装置4Aと、
図2(B)の本実施形態の流体制御装置4Bの相違点について説明する。これらの相違点は後述するようにねじ部への応力の集中を緩和することを目的として本実施形態に適用されたものである。
【0025】
流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第1の相違点は、逃げ部52の内径(
図2の左右方向の長さ)である。流体制御装置4Aでは逃げ部52の内径は雄ねじ61の外径と略等しいが、流体制御装置4Bでは逃げ部52の内径は雄ねじ61の外径よりも大きい。具体的には、流体制御装置4Bにおける逃げ部52の内径は雄ねじ61の外径の1.03倍以上である。なお、逃げ部52の内径は作動油空間53の内径でもある。
【0026】
図3は流体制御装置4Bの各部の寸法を模式的に示す。雄ねじ61の外径Bは、雄ねじ61の各ねじ山の頂を結んで形成される円筒の直径であり、雌ねじ51の内径の各ねじ谷の底を結んで形成される円筒の直径と略一致する。雄ねじ61の外径Bは典型的には10mmと51mmの間である。逃げ部52の内径はCで表され、前述の通りC≧1.03×Bという関係式を満たす。具体的には、応力集中緩和の観点から本発明者が見出した、C=1.03×B+2.05(mm)という関係式によって、雄ねじ61の外径Bから逃げ部52の内径Cが決定される。
【0027】
Eは逃げ部52の高さ(
図3の上下方向の長さ)であり、応力集中緩和の観点から3mm以上とするのが好ましい。Rtは逃げ部52の角に設けられる円弧部の半径であり、雄ねじ61の外径Bの0.04倍以上とするのが好ましい(Rt≧0.04×B)。具体的には、応力集中緩和の観点から本発明者が見出した、Rt=0.04×B+0.542(mm)という関係式によって、雄ねじ61の外径Bから半径Rtが決定される。なお、半径Rtの円弧部は図示される逃げ部52の四つの角の全てに設けるのが好ましい。Aは雌部材5の外径であり、雄ねじ61の外径Bの1.25倍以上とするのが好ましい(A≧1.25×B)。具体的には、応力集中緩和の観点から本発明者が見出した、A=1.25×B+6.70(mm)という関係式によって、雄ねじ61の外径Bから雌部材5の外径Aが決定される。
【0028】
なお、図示は省略するが、雌ねじ51の各ねじ谷の底に設けられる円弧部の半径Rも応力の集中を緩和する効果を有し、雄ねじ61の外径Bの0.00449倍以上とするのが好ましい(R≧0.00449×B)。具体的には、応力集中緩和の観点から本発明者が見出した、R=0.00449×B+0.0863(mm)という関係式によって、雄ねじ61の外径Bから半径Rが決定される。
【0029】
図2に戻り、流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第2の相違点は、逃げ部52における切上部の有無である。流体制御装置4Aでは雌ねじ51の終端部51Eから逃げ部52がほとんど切り上がらないため切上部が形成されないが、流体制御装置4Bでは雌ねじ51の終端部51Eから逃げ部52が直線状に切り上がる切上部521が形成される。後述するように応力集中緩和の観点から、切上部521が雌ねじ51の終端部51Eから切り上がる角度θは雄ねじ61の挿入方向(
図2の上から下に向かう方向)に対して90度以下とするのが好ましい。図示のように、切上部521が雌ねじ51の終端部51Eから切り上がる角度θを雄ねじ61の挿入方向に対して90度とすれば応力集中緩和の効果を最大化できる。
【0030】
流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第3の相違点は、雌ねじ51の終端部51Eに対する雄ねじ61の挿入端61Eの位置である。流体制御装置4Aでは雄ねじ61の挿入端61Eが雌ねじ51の終端部51Eよりも手前(
図2の上方)にあるが、流体制御装置4Bでは雄ねじ61の挿入端61Eが雌ねじ51の終端部51Eよりも奥(
図2の下方)にある。この結果、流体制御装置4Bでは、雌ねじ51に締結された雄ねじ61の先端部としての挿入端61Eは作動油空間53の内部に挿入される。
【0031】
図4は流体制御装置4A、4Bの雌部材5および雄部材6のねじが嵌合する領域の近傍に加わる応力を模式的に示す。
図4(A)は流体制御装置4Aを示し、
図4(B)は流体制御装置4Bを示す。雌部材5および雄部材6に示される応力線Sは、密度が高いほど強い応力が加わることを意味する。
図4(A)では、雌ねじ51の終端部51Eよりも引っ込んだ位置にある雄ねじ61の挿入端61Eに油圧Pが加わり、そこから数えて一つ目の完全な雌ねじ51のねじ山511に応力が集中する。このように一つ目のねじ山511に過度の応力が集中した状態で航空機に典型的な0-5000 psi程度の圧力変動が繰り返されると、疲労によって強度が低下したねじ山511からクラックが発生して作動油が漏洩するリスクがあった。
【0032】
これに対して
図4(B)では、
図2(B)および
図3に関して上述した流体制御装置4Bの各種の特徴によって、雌ねじ51の一つ目のねじ山511への応力の集中が緩和されている。流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第1の相違点として挙げた逃げ部52の内径に関して、
図4(B)では逃げ部52の内径を雄ねじ61の外径または雌ねじ51の内径よりも大きくすることで、逃げ部52の側方(
図4の左方)において下から延びてくる応力線Sが雌ねじ51の一つ目のねじ山511に到達しにくくなる。すなわち、逃げ部52の内径を大きくすることで、逃げ部52における油圧の受圧面積が大きくなるため、単位面積当たりの油圧Pが低減されて一つ目のねじ山511に作用する応力が小さくなる結果、応力線Sが一つ目のねじ山511に到達しにくくなると考えられる。このため、
図4(A)のような一つ目のねじ山511における応力の集中を緩和できる。
【0033】
流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第2の相違点として挙げた逃げ部52における切上部521に関して、
図4(B)では切上部521が雌ねじ51の終端部51Eから直角に急峻に切り上がることで、逃げ部52の側方(
図4の左方)において下から延びてくる応力線Sが雌ねじ51の一つ目のねじ山511に到達しにくくなる。すなわち、切上部521が急峻に切り上がることで、逃げ部52における油圧の受圧面積が大きくなるため、逃げ部52の変形によって応力線Sが分散することで一つ目のねじ山511に到達しにくくなる。このため、
図4(A)のような一つ目のねじ山511における応力の集中を緩和できる。
【0034】
流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第3の相違点として挙げた雌ねじ51の終端部51Eに対する雄ねじ61の挿入端61Eの位置に関して、雄ねじ61の挿入端61Eが雌ねじ51の終端部51Eよりも引っ込んでいる
図4(A)では、雄ねじ61の挿入端61Eに加わる油圧Pが直接的に雌ねじ51への応力となるため、特に一つ目のねじ山511への応力集中が発生していた。これに対して雄ねじ61の挿入端61Eが雌ねじ51の終端部51Eよりも突出している
図4(B)では、雄ねじ61の挿入端61に加えて周囲の逃げ部52(切上部521)でも油圧を受けられるため、逃げ部52の変形によって応力線Sが分散することで一つ目のねじ山511に到達しにくくなる。このため、流体制御装置4Bでは油圧Pによるねじ山511への応力を低減できる。なお、
図4(B)において、雌ねじ51の終端部51Eに対する雄ねじ61の挿入端61Eの突出させ過ぎると、突出した雄ねじ61の側面に加わる圧力が雌ねじ51に加わる応力になる可能性がある。この場合、雌ねじ51の終端部51Eと雄ねじ61の挿入端61Eの位置を一致させて雌ねじ51と雄ねじ61を全歯噛合にすれば、雄ねじ61の側面に加わる圧力を最小化できる。
【0035】
以上の相違点に加え流体制御装置4Bでは、逃げ部52の角を半径Rtの円弧部とすることで、そこへの応力の集中も緩和できる。また、雌ねじ51の各ねじ谷の底を半径Rの円弧部とすることで、そこへの応力の集中も緩和できる。
【0036】
以上、本実施形態の流体制御装置4Bの各種の特徴によって、雌ねじ51への応力の集中が緩和されることを説明した。応力集中緩和の効果を最大化する上では以上の全ての特徴を採用するのが好ましいが、少なくとも一つの特徴を採用すれば従来の流体制御装置4Aに対する有利な効果が得られる。また、
図3に関して、逃げ部52の内径C、逃げ部52の高さE、逃げ部52の角の円弧部の半径Rt、雌部材5の外径A、雌ねじ51の各ねじ谷の底の円弧部の半径Rのそれぞれについて、応力集中緩和の効果を得るために好適な関係式を示した。これらの関係式は流体制御装置4Bの設計時の基準となるものであるが、最終的な製品寸法を決定する際には製品毎の仕様や製造における公差等の各種の誤差を考慮した調整を行う必要があるため、絶対的な基準となるものではない。
【0037】
続いて、本実施形態の流体制御装置4Bの他の構成例を
図5(A)~(D)に示す。これらの図では雌部材5のみを示し、ユニオン6等の雄部材の図示を省略する。
図5(A)では、
図2(B)において雄ねじ61の挿入方向に対して90度の角をなして切り上がっていた切上部521が、90度未満の鋭角をなして切り上がっている。この構成によれば、急峻な切上げ角の
図2(B)に比べて切上部521を容易に加工できる。
図5(B)では、逃げ部52の側面が円弧状に形成される。この場合、逃げ部52の円弧状の側面によって雌ねじ51の終端部51Eから円弧状に切り上がる切上部521が形成される。この構成によれば、逃げ部52の側面に直線部がないため、半径Rtの二つの円弧部の間に直線部が存在した
図3の流体制御装置4Bに比べて、長手方向(
図5の上下方向)の寸法を小さくできる。
【0038】
図5(C)および
図5(D)では、雌部材5が作動油空間53との間で作動油が流れることが可能な複数の流体ポートとしての作動油ポート54、55を備える。第2の作動油ポート55における作動油の流れる方向は、
図5(C)のように第1の作動油ポート54における作動油の流れる方向と交差してもよいし、
図5(D)のように第1の作動油ポート54における作動油の流れる方向と平行でもよい。
図5(C)では第2の作動油ポート55を設けることで逃げ部52の高さ(
図5の上下方向の長さ)を大きくでき、
図5(D)では第2の作動油ポート55を設けることで逃げ部52の内径(
図5の左右方向の長さ)を大きくでき、雌ねじ51への応力の集中を緩和できる。なお、
図2~5において、流体制御装置4Bにおける逃げ部52は、雌ねじ51の途中に設けてもよい。
【0039】
本実施形態の流体制御装置4Bの更に他の構成例を
図6(A)~(G)に示す。これらは
図5(D)の変形例であり、逃げ部52の断面形状や作動油ポート55の配置が異なる。
図6(A)では逃げ部52の断面形状が略三角形であり、
図6(B)では逃げ部52の断面形状が略台形であり、
図6(C)では逃げ部52の断面形状が略六角形であり、
図6(D)では逃げ部52の断面形状が180度より大きい中心角の略扇形であり、
図6(E)では逃げ部52の断面形状が直線によって切断された略円形であり、
図6(F)では逃げ部52の断面形状が略星形(略十二角形)である。また、
図6(G)では逃げ部52の断面形状が直線によって切断された略円環形であり、その両端部に二つの作動油ポート55が設けられる。このような各種の形状の逃げ部52を備える雌部材5は、例えば3Dプリンタによる三次元造形や鋳造によって製造できる。なお、逃げ部52の断面形状や作動油ポート55の配置は非対称でもよく、逃げ部52の断面形状に含まれる角を円弧部とすることで応力の集中を緩和してもよい。
【0040】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0041】
実施形態では航空機に流体制御装置4Bを適用した例を説明したが、その他の製品として例えば建設機械に流体制御装置4Bを適用してもよい。
図7に建設機械200の概略的な構成を示す。建設機械200では、地面を走行可能な下部走行体201の上に上部旋回体202が旋回可能に取り付けられる。上部旋回体202には、前方左側にキャブ203が設けられると共に、前方中央部にブーム204が起伏可能に取り付けられる。ブーム204の先端には、アーム205が上下に屈曲可能に取り付けられる。アーム205の先端には、バケット206が上下に屈曲可能に取り付けられる。建設機械200の油圧システム1は、下部走行体201、上部旋回体202、ブーム204、アーム205、バケット206等の各可動部を作動油の油圧によって駆動する。建設機械200の油圧システム1には、特許文献2に示される油圧制御弁ブロック等の多数の油圧ポートを備える油圧装置が設けられるため、これらの油圧ポートの締結に本実施形態の流体制御装置4Bを利用できる。
【0042】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部または全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部または全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0043】
1 油圧システム、4B 流体制御装置(締結装置)、5 雌部材、6 ユニオン(雄部材)、13 油圧アクチュエータ、17 制御弁(流体制御部)、51 雌ねじ、51E 終端部、52 逃げ部、53 作動油空間、54、55 作動油ポート(流体ポート)、61 雄ねじ、61E 挿入端(先端部)、100 動翼、200 建設機械、201 下部走行体(可動部)、202 上部旋回体(可動部)、204 ブーム(可動部)、205 アーム(可動部)、206 バケット(可動部)、511 ねじ山、521 切上部。
【手続補正書】
【提出日】2021-10-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ねじが形成された雄部材と雌ねじが形成された雌部材を締結する締結装置であって、
前記雌部材において前記雄ねじが挿入される側と反対側の前記雌ねじの終端部に隣接して設けられ、前記雄ねじの外径よりも内径が大きい逃げ部を備える、
締結装置。
【請求項2】
前記逃げ部は、前記雌ねじの終端部から前記雄ねじの挿入方向に対して90度以下の角をなして直線状に切り上がる切上部を備える、請求項1に記載の締結装置。
【請求項3】
前記逃げ部は、前記雌ねじの終端部から円弧状に切り上がる切上部を備える、請求項1に記載の締結装置。
【請求項4】
前記雌部材は、流体が流れる空間を有する前記逃げ部との間で流体が流れることが可能な複数の流体ポートを備える、請求項1から3のいずれかに記載の締結装置。
【請求項5】
前記雌ねじに締結された前記雄ねじの先端部は前記雌ねじの終端部よりも突出する、請求項1から4のいずれかに記載の締結装置。
【請求項6】
前記逃げ部の内径は前記雄ねじの外径の1.03倍以上である、請求項1から5のいずれかに記載の締結装置。
【請求項7】
雄ねじが形成された雄部材と雌ねじが形成された雌部材を締結する締結装置であって、前記雌部材において前記雄ねじが挿入される側と反対側の前記雌ねじの終端部に隣接して設けられ前記雄ねじの外径よりも内径が大きい逃げ部を備える締結装置と、
前記逃げ部の内部の空間を通る流体の流れを制御する流体制御部と、
を備える流体制御装置。
【請求項8】
前記流体制御部が発生させる流体の圧力によって航空機の動翼が駆動される、請求項7に記載の流体制御装置。
【請求項9】
前記流体制御部が発生させる流体の圧力によって建設機械の可動部が駆動される、請求項7に記載の流体制御装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は締結装置および流体制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体制御装置の一例としての油圧制御装置が発生させる油圧で駆動される航空機や建設機械は各部に作動油を流すための複雑な油圧回路を備える。油圧回路は、作動油が流れる多数の配管やバルブ等の油圧制御要素が接続されるマニフォールドと、マニフォールドから流される作動油の圧力を機械的な動力に変換するシリンダ等の油圧アクチュエータを備える。このような油圧回路には、配管同士の接続部分、配管や油圧制御要素とマニフォールドの接続部分、マニフォールドの作動油を供給する給油口や排出する排油口のキャップ等の多数の締結部(以下、油圧ポートと総称する)が存在し、作動油が漏洩しないように確実な締結が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0018020号明細書
【特許文献2】特開2020-34022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、航空機の油圧駆動システムにおける油圧ポートの流体制御装置として、互いに締結する雄ねじと雌ねじを用いたものが開示されている。航空機では典型的に0-5000 psi(pound per square inch)程度の圧力変動が繰り返し発生するが、それに起因する応力がねじ部に集中する結果、クラックが発生して作動油が漏洩するリスクがあった。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ねじ部への応力の集中を緩和できる締結装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の締結装置は、雄ねじが形成された雄部材と雌ねじが形成された雌部材を締結する締結装置であって、雌部材において雄ねじが挿入される側と反対側の雌ねじの終端部に隣接して設けられ、雄ねじの外径よりも内径が大きい逃げ部を備える。この態様によれば、雄ねじよりも大径の逃げ部によって、ねじ部への応力の集中を緩和できる。
【0007】
本発明の別の態様は、流体制御装置である。この装置は、雄ねじが形成された雄部材と雌ねじが形成された雌部材を締結する締結装置であって、雌部材において雄ねじが挿入される側と反対側の雌ねじの終端部に隣接して設けられ雄ねじの外径よりも内径が大きい逃げ部を備える締結装置と、逃げ部の内部の空間を通る流体の流れを制御する流体制御部と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ねじ部への応力の集中を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】流体制御装置の雌部材に加わる応力を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の締結装置は任意の油圧装置における油圧ポートの締結に有用である。従って、適用分野や適用製品が限定されるものではないが、例えば、減速機、建設機械、航空機、鉄道車両、船舶、自動車、自動ドア、包装機、義足、車椅子、三次元造形装置等の製品に設けられる油圧装置に本発明は適用可能である。本実施形態では航空機に本発明を適用した例を説明する。
【0012】
図1は、動翼100を備える航空機(不図示)の油圧システム1を模式的に示す。動翼100は操縦翼面であり、例えば、主翼に設けられるエルロン(補助翼)、水平尾翼に設けられる昇降舵(エレベータ)、垂直尾翼に設けられる方向舵(ラダー)等の舵面を構成する。動翼100は、フライトスポイラーやグランドスポイラー等のスポイラーまたはフラップ等によって構成してもよい。
【0013】
油圧アクチュエータ13は、シリンダ15と、ピストン16aが設けられたロッド16を備える。シリンダ15内はピストン16aによって連通しない二つの油室に区画される。油圧アクチュエータ13の各油室は、流体制御部としての制御弁17を介して機体側油圧源102およびリザーバ回路104と連通可能である。
【0014】
機体側油圧源102は、不図示の機体の内部に設置された圧油を供給する油圧ポンプである。機体側油圧源102から供給される圧油によって、動翼100の油圧アクチュエータ13や、航空機のその他のアクチュエータ(不図示)が駆動される。
【0015】
制御弁17は、機体側油圧源102に連通する供給通路102aおよびリザーバ回路104に連通する排出通路104aと、油圧アクチュエータ13の各油室の接続状態を切り替えるバルブ機構を構成する。制御弁17は例えば電磁切換弁として構成され、油圧アクチュエータ13の動作を制御するアクチュエータコントローラ11からの指令に基づいて駆動される。
【0016】
アクチュエータコントローラ11aは、動翼100の動作を制御する上位のコンピュータとしてのフライトコントローラ3からの指令に基づいて油圧アクチュエータ13aを制御する。アクチュエータコントローラ11は、動翼100の動作を制御する上位のコンピュータとしてのフライトコントローラ3からの指令に基づいて油圧アクチュエータ13を制御する。
【0017】
制御弁17は、アクチュエータコントローラ11からの指令に基づいて、供給通路102aに連通される油圧アクチュエータ13の油室と、排出通路104aに連通される油圧アクチュエータ13の油室を切り替える。供給通路102aに連通された油圧アクチュエータ13の一方の油室には圧油が供給され、排出通路104aに連通された油圧アクチュエータ13の他方の油室からは油が排出される。このような油圧アクチュエータ13の各油室の油の出入りによって、ピストン16aを備えるロッド16がシリンダ15に対して変位して動翼100を駆動する。
【0018】
フライトコントローラ3は、動翼100の動作を制御するコンピュータであり、アクチュエータコントローラ11に対して各種の制御信号を送信するコントローラである。フライトコントローラ3は、不図示のCPU(Central Processing Unit)、メモリ、インターフェース等を備える。
【0019】
以上のような油圧システム1を構成する各種の油圧機器、例えば、油圧アクチュエータ13、制御弁17や、これらの油圧機器を相互に接続する各種の配管102a、104aの一部または全部は、動翼100が設けられる固定翼の内部に配置される一または複数のマニフォールドにおいて相互に連結されて複雑な油圧回路を構成する。このような油圧回路またはマニフォールドには、油圧回路要素同士の接続部分、マニフォールド外の機体側油圧源102からの作動油が供給される給油口、マニフォールド外のリザーバ回路104へ作動油を排出する排油口、作動油の漏洩防止のためにマニフォールド表面の開口を封止するキャップ等の多数の締結部(以下、油圧ポートと総称する)が存在し、作動油が漏洩しないように確実な締結が求められる。このような油圧ポートには以下で説明する締結装置を構成する流体制御装置4が設けられる。
図1に流体制御装置4を設置しうる油圧ポートの場所を模式的に示す。
【0020】
図2は油圧ポートに設けられる流体制御装置4を示す。
図2(A)は従来の典型的な流体制御装置4Aを示し、
図2(B)は本実施形態の流体制御装置4Bを示す。油圧ポートの流体制御装置4A、4Bは、マニフォールドと一体的に形成される雌部材5と、ねじによって雌部材5と締結される雄部材としてのユニオン6によって構成される。雌部材5にはユニオン6の挿入方向(
図2の上下方向)に沿って雌ねじ51が形成され、ユニオン6にはユニオン6の挿入方向すなわち雌ねじ51の形成方向に沿って雄ねじ61が形成される。雄ねじ61が雌ねじ51に挿入されながら締め付けられることで、ユニオン6がマニフォールド(雌部材5)に締結される。
【0021】
ユニオン6は、雌ねじ51に挿入される側とは反対側の雄ねじ61の端部(
図2の上端部)に隣接して、雄ねじ61よりも外径が大きい締結部62を備える。雄ねじ61が雌ねじ51に最大挿入量まで挿入されて雄ねじ61の先端(
図2の下端)が挿入端61Eまで来た時に、締結部62が雌部材5またはマニフォールドの表面と接触することでユニオン6が雌部材5に対して締結される。締結部62と雌部材5の表面との間には、マニフォールド内の作動油の漏洩を防止するためのOリング等のパッキン63が設けられる。
【0022】
雌ねじ51と係合される雄ねじ61から見て締結部62の反対側(
図2の上側)には、別の雄ねじ64が形成される。雄ねじ64には、これと係合する雌ねじ(不図示)を備える配管や油圧機器を取付可能である。例えば、
図1の機体側油圧源102に連通する供給通路102aを構成する配管を雄ねじ64に取り付ければ、機体側油圧源102からの作動油がユニオン6を介してマニフォールド内に供給される。ユニオン6の内部には両端(
図2の上下端)の間を連通する流路65が設けられているため、雄ねじ64が形成された上側と雄ねじ61が形成された下側の間で作動油が流れることが可能になっている。なお、雄ねじ61と雄ねじ64の外径は、図示のように同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0023】
雌部材5は、雄ねじ61が挿入される側とは反対側(
図2の下側)の雌ねじ51の終端部51Eに隣接する逃げ部52を備える。逃げ部52には雄ねじ61と係合する雌ねじが形成されない。逃げ部52の内部には作動油が流れる作動油空間53が形成される。作動油空間53は、雄ねじ61が挿入される側とは反対側(
図2の下側)において、マニフォールド内の他の部分との間で作動油が流れることが可能な流路54と連通される。雄部材が図示のユニオン6で構成される場合、雄ねじ64に取り付けられる外部の配管や油圧機器とマニフォールドの内部の間で流路65および流路54を介して流れる作動油が作動油空間53において流れる。雄部材がマニフォールド表面の開口(雌部材5)を封止するキャップで構成される場合、流路54を介して流れるマニフォールドの内部の作動油が作動油空間53において流通または滞留する。
【0024】
続いて、
図2(A)の従来の典型的な流体制御装置4Aと、
図2(B)の本実施形態の流体制御装置4Bの相違点について説明する。これらの相違点は後述するようにねじ部への応力の集中を緩和することを目的として本実施形態に適用されたものである。
【0025】
流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第1の相違点は、逃げ部52の内径(
図2の左右方向の長さ)である。流体制御装置4Aでは逃げ部52の内径は雄ねじ61の外径と略等しいが、流体制御装置4Bでは逃げ部52の内径は雄ねじ61の外径よりも大きい。具体的には、流体制御装置4Bにおける逃げ部52の内径は雄ねじ61の外径の1.03倍以上である。なお、逃げ部52の内径は作動油空間53の内径でもある。
【0026】
図3は流体制御装置4Bの各部の寸法を模式的に示す。雄ねじ61の外径Bは、雄ねじ61の各ねじ山の頂を結んで形成される円筒の直径であり、雌ねじ51の内径の各ねじ谷の底を結んで形成される円筒の直径と略一致する。雄ねじ61の外径Bは典型的には10mmと51mmの間である。逃げ部52の内径はCで表され、前述の通りC≧1.03×Bという関係式を満たす。具体的には、応力集中緩和の観点から本発明者が見出した、C=1.03×B+2.05(mm)という関係式によって、雄ねじ61の外径Bから逃げ部52の内径Cが決定される。
【0027】
Eは逃げ部52の高さ(
図3の上下方向の長さ)であり、応力集中緩和の観点から3mm以上とするのが好ましい。Rtは逃げ部52の角に設けられる円弧部の半径であり、雄ねじ61の外径Bの0.04倍以上とするのが好ましい(Rt≧0.04×B)。具体的には、応力集中緩和の観点から本発明者が見出した、Rt=0.04×B+0.542(mm)という関係式によって、雄ねじ61の外径Bから半径Rtが決定される。なお、半径Rtの円弧部は図示される逃げ部52の四つの角の全てに設けるのが好ましい。Aは雌部材5の外径であり、雄ねじ61の外径Bの1.25倍以上とするのが好ましい(A≧1.25×B)。具体的には、応力集中緩和の観点から本発明者が見出した、A=1.25×B+6.70(mm)という関係式によって、雄ねじ61の外径Bから雌部材5の外径Aが決定される。
【0028】
なお、図示は省略するが、雌ねじ51の各ねじ谷の底に設けられる円弧部の半径Rも応力の集中を緩和する効果を有し、雄ねじ61の外径Bの0.00449倍以上とするのが好ましい(R≧0.00449×B)。具体的には、応力集中緩和の観点から本発明者が見出した、R=0.00449×B+0.0863(mm)という関係式によって、雄ねじ61の外径Bから半径Rが決定される。
【0029】
図2に戻り、流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第2の相違点は、逃げ部52における切上部の有無である。流体制御装置4Aでは雌ねじ51の終端部51Eから逃げ部52がほとんど切り上がらないため切上部が形成されないが、流体制御装置4Bでは雌ねじ51の終端部51Eから逃げ部52が直線状に切り上がる切上部521が形成される。後述するように応力集中緩和の観点から、切上部521が雌ねじ51の終端部51Eから切り上がる角度θは雄ねじ61の挿入方向(
図2の上から下に向かう方向)に対して90度以下とするのが好ましい。図示のように、切上部521が雌ねじ51の終端部51Eから切り上がる角度θを雄ねじ61の挿入方向に対して90度とすれば応力集中緩和の効果を最大化できる。
【0030】
流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第3の相違点は、雌ねじ51の終端部51Eに対する雄ねじ61の挿入端61Eの位置である。流体制御装置4Aでは雄ねじ61の挿入端61Eが雌ねじ51の終端部51Eよりも手前(
図2の上方)にあるが、流体制御装置4Bでは雄ねじ61の挿入端61Eが雌ねじ51の終端部51Eよりも奥(
図2の下方)にある。この結果、流体制御装置4Bでは、雌ねじ51に締結された雄ねじ61の先端部としての挿入端61Eは作動油空間53の内部に挿入される。
【0031】
図4は流体制御装置4A、4Bの雌部材5および雄部材6のねじが嵌合する領域の近傍に加わる応力を模式的に示す。
図4(A)は流体制御装置4Aを示し、
図4(B)は流体制御装置4Bを示す。雌部材5および雄部材6に示される応力線Sは、密度が高いほど強い応力が加わることを意味する。
図4(A)では、雌ねじ51の終端部51Eよりも引っ込んだ位置にある雄ねじ61の挿入端61Eに油圧Pが加わり、そこから数えて一つ目の完全な雌ねじ51のねじ山511に応力が集中する。このように一つ目のねじ山511に過度の応力が集中した状態で航空機に典型的な0-5000 psi程度の圧力変動が繰り返されると、疲労によって強度が低下したねじ山511からクラックが発生して作動油が漏洩するリスクがあった。
【0032】
これに対して
図4(B)では、
図2(B)および
図3に関して上述した流体制御装置4Bの各種の特徴によって、雌ねじ51の一つ目のねじ山511への応力の集中が緩和されている。流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第1の相違点として挙げた逃げ部52の内径に関して、
図4(B)では逃げ部52の内径を雄ねじ61の外径または雌ねじ51の内径よりも大きくすることで、逃げ部52の側方(
図4の左方)において下から延びてくる応力線Sが雌ねじ51の一つ目のねじ山511に到達しにくくなる。すなわち、逃げ部52の内径を大きくすることで、逃げ部52における油圧の受圧面積が大きくなるため、単位面積当たりの油圧Pが低減されて一つ目のねじ山511に作用する応力が小さくなる結果、応力線Sが一つ目のねじ山511に到達しにくくなると考えられる。このため、
図4(A)のような一つ目のねじ山511における応力の集中を緩和できる。
【0033】
流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第2の相違点として挙げた逃げ部52における切上部521に関して、
図4(B)では切上部521が雌ねじ51の終端部51Eから直角に急峻に切り上がることで、逃げ部52の側方(
図4の左方)において下から延びてくる応力線Sが雌ねじ51の一つ目のねじ山511に到達しにくくなる。すなわち、切上部521が急峻に切り上がることで、逃げ部52における油圧の受圧面積が大きくなるため、逃げ部52の変形によって応力線Sが分散することで一つ目のねじ山511に到達しにくくなる。このため、
図4(A)のような一つ目のねじ山511における応力の集中を緩和できる。
【0034】
流体制御装置4Aと流体制御装置4Bの第3の相違点として挙げた雌ねじ51の終端部51Eに対する雄ねじ61の挿入端61Eの位置に関して、雄ねじ61の挿入端61Eが雌ねじ51の終端部51Eよりも引っ込んでいる
図4(A)では、雄ねじ61の挿入端61Eに加わる油圧Pが直接的に雌ねじ51への応力となるため、特に一つ目のねじ山511への応力集中が発生していた。これに対して雄ねじ61の挿入端61Eが雌ねじ51の終端部51Eよりも突出している
図4(B)では、雄ねじ61の挿入端61に加えて周囲の逃げ部52(切上部521)でも油圧を受けられるため、逃げ部52の変形によって応力線Sが分散することで一つ目のねじ山511に到達しにくくなる。このため、流体制御装置4Bでは油圧Pによるねじ山511への応力を低減できる。なお、
図4(B)において、雌ねじ51の終端部51Eに対する雄ねじ61の挿入端61Eの突出させ過ぎると、突出した雄ねじ61の側面に加わる圧力が雌ねじ51に加わる応力になる可能性がある。この場合、雌ねじ51の終端部51Eと雄ねじ61の挿入端61Eの位置を一致させて雌ねじ51と雄ねじ61を全歯噛合にすれば、雄ねじ61の側面に加わる圧力を最小化できる。
【0035】
以上の相違点に加え流体制御装置4Bでは、逃げ部52の角を半径Rtの円弧部とすることで、そこへの応力の集中も緩和できる。また、雌ねじ51の各ねじ谷の底を半径Rの円弧部とすることで、そこへの応力の集中も緩和できる。
【0036】
以上、本実施形態の流体制御装置4Bの各種の特徴によって、雌ねじ51への応力の集中が緩和されることを説明した。応力集中緩和の効果を最大化する上では以上の全ての特徴を採用するのが好ましいが、少なくとも一つの特徴を採用すれば従来の流体制御装置4Aに対する有利な効果が得られる。また、
図3に関して、逃げ部52の内径C、逃げ部52の高さE、逃げ部52の角の円弧部の半径Rt、雌部材5の外径A、雌ねじ51の各ねじ谷の底の円弧部の半径Rのそれぞれについて、応力集中緩和の効果を得るために好適な関係式を示した。これらの関係式は流体制御装置4Bの設計時の基準となるものであるが、最終的な製品寸法を決定する際には製品毎の仕様や製造における公差等の各種の誤差を考慮した調整を行う必要があるため、絶対的な基準となるものではない。
【0037】
続いて、本実施形態の流体制御装置4Bの他の構成例を
図5(A)~(D)に示す。これらの図では雌部材5のみを示し、ユニオン6等の雄部材の図示を省略する。
図5(A)では、
図2(B)において雄ねじ61の挿入方向に対して90度の角をなして切り上がっていた切上部521が、90度未満の鋭角をなして切り上がっている。この構成によれば、急峻な切上げ角の
図2(B)に比べて切上部521を容易に加工できる。
図5(B)では、逃げ部52の側面が円弧状に形成される。この場合、逃げ部52の円弧状の側面によって雌ねじ51の終端部51Eから円弧状に切り上がる切上部521が形成される。この構成によれば、逃げ部52の側面に直線部がないため、半径Rtの二つの円弧部の間に直線部が存在した
図3の流体制御装置4Bに比べて、長手方向(
図5の上下方向)の寸法を小さくできる。
【0038】
図5(C)および
図5(D)では、雌部材5が作動油空間53との間で作動油が流れることが可能な複数の流体ポートとしての作動油ポート54、55を備える。第2の作動油ポート55における作動油の流れる方向は、
図5(C)のように第1の作動油ポート54における作動油の流れる方向と交差してもよいし、
図5(D)のように第1の作動油ポート54における作動油の流れる方向と平行でもよい。
図5(C)では第2の作動油ポート55を設けることで逃げ部52の高さ(
図5の上下方向の長さ)を大きくでき、
図5(D)では第2の作動油ポート55を設けることで逃げ部52の内径(
図5の左右方向の長さ)を大きくでき、雌ねじ51への応力の集中を緩和できる。なお、
図2~5において、流体制御装置4Bにおける逃げ部52は、雌ねじ51の途中に設けてもよい。
【0039】
本実施形態の流体制御装置4Bの更に他の構成例を
図6(A)~(G)に示す。これらは
図5(D)の変形例であり、逃げ部52の断面形状や作動油ポート55の配置が異なる。
図6(A)では逃げ部52の断面形状が略三角形であり、
図6(B)では逃げ部52の断面形状が略台形であり、
図6(C)では逃げ部52の断面形状が略六角形であり、
図6(D)では逃げ部52の断面形状が180度より大きい中心角の略扇形であり、
図6(E)では逃げ部52の断面形状が直線によって切断された略円形であり、
図6(F)では逃げ部52の断面形状が略星形(略十二角形)である。また、
図6(G)では逃げ部52の断面形状が直線によって切断された略円環形であり、その両端部に二つの作動油ポート55が設けられる。このような各種の形状の逃げ部52を備える雌部材5は、例えば3Dプリンタによる三次元造形や鋳造によって製造できる。なお、逃げ部52の断面形状や作動油ポート55の配置は非対称でもよく、逃げ部52の断面形状に含まれる角を円弧部とすることで応力の集中を緩和してもよい。
【0040】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0041】
実施形態では航空機に流体制御装置4Bを適用した例を説明したが、その他の製品として例えば建設機械に流体制御装置4Bを適用してもよい。
図7に建設機械200の概略的な構成を示す。建設機械200では、地面を走行可能な下部走行体201の上に上部旋回体202が旋回可能に取り付けられる。上部旋回体202には、前方左側にキャブ203が設けられると共に、前方中央部にブーム204が起伏可能に取り付けられる。ブーム204の先端には、アーム205が上下に屈曲可能に取り付けられる。アーム205の先端には、バケット206が上下に屈曲可能に取り付けられる。建設機械200の油圧システム1は、下部走行体201、上部旋回体202、ブーム204、アーム205、バケット206等の各可動部を作動油の油圧によって駆動する。建設機械200の油圧システム1には、特許文献2に示される油圧制御弁ブロック等の多数の油圧ポートを備える油圧装置が設けられるため、これらの油圧ポートの締結に本実施形態の流体制御装置4Bを利用できる。
【0042】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部または全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部または全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0043】
1 油圧システム、4B 流体制御装置(締結装置)、5 雌部材、6 ユニオン(雄部材)、13 油圧アクチュエータ、17 制御弁(流体制御部)、51 雌ねじ、51E 終端部、52 逃げ部、53 作動油空間、54、55 作動油ポート(流体ポート)、61 雄ねじ、61E 挿入端(先端部)、100 動翼、200 建設機械、201 下部走行体(可動部)、202 上部旋回体(可動部)、204 ブーム(可動部)、205 アーム(可動部)、206 バケット(可動部)、511 ねじ山、521 切上部。