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特開2022-184420交流電動機の制御装置および制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184420
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】交流電動機の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20221206BHJP
【FI】
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092262
(22)【出願日】2021-06-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.発明の公開日(ウェブサイトからダウンロードが可能となった日) 令和 3年 5月30日 2.ウェブサイトのアドレス https://www.bookpark.ne.jp/cm/ieej/detail/IEEJ-20210602X11201-PRT/ 3.発明の公開者名 長谷川 勝、河村 尚輝、片瀬 貴也 4.発明の内容 トルク応答を指定する永久磁石同期電動機のトルク制御法
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147625
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100150430
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 元
(74)【代理人】
【識別番号】100155099
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 勝
(72)【発明者】
【氏名】河村 尚輝
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505AA19
5H505BB09
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG04
5H505GG08
5H505HA09
5H505HA10
5H505JJ23
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】制御の応答速度の低下を抑制し得る交流電動機の制御装置および制御方法を提供する。
【解決手段】実施形態のモータシステム10aでは、コントローラ20aは、電圧情報生成部21、座標変換部22、電圧指令値出力部23、相数変換部24を有する。そして、電圧情報生成部21は、上位システム等の外部から入力されたトルク微分指令値τdot*に基づいてv* d,q=g-1(τdot*)から交流モータ50のdq軸電圧指令値v* d,qを生成する。また、座標変換部22は、交流モータ50の出力軸の電気角θreに基づいてdq軸電圧指令値v* d,qからαβ軸電圧指令値v* α,βに変換する。さらに、電圧指令値出力部23は、αβ軸電圧指令値v* α,βで表される電圧ベクトル(v* α,v* β)がインバータ30の出力限界範囲23aの範囲内にある場合にはαβ軸電圧指令値v* α,βをαβ軸電圧指令値v** α,βとして相数変換部24を介してインバータ30に出力する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電動機に三相交流電力を供給可能なインバータに対して前記交流電動機に出力すべき交流電圧の電圧指令値を出力する、交流電動機の制御装置であって、
前記電圧指令値は、前記交流電動機に要求される出力トルクの時間微分値であり指令値として入力されるトルク微分値に基づいて生成される、ことを特徴とする交流電動機の制御装置。
【請求項2】
前記トルク微分値に基づいて前記交流電動機の回転座標系の直交二軸に対応する回転座標系電圧情報を生成する電圧情報生成部と、
前記交流電動機の出力軸の回転角に基づいて前記回転座標系電圧情報を前記回転座標系から静止座標系の直交二軸に対応する静止座標系電圧情報に変換する座標変換部と、
前記静止座標系電圧情報で表される電圧ベクトルが前記インバータの出力限界電圧の範囲内にある場合には前記静止座標系電圧情報を前記電圧指令値として前記インバータに対して出力し、前記電圧ベクトルが前記出力限界電圧の範囲外にある場合には前記出力限界電圧の範囲内に収まる大きさに変更した変更後電圧ベクトルを表す静止座標系電圧情報を前記電圧指令値として前記インバータに対して出力する電圧指令値出力部と、
を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の交流電動機の制御装置。
【請求項3】
前記回転座標系の二軸が前記交流電動機を構成する回転子の磁極方向に平行なd軸とこのd軸に直交するq軸である場合であって、
前記電圧情報生成部は、前記回転座標系において、
「前記トルク微分値、d軸電流、q軸電流および前記出力軸の角速度」を含む所定関数で表される直線に対して、最短距離で交わるその交点までの大きさを有する電圧ベクトルの座標情報を前記回転座標系電圧情報として生成する、ことを特徴とする請求項2に記載の交流電動機の制御装置。
【請求項4】
前記回転座標系の二軸が前記交流電動機を構成する回転子の磁極方向に平行なd軸とこのd軸に直交するq軸である場合であって、
前記電圧情報生成部は、前記トルク微分値、d軸電流、q軸電流、前記出力軸の角速度、およびMTPA(Maximum Torque Per Ampere)制御における前記d軸電流の時間微分指令値に基づいて、前記回転座標系電圧情報を生成する、ことを特徴とする請求項2に記載の交流電動機の制御装置。
【請求項5】
前記電圧ベクトルが前記出力限界電圧の範囲外にある場合、前記電圧指令値出力部は、
前記変更後電圧ベクトルが前記出力限界電圧の範囲内に収まるまで前記トルク微分値を減少させる、ことを特徴とする請求項2に記載の交流電動機の制御装置。
【請求項6】
前記回転座標系の二軸が前記交流電動機を構成する回転子の磁極方向に平行なd軸とこのd軸に直交するq軸である場合であって、
前記電圧ベクトルが前記出力限界電圧の範囲外にあるとき、前記電圧指令値出力部は、前記回転座標系において、
「前記トルク微分値、d軸電流、q軸電流および前記出力軸の角速度」を含む所定関数で表される直線に対して、前記出力限界電圧の範囲を表す六角形を構成する6つの辺のうち最も平行に近い辺と、前記直線とが交わるときには、その交点まで延びる電圧ベクトルを前記変更後電圧ベクトルとし、当該ベクトルを表す静止座標系電圧情報を前記電圧指令値として前記インバータに対して出力する、ことを特徴とする請求項2に記載の交流電動機の制御装置。
【請求項7】
前記回転座標系の二軸が前記交流電動機を構成する回転子の磁極方向に平行なd軸とこのd軸に直交するq軸である場合であって、
前記電圧ベクトルが前記出力限界電圧の範囲外にあるとき、前記電圧指令値出力部は、前記回転座標系において、
「前記トルク微分値、d軸電流、q軸電流および前記出力軸の角速度」を含む所定関数で表される直線に対して、前記出力限界電圧の範囲を表す六角形を構成する6つの辺のうち最も平行に近い辺と、前記直線とが交わらないときには、前記最も平行に近い辺の両端点を表す2つの電圧ベクトルのうち前記トルク微分値が大きい方の電圧ベクトルを前記変更後電圧ベクトルとし、当該ベクトルを表す静止座標系電圧情報を前記電圧指令値として前記インバータに対して出力する、ことを特徴とする請求項2に記載の交流電動機の制御装置。
【請求項8】
交流電動機に三相交流電力を供給可能なインバータに対して前記交流電動機に出力すべき交流電圧の電圧指令値を出力する、交流電動機の制御方法であって、
前記電圧指令値は、前記交流電動機に要求される出力トルクの時間微分値であり指令値として入力されるトルク微分値に基づいて生成される、ことを特徴とする交流電動機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電動機の制御装置および制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流電動機の制御装置や制御方法として、例えば、下記特許文献1,2に開示されている「モータ制御装置、モータ制御方法」や「交流電動機の制御装置」がある。この種の装置等では、例えば、交流電動機に対して電流ベクトル制御が行われる。電流ベクトル制御では、交流電動機の各相に出力される電流を、交流電動機にトルクを発生させるq軸の電流成分と、交流電動機の回転子に磁束を発生させるd軸の電流成分とにベクトル分解し、それぞれを独立に制御を行う。そのため、交流電動機の各相または任意相に流れる電流の情報は、d軸電流とq軸電流に相数変換された後、フィードバックされて制御に使用される(特許文献1;図1,7、特許文献2;図5,6)。なお、本明細書においては交流電動機のことを単に「モータ」と表現する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-180441号公報
【特許文献2】特開2014-113026号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】中山陽介、道木慎二「インバータ過変調領域でのPMSMベクトル制御を可能とする帯域除去フィルタの設計」、電気学会論文誌D、Vol.138 No.11 pp.884-893、2018年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような制御が行われる交流電動機は、典型的には、電気自動車を代表例とする移動体の動力源に用いられる。そのため、交流電動機に対する交流電力の供給では、バッテリや電圧コンバータ等の直流電圧源から出力された直流電力を交流電力に変換するインバータが使用される。インバータは、制御装置により制御されるが、直流電圧源の出力電圧を超える電圧を出力することはできない。インバータが出力可能な電圧の限界値(出力限界電圧)に起因して、制御装置で行われる電流ベクトル制御では、下記のような問題が生じ得る。なお、ここでは交流電動機は三相交流モータであることを前提とする。
【0006】
(1) 特許文献1の図2に示されているように、三相交流モータの各相(U,V,W相)の電圧軸を表した静止座標系と、モータに供給される電圧を直交二軸(d,q軸)のベクトル空間で表した回転座標系との関係を示す電圧ベクトル図においては、モータに供給可能な電圧V_maxの範囲が六角形で表現される。つまり、この六角形はインバータの出力限界電圧を表す。そのため、制御装置は、インバータの出力電圧が六角形の各辺に相当する境界まで到達するようにインバータを制御するのが望ましいものの、それには各辺に適合した複雑なリミッタ制御を可能にするアルゴリズムが必要になる。したがって、このような演算処理に要する時間が制御指令に対する応答速度の低下を招き得る。
【0007】
(2) このため、特許文献1の制御装置では、六角形の内接円C_2を超えた六角形内の過変調領域においては、内接円C_2を超えたd軸電圧の不足分Vdnを演算してq軸電流指令値を補正する処理が行われる。このような過変調領域で行われる、d軸優先制御や襷(たすき)掛け電流制御は演算処理が複雑になりやすい。また電流ベクトル制御では、特許文献1の図1図7に示されているように、d軸電流およびq軸電流はいずれもPI制御(d軸電流制御器、q軸電流制御器)により生成され、その処理には積分器等による積分演算が伴うことが多い。したがって、これらの演算処理も結局は制御の応答速度の低下に繋がり得る。
【0008】
(3) また、上記の非特許文献1に示すように、過変調領域におけるインバータ制御においては制御装置でフィードバックされる電流に様々な高調波が含まれることが知られている(非特許文献1のFig.1やFig.6等)。これらの高調波が外乱としてフィードバック電流に重畳した場合には、モータ制御が不安定になったり制御性能が劣化したりし得ることから、当該高調波をフィルタで除去する構成が採用されることが多い。しかし、このようなフィルタ処理には、一般的に積分器等による積分演算が含まれるため、積分演算に伴う遅延時間が制御の応答速度を低下させ得る。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、制御の応答速度の低下を抑制し得る交流電動機の制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
交流電動機が埋込構造永久磁石同期電動機(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である場合には、dq回転座標系におけるIPMSMの電圧方程式(d軸電圧vd,q軸電圧vq)は次の式(1)により表されることが知られている。
【0011】
【数1】
R,Ld,Lq,keは、交流電動機に固有のパラメータであり、Rは交流電動機を構成する各相のコイルの巻線抵抗、Ldはd軸等価コイルのインダクタンス、Lqはq軸等価コイルのインダクタンス、keは逆起電力定数である。また、idはd軸電流、iqはq軸電流、ωreは交流電動機の出力軸の電気角速度である。
【0012】
上記の式(1)に基づいてd軸電流idおよびq軸電流iqをそれぞれ時間で微分すると、次の式(2),(3)が得られ、また交流電動機の出力軸のトルク(出力トルク)τは、式(4)により表される。なお、Pは交流電動機の極対数である。
【数2】
【数3】
【数4】
【0013】
このようにIPMSMの数学モデルは、上記3つの式(2)~(4)により表現することが可能であり、その出力トルクτは上記式(4)により表される。そのため、交流電動機の電流ベクトル制御においては上記式(1),(2)に基づく制御が行われている。即ち、電流ベクトル制御では、交流電動機に流れる交流電流(モータ電流)の情報をセンサにより検出しそれをフィードバックさせてモータ電流を指令電流値に一致させ得るようにPI(比例積分)制御を行うことによって、目標の出力トルクを得る。したがって、IPMSMの交流電動機は、図1(A)に示すような電動機モデルとして表すことができる。
【0014】
図1(A)において、Rは交流モータ50(交流電動機)を構成する各相のコイルの巻線抵抗であり、Lはそれらのコイルのインダクタンスである。sはラプラス演算子である。また、vは同コイルに印加される交流電圧であり、iは同コイルに流れるモータ電流である。τは交流モータ50の出力トルクである。f(i)はコイルの各相に流れる交流電流iを出力トルクτに変換する所定の伝達関数である。なお、dq回転座標系の場合には、vはvd,qであり、iはid,qである。また、本明細書や図面では、vd,qやiu,v,wのように下付きの添え字において、カンマ「,」で区切られた二文字や三文字を記載する場合があるが、これは、本来、添え字が付けられる文字にこれらの添え字を一文字ずつ付すべきところ、そのような表記を省略したことを表している(例えば、vd,qは、vdとvqを意味する)。
【0015】
より具体的には、図24に示すように、モータシステム100において交流モータ130に対して電流ベクトル制御を行う場合には、電流センサ140により検出されたモータ電流iu,v,wに対して座標および相数を変換した後、制御装置110にフィードバックする(id,iq)。制御装置110では、外部から入力されたトルク指令値τ*に基づいてd,q軸電流指令値i* d,i* qを電流指令生成部111により生成するとともにフィードバック入力される電流情報id,iqがd,q軸電流指令値i* d,i* qに近づくようにPI制御されたd,q軸電圧指令値v* d,v* qをd軸電流PI制御部112とq軸電流PI制御部113とにより生成する。生成された電圧指令値v* d,v* qは、座標・相数変換部115により座標および相数が変換されて電圧指令値v* u,v,wとしてインバータ120に出力される。そして、電圧指令値v* u,v,wに従ってスイッチング制御されたインバータ120から交流電圧vu,v,wが出力されて交流モータ130に供給される。
【0016】
しかし、このような交流電動機の典型的な制御方式とも言える電流ベクトル制御では、PI制御を行う必要から制御処理の過程において遅延要因となる積分演算を欠くことができない。図24の構成例では、d軸電流PI制御部112およびq軸電流PI制御部113において積分演算が必ず行われることから、積分演算に伴う遅延時間がトルク指令に対する応答速度を低下させてしまう。つまり、交流電動機の電流ベクトル制御は、積分器等による積分演算が含まれる限り制御の応答速度の低下の抑制に限界がある。
【0017】
このため、図24に示す比較例のモータシステム100のように電流ベクトル制御を行った場合の計算機シミュレーションの結果によると、図25(A)に示すように、入力されたトルク指令値τ*に対して交流モータ130の出力軸から出力されるトルク(出力トルク)τには、応答速度の低下に伴うオーバーシュートが生じ得ることがわかる(同図に示す破線楕円内)。また、図25(B)に示すように、d軸やq軸電流id,iqにおいても応答遅延によるオーバーシュートが生じ得ることがわかる。なお、同図において、τの上のハット(∧)記号はそのτが計算により得られた推定値であることを表す。
【0018】
そこで、本願発明者らは、出力トルクτに対するトルク微分値τdotに着目して、交流電動機を図1(B)に示すような電動機モデルとして捉えた。同図において、v(dq回転座標系のvd,q)は交流モータ50(交流電動機)を構成する各相のコイルに印加される交流電圧であり、g(v)はコイルの各相に印加される交流電圧vをトルク微分値τdotに変換する伝達関数である。なお、同図において、τの上のドット「・」記号は時間微分の表記であり、明細書におけるτdotの「dot」と同義の表記である(以下同じ)。
【0019】
図1(B)に示す電動機モデルのg(v)は次のように求められる。即ち、上記の式(4)を時間微分すると次式(5)が得られるため、それに上記の式(2),(3)を代入すると式(6)が得られ、さらにその式(6)をd軸電圧vdとq軸電圧vqについて整理すると、g(v)として式(7)が得られる。なお、この式(7)により表されるg(v)は、特許請求の範囲に記載の「所定関数」に相当し得るものである。
【数5】
【数6】
【数7】
ただし、A(Id,Iq),B(Id,Iq),C(Id,Iqre)は、
【数8】
【0020】
上記の式(6)や式(7)は、電圧に関して時変係数を有する線形関数になることから、電圧を操作するだけでトルク微分値を管理することが可能になる。つまり、電流制御を行うことなく、積分器等の積分要素を備えることなく、交流モータ50(交流電動機)の出力トルクτを制御することができる。また、トルク微分値のフィードフォワード制御も可能になる。以下、このようなトルク応答管理型の電圧ベクトル制御のことを「本電圧ベクトル制御」という。
【0021】
このような技術的根拠に基づいて、上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載された請求項1の技術的手段を採用する。この手段によると、交流電動機の制御装置の発明は、交流電動機に三相交流電力を供給可能なインバータに対して前記交流電動機に出力すべき交流電圧の電圧指令値を出力するものであって、電圧指令値は、交流電動機に要求される出力トルクの時間微分値であり指令値として入力されるトルク微分値に基づいて生成される。
【0022】
また、上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載された請求項8の技術的手段を採用する。この手段によると、交流電動機の制御方法の発明は、交流電動機に三相交流電力を供給可能なインバータに対して前記交流電動機に出力すべき交流電圧の電圧指令値を出力するものであって、電圧指令値は、交流電動機に要求される出力トルクの時間微分値であり指令値として入力されるトルク微分値、つまりトルク微分指令値に基づいて生成される。
【0023】
これにより、交流電動機の制御装置または交流電動機の制御方法の発明では、上述のように、電流制御を行うことなく、トルク微分指令値に基づいて、交流電動機の出力トルクを制御する(出力トルクの定値制御を行う)ことが可能になることから、例えば、一般的な電流ベクトル制御において行われるようなPI制御処理(図24に示す符号112,113)における積分演算を必要としない。
【0024】
また、特許請求の範囲に記載された請求項2の技術的手段を採用する。この手段によると、交流電動機の制御装置の発明は、電圧情報生成部と座標変換部と電圧指令値出力部を有し、トルク微分値に基づいて交流電動機の回転座標系の直交二軸に対応する回転座標系電圧情報を生成し、交流電動機の出力軸の回転角に基づいて回転座標系電圧情報を回転座標系から静止座標系の直交二軸に対応する静止座標系電圧情報に変換する。そして、当該静止座標系電圧情報で表される電圧ベクトルがインバータの出力限界電圧の範囲内にある場合には静止座標系電圧情報を電圧指令値としてインバータに対して出力し、電圧ベクトルが出力限界電圧の範囲外にある場合には出力限界電圧の範囲内に収まる大きさに変更した変更後電圧ベクトルを表す静止座標系電圧情報を電圧指令値としてインバータに対して出力する。なお、電圧指令値の相数を交流電動機の相数に適合させる相数変換部を介して出力する場合もある。これにより、トルク微分指令値に基づく出力トルクの定値制御として、静止座標系電圧情報で表される電圧ベクトルがインバータの出力限界電圧の範囲内にある場合には静止座標系電圧情報を電圧指令値としてインバータに対して出力し、電圧ベクトルが出力限界電圧の範囲外にある場合には出力限界電圧の範囲内に収まる大きさに変更した変更後電圧ベクトルを表す静止座標系電圧情報を電圧指令値としてインバータに対して出力する。
【0025】
また、特許請求の範囲に記載された請求項3の技術的手段を採用する。この手段によると、交流電動機の制御装置の発明は、回転座標系の二軸が交流電動機を構成する回転子の磁極方向に平行なd軸とこのd軸に直交するq軸である場合、つまりdq回転座標系においては、電圧情報生成部は、「トルク微分値、d軸電流、q軸電流および出力軸の角速度」を含む所定関数で表される直線に対して、最短距離で交わるその交点までの大きさを有する電圧ベクトルの座標情報を回転座標系電圧情報として生成する。これにより、電圧ベクトルとして電圧振幅が最小値のものが得られるため、トルク微分指令値に対応した最小電圧(最小電圧振幅)の電圧指令値をインバータに出力することが可能になる。
【0026】
また、特許請求の範囲に記載された請求項4の技術的手段を採用する。この手段によると、交流電動機の制御装置の発明は、回転座標系の二軸が交流電動機を構成する回転子の磁極方向に平行なd軸とこのd軸に直交するq軸である場合、つまりdq回転座標系においては、電圧情報生成部は、トルク微分値、d軸電流、q軸電流、出力軸の角速度、およびMTPA(Maximum Torque Per Ampere)制御におけるd軸電流の時間微分指令値に基づいて、回転座標系電圧情報を生成する。これにより、インバータの出力電流に対して交流電動機の出力トルクが最大になる電圧ベクトルが得られるため、トルク微分指令値に対応した出力トルクの効率が最も良い電圧指令値をインバータに出力することが可能になる。
【0027】
また、特許請求の範囲に記載された請求項5の技術的手段を採用する。この手段によると、交流電動機の制御装置の発明は、電圧ベクトルが出力限界電圧の範囲外にある場合、電圧指令値出力部は、変更後電圧ベクトルが出力限界電圧の範囲内に収まるまでトルク微分値を減少させる。これにより、電圧ベクトルが出力限界電圧の範囲外にある場合、つまり実現不可能な電圧指令値が要求された場合、出力限界電圧の範囲内に収まるまでトルク微分値が減少するので、電圧指令値出力部は、積分演算を行うことなく、実現可能な電圧指令値をインバータに対して出力することが可能になる。
【0028】
また、特許請求の範囲に記載された請求項6の技術的手段を採用する。この手段によると、交流電動機の制御装置の発明は、回転座標系の二軸が交流電動機を構成する回転子の磁極方向に平行なd軸とこのd軸に直交するq軸である場合、つまりdq回転座標系において、電圧ベクトルが出力限界電圧の範囲外にあるとき、つまり実現不可能な電圧指令値が要求されたとき、電圧指令値出力部は次の制御を行う。回転座標系において、「トルク微分値、d軸電流、q軸電流および出力軸の角速度」を含む所定関数で表される直線に対して、出力限界電圧の範囲を表す六角形を構成する6つの辺のうち最も平行に近い辺と、この所定関数で表される直線とが交わるときには、その交点まで延びる電圧ベクトルを変更後電圧ベクトルとし、当該ベクトルを表す静止座標系電圧情報を電圧指令値としてインバータに対して出力する。これにより、変更後電圧ベクトルは、出力限界電圧の範囲を表す六角形の6つの辺のうちの一辺に到達するので、電圧指令値出力部は、例えば、複雑な演算が必要なリミッタ制御等を用いることなく、また積分演算を行うことなく、実現可能な電圧指令値として最大値をインバータに対して出力することが可能になる。
【0029】
また、特許請求の範囲に記載された請求項7の技術的手段を採用する。この手段によると、交流電動機の制御装置の発明は、回転座標系の二軸が交流電動機を構成する回転子の磁極方向に平行なd軸とこのd軸に直交するq軸である場合、つまりdq回転座標系において、電圧ベクトルが出力限界電圧の範囲外にあるとき、つまり実現不可能な電圧指令値が要求されたとき、電圧指令値出力部は次の制御を行う。回転座標系において、「トルク微分値、d軸電流、q軸電流および出力軸の角速度」を含む所定関数で表される直線に対して、出力限界電圧の範囲を表す六角形を構成する6つの辺のうち最も平行に近い辺と、この所定関数で表される直線とが交わらないときには、最も平行に近い辺の両端点を表す2つの電圧ベクトルのうちトルク微分値が大きい方の電圧ベクトルを変更後電圧ベクトルとし、当該ベクトルを表す静止座標系電圧情報を電圧指令値としてインバータに対して出力する。これにより、変更後電圧ベクトルは、出力限界電圧の範囲を表す六角形の6つの頂点のうちの一頂点に到達するので、電圧指令値出力部は、例えば、複雑な演算が必要なリミッタ制御等を用いることなく、また積分演算を行うことなく、実現可能な電圧指令値として最大値をインバータに対して出力することが可能になる。
【発明の効果】
【0030】
請求項1の発明または請求項8の発明では、電流制御を行うことなく、トルク微分指令値に基づく出力トルクの定値制御を行うことが可能になることから、例えば、一般的な電流ベクトル制御において行われるようなPI制御処理(図24に示す符号112,113)における積分演算を必要としない。したがって、積分演算に伴う遅延時間が生じないため、制御指令に対する応答速度の低下を抑制することができる。
【0031】
請求項2の発明では、トルク微分指令値に基づく出力トルクの定値制御として、静止座標系電圧情報で表される電圧ベクトルがインバータの出力限界電圧の範囲内にある場合には静止座標系電圧情報を電圧指令値としてインバータに対して出力し、電圧ベクトルが出力限界電圧の範囲外にある場合には出力限界電圧の範囲内に収まる大きさに変更した変更後電圧ベクトルを表す静止座標系電圧情報を電圧指令値としてインバータに対して出力する。したがって、静止座標系電圧情報で表される電圧ベクトルが出力限界電圧の範囲内にある場合は勿論のこと、出力限界電圧の範囲外にある場合においても、出力限界電圧の範囲内で静止座標系電圧情報を電圧指令値としてインバータに出力することができる。
【0032】
請求項3の発明では、電圧ベクトルとして最小値のものが得られるため、トルク微分指令値に対応した最小電圧(最小電圧振幅)の電圧指令値をインバータに出力することが可能になる。したがって、例えば、インバータの出力電圧または交流電動機の入力電圧を、極力、小さくしたい等のニーズがある場合にそれを満たすことができる。
【0033】
請求項4の発明では、インバータの出力電流に対して交流電動機の出力トルクが最大になる電圧ベクトルが得られるため、トルク微分指令値に対応した出力トルクの効率が最も良い電圧指令値をインバータに出力することが可能になる。したがって、MTPA制御にスムースに移行することが可能になるため、例えば、要求トルクに対してインバータの出力電流を最小限に抑えたい等のニーズがある場合にそれを満たすことができる。
【0034】
請求項5の発明では、電圧ベクトルが出力限界電圧の範囲外にある場合、つまり実現不可能な電圧指令値が要求された場合、出力限界電圧の範囲内に収まるまでトルク微分値が減少するので、電圧指令値出力部は、積分演算を行うことなく、実現可能な電圧指令値をインバータに対して出力することが可能になる。したがって、積分演算に伴う遅延時間が生じないため、制御指令に対する応答速度の低下を抑制することができる。
【0035】
請求項6の発明では、変更後電圧ベクトルは、出力限界電圧の範囲を表す六角形の一辺に到達するので、電圧指令値出力部は、例えば、複雑な演算が必要なリミッタ制御等を用いることなく、また積分演算を行うことなく、実現可能な電圧指令値として最大値をインバータに対して出力することが可能になる。したがって、複雑な演算や積分演算に伴う遅延時間が生じないため、制御指令に対する応答速度の低下を抑制することができる。
【0036】
請求項7の発明では、変更後電圧ベクトルは、出力限界電圧の範囲を表す六角形の一頂点に到達するので、電圧指令値出力部は、例えば、複雑な演算が必要なリミッタ制御等を用いることなく、また積分演算を行うことなく、実現可能な電圧指令値として最大値をインバータに対して出力することが可能になる。したがって、複雑な演算や積分演算に伴う遅延時間が生じないため、制御指令に対する応答速度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】交流電動機を数学的に表した電動機モデルの概念図であり、図1(A)は電流ベクトル制御において用いられるモデル、図1(B)は出力トルクに対するトルク微分値に着目したモデルである。
図2図2(A)は、本発明の交流電動機の制御装置や制御方法を適用したモータシステムのハードウェアの構成例を示すブロック図である。図2(B)は、本実施形態のモータシステムに含まれるインバータの構成例を示す回路図である。
図3】本実施形態のモータシステムを構成する制御系要素の構成例1を示すブロック線図である。
図4図3に示すコントローラにより行われる本電圧ベクトル制御の概念図であり、図4(A)は電圧情報生成部において行われる電圧指令値の生成アルゴリズムの概念例を表したもの、図4(B)は電圧指令値出力部において行われる制御アルゴリズムの概念例を表したものである。
図5図3に示すコントローラによる本電圧ベクトル制御を計算機シミュレーションした結果を示す説明図であり、図5(A)はトルク指令値や出力トルク値等を表したものであり、図5(B)はインバータの出力電圧の軌跡を表したものである。
図6】本実施形態のモータシステムを構成する制御系要素の構成例2を示すブロック線図である。
図7図6に示すコントローラにより行われる電圧指令値出力処理の流れを示すフローチャートである。
図8図6に示すコントローラによる本電圧ベクトル制御を計算機シミュレーションした結果を示す説明図であり、図8(A)はトルク指令値に対する出力トルク値等を表したものであり、図8(B)はd軸,q軸電流値を表したものであり、図8(C)はモータ電流値を表したものである。
図9図6に示すコントローラによる本電圧ベクトル制御を計算機シミュレーションした結果を示す説明図であり、図9(A)はインバータの出力電圧の軌跡を表したものであり、図9(B)はインバータを構成する各相のスイッチング素子に入力されるスイッチング波形を表したものである。
図10図6に示すコントローラによる本電圧ベクトル制御を行った場合において、トルク指令値、トルク推定値、d軸,q軸電流値を実機により計測した結果を示す説明図であり、図10(A)は、過変調運転を含まない線形領域動作の場合を表したものであり、図10(B)は一時的な過変調運転を含む線形領域動作の場合を表したものである。
図11】本実施形態のモータシステムを構成する制御系要素の構成例3を示すブロック線図である。
図12図11に示すコントローラにより行われる本電圧ベクトル制御の概念図であり、電圧情報生成部において行われる電圧指令値の生成アルゴリズムの概念例を表したものである。
図13図11に示すコントローラによる本電圧ベクトル制御を計算機シミュレーションした結果を示す説明図であり、図13(A)はトルク指令値や出力トルク値等を表したものであり、図13(B)はd軸,q軸電流値を表したものであり、図13(C)はモータ電流値を表したものである。
図14】制御系要素の構成例1~3のコントローラにより行われる本電圧ベクトル制御の概念図であり、電圧指令値出力部において行われる電圧指令値修正アルゴリズムの概念例を表したものである。
図15図14に示す電圧指令値修正アルゴリズムに対応する電圧指令値修正処理(I)の流れを示すフローチャートである。
図16】制御系要素の構成例1~3のコントローラにより行われる本電圧ベクトル制御の概念図であり、電圧指令値出力部において行われる電圧指令値修正アルゴリズムの他の例の概念例を表したものである。
図17図16に示す電圧指令値修正アルゴリズムに対応する電圧指令値修正処理(II)の流れを示すフローチャートである。
図18】制御系要素の構成例1~3のコントローラにより行われる本電圧ベクトル制御における統合制御処理の流れを示すフローチャートである。
図19図18に示す統合制御処理による本電圧ベクトル制御を計算機シミュレーションした結果を示す説明図であり、図19(A)はトルク指令値、出力トルク値、d軸,q軸電流値、モータ電流値等を表したものであり、図19(B)はインバータに出力される三相電圧指令値を表したものである。
図20図19とは異なる条件において、統合制御処理による本電圧ベクトル制御を計算機シミュレーションした結果を示す説明図であり、図20(A)はトルク指令値、出力トルク値、d軸,q軸電流値、モータ電流値等を表したものであり、図20(B)はインバータに出力される三相電圧指令値を表したものである。
図21】本実施形態のモータシステムを構成する制御系要素の構成例4を示すブロック線図である。
図22図21に示すコントローラによる本電圧ベクトル制御を計算機シミュレーションした結果を示す説明図であり、図22(A)はトルク指令値や出力トルク値等を表したものであり、図22(B)はd軸,q軸電流値を表したものであり、図22(C)は、モータ電流値を表したものである。
図23図23(A)は任意座標系に関する説明図であり、図23(B)は静止座標系に関する説明図である。
図24】モータシステムにおいて電流ベクトル制御を行った場合の制御系要素の構成例を示すブロック線図である。
図25】電流ベクトル制御を行った場合における計算機シミュレーションの結果を示す説明図であり、図25(A)はトルク指令値や出力トルク値等を表したものであり、図25(B)はd軸電流値やq軸電流値を表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の交流電動機の制御装置や制御方法を適用したモータシステム10の実施形態について図を参照して説明する。まず、図1~3に基づいて本実施形態のモータシステムを構成するハードウェアについて説明する。
【0039】
図2(A)に示すように、モータシステム10は、主に、コントローラ20、インバータ30、回転角センサ45、交流モータ50等により構成されており、例えば、電気自動車や鉄道電動車等の走行用モータを制御する駆動系モータシステムや、ロボット等の駆動用モータを制御するサーボ系モータシステムに用いられる。
【0040】
コントローラ20は、交流電動機の制御装置の一例であり、典型的には、例えば、マイクロコンピュータ(CPU)と、ROM、RAM、EEPROM等の半導体メモリ装置と、入出力インタフェースとから構成される、いわゆるマイコンボード(不図示)である。コントローラ20には、インバータ30、電流センサ41,42,43、回転角センサ45や上位システム(不図示)が接続されており、これらのセンサ41~43,45から、交流モータ50に供給されているモータ電流iu,v,wの情報や交流モータ50のシャフト(出力軸)の回転角(機械角)θrmの情報が入力されたり、交流モータ50に要求する出力トルクτの情報(指令値)が上位システムから入力されたりする。
【0041】
これらの情報に基づいて、コントローラ20は、以下説明する制御系要素の構成例1~4による本電圧ベクトル制御のアルゴリズムに従って電圧指令値v* u,v,wを生成してそれをインバータ30に出力する。そのため、コントローラ20のEEPROM等には、本電圧ベクトル制御のアルゴリズムを構成する部品として、後述する「電圧情報生成部21、座標変換部22、電圧指令値出力部23、相数変換部24等」の各機能をソフトウェア的に実現するプログラムが予め格納されている。なお、本願発明者らは、交流モータ50の出力トルクτに対するトルク微分値τdotに着目して、交流電動機を図1(B)に示すような電動機モデルとして捉えている(「dot」はその直前の文字や記号が時間微分値であることを意味する。以下同じ。)。そのため、上位システムから入力される指令値は、原則的には、交流モータ50に要求する出力トルク(トルク指令値)τ*ではなく、トルク微分値(トルク微分値指令値)τdot*である。
【0042】
インバータ30は、交流モータ50の駆動に適した直流電圧を交流モータ50の相数分の交流電圧に変換して出力する電力変換装置である。本実施形態では、交流モータ50は三相交流モータであることから、外部から入力される直流電圧をコントローラ20から入力された電圧指令値v* u,v,wに従って交流電圧(出力電圧)vu,v,wに変換し交流モータ50に供給する。そのため、インバータ30には交流モータ50の駆動可能な電圧を出力する直流電圧源Battが接続されている。インバータ30は、交流モータ50の各相に対応して直流電圧を交流電圧vu,v,wに変換するスイッチング回路(図2(B))や、このスイッチング回路を電圧指令値v* u,v,wに従ってスイッチング動作させる制御回路(不図示)等を備えている。直流電圧源Battは、バッテリそのものである場合や、昇圧や降圧の必要があるときにはバッテリが接続された電圧コンバータである場合がある。
【0043】
図2(B)に示すように、インバータ30は、直列接続された2つのスイッチング素子(上下アーム)を当該インバータ30が出力する交流電圧の相数分だけ並列接続したスイッチング回路を有する。直流電圧源Battはそれぞれの上下アームの両端に接続されており、またこれら上下アームの中間点、即ちスイッチング素子間の接続部には交流モータ50の各相のコイルが接続されている。本実施形態では、交流モータ50が三相交流モータであることから、スイッチング素子は上下アーム合わせて6つのFWD付きのIGBT31~36である。直流電圧源Battのプラス電極側が上アームのIGBT31,33,35に接続され、マイナス電極側が下アームのIGBT32,34,36に接続されている。また、IGBT31,32の接続部、IGBT33,34の接続部、IGBT35,36の接続部には、交流モータ50のU相コイル、V相コイル、W相コイルの各端子がそれぞれ接続されている。スイッチング素子はパワーMOSFET等のトランジスタでもよい。
【0044】
電流センサ41~43は、交流電流を計測可能に構成された検出デバイスであり、インバータ30から交流モータ50に供給される交流電力の電流値を計測してコントローラ20に出力する。例えば、インバータ30と交流モータ50を接続する各相の電気配線に取り付けられた電流センサ41~43から、U,V,Wの各相の電流情報iu,v,wが出力されてコントローラ20に入力される。電流センサ41~43から入力された各電流情報iu,v,wは、コントローラ20において、dq軸電流情報id,qに相変換されて使用される。
【0045】
回転角センサ45は、交流モータ50のシャフトの回転角度を計測可能に構成された検出デバイスであり、例えば、シャフトの反負荷側に取り付けられてコントローラ20に角度情報(機械角)θrmを出力する。本実施形態では、回転角度を絶対値で検出可能なアブソリュートエンコーダやレゾルバが用いられる。アブソリュートエンコーダは角度情報θrmをデジタル値で出力し、レゾルバは角度情報θrmをアナログ値(正弦波)で出力する。回転角センサ45から入力された角度情報θrmは、機械角であることから、コントローラ20においては、電気角θreや角速度ωreに変換されて使用される。
【0046】
交流モータ50は、例えば、三相交流電力が供給されて駆動する埋込構造永久磁石同期電動機(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)であり、極数Pは4極に設定されている。交流モータ50の構造は、特に図示していないが、例えば、主に、U,V,Wの各相のコイルが巻回される複数のスロットを内周に有する円筒状のステータ(固定子)と、一端側(負荷側)に負荷に接続し他端側(反負荷側)に回転角センサ45等を接続し得るシャフト(出力軸)と、このシャフトが軸中心に貫通し周方向に複数組の永久磁石が埋設される円柱形状のロータ(回転子)と、シャフトの両端(負荷側および反負荷側)を除いてこれらを収容するケースと、により構成されている。
【0047】
なお、交流モータ50の電動機モデルをブロック線図で表現すると、図1(B)に示す電動機モデルを拡張した制御系要素で表される。即ち、図3に示すように、交流モータ50は、座標変換要素51、関数要素52および積分要素53の機能を有する。座標変換要素51は、UVW静止座標系の三相の電圧ベクトル(vu,vv,vw)をdq回転座標系の電圧ベクトル(vd,vq)に変換する機能である。関数要素52と積分要素53は、図1(B)を参照して説明した交流モータ50の電動機モデルと同様である。
【0048】
このようにハードウェアが構成されるモータシステム10は、例えば、図3に示すようなブロック線図で表される制御系要素の構成例1として概念できる。ここからは、モータシステム10(10a)の制御系要素の構成例1を図3~15に基づいて説明する。
【0049】
[制御系要素の構成例1]
図3に示すように、制御系要素の構成例1(以下「構成例1」という)のモータシステム10aでは、コントローラ20aは、電圧情報生成部21、座標変換部22、電圧指令値出力部23、相数変換部24の機能を有する。
【0050】
前述したように、コントローラ20aには、図略の上位システムから指令値としてトルク微分値指令値τdot*が入力される。図1(B)を参照して説明したように、交流モータ50は、出力トルクτに対するトルク微分値τdotに着目すると、g(v)の関数要素と1/sの積分要素との2つの制御系要素で表現することが可能である。前者は、前述した式(7)により表されるτdot=A(id,iq)vd+B(id,iq)vq+C(id,iqre)である。また後者は純積分器である。つまり、τdot=A…で表されるg(v)は、左辺のトルク微分値τdotと右辺の電圧ベクトル(vd,vq)とが線形かつ静的な関係にあることがわかる。また、積分要素は、制御対象である交流モータ50に含まれる一方で、制御を行うコントローラ20a(電圧情報生成部21等)には積分器等の積分要素が含まれないことが理解できる。
【0051】
したがって、電圧ベクトル(vd,vq)からトルク微分値τdotを直接指定することができ、その逆もできる。ただし、トルク微分値τdotから電圧ベクトル(vd,vq)を指定するg(v)の逆関数v=g-1(τdot)は、電圧ベクトル(vd,vq)が変数2つを入力する関数であることから、選定可能なd軸電圧vdとq軸電圧vqの組み合わせは無数に存在する。しかし、逆関数v=g-1(τdot)は線形関数であることから、複雑なアルゴリズムになり難く、非線形関数の場合に比べると簡単な情報処理で実現することが可能である。また、図24,25を参照して説明したように、積分演算(積分要素)が必ず含まれる電流ベクトル制御に対して、逆関数v=g-1(τdot)の演算処理には積分演算(積分要素)が含まれないことから、電流ベクトル制御において生じる積分演算に伴う遅延時間に起因した出力トルクτのオーバーシュート(図25の破線楕円内)も発生しない。したがって、このような出力トルクτのオーバーシュートの発生を抑制する、例えばアンチワインドアップ処理等が不要になる。
【0052】
このような理由から、電圧情報生成部21は、[発明が解決しようとする課題]の欄で述べた式(7)の逆関数v* d,q=g-1(τdot*)として機能する。つまり、上位システムからトルク微分値指令値τdot*が入力され、また電流センサ41~43から電流情報iu,v,wや回転角センサ45から角度情報θrmが入力されると、そのトルク微分値τdotを用いて算出可能なd軸電圧指令値v* dおよびq軸電圧指令値v* q(回転座標系電圧情報)が電圧情報生成部21から出力される。電流情報iu,v,wや角度情報θrmは、コントローラ20において電流情報id,qや角速度ωreに変換されて使用される。
【0053】
なお、前述したように、電圧ベクトル(vd,vq)は、変数2つを入力する関数であることから、d軸電圧vdやq軸電圧vqの選定には任意性が残る。そこで、電圧情報生成部21においては、図4(A)に示す概念図により表される生成アルゴリズム(電圧ベクトル計算処理(I))に従って電圧指令値を選定する。
【0054】
図4(A)に示すように、電圧ベクトル計算処理(I)では、例えば、電圧ベクトル(vd,vq)(電圧ベクトル71)が存在するdq回転座標系のvd-vq平面において、トルク微分値指令値τdot*により得られるトルク微分値直線91を与え、両者が最短距離で交わる交点を求め、当該交点までの大きさを有する電圧ベクトル71を電圧指令値v* d,qとして選定する。つまり、要求されたトルク微分値τdot(トルク微分指令値τdot*)に対して電圧振幅が最小になる電圧ベクトル71を電圧指令値v* d,qとして選定する。
【0055】
より具体的には、コントローラ20aにより式(9)の演算が行われて電圧指令値v* d,qが求められる。式(9)の演算により選定された電圧指令値v* d,qを用いて行われる交流モータ50の運転制御のことを、以下「電圧振幅最小制御」という。なお、A,B,Cは、前述した式(8)に示されている、A(id,iq),B(id,iq),C(id,iqre)である。
【数9】
なお、式(9)は次のように得られる。
【0056】
前述の式(7)をq軸電圧vqについて解いたうえでd軸電圧vd、q軸電圧vq、トルク微分値τdotをそれぞれ指令値に置き換えることにより、次式(10)が得られる。vd-vq平面においては、式(10)は傾き-A/Bのトルク微分値直線91で表されることから、このトルク微分値直線91に対して最短距離で電圧ベクトル71が交わるためには、電圧ベクトル71が同直線91に直角で交わる(直交する)必要がある。つまり、電圧ベクトル71は、式(11)を満たせばよいことになるので、これらの2式(10),(11)の連立方程式を解くことによって求められる前述の式(9)から、電圧振幅が最小になる電圧ベクトル71として、d軸電圧指令値v* dおよびq軸電圧指令値v* q(dq軸電圧指令値v* d,q)が得られる。
【0057】
【数10】
【数11】
【0058】
座標変換部22は、dq回転座標系の電圧ベクトル(vd,vq)をαβ静止座標系の電圧ベクトル(vα,vβ)に変換する機能を有する。ここでは、電圧情報生成部21から出力されたd軸電圧指令値v* dとq軸電圧指令値v* qを、α軸電圧指令値v* αとβ軸電圧指令値v* β(静止座標系電圧情報)に変換して出力する。回転座標から静止座標への変換は、公知の変換行列から導き出される変換式(v* α=v* dcosθre-v* qsinθre,v* β=v* dsinθre+v* qcosθre)が用いられる。そのため、座標変換部22には、電圧情報生成部21から入力されるd軸電圧指令値v* dとq軸電圧指令値v* qのほかに、回転角センサ45から入力された角度情報θrmが電気角θreに変換されて使用される。
【0059】
電圧指令値出力部23は、座標変換部22から入力されたα軸電圧指令値v* αとβ軸電圧指令値v* βからなる電圧ベクトル(v* α,v* β)を、インバータ30が出力可能な電圧の限界値である出力限界範囲23aの範囲内に収まる大きさに変更してα軸電圧指令値v** αとβ軸電圧指令値v** β(電圧指令値)を出力する機能(リミッタ機能)を有する。インバータ30は、当該インバータ30に入力される直流電圧源Battの出力電圧を超える電圧を出力することはできない。つまり、インバータ30は、その仕様や入力される直流電圧源Battの出力電圧から、出力限界範囲23aが予め決まっている。そのため、図4(B)に示すような概念図において表される正六角形状を有する出力限界範囲23aを定めることが可能になる。
【0060】
この出力限界範囲23aを表す正六角形(以下「六角形」という)は、直交するα軸とβ軸の交点を中心に周方向に120度間隔でαβ静止座標系の座標平面を三分割する3本の軸(U軸、V軸、W軸)を、交点側においても延長することにより「*」形状に延びる6本の線ができることから、それらの6本を同じ長さ(最大出力電圧)の位置で隣り合う線同士を接続することによって得られる。なお、この六角形の内接円(図4(B)に示す破線円)を超えた六角形内の範囲(薄墨色の範囲)はいわゆる過変調領域であり、図24に示すような構成の電流ベクトル制御においては、d軸優先制御や襷(たすき)掛け電流制御等の複雑な演算処理が行うことによってこのような過変調領域に達する電圧ベクトルの制御を可能にしている。
【0061】
なお、d軸優先制御については、例えば、『高橋健治、大石潔、上野俊幸「d軸電圧を優先した埋込型永久磁石同期モータの一駆動法」、電気学会論文誌D、Vol.131 No.9 pp.1103-1111、2011年』を参照されたい。また、たすき掛け制御については、例えば、『牧島信吾、上園恵一、永井正夫「電圧飽和状態における電動機制御応答性の検証及び考察」、電気学会論文誌D、Vol.130 No.5 pp.663-670、2010年』を参照されたい。
【0062】
電圧指令値出力部23では、座標変換部22から入力されたαβ静止座標系の電圧ベクトル(v* α,v* β)がインバータ30の出力限界範囲23aの範囲外にあるか否かを判定し、出力限界範囲23aの範囲外にない(範囲内にある)と判定した場合には入力された電圧ベクトル(v* α,v* β)をそのままα軸電圧指令値v** αとβ軸電圧指令値v** βとして相数変換部24に出力し、出力限界範囲23aの範囲外にある(範囲内にない)と判定した場合には出力限界範囲23aの範囲内に収まる大きさに電圧ベクトル(v* α,v* β)を変更した後、変更後の電圧ベクトルを表すα軸電圧指令値v** αとβ軸電圧指令値v** βとして相数変換部24に出力する。なお、電圧指令値出力部23に入力された指令値と、電圧指令値出力部23から出力された指令値とを区別する便宜上、後者の指令値には「**」を付している。
【0063】
出力限界範囲23aは、インバータ30の仕様や直流電圧源Battの出力電圧から予め定められていることから、出力限界範囲23aの六角形を構成する各辺は、αβ静止座標系の座標平面における一次関数としてそれぞれ特定することが可能である。六角形の各辺を表すそれぞれの方程式に対して、電圧ベクトル71により表される線分を表す方程式を連立方程式として解を求めることによって1つの解につき1つの交点が存在することがわかる。解が2つ以上存在する場合には交点も2つ以上存在することになり、解が存在しない場合には交点はないことになる。
【0064】
このため、まず出力限界範囲23aの六角形の各辺を表す6つの一次関数と電圧ベクトル71により表される線分とが交差する交点を演算で求める処理を行った後、そのような交点が求められた(交点が存在する)か否かを判定する処理が行われる。交点が存在する場合には電圧ベクトル71は出力限界範囲23aの六角形の範囲外にある(範囲内にない)と判定し、交点が存在しない場合には電圧ベクトル71は出力限界範囲23aの六角形の範囲内にあると判定する。
【0065】
「出力限界範囲23aの範囲」には、出力限界範囲23aの範囲を表す六角形の各辺および各頂点を含めない。したがって、電圧ベクトル71の先端位置を表す座標が当該六角形の辺や頂点と重なる場合、つまり交点が存在する場合には出力限界範囲23aの範囲外にあると判定する。なお、出力限界範囲23aの範囲外にあると判定した場合に行われる「出力限界範囲23aの範囲内に収まる大きさに電圧ベクトル(v* α,v* β)を変更する」処理については、制御系要素の構成例2において後述する。
【0066】
相数変換部24は、αβ静止座標系の二相の電圧ベクトル(vα,vβ)をUVW静止座標系の三相の電圧ベクトル(vu,vv,vw)に変換する機能を有する。ここでは、電圧指令値出力部23から出力されたα軸電圧指令値v** αとβ軸電圧指令値v** βを、U相電圧指令値v* uとV相電圧指令値v* vとW相電圧指令値v* wに変換して出力する(電圧指令値v* u,v,w)。このUVW相の電圧指令値v* u,v,wは、コントローラ20aから出力されてインバータ30に入力される。これにより、インバータ30は、前述したように、コントローラ20から入力された電圧指令値v* u,v,wに従ってIGBT31~36をスイッチングすることにより交流電圧vu,v,wを生成(変換)して交流モータ50に供給する。
【0067】
このように構成例1のモータシステム10aでは、コントローラ20aは、電圧情報生成部21、座標変換部22、電圧指令値出力部23、相数変換部24を有する。そして、電圧情報生成部21により、上位システム等の外部から入力されたトルク微分指令値τdot*に基づいて式(7)の逆関数v* d,q=g-1(τdot*)から交流モータ50のdq回転座標系のdq軸電圧指令値v* d,q(回転座標系電圧情報)を生成する。また座標変換部22により、交流モータ50の出力軸の電気角θreに基づいてdq軸電圧指令値v* d,q(回転座標系電圧情報)からαβ静止座標系のαβ軸電圧指令値v* α,β(静止座標系電圧情報)に変換する。さらに電圧指令値出力部23により、αβ軸電圧指令値v* α,βで表される電圧ベクトル(v* α,v* β)がインバータ30の出力限界範囲23aの範囲内にある場合にはαβ軸電圧指令値v* α,βをαβ軸電圧指令値v** α,βとして相数変換部24を介してインバータ30に出力する。
【0068】
これにより、コントローラ20aによる電圧振幅最小制御では、電流制御を行うことなく、トルク微分指令値τdot*に基づく出力トルクτの定値制御が可能になるので、例えば、一般的な電流ベクトル制御において行われるようなPI制御処理(図24に示す符号112,113)における積分演算を必要としない。したがって、積分演算に伴う遅延時間が生じないため、制御指令に対する応答速度の低下を抑制することができる。
【0069】
このような技術的な効果は、例えば、コントローラ20aによる本電圧ベクトル制御を計算機シミュレーションした結果として、図5(A)に示す出力トルク等の応答特性や、図5(B)に示すインバータ30に対する出力電圧(交流電圧vu,v,w)の軌跡を得ていることからもわかるので、それについて図5を参照して説明する。
【0070】
シミュレーションにおいては、図3の紙面下方の破線矩形枠内に表されているように、電圧情報生成部21の前段に減算部25とトルク制御部26を設けることにより、電圧情報生成部21にトルク微分指令値τdot*を入力している。減算部25には上位システム(図略)から出力されたトルク指令値τ*と計算により得られたトルク推定値τhatとが入力されて、トルク指令値τ*からトルク推定値τhatを減算した結果(トルク指令値τ*に対する出力トルクτの推定偏差)が制御ゲインKのトルク制御部26に入力される。つまり、電圧情報生成部21に入力されるトルク微分指令値τdot*は、τdot*=K(τ*-τhat)で表される。トルク制御部26は、制御ゲインKの大きさを変更することにより、トルク微分指令値τdot*の大きさや、出力トルクτが立ち上がり時間等を制御することが可能である。
【0071】
同図において、τの上のハット「∧」記号は推定値の表記であり、明細書においては「hat」と表記する。なお、τhatは、交流モータ50の回転数とモータ電流iu,v,w等により算出される。このシミュレーションでは、トルク制御部のゲインKはシミュレーションの設定条件として任意値が入力される。
【0072】
このシミュレーションの条件は次の通りである。
・交流モータ50の回転速度:1800min-1(一定)
・トルク制御部の制御ゲインK:2000rad/sec(時定数500μsec)
・トルク指令値τ*:0N・mから1N・mまで増加
【0073】
このシミュレーションにおいては、トルク指令値τ*として、インバータ30の出力限界範囲23aの範囲内で実現可能な値(1N・m)を設定している。そのため、図5(A)に示すように、コントローラ20aが1回目の計算処理時間内(500μsec内)で六角形(出力限界範囲23a)の内側に出力トルクτが立ち上がっていることを確認した。出力トルクτにはオーバーシュートが生じていないことも確認できた。なお、出力トルクτの立ち上がり時間は、トルク指令値τ*の入力後の制御開始から目標値トルクの63.2%に到達するまでに要した時間である。上記条件の時定数は、立ち上がり時間の設計値である。
【0074】
また、図5(B)に示すインバータ30の出力電圧vα,vβは、当該インバータ30の出力電圧vu,v,wをαβ静止座標系に座標変換したαβ軸電圧vα,βである。インバータ30の出力電圧vα,vβの軌跡では、トルク指令値τ*の入力前は反時計回りで円を描くように回っていおり(符号71a)、トルク指令値τ*の入力により立ち上がって(符号71b)、落ち着くと円に戻る(符号71c)。出力トルクτが立ち上がりピーク71b’においても、六角形(出力限界範囲23a)の内側に収まっていることから、理論通りの応答性能を得られていることが確認できる。なお、交流モータ50は同期電動機であることから、この出力電圧vα,vβの軌跡は、交流モータ50の回転速度(三相交流電圧vu,v,wの周波数)に同期して回転している。
【0075】
このように図5(A),(B)のいずれからも、出力トルクτには、トルク指令値τ*に対するオーバーシュートが生じていないことがわかる。即ち、本電圧ベクトル制御では、電圧情報生成部21(逆関数v=g-1(τdot)の演算処理)や座標変換部22等には積分演算(積分要素)が含まれないことから、例えば、アンチワインドアップ処理等を備えてなくても、演算処理に伴う遅延時間に起因し得るオーバーシュートが出力トルクτに発生しない。
【0076】
ところで、電圧指令値出力部23は、電圧ベクトル(v* α,v* β)が出力限界範囲23aの範囲外にある場合には出力限界範囲23aの範囲内に収まる大きさに変更する必要がある。インバータ30は、出力限界範囲23aを超えた電圧を交流モータ50に出力することができないからである。そこで、このような場合には、図6に示すモータシステム10(10b)の制御系要素の構成例2により対応する。次にモータシステム10(10b)の制御系要素の構成例2を図6~10に基づいて説明する。
【0077】
[制御系要素の構成例2]
図6に示すように、制御系要素の構成例2(以下「構成例2」という)のモータシステム10bでは、コントローラ20bは、電圧情報生成部21、座標変換部22、電圧指令値出力部23、相数変換部24、減算部25、トルク制御部26の機能を有する。つまり、構成例1のモータシステム10a(図3)に対して、コントローラ20bに減算部25およびトルク制御部26の機能を追加している点がそのコントローラ20aと異なる。そのため、コントローラ20bの説明では、コントローラ20aと同一の構成部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0078】
減算部25とトルク制御部26は、構成例1のモータシステム10aのシミュレーションにおいて使用したものとほぼ同じであるが、トルク制御部26の制御ゲインKが外部から制御可能である点が異なるので、それについて説明する。
【0079】
トルク制御部26は、制御ゲインKを外部から制御可能なトルク制御部であり、構成例2のコントローラ20bでは、ゲインKを増減可能な制御入力が電圧指令値出力部23に接続されて電圧指令値出力部23によりゲインKを制御可能に構成される。これにより、トルク制御部26には、減算部25から出力されたトルク指令値τ*に対する出力トルクτの推定偏差(τ*-τhat)の情報が入力されるため、その偏差をゲインK倍したものをトルク微分指令値τdot*として電圧情報生成部21に出力する(τdot*=K(τ*-τhat))。ゲインKの大きさは電圧指令値出力部23により制御されるため、電圧指令値出力部23はトルク微分指令値τdot*を減少させたり増加させたりすることが可能である。
【0080】
このようにコントローラ20bでは、外部の上位システムからトルク指令値τ*が入力されて、そのトルク指令値τ*に対する出力トルクτの推定偏差をゲインKで減少させたり増加させたりしたものがトルク微分指令値τdot*として電圧情報生成部21に入力される。そのため、電圧指令値出力部23は、このゲインKを制御することによって、座標変換部22により変換された電圧ベクトル(v* α,v* β)が出力限界範囲23aの範囲外にある場合に出力限界範囲23aの範囲内に収まる大きさに変更することが可能になる。
【0081】
電圧指令値出力部23は、構成例1で説明したように、座標変換部22から入力されたαβ静止座標系の電圧ベクトル(v* α,v* β)がインバータ30の出力限界範囲23aの範囲内にあるか否かを判定し、出力限界範囲23aの範囲外にあると判定した場合には出力限界範囲23aの範囲内に収まる大きさに電圧ベクトル(v* α,v* β)を変更する。そして、変更後の電圧ベクトルを表すα軸電圧指令値v** αとβ軸電圧指令値v** βとして相数変換部24に出力する。
【0082】
具体的には、例えば、コントローラ20bは、図7に示すような電圧指令値出力処理を行う。なお、この処理は、電圧指令値出力部23の機能をソフトウェア的に実現するプログラムとして、コントローラ20bのEEPROM等に予め格納されている。また、前述した減算部25やトルク制御部26の機能をソフトウェア的に実現するプログラムも同様にコントローラ20bのEEPROM等に予め格納されている。
【0083】
図7に示すように、電圧指令値出力処理では、ステップS101により電圧ベクトル計算処理が行われた後、ステップS103によりインバータ30の出力限界範囲23aの範囲外にあるか否かが判定される。これらは、構成例1で説明した内容である。即ち、出力限界範囲23aの六角形の各辺を表す6つの一次関数と電圧ベクトル71により表される線分とが交差する交点を演算で求める処理がステップS101による電圧ベクトル計算処理であり、そのような交点が求められた(交点が存在する)か否かを判定、つまり電圧ベクトル71は出力限界範囲23aの六角形の範囲外にある(範囲内にない)か否かを判定する処理がステップS103による判定処理である。
【0084】
このような判定処理により、電圧ベクトル71が出力限界範囲23aの六角形の範囲外にあると判定された場合には(S103;Yes)、続くゲイン制御情報出力処理(S105)により、トルク制御部26に対してゲインKを下げる制御情報が出力される。その後、再びステップS101に戻って電圧ベクトル計算処理(S101)が行われた後、さらに判定処理(S103)が行われる。トルク制御部26がゲインKを低下させると、電圧ベクトル71は前回の演算時よりも小さくなる。そのため、ゲイン制御情報出力処理(S105)→電圧ベクトル計算処理(S101)→判定処理(S103)を繰り返すことによって、前述の式(9)により求められた「電圧振幅が最小になる電圧ベクトル71」は、電圧指令値出力部23により出力限界範囲23aの範囲内に収まる大きさに変更される。
【0085】
そして、電圧ベクトル71が出力限界範囲23aの六角形の範囲内にあると判定されると(S103;No)、αβ軸電圧指令値出力処理(S107)により、変更後の電圧ベクトル(変更後電圧ベクトル)(v* α,v* β)を表すα軸電圧指令値v** αとβ軸電圧指令値v** βを、相数変換部24に出力する。なお、最初から出力限界範囲23aの範囲内に収まる場合にはゲイン制御情報出力処理(S105)が行われないため、入力時の電圧ベクトル(v* α,v* β)をそのままα軸電圧指令値v** αとβ軸電圧指令値v** βを相数変換部24に出力する。
【0086】
このように構成例2のモータシステム10bでは、電圧ベクトル71が出力限界範囲23aの範囲外にある場合、電圧指令値出力部23は、変更後の電圧ベクトルが出力限界範囲23aの範囲内に収まるまでトルク制御部26のゲインKを下げる(小さくする)ことによりトルク微分指令値τdot*を減少させる。これにより、電圧ベクトル71が出力限界範囲23aの範囲外にある場合、つまり実現不可能なαβ軸電圧指令値v* α,βが要求された場合、出力限界範囲23aの範囲内に収まるまでトルク微分指令値τdot*が減少する。このようなゲイン制御情報出力処理(S105)→電圧ベクトル計算処理(S101)→判定処理(S103)を繰り返す処理においては、減算部25とトルク制御部26により行われるため、制御パラメータはゲインKだけである。そのため、制御パラメータに着目すると、出力トルクτは、τ=τ*(1-e(-Kt))により表される。なお、tは時間を表す。
【0087】
したがって、出力トルクτは、トルク指令値τ*に対してオーバーシュートが生じることがなく、また管理も容易であることが理解できる。また、積分要素も含まれないため、例えば、過去の履歴に基づくような処理も行われない。よって、構成例2のモータシステム10bでは、即座に実現可能なαβ軸電圧指令値v** α,βを相数変換部24を介してインバータ30に出力することが可能になる。また、積分演算に伴う遅延時間が生じないため、制御指令に対する応答速度の低下を抑制することができる。
【0088】
このような技術的な効果は、例えば、コントローラ20bによる本電圧ベクトル制御を計算機シミュレーションした結果として、図8に示す出力トルク等の応答特性や、図9に示すインバータ30に対する出力電圧(交流電圧vu,v,w)の軌跡等を得ていることからもわかるので、それについて図8,9を参照して説明する。
【0089】
このシミュレーションの条件は次の通りである。
・交流モータ50の回転速度:3600min-1(一定)
・トルク制御部の制御ゲインK:2000rad/sec(時定数500μsec)
・トルク指令値τ*:0N・mから3N・mまで増加
【0090】
図8および図9においては、構成例2のコントローラ20bによる制御と、構成例1のコントローラ20aによる制御とを期間を変えて使用している。即ち、図8,9に示すシミュレーションの結果は、制御開始から前半の3msecの期間をコントローラ20b(構成例2)により制御し、それ以降の後半の期間をコントローラ20a(構成例1)により制御したことにより得られたものである。したがって、このシミュレーション結果からは、制御開始から前半の3msecの期間においては、構成例2のコントローラ20bによる応答特性について確認でき、前半と後半の境界においては、構成例2→構成例1への制御の切り換え時にノイズや振動等が発生することなくシームレスに移行していることを確認できる。なお、コントローラ20a,20bによるそれぞれの機能は同じハードウェアで実現できることから、このような制御の切り換えはソフトウェア的に対応可能である。
【0091】
このシミュレーションにおいては、トルク指令値τ*として、インバータ30の出力限界範囲23aの範囲内における過変調領域(図4(B)に示す薄墨色の範囲)を一時的に使用することで実現可能な値(3N・m)を設定している。そのため、通常の電流ベクトル制御等では出力トルクτにオーバーシュートが生じる可能性の高いこのような条件を設定しても、図8(A)に示すように、本電圧ベクトル制御では、出力トルクτやトルク推定値τhatの波形からオーバーシュートが生じていないことを確認した。また、構成例2→構成例1への制御の切り換えタイミングにおいても、出力トルクτやトルク推定値τhatの波形からノイズ等が生じていないことを確認した。なお、図8(B)にはdq軸電流id,qの波形が表されており、また図8(C)には、モータ電流|i|の波形が表されている。|i|は、U,V,W相のモータ電流iu,v,wのそれぞれを二乗して加えた値の平方根(二乗和平方根)により求められたものである。dq軸電流id,qやモータ電流|i|の波形においても、オーバーシュートや切り換えに伴うノイズ等が生じていないことがわかる。
【0092】
また、図9(A)に示すように、インバータ30の出力電圧の軌跡においては、構成例1において説明したものと同じであり、同図に示すインバータ30の出力電圧vα,vβは、当該インバータ30の出力電圧vu,v,wをαβ静止座標系に座標変換したものである。このシミュレーションでは、トルク指令値τ*として、インバータ30の出力限界範囲23aの範囲内における過変調領域を一時的に使用する値(3N・m)を意図的に設定している。そのため、インバータ30の出力電圧vα,vβが過変調領域に到達している部分(符号71d)は、出力限界範囲23aの六角形の縁を辿るように軌跡を描いているが、これは出力トルクτにオーバーシュートが生じていることを表すものではない。
【0093】
さらに、図9(B)に示すように、インバータ30のIGBT31~36に入力されるスイッチング信号の波形(スイッチング波形)を見ると、IGBT31~36にスイッチング信号が入力されていない期間が存在することがわかる。この期間は、インバータ30の出力電圧vα,vβが過変調領域に到達している時間である。なお、同図において、各相の縦軸は、「1.0」が上アームのIGBT31,33,35のオンタイミングを表し、「0.0」が下アームのIGBT32,34,36のオンタイミングを表している。
【0094】
構成例2のモータシステム10bでは、実機による実験も行っているので、その結果についても図10を参照しながら説明する。図10(A)は過変調運転を含まない線形領域動作の場合の実験結果であり、図10(B)は一時的な過変調運転を含む線形領域動作の場合の実験結果である。これらの実験結果では、トルク指令値τ*、トルク推定値τhat、d軸電流id、q軸電流iqの各波形が表されている。この実験では、出力トルクτの代わりにトルク推定値τhatから出力トルクの応答性を確認している。
【0095】
この実験の条件は次の通りである。
・交流モータ50の回転速度:1000min-1(一定)
・トルク制御部の制御ゲインK:図10(A)では2000rad/sec(時定数500μsec)、図10(B)では5000rad/sec(時定数200μsec)
・トルク指令値τ*:0N・mから2N・mまで増加
【0096】
図10(A)に示すように、過変調運転を含まない線形領域動作の場合には、トルク推定値τhatの波形から、出力トルクはトルク指令値τ*に対してほぼオーバーシュートなしで応答していることが確認できた。またトルク推定値τhatの波形から得られた時定数は600μsecであることから、立ち上がり時間の設計値(時定数500μsec)にほぼ近いことも確認できた。したがって、出力限界範囲23aの範囲内の過変調運転を含まない線形領域においては、トルク応答の管理が可能であることを確認できた。
【0097】
図10(B)に示すように、一時的な過変調運転を含む線形領域動作の場合には、トルク推定値τhatの波形から、出力トルクはトルク指令値τ*に向けて直線的に増加しているが、オーバーシュートを生じることなく応答していることを確認した。したがって、出力限界範囲23aの範囲内においては一時的に過変調運転に移行してもオーバーシュートなしで応答していることが確認できた。なお、トルク推定値τhatの波形は、制御開始から約200μsec遅れて立ち上がり始めていることがわかる。そのため、同図においては、トルク推定値τhatの整定時間は800μsecであるが、この約200μsec遅れを除くと、図10(A)に示すトルク推定値τhatの波形と同様に、出力トルクは立ち上がり時間の設計値に近い値で立ち上が得ることがわかる。
【0098】
[制御系要素の構成例3]
次にモータシステム10(10c)の制御系要素の構成例3(以下「構成例3」という)を図11~20に基づいて説明する。構成例1のモータシステム10aでは、電圧情報生成部21において、電圧ベクトル計算処理(I)(図4(A)に示す概念図により表される生成アルゴリズム)に従ってdq軸電圧指令値v* d,qを選定した。前述したように、電圧情報生成部21により得られるd軸電圧指令値v* dおよびq軸電圧指令値v* qの電圧ベクトル(vd,vq)は、変数2つを入力する関数であることから、d軸電圧vdやq軸電圧vqの選定には任意性が残るためである。
【0099】
ところで、交流モータ50等の同期電動機では、出力トルクτが最大になるモータ電流iu,v,wの位相角で交流モータ50を駆動すると各相のコイルの銅損が最小になることから、モータ電流iu,v,wに対して出力トルクτを最大にするMTPA(Maximum Torque Per Ampere)制御が、駆動系モータシステムやサーボ系モータシステム等に多く用いられている。例えば、上位システムが交流モータ50の運転制御をMTPA制御で行う場合においては、当該上位システムからの制御情報としてd軸電流指令値i* dをコントローラ20が取得することによって、図4(A)に示す概念図により表される生成アルゴリズムと同様に、dq軸電圧指令値v* d,qを選定することが可能になる。そこで、構成例1のコントローラ20aによる電圧振幅最小制御の場合に行われた電圧情報生成部21によるdq軸電圧指令値v* d,qの選定の他の例として、交流モータ50の運転制御をMTPA制御で行う場合に適用可能な構成例3のモータシステム10cについて説明する。
【0100】
図11に示すように、構成例3のモータシステム10cでは、コントローラ20cは、電圧情報生成部21、座標変換部22、電圧指令値出力部23、相数変換部24、減算部25、トルク制御部26、減算部27、電流制御部28、電圧情報生成部29の機能を有する。つまり、構成例1のモータシステム10a(図3)に対して、コントローラ20cに減算部25、トルク制御部26、減算部27、電流制御部28および電圧情報生成部29の機能を追加している点がそのコントローラ20aと異なる。また、構成例2のモータシステム10b(図6)に対しては、減算部27、電流制御部28および電圧情報生成部29を追加している点がそのコントローラ20bと異なる。そのため、コントローラ20cの説明では、コントローラ20a,20bと同一の構成部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0101】
減算部27は、構成例1のモータシステム10aのシミュレーションにおいて使用したものと同じであるが入力される情報が異なる。減算部27には上位システム(図略)から出力されたMTPA制御におけるd軸電流指令値i* d_MTPAとd軸電流idとが入力されて、d軸電流指令値i* d_MTPAからd軸電流idを減算した結果(d軸電流指令値i* d_MTPAに対するd軸電流idの偏差)が電流制御部28に入力される。
【0102】
電流制御部28は、制御ゲインGを有する制御部であり、減算部27から入力されたd軸電流idの偏差をゲインG倍したものをd軸電流微分指令値idot* dとして出力する(idot* d=G(i* d_MTPA-id))。ゲインGの大きさは予め設定されている。電流制御部28から出力されたd軸電流微分指令値idot* dは、電圧情報生成部29に入力されてd軸電圧指令値v* dの算出に用いられる。
【0103】
電圧情報生成部29は、後述する式(15)の逆関数v* d=h-1(idot* d)として機能する。つまり、MTPA制御を行っている上位システムからd軸電流指令値i* d_MTPAが入力されると、そのd軸電流微分指令値idot* dを用いて算出可能なd軸電圧指令値v* dが電圧情報生成部29から出力される。電圧情報生成部29から出力されたd軸電圧指令値v* dは、電圧情報生成部21と座標変換部22に入力される。なお、d軸電流微分指令値idot* dは、d軸電流指令値i* d_MTPAを時間で微分したものであるから、MTPA制御におけるd軸電流の時間微分指令値である。
【0104】
電圧情報生成部21は、このようなd軸電圧指令値v* dが電圧情報生成部29から入力されることによって、図12に示す概念図により表される生成アルゴリズム(電圧ベクトル計算処理(II))に従って電圧指令値を選定する。
【0105】
図12に示すように、電圧ベクトル計算処理(II)では、例えば、電圧ベクトル(vd,vq)(電圧ベクトル72)が存在するdq回転座標系のvd-vq平面において、トルク微分値指令値τdot*により得られるトルク微分値直線92を与える。前述した構成例1における電圧ベクトル計算処理(I)では、両者が最短距離で交わる交点を求め、当該交点までの大きさを有する電圧ベクトル71を電圧指令値v* d,qとして選定した。
【0106】
しかしここでは、電圧情報生成部21には、電圧情報生成部29から出力されたd軸電圧指令値v* dが入力されることから、電圧情報生成部21により得られるd軸電圧指令値v* dおよびq軸電圧指令値v* qの電圧ベクトル(vd,vq)の2変数のうち、一方のd軸電圧vdが定まる。そのため、他方のq軸電圧vqも決まるので、MTPA制御に適した電圧ベクトル72が電圧指令値v* d,qとして選定される。
【0107】
より具体的には、コントローラ20cにより式(12)の演算が行われて電圧指令値v* d,qが求められる。式(12)の演算により選定された電圧指令値v* d,qを用いて行われる交流モータ50の運転制御のことを、以下「電流振幅最小制御」という。なお、A,B,Cは、前述した式(8)に示されている、A(id,iq),B(id,iq),C(id,iqre)である。
【数12】
なお、式(12)は次のように得られる。
【0108】
前述の式(7)と式(2)について一部の変数を指令値に置き換えると、次の式(13)と式(14)になる。そして、電流制御部28から出力されるd軸電流微分指令値idot* dは、これまでにも説明しているように式(15)で表されるので、式(13)と式(14)をd軸電圧指令値v* dとq軸電圧指令値v* qについて解くことにより、前述した式(12)が得られる。なお、下記式(15)においては、d軸電流指令値i* d_MTPAは「i* d」で表記されていることに注意されたい。
【0109】
【数13】
【数14】
【数15】
【0110】
このように構成例3のモータシステム10cでは、dq回転座標系においては、電圧情報生成部21は、トルク微分値τdot、d軸電流id、q軸電流iq、角速度ωreおよびd軸電流微分指令値idot* dに基づいて、d軸電圧指令値v* dおよびq軸電圧指令値v* qを生成する。これにより、インバータ30の出力電流iu,v,wに対して交流モータ50の出力トルクτが最大になる電圧ベクトル(vd,vq)が得られるため、トルク微分指令値τdot*に対応した出力トルクτの効率が最も良い電圧指令値αβ軸電圧指令値v** α,βを相数変換部24を介してインバータ30に出力することが可能になる。したがって、構成例3のモータシステム10cでは、例えば、トルク指令値τ*(要求トルク)に対してインバータ30の出力電流iu,v,wを最小限に抑えたい等のニーズがある場合にそれを満たすことができる。また、MTPA制御に適した電圧ベクトル72が電圧指令値v* d,qとして選定されるので、MTPA制御にスムースに移行することができる。
【0111】
このような技術的な効果は、例えば、コントローラ20cによる本電圧ベクトル制御を計算機シミュレーションした結果として、図13に示す出力トルク等の応答特性を得ていることからもわかるので、それについて図13を参照して説明する。
【0112】
このシミュレーションの条件は次の通りである。
・交流モータ50の回転速度:1000min-1(一定)
・トルク制御部の制御ゲインK:5000rad/sec(時定数1msec)
・電流制御部の制御ゲインG:1000rad/sec(時定数1msec)
・トルク指令値τ*:0N・mから4N・mまで増加
【0113】
図13においては、構成例3のコントローラ20cによる制御と、構成例1のコントローラ20aによる制御とを期間を変えて使用している。即ち、図8に示すシミュレーションの結果は、制御開始から前半の1.2msecの期間をコントローラ20a(構成例1)により制御し、それ以降の後半の期間をコントローラ20c(構成例3)により制御したことにより得られたものである。したがって、このシミュレーション結果からは、制御開始から前半の1.2msecの期間においては、構成例1のコントローラ20aによる応答特性について確認でき、前半と後半の境界とそれ以降においては、構成例1→構成例3への制御の切り換え時に、出力トルクτの変動、ノイズや振動等が発生することなくシームレスに移行していることや、MTPA制御によるd軸電流指令値i* dに対するd軸電流idの応答特性等を確認できる。なお、コントローラ20a,20cによるそれぞれの機能は同じハードウェアで実現できることから、このような制御の切り換えはソフトウェア的に対応可能である。
【0114】
このシミュレーションにおいては、トルク指令値τ*として、インバータ30の出力限界範囲23aの範囲内における過変調領域を一時的に使用することで実現可能な値(4N・m)を設定している。そのため、制御開始から1.2msecの期間における構成例1のコントローラ20aによる応答特性は、出力トルクτはトルク指令値τ*に向けて直線的に増加しているが、オーバーシュートを生じることなく応答していることを確認した。また、構成例1→構成例3への制御の切り換えタイミングにおいても、出力トルクτやトルク推定値τhatの波形からノイズ等が生じていないことを確認した。さらに制御の切り換え直後においては、d軸電流指令値i* dが段状に急激に低下しそれに応答してd軸電流idがd軸電流指令値i* dに近づいていることから、MTPA制御にスムースに移行していることも確認できた。
【0115】
ここで、構成例1~3のモータシステム10a~10cに共通して適用可能な電圧指令値出力部23のアルゴリズムを図14~17に基づいて説明する。
[構成例1~3の改変例1]
【0116】
電圧指令値出力部23は、前述したように、座標変換部22から入力されたα軸電圧指令値v* αとβ軸電圧指令値v* βからなる電圧ベクトル(v* α,v* β)を、インバータ30が出力可能な電圧の限界値である出力限界範囲23aの範囲内に収まる大きさに変更してα軸電圧指令値v** αとβ軸電圧指令値v** βを出力するリミッタ機能を有する。そのため、電圧ベクトル(v* α,v* β)が出力限界範囲23aの範囲外にあると判定した場合には、構成例2のコントローラ20bでは、変更後の電圧ベクトルが出力限界範囲23aの範囲内に収まるまで電圧指令値出力部23がトルク制御部26のゲインKを下げるアルゴリズム(図7;電圧指令値出力処理)を用いている。
【0117】
しかし、図14に示すように、前述の式(9)や式(12)により得られた電圧ベクトル71,72が出力限界範囲23aの範囲外にあると判定された場合でもトルク微分値直線93上における他の動作点に変更することで出力限界範囲23aの範囲内に収まる場合がある。そのため、構成例2の電圧指令値出力部23による電圧指令値出力処理では、単純に出力限界範囲23aの範囲内に収まる大きさに変更していたが、必ずしもこのようなアルゴリズムが適切であるとは限らない。例えば、出力限界範囲23aの範囲を表す正六角形に対してトルク微分値直線93が交差する点が存在する場合には、その交点まで延びるベクトルを元の電圧ベクトル71,72に代えて新たな電圧ベクトル73に変更すれば出力限界範囲23aの範囲内に収まる。
【0118】
そこで、本改変例1においては、図14に表された電圧指令値修正アルゴリズムの概念例に基づいて前述の式(9)や式(12)により得られた電圧ベクトル71,72が出力限界範囲23aの範囲外にあると判定された場合においても、出力限界範囲23aの範囲内に収まり得る電圧指令値修正処理(I)を行うことにした。なお、この改変例1や次の改変例2においては、「出力限界範囲23aの範囲」には、出力限界範囲23aの範囲を表す六角形の各辺および各頂点を含める。そのため、変更後の電圧ベクトル73の先端位置を表す座標が当該六角形の辺や頂点と重なる場合も出力限界範囲23aの範囲内にあると判定する。この点は、前述した構成例1~3とは異なるので注意されたい。
【0119】
念のため、図14に表されているαβ静止座標系とdq回転座標系の関係について説明する。αβ静止座標系のvα-vβ平面は固定されているのに対して、dq回転座標系のvd-vq平面は反時計回り方向に交流モータ50の回転速度に同期して回転する。同図のvd-vq平面は電気角θreだけ回転した瞬間を表現したものである。vα-vβ平面には出力限界範囲23aの六角形だけが表されている。当該六角形以外の電圧ベクトル71,72,73やトルク微分値直線93は、vd-vq平面に表されており、vd-vq平面と共に交流モータ50の回転速度に同期して回転している。
【0120】
図15に示す電圧指令値修正処理(I)について説明する。この処理は、トルク微分値直線93と出力電圧限界線が1つ以上の交点を有する場合を前提に行われる。出力電圧限界線は、出力限界範囲23aを表す六角形を構成する6つの辺のことである。なお、この処理は、本改変例1における電圧指令値出力部23の機能をソフトウェア的に実現するプログラムとして、コントローラ20a~20cのEEPROM等に予め格納されている。
【0121】
図15に示すように、電圧指令値修正処理(I)では、まずステップS201によりトルク微分値直線93と出力電圧限界線の交点を計算する処理が行われる。この処理は、構成例1において既に説明している「出力限界範囲23aの六角形の各辺を表す6つの一次関数と電圧ベクトル71により表される線分とが交差する交点を演算で求める処理」と同様である。そのため、ステップS201の処理については説明を省略する。
【0122】
ステップS201の交点計算処理によって連立方程式の解が2つ以上得られた場合には、トルク微分値直線93と出力電圧限界線の交点が2つ以上存在することになるので、そのような場合には(S203;Yes)、次のステップS205の交点選択処理が行われる。これに対して、両者の交点が複数存在しない場合には(S203;No)、ステップS207の電圧指令値変更処理に移行する。この場合にはその交点を選択する。
【0123】
ステップS205の交点選択処理では、例えば、交点を有する2つ以上の辺のうち、トルク微分値直線93に対して最も平行に近い辺を特定し、その辺に含まれる交点を選択する。例えば、図14に示す例においては、交点80aを有する辺の方が交点80bを有する辺よりもトルク微分値直線93に対して平行に近い。そのため、この場合には交点80aを有する辺から交点80aを選択する。なお、六角形の辺とトルク微分値直線93が平行に近いか否かは、例えば、判定対象の辺の傾きとトルク微分値直線93の傾きとの差を計算し傾き同士の差が小さいほど平行に近いと判定する。
【0124】
ステップS207の電圧指令値変更処理では、ステップS205等により選択された交点の座標情報に基づいて、その交点座標を先端座標にするベクトル情報を生成して元の電圧ベクトルに対して置き換える処理が行われる。例えば、図14に示す例においては、選択された交点80aの座標情報に基づいて当該交点座標を先端座標にする電圧ベクトル73の情報が生成されて、元の電圧ベクトル71,72に代えて、この新たな電圧ベクトル73に置き換える。これにより、新たな電圧ベクトル73のα軸電圧指令値v* αとβ軸電圧指令値v* βが電圧指令値出力部23から出力される。
【0125】
このように本改変例1では、dq回転座標系において、トルク微分値τdot、d軸電流id、q軸電流iqおよび角速度ωreを含む所定関数で表されるトルク微分値直線93に対して出力限界範囲23aを表す六角形を構成する6つの辺のうち最も平行に近い辺と、この所定関数で表されるトルク微分値直線93とが交わるときには、その交点80aまで延びる電圧ベクトルを電圧ベクトル73(変更後電圧ベクトル)とし、当該ベクトルを表すα軸電圧指令値v* α、β軸電圧指令値v* βをαβ軸電圧指令値v** α,βとして相数変換部24を介してインバータ30に出力する。
【0126】
これにより、電圧ベクトル73は、出力限界範囲23aの範囲を表す六角形の6つの辺のうちの一辺に到達するので、電圧指令値出力部23は、例えば、複雑な演算が必要なリミッタ制御等を用いることなく、また積分演算を行うことなく、実現可能な電圧指令値として最大値を相数変換部24を介してインバータ30に出力することが可能になる。したがって、複雑な演算や積分演算に伴う遅延時間が生じないため、トルク微分指令値τdot*やトルク指令値τ*に対する応答速度の低下を抑制することができる。
【0127】
[構成例1~3の改変例2]
前述した改変例1では、電圧指令値出力部23の機能として実行される電圧指令値修正処理(I)について説明したが、この処理は、トルク微分値直線93と出力電圧限界線が1つ以上の交点を有する場合を前提にしたものである。そのため、例えば、図16に示すようにトルク微分値直線94と出力電圧限界線の交点がない、つまり両者が交差しない場合には電圧指令値修正処理(I)を適用することができない。
【0128】
トルク微分値直線94と出力電圧限界線が交差しない場合に適用可能な電圧指令値修正処理(II)について説明する。図16に示すように、トルク微分値直線94と出力電圧限界線が交差しない場合においては、出力限界範囲23aを表す六角形とトルク微分値直線94とが離れている場合、または両者が近い位置に存在しても六角形の辺とトルク微分値直線93が平行もしくは平行に近い状態にある場合である。このような場合には、図17に示す電圧指令値修正処理(II)により解決する。なお、この処理は、この改変例2における電圧指令値出力部23の機能をソフトウェア的に実現するプログラムとして、コントローラ20a~20cのEEPROM等に予め格納されている。
【0129】
図17に示すように、電圧指令値修正処理(II)では、まずステップS301によりトルク微分値直線94と出力電圧限界線(六角形の6つの辺)の平行度合いを計算する処理が行われる。例えば、これらの線の平行度合いは、両直線の傾きの差を計算して傾き同士の差が小さいほど平行度合いが大きい(平行に近い)と判定する。そのため、このステップS301では、トルク微分値直線94の傾きと六角形の各辺の傾きをこれらの直線を特定可能な一次関数から求める計算処理が行われる。これにより、六角形の各辺に対応する6つの平行度合いが得られる。
【0130】
次のステップS303の特定限界線選択処理では、ステップS301により得られた六角形の各辺に対応する6つの平行度合いのうち、最大値を有する辺を特定する。最大値を有する辺が2つ以上存在する場合には、それら2辺のうちトルク微分値直線93に近い辺を特定する。例えば、それら2辺の中間点座標とトルク微分値直線93の所定位置の座標との位置関係から離隔距離を求める。
【0131】
続くステップS305の両端座標取得処理では、ステップS301により特定された出力電圧限界線(六角形の特定辺)の両端座標の情報を取得する。例えば、図16に示す例では、端点81,82の座標情報が取得される。そして、ステップS307の両電圧ベクトル計算処理により、この座標情報に基づいて当該端点座標を先端座標にする電圧ベクトルの情報が生成されて両電圧ベクトル(vd,vq)のd軸電圧vdとq軸電圧vqが算出される。そして、これらの電圧ベクトル(vd,vq)のd軸電圧vdとq軸電圧vqをトルク微分値直線94に関する前述の式(7)に代入することで、これらの電圧ベクトルのトルク微分値τdotが算出される。
【0132】
ステップS309の端点選択処理では、ステップS307により計算された2つの電圧ベクトルのトルク微分値τdotのうち、大きい方の電圧ベクトルの先端位置に相当する端点を選択する。例えば、図16に示す例では、2つの電圧ベクトル74,75のうち、トルク微分値τdotが大きい電圧ベクトル74の端点82が選択される。
【0133】
そして、ステップS311の電圧指令値変更処理では、ステップS309により選択された電圧ベクトルのベクトル情報を元の電圧ベクトルに対して置き換える処理が行われる。例えば、図16に示す例においては、選択された電圧ベクトル74を元の電圧ベクトル71,72に代えて置き換える。これにより、新たな電圧ベクトル74のα軸電圧指令値v* αとβ軸電圧指令値v* βが電圧指令値出力部23から出力される。
【0134】
このように本改変例2では、dq回転座標系において、トルク微分値τdot、d軸電流id、q軸電流iqおよび角速度ωreを含む所定関数で表されるトルク微分値直線94に対して出力限界範囲23aを表す六角形を構成する6つの辺のうち最も平行に近い辺と、この所定関数で表されるトルク微分値直線93とが交わらないときには、最も平行に近い辺の両端点81,82を表す2つの電圧ベクトル74,75のうちトルク微分値τdotが大きい方の電圧ベクトル74を(変更後電圧ベクトル)とし、当該ベクトルを表すα軸電圧指令値v* α、β軸電圧指令値v* βをαβ軸電圧指令値v** α,βとして相数変換部24を介してインバータ30に出力する。
【0135】
これにより、電圧ベクトル74は、出力限界範囲23aの範囲を表す六角形の6つの頂点のうちの一頂点に到達するので、電圧指令値出力部23は、例えば、複雑な演算が必要なリミッタ制御等を用いることなく、また積分演算を行うことなく、実現可能な電圧指令値として最大値を相数変換部24を介してインバータ30に出力することが可能になる。したがって、複雑な演算や積分演算に伴う遅延時間が生じないため、制御指令に対する応答速度の低下を抑制することができる。
【0136】
[構成例1~3の改変例3]
前述した改変例1と改変例2は互いに役割が異なり相補関係にある。即ち、改変例1はトルク微分値直線93と出力電圧限界線が1つ以上の交点を有する場合を前提にした処理であり、それとは逆に、改変例2はこれらの両者の交点がない場合を前提にした処理である。したがって、これらの改変例1,2の前処理として、トルク微分値直線93等と出力電圧限界線とが交差するか否かを判定する処理を設け、改変例1,2のそれぞれの前提条件に適合するように制御を振り分けるアルゴリズムを構成する方がよい。
【0137】
また、構成例3において図13を参照しながら説明したように、例えば、交流モータ50の起動後から出力トルクが要求トルクに到達するまでは構成例1の電圧振幅最小制御で交流モータ50を制御し、出力トルクが要求トルクに到達した後は構成例3の電流振幅最小制御に切り換えてMTPA制御にスムースに移行できるように交流モータ50を制御する場合がある。このように交流モータ50の運転状況に応じて、構成例1の電圧振幅最小制御と構成例3の電流振幅最小制御を連携させるアルゴリズムも有益である。
【0138】
そこで、本改変例3では、モータシステム10(10a~10c)のコントローラ20(20a~20c)において、図18に示すような統合制御処理のアルゴリズムを構成することにより、交流モータ50の運転状況に応じた電圧振幅最小制御と電流振幅最小制御の連携や、前述の改変例1,2に対するそれぞれの前提条件に適合した制御の振り分けを可能にした。
【0139】
なお、コントローラ20a~20cによるそれぞれの機能は同じハードウェアで実現できることから、このような制御の切り換えはソフトウェア的に対応可能である。この統合制御処理は、当該処理を実現するプログラムとして、コントローラ20のEEPROM等に予め格納されている。また、この統合制御処理は、交流モータ50の運転制御の開始から運転制御の終了までの間において、コントローラ20のCPU等により所定の制御周期で繰り返し実行されている。
【0140】
図18に示すように、統合制御処理では、まずステップS501により電圧ベクトル計算処理(II)が行われる。この処理は、構成例3において図12を参照しながら説明したものである。そのため、ここでは構成例3のコントローラ20cが、電流振幅最小制御を行う準備として、電圧情報生成部21に次の処理を行わせる。電圧情報生成部21では、電圧情報生成部29からd軸電圧指令値v* dが入力されると、電圧ベクトル(vd,vq)の2変数のうちのd軸電圧vdが定まるので残りのq軸電圧vqも自動的に決まる。そのため、MTPA制御に適した電圧ベクトル72が電圧指令値v* d,qとして選定されて座標変換部22に出力される。座標変換部22は、入力された電圧指令値v* d,qをdq回転座標系からαβ静止座標系に変換してαβ軸電圧指令値v* α,βを電圧指令値出力部23に出力する。
【0141】
すると、次のステップS503により、電圧指令値出力部23がインバータ30の出力限界範囲23aの範囲内にあるか否かを判定する処理が行われる。この判定処理により、電圧ベクトル72が出力限界範囲23aの六角形の範囲内にあると判定された場合には(S503;Yes)、電圧ベクトル72の大きさを変更する必要がないため、電圧指令値出力部23はそのαβ軸電圧指令値v** α,βを相数変換部24に出力する。この場合、構成例3の電流振幅最小制御が行われる。
【0142】
続くステップS511では、相数変換部24が入力されたαβ軸電圧指令値v** α,βをαβ静止座標系の二相の電圧ベクトルをUVW静止座標系の三相の電圧ベクトルに変換した電圧指令値v* u,v,wを出力する。相数変換部24から出力された電圧指令値v* u,v,wはインバータ30に入力される。インバータ30では電圧指令値v* u,v,wに従ったスイッチング動作が行われてそれにより生成された交流電圧vu,v,wが交流モータ50に供給される。
【0143】
一方、ステップS503の判定処理により、電圧ベクトル72が出力限界範囲23aの六角形の範囲内にない(範囲外にある)と判定された場合には(S503;No)、電圧指令値出力部23はその電圧ベクトル72を破棄する。
【0144】
そして、この電圧ベクトル72の破棄をトリガーにして、統合制御処理では、ステップS505により電圧ベクトル計算処理(I)が行われる。この処理は、構成例1において図4(A)を参照しながら説明したものである。そのため、ここでは構成例1のコントローラ20aが、電圧振幅最小制御を行う準備として、電圧情報生成部21が入力されたトルク微分指令値τdot*に対して電圧振幅が最小になる電圧ベクトル71を電圧指令値v* d,qとして選定する処理が行われる。選定されたベクトル71の電圧指令値v* d,qは、座標変換部22によりαβ軸電圧指令値v* α,βに変換された後、電圧指令値出力部23に出力される。
【0145】
すると、次のステップS507により、電圧指令値出力部23がインバータ30の出力限界範囲23aの範囲内にあるか否かの判定処理を行い、電圧ベクトル71が出力限界範囲23aの六角形の範囲内にあると判定された場合には(S507;Yes)、電圧ベクトル71の大きさを変更する必要がないため、電圧指令値出力部23はそのαβ軸電圧指令値v** α,βを相数変換部24に出力する。この場合、構成例1の電圧振幅最小制御が行われる。ステップS511の電圧指令値出力処理では前述と同様の処理が行われて交流電圧vu,v,wが交流モータ50に供給される。
【0146】
一方、ステップS507の判定処理により、電圧ベクトル71が出力限界範囲23aの六角形の範囲内にない(範囲外にある)と判定された場合には(S507;No)、さらにステップS509による判定処理が行われる。
【0147】
ステップS509では、トルク微分値直線91と出力電圧限界線(出力限界範囲23aを表す六角形の辺)が交差するか否かを判定する処理が行われる。この処理は、前述した「改変例1,2の前処理」である。そのため、これらが交差すると電圧指令値出力部23により判定された場合には(S509;Yes)、両者は1つ以上の交点を有することになるので、交点を有する場合を前提にした改変例1の電圧指令値修正処理(I)に移行する(S200)。これに対して、トルク微分値直線91と出力電圧限界線が交差しないと電圧指令値出力部23により判定された場合には(S509;No)、両者の交点はないことになるから、交差しない(交点がない)場合を前提にした改変例2の電圧指令値修正処理(II)に移行する(S300)。
【0148】
改変例1の電圧指令値修正処理(I)(S200)や、改変例2の電圧指令値修正処理(II)(S300)については既に説明しているので、ここでは説明を省略する。これらの電圧指令値修正処理(I),(II)(S200,S300)によって、電圧ベクトル71等が出力限界範囲23aの六角形に収まらない場合においても、六角形の辺や頂点上の大きさの電圧ベクトル73,74,75に変更される(図14,16)。これにより、このような場合には、いわゆるワンパルス制御(1パルス駆動)が行われる。
【0149】
コントローラ20a~20cによる統合制御処理における本電圧ベクトル制御を計算機シミュレーションした結果として、図19,20に示す出力トルク等の応答特性やインバータ30に出力されるU,V,W相の電圧指令値v* u,v,wを得ているので、それについて説明する。なお、シミュレーションの条件は、図19図20で異なる。
【0150】
図19に示す結果のシミュレーション条件
・交流モータ50の回転速度:1800min-1(一定)
・トルク制御部の制御ゲインK:5000rad/sec
・トルク指令値τ*:0N・mから1N・mまで増加
【0151】
図20に示す結果のシミュレーション条件
・交流モータ50の回転速度:1000min-1(一定)
・トルク制御部の制御ゲインK:5000rad/sec
・トルク指令値τ*:0N・mから4N・mまで増加
【0152】
まず、図19に示すシミュレーション結果においては、トルク指令値τ*に対する出力トルクτは比較的速く立ち上がっており(図19(A))、しかも制御開始から約500μsecの期間ではU,V,W相の電圧指令値v* u,v,wの波形が正側最大電圧や負側最小電圧に貼り付いた状態を維持していることから、この間は改変例2によりワンパルス制御が行われていたことがわかる(図19(B))。一時的に過変調領域を使用するトルク指令値τ*にしたことから、改変例2によりワンパルス制御が行われていたと推測される。なお、出力トルクτにオーバーシュートが生じていない(図19(A)に示す破線楕円内)。また、改変例2→構成例1への制御の切り換えタイミングにおいても、出力トルクτやトルク推定値τhatの波形からノイズ等が生じていないことを確認した。
【0153】
なお、比較例の電流ベクトル制御を行った場合のシミュレーション結果が図25に示されているが、この比較例のシミュレーション条件は、次のように図19に示す結果のシミュレーション条件と同様に設定されている。よって、両者は比較することができる。
【0154】
比較例(図24,25)のシミュレーション条件は次の通りである。
・交流モータ50の回転速度:1800min-1(一定)
・ACR(電流制御器)の応答周波数:5000rad/sec
・トルク指令値τ*:0N・mから1N・mまで増加
【0155】
したがって、図19(A)と図25(A)の両シミュレーション結果を見比べると、出力トルクτおよびトルク推定値τhatについては、比較例の電流ベクトル制御ではオーバーシュートの発生が明らかにわかる(図25(A)に示す破線楕円内)。しかし、改変例3や構成例1による本電圧ベクトル制御では、前述のように一時的に過変調領域を使用したことによりαβ軸電圧指令値v** α,βが制限されてもそれに起因したオーバーシュートは出力トルクτ等に生じていないことが、図19(A)に示す破線楕円内において確認できる。
【0156】
また、図20に示すシミュレーション結果からわかるように、シミュレーション条件が異なる場合においても、図19のシミュレーション結果と同様に、一時的に過変調領域を使用したことによりαβ軸電圧指令値v** α,βが制限されてもそれに起因したオーバーシュートは出力トルクτ等に生じていないことが、図20(A)に示す破線楕円内において確認できる。また、図19,20に示すシミュレーション結果から、改変成2→構成例1への制御の切り換え時にノイズや振動等が発生することなくシームレスに移行していることを確認できる。
【0157】
このように本改変例3では、コントローラ20(20a~20c)において、統合制御処理を行うことにより、交流モータ50の運転状況に応じて、構成例1の電圧振幅最小制御と構成例3の電流振幅最小制御とを連携させたり、改変例1と改変例2をそれぞれの前提条件に適合させて制御を振り分けたりすることによって、本電圧ベクトル制御に関する様々なアルゴリズム(構成例1~3、改変例1、2)を交流モータ50の運転制御中において切り換えることが可能になる。これにより、例えば、交流モータ50の起動後から出力トルクが要求トルクに到達するまでは構成例1の電圧振幅最小制御で交流モータ50を運転し、出力トルクが要求トルクに到達した後は構成例3の電流振幅最小制御に切り換えて電力効率良く交流モータ50を運転することができる。
【0158】
[制御系要素の構成例4]
続いてモータシステム10(10d)の制御系要素の構成例4(以下「構成例4」という)を図21,22に基づいて説明する。これまでに説明した構成例1~3のモータシステム10(10a~10c)を構成するコントローラ20(20a~20c)においては、インバータ30から交流モータ50に流れる電流(モータ電流)の過電流保護について何ら言及していなかった。しかし、過電流保護は、実機においては不可欠な機能である。そこで、構成例4のコントローラ20dでは、過電流保護機能を有する構成を採用した。なお、構成例4の過電流保護機能は、例えば、構成例1~3等に追加されて使用されるものである。
【0159】
図21に示すように、構成例4のモータシステム10dでは、コントローラ20dは、電圧情報生成部21、座標変換部22、電圧指令値出力部23、相数変換部24、減算部25’、トルク制御部26’の機能を有する。つまり、構成例2のモータシステム10b(図6)は、電圧情報生成部21等に加えて、減算部25とトルク制御部26も有することから、構成例4のモータシステム10dは、構成例2のモータシステム10bとほぼ同じように構成されていることになる。
【0160】
しかし、構成例4のモータシステム10dでは、外部等から入力される|ilim|2と電流センサ41~43から得られたモータ電流|i|2とが減算部25’に入力されて、減算部25’からは電流リミット値|ilim|2に対するモータ電流|i|2の電流偏差(|ilim|2-|i|2)が演算されて出力される。ここでは、電流リミット値|ilim|2とモータ電流|i|2を二乗形式で表現しているが、単に計算処理を簡易にするためである。電流センサ41~43から得られるU,V,W相のモータ電流iu,v,wからモータ電流|i|を算出するために二乗和平方根を計算する必要があるので、平方根の計算を省略して演算処理を簡易化する理由から、減算部25’では二乗形式で演算している。
【0161】
減算部25’から出力された電流偏差(|ilim|2-|i|2)は、制御ゲインKiを有するトルク制御部26’に入力される。トルク制御部26’は、入力された電流偏差(|ilim|2-|i|2)を制御ゲインKi倍したもの(Ki(|ilim|2-|i|2))をトルク微分指令値τdot*の代わりに電圧情報生成部21に入力する。
【0162】
ただし、トルク制御部26’からτdot*=Ki(|ilim|2-|i|2)が電圧情報生成部21に入力される条件は、交流モータ50に流れているモータ電流|i|が電流リミット値ilim以上に達した場合(|ilim|2≦|i|2)である。そのため、これ以外の場合、即ちモータ電流|i|が電流リミット値ilim未満である場合には、電圧情報生成部21には、モータシステム10a~10cのコントローラ20a~20cの構成と同様にトルク微分指令値τdot*が入力される。
【0163】
つまり、図21に示されているコントローラ20dのブロック線図は、過電流保護機能が働いている場合における制御系要素が表されている。このようにコントローラ20dが構成されることよって、例えば、電流リミット値ilimが8A(アンペア)に設定されている場合には、交流モータ50に8A以上の電流が流れたことを減算部25’が検出し、その情報がトルク制御部26’に入力された場合、トルク制御部26’は、外部から入力されるトルク微分指令値τdot*に代えてτdot*=Ki(|ilim|2-|i|2)を電圧情報生成部21に入力する。これにより、電圧情報生成部21からは、モータ電流を電流リミット値ilim未満に下げる制御が行われるため、当該交流モータ50に流れる電流は、電流リミット値ilim未満に低下する。
【0164】
コントローラ20dによる交流モータ50の過電流保護機能を計算機シミュレーションした結果として、図21に示す出力トルク等の応答特性や交流モータ50のモータ電流|i|を得ているので、それについて説明する。シミュレーションの条件は、次の通りである。
【0165】
・交流モータ50の回転速度:3600min-1(一定)
・トルク制御部の制御ゲインK:10rad/sec
・トルク指令値τ*:2N・mから6N・mまで増加
・電流リミット値ilim:8A
【0166】
このシミュレーションでは、交流モータ50の仕様から、出力トルクが6N・m以上に達すると8A以上のモータ電流|i|が流れることが予めわかっていたため、トルク指令値τ*を2N・mから6N・mまで増加させた。制御開始時は2N・mで運転しそのときのモータ電流|i|は約7Aであることが、図22(C)からわかる。その後、トルク指令値τ*を6N・mまで増加させると、それに追従して、一旦、モータ電流|i|が8Aを超えるが、直ぐにトルク制御部26’(電流リミッタ)が機能して、交流モータ50の運転制御がトルク制御モードから電流振幅制御モードに切り換わっていることが確認できる。つまり、構成例1によるトルク制御から構成例4による電流振幅制御に運転制御を変更したことがわかる(図22(C)参照)。電流制御モードにおいては、モータ電流|i|が約8Aに制御されて維持されているため、交流モータ50の出力トルクτは制御されていないが、約3N・mを保っていることがわかる。
【0167】
構成例4では、コントローラ20が本来備えている電圧指令値出力部23による出力限界範囲23aの範囲内に電圧ベクトルを制御する電圧に関するリミッタと、上述した減算部25’とトルク制御部26’により機能する電流に関するリミッタと、の2つのリミッタを有する。なお、図22に示すシミュレーション結果から、構成例1→構成例4への制御の切り換え時にノイズや振動等の大きなショックが発生することなくシームレスに移行していることを確認できる。
【0168】
このように構成例4では、交流モータ50に流れるモータ電流|i|が所定の電流リミット値(閾値)ilim以上(または超えて)流れていた場合には、それまで行われていた本電圧ベクトル制御による交流モータ50のトルク制御から、交流モータ50の電流制御に切り換える。この電流制御では、モータ電流|i|が所定の電流リミット値またはそれに近い値になるように制御する。これにより、所定の電流リミット値ilim以上または超えるモータ電流|i|が交流モータ50に流れた場合にはモータ電流|i|を所定の電流リミット値に下げるので、過電流に起因した故障や障害から交流モータ50を保護することが可能になる。
【0169】
なお、上述した本実施形態では、交流電動機の回転座標系として、回転座標系の二軸が「交流電動機を構成する回転子の磁極方向に平行なd軸とこのd軸に直交するq軸である場合」、つまり回転座標系がdq回転座標系である場合を例示して説明したが、交流電動機の座標系であれば、最大トルク制御座標系やその他、任意回転座標系でもよい。また、静止座標系(固定座標系)でもよい。例えば、図23(A)に示すように、γδ軸の任意回転座標系がdq回転座標系(同図中薄墨色で記載)に対して位相差θだけ進んでdq回転座標系と共に、電動機の回転子に同期して回転する場合においては、次式(16)で表される回転座標変換式のvd,vqを前述した式(7)に代入して整理することによって、次式(17)が得られる。
【0170】
【数16】
【数17】
この式(17)は、トルク微分値τdotの式として任意回転座標の電圧vγ,vδで表現されているので、この式(17)を解くことにより、任意回転座標系上のγ軸電圧指令値v* γ,δ軸電圧指令値v* δを求めることが可能になる。つまり、この式(17)の逆関数に基づく演算処理を電圧情報生成部が行うことにより、当該任意回転座標系の直交二軸に対応する回転座標系電圧情報をトルク微分値に基づいて生成することが可能になる。したがって、最大トルク制御座標系等を含む交流電動機の任意回転座標系を用いる場合においても、上述の本実施形態と同様に、三相交流モータに対するトルク応答管理型の電圧ベクトル制御を行うことができる。
【0171】
この考え方に基づいて、任意回転座標系の特殊な例として、θ=-θreとおくことで、交流電動機の静止座標(固定座標)についても、任意回転座標系の場合と同様にトルク微分値τdotの式を得ることが可能になる。θreは、交流モータ50の電気角である。次式(18)で表される回転座標変換式のvd,vqを前述した式(7)に代入して整理することによって、次式(19)が得られる。
【0172】
【数18】
【数19】
この次式(19)を解くことにより、静止座標系上のα軸電圧指令値v* α,β軸電圧指令値v* βを求めることが可能になる。以上から、交流電動機の回転座標系は、静止座標(固定座標)に置き換えてもよいことが理解できる。つまり、この式(19)の逆関数に基づく演算処理を電圧情報生成部が行うことにより、静止座標系の直交二軸に対応する静止座標系電圧情報をトルク微分値に基づいて生成することが可能になる。したがって、交流電動機の静止座標系を用いる場合においても、上述の本実施形態と同様に、三相交流モータに対するトルク応答管理型の電圧ベクトル制御を行うことができる。
【0173】
また、上述した本実施形態では、交流電動機として、IPMSMの交流モータ50を制御する制御装置や制御方法について説明したが、同期式の交流電動機であれば、例えば、表面構造永久磁石同期電動機(SPMSM:Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)やリラクタンスモータを上述した制御装置や制御方法により制御することも可能である。また本実施形態では、三相交流電力が供給されて駆動する三相交流モータ(モータ150)を制御する場合を例示して説明したが、交流電動機であれば、例えば、二相、五相や七相等の多相交流モータを上述した制御装置や制御方法により制御することも可能である。
【0174】
なお、二相交流モータの場合には、相数変換を行う必要がないため、相数変換部24は不要になり、電圧指令値出力部23からインバータ30にα軸電圧指令値v** αとβ軸電圧指令値v** βを直接、出力することが可能になる。また、五相交流モータや七相交流モータの場合には、相数変換部24に代えて、α軸電圧指令値v** αとβ軸電圧指令値v** βを、五相や七相の電圧指令値に変換する相数変換部が必要になる。また、三相交流モータの場合には正六角形の出力限界範囲23aは、モータの相数に対応して、二相の場合には正四角形、五相の場合には正十角形、七相の場合には正十四角形というように、相数の二倍の頂点を有する正多角形になる。
【0175】
さらに、上述した本実施形態では、交流電動機の制御装置として、マイコンボードを用いてコントローラ20を構成する場合を例示して説明したが、電圧情報生成部21、座標変換部22、電圧指令値出力部23、相数変換部24等の各機能をハードウェア的に実現するロジック回路、ゲートアレイ、PLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いてコントローラ20を構成してもよい。
【0176】
また、上述した本実施形態では、交流電動機の出力軸に発生するトルク(出力トルク)値の代わりに、コントローラ20により計算して求めたトルク推定値τhatを減算部25に入力してトルク指令値τ*との差(τ*-τhat)を出力トルクτの推定偏差として減算部25から出力する構成を例示して説明したが、例えば、出力トルクを計測可能なトルクセンサを交流モータ50のシャフト(出力軸)に取り付け、当該トルクセンサから出力される出力トルクτの情報を減算部25に入力するように構成してもよい。出力トルクτの高精度な情報をリアルタイムに減算部25に入力できるので、出力トルクτの偏差として推定値ではなく制御対象のリアルな偏差情報を制御に用いることが可能になる。
【0177】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、上述した具体例を様々に変形または変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。さらに、本明細書または図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つ。なお、[符号の説明]の欄における括弧内の記載は、上述した本実施形態で用いた用語と、特許請求の範囲に記載の用語との対応関係を明示し得るものである。
【符号の説明】
【0178】
10,10a,10b,10c,10d…モータシステム
20,20a,20b,20c,20d…コントローラ(交流電動機の制御装置)
21…電圧情報生成部
22…座標変換部
23…電圧指令値出力部
23a…出力限界範囲(出力限界電圧の範囲)
24…相数変換部
25,25’,27…減算部
26,26a…トルク制御部
28…電流制御部
29…電圧情報生成部
30…インバータ
31~36…IGBT
41~43…電流センサ
45…回転角センサ
50…交流モータ(交流電動機)
51…座標変換要素
52…関数要素
53…積分要素
71,71a,71b,71c,72…電圧ベクトル
73~75…電圧ベクトル(変更後電圧ベクトル)
80a,80b…交点
81,82…端点
91~94…トルク微分値直線(所定関数で表される直線)
d…d軸電流
* d…d軸電流指令値
q…q軸電流
* q…q軸電流指令値
d…d軸電圧
* d…d軸電圧指令値(回転座標系電圧情報)
q…q軸電圧
* q…q軸電圧指令値(回転座標系電圧情報)
u,v,w…交流電圧
* u,v,w…UVW相電圧指令値(交流電動機に出力すべき交流電圧の電圧指令値)
* α…α軸電圧指令値(静止座標系電圧情報)
** α…α軸電圧指令値(電圧指令値)
* β…β軸電圧指令値(静止座標系電圧情報)
** β…β軸電圧指令値(電圧指令値)
τ…出力トルク
τ*…トルク指令値(交流電動機に要求される出力トルク、制御指令値)
τdot…トルク微分値(交流電動機に要求される出力トルクの時間微分値)
τdot*…トルク微分指令値(指令値として入力されるトルク微分値、制御指令値)
θrm…回転角(機械角)
ωre…角速度
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