(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184435
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】熱接着性複合繊維及びカード式不織布
(51)【国際特許分類】
D01F 8/06 20060101AFI20221206BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20221206BHJP
【FI】
D01F8/06
D04H1/541
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092281
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】塚原 幸哲
【テーマコード(参考)】
4L041
4L047
【Fターム(参考)】
4L041BA21
4L041BA59
4L041BC05
4L041BD04
4L041BD11
4L041CA37
4L041CA38
4L041CB12
4L041DD05
4L041DD21
4L047AA14
4L047AA27
4L047AA29
4L047AB02
4L047BA05
4L047BA09
4L047BB09
(57)【要約】
【課題】伸度が高く、伸長後収縮率が小さく、且つ、短繊維の状態でカード通過性が良好な熱接着性複合繊維を提供することを提供すること。
【解決手段】本発明は、捲縮を有し、未延伸の鞘芯型熱接着性複合繊維であって、伸度が、500%以上であり、芯部が、ポリプロピレン系樹脂を含む第1の樹脂材料からなり、鞘部が、ポリエチレン系樹脂を含む第2の樹脂材料からなり、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下における前記第1の樹脂材料のメルトフローレートが、40g/10分以上80g/10分以下である、熱接着性複合繊維を提供する。また、本発明は、当該熱接着性複合繊維を含有するカード式不織布も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
捲縮を有し、未延伸の鞘芯型熱接着性複合繊維であって、
伸度が、500%以上であり、
芯部が、ポリプロピレン系樹脂を含む第1の樹脂材料からなり、
鞘部が、ポリエチレン系樹脂を含む第2の樹脂材料からなり、
温度230℃及び荷重2.16kgの条件下における前記第1の樹脂材料のメルトフローレートが、40g/10分以上80g/10分以下である、
熱接着性複合繊維。
【請求項2】
繊度が、4.0dtex以下である、請求項1に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項3】
温度230℃及び荷重2.16kgの条件下における前記第1の樹脂材料のメルトフローレートに対する、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下における前記第2の樹脂材料のメルトフローレートの比が、0.50以上1.40以下である、請求項1又は2に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項4】
前記第2の樹脂材料が、ポリオレフィンワックスをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項5】
前記ポリプロピレン系樹脂が、アイソタクチックホモポリプロピレンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項6】
前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項7】
捲縮数が、19個/25mm以上40個/25mm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項8】
捲縮弾性率が、65%以上85%以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項9】
カード式不織布用材料である、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱接着性複合繊維。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の熱接着性複合繊維を含有する、カード式不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱接着性複合繊維及びカード式不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
鞘芯型の熱接着性複合繊維からなる短繊維(ステープルファイバー)は、不織布の材料として用いられうる。当該熱接着性複合繊維の製造工程において、延伸処理が行われる場合がある。延伸処理は、繊維の強度とヤング率を向上させうる。一方で、延伸処理によって、鞘部に含まれる熱接着性樹脂の分子鎖が配向して、熱接着性樹脂の融点が上昇する場合がある。その結果、不織布製造時における熱接着温度が上昇し、得られる不織布の嵩高性及び柔軟性が低下する場合がある。そのため、延伸処理を行わずに熱接着性複合繊維を製造する技術が開発された。しかしながら、延伸処理を経ずに製造されたステープルファイバーは、腰が乏しく、カード式不織布製造時においてカードに掛かりにくい(カード通過性が悪い)という問題があった。
【0003】
そこで、上記カード通過性を改善可能な技術が検討され、提案されている。例えば、下記特許文献1には、繊維形成性成分である第一成分と第二成分とを含む熱接着性複合繊維であって、前記第二成分は前記第一成分よりも融点が10℃以上低く、前記第二成分が繊維表面の50%以上を占めており、前記熱接着性複合繊維は実質上未延伸で、捲縮及び/又は切断されており、且つ特定の要件を満たすことを特徴とする熱接着性複合繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱接着性複合繊維を用いて形成された不織布は、様々な用途で使用され、その用途の11つが複合伸縮シートである。複合伸縮シートは、例えば、不織布及び弾性繊維などによって形成され、おむつなどのパンツ型吸収性物品に用いられうる。近年、複合伸縮シートの分野において、伸びがよく且つ伸びた後に元の形状に戻りにくいカード式不織布のニーズがある。このようなカード式不織布を実現するために、伸びがよい上に伸びた後に収縮しにくく(すなわち伸長後収縮率が小さく)、且つ、カード通過性が良好な短繊維が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、伸度が高く、伸長後収縮率が小さく、且つ、短繊維の状態でカード通過性が良好な熱接着性複合繊維を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、捲縮を有し、未延伸の鞘芯型熱接着性複合繊維であって、伸度が、500%以上であり、芯部が、ポリプロピレン系樹脂を含む第1の樹脂材料からなり、鞘部が、ポリエチレン系樹脂を含む第2の樹脂材料からなり、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下における前記第1の樹脂材料のメルトフローレートが、40g/10分以上80g/10分以下である、熱接着性複合繊維を提供する。
前記熱接着性複合繊維において、繊度が、4.0dtex以下であってよい。
前記熱接着性複合繊維において、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下における前記第1の樹脂材料のメルトフローレートに対する、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下における前記第2の樹脂材料のメルトフローレートの比が、0.50以上1.40以下であってよい。
前記第2の樹脂材料が、ポリオレフィンワックスをさらに含んでよい。
前記ポリプロピレン系樹脂が、アイソタクチックホモポリプロピレンであってよい。
前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレンであってよい。
前記熱接着性複合繊維において、捲縮数が、19個/25mm以上40個/25mm以下であってよい。
前記熱接着性複合繊維において、捲縮弾性率が、65%以上85%以下であってよい。
前記熱接着性複合繊が、カード式不織布用材料であってよい。
また、本発明は、前記熱接着性複合繊維を含有する、カード式不織布も提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、伸度が高く、伸長後収縮率が小さく、且つ、短繊維の状態でカード通過性が良好な熱接着性複合繊維が提供される。なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、本発明の範囲がこれらの実施形態のみに限定されることはない。
【0010】
<1.熱接着性複合繊維>
【0011】
1-1.構造
【0012】
本発明の一実施形態に係る熱接着性複合繊維は、鞘芯型熱接着性複合繊維である。すなわち、当該熱接着性複合繊維は、内側に位置する芯部と、芯部の外側に位置する鞘部と、によって構成されている。鞘芯型には、一般に、芯部が繊維の中心部に位置する同心鞘芯型と、芯部が中心部からずれている偏心鞘新型がある。本実施形態の熱接着性複合繊維は、好ましくは同心鞘新型である。同心鞘芯型であることが、後述する捲縮数の数値範囲を調整するために適している。
【0013】
1-2.芯部
【0014】
本実施形態の熱接着性複合繊維において、芯部は、ポリプロピレン系樹脂を含む第1の樹脂材料からなる。本明細書において「ポリプロピレン系樹脂」は、全構成単位100モル%中、プロピレンに由来する構成単位を50モル%以上有する重合体を意味する。当該ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、及びプロピレンと他の単量体との共重合体が挙げられる。プロピレンと他の単量体との共重合体は、例えば、ブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)、又はランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)であってよい。プロピレンと共重合される他の単量体としては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、2-メチル-1-プロペン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、及び5-メチル-1-ヘキセンなどから選択される1つ又は2つ以上の組合せが挙げられる。
【0015】
上記第1の樹脂材料に含まれるポリプロピレン系樹脂は、例えば上記で述べたポリプロピレン系樹脂のうちの1つ又は2つ以上の組合せであってよい。上記第1の樹脂材料に含まれるポリプロピレン系樹脂は、好ましくは、アイソタクチックホモポリプロピレン、アイソタクチックランダムポリプロピレン、及びアイソタクチックブロックポリプロピレンから選択される少なくとも1つであり、より好ましくは、アイソタクチックホモポリプロピレンである。このような第1の樹脂材料であることが、熱接着性複合繊維の伸長後収縮率低下及びカード通過性向上のために好ましい。
【0016】
上記第1の樹脂材料に含まれるポリプロピレン系樹脂のQ値は、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、さらにより好ましくは3.2以下である。これにより、熱接着性複合繊維の伸長後収縮率が効果的に低減されうる。当該Q値は、例えば、2.0以上、2.5以上、又は2.8以上であってよい。Q値は、具体的には、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)である。Q値は、分子量分布の判断指標であり、Q値が小さいほど分子量分布が狭いと判断されうる。上記ポリプロピレン系樹脂の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、クロス分別クロマトグラフ装置(CFC)、及びフーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析(FT-IR)を用い、オルトジクロロベンゼン(ODCB)を測定溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められる。
【0017】
上記第1の樹脂材料は、上記ポリプロピレン系樹脂以外の他の成分を含んでよい。当該他の成分は、例えば、上記ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂、及び添加剤などであってよい。当該樹脂及び添加剤は、当技術分野において既知の樹脂及び添加剤であってよい。上記第1の樹脂材料は、好ましくは、上記ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂を含まないものであり、より好ましくは、上記ポリプロピレン系樹脂以外の成分を含まないものである。すなわち、上記第1の樹脂材料は、より好ましくは、上記ポリプロピレン系樹脂からなる。
【0018】
特に好ましい実施態様において、上記芯部は、好ましくは、ポリプロピレン系樹脂からなり、より好ましくは、アイソタクチックホモポリプロピレン、アイソタクチックランダムポリプロピレン、及びアイソタクチックブロックポリプロピレンから選択される1つからなり、さらにより好ましくは、アイソタクチックホモポリプロピレンからなる。芯部がこのような樹脂材料からなることが、熱接着性複合繊維の伸長後収縮率低下及びカード通過性向上のために好ましい。
【0019】
温度230℃及び荷重2.16kgの条件下における上記第1の樹脂材料のメルトフローレート(Melt Flow Rate:MFR)は、40g/10分以上80g/10分以下である。第1の樹脂材料のMFRが40g/10分未満であると、熱接着性複合繊維の伸長後収縮率を小さくすることが困難である。第1の樹脂材料のMFRが80g/10分超であると、カード通過性が良好な短繊維を得ることが困難である。第1の樹脂材料のMFRは、好ましくは45g/10分以上、より好ましくは50g/10分以上、さらにより好ましくは55g/10分以上である。第1の樹脂材料のMFRは、好ましくは75g/10分以下、より好ましくは70g/10分以下、さらにより好ましくは65g/10分以下である。第1の樹脂材料のMFRの好ましい数値範囲は、上記で述べた上限値及び下限値から選択された組合せであってよく、好ましくは45g/10分以上75g/10分以下、より好ましくは50g/10分以上70g/10分以下、さらにより好ましくは55g/10分以上65g/10分以下である。熱接着性複合繊維の伸長後収縮率を低下させ、且つ、カード通過性が良好な短繊維を得るために、このようなMFRの数値範囲が好ましい。
【0020】
上記第1の樹脂材料において、樹脂成分を含有する構成成分が1種類である場合、第1の樹脂材料のMFRは、JIS K7210-1:2014のA法に従って、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下において測定された当該樹脂成分のMFRの値である。
【0021】
上記第1の樹脂材料において、樹脂成分を含有する構成成分が2種類以上である場合、すなわち上記第1の樹脂材料がブレンド樹脂である場合、第1の樹脂材料のMFRは、ブレンド樹脂のMFRを算出するための下記式によって求められる値である。
【0022】
【数1】
(上記式中、w
i(i=1,2,・・・,n)は構成成分iの重量分画、MFR
iは構成成分iのメルトフローレート、nはブレンド樹脂中の構成成分の総数であり、且つ、w
1+w
2+・・・+w
n=1である。)
【0023】
なお、上記「構成成分i」は、樹脂成分を含有する各構成成分である。上記「構成成分iのメルトフローレート」は、JIS K7210のA法に従って、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下において測定された各構成成分のメルトフローレートの値である。
【0024】
1-3.鞘部
【0025】
本実施形態の熱接着性複合繊維において、鞘部は、ポリエチレン系樹脂を含む第2の樹脂材料からなる。本明細書において「ポリエチレン系樹脂」は、全構成単位100モル%中、エチレンに由来する構成単位を50モル%以上有する重合体を意味する。当該ポリエチレン系樹脂としては、例えば、エチレン単独重合体、及びエチレン/α-オレフィン共重合体が挙げられる。エチレンと共重合されるα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、及び1-オクテンなどから選択される1つ又は2つ以上の組合せが挙げられる。また、ポリエチレン系樹脂の種類としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などが挙げられる。
【0026】
上記第2の樹脂材料に含まれるポリエチレン系樹脂は、例えば上記で述べたポリエチレン系樹脂のうちの1つ又は2つ以上の組合せであってよい。上記第2の樹脂材料に含まれるポリエチレン系樹脂は、好ましくは、高密度ポリエチレンである。本明細書において「高密度ポリエチレン」は、密度が942kg/m3以上のポリエチレンを意味する。
【0027】
上記ポリエチレン系樹脂の密度は、好ましくは942kg/m3以上、より好ましくは945kg/m3以上、さらにより好ましくは950kg/m3以上、特に好ましくは955kg/m3以上、又は960kg/m3以上である。当該ポリエチレン系樹脂の密度は、好ましくは970kg/m3以下、より好ましくは965kg/m3以下である。当該ポリエチレン系樹脂の密度の好ましい数値範囲は、上記で述べた上限値及び下限値から選択された組合せであってよく、好ましくは942kg/m3以上970kg/m3以下、より好ましくは945kg/m3以上970kg/m3以下、さらにより好ましくは950kg/m3以上970kg/m3以下、特に好ましくは955kg/m3以上970kg/m3以下、960kg/m3以上970kg/m3以下、又は960kg/m3以上965kg/m3以下である。熱接着性複合繊維の伸長後収縮率を低下させ、且つ、カード通過性が良好な短繊維を得るために、このような密度の数値範囲が好ましい。
【0028】
上記第2の樹脂材料は、上記ポリエチレン系樹脂以外の原料をさらに含んでよく、好ましくはポリオレフィンワックスをさらに含む。当該ポリオレフィンワックスは、例えば、α-オレフィンの単独重合体のワックスであってもよく、2種以上のα-オレフィンの共重合体のワックスであってもよい。当該α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、及び1-オクテンなどが挙げられる。
【0029】
上記ポリオレフィンワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリブテンワックス、ポリエチレン/ポリプロピレンワックス、ポリエチレン/ポリブチレンワックス、及びポリエチレン/ポリブテンワックスなどが挙げられる。上記第2の樹脂材料に含まれるポリオレフィンワックスは、好ましくはα-オレフィンの単独重合体のワックス、より好ましくはポリエチレンワックス、さらにより好ましくは高融点ポリエチレンワックス、特に好ましくはメタロセン系高融点ポリエチレンワックス(メタロセン触媒によって重合された高融点ポリエチレンワックス)である。このようなポリオレフィンワックスは、熱接着性複合繊維の伸長後収縮率をより効果的に低下させうる。本明細書において「高融点ポリエチレンワックス」は、融点が110℃以上のポリエチレンワックスを意味する。
【0030】
上記ポリオレフィンワックスの融点は、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、さらにより好ましくは120℃以上である。ポリオレフィンワックスの融点は、好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下、さらにより好ましくは130℃以下である。ポリオレフィンワックスの融点の好ましい数値範囲は、上記で述べた上限値及び下限値から選択された組合せであってよく、好ましくは110℃以上140℃以下、より好ましくは115℃以上135℃以下、さらにより好ましくは120℃以上130℃以下である。当該融点が当該数値範囲内にあることが、熱接着性複合繊維の伸長後収縮率の低下に寄与しうる。
【0031】
上記ポリオレフィンワックスの密度は、好ましくは950kg/m3以上、より好ましくは960kg/m3以上、さらにより好ましくは970kg/m3以上である。ポリオレフィンワックスの密度は、好ましくは995kg/m3以下、より好ましくは990kg/m3以下である。ポリオレフィンワックスの密度の好ましい数値範囲は、上記で述べた上限値及び下限値から選択された組合せであってよく、好ましくは950kg/m3以上995kg/m3以下、より好ましくは960kg/m3以上995kg/m3以下、さらにより好ましくは970kg/m3以上995kg/m3以下、特に好ましくは970kg/m3以上990kg/m3以下である。当該密度が当該数値範囲内にあることが、熱接着性複合繊維の伸長後収縮率の低下に寄与しうる。
【0032】
上記ポリオレフィンワックスの粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上、さらにより好ましくは3500以上である。ポリオレフィンワックスの粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは6000以下、より好ましくは500以下、さらにより好ましくは4500以下である。ポリオレフィンワックスの粘度平均分子量(Mv)の好ましい数値範囲は、上記で述べた上限値及び下限値から選択された組合せであってよく、好ましくは2000以上6000以下、より好ましくは3000以上5000以下、さらにより好ましくは3500以上4500以下である。当該粘度平均分子量(Mv)が当該数値範囲内にあることが、熱接着性複合繊維の伸長後収縮率の低下に寄与しうる。
【0033】
上記第2の樹脂材料における上記ポリオレフィンワックスの含有割合は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、さらにより好ましくは5.0質量%以上、特に好ましくは8.0質量%以上である。これにより、熱接着性複合繊維の伸長後収縮率がより小さくなりうる。ポリオレフィンワックスの含有割合は、好ましくは18.0質量%以下、より好ましくは15.0質量%以下、さらにより好ましくは12.0質量%以下である。これにより、溶融紡糸時に樹脂の溶融張力が過度に低下しにくくなる。その結果、糸揺れによる繊度斑の増大が防止され、且つ、紡糸安定性が向上されうる。ポリオレフィンワックスの含有割合の好ましい数値範囲は、上記で述べた上限値及び下限値から選択された組合せであってよく、好ましくは1.0質量%以上18.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以上15.0質量%以下、さらにより好ましくは5.0質量%以上15.0質量%以下、特に好ましくは8.0質量%以上15.0質量%以下、又は8.0質量%以上12.0質量%以下である。
【0034】
上記第2の樹脂材料は、上記ポリエチレン系樹脂及び上記ポリオレフィンワックス以外の成分をさらに含んでよく、例えば添加剤を含んでよい。当該添加剤は、当技術分野において既知のものであってよい。上記第2の樹脂材料は、好ましくは、上記ポリエチレン系樹脂以外の樹脂及び上記ポリオレフィンワックス以外のワックスを含まないものであり、より好ましくは、上記ポリエチレン系樹脂及び上記ポリエチレンワックス以外の成分を含まないものである。すなわち、上記第2の樹脂材料は、より好ましくは、上記ポリエチレン系樹脂からなり、又は、上記ポリエチレン系樹脂及び上記ポリオレフィンワックスからなり、さらにより好ましくは、上記ポリエチレン系樹脂及び上記ポリオレフィンワックスからなる。
【0035】
特に好ましい実施態様において、上記鞘部は、好ましくは、高密度ポリエチレンからなり、より好ましくは、高密度ポリエチレン及びポリエチレンワックスからなり、さらにより好ましくは、高密度ポリエチレン及び高融点ポリエチレンワックスからなり、特に好ましくは、高密度ポリエチレン及びメタロセン系高融点ポリエチレンワックスからなる。鞘部がこのような樹脂材料からなることが、熱接着性複合繊維の伸長後収縮率低下のために好ましい。
【0036】
上記第2の樹脂材料のMFRは、上記第1の樹脂材料のMFRに対する比が特定の数値範囲であることが好ましい。具体的には、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下における上記第1の樹脂材料のMFR(第1の樹脂材料のMFR)に対する、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下における上記第2の樹脂材料のMFR(第2の樹脂材料のMFR)の比(第2の樹脂材料のMFR/第1の樹脂材料のMFR)は、好ましくは0.50以上1.40以下、より好ましくは0.60以上1.30以下、さらにより好ましくは0.70以上1.20以下、特に好ましくは0.80以上1.20以下、又は0.90以上1.10以下である。当該MFRの比が当該数値範囲内にあることが、熱接着性複合繊維の伸長後収縮率の低下に寄与しうる。
【0037】
上記MFRの比が上記数値範囲内にあることによって、第2の樹脂材料のMFRを第1の樹脂材料のMFRに近付けることができる。このように、鞘部のMFRを、弾性体としての振る舞いが高い芯部のMFRに近付けることによって、紡糸段階でノズル金口から吐出される樹脂において、鞘部と芯部の応力の差が縮まる。そのため、得られる未延伸糸のひずみが小さくなる。このことが、未延伸糸である熱接着性複合繊維の伸長後収縮率を低下させることに寄与していると考えられる。
【0038】
上記第2の樹脂材料において、樹脂成分を含有する構成成分が1種類である場合、上記第2の樹脂材料のMFRは、JIS K7210のA法に従って、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下において測定された当該樹脂成分のMFRの値である。
【0039】
上記第2の樹脂材料において、樹脂成分を含有する構成成分が2種類以上である場合、すなわち上記第2の樹脂材料がブレンド樹脂である場合、第2の樹脂材料のMFRは、上記「1-2.芯部」において説明した、ブレンド樹脂のMFRを算出するための上記式によって求められる値である。ただし、上記式において、上記「構成成分iのメルトフローレート」は、JIS K7210のA法に従って、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下において測定された各構成成分のメルトフローレートの値である。
【0040】
温度190℃及び荷重2.16kgの条件下における第2の樹脂材料の好ましいMFRは、例えば、上記第1の樹脂材料のMFR及び上記MFRの比に基づいて決定されてよい。当該第2の樹脂材料のMFRは、例えば、20g/10分以上50g/10分以下、25g/10分以上45g/10分以下、又は30g/10分以上40g/10分以下であってよい。
【0041】
1-4.捲縮
【0042】
本実施形態の熱接着性複合繊維は、捲縮を有している。当該熱接着性複合繊維の捲縮数は、好ましくは19個/25mm以上40個/25mm以下、より好ましくは20個/25mm以上40個/25mm以下、さらにより好ましくは25個/25mm以上40個/25mm以下である。捲縮数が19個/25mm以上であることにより、熱接着性複合繊維の剛性が向上されうる。これにより、腰があってカード通過性より良好な短繊維が得られうる。また、熱接着性複合繊維の捲縮数が19個/25mm以上であると、当該熱接着性複合繊維から得られる短繊維を用いてウェブを作製する際に、当該短繊維の捲縮がカード工程において伸ばされにくくなる。その結果、短繊維がカード機に滞留しにくくなり、より良好なウェブが得られうる。熱接着性複合繊維の捲縮数が40個/25mm以下であると、当該熱接着性複合繊維から得られる短繊維がカードに掛かりやすくなり、また、得られる不織布の地合いがより良好となる。熱接着複合繊維の捲縮数は、JIS L1015:2010に従って測定される。
【0043】
上記熱接着性複合繊維の捲縮弾性率は、好ましくは65%以上85%以下、より好ましくは68%以上83%以下である。熱接着性複合繊維の捲縮弾性率が当該数値範囲内にあることが、当該熱接着性複合繊維の短繊維を用いたウェブの品質向上に寄与しうる。熱接着性複合繊維の捲縮弾性率は、JIS L1015:2010に従って測定される。
【0044】
1-5.延伸倍率
【0045】
本実施形態の熱接着性複合繊維は、未延伸の熱接着性複合繊維である。本明細書において「未延伸」とは、延伸処理が行われなかったこと、及び、延伸処理が行われたが繊維が実質的に延伸されなかったことを意味する。「繊維が実質的に延伸されなかった」とは、延伸倍率が1.05倍以下であったことを意味する。熱接着性複合繊維が未延伸であることが、後述する高い伸度を実現するために好ましい。
【0046】
1-6.伸度
【0047】
本実施形態の熱接着性複合繊維の伸度は、500%以上である。このように、当該熱接着性複合繊維は、伸度が高く、すなわち伸びがよい。当該伸度は、例えば、550%以上であってよい。熱接着性複合繊維の伸度は、JIS L1015:2010に従って測定される。具体的には、当該伸度は、JIS L1015:2010に従って、つかみ間隔20mm、及び引張速度20mm/minの条件下で測定された伸び率である。
【0048】
1-7.繊度
【0049】
本実施形態の熱接着性複合繊維の繊度は、好ましくは4.0dtex以下、より好ましくは3.5dtex以下、さらにより好ましくは3.3dtex以下である。これにより、当該熱接着性複合繊維の短繊維を用いた不織布の肌触りが向上されうる。熱接着性複合繊維の繊度の下限値は、紡糸性、生産性、及び用途などに応じて当業者により適宜設定されよい。当該繊度の下限値は、例えば1.0dtex以上、1.5detx以上、又は2.0dtex以上であってよい。熱接着性複合繊維の繊度は、JIS L1015:2010に記載されている振動法に従って測定される。
【0050】
1-8.伸長後収縮率
【0051】
本実施形態の熱接着性複合繊維は、伸びた後に元に戻りにくい繊維であり、すなわち伸長後収縮率が小さい繊維である。本明細書において、当該熱接着性複合繊維の伸長後収縮率は、具体的には当該熱接着性複合繊維の繊維束の伸長後収縮率であり、当該繊維束を用いて測定される値である。当該熱接着性複合繊維の繊維束の伸長後収縮率は、以下の手順によって求められる。引張試験機のチャックに熱接着性複合繊維の繊維束を挟んで、つかみ間隔を200mmとする。チャック間において、当該繊維束に、長さ方向(伸長方向)200mmの標線を記す。引張速度1000mm/minの条件で、所定の伸長率(50%、100%、又は200%)になるまで繊維束を伸長させる。伸長後の標線の長さを測定して、この長さを「伸長時の長さ」とする。チャック間を戻して繊維束を取り出し、標線の長さを測定して、この長さを「伸長回復後の長さ」とする。以下の式により、伸長後収縮率を算出する。
熱接着性複合繊維(繊維束)の伸長後収縮率(%)=(つかみ間隔(200mm)+伸長時の長さ-伸長回復後の長さ)/伸長時の長さ×100
【0052】
本実施形態の熱接着性複合繊維において、上記伸長率が50%である場合の伸長後収縮率(50%伸長時の伸長後収縮率)は、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下である。上記伸長率が100%である場合の伸長後収縮率(100%伸長時の伸長後収縮率)は、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下である。上記伸長率が200%である場合の伸長後収縮率(200%伸長時の伸長後収縮率)は、好ましくは25%以下、より好ましくは22%以下である。
【0053】
1-9.用途
【0054】
上記で述べたとおり、本実施形態の熱接着性複合繊維から得られる短繊維は、カード通過性が良好である。そのため、当該短繊維は、カード式不織布の用途に適している。すなわち、本実施形態の熱接着性複合繊維は、カード式不織布用材料に適している。
【0055】
また、上記熱接着性複合繊維は、伸度が高く且つ伸長後収縮率が小さい。そのため、当該熱接着性複合繊維を用いることにより、伸びがよく且つ伸びた後に元の形状に戻りにくいカード式不織布が得られうる。
【0056】
上記熱接着性複合繊維がカード式不織布用材料である場合、当該熱接着性複合繊維は好ましくは短繊維である。当該短繊維の繊維長は、当業者により適宜設定されてよく、例えば100mm以下であってよい。
【0057】
1-10.製造方法
【0058】
本実施形態の熱接着性複合繊維の製造方法について、以下にて一例を説明するが、当該製造方法は以下の例に限定されない。
【0059】
芯部を形成する第1の樹脂材料と、鞘部を形成する第2の樹脂材料と、を、鞘芯型の形態となるように溶融紡糸して未延伸糸を得る。当該未延伸糸を常温で1.05倍以下の延伸倍率(例えば1.01倍)にて延伸する。その後、クリンパーを用いて捲縮を付与し、緩和熱処理(乾燥温度は例えば101℃)を行う。必要に応じて、繊維を所定長に切断する。このようにして、上記熱接着性複合繊維が得られうる。
【0060】
<2.カード式不織布>
【0061】
本発明は、上記「1.熱接着性複合繊維」において説明した熱接着性複合繊維を含有する、カード式不織布も提供する。すなわち、本発明の一実施形態に係るカード式不織布に含有される熱接着性複合繊維は、上記「1.熱接着性複合繊維」において説明したとおりであり、当該説明が本実施形態にも当てはまる。
【0062】
本実施形態のカード式不織布は、上記熱接着性複合繊維から得られる短繊維(上記熱接着性複合繊維のステープルファイバー)を、カード機を使用してシート状に積層し、繊維同士を結合させて得られる不織布である。
【0063】
上記カード式不織布は、例えばエアスルー法によって得られるエアスルー不織布であってよい。当該エアスルー不織布は、例えば、カード機を使用して上記熱接着性複合繊維から得られるウェブに熱風を貫通させて、繊維を部分的に溶融し、繊維同士を接着させることによって得られてよい。
【0064】
上記カード式不織布に含有される熱接着性複合繊維は、上記「1.熱接着性複合繊維」において説明したとおり、伸度が高く且つ伸長後収縮率が小さい。そのため、本実施形態のカード式不織布は、伸びがよく且つ伸長後収縮率が小さいものでありうる。当該カード式不織布の伸長後収縮率は、以下の手順によって求められる。当該カード式不織布から幅50mm、長さ140mmのサンプルを切り出す。引張試験機のチャックに当該サンプルを挟んで、つかみ間隔を100mmとする。チャック間において、当該サンプルに、長さ方向(伸長方向)100mmの標線を記す。引張速度100mm/minの条件で、所定の伸長率(20%、30%、又は40%)になるまでサンプルを伸長させる。伸長後の標線の長さを測定して、この長さを「伸長時の長さ」とする。チャック間を戻してサンプルを取り出し、標線の長さを測定して、この長さを「伸長回復後の長さ」とする。以下の式により、伸長後収縮率を算出する。
カード式不織布の伸長後収縮率(%)=(つかみ間隔(100mm)+伸長時の長さ-伸長回復後の長さ)/伸長時の長さ×100
【0065】
上記伸長後収縮率の測定に用いられるカード式不織布は、例えば、以下のようにして得られたエアスルー不織布であってよい。熱接着性複合繊維を切断した繊維長51mmのステープルファイバーを、カード機を通して目付20g/m2のウェブを作製する。当該ウェブを、熱風ドライヤー用いて、融着温度135℃、風速2.7m/s、及び時間5secの条件で熱処理し、エアスルー不織布が得られる。
【0066】
本実施形態のカード式不織布において、上記伸長率が20%である場合の伸長後収縮率(20%伸長時の伸長後収縮率)は、好ましくは70%以下、より好ましくは68%以下である。上記伸長率が30%である場合の伸長後収縮率(30%伸長時の伸長後収縮率)は、好ましくは60%以下、より好ましくは58%以下である。上記伸長率が40%である場合の伸長後収縮率(40%伸長時の伸長後収縮率)は、好ましくは55%以下、より好ましくは52%以下である。
【実施例0067】
以下で実施例を参照して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0068】
<I.熱接着性複合繊維の製造>
【0069】
下記原料を用いて、下記製造手順に従って、熱接着性複合繊維、及び当該熱接着性複合繊維からなるステープルファイバーを製造した。
【0070】
(1)原料
【0071】
(1-1)第1の樹脂材料(芯部)の原料
[原料A1:アイソタクチックホモポリプロピレン]
プライムポリマー社製「S119」
MFR(温度230℃、荷重2.16kg):60g/10分
Q値(Mw/Mn):3.0
融点:163℃
[原料A2:アイソタクチックホモポリプロピレン]
プライムポリマー社製「Y-2005GP」
MFR(温度230℃、荷重2.16kg):20g/10分
Q値(Mw/Mn):4.8
融点:160℃
[原料A3:低結晶性ポリプロピレン]
出光興産社製「L-MODU S600」
MFR(温度230℃、荷重2.16kg):350g/10分
Q値(Mw/Mn):2.0
【0072】
(1-2)第2の樹脂材料(鞘部)の原料
[原料B1:高密度ポリエチレン(HDPE)]
旭化成社製「サンテック-HD J302」
MFR(温度190℃、荷重2.16kg):38g/10分
密度:961kg/m3
[原料B2:メタロセン系高融点ポリエチレンワックス]
三井化学社製「エクセレックス 40800」
密度:980kg/m3
融点:128℃
粘度平均分子量(Mv):4000
[原料B3:高密度ポリエチレン(HDPE)]
京葉ポリエチレン社製「S6932」
MFR(温度190℃、荷重2.16kg):20g/10分
密度:955kg/m3
融点:131℃
[原料B4:エチレン/α-オレフィン共重合体]
三井化学社製「タフマーDF8200」
MFR(温度190℃、荷重2.16kg):18g/10分
密度:885kg/m3
融点:66℃
[原料B5:直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)]
プライムポリマー社製「ULT-ZEX 15150J」
MFR(温度190℃、荷重2.16kg):15g/10分
密度:913kg/m3
融点:121℃
【0073】
(2)製造手順
【0074】
[実施例1]
芯部を形成する第1の樹脂材料として原料A1を用い、鞘部を形成する第2の樹脂材料として原料B1及びB2を用いた。第2の樹脂材料100質量%中、原料B1は90質量%、原料B2は10質量%であった。孔径0.4mmのノズルを使用し、紡糸温度280℃、引取速度400m/minにて溶融紡糸し、鞘芯型の未延伸糸を得た。当該未延伸糸を常温で延伸倍率1.01倍にて延伸した。その後、クリンパーを用いて捲縮を付与し、乾燥温度110℃にて緩和熱処理を行って、熱接着性複合繊維を得た。当該熱接着性複合繊維を切断して、51mmのステープルファイバーを得た。
【0075】
[実施例2]
第2の樹脂材料を原料B1に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、熱接着性複合繊維及び51mmのステープルファイバーを得た。
【0076】
[比較例1]
第1の樹脂材料を原料A2に変更し、第2の樹脂材料を原料B3に変更し、紡糸温度を250℃に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、熱接着性複合繊維及び51mmのステープルファイバーを得た。
【0077】
[比較例2]
第1の樹脂材料を原料A2に変更し、第2の樹脂材料を原料B3及びB2に変更し、紡糸温度を250℃に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、熱接着性複合繊維及び51mmのステープルファイバーを得た。なお、第2の樹脂材料100質量%中、原料B3は90質量%、原料B2は10質量%であった。
【0078】
[比較例3]
第1の樹脂材料を原料A2に変更し、第2の樹脂材料を原料B3及びB4に変更し、紡糸温度を250℃に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、熱接着性複合繊維及び51mmのステープルファイバーを得た。なお、第2の樹脂材料100質量%中、原料B3は90質量%、原料B4は10質量%であった。
【0079】
[比較例4]
第1の樹脂材料を原料A2及びA3に変更し、第2の樹脂材料を原料B3及びB5に変更し、紡糸温度を250℃に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、熱接着性複合繊維及び51mmのステープルファイバーを得た。なお、第1の樹脂材料100質量%中、原料A2は90質量%、原料A3は10質量%であった。第2の樹脂材料100質量%中、原料B3は90質量%、原料B5は10質量%であった。
【0080】
[比較例5]
第1の樹脂材料を原料A2及びA3に変更し、第2の樹脂材料を原料B3及びB5に変更し、紡糸温度を250℃に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、熱接着性複合繊維及び51mmのステープルファイバーを得た。なお、第1の樹脂材料100質量%中、原料A2は80質量%、原料A3は20質量%であった。第2の樹脂材料100質量%中、原料B3は80質量%、原料B5は20質量%であった。
【0081】
[比較例6]
第1の樹脂材料を原料A1及びA3に変更し、第2の樹脂材料を原料B1に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、熱接着性複合繊維及び51mmのステープルファイバーを得た。なお、第1の樹脂材料100質量%中、原料A1は80質量%、原料A3は20質量%であった。
【0082】
[比較例7]
第1の樹脂材料を原料A1及びA3に変更し、第2の樹脂材料を原料B1及びB5に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、熱接着性複合繊維及び51mmのステープルファイバーを得た。なお、第1の樹脂材料100質量%中、原料A1は80質量%、原料A3は20質量%であった。第2の樹脂材料100質量%中、原料B1は80質量%、原料B5は20質量%であった。
【0083】
<II.MFRの算出>
【0084】
比較例4~7の第1の樹脂材料、及び、実施例1、比較例2~5、7の第2の樹脂材料は、ブレンド樹脂であった。これらの第1の樹脂材料及び第2の樹脂材料のMFRを、下記の式によって求めた。
【0085】
【数2】
(上記式中、w
i(i=1,2,・・・,n)は構成成分iの重量分画、MFR
iは構成成分iのメルトフローレート、nはブレンド樹脂中の構成成分の総数であり、且つ、w
1+w
2+・・・+w
n=1である。)
【0086】
なお、上記「構成成分i」は、樹脂成分を含有する各構成成分である。上記「構成成分iのメルトフローレート」は、第1の樹脂材料の場合、JIS K7210のA法に従って、温度230℃及び荷重2.16kgの条件下において測定された各構成成分のメルトフローレートの値であり、第2の樹脂材料の場合、JIS K7210のA法に従って、温度190℃及び荷重2.16kgの条件下において測定された各構成成分のメルトフローレートの値である。得られたMFRの値を下記表1に示す。
【0087】
<III.熱接着性複合繊維の物性測定>
【0088】
実施例1及び2、並びに比較例1~7の熱接着性複合繊維について、以下の物性を測定した。
【0089】
(1)熱接着性複合繊維の単糸物性
【0090】
[繊度]
繊度は、サーチ社製「繊度測定器DC-21DENICON」を用い、JIS L1015:2010に記載されている振動法に従って測定された。
【0091】
[強力]
強力(引張強さ)は、エー・アンド・デイ社製「テンシロン万能試験機RTG-1210」を用いて、JIS L1015:2010に従って、つかみ間隔20mm、及び引張速度20mm/minの条件下で測定された。
【0092】
[強度]
強度は、以下の式を用いて算出された。
強度[cN/dtex]=強力(引張強さ)[cN]/繊度[dtex]
【0093】
[伸度]
伸度(伸び率)は、JIS L1015:2010に従って、つかみ間隔20mm、及び引張速度20mm/minの条件下で測定された。
【0094】
[捲縮数、捲縮率、及び捲縮弾性率]
捲縮数、捲縮率、及び捲縮弾性率は、JIS L1015:2010に従って測定された。
【0095】
[熱収縮率]
熱収縮率は、中山電気産業社製「熱収縮弾性試験機FC-37」を用いて、JIS L1015:2010に記載されている「8.15 寸法変化率」の「b)乾熱寸法変化率」に従って、120℃のギアオーブンで10分間熱処理を施した後に測定された。
【0096】
[5%伸長応力]
5%伸長応力(熱接着性複合繊維が5%伸長した時の応力)は、エー・アンド・デイ社製「テンシロン万能試験機RTG-1210」を用い、つかみ間隔20mm、及び引張速度20mm/minの条件下で測定された。
【0097】
(2)熱接着性複合繊維の繊維束の物性
【0098】
[50%、100%、又は200%伸長時の伸長後収縮率]
引張試験機のチャックに熱接着性複合繊維の繊維束を挟んで、つかみ間隔を200mmとした。チャック間において、当該繊維束に、長さ方向(伸長方向)200mmの標線を記した。引張速度1000mm/minの条件で、所定の伸長率(50%、100%、又は200%)になるまで繊維束を伸長させた。伸長後の標線の長さを測定して、この長さを「伸長時の長さ」とした。チャック間を戻して繊維束を取り出し、標線の長さを測定して、この長さを「伸長回復後の長さ」とした。以下の式により、伸長後収縮率を算出した。
熱接着性複合繊維(繊維束)の伸長後収縮率(%)=(つかみ間隔(200mm)+伸長時の長さ-伸長回復後の長さ)/伸長時の長さ×100
【0099】
上記のとおり測定された実施例1及び2、並びに比較例1~7の熱接着性複合繊維の物性を、下記表1に示す。
【0100】
<IV.カード通過性の評価>
【0101】
実施例1及び2、並びに比較例1~7のステープルファイバーを、カード機に通して、目付20g/m2のウェブを作製した。ウェブを作製できたステープルファイバーを、カード通過性が「良」であると評価した。ウェブを作製できなかったステープルファイバーを、カード通過性が「不良」であると評価した。評価結果を下記表1に示す。下記表1に示されるとおり、実施例1及び2、並びに比較例1~5のステープルファイバーはカード通過性が「良」であった。一方、比較例6及び7のステープルファイバーは、カード通過性が「不良」であった。すなわち、比較例6及び7のステープルファイバーからウェブを作製することはできなかった。
【0102】
<V.カード式不織布の製造>
【0103】
実施例1及び2、並びに比較例1~5のステープルファイバーを用いて作製された上記ウェブ(以下、実施例1及び2、並びに比較例1~5のウェブともいう。)を、熱風ドライヤーを用いて、融着温度135℃、風速2.7m/s、及び時間5secの条件で熱処理し、カード式不織布(エアスルー不織布)を得た。
【0104】
<VI.カード式不織布の物性測定>
【0105】
実施例1及び2、並びに比較例1~5のウェブを用いて作製された上記カード式不織布(以下、実施例1及び2、並びに比較例1~5の不織布ともいう。)について、以下の物性を測定した。
【0106】
[目付]
上記カード式不織布から5cm×5cmのサンプルを10枚切り出した。各サンプルについて、重量を面積(0.025m2)で除した値を算出し、10枚のサンプルの当該値を単純に平均(算術平均)して目付を求めた。
【0107】
[嵩]
上記カード式不織布から5cm×5cmのサンプルを10枚切り出した。10枚のサンプルを重ねて、その上に20gの荷重を30秒かけた。除重から30秒後における全体の体積をV[cm3]、全体の高さをh[cm]とした。また、10枚のサンプルの合計重量をM[g]とした。これらの値を用いて、下記式により不織布の嵩を算出した。
嵩[cm3/g]=V[cm3]/M[g]=5[cm]×5[cm]×h[cm]/M[g]
【0108】
[CD断裂長]
上記カード式不織布から、幅50mm、長さ100mmのサンプルを切り出した。引張試験機のチャックに当該サンプルを挟んで、つかみ間隔を60mmとし、引張速度40mm/minの条件で引き伸ばした。不織布強力(最大荷重)を測定し、不織布の機械の流れと直交する方向(CD)の断裂長(CD裂断長)を下記式より算出した。CD断裂長が長いほど、機械の流れと直交する方向の不織布強力(引張強さ)が大きいことを示す。
CD裂断長[m]=A/B/W
(上記式中、Aは不織布強力[gf]、Bは不織布目付[g/m2]、Wはサンプルの幅[m]を示す。)
【0109】
[MD断裂長]
上記カード式不織布から、幅50mm、長さ140mmのサンプルを切り出した。引張試験機のチャックに当該サンプルを挟んで、つかみ間隔を100mmとし、引張速度40mm/minの条件で引き伸ばした。不織布強力(最大荷重)を測定し、不織布の機械の流れ方向(MD)の断裂長(MD裂断長)を下記式より算出した。MD断裂長が長いほど、機械の流れ方向の不織布強力(引張強さ)が大きいことを示す。
MD裂断長[m]=A/B/W
(上記式中、Aは不織布強力[gf]、Bは不織布目付[g/m2]、Wはサンプルの幅[m]を示す。)
【0110】
[20%、30%、又は40%伸長時の伸長後収縮率]
上記カード式不織布から幅50mm、長さ140mmのサンプルを切り出した。引張試験機のチャックに当該サンプルを挟んで、つかみ間隔を100mmとした。チャック間において、当該サンプルに、長さ方向(伸長方向)100mmの標線を記した。引張速度100mm/minの条件で、所定の伸長率(20%、30%、又は40%)になるまでサンプルを伸長させた。伸長後の標線の長さを測定して、この長さを「伸長時の長さ」とした。チャック間を戻してサンプルを取り出し、標線の長さを測定して、この長さを「伸長回復後の長さ」とした。以下の式により、伸長後収縮率を算出した。
カード式不織布の伸長後収縮率(%)=(つかみ間隔(100mm)+伸長時の長さ-伸長回復後の長さ)/伸長時の長さ×100
【0111】
上記のとおり測定された実施例1及び2、並びに比較例1~5の不織布の物性を、下記表1に示す。
【0112】
下記表1中、「Q値」の欄における「-」は、Q値を算出していないことを示す。「不織布物性」の欄における「-」は、物性の測定を実施していないこと示す。
【0113】
【0114】
表1に示されるとおり、実施例1及び2の熱接着性複合繊維は、500%以上の高い伸度を有していた。さらに、実施例1及び2の熱接着性複合繊維は、伸長後収縮率が小さかった。具体的には、50%伸長時の伸長後収縮率が50%以下であり、100%伸長時の伸長後収縮率)が35%以下であり、200%伸長時の伸長後収縮率が25%以下であった。
【0115】
実施例1及び2の不織布は、伸長後収縮率が小さかった。具体的には、20%伸長時の伸長後収縮率が70%以下であり、30%伸長時の伸長後収縮率が60%以下であり、40%伸長時の伸長後収縮率が55%以下であった。
【0116】
実施例1及び2の結果を比較すると、熱接着性複合繊維及び不織布の伸長後収縮率は、ともに実施例1の方が小さかった。これは、実施例1における第2の樹脂材料のMFRが実施例2よりも大きく、第1の樹脂材料と第2の樹脂材料のMFRの値が近い(第2の樹脂材料のMFR/第1の樹脂材料のMFRの値が1に近い)ことが要因であると考えられる。
【0117】
比較例1~5は、第1の樹脂材料のMFRの値が40g/10分未満であった。そのため、伸長後収縮率の小さい熱接着性複合繊維が得られなかった。比較例6及び7は、第1の樹脂材料のMFRが80g/10分超であった。そのため、カード通過性が良い短繊維が得られなかった。