(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184446
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20221206BHJP
F25B 47/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
B60H1/22 651A
F25B47/02 520D
F25B47/02 570M
F25B47/02 570H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092303
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】特許業務法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 知志
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211AA11
3L211BA02
3L211BA27
3L211BA32
3L211CA16
3L211DA26
3L211DA28
3L211DA29
3L211DA42
3L211DA46
3L211DA48
3L211DA50
3L211EA50
3L211FA38
3L211FB05
3L211GA23
3L211GA25
3L211GA29
(57)【要約】 (修正有)
【課題】室外熱交換器の効率の良い除霜と並行して適切な暖房運転を実現可能な車両用空調装置を提供する。
【解決手段】車両用空調装置1は、冷凍サイクル10と、制御装置と、を有している。冷凍サイクル10は、圧縮機11と、加熱部35と、外気用熱交換部29Xと、暖房用膨張弁20aと、冷却用膨張弁20cと、チラー24と、を有する。制御装置は、凝縮熱除霜と空調対象空間の暖房を並行して行う際に制御を行う圧縮制御部と、減圧制御部と、を有する。圧縮制御部は、水冷媒熱交換器12で要求される冷媒の温度と、室外熱交換器22で要求される冷媒の温度の何れか一方の冷媒の温度を、圧縮機11の作動制御によって実現する。減圧制御部は、水冷媒熱交換器12で要求される冷媒の温度と、室外熱交換器22で要求される冷媒の温度の何れか他方の冷媒の温度を、暖房用膨張弁20aの作動制御によって実現する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)と、空調対象空間を暖房する暖房運転に際して、前記圧縮機から吐出された前記冷媒を凝縮させる暖房用熱交換器(12、12X)を有し、前記冷媒を熱源として前記空調対象空間に送風される送風空気を加熱する加熱部(35)と、前記暖房運転に際して外気から前記冷媒に吸熱させる外気用熱交換器(22)を有する外気用熱交換部(29X)と、前記暖房用熱交換器の流出口と前記外気用熱交換器の流入口との間に配置され、前記暖房用熱交換器から流出した前記冷媒を減圧可能に構成された第1膨張弁(20a)と、前記暖房用熱交換器及び前記外気用熱交換器の少なくとも一方から流出した前記冷媒を減圧可能に構成された第2膨張弁(20b、20c)と、前記第2膨張弁で減圧された前記冷媒に吸熱させて蒸発させる蒸発器(23、24)と、を有する冷凍サイクル(10)と、
前記蒸発器にて前記冷媒に吸熱させた熱を用いて前記外気用熱交換器に付着した霜を融解させて除霜を行う凝縮熱除霜と、前記暖房用熱交換器における前記冷媒からの放熱を用いた前記空調対象空間の暖房とに関する制御を行う制御部(70)と、を有し、
前記制御部は、前記凝縮熱除霜と前記空調対象空間の暖房を並行して行う際に、前記暖房用熱交換器で要求される前記冷媒の温度と、前記外気用熱交換器で要求される前記冷媒の温度が異なる場合に、
前記暖房用熱交換器で要求される前記冷媒の温度と、前記外気用熱交換器で要求される前記冷媒の温度の何れか一方の前記冷媒の温度を、前記圧縮機の作動制御によって実現する圧縮制御部(70d)と、
前記暖房用熱交換器で要求される前記冷媒の温度と、前記外気用熱交換器で要求される前記冷媒の温度の何れか他方の前記冷媒の温度を、前記第1膨張弁の作動制御によって実現する減圧制御部(70e)と、を有する車両用空調装置。
【請求項2】
前記凝縮熱除霜では、前記霜の融解によって生じた水分を、前記冷媒に吸熱させた熱を用いて前記外気用熱交換器から蒸発させる請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記凝縮熱除霜において、前記外気用熱交換器で要求される前記冷媒の温度を、前記外気用熱交換器の除霜で生じた水分が蒸発する際の視認性を低下させるように定める請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記凝縮熱除霜の際に、前記外気用熱交換器に対して前記外気を送風する外気ファン(22a)を有し、
前記制御部は、前記凝縮熱除霜において、前記外気ファンによる前記外気の風速を、前記外気用熱交換器の除霜で生じた水分が蒸発する際の視認性を低下させるように定める請求項2又は3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記凝縮熱除霜と前記空調対象空間の暖房を並行して行うと共に、前記空調対象空間の暖房よりも前記凝縮熱除霜を優先させる効率優先モードの場合、
前記圧縮制御部は、前記外気用熱交換器で要求される前記冷媒の温度を実現するように前記圧縮機の作動を制御し、
前記減圧制御部は、前記暖房用熱交換器で要求される前記冷媒の温度を実現するように前記第1膨張弁の作動を制御する請求項1ないし4の何れか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記効率優先モードにおいて、前記外気用熱交換器における前記冷媒の温度が前記外気用熱交換器で要求される前記冷媒の温度よりも低く、前記凝縮熱除霜に係る除霜能力が不足している場合、
前記減圧制御部は、前記第1膨張弁の開度を大きくして、前記暖房用熱交換器における放熱量を低下させる請求項5に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記凝縮熱除霜と前記空調対象空間の暖房を並行して行うと共に、前記凝縮熱除霜よりも前記空調対象空間の暖房を優先させる快適性優先モードの場合、
前記圧縮制御部は、前記暖房用熱交換器で要求される前記冷媒の温度を実現するように前記圧縮機の作動を制御し、
前記減圧制御部は、前記外気用熱交換器で要求される前記冷媒の温度を実現するように前記第1膨張弁の作動を制御する請求項1ないし6の何れか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項8】
前記冷凍サイクルと異なる熱源を用いて、前記空調対象空間に送風される送風空気を加熱可能な補助加熱装置(34、34X)を有し、
前記制御部は、前記凝縮熱除霜と前記空調対象空間の暖房を並行して行う際に、前記空調対象空間の暖房として要求される暖房能力に対して、前記暖房用熱交換器における前記冷媒の温度が不足する場合、前記補助加熱装置の作動によって暖房能力を補う請求項1ないし7の何れか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記凝縮熱除霜と前記空調対象空間の暖房を並行して行う場合に、前記空調対象空間の暖房よりも前記凝縮熱除霜を優先させる効率優先モードと、前記凝縮熱除霜よりも前記空調対象空間の暖房を優先させる快適性優先モードとの何れが適切かを判定するモード判定部(70f)と、
前記モード判定部の判定結果に基づいて、前記効率優先モードと、前記快適性優先モードの何れかを設定するモード設定部(70g)と、を有する請求項1ないし8の何れか1つに記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、送風空気に対して冷媒の熱を放熱する凝縮器と、外気と冷媒とを熱交換させる室外熱交換器とを有する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送風空気に対して冷媒の熱を放熱する凝縮器と、外気と冷媒を熱交換させる室外熱交換器とを有する車両用空調装置に関する技術として、様々な技術が開発されている。車両用空調装置において、凝縮器による空調対象空間の暖房を行った場合、室外熱交換器にて、低温の外気から冷媒へ吸熱させると、室外熱交換器が着霜してしまう場合がある。
【0003】
室外熱交換器が着霜すると、室外熱交換器における熱交換性能が著しく低下し、車両用空調装置の暖房性能に大きな影響を与える為、室外熱交換器等の除霜を行う必要がある。室外熱交換器の除霜を実行している場合、室外熱交換器にて外気から冷媒へ吸熱させることができないが、室外熱交換器の除霜を実行する際に、空調対象空間の暖房を並行して実行するニーズも高まっている。
【0004】
このような車両用空調装置に関する技術として、特許文献1に記載された技術が知られている。例えば、特許文献1では、ホットガスを用いて、空調対象空間の暖房と、熱交換器の除霜を行っており、除霜の為の熱量と、暖房の為の熱量という異なる2つの温度を作り出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1の車両用空調装置では、冷凍サイクルとして、所謂、アキュムレータサイクルが採用されている。ホットガス除霜は、レシーバサイクルでは行うことができない為、特許文献1の技術を適用する為には、冷凍サイクルの構成が限定されてしまう。
【0007】
又、室外熱交換器の除霜を行う方式として、冷凍サイクルの低圧側に配置された蒸発器で吸熱した熱を利用する凝縮熱除霜が開発されている。特許文献1におけるホットガス除霜は、圧縮機での圧縮仕事量に相当する熱を用いて除霜することになる為、凝縮熱除霜よりも除霜能力が低いと考えられる。
【0008】
つまり、凝縮熱除霜による室外熱交換器における熱量と、快適性を向上させる為の凝縮器における熱量との差異に柔軟に対応すると共に、室外熱交換器の除霜と空調対象空間の暖房を両立させることが望まれている。
【0009】
本開示は、上記点に鑑み、室外熱交換器の効率の良い除霜と並行して適切な暖房運転を実現可能な車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係る車両用空調装置は、冷凍サイクル(10)と、制御部(70)と、を有している。冷凍サイクルは、圧縮機(11)と、加熱部(35)と、外気用熱交換部(29X)と、第1膨張弁(20a)と、第2膨張弁(20b、20c)と、蒸発器(23、24)と、を有する。
【0011】
圧縮機は冷媒を圧縮して吐出する。加熱部は、暖房用熱交換器(12、12X)を有し、冷媒を熱源として空調対象空間に送風される送風空気を加熱する。暖房用熱交換器は、空調対象空間を暖房する暖房運転に際して、圧縮機から吐出された冷媒を凝縮させる。外気用熱交換部は、暖房運転に際して外気から冷媒に吸熱させる外気用熱交換器(22)を有する。
【0012】
第1膨張弁は、暖房用熱交換器の流出口と外気用熱交換器の流入口との間に配置され、暖房用熱交換器から流出した冷媒を減圧可能に構成されている。第2膨張弁は、暖房用熱交換器及び外気用熱交換器の少なくとも一方から流出した冷媒を減圧可能に構成されている。蒸発器は、第2膨張弁で減圧された冷媒に吸熱させて蒸発させる。
【0013】
制御部は、蒸発器にて冷媒に吸熱させた熱を用いて外気用熱交換器に付着した霜を融解させて除霜を行う凝縮熱除霜と、暖房用熱交換器における冷媒からの放熱を用いた空調対象空間の暖房とに関する制御を行う。
【0014】
そして、制御部は、凝縮熱除霜と空調対象空間の暖房を並行して行う際に制御を行う圧縮制御部(70d)と、減圧制御部(70e)と、を有する。圧縮制御部は、暖房用熱交換器で要求される冷媒の温度と外気用熱交換器で要求される冷媒の温度が異なる場合、暖房用熱交換器で要求される冷媒の温度と、外気用熱交換器で要求される冷媒の温度の何れか一方の冷媒の温度を、圧縮機の作動制御によって実現する。減圧制御部は、暖房用熱交換器で要求される冷媒の温度と、外気用熱交換器で要求される冷媒の温度の何れか他方の冷媒の温度を、第1膨張弁の作動制御によって実現する。
【0015】
車両用空調装置によれば、冷凍サイクルと、制御部を用いて、蒸発器にて冷媒に吸熱させた熱を用いて外気用熱交換器に付着した霜を融解させて除霜を行う凝縮熱除霜と、暖房用熱交換器における冷媒からの放熱を用いた暖房を並行して行うことができる。
【0016】
又、凝縮熱除霜と空調対象空間の暖房を並行して行う際に、暖房用熱交換器で要求される冷媒の温度と、外気用熱交換器で要求される冷媒の温度が異なる場合に、圧縮制御部及び減圧制御部によって、異なる2つの冷媒温度を実現することができる。つまり、圧縮制御部により圧縮機の作動を制御して、暖房用熱交換器及び外気用熱交換器の何れか一方で要求される冷媒温度を実現することができる。更に、減圧制御部により第1膨張弁の作動を制御して、暖房用熱交換器及び外気用熱交換器の何れか一方で要求される冷媒温度を実現することができる。
【0017】
車両用空調装置によれば、凝縮熱除霜と空調対象空間の暖房を並行して行う場合に、凝縮熱除霜に係る外気用熱交換器における放熱量と、暖房に係る暖房用熱交換器における放熱量をそれぞれ制御することができ、適切な態様で両立させることができる。
【0018】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係る車両用空調装置の全体構成図である。
【
図2】車両用空調装置における室内空調ユニットの構成図である。
【
図3】車両用空調装置の制御系を示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態の車両用空調装置における暖房モードの動作を示す全体構成図である。
【
図5】第1実施形態の車両用空調装置における凝縮熱除霜モードの動作の一例を示す全体構成図である。
【
図6】凝縮熱除霜のドライ除霜における蒸発速度を試算する為の実験式の説明図である。
【
図7】室外熱交換器の凝縮温度に対する室外器蒸発量及び風速との関係を示すグラフである。
【
図8】圧縮機回転数に対する凝縮温度及び風速との関係を示すグラフである。
【
図9】室外器蒸発量及び風速の関係にて、冷凍サイクル装置で実現可能な運転条件エリアを示すグラフである。
【
図10】ドライ除霜における白霧の視認性に関する基準を示す湿り空気線図である。
【
図11】単位重量あたりの許容上限蒸発量の算出に関する湿り空気線図である。
【
図12】凝縮温度に対する室外器蒸発量及び風速の関係と、許容上限蒸発量との関係を示すグラフである。
【
図13】ドライ除霜にて白霧の目視を抑制しつつ室外熱交換器の熱交換性能を充分に回復させる為の対象エリアを示すグラフである。
【
図14】ドライ除霜にて白霧の目視を抑制しつつ室外熱交換器の熱交換性能を充分に回復させる為の実現可能な目標エリアを示すグラフである。
【
図15】ドライ除霜における目標凝縮温度を決定する為の制御特性図である。
【
図16】ドライ除霜における目標風速を決定する為の制御特性図である。
【
図17】ドライ除霜モードにおける風速、圧縮機回転数及び吐出圧力の変化の一例を示す説明図である。
【
図18】第1実施形態の車両用空調装置における暖房除霜モードの動作の一例を示す全体構成図である。
【
図19】車両用空調装置における暖房除霜モードの制御内容を示すフローチャートである。
【
図20】暖房除霜モードにおける効率優先モードの制御内容を示すフローチャートである。
【
図21】暖房除霜モードにおける快適性優先モードの制御内容を示すフローチャートである。
【
図22】第2実施形態における車両用空調装置の全体構成図である。
【
図23】第2実施形態における室内空調ユニットの構成図である。
【
図24】第3実施形態に係る車両用空調装置の全体構成図である。
【
図25】第3実施形態の車両用空調装置における暖房モードの動作を示す全体構成図である。
【
図26】第3実施形態の車両用空調装置における凝縮熱除霜モードの動作の一例を示す全体構成図である。
【
図27】第3実施形態の車両用空調装置における暖房除霜モードの動作の一例を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各実施形態において、先行する実施形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の実施形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0021】
(第1実施形態)
先ず、本開示における第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。第1実施形態に係る車両用空調装置1は、電動モータから走行用の駆動力を得る車両である電気自動車に搭載されている。車両用空調装置1は、電気自動車において、空調対象空間である車室内の空調を行うと共に、車載機器であるバッテリ75を冷却する車載機器冷却機能付きの空調装置である。
【0022】
バッテリ75は、電動モータ等の車載機器へ供給される電力を蓄える二次電池であり、例えば、リチウムイオン電池である。バッテリ75は、複数の電池セルを積層配置し、これらの電池セルを電気的に直列あるいは並列に接続することによって形成された、いわゆる組電池である。
【0023】
この種のバッテリは、低温になると入出力に制限がかかり、高温になると出力が低下しやすい。この為、バッテリの温度は、バッテリの充放電容量を充分に活用することができる適切な温度範囲内(本実施形態では、5℃以上、かつ、55℃以下)に維持されている必要がある。
【0024】
又、この種のバッテリは、バッテリの温度が高温になるほど、バッテリを構成するセルの劣化が進行しやすい。換言すると、バッテリの温度を或る程度低い温度に維持することで、バッテリの劣化の進行を抑制することができる。
【0025】
そこで、車両用空調装置1では、冷凍サイクル10によって生成された冷熱によってバッテリ75を冷却することができるようになっている。従って、本実施形態の冷凍サイクル10における送風空気とは異なる冷却対象物は、バッテリ75である。
【0026】
図1に示すように、第1実施形態の車両用空調装置1は、冷凍サイクル10と、高温側熱媒体回路30と、低温側熱媒体回路40と、を有している。冷凍サイクル10は、車両用空調装置1において、車室内へ送風される送風空気を冷却或いは加熱する。更に、冷凍サイクル10は、バッテリ75を冷却する。
【0027】
従って、冷凍サイクル10における温度調整対象物は、送風空気及びバッテリ75である。そして、冷凍サイクル10は、車室内の空調及びバッテリ75の冷却を行う為に、冷媒回路を切替可能に構成されている。
【0028】
冷凍サイクル10では、冷媒としてHFO系冷媒(具体的には、R1234yf)を採用している。冷凍サイクル10は、圧縮機11から吐出された高圧冷媒の圧力が冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルを構成している。冷媒には、圧縮機11を潤滑するための冷凍機油(具体的には、PAGオイル)が混入されている。冷凍機油の一部は、冷媒と共にサイクルを循環している。
【0029】
圧縮機11は、冷凍サイクル10において、冷媒を吸入し、圧縮して吐出する。圧縮機11は、車室の前方側の駆動装置室内に配置されている。駆動装置室は、走行用の駆動力を出力するための駆動用装置(例えば、電動モータ)の少なくとも一部が配置される空間を形成している。
【0030】
圧縮機11は、吐出容量が固定された固定容量型の圧縮機構を電動モータにて回転駆動する電動圧縮機である。圧縮機11は、後述する制御装置70から出力される制御信号によって、回転数(即ち、冷媒吐出能力)が制御される。
【0031】
圧縮機11の吐出口には、水冷媒熱交換器12の冷媒入口側が接続されている。水冷媒熱交換器12は、圧縮機11から吐出された高圧冷媒を流通させる冷媒通路12aと、高温側熱媒体回路30を循環する高温側熱媒体を流通させる熱媒体通路12bと、を有している。
【0032】
そして、水冷媒熱交換器12は、冷媒通路12aを流通する高圧冷媒と、熱媒体通路12bを流通する高温側熱媒体とを熱交換させて、高温側熱媒体を加熱する加熱用の熱交換器である。又、水冷媒熱交換器12は、高温側熱媒体との熱交換により冷媒通路12aを流通する高圧冷媒を凝縮させる為、暖房用熱交換器の一例に相当する。
【0033】
水冷媒熱交換器12の冷媒通路12aの出口には、互いに連通する3つの流入出口を有する第1三方継手13aの流入口側が接続されている。このような三方継手としては、複数の配管を接合して形成されたものや、金属ブロックや樹脂ブロックに複数の冷媒通路を設けることによって形成されたものを採用することができる。
【0034】
更に、冷凍サイクル10は、後述するように、第2三方継手13b~第8三方継手13hを備えている。第2三方継手13b~第8三方継手13hの基本的構成は、いずれも第1三方継手13aと同様である。
【0035】
第1三方継手13a~第8三方継手13hは、3つの流入出口のうち1つが流入口として用いられ、2つが流出口として用いられた際には、1つの流入口から流入した冷媒の流れを分岐する分岐部として機能する。又、3つの流入出口のうち2つが流入口として用いられ、1つが流出口として用いられた際には、第1三方継手13a等は、2つの流入口から流入した冷媒の流れを合流させる合流部として機能する。
【0036】
本実施形態では、第1三方継手13a、第3三方継手13c、第6三方継手13f及び第7三方継手13gが、分岐部として機能するように接続されている。又、第2三方継手13b、第4三方継手13d、第5三方継手13e及び第8三方継手13hが、合流部として機能するように接続されている。
【0037】
第1三方継手13aの一方の流出口には、第1開閉弁16a及び第5三方継手13eを介して、レシーバ19の入口側が接続されている。第1三方継手13aの他方の流出口には、第2開閉弁16b及び第2三方継手13bを介して、暖房用膨張弁20aの入口側が接続されている。
【0038】
第1開閉弁16aは、第1三方継手13aの一方の流出口からレシーバ19の入口へ至る入口側通路27aを開閉する電磁弁である。第1開閉弁16aは、制御装置70から出力される制御電圧によって、その開閉作動が制御される。
【0039】
第5三方継手13eは、入口側通路27aにおいて、一方の流入口が第1開閉弁16aの出口側に接続されている。更に、入口側通路27aにおいて、第5三方継手13eの一方の流出口は、レシーバ19の入口側に接続されている。
【0040】
レシーバ19は、気液分離機能を有する貯液部である。即ち、レシーバ19は、冷凍サイクル10において冷媒を凝縮させる凝縮器として機能する熱交換部から流出した冷媒の気液を分離する。そして、レシーバ19は、分離された液相冷媒の一部を下流側に流出させ、残余の液相冷媒をサイクル内の余剰冷媒として蓄える。
【0041】
第2開閉弁16bは、第1三方継手13aの他方の流出口から第2三方継手13bの一方の流入口へ至る外気側通路27cを開閉する電磁弁である。第2開閉弁16bの基本的構成は、第1開閉弁16aと同様である。第2開閉弁16bについても、制御装置70から出力される制御電圧によって、その開閉作動が制御される。
【0042】
そして、第2三方継手13bの他方の流入口には、レシーバ19の冷媒出口側が接続されている。レシーバ19の冷媒出口と第2三方継手13bの他方の流入口とを接続する出口側通路27bには、第6三方継手13f及び第3逆止弁21cが配置されている。
【0043】
第6三方継手13fの流入口は、出口側通路27bを介して、レシーバ19の冷媒出口側に接続されている。第6三方継手13fにおける一方の流出口には、出口側通路27b及び第3逆止弁21cを介して、第2三方継手13bにおける他方の流入口が接続されている。更に、第6三方継手13fの他方の流出口には、第7三方継手13gの流入口側が接続されている。
【0044】
そして、第2三方継手13bの流出口には、暖房用膨張弁20aを介して、室外熱交換器22の冷媒入口側が接続されている。暖房用膨張弁20aは、少なくとも後述する暖房モードの冷媒回路に切り替えられた際に、レシーバ19から流出した冷媒を減圧させると共に、下流側へ流出させる冷媒の流量を調整する減圧部である。暖房用膨張弁20aは第1膨張弁の一例に相当する。
【0045】
暖房用膨張弁20aは、絞り開度を変更可能に構成された弁体、及び弁体を変位させる電動アクチュエータ(具体的には、ステッピングモータ)を有する電動式の可変絞り機構である。暖房用膨張弁20aは、制御装置70から出力される制御信号(具体的には、制御パルス)によって、その作動が制御される。
【0046】
暖房用膨張弁20aは、弁開度を全開にすることで流量調整作用及び冷媒減圧作用を殆ど発揮することなく単なる冷媒通路として機能する全開機能、および弁開度を全閉にすることで冷媒通路を閉塞する全閉機能を有している。
【0047】
図1に示すように、冷凍サイクル10は、冷房用膨張弁20b及び冷却用膨張弁20cを備えている。冷房用膨張弁20b及び冷却用膨張弁20cの基本的構成は、暖房用膨張弁20aと同様である。冷房用膨張弁20b及び冷却用膨張弁20cは、第2膨張弁の一例に相当する。
【0048】
室外熱交換器22は、暖房用膨張弁20aから流出した冷媒と、外気ファン22aから送風された外気とを熱交換させる熱交換器である。室外熱交換器22は、駆動装置室内の前方側に配置されている。この為、車両走行時には、室外熱交換器22に走行風を当てることができる。室外熱交換器22は、外気用熱交換器の一例であり、外気用熱交換部29Xを構成している。
【0049】
室外熱交換器22は、冷房モード時等において、高圧冷媒を放熱させる放熱器として機能する。又、暖房モード時等においては、室外熱交換器22は、暖房用膨張弁20aにて減圧された低圧冷媒を蒸発させる蒸発器として機能する。
【0050】
そして、外気ファン22aは、室外熱交換器22に対して外気を送風するように配置されている。外気ファン22aは、制御装置70から出力される制御電圧によって回転数(すなわち、送風能力)が制御される電動送風機である。即ち、外気ファン22aは、室外熱交換器22に対する外気の風速(風量)を調整することができる。
【0051】
室外熱交換器22の冷媒出口には、第3三方継手13cを構成する三方弁18の流入口側が接続されている。三方弁18は、1つの流入口と2つの流出口を有し、2つの流出口の通路面積比を連続的に調整可能な電気式の三方流量調整弁である。三方弁18は、制御装置70から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0052】
第3三方継手13cを構成する三方弁18の一方の流出口には、第1逆止弁21aを介して、第4三方継手13dの一方の流入口側が接続されている。第4三方継手13dの流出口には、圧縮機11の吸入口側が接続されている。そして、三方弁18の他方の流出口には、第2逆止弁21bを介して、第5三方継手13eの他方の流入口側が接続されている。
【0053】
従って、三方弁18は、室外熱交換器22から流出した冷媒のうち、レシーバ19へ流入させる冷媒流量と、そのまま圧縮機11に流入させる冷媒流量とを連続的に調整することができる。
【0054】
図1に示すように、第1逆止弁21aは、第3三方継手13cの一方の流出口から第4三方継手13dの一方の流入口へ至る吸入側通路27dに配置されている。第1逆止弁21aは、室外熱交換器22の冷媒出口側から三方弁18を介して、圧縮機11の吸入口側へ冷媒が流れることを許容し、圧縮機11の吸入口側から室外熱交換器22の冷媒出口側へ冷媒が流れることを禁止している。
【0055】
そして、第2逆止弁21bは、第3三方継手13cの他方の流出口から第5三方継手13eの他方の流入口へ至る冷媒通路に配置されている。第2逆止弁21bは、室外熱交換器22の冷媒出口側から三方弁18を介して、レシーバ19の入口側へ冷媒が流れることを許容し、レシーバ19側から室外熱交換器22の冷媒出口側へ冷媒が流れることを禁止している。
【0056】
上述したように、出口側通路27bに配置された第6三方継手13fの他方の流出口には、第7三方継手13gの流入口側が接続されている。第6三方継手13fの一方の流出口には、第3逆止弁21cを介して、第2三方継手13bの他方の流入口が接続されている。
【0057】
第3逆止弁21cは、レシーバ19の冷媒出口側から暖房用膨張弁20aへ冷媒が流れることを許容し、第2三方継手13b側からレシーバ19へ冷媒が流れることを禁止している。
【0058】
そして、第7三方継手13gの一方の流出口には、冷房用膨張弁20bの入口側が接続されている。又、第7三方継手13gの他方の流出口には、冷却用膨張弁20cの入口側が接続されている。
【0059】
冷房用膨張弁20bは、少なくとも後述する冷房モードの冷媒回路に切り替えられた際に、レシーバ19から流出した冷媒を減圧させると共に、下流側へ流出させる冷媒の流量を調整する減圧部である。冷房用膨張弁20bが減圧機能を発揮している場合、第2膨張弁の一例に相当する。
【0060】
冷房用膨張弁20bの出口には、室内蒸発器23の冷媒入口側が接続されている。室内蒸発器23は、
図2に示すように、室内空調ユニット60のケーシング61内に配置されている。室内蒸発器23は、冷房用膨張弁20bにて減圧された低圧冷媒を、送風機62から送風された送風空気と熱交換させて蒸発させる蒸発部である。
【0061】
室内蒸発器23は、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることで送風空気を冷却する送風空気用冷却部である。従って、室内蒸発器23は蒸発器の一例に相当する。室内蒸発器23の冷媒出口には、第4逆止弁21dを介して、第8三方継手13hの一方の流入口が接続されている。第4逆止弁21dは、室内蒸発器23の冷媒出口側から第8三方継手13hへ冷媒が流れることを許容し、第8三方継手13h側から室内蒸発器23へ冷媒が流れることを禁止している。
【0062】
冷却用膨張弁20cは、チラー24にて低温側熱媒体を冷却する際に、レシーバ19から流出した冷媒を減圧させると共に、下流側へ流出させる冷媒の流量を調整する減圧部である。冷却用膨張弁20cは、減圧機能を発揮させることで第2膨張弁の一例に相当する。冷却用膨張弁20cの出口には、チラー24の冷媒通路24aの入口側が接続されている。
【0063】
チラー24は、冷却用膨張弁20cにて減圧された低圧冷媒を流通させる冷媒通路24aと、低温側熱媒体回路40を循環する低温側熱媒体を流通させる熱媒体通路24bとを有している。そして、チラー24は、冷媒通路24aを流通する低圧冷媒と、熱媒体通路24bを流通する低温側熱媒体とを熱交換させて、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる蒸発部である。即ち、チラー24は蒸発器の一例に相当する。
【0064】
チラー24の冷媒通路24aの出口には、第8三方継手13hの他方の流入口が接続されている。第8三方継手13hの流出口には、第4三方継手13dを介して、圧縮機11の吸入口側が接続されている。
【0065】
以上の説明から明らかなように、冷凍サイクル10では、第1開閉弁16a、第2開閉弁16b、三方弁18が冷媒通路を開閉することによって、冷媒回路を切り替えることができる。従って、第1開閉弁16a、第2開閉弁16b、三方弁18等は、冷媒回路切替部に含まれる。
【0066】
そして、第1開閉弁16a、第2開閉弁16b及び第1三方継手13aは、水冷媒熱交換器12から流出した冷媒を、レシーバ19側及び第2三方継手13b側の一方へ導いている。又、第2三方継手13bは、第1三方継手13aから流出した冷媒およびレシーバ19から流出した冷媒の少なくとも一方を、暖房用膨張弁20a側へ導いている。又、第3三方継手13cを構成する三方弁18は、室外熱交換器22から流出した冷媒を、圧縮機11の吸入口側およびレシーバ19側の一方へ導いている。
【0067】
次に、高温側熱媒体回路30について説明する。高温側熱媒体回路30は、高温側熱媒体を循環させる熱媒体循環回路である。高温側熱媒体としては、エチレングリコール、ジメチルポリシロキサン、あるいはナノ流体等を含む溶液、不凍液等を採用することができる。高温側熱媒体回路30は、水冷媒熱交換器12の熱媒体通路12b、高温側ポンプ32、ヒータコア33、水加熱ヒータ34等を、高温側熱媒体流路31によって接続して構成されている。
【0068】
水冷媒熱交換器12における熱媒体通路12bの出口側には、水加熱ヒータ34が配置されている。水加熱ヒータ34は、水冷媒熱交換器12の熱媒体通路12bから流出した高温側熱媒体に対して放熱可能に構成されており、高温側熱媒体を加熱する。
【0069】
水加熱ヒータ34としては、PTC素子(即ち、正特性サーミスタ)を有するPTCヒータを採用することができる。水加熱ヒータ34の発熱量は、制御装置70から出力される制御電圧によって任意に制御される。水加熱ヒータ34は補助加熱装置の一例に相当する。
【0070】
水加熱ヒータ34の熱媒体通路の出口側には、高温側ポンプ32の吸入口側が接続されている。高温側ポンプ32は、水加熱ヒータ34を通過した高温側熱媒体を、ヒータコア33の熱媒体入口側へ水ポンプである。高温側ポンプ32は、制御装置70から出力される制御電圧によって、回転数(すなわち、圧送能力)が制御される電動ポンプである。
【0071】
ヒータコア33は、水冷媒熱交換器12等にて加熱された高温側熱媒体と室内蒸発器23を通過した送風空気とを熱交換させて、送風空気を加熱する熱交換器である。
図2に示すように、ヒータコア33は、室内空調ユニット60のケーシング61内に配置されている。ヒータコア33の熱媒体出口には、水冷媒熱交換器12の熱媒体通路12bの入口側が接続されている。
【0072】
従って、高温側熱媒体回路30では、高温側ポンプ32が、ヒータコア33へ流入する高温側熱媒体の流量を調整することで、ヒータコア33における高温側熱媒体の送風空気への放熱量(即ち、ヒータコア33における送風空気の加熱量)を調整できる。
【0073】
つまり、本実施形態では、水冷媒熱交換器12および高温側熱媒体回路30の各構成機器によって、圧縮機11から吐出された冷媒を熱源として、送風空気を加熱する加熱部35が構成されている。
【0074】
続いて、低温側熱媒体回路40について説明する。低温側熱媒体回路40は、低温側熱媒体を循環させる熱媒体循環回路である。低温側熱媒体としては、高温側熱媒体と同様の流体を採用することができる。
【0075】
図1に示すように、低温側熱媒体回路40は、チラー24の熱媒体通路12b、低温側ポンプ42、バッテリ用熱交換部43、電気ヒータ44、低温側リザーブタンク45等を低温側熱媒体流路41によって接続して構成されている。
【0076】
そして、低温側熱媒体回路40は、バッテリ用熱交換部43にて、冷凍サイクル10等によって温度調整された低温側熱媒体とバッテリ75とを熱交換させることで、バッテリ75の温度調整を行う。低温側熱媒体回路40は、バッテリ75の温度調整を行うと共に、バッテリ75からの廃熱を様々な用途で有効に活用する為の熱媒体回路ということができる。
【0077】
図1に示すように、チラー24における熱媒体通路24bの出口側には、電気ヒータ44が配置されている。電気ヒータ44は、チラー24の熱媒体通路24bから流出した低温側熱媒体に対して放熱可能に構成されており、低温側熱媒体を加熱する。電気ヒータ44としては、PTCヒータを採用することができる。電気ヒータ44の発熱量は、制御装置70から出力される制御電圧によって任意に制御される。
【0078】
電気ヒータ44における熱媒体通路の出口側には、バッテリ用熱交換部43の入口側が接続されている。バッテリ用熱交換部43は、熱媒体通路43aを流通する低温側熱媒体と電池セルとを熱交換させることによって、バッテリ75の温度を調整する為の熱交換部である。
【0079】
そして、バッテリ用熱交換部43における熱媒体通路43aは、専用ケースの内部で複数の通路を並列的に接続した通路構成となっている。これにより、熱媒体通路43aは、バッテリ75の全域からバッテリ75の廃熱を均等に吸熱できるように形成されている。換言すると、冷媒通路は、全ての電池セルの有する熱を均等に吸熱して、全ての電池セルを均等に冷却できるように形成されている。
【0080】
このようなバッテリ用熱交換部43は、積層配置された電池セル同士の間に熱媒体通路43aを配置することによって形成すればよい。又、バッテリ用熱交換部43は、バッテリ75に一体的に形成されていてもよい。例えば、積層配置された電池セルを収容する専用ケースに熱媒体通路43aを設けることによって、バッテリ75に一体的に形成されていてもよい。
【0081】
バッテリ用熱交換部43における熱媒体通路43aの出口には、低温側リザーブタンク45が配置されている。低温側リザーブタンク45は、低温側熱媒体回路40で余剰となっている低温側熱媒体を貯留する貯留部である。
【0082】
そして、低温側リザーブタンク45の熱媒体出口側には、低温側ポンプ42の吸入口側が接続されている。低温側ポンプ42は、チラー24における熱媒体通路43aの入口側へ低温側熱媒体を圧送する水ポンプである。低温側ポンプ42の基本的構成は、高温側ポンプ32と同様である。
【0083】
従って、低温側熱媒体回路40では、低温側ポンプ42が、バッテリ用熱交換部43へ流入する低温側熱媒体の流量を調整することによって、バッテリ用熱交換部43における低温側熱媒体がバッテリ75から奪う吸熱量を調整できる。又、電気ヒータ44により、バッテリ75と低温側熱媒体との温度差を調整することでも、バッテリ用熱交換部43における吸熱量を調整できる。
【0084】
つまり、本実施形態によれば、チラー24及び低温側熱媒体回路40の各構成機器によって、冷却用膨張弁20cから流出した冷媒を蒸発させて、バッテリ75を冷却する冷却部が構成されている。
【0085】
次に、室内空調ユニット60について、
図2を参照して説明する。室内空調ユニット60は、冷凍サイクル10によって温度調整された送風空気を車室内へ吹き出すためのものである。室内空調ユニット60は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されている。
【0086】
室内空調ユニット60は、その外殻を形成するケーシング61内に形成された空気通路の内部に送風機62、室内蒸発器23、ヒータコア33等を収容している。ケーシング61は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成している。ケーシング61は、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。
【0087】
ケーシング61の送風空気流れ最上流側には、内外気切替装置63が配置されている。内外気切替装置63は、ケーシング61内へ内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切替導入する。
【0088】
内外気切替装置63は、ケーシング61内へ内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口の開口面積を、内外気切替ドアによって連続的に調整して、内気の導入風量と外気の導入風量との導入割合を変化させる。内外気切替ドアは、内外気切替ドア用の電動アクチュエータによって駆動される。この電動アクチュエータは、制御装置70から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0089】
内外気切替装置63の送風空気流れ下流側には、送風機62が配置されている。送風機62は、内外気切替装置63を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する。送風機62は、遠心多翼ファンを電動モータにて駆動する電動送風機である。送風機62は、制御装置70から出力される制御電圧によって、回転数(即ち、送風能力)が制御される。
【0090】
送風機62の送風空気流れ下流側には、室内蒸発器23、ヒータコア33が、送風空気流れに対して、この順に配置されている。つまり、室内蒸発器23は、ヒータコア33よりも、送風空気流れ上流側に配置されている。
【0091】
ケーシング61内には、室内蒸発器23通過後の送風空気を、ヒータコア33を迂回して流す冷風バイパス通路65が設けられている。又、ケーシング61内の室内蒸発器23の送風空気流れ下流側であって、かつ、ヒータコア33の送風空気流れ上流側には、エアミックスドア64が配置されている。
【0092】
エアミックスドア64は、室内蒸発器23通過後の送風空気のうち、ヒータコア33側を通過する送風空気の風量と冷風バイパス通路65を通過させる送風空気の風量との風量割合を調整する風量割合調整部である。エアミックスドア64は、エアミックスドア用の電動アクチュエータによって駆動される。この電動アクチュエータは、制御装置70から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0093】
ケーシング61内のヒータコア33及び冷風バイパス通路65の送風空気流れ下流側には、混合空間が配置されている。混合空間は、ヒータコア33にて加熱された送風空気と冷風バイパス通路65を通過して加熱されていない送風空気とを混合させる空間である。
【0094】
そして、ケーシング61の送風空気流れ下流部には、混合空間にて混合された送風空気(即ち、空調風)を、空調対象空間である車室内へ吹き出すための開口穴が配置されている。この開口穴としては、フェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴(いずれも図示せず)が設けられている。
【0095】
フェイス開口穴は、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。フット開口穴は、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。デフロスタ開口穴は、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。
【0096】
これらのフェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴は、それぞれ空気通路を形成するダクトを介して、車室内に設けられたフェイス吹出口、フット吹出口およびデフロスタ吹出口(いずれも図示せず)に接続されている。
【0097】
従って、エアミックスドア64が、ヒータコア33を通過させる風量と冷風バイパス通路65を通過させる風量との風量割合を調整することによって、混合空間にて混合される空調風の温度が調整される。そして、各吹出口から車室内へ吹き出される送風空気(空調風)の温度が調整される。
【0098】
また、フェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴の送風空気流れ上流側には、それぞれ、フェイスドア、フットドア、およびデフロスタドア(いずれも図示せず)が配置されている。フェイスドアは、フェイス開口穴の開口面積を調整する。フットドアは、フット開口穴の開口面積を調整する。デフロスタドアは、デフロスタ開口穴の開口面積を調整する。
【0099】
これらのフェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、吹出口モードを切り替える吹出口モード切替装置を構成する。これらのドアは、リンク機構等を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータに連結されて連動して回転操作される。この電動アクチュエータも、制御装置70から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0100】
吹出口モード切替装置によって切り替えられる吹出口モードとしては、具体的に、フェイスモード、バイレベルモード、フットモード等がある。フェイスモードは、フェイス吹出口を全開としてフェイス吹出口から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。
【0101】
バイレベルモードは、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。フットモードは、フット吹出口を全開とするとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出す吹出口モードである。
【0102】
更に、乗員が操作パネル71に設けられた吹出モード切替スイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタモードに切り替えることもできる。デフロスタモードは、デフロスタ吹出口を全開としてデフロスタ吹出口からフロント窓ガラス内面に空気を吹き出す吹出口モードである。
【0103】
次に、車両用空調装置1の電気制御部の概要について、
図3を用いて説明する。制御装置70は、CPU、ROM及びRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置70は、ROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種制御対象機器の作動を制御する。制御装置70は制御部の一例に相当する。
【0104】
各種制御対象機器には、圧縮機11、第1開閉弁16a、第2開閉弁16b、三方弁18、暖房用膨張弁20a、冷房用膨張弁20b、冷却用膨張弁20c、外気ファン22aが含まれている。更に、各種制御対象機器には、高温側ポンプ32、水加熱ヒータ34、低温側ポンプ42、電気ヒータ44、送風機62、内外気切替装置63、エアミックスドア64等が含まれている。
【0105】
そして、制御装置70の入力側には、
図3に示すように、各種の制御用センサが接続されている。制御用センサとしては、内気温センサ72a、外気温センサ72b、日射センサ72c、高圧圧力センサ72d、空調風温度センサ72eが含まれる。又、制御用センサとして、蒸発器温度センサ72f、蒸発器圧力センサ72g、チラー温度センサ72h、チラー圧力センサ72i、室外器温度センサ72j、室外器圧力センサ72k、バッテリ温度センサ72lが含まれている。
【0106】
内気温センサ72aは、車室内の温度である内気温Trを検出する内気温検出部である。外気温センサ72bは、車室外の温度である外気温Tamを検出する外気温検出部である。日射センサ72cは、車室内へ照射される日射量Asを検出する日射量検出部である。
【0107】
高圧圧力センサ72dは、圧縮機11から吐出された高圧冷媒の圧力である高圧圧力Pdを検出する高圧圧力検出部である。空調風温度センサ72eは、混合空間から車室内へ吹き出される吹出空気温度TAVを検出する空調風温度検出部である。
【0108】
蒸発器温度センサ72fは、室内蒸発器23における冷媒蒸発温度(蒸発器温度)Teを検出する蒸発器温度検出部である。本実施形態の蒸発器温度センサ72fは、具体的に、室内蒸発器23の出口側冷媒の温度を検出している。
【0109】
蒸発器圧力センサ72gは、室内蒸発器23における冷媒蒸発圧力Peを検出する蒸発器圧力検出部である。本実施形態の蒸発器圧力センサ72gは、具体的に、室内蒸発器23の出口側冷媒の圧力を検出している。
【0110】
チラー温度センサ72hは、チラー24の冷媒通路24aにおける冷媒蒸発温度を検出するチラー側冷媒温度検出部である。具体的に、本実施形態に係るチラー温度センサ72hは、チラー24の冷媒通路24aにおける出口側冷媒の温度を検出している。
【0111】
チラー圧力センサ72iは、チラー24の冷媒通路24aにおける冷媒蒸発圧力を検出するチラー側冷媒圧力検出部である。具体的に、チラー圧力センサ72iは、チラー24の冷媒通路24aにおける出口側冷媒の圧力を検出している。
【0112】
室外器温度センサ72jは、室外熱交換器22を流通する冷媒の温度である室外器冷媒温度T1を検出する室外器温度検出部である。本実施形態の室外器温度センサ72jは、具体的に、室外熱交換器22の出口側冷媒の温度を検出している。
【0113】
室外器圧力センサ72kは、室外熱交換器22を流通する冷媒の圧力である室外器冷媒圧力P1を検出する室外器温度検出部である。本実施形態の室外器圧力センサ72kは、具体的に、室外熱交換器22の出口側冷媒の圧力を検出している。
【0114】
バッテリ温度センサ72lは、バッテリ75の温度であるバッテリ温度TBを検出するバッテリ温度検出部である。バッテリ温度センサ72lは、複数の温度検出部を有し、バッテリ75の複数の箇所の温度を検出している。この為、制御装置70では、バッテリ75の各部の温度差を検出することもできる。更に、バッテリ温度TBとしては、複数の温度センサの検出値の平均値を採用している。
【0115】
又、制御装置70の入力側には、高温側熱媒体回路30、低温側熱媒体回路40における各熱媒体の温度を検出する為に、複数の熱媒体温度センサが接続されている。複数の熱媒体温度センサには、第1熱媒体温度センサ73a~第5熱媒体温度センサ73eが含まれている。
【0116】
第1熱媒体温度センサ73aは、水冷媒熱交換器12における熱媒体通路12bの出口部分に配置されており、水冷媒熱交換器12から流出する高温側熱媒体の温度を検出する。第2熱媒体温度センサ73bは、ヒータコア33の流出口部分に配置されており、ヒータコア33を通過する高温側熱媒体の温度を検出する。
【0117】
第3熱媒体温度センサ73cは、水加熱ヒータ34の熱媒体通路における出口部分に配置されており、水加熱ヒータ34から流出する高温側熱媒体の温度を検出する。第4熱媒体温度センサ73dは、チラー24における熱媒体通路の流入口部分に配置されており、チラー24に流入する熱媒体の温度を検出する。
【0118】
そして、第5熱媒体温度センサ73eは、バッテリ用熱交換部43の熱媒体通路43aにおける流出口部分に配置されており、バッテリ用熱交換部43の熱媒体通路43aから流出する低温側熱媒体の温度を検出する。
【0119】
車両用空調装置1は、第1熱媒体温度センサ73a~第5熱媒体温度センサ73eの検出結果を参照して、高温側熱媒体回路30、低温側熱媒体回路40における熱媒体の流れを切り替える。
【0120】
更に、制御装置70の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル71が接続されている。制御装置70には、この操作パネル71に設けられた各種操作スイッチからの操作信号が入力される。
【0121】
操作パネル71に設けられた各種操作スイッチとしては、具体的に、オートスイッチ、エアコンスイッチ、風量設定スイッチ、温度設定スイッチ等がある。オートスイッチは、冷凍サイクル10の自動制御運転を設定あるいは解除する操作スイッチである。
【0122】
エアコンスイッチは、室内蒸発器23で送風空気の冷却を行うことを要求する操作スイッチである。風量設定スイッチは、送風機62の風量をマニュアル設定する際に操作される操作スイッチである。温度設定スイッチは、車室内の目標温度Tsetを設定する操作スイッチである。
【0123】
又、制御装置70には、通信ユニット74が接続されている。通信ユニット74は、インターネット、携帯電話網等の公衆回線網及び基地局を含むネットワークを介して、種々の情報を通信して取得する。従って、制御装置70は、車両用空調装置1が搭載されている電気自動車の現在位置に対応する気象情報等を取得することができる。
【0124】
そして、本実施形態の制御装置70は、その出力側に接続された各種制御対象機器を制御する制御部が一体に構成されたものである。従って、それぞれの制御対象機器の作動を制御する構成(即ち、ハードウェア及びソフトウェア)が、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御部を構成している。
【0125】
例えば、制御装置70のうち、室外熱交換器22の着霜量が予め定められた基準を超えたか否かを判定する構成は、着霜判定部70aを構成する。又、制御装置70のうち、凝縮熱除霜によって、室外熱交換器22に付着した霜が全て融解したか否かを判定する構成は、融解判定部70bを構成する。そして、制御装置70のうち、凝縮熱除霜におけるドライ除霜において、霜の融解に伴い生じた水分の蒸発除去による室外熱交換器22の乾燥が完了したか否かを判定する構成は、乾燥完了判定部70cを構成する。
【0126】
更に、制御装置70のうち、凝縮熱除霜と暖房を並行して行う暖房除霜モードで、水冷媒熱交換器12で要求される冷媒温度と、室外熱交換器22で要求される冷媒温度の何れか一方の温度を圧縮機の作動制御により実現する構成は、圧縮制御部70dを構成する。又、制御装置70のうち、暖房除霜モードにおいて、水冷媒熱交換器12で要求される冷媒温度と、室外熱交換器22で要求される冷媒温度の何れか他方の温度を、前記暖房用膨張弁20aの作動制御によって実現する構成は、減圧制御部70eを構成する。
【0127】
又、制御装置70のうち、暖房除霜モードにおいて、空調対象空間の暖房よりも凝縮熱除霜を優先させる効率優先モードと、凝縮熱除霜よりも空調対象空間の暖房を優先させる快適性優先モードとの何れが適切かを判定する構成は、モード判定部70fを構成する。そして、制御装置70のうち、暖房除霜モードにおいて、モード判定部70fの判定結果に基づいて、効率優先モードと快適性優先モードの何れかを設定する構成は、モード設定部70gを構成する。
【0128】
次に、第1実施形態に係る車両用空調装置の作動について説明する。車両用空調装置1は、車室内の空調及びバッテリ75の冷却を行うために、冷媒回路を切替可能に構成されている。
【0129】
具体的に、車両用空調装置1は、車室内の空調を行うために、暖房モードの冷媒回路、冷房モードの冷媒回路、除湿暖房モードの冷媒回路等に切り替えることができる。暖房モードは、加熱された送風空気を車室内へ吹き出す運転モードである。冷房モードは、冷却された送風空気を車室内へ吹き出す運転モードである。除湿暖房モードは、冷却されて除湿された送風空気を再加熱して車室内へ吹き出す運転モードである。
【0130】
これらの運転モードの切り替えは、予め制御装置70に記憶されている空調制御プログラムが実行されることによって行われる。空調制御プログラムは、操作パネル71のオートスイッチが投入(ON)されると実行される。空調制御プログラムでは、各種制御用センサの検出信号および操作パネルの操作信号に基づいて、運転モードを切り替える。
【0131】
本実施形態に係る車両用空調装置1における暖房モードについて、
図4を参照して説明する。暖房モードでは、制御装置70が、第1開閉弁16aを開き、第2開閉弁16bを閉じる。そして、制御装置70は、室外熱交換器22の冷媒出口側と第1逆止弁21aの流入口側が連通し、第5三方継手13e側への流路が閉塞するように、三方弁18を作動させる。更に、制御装置70は、暖房用膨張弁20aを冷媒減圧作用を発揮する絞り状態として、冷房用膨張弁20b及び冷却用膨張弁20cを全閉状態とする。
【0132】
又、制御装置70は、高温側ポンプ32を作動させ、予め定められた圧送能力で高温側熱媒体を圧送する。尚、暖房モードにおいては、制御装置70は、低温側ポンプ42を停止させた状態にしておく。
【0133】
これにより、暖房モードの冷凍サイクル10では、
図4に示すように、冷媒は、圧縮機11、水冷媒熱交換器12の冷媒通路12a、レシーバ19、暖房用膨張弁20a、室外熱交換器22、第1逆止弁21a、圧縮機11の順に流れて循環する。
【0134】
この回路構成で、制御装置70は、各種制御対象機器の作動を制御する。例えば、圧縮機11については、制御装置70は、ヒータコア33における高温側熱媒体の温度が目標高温側熱媒体温度に近づくように、冷媒吐出能力を制御する。
【0135】
目標高温側熱媒体温度は、目標吹出温度TAOに基づいて、予め制御装置70に記憶されている暖房モード用の制御マップを参照して決定される。目標吹出温度TAOは、各種制御用センサの検出信号および操作パネルの操作信号を用いて算定される。高圧圧力センサ72dによって検出された高圧圧力Pdが、目標高温側熱媒体温度に基づき定められた目標高圧PdOに近づくように、圧縮機11の冷媒吐出能力は制御される。
【0136】
又、暖房用膨張弁20aについては、制御装置70は、室外熱交換器22の出口側冷媒の過熱度SH1が、予め定めた目標過熱度KSH(本実施形態では、5℃)に近づくように絞り開度を制御する。過熱度SH1は、室外器温度センサ72jによって検出された室外器冷媒温度T1および室外器圧力センサ72kによって検出された室外器冷媒圧力P1から算定される。
【0137】
又、エアミックスドア64については、制御装置70は、空調風温度センサ72eによって検出された吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOに近づくように開度を制御する。暖房モードでは、室内蒸発器23を通過した送風空気の全風量を水冷媒熱交換器12へ流入させるようにエアミックスドア64の開度を制御してもよい。
【0138】
冷凍サイクル10では、圧縮機11が作動すると、圧縮機11から吐出された高圧冷媒が水冷媒熱交換器12の冷媒通路12aへ流入する。水冷媒熱交換器12へ流入した冷媒は、熱媒体通路12bを流れる高温側熱媒体に放熱して凝縮する。これにより、水冷媒熱交換器12において、高温側熱媒体が加熱される。
【0139】
この時、高温側熱媒体回路30では、高温側ポンプ32の作動によって、高温側熱媒体が循環している。従って、水冷媒熱交換器12にて加熱された高温側熱媒体は、水加熱ヒータ34、高温側ポンプ32を介して、ヒータコア33に流入する。ヒータコア33に流入した高温側熱媒体は、室内蒸発器23を通過した送風空気と熱交換する。これにより、車室内に送風される送風空気が、少なくとも高圧冷媒を熱源として加熱される。
【0140】
水冷媒熱交換器12から流出した冷媒は、第1三方継手13a及び入口側通路27aを介してレシーバ19へ流入する。レシーバ19へ流入した冷媒は、レシーバ19にて気液分離される。レシーバ19にて分離された一部の液相冷媒は、出口側通路27b及び第2三方継手13bを介して暖房用膨張弁20aへ流入する。レシーバ19にて分離された残余の液相冷媒は、余剰冷媒としてレシーバ19に蓄えられる。
【0141】
暖房用膨張弁20aへ流入した冷媒は、低圧冷媒となるまで減圧される。この際、暖房用膨張弁20aの絞り開度は、過熱度SH1が目標過熱度KSHに近づくように制御される。暖房モードでは、実質的に、室外熱交換器22の出口側冷媒の過熱度が目標過熱度KSHに近づくように制御される。
【0142】
暖房用膨張弁20aにて減圧された低圧冷媒は、室外熱交換器22へ流入する。室外熱交換器22へ流入した冷媒は、外気ファン22aから送風された外気と熱交換し、外気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器22から流出した冷媒は、第3三方継手13c、吸入側通路27d及び第4三方継手13dを介して圧縮機11へ吸入されて再び圧縮される。
【0143】
従って、暖房モードでは、ヒータコア33にて加熱された送風空気を車室内へ吹き出すことによって、車室内の暖房を行うことができる。
【0144】
上述したように、本実施形態に係る車両用空調装置1の暖房モードでは、室外熱交換器22にて外気から吸熱し、外気から吸熱した熱を車室内の暖房に利用している。ここで、外気が低温高湿度である場合には、室外熱交換器22の表面に着霜が生じ、室外熱交換器22における熱交換性能を低下させてしまう。
【0145】
換言すると、暖房モードにおいて、室外熱交換器22の着霜が生じると、室外熱交換器22における外気からの吸熱量が低下してしまい、結果として、車両用空調装置1の暖房性能が低下する要因となる。
【0146】
この為、本実施形態に係る車両用空調装置1は、室外熱交換器22の着霜に対処する為に除霜運転を実行する。本実施形態における除霜運転の運転態様としては、凝縮熱除霜モードを有している。除霜運転の運転態様の一つである凝縮熱除霜モードについて、
図5を参照して説明する。
【0147】
凝縮熱除霜モードは、室内蒸発器23にて室内空調ユニット60内の送風空気から吸熱した熱や、チラー24にて低温側熱媒体回路40から吸熱した熱を利用して、室外熱交換器22の除霜を行う運転モードである。チラー24にて低温側熱媒体回路40から吸熱した熱には、バッテリ75から低温側熱媒体に放熱された熱や、電気ヒータ44で低温側熱媒体に加えられた熱が含まれる。
【0148】
以下、凝縮熱除霜モードの一例として、チラー24にて低温側熱媒体回路40から吸熱した熱を利用して、室外熱交換器22の除霜を行う場合について説明する。この場合の凝縮熱除霜モードは、例えば、電気自動車のバッテリ75の充電中であって、車室内に熱容量がある場合における室外熱交換器22の除霜に際して実行される。バッテリ75の充電中であれば、バッテリ75に生じる熱量が大きいことが想定される為、充電によりバッテリ75に生じた熱を、室外熱交換器22の除霜に有効活用することができる。
【0149】
この場合の凝縮熱除霜モードにおいて、制御装置70は、第1開閉弁16aを閉じ、第2開閉弁16bを開く。そして、制御装置70は、室外熱交換器22の冷媒出口と第5三方継手13e側の流路が連通し、第1逆止弁21a側の流路が閉塞するように、三方弁18を作動させる。更に、制御装置70は、暖房用膨張弁20aを全開状態として、冷却用膨張弁20cを絞り状態とする。そして、制御装置70は、冷房用膨張弁20bを全閉状態にする。
【0150】
又、制御装置70は、低温側ポンプ42を作動させて、予め定められた圧送能力で低温側熱媒体を圧送する。そして、制御装置70は、高温側熱媒体回路30に関して、高温側ポンプ32を停止させた状態にしておく。
【0151】
これにより、凝縮熱除霜モードの場合の冷凍サイクル10では、蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。冷媒は、圧縮機11、水冷媒熱交換器12、第2開閉弁16b、暖房用膨張弁20a、室外熱交換器22、三方弁18、レシーバ19、冷却用膨張弁20c、チラー24、圧縮機11の順に流れて循環する。
【0152】
この回路構成で、制御装置70は、各種制御対象機器の作動を制御する。例えば、圧縮機11については、制御装置70は、チラー24における低温側熱媒体の温度が目標低温側熱媒体温度に近づくように、冷媒吐出能力を制御する。目標低温側熱媒体温度は、バッテリ温度が適正な温度範囲に近づくように定められる。
【0153】
そして、冷却用膨張弁20cについては、制御装置70は、チラー24における冷媒通路24aの出口側冷媒の過熱度が予め定めた基準チラー側過熱度に近づくように絞り開度を制御する。チラー24における出口側冷媒の過熱度は、チラー24の出口側冷媒の過熱度は、チラー温度センサ72hで検出された出口側冷媒の温度と、チラー圧力センサ72iで検出された出口側冷媒の圧力から算出される。又、基準チラー側過熱度は、バッテリ温度TBがバッテリ75の適切な温度範囲内に維持できる低温側熱媒体の温度となるように設定されている。
【0154】
図5に示すように、冷凍サイクル10では、圧縮機11から吐出された高圧冷媒が水冷媒熱交換器12の冷媒通路12aを通過する。水冷媒熱交換器12から流出した高圧冷媒は、第2開閉弁16b及び外気側通路27cを介して、全開状態の暖房用膨張弁20aを通過して、室外熱交換器22に流入する。
【0155】
従って、室外熱交換器22には、圧縮機11から吐出された高圧冷媒が殆ど放熱することなく流入する。この為、室外熱交換器22に対して高圧冷媒の有する熱を加えることができ、室外熱交換器22の除霜を行うことができる。
【0156】
室外熱交換器22から流出した冷媒は、三方弁18、第2逆止弁21b、第5三方継手13eを介して、レシーバ19へ流入して気液分離される。レシーバ19にて分離された一部の液相冷媒は、第6三方継手13f及び第7三方継手13gを介して、冷却用膨張弁20cに流入して減圧され、チラー24の冷媒通路24aに流入する。これにより、チラー24に流入した低圧冷媒は、バッテリ75の熱を吸熱した低温側熱媒体から吸熱して蒸発する。チラー24から流出した冷媒は、圧縮機11の吸入口に導かれ、再び圧縮されて吐出される。
【0157】
この場合の凝縮熱除霜モードでは、チラー24で吸熱したバッテリ75に生じた熱を、冷凍サイクル10にて汲み上げて、室外熱交換器22の除霜に利用することができる。
【0158】
本実施形態に係る車両用空調装置1における室外熱交換器22の凝縮熱除霜運転は、室外熱交換器22に付着した霜の着霜量が予め定められた基準を超えた場合に実行される。凝縮熱除霜モードでは、室外熱交換器22に付着した霜を融解させた後に、融解で生じた水分を蒸発除去させる。
【0159】
具体的には、凝縮熱除霜モードでは、室外熱交換器22に付着した霜を融解させることを目的とする融解除霜と、融解除霜により生じた水分を蒸発除去させることを目的としたドライ除霜とが行われる。
【0160】
ここで、室外熱交換器22の除霜にて、室外熱交換器22に付着した霜を融解させた場合でも、外気温が0℃以下の低温である場合には、融解で生じた水分(以下、残留水分ともいう)が再び凍結してしまい、室外熱交換器22の熱交換性能を低下させてしまう。
【0161】
室外熱交換器22の熱交換性能の低下は、車両用空調装置1における空調性能の低下等の要因となる為、除霜で生じた水分の再凍結を防止する必要がある。除霜で生じた水分の再凍結を防止する方法として、除霜で生じた水分を蒸発させて、室外熱交換器22表面から水分を除去することが考えられる。凝縮熱除霜モードでは、融解した水分の再凍結を防止することを考慮して、ドライ除霜を導入している。
【0162】
そして、車両用空調装置1における凝縮熱除霜に際して、室外熱交換器22から水分を蒸発除去する為の効率の良い条件があると考えられる。この為、室外熱交換器22からの水分の蒸発除去に関し、エネルギ効率や車両用空調装置1の品質の観点で有用な条件を特定する為に、室外熱交換器22における水分の蒸発について考察する。
【0163】
先ず、室外熱交換器22における水分の蒸発について考察する上での前提条件について説明する。室外熱交換器22に付着した霜は、過去の実測結果の傾向から、除霜運転開始後の1~2分で融解して水になるものとし、付着した霜は全て融解しているものとする。
【0164】
室外熱交換器22表面における残留水分の蒸発表面には、分布はないものとする。室外熱交換器における冷媒温度は、凝縮温度で均一であるものとする。室外熱交換器22の残留水分における蒸発表面の風速は全て均一とする。残留水分の蒸発除去において、過渡的な水の表面積変化などの経時変化は無視する。
【0165】
室外熱交換器22表面における残留水分の蒸発水温については、以下の関係が成り立つものとして定義する。室外熱交換器22の冷媒凝縮温度から残留水分の蒸発水温を減算した値に対して、水の伝導率及び蒸発表面積を乗算し残留水分の厚みで除算した値は、外気温から室外熱交換器22の冷媒凝縮温度を減算した値に、水から空気への熱伝導率及び蒸発表面積を乗算した値に等しい。
【0166】
そして、室外熱交換器22の空気通路における残留水分の保水状態については、空気通路を区画するフィンの内部は、残留水分で満たされていない状態であるものとし、この場合の室外熱交換器22の蒸発表面積は、予め定められた値であるものとする。
【0167】
上述した前提条件のもとで、
図6に示す複数の実験式を用いて、単位面積あたりの蒸発速度Vaについて考察する。具体的には、拡散係数Dに関する実験式、レイノルズ数Reに関する実験式、シュミット数Scに関する実験式、シャーウッド数Shに関する実験式、単位面積あたりの蒸発速度Vaに関する実験式を用いている。
【0168】
これらの
図6に示す実験式から、風速Vcが増加すると、単位面積あたりの蒸発速度Vaが上昇する傾向を示すことがわかる。又、残留水分の蒸発水温が増加すれば、単位面積あたりの蒸発速度Vaが上昇する傾向を示す。残留水分の蒸発水温は、冷媒凝縮温度の上昇に伴って上昇し、風速Vcの減少に伴って増加する。同じ冷媒凝縮温度において、風速Vcを増加させた場合、単位面積あたりの蒸発速度Vaを上昇させる因子と低下させる因子の双方の影響が生じる。
【0169】
図6に示す実験式を用いて、冷媒凝縮温度が異なる場合における室外器蒸発量と風速Vcとの関係を算出した結果を
図7に示す。
図7におけるEtaは、冷媒凝縮温度が20℃の場合の室外器蒸発量と風速の関係を示している。
【0170】
同様に、Etbは、冷媒凝縮温度が30℃の場合の室外器蒸発量と風速の関係を示し、Etcは、冷媒凝縮温度が40℃の場合の室外器蒸発量と風速の関係を示している。そして、Etdは、冷媒凝縮温度が50℃の場合の室外器蒸発量と風速の関係を示し、Eteは、冷媒凝縮温度が60℃の場合の室外器蒸発量と風速の関係を示している。
【0171】
図7に示すグラフから、室外器蒸発量は、風速Vc上昇に伴う残留水分の蒸発水温の上昇によって、増加傾向を示すことがわかる。更に、室外器蒸発量は、冷媒凝縮温度の上昇に伴う残留水分の蒸発水温の上昇によって、増加傾向を示すことがわかる。即ち、車両用空調装置1によって制御することができる冷媒凝縮温度及び外気ファン22aによる風速Vcを適切に調整することで、室外熱交換器22における残留水分の蒸発除去を、より効率よく実現することができる。
【0172】
ここで、本実施形態に係る車両用空調装置1において、室外熱交換器22における水分の蒸発除去を行う場合は、上述した冷媒凝縮温度及び風速Vcを実現する為に、冷凍サイクル10の動作を必要とする。
【0173】
一般的な冷凍サイクルで実現可能な範囲における冷媒凝縮温度と風速の関係について検討する。
図8は、圧縮機の冷媒吐出能力とチラー24の吸熱量を条件として定めた場合の冷媒凝縮温度と風速の関係を示すグラフである。
【0174】
尚、
図8において、Tcdhは、圧縮機11の回転数及びチラー24の吸熱量が最大である場合の冷媒凝縮温度と風速の関係を示している。又、Tcdlは、圧縮機11の回転数及びチラー24の吸熱量が最小である場合の冷媒凝縮温度と風速の関係を示している。そして、Tcdsは、圧縮機11の回転数及びチラー24の吸熱量が標準的な値である場合の冷媒凝縮温度と風速の関係を示している。
【0175】
図7、
図8に示すグラフを用いて、
図9に示すグラフが形成される。
図9において、Edhは、圧縮機11の回転数及びチラー24の吸熱量が最大である場合の室外器蒸発量と風速の関係を示している。又、Edlは、圧縮機11の回転数及びチラー24の吸熱量が最小である場合の室外器蒸発量と風速の関係を示している。そして、Wdsは、圧縮機11の回転数及びチラー24の吸熱量が標準的な値である場合の室外器蒸発量と風速の関係を示している。
【0176】
図9に示すグラフによれば、風速に応じて、冷凍サイクルにて実現可能な運転条件エリアAfを特定することができる。この運転条件エリアAfに含まれる室外器蒸発量及び風速Vcの下で冷凍サイクルを動作させることで、少なくとも、室外熱交換器22における残留水分の蒸発除去を、比較的短期間で実現することができる。
【0177】
室外熱交換器22における残留水分の蒸発除去を行うということは、残留水分に由来する水蒸気が発生することを意味する。外気温が低い場合に、駆動装置室内の室外熱交換器22から水蒸気が発生した場合、外部からは、白い霧状の気体が駆動装置室から発生していると認識される為、駆動装置室内の機器から白煙が発生しているように誤認される虞がある。
【0178】
この為、室外熱交換器22における残留水分の蒸発除去を行う際には、白霧の視認を抑制しながら、残留水分の蒸発除去を促進する必要がある。白霧の視認に関する基準として、湿り空気線図を用いた方法が知られている。
【0179】
図10は、湿り空気線図の説明図である。この図において、横軸は温度、縦軸は絶対湿度、図中の斜めの曲線は相対湿度ψを示している。相対湿度ψが100%の線を特に飽和線Lsaと呼ぶ。飽和線Lsaの左側の領域は水分が完全に液化している状態を示す。飽和線Lsaの右側は、水蒸気とその他の気体(空気等)が混在している状態にある。この状態のガスは相対湿度ψが高いほど水分が凝縮して白霧として視認されやすい。
【0180】
ここで、室外熱交換器22における残留水分の蒸発除去に際して、水蒸気が白霧として誤認を招くのは、外気と室外熱交換器22通過後の空気との物質混合が完了した段階であると仮定する。そして、外気と室外熱交換器22通過後の空気の混合が完了すれば、最終的に両者の混合比率に基づく関係に行き着く。
【0181】
従って、熱の拡散は物質の拡散よりも早いが、白霧が視認された結果、課題となるかどうかは、経験的な知見から、物質混合が完了した状態と定義することが可能であり、外気と室外熱交換器22通過後の空気の混合比率により判定できるものと考えられる。
【0182】
尚、外気用熱交換器における空気出口側の空気の状態とは、室外熱交換器22通過後の空気の状態だけでなく、室外熱交換器22通過後の空気と外気との物質混合が完了した状態を含んでいる。
【0183】
図10を参照しつつ、外気温度が0℃の場合を例に挙げて、湿り空気線図を用いた白霧の視認性の判定について説明する。先ず、湿り空気線図における外気温度における飽和点から、飽和線Lsaに対する接線Ltanを求める。接線Ltanは、水蒸気が白霧として認識される視認限界を示している。
図10に示す場合は、外気温度が0℃の場合の飽和点Pを通過する接線Ltanが求められる。
【0184】
図10の湿り空気線図において、接線Ltanよりも下方に位置する領域は、室外熱交換器22から生じた水蒸気が白霧として認識されない視認抑制領域Aaにあたる。一方、湿り空気線図において、飽和線Lsa以下で接線Ltanより上方に位置する領域は、室外熱交換器22から生じた水蒸気が白霧として認識されて課題となる視認領域Abにあたる。
【0185】
外気と室外熱交換器22通過後の空気の混合が完了した段階の空気の状態が、視認抑制領域Aaと、視認領域Abの何れに属するかによって、水蒸気が白霧として視認されるか否かを特定できる。従って、外気と室外熱交換器22通過後の空気の混合が完了した段階の空気の状態が視認抑制領域Aaに属するように、室外熱交換器22における冷媒凝縮温度及び風速Vcを制御することで、白霧としての視認性を抑えた状態で迅速なドライ除霜を実現できる。
【0186】
又、湿り空気線図にて接線Ltanを基準として、外気と室外熱交換器22通過後の空気の混合が完了した段階の空気の状態が視認抑制領域Aaとなるように定めることで、空気の状態は、視認領域Abに属することはない。この為、外気と室外熱交換器22通過後の空気が完了するまでの過程において、白霧として視認性を充分に抑制できる。
【0187】
ここで、冷凍サイクルにおける冷媒側能力と空気側能力が釣り合うと仮定して、任意の風速Vc、冷媒凝縮温度をつくる冷凍サイクルバランス点(つまり、冷媒吐出能力と吸熱量)における冷媒側室外器能力に対する空気側比エンタルピSepを算出する。空気側比エンタルピSepから、湿り空気線図において、空気側比エンタルピSepに対応する比エンタルピ線Lseを特定する。
【0188】
例えば、或る任意のシステムを前提として、外気温が0℃で、風速Vcが0.5m/s、冷媒凝縮温度が35℃の場合、空気側比エンタルピは、33kJ/kgに算出される。そして、
図11に示す湿り空気線図において、算出した33kJ/kgに対応する比エンタルピ線Lseが特定される。
【0189】
続いて、接線Ltanと比エンタルピ線Lseとの交点Pcを特定する。ここで、外気温度の飽和点Pにおける絶対湿度Ahtから、交点Pcにおける絶対湿度Ahaを減算することで、単位通過空気重量あたりの許容上限蒸発量Emが算出される。単位通過空気重量当たりの許容上限蒸発量Emは、室外熱交換器22通過後の単位重量当たりの空気に対して、飽和するまでに許容される水蒸気量を示している。
【0190】
このようにして算出される単位通過空気重量あたりの許容上限蒸発量Emについて、風速Vc、冷媒凝縮温度等の諸条件を変更して算出した。諸条件毎の単位通過空気重量あたりの許容上限蒸発量Emをまとめると、
図12における許容上限蒸発量線Emxとなる。
図12において、室外器蒸発量及び風速Vcが許容上限蒸発量線Emxよりも低い領域であれば、最終的に白霧として視認されない状態で効率よく残留水分の蒸発除去を行うことができる。
【0191】
ここで、車両用空調装置1における凝縮熱除霜では、低外気温時の暖房運転によって、室外熱交換器22に付着する霜の最大許容着霜量が付着するものと仮定する。従って、本実施形態にて、室外熱交換器22から蒸発除去する必要がある必要水分蒸発量Enは、最大許容着霜量から、霜の融解によって室外熱交換器22から落下する水分量を減算して求められる。
【0192】
図13に示すように、室外熱交換器22からの残留水分の蒸発除去に関して、白霧を視認させることなく、室外熱交換器22の熱交換性能を迅速に回復させる為の運転条件は、対象エリアAoで規定される。そして、対象エリアAoは、許容上限蒸発量線Emxに係る風速Vcよりも大きく、必要水分蒸発量Enよりも室外器蒸発量が大きくなるように定められる。
【0193】
図6~
図13を用いて行った考察は、
図14に示すグラフでまとめることができる。
図14のグラフは、
図9に示すグラフと、
図13に示すグラフをまとめた内容である。
図14のグラフに示す目標エリアAtは、残留水分の蒸発除去に関し、冷凍サイクルで実現可能な運転条件において、白霧を視認させることなく、室外熱交換器22の熱交換性能を迅速に回復させる為の運転条件を示している。具体的には、目標エリアAtは、
図9における運転条件エリアAfと、
図13における対象エリアAoとの重複範囲により規定される。
【0194】
図14に示すように、目標エリアAtには、点Px、点Pz、点Pzが含まれている。点Pxは、許容上限蒸発量線Emxと必要水分蒸発量Enの交点を示す。点Pyは、許容上限蒸発量線Emxと、圧縮機11の回転数及びチラー24の吸熱量が最大である場合の室外器蒸発量を示す曲線Edhとの交点を示す。点Pzは、曲線Edhと、必要水分蒸発量Enとの交点を示している。
【0195】
目標エリアAtにおける風速Vcの最小値は、点Pxにおける風速であり、0.12m/sである、又、目標エリアAtにおける風速Vcの最大値は、点Pzにおける風速であり、1.2m/sである。
【0196】
従って、除霜運転で室外熱交換器22から残留水分を蒸発除去させる際に、外気ファン22aによる風速を0.12m/s~1.2m/sの範囲で調整することで、白霧を視認させることなく、迅速に残留水分を蒸発除去させることができる。
【0197】
そして、目標エリアAtにおける室外器蒸発量の最小値は、点Px、点Pzにおける室外器蒸発量に基づいて特定され、必要水分蒸発量Enに相当する。室外器蒸発量から冷媒凝縮温度を特定することができるので、目標エリアAtにおける冷媒凝縮温度の最小値は、15℃に特定される。
【0198】
又、目標エリアAtにおける室外器蒸発量の最大値は、点Pyにおける室外器蒸発量に基づいて特定される。点Pyにおける室外器蒸発量から算出して、目標エリアAtにおける冷媒凝縮温度の最大値は、70℃に特定される。
【0199】
従って、除霜運転で室外熱交換器22から残留水分を蒸発除去させる際に、冷媒凝縮温度が15℃~70℃となるように調整された熱量を室外熱交換器22に対して供給することで、白霧を視認させることなく、迅速に残留水分を蒸発除去させることができる。
【0200】
ここで、室外熱交換器22からの残留水分の蒸発除去に関する運転条件として、除霜条件係数DCCを用いて、ドライ除霜モードにおける制御を行うことができる。除霜条件係数DCCは、外気ファン22aにより室外熱交換器22に対して供給される風速Vcと、室外熱交換器22における冷媒凝縮温度を乗算して定められるパラメータである。除霜条件係数DCCの算出に際して、室外熱交換器22における冷媒凝縮温度の単位としては摂氏が採用されている。ドライ除霜の事象を議論する上では、水の融点を基準とし融点からの温度差が重要な因子となる為である。
【0201】
除霜条件係数DCCを用いた場合、目標エリアAtに係る除霜条件係数DCCは、1.8~35に定められる。除霜条件係数DCCに係る「1.8」という値は、点Pxに係る値であり、0.12m/sに対して、15℃を乗算して求められる。除霜条件係数DCCに係る「35」という値は、点Pyに係る値であり、0.5m/sに対して、70℃を乗算して求められる。
【0202】
従って、室外熱交換器22から残留水分を蒸発除去させる際に、除霜条件係数DCCが1.8~35となるように、風速Vc及び冷媒凝縮温度を調整することで、白霧を視認させることなく、迅速に残留水分を蒸発除去させることができる。
【0203】
ここで、凝縮熱除霜におけるドライ除霜について説明する。融解した霜に起因する残留水分を蒸発除去させるドライ除霜では、上述のように定められた風速Vcや冷媒凝縮温度といったパラメータを用いて、車両用空調装置1の作動が制御される。
【0204】
この時、制御装置70は、室外熱交換器22における冷媒凝縮温度が目標凝縮温度TCOに近づくように、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御する。目標凝縮温度TCOは、予め制御装置70に記憶されている制御マップを参照して決定される。
【0205】
本実施形態では、
図15の制御特性図に示すように、外気温の上昇に伴って、目標凝縮温度TCOを上昇させるように決定する。これにより、ドライ除霜における冷媒凝縮温度は、15℃~70℃の範囲内において、外気温が低いほど低くなるように調整される。
【0206】
そして、冷房用膨張弁20b、冷却用膨張弁20cについては、制御装置70は、チラー24における冷媒通路24aの出口側冷媒の過熱度が予め定めた基準チラー側過熱度(例えば、10℃)に近づくように絞り開度を制御する。
【0207】
そして、室外熱交換器22に対する外気の供給量に対応する外気ファン22aについては、目標風速VaOに近づくように、外気ファン22aの回転数を制御する。目標風速VaOは、予め制御装置70に記憶されている制御マップを参照して決定される。
【0208】
本実施形態では、
図16の制御特性図に示すように、目標風速VaOは、室外熱交換器22の冷媒凝縮温度の低下に伴って減少するように決定される。上述したように、目標凝縮温度TCOは、外気温が低くなるほど低く定められる為、目標風速VaOも、外気温が低くなるほど、小さくなるように定められる。
【0209】
図16に示す制御特性図において、目標風速VaOは、外気ファン22aの動作が行われる状態においては、視認限界風速Vlよりも大きくなるように定められている。視認限界風速Vlは、室外熱交換器22の冷媒凝縮温度によるドライ除霜において、水蒸気が白霧として視認される風速Vcの上限値を示している。これにより、
図16に示す制御特性図に従ってドライ除霜における目標風速VaOを設定することで、白霧の視認を抑制しながら、室外熱交換器22からの残留水分の蒸発除去を促進させることができる。
【0210】
そして、外気ファン22aの目標風速を決定する際に、外気温度が低温側基準温度(例えば、-15℃)よりも低い場合には、目標風速は、0.12m/s以下に定められる。低温側基準温度よりも外気温度が低い状態では、ドライ除霜モード時に発生する水蒸気が急速に冷却され、氷の粒となると考えられる。この場合には白煙と誤認される可能性が低いと考えられるので、目標風速VaOを0.12m/s以下に定める。
【0211】
外気温度が低温側基準温度より低い場合に、0.12m/sの目標風速を実現する方法としては、外気ファン22aを停止しても良い。又、室外熱交換器22に対する送風径路上に配置されたシャッター装置によって、室外熱交換器22に対する空気の供給を妨げても良い。
【0212】
尚、凝縮熱除霜モードは、ドライ除霜の完了をもって終了する。ドライ除霜が完了したか否かは、室外熱交換器22表面の残留水分が蒸発し、室外熱交換器22表面から除去された状態をもって、ドライ除霜の完了とする。
【0213】
図17に示すように、凝縮熱除霜モードでは、融解除霜を完了した後、ドライ除霜が実行される。ドライ除霜にて蒸発させる残留水分は、融解除霜における霜の融解に由来するものであると考えられる為、融解除霜時に投入されたエネルギ量と、ドライ除霜時に必要とされるエネルギ量との間には、強い相関があると考えられる。
【0214】
本実施形態では、融解除霜時に投入されたエネルギ量と、ドライ除霜時に必要とされるエネルギ量の関係性を利用して、ドライ除霜が完了したか否かが判定を行う。先ず、融解除霜によって融解した霜の総量を示す融解水分量を推定する。融解水分量は、融解除霜で霜の融解に投入された総エネルギ量を、単位重量当たりの氷の融解熱で除算することによって推定される。
【0215】
具体的には、圧縮機11の仕事量とチラー24における吸熱量の合計値から風速等による放熱ロスを減算した値を累積加算して、融解除霜時に霜の融解に投入した総エネルギ量を算出する。算出された総エネルギ量は、投入エネルギ量の一例に相当する。風速等による放熱ロスは、融解除霜時における放熱エネルギ量に相当する。
【0216】
融解除霜時における放熱エネルギ量は、例えば、風速と外気温度との関係から実験的に空気に対する放熱ロスを取得して得られた制御テーブルを用いて特定される。制御テーブルでは、外気温度が低い程、放熱エネルギ量が大きくなるように定められている。又、制御テーブルでは、風速が大きい程、放熱エネルギ量が大きくなるように定められている。
【0217】
そして、算出された総エネルギ量を、単位重量当たりの氷の融解熱(例えば、約334kj/kg)で除算することで、融解除霜時に融解した霜の総量である融解水分量が推定される。
【0218】
続いて、算出した融解水分量を用いて、必要仕事量を算出する。必要仕事量とは、ドライ除霜において、融解水分量に相当する残留水分を蒸発させる為に必要なエネルギ量を意味し、必要エネルギ量の一例に相当する。具体的には、推定された融解水分量に対して、単位重量あたりの水の蒸発潜熱(例えば、約2400kj/kg)を乗算することで、必要仕事量が算出される。
【0219】
次に、ドライ除霜中に投入されたエネルギの積算値であるドライ投入仕事量が必要仕事量以上になったか否か(つまり、必要エネルギ量以上になったか否か)を判定する。ドライ投入仕事量はドライ投入エネルギ量の一例に相当する。
【0220】
ドライ投入エネルギ量を特定する際に、圧縮機11の仕事量とチラー24における吸熱量の合計値から、ドライ除霜時における放熱エネルギ量を除いておく。ドライ除霜時における放熱エネルギ量は、ドライ除霜時に空気に対して放熱された放熱ロスを意味する。従って、上述した制御テーブルを参照して、ドライ除霜時における風速及び外気温度を用いることで、ドライ除霜時における放熱エネルギ量を特定することができる。
【0221】
ドライ投入仕事量が必要仕事量以上になった場合には、融解除霜で生じた残留水分の全てがドライ除霜にて蒸発したものと考えられるので、ドライ除霜が完了したと判定する。ドライ投入仕事量が必要仕事量未満である場合には、ドライ除霜は完了してないと判定する。
【0222】
このようにドライ除霜の完了判定を行うことによって、車両用空調装置1は、室外熱交換器22における残留水分の除去を確実に行うことができる。又、融解除霜時及びドライ除霜時における放熱エネルギ量を考慮することによって、残留水分の除去を完了したことに関する判定精度を向上させることができる。又、放熱エネルギ量は、風速や外気温度を利用している為、融解除霜時及びドライ除霜時の環境に応じて適切に特定される。この点からも、ドライ除霜の完了に関する判定精度を高めることができる。
【0223】
第1実施形態に係る車両用空調装置1では、上述した空調対象空間(車室内)の暖房と、室外熱交換器22に対する凝縮熱除霜とを並行して行う為に、暖房除霜モードを有している。車両用空調装置1における暖房除霜モードについて、
図18を参照して説明する。
【0224】
暖房除霜モードでは、空調対象空間(車室内)の暖房により快適性を向上させる為、水冷媒熱交換器12における冷媒温度として、例えば、40℃~70℃となるような暖房能力が要求される。
【0225】
一方、暖房除霜モードにおける凝縮熱除霜については、室外熱交換器22の冷媒温度として、例えば、30℃前後となるような除霜能力が要求される。室外熱交換器22の除霜という観点では、冷媒温度が高い方が良いとも考えられるが、冷媒温度が高すぎると、水分の蒸発により生じる白霧の視認性が上がり、白煙等に誤認される可能性が高くなる。この為、室外熱交換器22における除霜能力についても、冷凍サイクル10の動作で制御する必要がある。
【0226】
暖房除霜モードにおいて、制御装置70は、第1開閉弁16aを閉じ、第2開閉弁16bを開く。そして、制御装置70は、室外熱交換器22の冷媒出口と第5三方継手13e側の流路が連通し、第1逆止弁21a側の流路が閉塞するように、三方弁18を作動させる。更に、制御装置70は、暖房用膨張弁20a及び冷却用膨張弁20cを、それぞれ絞り状態とする。そして、制御装置70は、冷房用膨張弁20bを全閉状態にする。
【0227】
又、制御装置70は、高温側熱媒体回路30に関して、高温側ポンプ32を予め定められた圧送能力で高温側熱媒体を圧送する。制御装置70は、高温側熱媒体回路30の水加熱ヒータ34を、予め定められた条件に従って発熱させて、高温側熱媒体を加熱する。そして、制御装置70は、低温側熱媒体回路40に関して、低温側ポンプ42を作動させて、予め定められた圧送能力で低温側熱媒体を圧送する。
【0228】
これにより、暖房除霜モードの場合の冷凍サイクル10では、蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。冷媒は、圧縮機11、水冷媒熱交換器12、第2開閉弁16b、暖房用膨張弁20a、室外熱交換器22、三方弁18、レシーバ19、冷却用膨張弁20c、チラー24、圧縮機11の順に流れて循環する。
【0229】
この回路構成で、制御装置70は、各種制御対象機器の作動を制御する。例えば、圧縮機11の冷媒吐出能力(即ち、回転数)、暖房用膨張弁20aの絞り開度、冷却用膨張弁20cの絞り開度、水加熱ヒータ34の発熱量等については、後述する暖房除霜制御プログラムに従って制御される。暖房除霜制御プログラムの詳細については後述する。
【0230】
尚、暖房除霜モードにおける凝縮熱除霜は、上述した凝縮熱除霜モードと同様に、融解除霜と、ドライ除霜を含んでいる。従って、ドライ除霜時において、外気ファン22aにより室外熱交換器22に対して供給される風速Vcと、室外熱交換器22における冷媒凝縮温度は、
図14に示す目標エリアAtに属するように定められ、定められた目標値となるように制御される。
【0231】
図18に示すように、冷凍サイクル10では、圧縮機11から吐出された高圧冷媒が水冷媒熱交換器12の冷媒通路12aへ流入する。水冷媒熱交換器12へ流入した冷媒は、熱媒体通路12bを流れる高温側熱媒体に放熱して凝縮する。これにより、水冷媒熱交換器12において、高温側熱媒体が加熱される。
【0232】
この時、高温側熱媒体回路30では、高温側ポンプ32の作動によって、高温側熱媒体が循環している。従って、水冷媒熱交換器12にて加熱された高温側熱媒体は、水加熱ヒータ34、高温側ポンプ32を介して、ヒータコア33に流入する。ヒータコア33に流入した高温側熱媒体は、室内蒸発器23を通過した送風空気と熱交換する。これにより、暖房除霜モードにおいて、車室内に送風される送風空気が、少なくとも高圧冷媒を熱源として加熱される。
【0233】
水冷媒熱交換器12から流出した冷媒は、第2開閉弁16b及び外気側通路27cを介して、暖房用膨張弁20aに流入し、暖房用膨張弁20aの絞り開度に応じて、中間圧冷媒に減圧される。暖房用膨張弁20aで減圧された中間圧冷媒は室外熱交換器22に流入する。
【0234】
従って、室外熱交換器22には、暖房用膨張弁20aから流出した中間圧冷媒が流入する為、室外熱交換器22に対して中間圧冷媒の有する熱を加えることができる。即ち、暖房除霜モードでは、中間圧冷媒の有する熱を用いた室外熱交換器22の凝縮熱除霜を行うことができる。
【0235】
室外熱交換器22から流出した冷媒は、三方弁18、第2逆止弁21b、第5三方継手13eを介して、レシーバ19へ流入して気液分離される。レシーバ19にて分離された一部の液相冷媒は、第6三方継手13f及び第7三方継手13gを介して、冷却用膨張弁20cに流入して減圧され、チラー24の冷媒通路24aに流入する。
【0236】
これにより、チラー24に流入した低圧冷媒は、バッテリ75の熱を吸熱した低温側熱媒体から吸熱して蒸発する。チラー24から流出した冷媒は、圧縮機11の吸入口に導かれ、再び圧縮されて吐出される。
【0237】
この場合の暖房除霜モードでは、チラー24で吸熱したバッテリ75に生じた熱を、冷凍サイクル10にて汲み上げて、空調対象空間の暖房及び室外熱交換器22の凝縮熱除霜に利用することができる。
【0238】
続いて、車両用空調装置1における暖房除霜モードでの制御内容について、
図19~
図21を参照して説明する。車両用空調装置1における暖房除霜運転は、制御装置70によって、ROMに格納された暖房除霜制御プログラムを実行することで実現される。この暖房除霜制御プログラムは、車両用空調装置1に電源が投入されると同時に実行される。
【0239】
上述したように、暖房除霜モードでは、空調対象空間の暖房と並行して、室外熱交換器22の凝縮熱除霜が行われる。凝縮熱除霜は、融解除霜とドライ除霜を含んでいる為、空調対象空間の暖房と室外熱交換器22の融解除霜を行う状態と、空調対象空間の暖房と室外熱交換器22のドライ除霜を行う状態が生じることになる。
【0240】
図19に示すように、先ず、ステップS1では、車両用空調装置1の運転に関して、暖房指示があるか否かが判断される。暖房指示は、空調制御プログラムの実行に伴い、各種制御用センサの検出信号および操作パネルの操作信号に基づいて、空調対象空間の暖房を要求する際に生じる。暖房指示がある場合、ステップS2に処理を移行する。一方、暖房指示がない場合は、暖房除霜制御プログラムを終了する。この場合、他の運転モードに係る空調運転や、バッテリ75の冷却運転が行われる。
【0241】
ステップS2においては、室外熱交換器22が着霜しているか否かが判定される。ステップS2の判断処理は、室外熱交換器22に付着した霜の着霜量が予め定められた基準を超えたか否かによって判断される。着霜量が基準を超えて、室外熱交換器22が着霜していると判断された場合、ステップS3に移行する。室外熱交換器22が着霜していないと判断された場合、暖房除霜制御プログラムを終了する。この場合、車両用空調装置1では、暖房運転が行われる。
【0242】
ステップS3に移行する場合、車両用空調装置1の運転モードは、暖房除霜モードに定められていることになる。暖房除霜モードでは、空調対象空間の暖房と、室外熱交換器22の凝縮熱除霜を並行して行うことになるが、両者を並行して行う際に、冷凍サイクル10の能力が不足することが想定される。
【0243】
この為、車両用空調装置1では、暖房除霜モードとして、空調対象空間の暖房よりも、室外熱交換器22の凝縮熱除霜を優先して行う効率優先モードと、室外熱交換器22の凝縮熱除霜よりも空調対象空間の暖房を優先して行う快適性優先モードを有している。
【0244】
ステップS3では、空調対象空間の暖房と、室外熱交換器22の凝縮熱除霜の何れを優先して実行するかを決定する処理が行われる。具体的には、各種制御用センサの検出信号および操作パネルの操作信号によって、快適性優先モードよりも効率優先モードが適していると想定される効率優先条件を満たすか否かが判断される。
【0245】
効率優先条件の一例として、操作パネル71の操作信号として、効率優先モードが選択された旨の操作信号が出力されている場合が挙げられる。つまり、ユーザの操作によって効率優先モードが選択されている場合、効率優先条件を満たすと判断される。
【0246】
又、効率優先条件として、各種制御用センサの検出信号から、空調対象空間の暖房負荷が基準よりも小さいと判断された場合が挙げられる。暖房負荷が基準よりも小さい場合、効率優先条件を満たすと判断される。
【0247】
効率優先条件を満たす場合、ステップS4に移行して、暖房除湿モードの効率優先モードに関する制御を行う。ステップS4の効率優先モードに関する制御内容については、後に図面を参照して説明する。暖房除湿モードの効率優先モードに関する制御を終了すると、ステップS6に処理を移行する。
【0248】
一方、効率優先条件を満たさない場合、ステップS5に移行して、暖房除湿モードの快適性優先モードに関する制御を行う。ステップS5の快適性優先モードに関する制御内容については、後に図面を参照して説明する。暖房除湿モードの快適性優先モードに関する制御を終了すると、ステップS6に処理を移行する。
【0249】
ステップS6においては、ステップS4、ステップS5を終了する時点で、室外熱交換器22の凝縮熱除霜を完了している為、車両用空調装置1の運転モードを、暖房除霜モードから暖房モードに切り替える。暖房モードに切り替えた後、暖房除霜制御プログラムを終了する。
【0250】
次に、暖房除霜モードの効率優先モードに関する制御内容について、
図20を参照して説明する。ステップS4に移行して効率優先モードを開始すると、
図20に示すように、先ず、ステップ11において、除霜能力制御が行われる。
【0251】
ステップS11の除霜能力制御では、室外熱交換器22における冷媒凝縮温度が目標凝縮温度になるように、圧縮機11の冷媒吐出能力(回転数)を制御する。暖房除霜モードにおけるドライ除霜に際して、目標凝縮温度TCOは、凝縮熱除霜モードの際に説明したように、
図15に示す制御特性図に従って定められる。
【0252】
つまり、室外熱交換器22の冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも高い場合、圧縮機11の回転数を現時点よりも下げ、冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも低い場合、圧縮機11の回転数を現時点よりも上げるように制御する。これにより、室外熱交換器22における冷媒の放熱量を、凝縮熱除霜に適した状態に制御することができる。
【0253】
ステップS12では、室外熱交換器22の冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも低いか否かが判断される。即ち、室外熱交換器22の凝縮熱除霜に対して、冷凍サイクル10で発生させた能力が不足しているか否かが判定される。冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも低い場合、ステップS14に処理を移行する。冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも低くない場合、ステップS13に処理を移行する。
【0254】
ステップS13においては、室外熱交換器22の凝縮熱除霜に関して、予め定められた能力が確保されている為、暖房能力制御が行われる。ステップS13の暖房能力制御においては、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOになるように、暖房用膨張弁20aの開度を制御する。
【0255】
つまり、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも高い場合、暖房用膨張弁20aの開度を現時点よりも大きくし、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも低い場合、暖房用膨張弁20aの開度を現時点よりも小さくするように制御する。
【0256】
これにより、水冷媒熱交換器12における放熱量を、室外熱交換器22における放熱量よりも低い任意の値に制御することができる。即ち、室外熱交換器22の凝縮熱除霜に必要な冷媒温度と、車室内暖房に必要な冷媒温度という異なる冷媒温度をつくりだすことができ、それぞれを適切に制御することができる。
【0257】
ステップS14では、ステップS12の判断処理にて、室外熱交換器22の凝縮熱除霜に関して、予め定められた能力に対して不足していると判断されている為、除霜能力向上制御が行われる。ステップS14の除霜能力向上制御では、暖房用膨張弁20aの開度を全開状態にすることで、水冷媒熱交換器12を流れる冷媒の温度を低下させ放熱量を抑えることで、室外熱交換器22における放熱量を増大させる。
【0258】
これにより、圧縮機11の作動制御だけでは、冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも高くなるように調整できない場合であっても、暖房用膨張弁20aの開度制御によって、目標凝縮温度よりも高い状態を作り出すことができる。
【0259】
ステップS15に移行すると、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも低いか否かが判断される。つまり、水冷媒熱交換器12における放熱量が、要求される暖房能力に対して不足しているか否かが判断されている。吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも低い場合、ステップS16に処理を移行する。一方、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも低くない場合、ステップS17に処理を移行する。
【0260】
ステップS16では、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも低く、冷凍サイクル10の暖房能力では目標に対して不足している為、補助加熱制御が実効される。補助加熱制御では、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOになるように、水加熱ヒータ34の発熱量を制御する。即ち、目標値に対して冷凍サイクル10による暖房能力の不足分を、水加熱ヒータ34の暖房能力で補うことで、空調対象空間の快適性を担保している。
【0261】
ステップS17においては、液バック防止制御を行う。液バック防止制御では、液相状態の冷媒が圧縮機11の吸入口に供給される液バックが生じないように、冷却用膨張弁20cの開度を制御する。冷却用膨張弁20cの開度は、圧縮機11の吸入口側における冷媒の過熱度が予め定められた基準値になるように制御される。これにより、液相冷媒が圧縮機11の吸入口から流入することによる圧縮機11の障害を防止することができる。
【0262】
ステップS18では、室外熱交換器22の凝縮熱除霜が完了したか否かが判断される。上述したように、凝縮熱除霜は、融解除霜、ドライ除霜の順で行われる。従って、ステップS18では、ドライ除霜によって、融解除霜で生じた水分が室外熱交換器22から蒸発除去されたか否かが判断される。凝縮熱除霜が完了している場合、暖房除霜モードの効率優先モードに関する制御を終了する。凝縮熱除霜が完了していない場合、ステップS11に処理を戻し、効率優先モードに関する制御を再び開始する。
【0263】
図20に示すように、効率優先モードでは、ステップS11にて、室外熱交換器22の凝縮熱除霜の為に要求される暖房能力を、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御することによって実現している。そして、ステップS13において、空調対象空間の暖房の為に要求される暖房能力を、暖房用膨張弁20aの開度を制御することで実現している。
【0264】
これにより、暖房除霜モードにおけるサイクル構成にて、室外熱交換器22の凝縮熱除霜で要求される除霜能力と、空調対象空間の暖房について要求される暖房能力を、それぞれ制御することができ、異なる冷媒凝縮温度を実現することができる。
【0265】
又、効率優先モードにおいて、冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも低い場合には、除霜能力向上制御が行われ、暖房用膨張弁20aの開度が全開状態に調整される。これにより、空調対象空間の暖房の為に要求される放熱量を確保することに優先して、室外熱交換器22の凝縮熱除霜に要する放熱量を充足するように、冷凍サイクル10が作動する為、空調対象空間の暖房に優先して、凝縮熱除霜を実現することができる。
【0266】
更に、暖房除霜モードの効率優先モードにおいて、冷凍サイクル10の作動による空調対象空間の暖房能力が不足する場合(ステップS15)、補助加熱制御にて、水加熱ヒータ34による高温側熱媒体の加熱が行われる。
【0267】
これにより、暖房除霜モードにて、空調対象空間の暖房に関して、冷凍サイクル10による暖房能力が不足する場合であっても、冷凍サイクル10とは異なる熱源である水加熱ヒータ34を用いて補うことができ、快適性を担保することができる。
【0268】
続いて、暖房除霜モードの快適性優先モードに関する制御内容について、
図21を参照して説明する。ステップS5に移行して快適性優先モードを開始すると、
図21に示すように、先ず、ステップ21において、暖房能力制御が行われる。
【0269】
ステップS21の暖房能力制御では、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOになるように、圧縮機11の冷媒吐出能力(回転数)を制御する。暖房除霜モードにおける目標吹出温度TAOは、暖房モードと同様に定められる。
【0270】
つまり、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも高い場合、圧縮機11の回転数を現時点よりも下げ、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも低い場合、圧縮機11の回転数を現時点よりも上げるように制御する。これにより、空調対象空間の暖房に関して必要な水冷媒熱交換器12での放熱量を確保することができ、適切な態様で空調対象空間の暖房を行うことができる。
【0271】
ステップS22においては、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも低いか否かが判断される。つまり、水冷媒熱交換器12における放熱量が、要求される暖房能力に対して不足しているか否かが判断されている。吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも低い場合、ステップS23に処理を移行する。一方、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも低くない場合、ステップS24に処理を移行する。
【0272】
ステップS23では、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOよりも低く、冷凍サイクル10の暖房能力では目標に対して不足している為、補助加熱制御が実効される。補助加熱制御では、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOになるように、水加熱ヒータ34の発熱量を制御する。即ち、目標値に対して冷凍サイクル10による暖房能力の不足分を、水加熱ヒータ34の暖房能力で補うことで、空調対象空間の快適性を担保している。
【0273】
ステップS24に移行すると、暖房除霜モードにおける除霜能力制御が行われる。ステップS24の除霜能力制御では、室外熱交換器22における冷媒凝縮温度が目標凝縮温度になるように、暖房用膨張弁20aの開度を制御する。暖房除霜モードにおけるドライ除霜に際して、目標凝縮温度TCOは、凝縮熱除霜モードの際に説明したように、
図15に示す制御特性図に従って定められる。
【0274】
つまり、室外熱交換器22の冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも高い場合、暖房用膨張弁20aの開度を現時点よりも下げ、冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも低い場合、暖房用膨張弁20aの開度を現時点よりも上げるように制御する。これにより、室外熱交換器22における冷媒の放熱量を、凝縮熱除霜に適した状態に制御することができる。
【0275】
ステップS25では、室外熱交換器22の冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも高いか否かが判断される。ここで、室外熱交換器22の凝縮熱除霜にて、目標凝縮温度は、
図14に示す目標エリアAt内に属するように定められている為、目標凝縮温度よりも高い状態は、凝縮熱除霜で蒸発した水分が白霧として視認される可能性が高い状態であると考えられる。
【0276】
つまり、ステップS25では、凝縮熱除霜にて加えられる熱量の観点で、蒸発した水分が白霧として視認される可能性が高いか否かを判定している。冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも高い場合、ステップS26に処理を移行する。冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも高くない場合、ステップS27に処理を移行する。
【0277】
ステップS26では、凝縮熱除霜にて加えられる熱量の観点で、蒸発した水分が白霧として視認される可能性が高いと判定されている為、暖房除霜モードにおける室外熱交換器22の凝縮熱除霜を中止する。これにより、凝縮熱除霜にて蒸発する水分に由来する白霧を白煙と誤認されることを抑制することができる。ステップS26の処理を終了すると、暖房除霜モードの快適性優先モードに関する制御を終了する。この結果、
図19のステップS6にて、車両用空調装置1の運転モードは暖房モードに切り替えられる。
【0278】
ステップS27では、液バック防止制御を行う。ステップS27の液バック防止制御では、ステップS17と同様に、液相状態の冷媒が圧縮機11の吸入口に供給される液バックが生じないように、冷却用膨張弁20cの開度を制御する。これにより、液相冷媒が圧縮機11の吸入口から流入することによる圧縮機11の障害を防止することができる。
【0279】
ステップS28では、室外熱交換器22の凝縮熱除霜が完了したか否かが判断される。ステップS28の判断処理の内容は、ステップS17と同様である。凝縮熱除霜が完了している場合、暖房除霜モードの快適性優先モードに関する制御を終了する。凝縮熱除霜が完了していない場合、ステップS21に処理を戻し、快適性優先モードに関する制御を再び開始する。
【0280】
図21に示すように、快適性優先モードでは、ステップS21にて、空調対象空間の暖房の為に要求される暖房能力を、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御することによって実現している。そして、ステップS24において、室外熱交換器22の凝縮熱除霜の為に要求される除霜能力を、暖房用膨張弁20aの開度を制御することで実現している。
【0281】
これにより、暖房除霜モードにおけるサイクル構成にて、室外熱交換器22の凝縮熱除霜で要求される除霜能力と、空調対象空間の暖房について要求される暖房能力を、それぞれ制御することができ、異なる冷媒凝縮温度を実現することができる。
【0282】
又、ステップS25の判断処理の結果、凝縮熱除霜にて加えられる熱量の観点で、蒸発した水分が白霧として視認される可能性が高いと判定された場合、暖房除霜モードの凝縮熱除霜を中止して、暖房モードへ切り替える。これにより、凝縮熱除霜で生じる水蒸気が白煙であると誤認されることを防止することができる。
【0283】
そして、快適性優先モードでは、上述したように、空調対象空間の暖房は継続して行われるが、ステップS25等の条件を満たした場合、凝縮熱除霜は中止される。即ち、快適性優先モードでは、室外熱交換器22の凝縮熱除霜よりも、空調対象空間の暖房を優先して行うことができる。
【0284】
更に、暖房除霜モードの快適性優先モードにおいて、冷凍サイクル10の作動による空調対象空間の暖房能力が不足する場合(ステップS22)、補助加熱制御にて、水加熱ヒータ34による高温側熱媒体の加熱が行われる。
【0285】
これにより、暖房除霜モードにて、空調対象空間の暖房に関して、冷凍サイクル10による暖房能力が不足する場合であっても、冷凍サイクル10とは異なる熱源である水加熱ヒータ34を用いて補うことができ、快適性を担保することができる。
【0286】
以上説明したように、第1実施形態に係る車両用空調装置1によれば、冷凍サイクル10と、制御装置70を用いて、室外熱交換器22の凝縮熱除霜と、空調対象空間の暖房を並行して行う暖房除霜モードで運転することができる。
【0287】
又、暖房除霜モードにて、水冷媒熱交換器12で要求される冷媒の温度と室外熱交換器22で要求される冷媒の温度が異なる場合に、圧縮機11の作動制御及び暖房用膨張弁20aの作動制御によって、異なる2つの冷媒温度を実現する。
【0288】
つまり、圧縮制御部70dにより圧縮機11の作動を制御して、水冷媒熱交換器12及び室外熱交換器22の何れか一方で要求される冷媒温度を実現することができる。更に、減圧制御部70eにより暖房用膨張弁20aの作動を制御して、水冷媒熱交換器12及び室外熱交換器22の何れか一方で要求される冷媒温度を実現することができる。
【0289】
車両用空調装置1によれば、暖房除霜モードにおいて、凝縮熱除霜に係る室外熱交換器22における放熱量と、暖房に係る水冷媒熱交換器12における放熱量をそれぞれ制御することができ、適切な態様で両立させることができる。
【0290】
そして、車両用空調装置1における凝縮熱除霜では、融解除霜により生じた水分を、冷媒に吸熱させた熱を用いて蒸発させるドライ除霜を実行する。凝縮熱除霜にてドライ除霜を行うことで、霜の融解により生じた水分の再凍結を抑制することができ、再凍結に伴う室外熱交換器22の熱交換性能の低下、車両用空調装置1の暖房性能の低下を防止することができる。
【0291】
又、凝縮熱除霜のドライ除霜において、室外熱交換器22にて要求される目標凝縮温度TCOを、
図14における目標エリアAt内に位置するように定め、ドライ除霜では、室外熱交換器22における冷媒凝縮温度が目標凝縮温度に近づくように制御される。これにより、ドライ除霜に際して、融解した水分に由来する水蒸気が白霧として視認される可能性を下げることができ、白煙等と誤認されることを防止できる。
【0292】
そして、凝縮熱除霜のドライ除霜にて、室外熱交換器22に対して外気ファン22aが送風する外気の風速を、
図14における目標エリアAt内に位置するように定め、ドライ除霜では、定められた風速になるように外気ファン22aの作動が制御される。これにより、ドライ除霜に際して、融解した水分に由来する水蒸気が白霧として視認される可能性を下げることができ、白煙等と誤認されることを防止できる。
【0293】
図20に示すように、暖房除霜モードの効率優先モードでは、ステップS11の除霜能力制御にて、冷媒凝縮温度が目標凝縮温度TCOになるように、圧縮機11の作動が制御される。そして、ステップS13の暖房能力制御において、吹出空気温度TAVが目標吹出温度TAOになるように、暖房用膨張弁20aの開度制御が行われる。
【0294】
これにより、暖房除霜モードにおけるサイクル構成にて、室外熱交換器22の凝縮熱除霜で要求される除霜能力と、空調対象空間の暖房について要求される暖房能力を、それぞれ制御することができ、異なる冷媒凝縮温度を実現することができる。
【0295】
又、効率優先モードにおいて、冷媒凝縮温度が目標凝縮温度よりも低い場合には、除霜能力向上制御が行われ、暖房用膨張弁20aの開度が全開状態に調整される。これにより、空調対象空間の暖房の為に要求される放熱量を確保することに優先して、室外熱交換器22の凝縮熱除霜に要する放熱量を充足するように、冷凍サイクル10が作動する為、空調対象空間の暖房に優先して、凝縮熱除霜を実現することができる。
【0296】
図21に示すように、暖房除霜モードの快適性優先モードでは、ステップS21にて、空調対象空間の暖房の為に要求される暖房能力を、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御することによって実現している。そして、ステップS24において、室外熱交換器22の凝縮熱除霜の為に要求される除霜能力を、暖房用膨張弁20aの開度を制御することで実現している。
【0297】
これにより、暖房除霜モードにおけるサイクル構成にて、室外熱交換器22の凝縮熱除霜で要求される除霜能力と、空調対象空間の暖房について要求される暖房能力を、それぞれ制御することができ、異なる冷媒凝縮温度を実現することができる。
【0298】
更に、暖房除霜モードにおいて、冷凍サイクル10の作動による空調対象空間の暖房能力が不足する場合(ステップS15、ステップS22)、補助加熱制御にて、水加熱ヒータ34による高温側熱媒体の加熱が行われる(ステップS16、ステップS23)。
【0299】
これにより、暖房除霜モードにて、空調対象空間の暖房に関して、冷凍サイクル10による暖房能力が不足する場合であっても、冷凍サイクル10とは異なる熱源である水加熱ヒータ34を用いて補うことができ、快適性を担保することができる。
【0300】
又、ステップS25の判断処理の結果、凝縮熱除霜にて加えられる熱量の観点で、蒸発した水分が白霧として視認される可能性が高いと判定された場合、暖房除霜モードの凝縮熱除霜を中止して、暖房モードへ切り替える。これにより、凝縮熱除霜で生じる水蒸気が白煙であると誤認されることを防止することができる。
【0301】
そして、快適性優先モードでは、上述したように、空調対象空間の暖房は継続して行われるが、ステップS25等の条件を満たした場合、凝縮熱除霜は中止される。即ち、快適性優先モードでは、室外熱交換器22の凝縮熱除霜よりも、空調対象空間の暖房を優先して行うことができる。
【0302】
更に、暖房除霜モードの快適性優先モードにおいて、冷凍サイクル10の作動による空調対象空間の暖房能力が不足する場合(ステップS22)、補助加熱制御にて、水加熱ヒータ34による高温側熱媒体の加熱が行われる。
【0303】
これにより、暖房除霜モードにて、空調対象空間の暖房に関して、冷凍サイクル10による暖房能力が不足する場合であっても、冷凍サイクル10とは異なる熱源である水加熱ヒータ34を用いて補うことができ、快適性を担保することができる。
【0304】
又、
図19に示すように、ステップS3において、効率優先条件を満たすか否かを判定した結果により、暖房除湿モードにおける効率優先モードと快適性優先モードの何れか一方が設定される。効率優先条件を満たすか否かは、ユーザによる操作指示や車両用空調装置1を取り巻く運転環境等によって決定される。つまり、車両用空調装置1によれば、ユーザの意思や、車両用空調装置1の周辺環境に応じた態様で、暖房除霜モードを実現することができる。
【0305】
(第2実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第2実施形態について、
図22、
図23を参照して説明する。第2実施形態では、加熱部35の構成や、補助加熱装置として採用されている装置等が上述した実施形態と相違している。その他の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0306】
先ず、第2実施形態に係る車両用空調装置1の加熱部35は、室内凝縮器12Xにより構成されている。第1実施形態に係る加熱部35は、水冷媒熱交換器12及び高温側熱媒体回路30により構成されている。
【0307】
図22に示すように、室内凝縮器12Xは、圧縮機11の吐出口と第1三方継手13aの流入口の間に配置されており、圧縮機11から吐出された高圧冷媒を凝縮させる凝縮器である。
図23に示すように、室内凝縮器12Xは、室内空調ユニット60のケーシング61において、第1実施形態におけるヒータコア33の位置に配置されている。
【0308】
従って、室内凝縮器12Xは、圧縮機11から吐出された高圧冷媒を、室内蒸発器23を通過した送風空気と熱交換させて凝縮させ、送風空気を加熱することができる。即ち、室内凝縮器12Xは暖房用熱交換器の一例に相当する。
【0309】
そして、空気加熱ヒータ34Xは、
図23に示すように、室内空調ユニット60のケーシング61の内部において、室内凝縮器12Xに対して送風空気流れ下流側に配置されている。空気加熱ヒータ34Xは、室内凝縮器12Xを通過した送風空気に対して放熱可能に構成されており、送風空気を加熱する。
【0310】
空気加熱ヒータ34Xとしては、PTC素子(即ち、正特性サーミスタ)を有するPTCヒータを採用することができる。空気加熱ヒータ34Xの発熱量は、制御装置70から出力される制御電圧によって任意に制御される。空気加熱ヒータ34Xは補助加熱装置の一例に相当する。
【0311】
図22に示すように、第2実施形態に係る車両用空調装置1は、加熱部35の構成及び空気加熱ヒータ34Xの配置を除いて、上述した第1実施形態と同様の構成である。従って、凝縮熱除霜の概略や、暖房除霜モードに関する制御内容についての再度の説明は省略する。
【0312】
これにより、第2実施形態に係る車両用空調装置1によれば、加熱部35の構成を第1実施形態から変更した場合であっても、暖房除霜モードにて、室外熱交換器22の凝縮熱除霜及び車室内暖房を両立させることができる。圧縮制御部70d及び減圧制御部70eにより、室外熱交換器22の凝縮熱除霜と車室内暖房に係る異なる2つの冷媒温度を作り出し、それぞれ制御することができる。
【0313】
以上説明したように、第2実施形態に係る車両用空調装置1によれば、加熱部35の構成等を変更した場合であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0314】
(第3実施形態)
続いて、上述した実施形態と異なる第3実施形態について、
図24~
図27を参照して説明する。上述した実施形態では、冷凍サイクル10のサイクル構成を、いわゆるレシーバサイクルとしていたが、第3実施形態における冷凍サイクル10は、アキュムレータサイクルとして構成している点で相違している。又、
図24~
図27では、上述した実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付している。このことは、以下の図面でも同様である。
【0315】
図24に示すように、第3実施形態に係る車両用空調装置1は、冷凍サイクル10、高温側熱媒体回路30、低温側熱媒体回路40、室内空調ユニット60等を備える。第3実施形態に係る高温側熱媒体回路30、低温側熱媒体回路40、室内空調ユニット60及び制御装置70の構成は、上述した実施形態と同様である。
【0316】
第3実施形態に係る冷凍サイクル10には、圧縮機11、水冷媒熱交換器12、暖房用膨張弁20a、冷房用膨張弁20b、冷却用膨張弁20c、室外熱交換器22、室内蒸発器23、チラー24等が接続されている。
【0317】
第3実施形態に係る圧縮機11の吐出口には、水冷媒熱交換器12の冷媒通路12aの入口側が接続されている。水冷媒熱交換器12は、上述した実施形態と同様の構成である。水冷媒熱交換器12は、暖房用熱交換器の一例に相当し、高温側熱媒体回路30と共に加熱部35を構成する。
【0318】
水冷媒熱交換器12の冷媒通路12aの出口には、互いに連通する3つの流入出口を有する三方継手構造の第1接続部14aの流入口側が接続されている。第3実施形態における冷凍サイクル10には、第1接続部14aと同様に構成された第2接続部14b~第6接続部14fが配置されている。
【0319】
第1接続部14aの一方の流出口には、暖房用膨張弁20aの入口側が接続されている。暖房用膨張弁20aが第1膨張弁の一例に相当する。第1接続部14aの他方の流出口には、冷媒バイパス通路28aを介して、第2接続部14bの一方の流入口側が接続されている。冷媒バイパス通路28aには、除湿用開閉弁17aが配置されている。
【0320】
除湿用開閉弁17aは、第1接続部14aの他方の流出口側と第2接続部14bの一方の流入口側とを接続する冷媒通路を開閉する電磁弁である。さらに、冷凍サイクル10は、後述するように、暖房用開閉弁17bを備えている。暖房用開閉弁17bの基本的構成は、除湿用開閉弁17aと同様である。除湿用開閉弁17aおよび暖房用開閉弁17bは、冷媒通路を開閉することで、各運転モードの冷媒回路を切り替えることができる。
【0321】
暖房用膨張弁20aの出口には、室外熱交換器22の冷媒入口側が接続されている。室外熱交換器22は、第1実施形態と同様に、外気用熱交換器の一例であり、外気用熱交換部29Xを構成している。そして、外気ファン22aは、室外熱交換器22に対して外気を送風するように配置されている。
【0322】
室外熱交換器22の冷媒流出口には、第3接続部14cの流入口側が接続されている。第3接続部14cの一方の流出口には、暖房用通路28bを介して、第4接続部14dの一方の流入口側が接続されている。暖房用通路28bには、この冷媒通路を開閉する暖房用開閉弁17bが配置されている。
【0323】
第3接続部14cの他方の流出口には、第2接続部14bの他方の流入口側が接続されている。第3接続部14cの他方の流出口側と第2接続部14bの他方の流入口側とを接続する冷媒通路には、第1逆止弁21aが配置されている。
【0324】
第2接続部14bの流出口には、第5接続部14eの流入口側が接続されている。第5接続部14eの一方の流出口には、冷房用膨張弁20bの入口側が接続されている。第5接続部14eの他方の流出口には、冷却用膨張弁20cの入口側が接続されている。冷房用膨張弁20b及び冷却用膨張弁20cは、第1実施形態と同様に、第2膨張弁の一例に相当する。
【0325】
冷房用膨張弁20bの出口には、室内蒸発器23の冷媒入口側が接続されている。室内蒸発器23は、第1実施形態と同様に、蒸発器の一例である。そして、冷却用膨張弁20cの出口には、チラー24の冷媒通路24aの入口側が接続されている。チラー24は蒸発器の一例に相当する。チラー24の冷媒通路24aの出口には、第6接続部14fの他方の流入口側が接続されている。
【0326】
そして、室内蒸発器23の冷媒出口には、蒸発圧力調整弁25の入口側が接続されている。蒸発圧力調整弁25は、室内蒸発器23の着霜を抑制するために、室内蒸発器23における冷媒蒸発圧力を、予め定めた基準圧力以上に維持する機能を果たす。蒸発圧力調整弁25は、室内蒸発器23の出口側冷媒の圧力の上昇に伴って、弁開度を増加させる機械式の可変絞り機構で構成されている。
【0327】
これにより、蒸発圧力調整弁25は、室内蒸発器23における冷媒蒸発温度を、室内蒸発器23の着霜を抑制可能な着霜抑制温度(本実施形態では、1℃)以上に維持している。蒸発圧力調整弁25の出口には、第6接続部14fの一方の流入口側が接続されている。そして、第6接続部14fの流出口には、第4接続部14dの他方の流入口側が接続されている。
【0328】
第4接続部14dの流出口には、アキュムレータ26の入口側が接続されている。アキュムレータ26は、内部に流入した冷媒の気液を分離して、サイクル内の余剰液相冷媒を貯液する気液分離器である。アキュムレータ26の気相冷媒出口には、圧縮機11の吸入口側が接続されている。
【0329】
第3実施形態に係る冷凍サイクル10によれば、暖房用開閉弁17b、冷房用膨張弁20b、冷却用膨張弁20c、除湿用開閉弁17a、暖房用開閉弁17bの作動を制御することで、様々な冷媒回路に切り替えることができる。即ち、第3実施形態に係る車両用空調装置1は、暖房モードの冷媒回路、冷房モードの冷媒回路、除湿暖房モードの冷媒回路等に切り替えることができる。
【0330】
次に、第3実施形態に係る車両用空調装置1の暖房モードについて、
図25を参照して説明する。第3実施形態に係る暖房モードでは、制御装置70が、除湿用開閉弁17aを閉じ、暖房用開閉弁17bを開く。そして、制御装置70は、暖房用膨張弁20aを絞り状態として、冷房用膨張弁20b及び冷却用膨張弁20cを全閉状態とする。
【0331】
又、制御装置70は、高温側ポンプ32を作動させ、予め定められた圧送能力で高温側熱媒体を圧送する。尚、暖房モードにおいては、制御装置70は、低温側ポンプ42を停止させた状態にしておく。
【0332】
これにより、暖房モードの冷凍サイクル10では、蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。
図25に示すように、暖房モードにおける冷媒は、圧縮機11、水冷媒熱交換器12、暖房用膨張弁20a、室外熱交換器22、暖房用開閉弁17b、アキュムレータ26、圧縮機11の順に流れて循環する。
【0333】
つまり、暖房モードの冷凍サイクル10において、室外熱交換器22にて、外気から低圧冷媒に吸熱させ、水冷媒熱交換器12にて、圧縮機11から吐出された高圧冷媒の熱を、高温側熱媒体に放熱させる。高温側熱媒体回路30にて高温側熱媒体を循環させることで、高温側熱媒体の熱によって、ヒータコア33を通過する送風空気を加熱する。
【0334】
従って、第3実施形態に係る暖房モードでは、ヒータコア33にて加熱された送風空気を車室内へ吹き出すことによって、車室内の暖房を行うことができる。
【0335】
ここで、第3実施形態においても、暖房運転時に外気が低温高湿度である場合は、室外熱交換器22に着霜が生じてしまう。第3実施形態に係る車両用空調装置1は、除霜運転の運転態様として、凝縮熱除霜モードを有している。
【0336】
次に、第3実施形態における凝縮熱除霜モードについて、
図26を参照して説明する。第3実施形態の凝縮熱除霜モードは、第1実施形態と同様に、チラー24にて低温側熱媒体回路40から吸熱した熱を利用して、室外熱交換器22の除霜を行う運転モードである。
【0337】
凝縮熱除霜モードにおいて、制御装置70は、除湿用開閉弁17a及び暖房用開閉弁17bを閉じる。そして、制御装置70は、暖房用膨張弁20aを全開状態として、冷却用膨張弁20cを絞り状態とする。冷房用膨張弁20bについては、全閉状態にする。
【0338】
又、制御装置70は、低温側熱媒体回路40に関し、低温側ポンプ42を作動させて、予め定められた圧送能力で低温側熱媒体を圧送する。尚、凝縮熱除霜モードでは、制御装置70は、高温側熱媒体回路30に関して、高温側ポンプ32を停止させた状態にしておく。
【0339】
これにより、凝縮熱除霜モードの場合の冷凍サイクル10にて、冷媒は、圧縮機11、水冷媒熱交換器12、暖房用膨張弁20a、室外熱交換器22、第1逆止弁21a、冷却用膨張弁20c、チラー24、アキュムレータ26、圧縮機11の順に流れて循環する。この回路構成で、制御装置70は、各種制御対象機器の作動を制御する。
【0340】
つまり、凝縮熱除霜モードの冷凍サイクル10において、チラー24で吸熱したバッテリ75に生じた熱を、冷凍サイクル10にて汲み上げ、室外熱交換器22に加えることで、室外熱交換器22を除霜することができる。
【0341】
尚、第3実施形態に係る凝縮熱除霜においても、融解除霜及びドライ除霜を実行する。融解除霜及びドライ除霜の制御態様については、第1実施形態と同様の手法を採用することができる。
【0342】
続いて、第3実施形態に係る暖房除霜モードについて、
図27を参照して説明する。第3実施形態においても、暖房除霜モードは、空調対象空間の暖房と、室外熱交換器22の凝縮熱除霜を並行して実行する運転モードである。この場合の凝縮熱除霜においても、融解除霜と、ドライ除霜を含んでいる。
【0343】
暖房除霜モードにおいて、制御装置70は、除湿用開閉弁17a及び暖房用開閉弁17bを閉じる。そして、制御装置70は、暖房用膨張弁20a及び冷却用膨張弁20cをそれぞれ絞り状態として、冷房用膨張弁20bを全閉状態とする。
【0344】
又、制御装置70は、低温側熱媒体回路40に関し、低温側ポンプ42を作動させて、予め定められた圧送能力で低温側熱媒体を圧送する。そして、暖房除霜モードでは、制御装置70は、高温側熱媒体回路30に関して、高温側ポンプ32を作動させて、予め定められた圧送能力で高温側熱媒体を圧送する。
【0345】
これにより、暖房除霜モードの場合の冷凍サイクル10にて、冷媒は、圧縮機11、水冷媒熱交換器12、暖房用膨張弁20a、室外熱交換器22、第1逆止弁21a、冷却用膨張弁20c、チラー24、アキュムレータ26、圧縮機11の順に流れて循環する。この回路構成で、制御装置70は、各種制御対象機器の作動を制御する。
【0346】
つまり、凝縮熱除霜モードの冷凍サイクル10において、チラー24で吸熱したバッテリ75に生じた熱を、冷凍サイクル10にて汲み上げ、加熱部35を介した空調対象空間の暖房と、室外熱交換器22の凝縮熱除霜に利用することができる。
【0347】
尚、第3実施形態に係る暖房除霜モードにおいて、車両用空調装置1の各構成機器の制御態様や、効率優先モード及び快適性優先モードに係る制御内容は、上述した第1実施形態と同様の手法を採用することができる。従って、暖房除霜モードの具体的な制御態様に関する再度の説明は省略する。
【0348】
第3実施形態に係る暖房除霜モードにて、水冷媒熱交換器12で要求される冷媒の温度と室外熱交換器22で要求される冷媒の温度が異なる場合に、圧縮機11の作動制御及び暖房用膨張弁20aの作動制御によって、異なる2つの冷媒温度を実現する。
【0349】
つまり、圧縮制御部70dにより圧縮機11の作動を制御して、水冷媒熱交換器12及び室外熱交換器22の何れか一方で要求される冷媒温度を実現することができる。更に、減圧制御部70eにより暖房用膨張弁20aの作動を制御して、水冷媒熱交換器12及び室外熱交換器22の何れか一方で要求される冷媒温度を実現することができる。
【0350】
以上説明したように、第3実施形態に係る車両用空調装置1によれば、冷凍サイクル10として、アキュムレータサイクルが採用されている場合であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0351】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0352】
(a)上述した実施形態では、凝縮熱除霜として、融解除霜とドライ除霜を実行する構成であったが、融解除霜を実行した後、融解により生じた水分が再凍結しないと考えられる場合には、ドライ除霜を省略しても良い。例えば、電気自動車の現在位置に対応する気象情報等を通信ユニット74で取得して、今後の所定期間の間、外気温が0℃よりも高い状態となる場合には、ドライ除霜を省略しても良い。
【0353】
(b)又、上述した実勢形態における凝縮熱除霜では、一例として、チラー24にて低温側熱媒体回路40から吸熱した熱を利用する態様であったが、この態様に限定されるものではない。低圧側に配置された蒸発器にて吸熱した熱を利用して、室外熱交換器22の除霜に利用することができれば、吸熱対象は限定されるものではない。凝縮熱除霜の態様として、例えば、室内蒸発器23にて室内空調ユニット60内の空気から吸熱することも可能であるし、室内蒸発器23及びチラー24の両者にて吸熱する態様とすることも可能である。
【0354】
(c)そして、車両用空調装置1の加熱部35が水冷媒熱交換器12及び高温側熱媒体回路30で構成されている場合の暖房除霜モードでは、効率優先モードと快適性優先モードのうち、快適性優先モードを初期設定とすることも可能である。この場合の快適性優先モードにおいて、室外熱交換器22の除霜能力が不足する場合、凝縮熱除霜を終了する構成としても良い。
【符号の説明】
【0355】
1 車両用空調装置
10 冷凍サイクル
11 圧縮機
12 水冷媒熱交換器
20a 暖房用膨張弁
20c 冷却用膨張弁
22 室外熱交換器
24 チラー
70 制御装置