(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184447
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】型枠材、止水構造および止水構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/06 20060101AFI20221206BHJP
E01D 19/08 20060101ALI20221206BHJP
E01C 11/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
E01D19/06
E01D19/08
E01C11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092304
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000221502
【氏名又は名称】東拓工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 正英
(72)【発明者】
【氏名】松下 史和
(72)【発明者】
【氏名】吉原 潤治
【テーマコード(参考)】
2D051
2D059
【Fターム(参考)】
2D051AA03
2D051AC04
2D051AG03
2D051AG11
2D051FA17
2D059GG43
2D059GG45
(57)【要約】
【課題】橋軸直角方向の遊間の端部をシールする止水部側壁を形成するための型枠材、止水構造およびその止水構造の施工方法を提供する。
【解決手段】橋軸直角方向に延びる橋梁の遊間内の橋面より下方に設けられる橋軸直角方向に延びる止水部本体の少なくとも一方の端部側から上方に立ち上がる止水部側壁を形成するためのものであって、硬化前の止水材が透過可能な可撓体からなる第1層51と、前記止水材を透過しない弾性体からなる第2層52とが積層された型枠材50。可撓体は連続気泡型発泡体、織布または不織布からなり、弾性体は独立気泡型発泡体からなる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸直角方向に延びる橋梁の遊間内の橋面より下方に設けられる橋軸直角方向に延びる止水部本体の少なくとも一方の端部近辺から上方に立ち上がる止水部側壁を形成するための型枠材であって、
硬化前の止水材が透過可能な可撓体からなる第1層と、前記止水材を透過しない弾性体からなる第2層とが積層されており、
前記可撓体が、連続気泡型発泡体、織布または不織布からなり、
前記弾性体が、独立気泡型発泡体からなる、
型枠材。
【請求項2】
橋軸直角方向に延びる橋梁の遊間内に設けられる止水構造であって、
橋面より下方に設けられる橋軸直角方向に延びる止水部本体と、前記止水部本体の少なくとも一方の端部近辺から上方に立ち上がる止水部側壁とを備えた止水部を有し、
前記止水部側壁は、側壁用止水材を硬化させた側壁外層と、その側壁外層の内側に隣接して設けられ、前記側壁用止水材が透過可能な可撓体に前記側壁用止水材が充填されて硬化された側壁中間層と、その内側に設けられた前記側壁用止水材を透過しない弾性体からなる側壁内層とを備えており、
前記可撓体が、連続気泡型発泡体、織布または不織布からなり、
前記弾性体が、独立気泡型発泡体からなる、
止水構造。
【請求項3】
前記側壁中間層の橋軸方向に、前記側壁内層と連続した前記弾性体が設けられている、
請求項2記載の止水構造。
【請求項4】
前記止水部を支持する橋軸直角方向に延びるバックアップ部を有し、
前記止水部本体は、前記バックアップ部の上面に設けられた本体用止水材を硬化させたものであり、
前記本体用止水材と前記側壁用止水材とは、同一または同種の樹脂組成物からなる、
請求項2または3記載の止水構造。
【請求項5】
前記バックアップ部は、橋軸直角方向に延びるバックアップ本体と、その少なくとも一方の端部から上方に延びるバックアップ側壁とを備えており、
前記バックアップ本体は、弾性を有する長尺体を前記遊間内に圧入固定したものであり、
前記バックアップ側壁は、前記遊間の端部から突出させた前記長尺体の一方の端部を折り曲げて前記遊間内に圧入固定しており、かつ、前記止水部側壁の外側に隣接して配置されたものである、
請求項4記載の止水構造。
【請求項6】
請求項2記載の止水構造の施工方法であって、
前記側壁用止水材が透過可能な可撓体からなる第1層および前記側壁用止水材を透過しない弾性体からなる第2層とが積層されており、前記可撓体が連続気泡型発泡体、織布または不織布からなり、前記弾性体が独立気泡型発泡体からなる型枠材を、前記止水部本体の端部近辺に立て掛ける工程と、
前記型枠材の外側に所定の距離を空けて前記遊間の端部を閉じるように閉鎖体を設ける工程と、
前記型枠材と前記閉鎖体との間に前記側壁用止水材を充填し、硬化させて止水部側壁を形成させる工程とを有する、
止水構造の施工方法。
【請求項7】
請求項3記載の止水構造の施工方法であって、
前記側壁用止水材が透過可能な可撓体からなる第1層および前記側壁用止水材を透過しない弾性体からなる第2層とが積層されており、前記可撓体が連続気泡型発泡体、織布または不織布からなり、前記弾性体が独立気泡型発泡体からなる型枠材を前記第1層が内側となるように折り曲げ、その折り曲げた状態で前記止水部本体の端部近辺に立て掛ける工程と、
前記型枠材の外側に所定の距離を空けて前記遊間の端部を閉じるように閉鎖体を設ける工程と、
前記型枠材と前記閉鎖体との間に前記側壁用止水材を充填し、硬化させて止水部側壁を形成させる工程とを有する、
止水構造の施工方法。
【請求項8】
請求項4記載の止水構造の施工方法であって、
弾性を有する長尺体を遊間内に圧入固定させて前記遊間内の橋面より下方に橋軸直角方向に延びるバックアップ部を設ける工程と、
前記バックアップ部の上に本体用止水材を充填する工程と、
前記側壁用止水材が透過可能な可撓体からなる第1層および前記側壁用止水材を透過しない弾性体からなる第2層とが積層されており、前記可撓体が連続気泡型発泡体、織布または不織布からなり、前記弾性体が独立気泡型発泡体からなる型枠材を、前記遊間の端部近辺に立て掛ける工程と、
前記型枠材の外側に所定の距離を空けて前記遊間の端部を閉じるように、前記遊間の端部から突出させた前記長尺体の一方の端部を折り曲げて前記遊間内に圧入固定させる工程と、
前記型枠材と前記閉鎖体との間に側壁用止水材を充填し、硬化させて止水部側壁を形成させる工程とを有する、
止水構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の橋軸直角方向に延びる遊間内に設けられる止水構造の止水部側壁を形成するための型枠材、その止水部側壁を備えた止水構造およびその止水構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁には、橋桁、床版等の構造体間に遊間が設けられており、各構造体の温度変化に伴う各構造体の長さの季節変動や、地震等で地盤が動いても、構造体同士の衝突または接触による損傷を回避すべく遊間が設けられている。この遊間は、車両等が走行する橋軸方向に隣り合う構造体の間に設けられ、橋軸直角方向に延びる細長い隙間であり、構造体が変形することによる各構造体の移動量を吸収する。このような遊間には橋軸方向に弾性を有する止水部を設けるのが一般的であり、雨水等が遊間を経由して橋上部構造体を支える橋台・橋脚に伝わることを防止している。そして、雨水等による腐食に伴う橋台・橋脚等の劣化を抑制して、橋梁の長寿命化を図るようにしている。さらに、寒冷地において、止水部は、遊間に集まる雨雪や霜などでできる氷塊(つらら)の発生を抑制する役割も有している。近年では既設橋梁のさらなる長寿命化が社会的な課題となっており、既設橋梁の遊間に止水構造を施工したり、既存橋梁に設けられている止水構造を新しく補修したり、遊間を止水する保全工事も盛んになりつつある。
【0003】
特許文献1には、止水膜、下部層、防塵層が積層された遊間用止水材であって、止水膜が下部層および防塵層より長いものを用いた止水構造であって、遊間用止水材を遊間内に圧入し、遊間(橋桁)の両端から突出した止水膜を上方に折り返し、橋桁の側面に接着により密着させた止水構造が開示されている。さらに、特許文献1は、その上方に折り返した止水膜を保護する保護シートが設けられている。
特許文献2には、橋梁の遊間に長尺の樋形に止水シートを配設した止水装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-1722号公報
【特許文献3】特開2019-116788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の止水構造は、野外に暴露されるものであり、止水膜の両端を上方に折り返して接着により密着したものであるため、シール性が劣化するおそれがある。また特許文献1の止水ユニットは、止水膜が下部層および防塵層に挟まれた積層構造を呈しているため、橋梁の遊間長や床版等の高さを考慮して止水ユニットを準備する必要があり、止水ユニットを製造、敷設する工程が煩雑となる。なお、特許文献1の止水構造の保護シートは、日光や風による劣化を防止するものであり、朝夕の温度差や霜等による劣化を防止するものではない。さらに、保護シートは、橋桁の側面へコンクリートアンカーとナット等で固定する必要がある。このような橋桁への取付は、高所での作業となるため、危険で煩雑である。また、作業後、各部品の劣化が進むことにより鉄板やボルトが脱落するというおそれもある。
特許文献2の樋の端部には、樋形の略U字状に合致した半円形のジャバラ蓋が取り付けられる。しかし、遊間の端部をシールするものではなく、また既設橋梁の劣化を防止するものではない。
本発明はこのような事情を鑑みて研究・開発されたものであり、遊間の端部であって、橋軸直角方向に設けられた止水部本体の上方をシールする止水部側壁を形成するための型枠材、その止水部側壁を備えた止水構造およびその止水構造の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の型枠材は、橋軸直角方向に延びる橋梁の遊間内の橋面より下方に設けられる橋軸直角方向に延びる止水部本体の少なくとも一方の端部近辺から上方に立ち上がる止水部側壁を形成するための型枠材であって、硬化前の止水材が透過可能な可撓体からなる第1層と、前記止水材を透過しない弾性体からなる第2層とが積層されており、前記可撓体が、連続気泡型発泡体、織布または不織布からなり、前記弾性体が、独立気泡型発泡体からなることを特徴としている。ここで止水部本体とは、橋軸方向に並んだ両床版の間をシールする橋軸直角方向に延びるものであり、例えば、シール材を固定したものや排水樋等が挙げられる。
本発明の型枠材を用いることにより、止水部側壁を簡単に形成させることができる。つまり、本発明の型枠材と遊間の端部近辺を閉じる閉鎖体とで空間を形成させる。次いで、その空間内に側壁用止水材を充填・硬化させる。このとき、第2層は止水材を透過しない弾性体からなるため、型枠材を遊間に密着して設置することが容易にでき、側壁用止水材が空間から漏れることはない。なお、側壁用止水材は型枠材の第1層内に侵入し、硬化するため、型枠材は止水部側壁の一部となる。このように型枠材は側壁用止水材の硬化によって止水部側壁の一部として、遊間内に固定されるため、施工後撤去作業を行う必要がなく、かつ、脱落のおそれも少ない。また側壁用止水材を止水部本体の上面に流し込んでいるため、止水部側壁と止水部本体の結合性も高い。
【0007】
本発明の止水構造は、橋軸直角方向に延びる橋梁の遊間内に設けられる止水構造であって、橋面より下方に設けられる橋軸直角方向に延びる止水部本体と、前記止水部本体の少なくとも一方の端部近辺から上方に立ち上がる止水部側壁とを備えた止水部を有し、前記止水部側壁は、側壁用止水材を硬化させた側壁外層と、その側壁外層の内側に隣接して設けられ、前記側壁用止水材が透過可能な可撓体に前記側壁用止水材が充填されて硬化された側壁中間層と、その内側に設けられた前記側壁用止水材を透過しない弾性体からなる側壁内層とを備えており、前記可撓体が、連続気泡型発泡体、織布または不織布からなり、前記弾性体が、独立気泡型発泡体からなることを特徴としている。
本発明の止水構造は、3層構造の止水部側壁を有するため、遊間内に雨水等が流れ込んできても、遊間の端部から流れ落ちることがない。特に、止水部側壁の側壁外層および止水部中間層が遊間の隙間を止水する。一方、側壁内層は、側壁用止水材が硬化するまで側壁用止水材を保持する。
【0008】
本発明の止水構造であって、前記側壁中間層の橋軸方向に、前記側壁内層と連続した弾性体が設けられているものが好ましい。この場合、側壁中間層と橋桁や床版等の構造体との間に独立気泡型発泡体からなる弾性体が介在することになり、当該部分の橋軸方向の厚み(側壁中間層+弾性体)を増加させ、止水材充填時において、構造体とのグリップ力を向上させることができる。また側壁内層と側壁中間層との結合力を高めることができる。
本発明の止水構造であって、前記止水部を支持する橋軸直角方向に延びるバックアップ部を有し、前記止水部本体は、前記バックアップ部の上面に設けられた本体用止水材を硬化させたものであり、前記本体用止水材と前記側壁用止水材とは、同一または同種の樹脂または樹脂組成物からなるのが好ましい。この場合、止水部本体と止水部側壁とを一層強固に結合させることができる。
このようなバックアップ部は、橋軸直角方向に延びるバックアップ本体と、その少なくとも一方の端部から上方に延びるバックアップ側壁とを備え、前記バックアップ本体は弾性を有する長尺体を前記遊間内に圧入固定したものであり、前記バックアップ側壁は前記遊間の端部から突出させた前記長尺体の一方の端部を折り曲げて前記遊間内に圧入固定しており、かつ、前記止水部側壁の外側に隣接して配置されたものであるのが好ましい。この場合、止水材を充填するための空間を簡単に形成することができ、現場における作業性が高い。
【0009】
本発明の止水構造の施工方法は、前記側壁用止水材が透過可能な可撓体からなる第1層および前記側壁用止水材を透過しない弾性体からなる第2層とが積層されており、前記可撓体が連続気泡型発泡体、織布または不織布からなり、前記弾性体が独立気泡型発泡体からなる型枠材を、前記止水部本体の端部近辺に立て掛ける工程と;前記型枠材の外側に所定の距離を空けて前記遊間の端部を閉じるように閉鎖体を設ける工程と;前記型枠材と前記閉鎖体との間に前記側壁用止水材を充填し、硬化させて止水部側壁を形成させる工程とを有することを特徴としている。
【0010】
本発明の側壁内層が前記側壁中間層の橋軸方向の外側に、前記側壁中間層を覆うように設けられている止水構造の施工方法であって、前記側壁用止水材が透過可能な可撓体からなる第1層および前記側壁用止水材を透過しない弾性体からなる第2層とが積層されており、前記可撓体が連続気泡型発泡体、織布または不織布からなり、前記弾性体が独立気泡型発泡体からなる型枠材を前記第1層が内側となるように折り曲げ、その折り曲げた状態で前記止水部本体の端部近辺に立て掛ける工程と;前記型枠材の外側に所定の距離を空けて前記遊間の端部を閉じるように閉鎖体を設ける工程と;前記型枠材と前記閉鎖体との間に前記側壁用止水材を充填し、硬化させて止水部側壁を形成させる工程とを有することを特徴としている。
本発明のバックアップ部を有する止水構造の施工方法であって、弾性を有する長尺体を遊間内に圧入固定させて前記遊間内の橋面より下方に橋軸直角方向に延びるバックアップ部を設ける工程と;前記バックアップ部の上に本体用止水材を充填する工程と;前記側壁用止水材が透過可能な可撓体からなる第1層および前記側壁用止水材を透過しない弾性体からなる第2層とが積層されており、前記可撓体が連続気泡型発泡体、織布または不織布からなり、前記弾性体が独立気泡型発泡体からなる型枠材を、前記遊間の端部近辺に立て掛ける工程と;前記型枠材の外側に所定の距離を空けて前記遊間の端部を閉じるように、前記遊間の端部から突出させた前記長尺体の一方の端部を折り曲げて前記遊間内に圧入固定させる工程と;前記型枠材と前記閉鎖体との間に側壁用止水材を充填し、硬化させて止水部側壁を形成させる工程とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の型枠材は、遊間内に雨水等の液体が流れ込んできても、その雨水が遊間端部から流れ落ちない遊間の止水構造を簡単に構築することができる。特に、橋面より下方に設けられる橋軸直角方向に延びる止水部本体との結合性が高く、かつ、シール性の高い止水部側壁を構築することができる。また本発明の型枠材は、側壁用止水材が硬化するまでは側壁用止水材を保持し、そして、側壁用止水材の硬化後は、側壁用止水材と一体化して止水部側壁を構築するため、型枠材としての用途が完了した後の撤去作業が不要であり、現場における作業性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1a、bはそれぞれ橋梁の遊間に本発明の止水構造が設置された状態を示す平面図、側面図である。
【
図2】
図2a、bはそれぞれ遊間に設置された止水構造を示す
図1aのX-X線断面概略図、
図1aのY-Y線断面概略図である。
【
図3】
図3a、bは、それぞれ
図2aの止水部側壁を示す側面断面図、平面図であり、
図3cは側壁用止水材を充填する前の状態を示す拡大図である。
【
図4】本発明の型枠材の実施形態を示す断面図である。
【
図5】本発明の止水構造の施工方法を示す工程図である。
【
図6】
図6aは本発明の止水構造の第2の実施形態を示す断面図であり、
図6bは本発明の止水構造の第3の実施形態を示す断面図である。
【
図7】
図7a、bはそれぞれ本発明の止水構造の第4の実施形態の止水部側壁を示す側面断面図、平面図であり、
図7cは本発明の型枠材の第2の実施形態を示す平面図であり、
図7dは本発明の止水構造の第5の実施形態の止水部側壁を示す平面図である。
【
図8】
図8a、bはそれぞれ本発明の止水構造の第6の実施形態を示す断面図、Z-Z線断面図である。
【
図9】
図9a~dは、それぞれ本発明の型枠材の他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
初めに、橋梁の遊間に設けられる止水構造について説明する。このような止水構造の上に伸縮装置(図示せず)等が取り付けられる。遊間Pは、
図1a、bに示すように、橋軸方向に並んだ床版Bの間に、橋軸直角方向(橋梁の幅員方向)に延びる細長い溝状の隙間であり、その端面は橋の側面に現れる。このような遊間の幅Pxは、例えば、10mm~100mm、15mm~75mm、特に20mm~50mmである。
【0014】
止水構造1は、橋梁の床版(壁面)Bと床版(壁面)Bとの間の遊間P内に設けられるものである。止水構造1は、
図2a、bに示すように、バックアップ部10と、そのバックアップ部の上に設けられる止水部20とを有する。つまり、バックアップ部10は止水部20を支持する。この止水構造1は、全体として上に開口したU字状を呈する。このようにU字状とすることにより、雨水や霜等が遊間の端面から流れ落ちることを防止している。
【0015】
バックアップ部10は、橋面Gより下方に設けられる橋軸直角方向に延びるバックアップ本体11と、その両端から上方に延びるバックアップ側壁12とを有する。バックアップ側壁12は、遊間Pの端部であって橋梁の側面に沿って設けられる。このようにバックアップ部10は、全体として上に開口したU字状を呈する。
このバックアップ部10は、弾性を有する長尺体からなる。つまり、バックアップ本体11は、弾性を有する長尺体を遊間P内に圧入させることにより両床版B(両壁面)に挟持させて形成する。そして、バックアップ側壁12は、遊間Pの端部(橋梁の側面)から突出させた長尺体の両端部分を上方に折り曲げ、再度、遊間Pの両床版B(両壁面)に挟持させて形成する。
このような長尺体は、長さが遊間の長さより長く、かつ、幅が遊間の幅より大きいものであり、幅方向に収縮させることによって遊間内に挿入でき、かつ、遊間内にて摩擦力で固定できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、中実状のものやチューブ状のものが挙げられる。そして、その断面形状は、正方形や長方形などの矩形、円形、楕円形が挙げられる。
【0016】
止水部20は、遊間P内において橋軸直角方向に延びる止水部本体21と、その両側端部から上方に立ち上がる止水部側壁22とを有する。
図2aの止水部側壁22内の想像線Iは、後述する側壁外層26と側壁中間層27との境界(後述する型枠材50の外面)を示す。
止水部本体21は、遊間P内の橋面Gより下方に設けられており、バックアップ本体11に支持されている。止水部本体21は、本体用止水材を硬化させたものである。
本体用止水材としては、流動性を有する1または複数の原料を反応硬化させた弾性を有する樹脂または樹脂組成物、例えば、1液反応硬化型の樹脂または樹脂組成物や2液反応硬化型の樹脂または樹脂組成物が挙げられる。特に、ポリウレタン系、変性シリコーン系、アクリルウレタン系の2液反応硬化型の樹脂または樹脂組成物が好ましく、そのなかでもポリウレタン系の2液反応硬化型の樹脂または樹脂組成物が好ましい。
【0017】
止水部側壁22は、バックアップ側壁12の内側に隣接して設けられる。止水部側壁22は、
図3a、bに示すように、側壁外層26、側壁中間層27、側壁内層28の3層構造を呈している。なお、
図3cは、側壁用止水材を充填する前の状態を示す。
側壁外層26は、側壁用止水材を硬化させた層である。側壁外層26が止水部側壁22として遊間の隙間を止水する。
側壁中間層27は、側壁外層26の内側に隣接して設けられ、液透過性の可撓体(
図3cの型枠材50の第1層51)に側壁外層26の側壁用止水材が入り込んで硬化した層である。この側壁中間層27は、側壁外層26と次の側壁内層28とを結合させる層である。なお、液透過性の可撓体については、後述する。
側壁内層28は、側壁中間層27の内側に設けられた液不透過性の弾性体(
図3cの型枠材50の第2層52)から構成された層である。
図3cの第1層51と、第2層52とは、接着剤等によって一体化されており、側壁中間層27と側壁内層28も同様に一体化されている。なお、液不透過性の弾性体については、後述する。
【0018】
止水部側壁22に用いられる側壁用止水材は、流動性を有する1または複数の原料を反応硬化させた弾性を有する樹脂または樹脂組成物である。特に、止水部本体21に用いられる本体用止水材と同一または同種の樹脂または樹脂組成物が好ましい。これにより、止水部本体21と止水部側壁22とを強固に結合させることができる。
【0019】
次に、止水部側壁22を形成するための型枠材50について説明する。
型枠材50は、
図4に示すように、液透過性の可撓体からなる第1層51と、液不透過性の弾性体からなる第2層52とが積層されたものである。例えば、第1層51と第2層52とは、接着剤や両面テープ等を用いて接合させてもよく、一方を他方に溶着させてもよい。例えば、接着剤としては、特に限定されるものではないが、セメダイン社「スーパーエックス(登録商標)」、ボンド「ウルトラ多用途SU(登録商標)」等が挙げられ、両面テープとしては、ニチバン社「ナイスタック(登録商標)」等が挙げられる。
液透過性の可撓体からなる第1層51は、一方の面から他方の面まで連通しており、内部に流動性を有する側壁用止水材の侵入を許すものである。つまり、第1層51は、その外面から流動性を有する側壁用止水材の侵入を許すことにより、外面と隣接される側壁用止水材を硬化させた層(側壁外層26)と一体化する。
このような第1層51の可撓体としては、連続気泡型発泡体や不織布や織布が挙げられる。その中でも次の第2層52との接合性の観点から連続気泡型発泡体が好ましい。特に、発泡体の気泡の膜が除去された無膜発泡体は通気性および通水性が高く好ましい。例えば、ポリウレタン発泡体、ポリウレタン無膜発泡体が挙げられる。
【0020】
液不透過性の弾性体からなる第2層52は、流動性を有する側壁用止水材の侵入を許さない層である。つまり、第2層52は、止水部側壁22を形成する際、側壁用止水材が型枠材50を通過しないように堰止める。
このような第2層52の弾性体としては、独立気泡型発泡ゴムや独立気泡型発泡樹脂などの独立気泡型発泡体が挙げられる。例えば、独立気泡型発泡ゴムとしては、EPDM発泡体、ポリウレタン発泡体等が挙げられ、特に、EPDM発泡体が好ましい。
【0021】
型枠材50の幅は、遊間幅より若干大きい。それにより遊間の壁面に密着して設置することができる。
型枠材50の長さ(高さ)は、特に限定されるものではないが1000mm以下、好ましくは100~600mm、特に好ましくは200~400mmである。第1層51と第2層52の幅の比率は、10:1~2:1、好ましくは7:1~3:1、特に好ましくは6:1~4:1である。例えば、第1層51の厚みは、25~50mm、第2層52の厚みは、5~10mmである。
【0022】
次に、この型枠材50を用いた止水構造1の施工方法について説明する。
止水構造1の施工方法は、
図5に示すように、遊間P内にバックアップ本体11を設ける工程と、バックアップ本体11の上に本体用止水材を充填する工程と、型枠材50を立て掛ける工程と、遊間Pを閉じるバックアップ側壁(閉鎖体)12を設ける工程と、止水部側壁22を形成する工程と有する。
【0023】
遊間P内にバックアップ本体を設ける工程は、遊間内であって、橋面Gより下方に橋軸直角方向に延びるバックアップ本体を設置する工程である。詳しくは、長さが遊間Pの長さよりも長く、かつ、幅が遊間Pの幅より大きい弾性を有する長尺体を準備し、そして、長尺体の両端が遊間Pの両端から突出するように、長尺体を遊間P内に挿入する。
【0024】
バックアップ本体11の上に本体用止水材を充填する工程は、バックアップ本体の上に所定の厚さで、上述した本体用止水材を設ける。この本体用止水材の充填方法は、特に限定されるものではなく、例えば、遊間の上方の隙間からバックアップ本体の上に充填する方法などが挙げられる。
【0025】
型枠材50を立て掛ける工程は、遊間の端部近辺であって、バックアップ本体11の上に設けられた本体用止水材に対して型枠材50を直角に立て掛ける工程である。型枠材50は、遊間の端部(橋の側面)から遊間の軸方向に圧入するのが好ましい。しかし、遊間の上方から遊間の高さ方向に圧入してもよい。このとき、遊間Pの端部側(外側)に型枠材50の第1層51が向き、遊間Pの内側に型枠材50の第2層52が向くようにする。つまり、遊間の両端に設けられる型枠材50は、向きが逆となる。なお、型枠材50は、本体用止水材が硬化する前に設置するのが好ましい。これにより本体用止水材が硬化したとき、型枠材50の下端が止水部本体21内に埋まって一体化される(
図3a、b参照)。つまり、型枠材50と、止水部本体21とは、後の工程の側壁用止水材が充填される前に一体化される。そのため、側壁用止水材を充填する際、側壁用止水材が型枠材50の下側を通って内側に侵入することがない。しかし、型枠材50の下端に接着剤を設けるなどすることにより、本体用止水材が硬化してから型枠材50を設置してもよい。
【0026】
遊間Pを閉じるバックアップ側壁(閉鎖体)12を設ける工程は、型枠材50の外側に所定の間隔を空けて遊間Pを閉じるようにバックアップ側壁12を設ける工程である。つまり、遊間の端部(橋梁の側面)から突出させた長尺体の端部を折り曲げて、再度、遊間に挟持させる工程である。これにより側壁用止水材を充填するための空間Sが形成される(
図3c参照)。
なお、バックアップ側壁を設ける工程と、型枠材を設ける工程の順番は、逆となってもよい。
【0027】
止水部側壁22を設ける工程は、型枠材50とバックアップ側壁12との間に形成される空間Sに側壁用止水材を充填し、硬化させる工程である。この空間に側壁用止水材を充填することにより、側壁用止水材は空間Sを満たし、かつ、止水材は型枠材50の第1層51に充填される。このように側壁用止水材は、空間および第1層51に満たされて、硬化される。そのため、止水部側壁22の側壁外層26と側壁中間層27とは強固に結合される。なお、この止水部側壁22の側壁用止水材は、止水部本体21の本体用止水材を少なくとも流動性がなくなるまで硬化させた後に充填させる。本体用止水材が硬化する前の流動性を有する状態で、側壁用止水材を充填すると、側壁用止水材は型枠材50の下方から内側に侵入するおそれがある。また本体用止水材および側壁用止水材として、同一または同系の樹脂または樹脂組成物を用いることにより、硬化後、止水部本体21と止水部側壁22との間を強固に結合させることができる。
【0028】
このように形成される止水構造の止水部本体21および止水部側壁22は、それぞれ本体用止水材および側壁用止水材を充填・硬化しているため、バックアップ部および遊間の壁面と密に結合しており、高い止水性を備えている。特に、止水部側壁22のシール性が高い。また止水部本体21と止水部側壁22とが強固に結合または一体化しているため、劣化しても剥がれたりするおそれが小さい。さらに、止水構造を構築するために、側壁用止水材を保持する型枠材50は、側壁用止水材の硬化とともに一体化されるため、型枠材50の撤去作業を行う必要がなく、作業性も高い。
【0029】
次に他の実施形態について説明する。
図2の止水構造1は、遊間の両端に止水部側壁22を設けているが、例えば、
図6aの止水構造1Aに示すように、遊間Pの一方の端部のみに止水部側壁22を設けてもよい。止水部側壁22の想像線Iは、側壁外層26と側壁中間層27の境界(型枠材50の外面)を示す。この場合、止水構造1AはL字状となり、他方の端部に排水設備29を設けるようにしてもよい。排水設備29は、排水桝29aと、その下方に設けられた縦樋29bとからなる。この場合、他方の端部が一方の端部より下方となるように止水部本体21を若干傾斜させてもよい。
図2の止水構造1は、バックアップ本体11とバックアップ側壁12とが同じ長尺体から構成されているが、別体としてもよい。その場合、バックアップ側壁12は、チューブ材や中実材等の長尺材を圧入して形成してもよく、また、隙間を埋めるようにコーキング材を注入して形成してもよい。ただし、コーキング材を用いる場合は、使用するコーキング材の粘度によっては側壁用止水材を充填する空間の形成が困難となることがある。
図2の止水構造1は、バックアップ側壁12が設けられているが、
図6bの止水構造1Bに示すように、バックアップ側壁12はなくてもよい。この場合、止水部側壁22の形成時に、遊間Pの端部であって止水部本体21の上方を閉じるように、橋梁の側面から閉鎖体30(
図6bの点線)を取り付ける。そして、止水材が硬化してからその閉鎖体30を取り外すことによって、止水部側壁22を形成させることができる。この場合、閉鎖体の取り外しが必要であり、作業は煩雑になるが、閉鎖体は取り外すため、劣化しても部品等が落ちるおそれはない。また止水構造1Bは、止水構造1と同様の止水性を得ることができる。
図2の止水構造1では、止水部側壁22(型枠材50)の上端を橋面Gと同じ高さにしているが、橋面Gより上方に突出していても、橋面Gより下方に位置してもよい。例えば、止水部側壁22の上端を橋面Gに合わせる場合、側壁用止水材を橋面Gのぎりぎりまで充填しなければならず、充填時、側壁用止水材が型枠材50の上方を乗り越えて内側に侵入するおそれがある。そのため、型枠材50を橋面Gより若干突出させて設置して止水部側壁22を形成してもよい。止水部側壁22の形成後、突出部分は、橋面Gに合わせて切断してもよく、残してもよい。一方、止水部側壁22の上端を橋面Gより下方にする場合、型枠材50の上端を橋面Gより下方に位置させてもよい。このように設置後の型枠材50の上端の位置は、形成させる止水部側壁22に応じて適宜選択することができる。
【0030】
図7a、bの止水構造1Cは、止水部側壁22の側壁中間層27の橋軸方向に、
側壁内層と連続した弾性体が積層されたものである。つまり、側壁中間層27の橋軸方向に、側壁内層28の一部が延びているものである。詳述すると、側壁内層28は、側壁中間層27の橋軸直角方向の内側に位置する側壁内層本体28aと、側壁中間層27の橋軸方向の両外側に位置する側壁内層側部28bとからなる。側壁内層28は、全体として平面C字状を呈し、側壁中間層27を覆うように配置されている。
このように構成されているため、側壁中間層27と床版Bとの間に、側壁内層側部28bを介在させることにより、側壁中間層27の厚みを小さくしつつ、当該部分の橋軸方向の厚み(側壁内層側部28b/側壁中間層27/側壁内層側部28b)を増加させることができる。そのため、止水材充填時において、当該部分の構造体とのグリップ力を向上させることができる。また、側壁中間層27と側壁内層28との結合力も高めることができる。
このような止水構造1Cの製造方法としては、
図4の型枠材50を準備し、
図5の型枠材50を立て掛ける工程において、この型枠材50を第1層51が内側となるように折り曲げて、その折り曲げた状態で止水部本体の端部近辺に立て掛ける。
図7bにおいて、符号Mは、第1層51同士の境界を示す。このように型枠材50を折り曲げた状態で、遊間に挿入することにより、床版Bとの密着度を上げることができる。そのため、空間S内に側壁用止水材を充填するときの充填圧力に対してもずれにくい。
しかし、
図7cのように第1層51の周りに第2層52を設けた型枠材50aを用いてもよい。
また
図7dのように、側壁中間層27の橋軸方向に片側にのみ側壁内層側部28bを設けるようにしてもよい。
【0031】
図8a、bの止水構造2は、止水部本体として、排水樋60を用いたものであり、遊間Pの端部に止水部側壁65が設けられている。
排水樋60は、シート状部材をU字またはV字状に形成したものであり、ボルト等によって床版Bに固定されている。
この止水構造2は、バックアップ部を有さない。そのため、排水樋60に直接型枠材50を設置する。そして、型枠材50を設置した後、遊間の端部に
図6bのように閉鎖体30を設けて止水部側壁65を形成し、その後、閉鎖体30を取り外すことにより止水構造2を形成させることができる。なお、型枠材50を排水樋60に立て掛けるとき、型枠材50の下端形状を排水樋の形状に合わせて立て掛ける。
【0032】
上述した実施形態では、
図4に示す2層構造の型枠材50を用いていたが、型枠材は3層以上としてもよい。例えば、
図9aの型枠材50bは、第1層51と、第2層52との間に両者を接着するための第3層55を設けている。この第3層55は、接着剤による層やフィルム層等が挙げられる。
図9bの型枠材50cは、第1層51が、第1層外部51aと、第1層内部51bとを備えている。第1層外部51aと、第1層内部51bとは、空隙率を同じとし、材質を変えるようにしてもよく、空隙率を変化させてもよい。
図9cの型枠材50dは、第2層が、第2層外部52aと、第2層内部52bとを備えている。第2層外部52aと第2層内部52bとは、弾性率を同じとし、材質を変えるようにしても良く、弾性率を変化させてもよい。
図9dの型枠材50eは、第2層52の内側に第3層55を設けている。
このように型枠材は、側壁用止水材が硬化した側壁外層と一体化して止水構造の止水部側壁を構築するものであれば、3層以上から構成されていてもよい。その場合、当然、構築される止水構造の止水部側壁も、側壁外層、側壁中間層、側壁内層の3層以上の層を備えたものとなる。
【実施例0033】
発泡ウレタンからなる第1層51とEPDM発泡体からなる第2層52をアクリル系の両面テープで接合した型枠材50を準備した。
遊間幅30mm、長さ60cmのコンクリート模擬遊間にポリウレタン熱可塑性エラストマーを発泡させたスポンジチューブを圧入固定してバックアップ本体11を形成し、その上に反応硬化型樹脂組成物からなる止水材を充填した。次いで、止水材が完全に硬化していない状態で、遊間の端部から所定の距離に止水部本体21の上に型枠材50を設置し、模擬遊間から突出したスポンジチューブの端部を折り曲げて遊間内に圧入させてバックアップ側壁12を形成した。そして、バックアップ側壁12と型枠材50との間に止水部本体と同一の止水材を充填し、硬化させて止水構造1を形成した。
【0034】
止水構造1は、止水部側壁22の内面(側壁内層28の内面)から止水材の漏出が見られなかった。
止水構造1を形成してから1日後、遊間内に水頭20cmとなるように水を充填したが、水漏れは見られなかった。
止水構造1を形成してから1週間の養生硬化させた後、遊間内に水頭20cmとなるように水を充填した状態で、遊間幅を順次広げた。このとき、遊間幅が60mm(30mmの拡張)で漏水が発生した。確認したところ、型枠材50と止水部本体21との界面近辺でのコンクリート面との剥離が見られた。
遊間解体後、止水部側壁22の側壁外層26と側壁中間層27との状態を確認したところ、両者が一体化していることが確認できた。特に、側壁中間層27には止水材が入り込んで硬化していることが確認できた。