IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電気化学リアクタ 図1
  • 特開-電気化学リアクタ 図2
  • 特開-電気化学リアクタ 図3
  • 特開-電気化学リアクタ 図4
  • 特開-電気化学リアクタ 図5
  • 特開-電気化学リアクタ 図6
  • 特開-電気化学リアクタ 図7
  • 特開-電気化学リアクタ 図8
  • 特開-電気化学リアクタ 図9
  • 特開-電気化学リアクタ 図10
  • 特開-電気化学リアクタ 図11
  • 特開-電気化学リアクタ 図12
  • 特開-電気化学リアクタ 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184451
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】電気化学リアクタ
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20221206BHJP
   B01D 53/92 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F01N3/08 C
F01N3/08 A
B01D53/92 227
B01D53/92 ZAB
B01D53/92 223
B01D53/92 300
B01D53/92 352
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092309
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 瑛介
【テーマコード(参考)】
3G091
4D002
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA12
3G091AA18
3G091AB03
3G091AB09
3G091AB14
3G091BA14
3G091GB02Y
3G091GB03Y
3G091GB04Y
3G091HA07
3G091HA19
4D002AA12
4D002AC10
4D002BA04
4D002BA06
4D002BA08
4D002CA07
4D002DA02
4D002DA03
4D002DA04
4D002DA05
4D002DA06
4D002DA21
4D002EA01
4D002HA03
(57)【要約】
【課題】処理対象ガス中の還元対象成分に対するトータルの還元効率を向上させる。
【解決手段】
電気化学リアクタの積層構造体に、積層方向において隣接する膜電極接合体のそれぞれのアノード極層が相互に対向し、且つ積層方向において隣接する膜電極接合体のそれぞれのカソード極層が相互に対向する構造である同種電極対向構造と、対向するアノード極層の間に形成された処理対象ガスを流通させる流路であるアノード流路と、対向するカソード極層の間に形成された処理対象ガスを流通させる流路であるカソード流路と、アノード流路の流路断面積がカソード流路の流路断面積よりも小さい流路流調節構造と、を設ける。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード極層及びカソード極層の間にイオン伝導層が介在されて成る膜電極接合体が複数積層された積層構造体を有する電気化学リアクタであって、
前記積層構造体は、
積層方向において隣接する前記膜電極接合体のそれぞれの前記アノード極層が相互に対向し、且つ積層方向において隣接する前記膜電極接合体のそれぞれの前記カソード極層が相互に対向する構造である同種電極対向構造と、
対向する前記アノード極層の間に形成された処理対象ガスを流通させる流路であるアノード流路と、
対向する前記カソード極層の間に形成された前記処理対象ガスを流通させる流路であるカソード流路と、
前記アノード流路の流路断面積が前記カソード流路の前記流路断面積よりも小さい流路流調節構造と、を有する、
電気化学リアクタ。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学リアクタであって、
前記流路流調節構造は、
前記アノード流路が前記カソード流路よりも狭い構造、又は対向する前記アノード極層を相互に直接接続する構造を含む、
電気化学リアクタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電気化学リアクタであって、
前記流路流調節構造は、
前記アノード流路に配置される集電層であるアノード集電層を含む、
電気化学リアクタ。
【請求項4】
請求項3に記載の電気化学リアクタであって、
前記流路流調節構造は、
前記カソード流路に配置され、前記アノード集電層よりも多孔質の集電層であるカソード集電層を含む、
電気化学リアクタ。
【請求項5】
請求項4に記載の電気化学リアクタであって、
前記カソード集電層には、前記処理対象ガスに含まれる還元対象成分を吸着する吸着材が含浸される、
電気化学リアクタ。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の電気化学リアクタであって、
前記積層構造体は、
前記アノード極層の前記処理対象ガスの流れ方向における上流位置に設けられ、前記処理対象ガスの流れを阻害する緻密部をさらに含む、
電気化学リアクタ。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の電気化学リアクタであって、
前記積層構造体は、
前記アノード流路における前記処理対象ガスの流入口を塞ぐ絶縁性の閉塞部材をさらに含む、
電気化学リアクタ。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の電気化学リアクタであって、
前記積層構造体を構成するそれぞれの前記膜電極接合体は、外部電源に対して相互に並列に接続される、
電気化学リアクタ。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の電気化学リアクタであって、
前記積層構造体を収容する筐体をさらに含み、
前記積層構造体の端部膜電極接合体の前記カソード極層は前記筐体の内側面と対向し、
端部流路は前記カソード流路よりも狭く構成され、
前記端部膜電極接合体は、前記積層構造体の積層方向における端に位置する前記膜電極接合体であり、
前記端部流路は、前記端部膜電極接合体の前記カソード極層と前記内側面の間に形成される前記処理対象ガスが流通する流路である、
電気化学リアクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学リアクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、NOxなどの還元対象成分やCOなどの酸化対象成分を含むガス(処理対象ガス)を、電気化学反応(酸化・還元反応)を利用して分解するガス分解装置が提案されている。このガス分解装置は、電解質層を介してカソード極とアノード極を積層させてなるMEA(Membrane and Electrode Assembly:膜電極接合体)を、金属多孔体を介して複数積層させてなる積層構造体を有する。
【0003】
上記積層構造体に供給される処理対象ガスは、カソード極とアノード極の間に挟持されている金属多孔体を主な流路として流れる。このため、この積層構造体に電圧を印加しつつ処理対象ガスを供給すると、カソード極において処理対象ガス中の還元対象成分が還元される一方、アノード極において処理対象ガス中の酸化対象成分が酸化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-270720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のガス分解装置に関しては、特に、還元対象成分に対する還元効率(NOx成分の転化率など)を高めることがより優先される用途(車両の排気系統におけるNOx成分の分解など)への適用が想定されている。しかしながら、上記ガス分解装置の構成の場合、処理対象ガスが流路内を流れる過程においてカソード極上で還元対象成分に対する還元が進行する一方、アノード極上で生じる酸化により生成した酸素が流路内に流れ込む。
【0006】
すなわち、流路内では、処理対象ガスが流れる過程において還元により酸素含有量が減少する一方、アノード極からの酸素の流入により酸素含有量が増加する。このため、流路の入口から出口に亘って酸素濃度が減少しないところ、還元対象成分に対するトータルの還元効率が向上しないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みたものであり、処理対象ガス中の還元対象成分に対するトータルの還元効率を向上させることのできる電気化学リアクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、アノード極層及びカソード極層の間にイオン伝導層が介在されて成る膜電極接合体が複数積層された積層構造体を有する電気化学リアクタが提供される。特に、積層構造体は、積層方向において隣接する膜電極接合体のそれぞれのアノード極層が相互に対向し、且つ積層方向において隣接する膜電極接合体のそれぞれのカソード極層が相互に対向する構造である同種電極対向構造と、対向するアノード極層の間に形成された処理対象ガスを流通させる流路であるアノード流路と、対向するカソード極層の間に形成された処理対象ガスを流通させる流路であるカソード流路と、アノード流路の流路断面積がカソード流路の流路断面積よりも小さい流路流調節構造と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
これにより、処理対象ガス中の還元対象成分に対するトータルの還元効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の各実施形態による電気化学リアクタが配置される内燃機関の排気系統の概略構成を説明する図である。
図2図2は、第1実施形態による電気化学リアクタの構成を説明する図である。
図3図3は、第2実施形態による電気化学リアクタの構成を説明する図である。
図4図4は、第3実施形態による電気化学リアクタの構成を説明する図である。
図5図5は、第4実施形態による電気化学リアクタの構成を説明する図である。
図6図6は、第5実施形態による電気化学リアクタの構成を説明する図である。
図7図7は、第6実施形態による電気化学リアクタと外部電源の接続構成を説明する図である。
図8図8は、第7実施形態による電気化学リアクタの構成を説明する図である。
図9図9は、変形例による電気化学リアクタの構成を説明する図である。
図10図10は、第1参考例による電気化学リアクタを構成する積層構造体を説明する図である。
図11図11は、第2参考例による電気化学リアクタを構成する積層構造体を説明する図である。
図12図12は、第1参考例の積層構造体における流路の酸素濃度分布を説明する図である。
図13図13は、第2参考例の積層構造体における流路の酸素濃度分布を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面等を参照しながら、本発明の各実施形態について説明する。
【0012】
[各実施形態及び変形例の電気化学リアクタの適用例]
図1は、後述する各実施形態による電気化学リアクタ1が配置される内燃機関110の排気系統Eの概略構成を説明する図である。
【0013】
図示のように、排気系統Eは、内燃機関110から排気流路120を介して排出される排気(処理対象ガス)を処理する要素として、排気の流れ方向に沿って順番に配置された三元触媒130及び後述する各実施形態の電気化学リアクタ1を備える。そして、三元触媒130及び電気化学リアクタ1で処理された排気はマフラ140を介して外気に放出される。
【0014】
内燃機関110は、例えば、炭化水素系の燃料(ガソリン又は軽油など)により動作する。内燃機関110は、車両に搭載される場合には車輪を直接駆動してもよいし、車両を駆動させるモータへの電力の発電源であってもよい。内燃機関110から排出される排気には、未燃燃料(HC)、炭素酸化物(CO)、及び窒素酸化物(NOx)等が含まれる。特に、内燃機関110の具体例には、いわゆるディーゼルエンジン及びリーンバーンエンジンが含まれる。
【0015】
三元触媒130は、例えば白金材料により構成されており、内燃機関110からの排気に含まれる未燃燃料や炭素酸化物の還元を行う。
【0016】
電気化学リアクタ1は、主として、三元触媒130を経た排気に含まれる窒素酸化物を還元する。すなわち、電気化学リアクタ1は、排気に還元対象成分である窒素酸化物(NOx)が多量に含まれるなどの要因で、三元触媒130による還元作用のみでは十分でないシーンにおいて、三元触媒130を経た排気をさらに還元することでNOxを分解する。
【0017】
[各実施形態及び変形例の電気化学リアクタに共通する前提構成]
電気化学リアクタ1は、カソード極及びアノード極の間に電解質(特に固体電解質)が挟持されて構成される単一の燃料電池をMEA(Membrane and Electrode Assembly:膜電極接合体)を複数積層してなる積層構造体100(図2等参照)により構成される。
【0018】
このように構成される積層構造体100に対して処理対象ガス(特に、NOx成分を含有するガス)を流しつつ直流電圧を印加することで、アノード極、及びカソード極においては以下の反応が進行する。
【0019】
カソード極(還元反応):2NO+4e-→N2+2O2-・・・(1)
アノード極(酸化反応):2O2-→O2+4e-・・・(2)
【0020】
以下では、上述の前提構成を共通に有する各実施形態の電気化学リアクタ1における固有の構成について詳細に説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図2は、第1実施形態による積層構造体100の構成を説明する図である。なお、以下では、説明の便宜のため、還元処理の対象となる処理対象ガス(特に、NOx成分を含有するガス)が流れに沿った方向を「ガス流れ方向X」と定義し、積層構造体100を構成するMEA10が積層されている方向を「積層方向Y」と定義して図中にも示す。
【0022】
図示のように、積層構造体100は、2つのMEA10を直接的に又は所定の介在層(集電層又は金属支持体)を介して組み合わせて構成されるユニット(以下、「MEAユニット20」とも称する)が、積層方向Yにおいて相互に所定の空間(後述のカソード流路42)を確保しつつ複数(図2では3つ)積層されることで構成される。
【0023】
特に、本実施形態のMEAユニット20は、2つのMEA10が集電層(以下、「アノード集電層80」とも称する)を介して積層方向Yにおいて結合されることで構成されている。
【0024】
MEA10は、主として、アノード極(酸化極)として機能するアノード極層50、カソード極(還元極)として機能するカソード極層60、及びそれらの間に介在されたイオン伝導層として機能する固体電解質層70により構成されている。
【0025】
アノード極層50は、例えば、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物(LSC)、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)等により形成された板状部材である。特に、アノード極層50は、上記酸化反応(式(2))で生成された酸素が内部を流通して電気化学リアクタ1の下流に流れ出す機能を確保できる多孔質に形成される。
【0026】
カソード極層60は、例えばニッケル(Ni)等の金属及びイットリア安定化ジルコニア(YSZ)等の酸化物により形成された板状部材である。特に、カソード極層60は、上記還元反応(式(1))の対象となるNOx成分を含有する処理対象ガスが内部を流通する多孔質に形成される。
【0027】
固体電解質層70は、酸素イオン伝導性を備えた酸化物により形成された薄膜体である。なお、固体電解質層70を構成する酸化物としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジウム安定化ジルコニア(SSZ)、サマリウムドープトセリア(SDC)、ガドリウムドープトセリア(GDC)、又はランタンストロンチウムマグネシウムガレート(LSGM)を用いることができる。
【0028】
アノード集電層80は、積層構造体100(特に各MEAユニット20)に直流電圧を印加するために、外部電源V(図2では不図示)との導電経路(特に、外部電極の正極端子との導電経路)として機能する板状部材である。アノード集電層80は、一定の導電性を有する材料(特に金属材料)により構成される。例えば、アノード集電層80は、鉄(Fe)及び/又はクロム(Cr)を含有する合金、特に、フェライト系の耐熱ステンレスにより構成しても良い。また、本実施形態のアノード集電層80は、上記導電経路としての機能を発揮しつつ、処理対象ガスの流通を一定程度阻害できる程度に緻密な構造に構成される。
【0029】
さらに、本実施形態の積層構造体100では、MEAユニット20を構成する2つのMEA10の間の部分(すなわち、アノード集電層80)が処理対象ガスの流通する第1の流路(以下、「アノード流路41」とも称する)として機能する。また、積層方向Yにおいて隣接するMEAユニット20の間の空間が処理対象ガスの流通する第2の流路(以下、「カソード流路42」とも称する)として機能する。
【0030】
すなわち、本実施形態の積層構造体100では、MEAユニット20を構成する2つのMEA10(積層方向Yにおいて相互に隣接するMEA10)のそれぞれのアノード極層50が相互に対向し、当該対向するアノード極層50の間(すなわち、アノード集電層80の部分)がアノード流路41となる。
【0031】
一方、積層方向Yにおいて相互に隣接するMEAユニット20のそれぞれのカソード極層60が相互に対向し、当該対向するカソード極層60の間の空間がカソード流路42となる。なお、以下では、説明の便宜のため、このように積層方向Yにおいて隣接するMEA10のそれぞれのアノード極層50が相互に対向し且つ積層方向Yにおいて隣接するMEA10のそれぞれのカソード極層60が相互に対向する構造を「同種電極対向構造」とも称する。
【0032】
また、本実施形態の積層構造体100は、アノード流路41の流路断面積Saがカソード流路42の流路断面積Scよりも小さく構成される。ここで、本実施形態の流路断面積Saとは、処理対象ガスの通過に実質的に寄与するアノード流路41の断面領域の大きさを意味する。すなわち、流路断面積Saは、アノード流路41の断面領域が広がる全範囲の大きさ(流路自体の広狭)に加え、断面領域が広がる全範囲の大きさが同一であっても当該断面領域を通過する処理対象ガスの量に影響を与える断面形状(ハニカム形状、格子形状、及び弁体の有無など)も考慮された上で定まる値である。言い換えると、流路断面積Saは、処理対象ガスが実質的に通過可能なアノード流路41の断面の大きさに相当する値として定義される。カソード流路42の流路断面積Scの定義についても同様である。なお、以下では、説明の便宜のため、このアノード流路41の流路断面積Saがカソード流路42の流路断面積Scよりも小さい構造を「流路流調節構造」とも称する。
【0033】
そして、本実施形態の積層構造体100においては、上記流路流調節構造が、アノード流路41がカソード流路42よりも狭い構造、より詳細にはアノード流路41の流路径Raがカソード流路42の流路径Rcよりも小さくなる構造により実現されている。
【0034】
以下、上述した積層構造体100の構成(特に同種電極対向構造及び流路流調節構造)による作用効果について、第1参考例及び第2参考例の構成を参照しつつ説明する。
【0035】
図10は第1参考例による電気化学リアクタ2を構成する積層構造体200を説明する図であり、図11は第2参考例による電気化学リアクタ3を構成する積層構造体300を説明する図である。
【0036】
なお、本実施形態の構成と各参考例の構成との間の対比における便宜のため、積層構造体200又は積層構造体300を構成する各要素とこれに対応する本実施形態の積層構造体100を構成する各要素とについては同一の符号を用いる。しかしながら、このことは本実施形態の積層構造体100の各要素と各参考例の積層構造体200,300の各要素が相互に同一の構造を持つことを要求する趣旨ではない。
【0037】
図10に示すように、第1参考例の積層構造体200では、積層方向Yにおいて隣接するMEA10(図10では積層方向Yの正側から順にMEA10-1~10―4)において、アノード極層50とカソード極層60が相互に対向してそれらの間に処理対象ガスを通す流路43が形成される構造(既存の積層構造)をとっている。特に、図10では、アノード極層50-2とカソード極層60-1、アノード極層50-3とカソード極層60-2、及びアノード極層50-4とカソード極層60-3がそれぞれ相互に対向している。
【0038】
第1参考例の積層構造体200では、流入する処理対象ガスが流路43(図10では積層方向Yの正側から順に流路43-1~43―4)を流れる過程においてカソード極層60と接触することで還元反応(式(1))が生じ、NOx成分が還元される。一方で、第1参考例の積層構造体200では、流路43はアノード極層50にも面している。このため、処理対象ガスがアノード極層50に接触してもNOx成分は還元されず、所望の還元効率が得られない場合がある。
【0039】
また、積層構造体200では、アノード極層50で生じる酸化反応(式(2))によって生成された酸素が流路43内に流入する。そのため、処理対象ガスが流路43内を流れる過程においてNOx成分の還元の進行に応じて下流の位置であるほど酸素濃度が減少する一方、流路43内の全域においてアノード極層50から酸素が流入して処理対象ガスに合流する。すなわち、下流の位置であるほど実質的にアノード極層50から流入する酸素の量が増えて酸素濃度が増加する。結果として、流路43内では流出口x1付近においても酸素濃度が低下せず、当該流路43の流入口x0から流出口x1に亘る全領域において酸素濃度が減少しなくなる。
【0040】
図10に示す例を用いてより具体的に説明する。例えば、処理対象ガスが流路43-2に流入すると、当該流路43-2を流れる過程においてMEA10-2のカソード極層60-2と接触することで下流の位置であるほどNOx成分が還元される(酸素成分が減少する)。すなわち、カソード極層60-2における還元に着目すれば、流路43-2の流出口x1に近づくほどより還元が進行して酸素濃度が減少することとなる。
【0041】
一方で、流路43-2には、MEA10-3のアノード極層50-3で生成された酸素も流入する。酸素はアノード極層50-3の略全面で生成されるので、流路43-2の流出口x1に近づくほど流路43-2内の酸素量が増加する。すなわち、アノード極層50-3における酸化反応に着目すれば、流路43-2の流出口x1に近づくほどより酸化が進行して酸素濃度が増加することとなる。
【0042】
したがって、カソード極層60-2における還元に起因する酸素の減少分がアノード極層50-3の酸化に起因する酸素の増加分に打ち消されることとなり、流路43-2の流入口x0から流出口x1に亘る過程において酸素濃度がほぼ減少しない状態となる。
【0043】
さらに、MEA10-3のアノード極層50-3には、当該MEA10-3のカソード極層60-3における還元により生じた酸素イオンが固体電解質層70-3を介して移動してくる。その結果、アノード極層50-3における酸化反応がより活発化して生成される酸素が当該還元に相当する量の分だけ増大する。このため、流路43-2では流入口x0から流出口x1に近づくにつれて、むしろ、酸素濃度が若干増加する傾向を示す。そして、この現象は、他の流路43-1,43-3についても同様に生じる。
【0044】
図12は、第1参考例の積層構造体200における流路43の酸素濃度分布を説明する図である。図示のように、積層構造体200では、流路43の酸素濃度は流入口x0から流出口x1に至るまでに亘り減少することなく、むしろ流出口x1に近づくにつれて微増する傾向を示す。したがって、第1参考例の積層構造体200の構成では、そもそも、アノード極層50が還元に寄与しないことで還元効率の向上を妨げていることに加え、流路43の全領域において酸素濃度が減少しないことに起因して、より一層還元効率の向上が妨げられるという問題がある。
【0045】
これに対し、本発明者はより還元効率を向上させることのできる構造を模索して、図11に示す第2参考例の積層構造体300、すなわち同種電極対向構造を備える積層構造体300を開発した。
【0046】
第2参考例の積層構造体300の構成であれば、処理対象ガスが、積層方向Yにおいて相互に対向するカソード極層60の間に形成されるカソード流路42において両カソード極層60と接触して還元される。すなわち、処理対象ガスは、カソード流路42内を2つのカソード極層60に接触しつつ流れるので、NOx成分の還元効率を高めることができる。また、カソード流路42がアノード極層50に面していないため、アノード極層50で生成された酸素のカソード流路42への流入も抑制することができる。
【0047】
図13は、第2参考例の積層構造体300におけるカソード流路42の酸素濃度分布を説明する図である。図示のように、積層構造体300では、カソード流路42へのアノード極層50からの酸素の流入が抑制される上で、流出口x1に近づくほど2つのカソード極層60による還元が進むため、流入口x0から流出口x1に至る過程において酸素濃度が好適に減少することとなる。
【0048】
しかしながら、積層構造体300における同種電極対向構造では空間又は所定の層を介して相互に対向するアノード極層50が存在することとなり、これらアノード極層50の間も処理対象ガスが流通する流路(アノード流路41)として機能することとなる。そして、このアノード流路41を流れる処理対象ガスはカソード極層60に接触しないため、当該処理対象ガスに含まれるNOx成分はほぼそのまま電気化学リアクタ3から流出することとなる。このため、電気化学リアクタ3におけるトータルのNOx成分の還元効率が低下することが懸念される。
【0049】
上記事情を鑑み、本発明者は鋭意研鑽の結果、上述した本実施形態の電気化学リアクタ1に想到した。特に、電気化学リアクタ1の積層構造体100では、同種電極対向構造に加えて、アノード流路41の流路断面積Saがカソード流路42の流路断面積Scよりも小さい流路流調節構造を備えることで、トータルのNOx成分の還元効率の向上を実現している。
【0050】
より具体的には、同種電極対向構造によってカソード流路42における酸素濃度の減少を実現して当該カソード流路42内の還元効率の低下を抑制しつつ、流路流調節構造によって処理対象ガスをカソード流路42により流れやすくすることで電気化学リアクタ1の全体的な還元効率の向上を実現している。
【0051】
なお、本実施形態では、アノード流路41にアノード集電層80(特に緻密なアノード集電層80)を配置することで、アノード流路41への処理対象ガスの流入量を減少する効果をより高めることができる。すなわち、相対的にカソード流路42への処理対象ガスの流入量をより増加させることができるので、電気化学リアクタ1におけるトータルのNOx成分の還元効率をさらに向上させることができる。
【0052】
以上説明した本実施形態の電気化学リアクタ1の作用効果についてまとめて説明する。
【0053】
本実施形態の電気化学リアクタ1は、アノード極層50及びカソード極層60の間にイオン伝導層(固体電解質層70)が介在されて成る膜電極接合体(MEA10)が複数積層された積層構造体100を有する。
【0054】
積層構造体100は、積層方向Yにおいて隣接するMEA10のそれぞれのアノード極層50が相互に対向し、且つ積層方向Yにおいて隣接するMEA10のそれぞれのカソード極層60が相互に対向する構造である同種電極対向構造と、対向するアノード極層50の間に形成された処理対象ガスを流通させる流路であるアノード流路41と、対向するカソード極層60の間に形成された処理対象ガスを流通させる流路であるカソード流路42と、アノード流路41の流路断面積Saがカソード流路42の流路断面積Scよりも小さい流路流調節構造と、を有する。
【0055】
したがって、同種電極対向構造によって、アノード極層50で生じた酸素が、還元対象成分(NOx成分)の還元が行われるカソード流路42へ流入することが抑制されるため、カソード流路42内の酸素濃度を減少させることができる。特に、カソード流路42内において流出口x1に近づくほど酸素量が低下する好適な酸素濃度分布を実現することができ、カソード流路42内におけるNOx成分の還元効率を向上させることができる。また、流路流調節構造によって、還元が行われるカソード流路42へ処理対象ガスが流れやすく、且つ還元が行われないアノード流路41へ流れにくくすることができる。結果として、電気化学リアクタ1から未処理のまま流出するNOx成分の量をより低減して、トータルのNOx還元効率を向上させることができる。
【0056】
特に、本実施形態の流路流調節構造は、アノード流路41がカソード流路42よりも狭い構造を含む。より具体的に、流路流調節構造は、アノード流路41の流路径Raがカソード流路42の流路径Rcよりも小さい構造を含む。
【0057】
これにより、上述の流路流調節構造を、アノード流路41の流路径Ra及び/又はカソード流路42の流路径Rcを調節するという簡易な方法により実現することができる。
【0058】
さらに、本実施形態の流路流調節構造は、アノード流路41に集電層であるアノード集電層80が配置された構造を含む。
【0059】
このように、外部電源Vとの間の導電経路として用いるアノード集電層80をアノード流路41に配置するという簡易な構成によって、当該アノード集電層80がアノード流路41において処理対象ガスの実質的な流路を狭くする(流路断面積Saを小さくする)ように機能することとなる。すなわち、追加部品又は流路構造の大幅な変更を要せずに、上記流路流調節構造を具体的に実現することができる。特に、本実施形態のように、流路流調節構造として、流路径Raが流路径Rcよりも小さい構造及びアノード流路41に配置されるアノード集電層80の双方を採用することで、処理対象ガスがカソード流路42へ流れやすく且つアノード流路41へ流れにくくする効果をさらに高めることができる。
【0060】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0061】
図3は、本実施形態による電気化学リアクタ1の構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の電気化学リアクタ1において、積層構造体100には、カソード流路42に外部電源Vとの導電経路(特に、外部電源Vの負極端子との導電経路)として機能する集電層であるカソード集電層82が設けられる。
【0062】
カソード集電層82は、アノード集電層80と同様の材質で構成される一方、アノード集電層80に対してより多孔質に(緻密度が低くなるように)形成される。これにより、処理対象ガスがアノード流路41にさらに流れにくく、且つカソード流路42にさらに流れやすくすることができる。
【0063】
すなわち、本実施形態による電気化学リアクタ1では、流路流調節構造は、アノード集電層80、及びカソード流路42に配置されアノード集電層80よりも多孔質の集電層であるカソード集電層82を含む。
【0064】
これにより、外部電極との導電経路として設けられるアノード集電層80及びカソード集電層82によって、追加部品又は流路構造の大幅な変更を要せずに、より好適な流路流調節構造を実現することができる。
【0065】
[第3実施形態]
以下、第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態又は第2実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0066】
図4は、本実施形態による電気化学リアクタ1の構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の電気化学リアクタ1では、第2実施形態で説明したカソード集電層82に、NOxを吸着する吸着材84が含浸される。
【0067】
具体的な吸着材84の例には、カリウム(K)又はナトリウム(Na)等のアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、又はマグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属、ランタン(La)等の希土類元素、及びこれらの1種又は2種以上の組み合わせから成る群から選択される材料が含まれる。
【0068】
以上説明したように、カソード集電層82にNOxを吸着する吸着材84が含浸されることで、処理対象ガス中のNOx成分をカソード流路42内により留めやすくなるので、当該NOx成分が未処理のまま電気化学リアクタ1の外部に流出されることを抑制することができる。結果として、トータルのNOx還元効率をさらに向上させることができる。
【0069】
[第4実施形態]
以下、第4実施形態について説明する。なお、第1~第3実施形態の何れかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0070】
図5は、本実施形態による電気化学リアクタ1の構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の電気化学リアクタ1は、第2実施形態の構成(図3に示す構成)をベースとして、アノード極層50のガス流れ方向Xにおける上流位置に設けられる緻密部86をさらに備える。
【0071】
なお、本実施形態において、ガス流れ方向Xにおける上流位置とは、アノード極層50内を流れる処理対象ガスが流れ得るアノード極層50内のガス流領域の全長に対して略半分以下となる領域を意味する。すなわち、ガス流れ方向Xにおける上流位置は、概ね、MEA10のガス流れ方向Xにおける全長に対して、ガス入口位置から略半分の長さ領域に相当する。
【0072】
また、緻密部86は、アノード極層50におけるにおいてガス流れ方向Xにおける一部分として、処理対象ガスの流れを一定程度阻害する程度に緻密に構成される。特に、緻密部86は、アノード極層50における他の部分と比較して緻密に(低い多孔度で)構成される。なお、緻密部86を構成するアノード極層50の一部分は、他の部分と同一の材質で形成されても良いし、異なる材質で形成されても良い。
【0073】
以上説明したように、アノード極層50のガス流れ方向Xにおける上流位置に、処理対象ガスの流れを阻害する緻密部86が設けられたことで、処理対象ガスのアノード極層50内への流入を抑制することができる。特に、緻密部86がアノード極層50の上流位置に位置するので、処理対象ガスを当該緻密部86により効果的に阻害してカソード流路42に流入させ易くすることができる。さらに、緻密部86が上流位置に存在することで、当該緻密部86がアノード極層50内において酸素濃度が相対的に高くなる下流位置において当該酸素の流通を阻害することを抑制することができる。すなわち、アノード極層50内における酸素の流通を大きく阻害することなく、アノード極層50内への処理対象ガスの流入を抑制しつつカソード流路42へ誘導する効果を得ることができる。
【0074】
特に、本実施形態の緻密部86は、アノード極層50における処理対象ガスの入口の近傍に設けられている。これにより、処理対象ガスのアノード極層50内への流入の抑制及び当該処理対象ガスのカソード流路42への流入の促進効果をより向上させることができる。さらに、この構成であれば、処理対象ガスがアノード極層50に接触することで生じ得る酸化反応も抑制されるので、アノード極層50で生成されてカソード流路42内に侵入する酸素の量も低減させることができる。すなわち、電気化学リアクタ1におけるトータルのNOx還元効率の向上効果をさらに高めることができる。
【0075】
[第5実施形態]
以下、第5実施形態について説明する。なお、第1~第4実施形態の何れかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0076】
図6は、本実施形態による電気化学リアクタ1の構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の電気化学リアクタ1は、第2実施形態の構成(図3に示す構成)をベースとして、アノード流路41における処理対象ガスの流入口xa0を塞ぐ絶縁性の閉塞部材88がさらに設けられている。
【0077】
これにより、実質的にNOx成分に対する還元が行われないアノード流路41への処理対象ガスの流入を抑制することができる。特に、絶縁性の閉塞部材88がアノード流路41における処理対象ガスの流入口xa0を塞ぐという簡易な構成によって、MEA10の端部に求められる短絡抑制機能、及び処理対象ガスがカソード流路42へ流れやすく且つアノード流路41へ流れにくくなる機能をまとめて実現することができる。
【0078】
特に、閉塞部材88は、要求される絶縁性能を発揮しつつ、処理対象ガスの流通を一定程度阻害できる程度に緻密な構造に構成されることが好ましい。より詳細には、閉塞部材88はカソード流路42を構成するカソード集電層82よりも緻密に構成されることが好ましく、特にアノード流路41を構成するアノード集電層80よりも緻密に構成されることがより好ましい。
【0079】
これにより、処理対象ガスがカソード流路42へ流れやすく且つアノード流路41へ流れにくくなる機能をさらに向上させることができる。
【0080】
[第6実施形態]
以下、第6実施形態について説明する。なお、第1~第5実施形態の何れかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、電気化学リアクタ1と外部電源Vとの接続構造の一態様が提供される。
【0081】
図7は、本実施形態による電気化学リアクタ1と外部電源Vとの接続構造を説明する図である。特に、図7は、電気化学リアクタ1をガス流れ方向Xから視た構造を示している。なお、以下では説明の便宜のため、ガス流れ方向X及び積層方向Yの双方に対して直交する方向を「電極幅方向Z」とも称する。
【0082】
図示のように、第2実施形態の構成(図3に示す構成)をベースとする電気化学リアクタ1では、各MEA10が外部電源Vに対して相互に並列に接続される。
【0083】
より詳細には、各MEA10のアノード集電層80の端部(電極幅方向Zの正側の端部)がバスバー90を介して外部電源Vの正極端子に接続されている。また、各MEA10のカソード集電層82の端部(電極幅方向Zの負側の端部)がバスバー92を介して外部電源Vの負極端子に接続されている。
【0084】
このように、積層構造体100を構成する各MEA10(特に、各MEAユニット20)が外部電源Vに対して相互に並列に接続される構造をとることで、これらを直列に接続する場合と比べて電気化学リアクタ1に印加する電圧の大きさ(合成電圧の大きさ)を低減することができる。すなわち、電気化学リアクタ1又はこれに付随する各構成を備えた装置全体を低電圧化することができる。
【0085】
特に、電気化学リアクタ1を排ガス処理の用途で車両に用いる場合において、当該電気化学リアクタ1が低電圧化されていることで、高電圧部品用の安全基準を実現するための種々の部品(絶縁コンバータ等)を要することなく車両に電気化学リアクタ1を搭載することが可能となる。結果として、電気化学リアクタ1を車両に搭載する際に付随する部品の点数を削減することができる。また、各MEA10が外部電源Vに対して相互に並列に接続されることで、各MEA10の一部が破損した場合であっても、残りのMEA10により電気化学リアクタ1の動作を継続することができる。
【0086】
さらに、本実施形態では、電極幅方向ZにおけるMEA10の端部(電極幅方向Zの正側の端部)に絶縁部材94が設けられている。特に、絶縁部材94は、電極幅方向ZにおいてMEA10とバスバー90の間に介在するとともに、積層方向Yにおいて相互に対向するアノード集電層80のそれぞれの端部(電極幅方向Zの正側の端部)の間に介在するように設けられている。これにより、MEA10、アノード集電層80、及びバスバー90の間における意図しない導電による短絡を防止することができる。
【0087】
また、本実施形態では、電極幅方向ZにおけるMEA10の端部(電極幅方向Zの負側の端部)には絶縁部材96が設けられている。特に、絶縁部材96は、電極幅方向ZにおいてMEA10からバスバー92の間に介在するとともに、積層方向Yにおいて相互に対向するカソード集電層82のそれぞれの端部(電極幅方向Zの負側の端部)の間に介在するように設けられている。これにより、MEA10、カソード集電層82、及びバスバー92の間の意図しない導電による短絡を防止することができる。
【0088】
[第7実施形態]
以下、第7実施形態について説明する。なお、第1~第6実施形態の何れかと同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0089】
図8は、本実施形態による電気化学リアクタ1の構成を説明する図である。図示のように、本実施形態の電気化学リアクタ1は、第2実施形態の構成(図3に示す構成)をベースとして、積層構造体100を収容する筐体98をさらに備えている。筐体98は、積層構造体100の全体を収容可能な金属製の箱形状に形成される。
【0090】
特に、積層構造体100は、積層方向Yにおいて当該積層構造体100の端に位置するMEA10(以下、「端部MEA10-0」とも称する)のカソード極層60(以下、「端部カソード極層60-0」とも称する)が、絶縁シール材99を介して筐体98の内側面98aと対向するように構成される。
【0091】
また、端部カソード極層60-0と筐体98の内側面98a(より詳細には絶縁シール材99)との間には、カソード集電層82と同一構成の多孔質の集電層(以下、「端部集電層82-0」とも称する)が設けられている。したがって、この端部集電層82-0の部分も処理対象ガスが流通する流路(以下、「端部流路42-0」とも称する)として機能する。特に、端部流路42-0はカソード流路42よりも狭く構成される。より詳細には、端部流路42-0の流路径Rc0がカソード流路42の流路径Rcよりも小さくなるように構成されている。
【0092】
以上説明したように、本実施形態の電気化学リアクタ1は、積層構造体100を収容する筐体98をさらに備える。また、積層構造体100は、端部膜電極接合体である端部MEA10-0におけるカソード極層60(端部カソード極層60-0)が筐体98の内側面98aと対向するように構成される。さらに、端部流路42-0はカソード流路42よりも狭く構成される。
【0093】
なお、端部MEA10-0は、積層構造体100の積層方向Yにおける端に位置するMEA10である。また、端部流路42-0は、端部MEA10-0の端部カソード極層60-0と内側面98aの間に形成され処理対象ガスが流通する流路である。
【0094】
これにより、NOx成分の還元に寄与しない筐体98の内側面98aに面することで還元効率が低い端部流路42-0に対して、2つのカソード極層60に面することことfr還元効率が高いカソード流路42により多くの処理対象ガスを流すことができる。したがって、電気化学リアクタ1におけるトータルのNOxの還元効率をさらに向上させることができる。
【0095】
[変形例]
以下、第1実施形態の変形例について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0096】
図9は、変形例による電気化学リアクタ1の構成を説明する図である。変形例の電気化学リアクタ1は、流路流調節構造として、積層構造体100の対向するアノード極層50の間にアノード集電層80を介在させずに、対向するアノード極層50を相互に直接接続した構造をとる点において第1実施形態と異なる。
【0097】
この構造により、対向するアノード極層50の間に形成されるアノード流路41の流路径Raをより小さく(特にほぼ0に)することができる。したがって、アノード流路41の流路断面積Saがより小さくなるので、処理対象ガスがアノード流路41に流れにくく且つカソード流路42に流れやすくなる効果をより高めることができる。
【0098】
なお、本変形例の積層構造体100においては、アノード集電層80に代えて当該外部電源Vの正極端子とアノード極層50とを直接接続することで、所望の電圧を印加するための外部電源Vとの電気的接続を確保することができる。
【0099】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明したが、上記実施形態及び変形例は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0100】
例えば、積層構造体100の構成は、上記各実施形態又は変形例において意図される作用効果の発揮を阻害しない範囲で任意に変更することが可能である。より具体的には、上記各実施形態又は変形例において説明した積層構造体100を構成する各層に加えて、当該積層構造体100の層構造を支持するための補強層を追加しても良い。
【0101】
特に、対向するアノード極層50の間、対向するカソード極層60の間、又はこれらの双方にさらに金属製の支持体(支持層)を追加して強度を高めたセル構造(いわゆるメタルサポートセル)に対して、上記各実施形態又は変形例で説明した構成を適用しても良い。さらに、アノード極層50及びカソード極層60の何れか一方を他方と比べて厚く(積層方向Yにおける長さを長く)構成することで強度を高めたセル構造(いわゆるアノードサポートセル又はカソードサポートセル)に対して、上記各実施形態又は変形例で説明した構成を適用しても良い。
【0102】
特に、上記各実施形態又は変形例の積層構造体100のMEAユニット20は2つのMEA10により構成されているので、それぞれのMEA10に上記サポート構造を設けることでこれらを組み合わせてなる当該MEAユニット20の強度をより高めることができる。すなわち、積層構造体100の実質的な単位ユニットである各MEAユニット20の強度をより高めることができるので、層構造全体のさらなる強度の向上を実現することができる。
【0103】
また、図1で説明した各実施形態及び変形例の電気化学リアクタ1の適用例は一例であり、電気化学リアクタ1の適用例はこれに限定されるものではない。一方で、本実施形態の電気化学リアクタ1は、処理対象ガス中において、酸化対象成分よりも還元対象成分に対する処理が優先されるシーンに適用されることが特に好ましい。例えば、酸化対象成分であるCOなどを十分に酸化可能な構成(三元触媒や酸化触媒など)を備えているか或いは処理対象ガス中にこのような成分があまり含まれない一方、還元対象成分であるNOx成分を還元するための構成を十分に備えていないシステム(ディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンの排気系統Eなど)において、電気化学リアクタ1を適用することが特に好ましい。
【0104】
なお、上記各実施形態及び変形例の構成は、矛盾しない範囲において相互に組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0105】
1 電気化学リアクタ、10 MEA、20 MEAユニット、41 アノード流路、42 カソード流路、42 端部流路、50 アノード極層、60 カソード極層、70 固体電解質層、80 アノード集電層、82 カソード集電層、84 吸着材、86 緻密部、88 閉塞部材、98 筐体、98a 内側面、100 積層構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13