(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184455
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】入力装置用カバー部材、及び入力装置
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20221206BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20221206BHJP
G06F 3/03 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G06F3/041 460
C03C19/00 A
G06F3/03 400Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092316
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】木下 沢泉
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC01
(57)【要約】
【課題】入力装置への入力操作において、優れた書き心地を実現することができる入力装置用カバー部材、及び入力装置を提供する。
【解決手段】入力装置10におけるディスプレイ素子30の前面側に配置される入力装置用カバー部材としてのガラス基板20であって、ガラス基板20の少なくとも一方の主面20aに凹凸形状を有し、前記凹凸形状を有する主面20aにおける、粗さ曲線要素の最大谷深さRvが、粗さ曲線要素の最大山高さRpよりも大きい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力装置におけるディスプレイ装置の前面側に配置される入力装置用カバー部材であって、
前記入力装置用カバー部材の少なくとも一方の主面に凹凸形状を有し、
前記凹凸形状を有する主面における、粗さ曲線要素の最大谷深さRvが、粗さ曲線要素の最大山高さRpよりも大きいことを特徴とする入力装置用カバー部材。
【請求項2】
前記凹凸形状を有する主面における、最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saが、6以上であることを特徴とする請求項1に記載の入力装置用カバー部材。
【請求項3】
前記凹凸形状を有する主面における、最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saが、15以上であることを特徴とする請求項1に記載の入力装置用カバー部材。
【請求項4】
前記凹凸形状を有する主面における、粗さ曲線要素の最大谷深さRvと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比であるRv/RSmが、0.001以上且つ0.1以下であることを特徴とする請求項1~請求項3の何れか一項に記載の入力装置用カバー部材。
【請求項5】
前記凹凸形状を有する主面における、算術平均高さSaが、1nm以上且つ50nm以下であることを特徴とする請求項1~請求項4の何れか一項に記載の入力装置用カバー部材。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか一項に記載の入力装置用カバー部材と、ディスプレイ装置と、ペン入力を検出する検出回路とを備えることを特徴とする入力装置。
【請求項7】
前記入力装置用カバー部材の主面に接触しながら移動することにより、前記入力装置に対するペン入力を行う入力ペンを備えることを特徴とする請求項6に記載の入力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力装置用カバー部材、及び入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、入力ペンを用いて、ユーザーが文字及び図形等の入力操作を画面上にて手書きで行うことができるペン入力装置が知られている。
【0003】
このようなペン入力装置においては、液晶ディスプレイ等によるディスプレイ装置の前面側に、ガラス基板等で構成された透明なカバー部材が配置されており、当該カバー部材の表面において入力ペンを接触及び移動させることで、様々な入力操作を行うことが可能となっている。
【0004】
ここで、ペン入力装置のカバー部材としてガラス基板を用いた場合、ガラス基板の表面は、一般的に凹凸が小さく滑らかに形成されているため、カバー部材(ガラス基板)の表面に入力ペンを接触させて移動させた際に、当該入力ペンのペン先が滑ってしまい、書き心地が悪いという問題が生じていた。
【0005】
従って、入力ペンの滑りやすさを防止するために、高い摩擦係数を有するエラストマー材のペン先を用いることが、特許文献1に開示されている。
また、特許文献2には、エッチング処理によってガラス表面に微小な凹凸をつけることにより摩擦力を増加させて、書き心地を向上させたカバーガラス(カバー部材)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-173955号公報
【特許文献2】国際公開第2015/072297号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されるようなエラストマー材のペン先を用いた場合、ペン先に柔軟性があることにより筆記感は向上するが、エラストマー材はカバー部材に対する凝着力が大きいためペン先が滑りにくくなり過ぎて、カバー部材の表面に入力ペンを接触させて移動させた際に、却って書き心地が悪くなることがあった。
また、特許文献2に記載されるカバーガラスに対して、凝着力が大きいエラストマー材のペン先を用いた場合においても、カバーガラスの表面に入力ペンを繰り返し接触させて移動させた際の、ペン先とカバーガラスとの間の摩擦力が高くなり過ぎて、良好な書き心地が得られないことがあった。
【0008】
本発明は、以上に示した現状の問題点に鑑みてなされたものであり、エラストマー材のような高い摩擦係数を有する部材をペン先に用いた場合でも、入力装置への入力操作において、優れた書き心地を実現することができる入力装置用カバー部材、及び入力装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する入力装置用カバー部材、及び入力装置は、以下の特徴を有する。
【0010】
即ち、本発明に係る入力装置用カバー部材は、入力装置におけるディスプレイ装置の前面側に配置される入力装置用カバー部材であって、前記入力装置用カバー部材の少なくとも一方の主面に凹凸形状を有し、前記凹凸形状を有する主面における、粗さ曲線要素の最大谷深さRvが、粗さ曲線要素の最大山高さRpよりも大きいことを特徴とする。
このような構成を有することにより、本発明に係る入力装置用カバー部材によれば、主面の凹凸形状に深い谷部があることによってペン先との接触面積が低下し、主面とペン先との間の摩擦力の過度な増加を抑制でき、入力装置への入力操作において、優れた書き心地を実現することができる。
【0011】
本発明に係る入力装置用カバー部材において、前記凹凸形状を有する主面における、最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saが、6以上であることが好ましい。
このような構成を有することにより、本発明に係る入力装置用カバー部材によれば、主面とペン先との間の摩擦力の過度な増加が抑制され、入力装置への入力操作において、優れた書き心地を実現することができる。
【0012】
また、本発明に係る入力装置用カバー部材において、前記凹凸形状を有する主面における、最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saが、15以上であることが好ましい。
このような構成を有することにより、本発明に係る入力装置用カバー部材によれば、主面とペン先との間の摩擦力の過度な増加がより抑制され、入力装置への入力操作において、さらに優れた書き心地を実現することができる。
【0013】
また、本発明に係る入力装置用カバー部材において、前記凹凸形状を有する主面における、粗さ曲線要素の最大谷深さRvと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比であるRv/RSmが、0.001以上且つ0.1以下であることが好ましい。
このような構成を有することにより、本発明に係る入力装置用カバー部材によれば、主面に対してペン先を適度に滑り易くすることができ、入力装置への入力操作において、優れた書き心地を実現することができる。
【0014】
また、本発明に係る入力装置用カバー部材において、前記凹凸形状を有する主面における、算術平均高さSaが、1nm以上且つ50nm以下であることが好ましい。
このような構成を有することにより、本発明に係る入力装置用カバー部材によれば、ペン先が主面上で滑ることを適度に抑制するとともに、ペン先の主面上での滑り難さを適度に低下させて、入力装置への入力操作において、入力ペンによる書き心地を優れたものにすることができる。
【0015】
そして、本発明に係る入力装置は、上述した何れかの入力装置用カバー部材と、ディスプレイ装置と、ペン入力を検出する検出回路とを備えることを特徴とする。
また、本発明に係る入力装置は、前記入力装置用カバー部材の主面に接触しながら移動することにより、前記入力装置に対するペン入力を行う入力ペンを備えることを特徴とする。
このような構成を有することにより、本発明に係る入力装置によれば、入力ペンによる入力装置への入力操作において、優れた書き心地を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、入力装置への入力操作において、優れた書き心地を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】カバー部材の主面における測定断面曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係る入力装置用カバー部材、及び入力装置を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0019】
[ペン入力装置10の全体構成]
先ず、入力装置10の全体構成について、
図1を用いて説明する。
入力装置10は、本発明に係る入力装置用カバー部材を備えた入力装置の一実施形態である。
入力装置10は、映像を表示するディスプレイ装置の一例であるディスプレイ素子30、ディスプレイ素子30の前面側に配置されるカバー部材としてのガラス基板20、ディスプレイ素子30の背面側に配置されるデジタイザ回路40、及び入力ペン50などを備える。
また、ガラス基板20は、本発明に係る入力装置用カバー部材の一例であり、デジタイザ回路40は、本発明に係る入力を検出する検出回路の一例である。
【0020】
なお、上記の記載において、ディスプレイ素子30の「前面側」とは、映像が表示される側を意味し、ディスプレイ素子30の「背面側」とは、映像が表示される側の反対側を意味する。
本実施形態においては、例えば、ディスプレイ素子30の「前面側」は、
図1中における紙面上方側となり、ディスプレイ素子30の「後面側」は、
図1中における紙面下方側となる。
【0021】
入力装置10は、ガラス基板20の主面20a(ガラス基板20に対してディスプレイ素子30側とは反対側の面)に対して、入力ペン50を接触させた状態で移動させることにより、文字及び図形などのペン入力(入力操作)を行うことが可能な構成となっている。入力装置10の例示としては、例えばタブレット端末が挙げられる。
【0022】
ここで、上記タブレット端末は、表示機能、及びペン入力機能の双方を備えたペン入力用表示装置を広く意味し、タブレットPC、モバイルPC、スマートフォン、及びゲーム機などの機器を含むものである。
【0023】
ガラス基板20は、少なくとも一方の主面(本実施形態においては、上記の主面20a)に凹凸形状が形成された、透明なガラス板により形成されている。
また、ガラス基板20は、凹凸形状が形成された主面20aが、入力ペン50が接触する側の面となるように配置されている。
【0024】
ここで、ガラス基板20としては、例えばアルミノシリケートガラス、またはホウケイ酸ガラスなどからなるガラス板を用いることができる。
また、アルカリ含有アルミノシリケートガラスからなるガラス板によって、ガラス基板20が構成される場合、当該ガラス基板20は、表面に化学強化層を有していても良い。
なお、ガラス基板20の詳細については後述する。
【0025】
デジタイザ回路40は、入力ペン50による入力操作を検出する、検出センサを備えている。
また、入力ペン50は、鉛筆やボールペンなどの筆記具に似た形状の入力器具であり、ガラス基板20と接触する摩擦子の一例であるペン先51を有し、当該ペン先51が、エラストマー、ポリアセタール樹脂などの合成樹脂材、またはフェルトなどで構成されている。
【0026】
入力ペン50において、上記の部材からなるペン先51であれば、微細な凹凸形状に対しても引掛り易い。
従って、入力ペン50のペン先51を、凹凸形状が形成されたガラス基板20の主面20aに接触させて移動させた場合、特に優れた書き心地を実現することができる。
【0027】
なお、本実施形態においては、入力装置用カバー部材としてガラス基板20を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、合成樹脂により形成され、少なくとも一方の主面に凹凸形状が形成された樹脂基板を、入力装置用カバー部材として用いることも可能である。
この場合、当該樹脂基板の凹凸形状は、例えば、樹脂基板の主面にウェットブラスト等のブラスト加工を施したり、樹脂基板の主面にエンボス加工を施したりすることにより形成することが可能である。
【0028】
また、凹凸形状が表面に形成された樹脂層を、ガラス基板の少なくとも一方の主面に積層させたものを、入力装置用カバー部材として用いることも可能である。
この場合、当該カバー部材は、凹凸形状が表面に形成された樹脂シートを、ガラス基板の主面に貼り付けることにより構成することができる。
【0029】
なお、上記樹脂シートの凹凸形状は、例えば、樹脂シートの表面にエンボス加工を施したり、粉粒体を混入させた合成樹脂をシート状に形成したりすることにより形成することができる。
また、上記樹脂層は、合成樹脂をガラス基板の主面にスプレーにて吹き付けて形成することも可能である。
【0030】
但し、入力装置用カバー部材としてガラス基板20を用いた場合は、上述した樹脂基板や、ガラス基板の主面に樹脂層を形成したものなどを用いた場合に比べて、表面(特に、入力ペン50のペン先51と接触する主面)の硬度が高くなるため、表面に傷が付き難い点で有利である。
【0031】
[ガラス基板20の構成]
次に、ガラス基板20の構成について、
図1、
図2を用いて詳細に説明する。
前述したように、ガラス基板20は、本発明に係る入力装置用カバー部材の一実施形態である。
図1において、ガラス基板20の主面20aには、凹凸形状が形成されている。
【0032】
図2に示すように、ガラス基板20の主面20aに形成される凹凸形状は、不規則的に深い谷部を有する微小凹凸より構成されている。
主面20aの微小凹凸においては、粗さ曲線要素の最大谷深さRvが、粗さ曲線要素の最大山高さRpよりも大きい(Rp<Rv)。また、主面20aの微小凹凸においては、算術平均高さSaが1nm以上且つ50nm以下である。
【0033】
さらに、主面20aの微小凹凸においては、最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saが、6以上である(Sv/Sa≧6)。この場合、最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saは、15以上である(Sv/Sa≧15)ことが好ましい。
また、主面20aの微小凹凸においては、粗さ曲線要素の最大谷深さRvと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比であるRv/RSmが、0.001以上且つ0.1以下である(0.001≦Rv/RSm≦0.1)。
【0034】
ここで、本願における最大谷深さRv、最大山高さRp、及び粗さ曲線要素の平均長さRSmは、JISB0601 2013に準拠し、算術平均高さSa及び最大谷深さSvは、ISO 25178に準拠する。
【0035】
主面20aの微小凹凸において、算術平均高さSaは、所定の面における凹凸の山の高さZa、及び谷の深さZbの絶対値の平均である(Sa=((|Za1|+|Za2|+・・・+|Zan|)+(|Zb1|+|Zb2|+・・・+|Zbn|))/2n)。最大谷深さSvは、所定の面における当該微小凹凸の最も深い谷Svである。
【0036】
また、微小凹凸の最大山高さRpは、所定の基準長さにおける当該微小凹凸の最も高い山の高さRpであり、微小凹凸の最大谷深さRvは、所定の基準長さにおける当該微小凹凸の最も深い谷の深さRvである。なお、所定の規定長さにおける最大山高さRpと最大谷深さRvとの和は、最大高さRzである(Rz=Rp+Rv)。さらに、微小凹凸の粗さ曲線要素の平均長さRSmは、所定の基準長さにおける当該微小凹凸の各周期長さXの平均である(RSm=(X1+X2+・・・+Xn)/n)。
【0037】
上述した微小凹凸における算術平均高さSa、最大谷深さSv、粗さ曲線要素の最大高さRz、粗さ曲線要素の平均長さRSm、粗さ曲線要素の最大山高さRp、及び粗さ曲線要素の最大谷深さRvの値は、主面20aの測定断面曲線から長波長成分を遮断するための高域フィルタλcのカットオフ値λc1を14μmに設定し、且つ主面20aの測定断面曲線から短波長成分を遮断するための低域フィルタλsのカットオフ値λs1を、0.35μmとした場合に得られる粗さ曲線から評価される値である。
【0038】
つまり、ガラス基板20の主面20aに形成される凹凸形状は、高域フィルタλcのカットオフ値λc1を14μmとし、且つ低域フィルタλsのカットオフ値λs1を0.35μmとした場合、最大谷深さRvと最大山高さRpとの間にRp<Rvの関係がある微小凹凸として発現し、算術平均高さSaが1nm以上且つ50nm以下となる微小凹凸として発現し、最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saが6以上となる微小凹凸として発現し、粗さ曲線要素の最大谷深さRvと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比であるRv/RSmが0.001以上且つ0.1以下となる微小凹凸として発現する。
【0039】
このように、ガラス基板20の主面20aに形成される凹凸形状は、不規則的に深い谷部を持つ微小凹凸により構成される。
【0040】
本実施形態における入力装置10(
図1を参照)においては、ガラス基板20の主面20aにおける微小凹凸の形状が、それぞれ上述した条件の範囲内にて形成されていることにより、ディスプレイ素子30(同じく、
図1を参照)の視認性を保持しつつ、入力ペン50の書き心地を向上させることが可能となっている。
また、このような微小凹凸を上述した条件の範囲内で構成された凹凸形状とすることにより、当該凹凸形状による散乱光の干渉によって、スパークリングと呼ばれるギラつきが発生することを抑制することができる。
さらに、本実施形態においては、ガラス基板20の主面20aに樹脂層が形成されておらず、当該主面20aに対して直接的に凹凸形状が形成されているため、耐傷性が高く、傷が付き難いことから、ディスプレイ素子30の視認性を低下させることがない。
【0041】
微小凹凸は、ガラス基板20の主面20aと、入力ペン50のペン先51との間の摩擦力に寄与する。また、上記摩擦力の寄与は、ペン先51の材質によって変化する。
【0042】
具体的には、低弾性率の材料であるエラストマー製のペン先51の場合、ガラス基板20の主面20aが平らであればあるほど、凝着力による大きな摩擦力が生じ、ガラス基板20の主面20aに対して、ペン先51が滑り難くなる。
この場合、ガラス基板20の主面20aに微小凹凸を付与することにより、当該主面20aと、入力ペン50のペン先51との接触面積の低減を図ることができ、ガラス基板20の主面20aに対して、ペン先51を適度に滑り易くすることができる。
【0043】
一方、POMのような硬い材質からなるペン先51の場合、ガラス基板20の主面20aが平らであればあるほど、摩擦力が低下し、ガラス基板20の主面20aに対して、ペン先51が滑り易くなる。
これに対しては、ガラス基板20の主面20aに微小凹凸を付与することにより、当該主面20aに対して、入力ペン50のペン先51が引掛り易くすることができる。これにより、主面20aとペン先51との間の摩擦力が増加し、ガラス基板20の主面20aに対して、ペン先51を適度に滑り難くすることができる。
【0044】
なお、フェルトのような材質からなるペン先51の場合、上述したPOM製のペン先51に似た挙動を示し、ガラス基板20の主面20aに微小凹凸を付与することにより、当該主面20aに対して、入力ペン50のペン先51が引掛り易くなる。これにより、主面20aとペン先51との間の摩擦力が増加し、ガラス基板20の主面20aに対して、ペン先51を適度に滑り難くすることができる。
【0045】
このように、ガラス基板20の主面20aに微小凹凸を付与することにより、様々な材質(エラストマー、POM、及びフェルト)からなる入力ペン50のペン先51に対して、当該ペン先51が主面20a上で滑ることを適度に抑制し、または主面20a上での当該ペン先51の滑り難さを適度に低下させることができる。これにより、入力装置10への入力操作において、入力ペン50による書き心地を優れたものにすることができる。
【0046】
特に、ガラス基板20の主面20aに算術平均高さSaが1nm以上且つ50nm以下となる微小凹凸を付与することにより、ペン先51が主面20a上で滑ることを適度に抑制するとともに、ペン先51の主面20a上での滑り難さを適度に低下させて、入力装置10への入力操作において、入力ペン50による書き心地を優れたものにすることができる。
【0047】
ここで、上述したように、本実施形態においては、微小凹凸の算術平均高さSaの上限値が50nmに設定されているが、当該上限値は、40nmに設定されるのが好ましく、30nmに設定されるのがさらに好ましく、20nmに設定されるのが特に好ましく、15nmに設定されるのが最も好ましい。
【0048】
また、上述したように、本実施形態においては、主面20aにおける微小凹凸は深い谷部を有しており、最大谷深さRvと最大山高さRpとは、Rp<Rvの関係を有する。主面20aにおける微小凹凸の山部によってペン先51に引掛かりが生じ、摩擦力増加に寄与する。一方、主面20aにおける微小凹凸の谷部はペン先51と接触しない、つまり接触面積低下に寄与する。不規則的に深い谷部を有する微小凹凸は
図2のような表面形状となり、深い谷部があることによってペン先51との接触面積が低下し、結果として摩擦力の過度な増加を抑制することができる。特に、凝着力の強いエラストマー製のペン先51は摩擦力低下に寄与し、当該ペン先51の滑りが滑らかになる。これにより、入力装置10への入力操作において、優れた書き心地を実現することができる。
【0049】
ここで、上述したように、本実施形態においては、最大谷深さRvと最大山高さRpとは、Rp<Rvの関係を有するが、Rv-Ra≧0.5の関係を有することが好ましく、Rv-Ra≧1の関係を有することがさらに好ましく、Rv-Ra≧2の関係を有することが特に好ましく、Rv-Ra≧3の関係を有することが最も好ましい。
【0050】
さらに、上述したように、本実施形態においては、最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saが6以上となるように設定されているが、Sv/Saは、8以上となるように設定されるのが好ましく、10以上となるように設定されるのがさらに好ましく、12以上となるように設定されるのがより好ましく、15以上となるように設定されるのが特に好ましい。
【0051】
最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saが6以上となる場合、当該微小凹凸表面に深い谷部を有することの指標となる。従って、最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saが6以上となる場合は、主面20aとペン先51との間の摩擦力の過度な増加が抑制され、入力装置10への入力操作において、優れた書き心地を実現することが可能となる。特に、最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saが15以上となる場合には、主面20aとペン先51との間の摩擦力の過度な増加がより抑制され、入力装置10への入力操作において、さらに優れた書き心地を実現することが可能となる。
【0052】
微小凹凸の粗さ曲線要素の平均長さRSmと粗さ曲線要素の最大谷深さRvとの比であるRv/RSmは、ガラス基板20の主面20aに形成される微小凹凸の谷部における仮想的なアスペクト比に相当する値である。
【0053】
具体的には、粗さ曲線要素の平均長さRSmと粗さ曲線要素の最大谷深さRvとの比であるRv/RSmの値が大きければ、谷部が深くなる。微小凹凸の谷部が深くなると、凝着力の大きな材料であるエラストマー製のペン先51の場合には、ガラス基板20の主面20aとの接触面積の低減を図ることができ、主面20aとペン先51との間の摩擦力が低下し、当該主面20aに対してペン先51を適度に滑り易くすることができる。これにより、入力装置10への入力操作において、優れた書き心地を実現することができる。
【0054】
また、微小凹凸の谷部が深くなると、POMのような硬い材質からなるペン先51の場合には、主面20aの微小凹凸に対するペン先51の過度な引掛りによる摩擦力の増加を抑制し、当該主面20aに対して、ペン先51を適度に滑り易くすることができる。これにより、入力装置10への入力操作において、優れた書き心地を実現することができる。
【0055】
上述したように、本実施形態においては、粗さ曲線要素の平均長さRSmと粗さ曲線要素の最大谷深さRvとの比であるRv/RSmの下限値が0.001に設定されているが、当該下限値は、0.002に設定されるのが好ましく、0.003に設定されるのがさらに好ましい。
【0056】
一方、粗さ曲線要素の平均長さRSmと粗さ曲線要素の最大谷深さRvとの比であるRv/RSmの値が大き過ぎると、微小凹凸の谷部形状が局所的に鋭利になり過ぎて、摩擦子であるペン先51に食い込み易くなり、主面20aとペン先51との間に過大な摩擦力が生じることから、書き心地が低下する。
従って、本実施形態においては、微小凹凸の粗さ曲線要素の平均長さRSmと粗さ曲線要素の最大谷深さRvとの比であるRv/RSmの上限値は0.1に設定されているが、当該上限値は、0.09に設定されるのが好ましく、0.08に設定されるのがさらに好ましく、0.06に設定されるのがより好ましく、0.04に設定されるのが特に好ましい。
【0057】
また、ガラス基板20の主面20aは、上述のエラストマー及びPOMなどの合成樹脂材、フェルト、並びにフェルトと合成樹脂材の複合材料など、凹凸に対して摩擦力を調整可能な材質によって構成されているペン先51に対して、書き心地が特に優れたものとなっている。
【0058】
図1において、ガラス基板20は、当該ガラス基板20を介してディスプレイ素子30の映像を見たときの、映像の視認性の観点から、透明性に関する指標で曇度を表すヘイズが、可視光の波長域(380nm~780nm)において10%未満となることが好ましい。
ガラス基板20のヘイズを10%未満とすることで、ガラス基板20の透明度を保持することができ、ディスプレイ素子30の視認性を保持することができる。
【0059】
また、ガラス基板20の主面20aには、入力ペン50が接触する側の反射率を低下させるための反射防止膜、または指紋の付着を防止し、撥水性、撥油性を付与するための防汚膜を形成することができる。
【0060】
上記の反射防止膜は、ガラス基板20を入力装置10のカバー部材として使用する場合には、少なくともガラス基板20の表側(入力ペン50が接触する側)の主面20aに形成する。また、ガラス基板20とディスプレイ素子30との間に隙間がある場合には、ガラス基板20の裏側(ディスプレイ素子30側)の主面20bにも反射防止膜を有することが好ましい。
【0061】
反射防止膜としては、例えばガラス基板20よりも屈折率が低い低屈折率膜、または相対的に屈折率が低い低屈折率膜と相対的に屈折率が高い高屈折率膜とが交互に積層された誘電体多層膜が用いられる。反射防止膜は、スパッタリング法、またはCVD法などにより形成することができる。
【0062】
ガラス基板20の主面20aに反射防止膜を有する場合、当該反射防止膜の表面の凹凸が、上述の表面粗さ(微小凹凸の算術平均高さSa、最大谷深さSv、粗さ曲線要素の最大高さRz、粗さ曲線要素の平均長さRSm、粗さ曲線要素の最大山高さRp、粗さ曲線要素の最大谷深さRvの値)の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸形状が形成される。
また、ガラス基板20の主面20aに反射防止膜を有する場合、反射防止膜を有するガラス基板20のヘイズが、上述の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸形状が形成される。
【0063】
なお、反射防止膜を形成した後において、微小凹凸の算術平均高さSa、最大谷深さSv、粗さ曲線要素の最大高さRz、粗さ曲線要素の平均長さRSm、粗さ曲線要素の最大山高さRp、粗さ曲線要素の最大谷深さRvを測定する場合は、10nmのAu膜を形成し、その後これらの値を測定する。
【0064】
上記の防汚膜は、ガラス基板20を入力装置10のカバー部材として使用する場合には、ガラス基板20の表側(入力ペン50が接触する側)の主面20aに形成する。また、防汚膜は、主鎖中にケイ素を含む含フッ素重合体を含むことが好ましい。
【0065】
含フッ素重合体としては、例えば、主鎖中に、-Si-O-Si-ユニットを有し、且つフッ素を含む撥水性の官能基を側鎖に有する重合体を用いることができる。含フッ素重合体は、例えばシラノールを脱水縮合することにより合成することができる。
【0066】
なお、ガラス基板20の表側の主面20aに反射防止膜と防汚膜とを形成する場合には、ガラス基板20の主面20a上に反射防止膜を形成し、反射防止膜上に防汚膜を形成する。
【0067】
ガラス基板20の主面20aに防汚膜を有する場合、またはガラス基板20の主面20aに反射防止膜と防汚膜とを有する場合、防汚膜の表面の凹凸が、上述の表面粗さ(微小凹凸の算術平均高さSa、最大谷深さSv、粗さ曲線要素の最大高さRz、粗さ曲線要素の平均長さRSm、粗さ曲線要素の最大山高さRp、粗さ曲線要素の最大谷深さRv)の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸形状が形成される。
また、ガラス基板20の主面20aに防汚膜を有する場合、またはガラス基板20の主面20aに反射防止膜と防汚膜とを有する場合、防汚膜を形成した後のガラス基板20のヘイズ、または反射防止膜と防汚膜とを形成した後のガラス基板20のヘイズが、上述の範囲となるように、ガラス基板20の主面20aの凹凸形状が形成される。
【0068】
ガラス基板20の表面に化学強化層を形成する場合は、ガラス基板20に化学強化処理を施す。
化学強化処理は、アルカリ金属を含む溶融塩中にガラス基板を浸漬させ、ガラス基板の最表面に存在する原子径の小さなアルカリ金属(イオン)を、溶融塩中に存在する原子径の大きなアルカリ金属(イオン)と置換する技術の総称を言う。化学強化処理されたガラス基板の表面には、処理前の元の原子よりも原子径の大きなアルカリ金属(イオン)の原子が配置される。例えば、ガラス基板がナトリウム(Na)を含む場合、このナトリウムは化学強化処理の際に、溶融塩(例えば硝酸塩)中で、例えばカリウム(K)と置換される。このため、ガラス基板の表面に圧縮応力層を形成することができ、これによりガラス基板の強度を向上することが可能となる。
【0069】
従って、ガラス基板20に化学強化処理を行うことで、ペン入力装置10自体の耐久性が向上するとともに、カバー部材としてのガラス基板20の耐傷性を向上することができる。
【0070】
[ガラス基板20の製造方法]
次に、ガラス基板20の製造方法について、
図1を用いて説明する。
ガラス基板20の少なくとも一方の主面20aに形成される凹凸は、当該主面20aにサンドブラスト処理、及びウェットブラスト処理などの処理方法を、少なくとも1種類以上組み合わせて行うことにより形成される。
【0071】
サンドブラスト処理は、アルミナなどの個体粒子を、圧縮エアを用いて噴射ノズルからガラスからなるワークに高速で噴射することにより、当該ワークに微細な凹凸を形成する処理である。対して、ウェットブラスト処理は、アルミナなどの個体粒子にて構成される砥粒と、水などの液体とを均一に攪拌してスラリーとしたものを、圧縮エアを用いて噴射ノズルからガラスからなるワークに対して高速で噴射することにより、当該ワークに微細な凹凸を形成する処理である。
【0072】
サンドブラスト処理及びウェットブラスト処理のいずれも、高速に噴射された砥粒がワークに衝突した際に、スラリー内の砥粒がワークの表面を削ったり、叩いたり、こすったりすることにより、ワークの表面に微細な凹凸が形成されることとなる。
この場合、ワークに噴射された砥粒の大きさが重要であり、例えば、#4000、#6000、#8000などの微小砥粒を使うことによって、微小な凹凸を形成することができる。
【0073】
サンドブラスト処理及びウェットブラスト処理によってワークの主面に形成される、微小凹凸の表面粗さ(算術平均高さSa、最大谷深さSv、粗さ曲線要素の最大高さRz、粗さ曲線要素の平均長さRSm、粗さ曲線要素の最大山高さRp、粗さ曲線要素の最大谷深さRv)は、主に噴射される砥粒の粒度分布と、スラリーをワークに噴射する際の噴射圧力とにより調整可能である。
【0074】
サンドブラスト処理及びウェットブラスト処理は、砥粒を高速でワークに噴射するため、砥粒の角部がワークに刺さり、結果としてワークに深い谷部が形成される。
【実施例0075】
次に、サンドブラスト処理またはウェットブラスト処理により、一方の主面20aに凹凸形状が形成されたガラス基板20の実施例について説明する。
なお、ガラス基板20の構成については、以下に示すものに限定されるものではない。
【0076】
[試料の作製]
本実施例においては、表1に示すように、ガラス基板20の実施例として試料1~13を各々作製し、これらの実施例に対する比較例として、試料14~18を各々作製した。なお、これらの試料1~18に用いたガラス基板20としては、厚さが0.55mmのアルカリ含有アルミノシリケートガラスを使用した。
【0077】
【0078】
実施例となる試料1~9のガラス基板20に対しては、サンドブラスト処理を施すことにより、一方の主面20aに凹凸形状を形成した。
具体的には、試料1~9のガラス基板20に対して、粒度が#3000、#4000、#6000、#8000のアルミナ砥粒を、圧力エア0.2~0.4Mpa及び処理時間約3分~約6分の条件でサンドブラスト処理を施すことにより、一方の主面20aに微小凹凸からなる凹凸形状を形成した。
【0079】
実施例となる試料10~13のガラス基板20に対しては、ウェットブラスト処理を施すことにより、一方の主面20aに凹凸形状を形成した。
具体的には、試料10~13のガラス基板20に対して、粒度が#8000のアルミナ砥粒を、圧力エア0.2Mpa及びノズル走査速度0.5~10mm/sの条件でウェットブラスト処理を施すことにより、一方の主面20aに、微小凹凸からなる凹凸形状を形成した。
【0080】
ウェットブラスト処理については、試料10~13の各々のガラス基板20を略垂直姿勢の状態で配置し、粒度が♯8000のアルミナからなる砥粒3wt%と、水と、分散剤とを均一に攪拌してスラリーを調製し、調製したスラリーを、処理圧力0.2MPaのエアを用いて丸ノズルから噴射させた状態で、当該丸ノズルを0.5~10mm/sの速度にて移動させながら、各ガラス基板20の一方の主面20aの全体に対して走査させることによりウェットブラストを施した。
なお、各々のガラス基板20を略垂直姿勢の状態で配置したのは、主面20aの全体に噴き付けられたスラリーが、局所的に留まるのを防ぐためである。
【0081】
比較例となる試料14のガラス基板20に対しては、一方の主面20aに処理を施していない。つまり、試料14のガラス基板20は、未処理である。
【0082】
比較例となる試料15のガラス基板20に対しては、一方の主面20aにSiO2成分を含む液体を噴射することにより塗布し、塗布したSiO2成分を含む液体を乾燥させることにより、当該主面20aにSiO2コーティング膜を形成した。つまり、試料15のガラス基板20には、SiO2コーティングを施した。
【0083】
比較例となる試料16~18のガラス基板20に対しては、5wt%濃度に調整したフッ酸溶液(25℃)中に、各ガラス基板20をそれぞれ所定時間(試料16:約17分、試料17:約33分、試料18:50分)だけ浸漬することにより作製した。つまり、試料16~18のガラス基板20には、フッ酸エッチングを施した。
【0084】
[表面粗さの測定]
先ず始めに、試料1~18のガラス基板20における主面20aの表面粗さを測定した。
表面粗さの測定は、試料1~9についてはサンドブラスト処理を施した主面20aに対して行い、試料10~13についてはウェットブラスト処理を施した主面20aに対して行い、試料15についてはSiO2コーティングを施した主面20aに対して行い、試料14、16~18については一方の主面20aに対して行った。
【0085】
測定した表面粗さのパラメータは、算術平均高さSa、最大谷深さSv、粗さ曲線要素の平均長さRSm、粗さ曲線要素の最大山高さRp、及び粗さ曲線要素の最大谷深さRvであり、表面粗さの測定は、白色干渉顕微鏡を用いて行った。用いた白色干渉顕微鏡は、Zygo社製の白色干渉顕微鏡(製品名:New View 7300)である。
【0086】
測定条件は、対物レンズ50倍、ズームレンズ2倍を使用し、測定エリア74×55μmの領域に対して、カメラ画素数が640×480、積算回数10回となるように設定した。
また、算術平均高さSa、最大谷深さSv、粗さ曲線要素の平均長さRSm、粗さ曲線要素の最大山高さRp、及び粗さ曲線要素の最大谷深さRvを測定する際の、高域フィルタλcのカットオフ値λc1は14μmに設定し、低域フィルタλsのカットオフ値λs1は0.35μmに設定した。
【0087】
[表面粗さの測定結果]
試料1~18について行った、表面粗さの測定結果について説明する。
表2に測定結果を示す。
【0088】
【0089】
表2に示すように、微小凹凸における算術平均高さSaは、実施例である試料1~13については、1.4~10.0nmの範囲内の数値であった。
これに対して、比較例である試料14~18においては、未処理の試料14の算術平均高さSaは0.1nmと小さく、SiO2コーティングを施した試料15の算術平均高さSaは50.1nmと大きく、フッ酸エッチングを施した試料16~18の算術平均高さSaは0.2~0.3nmの範囲内の数値となり、小さかった。
【0090】
また、実施例である試料1~13については、粗さ曲線要素の最大谷深さRvは、9.4~57.5nmの範囲内の数値であり、曲線要素の最大山高さRpは、5.6~34.2nmの範囲内の数値であって、いずれの試料についてもRv>Rpの関係になっていた。
これに対して、比較例である試料14~18において、未処理の試料14については、粗さ曲線要素の最大谷深さRvは0.4nmであり、曲線要素の最大山高さRpは0.4nmであってRv=Rpの関係にあり、SiO2コーティングを施した試料15については、曲線要素の最大谷深さRvは141.9nmであり、曲線要素の最大山高さRpは185.4nmであってRv<Rpの関係にあった。また、フッ酸エッチングを施した試料16~18については、曲線要素の最大谷深さRvは0.8~1.0nmの範囲内の数値となり、曲線要素の最大谷深さRpは0.8~0.9の範囲内の数値となって、RvとRpとは同程度の値であった。
【0091】
また、微小凹凸における最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saは、実施例である試料1~13については8.0~39.0の範囲内の数値であり、Sv/Saは6以上の値を示している。特に、サンドブラスト処理を施した試料1~試料9については、微小凹凸における最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saは、15以上の値を示している。
これに対して、比較例である試料14~18おいては、未処理の試料14の最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saは12.6であった。また、SiO2コーティングを施した試料15の最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saは5.5となり、フッ酸エッチングを施した試料16~18の最大谷深さSvと算術平均高さSaとの比であるSv/Saは5.6~5.8nmの範囲内の数値となり、小さかった。
【0092】
さらに、粗さ曲線要素の最大谷深さRvと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比であるRv/RSmは、実施例である試料1~13については、0.0040~0.0229の範囲内の数値であった。
これに対して、比較例である試料14~18において、未処理の試料14の粗さ曲線要素の最大谷深さRvと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比であるRv/RSmは0.0004と小さかった。SiO2コーティングを施した試料15の粗さ曲線要素の最大谷深さRvと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比であるRv/RSmは0.0172であった。また、フッ酸エッチングを施した試料16~18の粗さ曲線要素の最大谷深さRvと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比であるRv/RSmは0.0005となり、小さかった。
【0093】
[書き心地の評価]
ガラス基板20に対して入力ペン50により文字及び図形等の入力を行った際の書き心地を官能試験により評価した。評価方法としては、ワコム社製の替え芯(製品名:エラストマー芯(ACK-20004)、ペン先の直径:1.4mm)を、三菱鉛筆製のボールペン(製品名:JETSTREAM)の筐体に取付けたものを入力ペン50として使用し、ガラス基板20上で「あ」という文字を書いた際に、感覚的にペン先を滑らかに操作可能で書き心地が非常に良いと感じた場合を◎とし、良いと感じた場合を〇とし、滑りにくいなどにより感覚的に書き心地が悪いと感じた場合を×として、書き心地の判定を行った。
【0094】
[書き心地の評価結果]
表2に示すように、実施例である試料1~13については、それぞれ、エラストマー製のペン先が滑らかに操作できると感じ、書き心地評価が◎という結果になった。一方、比較例である未処理の試料14、SiO2コーティングを施した試料15、及びフッ酸エッチングを施した試料16~18は、いずれもエラストマー製のペン先が滑りにくいと感じ、書き心地評価は×となった。
【0095】
[各試料の総合評価]
以上の結果から、表2に示すように、実施例である試料1~13については、入力ペン50のペン先51が接する主面20aに形成された適切な微小凹凸形状によって、ペン先51がガラス基板20の主面20a上で滑ることの抑制と、ペン先51と主面20aとの間の摩擦力の適度な低下とが組み合わさることによって、良好な書き心地が得られるという結果になった。
【0096】
一方、比較例である未処理の試料14については、入力ペン50が接する主面20aの凹凸が小さく、エラストマー製のペン先51の場合は非常に滑り難くなるために書き味が悪かった。
また、比較例であるSiO2コーティングを施した試料15、及びフッ酸エッチングを施した試料16~18については、ペン先51が滑り難過ぎてひっかかりが生じ、書き心地が悪かった。