(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184459
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】故障検出方法
(51)【国際特許分類】
B60R 16/02 20060101AFI20221206BHJP
H02H 7/20 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B60R16/02 660K
H02H7/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092321
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】滝 雅也
(72)【発明者】
【氏名】加納 遼
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 尚志
【テーマコード(参考)】
5G053
【Fターム(参考)】
5G053AA03
5G053BA04
5G053DA01
5G053EA01
5G053FA05
(57)【要約】
【課題】記憶内容化けによる誤判定を防止する故障検出方法を提供する。
【解決手段】補機バッテリ端子(常用電源端子)13は、車両に搭載された補機バッテリ(常用電源)11に接続される。IG端子(始動用電源端子)23は、車両始動時にON操作されるIGスイッチ(始動スイッチ)22を介してIGバッテリ(始動用電源)21に接続される。CPU40は、補機バッテリ端子13を経由して入力されるVS電圧(常用電圧)の供給により起動する。ウェイクアップ回路30は、補機バッテリ端子13からCPU40への給電経路を開閉するウェイクアップスイッチ32を有し、IG端子23に入力されるIG電圧(始動用電圧)がON閾値以上のときウェイクアップスイッチ32をONする。CPU40は、IG電圧がON閾値未満であるにもかかわらずVS電圧が判定閾値以上である場合、ウェイクアップスイッチ32のON固着故障であると判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された常用電源(11)に接続される常用電源端子(13)と、
車両始動時にON操作される始動スイッチ(22)を介して始動用電源(21)に接続される始動用電源端子(23)と、
前記常用電源端子を経由して入力される前記常用電源の電圧である常用電圧の供給により起動するCPU(40)と、
前記常用電源端子から前記CPUへの給電経路を開閉するウェイクアップスイッチ(32)を有し、前記始動用電源端子に入力される電圧である始動用電圧がON閾値以上のとき前記ウェイクアップスイッチをONするウェイクアップ回路(30)と、
を備える電子制御装置(400)において、前記ウェイクアップスイッチのON固着故障を検出する故障検出方法であって、
前記CPUは、前記始動用電圧が前記ON閾値未満であるにもかかわらず前記常用電圧が判定閾値以上である場合、前記ウェイクアップスイッチのON固着故障であると判定する故障検出方法。
【請求項2】
前記常用電源と前記常用電源端子との接続が遮断状態から接続状態に切り替わり、前記CPUが起動した時、前記CPUは故障の判定を行う請求項1に記載の故障検出方法。
【請求項3】
車両に搭載された常用電源(11)に接続される常用電源端子(13)と、
車両始動時にON操作される始動スイッチ(22)を介して始動用電源(21)に接続される始動用電源端子(23)と、
前記常用電源端子を経由して入力される前記常用電源の電圧である常用電圧の供給により起動するCPU(40)と、
前記常用電源端子から前記CPUへの給電経路を開閉するウェイクアップスイッチ(32)を有し、前記始動用電源端子に入力される電圧である始動用電圧がON閾値以上のとき前記ウェイクアップスイッチをONするウェイクアップ回路(30)と、
を備える電子制御装置(400)において、前記ウェイクアップスイッチのON固着故障を検出する故障検出方法であって、
前記CPUは、前記始動用電圧が前記ON閾値未満であるにもかかわらず前記CPUが動作している場合、前記ウェイクアップスイッチのON固着故障であると判定する故障検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電源回路に設けられた電源リレーの固着故障を検出する技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示された異常診断装置は、イグニッションスイッチ及び電源リレーがOFFされた後、所定時間経過したにもかかわらず、コンデンサ電圧が低下せず、マイコンが動作可能な場合、電源リレーがON固着故障している旨を記憶手段に記憶する。その後、イグニッションスイッチが再びONされた時、記憶手段に記憶された故障情報をマイコンが読み出し、電源リレーがON固着故障していると判定する。なお、特許文献1の電源リレーは、本発明における「ウェイクアップスイッチ」に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、システムを一旦停止した後、つまり車両を駐停車した後の再始動時に記憶手段の記憶内容に基づき故障が判定される。そのため、システム停止中に何らかの要因によって記憶内容が化けた場合、再始動時にマイコンが誤った情報を読み出し、誤判定するおそれがある。例えば、実際には電源リレーが正常であっても、記憶内容が故障側に化けた場合、故障と誤判定される。
【0006】
また、故障判定時の処置としてマイコンのCPUをリセットする場合、<1>リセット、<2>CPU再起動、<3>記憶内容化けにより故障と誤判定、<4>リセット・・・という動作を繰り返すことになる。すると、メモリ書き込み回数が上限を超え、CPU自身が破壊するおそれがある。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、記憶内容化けによる誤判定を防止する故障検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、常用電源端子(13)と、始動用電源端子(23)と、CPU(40)と、ウェイクアップスイッチ(32)を有するウェイクアップ回路(30)と、を備える電子制御装置(400)において、ウェイクアップスイッチのON固着故障を検出する故障検出方法である。
【0009】
常用電源端子は、車両に搭載された常用電源に接続される。始動用電源端子は、車両始動時にON操作される始動スイッチ(22)を介して始動用電源(21)に接続される。CPUは、常用電源端子を経由して入力される常用電源の電圧である常用電圧の供給により起動する。ウェイクアップスイッチは、常用電源端子からCPUへの給電経路を開閉する。ウェイクアップ回路は、始動用電源端子に入力される電圧である始動用電圧がON閾値以上のときウェイクアップスイッチをONする。
【0010】
本発明の第1の態様では、CPUは、始動用電圧がON閾値未満であるにもかかわらず常用電圧が判定閾値以上である場合、ウェイクアップスイッチのON固着故障であると判定する。
【0011】
本発明の第2の態様では、CPUは、始動用電圧がON閾値未満であるにもかかわらずCPUが動作している場合、ウェイクアップスイッチのON固着故障であると判定する。
【0012】
ここで、「ウェイクアップスイッチのON固着故障」とは、実際にウェイクアップスイッチの接点が溶着している故障に限らない。例えば、実際には始動用電圧がON閾値未満であるにもかかわらず、ウェイクアップ回路が「始動用電圧がON閾値以上である」と誤判定する場合等を「ウェイクアップスイッチのON固着故障」に含むものとして広く解釈する、
【0013】
本発明では、システム停止前にウェイクアップスイッチがON固着故障していた場合でも故障情報は記憶されず、CPUは、現時点での実際の電圧やCPU自身の動作状態をモニタして故障を検出する。記憶内容に基づいて故障判定しないため、記憶内容化けによる誤判定を防止することができる。また、故障判定時の処置としてCPUをリセットする場合、誤判定によるリセット動作の繰り返しが防止されるため、メモリ書き込み回数が上限を超えることによるCPUの破壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の故障検出方法が適用されるシステム構成例の図。
【
図2】正常時のECUの動作を説明するタイムチャート。
【
図3】本実施形態の故障検出方法を説明するタイムチャート。
【
図4】補機バッテリ取り外し前のIGスイッチOFF後、及び、補機バッテリ再取り付け後の電圧供給状態を示す図。
【
図5】補機バッテリ取り外し中の電圧非供給状態を示す図。
【
図6】本実施形態の故障検出方法のフローチャート。
【
図7】本実施形態の故障検出方法が適用される別のシステム構成例の図。
【
図8】本実施形態の故障検出方法が適用される別のシステム構成例の図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(一実施形態)
以下、本発明による故障検出方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。最初に
図1を参照し、本実施形態の故障検出方法が適用されるシステム構成例を示す。このシステムでは、電子制御装置(以下「ECU」)400は、車両に搭載された補機バッテリ11の電力を用いて電動パワーステアリング装置の操舵アシストトルクを出力するモータ80を駆動する。
【0016】
ECU400は、電源入力端子として、補機バッテリ端子13(図中「+BB」)と、イグニッション(以下「IG」)端子23とを備える。
図1に示すシステム構成例では、補機バッテリ端子13及びIG端子23は、それぞれ別の電源に接続される。補機バッテリ端子13は、例えば12V用の補機バッテリ11に接続される。IG端子23は、IGスイッチ22を介してIGバッテリ21に接続される。なお、
図7に示す別のシステム構成例のように、IG端子23が補機バッテリ11に共通に接続されてもよい。
【0017】
実施形態の用語であるIGスイッチ22は、概念的には、車両始動時にON操作される「始動スイッチ」である。これに対応して、IGバッテリ21は「始動用電源」であり、IG端子23は「始動用電源端子」である。また、IG端子23に入力される電圧として後述されるIG電圧は、「始動用電圧」に相当する。なお、本明細書では、車両について「始動」を用い、CPUについて「起動」を用いて表す。
【0018】
同様に実施形態の用語である補機バッテリ11は、概念的には、システム動作中に常に電力を供給する「常用電源」である。これに対応して、補機バッテリ端子13は「常用電源端子」である。また、補機バッテリ端子13を経由してECU400に入力される補機バッテリ11の電圧として後述されるVS電圧は、「常用電圧」に相当する。
【0019】
ECU400は、モータ80へ電力を供給するパワー系の主な構成として、電源リレー65、逆接続保護リレー67、インバータ回路70等を備える。モータ80は例えば三相ブラシレスモータである。インバータ回路70は、三相上下アームのスイッチング素子が動作することで、補機バッテリ11の直流電力を三相交流電力に変換して出力する。
【0020】
電源リレー65及び逆接続保護リレー67は、補機バッテリ端子13からインバータ回路70への電源ラインLpに設けられており、OFF時に、補機バッテリ11とインバータ回路70との接続を遮断する。電源リレー65及び逆接続保護リレー67がMOSFETで構成される場合、それぞれの寄生ダイオードの下流側(すなわちカソード)が中間点mに向くように配置される。なお、中間点mは、中間ダイオード66を介して制御用電圧生成部39に接続されている。その他、パワー系の構成であるノイズフィルタ、平滑コンデンサ、電流センサ等を省略する。
【0021】
ECU400は、起動系及び制御系の構成として、ウェイクアップ回路30、制御用電圧生成部39、CPU40等を備える。制御用電圧生成部39は、補機バッテリ端子13から入力されたVS電圧から、例えば最大5Vの制御用電圧を生成してCPU40に出力する。制御用電圧生成部39は、例えば専用のカスタムICで構成される。CPU40は、制御用電圧生成部39から供給された制御用電圧の供給により起動し、各種制御演算によりECU400の動作を制御する。
【0022】
実施形態として、厳密にはVS電圧が供給された制御用電圧生成部39が制御用電圧を生成し、CPU40はVS電圧に基づく制御用電圧により動作する。ただし、概念的には「CPU」の一部に制御用電圧生成部39の機能を含めて考えることができる。したがって、「VS電圧の供給によりCPU40が起動する」と表現されてもよい。また、「補機バッテリ端子13から制御用電圧生成部39への給電経路」を「補機バッテリ端子13からCPU40への給電経路」と言い替えてもよい。
【0023】
ウェイクアップ回路30は、ウェイクアップダイオード31、ウェイクアップスイッチ32及びIG電圧判定回路33を有する。ウェイクアップスイッチ32は、補機バッテリ端子13からCPU40への給電経路を開閉する。IG電圧判定回路33は、IGスイッチ22がONされたとき、入力されるIG電圧がON閾値以上であるか否かを判定する。IG電圧がON閾値以上のとき、IG電圧判定回路33はウェイクアップスイッチ32をONする。ウェイクアップスイッチ32及びIG電圧判定回路33が一つのIC内に集約されている構成でもよい。
【0024】
ウェイクアップスイッチ32がONされると、太実線矢印で示すように、補機バッテリ端子13からウェイクアップスイッチ32を経由して電流が流れ、VS電圧が制御用電圧生成部39に供給される。この給電経路を「第1給電経路P1」という。ウェイクアップダイオード31は、第1給電経路P1における電流の逆流を防止する。
【0025】
また、後述のようにCPU40が電源リレー65をONすると、太破線矢印で示すように、補機バッテリ端子13から電源リレー65を経由して電流が流れ、VS電圧が制御用電圧生成部39に供給される。この給電経路を「第2給電経路P2」という。中間ダイオード66は、第2給電経路P2における電流の逆流を防止する。
【0026】
さらに、IG電圧をモニタするIG電圧モニタ回路53、及び、VS電圧をモニタするVS電圧モニタ回路54が設けられている。CPU40は、IG電圧モニタ回路53及びVS電圧モニタ回路54のモニタ値を取得し、故障検出方法における判断を行う。その他、詳細は省略するが、例えばウェイクアップ回路30と制御用電圧生成部39との間に、クランキング時の電圧低下を補う昇圧回路が設けられてもよい。
【0027】
次に
図2のタイムチャ-トを参照し、正常時におけるECU400の動作を説明する。上から順に、ECU400への入力電圧、IGスイッチ22のON/OFF、ウェイクアップスイッチ32のON/OFF、CPU40の状態、電源リレー65のON/OFFを示す。逆接続保護リレー67は電源リレー65と同時にON/OFFされるが、以下での言及を省略する。
【0028】
入力電圧として電圧値の一例を示す。IG電圧及びVS電圧の最大値は12Vであり、IG電圧が9V以上でCPU40の通常制御が可能である。本実施形態の通常制御とは、電動パワーステアリング装置のアシスト実行中であることを意味する。CPU40が起動可能な最小IG電圧は4Vである。また、IG電圧の低下時に、IG電圧モニタ回路53がモニタしたIG電圧に基づき、CPU40が停止制御からパワーラッチに移行する最大IG電圧は1.8Vである。
【0029】
始動時、時刻t1にIGスイッチ22がONされ、IG端子23に供給されるIG電圧が次第に上昇する。時刻t2にIG電圧が4Vに達すると、IG電圧判定回路33がウェイクアップスイッチ32をONする。すると、第1給電経路P1を通って、補機バッテリ端子13から制御用電圧生成部39に12VのVS電圧が供給され、CPU40が起動する。
【0030】
時刻t3にIG電圧モニタ値が9Vに達すると、CPU40は、電源リレー65をONするとともに、ECU400の通常制御を開始する。通常制御開始後は、第1給電経路P1に加え、第2給電経路P2を通って制御用電圧生成部39にVS電圧が供給される。
【0031】
停止時、時刻t4にIGスイッチ22がOFFされ、IG電圧が低下し始める。時刻t5にIG電圧モニタ値が9Vまで下がると、CPU40は通常制御から停止制御に移行する。時刻t6にIG電圧が4Vまで下がると、IG電圧判定回路33はウェイクアップスイッチ32をOFFする。このとき第1給電経路P1が遮断されるが、第2給電経路P2を通って制御用電圧生成部39へのVS電圧の供給が継続される。
【0032】
時刻t7にIG電圧モニタ値が1.8Vまで下がると、CPU40は停止制御からパワーラッチに移行する。パワーラッチ中は、CPU40の一部の機能を維持するためにVS電圧が所定期間TPL(例えば10分間)保持される。時刻t7から所定期間TPLが経過した時刻t8にパワーラッチが終了し、CPU40は電源リレー65をOFFし、第2給電経路P2から制御用電圧生成部39へのVS電圧の供給が遮断される。したがってCPU40は動作を停止する。
【0033】
以上のようなシステム構成を前提として、本実施形態ではウェイクアップスイッチ32がON固着故障した場合を想定する。特許文献1(特開2010-111311号公報)の従来技術では記憶手段の記憶内容に基づいて故障判定するため、記憶内容が化けた場合に誤判定するおそれがある。実際にはウェイクアップスイッチ32が正常であっても、記憶内容が故障側に化けた場合、故障と誤判定される。逆に実際にはウェイクアップスイッチ32が故障していても、記憶内容が正常側に化けた場合、正常と誤判定される。
【0034】
また、故障判定時の処置としてCPU40をリセットする場合、<1>リセット、<2>CPU再起動、<3>記憶内容化けにより故障と誤判定、<4>リセット・・・という動作を繰り返すことになる。すると、メモリ書き込み回数が上限を超え、CPU40自身が破壊するおそれがある。このような問題を回避するため、本実施形態では、記憶内容に基づく故障判定ではない方法で、ウェイクアップスイッチ32のON固着故障を検出することを目的とする。
【0035】
次に
図3~
図5を参照し、ウェイクアップスイッチ32がON固着故障している場合のウェイクアップ回路30の挙動、及び故障検出方法について説明する。
図3のタイムチャ-トにおいて時刻t4~t8は、
図2に示す同じ記号の時刻に対応する。縦軸には上から順に、補機バッテリ端子電圧、IGスイッチ22のON/OFF、IG電圧、故障時及び正常時のVS電圧、CPU状態、電源リレー65のON/OFFを示す。
【0036】
各電圧はHI/LOの二値で示される。HIは
図2の9V~12Vに相当する。時刻t10以後のVS電圧については、判定閾値以上がHIと扱われる。補機バッテリ端子電圧及びVS電圧のLOは実質的に0Vに相当する。IG電圧のLOは、ウェイクアップスイッチ32のON閾値未満であることを意味し、
図2の4V未満に相当する。
【0037】
図4には、
図3の時刻t4~t9、及び、時刻t10以後の電圧供給状態を示す。
図5には、
図3の時刻t9~t10の電圧非供給状態を示す。
図1に示すECU400の構成に対し、
図4、
図5には、故障検出方法に直接関係しない構成要素を図示しない。
【0038】
時刻t4にIGスイッチ22がOFFされ、時刻t5に停止制御に移行する。時刻t5から時刻t6にかけてIG電圧がHIからLOに低下する。時刻t7~t8の間、パワーラッチが行われる。
図2に示すように、正常の場合、停止制御中の時刻t6にIG電圧判定回路33によりウェイクアップスイッチ32がOFFされ、第1給電経路P1が遮断される。また、パワーラッチが終了する時刻t8にVS電圧の供給が遮断され、CPU40の動作が停止する。
【0039】
しかしウェイクアップスイッチ32がON固着故障していた場合、
図4に示すように、時刻t6以後も第1給電経路P1を経由して制御用電圧生成部39へVS電圧が供給され続ける。そのため、パワーラッチが終了した時刻t8以後、CPU40は、停止できないまま「スリープ待ち状態」となる。なお、特許文献1の従来技術では、このタイミングでON固着故障を検出し、故障情報を記憶手段に記憶する。
【0040】
時刻t9に補機バッテリ11が取り外される。
図5に示すように、補機バッテリ11と補機バッテリ端子13との接続が遮断されるため、ウェイクアップスイッチ32がON固着故障している場合でも、VS電圧は補機バッテリ端子13から制御用電圧生成部39に供給されない。したがって、CPU40は停止する。
【0041】
時刻t10に補機バッテリ11が再取り付けされる。ここで、補機バッテリ11の取り外し、及び、再取り付けは、補機バッテリ11の交換を伴う脱着に限らず、同じ補機バッテリに対しケーブルを一旦外してから付け直すだけでもよい。
図8に示す別のシステム構成例では、経路途中に設けられたバッテリ遮断スイッチ12を一旦OFFしてからONしてもよい。
【0042】
補機バッテリ11を再取り付けすることで、補機バッテリ11と補機バッテリ端子13との接続が遮断状態から接続状態に切り替わる。ただしIGスイッチ22はOFFのままであるため、正常の場合、IG端子23にIG電圧は供給されず、ウェイクアップスイッチ32はONしない。したがって、制御用電圧生成部39にVS電圧は供給されない。
【0043】
しかし、ウェイクアップスイッチ32がON固着故障していると、第1給電経路P1を通って制御用電圧生成部39に電圧が供給され、CPU40が起動する。CPU40は、起動後にイニシャルチェックの項目を順次行う。イニシャルチェック中の時刻t11に、CPU40はIGスイッチ22のOFF判定、すなわち、IG電圧のLO判定を行う。
【0044】
このように、補機バッテリ11と補機バッテリ端子13との接続が遮断状態から接続状態に切り替わり、CPU40が起動した時、CPU40は、IG電圧及びVS電圧を監視する。そして、IG電圧がオン閾値未満のLO状態であるにもかかわらず、VS電圧が判定閾値以上のHI状態である場合、CPU40はウェイクアップスイッチ32がON固着故障していると判定する。
【0045】
ところで、実際にウェイクアップスイッチ32の接点が溶着している故障の場合以外にも、「IG電圧がLO、且つ、VS電圧がHI」の検出状態は起こり得る。例えば、IG電圧判定回路33のHI固着故障により、実際にはIG電圧がON閾値未満であるにもかかわらず、IG電圧判定回路33が「IG電圧がON閾値以上である」と誤判定する場合があり得る。この場合、IG電圧判定回路33の指令によりウェイクアップスイッチ32がONし、VS電圧が供給される。一方、IG電圧モニタ回路53のモニタ値はLO状態であるため、CPU40は故障と判定する。
【0046】
そこで本実施形態では、IG電圧判定回路33のHI固着故障の場合等を「ウェイクアップスイッチ32のON固着故障」に含むものとして広く解釈する。つまりCPU40は、上記の故障検出方法によって、ウェイクアップスイッチ32の接点溶着故障に限らず、IG電圧判定回路33のHI固着故障等を含む「ウェイクアップスイッチ32のON固着故障」を検出する。なお、電源リレー65がON固着している場合も「IG電圧がLO、且つ、VS電圧がHI」の検出状態となるが、電源リレー65のON固着はイニシャルチェックの先の段階で検出されるため、現実的には想定されない。
【0047】
図6のフローチャートに、
図3に対応する故障検出方法の基本的な流れを示す。フローチャートにおいて記号「S」はステップを意味する。S1では通常制御からIGスイッチ22がOFFされる。S2では補機バッテリ11が取り外される。S3では補機バッテリ11が再取り付けされる。
【0048】
イニシャルチェック中のS4でCPU40は、IG電圧がON閾値未満であるか判断する。IG電圧がON閾値以上でありS4でNOの場合、この故障検出方法の前提が成立しないため処理を終了する。この場合、例えばIGスイッチ22のON固着故障やIG電圧モニタ回路53の故障を判定する処理に移行してもよい。
【0049】
IG電圧がON閾値未満でありS4でYESの場合、S5に移行する。S5でCPU40は、VS電圧が判定閾値以上であるか、又は、CPU40が動作しているか判断する。S5でYESの場合、S6でCPU40は、ウェイクアップスイッチ32のON固着故障であると判定する。またCPU40は、S7で故障時処置として、例えばスリープ状態に移行する。一方、S5でNOの場合、S8でCPU40は、正常と判定する。
【0050】
本実施形態では、システム停止前にウェイクアップスイッチ32がON固着故障していた場合でも故障情報は記憶されず、CPU40は、現時点での実際の電圧やCPU40自身の動作状態をモニタして故障を検出する。記憶内容に基づいて故障判定しないため、記憶内容化けによる誤判定を防止することができる。また、故障判定時の処置としてCPU40をリセットする場合、誤判定によるリセット動作の繰り返しが防止されるため、メモリ書き込み回数が上限を超えることによるCPU40の破壊を防止することができる。
【0051】
(変形例)
上記実施形態の故障検出方法の変形例について説明する。上記故障検出方法のロジックは、「IG電圧がLO(すなわちON閾値未満)、且つ、VS電圧がHI(すなわち判定閾値以上)」の場合にウェイクアップスイッチ32のON固着故障と判定するものである。この判定ロジックが実行されるタイミングは、補機バッテリ11の脱着直後のCPU40の起動時に限らず、常時実行されてもよい。つまりCPU40は、常時IG電圧及びVS電圧を監視する。そして、何らかの要因によりIG電圧がLO状態に低下し、且つ、VS電圧がHI状態に維持されている場合、ウェイクアップスイッチ32のON固着故障と判定してもよい。
【0052】
また、VS電圧がHIであることは、実質的にCPU40が動作していることと同義である。そこでCPU40は、「VS電圧がHI」という条件に変えて「CPU40が動作している」ことを条件としてもよい。つまり、CPU40は、IG電圧がON閾値未満であるにもかかわらずCPUが動作している場合、ウェイクアップスイッチ32のON固着故障であると判定してもよい。
【0053】
(その他のシステム構成例)
(a)
図7、
図8に本実施形態の故障検出方法が適用される、
図1とは別のシステム構成例を示す。
図7に示すシステム構成例では、補機バッテリ11とIGバッテリ21とが個別に設けられるのでなく、IGスイッチ22が補機バッテリ11に共通に接続される。つまり、「常用電源」としての補機バッテリ11が「始動用電源」としてのIGバッテリの機能を兼ねる。この構成でも同様の故障検出方法を実施することができる。
【0054】
(b)
図8に示すシステム構成例では、補機バッテリ11と補機バッテリ端子13とを接続する経路途中にバッテリ遮断スイッチ12が設けられている。バッテリ遮断スイッチ12は、CPU40とは別の制御回路により、或いは作業者の手動により操作される。
図6のS2、S3で補機バッテリ11を脱着する代わりに、バッテリ遮断スイッチ12を一旦OFFしてからONしてもよい。これにより、故障検出時の作業が容易になる。
【0055】
(c)「常用電源」及び「始動用電源」は、バッテリに限らず、キャパシタや燃料電池で構成されてもよい。また、直流電源の電力に代えて、交流電源の出力が整流された電力が補機バッテリ端子13及びIG端子23に入力されてもよい。
【0056】
(d)エンジン車におけるIGスイッチ22に対し、ハイブリッド車や電気自動車ではレディスイッチが「車両始動時にON操作される始動スイッチ」に相当する。また、ドライバによるキー操作やボタン操作に限らず、自動運転車両では制御回路による始動指令が「ON操作」と解釈される。
【0057】
(e)「電子制御装置」は、電動パワーステアリング装置のアシストモータを駆動するものに限らず、車両に搭載された電源からの電圧供給によりCPUが起動し、各種制御を行うものであればよい。
【0058】
本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【0059】
本開示に記載の手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0060】
11 ・・・補機バッテリ(常用電源)、
13 ・・・補機バッテリ端子(常用電源端子)、
21 ・・・IGバッテリ(始動用電源)、
22 ・・・IGスイッチ(始動スイッチ)、
23 ・・・IG端子(始動用電源端子)、
30 ・・・ウェイクアップ回路、
32 ・・・ウェイクアップスイッチ、
40 ・・・CPU、
400・・・ECU(電子制御装置)。