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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184461
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20221206BHJP
【FI】
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092324
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】能登原 保夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 弘毅
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA08
5H505AA09
5H505AA16
5H505BB09
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG04
5H505GG05
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ22
5H505JJ28
5H505LL22
(57)【要約】
【課題】
瞬間的な電圧飽和を抑制するとともに、トルク応答(電流制御器の応答)を極力予め設定された所定値に近づけることが可能な制御の応答性及び安定性に優れたモータ制御装置を提供する。
【解決手段】
入力されるトルク指令または推力指令に基づいて第1の電流指令を出力する電流指令生成器と、前記第1の電流指令に基づいて所定の応答周波数に従い第2の電流指令を出力する電流制御器と、前記第2の電流指令に基づいて印加電圧指令を出力するモータ逆モデルと、前記第2の電流指令または前記印加電圧指令に基づいて変更応答周波数を演算し、前記電流制御器へ出力する応答周波数可変手段と、を備え、前記応答周波数可変手段は、飽和電圧を生じないように前記変更応答周波数から前記所定の応答周波数まで変化させながら前記印加電圧指令を制御することを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されるトルク指令または推力指令に基づいて第1の電流指令を出力する電流指令生成器と、
前記第1の電流指令に基づいて所定の応答周波数に従い第2の電流指令を出力する電流制御器と、
前記第2の電流指令に基づいて印加電圧指令を出力するモータ逆モデルと、
前記第2の電流指令または前記印加電圧指令に基づいて変更応答周波数を演算し、前記電流制御器へ出力する応答周波数可変手段と、を備え、
前記応答周波数可変手段は、飽和電圧を生じないように前記変更応答周波数から前記所定の応答周波数まで変化させながら前記印加電圧指令を制御するモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記応答周波数可変手段は、リミッタ付き積分器と、
前記印加電圧指令からベクトルの大きさを演算する電圧ピーク値演算器と、
前記電圧ピーク値演算器で演算した電圧ピーク値と印加可能最大電圧との差分を演算する演算器と、を有するモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記所定の応答周波数(ω)を、印加可能最大電圧-(微分成分を含まない印加電圧+ωLdi/dt)≧0に従って可変にするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記応答周波数可変手段は、カスケード型ベクトル制御または非線形ベクトル制御により前記変更応答周波数を演算するモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
掃除機、洗濯機、移動体駆動モータ、電動オイルポンプ、電動パワーステアリング、電磁サスペンションのいずれかに搭載されるモータ制御装置。
【請求項6】
要求トルク指令または要求推力指令となるようにモータへの印加電圧を所定の応答周波数で制御するモータ制御方法であって、
前記要求トルク指令または前記要求推力指令に基づいて前記所定の応答周波数よりも小さい変更応答周波数を演算し、
前記モータが飽和電圧を生じないように前記変更応答周波数から前記所定の応答周波数まで変化させながら前記モータへの印加電圧を制御するモータ制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載のモータ制御方法であって、
前記所定の応答周波数(ω)を、印加可能最大電圧-(微分成分を含まない印加電圧+ωLdi/dt)≧0に従って可変にするモータ制御方法。
【請求項8】
請求項6に記載のモータ制御方法であって、
前記所定の応答周波数を所定の演算式を用いて算出するモータ制御方法。
【請求項9】
請求項6に記載のモータ制御方法であって、
前記所定の応答周波数をリミッタ付き積分器を用いて算出するモータ制御方法。
【請求項10】
請求項6に記載のモータ制御方法であって、
前記モータは、掃除機、洗濯機、移動体駆動モータ、電動オイルポンプ、電動パワーステアリング、電磁サスペンションのいずれかに搭載されるモータであるモータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石同期モータを可変速駆動するモータ駆動装置及びこれを用いた機器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般産業、家電、自動車等の様々な分野において、永久磁石同期モータ(Permanent Magnet Synchronous Motor:以下、PMSMと称す)が適用されている。PMSMの電圧方程式は式(1)に示す通りである。
【0003】
【数1】
【0004】
ここで、V ,V は印加電圧値、I ,I は電流指令値、Rは巻線抵抗値、L,Lはモータインダクタンス値、Keは誘起電圧定数、ω*は回転速度指令値、pは微分演算子である。
【0005】
式(1)を用いてモータへの印加電圧を決定している。ここで、式(1)の第2項には微分項があり、ステップ的なトルク指令が入力された場合、電流制御器は設定された応答周波数に応じて電流指令値を発生させるが、上記応答周波数値が高い場合は、電流指令値が急変し大きな印加電圧が必要となる。
【0006】
しかし、電源電圧(インバータの入力電圧)に制限がある場合、ステップ的なトルク指令の大きさや電流制御器の応答周波数によっては、瞬間的な電圧飽和(電源電圧以上の印加電圧が必要で所定の印加電圧が出力できない状態)が発生する。
【0007】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1では、瞬間的な電圧飽和が発生した場合、印加電圧を制限するとともに電流指令値を徐々に下げることで瞬間的な電圧飽和を回避し、瞬間的な電圧飽和が無くなったら電流指令値を徐々に所定値に戻す方式が提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、磁束と電流の非線形関数を準備し、それらから式変形により導出した、磁束飽和特性を考慮した軸誤差推定演算式を実行することにより、磁束飽和が顕著で、軸間の相互干渉磁束が多く存在するPMSMに対しても、高精度な磁極位置推定に基づく速度・位置センサレス制御が可能なモータ制御装置が提案されている。
【0009】
また、特許文献3では、磁束と電流の非線形関数を準備し、それらを用いて、電圧指令生成部における各軸磁束偏差、および各軸磁束に相当する演算を実行することにより、磁束飽和が顕著で、軸間の相互干渉磁束が多く存在するPMSMに対しても、設定通りの電流制御過渡応答を実現可能なモータ制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6260502号公報
【特許文献2】特許第5178665号公報
【特許文献3】特許第5469897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に記載されている方式は、飽和ガードで電圧飽和分を制限し、電圧飽和抑制処理で電圧飽和が無くなるまで電流指令値を徐々に下げる。また、電圧飽和が無くなったら電流指令値を徐々に上げる動作を行う。換言すると、電流指令値を低減することで電圧飽和を抑制する方式である。
【0012】
しかし、本方式は、特許文献1にも記載がある通り、電流指令値を急変させると制御不安定になる可能性がある。そのため、電流指令値の出力値にフィルタが挿入されている。よって、上記で述べたような瞬間的な電圧飽和に関しては考慮されていない。
【0013】
同様に、上記特許文献2,3のいずれにおいても、上記のような瞬間的な電圧飽和に関しては考慮されていない。
【0014】
そこで、本発明の目的は、瞬間的な電圧飽和を抑制するとともに、トルク応答(電流制御器の応答)を極力予め設定された所定値に近づけることが可能な制御の応答性及び安定性に優れたモータ制御装置及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、入力されるトルク指令または推力指令に基づいて第1の電流指令を出力する電流指令生成器と、前記第1の電流指令に基づいて所定の応答周波数に従い第2の電流指令を出力する電流制御器と、前記第2の電流指令に基づいて印加電圧指令を出力するモータ逆モデルと、前記第2の電流指令または前記印加電圧指令に基づいて変更応答周波数を演算し、前記電流制御器へ出力する応答周波数可変手段と、を備え、前記応答周波数可変手段は、飽和電圧を生じないように前記変更応答周波数から前記所定の応答周波数まで変化させながら前記印加電圧指令を制御することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、要求トルク指令または推力指令となるようにモータへの印加電圧を所定の応答周波数で制御するモータ制御方法であって、前記要求トルクまたは前記推力指令に基づいて前記所定の応答周波数よりも小さい変更応答周波数を演算し、前記モータが飽和電圧を生じないように前記変更応答周波数から前記所定の応答周波数まで変化させながら前記モータへの印加電圧を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、瞬間的な電圧飽和を抑制するとともに、トルク応答(電流制御器の応答)を極力予め設定された所定値に近づけることが可能な制御の応答性及び安定性に優れたモータ制御装置及びその制御方法を実現することができる。
【0018】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例1に係るモータ制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】瞬間的な電圧飽和の課題を説明するための図である。
図3図1のモータ制御装置の動作を示す図である。
図4】本発明を用いない場合のシミュレーション波形を示す図である。
図5図1のモータ制御装置によるシミュレーション波形を示す図である。
図6】本発明の実施例2に係るモータ制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図7】本発明の実施例3に係るモータ制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図8図7の応答周波数可変手段の構成を示すブロック図である。
図9】本発明の実施例4に係る自動車を示す図である。(適用例1)
図10】本発明の実施例4に係るスティック掃除機を示す図である。(適用例2)
図11】本発明の実施例4に係る洗濯機を示す図である。(適用例3)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例0021】
≪基本的な構成例≫
図1から図5を参照して、本発明の実施例1のモータ制御装置及びモータ制御方法について説明する。
【0022】
図1は、本実施例のモータ制御装置の概略構成を示すブロック図である。図2は、上述した瞬間的な電圧飽和の課題を説明するための図である。図3は、図1のモータ制御装置の動作を示す図である。図4及び図5は、本発明を用いない場合と本発明を用いた場合のそれぞれのシミュレーション波形を示す図である。
【0023】
先ず、図2を用いて、ステップ的なトルク指令が入力された時のモータ印加電圧とトルク応答の挙動について説明する。横軸は時間、縦軸はトルク、モータ印加電圧、直流電圧(インバータの電源)をそれぞれ示している。(a)は直流電圧に余裕がある場合、(b)は直流電圧に余裕が無い場合をイメージで示している。
【0024】
(a)の直流電圧に余裕がある場合、上記で説明した通り、瞬間的な電圧飽和が発生しないので、モータ印加電圧指令は制限されず、指令通りの印加電圧がモータに印加されるので、出力トルクも電流制御器で設定した応答特性で増加する。
【0025】
これに対して、(b)に示す通り、直流電圧に余裕が無い場合は、ステップ的なトルク指令が入った瞬間にモータ印加電圧指令が直流電圧を超えるため、モータ印加電圧は直流電圧で制限された電圧が印加される(これを瞬間的な電圧飽和と呼ぶ)。そのため、時間t1までは電流制御が不能となるため、電流制御器の積分項の値が増加し、時間t1以後に出力トルクがオーバーシュートする。
【0026】
これが瞬間的な電圧飽和の問題点である。よって、本発明では、瞬間的な電圧飽和が発生しないように、電流制御器の応答周波数を所定値より下げて動作させることで、出力トルクの応答特性を所定値の応答特性に最大限近づける方式を提案する。
【0027】
図1に、本実施例のモータ制御装置の概略構成を示す。本図は本発明を説明するために簡略した構成となっている。換言すると、dq/三相変換やモータ電流検出、インバータ回路等を記載していないが、これらには公知技術を用いる。また、トルク指令入力型の構成としているが、上位制御部に速度制御系などを追加しても問題ない。
【0028】
図1に示すように、本実施例のモータ制御装置では、電流指令生成器1は上位系から入力されるトルク指令Tに応じてd軸電流I ,q軸電流指令I を出力する。本実施例では、予め設定したテーブルを用いた最大トルク/電流制御を行っている。I は0としてI のみ出力する方法などでも問題ない。
【0029】
電流制御器2は積分制御器であり、積分制御器の所定の応答周波数(初期値)はFacrである。後述する応答周波数可変手段5Aからの変更応答周波数facrに従い、各電流偏差から第2の電流指令I **、I **を出力する。
【0030】
モータ逆モデル3は、式(1)に示した電圧方程式を用いおり、第2の電流指令I **,I **から印加電圧指令V ,V を出力する。
【0031】
モータ4はPMSMであり、印加電圧V ,V に従って回転し、モータ電流I,Iを出力する。前述した通り、インバータ等は記載を省略している。
【0032】
応答周波数可変手段5Aは、後述する演算式に従って変更応答周波数facrを電流制御器2に出力している。
【0033】
ここで、変更応答周波数facrの演算式を導出する。
【0034】
【数2】
【0035】
式(2)に印加可能最大電圧Vdcと電流制御器2の所定の応答周波数Facrと変更応答周波数facrの関係式を示す。
【0036】
ここで、√3は相電圧を線間電圧に変換する係数である。印加可能最大電圧Vdcを相電圧で計算する場合は不要である。
【0037】
式(2)は、式(1)で演算された印加電圧値(V ,V )から所定の応答周波数Facrで発生する瞬間的電圧分(微分成分)を差し引き、変更応答周波数facrで発生する瞬間的電圧(微分成分)を加えた電圧値が印加可能最大電圧Vdcより小さくなる必要があるとの意味を持つ。式(2)を変形すると式(3)の2次方程式となる。
【0038】
【数3】
【0039】
式(3)を2次方程式の解法で解くと式(4)となる。ここで、符号は正を使用する。
【0040】
【数4】
【0041】
式(4)を用いて変更応答周波数facrを演算することで、その時の条件下(印加可能最大電圧、指令トルクの大きさや変化速度など)での最高応答周波数で電流制御が可能となる。
【0042】
図1の応答周波数可変手段5Aでは、式(1)を用いて印加電圧値(V ,V )を演算するとともに(電流指令値は電流制御器2の出力を使用)、式(4)を用いて変更応答周波数facrを演算している。換言すると、先ずモータ逆モデル3と同じ演算を行い、その結果を用いて変更応答周波数facrを演算している。
【0043】
図3に、本発明を用いた場合の動作イメージを示す。図2と同様の図である。図3では変更応答周波数facrの動作も記載している。
【0044】
横軸は時間、縦軸はトルク、モータ印加電圧、直流電圧(インバータの電源)をそれぞれ示している。(a)は直流電圧に余裕が無い場合、(b)は直流電圧に余裕がある場合をイメージで示している。
【0045】
(a)の直流電圧に余裕が無い場合は、トルク指令のステップ入力に対して、瞬間的な印加電圧が飽和しないように、変更応答周波数facrが低下し瞬間的な印加電圧の飽和を抑制する。ここで電流制御器2の応答周波数が一旦下がるため若干トルク応答は遅くなるが、徐々に変更応答周波数facrが増加して所定の応答周波数Facrに戻るため、トルク応答も改善される。
【0046】
(b)の直流電圧に余裕がある場合は、瞬間的に印加電圧が増加しても電圧飽和が発生しないので、変更応答周波数facrは所定の応答周波数Facrのままであり、トルク応答は所定の応答周波数Facrが維持されるため、所定の応答周波数Facrのままのトルク応答が維持される。
【0047】
以上の通り、本発明は、その時の条件(印加可能最大電圧、指令トルクの大きさや変化速度など)に応じて常に最高応答周波数(所定の応答周波数内)で電流制御が可能となる。
【0048】
図4及び図5に、実際のシミュレーション波形を示す。本シミュレーションの条件は、直流電圧346V、速度2m/s、所定の応答周波数100Hz、推力指令2700N時の結果である。ここで、本実施例はトルク指令で説明したが、リニアモータなど推力入力の機器にも適用可能であるので、本結果は推力でのシミュレーション結果を示した。
【0049】
図4は、本発明を適用しない場合のシミュレーション結果である。波形は、上から推力、モータ電流値(I ,I ,I,I)、電圧飽和フラグ(印加可能最大電圧と印加電圧演算値を比較して印加電圧演算値が大きい場合に1を出力)、変更応答周波数facrである。また、推力には、所定の応答周波数で動作した場合の推力応答の波形も同時に示している。後述する図5も同じである。
【0050】
図4の場合は、推力指令の立上り、立下り時に瞬間的な電圧飽和が発生しており、その影響でオーバーシュートや推力の応答遅れが発生している。
【0051】
図5は、本発明を適用した場合のシミュレーション結果である。本発明を適用すると、変更応答周波数facrが動作条件に応じて変化し、電圧飽和を抑制していることがわかる。推力の応答は若干遅れるがオーバーシュートは発生せず、安定した制御が可能となっている。
【0052】
以上説明したように、本実施例のモータ制御装置は、入力されるトルク指令Tまたは推力指令に基づいて第1の電流指令(d軸電流I ,q軸電流指令I )を出力する電流指令生成器1と、第1の電流指令(d軸電流I ,q軸電流指令I )に基づいて所定の応答周波数に従い第2の電流指令(I **、I **)を出力する電流制御器2と、第2の電流指令(I **、I **)に基づいて印加電圧指令(V ,V )を出力するモータ逆モデル3と、第2の電流指令(I **、I **)に基づいて変更応答周波数facrを演算し、電流制御器2へ出力する応答周波数可変手段5Aと、を備えており、応答周波数可変手段5Aは、飽和電圧を生じないように変更応答周波数facrから所定の応答周波数まで変化させながら印加電圧指令(V ,V )を制御する。
【0053】
本実施例によれば、ステップ的なトルク(もしくは推力)応答時に、瞬間的な電圧飽和を生じないようにするとともに、極力予め設定された応答特性に近づけることが可能となる。また、制御の安定性も損なわない。
【実施例0054】
≪電圧演算値を使用する構成例≫
図6を参照して、本発明の実施例2のモータ制御装置及びモータ制御方法について説明する。図6は、本実施例のモータ制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【0055】
実施例1の応答周波数可変手段5Aの演算では、モータ逆モデル3と同じ演算を行っている。換言すると、モータ逆モデル3と同じ演算を2回行っている。実施例1では、同じ演算を同時に行うことで印加電圧の飽和防止を少しでも早く解消する効果はあるが、演算負荷が増加する。そこで、本実施例では、モータ逆モデル3の演算結果(V ,V )を用いて変更応答周波数facrを算出する構成とした。
【0056】
図6に示すモータ制御装置において、図1と同一符号は同一動作を行う。本実施例で異なるのは、応答周波数可変手段5Bのみである。
【0057】
応答周波数可変手段5Bは上述した通り、モータ逆モデル3の演算結果(V ,V )を用いて変更応答周波数facrを算出する。これにより演算負荷を低減できる。
【0058】
なお、本実施例では変更応答周波数facrの算出にモータ電流値(I,I)を使用しているが、モータ電流指令値(I ,I )を用いても良い。換言すると、式(4)のモータ電流値(I,I)をモータ電流指令値(I ,I )に変更して演算しても良い。
【実施例0059】
≪応答周波数可変手段の演算を積分制御に置換えた構成例≫
図7及び図8を参照して、本発明の実施例3のモータ制御装置及びモータ制御方法について説明する。図7は、本実施例のモータ制御装置の概略構成を示すブロック図である。図8は、図7の応答周波数可変手段の構成を示すブロック図である。
【0060】
実施例2(図6)では、演算負荷を低減するために、モータ逆モデル3の演算値(V ,V )を用いて変更応答周波数facrを算出していたが、式(4)に示す通り、演算負荷が多い。そこで、応答周波数可変手段を積分制御に変更することで演算負荷を大きく低減できる。
【0061】
図7に示すモータ制御装置において、図1図6と同一符号は同一動作を行う。図7の応答周波数可変手段5Cは、図8に示すように、リミッタ付き積分器5C1とモータ逆モデル3の演算値(V ,V )からベクトルの大きさを演算する電圧ピーク値演算器5C2と電圧ピーク値と印加可能最大電圧Vdcとの差分を演算する演算器5C3から構成されている。本実施例のモータ制御装置を用いることで数値演算負荷が大幅に低減される。
【0062】
ここで、上述の各実施例では、説明を簡単にするために、各実施例で示したような構成例を用いて説明してきたが、実際には、式(1)をそのまま適用することは困難である。換言すると、微分成分があるとノイズ等に極度に反応し制御が不安定になりやすい。
【0063】
そこで、電流制御器2とモータ逆モデル3を一体にして等価変換することで微分演算をなくしたカスケード型ベクトル制御や、特許文献2や特許文献3に記載されている非線形ベクトル制御を用いてもよい。
【0064】
モータ制御装置の構成の詳細説明は省略するが、変更応答周波数facrの演算は、式(5),式(6)の通りとなる。換言すると、カスケード型ベクトル制御では式(5)、非線形ベクトル制御では式(6)を用いる。
【0065】
【数5】
【0066】
【数6】
【実施例0067】
≪本発明の適用例≫
図9から図11を参照して、本発明の適用事例を説明する。図9から図11は、それぞれ自動車(適用例1)、スティック掃除機(適用例2)、洗濯機(適用例3)を示している。
【0068】
図9に、自動車の電動化された部分の図を示す。本発明は、駆動用モータや電動パワーステアリング、電磁サスペンション、電動オイルポンプなど、自動車の各部のモータ制御装置に適用が可能である。特に、電磁サスペンションは、駆動用モータや電動オイルポンプなどの動作時に電源電圧が大きく変動した時でも安定したトルク(もしくは推力)制御を行う必要があり、本発明の適用で大きな効果が期待できる。
【0069】
また、自動車以外にも、電車等のモータ駆動装置で動作する移動体にも適用可能である。
【0070】
図10及び図11は、家電製品への適用事例である。図10に示すスティック掃除機はバッテリー駆動であり、使用時間が長くなるとバッテリーの電圧が低下していくが、床やゴミの状態などで負荷が急変するため、負荷急変に応じてモータ出力を素早く変更する必要がある。そこで、本発明を適用することで、モータ出力の変更の遅れを最小限に留めることが可能となる。
【0071】
また、図11に示す洗濯機では、本制御を適用することで「洗い」時の超多極モータの駆動方法が変更でき、汚れを更に効果的に落とせる制御が可能となる。
【0072】
以上の通り、本発明の説明をほぼ回転モータのトルク指令で説明したが、リニアモータの推力指令でも同様に適用できることは言うまでもない。
【0073】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…電流指令生成器
2…電流制御器
3…モータ逆モデル
4…モータ
5A,5B,5C…応答周波数可変手段
5C1…リミッタ付き積分器
5C2…電圧ピーク値演算器
5C3…演算器
図1
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