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特開2022-184472水分含有ゴム組成物、およびゴム成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184472
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】水分含有ゴム組成物、およびゴム成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20221206BHJP
   C08J 3/03 20060101ALI20221206BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20221206BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20221206BHJP
   C08L 77/10 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C08J5/04 CFG
C08J3/03 CEQ
C08L21/00
C08L9/06
C08L77/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092347
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡村 脩平
(72)【発明者】
【氏名】水田 悠生
(72)【発明者】
【氏名】赤松 哲也
【テーマコード(参考)】
4F070
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA08
4F070AA54
4F070AB10
4F070AB11
4F070AB16
4F070AC90
4F070AD02
4F070AE01
4F070CA02
4F070CB01
4F070CB12
4F072AA03
4F072AA07
4F072AB06
4F072AD02
4F072AE01
4F072AE06
4F072AE10
4F072AF01
4F072AF02
4F072AF26
4F072AF29
4F072AH03
4F072AH23
4F072AJ04
4F072AK05
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL16
4F072AL18
4F072AL19
4J002AC081
4J002CL062
4J002FA032
4J002FD012
(57)【要約】
【課題】ゴムの製造においてマスターバッチの形態で用いられ、得られるゴムに高いゴム弾性率と耐摩耗性を付与することができる、水分含有ゴム組成物を提供する。
【解決手段】アラミドナノファイバー、ゴムおよび水を含む水分含有ゴム組成物であり、アラミドナノファイバーは平均繊維径が500nm未満であり、前記水分含有ゴム組成物においてアラミドナノファイバーとゴムとの重量比率が1:99~35:65であり、かつアラミドナノファイバーとゴムの合計と水との重量比率が98:2~1:99であり、前記水分含有ゴム組成物は、ゴム組成物の製造に用いるマスターバッチ材料として用いられることを特徴とする、水分含有ゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミドナノファイバー、ゴムおよび水を含む水分含有ゴム組成物であり、アラミドナノファイバーは平均繊維径が500nm未満であり、前記水分含有ゴム組成物においてアラミドナノファイバーとゴムとの重量比率が1:99~35:65であり、かつアラミドナノファイバーとゴムの合計と水との重量比率が98:2~1:99であり、前記水分含有ゴム組成物は、ゴム組成物の製造に用いるマスターバッチ材料として用いられることを特徴とする、水分含有ゴム組成物。
【請求項2】
アラミドナノファイバー水分散体とゴム水分散体とをアラミドナノファイバー対ゴムの固形分重量比率1:99~35:65で混合し、さらに水分の一部を除去して水分含有ゴム組成物を得る第一工程、前記第一工程で得た水分含有ゴム組成物と固形状ゴムとを混合し、さらに水分を除去して固形状ゴム組成物を得る第二工程、前記第二工程で得た固形状ゴム組成物と加硫剤および/または架橋剤を混合して未加硫ゴム組成物および/または未架橋ゴム組成物とする第三工程、および前記第三工程で得た未加硫および/または未架橋ゴム組成物を加硫および/または架橋してゴム成形体とする第四工程を含む、ゴム成形体の製造方法。
【請求項3】
ゴム水分散体のゴムがスチレンブタジエンゴムである、請求項2に記載のゴム成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分含有ゴム組成物に関し、詳しくは、繊維補強されたゴム成形体の製造において原材料として用いられ特にマスターバッチの態様で用いられる水分含有ゴム組成物、およびそれを用いたゴム成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム成形体の力学的特性を向上させるために、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維などの短繊維を配合して補強することが検討されている。これらのなかでもアラミド繊維の短繊維は、機械的特性、耐疲労性、耐熱性および化学的性質に優れているため、広く使用されている。
【0003】
しかし、アラミド短繊維は、表面が比較的不活性であるためゴムとの接着力が低く、ゴムに配合するときの分散性が悪いため、アラミド短繊維の本来の優れた特性を十分に発揮することができない。また、アラミド短繊維がゴムに添加されていたとしても、使用においてアラミド短繊維が完全に均一に分布しているわけではないため、アラミド短繊維が存在しない部分から摩耗が進行してしまい、十分な耐摩耗性を得ることができない。
【0004】
補強用短繊維とゴムとの接着力を向上させるための手段として、補強用短繊維の繊維径を細くしたり、補強用短繊維表面にフィブリルを持たせたパルプを使用し、補強用短繊維とゴムとが接触する面積を増やすことが考えられる。しかし、接触面積が大きくなるほど、補強用繊維をゴムに均一に分散させることが困難となる。
【0005】
このなか、特許文献1では、繊維表面にフィブリルを有するアラミドパルプを予め液状エラストマーと混合したマスターバッチ材料として使用するための粒状エラストマー組成物が提案されている。アラミドパルプは、フィブリル部分が微細化されているが、幹の部分は太く、フィブリルが幹から切断されてしまうこともあり、ゴムとの接着力はまだ十分ではなく、さらなるゴム補強物性の向上が期待されている。
【0006】
ところで近年、アラミド繊維をナノ化する技術が提案されている。例えば、非特許文献1非特許文献2では、それぞれ水酸化カリウムを含むジメチルスルホキシド溶剤中で処理することや、アルカリ処理したアラミド繊維を高圧水噴霧処理することで、ナノサイズのアラミド繊維、すなわちアラミドナノファイバーを得る方法が提案されている。これらのアラミドナノファイバーをゴムの補強に用いることで、ゴムとの接着力を向上させ、ゴム弾性率の大きな向上や、耐摩耗性の大きな向上を期待することができる。
【0007】
特許文献2では、平均繊維径0.5μm(500nm)未満のセルロースやアラミド短繊維の水分散液とゴムラテックスとを攪拌混合し、その混合液をパルス燃焼による衝撃波の雰囲気下に噴射して乾燥させる、短繊維含有ゴムマスターバッチの製造方法が提案されている。しかし、アラミド繊維は非常に強い水素結合を示すため、ゴムラテックスとの混合後でおいても、水分が完全に除去されてしまうと、部分的に接触するアラミドナノファイバー同士がマスターバッチ中で凝集してしまう。そして、一度凝集したアラミドナノファイバーはその後の工程で再分散させることが困難となり、良好な補強効果を得ることが困難になる。
【0008】
非特許文献3や非特許文献4では、アラミドナノファイバーを含む水酸化カリウム添加ジメチルスルホキシド溶剤中にエピクロロヒドリンを添加し、エピクロロヒドリンで修飾されたアラミドナノファイバーの水分散体を得て、その水分散体をそれぞれカルボキシル化ニトリルゴムとスチレンブタジエンゴムのラテックス(水分散体)混合物やスチレンブタジエンゴム単体のラテックスと混合して水分を除去し、加硫剤を添加することでゴム組成物を得る方法が提案されている。この方法では、エピクロロヒドリンでアラミドナノファイバーの表面を修飾することにより、アラミドナノファイバー同士が凝集することを防ぎやすくなるが、溶剤中でエピクロロヒドリン処理を行うプロセスは、長時間な処理時間が掛かることと、溶剤に残留するエピクロロヒドリンにより高純度の溶剤回収が困難になるため、工業的な課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63-137940号公報
【特許文献2】特許第3998692号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ACS Nano 2011, 5, 6945.
【非特許文献2】RSC Adv. 2014, 4, 40377.
【非特許文献3】Composites Part B : Engineering 2019,166,196-203
【非特許文献4】Materials Chemistry and Physics 2019,238,121926
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ゴムの製造においてマスターバッチの形態で用いられ、得られるゴムに高いゴム弾性率と耐摩耗性を付与することができる、水分含有ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、アラミドナノファイバー、ゴムおよび水を含む水分含有ゴム組成物であり、アラミドナノファイバーは平均繊維径が500nm未満であり、前記水分含有ゴム組成物においてアラミドナノファイバーとゴムとの重量比率が1:99~35:65であり、かつアラミドナノファイバーとゴムの合計と水との重量比率が98:2~1:99であり、前記水分含有ゴム組成物は、ゴム組成物の製造に用いるマスターバッチ材料として用いられることを特徴とする、水分含有ゴム組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ゴムの製造においてマスターバッチの形態で用いられ、得られるゴムに高いゴム弾性率と耐摩耗性を付与することができる、水分含有ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
〔アラミドナノファイバー〕
本発明においてアラミドナノファイバーは、平均繊維径が500nm以下の芳香族ポリアミド繊維である。
【0016】
芳香族ポリアミド繊維として具体的には、パラ型芳香族ポリアミド繊維であるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、テイジンアラミドB.V.製、「トワロン(登録商標)」)、共重合型の芳香族ポリアミド繊維であるコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維(例えば、帝人株式会社製、「テクノーラ(登録商標)」)、メタ型芳香族ポリアミド繊維であるポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(例えば、帝人株式会社製、「コーネックス(登録商標)」)を例示することができる。
【0017】
アラミドナノファイバーとして、芳香族ポリアミド繊維の中でも、強度や弾性率が高いパラ型芳香族ポリアミド繊維が好ましい。
アラミドナノファイバーは、上記の芳香族ポリアミド繊維を用いて公知の方法で製造することができる。例えば、芳香族ポリアミド繊維を水酸化カリウム等の強塩基物質を含んだジメチルスルホキシド等の極性溶剤中で攪拌処理する方法や、芳香族ポリアミド繊維を高圧水噴霧等の高せん断力下で処理する方法、エレクトロスピニング法で処理する方法を用いることができる。
【0018】
なかでも、芳香族ポリアミド繊維を水酸化カリウム等の強塩基物質を含んだジメチルスルホキシド等の極性溶剤中で攪拌処理する方法が、比較的繊維径のバラツキが少ないアラミドナノファイバーを得られるため好ましい。
【0019】
アラミドナノファイバーの平均繊維径は500nm以下、好ましくは100nm以下である。平均繊維径が500nmを超えると、ナノファイバーの特徴である高い比表面積が発現しにくくなりゴムとの接着力が十分に得られないことや、アラミドナノファイバーの存在しない領域が多くなるためゴムの弾性率や耐摩耗性を十分に向上させることができなくなり好ましくない。平均繊維径の下限は例えば1nmである。1nm未満の平均繊維径のものは製造が困難であるためである。
【0020】
アラミドナノファイバーの繊維長/繊維径で表されるアスペクト比は、好ましくは10~10000、さらに好ましくは50~5000である。アスペクト比が10未満であると、十分な補強物性が得られず好ましくない。1本1本のアラミドナノファイバーがゴムから抜けやすくなるためと推定される。他方、アスペクト比が10000を超えると、アラミドナノファイバー同士の交絡が起こりやすくなり、均一な分散が得られにくくなるため好ましくない。
【0021】
〔ゴム〕
本発明の水分含有ゴム組成物に含有されるゴムは、弾性を有する高分子材料である。このゴムとして、未加硫のものや未架橋のものを用い、好ましくは、加硫前の天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、シリコンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)を用いる。ゴムは複数種類が含まれてもよい。ゴムとして特に好ましいものは、スチレンブタジエンゴムである。
【0022】
〔アラミドナノファイバーとゴム成分の比率〕
本発明の水分含有ゴム組成物において、アラミドナノファイバーとゴムとの重量比率は1:99~35:65である。アラミドナノファイバーが1重量%未満であると、十分な補強物性が得られない。他方、アラミドナノファイバーが35重量%を超えると、アラミドナノファイバーの単繊維間の間に存在するゴムが不足し、アラミドナノファイバー同士の距離が短くなり、水素結合による凝集や、多くの交絡を起こしてしまうため好ましくない。
【0023】
〔水分含有ゴム組成物中の水分率〕
本発明の水分含有ゴム組成物において、アラミドナノファイバーとゴムの合計と水との重量比率は98:2~1:99、好ましくは50:50~1:99である。この重量比率の範囲で水がゴム組成物中に存在することで、一つのアラミドナノファイバーと他のアラミドナノファイバーとの間に水が存在することになり、アラミドナノファイバー同士が水素結合により再度凝集するのことを抑制することができる。他方、アラミドナノファイバーとゴムの合計と水との重量比率が1:99を超えて多くの水を含むと、水分含有ゴム組成物の大部分が水分となり、工業的に物流コストの増大となることと、使用時に水を除去することが困難となる。
【0024】
本発明の水分含有ゴム組成物には、カーボンブラックやシリカなどの補強剤(フィラー)、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などの一般ゴム用に一般的に配合されている添加剤をさらに配合してもよい。これらの添加剤は、一般的な方法で混練して使用することができる。
【0025】
〔水分含有ゴム組成物の製造方法〕
本発明の水分含有ゴム組成物は、アラミドナノファイバー水分散体とゴム水分散体とをアラミドナノファイバー対ゴムの固形分重量比率1:99~35:65で混合してゴム混合物を得て、さらに水分の一部を除去することで製造することができる。
【0026】
アラミドナノファイバー水分散体は、アラミドナノファイバーを溶解または分散させた有機溶剤に、水を段階的に添加して有機溶剤を水で置換することで製造することができる。また、ゴム水分散液は、ゴムを溶解または分散させた有機溶剤に、水を段階的に添加して有機溶剤分を水で置換することで製造することができる。ゴムラテックスとして市販されているゴム水分散液を用いることもできる。
【0027】
〔マスターバッチ〕
本発明の水分含有ゴム組成物は、ゴム成形体を製造するために用いられ、マスターバッチの態様で配合される。
【0028】
本発明の水分含有ゴム組成物をマスターバッチの態様で用いることによりゴム成形体に含有されることになるアラミドナノファイバーの量は、ゴム成形体のゴムの合計重量あたり、好ましくは0.1~30重量%、さらに好ましくは0.5~20重量%である。ゴム成形体が、この範囲でアラミドナノファイバーを含有することで、最終的に得られるゴム成形体の弾性率や耐摩耗性を改善することができる。含有量が0.1重量%未満であると、アラミドナノファイバーによる補強効果が十分に得られず好ましくない。他方、30重量%を超えると、アラミドナノファイバーの均一な分散が困難となり、添加量に見合った補強効果を得られないため好ましくない。
【0029】
〔ゴム成形体の製造方法〕
本発明によればさらに、アラミドナノファイバー水分散体とゴム水分散体とをアラミドナノファイバー対ゴムの固形分重量比率1:99~35:65で混合し、さらに水分の一部を除去して水分含有ゴム組成物を得る第一工程、前記第一工程で得た水分含有ゴム組成物と固形状ゴムとを混合し、さらに水分を除去して固形状ゴム組成物を得る第二工程、前記第二工程で得た固形状ゴム組成物と加硫剤および/または架橋剤を混合して未加硫ゴム組成物および/または未架橋ゴム組成物とする第三工程、および前記第三工程で得た未加硫および/または未架橋ゴム組成物を加硫および/または架橋してゴム成形体とする第四工程を含む、ゴム成形体の製造方法が提供される。
【0030】
第一工程は、アラミドナノファイバー水分散体とゴム水分散体とをアラミドナノファイバー対ゴムの固形分重量比率1:99~35:65で混合し、さらに水分の一部を除去して水分含有ゴム組成物を得る工程である。水分の一部を除去することによって、得られる水分含有ゴム組成物におけるアラミドナノファイバーとゴムの合計と水との重量比率を98:2~1:99とする。
【0031】
ゴム水分散体に含有されるゴムは、弾性を有する高分子材料である。このゴムとして、未加硫のものや未架橋のものを用い、好ましくは、加硫前の天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、シリコンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)を用いる。ゴムは複数種類が含まれてもよい。ゴムとして特に好ましいものは、スチレンブタジエンゴムである。
【0032】
第二工程は、前記第一工程で得た水分含有ゴム組成物と固形状ゴムを混合し、さらに水分を除去して固形状ゴム組成物を得る工程である。このとき用いる固形状ゴムとして、加硫前または架橋前のものを用い、加硫前の天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、シリコンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)を用いることができる。固形状ゴムは、複数の種類のものを用いてもよい。
【0033】
この固形状ゴムは、本発明の水分含有ゴム組成物に含有されるゴムに対して親和性が高いゴムであることが好ましい。このため、固形状ゴムは、本発明の水分含有ゴム組成物のゴムに対して、近いHansen溶解度パラメーターを示すことが好ましい。なお、ここでいう「近い」とは、Hansen溶解度パラメーターの相違が2以下、好ましくは1以下であることである。
【0034】
水分含有ゴム組成物と固形状ゴムとの混合は、一般的にゴムの混練に用いられている加圧ニーダーやバンバリーミキサーといった混錬機を用いて行うことができる。これらの混練機にて、混錬温度を100℃以上180℃未満とし、混練時に水分を除去して、固形状ゴム組成物を得る。
【0035】
第三工程は、前記第二工程で得た固形状ゴム組成物と加硫剤および/または架橋剤を混合して未加硫および/または未架橋ゴム組成物とする工程である。この混合は、水分含有ゴム組成物を、加硫および/または架橋が進まない温度に冷却した状態で行うことが好ましい。
【0036】
第四工程は、前記第三工程で得た未加硫および/または未架橋ゴム組成物を加硫および/または架橋してゴム成形体とする工程である。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例で用いた評価方法は、下記のとおりである。
【0038】
(1)平均繊維径
未加硫および/または未架橋ゴム組成物のゴム成分をトルエンに溶解してアラミドナノファイバーを含むトルエン溶液とした。このトルエン溶液をガラス棒で薄く伸ばし、70℃の乾燥機内で乾燥させて、アラミドナノファイバーからなるシート状サンプルを得た。
【0039】
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、品盤:JSM-6330F)を用い、サンプルの構造を観察した。50,000倍の倍率設定で観察した画像から、横1,800nm~2,000nm、縦1,200nm~1,500nmの画像領域を選択し、当該画像領域をさらに縦に4分割および横に4分割して、合計16のグリッド領域を定義した。各グリッド領域内に存在するサンプルを1点選択して画像上で繊維径を測定した。合計16点のサンプルの繊維径を測定し、それらの平均値を平均繊維径とした。
【0040】
(2)加硫ゴムシートの5%伸長時応力、10%伸長時応力
加硫ゴムシートについて、アラミドナノファイバーの配向方向にサンプルを切り出し、JIS K6251のダンベル状3号形を用いた方法にて引張試験を実施し、5%伸長時と10%伸長時の応力を測定した。これらの応力が高いほど弾性率が優れる。
【0041】
(3)加硫ゴムシートの耐摩耗性
加硫ゴムシートの表面を320番のサンドペーパーで摩擦し、耐摩耗性を評価した。具体的には、オリエンテック株式会社の摩擦摩耗試験機を用い、320番のサンドペーパーを取り付けた金属板に、加硫ゴムシートの補強繊維配向方向の補強繊維断面がサンドペーパーに当たるように、0.19MPaの荷重を負荷した状態で100rpmの速度で回転摩耗させ、10分間経過後の摩耗量を重量変化から求めた。摩耗量が少ないほど耐摩耗性が優れる。
【0042】
〔実施例1〕
<第一工程(アラミドナノファイバー水分散体の作製)>
テイジンアラミド社製トワロン(登録商標)パルプ(品番:タイプ1094)202g(うち、固形分重量50g、水分重量152g)、追加の水64g、水酸化カリウム25gおよびジメチルスルホキシド(DMSO)1950gを、2Lのポリ容器内に入れて常温で混合して混合液とし、これを70℃に設定された乾燥機内にて3時間保持した。
【0043】
70℃での3時間の保持により、混合液の色が黄色から赤褐色に変わり、混合液中にパルプ状の物質が観察されなくなった。この時点で混合液を常温に戻し、粘度が混合直後と比較して上昇していることを目視にて確認した。
【0044】
その後、この混合液に十分な量の水を添加し、トワロン(登録商標)パルプ由来のアラミド繊維分を凝固させ、DMSO、水酸化カリウムと水の混合液を除去しながら、さらに水の添加を継続して行い、アラミド繊維分の凝集物を得た。この凝集物を湿式の粉砕機に通して、アラミドナノファイバー水分散体を得た。得られたアラミドナノファイバー水分散体は、アラミドナノファイバーを0.45重量%含む水分散体であった。
【0045】
<第一工程(ゴム水分散体の作製)>
Nipol LX112(日本ゼオン株式会社製、スチレンブタジエンゴムを40.5重量%含有)を水で10倍に希釈して、スチレンブタジエンゴムを4.05重量%含有する、ゴム水分散液を得た。
【0046】
<第一工程(水分含有ゴム組成物の作製)>
前記のアラミドナノファイバー水分散体と前記のゴム水分散体とを混合して、アラミドナノファイバーとスチレンブタジエンゴムとの重量比率が10:90であり、アラミドナノファイバーとスチレンブタジエンゴムの合計と水との重量比率が2.25:97.75である混合物を得た。
【0047】
この混合物を、アラミドナノファイバーとスチレンブタジエンゴムの合計と水との重量比率が10:90となるまで乾燥させて水分含有ゴム組成物を得た。得られた水分含有ゴム組成物でのアラミドナノファイバーの平均繊維径は30nmであった。
【0048】
<第二工程>
上記で得られた水分含有ゴム組成物を、下記の未加硫ゴムコンパウンド中に、アラミドナノファイバーの混入量が、ゴム水分散体と未加硫ゴムコンパウンドとに含まれるゴム成分(天然ゴムおよびスチレンブタジエンゴム)の合計重量当たり1重量%となるように配合し、MS加圧型ニーダー(DS3-10MHHS守山製作所株式会社製)にて140℃で60分間混練しながらゴム混合物に含まれる水分を蒸発させ、固形状ゴム組成物を得た。その後、得られた固形状ゴム組成物を一晩静置し冷却させた。
【0049】
(未加硫ゴムコンパウンドの配合組成)
天然ゴム: 60重量部
スチレンブタジエンゴム: 40重量部
クマロン: 10重量部
酸化亜鉛: 5重量部
ステアリン酸: 1重量部
老化防止剤: 1重量部
カーボンブラック: 50重量部
【0050】
<第三工程>
硫黄と、加硫促進剤としてN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドとを、前記の固形状ゴム組成物に含まれるゴム成分(天然ゴムおよびスチレンブタジエンゴム)の合計重量当たりそれぞれ2重量%添加して、未加硫ゴム組成物とした。
【0051】
<第四工程>
前記未加硫ゴム組成物を、オープンロール(関西ロール(株)製9インチテストロール)にて約1mm厚さにシート出しを行い、加硫ゴム組成物シートを得た。この加硫ゴム組成物シートを2枚積層して、150℃で30分間1MPaの条件でプレス加硫を行い、2mm厚の加硫ゴムシートを作成した。
水分含有ゴム組成物の組成および加硫ゴムシートの物性を表1にまとめて示す。
【0052】
〔実施例2〕
実施例1での第一工程(水分含有ゴム組成物の作製)において、混合物をアラミドナノファイバーとスチレンブタジエンゴムの合計と水との重量比率が30:70となるまで乾燥させて水分含有ゴム組成物を得た。
得られた水分含有ゴム組成物中のアラミドナノファイバーの平均繊維径は、実施例1同様に30nmであった。得られたゴム組成物を用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0053】
〔実施例3〕
実施例1において、アラミドナノファイバー水分散体の作製時の水の添加量を変更した以外は実施例1と同様にして、アラミドナノファイバーを1.01重量%含むアラミドファイバー水分散体を作製した。
実施例1と同様のゴム水分散体と、前記のアラミドナノファイバー水分散体を混合して、アラミドナノファイバーとスチレンブタジエンゴムとの重量比率が20:80であり、アラミドナノファイバーとスチレンブタジエンゴムの合計と水との重量比率が2.25:97.75である、混合物を得た。
【0054】
この混合物を、アラミドナノファイバーとスチレンブタジエンゴムの合計と水との重量比率が10:90となるまで乾燥させて水分含有ゴム組成物を得た。得られた水分含有ゴム組成物でのアラミドナノファイバーの平均繊維径は30nmであった。
得られた水分含有ゴム組成物を用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0055】
〔比較例1〕
第一工程(ゴム水分散体の作製)において、アラミドナノファイバーを用いずに、スチレンブタジエンゴムを含むラテックス(Nipol LX112、有効成分40.5重量%、日本ゼオン株式会社製)のみを用いて、ゴム成分と水分の比率が10:90となる水分含有ゴム組成物を得た。
得られた水分含有ゴム組成物を用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0056】
〔比較例2〕
第一工程(アラミドナノファイバー水分散体の作製)において、アラミドナノファイバーを用いずに、そのかわりにアラミドパルプ(テイジンアラミド社製トワロン(登録商標)パルプ(品番:タイプ1094))を水で希釈して、アラミドパルプを0.45重量%含む水分散体を作製して水分散体として用いた。
【0057】
これ以外は実施例1と同様にして、水分含有ゴム組成物を得た。この水分含有ゴム組成物のアラミドパルプの幹部分の平均繊維径を、走査型電子顕微鏡で500倍で観察したところ、12μm(12000nm)であった。
得られた水分含有ゴム組成物を用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0058】
〔比較例3〕
アラミドナノファイバーを含む水分散体とスチレンブタジエンゴムのラテックスを混合した後、水分を完全に乾燥し、アラミドナノファイバーとゴム成分の総量と、乾燥後の吸水による平衡水分による水分の比率が、99:1となる水分含有ゴム組成物を得た以外は実施例1と同様にしてゴム組成物を得た。
【0059】
得られたゴム組成物中のアラミドナノファイバーの平均繊維径は実施例1と同様に30nmであったが、平均繊維径30nmのアラミドナノファイバーの単繊維同士が部分的に凝集している様子が走査型電子顕微鏡から観察された。
得られた水分含有ゴム組成物を用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すとおり、実施例1~3で得られたアラミドナノファイバーを含む水分含有ゴム組成物から作製された加硫ゴムシートでは、比較例1のアラミドナノファイバーを含まない水分含有ゴム組成物から作製された加硫ゴムシートや比較例2の従来のアラミドパルプを含む水分含有ゴム組成物から作製された加硫ゴムシートに比べて、高いゴム弾性率の向上効果と耐摩耗性向上効果が得られた。
【0062】
他方、水分含有ゴム組成物の水分量が不十分であり、アラミドナノファイバー単繊維同士の凝集が見られた比較例3の水分含有ゴム組成物から作製された加硫ゴムシートでは、比較例2の従来のアラミドパルプを含む水分含有ゴム組成物から作製された加硫ゴムシートよりも、ゴム弾性率や耐摩耗性の向上効果は小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の水分含有ゴム組成物は、タイヤ、伝動ベルト、ゴムホース、ゴムロール、防振ゴム等に用いることができる。