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特開2022-184478コンクリートのフレッシュ保持性の評価方法とその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184478
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】コンクリートのフレッシュ保持性の評価方法とその装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20221206BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20221206BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G01N29/07
E04G21/02 103Z
E21D11/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092357
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】野中 英
【テーマコード(参考)】
2D155
2E172
2G047
【Fターム(参考)】
2D155KB08
2D155KC06
2D155LA13
2E172AA05
2E172AA18
2E172BA25
2E172DB13
2E172HA03
2G047AA10
2G047BA01
2G047BC02
2G047EA12
(57)【要約】
【課題】SENS用コンクリートのフレッシュ保持性を容易にかつ効率よく評価する。
【解決手段】コンクリート1を収納する型枠11と、送信プローブ12pの先端部と受信プローブ12qの先端部とが、型枠11内に所定の距離を隔てて位置するように、型枠11に設置されて、前記コンクリート1を伝搬する超音波の伝搬速度を測定する超音波測定器12と、超音波伝搬速度の立上がり時間を求める立上がり時間算出手段13と、超音波伝搬速度の立上がり時間からコンクリート1のフレッシュ保持性を評価するフレッシュ保持性評価手段14とを備えるとともに、立上がり時間算出手段13では、注水した時刻から超音波伝搬速度の変化率が不連続になった時刻までの経過時間を求めてこれを立上がり時間とするフレッシュ保持性の評価装置10を用いて、コンクリート1のフレッシュ保持性を評価するようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートのフレッシュ保持性を評価する方法であって、
型枠内にコンクリートを打ち込むステップと、
前記型枠内に打ち込まれたコンクリートの超音波伝搬速度を計測するステップと、
前記超音波伝搬速度の立上がり時間を求めるステップと、
前記立上がり時間から当該コンクリートのフレッシュ保持性を評価するステップと、
を備え、
前記立上がり時間を求めるステップでは、
注水した時刻から前記超音波伝搬速度の変化率が不連続になった時刻までの経過時間を求めてこれを立上がり時間とすることを特徴とするコンクリートのフレッシュ保持性の評価方法。
【請求項2】
前記フレッシュ保持性を評価するステップでは、
前記立上がり時間が4時間以上である場合には、当該コンクリートのフレッシュ保持時間が4時間以上であると評価することを特徴とする請求項1に記載のコンクリートのフレッシュ保持性の評価方法。
【請求項3】
コンクリートのフレッシュ保持性を評価する装置であって、
前記コンクリートを収納する型枠と、
送信プローブの先端部と受信プローブの先端部とが、前記型枠内に所定の距離を隔てて位置するように、前記型枠に設置されて、前記コンクリートを伝搬する超音波の伝搬速度を測定する超音波測定器と、
前記超音波伝搬速度の立上がり時間を求める立上がり時間算出手段と、
前記超音波伝搬速度の立上がり時間から当該コンクリートのフレッシュ保持性を評価するフレッシュ保持性評価手段とを備え、
前記立上がり時間算出手段は、
注水した時刻から前記超音波伝搬速度の変化率が不連続になった時刻までの経過時間を求めてこれを立上がり時間とし、
前記フレッシュ保持性評価手段は、
前記立上がり時間が4時間以上である場合には、前記立上がり時間を当該コンクリートのフレッシュ保持時間が4時間以上であると評価することを特徴とするコンクリートのフレッシュ保持性の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートのフレッシュ保持性を評価する方法とその装置に関するもので、特に、コンクリート内を伝搬する超音波の伝搬速度からコンクリートのフレッシュ保持性を評価する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シールドを用いた場所打ち支保システム(SENS;Shield ECL NATM System)においては、シールド工法により切羽の安定を保持しつつトンネルを掘削するとともに、場所打ちライニング工法により、一次覆工を行った後、二次覆工コンクリートを打設することで、トンネルを完成させるようにしている(例えば、非特許文献1参照)。
SENSでは、シールド掘進と同時に並行して打設する場所打ちコンクリートにより一次覆工を構築するため、一次覆工に用いられるコンクリート(以下、SENS用コンクリートという)には、ポンプ圧送を確実に行える流動性、練上がりから打設までの工程を考慮したフレッシュ保持性、シールド推進時における反力を得るための強度発現性などが要求されている。具体的には、流動性とフレッシュ保持性とはスランプフロー試験(JIS A 1150)、強度発現性は圧縮強度試験(JIS A 1108)により評価する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】長谷川正明、野口守、玉井竜毅:SENS(シールドを用いた場所打ちコンクリートシステム)コンクリートの開発-北海道新幹線,津軽蓬田トンネル,コンクリート工学,pp.106-109,2011.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、SENS用コンクリートでは、4時間以上の流動性の経過保持時間(フレッシュ保持時間)が求められているが、これを確認するためには、スランプフロー試験を1時間ないし2時間間隔で実施する必要がある。また、スランプフロー試験は、多量の試料が必要なだけでなく、手間がかかるため、ミニスランプフロー試験(JIS A 1171)により試験を実施する場合もあるが、それでも試験間隔を1時間とするのが精一杯である。そのため、複数の配合のスランプフローを確認するのには、更に人手を投入する必要があった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、SENS用コンクリートのフレッシュ保持性を容易にかつ効率よく評価する方法とその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、硬化したコンクリートのみならず、硬化が開始されたフレッシュコンクリートにおいても超音波が伝搬すること、及び、超音波の伝搬速度が急激に立上がるまでの時間である立上がり時間が、コンクリートのフレッシュ保持性と深い関係があることから、前記の立上がり時間から、コンクリートのフレッシュ保持性を評価できることを見出し本発明に至ったものである。
すなわち、本発明は、コンクリートのフレッシュ保持性を評価する方法であって、型枠内にコンクリートを打ち込むステップと、前記型枠内に打ち込まれたコンクリートの超音波伝搬速度を計測するステップと、前記超音波伝搬速度の立上がり時間を求めるステップと、前記立上がり時間から当該コンクリートのフレッシュ保持性を評価するステップと、を備え、前記立上がり時間を求めるステップでは、注水した時刻から前記超音波伝搬速度の変化率が不連続になった時刻までの経過時間を求めてこれを立上がり時間とすることを特徴とする。
これにより、コンクリートのフレッシュ保持性を容易にかつ効率よく評価することができるので、コンクリート試験の作業効率を著しく高めることができる。
立上がり時間は、上記のように、注水した時刻から、超音波伝搬速度が急激に立上がる時刻までの時間である。なお、「急激に立上がる」とは、例えば、超音波伝搬速度を1分間隔で計測したとすると、立上がり時刻における超音波伝搬速度とその1分後における超音波伝搬速度との差(速度差)が最も大きくなることをいう。
また、立上がりの時刻より前の時間領域では、超音波伝搬速度は観測されないか、観測されてもきわめて小さく(50~100[m/s]以下)、かつ、超音波伝搬速度の変化率も立上がり時刻での変化率に比較すると極めて小さい。また、立上がりの時刻より後の時間領域でも、変化率は、立上がり時刻における変化率よりもかなり小さい。
すなわち、立上がり時刻では、超音波伝搬速度の変化率は不連続であると見做せる。
【0007】
また、前記フレッシュ保持性を評価するステップでは、前記立上がり時間が4時間以上である場合には、当該コンクリートのフレッシュ保持時間が4時間以上であると評価したので、評価したコンクリートがSENS用コンクリートとして使用可能か否かを効率よくかつ確実に評価することができる。
また、コンクリートのフレッシュ保持性を評価する装置を、前記コンクリートを収納する型枠と、超音波の送信部である送信プローブの先端部と超音波の受信部である受信プローブの先端部とが、前記型枠内に所定の距離を隔てて位置するように、前記型枠に設置されて、前記コンクリートを伝搬する超音波の伝搬速度を測定する超音波測定器と、前記超音波伝搬速度の立上がり時間を求める立上がり時間算出手段と、前記超音波伝搬速度の立上がり時間から当該コンクリートのフレッシュ保持性を評価するフレッシュ保持性評価手段とから構成するとともに、前記立上がり時間算出手段では、注水した時刻から前記超音波伝搬速度の変化率が不連続になった時刻までの経過時間を求めてこれを立上がり時間とし、前記フレッシュ保持性評価手段では、前記立上がり時間が4時間以上である場合には、前記立上がり時間を当該コンクリートのフレッシュ保持時間が4時間以上であると評価するようにしたので、評価したコンクリートがSENS用コンクリートとして使用可能か否かを効率よく評価できるコンクリートのフレッシュ保持性の評価装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施の形態に係るコンクリートのフレッシュ保持性の評価装置を示す図である。
図2】超音波の伝搬速度の時間変化の一例を示す図である。
図3】フレッシュ保持性の評価実験に用いたコンクリートの配合比を示す図である。
図4】フレッシュ保持性の評価実験に用いたコンクリートの配合比を示す図である。
図5】配合A群~配合D群の各試料の超音波の伝搬速度の測定結果を示す図である。
図6】超音波の立上がり時間を算出した結果を示す図である。
図7】ミニスランプフロー値とスランプフロー値との関係を示す図である。
図8】換算スランプフローの時間変化と立上がり時間との関係を示す図である。
図9】換算スランプフローの時間変化と立上がり時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本実施の形態に係るコンクリートのフレッシュ保持性の評価装置(以下、評価装置10という)を示す機能ブロック図で、評価装置10は、型枠11と、超音波測定器12と、立上がり時間算出手段13と、フレッシュ保持性評価手段14とを備える。
型枠11は、上部が開放された平たい容器で、円筒状の側壁11aと、円盤状の底板11bと、側壁11aと底板11bとにより形成された中空部である収納空間11cとを有する。側壁11aには、後述する送信プローブ12pと受信プローブ12qとを収納するためのプローブ挿入孔11p,11qが形成されており、収納空間11cには、コンクリート1が練混ぜられた状態で収納される。
本例では、型枠11の高さ寸法をH、半径をR、収納空間11cの深さ寸法をh、半径をrとすると、h=2H/3、r=R/2とするとともに、側壁11aを構成する円筒の中心軸と収納空間11cを構成する円柱の中心軸とが一致するように収納空間11cを形成した。本例では、プローブ挿入孔11p,11qを、側壁11aの上面(底板11b側とは反対側の面)からh/2の深さの位置に、互いに対向するように、かつ、円筒の半径方向に延長するように形成している。
超音波測定器12は、送信プローブ12pを備えた送信部12aと、受信プローブ12qを備えた受信部12bと、伝搬速度計測部12cとを備える。送信プローブ12pと受信プローブ12qとは、送信プローブ12pの先端部と受信プローブ12qの先端部とが、収納空間11c内に露出し、かつ、所定の距離を隔てて対向するように、前記のプローブ挿入孔11p,11qに取付けられる。
伝搬速度計測部12cでは、送信部12aから送信される超音波の位相と受信部12bで受信した超音波の位相とを比較して、コンクリート1内を伝搬する超音波の伝搬速度を計測する。計測された伝搬速度は、立上がり時間算出手段13に送られる。
【0010】
図2(a)は、超音波の伝搬速度の時間変化の一例を示す図で、横軸はセメントに注水した時刻からの経過時間t[hr]で、縦軸は超音波の伝搬速度v[m/s]である。本例では、スランプフロー試験の場合と同様に、セメントへの注水と練混ぜとを、型枠11外で行い、その後、練混ぜたコンクリート1を型枠11の収納空間11cに収納し、この収納されたコンクリート1内を伝搬する超音波の伝搬速度を計測する。
コンクリート1の打設直後は、コンクリート1の硬化がまだ始まっていないので、送信プローブ12pから送信された超音波はコンクリート1内で散乱され、受信プローブ12qには到達しない。すなわち、同図に示すように、コンクリート1の凝結・硬化がある程度まで進行しないと、受信プローブ12qには超音波が観測されない。
また、図2(b)にも示すように、超音波が観測されたときには、超音波の伝搬速度が急激に立上がる箇所が認められた。急激に立上がる箇所としては、図2(b)の左側の試料A8のように、v=0から急激に立上がる場合や、同図の右側の3つの試料(A2,A4,A6)のように、v=0からある傾きで立上がった後、急激に立上がる場合などがある。なお、図2(c)に示すように、t=tk1から立上がってから緩やかに上昇した後、t=tk2で急激に立上がる場合もある。この場合には、t=tk2が超音波の伝搬速度が急激に立上がった箇所である。
この急激に立上がる箇所が認められた時刻を立上がりの時刻といい、注水した時刻から立上がりの時刻までの経過時間を立上がりの時間という。
図2(b),(c)に示すように、立上がりの時刻における超音波伝搬速度の変化率は、立上がりの時刻より前の時間領域における変化率、及び、立上がりの時刻より後の時間領域における変化率と比較して極めて大きい。すなわち、立上がり時刻では、超音波伝搬速度の変化率は不連続になる。
【0011】
立上がり時間算出手段13は、伝搬速度計測部12cで計測されたコンクリート1内を伝搬する超音波の伝搬速度vの時間変化から立上がりの時間を算出する。具体的には、注水した時刻から超音波伝搬速度vの変化率が不連続になった時刻までの経過時間を求めてこれを立上がり時間とする。なお、立上がりの時間を算出するには、図2(b)に示すように、超音波の伝搬速度vの大きさが500[m/s]付近になるまで計測すれば十分である。
フレッシュ保持性評価手段14は、立上がり時間算出手段13で算出した超音波伝搬速度の立上がり時間から当該コンクリートのフレッシュ保持性を評価する。具体的には、立上がり時間が4時間以上である場合には、当該コンクリートは4時間以上のフレッシュ保持時間を有しているとし、立上がり時間が4時間未満である場合には、当該コンクリートのフレッシュ保持時間が4時間未満であると評価する。
なお、上記例では、型枠11を1個としたが、実際には、複数の型枠111~11nに、それぞれ、異なる配合のコンクリート101~10nを収納して、それぞれ、超音波測定を行うことが好ましい。これにより、フレッシュ保持性の評価を更に効率よく行うことができる。
【0012】
[実験例]
フレッシュ保持性の評価実験に用いたコンクリートの配合を、それぞれ、図3(a),(b)、及び、図4(a),(b)に示す。
図3(a)の表は、現状の現場提案配合である、水セメント比(W/C)=37.5%、細骨材率(s/a)=44,5%、界面活性剤系増粘剤添加量(Vt400S)=W×5%、ポリカルボン酸系高性能減水剤添加量(SN1)=C×3.5%、シリコーン系消泡剤添加量=Vt400S×5.2%をベースとし、流動性の経過保持時間(フレッシュ保持時間)を変化させるため、SN1の添加量をC×6%からC×2.5%まで、C×0.5%刻みで水準練混ぜたもので、これらの試料A1~A8を配合A群という。
同表の試料A6が上記のベースの配合に相当する。
図3(b)の表は、現状の現場提案配合(試料A6)をベースに、Vt400Sの添加量をW×6%からW×2.5%までW×0.5刻みで変化させるとともに、Vt400Sの添加量の減少により流動性が増加することを考慮し、SN1の添加量をC×4.0%からC×0.5%まで適宜減少させたものである。これらの試料B1~B8を配合B群という。なお、試料A6と試料B3とは同一配合である。
図4(a)の表は、配合A群に対して、高性能減水剤をSN1からMY1に変更したものである。なお、MY1を用いた場合には、SN1を用いた場合に比較して流動性が高くなるため、MY1の添加量をSN1の添加量よりもC×1.5%だけ減少させてある。これらの試料C1~C7を配合C群という。
図4(b)の表は、配合B群に対して、Vt400SをVt200LS-3とし、高性能減水剤をSN1からMY1に変更したもので、かつ、MY1の添加量をSN1の添加量よりも適宜増加させてある。これらの試料D1~D7を配合D群という。
【0013】
また、配合A群~配合D群に使用したコンクリートの使用材料は以下の通りである。
(1)セメント(C):早強ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製、密度 3.14g/cm3
(2)水(W):水道水
(3)細骨材(S);洗砂(歌棄産、表乾密度 2.60g/cm3
(4)粗骨材(G):砕石1505(峩朗産、表乾密度 2.68g/cm3
(5)増粘剤(界面活性剤系増粘剤)
(イ)ビスコトップ200LS-3(Vt200LS-3)(花王(株)製)
(ロ)ビスコトップ400S(Vt400S)(花王(株)製)
(6)高性能減水剤(ポリカルボン酸系高性能減水剤)
(イ)高性能減水剤MY-1(MY1)(花王(株)製)
(ロ)高性能減水剤SN-1(SN1)(花王(株)製)
(7)流動性調整剤(高級アルコール系流動性調整剤)
流動性調整剤AD1(AD1)(花王(株)製)
(8)消泡剤(シリコーン系消泡剤)(花王(株)製)
【0014】
図5(a)~(d)に、配合A群~配合D群の超音波の伝搬速度の測定結果を示す。
同図に示すように、配合A群~配合D群のいずれの試料も、超音波の伝搬速度vの大きさが500[m/s]に達する時刻よりも前の時刻に、超音波の伝搬速度が急激に立上がる箇所が認められた。なお、配合A群~配合D群では、図2(c)に示した、超音波の立上がり時刻の前に立上がり、その後緩やかに上昇してから急激に立上がる試料はなかった。
図6(a)は、図5(a)に示した配合A群の8個の試料A1~A8における超音波の立上がり時刻から算出した超音波の立上がり時間を示す棒グラフで、配合A群では、増粘剤であるVt400Sの添加量をW×5%と一定とし、高性能減水剤であるSN1の添加量を試料A1からA8まで、C×0.5%ずつ減少させたものである。
同図からわかるように、超音波の立上がり時間は、SN1の添加量の減少に従い短くなる傾向にある。
これは、高性能減水剤がセメント粒子に付着することで、セメントの水和反応が阻害されるためと考えられる。すなわち、高性能減水剤の添加率が少ないとセメントの水和反応が阻害されず、その結果、コンクリートのフレッシュ保持時間が短くなると考えられる。
したがって、超音波の立上がり時間から、コンクリートのフレッシュ保持時間を評価することができると考えられる。
また、図6(b)は、図5(b)に示した配合B群の8個の試料B1~B8の超音波の立上がり時間を示す棒グラフで、配合B群では、増粘剤であるVt400Sの添加量についても、試料B1からB8まで、W×0.5%ずつ減少させたものである。
同図からわかるように、超音波の立上がり時間の減少する割合は、配合A群に比較して大きくなっている。したがって、超音波の立上がり時間は、Vt400Sの添加量の減少に従いSN1の添加量が低下するため、更に短くなる傾向にあることがわかる。
図6(c)は、図5(c)に示した配合C群の7個の試料C1~C7の超音波の立上がり時間を示す棒グラフで、配合C群では、配合A群の高性能減水剤SN1に替えてMY1を用いたものである。配合C群では、超音波の立上がり時間の減少する割合が、MY1の配合量が多い方では大きく、MY1配合量が少ない方では小さくなる傾向にある。
また、図6(d)は、図5(d)に示した配合D群の7個の試料D1~D7の超音波の立上がり時間を示す棒グラフで、配合D群では、配合B群の増粘剤Vt400Sに替えてVt200LS-3を用いるとともに、高性能減水剤SN1に替えてMY1を用いたものである。配合D群では、超音波の立上がり時間の減少する割合は、Vt200LS-3及びMY1の配合量が多い法でも少ない方でも、配合B群に比較して大きくなっている。
したがって、混和剤の違いや添加量によってフレッシュ保持性が異なることがわかる。
【0015】
次に、スランプフロー値と超音波の立上がり時間の関係について説明する。
なお、本例では、ミニスランプフロー試験を行い、ミニスランプフロー値をスランプフロー値に換算した換算スランプフロー値と超音波の立上がり時間の関係を調べた。
図7は、ミニスランプフロー値とスランプフロー値との関係を示す図で、ミニスランプフロー値とスランプフロー値とは高い相関関係があることがわかる(R2=0.86)。
ミニスランプフロー値をxとすると、換算スランプフロー値yは、y=1.63x+188と表せる。
なお、ミニスランプフロー試験は1時間ごとに行い、超音波の伝搬速度の測定は1分ごとに行った。また、ミニスランプフローの値は、上記の式を用いてスランプフロー値に換算した。
図8(a)は、配合A群の各試料の換算スランプフロー値の時間変化と立上がり時間との関係を示す図である。同図に示すように、超音波の立上がり時間が4時間以上である試料A1~A6では、経過時間が超音波の立上がり時間に達する前の換算スランプフロー値は全て500mm以上であり、かつ、超音波の立上がり時間前後で換算スランプフロー値が急激に低下する傾向が見られた。一方、超音波の立上がり時間が4時間未満である試料A7,A8では、スランプフローの低下が大きく、経過時間が超音波の立上がり時間に達する前に、換算スランプフロー値が500mm以下に低下してしまっていた。
これにより、立上がり時間が4時間以上である場合には、当該コンクリートは4時間以上のフレッシュ保持時間を有していると考えられる。
したがって、本発明によるフレッシュ保持性の評価方法を用いれば、スランプフロー試験は、練り上がり直後のみでよく、スランプフロー試験を1時間ごとに行うことなく、コンクリートのフレッシュ保持性を評価することができる。
なお、試料A1~A6と試料A7,A8とでは、換算スランプフロー値の低下の傾向が異なっているように見えるが、これば、スランプフロー試験では、所定時間経過したコンクリートを練り直した後に、スランプフロー値を測定しているためで、特に、流動性の低い試料A7,A8では、流動性の高い試料A1~A6に比較して、時間が経過した後のスランプフロー値が実際よりも低めに計測されると考えられる。すなわち、試料A7,A8でも、換算スランプフロー値の低下の傾向は試料A1~A6と同様と考えられる。
【0016】
図8(b)は、配合B群の各試料の換算スランプフロー値の時間変化と立上がり時間との関係を示す図である。同図に示すように、増粘剤(Vt400S)と高性能減水剤(SN1)の添加量の多い試料B1~B3では、立上がり時間が8時間を超えており、かつ、経過時間が8時間を超えても換算スランプフロー値は全て500mm以上であった。
また、超音波の立上がり時間が4時間以上8時間以下の試料B4~B6では、経過時間が超音波の立上がり時間に達する前の換算スランプフロー値は全て500mm以上であった。なお、試料B6における超音波の立上がり時間での換算スランプフロー値は、試料B6の低下の傾向が試料B5と同じであると見做し、換算スランプフロー値が500mmであるとした。
このように、配合B群でも、超音波の立上がり時間が4時間未満である試料B7,B8では、スランプフローの低下が大きく、経過時間が超音波の立上がり時間に達する前に、換算スランプフロー値が500mm以下に低下してしまっていた。
したがって、配合B群においても、立上がり時間が4時間以上である場合には、当該コンクリートは4時間以上のフレッシュ保持時間を有していると考えられる。
また、配合A群の高性能減水剤SN1に替えてMY1を用いた試料C1~C7は、図9(a)に示すように、超音波の立上がり時間が全て4時間以上で、換算スランプフロー値も500mm以上であるので、この場合も、超音波の立上がり時間が4時間以上である場合には、当該コンクリートは4時間以上のフレッシュ保持時間を有しているといえる。
また、配合B群の増粘剤Vt400Sに替えてVt200LS-3を用い、高性能減水剤SN1に替えてMY1を用いた配合D群でも、図9(b)に示すように、試料D6,D7の換算スランプフロー値の低下の傾向が試料D4,D5と同様と考えれば、超音波の立上がり時間が全て4時間以上で、換算スランプフロー値も500mm以上であるといえる。したがって、この場合も、超音波の立上がり時間が4時間以上である場合には、当該コンクリートは4時間以上のフレッシュ保持時間を有しているといえる。
【0017】
以上、本発明を実施の形態及び実験例を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0018】
例えば、前記実施の形態では、実験に使用したコンクリートの水セメント比(W/C)と細骨材率(s/a)をほぼ一定としたが、本発明はこれに限るものではなく、SENS用コンクリートとして使用されるコンクリートの水セメント比(W/C)及び細骨材率(s/a)の範囲であれば、適用可能である。
また、増粘剤や高性能減水剤についても、周知のものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 コンクリート、10 コンクリートのフレッシュ保持性の評価装置(評価装置)、11 型枠、11a 側壁、11b 底板、11c 収納空間、
11p,11q プローブ挿入孔、
12 超音波測定器、12a 送信部、12b 受信部、12c 伝搬速度計測部、
12p 送信プローブ、12q 受信プローブ、
13 立上がり時間算出手段、14 フレッシュ保持性評価手段。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9