(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184494
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】セルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法及びセルロースファイバー複合樹脂成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20221206BHJP
C08F 8/10 20060101ALI20221206BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221206BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C08J3/20 Z CEP
C08F8/10
C08L101/00
C08L1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092386
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】今泉 卓三
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直美
(72)【発明者】
【氏名】村田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】山崎 明日香
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AA42
4F070AB11
4F070AB23
4F070AB24
4F070AC72
4F070AD02
4F070FA05
4F070FA17
4F070FB06
4F070FC03
4J002AA011
4J002AB022
4J002BB031
4J002CB001
4J002GF00
4J100HA11
4J100HB37
4J100HC33
4J100HC34
4J100JA28
(57)【要約】
【課題】セルロースファイバー複合樹脂成形物の製造に用いられるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法であって、簡易な工程で効率的にセルロースファイバー複合樹脂原料を製造することが可能であって、セルロースファイバー複合樹脂成形物とした際に、樹脂中にセルロースファイバーの凝集を防ぎつつ均一に分散されたセルロースファイバー複合樹脂成形物が得られるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法を提供する。
【解決手段】セルロースファイバー複合樹脂成形物の製造に用いられるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法であって、未解繊の疎水変性セルロースと、該セルロース100重量部に対して200重量部以上の溶媒と、粒子状熱可塑性樹脂とがセルロースが溶媒に膨潤した状態においてせん断混合されてセルロースが解繊されるとともに粒子状熱可塑性樹脂と複合化されてセルロースファイバー複合樹脂原料を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースファイバー複合樹脂成形物の製造に用いられるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法であって、
未解繊の疎水変性セルロースと、該セルロース100重量部に対して200重量部以上の溶媒と、粒子状熱可塑性樹脂とが前記セルロースが前記溶媒に膨潤した状態においてせん断混合されて前記セルロースが解繊されるとともに前記粒子状熱可塑性樹脂と複合化されてセルロースファイバー複合樹脂原料を得る
ことを特徴とするセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法。
【請求項2】
前記セルロースの平均繊維径が10~40μmである請求項1に記載のセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法。
【請求項3】
前記粒子状熱可塑性樹脂の平均粒子径が100~500μmである請求項1又は2に記載のセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒の沸点よりも低い温度域においてせん断混合される請求項1ないし3のいずれか1項に記載のセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法より得たセルロースファイバー複合樹脂原料が加熱混錬されて成形されてセルロースファイバー複合樹脂成形物を得るセルロースファイバー複合樹脂成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法に関し、特にセルロースファイバー複合樹脂成形物の製造に用いられるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、持続可能な開発目標(SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS(SDGs))と呼ばれる持続可能な開発のために国連が定める国際目標が掲げられ、このうちの環境問題としてプラスチック使用量の削減等がある。石油由来のプラスチックの使用量を削減することによって、GHG削減による気候変動の解決を目指す取り組みがなされている。
【0003】
このことから、樹脂原料に植物由来のセルロースを混合したセルロース複合樹脂が盛んに研究開発されている。例えば、フィブリル化したマイクロ繊維セルロースと樹脂粉末とを混合した繊維状セルロース含有物や(特許文献1参照。)、疎水化セルロースと熱可塑性樹脂を混錬して変性セルロース配合樹脂組成物の製造方法(特許文献2参照。)等が挙げられる。
【0004】
環境問題の取り組みとしての樹脂組成物へのセルロースの利用だけでなく、セルロースファイバーを樹脂に混合して複合させることにより、樹脂の補強材として作用し樹脂成形物の強度や弾性等が向上することから、セルロースファイバー複合樹脂の需要が高まっている。
【0005】
しかしながら、セルロースは一度凝集してしまうと再分散が難しく、樹脂中に均一にセルロースファイバーが分散されていない場合には、かえって成形物の強度の低下を招いてしまうおそれがある。ところが、セルロースファイバーの分散性を高めるためには有機溶媒を使用したりフィブリル化したセルロースの分散液を脱水する等、工程が煩雑化して生産性の低下や製造コストの増加等の問題が生じてしまうことがあった(例えば、特許文献3,4等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6796111号公報
【特許文献2】特許第6787533号公報
【特許文献3】特許第5863269号公報
【特許文献4】特許第5030667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さらに、近年では、樹脂に混合されるセルロースファイバーの繊維径についても研究開発が進み、ナノファイバーのようにナノ径のセルロースファイバーよりも解繊が少ないサブミクロンからミクロン径のセルロースファイバーの方がセルロースファイバーを混合させた樹脂の強度等が向上するといった知見も散見されるようになった。これらのことから、樹脂中に均一に分散され、かつセルロースの凝集を防止するとともに、樹脂製品の用途等によりセルロースファイバーの繊維径についてもコントロールされたセルロースファイバー複合樹脂の需要が高まっている。
【0008】
発明者らは上記の点に鑑み、セルロースファイバーが混合されて複合された樹脂の製造に際し、樹脂成形体に加工する以前のセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法についての検討、改良を重ねた。その結果、より簡易かつ効率的にセルロースファイバー複合樹脂原料を得ることができる製造方法に至った。
【0009】
本発明は、セルロースファイバー複合樹脂成形物の製造に用いられるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法であって、解繊されたセルロースファイバーが粒子状熱可塑性樹脂の介在により水素結合による凝集を防ぐことができるとともに、均一に分散されたセルロースファイバー複合樹脂成形物を、予備解繊を要しない簡易な工程で効率的にセルロースファイバー複合樹脂原料が得られるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、第1の発明は、セルロースファイバー複合樹脂成形物の製造に用いられるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法であって、未解繊の疎水変性セルロースと、該セルロース100重量部に対して200重量部以上の溶媒と、粒子状熱可塑性樹脂とが前記セルロースが前記溶媒に膨潤した状態においてせん断混合されて前記セルロースが解繊されるとともに前記粒子状熱可塑性樹脂と複合化されてセルロースファイバー複合樹脂原料を得ることを特徴とするセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法に係る。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記セルロースの平均繊維径が10~40μmであるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法に係る。
【0012】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記粒子状熱可塑性樹脂の平均粒子径が100~500μmであるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法に係る。
【0013】
第4の発明は、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記溶媒の沸点よりも低い温度域においてせん断混合されるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法に係る。
【0014】
第5の発明は、第1ないし4の発明のいずれかのセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法より得たセルロースファイバー複合樹脂原料が加熱混錬されて成形されてセルロースファイバー複合樹脂成形物を得るセルロースファイバー複合樹脂成形物の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明に係るセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法によると、セルロースファイバー複合樹脂成形物の製造に用いられるセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法であって、未解繊の疎水変性セルロースと、該セルロース100重量部に対して200重量部以上の溶媒と、粒子状熱可塑性樹脂とが前記セルロースが前記溶媒に膨潤した状態においてせん断混合されて前記セルロースが解繊されるとともに前記粒子状熱可塑性樹脂と複合化されてセルロースファイバー複合樹脂原料を得ることから、解繊されたセルロースファイバーが粒子状熱可塑性樹脂の介在により水素結合による凝集を防ぐことができるとともに、均一に分散されたセルロースファイバー複合樹脂成形物を、予備解繊を要しない簡易な工程で効率的にセルロースファイバー複合樹脂原料を製造することが可能である。
【0016】
第2の発明に係るセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法によると、第1の発明において、前記セルロースの平均繊維径が10~40μmであることから、予備解繊のされていないセルロースを用いることにより、複合化前のセルロースの凝集を防ぐことができる。
【0017】
第3の発明に係るセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法によると、第1又は2の発明において、前記粒子状熱可塑性樹脂の平均粒子径が100~500μmであるため、セルロースの解繊が良好となる。
【0018】
第4の発明に係るセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法によると、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記溶媒の沸点よりも低い温度域においてせん断混合されるため、溶媒が揮発せず、セルロースファイバーが膨潤した状態が維持されて、解繊が進行されやすくし、セルロースファイバー複合樹脂成形物とした際に、セルロースファイバーが均一に分散されやすく、凝集がおこりにくい。
【0019】
第5の発明に係るセルロースファイバー複合樹脂成形物の製造方法によると、第1ないし4の発明のいずれかのセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法より得たセルロースファイバー複合樹脂原料が加熱混錬されて成形されてセルロースファイバー複合樹脂成形物を得るため、簡易な工程で外観が良好であって、かつ強度特性に優れたセルロースファイバー複合樹脂成形物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の製造方法により製造された試作例4に係るセルロースファイバー複合樹脂原料の拡大写真である。
【
図2】本発明の製造方法により製造された試作例2のシート状のセルロースファイバー複合樹脂成形物の写真である。
【
図3】本発明の製造方法により製造された比較例3のシート状のセルロースファイバー複合樹脂成形物の写真である。
【
図4】本発明の製造方法により製造されたブランク及び試作例2に係る多目的試験片A12型のセルロースファイバー複合樹脂成形物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の製造方法により製造されるセルロースファイバー複合樹脂原料は、加熱混錬等されてセルロース複合樹脂のペレットに加工された後に他の樹脂原料等と混合されて成形物とされたり、直接成形物へと加工されて製造されることに用いられる原料である。セルロースファイバーは、単純に樹脂と混合しただけでは凝集が多く生じやすく、樹脂成形物の強度向上に寄与させることは困難である。
【0022】
そこで、成形、加工前の樹脂原料の段階において、熱可塑性樹脂とセルロースファイバーを良好な状態で複合させたセルロースファイバー複合樹脂原料とすることによって、成形、加工後の樹脂成形物としたときにもセルロースファイバーの凝集を防ぎ、樹脂成形物の強度や弾性等の向上に寄与することを可能とした。
【0023】
本発明のセルロースファイバー複合樹脂原料は、未解繊の疎水変性セルロースと、該セルロース100重量部に対して200重量部以上の溶媒と、粒子状熱可塑性樹脂とがセルロースが溶媒に膨潤した状態においてせん断混合されて得られる。そして、せん断混合されたときに未解繊セルロースが解繊されてセルロースファイバーとなり、粒子状熱可塑性樹脂と複合化されてセルロースファイバー複合樹脂原料とされるのである。
【0024】
セルロースは、その水酸基を疎水基に置換した疎水変性セルロースとされる。疎水変性前のセルロースは水酸基量が多く、極性の低い樹脂への馴染みが悪いため分散性に欠けるとともに、セルロースファイバーとしたときに、水素結合による凝集が生じやすい。また、水素結合の多いセルロースは、セルロースファイバーに解繊されにくい。このため、セルロースの水酸基を疎水基に置換して、セルロースファイバーとしたときの水素結合を弱くし、凝集の発生を抑制するとともに、樹脂への分散性を高める。さらには、未解繊の疎水変性セルロースとすることにより、樹脂との複合化に前に凝集が生じることを防ぐ。
【0025】
セルロースの疎水化は適宜公知の方法によって行われる。例えば、原料のパルプをシュレッダー等で粉砕し、反応溶媒に30分程度含侵させて攪拌しながら50℃程度に昇温させる。そして所定量の修飾反応化剤と反応触媒を投入して数時間反応させた後に洗浄、脱水を経て水酸基が疎水基に変性された疎水変性セルロースを得ることができる。セルロースの水酸基の疎水基への置換度(DS)は、0.5以上とするのがよい。
【0026】
未解繊の疎水変性セルロースは、過剰量の溶媒とともに粒子状熱可塑性樹脂と混合される。溶媒は、例えば水やイソプロパノール等を用いることができる。溶媒がセルロース量に対して過剰量用いられるのは、セルロースファイバーの集まった構造からなるセルロースのファイバー間に溶媒を含浸させることで、解繊を容易にするためである。また、せん断混合時に凝集が生じたり、樹脂との複合が良好に行われずに、樹脂成形物としたときのセルロースの分散の均一性が確保されづらくなったりするためである。このことから、溶媒はセルロース100重量部に対して200重量部以上混合される。溶媒の量の上限は特に限られないが、せん断混合の効率を考えればセルロース100重量部に対して2000重量部程度までとするのがよい。それ以上は溶媒量が多すぎて、せん断混合時の材料粘度や固形分が小さくなってせん断がかかりづらくなるきらいがある。セルロースファイバー複合樹脂原料としたときにべたつきが生じ、取り回しが良くなくなることがある。
【0027】
そして、セルロースが溶媒に膨潤した状態で粒子状熱可塑性樹脂とせん断混合される。このとき、セルロースは未解繊であって、平均繊維径は10~40μm程度のものが用いられるのがよい。天然素材由来のセルロースの平均繊維径は最大で40μm程度であり、
平均繊維径が10μmよりも小さい場合には、せん断混合の時間が長い場合に、セルロースファイバーが細かくなりすぎて、凝集の発生や、加工、成形後のセルロースファイバー複合樹脂成形物の強度や弾性への寄与が小さくなるおそれがある。セルロースは溶媒におおよそ30分程度浸漬されて膨潤される。せん断混合は、せん断翼の回転数に依存するものの、セルロースが解繊される程度の時間行われる。例えば、回転数が60~100rpmで、10分~20分程度行われるのが良い。
【0028】
樹脂成形物に含有されるセルロースファイバーは、最小単位である3~4nm径までナノファイバー化されたものよりも繊維径が大きいセルロースファイバーの方が強度や弾性の向上に寄与することが知られている。このことから、せん断混合時間を適宜調整することにより、セルロースファイバー複合樹脂原料におけるセルロースファイバーの繊維径を任意に調整可能とし、セルロースファイバー複合樹脂成形物の強度や弾性への寄与を容易に高めることができるのである。
【0029】
本発明に用いられる粒状熱可塑性樹脂は、特に限定されず、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂や生分解性樹脂等が用いられることができる。さらには、動植物、微生物由来の天然樹脂材料も用いられることができる。
【0030】
セルロースと溶媒と粒子状熱可塑性樹脂とは、冷却されながら混合せん断されるのがよい。せん断発熱が生ずるため、溶媒の沸点よりも低い温度域に制御されるのがよい。当該制御により、溶媒を揮発させることなく、セルロースがより膨潤した状態で解繊をすることが可能となるため、解繊されやすく樹脂との複合が効率的にすすみやすくなる。
【0031】
セルロースファイバー複合樹脂原料は
図1に示す試作例4の拡大写真のように、粒子状熱可塑性樹脂にセルロースファイバーが被覆された様な状態であったり、セルロースファイバー同士が、凝集はせずに絡み合った状態で得られる。なお、熱可塑性樹脂を粒状とすることにより、ビーズミルとして作用し、セルロースが解繊されやすくなる。粒子径は100~500μm、特には300~500μmとするとセルロースの解繊が良好となる。100μm未満の場合、羽根とシリンダ間(クリアランス)に対して非常に小さいため、せん断がかかりにくい。一方、500μmより大きい場合、羽根とシリンダ間のクリアランスを樹脂が通過しにくくなり、せん断がかからないおそれがある。特に、弾性率が高い粒子状熱可塑性樹脂を用いるとセルロースが解繊されやすい。可撓性を有する又は弾性率が低い粒子状熱可塑性樹脂を用いる場合にはせん断混合を長時間行うことでセルロースの解繊が図られる。
【0032】
せん断混合されて得られたセルロースファイバー複合樹脂原料は、必要に応じて脱水処理がなされる。セルロースファイバー複合樹脂原料に含有される溶媒量は、おおよそ10重量部以下とすると加工・成形時の取り回しがよくなる。
【0033】
本発明の製造方法により得られたセルロースファイバー複合樹脂原料は、溶融されて成形、加工されたり、他の樹脂等と混合されて溶融され成形、加工されることにより成形物とされる。この際、成形物に含まれるセルロースファイバーが凝集した直径1mm以上の凝集塊は、後述する実施例に示される通り、厚さ100μmのシート状の成形物の5cm2角あたり0個も生ずることはなく、直径0.1~1mmの凝集塊は厚さ100μmのシート状の成形物の5cm2角あたり30個未満となり、セルロースファイバーの凝集の抑制を達成することのできる有意なセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法である。
【実施例0034】
発明者らは、セルロースファイバー複合樹脂原料の作成に際し、疎水変性セルロース、溶媒、粒状熱可塑性樹脂の配合量と種類をそれぞれ変更してセルロースファイバー複合樹脂原料の製造実験を行った。
【0035】
[疎水変性セルロースの調製]
下記のセルロース原料、修飾反応化剤、反応触媒及び反応溶媒を用いて、疎水変性セルロースを調製した。なお、調製に際し、セルロースは解繊しないように攪拌した。
【0036】
〔セルロース原料〕
出発原料となるセルロース原料は、「CA-KP」(Canfor社製)(Ce1)、「リンター512」(Buckeye Technologies社製)(Ce2)を使用した。
【0037】
〔修飾反応化剤〕
修飾反応化剤は、酢酸ビニル(キシダ化学株式会社製)(R1)、ラウリル酸ビニル(東京化成工業株式会社製)(R2)を使用した。
【0038】
〔反応触媒〕
反応触媒は、炭酸カリウム(キシダ化学株式会社製)(Ca1)、「DBU(登録商標)」(サンアプロ株式会社製)(Ca2)を使用した。
【0039】
〔反応溶媒〕
反応溶媒は、ジメチルスルホキシド(東レ・ファインケミカル株式会社製)(S1)を使用した。
【0040】
上記原料を用いて、表1に示す配合により疎水変性セルロースの調製を行った。
【0041】
<疎水変性セルロース1(HCe1)>
セルロース原料(Ce1)1200gをシュレッダーで幅2.5mm程度になるまで粉砕した。反応溶媒(S1)に粉砕したセルロース原料を30分浸漬し、攪拌しながら約50℃になるまで昇温した。修飾反応化剤(R1)4000gと反応触媒(Ca1)800gを投入して3~9時間攪拌して反応させた。イオン交換樹脂で処理したイオン交換水を入れて反応溶媒等を洗浄し、遠心分離機で脱水して疎水変性させたセルロース1を得た。修飾反応化剤(R1)と反応触媒(Ca1)投入後の攪拌時間により、水酸基の疎水基への置換度(DS)が変化する。このため、下記の通り、疎水変性セルロース1(HCe1)を、置換度の異なる疎水変性セルロース(HCe1-1)~(HCe1-6)と区別した。
・疎水変性セルロース1-1(HCe1-1):攪拌時間4時間、置換度(DS)1.20
・疎水変性セルロース1-2(HCe1-2):攪拌時間8時間、置換度(DS)1.39
・疎水変性セルロース1-3(HCe1-3):攪拌時間9時間、置換度(DS)1.58
・疎水変性セルロース1-4(HCe1-4):攪拌時間9時間、置換度(DS)1.69
・疎水変性セルロース1-5(HCe1-5):攪拌時間15時間、置換度(DS)1.87
・疎水変性セルロース1-6(HCe1-6):攪拌時間15時間、置換度(DS)1.88
【0042】
なお、置換度(DS)は、平均酢化度を測定することにより算出した。平均酢化度は、ASTM D-817-91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定方法に準拠して測定した。乾燥した疎水変性セルロース1.9gを精秤し、そこにアセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶液(容量比4:1)150mLを添加した。さらに1N-水酸化ナトリウム水溶液30mLを添加し、25℃で2時間攪拌した。これをろ過、水洗、乾燥してろ紙上の試料のFT-IR測定を行い、エステル結合のカルボニル基に基づく吸収ピークが消失していること、つまりエステル結合が加水分解されていることを確認した。ろ液にフェノールフタレインを指示薬として添加し、1N-硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定した。また、上記と同様の方法でブランク試験を行い、下記式に従って平均酢化度を計測し置換度を算出した。式中、Aは試料の1N-硫酸の滴定量(mL)、Bはブランク試験の1N-硫酸の滴定量(mL)、Fは1N-硫酸の濃度ファクター、Wは試料の重量を示す。
平均酢化度(%) = {6.5・(B-A)・F}/W
置換度 = (平均酢化度・162)/(6005-平均酢化度・42)
【0043】
<疎水変性セルロース2(HCe2)>
セルロース原料(Ce1)1000gをシュレッダーで幅2.5mm程度になるまで粉砕した。反応溶媒(S1)に粉砕したセルロース原料を30分浸漬し、攪拌しながら約60℃になるまで昇温した。修飾反応化剤(R1)3330gと反応触媒(Ca2)670gを投入して6時間反応させた。イオン交換樹脂で処理したイオン交換水を入れて反応溶媒等を洗浄し、遠心分離機で脱水して疎水変性させたセルロース2(HCe2)を得た。置換度(DS)は0.71であった。
【0044】
<疎水変性セルロース3(HCe3)>
セルロース原料(Ce1)105gをシュレッダーで幅2.5mm程度になるまで粉砕した。反応溶媒(S1)に粉砕したセルロース原料を30分浸漬し、攪拌しながら75℃になるまで昇温した。修飾反応化剤(R2)350gと反応触媒(Ca1)84gを投入して4時間反応させた。イオン交換樹脂で処理したイオン交換水を入れて反応溶媒等を洗浄し、遠心分離機で脱水して疎水変性させたセルロース3(HCe3)を得た。置換度(DS)は0.62であった。
【0045】
<疎水変性セルロース4(HCe4)>
セルロース原料(Ce2)105gをシュレッダーで幅2.5mm程度になるまで粉砕した。反応溶媒(S1)に粉砕したセルロース原料を30分浸漬し、攪拌しながら75℃になるまで昇温した。修飾反応化剤(R1)285gと反応触媒(Ca1)42gを投入して4時間反応させた。イオン交換樹脂で処理したイオン交換水を入れて反応溶媒等を洗浄し、遠心分離機で脱水して疎水変性させたセルロース4(HCe4)を得た。置換度(DS)は1.30であった。
【0046】
【0047】
[セルロースファイバー複合樹脂原料の調製]
次に、上記疎水変性セルロース1~4(HCe1~4)と下記の原料を用いてセルロースファイバー複合樹脂原料の調製を行い、試作例1~11と比較例1~4を作成した。
【0048】
〔溶媒〕
溶媒は、イオン交換水(S2)、IPA(イソプロパノール)(富士フィルム和光純薬株式会社製)(S3)を使用した。
【0049】
〔熱可塑性樹脂〕
熱可塑性樹脂は、下記のT1~T3を用い、それぞれのペレットを直径1mm以上のものが10%以下になるまで粉砕し、直径1mm以上のものを篩で除去して使用した。粉砕装置は、T1は冷凍粉砕機、T2及びT3は衝撃式粉砕機を用いた。
・T1:ホモポリプロピレン(「ノバテックFL100A」(登録商標)、日本ポリプロ株式会社製、融点161℃、MFR3.0g/10min、平均粒子径350μm)
・T2:ポリアセタール(「ジュラコンM90-44」(登録商標)、ポリプラスチック株式会社製、融点167℃、MFR9.0g/10min、平均粒子径270μm)
・T3:リニアローデンシティポリエチレン(「グリーンPE SLH218」、BRASKEM社製、融点110℃、MFR2.3g/10min、平均粒子径340μm)
【0050】
〔分散剤〕
また、分散剤として、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(「ユーメックス1010」(登録商標)、三洋化成株式会社製)(D1)、エルカ酸アミド(「ダイヤミッドL-200」(登録商標)、三菱ケミカル株式会社製)(D2)を必要に応じて加えた。
【0051】
上記原料を用いて、表2に示す配合により試作例1~11及び比較例1~4のセルロースファイバー複合樹脂原料の調製を行った。
【0052】
<試作例1>
疎水変性セルロース(HCe4)(DS:1.30)を9.4重量部、溶媒(S2)を53.1重量部(セルロース100重量部に対して567重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を37.0重量部、分散剤(D1)を0.5重量部をせん断混合機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)を用いてQ/Ns=0.005、シリンダー温度10℃としてせん断混合して試作例1のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0053】
<試作例2>
疎水変性セルロース(HCe1-2)(DS:1.39)を6.4重量部、溶媒(S2)を36.2重量部(セルロース100重量部に対して567重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を56.8重量部、分散剤(D1)を0.6重量部をせん断混合機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)を用いてQ/Ns=0.005、シリンダー温度10℃としてせん断混合して試作例2のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0054】
<試作例3>
疎水変性セルロース(HCe1-3)(DS:1.58)を3.4重量部、溶媒(S2)を65.5重量部(セルロース100重量部に対して1900重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を31.0重量部、分散剤は加えずにせん断混合機(「簡易低価格ミキサ(イリブスブレード)1884」、株式会社井元製作所製)を用いてスクリューの回転速度80rpm、シリンダー温度25℃として10分間せん断混合して試作例3のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0055】
<試作例4>
疎水変性セルロース(HCe1-4)(DS:1.69)を5.3重量部、溶媒(S2)を47.4重量部(セルロース100重量部に対して900重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を46.8重量部、分散剤(D1)を0.5重量部をせん断混合機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)を用いてQ/Ns=0.005、シリンダー温度10℃としてせん断混合して試作例4のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0056】
<試作例5>
疎水変性セルロース(HCe1-4)(DS:1.69)を7.1重量部、溶媒(S2)を28.6重量部(セルロース100重量部に対して400重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を63.6重量部、分散剤(D1)を0.7重量部をせん断混合機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)を用いてQ/Ns=0.005、シリンダー温度10℃としてせん断混合して試作例5のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0057】
<試作例6>
疎水変性セルロース(HCe1-4)(DS:1.69)を7.7重量部、溶媒(S2)を23.1重量部(セルロース100重量部に対して300重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を68.5重量部、分散剤(D1)を0.8重量部をせん断混合機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)を用いてQ/Ns=0.005、シリンダー温度10℃としてせん断混合して試作例6のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0058】
<試作例7>
疎水変性セルロース(HCe1-3)(DS:1.58)を8.2重量部、溶媒(S2)を18.2重量部(セルロース100重量部に対して223重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を73.6重量部、分散剤は加えずにせん断混合機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)を用いてQ/Ns=0.005、シリンダー温度10℃としてせん断混合して試作例7のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0059】
<試作例8>
疎水変性セルロース(HCe1-6)(DS:1.88)を11.1重量部、溶媒(S2)を63.0重量部(セルロース100重量部に対して567重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を25.6重量部、分散剤(D1)を0.4重量部をせん断混合機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)を用いてQ/Ns=0.005、シリンダー温度10℃としてせん断混合して試作例8のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0060】
<試作例9>
疎水変性セルロース(HCe3)(DS:0.62)を7.5重量部、溶媒(S2)を42.2重量部(セルロース100重量部に対して567重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を50.3重量部、分散剤は加えずにせん断混合機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)を用いてQ/Ns=0.005、シリンダー温度10℃としてせん断混合して試作例9のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0061】
<試作例10>
疎水変性セルロース(HCe2)(DS:0.71)を6.4重量部、溶媒(S2)を36.2重量部(セルロース100重量部に対して567重量部)、熱可塑性樹脂(T2)を57.4重量部、分散剤は加えずにせん断混合機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)を用いてQ/Ns=0.005、シリンダー温度10℃としてせん断混合して試作例10のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0062】
<試作例11>
疎水変性セルロース(HCe1-3)(DS:1.58)を6.4重量部、溶媒(S2)を36.2重量部(セルロース100重量部に対して567重量部)、熱可塑性樹脂(T3)を57.4重量部、分散剤は加えずにせん断混合機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)を用いてQ/Ns=0.005、シリンダー温度10℃としてせん断混合して試作例7のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0063】
<比較例1>
スーパーマスコロイダー(増幸産業株式会社製)で1500rpmで予備解繊した疎水変性セルロース(HCe1-1)(DS:1.20)を3.4重量部、溶媒(S3)を31.0重量部(セルロース100重量部に対して900重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を65.4重量部、分散剤(D2)を0.2重量部をせん断混合機(「簡易低価格ミキサ(イリブスブレード)1884」、株式会社井元製作所製)を用いてスクリューの回転速度80rpm、シリンダー温度25℃として10分間せん断混合して比較例1のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0064】
<比較例2>
スーパーマスコロイダー(増幸産業株式会社製)で1500rpmで予備解繊した疎水変性セルロース(HCe1-1)(DS:1.20)を5.2重量部、溶媒(S3)を47.2重量部(セルロース100重量部に対して900重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を47.2重量部、分散剤(D2)を0.3重量部をせん断混合機(「簡易低価格ミキサ(イリブスブレード)1884」、株式会社井元製作所製)を用いてスクリューの回転速度80rpm、シリンダー温度25℃として10分間せん断混合して比較例2のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0065】
<比較例3>
疎水変性セルロース(HCe1-5)(DS:1.87)を3.9重量部、溶媒(S2)を22.1重量部(セルロース100重量部に対して900重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を74.0重量部、分散剤は加えずにヘンシェルミキサーにて1000rpmで5分間混合した。固相せん断混合せずに、比較例3のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0066】
<比較例4>
疎水変性セルロース(HCe1-3)(DS:1.58)を9.3重量部、溶媒(S2)を7.3重量部(セルロース100重量部に対して79重量部)、熱可塑性樹脂(T1)を83.4重量部、分散剤は加えずにせん断混合機(「簡易低価格ミキサ(イリブスブレード)1884」、株式会社井元製作所製)を用いてスクリューの回転速度80rpm、シリンダー温度25℃として10分間せん断混合して比較例4のセルロースファイバー複合樹脂原料を得た。
【0067】
【0068】
[セルロースファイバー複合樹脂成形物の作成]
そして、これら各試作例及び比較例のセルロースファイバー複合樹脂原料を加熱混錬して、プレス成型してシート状物としてセルロースファイバー複合樹脂成形物を作成するとともに、該成形物中のセルロースファイバーの凝集塊の数、セルロース面積率及び曲げ物性を測定して評価した。
【0069】
<試作例1>
試作例1のセルロースファイバー複合樹脂原料を二軸混錬押出機(「TEX25αIII」、株式会社日本製鋼所製)を用いてQ/Ns=0.01、シリンダー温度180℃として加熱混錬してペレット状混錬物を得た。その後、簡易射出成型機(「IMC-18D1」、株式会社井元製作所製、シリンダー温度240℃)、金型(多目的試験A12型、株式会社井元製作所製、金型温度30~40℃)を用いてペレット状混錬物から多目的試験片A12型のセルロースファイバー複合樹脂成形物としての試作例1を得た。
【0070】
さらに、平版加熱プレス機(加熱設定温度:樹脂融点+20℃)を用いて、ペレット状混錬物から、厚さ100μmのシート状のセルロースファイバー複合樹脂原成形物としての試作例1を得た。
【0071】
<試作例2>
試作例1と同様に試作例2のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0072】
<試作例3>
試作例3のセルロースファイバー複合樹脂原料をバッチ型二軸混合機(「簡易低価格ミキサ(イリスブレード)1884」、株式会社井元製作所製)を用いて仕込み量5g、スクリューの回転速度80rpm、シリンダー温度200℃として5分間加熱混錬して塊状混錬物を得た。平版加熱プレス機(加熱設定温度:樹脂融点+20℃)を用いて、塊状混錬物から、厚さ100μmのシート状のセルロースファイバー複合樹脂原成形物としての試作例3を得た。
【0073】
<試作例4>
試作例1と同様に試作例4のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0074】
<試作例5>
試作例1と同様に試作例5のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0075】
<試作例6>
試作例1と同様に試作例6のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0076】
<試作例7>
試作例3と同様に試作例7のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0077】
<試作例8>
試作例1と同様に試作例8のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0078】
<試作例9>
試作例1と同様に試作例9のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0079】
<試作例10>
試作例1と同様に試作例10のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0080】
<試作例11>
加熱混錬時のシリンダー温度を130℃とした以外は、試作例1と同様に試作例11のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0081】
<比較例1>
試作例1と同様に比較例1のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0082】
<比較例2>
試作例1と同様に比較例2のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0083】
<比較例3>
試作例3と同様に比較例3のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0084】
<比較例4>
試作例3と同様に比較例4のセルロースファイバー複合樹脂成形物を得た。
【0085】
各試作例及び比較例のセルロースファイバー複合樹脂成形物に関し、凝集塊(個)、セルロース面積率(%)、曲げ物性として曲げ強度(MPa)及び弾性率(GPa)を測定した。結果は表3~6である。
【0086】
〔セルロースファイバー凝集塊〕
セルロースファイバーの凝集塊はシート状のセルロースファイバー複合樹脂成形物5cm
2角あたりの凝集塊を目視で確認した。凝集塊の直径が1mm以上のもの及び0.1~1mm未満のものを数えて凝集塊(個)とした。
図2及び
図3に、試作例2及び比較例3のシート状のセルロースファイバー複合樹脂成形物の写真を代表例として示す。
【0087】
〔セルロース面積率〕
セルロース面積率はシート状のセルロースファイバー複合樹脂成形物5cm2角あたりの白色部分を顕微鏡にて透過偏光観察した。該白色部分の面積率(%)を測定した。測定を行っていない例については表中「-」と表記した。
【0088】
〔曲げ物性〕
「AGS-X」(株式会社島津製作所製)にてプラスチック3点曲げ用治具を使用し、多目的試験片A12型のセルロースファイバー複合樹脂成形物を用いて、支店間距離32mm、試験速度1mm/minで曲げ強度(MPa)及び弾性率(GPa)を測定した。測定を行っていない例については表中「-」と表記した。
【0089】
曲げ物性については、それぞれ疎水変性セルロース及び溶媒を混錬せず、熱可塑性樹脂(T1~T3)のみを用いて多目的試験片A12型の樹脂成形物をブランクとして作成し、曲げ強度及び弾性率を計測しそれぞれの試作例及び比較例に用いた熱可塑性樹脂のみからなる成形物からの倍率も算出した。
図4に、ブランク及び試作例2の多目的試験片A12型のセルロースファイバー複合樹脂成形物の写真を代表例として示す。
【0090】
そして、これらの結果に基づいて総合評価を行った。直径1mm以上のセルロースファイバーの凝集塊が2個以上あるものは「×」とした。直径1mm未満の凝集塊が2個未満であっても、直径0.1~1.0mmのセルロースファイバーの凝集塊が10個以上あるものは「△」とした。直径1mm以上の凝集塊が2個未満かつ直径0.1~1.0mmの凝集塊が10個未満の例のうち、曲げ弾性率が1.2倍以上となったものを「◎」とし、1.2未満又は未測定のものを「〇」と評価した。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
[結果と考察]
同一の粒子状熱可塑性樹脂を使用した試作例1~9及び比較例4について比較検討する。疎水変性セルロースの添加量に対して溶媒の量が少ない比較例4は、直径1mm以上の凝集塊が5個確認された。これに対し、セルロース100重量部に対して200重量部以上添加された試作例1~9については、直径1mm以上の凝集塊は確認されなかった。
【0096】
このことから、十分量の溶媒に膨潤させた疎水変性セルロースと粒子状熱可塑性樹脂とをせん断混合することによって、凝集塊ができにくいことが理解される。これは、疎水変性セルロースを溶媒にて膨潤させることで、繊維間に溶媒が入り込んで解繊されやすくなったこと、及びセルロースをあらかじめ疎水変性させることで繊維間の水素結合が弱まったことに起因すると考えられる。溶媒の添加量について、セルロース100重量部に対して200重量部以上であれば、凝集塊の生じやすさには差はないと考えられる。
【0097】
粒子状熱可塑性樹脂は、ビーズミルとして作用すると考えられることから、疎水変性セルロースとともにせん断混合されることによって、セルロースに適度なシェアがかかり、解繊が進んだと考えられる。
【0098】
また、せん断混合時に、解繊されたセルロース間に粒子状熱可塑性樹脂が存在することによって、セルロース単独での予備解繊で生じる解繊されたセルロースファイバー同士の再凝集が防止されたと推察することができる。
【0099】
さらに、疎水変性セルロースに対し、粒子状熱可塑性樹脂が少ない試作例8にあっては、直径0.1~1.0mmの凝集塊が少量確認された。ビーズミルとして作用すると考えられる粒子状熱可塑性樹脂が疎水変性セルロースに対して少ないため、粒子状熱可塑性樹脂が多い場合に比べて解繊が進みにくいと考えられる。
【0100】
異なる粒子状熱可塑性樹脂を用いた試作例10及び11にあっても直径1mm以上の凝集塊は確認されなかった。なお、試作例11で用いた粒子状熱可塑性樹脂T3は、試作例1~9で用いた粒子状熱可塑性樹脂T1よりも弾性率が低く、直径0.1~1.0mmの凝集塊が他の試作例よりも多くなりセルロース面積率も高くなったと考えられる。つまり、弾性率の高い粒子状熱可塑性樹脂を用いると、セルロースの解繊に対する効果が高いと考えられる。
【0101】
疎水変性セルロースに用いるセルロース原料については、セルロース原料が異なっていても良好な結果を示し、特に限定されないことが確認された。また、疎水変性セルロースの置換度についても、特に限定されず、セルロースの繊維間の水素結合が弱まる程度に疎水変性がなされればよいことが理解される。
【0102】
セルロースについて予備解繊を行った比較例1及び2については、直径0.1~1.0mmの凝集塊が非常に多く確認された。予備解繊を行って、セルロースファイバーの状態でさらに混合されたため、再凝集が生じてしまったと考えられる。
【0103】
また、ミキサにて攪拌されたのみである比較例3については、直径1mm以上の凝集塊も直径0.1~1.0mmの凝集塊も多く確認されたため、せん断混合によるセルロースの解繊が適当であることが確認された。
本発明のセルロースファイバー複合樹脂原料の製造方法によれば、凝集塊が少なく、かつセルロースファイバーが均一に分散されたセルロースファイバー複合樹脂成形物を得ることができるセルロースファイバー複合樹脂原料を簡易な工程で効率的に製造することができる。これにより、石油由来プラスチックの使用量削減を達成することができ、環境問題の解決に寄与することができるとともに、強度特性に優れた樹脂成形物を容易に得ることができる。