(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184496
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】食肉加工食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/00 20160101AFI20221206BHJP
A23L 13/70 20160101ALI20221206BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20221206BHJP
A23J 1/02 20060101ALI20221206BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20221206BHJP
A23L 13/30 20160101ALI20221206BHJP
A23L 17/20 20160101ALI20221206BHJP
【FI】
A23L13/00 A
A23L13/70
A23L17/00 A
A23J1/02
A23L5/00 M
A23L13/30
A23L17/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092390
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】江田 美佳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 重城
【テーマコード(参考)】
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B035LC06
4B035LE01
4B035LE03
4B035LG02
4B035LG15
4B035LG42
4B035LP22
4B042AC01
4B042AC05
4B042AG03
4B042AG07
4B042AG30
4B042AH01
4B042AK01
4B042AP07
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、食肉の硬さが柔らかく、しっとりとして、弾力のある新規な食感の食肉加工食品を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するため、食肉を含有する食肉加工食品において、前記食肉は、二価金属塩の水溶液に溶解するタンパク質を除去してなることを特徴とする、食肉加工食品を提供する。この食肉加工食品によれば、食肉から二価金属塩の水溶液に溶解するタンパク質が除去され、食肉の硬さが柔らかくなり、しっとりとした弾力のある食感とすることができる。また、畜肉臭、食肉加熱香気などの匂いの発生を低減するという効果も認められる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉を含有する食肉加工食品において、
前記食肉は、二価金属塩の水溶液に溶解するタンパク質を除去してなることを特徴とする、食肉加工食品。
【請求項2】
前記二価金属塩は、無機酸のマグネシウム塩又はカルシウム塩であることを特徴とする、請求項1に記載の食肉加工食品。
【請求項3】
以下の工程を備えることを特徴とする、食肉加工食品の製造方法。
(工程1)食肉を準備する工程。
(工程2)二価金属塩の水溶液を準備する工程。
(工程3)前記食肉と前記二価金属塩の水溶液を混合する工程。
(工程4)前記混合工程により得られた食肉と二価金属塩の水溶液の混合物から水分を分離する工程。
【請求項4】
食肉から二価金属塩の水溶液により溶出したタンパク質であることを特徴とする、食肉由来タンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉加工食品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食肉は、例えば、ハンバーグや肉団子、ハムやソーセージなど、様々な形態の食肉加工食品として流通している。これらの食肉加工食品の食感には、筋肉を構成するタンパク質が関与しており、食塩を添加したり、pHを変化させたり、プロテアーゼなどの酵素で処理したりすることによって、タンパク質を変性又は分解し、多様な食感の食肉加工食品を提供している。
【0003】
また、魚肉の改質方法として、水さらし処理が知られている。水さらし処理は、魚肉のすり身を水で洗い、水溶性タンパク質を除去する方法であり、かまぼこや魚肉ソーセージ等の製造に利用されている。魚肉の水さらし処理では、塩濃度が高い海水で処理すると、塩溶性タンパク質が除去され、すり身のゼリー強度が低下するという問題があり、特許文献1には、この問題に対して、海水中の食塩濃度を低減する方法が開示されている。さらに、特許文献1に記載された発明では、キレート剤を添加することによりマグネシウム塩やカルシウム塩の作用をブロックして塩溶性タンパク質の流出を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食肉加工食品において、従来のタンパク質の変性や分解による食肉の食感の変化では、食肉の硬さを柔らかくしつつ、弾力を向上することができない。また、食肉加工食品では、パサついた食感は好まれず、しっとりとした食感が求められている。
そこで、本発明の課題は、食肉の硬さが柔らかく、しっとりとして、弾力のある新規な食感の食肉加工食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、食肉を二価金属塩の水溶液で水さらし処理することにより、食肉の硬さが柔らかくなり、しっとりとした弾力のある食感となるという、従来の魚肉における知見からは予測できない効果を見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の食肉加工食品及びその製造方法である。
【0007】
上記課題を解決するための本発明の食肉加工食品は、食肉を含有する食肉加工食品であって、前記食肉は、二価金属塩の水溶液に溶解するタンパク質を除去してなることを特徴とするものである。
この食肉加工食品によれば、食肉から二価金属塩の水溶液に溶解するタンパク質が除去され、食肉の硬さが柔らかくなり、しっとりとした弾力のある食感とすることができる。
また、畜肉臭、食肉加熱香気などの匂いの発生を低減するという効果も認められる。
【0008】
本発明の食肉加工食品の一実施態様としては、二価金属塩は、無機酸のマグネシウム塩又はカルシウム塩であることを特徴とする。
この特徴によれば、無機酸のマグネシウム塩又はカルシウム塩の水溶液はタンパク質の溶解性に優れるため、食感の変化や匂いの発生抑制に優れた効果が認められる。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の食肉加工食品の製造方法は、以下の工程を備えることを特徴とする。
(工程1)食肉を準備する工程。
(工程2)二価金属塩の水溶液を準備する工程。
(工程3)前記食肉と前記二価金属塩の水溶液を混合する工程。
(工程4)前記混合工程により得られた食肉と二価金属塩の水溶液の混合物から水分を分離する工程。
この食肉加工食品の製造方法によれば、食肉の硬さが柔らかく、しっとりとして、弾力のある食感の食肉加工食品を提供することができる。また、畜肉臭、食肉加熱香気などの匂いの発生を低減された食肉加工食品を提供することができる。
【0010】
ここで、本発明の食肉加工食品の製造方法は、二価金属塩の水溶液で水さらし処理を行うことにより、食肉から多くのタンパク質が溶出されるため、分離液に含まれるタンパク質は、高タンパク食品や飼料のタンパク源、肥料の窒素源として利用することができる。
したがって、本発明の食肉由来タンパク質は、食肉から二価金属塩の水溶液により溶出したタンパク質であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、食肉の硬さが柔らかく、しっとりとして、弾力のある新規な食感の食肉加工食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】二価金属塩の水溶液による水さらし処理について、食肉の食感(硬さ、弾力)に対する効果を示すグラフである。
【
図2】二価金属塩の水溶液による水さらし処理について、匂いに対する効果を示すグラフである。
【
図3】二価金属塩の水溶液による水さらし処理について、匂い成分量の変化を示すグラフである。
【
図4】二価金属塩の水溶液による水さらし処理について、種々の二価金属塩の水溶液による効果の違いを示すグラフである。
【
図5】二価金属塩の水溶液による水さらし処理について、処理後の食肉の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の食肉加工食品及びその製造方法、食肉由来タンパク質について詳細に説明する。なお、実施態様に記載する事項については、本発明を説明するために例示したに過ぎず、これらに限定されるものではない。また、食肉加工食品及びその製造方法、食肉由来タンパク質において、互いに共通して適用される技術的事項については、各発明の説明に記載された事項を共有する。
【0014】
[食肉加工食品]
本発明の食肉加工食品は、食肉を含有する食肉加工食品であって、食肉は、二価金属塩の水溶液に溶解するタンパク質を除去してなることを特徴とするものである。
この食肉加加工食品によれば、食肉から二価金属塩の水溶液に溶解するタンパク質が除去されることによって、食肉の硬さが柔らかくなり、しっとりとした弾力のある食感を得ることができる。また、畜肉臭、食肉加熱香気などの匂いの発生を低減するという効果も認められる。
【0015】
食肉は、約20質量%の筋肉タンパク質と、約70質量%の水分と、残りを脂質、炭水化物、ビタミンなどから構成されており、筋肉タンパク質は、約50質量%の筋原線維タンパク質、約30質量%の筋漿タンパク質、約20質量%の肉基質タンパク質に大別される。
筋原線維タンパク質は、塩溶性タンパク質であるアクチン、ミオシン、及びアクチンとミオシンが結合したアクトミオシンにより構成され、アクトミオシンが多くを占めている。アクトミオシンは、塩濃度やpHによって、食感が変化するタンパク質である。
筋漿タンパク質は、筋原線維間にある肉漿に溶解した状態で存在する水溶性タンパク質であり、酸素の運搬に関わるミオグロビンと、解糖系に関わる酵素を含むミオゲンなどがある。ミオグロビンは、色素タンパク質であり、肉の赤色の由来は、このタンパク質の色に由来している。
肉基質タンパク質は、コラーゲンやエラスチンなどを主成分とする結合組織であり、基本的に不溶性のタンパク質から構成される。コラーゲンは、加熱による変性と収縮によって密度が増して硬化するタンパク質であり、エラスチンはゴムのような伸縮性を有するタンパク質であり、肉基質タンパク質は、食肉の食感に影響する。また、コラーゲンやエラスチンは、複雑な構造をしているため、pH調整などにより改質しにくいタンパク質である。
【0016】
本発明の食肉加工食品は、食肉に対して、二価金属塩の水溶液を用いて水さらし処理を行うことにより得ることができる。二価金属塩の水溶液で処理することにより、筋漿タンパク質だけでなく、筋原線維タンパク質の一部も溶出するため、食肉のコラーゲンやエラスチンの食感が強く表れる。これにより、しっとりとした弾力のある食感の食肉加工食品が得られる。一方、魚肉に対して同様の処理を行うと、弾力が低下し、パサパサとして食感となる。この食感の違いは、コラーゲンやエラスチンなどの構造タンパク質の違いに起因しているものと推察される。
【0017】
さらに、本発明の食肉加工食品は、ミオグロビンなどの筋漿タンパク質も十分に除去されている。筋漿タンパク質は、食肉加工食品特有の畜肉臭、食肉加熱香気の発生の原因であり、二価金属塩の水溶液で処理することにより、これらの匂いの発生を低減することができる。また、筋漿タンパク質は、灰汁の原因でもあり、二価金属塩の水溶液で処理することにより灰汁の発生を低減することが可能である。灰汁の発生を抑制することにより、灰汁に起因する味や外見(つや)への悪影響を低減することができる。
【0018】
本発明の食肉は、哺乳類又は鳥類の食用とする肉である。哺乳類としては、例えば、牛、豚、羊、山羊、馬、鹿、イノシシ、イノブタ、クマ、カンガルー、トナカイ、水牛、ヤク、犬、ラクダ、ロバ、ラバ、ウサギ、ネズミ等が挙げられる。また、クジラ、イルカ、トド、アザラシなどの海洋哺乳類でもよい。鳥類としては、例えば、鶏、マガモ、キジ、アヒル、七面鳥、ライチョウ、ホロホロチョウ、ガチョウ、ウズラ、カワラバト、ダチョウ、コウモリ等が挙げられる。
食肉の部位としては、筋肉タンパク質を含有する部位であれば特に限定されるものではないが、好ましくは骨格筋である。
【0019】
本発明の食肉加工食品における食肉の形態は、特に制限されないが、例えば、ブロック肉、スライス肉、小間切れ肉、挽肉等が挙げられる。二価金属塩の水溶液による水さらし処理においてタンパク質を除去しやすいという観点から、細断又はチョッピングされた食肉が好ましい。また、チョッピングされた挽肉からタンパク質を除去後に、成形した成形肉でもよい。
【0020】
本発明の食肉加工食品は、食肉を含有する製品であれば特に限定されるものではないが、例えば、ハム、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、シュウマイ、餃子、メンチカツ、サラダチキン、ベーコン、フライドチキン、角煮、ステーキ、チャーシュー等が挙げられる。
【0021】
食肉加工食品中に含まれる食肉の含有量は、特に制限されないが、例えば、10質量%以上である。本発明の食肉加工食品の新規な食感がより感じられるという観点から、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。
【0022】
食肉加工食品には、風味等を向上させる調味料を添加してもよい。調味料としては、例えば、食塩、砂糖、酢、しょう油、味噌、みりん、アミノ酸、肉エキス、野菜エキス、香辛料、着色料、酸化防止剤等が挙げられる。これらの調味料は、調味液として添加してもよい。
【0023】
本発明の食肉加工食品は、食塩を含有することが好ましい。食塩を含有することにより、タンパク質の保水性が向上し、しっとりとして、弾力のある食感を付与する効果を一層発揮することができる。
食肉加工食品中に含まれる食塩の含有量は、特に制限されないが、例えば、0.01~5.0質量%である。下限値として、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.3質量%以上である。上限値として、好ましくは3.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0024】
[食肉加工食品の製造方法]
本発明の食肉加工食品の製造方法は、以下の工程を備えることを特徴とするものである。
(工程1)食肉を準備する工程。
(工程2)二価金属塩の水溶液を準備する工程。
(工程3)前記食肉と前記二価金属塩の水溶液を混合する工程。
(工程4)前記混合工程により得られた食肉と二価金属塩の水溶液の混合物から水分を分離する工程。
【0025】
工程1は、食肉を準備する工程である。食肉は、筋肉タンパク質を含有する状態であればよいが、予め脂肪をトリミングすることが好ましい。
また、食肉の形状はどのような形状でもよく、例えば、ブロック肉、スライス肉、小間切れ肉、挽肉等の状態でもよい。二価金属塩の水溶液による水さらし処理においてタンパク質を除去しやすいという観点から、挽肉機でチョッピングされた挽肉が好ましい。挽肉機の孔径は、例えば、1~5mmであり、好ましくは2~4mmである。
【0026】
工程2は、二価金属塩の水溶液を準備する工程である。二価金属塩は、酸の水素原子を二価の金属イオンに置き換えた化合物である。二価の金属イオンは、例えば、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、鉄イオン(Fe2+)等が挙げられる。タンパク質の溶出性に優れるという観点から、マグネシウムイオンが好ましい。また、匂いの原因となるアルデヒド類や硫黄化合物成分の発生を抑制するという観点では、カルシウムイオンが好ましい。
【0027】
二価金属塩の対イオンは、有機酸塩又は無機酸塩のいずれでもよい。有機酸塩は、例えば、炭素数1~6の有機酸塩であり、有機酸塩には、水素、窒素、硫黄、リンなどの元素を含有してもよい。有機酸塩としては、例えば、カルボン酸塩、硫酸塩などが挙げられる。また、ヒドロキシ基を有するヒドロキシ酸塩でもよい。有機酸塩の具体例としては、プロピオン酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等が挙げられる。無機酸塩の具体例としては、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化鉄等が挙げられる。
食肉からタンパク質を除去する能力が高いという観点から、無機酸の二価金属塩が好ましく、塩化マグネシウムが特に好ましい。
【0028】
二価金属塩の水溶液の濃度は、例えば、0.05~10.0質量体積パーセント(w/v%)である。下限値として、好ましくは0.1w/v%以上であり、より好ましくは0.3w/v%以上である。上限値として、好ましくは5.0w/v%以下であり、より好ましくは3.0w/v%以下であり、さらに好ましくは1.0w/v%以下である。0.05w/v%以上とすることにより、食肉からタンパク質を溶出する作用が十分に発揮される。また、10.0w/v%以下とすることにより、食肉加工食品の風味への影響を抑えることができる。
【0029】
工程3は、食肉と二価金属塩の水溶液を混合する工程である。混合する手段は、どのような方法でもよく、例えば、二価金属塩の水溶液中に食肉を浸漬する手段や、二価金属塩の水溶液と食肉を撹拌手段により混合する手段などが挙げられる。
【0030】
食肉と二価金属塩の水溶液との質量比(食肉:二価金属塩の水溶液)は、特に制限されないが、例えば、1:0.1~100であり、好ましくは1:1~50であり、より好ましくは1:2~30であり、さらに好ましくは1:3~20である。この範囲とすることにより、効率よく食肉からタンパク質を溶出することができる。
【0031】
食肉と二価金属塩の水溶液を混合する際の温度は、例えば、1~40℃である。下限値として、好ましくは5℃以上である。上限値として、好ましくは35℃以下であり、より好ましくは30℃以下である。1℃以上とすることにより、水溶液が凍結することなく食肉と混合することができる。また、40℃以下とすることにより、筋肉タンパク質の変性を防ぎ、食肉からタンパク質を溶出することができる。
【0032】
工程4は、工程3により得られた食肉と二価金属塩の水溶液の混合物から水分を分離する工程である。混合物から水分を分離する手段は、どのような方法でもよく、例えば、篩やネットなどのろ過手段により固液を分離する手段や、遠心力により固液を分離する手段や、沈降分離により固液を分離する手段などが挙げられる。
【0033】
また、工程3及び工程4は、水さらし処理用の装置により連続的に行うことも可能である。水さらし処理用の装置としては、例えば、実公昭48-41349号公報に記載された「魚肉さらし装置」などを利用することができる。
【0034】
二価金属塩の水溶液で水さらし処理された水さらし肉は、食塩を添加する工程を備えることが好ましい。食塩を添加することにより、タンパク質の保水性が向上し、しっとりとして、弾力のある食感を付与する効果を一層発揮することができる。
水さらし肉に添加する食塩の添加量は、特に制限されないが、例えば、0.01~5.0質量%である。下限値として、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.3質量%以上である。上限値として、好ましくは3.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0035】
食塩を添加する手段としては、特に制限されないが、食塩の粉末を水さらし肉に添加する手段や、食塩水として水さらし肉に添加する手段などが挙げられる。
【0036】
水さらし肉は、加熱する工程を備えることが好ましい。加熱する手段は、例えば、鉄板や直火などにより焼成する手段や、フライヤーで油ちょうする手段や、湯中で加熱する手段や、レトルト(加圧加熱)による加熱手段などが挙げられる。水さらし肉を加熱することにより、本発明の効果を一層発揮することができる。
【0037】
加熱温度は、特に制限されないが、例えば、45~250℃である。焼成や油ちょうで加熱する場合には約150~250℃であり、湯中で加熱する場合には約45~100℃であり、レトルトで加熱する場合には約100~130℃である。
なお、加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定することができる。
【0038】
[食肉由来タンパク質]
本発明の食肉由来タンパク質は、食肉から二価金属塩の水溶液により溶出したタンパク質であることを特徴とするものである。二価金属塩の水溶液で水さらし処理を行うことにより発生した分離液には、タンパク質が多く含まれており、高タンパク食品や飼料のタンパク源、肥料の窒素源等として利用することができる。
【0039】
食肉由来タンパク質は、分離液をそのまま利用してもよいし、脱塩処理により二価金属塩を除去してもよいし、乾燥処理により乾燥タンパク質としてもよい。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[試験1:食肉の食感、匂いについての評価]
(実施例1)
鶏むね肉の脂肪をトリミングし、孔径3mmの挽肉機でチョッピングして、鶏挽肉を得た。得られた鶏挽肉1質量部に対して、0.5w/v%の塩化Mg水溶液10質量部を混合し、小型卓上フリーフォール真空タンブラー(GLASS社製)を用いて撹拌した(25℃、肉重量500g、30分間)。鶏挽肉と塩化Mg水溶液の混合物を孔径1mm程度のネットで包み、自重により水を切り、水さらし肉を得た。
得られた水さらし肉に対して、0.5質量%となるように食塩を加え、フードプロセッサーで混合した。次いで、食塩を混合した水さらし肉を、三方袋に入れて真空密封し、1cm程度の厚みの板状に形を整え、一晩塩漬した。塩漬した水さらし肉を200℃のホットプレートで加熱して、鶏むね肉の焼成物を得た。
(比較例1)
鶏挽肉を塩化Mg水溶液で処理しない以外は、実施例1と同様に鶏むね肉の焼成物を得た。
【0042】
(実施例2)
鶏むね肉に代えて豚ロース肉を使用し、塩化Mg水溶液に代えて炭酸Ca水溶液とした以外は、実施例1と同様に豚ロース肉の焼成物を得た。
(比較例2)
豚ロース肉を塩化Mg水溶液で処理しない以外は、実施例2と同様に豚ロース肉の焼成物を得た。
【0043】
(参考例1)
鶏むね肉に代えてメバチマグロ肉を使用した以外は、比較例1と同様にメバチマグロ肉の焼成物を得た。
(参考例2)
鶏むね肉に代えてメバチマグロ肉を使用した以外は、実施例1と同様にメバチマグロ肉の焼成物を得た。
(参考例3)
豚ロース肉に代えてメバチマグロ肉を使用した以外は、実施例2と同様にメバチマグロ肉の焼成物を得た。
【0044】
<官能評価試験>
各例の焼成物の食感(弾力、硬さ)及び匂いについて、以下の官能評価試験により評価した。
〔食感(弾力、硬さ)〕
官能評価試験は、訓練されたパネラー5名が焼成物を喫食し、二価金属塩の水溶液で処理していない焼成物(以下、「無処理品」という。)を基準として、以下の評価基準により弾力及び硬さの各項目について評価した。なお、評価結果は、5名のパネラーの平均点とした。結果を
図1に示す。
(評価基準)
5:無処理品より、弾力、硬さが大きく向上している。
4:無処理品より、弾力、硬さがやや向上している。
3:無処理品と同等の弾力、硬さである。
2:無処理品より、弾力、硬さがやや低下している。
1:無処理品より、弾力、硬さが大きく低下している。
【0045】
〔匂い〕
官能評価試験は、訓練されたパネラー5名が焼成物を喫食し、無処理品を基準として、以下の評価基準により匂いについて評価した。なお、評価結果は、5名のパネラーの平均点とした。結果を
図2に示す。
(評価基準)
5:無処理品より、匂いが強い。
4:無処理品と匂いの強さが同等である。
3:無処理品より、匂いがやや弱い。
2:無処理品より、匂いが弱い。
1:無処理品より、匂いが非常に弱い。
【0046】
また、各例の焼成物の食感及び匂いについて、パネラーのコメントを以下の表1に示す。なお、食感、匂いに関するコメントは、基準との相対的な評価ではなく、20~50歳のパネラーの感想である。
【表1】
【0047】
図1及び表1を参照すると、食肉を二価金属塩の水溶液で処理した場合には、硬さが柔らかくなり、弾力が増加した。また、肉塊としてまとまりのある食感となり、しっとりとした肉塊が得られた。一方、魚肉を二価金属塩の水溶液で処理した場合には、硬さは柔らかくなったが、弾力が弱くなった。また、肉塊としてまとまりがなくパサついた食感であった。
【0048】
さらに、
図2及び表1の結果を参照すると、食肉及び魚肉のいずれにおいても匂いが低減した。食肉の場合には、匂いの低減効果が特に優れており、匂いが非常に弱くなるまで低減された。
【0049】
[試験2:食肉の匂いの低減効果についての評価]
(実施例3)
鶏むね肉を、実施例1と同様に水さらし処理及び塩漬処理を行い、塩漬した水さらし肉を得た。塩漬した水さらし肉を、三方袋に真空密封し、ボイル(80℃、30分間)による加熱処理を行い、鶏むね肉の加熱加工品を得た。
(比較例3)
鶏挽肉を塩化Mg水溶液で処理しない以外は、実施例3と同様に鶏むね肉の加熱加工品を得た。
【0050】
(実施例4)
塩漬した水さらし肉の加熱処理を、レトルト(121℃、15分間)とした以外は、実施例3と同様に鶏むね肉の加熱加工品を得た。
(比較例4)
鶏挽肉を塩化Mg水溶液で処理しない以外は、実施例4と同様に鶏むね肉の加熱加工品を得た。
【0051】
(実施例5)
豚ロース肉を、実施例2と同様に水さらし処理及び塩漬処理を行い、塩漬した水さらし肉を得た。塩漬した水さらし肉を、三方袋に真空密封し、ボイル(80℃、30分間)による加熱処理を行い、豚ロース肉の加熱加工品を得た。
(比較例5)
豚ロース肉を炭酸Ca水溶液で処理しない以外は、実施例5と同様に豚ロース肉の加熱加工品を得た。
【0052】
(実施例6)
塩漬した水さらし肉の加熱処理を、レトルト(121℃、15分間)とした以外は、実施例5と同様に豚ロース肉の加熱加工品を得た。
(比較例6)
豚ロース肉を炭酸Ca水溶液で処理しない以外は、実施例6と同様に豚ロース肉の加熱加工品を得た。
【0053】
<GC/MSによる匂い成分の分析>
各例の加熱加工品の匂い成分としてアルデヒド類及び硫黄化合物成分を、ガラスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いて測定した。
〔試料の調製〕
各例の加熱加工品を破砕し、均一化した後、香気捕集用フラスコに採取した。試料温度を40℃に安定させた後、窒素ガスパージを行い、香気成分をテナックス捕集管に捕集した。香気成分を捕集した捕集管に、内部標準物質として0.1v/v%ベンジルアルコール水溶液1μLを添加した。テナックス捕集管を加熱脱着装置(GERSTEL社TDS)に導入し、気化した香気成分をGC/MS(Agilent社)に供した。
〔加熱脱着装置の測条件〕
キャリアーガス:高純度ヘリウムガス 21psi
熱脱着温度:210℃
CIS4:-150℃→210℃
CTS2:-150℃→210℃
(GC/MSの測定条件)
カラム:J&W DB-WAX 60m×0.32mm I.d.×0.25μm
キャリアーガス:高純度ヘリウムガス 21psi at 40℃ 定流量
昇温条件:40℃(hold 2.5min)→5℃/min→210℃<hold>
分析時間:75min
EI測定:マスレンジ20~350
【0054】
GC/MSの結果を
図3に示す。なお、GC/MSのAREA数値は、内部標準物質であるベンジルアルコールを1E+09となるように補正したものである。
図3に示すアルデヒド類のピーク面積は、プロパナール、ブタナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、トリデカナール、テトラデカナール、ペンタデカナール、ヘプタデカナール、2-ブチル-2-オクテナール、TRANS-2-ヘキセナール、TRANS-2-ヘプテナール、TRANS-2-オクテナール、TRANS-2-ノネナール、E2,E4-ヘプタジエナール、E2,E4-オクタジナール、E2,E4-ノナジナール、E2,E4-デカジエナール、E2,Z4-ヘプタジエナール、E2,Z4-デカジエナールの合算のピーク面積である。
また、
図3に示す硫黄化合物成分のピーク面積は、メチルメルカプタン、カーボンジスルフィド、チオフェン、ジメチルスルフィド、メルオナール、3-メチルチオフェン、ジメチルトリスルフィド、3-(メチルチオ)プロパノール、ジメチルスルホキシド、2-チオフォンカルボキシアルデヒドの合算のピーク面積である。
【0055】
図3に示されるように、二価金属塩の水溶液で処理された食肉加工食品は、未処理のものと比べて、畜肉臭、食肉加熱香気などの匂いの原因物質と考えられるアルデヒド類や硫黄化合物成分を顕著に低減することがわかった。この結果は、前記の官能評価の結果を裏付けるものである。
また、塩化Mg水溶液で処理された鶏むね肉と、炭酸Ca水溶液で処理された豚ロース肉の試験結果を比較すると、炭酸Ca水溶液で処理された豚ロース肉の方が、アルデヒド類及び硫黄化合物成分の発生量が大きく低減された。つまりは、カルシウム塩の水溶液による処理は、食肉の加熱による匂いの発生を低減する効果に優れることが認められた。
【0056】
[試験3:種々の二価金属塩の水溶液による効果]
種々の二価金属塩の水溶液を用いて、実施例1と同様に、鶏挽肉を水さらし処理を行い、水さらし処理により分離された分離液中に含有するタンパク質量を以下の方法により測定した。
〔タンパク質量の測定方法〕
水さらし処理後の分離液を回収し、3000rpm、10分間で遠心した。遠心後、上清を回収し、280nmにおける吸光度を測定した。また、ブランク溶液として、水さらし処理を行っていない二価金属塩の水溶液を遠心して、同様に吸光度を測定した。水さらし処理を行った分離液の吸光度とブランク溶液の吸光度の差分を算出して、その値をタンパク質量とした。
【0057】
二価金属塩は、塩化マグネシウム、炭酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウムを用いた。また、対照として、純水で水さらし処理した分離液についてもタンパク質量を測定した。結果を、
図4に示す。
【0058】
図4に示されるように、純水で水さらし処理した場合に比べて、二価金属塩の水溶液で水さらし処理をした場合には、分離液に含まれるタンパク質量が多いことがわかった。すなわち、純水と比較して、二価金属塩の水溶液は、食肉からタンパク質を除去する能力が高いといえる。
また、無機酸(塩化マグネシウム、炭酸カルシウム)の二価金属塩の水溶液の方が、有機酸(プロピオン酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム)の二価金属塩の水溶液より、食肉からタンパク質を除去する能力が高いことがわかった。
【0059】
[試験4:二価金属塩の水溶液により除去されるタンパク質]
実施例1と同様に、鶏むね肉を塩化マグネシウム水溶液で処理した水さらし肉を、透明なビニール袋に封入して水さらし肉の写真を撮影した(試料ラベル「塩化Mg」)。また、実施例1と同様に鶏むね肉をチョッピングして得られた鶏挽肉を、透明なビニール袋に封入して鶏挽肉の写真を撮影した(試料ラベル「水さらしなし」)。これらの写真を
図5に示す。
【0060】
図5を見ると、二価金属塩の水溶液により処理された水さらし肉は、赤味が無く、白色であった。一方、水さらし処理をしない場合には、赤味を帯びていた。この結果から、二価金属塩の水溶液により処理された水さらし肉は、食肉の赤味を呈する成分であるミオグロビンが溶出していることがわかる。ミオグロビンが低減したことにより、硬さや弾力などの食感が変わり、新たな食感の食肉加工食品を提供することができた。
本発明の食肉加工食品及びその製造方法は、食肉の硬さを柔らかくしつつ、しっとりとした弾力のある食感を付与するため、新たな食感の食肉加工食品を提供することができる。
また、本発明の食肉加工食品の製造方法により食肉から取り除かれた食肉由来タンパク質(バイプロダクト)は、高タンパク食品や飼料のタンパク源、肥料の窒素源などに利用することができる。