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特開2022-184532下肢力覚提示装置及び該装置を用いた下肢力覚提示方法。
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184532
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】下肢力覚提示装置及び該装置を用いた下肢力覚提示方法。
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/01 20060101AFI20221206BHJP
   A63G 31/02 20060101ALI20221206BHJP
   A63F 13/25 20140101ALI20221206BHJP
   F15B 15/10 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
G06F3/01 560
A63G31/02
A63F13/25
F15B15/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092448
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊也
(72)【発明者】
【氏名】増田 大貴
(72)【発明者】
【氏名】奥井 学
(72)【発明者】
【氏名】西▲濱▼ 里英
【テーマコード(参考)】
3H081
5E555
【Fターム(参考)】
3H081AA18
5E555AA57
5E555AA76
5E555BA04
5E555BA20
5E555BB04
5E555BB20
5E555BC04
5E555BE17
5E555DA08
5E555DA24
5E555DC84
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】ユーザー自身の歩行による広域な移動を可能にしながら、ユーザーに対して落下時に下肢にかかる力覚を提示することが可能な下肢力覚提示装置及び該装置を用いた下肢力覚提示方法を提供する。
【解決手段】視覚的情報を提供する映像表示装置11とともに用いられ、ユーザー90の下肢に力覚を提示する下肢力覚提示装置10。下肢力覚提示装置10は、ユーザー90の左右の足92に装着可能に構成された一対の足底力覚提示部12と、足側力覚提示部12の動作を制御する制御部18と、を備え、各足底力覚提示部12は、底部20と、足92が載置された状態で該足に装着される足載置部22と、足載置部22を底部20に対して上昇・下降させる昇降機構30と、を備え、制御部18は、映像表示装置11により落下映像が提供されるタイミングに同期させて、足載置部22を所定の加速度で下降させるように昇降機構30を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザーに視覚的情報を提供する映像表示装置とともに用いられ、ユーザーの下肢に力覚を提示する下肢力覚提示装置において、
ユーザーの左右の足に装着可能に構成された一対の足底力覚提示部と、
前記足側力覚提示部の動作を制御する制御部と、
を備え、
各足底力覚提示部は、
接地面を形成する底部と、
前記底部の上方側に設けられ、ユーザーの足が載置された状態で該足に装着される足載置部と、
前記底部と前記足載置部との間に配置されて、前記足載置部を前記底部に対して上昇・下降させる昇降機構と、
を備え、
前記制御部は、前記映像表示装置により落下映像が提供されるタイミングに同期させて、前記足載置部を所定の加速度で下降させるように前記昇降機構を制御することを特徴とする下肢力覚提示装置。
【請求項2】
前記昇降機構は、
菱形に形成されたリンクで構成され、下端が前記底部に固定されて上下方向に伸縮自在なパンタグラフ構造部と、
前記パンタグラフ構造部に連結されて該パンタグラフ構造部を伸縮させるアクチュエータと、を備えることを特徴とする請求項1に記載の下肢力覚提示装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、円筒状の弾性体の内部に供給される流体圧の変化によって軸方向に伸縮動作する人工筋肉であり、
前記パンタグラフ構造部は、前記人工筋肉の伸縮動作に連動して伸縮することを特徴とする請求項2に記載の下肢力覚提示装置。
【請求項4】
前記昇降機構は、前記パンタグラフ構造部がユーザーの自重により収縮する状況で、当該収縮動作に制動力を付与する制動部を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の下肢力覚提示装置。
【請求項5】
前記制動部は、内部に充填された機能性流体が外部刺激によって粘性変化することで前記制動力を調整可能な機能性流体制動部であることを特徴とする請求項4に記載の下肢力覚提示装置。
【請求項6】
前記底部と前記足載置部との間に配置されて、前記底部に対して前記足載置部を前後方向に傾斜させる傾斜機構を備えたことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の下肢力覚提示装置。
【請求項7】
ユーザーの大腿部及び下腿部に装着される一対の外骨格型の脚部力覚提示部を備え、
各脚部力覚提示部は、
大腿部に装着される第1のフレーム部と、
下腿部に装着される第2のフレーム部と、
前記第1のフレーム部の下端部と前記第2のフレーム部の上端部との間に配置され、前記第1のフレーム部及び前記第2のフレーム部を屈伸させる関節駆動部と、を備え、
前記関節駆動部は、前記映像表示装置によりユーザーの脚部に重力方向又は反重力方向の力が作用する視覚的情報が提示されるタイミングと同期させて前記第1のフレーム部及び前記第2のフレーム部を屈曲又は伸長させることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の下肢力覚提示装置。
【請求項8】
ユーザーが前記足底力覚提示部を装着した状態で歩行可能な床面を形成する床板と、
前記足底力覚提示部の前記底部及び/又は前記床板に内蔵され、前記床板に対して前記底部を固定状態と解放状態とに切替可能な底部固定機構と、
を備えることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の下肢力覚提示装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の下肢力覚提示装置を用いて前記映像表示装置による落下映像とともに力覚を提示する下肢力覚提示方法であって、
落下初期に前記足底力覚提示部の前記足載置部を第1の加速度で下降させる工程と、
落下途中に前記足載置部を前記第1の加速度から減速して下降停止させる工程と、
落下終了時期に前記足載置部を第2の加速度で下降させた後、下降停止させる工程と、を含むことを特徴とする下肢力覚提示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下肢力覚提示装置及び力覚提示方法に関し、特に、視覚的な情報とともに下肢力覚を提示する下肢力覚提示装置及び該下肢力覚提示装置を用いた下肢力覚提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゲーム機等において、ユーザーが頭部にヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し、コンピュータグラフィックスによる立体映像を視聴する仮想現実体験装置が開発されている。このような仮想現実体験装置では、ユーザーに現実感を持たせるために、映像とともにユーザーの下肢部に力感覚を付与する力覚提示装置を備えたものが知られている。
この様な力覚提示装置は、実際の落下速度や落下距離に相当する動きをユーザーに付与するものではないが、必要な力感覚を付与することで視覚的な認識と相俟って、より高い臨場感を与えることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、HMDと昇降自在なステージを有する力覚提示装置とを用いてユーザーに落下感覚を提示する装置が開示されている。この装置では、ユーザーの頭部にHMDを装着させた状態で、ユーザーをステージが上昇位置にある力覚提示装置のステージ上に乗せる。この状態で、HMDによりユーザーに高所から落下する映像を視聴させるとともに、落下時に力覚提示装置のステージを上昇位置から下降位置へ瞬時に移動させると、ユーザーは視覚的な落下の感覚とともに、身体に重力が作用して高所から落下したような感覚を得ることができる。
【0004】
また、非特許文献1には、ユーザーの左右の足に装着する靴型の力覚提示装置が開示されている。この靴型力覚提示装置は、ユーザーの足が挿入される靴型の装着部の下面と、地面に接するアウトソール部との間に、上下方向に伸縮するMR流体アクチュエータとスプリングとが装着されている。
【0005】
この靴型力覚提示装置において、MR流体アクチュエータは、装着部の下面の前方及び後方の2箇所に取付けられており、スプリングは、2つのMR流体アクチュエータの間に上下方向に伸縮自在に取付けられている。このMR流体アクチュエータは、上方から圧力がかかると収縮し、圧力から解放されるとアクチュエータ内に組み込まれたコイルバネの復元力によって伸長する。また、MR流体アクチュエータは、アクチュエータ内の磁場を変化することで、内部のMR流体(Magneto-Rheological Fluid)の粘性が変化し、これにより、上方からの同一圧力に対する収縮具合を変化させることができる。スプリングは、足裏に作用する2つの流体アクチュエータからの力のバランスを取るとともに、MR流体アクチュエータの復元力を補助する。
【0006】
この靴型力覚提示装置では、ユーザーが装着部に足を挿入して靴型力覚提示装置を両足に装着した状態で、歩行動作をすることができ、その際、MR流体アクチュエータ内のMR流体の粘性を変化させることで、歩行時にユーザーの足底に作用する力覚を変化させて路面状態の異なる複数の歩行感覚を提示することができる。例えば、MR流体の粘性を高くして泥の上を歩行する感覚を提示したり、MR流体の粘性を低くすることで、草の上を歩行する感覚を提示したりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-175493号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hyungki Son,他5名,“Real Waik:Haptic Shoes Using Actuated MR Fluid for Walking in VR”,2019 IEEE World Haptics Conference,p241-246
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の力覚提示装置では、ユーザーに対して落下時の力覚を提示することができるが、ステージ上でしか力覚を提示することができず、ユーザーが自ら歩行しながら仮想現実体験をすることはできなかった。
【0010】
一方、非特許文献1に記載された靴型力覚提示装置では、ユーザーが両足に靴型力覚提示装置を装着した状態で、ユーザーが歩行しながら様々な力覚を足底に提示することができるが、ユーザーに対して落下時の力覚を提示することはできなかった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、視覚的な情報とともに、ユーザーの下肢に力覚を提示する下肢力覚提示装置であって、ユーザー自身の歩行による広域な移動を可能にしながら、ユーザーに対して落下時に下肢にかかる力覚を提示することが可能な下肢力覚提示装置及び該装置を用いた下肢力覚提示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、ユーザーに視覚的情報を提供する映像表示装置とともに用いられ、ユーザーの下肢に力覚を提示する下肢力覚提示装置において、ユーザーの左右の足に装着可能に構成された一対の足底力覚提示部と、前記足側力覚提示部の動作を制御する制御部と、を備え、各足底力覚提示部は、接地面を形成する底部と、前記底部の上方側に設けられ、ユーザーの足が載置された状態で該足に装着される足載置部と、前記底部と前記足載置部との間に配置されて、前記足載置部を前記底部に対して上昇・下降させる昇降機構と、を備え、前記制御部は、前記映像表示装置により落下映像が提供されるタイミングに同期させて、前記足載置部を所定の加速度で下降させるように前記昇降機構を制御することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ユーザーの左右の足に一対の足底力覚提示部が装着された状態で歩行することできる。そして、映像表示装置によって落下映像が提供される際に同期して、足底力覚提示部の足載置部は、昇降機構により所定の加速度で下降する動きが付与される。すなわち、歩行可能な状況を維持しつつ、ユーザーの両足に落下方向へ所定の加速度が付与される。このように、昇降機構による昇降範囲内での比較的小さい動きではあるが、ユーザーに対して視覚的情報により落下方向へ移動している錯覚(ベクション効果)を提示しながら、落下方向へ加速度を提示することで、落下感覚の臨場感が増し、ユーザーは、没入感の高い仮想現実体験をすることができる。
【0014】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の下肢力覚提示装置において、前記昇降機構は、菱形に形成されたリンクで構成され、下端が前記底部に固定されて上下方向に伸縮自在なパンタグラフ構造部と、前記パンタグラフ構造部に連結されて該パンタグラフ構造部を伸縮させるアクチュエータと、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に係る発明は、請求項2に記載の下肢力覚提示装置において、前記アクチュエータは、円筒状の弾性体の内部に供給される流体圧の変化によって軸方向に伸縮動作する人工筋肉であり、前記パンタグラフ構造部は、前記人工筋肉の伸縮動作に連動して伸縮することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、パンタグラフ構造部を上下方向に伸縮させる駆動源として、空気等の流体圧で伸縮動作する人工筋肉を用いているため、足底力覚提示部の軽量化を図ることができる。また、人工筋肉は、供給される流体圧により瞬時に伸長・収縮させることができるので、落下の力覚を提示する際に、落下する瞬間に昇降機構を瞬時に下降させることができ、ユーザーに対して臨場感の高い落下感覚を与えることができる。
【0017】
また、請求項4に係る発明は、請求項2又は3に記載の下肢力覚提示装置において、前記昇降機構は、前記パンタグラフ構造部がユーザーの自重により収縮する状況で、当該収縮動作に制動力を付与する制動部を備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項5に係る発明は、請求項4に記載の肢力覚提示装置において、前記制動部は、内部に充填された機能性流体が外部刺激によって粘性変化することで前記制動力を調整可能な機能性流体制動部であることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、ユーザーが足底力覚提示部を装着して歩行し、ユーザーの自重によって昇降機構のパンタグラフ構造部が収縮する、すなわち、足載置部が下降する状況において、MR流体制動部により足載置部の下降動作に様々な大きさの制動力を付与することができ。これにより、足底に作用する力覚を変化させて、ユーザーに様々な路面状況(例えば、水中や泥の上など)の歩行感覚を提示することができる。
【0020】
また、請求項6に係る発明は、請求項1~5のいずれか1項に記載の下肢力覚提示装置において、前記底部と前記足載置部との間に配置されて、前記底部に対して前記足載置部を前後方向に傾斜させる傾斜機構を備えたことを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、傾斜機構により足底力覚提示部の足載置部を傾斜させた状態でユーザーが歩行することで、例えば、傾斜面を歩行する際の力覚を足底に提示する等、ユーザーの足に提示する歩行時の力覚にバリエーションを持たせることができる。すなわち、歩行可能な状態で、且つ足底力覚提示部の動きだけで実際の傾斜面歩行の現実感を付与することが可能である。
【0022】
また、請求項7に係る発明は、請求項1~6のいずれか1項に記載の下肢力覚提示装置において、ユーザーの大腿部及び下腿部に装着される一対の外骨格型の脚部力覚提示部を備え、各脚部力覚提示部は、大腿部に装着される第1のフレーム部と、下腿部に装着される第2のフレーム部と、前記第1のフレーム部の下端部と前記第2のフレーム部の上端部との間に配置され、前記第1のフレーム部及び前記第2のフレーム部を屈伸させる関節駆動部と、を備え、前記関節駆動部は、前記映像表示装置によりユーザーの脚部に重力方向又は反重力方向の力が作用する視覚的情報が提示されるタイミングと同期させて前記第1のフレーム部及び前記第2のフレーム部を屈曲又は伸長させることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、ユーザーの脚部に重力方向又は反重力方向の力が作用する視覚的情報が提示されている状況で、脚部力覚提示部の関節駆動部により、第1のフレーム部及び第2のフレーム部を屈曲又は伸長させる、すなわち、ユーザーの大腿部及び下肢部を意図的に屈曲又は伸長させることで、脚部に作用する重力又は反重力の力覚を提示することができる。例えば、ユーザーが高所から落下して両足で着地するような視覚的情報が提示されている状況で、ユーザーの大腿部及び下肢部を意図的に屈曲させることで、着地時に脚部に作用する重力感覚を提示したり、ユーザーがジャンプする視覚的情報が提示されている状況で、ユーザーの大腿部及び下肢部を意図的に伸長させることで、重力に反して高所へジャンプしたような感覚を提示したりすることができる。
【0024】
また、請求項8に係る発明は、請求項1~6のいずれか1項に記載の下肢力覚提示装置において、ユーザーが前記足底力覚提示部を装着した状態で歩行可能な床面を形成する床板と、前記足底力覚提示部の前記底部及び/又は前記床板に内蔵され、前記床板に対して前記底部を固定状態と解放状態とに切替可能な底部固定機構と、を備えることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、底部固定機構により、床板に対して足底力覚提示部の底部を固定状態とすることで、足底力覚提示部を装着したユーザーの両足を床板上に固定することができる。これにより、例えば、落下感覚を提示する際に、ユーザーが歩行することを禁止させたり、ユーザーの両足を固定した状態で脚部力覚提示部によってユーザーの脚を屈曲させることで椅子に座った感覚を提示させたりすることができる。また、底部を固定状態から解放状態に切り替えることで、ユーザーが歩行可能な状態にすることができる。
【0026】
また、請求項9に係る発明は、請求項1~8のいずれか1項に記載の下肢力覚提示装置を用いて前記映像表示装置による落下映像とともに力覚を提示する下肢力覚提示方法であって、落下初期に前記足底力覚提示部の前記足載置部を第1の加速度で下降させる工程と、落下途中に前記足載置部を前記第1の加速度から減速して下降停止させる工程と、落下終了時期に前記足載置部を第2の加速度で下降させた後、下降停止させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、落下映像の落下初期にユーザーの左右の足底に下方への加速度が作用することで、ユーザーに対して落下が開始した感覚を提示することができる。また、落下途中では、落下映像によるベクション効果によって落下の感覚を維持しながら、足載置部を第1の加速度から減速して下降停止をすることで、足載置部の下降距離を小さくすることができる。また、落下終了時期には、再びユーザーの左右の足底に下方への加速度を作用させて下降停止することで、ユーザーに対して着地した感覚を提示することができる。これにより、足載置部の下降距離を小さくしながら、落下の際の力覚を提示することができるので、足底力覚提示部の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る下肢力覚提示装置によれば、ユーザーが歩行可能な状態を維持しつつ、映像表示装置によって落下映像が提供されている状態で、足底力覚提示部の足載置部を所定の加速度で下降させてユーザーの足底に力覚を提示することで、足底力覚提示部の昇降範囲内での小さい動きでありながら、臨場感の高い落下感覚を提示することができる。また、本発明に係る下肢力覚提示方法によれば、上記効果に加えて、足底力覚提示部の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態である下肢力覚提示装置の概略説明図である。
図2】足底力覚提示部の斜視図である。
図3】足底力覚提示部の分解斜視図である。
図4】MR流体制動部の概略を説明する模式的断面図である。
図5】ユーザーが足載置台に乗る前の足底力覚提示部の側面図である。
図6A】足載置台が下降位置にある状態を示す足底力覚提示部の側面図である。
図6B】足載置台が下降位置にある状態を示す足底力覚提示部の正面図である。
図7A】足載置台が上昇位置にある状態を示す足底力覚提示部の側面図である。
図7B】足載置台が上昇位置にある状態を示す足底力覚提示部の正面図である。
図8】脚部力覚提示部の説明図である。
図9】落下映像とともに足底力覚提示部が提示する下降速度の時間変化を説明するグラフである。
図10】足底力覚提示部の他の実施形態を示す側面図である。
図11図10に示す足底力覚提示部の分解斜視図である。
図12】足載置台が下降位置にある状態を示す足底力覚提示部の側面図である。
図13A】傾斜機構により足載置台が前方に傾斜した状態を示す側面図である。
図13B】傾斜機構により足載置台が後方に傾斜した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明の一実施形態である下肢力覚提示装置10の概略説明図である。下肢力覚提示装置10は、ユーザー90に視覚的情報を提供する映像表示装置であるヘッドマウントディスプレイ(以下、単に「HMD」とも称する)11とともに用いられ、ユーザー90の下肢に力覚を提示する装置である。本実施形態の下肢力覚提示装置10は、ユーザー90の左右の足92に装着される一対の足底力覚提示部12と、ユーザー90の左右の脚部94に装着される一対の外骨格型の脚部力覚提示部14と、床面を形成する床板16と、制御装置(制御部)18と、を備える。制御装置18は、HMD11、足底力覚提示部12及び脚部力覚提示部16と有線及び/又は無線により電気的に接続される。以下、下肢力覚提示装置10の各部について詳細に説明する。
【0031】
HMD11は、ユーザー90の頭部91に装着されるメガネ型のディスプレイであり、ディスプレイに三次元映像を表示する。なお、映像表示装置はHMD11に限られず、ユーザー90に対して二次元映像又は三次元映像を表示可能な装置であればよく、例えば、スクリーンに映像を表示させるディスプレイ装置であってもよい。
【0032】
足底力覚提示部12は、ユーザー90の足底に力覚を提示するための装置を構成している。図2は、一対の足底力覚提示部12のうち、一方の足底力覚提示部12を示す斜視図であり、図3は、足底力覚提示部12の分解斜視図である。なお、他方の足底力覚提示部12は同様の構成であるため、ここでは説明を省略する。足底力覚提示部12は、接地面を形成する底部20と、ユーザー90の足92が載置された状態で足92に装着される足載置部である足載置台22と、ユーザー90の足92を足載置台24に固定するための装着具24と、底部20と足載置台22の間に配置される昇降機構30と、を備えている。以下の説明において、前方とは、足底力覚提示部12を足92に装着した状態で足先側の方向、後方とは、踵側の方向を示している。
【0033】
底部20は、例えば、樹脂材料等で形成することができ、ほぼ平坦な板状に形成されている。接地時にクッション性を持たせるために、底部20はゴム素材等、弾性を有する材料で形成されていることが好ましい。
【0034】
図3に示すように、底部20の内部には、電磁石26が内蔵されている。この電磁石26は制御装置18によって磁力が制御される。本実施形態では、底部20の前方部、中央部及び後方部のそれぞれに薄型の電磁石26を内蔵しており、各電磁石26は個別に制御される。本実施形態では床板16が鉄板で形成されており、電磁石26は、床板16に対して底部20を固定状態と解放状態とに切替え可能な底部固定機構を構成している。具体的には、制御装置18により電磁石26の磁力を高くすることで、底部20が床面に固定された固定状態となり、電磁石80を消磁させることで、磁力による固定状態が解消された解放状態となる。
【0035】
足載置台22は、昇降機構30を介して底部20の上方側に設けられた板状の部位である。底部20及び足載置台22は、平面視で略同一形状に形成されており、左右方向の幅寸法約70mm~12mmの範囲に設定されることが好ましい。
【0036】
装着具24は、足載置台22に取付けられ、ユーザー90の足92を足載置台22上に固定させるものである。本実施形態では、装着具24の一例として、一端が足載置台22の両側部に固定された一対の帯状の面ファスナを用いている。面ファスナの一方は雄型面ファスナで構成され、他方は雌型面ファスナで構成されている。なお、装着具24は、面ファスナに限定されず、例えば、フック・ループファスナであってもよく、一端が足載置台22に固定された一対の帯状部材の端部にバックルを設けた構造であってもよい。なお、本実施形態の足載置部は、装着具24を用いて足載置台22をユーザー90の足92に装着する構成であるが、足載置部自体が靴形状を成しており、足92を挿入して履くことができる構成であってもよい。また、このような靴形状と足載置部と面ファスナ等の装着具24とを組み合わせて用いてもよい。本実施形態のように装着具24として面ファスナを用いた場合、図6Aに示すように、ユーザー90がサンダル98や靴を履いた状態で、足92を足載置台22に固定することができる。
【0037】
昇降機構30は、底部20に対して足載置台22が接近・離間するように足載置台22を移動させるもの、すなわち、接地した底部20に対して足載置台22を上昇・下降させる機構であり、足載置台22を所定の加速度で上昇・下降させる駆動部を有している。図3に示すように、本実施形態の昇降機構30は、平板状の基台31と、基台31上に設置されるパンタグラフ構造部32と、駆動部であるマッキベン型の人工筋肉(アクチューエタ)40と、MR流体制動部(制動部)50と、付勢部材59を備える。
【0038】
基台31は、底部20の上面に積層・固定された板材である。本実施形態では、基台31が底部20と平面視で略同一形状に形成されている。
【0039】
パンタグラフ構造部32は、菱形に形成された4つのリンクで構成された平行リンクであり、基台31の左右両側に対を成して設置される。パンタグラフ構造部32は、下端部が下部取付板34を介して基台31に固定され、上端部には上部取付板36を介して足載置台22が取付けられている。このパンタグラフ構造部32は、図2に示すように、下端部及び上端部に取付けられたピン33a,33bが、それぞれ、下部取付板34及び上部取付板36に形成された前後方向に延びる案内孔34a,36a内を移動することで、上下方向に伸縮自在に形成されている。足載置台22は、パンタグラフ構造部の伸縮動作にともなって上下方向に移動する。本実施形態では、基台31の後端部に立設された断面円弧状の案内板38の内面に沿って、足載置台22が上下動するように構成されている。
【0040】
人工筋肉40は、パンタグラフ構造部32を伸縮させる駆動力を付与するものであり、中空の円筒状の弾性体42と、弾性体42の内部に流体を供給する図示していない流体供給手段とを備える。弾性体42の一端は閉塞され、他端は開口を有しており、この開口は、開閉弁を介して流体供給手段に接続されている。人工筋肉40は、弾性体42の内部に供給される流体圧の変化によって軸方向に伸縮動作し、本実施形態では空気を供給することで収縮し、供給された空気が弾性体42内から排出されることで伸長する。供給・排出される空気量は、制御装置18によって制御することができる。人工筋肉40は、左右のパンタグラフ構造部32の間に、軸方向が足底力覚提示部12の前後方向と一致するように配置され、人工筋肉40の軸方向の両端部は、連結具44を介して、菱形のパンタグラフ構造部32の対向する2つのジョイント部に連結されている。人工筋肉40が収縮すると、パンタグラフ構造部32が伸長して足載置台22を上昇させ、人工筋肉40が伸長すると、パンタグラフ構造部32が収縮して足載置台22を下降させる。
【0041】
人工筋肉40は、弾性体42の開口を開放状態にしてパンタグラフ構造部32に対する駆動力を停止した状態とすることができる。この状態で、ユーザー90が上昇位置にある足載置台22に乗ると、パンタグラフ構造部32は、ユーザー90の自重によって下降位置まで収縮する。
【0042】
次に、図4を用いて、パンタグラフ構造部32に制動力を付与するMR流体制動部50について説明する。MR流体制動部50は、磁気粘性流体(Magneto rheological fluid、以下「MR流体」と称する)51を用いたブレーキ機能を有するMR流体制動装置である。このMR流体制動部50は、パンタグラフ構造部32がユーザーの自重により収縮する状況で、パンタグラフ構造部32の収縮動作、すなわち足載置台22の下降移動に制動力を付与する。MR流体は、油と強磁性体粒子との混合流体で構成され、磁気の印加により粘性が変化する。MR流体制動部50は、円筒形状のケース52を有しており、ケース52の中央部に配置されるコア54と、コア54に巻回されたコイル55と、コイル55の周囲に配置された複数のディスク56,57と、ディスク56,57の収容空間内に充填されたMR流体51と、を備えている。ディスク56,57は、ケース52に固定される固定ディスク56と、コア54とともに回転可能な可動ディスク57とを含み、各ディスク56,57は、コイル54の軸方向に多層状に配置されている。このMR流体制動部50は、コイルに電流を印加することで、ケース52の内部に充填されたMR流体の粘性が変化し、これにより、制動力の大きさを調整することができる。制動力の大きさは、制御装置18によって制御することができる。
【0043】
付勢部材59は、一端が足載置台22に接続され、他端が案内板38の上端部に接続されたコイルバネで構成されている。付勢部材59は、足載載置台22の左右の側部に取付けられており、MR流体制動部50による制動力を補助するように、足載置台22に対して上方側への付勢力を付与する。
【0044】
図5は、上述した足底力覚提示部12の側面図である。ユーザー90が足92を乗せていない状態では、足載置部22は、最も上昇した初期位置にある。図6A及び図6Bは、足載置部22に足92を乗せた状態であって、ユーザー90の自重により足載置部22が最も下降した下降位置にある状態を示している。ユーザー90が歩行する際には、足載置部22を図6A及び図6Bに示す下降位置に保つことができる。
【0045】
図7A及び図7Bは、足載置部22に足92を乗せた状態であって、人工筋肉40の駆動力によって、足載置部22を上昇位置まで上昇させた状態を示している。HMD11によって落下映像とともに足載置部22を下降させる際には、足載載置台22を図7A及び図7Bに示す上昇位置から、図6A及び図6Bに示す下降位置まで移動させる。上昇位置から下降位置までの距離は、約200mm~約50mmの範囲に設定されることが好ましく、約100mm~約60mmの範囲であることがより好ましい。本実施形態では、約75mmに設定している。
【0046】
次に、図8を用いて、ユーザー90の大腿部94a及び下腿部94bに装着される脚部力覚提示部14について説明する。脚部力覚提示部14は、外骨格型の力覚提示装置を構成している。本実施形態の脚部力覚提示部14は、大腿部94aに装着される第1のフレーム部71と、下腿部94bに装着される第2のフレーム部72と、第1のフレーム部71及び第2のフレーム部72を屈伸させる関節駆動部74と、上部装着具76と、下部装着具77と、を備える。
【0047】
第1のフレーム部71及び第2のフレーム部72は、それぞれ、大腿部94a及び下腿部94の外骨格を形成しており、長尺の板状の部材で形成されている。第1のフレーム部71は、これに取付けられた上部装着具76により大腿部94aに装着され、第2のフレーム部72は、これに取付けられた下部装着具77により下腿部94bに装着される。上部装着具76及び下部装着具77は、例えば、面ファスナ等により形成することができる。
【0048】
関節駆動部74は、第1のフレーム部71の下端部と第2のフレーム部72の上端部との間に配置される。関節駆動部74は、樹脂材料等により略円筒状に形成された筐体の内部に、第1のフレーム部71及び第2のフレーム部72を連結する連結機構と、この連結機構を介して各フレーム部71,72を駆動するアクチュエータ75と、を有する。アクチュエータ75は、制御装置18によって駆動が制御される。関節駆動部74は、アクチュエータ75の駆動力により、第1のフレーム部71と第2のフレーム部72とを相対的に変位させて、ユーザー90の脚部94に力覚を提示し、これにより、ユーザー90の脚の膝の曲げ伸ばし動作を補助したり、脚部94に力学的負荷を付与したりすることができる。本実施形態では、制御装置18による制御信号に基づき、HMD11によりユーザー90の脚部94に重力方向又は反重力方向の力が作用する視覚的情報が提示されるタイミングと同期させて、関節駆動部74が、第1のフレーム部71及び第2のフレーム部72を屈曲又は伸長させる。
【0049】
本実施形態では、一対の脚部力覚提示部14が、連結具79を介して連結されている。連結具79は、第1のフレーム部71の上端部に接続された関節部78を介して左右一対の脚部力覚提示部14を連結しており、第1のフレーム部71は、関節部78を中心として下端部が円弧を描くように旋回自在に形成されている。
【0050】
制御装置18は、中央処理装置(CPU)や特定用途向け集積回路(ASIC)等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス等を有して構成される。制御装置18は、HMD11、足底力覚提示部12及び脚部力覚提示部14のそれぞれの内部に組み込まれた構成であってもよいし、HMD11、足底力覚提示部12及び脚部力覚提示部14と別体の制御装置18をこれらの外部に設ける構成であってもよい。
【0051】
制御装置18は、HMD11が提供する映像のタイミングに同期するように、予め設定された動作プログラムに従って、足底力覚提示部12及び脚部力覚提示部14の動作を制御する。本実施形態において、制御装置18は、HMD11により落下映像が提供されるタイミングに同期させて、足底力覚提示部12の足載置台22を所定の加速度で下降させるように、昇降機構30を制御する。また、制御装置18は、HMD11により落下から着地した映像が提供されるタイミングに同期させて、脚部力覚提示部14の第1のフレーム部71及び第2のフレーム部72を屈曲させるように、関節駆動部74を制御する。
【0052】
上述した下肢力覚提示装置10は、装着具24によりユーザー90の左右の足92に一対の足底力覚提示部12が装着され、上部装着具76及び下部装着具77により、ユーザー90の左右の脚部94に一対の脚部力覚提示部14が装着される。ユーザー90は、足底力覚提示部12及び脚部力覚提示部14を装着したまま歩行が可能であり、この歩行動作により、ユーザー90の下肢には歩行時の力覚が付与される。また、下肢力覚提示装置10は、歩行可能な状態を維持しながら、HMD11によって提供される落下映像と同期させて、足底力覚提示部12の足載置台22を昇降機構30によって所定の加速度で下降させることで、臨場感の高い落下感覚を伴った仮想現実体験をすることができる。
【0053】
次に、下肢力覚提示装置10を用いて、HMD11による落下映像とともに力覚を提示する方法について説明する。図9は、落下映像とともに足底力覚提示部12が提示する下降速度の時間変化を説明するグラフである。図9において、縦軸は足載台22の速度(すなわち落下速度)、横軸は時間を示しており、時間軸上に示された絵は、HMD11による落下映像を示している。図9では、足載置台22の落下速度を実線で示しており、ユーザー90がHMD11に示される状況を現実に体験した場合の落下速度(すなわちユーザー90が高所から自由落下した場合の落下速度)を破線で示している。
【0054】
下肢力覚提示装置10は、HMD11により、ユーザー90が落下する瞬間の映像が提示されたタイミング(すなわち落下初期のタイミング)に同期させて、足底力覚提示部12の足載置台22を予め設定された第1の加速度aで下降させる(第1の加速工程)。その後、HMD11により落下途中の映像が提示されている状況で、足載置台22を第1の加速度から所定の加速度aで減速して速度を零、すなわち足載置台22の下降を停止させる(減速工程)。そして、HMD11により落下から着地に移行する映像が提示されたタイミング(すなわち落下終了時期のタイミング)に同期させて、停止状態にある足載置台22を第2の加速度aで下降させ、着地映像のタイミングで足載置台22を第2の加速度から下降停止させる。また、HMD11による着地のタイミングでは、脚部力覚提示部14の第1のフレーム部71及び第2のフレーム部72を屈曲させて、ユーザー90の脚部94に重力方向の負荷を付与する。
【0055】
このように、HMD11による落下映像の落下初期に、ユーザー90の左右の足底に下方への加速度を作用させることで、ユーザー90に対して落下が開始した感覚を提示することができる。また、落下途中では、落下映像によるベクション効果によって落下の感覚を維持しながら、足載置台22を第1の加速度aから減速して下降停止することで、足載置台22の下降距離を小さくすることができる。また、落下終了時期には、再びユーザー90の左右の足底に下方への加速度を作用させて、その後、下降停止することで、ユーザー90に対して着地した感覚を提示することができる。さらに、着地のタイミングに同期させてユーザー90の大腿部94aと下腿部94bに重力方向の負荷がかかるので、より臨場感のある落下体験をすることができる。このように、本実施形態の足底力覚提示部12では、落下感覚を提示する際に、下肢にかかる力覚が急激に変化する落下初期と落下終了時期に、落下方向への加速度を与えて力覚を提示し、下肢への力覚が小さい落下途中では、足載置台22を減速・停止させることで、足載置台22の移動量を小さくして、足底力覚提示部12の小型化を図ることができる。また、落下映像によるベクション効果を用いることで、足底載置台22の下降速度を図9のグラフにおいて破線で示す現実世界の落下速度よりも小さくしながら、臨場感のある落下感覚を得ることができる。足載置台22を下降させる際の第1の加速度a及び第2の加速度aは、同じ値であっても異なる値であってもよく、例えば、現実世界の重力加速度の3分の1以下、好ましくは5分の1以下とすることができ、本実施形態では、約10分の1の加速度としている。
【0056】
上述したように、下肢力覚提示装置10は、ユーザー90に装着された状態で、歩行可能な状況を維持しつつ、ユーザー90の両足に落下方向へ所定の加速度を付与することができる。足底力覚提示部12は、昇降機構30による昇降範囲内での比較的小さい動きではあるが、ユーザー90に対して視覚的情報により落下方向へ移動している錯覚(ベクション効果)を提示しながら、落下方向へ加速度を提示することで、落下感覚の臨場感が向上し、ユーザー90は、没入感の高い仮想現実体験をすることができる。
【0057】
さらに、足底力覚提示部12は、昇降機構30の駆動源として空気圧で弾性体42を伸縮動作する人工筋肉40を用いているため、足底力覚提示部12の軽量化を図ることができる。また、人工筋肉40は、伸縮動作の応答性に優れているため、HMD11による落下映像で落下する瞬間に、昇降機構30を瞬時に下降させることができ、ユーザー90に対して臨場感の高い落下感覚を与えることができる。
【0058】
また、ユーザー90が歩行動作する状況では、HMD11で表示される路面の状況に合わせてMR流体制動部50の制動力を変化させることで、ユーザー90の足に様々な力覚を提示することができる。例えば、足底力覚提示部12は、歩行動作において、ユーザー90が足92を上げた際に、人工筋肉40により、足載置台22を下降位置から所定距離上昇させた位置とし、その後、ユーザー90の体重が足載置台22にかかると、ユーザー90の自重で足載置台22が下降する構成とすることができる。この足載置台22の下降の際に、MR流体制動部50によって様々な大きさの制動力を付与することで、足底に作用する力覚を変化させることができ、これにより、例えば、水中を歩行しているような感覚や、泥や砂の上を歩行しているような感覚等を提示することができる。
【0059】
また、下肢力覚提示装置10は、HMD11によりユーザー90の脚部94に重力方向又は反重力方向の力が作用する視覚的情報が提示されている状況で、脚部力覚提示部14の関節駆動部74により、第1のフレーム部71及び第2のフレーム部72を屈曲又は伸長させて、ユーザー90の大腿部94a及び下肢部94bを意図的に屈曲又は伸長させることで、脚部94に作用する重力又は反重力の力覚を提示することができる。例えば、上述したように、ユーザー90が高所から落下して両足で着地する映像が提示されている状況で脚部94を意図的に屈曲させることで、着地時に脚部94に作用する重力感覚を提示することができる。また、例えば、ユーザー90が現実世界よりも高所へジャンプする視覚的情報が提示されている状況では、ユーザー90の脚部94を意図的に伸長させることで、重力に反して高所へジャンプしたような感覚を提示することが可能である。さらに、ャンプする映像とともに、足底力覚提示装置12を下降位置から上昇位置へ移動させて、上方へ移動する力覚を提示することができる。また、階段を昇降する映像のタイミングに同期させて、第1のフレーム部71及び第2のフレーム部72を屈曲又は伸長させることで、階段の昇降動作時に脚部94にかかる負荷を軽くしたり、大きくしたりすることができる。この際、足底力覚提示部12の足載置台22の高さ位置を左右で変えることで、階段の段差を再現し、足底に階段昇降時の力覚を提示することができる。
【0060】
また、本実施形態の下肢市企画提示装置10では、足底力覚提示部12の底部12に設けた底部固定機構である電磁石26の磁力により、ユーザー90の足92を床板16に固定することができる。これにより、落下感覚を提示する際に、ユーザー90が歩行することを禁止させることができる。また、脚部力覚提示部14は、ユーザー90の重心位置を変える効果があるため、底部固定機構によりユーザー90の両足を固定した状態で脚部力覚提示部14によってユーザー90の脚を屈曲させることで、椅子に座っている感覚を提示することが可能である。また、電磁石26の磁力を弱くする等、底部20と床面16との間の付着力を制御することで、ユーザー90に泥の上を歩行しているような感覚を提示することも可能である。
【0061】
次に、図10図13を用いて、足底力覚提示部12の他の実施形態について説明する。図10図13において、上述した実施形態と対応する部位には同一符号を付している。以下に説明する他の実施形態において、上述した実施形態と同一の構成については詳細な説明を省略する。
【0062】
図10は足底力覚提示部12の他の実施形態を示す側面図であり、図11図10に示す足底力覚提示部12の分解斜視図である。本実施形態の足底力覚提示部12は、底部20に対して足載置台22を傾斜させる傾斜機構60を備える。なお、足底力覚提示部12において、傾斜機構60以外の構成は先の実施形態と同様であるため、ここでは、その詳細を省略する。
【0063】
傾斜機構60は、足底力覚提示部12の底部20と足載置台22との間に配置されており、底部20の前方部に配置された第1のシリンダ62と、底部20の後方部に配置された第2のシリンダ64と、を有する。本実施形態において、各シリンダ62,64は、底部20の左右方向の中央部に配置され、人工筋肉40を間に挟んで底部20の前方側と後方側とに配置されている。
【0064】
第1のシリンダ62及び第2のシリンダ64は、柱状に形成され、空気圧や油圧等の流体圧によって軸方向に伸縮自在な伸縮式シリンダである。各シリンダ62,64は、下端部が基台31の上面に固定され、上端部に足載置台22と当接可能な当接部66を有している。当接部66は、足載置台22の下面に対して当接・離間可能となるように、足載置台22に対して非固定状態に形成されている。この当接部66は、例えばゴム材料や発泡性材料など、柔軟な素材で形成されることが好ましい。
【0065】
図10に示すように、各シリンダ62,64の当接部66は、足載置台22が初期位置にある状態で、足載置台22の下面と離間しており、図12に示すように、足載置台22が下降位置にある状態では、足載置台22の下面に当接している。各シリンダ62,64は、制御装置18によって個別に伸縮させることができ、図13Aに示すように、第2のシリンダ64を第1のシリンダ62よりも伸長させて、足載置台22の前方が低くなるように傾斜させたり、図13Bに示すように、第1のシリンダ62を第2のシリンダ62よりも伸長させて、足載置台22の後方が低くなるように傾斜させたりすることができる。
【0066】
傾斜機構60を設けた足底力覚提示部12では、傾斜機構60により足載置台22を傾斜させた状態でユーザー90が歩行することで、例えば、傾斜面を歩行する際の力覚を足底に提示したり、左右の足底力覚提示部12の傾斜状態を変えて凹凸のある路面を歩行する際の力覚を提示したりすることができる。これにより、HMD11によって提供される様々な路面状況の映像に合わせて、ユーザー90の足92に提示する歩行時の力覚のバリエーションを持たせることができ、傾斜面や凹凸面を歩行する映像と同期させることで、平坦な床板16上を歩行しながら、実際の傾斜面や凹凸面を歩行するような現実感を付与することができる。
【0067】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0068】
例えば、下肢力覚提示装置10は、少なくとも映像表示装置による落下映像と同期させてユーザー90の足底に力覚を提示する足底力覚提示部12を有する構成であればよく、脚部力覚提示部14を有していない構成であってもよい。
【0069】
また、足底力覚提示部12の昇降機構30は、パンタグラフ構造部32によるものに限られず、上下方向に伸長・収縮するシリンダ構造であってもよいし、上下方向に伸びるねじ軸に沿って伸長・収縮するボールねじであってもよい。
【0070】
また、昇降機構30の駆動源となるアクチュエータは、人工筋肉40に限られず、例えば、エアシリンダやオイルシリンダ等の流体駆動装置や、電動モータ等であってもよい。
【0071】
また、昇降機構30の収縮動作に制動力を付与する制動部は、MR流体制動装置に限られず、例えば、電界を印加することで粘性が変化する電気粘性流体を用いた電気粘性流体制動装置であってもよい。MR流体や電気粘性流体のように、制動部として、内部に充填された機能性流体が外部刺激によって粘性変化することで制動力を調整可能な機能性流体制動部を用いることで、制動力を高速で変化させることができる。また、制動部は、このような機能性流体を用いたものに限られず、例えば、オイルダンパやエアダンパであってもよい。
【0072】
また、上述した実施形態では、底部固定機構として、底部20に設けた電磁石26の磁力を用いているが、底部固定機構はこれに限られず、例えば、吸着力によって底部20を床面に固定する構造であってもよい。かかる場合、床板16の上面に複数の吸引孔を設け、床板16に内蔵した吸引装置によって、吸引孔から空気を吸引することにより、足底力覚提示部12の底部20を床面に吸着・固定する構造とすることができる。
【0073】
また、足底力覚提示部12において、MR流体制動部50や、傾斜機構60や、底部固定機構はオプションであり、これらを有していない構造であってもよい。
【0074】
また、下肢力覚提示装置10は、ゲーム機等のエンターテインメントとしての使用のみならず、例えば、高所で作業を行う作業者が危険予測能力を訓練するため装置や、下肢のリハビリテーションのための装置として使用することも可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 下肢力覚提示装置
11 HMD
12 足底力覚提示部
14 脚部力覚提示部
16 床板
18 制御装置
20 底部
22 足載置台
24 装着具
26 電磁石
30 昇降機構
32 パンタグラフ構造部
40 人工筋肉(アクチュエータ)
50 MR流体制動部(制動部)
60 傾斜機構
62 第1のシリンダ
64 第2のシリンダ
71 第1のフレーム
72 第2のフレーム
74 関節駆動部
90 ユーザー
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B