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特開2022-184555回転角度検出装置及び回転角度の導出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184555
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】回転角度検出装置及び回転角度の導出方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/249 20060101AFI20221206BHJP
   G01D 5/245 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G01D5/249 Q
G01D5/245 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092482
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 崇晴
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA12
2F077AA20
2F077CC02
2F077NN03
2F077NN17
2F077PP14
2F077QQ03
2F077TT11
(57)【要約】
【課題】検出した絶対角の精度を担保できる回転角度検出装置及び回転角度の導出方法を得る。
【解決手段】回転軸60の回転に従って回転する1極対磁石80Bの磁束の変化に応じて1極対磁石80Bの原点位置を基準とした磁極の回転角度を検出し、1極対磁石80Bよりも多い複数の磁極を有し、1極対磁石80Bとの対応関係を保持した状態で回転する多極対磁石80Aの対応関係と、1極対磁石80Bの原点位置を基準とした磁極の回転角度と、に基づいて多極対磁石80Aの複数の磁極の各々の位置を特定し、特定した多極対磁石80Aの複数の磁極各々の位置、多極対磁石80Aの磁束の変化、及び多極対磁石80Aの磁束の変化に基づいて導出される回転角度と理想角度との誤差を補正する補正値に基づいて、原点位置を基準とした多極対磁石80Aの複数の磁極各々の位置における補正された回転角度を絶対角として導出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の回転に従って回転し、磁極が回転方向に沿って配列された第1磁石(80B)と、
前記第1磁石(80B)より多い複数の磁極が前記回転方向に沿って配列され、前記第1磁石(80B)との対応関係を保持した状態で回転する第2磁石(80A)と、
前記第1磁石(80B)の回転に応じて変化する前記第1磁石(80B)の磁束の変化を検出する第1検出部(10B)と、
前記第2磁石(80A)の回転に応じて変化する前記第2磁石(80A)の磁束の変化を検出する第2検出部(10A)と、
前記第1検出部(10B)が検出した前記第1磁石(80B)の磁束の変化に応じて定めた前記第1磁石(80B)の磁極の原点位置を基準とした回転角度、前記対応関係に基づいて特定される前記第2磁石(80A)の複数の磁極各々の位置、前記第2検出部(10A)で検出した前記第2磁石(80A)の磁束の変化、及び前記第2磁石(80A)の磁束の変化に基づいて導出される回転角度と理想角度との誤差を補正する補正値に基づいて、前記原点位置を基準とした前記第2磁石(80A)の複数の磁極各々の位置における前記補正値により補正された回転角度を絶対角として導出する回転角度導出部と、
を含む回転角度検出装置。
【請求項2】
前記第2磁石(80A)の磁束の変化に基づいて導出される回転角度と理想角度との誤差を補正する補正値を記憶した記憶部を含む請求項1に記載の回転角度検出装置。
【請求項3】
前記補正値は、0度と360度との間で離散的に設定された検出角度に対応して予め定められ、
前記回転角度導出部は、補正前の前記第2磁石(80A)の磁極の回転角度に最も近い前記検出角度に対応する補正値と、補正前の前記第2磁石(80A)の磁極の回転角度に2番目に近い前記検出角度に対応する補正値との各々を線形補間して得た補正値で、補正前の前記第2磁石(80A)の磁極の回転角度を補正する請求項1又は2に記載の回転角度検出装置。
【請求項4】
前記補正値は、0度と360度との間で等差に並んだ理想角度と、前記第2磁石(80A)の磁束の変化に基づいて導出される回転角度との差分に基づいて予め定められる請求項1~3のいずれか1項に記載の回転角度検出装置。
【請求項5】
前記補正値は、前記原点位置を基準とした前記第2磁石(80A)の複数の磁極の各々の回転角度について予め定められる請求項4に記載の回転角度検出装置。
【請求項6】
前記第1磁石(80B)は、円形の外周部に1極対の磁極を有し、該円形の中心を前記絶対角の検出対象である回転軸が貫通するように固定される請求項1~5のいずれか1項に記載の回転角度検出装置。
【請求項7】
前記第2磁石(80A)は、円形の外周部に2極対以上の磁極を有し、該円形の中心を前記回転軸が貫通するように固定され、前記第1磁石(80B)と同軸で回転可能な請求項6に記載の回転角度検出装置。
【請求項8】
前記第1磁石(80B)及び前記第2磁石(80A)が一体に構成された請求項1~7のいずれか1項に記載の回転角度検出装置。
【請求項9】
第1面に前記第1検出部(10B)が、前記第1面と反対側の第2面に前記第2検出部(10A)が各々実装される基板を有し、該基板は、前記第1検出部(10B)が前記第1磁石(80B)の磁束を、前記第2検出部(10A)が前記第2磁石(80A)の磁束を、各々検出可能なように、前記一体に構成された前記第1磁石(80B)及び前記第2磁石(80A)の外周部の近くに設けられる請求項8に記載の回転角度検出装置。
【請求項10】
ロボット及び自動運転車が各々備えるアクチュエータの回転制御に用いられる請求項1~9のいずれか1項に記載の回転角度検出装置。
【請求項11】
検出対象の回転に従って回転し、磁極が回転方向に沿って配列された第1磁石(80B)の磁束の変化に応じて前記第1磁石(80B)の磁極の原点位置を基準とした回転角度を検出する工程と、
前記第1磁石(80B)よりも多い複数の磁極が前記回転方向に沿って配列され、前記第1磁石(80B)との対応関係を保持した状態で回転する第2磁石(80A)の前記対応関係、及び前記第1磁石(80B)の前記原点位置を基準とした磁極の回転角度に基づいて前記第2磁石(80A)の複数の磁極各々の位置を特定する工程と、
前記特定した前記第2磁石(80A)の複数の磁極各々の位置、及び前記第2磁石(80A)の磁束の変化、及び前記第2磁石(80A)の磁束の変化に基づいて導出される回転角度と理想角度との誤差を補正する補正値に基づいて、前記原点位置を基準とした前記第2磁石(80A)の複数の磁極各々の位置における前記補正値により補正された回転角度を絶対角として導出する工程と、
を含む回転角度の導出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の出力軸の回転角度を検出する回転角度検出装置及び回転角度の導出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の出力軸の回転角度を検出する回転角度検出装置として、回転軸と同軸に回転する永久磁石の磁束の変化に基づいて当該回転軸の回転角度を検出する磁気エンコーダ装置が知られている。磁気エンコーダ装置には、回転軸の回転開始時からの回転角度(相対角度)を検出するインクリメンタル方式と、定められた原点からの回転軸の位置(絶対角)を検出するアブソリュート方式とが存在する。磁気エンコーダ装置等の回転角度検出装置は、産業用ロボット及び各種産業用機械等に組み込まれ、産業用ロボット及び各種産業用機械等の制御装置は、回転角度検出装置が検出した回転電機の出力軸の回転角度の情報(現在値)と指令信号(目標値)とを比較して、目標値と現在値との偏差を解消するようなフィードバック制御を行う。かかる用途には、絶対角を検出するアブソリュート方式の磁気エンコーダ装置が適している。
【0003】
特許文献1と、特許文献2の各々には、アブソリュート方式の磁気エンコーダ装置の発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5840374号公報
【特許文献2】特開2001-4405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アブソリュート方式の磁気エンコーダ装置は、高精度で絶対角を検出することが求められるが、回転軸と同軸に設けられた永久磁石、及び当該永久磁石の磁束を検出する回転角センサの位置ずれ等に起因する誤差が、磁気エンコーダ装置が出力する絶対角に含まれる場合がある。特許文献1に係る発明及び特許文献2に係る発明の各々は、絶対角の誤差の補正を考慮していないので、磁気エンコーダ装置が出力する絶対角の精度が担保され難いという問題があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みて創作されたものであり、検出した絶対角の精度を担保できる回転角度検出装置及び回転角度の導出方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明に係る回転角度検出装置は、検出対象の回転に従って回転し、磁極が回転方向に沿って配列された第1磁石(80B)と、前記第1磁石(80B)より多い複数の磁極が前記回転方向に沿って配列され、前記第1磁石(80B)との対応関係を保持した状態で回転する第2磁石(80A)と、前記第1磁石(80B)の回転に応じて変化する前記第1磁石(80B)の磁束の変化を検出する第1検出部(10B)と、前記第2磁石(80A)の回転に応じて変化する前記第2磁石(80A)の磁束の変化を検出する第2検出部(10A)と、前記第1検出部(10B)が検出した前記第1磁石(80B)の磁束の変化に応じて定めた前記第1磁石(80B)の磁極の原点位置を基準とした回転角度、前記対応関係に基づいて特定される前記第2磁石(80A)の複数の磁極各々の位置、前記第2検出部(10A)で検出した前記第2磁石(80A)の磁束の変化、及び前記第2磁石(80A)の磁束の変化に基づいて導出される回転角度と理想角度との誤差を補正する補正値に基づいて、前記原点位置を基準とした前記第2磁石(80A)の複数の磁極各々の位置における前記補正値により補正された回転角度を絶対角として導出する回転角度導出部と、を含む。
【0008】
この様に構成することで、検出した絶対角の精度を担保できる回転角度検出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(A)は、第1実施形態に係る回転角度検出装置の構成の一例を回転軸方向から見た概略図であり、(B)は、第1実施形態に係る回転角度検出装置を回転軸の周方向から見た概略図である。
図2】(A)は、回転角センサのパッケージの一例を示した概略図であり、(B)は、回転角センサの構成の一例を示した概略図である。
図3】(A)は、回転角センサに含まれる磁束検出部の構成を示した概略図であり、(B)は、磁束検出部の出力波形を示した概略図である。
図4】(A)は、回転する1極対磁石の外周の回転方向の接線方向と平行に回転角センサを実装した場合を示した説明図であり、(B)は、回転する1極対磁石の磁束密度成分を示した説明図であり、(C)は、回転角センサの出力波形を示した概略図である。
図5】(A)は、回転する多極対磁石の外周の回転方向の接線方向と平行に回転角センサを実装した場合を示した説明図であり、(B)は、回転する多極対磁石の磁束密度成分を示した説明図であり、(C)は、回転角センサの出力波形を示した概略図である。
図6】第1実施形態に係る回転角度検出装置の絶対角検出の処理の一例を示したフローチャートである。
図7】(A)は、多極対磁石が5極対(10極)の場合の1の磁極の電気角の算出を示した説明図であり、(B)は、複数の磁極の各々の電気角算出の説明図である。
図8】補正値の設定処理の一例を示したフローチャートである。
図9】(A)は、理想角度、角度誤差及び検出角度の一例を示した概略図であり、(B)は、角度誤差マップの一例であり、(C)は、角度誤差マップを用いた機械角の補正の一態様を示した説明図である。
図10】マップ点数及び機械角度誤差の範囲を各々決定する際の説明図である。
図11】第2実施形態に係る回転角度検出装置を回転軸の周方向から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
以下、本実施形態を図面に基づいて説明する。図1(A)は、本実施形態に係る回転角度検出装置100の構成の一例を回転軸60方向から見た概略図であり、図1(B)は、本実施形態に係る回転角度検出装置100を回転軸60の周方向から見た概略図である。図1(A)、(B)に各々示したように、本実施形態に係る回転角度検出装置100は、回転角度の検出対象である回転軸60と同軸に設けられ、回転軸60と共に回転可能な永久磁石80と、永久磁石80の周方向に配設された基板84上に実装された回転角センサ10A、10Bとを含む。
【0011】
図1(B)に示したように、永久磁石80は、S極及びN極が複数対存在する多極対磁石80Aと、S極及びN極が1対存在する1極対磁石80Bとを含む。多極対磁石80A及び1極対磁石80Bは、一例として、円柱状をした1つの磁性体の周方向の面に面着磁を行って生成される。
【0012】
基板84の一方の面には、回転角センサ10Aが、基板84の他方の面には、回転角センサ10Bが各々実装されている。回転角センサ10Aは、多極対磁石80Aの磁束を、回転角センサ10Bは、1極対磁石80Bの磁束を、各々検出する。回転角センサ10A及び回転角センサ10Bの各々が、多極対磁石80A及び1極対磁石80Bの各々の磁束を検出して出力する電気信号は、基板84に実装されたマイコン等の制御装置(図示せず)に入力される。制御装置は回転角センサ10A及び回転角センサ10Bの各々が出力した電気信号に基づいて回転軸の回転角を導出する。本実施形態において、制御装置は、回転角センサ10Bが検出した1極対磁石80Bの磁束の変化に応じて定めた1極対磁石80Bの磁極の原点位置を基準とした回転角度、当該対応関係に基づいて特定される多極対磁石80Aの複数の磁極各々の位置、回転角センサ10Aで検出した多極対磁石80Aの磁束の変化、及び多極対磁石80Aの磁束の変化に基づいて導出される回転角度と理想角度との誤差を補正する補正値に基づいて、原点位置を基準とした多極対磁石80Aの複数の磁極各々の位置における補正された回転角度を絶対角として導出する回転角度導出部と、して機能する。
【0013】
図2(A)は、回転角センサ10Aのパッケージの一例を示した概略図であり、図2(B)は、回転角センサ10Aの構成の一例を示した概略図である。以下、回転角センサ10Bは、回転角センサ10Aと同様の構成を有するので、本実施形態では回転角センサ10Aの構成を説明し、回転角センサ10Bの説明は省略する。
【0014】
図2(A)、(B)に示したように、回転角センサ10Aはパッケージ内に磁束検出部20A1、及び磁束検出部20A2の複数の磁束検出部を含む。
【0015】
図3(A)は、回転角センサ10Aに含まれる磁束検出部20A1、20A2の構成を示した概略図であり、図3(B)は、磁束検出部20A1、20A2の出力波形70、72を示した概略図である。
【0016】
図3(A)に示したように、磁束検出部20A1、20A2は、一例としてMR(磁気抵抗)素子で構成されている。磁束検出部20A1、20A2は、4つの抵抗がブリッジ状に配置されたホイートストンブリッジの一種であり、電圧Vccが印加された状態で、磁束を受けると各々の抵抗の抵抗値が変化する。その結果、磁束検出部20A1は、端子Sin+、Sin-から電圧が正弦波状に変化する出力波形70を有する電気信号を出力し、磁束検出部20A2は、端子Cos+、Cos-から出力波形70とは異なる位相で電圧が変化する出力波形72を有する電気信号を出力する。本実施形態では、回転角センサ10Aは、多極対磁石80Aの磁束を検出するので、出力波形70、72は図5(C)に示したように、多極対磁石80Aの極対数に応じた態様となるが、図3(B)では、所定の位相差を有する出力波形70、72の説明を容易にすべく、典型的な正弦波状の出力波形を例示している。
【0017】
出力波形70と出力波形72との位相差は、磁束検出部20A1、20A2の実装位置による。図3(A)に示したように、磁束検出部20A2を、磁束を受ける向きが、磁束検出部20A1とは90度異なる位置に実装すると、出力波形70が正弦波状であれば、出力波形72は余弦波状となる。
【0018】
出力波形70と出力波形72との位相差が90度であれば、出力波形70と出力波形72とから回転軸60の回転角度の正接(tan)が求められる。さらに、逆正接関数(arctan)で正接の値を処理すれば、回転角度が導出される。
【0019】
本実施形態では、磁束検出部20A1、20A2はMR素子を採用したが、ホール素子等の他の磁気検出素子を用いてもよい。
【0020】
図4(A)は、回転する1極対磁石80Bの外周の回転方向の接線方向と平行に回転角センサ10Bを実装した場合を示した説明図であり、図4(B)は、回転する1極対磁石80Bの磁束88の密度成分を示した説明図であり、図4(C)は、回転角センサ10Bの出力波形74、76を示した概略図である。図4(A)では、円柱状を呈する1極対磁石80Bの外周からギャップΔd外側に設けられたセンサ配置領域82に2つの磁束検出部を含む回転角センサ10Bのパッケージが実装される。その結果、2つの磁束検出部は、1極対磁石80Bの外周の接線に平行な状態で各々実装される。
【0021】
図4(A)に示したように、回転する磁石の接線方向と平行に回転角センサ10Bを実装する場合をoff-axisと称する
【0022】
off-axisでは、一例として、回転角センサ10Bの1の磁束検出部を1極対磁石80Bの法線方向B(R)において、磁束密度波形が理想正弦波に近い状態となる位置に実装する。また、回転角センサ10Bの他の磁束検出部を1極対磁石80Bの接線方向B(θ)において、磁束密度波形が理想正弦波に近い状態となる位置に実装する。法線方向B(R)と接線方向B(θ)が互いに90度ずれているのであれば、例えば、出力波形74は正弦波状になり、出力波形76は余弦波状となる。
【0023】
図4(A)に示した場合と異なり、回転する磁石の軸方向に回転角センサを実装する場合をon-axisと称する。on-axisでは、図4(C)に示したoff-axisの出力波形74、76よりも、正弦波と余弦波の各々の振幅が略同等の出力波形が得られるが、回転角センサを出力軸の軸線上に実装することを要する。しかしながら、ステッピングモータ等の回転電機では、回転軸内には、各種のケーブル等を配設する場合があるので、かかる場合には回転角センサをon-axisで実装することが困難となる。
【0024】
本実施形態では、回転角センサ10B、及び後述する回転角センサ10Aをoff-axisで実装することにより、回転軸60の内部への各種のケーブル等の配設を可能にしている。
【0025】
図5(A)は、回転する多極対磁石80Aの外周の回転方向の接線方向と平行に回転角センサ10Aを実装した場合を示した説明図であり、図5(B)は、回転する多極対磁石80Aの磁束86の密度成分を示した説明図であり、図5(C)は、回転角センサ10Aの出力波形70、72を示した概略図である。図5(A)では、図4(A)と同様に、円柱状を呈する多極対磁石80Aの外周からギャップΔd外側に設けられたセンサ配置領域82に2つの磁束検出部を含む回転角センサ10Aのパッケージが実装される。その結果、2つの磁束検出部は、多極対磁石80Aの外周の接線に平行な状態で各々実装される。
【0026】
図5(A)に示したように、回転角センサ10Aは、回転角センサ10Bと同様に、off-axisの状態で実装される。
【0027】
回転角センサ10Aの磁束検出部20A1は、回転角センサ10Bの場合と同様に、多極対磁石80Aの法線方向B(R)において、磁束密度波形が理想正弦波に近い状態となる位置に実装する。また、回転角センサ10Aの磁束検出部20A2を多極対磁石80Aの接線方向B(θ)において、磁束密度波形が理想正弦波に近い状態となる位置に実装する。法線方向B(R)と接線方向B(θ)が互いに90度ずれているのであれば、例えば、出力波形70は正弦波状になり、出力波形72は余弦波状となる。
【0028】
図6は、本実施形態に係る回転角度検出装置100の絶対角検出の処理の一例を示したフローチャートである。図6に示した処理は、回転電機等による回転軸60の回転開始と共に開始される。より具体的には、上位の制御装置(図示せず)から基板84上の制御装置に、回転軸に直結している回転電機等の機器を作動させる信号が入力されると処理が開始され、ステップ100で、1極対磁石80Bの機械角度を算出する。1極対磁石80Bの機械角度は、一例として、予め定められた原点に対する1極対磁石80Bの磁極(S極又はN極、以下同)の位置である。前述のように、本実施形態では、図4(C)に示したような、正弦波状になる出力波形74と、余弦波状になる出力波形76とから回転角度の正接(tan)が求められ、さらに、逆正接関数(arctan)で回転角度を導出する。予め定められた原点は、例えば、基板84において回転角センサ10Bが実装される位置であるが、それ以外の基板84上の位置でもよい。
【0029】
ステップ102では、多極対磁石80Aの各々の磁極の位置を特定する。図1(B)に示したように、本実施形態では、1極対磁石80Bと多極対磁石80Aとが一体で構成されているので、ステップ100で1極対磁石80Bの磁極の位置が特定できれば、多極対磁石80Aの各々の磁極の位置が特定できる。
【0030】
ステップ104では、多極対磁石80Aの磁極の電気角を算出する。多極対磁石80Aの磁極の電気角は、図5(C)に示したような、正弦波状になる出力波形70と、余弦波状になる出力波形72とから回転角度の正接(tan)が求められ。さらに、逆正接関数(arctan)で回転角度を導出する。図7(A)は、多極対磁石80Aが5極対(10極)の場合の磁極P1の電気角θ1の算出を示した説明図である。図7(A)及び後述する図7(B)では、永久磁石80は、矢印方向に回転している。
【0031】
図7(A)では、予め定められた原点を回転角センサ10Bが実装された位置に一致する回転角センサ10Aの実装位置としているが、原点は、それ以外の基板84上の位置でもよい。図7(A)で、電気角θ1は、回転軸60の機械角のように見えるが、便宜上の表現であり、実際のθ1は、磁極P1と磁極P1に隣接する磁極P5との間で0~360度の値を示す。
【0032】
ステップ106では、磁極P1の電気角に、極対数に対応した電気角を加算して、磁極P2~P5の各々の電気角を算出する。図7(B)は、磁極P2~P5の各々の電気角算出の説明図である。磁極P2の電気角は、θ1+360、磁極P3の電気角は、θ1+2×360、磁極P4の電気角は、θ1+3×360、そして磁極P5の電気角は、θ1+4×360となる。多極対磁石80Aの極対数をNで、多極対磁石80AがP1、P2、…、PNの磁極を有する場合、磁極Pn(n=1、2、…、N)の電気角は、下記の式で算出される。
磁極Pnの電気角=(磁極P1の電気角)+360×(n-1)
【0033】
ステップ108では、各々の磁極の電気角を機械角に変換する。具体的には、ステップ106で算出した各々の磁極の電気角を多極対磁石80Aの極対数で除算して機械角を算出する。図7(B)は多極対磁石80Aの極対数が5なので、磁極P1~P5の各々の電気角を5で除算する。
【0034】
ステップ110では、予め設定されている補正値を用いて、ステップ118で算出した機械角を補正する。補正値の設定と、当該補正値の検出値への適用については、後述する。
【0035】
ステップ112では、回転軸60の絶対角を算出する。絶対角は、予め定められた原点と、回転軸60の定位置との角度である。前述のように、原点を回転角センサ10A、10Bが実装された位置とし、回転軸60の定位置を、例えば、磁極P1~P5のいずれかに対応する回転軸の位置とすれば、回転軸60定位置と対応関係にある磁極P1~P5のいずれかの補正済み機械角が絶対角となる。
【0036】
また、原点が、基板84において回転角センサ10A、10Bが実装された位置以外の基板84上の位置であり、回転軸60の定位置が磁極P1~P5のいずれかと対応しない場合は、回転角センサ10A、10Bが実装された位置と当該原点との角度、及び磁極P1~P5のいずれかと当該定位置との角度に基づいて、磁極P1~P5のいずれかの補正済み機械角から算出する。
【0037】
ステップ114では、回転軸60の回転が停止されるか否かを判定する。具体的には、上位の制御装置から基板84上の制御装置に、回転軸に直結している回転電機等の機器を停止させる信号が入力されると、回転軸60の回転が停止されると判定する。ステップ114で、回転軸60の回転が停止されると判定した場合は処理を終了し、回転軸60の回転が停止されないと判定した場合は、手順をステップ104に移行して、ステップ104~112の手順を繰り返す。
【0038】
以下、図6のステップ110で用いた補正値の設定について説明する。本実施形態では、補正値は、回転角度検出装置100の個体毎に設定すると共に、各個体の多極対磁石80Aの各々の磁極毎に個別に設定する。
【0039】
図8は、補正値の設定処理の一例を示したフローチャートである。ステップ200では、回転軸60を1回転させて理想角度、角度誤差及び検出角度の各々を算出する。
【0040】
図9(A)は、理想角度、角度誤差及び検出角度の一例を示した概略図である。図9(A)に示したように、理想角度、角度誤差及び検出角度の算出に際しては、機械角度誤差点数を予め設定する。一例として、図9(A)で機械角度誤差点数は500であるが、機械角度誤差点数は、回転角度検出装置100における絶対角の分解能と同等以上の細かさで設定する。図9(A)では、回転角度誤差点数に応じて、indexが0から499まで設定される。
【0041】
理想角度は、機械角度誤差点数とindexの値とで下記の式によって算出される。
理想角度=index×360/機械角度誤差点数
【0042】
図9(A)の検出角度は、回転軸60を1回転させた際に、図6のステップ100~108の手順を実行して算出する。そして、機械角度誤差は、検出角度から理想角度を減算して得られる値である。
【0043】
ステップ202では、補正値を記した角度誤差マップに記載する補正値の点数であるマップ点数を決定する。図10は、マップ点数及び機械角度誤差の範囲を各々決定する際の説明図である。マップ点数は、回転角度検出装置100において要求される分解能と、角度誤差マップを記憶するメモリ容量とから決定する。図10では、一例として、マップ点数を8ビット(28=256)とし、360度を8ビットで分割することにより、回転角度検出装置100の分解能に相当する1.4度の単位検出角度を算出している。
【0044】
また、機械角度誤差の範囲は、一例として、図10の縦軸を1バイトである8ビットで分割することを想定すると共に、360度を2バイトである16ビット(216=65536)で分割して、5.49×10-3の単位機械角度誤差を得る。そして、一例として、縦軸の正方向に127個、縦軸の0に1個、縦軸の負方向に128個の機械角度誤差の区分を設定することにより、-0.703度から0.698度の機械角度誤差範囲を設定する。
【0045】
ステップ204では、決定したマップ点数に応じて、検出角度と補正値とを角度誤差マップにマッピングして、処理を終了する。
【0046】
図9(B)は、決定したマップ点数に応じて検出角度及び補正値をマッピングした角度誤差マップの一例である。図9(B)の角度誤差マップのマップ点数は256なので、indexが0から255まで設定されると共に、検出角度が前述の単位検出角度刻みで0から358.6(≒360)まで設定される。従って、角度誤差マップの検出角度は、マップ点数とindexの値とで下記の式によって算出される。下記の式の右辺の360/マップ点数は、前述の単位検出角度を示している。
検出角度=index×360/マップ点数
【0047】
図9(B)の補正値は、図9(A)の機械角度誤差に基づいて算出するが、図9(A)は機械角度誤差点数が500だが、図9(B)の角度誤差マップのマップ点数は256なので、図9(B)の検出角度に最も近い図9(A)の検出角度を2つ選択(換言すれば、最も近い図9(A)の検出角度と、2番目に近い図9(A)の検出角度を選択)し、選択した2つの検出角度に対応する機械角度誤差を線形補間して補正値を算出する。例えば、図9(B)の検出角度1.4度に最も近い図9(A)の検出角度は1.15度と1.88度とであるから、検出角度1.15度に対応した機械角度誤差0.43と、検出角度1.88度に対応した機械角度誤差0.44とを線形補間して補正値0.43を得る。
【0048】
以下同様に、図9(B)の検出角度に最も近い図9(A)の検出角度を2つ選択し、選択した2つの検出角度に対応する機械角度誤差を線形補間して補正値を算出することにより、角度誤差マップの補正値をマッピングする。マッピングが完了した角度誤差マップは、基板84等に実装された記憶部(図示せず)に記憶する。又は上位の制御装置の記憶部に記憶し、回転角度の補正を要する場合に基板84等に実装された記憶部に上位の制御装置からダウンロードして回転角度の補正に供してもよい。
【0049】
図9(C)は、図6のステップ110における角度誤差マップを用いた機械角の補正の一態様を示している。図6のステップ108で算出した機械角の検出値は、角度誤差マップの1.4度の単位検出角度刻みにはならないので、検出値に最も近い角度誤差マップの検出角度を2つ選択(換言すれば、最も近い図9(C)の検出角度と、2番目に近い図9(C)の検出角度を選択)し、選択した2つの検出角度に対応する補正値を線形補間して検出値に対応した補正値を算出する。例えば、検出値が2度の場合、2度に最も近い角度誤差マップの検出角度は1.4度と2.8度とであるから、角度誤差マップの検出角度1.4度に対応した補正値0.43と、角度誤差マップの検出角度2.8度に対応した補正値0.45とを線形補間して補正値0.44を得る。
【0050】
図6のステップ110では、ステップ108で算出した機械角から、線形補間して得た補正値を減算することによって角度を補正する。
【0051】
本実施形態では、図9(C)に示したように、補正値の線形補間を行ったが、これに限定されない。マップ点数が256よりも十分に多い場合は、補正値の線形補間を行わずに、検出値に最も近い角度誤差マップの検出角度を1つ選択し、選択した1つの検出角度に対応する補正値を検出値に適用してもよい。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、予め設定した補正値で、検出値である機械角を補正することにより、検出した絶対角の精度を担保できる回転角度検出装置及び回転角度の導出方法を得ることができる。
【0053】
本実施形態では、補正値を、回転角度検出装置100の個体毎に設定する。また、絶対角は多極対磁石80Aの磁束の変化に基づいて算出するので、各個体の補正値は、0度から360度まで所定の差で等差に並んだ理想角度と、回転軸60を1回転させて得た検出角度との差分に基づいて多極対磁石80Aの各々の磁極毎に個別に設定する。
【0054】
設定した補正値は連続値ではなく離散的な値なので、回転角度検出装置100で検出した機械角(検出値)とは完全に一致しない。本実施形態では、検出値に最も近い2つの補正値を選択し、当該2つの補正値を線形補間して得た補正値で検出値を補正することにより、回転軸60の絶対角を高精度で得ることができる。
【0055】
回転軸60の絶対角を高精度で導出可能な本実施形態に係る回転角度検出装置100によれば、ロボット及び自動運転車が各々備えるアクチュエータの回転制御を的確に実行することが可能となる。
【0056】
[第2実施形態]
続いて第2実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と相違する構成については第1実施形態と異なる符号を付して説明するが、第1実施形態と同じ構成については、第1実施形態と同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0057】
図11は、本実施形態に係る回転角度検出装置100を回転軸60の周方向から見た概略図である。図11に示したように、本実施形態では、第1実施形態では一体に構成されていた1極対磁石80Bと多極対磁石80Aとの各々を独立した構成としている。
【0058】
1極対磁石80Bと多極対磁石80Aとの各々は、回転軸60に同軸で設けられ、互いの磁極の位置関係を維持した状態で回転軸60と共に回転可能に構成されている。基板84Aには多極対磁石80Aの磁束を検出する回転角センサ10Aが、基板84Bには1極対磁石80Bの磁束を検出する回転角センサ10Bが、各々実装されている。
【0059】
1極対磁石80Bと多極対磁石80Aとの各々を独立した構成とすることにより、第1実施形態のように、1極対磁石80Bと多極対磁石80Aとを一体とした構成よりも着磁を容易かつ確実に行うことができ、各々確実に着磁された1極対磁石80B及び多極対磁石80Aの各々の磁束を検出することにより、回転軸60の絶対角を高精度で導出することが可能となる。
【0060】
第1実施形態、及び第2実施形態では、マイコンがソフトウェア(プログラム)により、図6に示したような処理を実行することを想定しているが、マイコン以外の各種のプロセッサが図6に示したような処理を実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【符号の説明】
【0061】
10A、10B 回転角センサ、20A1、20A2 磁束検出部、60 回転軸、80 永久磁石、80A 多極対磁石、80B 1極対磁石、84 基板、100 回転角度検出装置、P1、P2、P3、P4、P5 磁極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11