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特開2022-184559内部構造体、流体特性変化装置及びその利用装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184559
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】内部構造体、流体特性変化装置及びその利用装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 25/40 20220101AFI20221206BHJP
   B01F 23/20 20220101ALI20221206BHJP
   B01F 25/10 20220101ALI20221206BHJP
【FI】
B01F5/00 D
B01F3/04 Z
B01F5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092492
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】509089340
【氏名又は名称】株式会社塩
(74)【代理人】
【識別番号】100137969
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 憲昭
(74)【代理人】
【識別番号】100104824
【弁理士】
【氏名又は名称】穐場 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100121463
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大木 勝
(72)【発明者】
【氏名】駒澤 心
【テーマコード(参考)】
4G035
【Fターム(参考)】
4G035AB04
4G035AC01
4G035AC44
4G035AE13
(57)【要約】
【課題】流体の特性を変化させる流体特性変化装置及びその内部構造体並びにその利用装置であって、特に流体特性変化装置から出力する(吐出する)流体の流量を更に増やすようにするものである。つまり、より多量の流体を必要とする場合に有用である。また、かかる装置の圧力損失を低減することで、より粘性の高い流体にも有用である。
【解決手段】収納体に収納されて、流体に対し流動特性を与える内部構造体であって、内部構造体は、拡散部分と渦巻発生部分と流動特性付与部分とを有する。拡散部分は、流入される流体を軸体部材の半径方向に拡散させ、渦巻発生部分は、拡散部分によって拡散された流体に渦巻流を発生させるようにするものであって、複数の翼を有し、翼の一部には、穴が開いていて、流体の一部を下流に通過させるようにする。流動特性付与部分は、渦巻発生部分からの渦巻流となった流体ならびに穴を通過した流体が与えられ、流動特性付与部分は、流体が流れる外周面に複数の突出部を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納体に収納されて、流体に対し流動特性を与える内部構造体であって、
内部構造体は、拡散部分と渦巻発生部分と流動特性付与部分とを有し、
拡散部分は、流入される流体を軸体部材の半径方向に拡散させ、
渦巻発生部分は、拡散部分によって拡散された流体に渦巻流を発生させるようにするものであって、複数の翼を有し、翼の一部には、穴が開いていて、流体の一部を下流に通過させるようにし、
流動特性付与部分は、渦巻発生部分からの渦巻流となった流体ならびに穴を通過した流体が与えられ、流動特性付与部分は、流体が流れる外周面に複数の突出部を有することを特徴とする、
内部構造体。
【請求項2】
渦巻発生部分の複数の翼には、内側が相対的に厚くて外側が相対的に薄くなった少なくとも一つの段差が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の内部構造体。
【請求項3】
収納体に収納されて、流体に対し流動特性を与える内部構造体であって、
内部構造体は、拡散部分と渦巻発生部分と流動特性付与部分とを有し、
拡散部分は、流入される流体を軸体部材の半径方向に拡散させ、
渦巻発生部分は、拡散部分によって拡散された流体に渦巻流を発生させるようにするものであって、複数の翼を有し、翼には内側が相対的に厚くて外側が相対的に薄くなった少なくとも一つの段差が形成されているようにし、
流動特性付与部分は、渦巻発生部分からの渦巻流となった流体が与えられ、流動特性付与部分は、流体が流れる外周面に複数の突出部を有することを特徴とする、
内部構造体。
【請求項4】
翼の一部には、穴が開いていて、流体の一部を下流に通過させるようにし、
流動特性付与部分は、渦巻発生部分からの渦巻流となった流体ならびに穴を通過した流体が与えられるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の内部構造体。
【請求項5】
渦巻発生部分は、5つの翼を含み、翼の各々は、その先端が軸部分の円周方向に互いに72°ずつずらされていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の内部構造体。
【請求項6】
内部構造体は、流動特性付与部分より下流側に、流体を流れの中心に向かって誘導するドーム形の誘導部分を更に含み、ドーム形の誘導部分には、先端に向けて複数の溝が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の内部構造体。
【請求項7】
流動特性付与部分における流体が流れる外周面に形成された複数の突出部は、少なくとも一つの段差が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の内部構造体。
【請求項8】
拡散部分、渦巻発生部分、流動特性付与部分、誘導部分は、共通の軸体部材上に一体的化して形成されていることを特徴とする請求項6に記載の内部構造体。
【請求項9】
複数の突出部の間にある流路の断面積が、上流の流路の断面積より小さく、複数の突出部の間にある流路を流れる流体の静圧力を低くすることにより、キャビテーション効果を誘発して、微小バブルを発生させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の内部構造体。
【請求項10】
内部構造体は、供給される流体に対して、マイクロバブルやウルトラファインバブルを含む微細気泡を発生し、複数の流体を混合し、供給流体を攪拌・拡散或いはせん断することの少なくとも一つの機能を実現することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の内部構造体。
【請求項11】
請求項9又は10の内部構造体及びそれを収納する収納体からなる流体特性変化装置。
【請求項12】
請求項11の流体特性変化装置を利用する利用装置であって、流体特性変化装置からの流体を、冷却剤、洗浄剤、殺菌剤、伝熱剤のいずれかとして用いることを特徴とする利用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の特性を変化させる流体特性変化装置及びその内部構造体並びにその利用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロバブルやウルトラファインバブルなどのファインバブル(微細気泡)を発生したり、複数の流体を混合したり、供給流体を撹拌・拡散或いはせん断したりすることの、少なくとも一つの流体特性変化機能を実現する装置がある。例えば、このような装置として、本願特許出願人により、特許第6245397号に係る発明が提案されている。そして、その装置から出力する流体の流量を増やすように改善した発明も特願2019-214539号にて提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6245397号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、本願特許出願人の先に提案した発明をさらに改善するものである。具体的には、流体の特性を変化させる流体特性変化装置及びその内部構造体並びにその利用装置であって、特にかかる流体特性変化装置から出力する(吐出する)流体の流量を更に増やすようにするものである。つまり、より多量の流体を必要とする場合に有用である。また、かかる装置の圧力損失を低減することで、より粘性の高い流体についても流体特性変化を生じさせる際にも有用である。このように、本発明は、流体の特性を変化させる流体特性変化装置及びその内部構造体並びにその利用装置であって、特に流体特性変化装置から出力する流体の流量を適切なものとすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するために、具体的には次のような構成である。即ち、流体特性変化装置の内部構造体に係る一実施形態によれば、収納体に収納されて、流体に対し流動特性を与える内部構造体であって、内部構造体は、拡散部分と渦巻発生部分と流動特性付与部分とを有する。拡散部分は、流入される流体を軸体部材の半径方向に拡散させ、渦巻発生部分は、拡散部分によって拡散された流体に渦巻流を発生させるようにするものであって、複数の翼を有し、翼の一部には、穴が開いていて、流体の一部を下流に通過させるようにする。流動特性付与部分は、渦巻発生部分からの渦巻流となった流体ならびに穴を通過した流体が与えられ、流動特性付与部分は、流体が流れる外周面に複数の突出部を有する。
更に、別の実施形態では、収納体に収納されて、流体に対し流動特性を与える内部構造体であって、内部構造体は、拡散部分と渦巻発生部分と流動特性付与部分とを有する。拡散部分は、流入される流体を軸体部材の半径方向に拡散させ、渦巻発生部分は、拡散部分によって拡散された流体に渦巻流を発生させるようにするものであって、複数の翼を有し、翼には内側が相対的に厚くて外側が相対的に薄くなった少なくとも一つの段差が形成されているようにし、流動特性付与部分は、渦巻発生部分からの渦巻流となった流体が与えられ、流動特性付与部分は、流体が流れる外周面に複数の突出部を有する。
加えて、他の実施形態による内部部構造体は、流動特性付与部分より下流側に、流体を流れの中心に向かって誘導するドーム形の誘導部分を更に含み、ドーム形の誘導部分には、先端に向けて複数の溝が形成されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の内部軸体によれば、マイクロバブルやウルトラファインバブルなどのファインバブル(微細気泡)を発生したり、複数の流体を混合したり、供給流体を撹拌・拡散或いはせん断したりすることができる。そして、拡散部分によって拡散された流体に渦巻流を発生させるようにする渦巻発生部分の複数の翼の一部には、穴が開いていて、流体の一部を下流に通過させることで、流体の流量を増量するなどして適切なものとすることができる。本発明の流体特性変化装置の利用装置の一例においては、流体特性変化装置からの流体を、冷却剤、洗浄剤、殺菌剤、伝熱剤のいずれかとして用いることができる。更に、複数の翼には、外側が薄く、内側が厚くなった少なくとも一つの段差が形成されているようにすることで、流体の流量を更に増やすことができる。また、流体の粘性が高いと、装置の圧力損失が高くなって流体の流量が減少することが起きるが、本発明の内部構造体を用いることにより装置の圧力損失を低減することで、適切な流量を確保できることになり、より粘性の高い流体の場合にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
以下の詳細な記述が以下の図面と合わせて考慮されると、本発明のより深い理解が得られる。これらの図面は例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
図1】本発明の流体特性変化装置を用いる利用装置を示す図である。
図2】本発明の流体特性変化装置の一実施形態に係る流体供給管の3次元分解斜視図である。
図3】一実施形態に係る内部構造体の3次元外観斜視図である。
図4】一実施形態に係る内部構造体の側面図(a)と正面図(b)とである。
図5】本発明の一実施形態の内部構造体に形成される突起部の拡大図であり、一つの段差を示す図(a)と二つの段差を示す図(b)とである。
図6】内部構造体の流動特性付与部分における複数の螺旋流路と複数の円環流路との交点に多数の多数の突起が形成されることを示す図である。
図7】本発明の比較対象である内部構造体の側面と正面の一部を示す図(A)、(B)、と、本発明の実施形態に係る内部構造体の側面と一部正面を示す図(C)、(D)、(E)である。
図8】本発明の比較対象の内部構造体と本発明の実施形態に係る内部構造体とを用いた流体特性変化装置における流体の圧力別の吐出量を比較した図である。
図9】本発明の他の一実施形態に係る内部構造体の3次元外観斜視図である。
図10】他の一実施形態に係る内部構造体の左側面図(a)と正面図(b)と右側面図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の流体特性変化装置Sを用いた利用装置を示す。1は、流体(例えば水)を溜めるタンク(水槽)である。このタンク1の流体は、ポンプ2によって吸い上げられ、配管を通り流体特性変化装置Sに与えられる。流体特性変化装置Sには、タンク1からの流体(第1の流体)が供給されるほかに、特に図示しないが必要に応じて第2の流体が吸入され、流体特性変化がなされたうえで、バルブ3を経由して対象機器4に供給される。第2の流体が空気の場合は、流体特性変化装置Sでは、外気を取り込むだけでよい。例えば、タンク1からの第1の流体を水として、第2の流体を空気とした場合、流体特性変化装置Sにてウルトラファインバブル(バブルの内部は主に気化した水)を直接的に発生しながら、吸入された空気を攪拌・拡散あるいはせん断等して、バブル内部に主に空気を含むマイクロバブル(その一部はウルトラファインバブルになる可能性もある)をも多量に発生することになる。従って、マイクロバブルの作用とあわせて、ウルトラファインバブルの作用も実現できる。また、流体特性変化装置Sは、2つの流体(液体どうし、液体と気体、気体どうし、或いは気液混合流体どうし)を混合したり、攪拌・拡散或いはせん断したりする。
【0009】
タンク1の第1の流体の状態(水温など)を検知するセンサ5や、流体特性変化装置Sを通過する流体の状態(流量、圧力など)を検知するセンサ6の出力に基づいて制御装置7がバルブ3の開閉制御を行い、その制御状態を表示盤8にてオペレータに明示する。そして、バルブ3を経由した流体は対象機器4に供給される。対象機器4で、供給流体が消費される場合を除き、流体を循環利用する場合は、対象機器4にて使用された流体は濾過器9(場合によっては、チラー(Chiller))などを経由して異物や不純物を濾過した上(場合によっては温度を元に戻した上)でタンク1に戻される。
【0010】
本発明の流体特性変化装置Sからの流体は、各種の利用装置に用いられる。例えば、利用装置は、工作機械であって、ワークや砥石やドリルなどの刃物に、ノズルから流体特性変化装置Sからの流体を吐出して工作部分を冷却する。あるいは、利用装置を、工場の生産ライン(特に精密機器)の洗浄システムとすることができる。このように、流体特性変化装置Sからの供給流体は、対象機器4において、冷却剤や洗浄剤として機能する。つまり、ファインバブルを含む液体は、流体の表面張力を下げ浸透性が向上することによって、流体が細部にまで行き渡ることで冷却効果や洗浄能力を上げる。後述するキャビテーション現象で液中の気圧が飽和蒸気圧以下になると、液体が水の場合は水蒸気による泡が発生する。この泡は負圧でできており、当然、圧力の高いところで消滅し、その際に大きな衝撃が発生する。この衝撃を洗浄に活用して、洗浄能力を高める。同様に、利用装置をビンや容器、機材の洗浄装置とすることもできる。さらには、タンク1からの水に第2の流体としてオゾンを混合し、流体特性変化装置Sにてオゾンファインバブル水に特性変化して、対象機器4において目的とするプロダクトにオゾンバブル水を吐出する。このようにすれば、脱臭・脱色・殺菌効果が得られる。オゾンは酸素分子へ分解され、その過程でOHラジカルなどが生成されることで、殺菌性能が上がる。従って、流体特性変化装置Sからの供給流体は、例えば、殺菌剤として用いられる。
【0011】
更に、対象機器4を含む利用装置としては、家庭内の洗面・風呂・洗濯・洗浄等の流体システムなどがあり、洗浄効果が期待される。この場合は、タンク1は不要で、水道管から供給される水道水(第1の流体)を直接、流体特性変化装置Sを通過させる(第2の流体は、空気である)ことで実現できる。同様に、工場やオフイス、店舗でも水道水を直接利用する流体システムに適用できる。あるいは、タンク1からの水に第2の流体として酸素を混合し、流体特性変化装置Sにて酸素ファインバブル水に特性変化し、農業、水産分野あるいはその他の分野の水処理のための流体システムに適用できる。ファインバブルを含んだ液体は、植物や魚などの生物に吸収されて、成長の速度を加速することができる。また、食材、例えば米や農作物、鮮魚などの洗浄にも用いられる。更には、地下水や井戸水、汚染水の浄化など水処理システムに適用できる。タンク1からの水に第2の流体として水素、二酸化炭素、その他の気体を混合し、流体特性変化装置Sにて水素ファインバブル水、二酸化炭素ファインバブル水、その他の特性を持つファインバブル水に特性変化させて、各種用途に用いることができる。
【0012】
また、対象機器4を含む利用装置としては、各種機器の発する熱を熱交換する流体システムに適用でき、流体特性変化装置Sからの流体をかかる熱交換器に供給し、冷却或いは加熱することも実現できる。流体特性変化装置Sからの流体(ファインバブルを含み、温度変化の効果が期待される)を対象機器4内の熱交換器内のパイプに通す。対象機器4において、熱交換器を経た流体は、図示しないチラーにて、本来の温度に戻して、タンク1に循環供給される。このようにして、対象機器4に供給される流体が、対象機器の冷却或いは加熱を実現する伝熱剤として機能する。
【0013】
特定の流体を消費する(流体を循環使用しない)流体システムであれば、タンク1に適宜、当該流体を補給しながら利用することになる。そのような対象機器は、種々の製造・生産ラインであり、種々の物品(食品、薬品、エマルジョン燃料など)の製造や生産に流体特性変化装置Sからの流体を利用することができる。
【0014】
本発明において、流体特性変化装置Sには、供給流体の特性を変化させる1個もしくは複数の内部構造体が含まれるが、この内部構造体は、流体にファインバブル(マイクロバブルやウルトラファインバブル)を発生するものや、流体を撹拌・拡散あるいはせん断して、流体の特性を変更する装置で、流体の分子間の連結構造に変化をもたらすと考えられる構造体も含む。内部構造体を複数直列に配列する、並列に配列することなども流体特性変化装置Sの構成として取り得る。
【0015】
(一実施形態)
図2は、本発明の流体特性変化装置Sの一実施形態に係る流体供給管100の3次元分解斜視図であり、図3は流体供給管100の内部構造体140の3次元斜視図であり、図4は、内部構造体140の側面図(a)と正面図(b)である。図2に示されたように、流体供給管100は管本体110と内部構造体140とを含む。図2において、流体は流入口111から流出口112側へ流れる。
【0016】
管本体110は、その内部空間に内部構造体140を収納するための収納体として機能する。管本体110は、流入側部材120と流出側部材130とから構成される。流入側部材120と流出側部材130とは、円筒形の中が空いている管の形態を有する。流入側部材120は、一端部に所定の直径の流入口111を有し、他の端部側には流出側部材130との接続のために内周面をねじ加工することによって形成された雌ねじ(図示せず)を備える。流入口111の側には連結部が形成されており、連結部の内周面に形成された雌ねじ122と図示しない上流側のジョイント部の端部の外周面に形成された雄ねじとのねじ結合により、流入側部材120と上流側のジョイント部とが連結される。
【0017】
流出側部材130は、一端部に所定の直径の流出口112を有し、他の端部側には流入側部材120との接続のために外周面をねじ加工することによって形成された雄ねじ132を備える。流出側部材130の雄ねじ132の外周面の直径は流入側部材120の雌ねじの内径と同一である。流出口112の側には連結部が形成されており、連結部は図示しない下流側のジョイント部と結合される。例えば、連結部の内周面に形成された雌ねじ(図示せず)とジョイント部の端部の外周面に形成された雄ねじとのねじ結合により、流出側部材130とジョイント部とが連結される。流入側部材120の一端部の内周面の雌ねじと流出側部材130の一端部の外周面の雄ねじ132とのねじ結合によって、流入側部材120と流出側部材130とが連結されることで管本体110が形成される。
【0018】
管本体110の上記構成は一つの実施形態に過ぎず、本発明は上記構成に限定されない。例えば、流入側部材120と流出側部材130との連結は上記のねじ結合に限定されず、当業者に知られた機械部品の結合方法はどれでも適用可能である。また、流入側部材120と流出側部材130との形態は、図2の形態に限定されず、設計者が任意に選択したり、流体供給管100の用途によって変更したりすることができる。流入側部材120又は流出側部材130は、例えば、スチールのような金属、又はプラスチックや樹脂等の非金属から成る。図2及び図3を一緒に参照すれば、流体供給管100は、内部構造体140を流出側部材130に収納した後に、流出側部材130の外周面の雄ねじ132と流入側部材120の内周面の雌ねじとを結合させることによって構成されることが理解される。
【0019】
内部構造体140は、例えば、スチールのような金属からなる円柱部材を加工する方法又はプラスチックを成形する方法(射出成型する方法なども含まれる)等によって形成される。図3及び図4に示されたように、本実施形態の内部構造体140は、上流側から下流側に向けて、断面が円形の共通の軸部141の上に一体化して形成されている流体拡散部142と、渦巻発生部143と、流体特性付与部145と、誘導部150とを含む。流体拡散部142、渦巻発生部143、流体特性付与部145及び誘導部150のそれぞれは、例えば、一つの円柱部材の一部を切削、旋削、研削の加工を単独で或いはこれらを組み合わせて行うことにより形成される。或いは、3Dプリンターによって金属または樹脂の材料から3次元プリント形成することもできる。
【0020】
流体拡散部142は、円錐の形態を有し、例えば、円柱部材の一端部を円錐加工することによって形成される。流体拡散部142は流入口111を経て流入側部材120に流入する流体を管の中心部から外側へ、即ち、半径方向へ拡散させる。本実施形態においては流体拡散部142が円錐の形態を有するが、本発明はこの実施形態に限定されない。他の実施形態では、流体拡散部142がドームの形態を有する。流体拡散部142は、その他の形態をとることもでき、先端の一点から徐々に同心円的に拡大する形状であればよい。
【0021】
渦巻発生部143は、管本体110に内部構造体140が収納された際に、管本体110の上流側に位置する内部構造体140の頭部の一部であって、流体拡散部142の下流に位置する。図示されたように、渦巻発生部143は、円形の断面を有し、長さ方向に沿って直径が一定した軸部141と、5個の螺旋状に形成された翼143-1~143-5とを含む。図3に示されたように、流体拡散部142の軸部方向の長手方向(流体が全体として流れる方向)の長さは、渦巻発生部143の軸部141の長手方向の長さより短く、渦巻発生部143の軸部141の長手方向の長さは、流体特性付与部145の軸部141の長手方向の長さよりは短い。流体拡散部142の断面積が最大である部分の直径は、渦巻発生部143の軸部141の直径と同一である。他の実施形態では、流体拡散部142の断面積が最大である部分の直径が渦巻発生部143の軸部141の直径より小さくすることも、大きくすることもできる。いずれの場合にも、流体拡散部142の断面積が最大である部分の半径は渦巻発生部143の半径(渦巻発生部143の軸部141の中心から各翼の先端までの距離)より小さいことが好ましい。
【0022】
渦巻発生部143の翼143-1~143-5の各々は、図4に示される通りその先端が軸部141の円周方向に互いに72°ずつずらされており、軸部141の渦巻発生部143に対応する間の外周面に、所定の間隔をあけて反時計まわりに螺旋状に形成されている。図4の(a)は左側面図、(b)は正面図である。本実施形態では翼の個数を5個にしたが、本発明はこのような実施形態に限定されない。そして、各翼には、流れ方向に垂直な面のほか、螺旋状の面(例えば、流れ方向に垂直な面からの角度は20°である)に長穴が開いているとともに、段差が設けられている。より詳細には、例えば、翼143-1には、図3及び図4に示す通り、流れ方向に垂直な面に小さい丸穴143-1aがあいている。そして螺旋状の面は、内側が相対的に厚くて外側が相対的に薄くなった少なくとも一つの段差143-1bが形成され、また複数の丸穴が連続し繋がった長穴143-1cがあいている。他の翼143-2~143-5の形状も同様である。このようにして、渦巻発生部143は、流体に対して反時計回りの渦巻流を作るほか、流体の一部が丸穴や長穴を直接通過して下流に流れるようにする。また、段差によって翼の厚みが薄い部分が形成されによって、流体の流量を増やすことになる。渦巻発生部143の翼143-1~143-5の形態は、流体が各翼の間を通過する間に渦巻流を起こすことができる形態であれば、翼の枚数や角度、形成される段差の数は特に制限されない。このような様々な変形は後述する他の実施形態にも同様に適用可能である。そして、本実施形態では、渦巻発生部143は、内部構造体140を管本体110に収納した時に、管本体110の流出側部材130の内部空間の壁面に近接する程度の外径を有する。
【0023】
流体特性付与部145は、渦巻発生部143より所定の区間144を隔てて下流側に形成され、内部構造体140のボディー部の一部又は全部に対応する。図3及び図4に示されたように、流体特性付与部145は、円形の断面を有し直径が一定した軸部141と、軸部141の外周面から突出した網状に形成された複数の突起部(凸部)145pとを含む。本実施形態において、流体特性付与部145の軸部141の直径は、渦巻発生部143及び所定の区間144の軸部141の直径と同じである。そして、渦巻発生部143から所定の区間144を経由して流体特性付与部145に流れる間、流路の断面積が急激に小さくなって流体の流動特性を変化させる。
【0024】
図5は、流体特性付与部145に形成される一つの突起部145pの形状を拡大して示す。突起部145pの夫々は、円柱部材を切削等の加工をして形成した場合は、天面(上面)は元の円柱部材の外周面であって、略菱形(頂角は略30度)である。底面(下面)が軸部141の外周面であり、略平行四辺形である。本実施形態においては、突起部145pの高さ方向(軸部141の半径方向)の底面から全体の高さの略1/3のところに段差145p-d1が設けられていて(図(a)のとおり)、上段と第2段目が構成される。勿論、この段差145p-d1の高さは、全体の高さの1/2のところにする、あるいは、2/3のところにするなど適宜変更可能である。別の実施形態では、この段差145p-d1と段差145-d2とを全体の高さの略1/3及び2/3のところにそれぞれ設ける(図(b)のとおり)。段差145p-d1或いは段差145p-d2は、円周方向に平行であって、半径方向には垂直となる。この段差145p-d1、145p-d2を作るのは、エンドミルを用いた切削工程など、切削、旋削、研削の加工を単独で或いはこれらを組み合わせて行うことにより形成される。
【0025】
図6は本実施形態に係る突起部145pと流路145rの形成方法の一例を示す。図6に示されたように、円柱部材の長さ方向(図面の左右方向)に対して90度の方向に一定の間隔を持つ複数のライン(平行に流れる例えば14本の円環状の閉流路)と、上記長さ方向に対して所定の角度(例えば、60度)に傾いた一定の間隔のライン(複数本、例えば12本の螺旋状に流れる螺旋流路)を交差させ、90度の方向のラインの間を一回ずつ飛ばして切削等加工すると共に、傾いたラインの間を一回ずつ飛ばして切削等加工する。このようにして、軸部141の外周面から突出した複数の突起部145pが上下(円周方向)、左右(軸部141の長さ方向)に一つずつ飛ばして規則的に形成される。このとき、突起部145pには上述したように、段差145p-d1を形成することで、軸部141の半径方向においては、中心に近い方から下面(又は底面)、2段目、上段(天面又は上面)の3層構成となる。それぞれの突起部145pの間に流路145rが形成される。本実施形態において、流体特性付与部145は、内部構造体140を管本体110に収納した時に、管本体110の流出側部材130の筒形の内部空間の壁面に近接する程度の外径(つまり突起部145pの天面(上面)が壁面に接触する程度に近接する)を有する。なお、複数の突起部145pの形状は、種々の形状を取り得て、例えば、三角形、多角形、その他の形状と変形することもでき(このとき、夫々の突起部に、少なくとも一つの段差を底面からある高さに設ける)、その配列も図6から適宜(角度、幅など)変更できる。この変更は、以下に説明する他の実施形態においても同様に適用可能である。
【0026】
本実施形態では流体特性付与部145の最下流に、ドーム形状の誘導部150が設けられている。誘導部150によって、中心に向かって誘導された流体は、流出口112を通じて吐き出される。この誘導部150の形状もドーム形に限られるものではなく、円錐形、角錐形なども取り得る。
【0027】
以下、流体が流体供給管100を通過する間の流動について説明する。ポンプ2によってタンク1からくみ上げられ配管を経由して流入口111を通じて流入された流体は、流入側部材120の内側の内部壁面と流体拡散部142との間を通過しながら管の中心部から外側へ拡散させられる。そして流体は、渦巻発生部143の螺旋状に形成された5個の翼143-1乃至143-5の間を通過して行く。その結果、流体は渦巻発生部143の各翼によって強烈な渦巻流になって、流体特性付与部145に送られる。このとき、一部の流体は、各翼に形成された穴(翼143-1では、丸穴143-1a、長穴143-1cであって、他の翼143-2~143-5においてもそれぞれ同様に設けられた丸穴と長穴)を通過して下流の流体特性付与部145に送られる。また、翼143-1~143-5に形成された、内側が相対的に厚くて外側が相対的に薄くなった少なくとも一つの段差(翼143-1では、143-1b)によって、流体の流れる流量が増やされる。
【0028】
そして、流体は流体特性付与部145の複数の略菱形の突起部145pの間の複数の狭い流路145rを通り過ぎる。具体的には、この流路145rのうち、例えば12本の螺旋流路の流れが急峻であり、14本の円環状の閉流路の流れは緩慢である。この螺旋流路と円環状の閉流路とは交差する交差流路となり、流体は交差する位置で衝突を繰り返しながら全体として下流に進むことになる。その結果、流体には乱流が生じ多数の微小な渦を発生させる。このような現象によって、流体の混合及び拡散を誘発する。流体特性付与部145の上記構造は、異なる性質を有する二つ以上の流体を混合する場合にも有用である。
【0029】
また、内部構造体140では、流体が、断面積が大きい上流側(渦巻発生部143、所定区間144)から断面積が小さい下流側(流体特性付与部145の複数の突起部145pの間に形成された流路145r)へ流れるようにする構造を有する。この構造は以下に説明するように流体の静圧力(static pressure)を変化させる。流体に外部エネルギーが加えられない状態での圧力、速度、及び位置エネルギーの関係は次のようなベルヌーイ方程式(Bernoulli’s equation)として表される。
【数1】

ここで、Pは流線内の一点での圧力、つまり、静圧又は静圧力、ρは流体の密度、Vはその点での流動の速度、gは重力加速度、hは基準面に対するその点の高さ、Kは定数である。上記方程式として表現されるベルヌーイ定理は、エネルギー保存法則を流体に適用したものであり、第1項は、圧力のエネルギー(静圧)、第2項は運動エネルギー(動圧)、第3項は位置エネルギーに相当し、流れる流体に対して流線上ですべての形態のエネルギーの合計はいつも一定であるということを説明する。ベルヌーイ定理によると、断面積が大きい上流では、流体の速度が遅くて静圧は高い。これに対して、断面積が小さい下流では、流体の速度が速くなり静圧は低くなる。
【0030】
流体が液体である場合、気圧が下がると沸点が下がるので、ボイル・シャルルの法則(Boyle-Charles’law)に従って、低くなった静圧が液体の飽和蒸気圧に到達すると液体の気化が始まる。このようにほぼ同一の温度において静圧Pがきわめて短い時間内に飽和蒸気圧Pvより低くなって(水の場合、3000-4000Pa)、液体が急激に気化する現象をキャビテーション(cavitation)と称する。流体供給管100の内部構造はこのようなキャビテーション現象を誘発する。キャビテーション現象によって液体のうちに存在する100ミクロン以下の微小な気泡核を核として液体が沸騰したり溶存気体の遊離によって小さい気泡が多数生じたりする。すなわち、流体が流動特性付与部分145を通過する過程で多数のマイクロバブルやウルトラファインバブルを含むファインバブル(微細気泡)が発生する。
【0031】
また、流体が、水の場合、1つの水分子が他の4個の水分子と水素結合を形成するが、この水素結合ネットワークを破壊することは容易ではない。そのために、水は水素結合を形成しない他の液体に比べて沸点や融点が非常に高く、高い粘度を示す。水の沸点が高い性質は優秀な冷却効果をもたらすので、加工装置分野あるいは工作機械分野では、冷却水として頻繁に用いられるが、水分子の大きさが大きくて加工箇所への浸透性や潤滑性は良くないという問題がある。そこで、通常は水でない特殊な潤滑油(例えば、切削油)を単独に、または、水と混合して用いる場合も多い。ところで、流体供給管100を用いれば、上記したキャビテーション現象によって水の気化が起き、その結果、水の水素結合ネットワークが破壊されると考えられる。また、気化によって発生するファインバブルは流体(水)の浸透性及び潤滑性を向上させる。浸透性の向上は結果的に冷却効率を増加させる。
【0032】
流体特性付与部145を通過した流体は、誘導部150を経由して内部構造体140の端部に向かって流れる。流体特性付与部145の複数の狭い流路から流出側部材130の下流の内部空間へ流れると流路が急激に広くなる。流体は流出口112を通じて流出される。
【0033】
ここで、図7図8を参照して、比較対象の内部構造体(図7図8の(A)、(B))をもって、本実施形態の内部構造体(図7図8の(C)、(D)、(E))との流体の圧力別の吐出量を比較する。実験に用いた内部構造体は全て、全長が44.4mmであり、渦巻発生部143の流れの方向の長さは3.5mm、軸の最大直径(突起部145pの天面(上面)の位置)が20mm、軸の最小直径(突起部145pの底面の位置)が11mmであり、流体特性付与部145のすべての突起部145pは、図5の(a)の一段の段差が形成されている。
【0034】
更に、具体的には、そして、図7(A)は、穴や段差が形成されていない4枚の翼をもち、それぞれの翼の角度は流れに対して垂直面から15°である。図7(B)は、上述した実施形態同様に、5枚の翼をもつが、各翼には穴や段差が形成されていない。これに対して図7(C)は、5枚の翼のそれぞれには一段の段差が形成されているが、翼には、穴はあいていない。図7(D)は、5枚の翼をもち、各翼は丸穴や長穴が形成されているが、段差の形成は無い。図7(E)は、5枚の翼をもち、各翼には一段の段差が形成されていて、各翼は丸穴や長穴が形成されている。
【0035】
図8の流体の圧力(単位はメガパスカル)別の吐出量(毎分当たりの流量:単位はリットル)を比較すると、4枚の翼のものより、5枚の翼をもつものが、流量が多いことがわかる。また、総じて翼に穴(丸穴、長穴)の開いているものが、穴の開いていないものに比べて流量が多い。或いは、翼に段差がついているものが、流量が多いことがわかる。
【0036】
(他の実施形態)
図9は、本発明の他の実施形態に係る内部構造体1140の3次元外観斜視図を示し、図10は、内部構造体1140の左側面図(a)と正面図(b)と右側面図(c)である。この内部構造体1140は、上述した一実施形態に係る内部構造体140と同様の構成をもつもので、同一構成のところは同一符号を付しその説明を省略する。本実施形態において、上述した実施形態140との相違点は、誘導部1150にある。
【0037】
即ち、内部構造体1140の下流側の誘導部1150は、ドーム形であるが、例えば18本の溝(細い流路)1150dがドーム先端に流れに向かって形成されている。このような溝を形成することで、流体にはさらに中心に誘導することになり、また流体が水の場合は、目視によれば、白濁の程度が強まり、マイクロバブルの発生が強められていることが分かる。なお、この誘導部1140の形状としては、ドーム形に限らず円錐形、角錐形ほかの形状をとりうるが、その外周面に複数本の流れの方向に平行に溝が複数本設けられることになる。
【0038】
以上、本発明を、いくつかの構成例や、複数の実施形態を利用して説明したが、本発明はこのような例示の形態に限定されることではない。本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、上記説明及び関連図面から本発明の多くの変形及び他の実施形態を導出することができる。本明細書では、複数の特定用語が使われているが、これらは一般的な意味として単に説明の目的のために使われただけであり、発明を制限する目的で使われたものではない。添付の特許請求の範囲及びその均等物により定義される一般的な発明の概念及び思想を抜け出さない範囲で多様な変形が可能である。
【符号の説明】
【0039】
S 流体特性変化装置
4 対象機器
100 流体供給管
140、1140 内部構造体
143 渦巻発生部
143-1~143-5 翼
143-1a 丸穴
143-1b 段差
143-1c 長穴
150、1150 誘導部
1150d 溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10