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特開2022-184564製造方法、使用方法及び反応システム
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  • 特開-製造方法、使用方法及び反応システム 図1
  • 特開-製造方法、使用方法及び反応システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184564
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】製造方法、使用方法及び反応システム
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/54 20060101AFI20221206BHJP
   C07C 49/17 20060101ALI20221206BHJP
   C07H 1/00 20060101ALI20221206BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20221206BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C07C45/54
C07C49/17 A
C07H1/00
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092500
(22)【出願日】2021-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷 陽子
【テーマコード(参考)】
4C057
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4C057AA16
4C057AA19
4C057BB02
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA36A
4G169BC10A
4G169BC31A
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BE14A
4G169BE14B
4G169BE19A
4G169BE19B
4G169BE36A
4G169BE36B
4G169CB07
4G169CB72
4G169DA02
4H006AA02
4H006AC44
4H006BA07
4H006BA47
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC16
4H039CA62
4H039CJ10
(57)【要約】
【課題】より温和な条件下でケトース化反応を行う。
【解決手段】本開示の製造方法は、2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体である触媒を用い、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応を行う反応工程、を含む。また、本開示の触媒の使用方法は、2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体である触媒を、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応に用いるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体である触媒を用い、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応を行う反応工程、を含む製造方法。
【請求項2】
前記触媒は、等電点がpH6以上8.5以下の範囲にある前記アミノ酸を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒は、プロリン、アラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン及びトレオニンのうち1以上の前記アミノ酸を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記触媒は、Zn、Mn、Mg、Fe、Co、Ni、及びCuのうち1以上の前記金属イオンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記触媒は、亜鉛プロリン錯体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応工程では、80℃以下の反応温度、pHが6以上9以下の範囲で前記ケトース生成反応を行う、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記反応工程では、前記触媒を0.05 ~2質量%含む水溶液中で前記ケトース生成反応を行う、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体である触媒を、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応に用いる、触媒の使用方法。
【請求項9】
2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体である触媒を用い、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応を行う、反応システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では製造方法、使用方法及び反応システムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、糖の異性化反応を行うに際して、Snを含むゼオライトを触媒として、pH=1~2、水溶液中118℃以上で実施するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、酢酸亜鉛を均一系触媒として用い、pH=8.4のリン酸バッファ水溶液中、25℃で反応させ、ケトース化反応を実施するものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。また、2価の金属であるカルシウムを含むハイドロキシアパタイトの固体を不均一触媒として用い、水中、85℃で反応させ、ケトース化反応を実施するものが提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-67860号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society 123 (2001), 794.
【非特許文献2】ACS Sustainable Chemistry & Engineering 7 (2019) 3372.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1では、ゼオライトを触媒とすることで強酸性条件下でケトース化反応を実施しているが、強酸性条件下でのケトース異性化反応の触媒活性が低く、異性化反応を進行させるには、90~180℃の温度が必要であった。また、非特許文献1では、酢酸亜鉛触媒をバッファ水溶液中で用いることで、中性付近でのケトース化反応を実施しているが、同時に進行するアルドール反応の影響を抑制するため、反応率10%以下で反応を停止しており、反応をより進めることは困難であった。また、非特許文献2では、ハイドロキシアパタイトの固体を不均一系触媒として水中、85℃と比較的高温の条件でケトース化反応を実施する必要があった。また、固体触媒であるため、アルドース類の分子サイズによって反応性が異なり、アルドース類の炭素分子数の増加に伴って収率が低下する傾向があった。具体的には、炭素分子が3個のアルドースでは85%の収率で進行するものの、炭素分子が4個以上のアルドース類では目的とするケトース類の収率が40%以下であった。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、より温和な条件下でケトース化反応を行うことができる新規な製造方法、使用方法及び反応システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体触媒を用い、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応をより温和な条件下で実行できることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本明細書で開示する製造方法は、
2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体である触媒を用い、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応を行う反応工程、を含むものである。
【0009】
本明細書で開示する触媒の使用方法は、
2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体である触媒を、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応に用いる、ものである。
【0010】
本明細書で開示する反応システムは、
2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体である触媒を用い、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応を行うものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示の製造方法、使用方法及び反応システムでは、より温和な条件下でケトース化反応を行うことができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。アルドース-ケトース異性化反応は、アルドース類から工業的に有用なケトース類を得るために広く検討されている。例えば、ロブリー・ド・ブリュイン=ファン・エッケンシュタイン転位として知られているケトース生成反応では、塩基性条件下で図1に示すアルドース-ケトース異性化反応のスキームで反応が進行することが知られている。しかし、塩基性条件下ではアルドール反応あるいはレトロアルドール反応が並行して進行するため、目的とするケトース化合物の収率が低下することが懸念されていた。本開示では、2価の金属イオンとアミノ酸を構造中に含む化合物を触媒として用いることで、中性付近のpHでケトース化反応を進行させ副反応を抑制することができるものと推察される。この錯体触媒では、等電点がpH6~8.5の範囲であり、この領域では、アルドール反応あるいはレトロアルドール反応という副反応はほとんど進行せず、目的とするケトース生成反応を優位に進行させることができるものと推察される。このように、中性付近の領域で双性イオンを形成するアミノ酸と、アルドース化合物からケトース化合物への変換反応の触媒の一種である2価の金属イオンと、の両方を構造中に含む錯体を触媒に用いることにより、従来よりも温和な条件下でのケトース生成反応を実施することができるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】アルドース-ケトース異性化反応のスキーム。
図2】実験例1~6の高速液体クロマトグラフィーの分析結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(製造方法)
本開示の製造方法は、アルドース-ケトース異性化反応を実行することにより、ケトース化合物を得る方法である。この製造方法は、2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体である触媒を用い、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応を行う反応工程を含む。アルドース化合物としては、例えば、グリセルアルデヒド、エリトロース(エリスロース)、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース及びタロースなどのうち1以上又はいずれかの誘導体などが挙げられる。ケトース化合物としては、例えば、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、キシルロース、リブロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、セドヘプツロース、コリオースなどのうち1以上又はいずれかの誘導体などが挙げられる。
【0014】
反応工程では、原料であるアルドース化合物と錯体触媒とを溶媒に入れて異性化反応を行うことが好ましい。反応を行う溶媒は、例えば、水や有機溶媒などが挙げられ、このうち水が好ましい。また、この工程において、反応温度は、異性化反応を進める観点からはより高いことが好ましく、副反応をより抑制する観点からはより低い温度が好ましい。この反応温度は、例えば、80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。また、反応温度は、室温(20℃)以上であることが好ましく、40℃以上がより好ましい。反応時間は、生成物をより得る観点からはより長いことが好ましく、作業効率の観点からはより短いことが好ましい。反応時間は、例えば、2時間以上が好ましく、12時間以上がより好ましく、24時間以上としてもよい。また、反応時間は、48時間以下が好ましく、36時間以下がより好ましく、24時間以下としてもよい。また、反応処理時の溶液のpHは、より温和な中性領域であることが好ましい。このpHは、6以上であることが好ましく、6.5以上がより好ましく、6.8以上としてもよい。また、このpHは、9以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、7.5以下であるものとしてもよい。
【0015】
この工程に用いる触媒は、等電点がpH6以上8.5以下の範囲にあるアミノ酸を含むことが好ましい。この触媒は、プロリン、アラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン及びトレオニンのうち1以上のアミノ酸を含むことが好ましく、このうち、プロリンがより好ましい。この触媒は、Zn、Mn、Mg、Fe、Co、Ni、及びCuのうち1以上の金属イオンを含むことが好ましく、このうち、Znがより好ましい。即ち、アルドース-ケトース異性化反応を実行するに際して、用いる触媒は、亜鉛プロリン錯体であることが好ましい。この反応工程では、触媒を0.05 ~2質量%含む水溶液中でケトース生成反応を行うことが好ましい。触媒量は、異性化反応を進める観点からはより多いことが好ましく、添加効率の観点からはより少ないことが好ましい。触媒量は、例えば、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上としてもよい。また、触媒量は、例えば、2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1質量%であるものとしてもよい。また、この触媒量は、基質Bに対する触媒Aの質量比A/Bで、1/50以上20/50以下の範囲が好ましく、5/50以上10/50以下の範囲がより好ましい。
【0016】
このケトース化合物の製造方法は、反応工程のあと、生成物を分離する分離工程を含むものとしてもよい。この分離工程では、例えば、吸着剤を収容したカラムを用いて生成物を分離するものとしてもよい。また、この分離工程では、触媒や副反応物を分離するものとしてもよい。この分離工程では、用いる触媒や原料に応じて適宜、吸着剤の種別や分離時間、分離温度などを設定するものとすればよい。このような処理を行うことによって、ケトース化合物を得ることができる。
【0017】
(触媒の使用方法)
本開示の触媒の使用方法は、2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体である触媒を、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応に用いるものである。この使用方法において、用いる触媒や反応条件などは、上述した製造方法で示したものを適宜、適用するものとして、その詳細な説明を省略する。
【0018】
(反応システム)
本開示の反応システムは、2価の金属イオンとアミノ酸とを含む錯体である触媒を用い、アルドース化合物からケトース化合物を生成するケトース生成反応を行うものである。この反応システムにおいて、用いる触媒や反応条件などは、上述した製造方法で示したものを適宜、適用するものとして、その詳細な説明を省略する。
【0019】
以上説明した本実施形態のケトース化合物の製造方法、触媒の使用方法及び反応システムでは、より温和な条件下でケトース化反応を行うことができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。アルドース-ケトース異性化反応は、アルドース類から工業的に有用なケトース類を得るために広く検討されている。例えば、ロブリー・ド・ブリュイン=ファン・エッケンシュタイン転位として知られているケトース生成反応では、塩基性条件下で図1に示すアルドース-ケトース異性化反応のスキームで反応が進行することが知られている。しかし、塩基性条件下ではアルドール反応あるいはレトロアルドール反応が並行して進行するため、目的とするケトース化合物の収率が低下することが懸念されていた。本開示では、2価の金属イオンとアミノ酸を構造中に含む化合物を触媒として用いることで、中性付近のpHでケトース化反応を進行させ副反応を抑制することができるものと推察される。この錯体触媒では、等電点がpH6~8.5の範囲であり、この領域では、アルドール反応あるいはレトロアルドール反応という副反応はほとんど進行せず、目的とするケトース生成反応を優位に進行させることができるものと推察される。このように、中性付近の領域で双性イオンを形成するアミノ酸と、アルドース化合物からケトース化合物への変換反応の触媒の一種である2価の金属イオンと、の両方を構造中に含む錯体を触媒に用いることにより、従来よりも温和な条件下でのケトース生成反応を実施することができるものと推察される。
【0020】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例0021】
以下には、本開示のケトース化合物の製造方法、触媒の使用方法及び反応システムを具体的に検討した例を実験例として説明する。なお、実験例1が本開示の実施例に相当し、実験例2~6が参考例に相当する。
【0022】
(実験例1)
亜鉛プロリン錯体は、参考文献(Chemical Communications, 2006, 1482-1484)に記載の方法で合成した。基質であるD-エリスロース50mgと合成した亜鉛プロリン錯体5.9mgとをイオン交換水1mLに溶解した。反応溶液を60℃で24時間反応させた。反応溶液のpHは6.5であった。反応後、反応液にプロトン型イオン交換樹脂(アンバーライトIR-120B H型)を加えpH3~4とした後にイオン交換樹脂を除去した。凍結乾燥により水分を除去し、反応生成物を得た。高速液体クロマトグラフィー(HPLC:日本分光社製GULLIVER)による生成物の分析において、生成物の含有量を360nmの紫外光の吸収強度から見積もるため、芳香族化合物(2,4-ジニトロフェニルヒドラジン,DNPH)による反応生成物の化学修飾を実施した。移動相にアセトニトリルと水の1:1の混合液を用いて、1mL/分の流速でDNPHで修飾された反応生成物を逆相カラムに流して分析を実施した。その結果、収率50%で、対応するケトースであるエリトルロースが得られた。
【0023】
(実験例2)
実験例1の亜鉛プロリン錯体を酢酸亜鉛2水和物4.4mgに代えた以外は実験例1と同様の処理を行い、ケトース生成反応を実施したものを実験例2とした。反応溶液のpHは5.5であった。HPLCによる分析の結果、ケトースであるエリトルロースが収率20%で得られた。
【0024】
(実験例3)
実験例1の亜鉛プロリン錯体をプロリン4.6mgに代えた以外は実験例1と同様の処理を行い、ケトース生成反応を実施したものを実験例3とした。反応溶液のpHは5.5であった。HPLCによる分析の結果、ケトース生成反応生成物は検知されなかった。
【0025】
(実験例4)
実験例1の亜鉛プロリン錯体をハイドロキシアパタイト20mgに代えた以外は実験例1と同様の処理を行い、ケトース生成反応を実施したものを実験例4とした。反応溶液のpHは6.0であった。HPLCによる分析の結果、ケトースであるエリトルロースが収率15%で得られた。
【0026】
(実験例5)
実験例1の亜鉛プロリン錯体を水酸化ナトリウム5.3mgに代えた以外は実験例1と同様の処理を行い、ケトース生成反応を実施したものを実験例5とした。反応溶液のpHは11であった。HPLCによる分析の結果、基質のエリスロースおよび生成物のエリトルロースの含有量が減少しており、収率は算出できなかった。
【0027】
(実験例6)
実験例1の亜鉛プロリン錯体を酢酸カルシウム6.3mgに代えた以外は実験例1と同様の処理を行い、ケトース生成反応を実施したものを実験例6とした。反応溶液のpHは10.5であった。HPLCによる分析の結果、基質のエリスロースおよび生成物のエリトルロースの含有量が減少しており、収率は算出できなかった。
【0028】
(結果と考察)
図2は、実験例1~6の高速液体クロマトグラフィーの分析結果である。また、表1に反応液のpH、収率(質量%)、反応後のアルドース量(質量%)、ケトース量(質量%)ケトース含有率(質量%)及びアルドースの消費量に対するケトースの生成量(質量%)をまとめた。なお、ケトース含有率は、ケトース量/(アルドース量+ケトース量)の式から求め、アルドースの消費量に対するケトースの生成量は、ケトース量/(100-アルドース量)の式から求めた。図2および表1に示すように、実験例1ではpHが6.5とほぼ中性であり、目的生成物のケトースは得られた糖類中に41質量%含まれていた。これに対して、実験例2~4では反応液のpHは5.5~6.0と、実験例1と同等であった。触媒として2価の金属イオンである亜鉛あるいはカルシウムを含むがアミノ酸を含まない触媒を用いた実験例2、4で得られたケトースの含有率は、実験例1の1/2以下であった。また、アルドースの消費量に対するケトースの生成量の割合は、実験例1、2、4はいずれも20~25質量%と、差は見られなかった。このことは、中性条件下においては、基質および生成物の分解反応が大幅に抑制されていることを示している。また、2価の金属イオンを含まず、アミノ酸のみを用いた実験例3では、ケトースの生成は確認されなかった。また、実験例5のように触媒に1価の金属イオンであるナトリウムを含み、pHが11の塩基性の場合、基質および生成物の両方の含有量が減少した。これは、塩基性条件で進行するレトロアルドール反応により、基質および生成物の分解反応が進行したためである。同様に、実験例6においては、触媒に2価の金属イオンであるカルシウムを含むが、pHが10.5の塩基性であったため、基質および生成物の分解反応が進行し、目的とするケトース生成反応の収率は評価できなかった。以上のように、2価の金属イオンである亜鉛とアミノ酸であるプロリンからなる化合物を触媒とした場合には、反応温度が80℃以下、中性付近のpHなど、温和な条件において効率よくケトース生成反応物を得ることができることがわかった。また、触媒量は、反応液に対して0.05 ~2質量%の範囲であり、基質に対する触媒の質量比が1/50~10/50の範囲であることが良好であるものと推察された。
【0029】
【表1】
【0030】
なお、本明細書で開示した製造方法、使用方法及び反応システムは、上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本明細書で開示した製造方法、使用方法及び反応システムは、アルドース化合物からケトース化合物を生成する異性化反応を利用する技術分野に利用可能である。
図1
図2