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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184567
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】永久磁石ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/03 20060101AFI20221206BHJP
   H02K 1/27 20220101ALI20221206BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
H02K1/27 501G
H02K1/27 501M
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021092505
(22)【出願日】2021-06-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000195959
【氏名又は名称】西芝電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174104
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 康一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 広基
(72)【発明者】
【氏名】末長 良輔
(72)【発明者】
【氏名】中根 優人
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA04
5H622CA02
5H622CA07
5H622CB03
5H622PP03
5H622PP18
5H622PP19
(57)【要約】
【課題】永久磁石の不可逆減磁を防止しつつ、永久磁石の外側に巻き付けられた熱硬化テープを短時間で効率よく加熱して硬化させることができるようにする。
【解決手段】円柱形状に製作された回転子2と、当該回転子2の外周面に接着された事前に着磁された永久磁石3と、当該永久磁石3の外周面に巻き付けられたPGテープ4で構成される永久磁石ロータ6を、強磁性体材料で形成された円筒状部材の内周に、コイル11が巻き付けられた鉄心12を設けた磁性体ケース10の内側に収容し、コイル11に高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で永久磁石3を加熱させることで、PGテープ4を硬化させるようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状に製作された回転子と、当該回転子の外周面を覆うように当該外周面に接着された事前に着磁された永久磁石と、当該永久磁石の外周面に巻き付けられた熱硬化テープとを有する永久磁石ロータを、強磁性体材料で形成された円筒状部材の内周に、コイルを巻き付けた鉄心が設けられた磁性体ケースの内側に収容し、
前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記永久磁石を加熱させることで、前記熱硬化テープを硬化させる
永久磁石ロータの製造方法。
【請求項2】
前記円筒状部材の内周に当該円筒状部材の軸方向に延びる凹部が形成され、当該凹部に収まるように、前記コイルを巻き付けた前記軸方向に延びる前記鉄心が設けられた前記磁性体ケースの内側に、前記永久磁石ロータを収容し、
当該永久磁石ロータを前記回転子の回転軸を中心に回転させながら、前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記永久磁石を加熱させることで、前記熱硬化テープを硬化させる
請求項1に記載の永久磁石ロータの製造方法。
【請求項3】
前記コイルを巻き付けた、前記円筒状部材の軸方向に延びる複数の前記鉄心が、前記円筒状部材の内周面の周方向に一定間隔で配置された前記磁性体ケースの内側に、前記永久磁石ロータを収容し、
前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記永久磁石を加熱させることで、前記熱硬化テープを硬化させる
請求項1に記載の永久磁石ロータの製造方法。
【請求項4】
複数の前記永久磁石が前記回転子の外周面の周方向に並べて配置された前記永久磁石ロータを、前記コイルを巻き付けた複数の前記鉄心が前記永久磁石の配置に合わせて前記円筒状部材の内周面の周方向に一定間隔で配置された前記磁性体ケースの内側に収容し、
複数の前記永久磁石のそれぞれと複数の前記鉄心のそれぞれとを対向させた状態で、前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記永久磁石を加熱させることで、前記熱硬化テープを硬化させる
請求項3に記載の永久磁石ロータの製造方法。
【請求項5】
前記熱硬化テープの外側が鋼材を含んだ円筒状の被覆部材で覆われた前記永久磁石ロータを、前記磁性体ケースの内側に収容し、
前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記被覆部材を加熱させることで、前記被覆部材を介して前記熱硬化テープを硬化させる
請求項1に記載の永久磁石ロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石ロータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石ロータの従来の製造方法について、図5(A)~(F)を用いて説明する。まず図5(A)に示すように、中心に回転軸1が貫通して固着された円柱形状の回転子2を製作する。この回転子2が、永久磁石ロータの主要部となる。その後、この回転子2の外周面に接着剤を塗布し、図5(B)に示すように、事前に着磁された複数の薄板状の永久磁石3を、回転子2の外周面を互いに重ならずに覆うように配置して当該外周面に接着させる。その後、図5(C)に示すように、回転子2の外周面に張り付けられた永久磁石3の外側に、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を含有したPG(プリプレグガラスクロス)テープ4を幅方向に重ね合わせながら螺旋状に巻き付ける。このPGテープ4は、ガラスクロスに熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を含浸後、半硬化した状態でテープ状に切断したものであり、加熱乾燥することで硬化する所謂熱硬化テープである。
【0003】
次に、図5(D)に示すように、永久磁石3の外側に巻き付けられたPGテープ4(図5(C)参照)の外側を、強磁性体材料で形成された円筒状の磁性体ケース5で覆う。磁性体ケース5は、内径(穴の直径)が、PGテープ4が巻き付けられた回転子2の外径(つまり永久磁石3の厚さとPGテープ4の厚さを含んだ回転子2の外径)よりも大きく、且つ軸方向の長さが回転子2の軸方向の長さ以上となっている。この為、磁性体ケース5の内側にPGテープ4が巻き付けられた回転子2を収容することで、回転子2の外周全体を磁性体ケース5で覆うことができる。
【0004】
次に、図5(E)に示すように、磁性体ケース5で覆われた回転子2を、磁性体ケース5の外側からオーブン等を用いて加熱する。この工程を熱処理工程という。このときの加熱温度と加熱時間は、PGテープ4の十分な熱硬化と、永久磁石3の不可逆減磁の防止を両立するように設定される。尚、不可逆減磁とは、磁石に高温の熱を加えることで磁石が減磁し、冷却後も元の状態に戻らず磁力が弱まる現象である。公知されている対策として、磁石のまわりを磁性体で覆う(すなわち永久磁石3のまわりを磁性体ケース5で覆う)ことで減磁を抑制することができる。
【0005】
熱処理工程によって、回転子2に巻き付けられたPGテープ4に含まれる熱硬化性樹脂が熱硬化する。このとき、回転子2に張り付けられた永久磁石3については、強磁性体材料で形成された磁性体ケース5に覆われた状態で加熱されるため、不可逆減磁は生じない。
【0006】
熱処理工程完了後、図5(F)に示すように、磁性体ケース5を、PGテープ4が巻き付けられた回転子2から取り外す。ここまでの工程によって、外周面に永久磁石3が強固に固定され、不可逆減磁が抑制された回転子2を有する永久磁石ロータ6が完成する。従来は、このような製造方法で永久磁石ロータ6を製造するようになっていた。
【0007】
尚、従来の製造方法で述べた、熱硬化性樹脂を含有するテープを巻き付けて磁石を回転子に固定する方法については、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平9-131027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の製造方法では、磁性体ケース5に覆われた回転子2の外周面に固定されている永久磁石3の不可逆減磁を防止するとともに、永久磁石3の外側に巻き付けられたPGテープ4が硬化するよう、加熱温度と加熱時間を設定して、オーブン等で加熱するようになっている。しかしながら、永久磁石3の外側に巻き付けられたPGテープ4を硬化させるには、磁性体ケース5に回転子2が覆われた状態で加熱する必要があることから、短時間で加熱するのは難しい。また従来の製造方法では、オーブン等の温風で加熱させるため、効率が悪く、加えて、磁性体ケース5を収納できる大きさのオーブン等が必要となる。
【0010】
このように、従来の製造方法では、永久磁石3の不可逆減磁を防止しつつ、永久磁石3の外側に巻き付けられたPGテープ4を短時間で効率よく加熱して硬化させることが困難であった。
【0011】
本発明は上記の課題を解決するために成されたものであり、永久磁石の不可逆減磁を防止しつつ、永久磁石の外側に巻き付けられた熱硬化テープを短時間で効率よく加熱して硬化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明による永久磁石ロータの製造方法は、円柱形状に製作された回転子と、当該回転子の外周面を覆うように当該外周面に接着された事前に着磁された永久磁石と、当該永久磁石の外周面に巻き付けられた熱硬化テープとを有する永久磁石ロータを、強磁性体材料で形成された円筒状部材の内周に、コイルを巻き付けた鉄心が設けられた磁性体ケースの内側に収容し、前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記永久磁石を加熱させることで、前記熱硬化テープを硬化させる。
【0013】
このように、磁性体ケースの内周にコイルを巻き付けた鉄心を設け、当該コイルに高周波の電流を流して、高周波誘導加熱の原理で永久磁石を加熱させることで、磁性体ケースの内側に収容された回転子の外周面を覆う永久磁石に巻き付けられている熱硬化テープを硬化させるようにしたことにより、従来の製造方法と同様に永久磁石の不可逆減磁を防止することができ、そのうえで従来の製造方法よりも短時間で効率よく、熱硬化テープを加熱して硬化させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、永久磁石の不可逆減磁を防止しつつ、永久磁石の外側に巻き付けられた熱硬化テープを短時間で効率よく加熱して硬化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施の形態による、磁性体ケースに収容された状態の回転子を示す図である。
図2】第2の実施の形態による、磁性体ケースに収容された状態の回転子を示す図である。
図3】第3の実施の形態による、磁性体ケースに収容された状態の回転子を示す図である。
図4】第4の実施の形態による、磁性体ケースに収容された状態の回転子を示す図である。
図5】従来の永久磁石ロータの製造方法を示す遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
[1.第1の実施の形態]
まず本発明による第1の実施の形態について図1(A)、(B)を用いて説明する。図1(A)、(B)は、本実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法の説明に用いる図である。図1(A)は、磁性体ケース10に収容された回転子2を軸方向から見た図であり、図1(B)は、磁性体ケース10に収容された回転子2を軸方向と直交する方向から見た図であり、磁性体ケース10のみ断面となっている。尚、図1(A)、(B)では、図5(A)~(F)と同一部分には同一符号を付与している。
【0018】
本実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法が、従来の製造方法と異なる点は、熱処理工程で磁性体ケース5の代わりに磁性体ケース10を用いる点である。磁性体ケース10は、強磁性体材料で形成された円筒状部材であり、内径(穴の直径)が、PGテープ4が巻き付けられた回転子2の外径(つまり永久磁石3の厚さとPGテープ4の厚さを含んだ回転子2の外径)よりも大きく、且つ軸方向の長さが回転子2の軸方向の長さ以上となっている。この為、図示しない治具を用い、磁性体ケース10の穴の中心軸P1と回転子2の中心軸P2とを合わせるようにして、磁性体ケース10の内側に回転子2(外周面に永久磁石3が張り付けられ、さらに永久磁石3の外側にPGテープ4が巻き付けられた回転子2)を収容することにより、磁性体ケース10の内周面と、回転子2に巻き付けられたPGテープ4との間に数ミリメートル程度の隙間が空いた状態で、回転子2の外周全体を磁性体ケース10で覆うことができる。
【0019】
さらにこの磁性体ケース10には、内周に、軸方向(中心軸P1と平行な方向)の一端から他端まで直線状に延びる凹部10cが形成されている。図1(A)に示すように、この凹部10cの幅は、PGテープ4が巻き付けられた回転子2の外径と比べて十分小さい。さらにこの凹部10cの幅方向の中央部分に、コイル11が巻き付けられた鉄心12が固着されている。鉄心12は、図1(B)に示すように、凹部10cに沿って延びる角棒状であり、軸方向の長さが磁性体ケース10と同程度であり、外周にコイル11が巻き付けられている。
【0020】
コイル11が巻き付けられた鉄心12は、中心軸P1からの距離D1が、中心軸P1から磁性体ケース10の内周面までの距離D2と同程度になっている。この為、磁性体ケース10の内側に、PGテープ4が巻き付けられた回転子2を収容すると、コイル11が巻き付けられた鉄心12と回転子2に巻き付けられたPGテープ4との間に数ミリメートル程度の隙間が空いた状態となる。
【0021】
このように磁性体ケース10の内側に、PGテープ4が巻き付けられた回転子2を収容した状態で、熱処理工程を行う。本実施の形態の熱処理工程では、鉄心12に巻き付けられているコイル11に高周波の電流を流す。すると、高周波誘導加熱の原理により鉄心12と対向する永久磁石3(つまり回転子2の外周面に接着された永久磁石3)が加熱され、加熱された永久磁石3から生じる熱により、永久磁石3に巻き付けられたPGテープ4に含まれる熱硬化性樹脂が熱硬化する。またここで、図1(A)に示すように、磁性体ケース10に収納された回転子2を、回転軸1を中心に矢印Ar1で示す方向に回転させる。こうすることで、回転子2に巻き付けられたPGテープ4全体が均一に加熱されて硬化する。このような熱処理工程により、PGテープ4が硬化して回転子2の外周面に永久磁石3が強固に固定される。
【0022】
尚、熱処理工程でコイル11に流す電流の値、及びコイル11に電流を流す時間は、PGテープ4の十分な熱硬化と永久磁石3の不可逆減磁の防止とを両立するような加熱温度及び加熱時間が得られる値及び時間に設定される。
【0023】
またこの熱処理工程では、従来と同様、回転子2に張り付けられた永久磁石3が、強磁性体材料で形成された磁性体ケース10に覆われた状態で加熱されるため、不可逆減磁は生じない。
【0024】
熱処理工程完了後、磁性体ケース10を、PGテープ4が巻き付けられた回転子2から取り外す。ここまでの工程によって、外周面に永久磁石3が強固に固定され、不可逆減磁が抑制された回転子2を有する永久磁石ロータ6が完成する。本実施の形態では、このような製造方法で永久磁石ロータ6を製造するようになっている。
【0025】
ここまで説明したように、第1の実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法では、円柱形状に製作された回転子2と、当該回転子2の外周面に接着された事前に着磁された永久磁石3と、当該永久磁石3の外周面に巻き付けられた熱硬化テープとしてのPGテープ4で構成される永久磁石ロータ6を、強磁性体材料で形成された円筒状部材の内周に、コイル11が巻き付けられた鉄心12を設けた磁性体ケース10の内側に収容し、コイル11に高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で鉄心12と対向する永久磁石3を加熱させることで、PGテープ4を硬化させるようにした。
【0026】
これにより、従来の製造方法と同様に永久磁石3の不可逆減磁といった磁気特性の変化を防止することができ、そのうえでオーブンなどを用いず磁性体ケース10の内側にある熱源(永久磁石3)でPGテープ4を加熱することから、従来の製造方法よりも短時間で効率よく、PGテープ4を加熱して硬化させることができる。かくして、本実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法によれば、永久磁石3の不可逆減磁を防止しつつ、永久磁石3の外側に巻き付けられたPGテープ4を短時間で効率よく加熱して硬化させることができる。
【0027】
また本実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法では、熱処理工程時に、磁性体ケース10の内側に収容した回転子2を、回転軸1を中心に回転させるようにした。これにより、回転子2に巻き付けられたPGテープ4全体を均一に加熱して硬化させることができる。
【0028】
さらに本実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法では、磁性体ケース10の内周に凹部10cを設け、この凹部10cに、コイル11が巻き付けられた鉄心12が収まるようにした。これにより、コイル11を、磁性体ケース10の内側に収容された回転子2に張り付けられている永久磁石3に近づけることができるとともに、磁性体ケース10の内周面を、当該永久磁石3に近づけることができる。かくして、永久磁石3の不可逆減磁をより確実に防止しつつ、永久磁石3の外側に巻き付けられたPGテープ4を短時間で効率よく加熱して硬化させることができる。
【0029】
[2.第2の実施の形態]
次に本発明の第2の実施の形態について図2を用いて説明する。図2は、本実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法の説明に用いる図である。図2は、磁性体ケース20に収容された回転子2を軸方向から見た図である。尚、図2では、図1(A)、(B)及び図5(A)~(F)と同一部分には同一符号を付与している。
【0030】
この第2の実施の形態は、永久磁石ロータ6の製造方法が第1の実施の形態とは異なっていて、熱処理工程で磁性体ケース10の代わりに磁性体ケース20を用いるようになっている。
【0031】
磁性体ケース20は、強磁性体材料で形成された円筒状部材であり、内径(穴の直径)が、PGテープ4が巻き付けられた回転子2の外径(つまり永久磁石3の厚さとPGテープ4の厚さを含んだ回転子2の外径)よりも大きく、且つ軸方向の長さが回転子2の軸方向の長さ以上となっている。さらにこの磁性体ケース20は、内径が、第1の実施の形態で用いた磁性体ケース10(図1(A)参照)の内径よりも大きくなっている。具体的には、磁性体ケース20の内径は、磁性体ケース10の内径に、凹部10cの深さ2個分の長さを足した長さとなっている。
【0032】
そしてこの磁性体ケース20には、コイル11が巻き付けられた複数の鉄心12が、内周面全体を覆うように当該内周面の周方向に一定間隔で近接配置されている。尚、各鉄心12は、第1の実施の形態と同様、磁性体ケース20の軸方向に延びる角棒状であり、軸方向の長さが磁性体ケース20と同程度であり、外周にコイル11が巻き付けられている。
【0033】
ここで、コイル11が巻き付けられた鉄心12は、それぞれ磁性体ケース20の穴の中心軸P3からの距離D3が、図1(A)に示す距離D1と同程度になっている。この為、磁性体ケース20の内側にPGテープ4が巻き付けられた回転子2を収容すると、コイル11が巻き付けられた鉄心12のそれぞれと回転子2に巻き付けられたPGテープ4との間に数ミリメートル程度の隙間が空いた状態となる。
【0034】
このように磁性体ケース20の内側にPGテープ4が巻き付けられた回転子2を収容した状態で、熱処理工程を行う。具体的には、鉄心12に巻き付けられているコイル11に高周波の電流を流すことで、高周波誘導加熱の原理により鉄心12と対向する永久磁石3が加熱され、加熱された永久磁石3から生じる熱により、永久磁石3に巻き付けられたPGテープ4に含まれる熱硬化性樹脂が熱硬化する。ここで、本実施の形態では、磁性体ケース20の内周面全体に、コイル11が巻き付けられた鉄心12が、周方向にほぼ隙間なく並べて複数個配置されている為、回転子2を回転させることなく、回転子2に巻き付けられたPGテープ4全体を均一に加熱して硬化させることができる。このような熱処理工程により、PGテープ4が硬化して回転子2の外周面に永久磁石3が強固に固定される。
【0035】
尚、熱処理工程でコイル11に流す電流の値、及びコイル11に電流を流す時間は、PGテープ4の十分な熱硬化と永久磁石3の不可逆減磁の防止とを両立するような加熱温度及び加熱時間が得られる値及び時間に設定される。
【0036】
またこの熱処理工程では、回転子2に張り付けられた永久磁石3が、強磁性体材料で形成された磁性体ケース20に覆われた状態で加熱されるため、不可逆減磁は生じない。熱処理工程完了後の工程については、第1の実施の形態と同様の為、説明は省略する。本実施の形態では、このような製造方法で永久磁石ロータ6を製造するようになっている。
【0037】
ここまで説明したように、第2の実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法では、磁性体ケース20の内周面に、コイル11が巻き付けられた複数の鉄心12を当該内周面の周方向に一定間隔で近接配置し、当該磁性体ケース20の内側に、永久磁石ロータ6を収容し、コイル11に高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で鉄心12と対向する永久磁石3を加熱させることで、PGテープ4を硬化させるようにした。
【0038】
これにより、第1の実施の形態と同様に、永久磁石3の不可逆減磁といった磁気特性の変化を防止しつつ、永久磁石3の外側に巻き付けられたPGテープ4を短時間で効率よく加熱して硬化させることができる。
【0039】
また本実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法では、熱処理工程時に、回転子2を回転させる必要がない為、第1の実施の形態と比較して、熱処理工程時の作業を簡略化できるとともに、PGテープ4をより短時間で硬化させることができる。
【0040】
[3.第3の実施の形態]
次に本発明の第3の実施の形態について図3(A)、(B)を用いて説明する。図3(A)、(B)は、本実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法の説明に用いる図である。図3(A)は、磁性体ケース30に収容された回転子2を軸方向から見た図であり、図3(B)は、図3(A)の一部分を拡大した図である。尚、図3(A)、(B)では、図1(A)、(B)、図2及び図5(A)~(F)と同一部分には同一符号を付与している。
【0041】
この第3の実施の形態は、永久磁石ロータ6の製造方法が第1及び第2の実施の形態とは異なっていて、熱処理工程で磁性体ケース10、20の代わりに磁性体ケース30を用いるようになっている。
【0042】
図3(A)、(B)に示す磁性体ケース30は、図2に示す磁性体ケース20の内周面に周方向に並べて配置されている、コイル11を巻き付けた鉄心12の幅を大きくして数を減らしたものであり、それ以外の構成は、磁性体ケース20と同様となっている。具体的には、磁性体ケース30の内周面には、磁性体ケース30の内側に収容される回転子2の外周面に張り付けられている永久磁石3の周方向の配置に合わせて、コイル11を巻き付けた鉄心12が配置されている。
【0043】
図3(A)の例では、回転子2の外周面に、永久磁石3が周方向に12個配置されている。これに合わせて、磁性体ケース30の内周面にも、コイル11を巻き付けた鉄心12が周方向に一定間隔で12個配置されている。ここで、コイル11が巻き付けられた鉄心12の幅(つまりコイル11の径を含んだ鉄心12の幅)は、例えば永久磁石3の幅と同程度になっている。
【0044】
こうすることで、磁性体ケース30の内側に回転子2を収容した際に、回転子2の外周面に張り付けられた永久磁石3と、磁性体ケース30の内周面に設けられた、コイル11が巻き付けられた鉄心12とを、対向配置させることができ、対向配置させた状態で、熱処理工程を行う。熱処理工程、及び熱処理工程完了後の工程については、第2の実施の形態と同様の為、説明は省略する。本実施の形態では、このような製造方法で永久磁石ロータ6を製造するようになっている。
【0045】
ここまで説明したように、第3の実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法では、回転子2の外周面に張り付けられている永久磁石3の周方向の配置に合わせて、磁性体ケース30の内周面に、コイル11が巻き付けられた鉄心12を当該内周面の周方向に一定間隔で配置し、この磁性体ケース30を用いて熱処理工程を行うようにした。
【0046】
これにより、第2の実施の形態と同様に、永久磁石3の不可逆減磁といった磁気特性の変化を防止しつつ、永久磁石3の外側に巻き付けられたPGテープ4を短時間で効率よく加熱して硬化させることができる。
【0047】
また本実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法では、磁性体ケース30の内側に回転子2を収容した際に、回転子2の外周面に張り付けられた永久磁石3と、磁性体ケース30の内周面に設けられた、コイル11が巻き付けられた鉄心12とを、対向配置させることができるので、熱処理工程時に、回転子2の外周面に張り付けられた永久磁石3に過剰に熱が加わることを防ぐことができる。これにより、第3の実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法では、不可逆減磁をより確実に防止することができるとともに、より短時間でより効率よくPGテープ4を硬化させることができる。
【0048】
[4.第4の実施の形態]
次に本発明の第4の実施の形態について図4(A)、(B)を用いて説明する。図4(A)、(B)は、本実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法の説明に用いる図である。図4(A)は、磁性体ケース30に収容された回転子2を軸方向から見た図であり、図4(B)は、図4(A)の一部分を拡大した図である。尚、図4(A)、(B)では、図1(A)、(B)、図2図3(A)、(B)及び図5(A)~(F)と同一部分には同一符号を付与している。
【0049】
この第4の実施の形態は、第1乃至第3の実施の形態の製造方法で製造した永久磁石ロータ6よりも小型の永久磁石ロータ6を製造する製造方法である。
【0050】
図4(A)、(B)に示す回転子2は、第1乃至第3の実施の形態で用いた回転子2よりも小型で小径となっている。そこで、本実施の形態では、回転子2の外周面に張り付けられた永久磁石3に巻き付けられたPGテープ4の外側を、円筒状の鉄板40で覆うようになっている。この鉄板40は、第1乃至第3の実施の形態で用いた回転子2の外径と、本実施の形態で用いる回転子2の外径との差分を吸収する為の部材であり、当該差分に応じた厚さとなっている。
【0051】
一方で、磁性体ケースについては、第1乃至第3の実施の形態で用いた磁性体ケース10、20、30のうちのいずれか1つを用いればよく、図4(A)、(B)では、一例として、磁性体ケース30を用いている。
【0052】
本実施の形態では、磁性体ケース30の内側に、PGテープ4の外側が鉄板40で覆われた状態の回転子2を収容する。このとき、磁性体ケース30の内周面に設けられた、コイル11が巻き付けられた鉄心12と、回転子2の最外周に位置する鉄板40との間に数ミリメートル程度の隙間が空いた状態となる。
【0053】
このように磁性体ケース20の内側に鉄板40で覆われた回転子2を収容した状態で、熱処理工程を行う。このとき、高周波誘導加熱の原理により鉄心12と対向する鉄板40が加熱されることで、回転子2に巻き付けられたPGテープ4に含まれる熱硬化性樹脂が熱硬化する。
【0054】
熱処理工程完了後、磁性体ケース30を、鉄板40で覆われた回転子2から取り外す。その後、PGテープ4が巻き付けられた回転子2から、鉄板40を取り外す。ここまでの工程によって、外周面に永久磁石3が強固に固定され、不可逆減磁が抑制された回転子2を有する永久磁石ロータ6(つまり第1乃至第3の実施の形態で製造した永久磁石ロータ6よりも小型の永久磁石ロータ6)が完成する。本実施の形態では、このような製造方法で小型の永久磁石ロータ6を製造するようになっている。
【0055】
ここまで説明したように、第4の実施の形態による永久磁石ロータ6の製造方法では、PGテープ4の外側が円筒状の鉄板40で覆われた状態の永久磁石ロータ6を、磁性体ケース30の内側に収容し、コイル11に高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で鉄心12と対向する鉄板40を加熱させることで、鉄板40を介してPGテープ4を硬化させるようにした。
【0056】
これにより、第1乃至第3の実施の形態で製造した永久磁石ロータ6よりも小型の永久磁石ロータ6についても、永久磁石3の不可逆減磁といった磁気特性の変化を防止しつつ、PGテープ4を短時間で効率よく加熱して硬化させて、製造することができる。
【0057】
[5.他の実施の形態]
【0058】
尚、上述した第1乃至第4の実施の形態では、回転子2の外周面に永久磁石3を強固に固定する為の熱硬化テープとして、PGテープ4を用いた。これに限らず、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含有した他の熱硬化テープを用いてもよい。
【0059】
また上述した第4の実施の形態では、回転子2に巻き付けられたPGテープ4の外側を覆う被覆部材として鉄板40を用いたが、鉄板40は一例であり、被覆部材については、鉄などの鋼材が含まれたものであればよい。
【0060】
さらに上述した第1乃至第4の実施の形態では、鉄心12の外周にコイル11を巻き付けるようにしたが、コイル12の巻き付け方や形状などについては、高周波誘導加熱の原理で、永久磁石3又は鉄板40を加熱させることができるものであれば、上述した第1乃至第4の実施の形態とは異なっていてもよい。
【0061】
さらに本発明は、上述した各実施の形態に限定されるものではない。すなわち本発明は、上述した各実施の形態と一部または全部を任意に組み合わせた実施の形態や、一部を抽出した実施の形態にもその適用範囲が及ぶものである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、永久磁石ロータの製造方法として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1……回転軸、2……回転子、3……永久磁石、4……PGテープ、5、10、20、30……磁性体ケース、6……永久磁石ロータ、10c……凹部、40……鉄板。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-09-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状に製作された回転子と、当該回転子の外周面を覆うように当該外周面に接着された事前に着磁された永久磁石と、当該永久磁石の外周面に巻き付けられた熱硬化テープとを有する永久磁石ロータを、前記永久磁石ロータの外径よりも大きな内径を有する強磁性体材料で形成された円筒状部材の内周にコイルを巻き付けた鉄心が設けられた磁性体ケースの内側に、前記永久磁石ロータの外周と前記円筒状部材の内周及び前記鉄心との間に隙間が空くようにして収容し、
前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記永久磁石を加熱させることで、前記熱硬化テープを硬化させる
永久磁石ロータの製造方法。
【請求項2】
前記円筒状部材の内周に当該円筒状部材の軸方向に延びる凹部が形成され、当該凹部に収まるように、前記コイルを巻き付けた前記軸方向に延びる前記鉄心が設けられた前記磁性体ケースの内側に、前記永久磁石ロータの外周と前記円筒状部材の内周及び前記鉄心との間に隙間が空くようにして前記永久磁石ロータを収容し、
当該永久磁石ロータを前記回転子の回転軸を中心に回転させながら、前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記永久磁石を加熱させることで、前記熱硬化テープを硬化させる
請求項1に記載の永久磁石ロータの製造方法。
【請求項3】
前記コイルを巻き付けた、前記円筒状部材の軸方向に延びる複数の前記鉄心が、前記円筒状部材の内周面の周方向に一定間隔で配置された前記磁性体ケースの内側に、前記永久磁石ロータの外周と前記鉄心との間に隙間が空くようにして前記永久磁石ロータを収容し、
前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記永久磁石を加熱させることで、前記熱硬化テープを硬化させる
請求項1に記載の永久磁石ロータの製造方法。
【請求項4】
複数の前記永久磁石が前記回転子の外周面の周方向に並べて配置された前記永久磁石ロータを、前記コイルを巻き付けた複数の前記鉄心が前記永久磁石の配置に合わせて前記円筒状部材の内周面の周方向に一定間隔で配置された前記磁性体ケースの内側に、前記永久磁石ロータの外周と前記鉄心との間に隙間が空くようにして収容し、
複数の前記永久磁石のそれぞれと複数の前記鉄心のそれぞれとを対向させた状態で、前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記永久磁石を加熱させることで、前記熱硬化テープを硬化させる
請求項3に記載の永久磁石ロータの製造方法。
【請求項5】
前記円筒状部材の内径よりも小さい外径を有する、鋼材を含んだ円筒状の被覆部材により前記熱硬化テープの外側が覆われた前記永久磁石ロータを、前記磁性体ケースの内側に、前記被覆部材の外周と前記円筒状部材の内周及び前記鉄心との間に隙間が空くようにして収容し、
前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記被覆部材を加熱させることで、前記被覆部材を介して前記熱硬化テープを硬化させる
請求項1に記載の永久磁石ロータの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
上記目的を達成するために本発明による永久磁石ロータの製造方法は、円柱形状に製作された回転子と、当該回転子の外周面を覆うように当該外周面に接着された事前に着磁された永久磁石と、当該永久磁石の外周面に巻き付けられた熱硬化テープとを有する永久磁石ロータを、前記永久磁石ロータの外径よりも大きな内径を有する強磁性体材料で形成された円筒状部材の内周にコイルを巻き付けた鉄心が設けられた磁性体ケースの内側に、前記永久磁石ロータの外周と前記円筒状部材の内周及び前記鉄心との間に隙間が空くようにして収容し、前記コイルに高周波の電流を流し、高周波誘導加熱の原理で前記永久磁石を加熱させることで、前記熱硬化テープを硬化させる。