(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184699
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】動的光散乱測定装置、動的光散乱測定解析方法、および、測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20221206BHJP
G01N 15/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N15/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002138
(22)【出願日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2021092057
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】廣井 卓思
(72)【発明者】
【氏名】佐光 貞樹
(72)【発明者】
【氏名】石岡 邦江
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043EA04
2G043FA06
2G043HA09
2G043LA02
2G043NA01
2G043NA02
(57)【要約】
【課題】 液体試料中の粒子の粒径/粒径分布を、動的光散乱法を用いて分子選択的に測定する動的光散乱測定装置、その測定解析方法及びその測定プログラムを提供すること。
【解決手段】 本発明の粒子(粒子を構成する分子の角振動数:ω
v)を有する液体試料中の粒子の粒径/粒径分布を動的光散乱法により測定する装置は、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω
1)およびこれに同期した第2のパルスレーザ光(角振動数:ω
2、ω
1>ω
2、ω
1-ω
2=ω
v)を発し、液体試料に照射し、第1および第2のパルスレーザ光のいずれかは単色パルスレーザ光である光源部と、CARS光子/CSRS光子を取り出す分離装置と、これを検出し、電気パルスを生成する光子検出装置と、電気パルスを用いて処理する情報処理装置とを備え、情報処理装置は、時間相関関数を演算する時間相関関数演算処理部と、粒子の粒径/粒径分布を演算する粒径演算部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の粒子(前記粒子を構成する分子の角振動数:ωv)を含有する液体試料中の前記粒子の粒径および/または粒径分布を動的光散乱法により測定する装置であって、
少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω1)、および、第2のパルスレーザ光(角振動数:ω2、ただしω1>ω2であり、ω1-ω2=ωvを満たす)を発し、前記液体試料に照射する光源部であって、前記第2のパルスレーザ光は、前記第1のパルスレーザ光に同期しており、前記第1のパルスレーザ光および前記第2のパルスレーザ光のうち少なくともいずれか一方は単色パルスレーザ光である、光源部と、
前記液体試料からの散乱光子のうち、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)光子、または、コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS:Coherent Stokes Raman Scattering)光子を取り出す分離装置と、
前記取り出された散乱光子を検出し、電気パルスを生成する光子検出装置と、
前記電気パルスを用いて処理する情報処理装置と
を備え、
前記情報処理装置は、
前記電気パルスを用いて時間相関関数を演算する時間相関関数演算処理部と、
前記演算された時間相関関数を用いて前記粒子の粒径および/または粒径分布を演算する粒径演算部と
をさらに備える、動的光散乱測定装置。
【請求項2】
前記光源部は、前記第1のパルスレーザ光に同期する第3のパルスレーザ光(角振動数:ω3)をさらに発し、前記液体試料に照射し、
前記CARS光子は、ω3+ω1-ω2を満たし、
前記CSRS光子は、ω3-ω1+ω2を満たす、請求項1に記載の動的光散乱測定装置。
【請求項3】
前記光源部は、前記第1のパルスレーザ光および前記第2のパルスレーザ光を発し、
前記CARS光子は、2ω1-ω2を満たし、
前記CSRS光子は、2ω2-ω1を満たす、請求項1に記載の動的光散乱測定装置。
【請求項4】
前記分離装置は、フィルタまたは分光器である、請求項1~3のいずれかに記載の動的光散乱測定装置。
【請求項5】
前記第1のパルスレーザ光または前記第2のパルスレーザ光のいずれかは白色光である、請求項1~4のいずれかに記載の動的光散乱測定装置。
【請求項6】
前記動的光散乱測定装置は、顕微鏡をさらに備え、
前記光源部は、少なくとも、前記第1のパルスレーザ光および前記第2のパルスレーザ光を前記顕微鏡の対物レンズを介して前記液体試料に照射する、請求項1~5のいずれかに記載の動的光散乱測定装置。
【請求項7】
前記動的光散乱測定装置は、前記光子検出装置が検出する前記散乱光子の散乱角度を可変にする角度可変機構を備える、請求項1~5のいずれかに記載の動的光散乱測定装置。
【請求項8】
前記時間相関関数演算処理部はオートコリレータである、請求項1~7のいずれかに記載の動的光散乱測定装置。
【請求項9】
前記動的光散乱測定装置は、
前記情報処理装置の前段に前記電気パルスの到達時間を収集し、電気パルス到達時間リストを生成するデータ収集装置
をさらに備え、
前記時間相関関数演算処理部は、光子到達時間リストとして前記電気パルス到達時間リストを用いて時間相関関数を演算する、請求項1~7のいずれかに記載の動的光散乱測定装置。
【請求項10】
前記動的光散乱測定装置は、
前記光源部がパルスレーザ光を発するタイミングを通知するパルスレーザ光タイミング装置
をさらに備え、
前記データ収集装置は、前記パルスレーザ光のタイミングをさらに収集し、前記電気パルス到達時間リストに加えて、パルスレーザ光タイミングリストを生成し、
前記情報処理装置は、
前記電気パルス到達時間リストと前記パルスレーザ光タイミングリストとを比較し、前記電気パルス到達時間リストから前記パルスレーザ光タイミングリストに同期したデータのみを抽出し、修正電気パルス到達時間リストを作成する修正電気パルス到達時間リスト作成部
をさらに備え、
前記時間相関関数演算処理部は、前記光子到達時間リストとして前記修正電気パルス到達時間リストを用いて時間相関関数を演算する、請求項9に記載の動的光散乱測定装置。
【請求項11】
前記パルスレーザ光タイミング装置は、光検出器、または、ディレイジェネレータである、請求項10に記載の動的光散乱測定装置。
【請求項12】
前記光子検出装置で生成した前記電気パルスのパルス幅を伸長させ、不感時間を設けるパルス幅伸長・デッドタイム調整器をさらに備える、請求項9~11のいずれかに記載の動的光散乱測定装置。
【請求項13】
前記時間相関関数演算部は、前記時間相関関数g
(2)(τ)を、次式に基づいて演算する、請求項9~12のいずれかに記載の動的光散乱測定装置。
【数1】
ここで、Δtは任意に決められる相関時間の最小の時間幅であり、n(t)は、前記光子到達時間リスト中のある時間t~t+Δtの間に検出された散乱光子数であり、Nは測定時間をΔtで除した値であり、<・・・>
Δtは時間平均を表す。
【請求項14】
前記時間相関関数演算部は、前記時間相関関数g(2)(τ)を、前記光子到達時間リストのフーリエ変換を二乗したパワースペクトルを求め、前記パワースペクトルを逆フーリエ変換して算出する、請求項9~12のいずれかに記載の動的光散乱測定装置。
【請求項15】
前記粒径演算部は、指数関数によるフィッティング法、キュムラント法、ヒストグラム法およびCONTIN法からなる群から少なくとも1つ選択される解析法を用いる、請求項1~14のいずれかに記載の動的光散乱測定装置。
【請求項16】
前記光源部は、可変減光フィルタをさらに備える、請求項1~15のいずれかに記載の動的光散乱測定装置。
【請求項17】
少なくとも1種の粒子(前記粒子を構成する分子の角振動数:ωv)を含有する液体試料中の前記粒子の粒径および/または粒径分布を動的光散乱法により測定・解析する方法であって、
少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω1)、および、第2のパルスレーザ光(角振動数:ω2、ただしω1>ω2であり、ω1-ω2=ωvを満たす)を発し、前記液体試料に照射することであって、前記第2のパルスレーザ光は、前記第1のパルスレーザ光に同期しており、前記第1のパルスレーザ光および前記第2のパルスレーザ光のうち少なくともいずれか一方は単色パルスレーザ光である、照射することと、
前記液体試料からの散乱光子のうち、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)光子、または、コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS:Coherent Stokes Raman Scattering)光子を取り出すことと、
前記取り出された散乱光子を検出し、電気パルスを生成することと、
前記電気パルスを用いて時間相関関数を演算することと、
前記演算された時間相関関数を用いて前記粒子の粒径および/または粒径分布を演算すること
とを包含する、方法。
【請求項18】
前記方法は、
前記電気パルスを生成することに続いて、前記電気パルスの到達時間を収集し、電気パルス到達時間リストを生成すること
をさらに包含し、
前記時間相関関数を演算することは、光子到達時間リストとして前記電気到達時間リストを用いる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記照射することにおける前記パルスレーザ光を発するタイミングを通知することと、
前記パルスレーザ光のタイミングをさらに収集し、前記電気パルス到達時間リストに加えて、パルスレーザ光タイミングリストを生成することと、
前記電気パルス到達時間リストと前記パルスレーザ光タイミングリストとを比較し、前記電気パルス到達時間リストから前記パルスレーザ光タイミングリストに同期したデータのみを抽出し、修正電気パルス到達時間リストを作成することと
をさらに包含し、
前記時間相関関数を演算することは、前記光子到達時間リストとして前記修正電気到達時間リストを用いる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1種の粒子(前記粒子を構成する分子の角振動数:ωv)を含有する液体試料中の前記粒子の粒径および/または粒径分布を動的光散乱法により測定する動的光散乱測定装置に用いられる測定・解析プログラムであって、
前記動的光散乱測定装置は、
少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω1)、および、第2のパルスレーザ光(角振動数:ω2、ただしω1>ω2であり、ω1-ω2=ωvを満たす)を発し、前記液体試料に照射する光源部であって、前記第2のパルスレーザ光は、前記第1のパルスレーザ光に同期しており、前記第1のパルスレーザ光および前記第2のパルスレーザ光のうち少なくともいずれか一方は単色パルスレーザ光である、光源部と、
前記液体試料からの散乱光子のうち、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)光子、または、コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS:Coherent Stokes Raman Scattering)光子を取り出す分離装置と、
前記取り出された散乱光子を検出し、電気パルスを生成する光子検出装置と、
前記電気パルスを用いて処理する情報処理装置と
を備え、
前記電気パルスを用いて時間相関関数を演算する時間相関関数を演算する機能と、
前記演算された時間相関関数を用いて前記粒子の粒径および/または粒径分布を演算する機能と
をコンピュータに実現させる、測定・解析プログラム。
【請求項21】
前記動的光散乱測定装置は、前記情報処理装置の前段に前記電気パルスの到達時間を収集し、電気パルス到達時間リストを生成するデータ収集装置をさらに備え、
前記時間相関関数を演算する機能は、光子到達時間リストとして前記電気パルス到達時間リストを用いる、請求項20に記載の測定・解析プログラム。
【請求項22】
前記動的光散乱測定装置は、
前記光源部が発するパルスレーザ光を発するタイミングを通知するパルスレーザ光タイミング装置
をさらに備え、
前記データ収集装置は、前記パルスレーザ光のタイミングをさらに収集し、前記電気パルス到達時間リストに加えて、パルスレーザ光タイミングリストを生成し、
前記電気パルス到達時間リストと前記パルスレーザ光タイミングリストとを比較し、前記電気パルス到達時間リストから前記パルスレーザ光タイミングリストに同期したデータのみを抽出し、修正電気パルス到達時間リストを作成する機能
をコンピュータにさらに実現させ、
前記時間相関関数を演算する機能は、光子到達時間リストとして前記修正電気パルス到達時間リストを用いる、請求項21に記載の測定・解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動的光散乱測定装置、動的光散乱測定解析方法、および、測定・解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子の粒径およびその分布を測定する手法は数多く存在し、対象である粒子の大きさや性質によって決められる。そして、その多くが光を用いた測定手法である。直接観測である光学顕微鏡法や粒子からの散乱光の干渉現象を利用した静的光散乱法は、原理的に光の波長よりも小さい物質を観測することが困難であり、粒径200nm以下の微粒子の観測には適さない。そのような微粒子の観測には、波長の短いプローブを用いた顕微鏡法や散乱法が有効であり、光の場合はX線がプローブに対応する。しかし、X線は可視光と比較して発生させることが困難であり、高価な装置が必要となる。加えて、X線は1光子あたりのエネルギーが可視光と比較して桁違いに大きいため、高分子などの有機材料で構成された微粒子に照射すると、微粒子に不可逆的なダメージが与えられることも多い。その他の波長の短いプローブを用いた手法として、電子線を用いた電子顕微鏡法が挙げられるが、X線散乱装置と同様に高価であり、また試料を真空中に置く必要がある。これらの実験手法と比較して、安価で光の波長よりも小さい粒子の粒径分布を観測できる手法として動的光散乱法がある(例えば、特許文献1および2を参照)。
【0003】
特許文献1および2によれば、高分子やコロイド溶液に対して光を照射し、生じた散乱光の強度の時間相関関数を測定することによって、溶液中の粒子の粒径分布を測定する手法を採用する。このような手法は、1分以内で様々な粒径の溶質を含んだ溶液の粒径分布を測定できる簡便な手法として広く用いられている。
【0004】
特許文献1および2によれば、定常発振型レーザ光源、ミラーやレンズなどで構成される光学系、透明なセルに入った液体試料、フォトンカウンティングモジュール、オートコリレータ、パーソナルコンピュータを備える粒径測定装置を開示する。
【0005】
レーザ光は液体試料に集光され、発生した散乱光は適切な光学系を経てフォトンカウンティングモジュールに集光され、1光子レベルでの検出が行われる。光子の到達時間を逐一オートコリレータで取り込み、ハードウェア上で光子の時間相関関数を計算し、パーソナルコンピュータへとデータが転送される。得られた時間相関関数は、パーソナルコンピュータ上でキュムラント法やCONTIN法などの手法によって解析を行い、粒径分布関数へと変換される。
【0006】
しかしながら、動的光散乱法には分子選択性がない。これは、動的光散乱法で用いる散乱光が、入射光と同じ波長を持つレイリー散乱光であり、異なる分子から発生する散乱光を光学的に分けることが原理的にできないためである。動的光散乱測定を行う対象となる分散液は、多くの場合複数の分子種を含んでいるため、動的光散乱法で得られた分散液の粒径分布について、どの分子種がどのような粒径分布なのかという情報が得られることが望ましい。
【0007】
一方、動的光散乱法に類似した技術として、蛍光相関分光法が挙げられる(例えば、非特許文献1を参照)。動的光散乱法は、粒子から発生する散乱光の干渉を通して粒子の位置揺らぎを観測し、得られた拡散係数から粒径を推定するという手法であるため、被照射体積中に十分な数の散乱体が存在するという点が前提となる。非特許文献1によれば、蛍光相関分光法は、被照射体積から発生する光の強度を時間相関関数という形で測定するという点では動的光散乱と同じであるが、観測しているのは被照射体積中の粒子の数揺らぎであり、被照射体積中に存在する粒子の数は高々数個である点が動的光散乱と異なる。
【0008】
蛍光相関分光法では発生する光の干渉を観測しているわけではないので、観測する光に制限はなく、非特許文献2~4に示されるように、蛍光の他にラマン散乱光、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)光、第二高調波発生光などで同様の相関分光法が報告されている。蛍光相関分光法を用いれば、粒子の拡散係数、分子数、濃度などを知ることはできるが、粒子の粒径分布を測定することはできない。また、蛍光を利用する際には、蛍光色素が長時間の露光によって破壊される光退色の影響を受けてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63-265138号公報
【特許文献2】特開平2-96636号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D.Magdeら,Phys.Rev.Lett.,29,705,1972
【非特許文献2】J.Chengら,J.Phys.Chem.A,106,8561,2002
【非特許文献3】M.Geissbuehlerら,Nano Lett.,12,1668,2012
【非特許文献4】A. Barbaraら,Opt.Express,21,15418,2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上から、本発明の課題は、液体試料中の粒子の粒径および/または粒径分布を、動的光散乱法を用いて分子選択的に測定する動的光散乱測定装置、その測定解析方法、および、その測定プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による少なくとも1種の粒子(前記粒子を構成する分子の角振動数:ω
v)を含有する液体試料中の前記粒子の粒径および/または粒径分布を動的光散乱法により測定する動的光散乱測定装置は、少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω
1)、および、第2のパルスレーザ光(角振動数:ω
2、ただしω
1>ω
2であり、ω
1-ω
2=ω
vを満たす)を発し、前記液体試料に照射する光源部であって、前記第2のパルスレーザ光は、前記第1のパルスレーザ光に同期しており、前記第1のパルスレーザ光および前記第2のパルスレーザ光のうち少なくともいずれか一方は単色パルスレーザ光である、光源部と、前記液体試料からの散乱光子のうち、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)光子、または、コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS:Coherent Stokes Raman Scattering)光子を取り出す分離装置と、前記取り出された散乱光子を検出し、電気パルスを生成する光子検出装置と、前記電気パルスを用いて処理する情報処理装置とを備え、前記情報処理装置は、前記電気パルスを用いて時間相関関数を演算する時間相関関数演算処理部と、前記演算された時間相関関数を用いて前記粒子の粒径および/または粒径分布を演算する粒径演算部とをさらに備え、これにより上記課題を解決する。
前記光源部は、前記第1のパルスレーザ光に同期する第3のパルスレーザ光(角振動数:ω
3)をさらに発し、前記液体試料に照射し、前記CARS光子は、ω
3+ω
1-ω
2を満たし、前記CSRS光子は、ω
3-ω
1+ω
2を満たしてもよい。
前記光源部は、前記第1のパルスレーザ光および前記第2のパルスレーザ光を発し、前記CARS光子は、2ω
1-ω
2を満たし、前記CSRS光子は、2ω
2-ω
1を満たしてもよい。
前記分離装置は、フィルタまたは分光器であってもよい。
前記第1のパルスレーザ光または前記第2のパルスレーザ光のいずれかは白色光であってもよい。
前記動的光散乱測定装置は、顕微鏡をさらに備え、前記光源部は、少なくとも、前記第1のパルスレーザ光および前記第2のパルスレーザ光を前記顕微鏡の対物レンズを介して前記液体試料に照射してもよい。
前記動的光散乱測定装置は、前記光子検出装置が検出する前記散乱光子の散乱角度を可変にする角度可変機構を備えてもよい。
前記時間相関関数演算処理部はオートコリレータであってもよい。
前記動的光散乱測定装置は、前記情報処理装置の前段に前記電気パルスの到達時間を収集し、電気パルス到達時間リストを生成するデータ収集装置をさらに備え、前記時間相関関数演算処理部は、光子到達時間リストとして前記電気パルス到達時間リストを用いて時間相関関数を演算してもよい。
前記動的光散乱測定装置は、前記光源部がパルスレーザ光を発するタイミングを通知するパルスレーザ光タイミング装置をさらに備え、前記データ収集装置は、前記パルスレーザ光のタイミングをさらに収集し、前記電気パルス到達時間リストに加えて、パルスレーザ光タイミングリストを生成し、前記情報処理装置は、前記電気パルス到達時間リストと前記パルスレーザ光タイミングリストとを比較し、前記電気パルス到達時間リストから前記パルスレーザ光タイミングリストに同期したデータのみを抽出し、修正電気パルス到達時間リストを作成する修正電気パルス到達時間リスト作成部をさらに備え、前記時間相関関数演算処理部は、前記光子到達時間リストとして前記修正電気パルス到達時間リストを用いて時間相関関数を演算してもよい。
前記パルスレーザ光タイミング装置は、光検出器、または、ディレイジェネレータであってもよい。
前記光子検出装置で生成した前記電気パルスのパルス幅を伸長させ、不感時間を設けるパルス幅伸長・デッドタイム調整器をさらに備えてもよい。
前記時間相関関数演算部は、前記時間相関関数g
(2)(τ)を、次式に基づいて演算してもよい。
【数1】
ここで、Δtは任意に決められる相関時間の最小の時間幅であり、n(t)は、前記光子到達時間リスト中のある時間t~t+Δtの間に検出された散乱光子数であり、Nは測定時間をΔtで除した値であり、<・・・>
Δtは時間平均を表す。
前記時間相関関数演算部は、前記時間相関関数g
(2)(τ)を、前記光子到達時間リストのフーリエ変換を二乗したパワースペクトルを求め、前記パワースペクトルを逆フーリエ変換して算出してもよい。
前記粒径演算部は、指数関数によるフィッティング法、キュムラント法、ヒストグラム法およびCONTIN法からなる群から少なくとも1つ選択される解析法を用いてもよい。
前記光源部は、可変減光フィルタをさらに備えてもよい。
本発明による少なくとも1種の粒子(前記粒子を構成する分子の角振動数:ω
v)を含有する液体試料中の前記粒子の粒径および/または粒径分布を動的光散乱法により測定・解析する方法は、少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω
1)、および、第2のパルスレーザ光(角振動数:ω
2、ただしω
1>ω
2であり、ω
1-ω
2=ω
vを満たす)を発し、前記液体試料に照射することであって、前記第2のパルスレーザ光は、前記第1のパルスレーザ光に同期しており、前記第1のパルスレーザ光および前記第2のパルスレーザ光のうち少なくともいずれか一方は単色パルスレーザ光である、照射することと、前記液体試料からの散乱光子のうち、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)光子、または、コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS:Coherent Stokes Raman Scattering)光子を取り出すことと、前記取り出された散乱光子を検出し、電気パルスを生成することと、前記電気パルスを用いて時間相関関数を演算することと、前記演算された時間相関関数を用いて前記粒子の粒径および/または粒径分布を演算することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記方法は、前記電気パルスを生成することに続いて、前記電気パルスの到達時間を収集し、電気パルス到達時間リストを生成することをさらに包含し、前記時間相関関数を演算することは、光子到達時間リストとして前記電気到達時間リストを用いてもよい。
前記方法は、前記照射することにおける前記パルスレーザ光を発するタイミングを通知することと、前記パルスレーザ光のタイミングをさらに収集し、前記電気パルス到達時間リストに加えて、パルスレーザ光タイミングリストを生成することと、前記電気パルス到達時間リストと前記パルスレーザ光タイミングリストとを比較し、前記電気パルス到達時間リストから前記パルスレーザ光タイミングリストに同期したデータのみを抽出し、修正電気パルス到達時間リストを作成することとをさらに包含し、前記時間相関関数を演算することは、前記光子到達時間リストとして前記修正電気到達時間リストを用いてもよい。
本発明による少なくとも1種の粒子(前記粒子を構成する分子の角振動数:ω
v)を含有する液体試料中の前記粒子の粒径および/または粒径分布を動的光散乱法により測定する動的光散乱測定装置に用いられる測定・解析プログラムは、前記動的光散乱測定装置が、少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω
1)、および、第2のパルスレーザ光(角振動数:ω
2、ただしω
1>ω
2であり、ω
1-ω
2=ω
vを満たす)を発し、前記液体試料に照射する光源部であって、前記第2のパルスレーザ光は、前記第1のパルスレーザ光に同期しており、前記第1のパルスレーザ光および前記第2のパルスレーザ光のうち少なくともいずれか一方は単色パルスレーザ光である、光源部と、前記液体試料からの散乱光子のうち、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)光子、または、コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS:Coherent Stokes Raman Scattering)光子を取り出す分離装置と、前記取り出された散乱光子を検出し、電気パルスを生成する光子検出装置と、前記電気パルスを用いて処理する情報処理装置とを備え、前記電気パルスを用いて時間相関関数を演算する時間相関関数を演算する機能と、前記演算された時間相関関数を用いて前記粒子の粒径および/または粒径分布を演算する機能とをコンピュータに実現させ、これにより上記課題を解決する。
前記動的光散乱測定装置は、前記情報処理装置の前段に前記電気パルスの到達時間を収集し、電気パルス到達時間リストを生成するデータ収集装置をさらに備え、前記時間相関関数を演算する機能は、光子到達時間リストとして前記電気パルス到達時間リストを用いてもよい。
前記動的光散乱測定装置は、前記光源部が発するパルスレーザ光を発するタイミングを通知するパルスレーザ光タイミング装置をさらに備え、前記データ収集装置は、前記パルスレーザ光のタイミングをさらに収集し、前記電気パルス到達時間リストに加えて、パルスレーザ光タイミングリストを生成し、前記電気パルス到達時間リストと前記パルスレーザ光タイミングリストとを比較し、前記電気パルス到達時間リストから前記パルスレーザ光タイミングリストに同期したデータのみを抽出し、修正電気パルス到達時間リストを作成する機能をコンピュータにさらに実現させ、前記時間相関関数を演算する機能は、光子到達時間リストとして前記修正電気パルス到達時間リストを用いてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の動的光散乱測定装置は、少なくとも1種の粒子(前記粒子を構成する分子の角振動数:ωv)を含有する液体試料中の前記粒子の粒径および/または粒径分布を動的光散乱法により測定する装置に関し、少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω1)、および、第1のパルスレーザ光に同期した第2のパルスレーザ光(角振動数:ω2、ただしω1>ω2であり、ω1-ω2=ωvを満たす)を発し、液体試料に照射する光源部(ただし、第1または第2のパルスレーザ光のいずれか一方は単色パルスレーザ光である)と、液体試料からの散乱光子のうち、CARS光子、または、CSRS光子を取り出す分離装置と、取り出された散乱光子を検出し、電気パルスを生成する光子検出装置と、電気パルスを用いて処理する情報処理装置とを備える。情報処理装置は、電気パルスを用いて時間相関関数を演算する時間相関関数演算処理部と、演算された時間相関関数を用いて粒子の粒径および/または粒径分布を演算する粒径演算部とをさらに備える。
【0014】
本発明の動的光散乱測定装置は、所定の角振動数を満たす少なくとも2つのパルスレーザ光を発する光源部を備えるため、液体試料中の検出すべき分子に起因するラマン散乱光を誘起できる。さらに、本発明の動的光散乱測定装置は分離装置を備えるため、液体試料からの散乱光子のうち必要なラマン散乱光子としてCARS光子またはCSRS光子のみを取り出すことができる。このように、本発明の動的光散乱測定装置は、検出すべき分子に起因するCARS光子またはCSRS光子に動的光散乱法を適用できる。この結果、液体試料中の分子種を区別して、すなわち分子選択的に、粒径および/または粒径分布を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明で使用するCARS光の発生原理を説明する図
【
図3】本発明で使用するラマン散乱光の別の発生原理を説明する図
【
図4】本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図
【
図5】本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図
【
図6】本発明の動的光散乱測定・解析の工程を示すフローチャート
【
図7】本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図
【
図8】本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図
【
図9】例示的なパルス幅伸長・デッドタイム調整器による電気パルスの変化を示す模式図
【
図10】本発明の動的光散乱測定・解析の工程を示すフローチャート
【
図11】本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図
【
図12】種々の電気パルスと測定時間との関係を示す模式図
【
図13】例示的な(A)電気パルス到達時間リスト、(B)パルスレーザ光タイミングリストおよび(C)修正電気パルス到達時間リストを示す図
【
図14】本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図
【
図15】本発明の動的光散乱測定・解析の工程を示すフローチャート
【
図16】例1においてポリスチレンビーズから発生した後方散乱CARS光の時間相関関数を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0017】
(実施の形態1)
本発明の動的光散乱測定装置、その測定方法およびその測定プログラムについて説明する。
図1は、本発明の動的光散乱測定装置を示す模式図である。
【0018】
本発明の動的光散乱測定装置100は、粒子110aおよび粒子110bを含有する液体試料120中のそれぞれの粒子の粒径および/または粒径分布を、動的光散乱法を用いて測定する。ここで、測定対象である粒子110a、110bとしては、金属、無機物、有機物、高分子を問わないが、それぞれの粒子を構成する分子の角振動数が既知である。ここでは、粒子110aを構成する分子の角振動数がωvであり、粒子110bを構成する分子の角振動数がωvbであるとする。なお、角振動数の情報は、後述する情報処理装置160内のメモリに格納してよい。
【0019】
角振動数が不明な場合には、予め液体試料120にラマン分光法を適用し、ラマンスペクトルから粒子を構成する分子の角振動数を求めておくことよい。これらの情報を情報処理装置160のメモリに格納してよい。
【0020】
図1では、分かりやすさのために、2種類の粒子を示すが、粒子の種類や数は少なくとも1種類あればよく、2以上の複数であってもよい。また、液体試料120の濃度や粘度に制限はない。
【0021】
本発明の動的光散乱測定装置100は、少なくとも、光源部130と、分離装置140と、光子検出装置150と、情報処理装置160とを備える。各構成要素について詳細に説明する。
【0022】
<光源部>
図2は、本発明で使用するCARS光の発生原理を説明する図である。
光源部130は、少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω
1)、および、第2のパルスレーザ光(角振動数:ω
2、ただしω
1>ω
2であり、ω
1-ω
2=ω
vを満たす)を発し、液体試料120に照射する。第2のパルスレーザ光は、第1のパルスレーザ光に同期しており、第1のパルスレーザ光および第2のパルスレーザ光のうち少なくともいずれか一方は単色パルスレーザ光である。本明細書において、「第2のパルスレーザ光が第1のパルスレーザ光に同期する」とは、第2のパルスレーザ光と第1のパルスレーザ光とが時間的にも空間的にも重なっていることを言う。
【0023】
このような構成とすることにより、粒子110aに第1および第2のパルスレーザ光が照射されると、散乱光子として、レイリー散乱による散乱光子および自発ラマン散乱光に加えて、非線形ラマン散乱による散乱光子を発生させることができる。詳細には、本発明では、光源部130が発する第1および第2のパルスレーザ光の角振動数の差が、測定対象とする粒子110aの角振動数ωvに一致するため、同期した第1および第2のパルスレーザ光が粒子110aに照射されると、粒子110aを構成する分子のコヒーレントな振動を誘起できる。その結果、分子の位相が揃った非線形ラマン散乱光となるため、このような非線形ラマン散乱光の強度揺らぎは、対象とする粒子110aの位置揺らぎの情報を含み、動的光散乱法を適用し、粒子110aの粒径や粒径分布を求めることができる。以降では簡単のため、本発明で用いる非線形ラマン散乱光を単にラマン散乱光と呼ぶ。
【0024】
ここで、ラマン散乱光は、波長の短いコヒーレント反ストークスラマン散乱光子(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)、および、波長の長いコヒーレントストークスラマン散乱光子(CSRS:Coherent Stokes Raman Scattering)である。CARS光子は、2ω1-ω2を満たし、CSRSは、2ω2-ω1を満たす。
【0025】
ラマン散乱光は、CARS光子であっても、CSRS光子であってもよいが、好ましくは、蛍光の影響を受けない点から、CARS光子である。以降では、CARS光の場合について具体的に述べる。一般に、CARS光子は、位相整合条件と呼ばれるある特定の条件を満たした方向に強く発生することが知られているが、位相整合条件を満たしたCARS光子は、粒子110aから発生する散乱光の位相が完全に揃っている状態であり、粒子110aの位置揺らぎに起因する散乱光強度の変化を観測できない。そのため、本発明では位相整合条件を満たしていない方向に発生するラマン散乱光を利用する。
【0026】
図2(A)に示すように、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω
1)および第2のパルスレーザ光(角振動数:ω
2、ただしω
1>ω
2であり、ω
1-ω
2=ω
vを満たす)がいずれも単色パルスレーザ光の場合には、第1の粒子110aのラマン散乱光が得られるため、第1の粒子110aの粒径および/または粒径分布を求めることができる。
図2(A)の方式を掃引法と呼ぶ。ここでは、第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光との角振動数の差がω
vを満たすような波長に設定されているが、第1のパルスレーザ光と第2のパルスレーザ光との角振動数の差がω
vbを満たすように、予め第1または第2のパルスレーザ光の波長を設定すれば、第2の粒子110bのラマン散乱光が得られる。
【0027】
一方、
図2(B)に示すように、第1のパルスレーザ光または第2のパルスレーザ光のいずれかが白色光であってもよい。例えば、第1のパルスレーザ光が単色光(角振動数:ω
1)であり、第2のパルスレーザ光が白色光である場合、第2のパルスレーザ光の角振動数は当然にω
2(<ω
1)およびω
1-ω
2=ω
vを満たすので、第1の粒子110aのラマン散乱光が得られるが、ω
1-ω
2=ω
vbを満たす角振動数の光も第2のパルスレーザ光に含まれているので、第2の粒子110bのラマン散乱光も得られる。
図2(B)の方式をマルチプレックス法と呼ぶ。なお、白色光を用いた場合には、測定対象とする粒子のラマン散乱光を後述する分離装置140で取り出せばよいので、光源部130を測定対象とする粒子に合わせた調整は不要となる。
【0028】
光源部130は、上述の条件を満たすパルスレーザ光を発するものであれば特に制限はなく、それ自身が単体でパルスレーザ光を発するQスイッチレーザなど市販のパルスレーザ光源2台を時間的・空間的に重ねて使用してもよいし、1台のパルスレーザ光源で励起された別の波長可変レーザ(代表的には色素レーザ、光パラメトリック発振器等)を使用してもよい。このような改変は、当業者であれば容易に理解する。
【0029】
パルスレーザ光のパルス幅に特に制限はないが、例示的には、フェムト秒~マイクロ秒のパルス幅を有する。
【0030】
上述したように、第1または第2のパルスレーザ光がいずれも単色パルスレーザ光である場合には、上述の条件を満たすように角振動数を調整した光源を使用できるが、いずれかが白色パルスレーザ光の場合には、市販のパルスレーザ光源と市販の白色レーザ光源との2台を時間的・空間的に重ねて使用してもよいし、パルスレーザ光源の一部を、サファイヤ板、純水セル、フォトニック結晶ファイバ等の媒質を介するようにしてもよい。
【0031】
図3は、本発明で使用するラマン散乱光の別の発生原理を説明する図である。
【0032】
図2を参照して、光源部130が第1および第2のパルスレーザ光を発し、ラマン散乱光を発生させる原理を説明してきたが、本発明では、光源部130は、先の第1のパルスレーザ光(または第2のパルスレーザ光)に同期する第3の単色のパルスレーザ光(角振動数:ω
3)を発し、液体試料120に照射するようにしてもよい。ω
3に特に制限はない。
【0033】
この場合も、光源部130が発する第1および第2のパルスレーザ光の角振動数の差が、測定対象とする粒子110aの角振動数ωvに一致するため、同期した第1および第2のパルスレーザ光が粒子110aに照射されると、粒子110aを構成する分子のコヒーレントな振動を誘起できる。その結果、分子の位相が揃った、ω3+ω1-ω2で表されるCARS光子、および、ω3-ω1+ω2で表されるCSRS光子のラマン散乱光が得られる。これらを用いて動的光散乱法を適用し、粒子110aの粒径や粒径分布を求めることができる。
【0034】
なお、ω3=ω1の場合には、ラマン散乱光は2ω1-ω2で表されるCARS光子となり、ω3=ω2の場合には、2ω2-ω1で表されるCSRS光子となる。このように、第3のパルスレーザ光の角振動数が特殊な場合には、2つのパルスレーザ光を用いた場合と同様のラマン散乱光がとなる。
【0035】
ここでも、光源部130は、市販のパルスレーザ光源3台を時間的・空間的に重ねて使用してもよいし、1台のパルスレーザ光源で励起された別の波長可変レーザ(代表的には色素レーザ、光パラメトリック発振器等)を複数使用してもよい。このような改変は、当業者であれば容易に理解する。
【0036】
光源部130は、透過率を変化させるフィルタ(図示せず)を備えてもよい。パルスレーザ光によって検出される光子の数は0か1かの制限がある。しかしながら、散乱光強度が強い場合、実際には散乱光子が複数個あっても1個と検出するため、誤差が大きくなり得る。このような現象をクリッピングと呼ぶ。予め散乱光強度が強くならないよう、光源部130からのパルスレーザ光の強度をフィルタによって調整することにより、クリッピングの影響を低減できるため、精度よく測定できる。このようなフィルタは、散乱光強度を任意に低減できる可変式減光フィルタであってよく、例示的には、検出される光子の頻度がレーザ光の繰り返し周波数の10%以下まで低減するよう調整するとよい。
【0037】
<分離装置>
分離装置140は、液体試料120からの散乱光のうち、CARS光子またはCSRS光子を取り出す機能を有するものであれば特に制限はない。例えば、分離装置140として、ショートパスフィルタなどのフィルタ、分光器であってよい。液体試料120からの散乱光子は、必要に応じて、レンズ、ピンホール、光ファイバ等の光学系(図示せず)を介して分離装置140で分離されるようにしてよい。
【0038】
光源部130が発するパルスレーザ光がいずれも単色である場合には、例えば、ω1よりも波長の短い光のみを透過させるフィルタや分光器であれば、2ω1-ω2のCARS光子のみを分離でき、ω2よりも波長の長い光のみを透過させるフィルタや分光器であれば、2ω2-ω1のCSRS光子のみを分離できる。光源部130が発するパルスレーザ光が白色を含む場合には、検出対象である分子から発生するラマン散乱光のみ分光する分光器が好ましい。
【0039】
<光子検出装置>
光子検出装置150は、分離装置140で分離された測定対象である粒子の散乱光子(CARS光子またはCSRS光子)を検出し、電気パルスを生成する。電気パルスのパルス幅は、例示的には、数十ナノ秒~数百ナノ秒である。このような光子検出装置150をフォトンカウンティングモジュールと呼ぶ場合がある。液体試料120からの散乱光子は、必要に応じて、レンズ、ピンホール、光ファイバ等の光学系(図示せず)を介して光子検出装置150で検出されるようにしてよい。
【0040】
<情報処理装置>
情報処理装置160は、光子検出装置150で生成された電気パルスを用いた処理する。具体的には、情報処理装置160は、少なくとも、電気パルスを用いて時間相関関数を演算する時間相関関数演算処理部161と、演算された時間相関関数を用いて、粒子の粒径および/または粒径分布を演算する粒径演算部162とを備える。
【0041】
時間相関関数演算処理部161は、オートコリレータであり得る。オートコリレータを用いれば、電気パルスを逐一取り込み、電気パルスから散乱光子を検出した時間相関関数をハードウェア上で計算し、時間相関関数を記録する。時間相関関数がパルスレーザ光の繰り返し周波数で振動する。そのため、必要に応じて、Fourier変換などを用いて、振動成分を除去してから、時間相関関数を解析するようにしてもよい。このような計算結果をコンピュータ等に実装した粒径演算部162に送って、粒子の粒径や粒径分布を算出してもよい。
【0042】
粒径演算部162は、好ましくは、指数関数によるフィッティング法、キュムラント法、ヒストグラム法およびCONTIN法からなる群から少なくとも1つ選択される解析法を用いる。これらはいずれも時間相関関数を用いて粒径や粒径分布を算出する解析法として知られている。
【0043】
例えば、指数関数によるフィッティング法として、演算された時間相関関数を次式に代入し、粒径dを求めることができる。
g
(2)(τ)=1+Ae
-2Γt
ここで、Aは、
図1の動的光散乱測定装置100の光学配置によって決まる干渉性因子であり、0<A≦1である。Γは並進拡散係数Dを用いて、次式のように表される。
Γ=q
2D
q=4πn
0/λ
0×sin(θ/2)
ここで、qは散乱ベクトルであり、n
0は液体試料120中の溶媒の波長λ
0における屈折率であり、λ
0はパルスレーザ光の波長である。
測定対象とする粒子の粒径(流体力学的直径)dは、アインシュタイン・ストークスの式を用いて、並進拡散係数Dから算出される。
d=kT/(3πη
0D)
ここで、kはボルツマン定数であり、Tは測定温度(絶対温度)であり、η
0は液体の粘度である。
【0044】
情報処理装置160は、時間相関関数演算処理部161、粒径演算部162の機能ブロックを、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよいし、オートコリレータとCPUとの組み合わせであってもよい。
【0045】
情報処理装置160は、粒径演算部162による結果(例えば、粒径、粒径分布)を表示する表示装置170を備えてもよい。表示装置170は、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(OLED:Organic Light Emitting Diode)、プラズマディスプレイ等である。表示装置170には、結果に加えて、時間相関関数演算処理部161、粒径演算部162それぞれの測定・解析条件の設定画面等が表示されてもよい。
【0046】
情報処理装置160は、ユーザからの入力操作を受け付ける入力装置180を備えてもよい。入力装置180は、例えば、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル、タッチセンサ、タッチペン、音声入力等である。
【0047】
本発明の動的光散乱測定装置100は、所定の角振動数を満たす少なくとも2つのパルスレーザ光を発する光源部130を備えるため、液体試料120中の検出すべき分子に起因するラマン散乱光を誘起できる。さらに、本発明の動的光散乱測定装置100は分離装置140を備えるため、液体試料からの散乱光子のうち必要なラマン散乱光子としてCARS光子またはCSRS光子のみを取り出すことができる。このように、本発明の動的光散乱測定装置100は、検出すべき分子に起因するCARS光子またはCSRS光子に動的光散乱法を適用できる。この結果、液体試料中の分子種を区別して、すなわち分子選択的に、粒径および/または粒径分布を測定できる。
【0048】
本発明の動的光散乱測定装置を用いれば、食品、塗料等の複数の化学種が混合したような複雑な液体試料であっても、前処理なしに、化学種ごとの粒径や粒径分布を測定できる。
【0049】
また、従来の動的光散乱で測定されるのは、粒径が数nm以上の高分子もしくはコロイド粒子であった。これは、レイリー散乱光の強度が粒径の6乗に比例して大きくなるので、粒径が数nm以上であれば溶媒分子からのレイリー散乱光を無視できるからである。一方、低分子溶液の場合は溶媒分子と同程度の強度でしかレイリー散乱光が発生せず、溶媒分子と溶質分子との間でコントラストがつかないため、動的光散乱測定ができなかった。しかしながら、本発明では、溶媒分子からのCARS光(CSRS光)と低分子からのCARS光(CSRS光)とを明確に分離して測定することが可能であるため、従来の動的光散乱法では測定不可能であった低分子溶液での動的光散乱測定を可能とする。このような効果は後述する別の動的光散乱測定装置においても同様に達成される。
【0050】
ラマンスペクトルから得られた分子の角振動数それぞれに本手法を適用し、角振動数ごとの拡散係数分布を得ることによって、拡散係数が同じ成分ごとにスペクトルを分けることができる。そのため、本手法を用いることによって、ラマンスペクトルを分子ごとに分けて抽出することが可能となる。
【0051】
図4は、本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図である。
【0052】
図4の動的光散乱測定装置400は、散乱光子の散乱角度を可変にする角度可変機構410を備える以外は、
図1の動的光散乱測定装置100と同様である。
【0053】
角度可変機構410は、分離装置140が分離する散乱光子を検出する角度を変化させることができるので、散乱光強度の散乱ベクトル依存性を測定することができる。すなわち、光子検出装置150には特定の散乱角における散乱光子の散乱光強度が含まれるため、この測定を様々な散乱角で行うことによって、散乱ベクトル依存性が得られる。この結果、拡散係数の測定精度が向上し得、精度よく粒径、粒径分布を求めることができる。なお、角度可変機構410には、例えば、特開2010-101877号公報に記載の受光部41が搭載される機構を採用できる。
【0054】
なお、本明細書では、分子の位相が揃い、位相整合条件を満たしていない方向に発生するラマン散乱光としてCARS光子およびCSRS光子を用いるため、位相整合条件を満たした散乱光子について測定できないが、散乱ベクトル依存性の精度には問題ない。具体的には、第1~第3のパルスレーザ光のそれぞれの波数ベクトルk1、k2、k3(全てベクトル量)とした場合、CARS光の場合は、CARS光の波数ベクトルがk1-k2+k3に一致するときのCARS光の波数ベクトルの方向、ならびに、CSRS光の場合はCSRS光の波数ベクトルが-k1+k2+k3に一致するときのCSRS光の波数ベクトルの方向が、位相整合条件を満たす方向となり、これらの方向以外で測定を行えばよい。
【0055】
このような角度可変機構410は、光源部130が発するパルスレーザ光が単色であっても白色であっても適用できる。
【0056】
光子検出装置150以降の動作については、散乱角の情報が加わった以外は
図1の動的光散乱測定装置100と同様であるため、説明を省略する。
【0057】
図5は、本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図である。
【0058】
図5の動的光散乱測定装置500は、顕微鏡510を備える以外は、
図1の動的光散乱測定装置100と同様である。光源部130は、パルスレーザ光を顕微鏡510の対物レンズを介して液体試料120に照射する。次いで、分離装置140は、液体試料120からの後方散乱光子を、対物レンズを介して検出する。顕微鏡510を用いれば、液体試料120が白濁、有色の液体試料であっても測定できる。この場合、液体試料120は、カバーガラスとスライドガラスとで挟持される。
【0059】
分離装置140は、後方散乱光子のうちCARS光子またはCSRS光子を取り出す。光子検出装置150以降の動作については、
図1の動的光散乱測定装置100と同様であるため、説明を省略する。
【0060】
次に、本発明の動的光散乱法を用いた粒子の粒径/粒径分布の測定・解析の方法について説明する。ここでは、動的光散乱測定装置100、400、500を用いた測定方法を説明するが、測定装置はこれに限らない。
図6は、本発明の動的光散乱測定・解析の工程を示すフローチャートである。
【0061】
ステップS610:少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω
1)、および、第2のパルスレーザ光(角振動数:ω
2、ただしω
1>ω
2であり、ω
1-ω
2=ω
vを満たす)を発し、液体試料120(例えば、
図1)に照射する。ここで、第2のパルスレーザ光は、第1のパルスレーザ光に同期しており、第1のパルスレーザ光および第2のパルスレーザ光のうち少なくともいずれか一方は単色パルスレーザ光である。
【0062】
図2(A)を参照して述べたように、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω
1)および第2のパルスレーザ光(角振動数:ω
2、ただしω
1>ω
2であり、ω
1-ω
2=ω
vを満たす)がいずれも単色パルスレーザ光の場合には、第1の粒子110aのラマン散乱光として、2ω
1-ω
2で表されるCARS光子、または、2ω
2-ω
1で表されるCSRS光子が得られる。
【0063】
一方、
図2(B)に示すように、第1のパルスレーザ光または第2のパルスレーザ光のいずれかが白色光であってもよい。例えば、第1のパルスレーザ光が単色光(角振動数:ω
1)であり、第2のパルスレーザ光が白色光である場合、第2のパルスレーザ光の角振動数は当然にω
2(<ω
1)およびω
1-ω
2=ω
vを満たすので、第1の粒子110aのラマン散乱光として2ω
1-ω
2で表されるCARS光子、または、2ω
2-ω
1で表されるCSRS光子が得られるがω
1-ω
2=ω
vbを満たす角振動数の光も第2のパルスレーザ光に含まれているので、第2の粒子110bのラマン散乱光も得られる。そして、測定対象とする粒子のラマン散乱光を分離装置140で取り出すことによって目的のCARS光子またはCSRS光子が得られる。
【0064】
第1および第2のパルスレーザ光に加えて、第3の単色のパルスレーザ光(角振動数:ω
3)を発し、液体試料120(例えば、
図1)に照射してもよい。ω
3に制限はない。
【0065】
この場合も、第1および第2のパルスレーザ光の角振動数の差が、測定対象とする粒子110aの角振動数ωvに一致するため、同期した第1、第2および第3のパルスレーザ光を粒子110aに照射すると、ω3+ω1-ω2で表されるCARS光子、および、ω3-ω1+ω2で表されるCSRS光子が得られる。なお、ω3=ω1の場合には、ラマン散乱光は2ω1-ω2で表されるCARS光子となり、ω3=ω2の場合には、2ω2-ω1で表されるCSRS光子となる。
【0066】
ステップS610において、パルスレーザ光を顕微鏡510(
図5)の対物レンズを介して液体試料に照射すれば、白色、有色の液体試料であっても測定できる。
【0067】
ステップS610に先立って、好ましくは、パルスレーザ光の光強度を散乱光強度が弱くなるよう調整してもよい。これにより、クリッピングの影響を低減できる。このような光強度の調整には、フィルタを用いてよい。例示的には、検出される光子の頻度がレーザ光の繰り返し周波数の10%以下まで低減するよう調整するとよい。
【0068】
液体試料中に含有される粒子を構成する分子の角振動数が不明な場合には、ステップS610に先立って、液体試料にラマン分光法を適用し、ラマンスペクトルから各分子の角振動数を求めておくとよい。
【0069】
ステップS620:液体試料120からの散乱光子のうちCARS光子またはCSRS光子を取り出す(分離する)。このような散乱光子の分離において、フィルタや分光器等の分離装置を用いてよい。
【0070】
このとき、散乱光子の散乱角度を可変にして検出してもよい。これにより、CARS光子またはCSRS光子の散乱ベクトル依存性を測定できる。例えば、角度可変機構410(
図4)を搭載した分離装置を用いることができる。
【0071】
顕微鏡510を介して液体試料にパルスレーザ光を照射した際には、液体試料からの散乱光子は後方散乱光子であり、顕微鏡510の対物レンズを介して検出される。
【0072】
ステップS630:ステップS620で取り出された散乱光子を検出し、電気パルスを生成する。このような電気パルスの生成には、例えば、上述の光子検出装置150(
図1)を用いてよい。
【0073】
ステップS640:電気パルスを用いて時間相関関数を演算する。
ステップS650:演算された時間相関関数を用いて粒子の粒径および/または粒径分布を演算する。粒子の粒径および/または粒径分布の演算は、好ましくは、指数関数によるフィッティング法、キュムラント法、ヒストグラム法およびCONTIN法からなる群から少なくとも1つ選択される解析法を用いる。ステップS640およびS650は、既存の動的光散乱法を適用してよい。
【0074】
上述したステップS610~S630により、特定した分子で構成される粒子の位置揺らぎの情報を有するCARS光子またはCSRS光子を動的光散乱法に適用するため、分子選択的に粒径や粒径分布を求めることができる。
【0075】
実施の形態1の動的光散乱測定装置は、少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω1)、および、第2のパルスレーザ光(角振動数:ω2、ただしω1>ω2であり、ω1-ω2=ωvを満たす)を発し、液体試料に照射する光源部であって、第2のパルスレーザ光は、第1のパルスレーザ光に同期しており、第1のパルスレーザ光および第2のパルスレーザ光のうち少なくともいずれか一方は単色パルスレーザ光である、光源部と、液体試料からの散乱光子のうちCARS光子またはCSRS光子を取り出す分離装置と、取り出された散乱光子を検出し、電気パルスを生成する光子検出装置と、電気パルスを用いて処理する情報処理装置とを備え、電気パルスを用いて時間相関関数を演算する機能と、時間相関関数を用いて粒子の粒径および/または粒径分布を演算する機能とを実現するプログラムの命令を実行するCPU(図示せず)、そのプログラムを格納したROM(Read Only Memory、図示せず)、プログラムを展開するRAM(Randam Access Memory、図示せず)、プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記録媒体を備えてよい。上述した機能を実現するソフトウェアであるプログラムのプログラムコードをコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、コンピュータあるいはCPUが記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行してもよい。このようにして、動的光散乱測定装置による液体試料中の粒子の粒径および/または粒径分布を動的光散乱法により測定する方法が実現され得る。
【0076】
このような記録媒体は、例えば、CD-ROM等のディスク、ICカード等のカード、フラッシュROM等の半導体メモリなどがある。
【0077】
実施の形態1の動的光散乱測定装置を通信ネットワークと接続し、通信ネットワークを介してプログラムコードを供給してもよい。このような通信ネットワークは、特に制限はないが、例えば、インターネット、イントラネット、LAN、ISDN、CATV通信網、電話回線網、衛星通信網等であり得る。プログラムコードは、電子的な伝送で具現化され、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態であってもよい。
【0078】
実施の形態1の動的光散乱測定装置、測定・解析方法および測定・解析プログラムは、粒子を含有する液体試料を測定対象とするものとして説明してきたが、本発明の動的光散乱測定装置をゲルやゴムなどの弾性体を測定対象としてもよい。この場合には、粒子の粒径や粒径分布に代えて、弾性体中に存在するネットワーク構造の振動に基づく散乱光により、ネットワーク構造の網目の大きさや分布を測定できる。このような測定対象の変更に伴う改変は当業者であれば、容易に理解する。
【0079】
(実施の形態2)
実施の形態1では、測定対象である粒子のCARS光子またはCSRS光子を用いて、測定しながら光子の到達時間を逐一オートコリレータで取り込み、粒径・粒径分布を演算する動的光散乱測定装置、その測定方法および測定プログラムについて説明してきた。実施の形態2では、測定対象である粒子のCARS光子またはCSRS光子を用いて、測定後の処理時に相関関数の適切な時間幅に基づいて粒径・粒径分布を演算可能な動的光散乱測定装置、その測定方法および測定プログラムについて説明する。
【0080】
図7は、本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図である。
【0081】
本発明の動的光散乱測定装置700は、光源部130と、分離装置140と、光子検出装置150と、データ収集装置710と、情報処理装置160とを備える。動的光散乱測定装置700は、データ収集装置710を光子検出装置150の後段に新たに設け、情報処理装置160の機能が異なる以外は、動的光散乱測定装置100(
図1)と同様であるため、説明を省略する。
【0082】
<データ収集装置>
データ収集装置710は、光子検出装置150と有線にて接続されており、光子検出装置150で生成された電気パルスを収集し、収集した電気パルスに基づいて、光子到達時間リストとして電気パルス到達時間リストを生成する。データ収集装置710には、データを入力し、出力可能な入出力モジュールを用いることができる。ここで、生成される電気パルス到達時間リストは、測定対象とする粒子110aからのすべての散乱光子(CARS光子またはCSRS光子)が光子検出装置150に到達した時間の情報を含む。例えば、電気パルス到達時間リストは、(N個目の光子,N個目の光子の到達時間)で表される。Nは自然数である。
【0083】
<情報処理装置>
情報処理装置160は、機能ブロックとして、時間相関関数を用いて粒子の粒径および/または粒径分布を演算する粒径演算部164に加えて、光子到達時間リストとして電気パルス到達時間リストを用いて時間相関関数を演算する時間相関関数演算処理部161aを備える。時間相関関数演算処理部161aは、データ収集装置710で生成された電気パルス到達時間リストを用いる。
【0084】
時間相関関数演算処理部161aは、時間相関関数g(2)(τ)を、次式に基づいて演算してよい。これを定義に基づいた直接計算と呼ぶ。
【0085】
【数2】
ここで、Δtは任意に決められる相関時間の最小の時間幅であり、n(t)は、光子到達時間リスト中のある時間t~t+Δtの間に検出された散乱光子数であり、Nは測定時間をΔtで除した値であり、<・・・>
Δtは時間平均を表す。
【0086】
あるいは、時間相関関数演算処理部161aは、時間相関関数g(2)(τ)を、光子到達時間リストのフーリエ変換を二乗したパワースペクトルを求め、そのパワースペクトルを逆フーリエ変換して算出してもよい。これをフーリエ変換に基づいた計算と呼ぶ。このような選択は、後述する動的光散乱測定・解析プログラムにおいてユーザの指示によって行うことができる。
【0087】
粒径演算部162は、時間相関関数演算処理部161aで演算された時間相関関数を用いて、粒子110の粒径および/または粒径分布を演算する。
【0088】
情報処理装置160は、時間相関関数演算処理部161a、粒径演算部162の各機能ブロックを、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0089】
表示装置170には、結果に加えて、時間相関関数演算処理部161a、粒径演算部162それぞれの測定・解析条件の設定画面等が表示されてもよく、入力装置180を用いてユーザからの入力操作を受け付けるようにしてもよい。
【0090】
このように、動的光散乱測定装置700は、データ収集装置710が、測定対象の粒子のすべての散乱光子(CARS光子またはCSRS光子)の情報である電気パルス到達時間リストを作成後に、情報処理装置160がデータ処理するため、測定後の処理時に相関関数の適切な時間幅に基づいた正確な粒径および/または粒径分布の測定を可能とする。実施の形態1と異なり、測定後の処理時に相関関数の時間幅を設定できるので、ミリ秒~秒オーダの長い時間相関を有する高い粘性の溶液試料に対しても、正確に測定できる。
【0091】
図8は、本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図である。
【0092】
図8の動的光散乱測定装置800は、光子検出装置150とデータ収集装置710との間にパルス幅伸長・デッドタイム調整器810を備える以外は、
図7の動的光散乱測定装置700と同様である。
【0093】
光子検出装置150は、散乱光子の到達時間を検出し、電気パルスを生成する際に、通常は、散乱光子1個に対して1個の電気パルスを生成するが、誤って2個の電気パルスを生成する場合がある。このような現象をアフターパルスと呼ぶ。そのような場合には、電気パルス到達時間リストのような光子到達時間リストが誤った電気パルス(すなわち偽信号)を含むため、測定精度の低下を招く虞がある。
【0094】
一方で、データ収集装置710は、電気パルスのパルス幅が短い(例えば、数ナノ秒など)と検出し損なう場合がある。そのような場合には、光子到達時間リストの一部が欠落するため、測定精度の低下を招く虞がある。
【0095】
パルス幅伸長・デッドタイム調整器810は、光子検出装置150が生成した電気パルスのパルス幅を伸長させ、不感時間を設ける。すなわち、パルス幅伸長・デッドタイム調整器810は、1個の電気パルスを受信すると、受信した電気パルスの幅を伸長させるよう機能する。これにより、電気パルスのパルス幅が長くなるので、後段のデータ収集装置710が電気パルスを検出し損なうことはなく、電気パルス到達時間リストの情報の欠落が抑制される。また、1個の電気パルスを受信したら、一定期間検出不可にするよう機能する。これにより、アフターパルスが発生したとしても、電気パルス到達時間リストが偽信号を含まないよう制御できる。
図9を参照して詳述する。
【0096】
図9は、例示的なパルス幅伸長・デッドタイム調整器による電気パルスの変化を示す模式図である。
【0097】
図9(A)は、光子検出装置150が生成した電気パルスを示す。光子検出装置150は、パルス幅がdの電気パルスp1、p2、p3、p4、p5を生成し、p2、p4はアフターパルス現象による電気パルスであった。ここで、パルス幅伸長・デッドタイム調整器810がパルス幅dをDに伸長し、電気パルスを検出してから時間Tだけ不感時間を設けるよう設定されているとする。
【0098】
図9(B)は、
図9(A)の電気パルスが、上記設定のパルス幅伸長・デッドタイム調整器810を通った後に得られる電気パルスを示す。
図9(B)によれば、パルスp1、p3およびp5は、それぞれ、パルス幅がDに伸長されパルスP1、P3、P5となり、不感時間Tによってp2およびp4が検出されていないことが分かる。この結果、アフターパルスによる偽信号が除去され、なおかつ、パルス幅が十分に伸長されているため、データ収集装置710は、数え落としのない電気パルス到達時間リストを作成することができる。パルス幅の伸長の程度や不感時間の設定は、パルス幅伸長・デッドタイム調整器810に直接、あるいは、動的光散乱測定・解析プログラムにおいてユーザの指示によって行うことができる。
【0099】
データ収集装置710以降の動作については
図7の動的光散乱測定装置700と同様であるため、説明を省略する。
【0100】
なお、
図7の動的光散乱測定装置700に、実施の形態1で説明した
図4の角度可変機構410、
図5の顕微鏡510を適宜組み合わせ、改変した動的光散乱測定装置も本願の範囲内である。
【0101】
次に、本発明の動的光散乱法を用いた粒子の粒径/粒径分布の測定・解析の方法について説明する。ここでは、動的光散乱測定装置700、800を用いた測定方法を説明するが、測定装置はこれに限らない。
図10は、本発明の動的光散乱測定・解析の工程を示すフローチャートである。
【0102】
ステップS1010~S1030:
図6を参照して説明したステップS610~S630と同様であるため説明を省略する。
【0103】
ステップS1030に続いて、電気パルスのパルス幅を伸長させ、不感時間を設けるようにしてもよい。1個の電気パルスを受信すると、受信したパルス幅を伸長させる。これにより、電気パルスのパルス幅が長くなるので、電気パルスを検出し損なうことはなく、電気パルス到達時間リスト等の光子到達時間リストの情報の欠落が抑制される。また、1個の電気パルスを受信したら、一定期間電気パルスの検出を行わないようにしてもよい。これにより、アフターパルスが発生したとしても、光子到達時間リストが偽信号を含まないよう制御できる。このような電気パルスのパルス幅の伸長、不感時間の設定は、例えば、パルス幅伸長・デッドタイム調整器810(
図8)に直接行ってもよく、動的光散乱測定・解析プログラムにおいてユーザの指示によって行うことができる。
【0104】
ステップS1040:ステップS1030で生成された電気パルスの到達時間を収集し、光子到達時間リストとして電気パルス到達時間リストを生成する。例えば、電気パルス到達時間リストは、(N個目の光子,N個目の光子の到達時間)で表される。Nは自然数である。このような電気パルス到達時間リストの生成には、例えば、上述のデータ収集装置710(
図7)を用いてよい。生成された電気パルス到達時間リスト等の光子到達時間リストは、記憶部(図示せず)に記憶される。
【0105】
ステップS1050:光子到達時間リストとして電気パルス到達時間リストを用いて時間相関関数を演算する。時間相関関数g(2)(τ)を、次式に基づいて演算してよい。
【0106】
【数3】
ここで、Δtは任意に決められる相関時間の最小の時間幅であり、n(t)は、光子到達時間リスト中のある時間t~t+Δtの間に検出された散乱光子数であり、Nは測定時間をΔtで除した値であり、<・・・>
Δtは時間平均を表す。
【0107】
あるいは、時間相関関数g(2)(τ)を、電気パルス到達時間リスト等の光子到達時間リストのフーリエ変換を二乗したパワースペクトルを求め、そのパワースペクトルを逆フーリエ変換して算出してもよい。
【0108】
ステップS1060:演算された時間相関関数を用いて粒子の粒径および/または粒径分布を演算する。このような演算は、
図6で説明したステップS650と同様である。
【0109】
実施の形態2の動的光散乱測定装置は、少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω1)、および、第2のパルスレーザ光(角振動数:ω2、ただしω1>ω2であり、ω1-ω2=ωvを満たす)を発し、液体試料に照射する光源部であって、第2のパルスレーザ光は、第1のパルスレーザ光に同期しており、第1のパルスレーザ光および第2のパルスレーザ光のうち少なくともいずれか一方は単色パルスレーザ光である、光源部と、液体試料からの散乱光子のうちCARS光子またはCSRS光子を取り出す分離装置と、取り出された散乱光子を検出し、電気パルスを生成する光子検出装置と、電気パルスの到達時間を収集し、電気パルス到達時間リストを生成するデータ収集装置と、電気パルスを用いて処理する情報処理装置とを備え、光子到達時間リストとして電気パルス到達時間リストを用いて時間相関関数を演算する機能と、時間相関関数を用いて粒子の粒径および/または粒径分布を演算する機能とを実現するプログラムの命令を実行するCPU(図示せず)、そのプログラムを格納したROM(Read Only Memory、図示せず)、プログラムを展開するRAM(Randam Access Memory、図示せず)、プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記録媒体を備えてよい。上述した機能を実現するソフトウェアであるプログラムのプログラムコードをコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、コンピュータあるいはCPUが記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行してもよい。このようにして、動的光散乱測定装置による液体試料中の粒子の粒径および/または粒径分布を動的光散乱法により測定する方法が実現され得る。
【0110】
このような記録媒体は、例えば、CD-ROM等のディスク、ICカード等のカード、フラッシュROM等の半導体メモリなどがある。
【0111】
実施の形態1と同様に、実施の形態2の動的光散乱測定装置を通信ネットワークと接続し、通信ネットワークを介してプログラムコードを供給してもよい。実施の形態1と同様に、実施の形態2の動的光散乱測定装置、測定・解析方法および測定・解析プログラムは、粒子を含有する液体試料を測定対象とするものとして説明してきたが、本発明の動的光散乱測定装置をゲルやゴムなどの弾性体を測定対象としてもよい。
【0112】
(実施の形態3)
実施の形態2では、測定対象である粒子のCARS光子またはCSRS光子を用いて、CARS光子またはCSRS光子の電気パルス到達時間リストを作成後に、相関関数の適切な時間幅に基づいて粒径・粒径分布を演算可能な動的光散乱測定装置、その測定方法および測定プログラムについて説明してきた。実施の形態3では、測定対象である粒子のCARS光子またはCSRS光子を用いて、これらとは関係のない機器によるダークカウントや外光によるノイズの影響を除去した、測定後の処理時に相関関数の適切な時間幅に基づいて粒径・粒径分布を演算可能な動的光散乱測定装置、その測定方法および測定プログラムについて説明する。
【0113】
図11は、本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図である。
【0114】
本発明の動的光散乱測定装置1100は、光源部130と、分離装置140と、光子検出装置150と、パルスレーザ光タイミング装置1110、データ収集装置1120と、情報処理装置160とを備える。動的光散乱測定装置1100は、パルスレーザ光タイミング装置1110、および、データ収集装置710(
図7)に代えて、パルスレーザ光タイミング装置1110からのデータを収集するデータ収集装置1120を設け、情報処理装置160の機能が異なる以外は、動的光散乱測定装置700(
図7)と同様であるため、説明を省略する。
【0115】
<パルスレーザ光タイミング装置>
パルスレーザ光タイミング装置1110は、光源部130がパルスレーザ光を発するタイミングを、データ収集装置1120に通知する。パルスレーザ光タイミング装置1110は、パルスレーザ光が発せられたタイミングに同期する電気パルスを発するものであれば特に制限はないが、パルスレーザ光タイミング装置1110には光検出器がある。光検出器の具体例として、PINフォトダイオード、アバランシェフォトダイオード等のフォトダイオード、光電子倍増管、フォトンカウンティングモジュールなどが挙げられ、いずれも、パルスレーザ光を検出し、電気パルスに変換できる。このような変換された電気パルスは、パルスレーザ光が発せられたタイミングに同期している。パルスレーザ光タイミング装置1110として、光源部130からの同期信号を用いるようにしてもよい。パルスレーザ光タイミング装置1110は、光源部130が発するパルスレーザ光としては、第1または第2のパルスレーザ光のいずれかのタイミングを通知すればよいが、光源部130が第1~第3のパルスレーザ光を発する場合には第3のパルスレーザ光のタイミングを通知してもよい。
【0116】
<データ収集装置>
データ収集装置1120は、光子検出装置150およびパルスレーザ光タイミング装置1110と有線にて接続されており、光子検出装置150で生成された電気パルス、および、パルスレーザ光タイミング装置1110で生成された電気パルスを収集し、電気パルス到達時間リスト、および、パルスレーザ光タイミングリストを生成する。データ収集装置1120には、2以上のデータの入力部を有し、出力可能な入出力モジュールを用いることができる。
【0117】
電気パルス到達時間リストは、測定対象とする粒子110aからのすべての散乱光子(CARS光子またはCSRS光子)が光子検出装置150に到達した時間の情報を含み、パルスレーザ光タイミングリストは、パルスレーザ光の発した時間の情報を含む。電気パルス到達時間リストは、光子検出装置150によるダークカウントや外光の影響を受けて、散乱光子以外の情報を含み得る場合がある。
【0118】
<情報処理装置>
情報処理装置160は、データ収集装置1120が作成したパルスレーザ光タイミングリストを用いて、電気パルス到達時間信号をデータ処理し、液体試料120中の粒子110aからの散乱光子の情報のみを含む修正電気パルス到達時間リストを作成する。さらに、情報処理装置160は、光子到達時間リストとして修正電気パルス到達時間リストを用いて、時間相関関数を演算し、粒子の粒径および/または粒径分布を算出する。
【0119】
詳細には、情報処理装置160は、機能ブロックとして、修正電気パルス到達時間リストを作成する修正電気パルス到達時間リスト作成部163と、光子到達時間リストとして修正電気パルス到達時間リストを用いて時間相関関数を演算する時間相関関数演算処理部161bと、演算された時間相関関数を用いて粒子の粒径および/または粒径分布を演算する粒径演算部162とを備える。
【0120】
ここで、修正電気パルス到達時間リスト作成部163は、電気パルス到達時間リストからパルスレーザ光タイミングリストに同期したデータのみを抽出し、修正電気パルス到達時間リストを作成する。このようにして得られた修正電気パルス到達時間リストは、機器によるダークカウントや外光の影響を含まない。この結果、1回の測定で、機器や外光の影響を排除した正確な粒径および/または粒径分布を分子選択的に測定できる。
【0121】
表示装置170には、結果に加えて、修正電気パルス到達時間リスト作成部163、時間相関関数演算処理部161b、粒径演算部162それぞれの測定・解析条件の設定画面等が表示されてもよく、入力装置180を用いてユーザからの入力操作を受け付けるようにしてもよい。
【0122】
修正電気パルス到達時間リスト作成部163の動作を
図12および
図13を参照して詳述する。
図12は、種々の電気パルスと測定時間との関係を示す模式図である。
図13は、例示的な(A)電気パルス到達時間リスト、(B)パルスレーザ光タイミングリストおよび(C)修正電気パルス到達時間リストを示す図である。
【0123】
修正電気パルス到達時間リスト作成部163は、例えば、
図13(A)に示す電気パルス到達時間リスト(
図12(D)の検出された全電気パルスに相当)、ならびに、
図13(B)に示すパルスレーザ光タイミングリスト(
図12(A)のパルスレーザ光に相当)を受け取る。
【0124】
修正電気パルス到達時間リスト作成部163は、電気パルス到達時間リストとパルスレーザ光タイミングリストとを比較し、電気パルス到達時間リストからパルスレーザ光タイミングリストに同期したデータのみを抽出する。例えば、修正電気パルス到達時間リスト作成部163は、
図13(A)電気パルス到達時間リストのうち、
図13(B)パルスレーザ光タイミングリストと同期した、20.0μs、40.0μs、80.0μs、160.0μsの電気パルスの検出時間を抽出する。抽出したデータは、
図12(D)に示す電気パルスのうち、グレースケールで濃く示される電気パルス(
図12(B)の散乱光子の電気パルス)となり、パルスレーザ光が来たタイミングの散乱光子となる。一方、抽出されなかった電気パルス(
図12(C))は、機器によるダークカウントや外光の影響によるものであり、ランダムノイズと分かる。
【0125】
修正電気パルス到達時間リスト作成部163は、抽出した電気パルスの検出時間を、液体試料120からの散乱光子(CARS光子またはCSRS光子)が光子検出装置150に到達した時間であるとして、
図13(C)に示す修正電気パルス到達時間リストを作成する。修正電気パルス到達時間リストは、パルスレーザ光が来たタイミングで散乱光子が検出されたか否かの情報を有するため、検出個数は0(散乱光子が来なかった)または1(散乱光子が来た)となる。
【0126】
情報処理装置160は、修正電気パルス到達時間リスト作成部163、時間相関関数演算処理部161b、粒径演算部162等の各機能ブロックを、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0127】
時間相関関数演算処理部161bは、光子到達時間リストとして修正電気パルス到達時間リスト作成部163が作成した修正電気パルス到達時間リストを用いる以外は、
図7で説明した時間相関関数演算処理部161aと同様である。粒径演算部162は、時間相関関数演算処理部161bで演算された時間相関関数を用いて、粒子110の粒径および/または粒径分布を演算する。
【0128】
図14は、本発明の別の動的光散乱測定装置を示す模式図である。
【0129】
図14の動的光散乱測定装置1400は、
図11において、光検出器であるパルスレーザ光タイミング装置1110に代えて、ディレイジェネレータであるパルスレーザ光タイミング装置1410を用いる以外は、
図11の動的光散乱測定装置1100と同様である。
【0130】
ディレイジェネレータは、ディレイジェネレータからの信号に同期して光源部130からパルスレーザ光を発振させる場合に、当該信号(電気パルス)をデータ収集装置1120に送信する。このような電気パルスは、パルスレーザ光が発せられたタイミングに同期している。ここでは、具体例としてディレイジェネレータを挙げたが、光源部130からのパルスレーザ光と同期した電気パルスを送信可能な任意の外部発振器を採用できる。
【0131】
なお、
図11、
図14の動的光散乱測定装置1100、1400に、実施の形態1で説明した
図4の角度可変機構410、
図5の顕微鏡510、
図8のパルス幅伸長装置810を適宜組み合わせ、改変した動的光散乱測定装置も本願の範囲内である。
【0132】
次に、本発明の動的光散乱法を用いた粒子の粒径/粒径分布の測定・解析の方法について説明する。ここでは、動的光散乱測定装置1100、1400を用いた測定方法を説明するが、測定装置はこれに限らない。
図15は、本発明の動的光散乱測定・解析の工程を示すフローチャートである。
【0133】
ステップS1510~S1530:
図10を参照して説明したステップS1010~S1030と同様であるため説明を省略する。
【0134】
ステップS1540:ステップS1510におけるパルスレーザ光が発生されるタイミングを通知する。このような通知は、パルスレーザ光が発せられたタイミングに同期する電気パルスであってよい。このような電気パルスの生成には、光検出器であるパルスレーザ光タイミング装置1110(
図11)やディレイジェネレータ等の外部発振器であるパルスレーザタイミング装置1410(
図14)を用いてよい。
【0135】
なお、ステップS1530とステップS1540とは、この順に限らない。逆であってもよいし、同時に行ってもよい。
【0136】
ステップS1550:生成された電気パルスの到達時間およびパルスレーザ光のタイミングを収集し、電気パルス到達時間リストおよびパルスレーザ光タイミングリストを生成する。電気パルス到達時間リストおよびパルスレーザ光タイミングリストは上述した通りであるため、説明を省略する。このような電気パルス到達時間リストおよびパルスレーザ光タイミングリストの生成には、例えば、上述のデータ収集装置1120を用いてよい。生成された電気パルス到達時間リストおよびパルスレーザ光タイミングリストは、記憶部(図示せず)に記憶される。
【0137】
ステップS1560:電気パルス到達時間リストとパルスレーザ光タイミングリストとを比較し、電気パルス到達時間リストからパルスレーザ光タイミングリストに同期したデータのみを抽出し、修正電気パルス到達時間リストを作成する。修正電気パルス到達時間リストの作成方法については、
図12および
図13を参照して説明した通りであるため、説明を省略するが、電気パルス到達時間リストのうち、液体試料の散乱光子(CARS光子またはCSRS光子)に基づくデータのみが抽出されるので、作成された修正電気パルス到達時間リストは、ランダムノイズとなり得る機器によるダークカウントや外光の影響を含まない。この結果、後述のプロセスによって精度よく粒径、粒径分布を測定できる。
【0138】
ステップS1570:光子到達時間リストとして修正電気パルス到達時間リストを用いて時間相関関数を演算する。このような演算は、
図10で説明したステップS1050と同様である。
【0139】
ステップS1580:演算された時間相関関数を用いて粒子の粒径および/または粒径分布を演算する。このような演算は、
図6で説明したステップS650と同様である。
【0140】
実施の形態3の動的光散乱測定装置は、少なくとも、第1のパルスレーザ光(角振動数:ω1)、および、第2のパルスレーザ光(角振動数:ω2、ただしω1>ω2であり、ω1-ω2=ωvを満たす)を発し、液体試料に照射する光源部であって、第2のパルスレーザ光は、第1のパルスレーザ光に同期しており、第1のパルスレーザ光および第2のパルスレーザ光のうち少なくともいずれか一方は単色パルスレーザ光である、光源部と、液体試料からの散乱光子のうちCARS光子またはCSRS光子を取り出す分離装置と、取り出された散乱光子を検出し、電気パルスを生成する光子検出装置と、光源部がパルスレーザ光を発するタイミングを通知するパルスレーザ光タイミング装置と、電気パルスの到達時間を収集し、電気パルス到達時間リストの生成に加えて、パルスレーザ光のタイミングをさらに収集し、パルスレーザ光タイミングリストを生成するデータ収集装置と、電気パルスを用いて処理する情報処理装置とを備え、電気パルス到達時間リストと前記パルスレーザ光タイミングリストとを比較し、前記電気パルス到達時間リストから前記パルスレーザ光タイミングリストに同期したデータのみを抽出し、修正電気パルス到達時間リストを作成する機能と、光子到達時間リストとして修正電気パルス到達時間リストを用いて時間相関関数を演算する機能と、時間相関関数を用いて粒子の粒径および/または粒径分布を演算する機能とを実現するプログラムの命令を実行するCPU(図示せず)、そのプログラムを格納したROM(Read Only Memory、図示せず)、プログラムを展開するRAM(Randam Access Memory、図示せず)、プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記録媒体を備えてよい。上述した機能を実現するソフトウェアであるプログラムのプログラムコードをコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、コンピュータあるいはCPUが記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行してもよい。このようにして、動的光散乱測定装置による液体試料中の粒子の粒径および/または粒径分布を動的光散乱法により測定する方法が実現され得る。
【0141】
このような記録媒体は、例えば、CD-ROM等のディスク、ICカード等のカード、フラッシュROM等の半導体メモリなどがある。
【0142】
実施の形態1、2と同様に、実施の形態3の動的光散乱測定装置を通信ネットワークと接続し、通信ネットワークを介してプログラムコードを供給してもよい。実施の形態1、2と同様に、実施の形態3の動的光散乱測定装置、測定・解析方法および測定・解析プログラムは、粒子を含有する液体試料を測定対象とするものとして説明してきたが、本発明の動的光散乱測定装置をゲルやゴムなどの弾性体を測定対象としてもよい。
【0143】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0144】
[例1]
例1では、顕微鏡下での後方散乱測定を利用した
図5の動的光散乱測定装置に、光子検出装置、データ収集装置、パルス幅伸長・デッドタイム調整器、および、パルスレーザ光タイミング装置を搭載し、CARS光を用いた動的光散乱法により粒径を求めた。
【0145】
構築した動的光散乱測定装置は、光源部130としてパルスレーザシステム(Coherent Mira 900、RegA9000、OPA)、分離装置140としてダイクロイックミラー(エドモンド・オプティクス・ジャパン、66245)および分光器(SOL instruments、MS3504i)の組み合わせ、光子検出装置150としてフォトンカウンティングモジュール(浜松ホトニクス、C13001-01)、パルス幅伸長・デッドタイム調整器810としてノイズ除去回路(パルスの伸長幅:75ns、不感時間:300ns)、データ収集装置1120としてデジタル入出力モジュール(ナショナルインスツルメンツ、NI-9402およびcDAQ-9174、内部ベースクロック周波数:80MHz)、パルスレーザ光タイミング装置1110として光源部130からの同期信号、および、情報処理装置160としてCPUを備えたパーソナルコンピュータを備えた。
【0146】
パルスレーザシステムは、第1のパルスレーザ光(ω1=15600cm-1、波長;641nm、パルスエネルギー;50nJ/pulse、パルス幅;100fs)、および、第2のパルスレーザ光(ω2=12500cm-1、波長;800nm、パルスエネルギー;5nJ/pulse、パルス幅;150fs)を発した。第1および第2のパルスレーザ光の繰り返し周波数は100kHzであった。なお、第1のパルスレーザ光を、フィルタを用いて、発生したCARS光の光強度が約10kcpsとなるように減光した。
【0147】
液体試料120は、ポリスチレンビーズの純水(屈折率1.332)分散液(産業技術総合研究所、濃度;1wt%、粒子径;60nm)を用いた。このときの粘度は8.945×10-4Pa・sであった。これをフィルタ処理することなくホールスライドガラスにカバーガラスを用いて封入した。
【0148】
動的光散乱法による測定は室温(23℃)にて次のようにして行った。
液体試料120に第1および第2のパルスレーザ光を照射し、ポリスチレンの3100cm
-1の分子振動由来のCARS光(波長540nm)のカウントレートが10kcpsとなるまで減光した(
図15のステップS1510)。
【0149】
次いで、液体試料からの後方散乱光子(散乱角180°)のうちCARS光(波長540nm)をダイクロイックミラーおよび分光器によって取り出した(
図15のステップS1520)。フォトンカウンティングモジュールにてCARS光の到達時間を検出し、電気パルスを生成させた(
図15のステップS1530)。パルス幅伸長・デッドタイム調整器にて電気パルスのパルス幅を75nsに伸長させ、300ns不感時間を設けた。
【0150】
また、第1および第2のパルスレーザ光が発っせられるタイミングをデジタル入出力モジュールに通知した(
図15のステップS1540)。通知は、パルスレーザシステムから発せられる第1および第2のパルスレーザ光に同期した電気信号を使用した。
【0151】
デジタル入出力モジュールにて、ノイズ除去回路を通った電気パルスの到達時間およびパルスレーザ光のタイミングを収集し、電気パルス到達時間リストおよびパルスレーザ光タイミングリストを生成した(
図15のステップS1550)。電気パルス到達時間リストとパルス光タイミングリストとを比較し、電気パルス到達時間リストからパルスレーザ光タイミングリストに同期したデータのみを抽出し、修正電気パルス到達時間リストを作成し、パーソナルコンピュータに保存した(
図15のステップS1560)。
【0152】
パーソナルコンピュータにて、光子到達時間リストとして修正電気パルス到達時間リストを用いて時間相関関数を演算した(
図15のステップS1570)。時間相関関数の演算は、光子到達時間を10μsごとの散乱光子数の時間変化に変換することによって、10μsの時間相関で定義に基づいた直接計算を行った。演算された時間相関関数を
図16に示す。得られた時間相関関数を用いてポリスチレンビーズの粒径を演算した(
図15のステップS1580)。
【0153】
図16は、例1においてポリスチレンビーズから発生した後方散乱CARS光の時間相関関数を示す図である。
【0154】
図16において、実線は実験で得られた時間相関関数であり、点線は得られた実験結果を指数関数によってフィッティングした結果である。フィッティングの結果から得られた粒径(流体力学的半径とも呼ぶ)は、61±4nmであった。この値は、粒径の認証値(59±1nm)に良好に一致した。
【0155】
以上より、液体試料中の粒子の粒径、粒径分布等を、CARS光を用いて分子選択的に測定できる動的光散乱測定装置、測定・解析方法および測定・解析プログラムを提供できることが示された。