(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184722
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】エレクトレットデバイス
(51)【国際特許分類】
H02N 1/00 20060101AFI20221206BHJP
H02N 1/08 20060101ALI20221206BHJP
H01G 7/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H02N1/00
H02N1/08
H01G7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043051
(22)【出願日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2021091225
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 和徳
(72)【発明者】
【氏名】石黒 巧真
(72)【発明者】
【氏名】三屋 裕幸
(57)【要約】
【課題】密閉空間内に封入されたエレクトレット素子の帯電劣化を防止した、高寿命のエレクトレットデバイスを提供する。
【解決手段】パッケージ部材と蓋部材とエレクトレット素子とを含むエレクトレットデバイスであって、前記蓋部材は前記パッケージ部材を封止し、密閉空間を形成し、前記エレクトレット素子は前記密閉空間内に設置され、前記密閉空間の内部の少なくとも一部に水素ゲッターを備えるエレクトレットデバイスを提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージ部材と蓋部材とエレクトレット素子とを含むエレクトレットデバイスであって、
前記蓋部材は前記パッケージ部材を封止し、密閉空間を形成し、
前記エレクトレット素子は前記密閉空間内に設置され、
前記密閉空間の内部の少なくとも一部に水素ゲッターを備えるエレクトレットデバイス。
【請求項2】
前記水素ゲッターは前記パッケージ部材の少なくとも一部に設置されている請求項1に記載のエレクトレットデバイス。
【請求項3】
前記水素ゲッターは前記蓋部材の少なくとも一部に設置されている請求項1に記載のエレクトレットデバイス。
【請求項4】
前記水素ゲッターは前記エレクトレット素子の少なくとも一部に設置されている請求項1に記載のエレクトレットデバイス。
【請求項5】
前記エレクトレット素子は可動の錘を有し、前記錘の可動領域に相対する部分以外の領域に前記水素ゲッターが設置されている請求項2~4のいずれか一項に記載のエレクトレットデバイス。
【請求項6】
前記水素ゲッターは、前記パッケージ部材と前記エレクトレット素子との間の距離よりも小さい範囲の厚さを有する、請求項5に記載のエレクトレットデバイス。
【請求項7】
前記水素ゲッターは、前記蓋部材と前記エレクトレット素子との間の距離よりも小さい範囲の厚さを有する、請求項5に記載のエレクトレットデバイス。
【請求項8】
前記パッケージ部材は、セラミック、金属、樹脂、ガラス、シリコンから選択された部材からなる請求項1~7のいずれか一項に記載のエレクトレットデバイス。
【請求項9】
パッケージ部材と蓋部材とエレクトレット素子とを含むエレクトレットデバイスを製造する方法であって、
前記パッケージ部材を提供する工程と、
前記パッケージ部材内に前記エレクトレット素子を設置する工程と、
前記蓋部材により前記パッケージ部材を封止し、密閉空間を形成する工程とを含み、
前記封止工程前に、前記密閉空間の内壁を形成する前記パッケージ部材、前記蓋部材、前記エレクトレット素子の少なくとも一部に水素ゲッターを設ける工程を含む、エレクトレットデバイスを製造する方法。
【請求項10】
前記水素ゲッターは前記パッケージ部材の少なくとも一部に設置される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記水素ゲッターは前記蓋部材の少なくとも一部に設置される請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記水素ゲッターは前記エレクトレット素子の少なくとも一部に設置される請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記封止は真空下で行われる請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記封止は不活性ガス雰囲気下で行われる請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記パッケージ部材は、セラミック、金属、樹脂、ガラス、シリコンから選択された部材からなる請求項9~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットデバイスおよびエレクトレットデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境振動からエネルギーを収穫するエナジーハーベスティング技術の一つとして、M EMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動素子を用いて発電を行う手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
振動素子にはエレクトレット、すなわち、誘電体に電圧を印加するなどして帯電を維持させた部材が用いられることがある。エレクトレットは、絶縁膜にコロナ放電で電荷を注入する方法、または、特許文献2に記載の方法などによって作製されている。
【0004】
しかし、エレクトレットの帯電量は、時間が経つに連れ、低下していく。これを帯電劣化という。帯電劣化は、主に、エレクトレットが外気中の水分と触れることによって生じることが知られている(特許文献3等参照)。
【0005】
一般に、電子素子が水分で劣化することを抑制するために、電子素子を真空パッケージに封止することが行われている。さらに、真空パッケージ内部の真空状態を維持するため、ゲッターと呼ばれる吸着材が真空パッケージ内部に設置されている(非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-088780号公報
【特許文献2】特開2013-13256号公報
【特許文献3】特開2008-182666号公報
【特許文献4】特開2014-049557号公報
【特許文献5】特許第4662666号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「小型生体計測センサの実装技術」日暮栄治他 精密工学会誌 Vol.73, No.11, P.1190 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、真空保持用ゲッター材は表面が気体の吸着分子で覆われているため、活性化させるためには真空中で加熱(例えば400℃以上)する必要があり、このような加熱処理はエレクトレットの電荷を減少させるおそれがある。
【0009】
さらに、発明者らは、水分除去を行っているにもかかわらず、帯電劣化が生じることに着目し、その原因の一つは、電荷を蓄えたシリコン酸化膜内のSiO-分子に水素原子H+が反応し、電荷を中和させるためであることを突き止め、これに対して何らかの対策を行う必要があることを見出した。
【0010】
そのため、本発明は、高温処理を行わずに劣化の原因となる水素を除去し、密閉空間内に封入されたエレクトレット素子の帯電劣化を防止した、高寿命のエレクトレットデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る一実施形態のエレクトレットデバイスは、パッケージ部材と蓋部材とエレクトレット素子とを含むエレクトレットデバイスであって、
前記蓋部材は前記パッケージ部材を封止し、密閉空間を形成し、
前記エレクトレットを含む素子は前記密閉空間内に設置され、
前記密閉空間の内部の少なくとも一部に水素ゲッターを備えるエレクトレットデバイスである。
【0012】
また、本発明の他の実施形態のエレクトレットデバイスの製造方法は、パッケージ部材と蓋部材とエレクトレット素子とを含むエレクトレットデバイスを製造する方法であって、
前記パッケージ部材を提供する工程と、
前記パッケージ部材内に前記エレクトレット素子を設置する工程と、
前記蓋部材により前記パッケージ部材を封止し、密閉空間を形成する工程とを含み、
前記封止工程前に、前記密閉空間の内壁を形成する前記パッケージ部材、前記蓋部材、前記エレクトレット素子の少なくとも一部に水素ゲッターを設ける工程を含む、エレクトレットデバイスを製造する方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、高温処理を行わずに、密閉空間内の水素を吸着することができ、密閉空間内に封入されたエレクトレットの帯電劣化を防止したエレクトレットデバイス及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)本発明の一実施形態に係るエレクトレットデバイスを示す斜視図である。(b)
図1(a)のエレクトレットデバイスの分解斜視図である。(c)
図1(a)の蓋部材20の裏面図である。
【
図2】
図1(a)のエレクトレットデバイスの断面図である。
【
図3】(a)本発明の実施形態の変形例に係るエレクトレットデバイスを示す斜視図である。(b)
図3(a)のエレクトレットデバイスの分解斜視図である。(c)
図3(a)の蓋部材20の裏面図である。
【
図4】
図3(a)のエレクトレットデバイスの断面図である。
【
図5】(a)本発明の実施形態の変形例に係る水素ゲッターの取付例である。(b)本発明の実施形態の変形例に係る水素ゲッターの取付例である。(c)本発明の実施形態の変形例に係る水素ゲッターの取付例である。
【
図6】(a)
図5(a)の蓋部材を取り付けたエレクトレットデバイスの断面図である。(b)
図5(b)の蓋部材を取り付けたエレクトレットデバイスの断面図である。(c)
図5(c)の蓋部材を取り付けたエレクトレットデバイスの断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るエレクトレットデバイスと比較例の帯電劣化試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明するが、本発明はこれらに限られない。
【0016】
<エレクトレットデバイスの構成>
図1(a)は、本発明の一実施形態に係るエレクトレットデバイスの概要を示す斜視図であり、
図1(b)はその分解斜視図であり、
図1(c)は蓋部材の裏面図である。また、
図2は
図1(a)のエレクトレットデバイスの断面図である。
【0017】
本発明の一実施形態において、エレクトレットデバイス100は、パッケージ部材10、蓋部材20、エレクトレット素子30、および水素ゲッター60を備える。パッケージ部材10と蓋部材20は密閉空間を形成し、当該密閉空間内にエレクトレット素子30が設置される。さらにエレクトレット素子30は、当該素子に設けられた電極パッド31、32からワイヤー40を介してパッケージ部材に設けられた電極に連結し、外部回路(不図示)に接続されている。当該密閉空間の内部には、水素ゲッター60が設置されている。
【0018】
詳細は後述するが、本実施形態において、密閉空間を形成するパッケージ部材10、蓋部材20またはエレクトレット素子30の少なくとも一部に水素ゲッター60を設けることにより、高温活性化処理を行わずに、密閉空間内の水素を吸着することができる。これにより、密閉空間内に封入されたエレクトレット素子の水素による帯電劣化を防止した、高寿命のエレクトレットデバイスを提供することができる。
【0019】
(パッケージ部材)
パッケージ部材10は内部にエレクトレット素子30を設置し、後述する蓋部材20と共に密閉空間を形成する部材である。パッケージ部材10はエレクトレット素子30とワイヤー40を介して連結される電極を有し、エレクトレット素子30を外部回路と接続することができる。
【0020】
パッケージ部材10に用いられる材料は、一般的に電子素子を封止するために用いられる材料を用いることができる。例えば、アルミナなどのセラミック、金属、樹脂、ガラス、シリコンを用いることができる。パッケージ部材10は、内壁15の一部を撥水加工されてもよい。
【0021】
(蓋部材)
蓋部材20はパッケージ部材10とともに密閉空間を形成する部材である。
【0022】
蓋部材20に用いられる材料は、一般的に電子素子を封止するために用いられる材料を用いることができる。例えば、蓋部材20が金属製の場合、溶接により蓋部材20を封止することができ、好ましい。蓋部材20に用いる金属は単体でも、合金でもよい。蓋部材20は、内壁面25の一部が撥水加工されてもよい。
【0023】
(エレクトレット素子)
エレクトレット素子30は、エレクトレットを含む電子素子であり、例えば、振動エネルギーを電気エネルギーに変換する振動素子であってもよい。
【0024】
本明細書において、加熱した酸化膜に電圧を印加するなどして帯電を生じさせた部材をエレクトレットと称する。また、電圧の印加を終了した後も帯電を維持させることをエレクトレット化と称する。さらに、エレクトレットが用いられている素子をエレクトレット素子と称する。また、エレクトレット素子を含むデバイスをエレクトレットデバイスと称する。
【0025】
エレクトレットは当分野で知られている方法により生成することができる。例えば、特許文献4に記載される公知の帯電処理を施すことにより、形成されている。エレクトレット素子30は、エレクトレット表面に保護膜を有してもよい。
【0026】
エレクトレット素子30は、ワイヤー40を介してパッケージ部材10と連結し、外部回路(不図示)に接続することができる。
【0027】
本発明の実施形態の変形例において、エレクトレット素子は櫛歯型電極部52及び53を有するエレクトレット素子50であってもよい(
図3(a)~
図4参照)。本実施形態では、エレクトレット素子50は、支持部51上に形成された固定櫛歯型電極部52と、支持部51に弾性支持部を介して弾性支持された可動櫛歯型電極部53を有する。エレクトレット素子50は、例えば、SOI(Silicon On Insulator)基板を用いて一般的なMEMS加工技術により形成することができる。SOI基板はSiの支持層とSiO
2のボックス層とSiの活性層とから成る3層構造の基板であり、支持部51は支持層により形成され、固定櫛歯型電極部52、可動櫛歯型電極部53、および弾性支持部は活性層により形成される。
【0028】
固定櫛歯型電極部52と可動櫛歯型電極部53のそれぞれの櫛歯型電極は、y軸方向に隙間を介して互いに噛合するように配置され、可動櫛歯型電極部53がx軸方向に振動すると、固定櫛歯型電極部52の櫛歯型電極に対する可動櫛歯型電極部53の櫛歯型電極の挿入量が変化して発電を行うことができる。当該振動を大きくし、発電効率を向上させるため、可動櫛歯型電極部53の一部の表裏両面に一対の錘70a及び70bを固着してもよい。
【0029】
固定櫛歯型電極部52は、パッケージ部材10にワイヤー40を介して接続され、可動櫛歯型電極部53の振動により得られた電気を外部回路(不図示)に送電することができる。
【0030】
エレクトレット素子50は、櫛歯型電極部52及び53のうち、一方の櫛歯型電極部の少なくとも一部がエレクトレットを含む。また、エレクトレット素子50は、エレクトレット表面に保護膜を有してもよい。
【0031】
以下、エレクトレット素子30を用いて説明するが、エレクトレット素子にエレクトレット素子50を用いた場合でも同様である。
【0032】
(密閉空間)
本発明の一実施形態において、
図2に示すように、エレクトレット素子30を内部に備えたパッケージ部材10は、蓋部材20を用いて封止され、密閉空間を形成する。封止は、大気中、窒素やアルゴンなどの不活性ガス存在下、または真空下で行うことができる。
【0033】
パッケージ部材10と蓋部材20との封止は、一般的に用いられる方法を用いて行うことができ、例えば、蓋部材20の溶接により行うことができる。
【0034】
(水素ゲッター)
水素ゲッター60は主に水素を吸着する物質であり、パッケージ部材10と蓋部材20により形成される密閉空間内の水素を吸着する。水素ゲッター60には当分野で水素吸着性物質として知られているものを使用することができ、例えば、特許文献5に記載されている水素ゲッターを使用することができる。
【0035】
特許文献5に記載のように、水素ゲッターは、比較的低温であっても水素原子が材料中に広がって、初めの固溶体を作り、水素濃度が増加すると、ZrH 2のような水素化物を作ることができるため、水素吸着の能力は、低温であっても高い。したがって、水素ゲッター60は高温活性化処理を行わなくとも当該密閉空間内の水素を吸着できるため、加熱によるエレクトレットの劣化を回避し、水素によるエレクトレットの帯電劣化を防止することができる。
【0036】
水素ゲッター60は、エレクトレットデバイス100の動作を妨げるものでなければ、パッケージ部材10と蓋部材20により形成される密閉空間内の任意の場所に設置することができる。例えば、
図3(c)に記載のように、蓋部材20の内壁面25をパッケージ部材10と接する縁部を除いて覆うように設置してもよい。
【0037】
さらに、
図5(a)~(c)に示されるように、可動櫛歯型電極部53上に設置された錘70aに相対する部分を回避した形状で、蓋部材20の内壁面25上に水素ゲッター60を設けてもよい。このような構成とすることで、可動櫛歯型電極部53の動きを妨げずに蓋部材20とエレクトレット素子50との距離を縮めることができるため、エレクトレットデバイス100を小型化させることができる(
図6(a)~(c))。また、
図6(a)~
図6(c)において、水素ゲッター60は、可動櫛歯型電極部53の運動を妨げずに錘70aに隣接する空間を埋めるように、蓋部材20の内壁面25からエレクトレット素子50に向かってZ軸方向に延伸してもよい。水素ゲッター60は蓋部材20から固定櫛歯型電極部52の表面までの距離よりも小さい範囲の厚さを有する。このような構成とすることで水素ゲッター60の表面積を拡大し、水素ゲッターの処理能力を向上させることができるため、エレクトレットの長寿命化が期待できる。
【0038】
上記の実施形態では蓋部材20に水素ゲッター60を取り付ける形態で説明したが、水素ゲッター60は、パッケージ部材10またはエレクトレット素子30に取り付けてもよい。また、パッケージ部材10、蓋部材20、エレクトレット素子30の少なくとも一部に取り付けてもよい。水素ゲッター60は、パッケージ部材10とエレクトレット素子30との間の距離よりも小さい範囲の厚さ、または蓋部材20とエレクトレット素子30との間の距離よりも小さい範囲の厚さを有する。このような構成とすることで、可動櫛歯型電極部53の動きを妨げずに、水素ゲッター60の表面積をより拡大することができる。水素ゲッター60の取り付けは、例えば、抵抗溶接などの溶接法、または接着剤を用いた接着などにより行うことができる。
【0039】
<エレクトレットデバイスの製造方法>
次に本発明の一実施形態のエレクトレットデバイス100の製造方法を説明する。
【0040】
パッケージ部材10及び蓋部材20を提供し、パッケージ部材10の内壁15または蓋部材20の内壁面25の少なくとも一部に水素ゲッター60を設置する。次いで、パッケージ部材10の内部にエレクトレット素子30を設置し、蓋部材20でパッケージ部材10を封止する。
【0041】
また、パッケージ部材10の蓋部材20による封止は大気中、窒素やアルゴンなどの不活性ガス存在下、または真空下で行うことができる。
【0042】
<エレクトレットデバイスの性能試験>
(実施例1)
セラミック製パッケージ部材の内部に櫛歯型チップを有するエレクトレット素子を設置し、ワイヤーで電極チップを接続した。次いでエレクトレット素子を設置したパッケージ部材に対して真空下、コバール製蓋部材の内壁面に水素ゲッターを設置した蓋部材を溶接し、封止されたエレクトレットデバイスを作成した。
【0043】
(比較例1)
蓋部材に水素ゲッターを設置しなかった以外は実施例1と同様に封止されたエレクトレットデバイスを作成した。
【0044】
(帯電保持試験)
実施例1及び比較例1により作成されたエレクトレットデバイスを100℃に加熱し、帯電電圧を測定した。結果を
図7に示す。
【0045】
図7に見られるように、水素ゲッターを設置しなかった比較例1のエレクトレットデバイスは急激な帯電電圧の低下が見られたものの、実施例1のエレクトレットデバイスは250時間を超えても帯電電圧の著しい低下は見られなかった。
【0046】
以上説明した実施の形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0047】
(1)エレクトレットデバイスは、パッケージ部材と蓋部材とエレクトレット素子とを含み、蓋部材は前記パッケージ部材を封止し、密閉空間を形成し、エレクトレット素子は密閉空間内に設置され、密閉空間の内部の少なくとも一部に水素ゲッターを備える。
【0048】
このように構成したので、エレクトレットデバイスは、高温活性化処理を行うことなく、密閉空間内の水素を吸着することができる。これにより、密閉空間内に封入されたエレクトレット素子の水素による帯電劣化を防止した、高寿命のエレクトレットデバイスを提供することができる。
【0049】
(2)エレクトレットデバイスにおいて、水素ゲッターはパッケージ部材の少なくとも一部に設置される。
【0050】
このように構成したので、エレクトレットデバイス内部のスペースに大きな影響を与えることなく水素ゲッターを設置することができる。
【0051】
(3)エレクトレットデバイスにおいて、水素ゲッターは蓋部材の少なくとも一部に設置される。
【0052】
このように構成したので、エレクトレットデバイス内部のスペースに大きな影響を与えることなく水素ゲッターを設置することができる。
【0053】
(4)エレクトレットデバイスにおいて、水素ゲッターはエレクトレット素子の少なくとも一部に設置される。
【0054】
このように構成したので、エレクトレットデバイス内部のスペースに大きな影響を与えることなく水素ゲッターを設置することができる。
【0055】
(5)エレクトレット素子は可動の錘を有し、前記錘の可動領域に相対する部分以外の領域に水素ゲッターが設置されている。
【0056】
このように構成したので、可動櫛歯型電極部53の動きを妨げずに蓋部材20とエレクトレット素子50との距離を縮めることができるため、エレクトレットデバイス100を小型化させることができるエレクトレット素子の可動部分の運動を妨げることなく、蓋部材とエレクトレット素子との距離を縮めることができるため、エレクトレットデバイスを小型化させることができる。
【0057】
(6)エレクトレットデバイスにおいて、水素ゲッターは、パッケージ部材とエレクトレット素子との間の距離よりも小さい範囲の厚さを有する。
【0058】
このように構成したので、エレクトレットデバイスは可動櫛歯型電極部53の運動を妨げずに錘70aに隣接する空間を埋めるように、水素ゲッター60の表面積を拡大し、水素ゲッターの処理能力を向上させることができるため、エレクトレットの長寿命化が期待できる。
【0059】
(7)エレクトレットデバイスにおいて、水素ゲッターは、蓋部材とエレクトレット素子との間の距離よりも小さい範囲の厚さを有する。
【0060】
このように構成したので、エレクトレットデバイスは可動櫛歯型電極部53の運動を妨げずに錘70aに隣接する空間を埋めるように、水素ゲッター60の表面積を拡大し、水素ゲッターの処理能力を向上させることができるため、エレクトレットの長寿命化が期待できる。
【0061】
(8)エレクトレットデバイスにおいて、パッケージ部材は、セラミック、金属、樹脂、ガラス、シリコンから選択された部材からなる。
【0062】
このように構成したので、エレクトレットデバイスは簡便且つ十分に封止され、またエレクトレットの劣化を抑制することができる。
【0063】
(9)パッケージ部材と蓋部材とエレクトレット素子とを含むエレクトレットデバイスを製造する方法は、パッケージ部材を提供する工程と、パッケージ部材内にエレクトレット素子を設置する工程と、蓋部材によりパッケージ部材を封止し、密閉空間を形成する工程とを含み、封止工程前に、密閉空間の内壁を形成するパッケージ部材、蓋部材、エレクトレット素子の少なくとも一部に水素ゲッターを設ける工程を含む。
【0064】
このように構成したので、エレクトレットデバイスは、高温活性化処理を行うことなく、密閉空間内の水素を吸着することができる。これにより、密閉空間内に封入されたエレクトレット素子の水素による帯電劣化を防止した、高寿命のエレクトレットデバイスを提供することができる。
【0065】
(10)エレクトレットデバイスの製造方法において、封止は真空下で行われる。
【0066】
このように構成することにより、封止工程での密閉空間内への外部からの水分等の混入を防ぎ、エレクトレットの劣化を防止することができ、エレクトレットデバイスの出力の低下を抑制することができる。
【0067】
(11)エレクトレットデバイスの製造方法において、封止は不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0068】
このように構成することにより、封止工程での密閉空間内への外部からの水分等の混入を防ぎ、エレクトレットの劣化を防止することができ、エレクトレットデバイスの出力の低下を抑制することができる。
【0069】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態も本発明の範囲内に含まれる。
【0070】
また、上述の各実施の形態および変形例の一つもしくは複数を、適宜組合せてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 パッケージ部材
15 内壁
20 蓋部材
25 内壁面
30 エレクトレット素子
40 ワイヤー
50 櫛歯型電極含有エレクトレット素子
51 支持部
52 固定櫛歯型電極部
53 可動櫛歯型電極部
60 水素ゲッター
70a 錘
70b 錘