IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大塚製薬株式会社の特許一覧

特開2022-184727生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法
<>
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図1
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図2
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図3
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図4
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図5
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図6
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図7
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図8
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図9
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図10
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図11
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図12
  • 特開-生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184727
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】生活者の健康状態を把握、健康予測モデルでの生活者の健康維持、増進をサポートする方法及び情報提供方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20221206BHJP
【FI】
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047820
(22)【出願日】2022-03-24
(62)【分割の表示】P 2021091759の分割
【原出願日】2021-05-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウェブサイトのアドレス https://h-mp-seminar.jp/public/session/view/212、掲載日:令和2年12月2日 2.生活者インターフェース市場フォーラム2020 ~クリエイティビティが生み出す新しいエコシステム~、開催日:令和2年12月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】中川 恭
(72)【発明者】
【氏名】出口 直幸
(72)【発明者】
【氏名】浜本 圭介
(72)【発明者】
【氏名】戸羽 正道
(72)【発明者】
【氏名】岩下 聡
(72)【発明者】
【氏名】坪内 美樹
(72)【発明者】
【氏名】郭 敬卓
(72)【発明者】
【氏名】吉江 美帆
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】所定の疾病、あるいは、疾病には該当しないが日常生活に支障を来す症状を伴う障害等に関して、対象者に注意喚起を行い得る技術を提供する。
【解決手段】情報提供方法は、対照顧客の購買履歴を表す購買データを取得し、購買データから少なくとも1つの商品が属する商品カテゴリを決定する。当該方法はさらに、購買履歴に含まれている少なくとも1つの商品が属する商品カテゴリと健康症状の程度とを対応付けた健康予測モデル、及び商品カテゴリを用いて、対象顧客の潜在的な健康症状の程度を予測する。そして当該方法は、予測した健康症状の程度を示す健康情報を対象顧客に提供する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の対照の各々の購買履歴を表す購買データを取得し、
前記複数の対照の各々から収集された健康症状の程度を表す症状データを取得し、
前記購買データを説明変数とし、前記症状データを目的変数として機械学習を行って、
前記購買履歴に含まれている少なくとも1つの商品が属する商品カテゴリと、
前記健康症状の程度と、
を対応付けた健康予測モデルを構築する、健康予測モデルの構築方法。
【請求項2】
各対照の健康症状は、前記健康症状の程度に応じて複数のクラスのいずれかに分類され、
前記健康予測モデルは、前記少なくとも1つの商品が属する商品カテゴリと、前記複数のクラスの各々について、各クラスに該当する対照が前記少なくとも1つの商品を選択した回数に応じた数値とを対応付けて構築される、請求項1に記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項3】
前記機械学習はロジスティック回帰による機械学習である、請求項1または2に記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項4】
前記ロジスティック回帰は、L1正則化法および/またはL2正則化法を用いる、請求項3に記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項5】
対象顧客の購買履歴を表す購買データを取得し、
前記購買データから少なくとも1つの商品が属する商品カテゴリを決定し、
前記購買履歴に含まれている少なくとも1つの商品が属する商品カテゴリと、
前記健康症状の程度と、
を対応付けた健康予測モデル、及び前記商品カテゴリを用いて、前記対象顧客の潜在的な健康症状の程度を予測し、
予測した前記健康症状の程度を示す健康情報を前記対象顧客に提供する
情報提供方法。
【請求項6】
前記健康症状は、前記健康症状の程度に応じて複数のクラスのいずれかに分類され、
前記複数のクラスの各々は、前記健康症状の程度に応じた数値範囲と予め対応付けられており、
前記対象顧客の潜在的な健康症状の程度を数値によって表し、
前記数値が属する数値範囲に基づいて前記数値に対応するクラスを決定することにより、前記対象顧客の潜在的な健康症状の程度を予測する、請求項5に記載の情報提供方法。
【請求項7】
前記複数のクラスは3以上である、請求項6に記載の情報提供方法。
【請求項8】
前記複数のクラスの各々と、各クラスの健康症状に適合するサービスおよび/または製品とを対応付けたテーブルが予め用意されており、
前記健康情報とともに、決定されたクラスの健康症状に適合するサービスおよび/または製品に関する提案をさらに提供する、請求項6または7に記載の情報提供方法。
【請求項9】
前記健康情報および/または前記提案を、電子メールの文面、表示装置での表示、レシートへの印字、電子機器で実行されるアプリ上で提示されるメッセージ、を介して提供する、請求項8に記載の情報提供方法。
【請求項10】
前記健康予測モデルは、請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法によって構築されている、請求項5から9のいずれかに記載の情報提供方法。
【請求項11】
前記購買履歴は、複数の女性の各々が一定期間にわたって購入した食品及び又は日用品の購買履歴であり、
前記健康症状とは、簡略更年期指数(SMI)、更年期障害評価尺度(the Menopause Rating Scale),クッパーマン更年期指数(The Kupperman index),更年期障害評価尺度(Green Climacteric Scale), 簡略更年期指数(SMI), The premenstrual symptoms screening tool(PSST)、MRS(Menopause Rating Scale)、WHQ(The women’s Health Questionnaire)、VAS(Visual analogue scale)、HFRDI(Hot Flash Related Daily Interference Scale)、HFCS(Hot Flash Composite Score)、およびMENQOL(Menopause-Specific Quality of life)のいずれか1つ以上によって表される、請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項12】
前記健康予測モデルが、更年期予測モデル、月経前症候群(PMS、PMDD)予測モデルから選択される1つ以上である、請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項13】
前記対象顧客の潜在的健康症状が、更年期症状、月経前症候群(PMS、PMDD)症状から選択される1つ以上である、請求項5から9のいずれかに記載の情報提供方法。
【請求項14】
前記購買履歴は、前記複数の対照が各々一定期間にわたって購入した食品及び又は日用品の購買履歴であり、
前記健康症状の程度は、睡眠状態の悪化、睡眠リズムの乱れ、不適切な睡眠時間のいずれか1つ以上によって表される請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項15】
さらに、前記複数の対照の睡眠の質の1つ以上の情報を含めて機械学習を行う請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項16】
前記健康予測モデルが、睡眠の状態予測モデルである請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項17】
前記対象顧客の潜在的健康症状が、睡眠状態の悪化、睡眠リズムの乱れ、不適切な睡眠時間から選択される1つ以上である、請求項5から9のいずれかに記載の情報提供方法。
【請求項18】
前記購買履歴は、前記複数の対照が各々一定期間にわたって購入した食品及び又は日用品の購買履歴であり、
前記健康症状の程度は、運動不足、肥満、一定期間における体重の変化のいずれか1つ以上によって表される請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項19】
さらに、前記複数の対照の喫煙の有無、座位行動の1つ以上の情報を含めて機械学習を行う請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項20】
前記健康予測モデルが運動状態に関する運動状態予測モデルである、請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項21】
前記対象顧客の潜在的健康症状が、運動不足、肥満、一定期間における体重の変化から選択される1つ以上である、請求項5から9のいずれかに記載の情報提供方法。
【請求項22】
前記購買履歴は、前記複数の対照が各々一定期間にわたって購入した食品及び又は日用品の購買履歴であり、
前記健康症状の程度は、血清Naの高値、BUN/クレアチニン比の高値のいずれか1つ以上によって表される請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項23】
さらに、前記複数の対照の飲水量、飲酒量、身体活動量、尿の色の1つ以上の情報を含めて機械学習を行う請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項24】
前記健康予測モデルが水分補給状態に関する水分補給状態予測モデルである、請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項25】
前記対象顧客の潜在的健康情報が、血清Naの高値、BUN/クレアチニン比の高値から選択される1つ以上である、請求項5から9のいずれかに記載の情報提供方法。
【請求項26】
前記載購買履歴は、前記複数の対照の各々が一定期間にわたって購入した食品及び日用品の購買履歴であり、
前記健康症状の程度は、風邪のひきやすさ、SIgA濃度、アレルギー症状、口腔環境の状態、重度の睡眠症状、中等度の睡眠症状、軽度の睡眠症状の1つ以上によってあらわされる請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項27】
前記健康予測モデルが免疫状態に関する免疫状態予測モデルである、請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項28】
前記対象顧客の潜在的健康情報が、風邪のひきやすさ、SIgA濃度、アレルギー症状、口腔環境の状態から選択される1つ以上である請求項5から9のいずれかに記載の情報提供方法。
【請求項29】
前記購買履歴は、前記複数の対照が各々一定期間にわたって購入した食品及び日用品の購買履歴であり、
前記健康症状の程度は、栄養低下に伴う自覚症状の有無、食品摂取の多様性得点(DVS)、食欲尺度短縮版(SNAQ:Simplified nutritional appetite questionnaire)、重度の睡眠症状、中程度の睡眠症状、軽度の睡眠症状の1つ以上によってあらわされれる請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項30】
前記健康予測モデルが栄養状態に関する栄養状態予測モデルである、請求項1から4のいずれかに記載の健康予測モデルの構築方法。
【請求項31】
前記対象顧客の潜在的健康情報が、栄養不足、栄養の偏り、食生活から選択される1つ以上である請求項5から9のいずれかに記載の情報提供方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生活者の健康状態を把握、健康予測モデルで生活者の健康維持、増進する健康サポートモデルの構築方法及び情報提供方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人口の減少、経済不況、自然災害の発生、感染症の蔓延など、世界中で生活環境が大きく変化しつつある。その一方で、人工知能(AI)の活用機会の増加、第5世代移動通信システムの開発・普及などが進んでいる。生活環境が変化しつつある中、社会を支えるインフラは技術を活用してデータを基につながる産業フレームに移行し始め、社会活動・行動情報が可視化され始めている。
【0003】
健康への関心が高まる中、健康管理への対応も社会の動きに適応させることが求められている。これまでは、病気にかかり症状が悪化し始めてから治療を受ける「受け身的なヘルスケア」が中心であった。しかしながら今後は、健康な人が自宅で自身のデータを取得し、そのデータを収集して各人の健康状態をデータ化することで、先を見越した健康管理を行う「先回り医療」や、罹患予防を行う「予防医療」も行われるようになると考えられる。そしてその先には、将来の疾病予測、健康への注意喚起を行う「予測医療」も想定され得る。
【0004】
特許文献1は、大規模ゲノム・コホートデータベースに、各ユーザのゲノム情報を含むパーソナルヘルスレコード(PHR)を蓄積し、当該PHRビッグデータを対象にコホート分析を行う技術を開示する。特許文献1の技術は、解析結果に基づいて、ゲノムの型及びライフスタイルの型の組み合わせと、健康リスク(即ち、疾病発症リスク)との関連性を導き出し、ユーザの将来の健康リスクを推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-006745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
健康リスクに関する情報を提供する方法は種々考えられる。情報提供方法が多様化すると、ユーザは自身が必要とする情報を入手しやすくなる。健康リスクに関する情報を提供する新たな方法が必要とされている。
【0007】
本発明の目的の一つは、所定の疾病、あるいは、疾病には該当しないが日常生活に支障を来す症状を伴う障害等に関して、対象者に注意喚起を行い得る技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の例示的な実施形態にかかる方法は、健康予測モデルの構築方法である。当該方法は、複数の対照の各々の購買履歴を表す購買データを取得し、複数の対照の各々から収集された健康症状の程度を表す症状データを取得する。症状データは健康症状に関するアンケート結果、検査結果等を含むそして、購買データを説明変数とし、症状データを目的変数として機械学習を行って、購買履歴に含まれている少なくとも1つの商品が属する商品カテゴリと、健康症状の程度を対応付け、対象者に健康改善を促す健康予測モデルを構築する。
【0009】
本発明の例示的な実施形態にかかる他の方法は、情報提供方法である。当該方法は、対象顧客の購買履歴を表す購買データを取得し、購買データから少なくとも1つの商品が属する商品カテゴリを決定する。そして、購買履歴に含まれている少なくとも1つの商品が属する商品カテゴリと、健康症状の程度とを対応付けた健康予測モデル、及び商品カテゴリを用いて、対象顧客の潜在的な健康症状の程度を予測する。予測した健康症状の程度及び健康サポートを示す健康情報を対象顧客に提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の例示的な実施形態によれば、所定の疾病、あるいは、疾病には該当しないが日常生活に支障を来す症状を伴う障害などに関して、対象者に注意喚起を行い得る技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】情報処理装置を利用して機械学習を行い、予測モデルを構築する学習システムの概要を示す図
図2】予測モデルが構築された情報処理装置を利用した、顧客の健康予測を行う予測システムの概要を示す図
図3】女性の健康に関する更年期予測モデルを構築する学習システムを示す図
図4】教師データ12の具体例を示す図
図5】H層、M層及びL層の被験者うちH層の被験者が有意に多く選択した商品群の例を示す図
図6】H層の被験者による購買品目から見出された更年期症状と随伴する健康課題との関係を示す図
図7】H層に属する更年期症状を有する女性向けの商品群の例を示す図
図8】機械学習を行う際に利用される情報処理装置10のハードウェア構成図
図9】情報処理装置10のCPU21によって実行される学習処理の手順を示すフローチャート
図10】複製された予測モデル27を有する情報処理装置30のハードウェア構成図
図11】情報処理装置30のCPU41によって実行される相性の予測処理の手順を示すフローチャート
図12】スマートフォン38に健康情報を通知する場合の、顧客と情報処理装置30との間で行われるチャット表示例を示す図
図13】女性の健康(更年期症状)、睡眠状態、運動状態、免疫状態、水分状態、栄養状態の各々の詳細を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の例示的な実施形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、本発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面及び以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0013】
なお、以下に説明する実施形態の構成及び動作は例示である。本開示は、以下に説明される実施形態の構成及び動作に限定されない。また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。
【0014】
(実施形態)
本発明者は、各顧客の行動から、現在の健康状態、その顧客が何らかの疾病に罹患している場合、あるいは罹患することが予想される場合にはその健康リスクを予測し、その健康リスクに関する情報を提供するためのシステムを開発した。各顧客の行動は、例えばドラッグストアにおいてどのような商品を購入したかを示す購入履歴によって把握され得る。購入された商品は、統計的に見ると複数の生活者(疾病患者も含む)、おかれている健康状態や疾病、疾病リスクと関連付けることが可能である。そのような関連付けが可能な商品の種類は、食品、飲料、健康器具等種々考えられる。それらのうち、食品および/または飲料は健康状態の影響をより直接的に反映すると考えられるため、顧客の健康状態等を関連付ける商品として好適である。本発明者は、約3万人の被験者からデータを収集し、そのうちの約3千人のデータを用いて機械学習を行って健康予測モデル(以下、単に「予測モデル」と記述する。)を構築することでそのような関連付けを実現した。その結果、各顧客の健康リスクの予測を行うことを可能にした。
【0015】
図1は、情報処理装置を利用して機械学習を行い、予測モデルを構築する学習システムの概要を示している。学習システム1の情報処理装置10は、例えばPC、サーバコンピュータであり得る。サーバコンピュータは、システムの提供者によってオンプレミスで運用されてもよいし、クラウドサービスとして提供されてもよい。情報処理装置10の具体的な構成は、後に図8を参照しながら説明する。
【0016】
情報処理装置10は、多数の被験者から収集された種々のデータを含む教師データ12を利用して機械学習を行い、予測モデルを構築する。教師データ12は、被験者の行動アルゴリズムに関する1以上の行動データ14と、当該被験者の健康に関するデータである健康関連データ群16とを含む。
【0017】
行動データ14は、例えば各被験者のドラッグストアにおける商品の購入履歴を示す購買データである。購買データは、商品の購入履歴のみならず、例えば、マッサージ、鍼灸治療等のサービスを受けた履歴を含んでもよい。なお、購買データは、小売店が管理する決済情報によって特定してもよいし、例えばクレジットカードの決済情報、金融機関への支払情報を利用して特定してもよい。上述したように、食品および/または飲料は顧客の健康状態等を関連付ける商品として好適であるから、購買データとして、食品および/または飲料の購入履歴を含むことが好ましい。
【0018】
健康関連データ群16は、各被験者の健康に関する症状データ18のほか、健康意識、メンタルヘルス、認知機能、健康診断結果、既往歴・合併症の各データの集合である。症状データ18の一例は、健康状態、睡眠状態、運動状態、免疫状態水分状態、栄養状態のそれぞれについての症状を示すデータである。「症状」は自覚症状であってもよいし、測定した結果認められる症状であってもよい。
【0019】
教師データ12は、大きく説明変数と目的変数とに分類される。例えば、目的変数として症状データ18を利用し、説明変数として症状データ18以外のデータを利用し得る。説明変数として、行動アルゴリズムに関する行動データ14を用いてもよいし、健康関連データ群16内の健康意識、メンタルヘルス、認知機能、健康診断結果のうちから選択された少なくとも1種類のデータを用いてもよい。
【0020】
本発明者は、機械学習の手法としてロジスティック回帰を採用した。ただし、ロジスティック回帰は一例である。L1正則化法を用いるロジスティック回帰を採用して精度をより向上させてもよいし、L1正則化法に代えてL2正則化法を用いたロジスティック回帰(リッジ回帰)を採用してもよい。L1正則化法及びL2正則化法を両方利用したエラスティックネットを利用することもできる。さらには、ロジスティック回帰以外の手法、例えばランダムフォレスト、決定木、勾配ブースティング、サポートベクトル回帰、線形回帰、部分的最小二乗(Partial Least Squares:PLS)回帰、ガウス過程回帰、ニューラルネットワーク等を採用してもよい。
【0021】
図2は、予測モデルが構築された情報処理装置を利用した、顧客の健康予測を行う予測システムの概要を示している。予測システム2の情報処理装置30には、図1に示す学習システム1において構築された学習済みの予測モデルが実装されている。情報処理装置30は、情報処理装置10と異なる装置であることを想定しているが、同一の装置であってもよい。前者の場合、情報処理装置10から抽出された、予測モデルを規定するパラメータが情報処理装置30内に複製されている。
【0022】
情報処理装置30は、一般に入手可能なコンピュータシステム、例えばデスクトップ型PC、ノート型PC、タブレットPCであり得る。当該コンピュータシステムは、予測システム2を運用する事業者の事業所に設置されてもよいし、クラウドサービスとして提供されてもよい。後者の場合、事業所にはクラウドサービスと相互に通信可能なPC等が設けられていればよい。典型的には、事業者は医師および/または薬剤師であり、事業所は病院、クリニック、薬局および/またはドラッグストアである。ただし、他の事業者及び事業所が本予測システム2を利用することも可能である。情報処理装置30の具体的な構成は、後に図10を参照しながら説明する。
【0023】
予測システム2の利用にあたっては、健康を予測したい顧客のデータ(顧客データ)32が用意される。用意される顧客データ32は、予測モデル構築時の教師データ12の説明変数に対応するデータである。
【0024】
情報処理装置30は、ある顧客の顧客データ32を予測モデルに入力することにより、症状データを出力する。症状データは、例えばその顧客の健康予測値34であり、より具体的には、ある特定の疾病に罹患している可能性および/または程度を示す数値である。図2には、顧客A~Eのそれぞれについて、ある疾病に罹患していることを示す可能性(罹患割合)が「%」で示されている。疾病の種類に応じて、男性のみ、女性のみ、または男女双方が対象となり得る。図示された例は、男女双方が罹患し得る疾病、例えば風邪、についての罹患の程度が示されている。
【0025】
図示された例では、所定の閾値以上の罹患割合を示した顧客A及びCが示されている。このうち健康予測値が高いカテゴリについては、小売店やメーカー36から声掛けして罹患の可能性を指摘し、生活者が気づいていない或いは、顕在化している症状が軽いうちに採り得る処置を提案することができる。また顧客Cのように、自身のスマートフォン38に注意を促す音とともに通知が送信されている。通知により、顧客Cは、罹患の可能性を知ることができるとともに、症状が軽いうちに採り得る処置の提案を受けることができる。
【0026】
以下では、健康状態として女性の健康、より具体的には、簡略更年期指数(Simplified Menopausal Index;SMI)によって表される更年期症状を例示しながら本発明の例示的な実施形態を説明する。国や地域等に応じて、更年期に関する他の指標、例えば、更年期障害評価尺度(the Menopause Rating Scale)、クッパーマン更年期指数(The Kupperman index)、更年期障害評価尺度(Green Climacteric Scale)、The premenstrual symptoms screening tool(PSST)、MRS(Menopause Rating Scale)、WHQ(The Women’s Health Questionnaire)、VAS(Visual analogue scale)、HFRDI(Hot Flash Related Daily Interference Scale)、HFCS(Hot Flash Composite Score)、およびMENQOL(Menopause-Specific Quality of life)のいずれか1つ以上を適宜利用することができる。
【0027】
図3は、女性の健康に関する更年期予測モデルを構築する学習システムを示している。本例では、教師データ12として、購買履歴を示す購買データ15を説明変数とし、症状データ18の一つである、女性の健康状態を示す簡略更年期指数SMI19を目的変数として含む。購買データ15及び簡略更年期指数SMI19は被験者毎に収集される。
【0028】
例えば購買データ15として、調査会社が提供する購買履歴を蓄積したパネルデータを採用し得る。同パネルデータは、商品が購入された際に、購入者である被験者によって当該商品がスキャンされて取得されるデータである。被験者が自身のスマートフォンや貸与されたバーコードリーダを用いて商品をスキャンすると、当該商品と、予め設定された自身の属性(会社員/学生/主婦等)、購入先等の情報等とが関連付けられて蓄積される。これにより、どのような人が、何を、どれだけ、どのような店舗で購入したかが把握される。先に説明したように、説明変数として購買データ15を採用することは必須ではなく、図1に例示されるような種々のデータ群を採用し得る。
【0029】
また、簡略更年期指数SMI19は、列挙された種々の症状の程度に応じた該当項目を各被験者に事前にしておいてもらい、その結果を点数化することにより取得される。簡略更年期指数SMI19は日本人の更年期女性特有の症状を反映した指標であるとされている。そのため、国や地域等に応じて、更年期症状に関する他の指標、例えば、更年期障害評価尺度(the Menopause Rating Scale)、クッパーマン更年期指数(The Kupperman index)、更年期障害評価尺度(Green Climacteric Scale), The premenstrual symptoms screening tool (PSST)、MRS(Menopause rating Scale)、WHQ(The Women’s Health Questionnaire),VAS(Visual analogue scale)、HFRDI(Hot Flash Related Daily Interference Scale)、HFCS(Hot Flash Composite Score)、およびMENQOL(Menopause-Specific Quality of life)のいずれか1つ以上を適宜利用することができる。
【0030】
情報処理装置10は、機械学習の手法としてロジスティック回帰を採用する。ロジスティック回帰とは、入力を受けて、それがある事象に該当する確率(あるいは該当しない確率)を算出することによって、入力がある事象に該当するか否かを判定する手法をいう。ロジスティック回帰のモデルは、一例として下記式(1)のように説明される。但し、iはi番目の対象者を示し、pは目的変数の事象が発生する確率を示し、b1、b2、…、bnは偏回帰係数を示し、b0は定数項を示し、x1、x2、…、xnは説明変数を示す。左辺は自然対数である。式1はロジット関数と呼ばれる。
【数1】
【0031】
式(1)は確率pを表す式(2)に変形することができる。
【数2】
【0032】
式(2)はシグモイド関数と呼ばれ、ロジスティック回帰モデルにおける活性化関数である。zの定義における偏回帰係数b、b、・・・、bは重みと呼ばれ、bはバイアス項である。zをシグモイド関数に入力すると、0~1の値、すなわち確率値、が出力される。
【0033】
いま、式(2)で求めたシグモイド関数を「φ(z)」とおき、その出力値に応じて2値のいずれかを示す出力yに分類する。式(3)は、φ(z)が0.5以上であれば1のクラスに分類し、0.5未満であれば0のクラスに分類することを意味する。換言すると、式(3)は、式(2)のzが0以上、であれば1のクラスに分類し、式(2)のzが0未満であれば0のクラスに分類することを意味する。
【数3】
【0034】
次に、ロジスティック回帰において学習に利用される「尤度」を導入する。尤度は、結果から見たところの条件のもっともらしさを意味する。尤度を表す尤度関数Lは以下の式4によって表される。なおP(・)は確率値を表す。
【数4】
【0035】
尤度関数Lは、全て正しく判定する確率を示している。尤度を最大化する重みを求めることによって、予測したい事象の確率をより正確に出力できるようにする。具体的には、尤度関数Lに(-1)を乗じて尤度関数の正負を逆転させる。この正負が逆転した尤度関数が、ロジスティック回帰における誤差関数である。誤差関数が最小値となる重み、すなわち偏回帰係数b、b、・・・、bを求めるため、誤差関数をb、b、・・・、bのそれぞれについて偏微分し、勾配降下法を適用する。これにより、ロジスティック回帰の学習が行われる。
【0036】
なお、尤度関数として、式(4)の自然対数を用いた対数尤度関数を利用してもよい。対数尤度関数に(-1)を乗じて正負を逆転させた関数を最小化していくことによって最適な重みを見出すことができる。
【0037】
上述のロジスティック回帰に関する演算アルゴリズムは周知であり、そのようなアルゴリズムによって機械学習を行うためのソフトウェアアプリケーションは容易に入手可能である。原理的には上述の通りであるが、入手可能なソフトウェアを用いれば数式を用いた具体的な解析手法を特に詳細に知らない者であっても、本実施形態ロジスティック回帰を利用した機械学習を実現することが可能である。
【0038】
次に、図4を参照しながら、上記ロジスティック回帰アルゴリズムの学習に利用する教師データ12の詳細を説明する。
図4は、教師データ12の具体例を示している。教師データ12は、購買データ15と、その被験者が属する簡略更年期指数SMIの症状を示すラベル19とを含む。この例では、購買データ15は、各被験者が一定期間、例えば一年間、にわたって購入した食品および/または日用品の購買履歴を示している。すなわち、購買データ15には、被験者のIDごとに、JICFS分類における大カテゴリ「食品」「日用品」に含まれる細カテゴリの約500品目(例:清涼飲料水、洗口液等)の各項目15aと、期間中の購入金額や購入数量、購入回数等の数値データである実績データ15bとが対応付けて入力されている。
【0039】
図4の購買データ15の各々に対し、その被験者が属する簡略更年期指数SMIの症状を示すラベル19が対応付けられている。本実施形態では簡略更年期指数SMIは2クラスである。具体的には、更年期症状が相対的に大きいことを示す「H」か、「H以外」かである。「H以外」については、相対的に中程度である「M」、相対的に小さいことを示す「L」に細分類し得る。以下では、「H」に該当する被験者層を「H層」と呼ぶ。H層の顧客が購入することが多い商品群を教師データ12として用意すると、潜在的にH層に該当する可能性が高いと考えられる顧客を見出すことができると考えられる。
【0040】
購買データ15の各品目の購入金額、購入数量、購入回数などが、上述した式(1)等における説明変数Xに対応する。そして、式(3)において、H層である場合に「1」を出力し、H層以外の場合に「0」を出力するよう分類させることで、尤度関数を求めることができる。もちろん、説明変数Xを構成する要素は上述の購買データ15に限られることはない。例えば年齢層を示すデータを含めてもよい。更年期症状とは異なる病態を判別する場合にはさらに他のデータ、例えば性別データ、を説明変数として利用してもよい。
【0041】
本発明者は、H層の顧客が購入することが多い商品群を決定するため、上述のとおり、約3千人のデータを用いて機械学習を行って予測モデルを構築した。その結果、多くのH層の被験者に購入されている商品または商品群を予測することができるに至った。
【0042】
図5は、H層及びH層以外の層のユーザの多くが選択した商品群を示している。「○」がH層及びH層以外の層の顧客に選択された商品群である。これらの商品群のうち、太い枠及び太文字は、多くのH層の顧客に選択されたがH層以外の顧客にはそれほど選択されなかった商品群を示している。また図6は、H層の被験者による購買品目から見出された更年期症状と随伴する健康課題との関係を示している。図6最右欄の数値は、更年期症状を有する女性による選択のされやすさを示す程度(偏差値)を示している。この数値は、「お金をかけてでも対処したい事項症状別偏差値‐女性の健康・美容ライフスタイル理解に関するリサーチプロジェクト報告書‐行動観察調査結果」からの引用である。
【0043】
これらの結果から、H層の被験者は、更年期症状に対処するために特定の商品を積極的に選択していることが判明した。本発明者が分析したところ、肌や体内の感想、不定愁訴に対応する商品を購入しているという特徴を見出すことができた。
【0044】
図7は、H層に属する更年期症状を有する女性向けの商品群の例を示している。このように分類されたデータを用いて予測モデルを構築すると、H層の被験者が、H層以外の層の被験者と比較して頻繁に購入する商品を決定することができる。そのような商品の購入者は、H層に属する被験者であると推定できる。すなわち、本発明者は、H層に属する被験者であると推定可能な商品を 用いて予測モデルを構築し、精度よくH層に属する顧客を推定できるようにした。
【0045】
1つ以上の商品が属する商品カテゴリと、各クラスに該当する女性が当該商品カテゴリに含まれる商品を購入した金額や数量、回数に応じて計算される数値とが対応付けられ得る。そのような対応付けは例えば関数として記述されうる。すなわち、予測モデルは関数として取得され得る。なお、H/M/L層のクラスに代えて、年期症状に該当する可能性を示す数値を採用してもよい。クラス数は3であってもよいし、さらに適宜細分化して4以上であってもよい。
【0046】
次に、図8図11を参照しながら、情報処理装置10(図1)及び情報処理装置30(図2)の具体的な構成及び動作を説明する。
図8は、機械学習を行う際に利用される情報処理装置10のハードウェア構成図である。情報処理装置10は、CPU21と、通信インタフェース(I/F)22と、記憶装置23とを備えている。
【0047】
CPU21は、本実施形態における情報処理装置の演算回路の一例である。CPU21は、記憶装置23に格納された制御プログラム26の実行により、予測モデル27の学習及び実行を含む所定の機能を実現する。情報処理装置10は、CPU21が制御プログラム26を実行することで、本実施形態の情報処理装置としての機能を実現する。制御プログラム26は、本実施形態におけるコンピュータプログラムの一例である。なお、本実施形態でCPU21として構成される演算回路は、MPUまたはGPU等の種々のプロセッサで実現されてもよく、1つまたは複数のプロセッサで構成されてもよい。
【0048】
通信インタフェース22は、例えばイーサネット(登録商標)の通信端子、USB(登録商標)端子である。または通信インタフェース22は、IEEE802.11、4G、または5G等の規格に準拠して通信を行う通信回路である。通信インタフェース22は、イントラネット、インターネット等の通信ネットワークに接続可能であり、学習システム1を運用する者が用意した教師データ12を受信する。また、情報処理装置10は、通信インタフェース22を介して他の機器と直接通信を行ってもよく、アクセスポイント経由で通信を行ってもよい。
【0049】
記憶装置23は、情報処理装置10を動作させるために必要なコンピュータプログラム及びデータを記憶する記憶媒体である。記憶装置23は、例えばハードディスクドライブ(HDD)または半導体記憶装置であるソリッド・ステート・ドライブ(SSD)であり得る。記憶装置23は、例えばDRAMまたはSRAM等のRAMにより構成される一時的な記憶素子を備えてもよく、CPU21の作業領域として機能してもよい。記憶装置23は、CPU21で実行される制御プログラム26を記憶し、予測モデル27の構築後は予測モデル27を定義するテーブルおよび/またはパラメータ群を格納する。
【0050】
図9は、情報処理装置10のCPU21によって実行される学習処理の手順を示すフローチャートである。
【0051】
ステップS11において、CPU21は、通信I/F22を介して、購買履歴を表す購買データ15、及び症状の程度を表す症状データ18を、教師データ12として取得する。購買データ15は、例えばJICFS分類(分類コード)及び商品カテゴリを含む。
ステップS12において、CPU21は、購買データを説明変数とし、症状データを目的変数として、上述の数式を用いて予測モデル27の機械学習を実行する。
ステップS13において、CPU21は、購買データと症状の程度とを対応付けた予測モデル27を生成する。
【0052】
上述のように構築された予測モデル27は、そのまま情報処理装置10を利用して、任意の2名の人間の相性の予測に利用することができる。あるいは、予測モデル27を構成するデータを任意の情報処理装置に複製することにより、予測モデル27を生成した情報処理装置10以外の情報処理装置においても相性の予測を行うことができる。
【0053】
図10は、複製された予測モデル27を有する情報処理装置30のハードウェア構成図である。情報処理装置30は、予測モデル27を利用して、顧客の更年期症状に関する予測結果を算出する。情報処理装置30もまた、例えばPC、サーバコンピュータであり得る。情報処理装置30は、CPU41と、入力インタフェース(I/F)42と、記憶装置43と、出力インタフェース(I/F)44とを備える。入力I/F42は、予測したい顧客の購買データを受け取る。
【0054】
CPU41、入力I/F42及び記憶装置43は、それぞれ図8に示すCPU21、通信I/F22及び記憶装置23と同様の構成及び機能を有する。よってCPU41、入力I/F42及び記憶装置43の説明として、CPU21、通信I/F22及び記憶装置23の上記説明を援用する。
【0055】
なお、記憶装置23には、情報処理装置10によって構築された予測モデル27を定義するテーブルおよび/またはパラメータ群が格納されている。予測モデル27は、例えばCPU41が実行するコンピュータプログラムの一部として組み込まれてもよいし、コンピュータプログラムとは別のデータとして設けられてもよい。
【0056】
出力I/F44は、情報処理装置30の外部に設けられた種々の出力装置と接続される通信回路および/または通信端子である。例えば出力I/F44は、レシートプリンタ50に印字すべき内容を示す印字データを送信するUSB端子である。情報処理装置30のCPU41は、予測モデル27を用いて顧客の更年期症状に関する予測結果を算出し、その結果をレシートプリンタ50に送信してレシート34を印刷させる。
【0057】
または、出力I/F44は、ディスプレイ52と接続される映像出力端子であってもよい。情報処理装置30のCPU41は、予測モデル27を用いて顧客の更年期症状に関する予測結果を算出し、その結果をディスプレイ52に送信して予測結果を表示させる。ディスプレイ52に表示された内容を薬剤師36が確認し、例えば更年期症状を有する顧客には、更年期症状を有する被験者の多くが購入していた1または複数の商品を提案する。
【0058】
または、出力I/F44は、通信ネットワーク54等と接続されてデータ通信を行うことが可能な通信端子または通信回路であってもよい。出力I/F44が通信端子または通信回路である場合には、出力I/F44及び入力I/F42のハードウェアは同じであってもよく、その場合は、出力I/F44の説明として通信I/F22の上記説明を援用する。出力I/F44は、例えば携帯電話回線を介して予測結果を顧客のスマートフォン38に送信する。
【0059】
なお、更年期症状の程度を示す予測結果、例えばH層/M層/L層や、90%/50%/20%、と、各程度に応じて提案すべき商品・サービスを対応付けたテーブルを予め用意しておき、情報処理装置30が、予測結果とともに、その結果に対応する商品・サービスを提案してもよい。そのようなテーブルは、例えば記憶装置43に予め格納されている。
【0060】
図11は、情報処理装置30のCPU41によって実行される予測処理の手順を示すフローチャートである。
【0061】
ステップS21において、CPU41は、更年期症状に関する予測を行いたい顧客の購買履歴を表す購買データを取得する。購買データの取得は容易に実現され得る。例えば、ドラッグストアでの商品購入時にその顧客の会員証をPOS(Point of sale)システムで読み取ることによって、その顧客とその顧客の購入履歴とを紐付けしたデータベースが構築されることは既に一般的である。顧客の承諾のもと、そのようなデータベースから購買データを抽出することにより、情報処理装置30に入力することが可能である。そのような購買データ15は、例えば、JICFS分類及び商品カテゴリを含む。
【0062】
ステップS22において、CPU41は、購買データからJICFS分類(分類コード)及び商品カテゴリを決定する。
ステップS23において、CPU41は、予測モデル27、及び決定した分類コード及び商品カテゴリを用いて症状の程度を予測する。
ステップS24において、CPU41は、予測した症状の程度を健康情報として出力I/F44に送り、レシート34への印字、ディスプレイ52への表示、スマートフォン38への通知という形態で健康情報を顧客に提供する。
【0063】
図12は、スマートフォン38に健康情報を通知する場合の、顧客と情報処理装置30との間で行われるチャット表示例を示している。コンピュータがチャットの内容を解析して回答する技術は既に実現されているため、本実施形態ではそのような技術が採用されているとする。チャットの具体的な内容は一例に過ぎず、図12に示す例は、予測結果が顧客へのスマートフォンに送信される一つの例を挙げるに過ぎない。いま、予測結果がQ薬局60から顧客に伝えられるとする。
【0064】
チャット62において、情報処理装置30のCPU41は、予測結果から、例えばホルモンバランスが崩れかけていることを伝えることにより、その顧客が更年期症状を有していることを顧客に通知する。
チャット72において、顧客からチャットによる質問が返される。
【0065】
チャット64において、情報処理装置30のCPU41は、質問の内容を認識し、質問に対する回答を顧客に返す。
チャット74において、顧客が、予測結果に基づいて検査やアンケートの機会を希望すると、チャット66において、情報処理装置30のCPU41はその顧客の検査やアンケートの予約を行う。
【0066】
以上の処理により、更年期症状に関する予測結果を顧客に伝え、併せて商品の購入及びサービスの提供を提案することが可能になる。
【0067】
これまでは、女性の更年期症状を予測するための予測モデルを具体的に説明した。しかしながら本発明者は、女性の更年期症状以外にも、種々の疾病に関して本発明の考え方が適用できると考えた。具体的には、本発明者は女性の健康(更年期症状)の予測モデルの他、月経前症候群(PMS、PMDD)の予測モデルから選択される1つ以上を利用可能である。また本発明者は、睡眠状態、運動状態、免疫状態、水分状態、栄養状態、認知症、酸素利用、血管の健康、口腔衛生、肌の健康、頭髪の健康、腸内環境、心の健康、運動効果の促進、食欲増進、体温恒常性、眼の健康のそれぞれについても個々に独立して予測可能であることを見出した。
【0068】
図13は、女性の健康(更年期症状)の詳細等を示している。健康リスクに関する予測モデルは出願人が見出した、生体情報或いは行動データを説明変数とし、症状データや疾病情報を目的変数として機械学習を行えば、例えば更年期症状に関するより精度の高い健康リスクの予測モデルの構築が可能である。例えば健康テーマとして睡眠状態、運動状態、免疫状態、水分状態、栄養状態、認知症、酸素利用、血管の健康、口腔衛生、肌の健康、頭髪の健康、腸内環境、心の健康、運動効果の促進、食欲増進、体温恒常性、眼の健康の各々について予測モデルを構築することが可能である。その結果、睡眠が不足気味の顧客には製品Aを提案する、栄養不足気味の顧客には製品Fを提案する等のソリューションを提示することができる。なお、図13は、女性の健康の他、睡眠状態、運動状態、免疫状態、栄養状態及び水分状態を例示している。
以下、睡眠状態、運動状態、免疫状態、栄養状態及び水分状態の各々に関する予測モデルの構築方法を説明する。
【0069】
<睡眠>
睡眠状態に関する睡眠状態予測モデルは、睡眠が乱れている人の症状の程度を予測するために利用される。そのような睡眠状態予測モデルを構築するためには、説明変数となる行動データ及び目的変数となる症状データは、それぞれ、複数の対照の各々についての各対照の睡眠状態および/または睡眠リズム、睡眠時間である。
【0070】
これら変数は、先の更年期症状の例と同様の方法によって取得され得る。一方、睡眠状態および/または睡眠リズム、睡眠時間は、アンケート等によって取得された各対照の自覚症状であってもよいし、各対照を測定した結果認められる測定値であってもよい。睡眠状態は、アテネ睡眠評価尺度(AIS)、ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index:PSQI)、3次元型睡眠尺度(3 Dimentional Sleep Scale:3DSS)、不眠症重症度質問票(Insomnia Severity Index:ISI)症状の程度は、それぞれの項目の単体及び複合的に解析され、生活者の健康状態をカテゴリに割り付け分類される。睡眠リズムはミュンヘンクロノタイプ質問票(Munich ChronoType Questionnaire:μMCTQ)を用い、平日と休日のそれぞれの睡眠中央時間を求め、その差からソーシャルジェットラグ(Social Jet Lag:SJL)を算出することで把握することができる。
【0071】
これらを用いて機械学習を行うことにより、睡眠状態予測モデルを構築可能である。機械学習の手法として、例えば先の更年期症状の例と同様、ロジスティック回帰を利用し得る。そのような予測モデルを用いることで、健康リスクを持つ顧客を特定し、睡眠状態が悪化/睡眠リズムが乱れている/睡眠時間が適切ではない対象顧客の潜在的健康症状を改善することが可能な製品を提供することができる。潜在的健康症状は、睡眠状態の悪化、睡眠リズム、不適切な睡眠時間から選択される1つ以上であり得る。なお、複数の対照の睡眠の質の情報を含めて機械学習を行ってもよい。
【0072】
解析結果は、悪化した健康状態を経験している、あるいは今後経験する可能性がある状態を疫学情報から文献的に見出すことが可能である。例えば、ソーシャルジェットラグで示される平日と休日の睡眠リズムの差が1時間以上である生活者は、1時間以内の生活者よりも抑うつ、メタボリックシンドローム、過体重を発生するリスクが高いことが見出されており、健康リスクが高いと評価することが可能である。
【0073】
<運動>
運動状態に関する運動状態予測モデルは、生活習慣病に関連する状態や疾病リスクを予測するために利用される。そのような運動状態予測モデルを構築するためには、説明変数となる行動データは、複数の対照の各々の肥満状態に該当するか否か、一定期間、例えば20歳代から現在までなど、における体重の変化および/または、歩数等の運動の量が相対的に少ない人の症状の程度があげられる。また、目的変数となる症状データは、各対照の体重、BMI(Body Mass Index)、歩数および/またはメタボリックシンドローム診断基準値のいずれか1つ以上である。メタボリックシンドローム診断基準値は、ウエスト周囲径、高グリセリド血症および/または低HDLコレステロール血症の診断のために定められた閾値、血圧の最大値および/または最小値、及び、空腹時高血糖の診断のために定められた閾値のいずれか1以上である。
【0074】
購買データは、先の更年期症状の例と同様の方法によって取得され得る。例えば複数の対照の各々が一定期間、例えば一年間、にわたって購入した食品および/または日用品の購買履歴が取得され得る。一方、症状データは、各対照を測定した結果認められる測定値であってもよい。健康症状の程度は、運動不足、肥満、一定期間における体重の変化から選択される1つ以上程度を含む。
【0075】
これらを用いて機械学習を行うことにより、運動状態予測モデルを構築可能である。機械学習の手法として、例えば先の更年期症状の例と同様、ロジスティック回帰を利用し得る。そのような予測モデルを用いることで、体重、BMI、歩数および/またはメタボリックシンドローム診断基準値のいずれかが乱れている対象顧客に、それらを改善することが可能な製品を提供することができる。潜在的健康症状が、運動不足、肥満、一定期間における体重の変化から選択される1つ以上であり得る。なお、複数の対照の喫煙の有無、座位行動の1つ以上の情報を含めて機械学習を行ってもよい。
【0076】
解析結果は、悪化した健康状態を経験している、あるいは今後経験する可能性がある状態を疫学から文献的に見出すことが可能である。例えば、歩数が少ない生活者は多い生活者よりもメタボリックシンドロームになるリスクが高いことや肥満である生活者は、肥満状態であい生活者よりも糖尿病のリスクが高いことが見出されており、健康リスクが高いと評価することが可能である。
【0077】
<免疫>
免疫状態に関する免疫状態予測モデルは、体の免疫力が低下している人の症状の程度を予測するために利用される。そのような免疫状態予測モデルを構築するためには、説明変数となる行動データ及び目的変数となる症状データは、それぞれ、複数の対照の各々について購買履歴を示す購買データ及び各対照の免疫力の状態である。
購買データは、先の更年期症状の例と同様の方法によって取得され得る。例えば複数の対照が各々一定期間、例えば一年間、にわたって購入した食品および/または日用品の購買履歴が取得され得る。一方、風邪の引きやすさおよび/またはその頻度は、アンケート等によって取得された各対照の自覚症状であってもよいし、医療機関の受診履歴から取得されてもよい。症状の程度は3段階以上のカテゴリで集計され、症状の程度は、風邪の引きやすさ、SIgA濃度、アレルギー症状、口腔環境の状態、重度の睡眠症状、中程度の睡眠症状、軽度の睡眠症状であり得る。
これらを用いて機械学習を行うことにより、免疫状態予測モデルを構築可能である。機械学習の手法として、例えば先の更年期症状の例と同様、ロジスティック回帰を利用し得る。そのような予測モデルを用いることで、免疫力が低下している対象顧客の潜在的健康症状を改善することが可能な製品を提供することができる。潜在的健康症状は、風邪の引きやすさ、SIgA濃度、アレルギー症状、口腔環境の状態から選択される1つ以上であり得る。なお、複数の対照の風邪の引きやすさ、SIgA濃度、アレルギー症状、口腔環境の状態から選択される1つ以上の情報を含めて機械学習を行ってもよい。
【0078】
<水分>
水分補給状態に関する水分補給状態予測モデルは、水分補給ができていない人、水分不足によりさらされる健康リスク、その健康リスクを事前に想定し回避するために利用される。そのような予測モデルを構築するためには、説明変数となるデータは、それぞれ、複数の対照の各々についての血清Na値、BUN/クレアチニン比、および、或いは脱水評価スケール、水分不足に伴う自覚症状である。
【0079】
これら情報は、先の更年期症状の例と同様の方法によって取得され得る。例えば複数の対照の各々が一定期間、例えば一年間、経験した体の変化を健康診断や人間ドックで得られる臨床検査値や別に実施される健康アンケートによって得られる。一方、水分低下に伴う自覚症状は、アンケート等によって取得され得る。症状の程度は、血清Na値、BUN/クレアチニン比、飲水量、身体活動量、尿の色から把握され得る。
【0080】
これらを用いて機械学習を行うことにより、水分補給予測モデルを構築可能である。機械学習の手法として、例えば先の更年期症状の例と同様、ロジスティック回帰を利用し得る。そのような予測モデルを用いることで、水分低下に伴う自覚症状がある対象顧客の潜在的健康症状を改善することが可能な製品を提供することができる。潜在的健康症状は、血清Naの高値、BUN/クレアチニン比の高値から選択される1つ以上であり得る。なお、複数の対照の飲水量、飲酒量、身体活動量、尿の色の1つ以上の情報を含めて機械学習を行ってもよい。
【0081】
解析結果は、悪化した健康状態を経験している、あるいは今後経験する可能性がある状態を疫学情報から文献的に見出すことが可能である。例えば、血清Na値が142mEq/Lを超える生活者は血清Na値が142mEq/L未満の生活者よりも認知障害や高血圧の発症リスクが高いことが見出されており、健康リスクが高いと評価することが可能である。
【0082】
<栄養>
栄養状態に関する栄養状態予測モデルは、栄養補給が出来ていない人の症状の程度を予測するために利用される。そのような栄養状態予測モデルを構築するためには、説明変数となる行動データ及び目的変数となる症状データは、それぞれ、複数の対照の各々について購買履歴を示す購買データ及び各対照の栄養低下を反映し得る自覚症状である。
【0083】
購買データは、先の更年期症状の例と同様の方法によって取得され得る。例えば複数の対照の各々が一定期間、例えば一年間、にわたって購入した食品および/または日用品の購買履歴が取得され得る。一方、栄養低下を反映し得る自覚症状は、アンケート等によって取得された各対照の自覚症状であってもよいし、各対照を測定した結果認められる測定値であってもよい。症状の程度は、栄養低下に伴う自覚症状の有無、食品摂取の多様性得点(DVS)、食欲尺度短縮版(SNAQ:Simplified nutritional appetite questionnaire)、重度の睡眠症状、中程度の睡眠症状、軽度の睡眠症状であり得る。
【0084】
これらを用いて機械学習を行うことにより、栄養状態予測モデルを構築可能である。機械学習の手法として、例えば更年期症状の例と同様、ロジスティック回帰を利用し得る。そのような予測モデルを用いることで、栄養が乱れている対象の潜在的栄養症状を改善することが可能な製品を提供することができる。潜在的健康症状は、栄養不足、栄養の偏り、食生活から選択される1つ以上であり得る。なお、複数の対照の栄養不足、栄養の偏り、食生活からの1つ以上の情報を含めて機械学習を行ってもよい。
【0085】
上述の実施形態において説明した、情報処理装置30のCPU41によって実行されるフローチャート、及び情報処理装置100のCPU121が実行するフローチャートは、コンピュータプログラムとして実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の例示的な実施形態は、所定の疾病、あるいは、疾病には該当しないが日常生活に支障を来す症状を伴う障害などに関して、対象者に注意喚起を行うために用いられる予測モデルの構築及び、注意喚起を行うための情報提供に利用可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 学習システム
2 予測システム
10、30 情報処理装置
12 教師データ
14 1以上の行動データ
16 健康関連データ群
18 症状データ
21、41 CPU(演算回路)
22 通信インタフェース
23、43 記憶装置
30 情報処理装置
42 入力I/F
44 出力I/F
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13