(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022184728
(43)【公開日】2022-12-13
(54)【発明の名称】塗料組成物、塗膜及び塗装物品
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20221206BHJP
C09D 127/18 20060101ALI20221206BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221206BHJP
C09D 181/06 20060101ALI20221206BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20221206BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221206BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D127/18
C09D7/61
C09D181/06
C09D179/08
C09D7/63
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049681
(22)【出願日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2021090984
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大空
(72)【発明者】
【氏名】門脇 優
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CD122
4J038DF001
4J038DJ021
4J038DK011
4J038HA036
4J038HA116
4J038HA166
4J038HA536
4J038JB03
4J038JB27
4J038KA07
4J038MA07
4J038NA09
4J038NA11
4J038PB06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】従来よりも表面平滑性に優れ、これによって摺動性能や摺動持続性に優れた塗膜を形成することができる塗料組成物を提供する。
【解決手段】ポリテトラフルオロエチレン、バインダー樹脂、及び、新モース硬度が1.0~6.0の範囲にある充填剤を含み、N-メチル-2-ピロリドンの含有量が組成物の1重量%未満である塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン、バインダー樹脂、及び、新モース硬度が1.0~6.0の範囲にある充填剤を含み、N-メチル-2-ピロリドンの含有量が組成物の1重量%未満であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
バインダー樹脂が、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
N-エチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド及びN-ブチルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種の溶剤を含む請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
充填剤は、グラファイト、フッ化カルシウム及び酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
コンプレッサの摺動部材用である請求項1~4のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の塗料組成物から形成される塗膜。
【請求項7】
請求項6に記載の塗膜を有する塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗料組成物、塗膜及び塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン及びモース硬度が2.0~5.0の耐摩耗性付与剤を含有する組成物を開示している。
特許文献2は、ポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン及び3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドを含有する組成物を開示している。
特許文献3は、ポリアミドイミドの溶解に使用する溶媒として、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドを使用することを開示している。
特許文献4は、ポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン及び3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドを含有する組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-261345号公報
【特許文献2】特表2018-524440号公報
【特許文献3】特開2020-15880号公報
【特許文献4】特開2020-203243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、従来よりも表面平滑性に優れ、これによって摺動性能や摺動持続性に優れた塗膜を形成することができる塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、
ポリテトラフルオロエチレン、バインダー樹脂、及び、新モース硬度が1.0~6.0の範囲にある充填剤を含み、N-メチル-2-ピロリドンの含有量が組成物の1重量%未満であることを特徴とする塗料組成物である。
【0006】
上記バインダー樹脂は、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
上記塗料組成物は、N-エチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド及びN-ブチルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種の溶剤を含むことが好ましい。
上記充填剤は、グラファイト、フッ化カルシウム及び酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0007】
上記塗料組成物は、コンプレッサの摺動部材用であることが好ましい。
本開示は、上述した塗料組成物から形成される塗膜でもある。
本開示は、上記塗膜を有する塗装物品でもある。
【発明の効果】
【0008】
本開示の塗料組成物は、表面平滑性に優れた塗膜を形成することができるため、摺動性能や摺動持続性に優れた塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を詳細に説明する。
従来、ポリアミドイミド樹脂は、塗料組成物におけるバインダー樹脂として使用する場合は、N-メチル-2-ピロリドンを溶剤として含有するものが使用されてきた。N-メチル-2-ピロリドンは、優れた溶解能を有する樹脂であることから、これを使用することで好適な塗料組成物を得ることができた。
【0010】
ポリテトラフルオロエチレン、バインダー樹脂、及び、新モース硬度が1.0~6.0の範囲にある充填剤を含有する塗料組成物においては、摺動性能や摺動持続性の改善が望まれていた。このような性能の改善のためには、塗膜の表面平滑性を得ることが考えられる。
【0011】
本発明者らは表面平滑性の改善について検討を行うことで、使用する溶媒について、一般に使用されているN-メチル-2-ピロリドンを使用しないことが好ましいことを見出した。すなわち、N-メチル-2-ピロリドンは、表面張力が高いことから、ポリテトラフルオロエチレン樹脂や、充填剤を充分に濡らすことができず、これが表面平滑性を損なう一因であることが明らかとなった。すなわち、固体成分を充分に濡らすことができないため、気体が塗膜中に含まれてしまうこととなり、これが平滑性が低下する原因となってしまう。
【0012】
以上の観点から、本開示は、N-メチル-2-ピロリドンの含有量が組成物の1重量%未満である塗料組成物である。これによって、上述した目的を達成することができる。
以下、本開示の塗料組成物に含まれる各成分について説明する。
【0013】
(ポリテトラフルオロエチレン)
ポリテトラフルオロエチレン(以下、これをPTFEと記すことがある)は、テトラフルオロエチレンの重合体である。上記PTFEは、TFE単位のみを含むホモPTFEであっても、TFE単位とTFEと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む変性PTFEであってもよい。
また、上記PTFEは溶融加工性を有し、フィブリル化性を有しない低分子量PTFEであることが好ましい。より具体的には、数平均分子量が200,000~400,000のものを使用することが好ましい。
【0014】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン[CTFE]等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン[VDF]等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン;エチレン;ニトリル基を有するフッ素含有ビニルエーテル等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0015】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(1)
CF2=CF-ORf1 (1)
(式中、Rf1は、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0016】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rf1が炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を表すものであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
【0017】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられるが、パーフルオロアルキル基がパーフルオロプロピル基であるパープルオロプロピルビニルエーテル[PPVE]が好ましい。
【0018】
上記変性PTFEは、変性モノマー単位が0.001~2モル%の範囲であることが好ましく、0.001~1モル%の範囲であることがより好ましい。
【0019】
上記PTFEは、溶融粘度(MV)が1.0×10Pa・s以上であることが好ましく、1.0×102Pa・s以上であることがより好ましく、1.0×103Pa・s以上であることが更に好ましい。
上記溶融粘度は、ASTM D 1238に準拠し、フローテスター(島津製作所社製)及び2φ-8Lのダイを用い、予め測定温度(380℃)で5分間加熱しておいた2gの試料を0.7MPaの荷重にて上記温度に保って測定することができる。
【0020】
上記PTFEは、標準比重(SSG)が2.130~2.230であることが好ましく、2.140以上であることがより好ましく、2.190以下であることがより好ましい。
本明細書において、標準比重(SSG)は、ASTM D 4895-89に準拠して、水中置換法に基づき測定することができる。
【0021】
上記PTFEは、融点が324~360℃であることが好ましい。本明細書において、フッ素樹脂の融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた値である。
【0022】
なお、上記PTFEも、溶媒には溶解せず、粉体状態で塗料組成物中に存在するものであるから、原料として粉体の粒子径が小さいものを使用することが好ましい。具体的には、一次粒子径5μm以下のものを使用することが好ましい。なお、一次粒子径の測定方法は、以下で詳述する充填剤の一次粒子径の測定方法と同一である。
【0023】
本開示の塗料組成物において、上記PTFEは、塗料組成物の固形分全量に対して、20~60質量%であることが好ましい。このような範囲内とすることで、塗膜の摺動性と基材との密着性を確保することができるという点で好ましい。上記下限は、25質量%であることがより好ましく、30質量%であることが更に好ましい。上記上限は、55質量%であることがより好ましく、50質量%であることが更に好ましい。
【0024】
(バインダー樹脂)
本開示の塗料組成物は、バインダー樹脂を含有する。バインダー樹脂は特に限定されるものではないが、いわゆるスーパーエンプラであることが好ましく、具体的には、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。以下、これらについて説明する。
【0025】
(ポリアミドイミド樹脂)
ポリアミドイミド樹脂は、代表的に、酸成分と、ジイソシアネート成分との反応によって得られる樹脂であり、酸成分に由来する構造部位と、ジイソシアネート成分に由来する構造部位とを有する。
【0026】
(酸成分)
上記酸成分は、特に限定されず、少なくとも、芳香族三塩基酸無水物及び/又は芳香族三塩基酸ハライドを含む。一実施形態において、酸成分は、少なくとも芳香族三塩基酸無水物を含むことが好ましく、なかでもトリメリット酸無水物を含むことがより好ましい。したがって、一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、下記一般式(I)で表される構造を有することが好ましい。
【0027】
【0028】
一般式(1)で表される構造において、Rはジイソシアネート成分に由来する有機基(構造部位)である。nは1以上の整数である。
【0029】
ポリアミドイミド樹脂を構成する酸成分の合計量を基準(100モル%)として、トリメリット酸無水物の含有量は50モル%以上であることが好ましい。一実施形態において、上記トリメリット酸無水物の含有量は100モル%であってよい。
【0030】
他の実施形態において、ポリアミドイミド樹脂を構成する酸成分の合計量を基準(100モル%)として、トリメリット酸無水物の含有量は50モル%~95モル%であってよく、その他の酸成分を5モル%~50モル%含んでもよい。
その他の酸成分として、例えば、ジカルボン酸を使用することができる。ジカルボン酸として、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸を使用することができる。
また、これらの化合物は、単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0031】
(ジイソシアネート成分)
ジイソシアネート成分は、少なくとも、芳香族ジイソシアネートを含むことが好ましい。したがって、一実施形態では、上記一般式(I)において、Rは芳香族ジイソシアネートに由来する有機基であることが好ましい。ポリアミドイミド樹脂を構成するジイソシアネート成分の合計量を基準(100モル%)として、芳香族ジイソシアネートの含有量は30モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましい。一実施形態において、芳香族ジイソシアネートの含有量は100モル%であってよい。
【0032】
芳香族ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、2,4-トルエンジイソシアネート、及び2,6-トルエンジイソシアネートからなる群から選択される1種以上を含む。上記芳香族ジイソシアネートのなかでも、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
したがって、ポリアミドイミド樹脂を構成するジイソシアネート成分の合計量を基準として、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを含む芳香族ジイソシアネートの含有量は30モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、100モル%であってもよい。
【0033】
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂を構成するジイソシアネート成分の合計量を基準として、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの含有量は100モル%であってよい。他の実施形態において、ポリアミドイミド樹脂を構成するジイソシアネート成分の合計量を基準として、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの含有量は30モル%~95モル%であってよく、及びその他の芳香族ジイソシアネートの含有量は5モル%~70モル%であってよい。
【0034】
本開示の塗料組成物において、ポリアミドイミド樹脂は、数平均分子量が、5000~50000であることが好ましい。すなわち、N-メチル-2-ピロリドンを実質的に含まない溶媒への溶解能を得るために、このような比較的低分子量領域のものを使用することが好ましい。上記数平均分子量の下限は、8000であることが好ましく、10000以上であることが更に好ましい。上記数平均分子量の上限は、40000であることが好ましく、30000であることが更に好ましい。
【0035】
本明細書において、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によって測定した値である。
【0036】
本開示の塗料組成物において、上記ポリアミドイミド樹脂は、塗料組成物の固形分全量に対して、20~80質量%であることが好ましい。上記下限は、25質量%であることがより好ましい。上記上限は、77質量%であることがより好ましく、75質量%であることが更に好ましい。
【0037】
(ポリエーテルサルフォン樹脂)
ポリエーテルスルホン樹脂(PES)は、下記一般式:
【0038】
【0039】
で表される繰り返し単位を有する重合体からなる樹脂である。PESとしては特に限定されず、例えば、ジクロロジフェニルスルホンとビスフェノールとの重縮合により得られる重合体からなる樹脂等が挙げられる。
【0040】
(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)
ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、下記一般式
【0041】
【0042】
で表される繰り返し単位を有する重合体からなる樹脂である。このような樹脂としては、市販されているものを使用することができる。
【0043】
(ポリエーテルイミド樹脂)
ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、下記一般式
【0044】
【化4】
で表される繰り返し単位を有する重合体からなる樹脂である。このような樹脂としては、市販されているものを使用することができる。
【0045】
(ポリイミド樹脂)
ポリイミド樹脂は、分子構造中にイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記ポリイミド樹脂としては特に限定されず、例えば、無水ピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸無水物と4,4′-ジアミノジフェニルエーテル等のポリアミン化合物の反応等により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。耐熱性に優れる点から、上記ポリイミド樹脂としては、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0046】
上記バインダー樹脂のなかでも、ポリアミドイミド樹脂が、硬度や基材密着性という観点から特に好ましいものである。本開示の塗料組成物は、上述したバインダー樹脂のうち、2種以上を併用するものであっても差し支えない。
【0047】
本開示の塗料組成物において、上記バインダー樹脂は、塗料組成物の固形分全量に対して、20.0~80.0質量%であることが好ましい。このような範囲内とすることで、塗膜の摺動性と基材との密着性を確保することができるという点で好ましい。上記下限は、25.0質量%であることがより好ましく、30.0質量%であることが更に好ましい。
上記上限は、77.0質量%であることがより好ましく、75.0質量%であることが更に好ましい。
【0048】
(充填剤)
本開示は充填剤を含有するものである。充填剤としては、硬度が新モース硬度で1.0~6.0のものを使用する。
なお、モース硬度は物質の相対的な硬度を1~10の範囲で評価したものであるが、新モース硬度は、硬度の評価をモース硬度の10段階に対して15段階とさらに細かく分類したものである。
硬度が新モース硬度で1.0~6.0である充填剤としては、特に限定されず、例えば、グラファイト(新モース硬度2.0)、フッ化カルシウム(新モース硬度4.0)、酸化鉄(新モース硬度6.0)、窒化ホウ素(新モース硬度2.0)、マイカ(新モース硬度3.0)、水酸化アルミニウム(新モース硬度3.0)、炭酸カルシウム(新モース硬度3.0)、酸化亜鉛(新モース硬度4.0~5.0)、第三リン酸カルシウム(新モース硬度5.0)等を挙げることができる。なかでも、摺動時に相手部材の摩耗を抑制するという観点から、グラファイト、フッ化カルシウム及び酸化鉄からなる群から選択される
少なくとも1種であることが好ましい。
これらのうち、2種以上を併用して使用するものであってもよい。
【0049】
充填剤は、一次粒子径がD50=0.1~30.0μmであることが好ましい。充填剤の一次粒子径が上述した範囲内のものであると、耐摩耗性という点で好ましい。上記下限は、D50=0.5μmであることがより好ましく、D50=1.0μmであることがさらに好ましい。上記上限は、D50=25.0μmであることがより好ましく、D50=20.0μmであることがさらに好ましい。
【0050】
一次粒子の平均粒子は、次のように測定される。まず透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡で視野内の粒子を撮影する。そして、二次元画像上の凝集体を構成する一次粒子の300個につき、個々の粒子の内径の最長の長さ(最大長)を求める。個々の粒子の最大長の平均値を一次粒子の平均粒子径とする。
【0051】
本開示の塗料組成物は、塗料組成分中の上記バインダー樹脂の固形分100質量部に対して0.1~50.0質量%の割合で充填剤を含有することが好ましい。上記含有量が0.1質量%未満であると、耐摩耗性が低下するという点で問題を有する。上記含有量が50.0質量%を超えると、塗膜表面の摺動性が落ちるという点で問題を有する。上記下限は、0.5質量%であることがより好ましく、1.0質量%であることが更に好ましい。
上記上限は、45.0質量%であることがより好ましく、40.0質量%であることが更に好ましい。
【0052】
(溶媒)
本開示の塗料組成物は、N-メチル-2-ピロリドン含有量が組成物の1重量%未満である。すなわち、N-メチル-2-ピロリドン含有量が少ないことによって、上述した効果を有する。したがって、N-メチル-2-ピロリドンを全く含有しないものであってもよい。
【0053】
本開示の塗料組成物は、N-メチル-2-ピロリドンにかえて、バインダー樹脂を溶解する有機溶媒を含有するものであることが好ましい。バインダー樹脂の種類によって、樹脂を溶解する溶媒を選択するものであってもよい。
このような溶媒として具体的には、例えば、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-ブチル-2-ピロリドン(NBP)等を挙げることができる。これらの2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0054】
本開示の塗料組成物は、溶媒のうちもっとも配合量が多いものが、表面張力が37.5以下であることが好ましい。上述したように、公知の塗料組成物においては、N-メチル-2-ピロリドンの表面張力が大きいことが表面平滑性を損なう一因となっていた。このため、表面張力が低い溶媒を使用することで、このような問題が解決されると推測される。
表面張力は、37.0以下であることがより好ましく、36.5以下であることが更に好ましい。なお、ここでの表面張力は実施例に記載した方法で測定した値である。
【0055】
より具体的には、表面張力が37.0以下の溶媒が塗料組成物中に含まれる全揮発成分中25.0重量%以上であることが好ましく、30.0重量%以上であることが更に好ましい。
【0056】
本開示の塗料組成物は、上述したN-エチル-2-ピロリドン(NEP)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-ブチル-2-ピロリドン(NBP)以外の溶媒を併用するものであってもよい。併用することができる溶媒としては特に限定されず、トルエン、キシレン、メチルイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、グリコール系溶剤、アルコール系溶剤等の汎用溶媒を挙げることができる。これらの汎用溶媒は、溶媒全量に対して、10.0~75.0重量%の割合で配合することが好ましい。
【0057】
上記溶媒の含有量は、特に限定されるものではないが、一般的に塗料組成物の全量に対して10.0~70.0質量%とすることができる。
【0058】
(粘度)
本開示の塗料組成物は、粘度が100~40,000cpsであることが好ましい。上記範囲内とすることで、塗装工程における作業性を良好なものとすることができる。更に、所定の膜厚を得るという点でも好ましい。
【0059】
上記粘度は、25℃において、粘度はJISZ8803に記載のB型粘度計を用いて測定した値である。スプレー塗装等に用いる塗料の上記下限は110cpsであることがより好ましく、120cpsであることが更に好ましい。上記上限は3,000cpsであることが好ましく、2,500cpsであることが更に好ましい。ディスペンサーやロールコートに用いる塗料の上記下限は、4,000cpsであることがより好ましく、5,000cpsであることが更に好ましい。上記上限は、38,000cpsであることがより好ましく、35,000cpsであることが更に好ましい。
【0060】
なお、粘度は、塗料組成物の組成及び溶媒の配合量、使用する樹脂のうち、溶媒に溶解する成分の分子量等を適宜調整することで、上述した範囲内のものとすることができる。
【0061】
(その他の成分)
本開示の塗料組成物は、本開示の目的を損なわない範囲で上述した成分に加えてその他の成分を含有するものであってもよい。
【0062】
本開示の塗料組成物は、エポキシ樹脂を含有するものであってもよい。エポキシ樹脂を配合することによって、ポリアミドイミドと架橋反応物を得ることができるという効果が得られる可能性がある。エポキシ樹脂としては特に限定されず、公知の任意のものを使用することができる。その配合量は特に限定されず、例えば、ポリアミドイミドの固形分質量に対して10質量%以下とすることができる。
【0063】
(塗料の製造方法)
本開示の塗料組成物は、上述した各成分を混合することによって製造することができる。
ビーズミル、ボールミル、三本ロール等の公知の各種ミルを用い、必要に応じてこれらを適宜組合せ、粉砕条件の調整、粉砕時間の調整、併用する樹脂成分の配合の調整等を行うことで適切な解砕を行うことができる。
【0064】
(塗膜)
本開示の塗料組成物によって形成された塗膜も本開示の対象である。塗膜の形成は一般的な方法によって行うことができる。
本開示の塗膜は、表面粗度Raが1.0以下であることが好ましい。本開示の塗料組成物を使用することによって、このような塗膜を形成することができる。上記表面粗度Raは、0.8以下であることがより好ましく、0.7以下であることが更に好ましい。
【0065】
本開示の塗膜は、本明細書の実施例に記載した方法によって測定した摩擦係数が0.09以下であることが好ましい。このような耐摩耗性を有することで、強度、耐久性に優れた塗膜とすることができ、摺動性が要求される用途において適用可能な塗膜とすることができる。なお、摩擦係数は、実施例に記載した方法で測定した値を意味する。上記摩擦係数は、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。
【0066】
本開示の塗膜は、本明細書の実施例に記載した方法によって測定した摺動持続性が750秒以上であることが好ましい。本開示の塗膜は、長期間にわたって摺動性を持続できるような塗膜とすることができ、摺動性が要求される用途において適用可能な塗膜とすることができる。なお、摺動持続性は、実施例に記載した方法で測定した値を意味する。上記摺動持続性は、900秒以上であることがより好ましく、1000秒以上であることがさらに好ましい。
【0067】
なお、本開示の塗膜は、製造方法によって限定されたものである。しかしながら、塗料組成物を利用して塗膜として形成したもの、その他の方法によって皮膜形成したものとの間の構造の違い等については、これを皮膜状態の相違という観点から定義することは、困難であり、かつ、実情に合わない。したがってこのような製造方法限定によって特定された発明は、不明確なものではないことを念のため申し述べる。
【0068】
(塗料組成物の用途)
本開示の塗料組成物は優れた耐摩擦性能を有し、高温、高発熱環境下で使用可能な摺動材のコーティング材料として用いることができる。より具体的な製品としては、エアコンコンプレッサーピストン用、斜板用、スクロールコンプレッサー用部材、等を挙げることができる。特にカーエアコンコンプレッサーピストン用が好ましい。このような用途における基材、塗装方法等は公知の方法に基づいて行うことができる。
【0069】
本開示は、上述した塗料組成物を使用して得られた塗膜、及び、当該皮膜を有する塗装物品でもある。
【実施例0070】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、表中の「%」「部」は、それぞれ「質量%」「質量部」を示す。
【0071】
[実施例1~9及び比較例1~7]
バインダー樹脂が3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-2-エチル-2-ピロリドン(NEP)のいずれかに溶解したポリアミドイミドワニス(固形分濃度 約34質量%、ポリアミドイミドの数平均分子量:13000~18000)の樹脂固形分に対し、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、数平均分子量:200000~400000、融点:300~330℃、比重:2.0~2.3、溶融粘度:1.0×103~1.0×107 Pa・s)、充填剤(D50:1~5μm)を所定量配合して撹拌ミルを用いて分散し、当該塗料を得た。塗料の粘度は20000~30000cpsであった。
【0072】
(塗装方法)
上述の実施例1~9及び比較例1~7の塗料組成物を、アルミ板の基材試験片上にアプリケーターまたはスプレー塗装ガンを用いて、焼成時の膜厚が30~40μmとなるように塗装し、100℃で30分、230℃30分焼成させ、塗膜を作成し、試験片を得た。
【0073】
評価は以下の基準に基づいて行った。結果を表1に示す。
【0074】
(ポリアミドイミドの数平均分子量)
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によって測定した値である。装置は東ソー(株)製 GEL PERMEATION CHROMATOGRAPH HLC-8020、カラムは昭和電工(株)製 shodex GPC KF-G(プレフィルターカラム)、溶剤はテトラヒドロフランを使用した。
【0075】
(ポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量)
ASTM D 1238に準拠しフローテスター(島津製作所社製)および2Φ-8Lのダイを用い、予め380℃で5分間加熱しておいた2gの試料を0.7MPaの荷重にて測定した溶融粘度の値から算出した。
【0076】
(表面粗度)
表面粗度は接触式表面粗さ計である新東科学株式会社製のサートニック デュオを使用して測定した。
【0077】
(摩擦係数)
摩擦係数は接触式計測器であるアメテック株式会社製のトライボギア38を使用して測定した。
【0078】
(摺動持続性)
摺動持続性はボールオンディスク法により測定される。具体的には、測定装置として株式会社レスカ製フリクションプレーヤーFPR2200を用い、測定装置に本発明の塗料組成物を用いて作成された塗膜をセットし、試験片相手材としてφ5mmのジルコニアボール、荷重:1.0kgf、回転速度:14mm/sec、移動距離:7mm、温度:150℃の往復摺動試験の条件で測定される。
【0079】
(溶媒の表面張力)
表面張力は株式会社伊藤製作所製のデュヌイ表面張力試験器を使用して測定した。
【0080】
【0081】
上記表1の結果から、本開示の塗料組成物は、表面平滑性が高く、これによって、摺動性能や摺動持続性に優れた塗膜を形成できることが明らかである。